(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】コアシェル陰極及びそれを応用したリチウム硫黄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/136 20100101AFI20240126BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240126BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240126BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240126BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240126BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240126BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0566
H01M4/38 Z
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2022202707
(22)【出願日】2022-12-20
【審査請求日】2022-12-20
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】504455908
【氏名又は名称】国立成功大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍾 昇恆
(72)【発明者】
【氏名】呉 云蓁
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-17699(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0287301(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/052
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性多孔質炭素材を含むシェルと、
前記シェルに包まれる内部キャビティであるコアとを含み、
前記コアは活性物質及び電解液を含み、前記活性物質は一般式Li
2S
x(xは4≦x≦8)を有する液体多硫化物を含み、
前記シェルは、下から上に順番に積層される第一層、O型リング及び第二層を含み、これにより前記内部キャビティを形成し前記活性物質及び前記電解液を収容することを特徴とする、コアシェル陰極。
【請求項2】
前記コアシェル陰極の硫黄積載量が少なくとも5mg/cm
2である、請求項1に記載のコアシェル陰極。
【請求項3】
前記コアシェル陰極の硫黄含有量が少なくとも60wt%である、請求項1に記載のコアシェル陰極。
【請求項4】
前記導電性多孔質炭素材は、カーボンナノファイバ及びカーボンナノチューブを含み、且つ比表面積が100m
2/gより小さい、請求項1に記載のコアシェル陰極。
【請求項5】
前記導電性多孔質炭素材の総細孔体積が0.3~0.55cm
3/gであり、且つ平均細孔サイズが10~40nmである、請求項4に記載のコアシェル陰極。
【請求項6】
リチウム金属の陽極、セパレータ、請求項1~5のいずれか一項に記載のコアシェル陰極、及び電解液を含み、硫黄に対する電解液の比が3~10μL/mgであることを特徴とする、リチウム硫黄電池。
【請求項7】
前記リチウム硫黄電池の単位面積あたりの電気容量が5~12mAh/cm
2である、請求項6に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項8】
前記リチウム硫黄電池のエネルギー密度が10~30mWh/cm
2である、請求項6に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項9】
前記リチウム硫黄電池の電気容量に対する電解液の比が5μL/mAhより小さい、請求項6に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項10】
前記リチウム硫黄電池を0.10C~0.20Cの間の等レートで安定的に100サイクルした後、少なくとも70%の容量維持率を保持する、請求項6に記載のリチウム硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル陰極及び当該コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池に関する。特に活性物質を陰極領域に閉じ込め得るコアシェル陰極構造、及び当該コアシェル陰極を応用し高硫黄積載量、高硫黄含有量、優れた単位面積あたりの電気容量とエネルギー密度及び安定した長期サイクル特性を実現した少量電解液リチウム硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のエネルギー貯蔵技術は高エネルギー密度及び低生産コストという方針で発展しており、商業用リチウムイオン電池の陰極は200~250mAh/gにまで達する理論電気容量で30年あまり市場でリードしていたが、材料の構造的制限、理論電気容量の上限、高価な材料コスト等の要因によりリチウムイオン電池の技術成長は緩やかになってきている。
【0003】
リチウムイオン電池技術のボトルネックを打破する為に、各種新しい形態の電池が急速に発展・台頭してきている。その中でも高エネルギー密度のリチウム硫黄電池は転換型電池化学(Conversion battery chemistry)に属する電気化学理論を応用したものとなる。モルあたりの活性物質である硫黄は充放電プロセスに関連する酸化還元相変化反応において2モルの電子が反応に加わり、1,675mAh/gに達する理論電気容量を有することができる。そして、充放電での相変化の反応中間体である液体多硫化物とリチウム金属は強い反応性を有しており、リチウムデンドライトを除去し、電池システムの安全性を確保することができる。また、地球上に硫黄元素は豊富に存在するので応用コストが低く済み、且つ硫黄元素を主体とする陰極材料は重金属を含んでいないため、重金属が含まれるものと比べ、簡単に入手でき、安全で環境保護によい低汚染電極材料である。
【0004】
リチウム硫黄電池には上記の優位性があるが、充放電の過程において陰極活性物質は固相から液相へと変化し、再び固相へと変化する多くの段階を経る相変化が起こる。このため電極材料は80%にも達する大幅な体積変化と活性物質の固液相の相変化に耐えうる必要がある。また、固体硫黄元素及び放電時の還元反応の最終生成物である固体硫化リチウムはそれぞれ10-30S/cm及び10-14S/cmという高い電気抵抗を有しているため、陰極集電体及び電解液に同時に接している少量の活性物質だけが利用されることになる。また、液体多硫化物は電解液に溶けやすいため、活性物質が拡散し易くなり、これにより活性物質が陰極領域から流出し電気容量の損耗を引き起こす。もし活性物質がリチウム陽極領域まで拡散すると、リチウム金属の表面において活性物質が還元され固体硫化リチウムが形成され沈積するため、リチウム陽極の反応活性が失われ、同時に電気容量と充放電反応能力の損耗が引き起される。これらの硫黄陰極材料の特性は、既存のリチウム硫黄電池の研究においてよく活性物質の流失・損耗及び急速な電気容量低下等の問題を引き起こす。
【0005】
また、アルミニウム箔集電体にバインダーと導電助剤を使用する従来の電極製造プロセスをそのまま用いた場合、電極材料と集電体で共に構成させた共同構造となり、この構造は長期サイクルで次第に壊れていってしまう可能性があり、サイクル寿命が短くなってしまう。そして、余計な活性物質でない物質の添加によって高エネルギー密度のリチウム硫黄電池を実現する際に材料科学的なボトルネックに遭遇することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)陰極活性物質の積載量と含有量を高めることは容易ではない
公知のリチウム硫黄電池の硫黄積載量は僅か1~2mg/cm2であり、且つ導電材料と複合材料の添加量が多いという制約を受けることにより、硫黄含有量が50wt%より低くなる。それに加えリチウム硫黄電池の充放電反応の最終生成物の硫黄と硫化リチウムはいずれも高い電気抵抗を有するため、優れた理論電気容量値の実現が困難になっている。また実務上において活性物質の積載量を高めると同時に良好な電池サイクル特性を維持することは困難である。
【0007】
(2)複合陰極/電池材料が複雑
陰極活性物質の反応能力を高めるために、複雑な製造プロセスを通して導電性又は触媒性を有する余計な活性物質でない物質を添加し、これにより陰極活性物質の含有量を高めることが困難になってしまう可能性があり、高エネルギー密度のリチウム硫黄電池を実現する際に材料科学的なボトルネックに遭遇することになる。
【0008】
(3)集電体構造の安定性の欠如
リチウム硫黄電池の活性物質は充放電反応中に80%に達する大幅な体積変化率があり、バインダーを使用して活性物質と導電助剤をアルミニウム箔集電体に固定する従来の電極製造プロセスをそのまま用いた場合、電極材料と集電体で共に構成させた共同構造となりこの構造は長期サイクルで次第に壊れていってしまう可能性があり、サイクル寿命が短くなってしまう。
【0009】
(4)活性物質が拡散・損耗しやすい
リチウム硫黄電池の充放電途中において形成される液体多硫化物は、液体電解質中に溶けて電極から流出しやすく、電気化学反応の繰り返しにおいて電気容量の不可逆的な損失をもたらし、活性物質の流失と電気容量の急速な低下を引き起こす。
【0010】
(5)システム中の電解液の体積を減少させるのは容易ではない
リチウム硫黄電池中の電解液含有量が減少すると電解液中の多硫化物の濃度が上昇し、電解液の粘度の上昇を引き起こし、ひいてはイオン導電度が低下し、これにより電池の分極が大きくなる。また、電気化学反応の過程において、活性物質、リチウム金属及び多くの電池部品はいずれも電解液を消耗するため、電解液含有量を減少させると活性物質の利用率が低下するだけでなく、活性物質が沈積し不反応領域が形成されてしまい、電池の内部インピーダンスの増加及び電気容量の低下を招き、長期サイクルの安定性、充放電時のクーロン効率、及びエネルギー密度の性能に影響し、高速充放電時に性能が顕著に低下しその応用性がなくなってしまう。したがって、公知のリチウム硫黄電池には大量の電解液が添加されており、硫黄に対する電解液の比が20μL/mgを超え、電解液含有量を高めることにより活性物質の利用を促進でき充放電電気容量、安定性及びクーロン効率等の電池の性能を向上させたとしても、過剰な電解液含有量はリチウム硫黄電池に要求される高エネルギー密度の実現を困難にさせる。
【0011】
したがって、公知のリチウム硫黄電池には基本的な物性的問題、例えば硫黄の絶縁性及び多硫化物の流出等といった主要な問題が存在する。加えて、低硫黄積載量、低硫黄含有量及び過剰な量の電解液によりリチウム硫黄電池の効果は過大評価されており、エネルギー密度及び電気容量を高めるという目標の実現が難しく、リチウム硫黄電池の商業的発展を制限している。
【0012】
上記課題を鑑みて、本発明の目的は、反応性の高い液体多硫化物を合成すると同時に、導電性多孔質炭素材をシェルとして組み立てコアの硫黄活性物質を隙間なく包み込み、これにより硫黄電極全体の反応の動力を高め、液体多硫化物の陰極領域からの流出を抑制することができ、高硫黄積載量及び高硫黄含有量を達成し、優れた電気化学効率と可逆性を実現するコアシェル陰極を提供することである。この他に少量電解液の環境において、高エネルギー密度、高容量維持率及び高いサイクル安定性を同時に満たす前記コアシェル陰極搭載のリチウム硫黄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の技術手段を提供する。
【0014】
一つの態様において、本発明は、
シェルと、
前記シェルに包まれる内部キャビティであるコアとを含み、
前記コアは活性物質及び電解液を含み、前記活性物質は一般式Li2Sx(xは4≦x≦8)を有する液体多硫化物を含み、
前記シェルは、下から上に順番に積層される第一層、O型リング及び第二層を含み、これにより前記内部キャビティを形成し前記活性物質及び前記電解液を収容することを特徴とする、コアシェル陰極を提供する。
【0015】
本発明のコアシェル陰極は、空洞でないシェルと空洞のコアの2つの形状の材料を積層し組み立てられてなり、中心にキャビティを有する立体構造であり、活性物質を当該コアシェル陰極の中心のキャビティで包み込む。マクロの視点からみると当該コアシェル陰極は同時に活性物質を包む込む能力と集電体としての能力が必要である。
【0016】
一部の実施態様において、当該シェルは導電性多孔質炭素材を含む。一部の実施態様において、当該導電性多孔質炭素材は高導電性炭素繊維基材又は各種機能性カーボンペーパーを選んで炭素材料と積層させて構成されてもよく、例えば当該導電性多孔質炭素材はカーボンナノファイバ及びカーボンナノチューブ(例えば単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブ)を含んでもよい。一部の実施態様において、当該導電性多孔質炭素材はグラフェン及び炭素粉末を含んでもよい。一部の実施態様において、当該シェルの材料は導電性の集電体となりえる各種固体材料を積層させて構成したものを含む。
【0017】
本発明のコアシェル陰極は同時に活性物質キャリアと集電体となりえ、余計なアルミニウム箔集電体を使用する必要がなく、高硫黄積載量、高硫黄含有量、高電気化学利用率及び高充放電効率を実現できる。
【0018】
本発明のコアシェル陰極は余計なバインダーを添加する必要がなく、活性物質を有効に陰極領域に閉じ込めることができ、高硫黄積載量、高硫黄含有量及び安定的な電気化学サイクル特性とレート特性を実現する。
【0019】
本発明に記載の硫黄積載量は、電池内部に添加された活性物質である硫黄の総重量(mg)と定義される。電気化学反応の特性及び電池構造により硫黄元素は電池の陰極領域にのみ添加されるため、陰極領域の硫黄の総重量のみで計算される。一部の実施態様において、本発明のコアシェル陰極の硫黄積載量は少なくとも4mg/cm2であり、好ましくは少なくとも5mg/cm2であり、より好ましくは少なくとも8mg/cm2であり、さらにより好ましくは少なくとも10mg/cm2である。一部の実施態様において、本発明のコアシェル陰極の硫黄積載量は4~30mg/cm2の範囲であり、好ましくは5~25mg/cm2の範囲であり、より好ましくは8~25mg/cm2の範囲であり、さらにより好ましくは8~20mg/cm2の範囲であり、さらにより好ましくは10~20mg/cm2の範囲である。一部の実施態様において、本発明のコアシェル陰極の硫黄積載量は12mg/cm2である。
【0020】
一部の実施態様において、本発明のコアシェル陰極の硫黄含有量は少なくとも50wt%であり、好ましくは50~95wt%であり、より好ましくは少なくとも60wt%であり、さらにより好ましくは60~85wt%であり、さらにより好ましくは60~70wt%の範囲である。一部の実施態様において、本発明のコアシェル陰極の硫黄含有量は約64wt%である。
【0021】
一部の実施態様において、本発明のコアシェル陰極のシェルは導電性多孔質炭素材を含む。一部の実施態様において、当該導電性多孔質炭素材は高導電性炭素繊維基材又は各種機能性カーボンペーパーを選んで炭素材料と積層させて構成されてもよく、例えば当該導電性多孔質炭素材はカーボンナノファイバ及びカーボンナノチューブ(例えば単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブ)を含んでもよい。一部の実施態様において、当該導電性多孔質炭素材はグラフェン及び炭素粉末を含んでもよい。一部の実施態様において、本発明のコアシェル陰極のシェルの材料は導電性の集電体となりえる各種固体材料を積層させて構成したものを含む。
【0022】
一部の実施態様において、当該導電性多孔質炭素材の比表面積は好ましくは200m2/gより少なく、より好ましくは150m2/gより少なく、さらにより好ましくは100m2/gより少なく、さらにより好ましくは60~90m2/gであり、さらにより好ましくは75~85m2/gである。一部の実施態様において、当該導電性多孔質炭素材の比表面積は約80m2/gである。一部の実施態様において、当該導電性多孔質炭素材の総細孔体積は好ましくは0.3~0.55cm3/gの範囲であり、より好ましくは0.3~0.5cm3/gの範囲であり、さらにより好ましくは0.35~0.45cm3/gの範囲であり、さらにより好ましくは約0.4cm3/gである。一部の実施態様において、当該導電性多孔質炭素材の平均細孔サイズは10~40nmの範囲であり、より好ましくは12~28nmの範囲であり、さらにより好ましくは約20nmである。
【0023】
もう一つの態様において、本発明はリチウム金属の陽極、セパレータ、前記のコアシェル陰極、及び電解液を含むことを特徴とするリチウム硫黄電池を提供する。
【0024】
本発明に記載の硫黄に対する電解液の比(μL/mg)は、固液相の電気化学反応が進むように活性物質に与えられた電解液の体積を表し、電池のエネルギー密度性能と密接な関係がある。硫黄に対する電解液の比が低くなれば、電池のエネルギー密度が高くなる。前記電解液の体積は、電池内部に添加された電解液の総体積(μL)と定義され、電池の陰極領域及び陽極領域に添加されたすべての電解液の体積を含む。今でも多くのリチウム硫黄電池の研究は硫黄に対する電解液の比を20μL/mgより大きくしていたり又は完全にこの工学パラメータの計算を無視していたりする。一部の実施態様において、本発明のリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比は20μL/mgより少なく、好ましくは3~15μL/mgであり、より好ましくは10μL/mgより少なく、さらにより好ましくは3~10μL/mgであり、さらにより好ましくは3~7μL/mgである。
【0025】
一部の実施態様において、本発明のリチウム硫黄電池の単位面積あたりの電気容量は5~20mAh/cm2の範囲であり、好ましくは5~12mAh/cm2の範囲であり、より好ましくは8~12mAh/cm2の範囲である。
【0026】
一部の実施態様において、本発明のリチウム硫黄電池のエネルギー密度は少なくとも10mWh/cm2であり、好ましくは少なくとも15mWh/cm2であり、より好ましくは10~30mWh/cm2であり、さらにより好ましくは12~25mWh/cm2であり、さらにより好ましくは少なくとも20mWh/cm2である。一部の実施態様において、本発明のリチウム硫黄電池のエネルギー密度は18.1~20.5mWh/cm2である。
【0027】
本発明に記載の電解液の体積は、電池内部に添加された電解液の総体積(μL)と定義され、電池の陰極領域と陽極領域に添加されたすべての電解液の体積が含まれる。本発明に記載の電気容量は、電池が直前の充放電サイクルで完全に充電された後、カットオフ電圧が示されるまで放電した放電電気容量(mAh/g)と定義される。本発明に記載の電気容量に対する電解液の比(μL/mAh)は、電解液に対する活性物質である硫黄の利用率の性能を表し、電解液含有量の多さが顕著に活性物質の利用率に影響を与え、ひいては電池の電気容量の性能にも影響を与えるため、この工学パラメータは硫黄に対する電解液の比のように直接制御できない。電気容量に対する電解液の比は電池内部の活性物質でない物質の重量と電池の電気容量の性能を関連付けるため、定められた硫黄に対する電解液の比に対して、もし電気容量に対する電解液の比が低ければ、電池システムは比較的高い活性物質の利用率を有することとなり、比較的高い比エネルギー性能を有することを示す。一部の実施態様において、本発明のリチウム硫黄電池の電気容量に対する電解液の比は10μL/mAhより低く、好ましくは5μL/mAhより低い。
【0028】
一部の実施態様において、本発明のリチウム硫黄電池を0.10C~0.20Cの間の等レートで安定的に100サイクルした後、少なくとも70%の容量維持率を保持し、好ましくは少なくとも80%の容量維持率を保持する。一部の実施態様において、本発明のリチウム硫黄電池を等レートで安定的に200サイクルした後にも、少なくとも70%の高容量維持率、及び98%より大きい高クーロン効率の性能を有する。
【0029】
一部の実施態様において、本発明のコアシェル陰極は12mg/cm2という高硫黄積載量と同時に64wt%という高硫黄含有量に達することができ、また当該コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池は少量電解液の環境下において、例えば硫黄に対する電解液の比が僅か3~7μL/mgにおいても、8.7~10.2mAh/cm2にまで達する優れた単位面積あたりの電気容量及び18.1~20.5mWh/cm2にまで達する優れたエネルギー密度を示し、且つ少なくとも100サイクルする長期サイクルで電池の充放電は可逆性を示すため、少量電解液での高エネルギー密度の商用化目標を達成することに成功した。
【0030】
本発明のコアシェル陰極のマクロ及びミクロ構造設計はシステム中に添加された電解液を有効に利用でき、且つ有効に電解液の損耗を抑えるため、本発明のリチウム硫黄電地が少量電解液の環境下において高エネルギー密度、並びに優れたレート特性、サイクル安定性、電気化学効率及び可逆性を有することを実現している。
【発明の効果】
【0031】
本発明のコアシェル陰極は活性物質を中心のキャビティに包み込み、本発明のコアシェル陰極は活性物質を包み込む能力と集電体としての能力を同時に有しており、余計なバインダーを添加する必要がなく、高硫黄積載量、高硫黄含有量、高電気化学利用率及び高充放電効率を実現することができる。またシステム中の電解液を有効に利用でき、電解液の損耗を抑えることができる。
【0032】
本発明のコアシェル陰極は活性物質の積載量及び反応能力を有効に高めることができ、本発明は高濃度の液体多硫化物を初期活性物質として合成することにより、それを積載した活性陰極の活性物質積載量を有効に高めることができ、且つこの形態は活性物質と電解液の浸潤の程度が最高の状態である。液体多硫化物の機動性は高いため、液体多硫化物がコアシェル陰極のコアに充填されると比較的流動・拡散しやすく、液体多硫化物とシェルの導電性多孔質炭素材が均一に接触するようになり、且つ電池中の電気化学反応は集電体、活性物質及び電解液の三相界面で起こるため、陰極液を初期反応物とする電池は高活性物質積載量の環境において充填された活性物質を十分に利用することができる。
【0033】
本発明のコアシェル陰極は固液相活性物質を陰極領域に閉じ込めることができる。本発明のコアシェル陰極はマクロの視点において、物理的構造を利用して活性物質をコアの立体構造に包み込む。ミクロの視点において、シェルの導電性多孔質炭素材のよく折れ曲がった構造(例えばカーボンナノファイバとカーボンナノチューブを複雑に入り組むよう配列し密に織交させ、その幾層にも積み重ねられたネットワークがよく折れ曲がった経路を構築する構造)を利用して粘性の多硫化物が溶解した電解質がコアシェル陰極のシェルから流失するのを困難にさせる。したがって本発明のコアシェル陰極は、活性物質をコア及びシェルの導電性多孔質炭素材のミクロ構造内に有効に閉じ込めることができるため、活性物質の反応過程における拡散による損耗を防止することができる。
【0034】
本発明のコアシェル陰極は電極の電子伝導性を高め、活性物質の含有量及び積載量を有効に向上させる。コアシェル陰極のシェルの材料は導電性多孔質炭素材を含む。一部の実施態様において、高導電のカーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバを使用し多重に繊維を交織し網状の導電炭素骨格構造を形成することで、有効な高導電ネットワークが形成される。これにより本発明のコアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池はサイクル前において60~100Ωという低い陰極インピーダンスの性能が得られた。
【0035】
本発明のコアシェル陰極は電極のイオン伝導性を有効に高め、システム中の電解液の体積を有効に減少させる。シェルの良く折れ曲がり緻密なカーボンファイバの骨格の間の隙間はマクロポアであるため、電解液中のリチウムイオンの輸送経路となりえ、有効にリチウムイオンを輸送しコアの活性物質に与えることができる。シェルの導電性多孔質炭素材の表面にはナノ細孔が少量しか存在しないため、低比表面積の特性を有し、電解液の吸収による損耗を防ぎ電解液をシステムに提供し有効に利用させることができ、低い硫黄に対する電解液の比である3~7μL/mgの少量電解液の環境下で高クーロン効率の安定的な充放電サイクルの性能を有することができる。一部の実施態様において、本発明のリチウム硫黄電池は2.2×10-7~6.3×10-8cm2/sのリチウムイオン拡散速度を有する。
【0036】
本発明のコアシェル陰極は高エネルギー密度、高容量維持率及び高いサイクル安定性を実現した。一部の実施態様において、本発明のコアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池は高い安定性の充放電性能を有し、等レートで安定的に200サイクルでき、その間少なくとも70%の高容量維持率を有し、98%より大きい高クーロン効率の性能を有する。また、8.7~10.2mAh/cm2の高い単位面積あたりの電気容量を有し、エネルギー密度は18.1~20.5mWh/cm2まで達する。これらの電気化学特性は電気自動車を駆動するのに必要な単位面積あたりの電気容量である2~4mAh/cm2を遥かに超えており、エネルギー密度もまた従来の商業用酸化物電極の約10.1mWh/cm2を超えている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明のコアシェル陰極構造の簡略図である。
【
図2】本発明のコアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の組み立て構造の簡略図である。
【
図3】電子顕微鏡を用いて高導電性炭素繊維基材を観察した微細構造図である。
図3(A)及び
図3(B)はそれぞれ低倍率と高倍率の観察結果である。
【
図4】高導電性炭素繊維基材の吸脱着等温線及び細孔分析図(図中央の図)である。
【
図5】電池のサイクル前のコアシェル陰極のコア(a)、(b)及びシェル(c)、(d)のラマン分光分析をした図である。
【
図6】電池のサイクル後のコアシェル陰極のコア(a)、(b)及びシェル(c)、(d)のラマン分光分析をした図である。
【
図7】コアシェル陰極の微細構造観察及び元素分析測定を行った。
図7(A)はシェル内部表面の観測結果である。
図7(B)はシェル外部表面の観測結果である。
【
図8】本発明のコアシェル陰極構造及び細部分析部位の簡略図である。部位Aはシェルとコアの境界箇所である。部位Bはコアシェル境界近くのシェル領域である。部位Cはコアシェル境界近くのコア領域である。
【
図9】サイクル前とサイクル後のコアシェル陰極の微細構造と元素分析を比較した。
図9(a~f)はサイクル前の観測結果である。そのうち
図9(a~b)、
図9(c~d)及び
図9(e~f)はそれぞれサイクル前の部位A、B及びCの微細構造及び元素分析の結果である。
図9(g~l)はサイクル後の観測結果である。そのうち
図9(g~h)、
図9(i~j)及び
図9(k~l)はそれぞれサイクル後の部位A、B及びCの微細構造及び元素分析の結果である。
【
図10】100サイクルの長期サイクル後にコアシェル陰極の細微構造の観察、元素分析測定及びEDS測定を行った結果である。
図10(a~c)、
図10(d~f)及び
図10(g~i)はそれぞれ部位A、B及びCを表す。
【
図11】高硫黄積載量コアシェル陰極を応用した少量電解液リチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が4~7μL/mgという条件の下で、(a)サイクル前及び(b)サイクル後に電気化学インピーダンス分析を行ったナイキストプロットである。
【
図12】少量電解液リチウム硫黄電池の(a)、(b)サイクル前及び(c)、(d)サイクル後のコアシェル陰極のボード線図(bode plot)である。
【
図13】高硫黄積載量コアシェル陰極を応用した少量電解液リチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が(a)7μL/mg、(b)6μL/mg、(c)5μL/mg及び(d)4μL/mgという条件の下で、各掃引速度のサイクリックボルタモグラムである。
【
図14】コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が6μL/mgの条件の下で、掃引速度が(a)0.01mV/s、(b)0.02mV/s、(c)0.03mV/sのサイクリックボルタモグラムである。
【
図15】コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が5μL/mgの条件の下で、掃引速度が(a)0.01mV/s、(b)0.02mV/s、(c)0.03mV/sのサイクリックボルタモグラムである。
【
図16】コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が4μL/mgの条件の下で、掃引速度が(a)0.01mV/s、(b)0.02mV/s、(c)0.03mV/sのサイクリックボルタモグラムである。
【
図17】コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が(a)7μL/mg、(b)6μL/mg、(c)5μL/mg及び(d)4μL/mgの条件下のリチウムイオン拡散係数図である。
【
図18】コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が7μL/mgの条件の下で、定電流充放電を0.10Cのレートで行い、100サイクルした長期サイクル試験の充放電曲線である。
【
図19】コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が6μL/mgの条件の下で、定電流充放電を(a)0.10C、(b)0.15C及び(c)0.20Cのレートで行い、100サイクルした長期サイクル試験の充放電曲線である。
【
図20】コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が5μL/mgの条件の下で、定電流充放電を(a)0.10C、(b)0.15C及び(c)0.20Cのレートで行い、100サイクルした長期サイクル試験の充放電曲線である。
【
図21】コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が4μL/mgの条件の下で、定電流充放電を(a)0.10C、(b)0.15C及び(c)0.20Cのレートで行い、100サイクルした長期サイクル試験の充放電曲線である。
【
図22】コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が3μL/mgの条件の下で、定電流充放電を0.10Cのレートで行い、10サイクルした充放電曲線である。
【
図23】高硫黄積載量コアシェル陰極を応用した少量電解液リチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が(a)7μL/mg、(b)6μL/mg、(c)5μL/mg、(d)4μL/mgで、それぞれ0.10C、0.15C、0.20Cの充放電レートで測定した放電電気容量とクーロン効率のサイクル特性図である。
【
図24】高硫黄積載量コアシェル陰極を応用した少量電解液リチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が3μL/mgで、0.10Cの充放電レートで測定した放電電気容量とクーロン効率のサイクル特性図である。
【
図25】高硫黄積載量コアシェル陰極を応用した少量電解液リチウム硫黄電池を0.10Cの充放電レートで100サイクルした長期サイクル安定性試験の結果である。
【
図26】高硫黄積載量コアシェル陰極を応用した少量電解液リチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が(a)6μL/mg、(b)5μL/mg、(c)4μL/mgの条件の下で、それぞれ0.10C、0.15C、0.20Cの充放電レートで100サイクルした長期サイクル安定性試験の結果である。及び(d)硫黄に対する電解液の比が4μL/mgの時に200サイクルした長期サイクル安定性試験の結果である。
【
図27】高硫黄積載量コアシェル陰極を応用した少量電解液リチウム硫黄電池の0.10Cの充放電レートに対応する単位面積あたりの電気容量とエネルギー密度の性能である。
【
図28】高硫黄積載量コアシェル陰極を応用した少量電解液リチウム硫黄電池の(a)硫黄積載量と硫黄含有量、(b)サイクル寿命と硫黄に対する電解液の比、及び(c)サイクル寿命と電気容量に対する電解液の比、これらの電池の組み立て工学パラメータとサイクル特性について比較分析した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
下記の本発明の実施形態は本発明の詳細な内容及び実施の効果を説明することのみを目的としており、本発明の実施態様を制限するものではない。
【0039】
〔コアシェル陰極の製造〕
【0040】
コアシェル陰極構造は、モジュール化した過程により高導電性炭素繊維基材で組み立てられたシェル及びその内部キャビティに充填された活性物質多硫化物のコアで構成されてもよく、シェルの材料は、高導電性炭素繊維基材又は各種機能性カーボンペーパーを含んでもよい。例示的に、シェル110の材料は単位面積あたりの重量が46g/cm
2の高導電性炭素繊維基材である。
図1に示すように、高導電性炭素繊維基材は直径12mmの第一層111と第二層113及び外径12mm、内径9.5mmのO型リング112に切り出され、第一層111、O型リング112、第二層113の順に下から上に積層される構造であり、組み立て後内部は活性物質を収容するキャビティであるコア120になり、コアシェル陰極100が形成される。これと同時にコアシェル陰極100は集電体にもなる。本発明のコアシェル陰極は余計なバインダーを添加する必要がない。
【0041】
コア120に充填された活性物質は液体多硫化物を初期反応物として使用し、多硫化物陰極液は硫化リチウム(99+%,Alfa Aesar)及び硫黄(99.5%,Alfa Aesar)を前駆体として合成し、それをコア120に充填し、コアシェル陰極の製造は完了する。
【0042】
液体多硫化物を含んだ陰極液の合成方法は以下の通りである。
多硫化物陰極液(Li2S6,1.5M)は液体多硫化物と有機電解液の混合物であり、合成反応はLi2S+5S→Li2S6であり、硫黄陰極の多段階反応における中間生成物である長鎖多硫化物Li2S6が形成される。初めにモル比が1:5になるよう0.276グラムの硫化リチウム(Li2S)と0.960グラムの硫黄(S)の二種類の合成前駆体を量り取り、次に二種類の電解液成分である塩類の2.124グラムのリチウム塩(lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide,LiTFSI,1.85M)及び0.140グラムの硝酸リチウム(LiNO3,0.5M)の二種のリチウム塩を量り取り、4種類の粉末を容積が20mLのシンチレーションバイアルに注ぎ込み、撹拌子で粉末を均一に混合する。その後体積比が1:1となるよう2mLの1,3-ジオキソラン(1,3-dioxacyclopentane,DOL,C3H6O2)と2mLのエチレングリコールジメチルエテール(1,2-dimethoxyethane,DME,C4H10O2)の2種類の電解液溶媒をシンチレーションバイアルに注ぎ込み、84℃、回転速度360rpmで約6時間撹拌し反応させ橙褐色の溶液が形成され、次に82℃、回転速度270rpmで36時間撹拌し4mLの沈殿のない均質な赤茶色の溶液が形成される。これが多硫化物陰極液である。すべての製造工程はアルゴンが充填された雰囲気下のグローブボックス内で完了し、その間水と酸素の濃度はいずれも1ppm以下に維持された。
【0043】
液体多硫化物を初期反応物として使用するのは、陰極液製造時に活性物質と電解液を十分に混合させるため、及び、液体長鎖多硫化物は電解液に溶け得ることから、活性物質の反応性と機動性は最終生成物である固体の硫黄又は硫化リチウムより高くなり、電気化学反応で十分に活性物質を利用できるためである。この他に、コアシェル陰極の材料の構造特性によって、活性物質を有効に陰極内部に閉じ込めることができ、活性物質の拡散及び損耗を防止することができる。したがって、コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池は高硫黄積載量電極を動作させる能力を有している。
【0044】
活性物質を含む陰極液とコアシェル陰極の複合方法
【0045】
図1に示すように、シェル110の下側二層である第一層111とO型リング112を順に下から上に積層させて、31μLの製造した多硫化物陰極液をO型リング112が囲むキャビティであるコア120の領域に充填することにより、12mg/cm
2という高硫黄積載量且つ64wt%という高硫黄含有量のコアシェル陰極が形成される。次に一番上の層である第二層113をその上に積層させ、組み立てた後に構造の外周に圧力を加えしっかりと貼り合わせコアシェル陰極100の製造が完了する。
【0046】
〔液体電解液の製造〕
【0047】
二種類の電解液成分である塩類の5.310グラムのリチウム塩(LiTFSI,1.85M)及び0.350グラムの硝酸リチウム(LiNO3,0.5M)の二種のリチウム塩を量り取り、二種類の粉末を容積が20mLのシンチレーションバイアルに注ぎ込み、その後に体積比が1:1となるように5mLの1,3-ジオキソラン(C3H6O2)と5mLのエチレングリコールジメチルエテール(C4H10O2)の2種類の電解液溶媒をシンチレーションバイアルに注ぎ込み、常温で溶質が完全に溶けるまで撹拌子で撹拌する。これで液体電解液の製造が完了する。
【0048】
〔コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池の組み立て方法〕
【0049】
図2は本発明のリチウム硫黄電池2の例示であり、電池パーツはボタン型電池にパッケージされ、陰極から陽極に積層されるパーツは順に電池正極蓋21と、1つのコアシェル陰極100と、特定容積の液体電解液(図面には示されていない)と、1つのセパレータ22と、特定容積の液体電解液(図面には示されていない)と、1つの対電極としてのリチウム金属の陽極23と、電池負極蓋24とを含む。これらをプレス機に入れ電池を密封すれば組み立てが完了する。前記セパレータは商業用ポリプロピレン高分子セパレータ(Celgard)が使用され、セパレータは直径19mmの円形シートに切り出され、リチウム金属の対電極は直径14mmの円形シートに切り出される。すべてのパッケージ工程はアルゴンが充填された雰囲気下のグローブボックス内で行われ、組み立てる間はいずれも水と酸素の濃度は1ppm以下に維持された。
【0050】
本発明に記載の硫黄に対する電解液の比(μL/mg)の計算式は以下の通りである。
[(陰極液体積-硫黄積載量)+余計に充填された電解液]/硫黄積載量=硫黄に対する電解液の比(μL/mg)
【0051】
そのうち、陰極液体積は電池陰極に充填される活性物質の体積であり、それは指定量の活性物質及び電解液を含む。硫黄積載量は電池中に添加された活性物質の総重量(mg)である。
【0052】
例示的には、31μLの液体多硫化物陰極液をO型リング112が囲むキャビティであるコア120の領域に充填し、製造したコアシェル陰極の硫黄積載量が9mgの条件の下で、リチウム硫黄電池の組み立てパラメータとして硫黄に対する電解液の比を3μL/mg、4μL/mg、5μL/mg、6μL/mg又は7μL/mgに固定する場合、電池中に5μL、14μL、23μL、32μL又は41μLの電解液を余計に充填することに相当する。
【実施例】
【0053】
材料の物理化学的性質については、解像度の高い電界放出形走査電子顕微鏡(Field-Emission Scanning Electron Microscope,FE-SEM,JEOL JSM-7001)及びこれに搭載されているエネルギー分散形X線分析装置(Energy-dispersive X-ray spectroscope,EDS)を用いてコアシェル陰極の材料表面構造の形状と元素成分分析をした。
【0054】
実施例1:コアシェル陰極のシェルの材料分析
【0055】
本実施例のシェルの材料は高導電性炭素繊維基材が使用され、比表面積・孔径分布測定装置(Specific Surface Area and Pore Size Distribution Analyzer,Autosorb iQ-MP-MP,Anton Paar)を用いて高導電性炭素繊維基材のカーボンナノファイバ及びカーボンナノチューブの細孔構造の測定を行った。Brunauer-Emmett-Teller(BET)、Horvath-Kawazoe(HK)、Density Function Theory(DFT)、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)等の方法を用いて比表面積、孔径分布、総細孔体積及び平均細孔サイズを分析及び計算をした。
【0056】
使用する高導電性炭素繊維基材がリチウム硫黄電池の陰極材料としての必要な条件を満たすことができるのか判断するために、本実施例は微細構造と細孔構造の2つの物理の角度から分析をした。
図3は電子顕微鏡を用いて高導電性炭素繊維基材を観測した細微構造図である。低倍率で広範囲の観察結果として、この高導電性炭素繊維薄膜はナノ級の炭素繊維及びカーボンナノチューブが三次元空間において複雑に入り組んだ配列の組織の密な網状立体構造であることが示されている。一方、高倍率で細部の観察結果として、複雑に入り組んだ配列の炭素繊維の間は依然としてナノ級の隙間を有していることが示されている。このミクロの視点での複雑に入り組み折り曲がり且つナノ級の隙間を有している炭素繊維の物理構造は、リチウム硫黄電池の陰極において応用されており、これにより固体及び液体活性物質の拡散・流出を有効に制限する能力を有しており、活性物質の相変化時の大幅な体積変化にも耐えることができると同時にリチウムイオンの輸送経路となりえ、さらにカーボンナノファイバとカーボンナノチューブの高導電材料の性質が加わり、活性物質、電解液及び導電基材の完全な三相接触領域を得ることできるため、この構造は優位的に高硫黄積載量陰極を動作させる能力を有している。
【0057】
比表面積・孔径分布測定装置を用いて炭素シェルの細孔構造を測定した。結果は
図4が示すように、低相対圧領域と中相対圧領域においていずれも明らかな気体の吸脱着はなく、炭素繊維基材には明らかに測定できる孔径が2nmより小さいミクロポア又は2~50nmの間のメソポアがないことを表している。一方、高相対圧領域において顕著な気体の吸脱着が見られ、炭素繊維基材は孔径が50nmより大きい一定の形ではない網状多孔構造を有していることを表している。また、HK、DFT、BJHの細孔体積分析法を利用して孔径が100nm以下の細孔を分析することができ、
図4の図中央の図がその結果を示している。また吸脱着等温線から計算して炭素繊維基材の比表面積が81.7m
2/g、総細孔体積が0.4cm
3/g、平均細孔サイズが20.4nmであると分かる。
【0058】
上記の細微構造及び細孔分析の結果をまとめると、一定の形ではないマクロポアは交織される炭素繊維の間のナノ級の隙間からできている。平均細孔サイズはごく微量に測定されるミクロポア/メソポア、及びマクロポアの平均の結果になった。このナノ細孔のない高導電性炭素繊維基材を応用したリチウム硫黄電池陰極は、細孔が電解液を吸収し、それを電気化学反応に利用出来なくなってしまう問題を防ぐことができるため、陰極に添加された電解液を高効率に利用できるようになる。したがって、有効に活性物質をコア領域に包み込むと同時に電解液の用量を減少させるという目標も達成する。
【0059】
このため、以下の実施例は12mg/cm2の高硫黄積載量、64.1wt%の高硫黄含有量及び硫黄に対する電解液の比が3~7μL/mgを少量電解液電池の組み立てパラメータに設定し、システムのエネルギー密度を高めた。
【0060】
図5~6はそれぞれ電池のサイクル前後のコアシェル陰極のコアとシェルのラマンスペクトルを示している。
図5(a)及び
図6(a)が示すように、コアシェル陰極のコアにはおよそ153cm
-1、186cm
-1、219cm
-1、247cm
-1、473cm
-1及び438cm
-1のところに硫黄元素のピークがあり、炭素元素のピークはない。
図5(d)及び
図6(d)が示すように、コアシェル陰極のシェルにはおよそ1350cm
-1、1578cm
-1、2444cm
-1、2691cm
-1及び2922cm
-1のところに炭素元素のピークがあり、硫黄元素のピークは出現していない。
【0061】
図5が示すように、サイクル前のコアシェル陰極のコアとシェルのラマンスペクトルから分かるように、コアには強い硫黄元素の信号があり、またシェルには強い炭素元素の信号があり、且つ硫黄元素の信号はない。これは、活性物質がシェルまで拡散したり又はシェルから流出せずに、安定的にコア領域に存在していることを示している。そして
図6が示すように、サイクル後のコアには依然として強い硫黄元素の信号があり、またシェルにも依然として強い炭素元素の信号があり、且つ硫黄元素の信号は出現していない。これは、活性物質は100サイクルの長期サイクルを経てもシェルの外に拡散されずに依然としてコア領域に安定的に存在していることを示している。
【0062】
ラマン元素分析を通してコアシェル陰極の良く折れ曲がった炭素繊維ネットワークのミクロ構造とそのマクロ構造は活性物質の拡散を有効に抑制でき、サイクル中にも良好な導電性を維持できることを実証した。
【0063】
実施例2:コアシェル陰極の活性物質の拡散抑制の効果分析
【0064】
図7が示すように、本発明のコアシェル陰極は活性物質の拡散を有効に抑制でき、
図7(A)はシェルの内部表面に強い硫黄元素の信号が示されることを示し、
図7(B)はシェルの外部表面において炭素元素の信号は強いが、硫黄元素の信号は微弱しかないことを示している。
【0065】
長期サイクル試験後のコアシェル陰極を分解し、コア領域を測定できる範囲まで露出させ、そして
図8に示すように、部位Aのシェルとコアの境界箇所について、低倍率で広範囲の細微構造観察及び元素分析を行った。次に部位Bのシェル領域及び部位Cのコア領域についてそれぞれ高倍率で細部観察を行った。測定結果は
図9、
図10が示すように、
図9はサイクル前後のコアシェル陰極の微細構造と元素分析を比較した。
図9(a~f)はサイクル前の観測結果である。そのうち
図9(a~b)、
図9(c~d)及び
図9(e~f)はそれぞれサイクル前の部位A、B及びCの微細構造及び元素分析の結果である。
図9(g~l)はサイクル後の観測結果である。そのうち
図9(g~h)、
図9(i~j)及び
図9(k~l)はそれぞれサイクル後の部位A、B及びCの微細構造及び元素分析の結果である。
図10は100サイクルの長期サイクル後のコアシェル陰極の細微構造の観察、元素分析測定及びEDS測定の結果である。そのうち
図10(a~c)、
図10(d~f)及び
図10(g~i)はそれぞれ部位A、B及びCの観測結果を表す。
【0066】
部位Aのコアシェル境界箇所の分析結果から、左側のシェルと右側のコアは鮮明な境界線があり、炭素元素の信号は主に左側のシェルに分布しており、硫黄元素の信号は右側のコアに分布していることが示されている。部位Bのシェル領域において、炭素繊維構造がはっきり見え、強い炭素元素の信号があり、析出し繊維の表面に貼り付いた硫黄微細粒子が少数しかなく、相対的に弱い硫黄元素の信号がある。また部位Cのコア領域において、大量の硫黄粒子が析出し強い硫黄元素の信号が示され、炭素繊維構造は大量の硫黄粒子で覆われており、微弱な炭素元素の信号しか示されない。
【0067】
上記の分析結果をまとめると、コアシェル陰極のミクロ構造とマクロ設計は長期サイクルを経た後にも活性物質を有効にコア領域に留まらせ、コア領域において均一に析出させることができることが示され、シェルの優れた電気化学反応性が立証され、コアシェル構造に包み込まれた陰極活性物質の拡散は有効に抑制され、避けられない活性物質のシェルへの拡散があるとしても、それは依然としてシェル構造内部において有効に利用され得るため、コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池は長期サイクルを経た後でも高容量維持率を有することができる。
【0068】
実施例3:電気化学分析
【0069】
電池の電気化学及び性能について、電気化学インピーダンスアナライザ(Research-grade potentiostat,SP-150,Bio-Logic)を用いて電池システム中の電解液含有量がインピーダンスに与える影響を分析した。試験する交流の周波数範囲を1MHz~100MHz、交流電圧の振幅を5mVに設定した。コアシェル陰極を応用した電池のサイクル特性は、電池パーツをボタン型電池中にパッケージし、電池サイクル試験装置(Programmable Battery Cycler,BCS model,Bio-Logic)を用いて、電位窓を1.7~2.8Vに設定し、0.10C、0.15C、0.20Cのレートで定電流充放電を行い、サイクル試験を行った。サイクリックボルタンメトリー(galvanostat system,VMP3,Bio-Logic)を用いて、電位窓を1.7~2.8V、掃引速度を0.01~0.05mV/sに設定し、電池システムの電気化学反応の電位と酸化還元の可逆性を検証した。
【0070】
コアシェル陰極を搭載した少量電解液リチウム硫黄電池に対しサイクル前後に電気化学インピーダンス分析を行い、各電解液含有量が電池のインピーダンス性能に与える影響を測定した。結果は
図11が示すように、高周波数範囲のx切片は電池のオーミック抵抗を表し、その値は電解液の組成成分又は粘度の高さと関係があり、全周波数範囲における半円弧の直径は電池陰極領域のコアとシェルの両者の間の電荷移動抵抗を表し、その値に基づいて電池の電気化学反応動力学の分析ができる。分析結果は
図11(a)が示すように、硫黄に対する電解液の比が4~7μL/mgの時、そのオーミック抵抗は3~7Ωになり、電荷移動抵抗は48~105Ωになる。オーミック抵抗と電荷移動抵抗が硫黄に対する電解液の比の低下を受けて少し上昇するが、得られた低インピーダンス値を分析すると、コアシェル陰極を応用した少量電解液リチウム硫黄電池は依然として高い電子及びリチウムイオンの伝導能力を有していることを示している。
図12は少量電解液リチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が4~7μL/mgの条件の下のサイクル前後のボード線図である。
【0071】
更にリチウムイオン拡散能力に対して測定及び分析を行った。
図13~16は硫黄に対する電解液の比が4~7μL/mgのサイクリックボルタンメトリーの測定結果である。電池を開回路電圧から3.0Vまで充電し、その後電位窓が1.7V~2.8Vのサイクリックボルタンメトリーを行った。
図13(a)が示すように、硫黄に対する電解液の比が7μL/mgの時、曲線はまず先に2.2V及び2.0Vの還元ピークC1及び還元ピークC2を示す。これらの還元ピークは、それぞれ陰極の硫黄元素が長鎖多硫化物Li
2S
x(4≦x≦8)に還元され、そして長鎖多硫化物が硫化リチウムに還元される二段階放電反応(還元ピークC1:S→Li
2S
4~8、還元ピークC2:Li
2S
4~8→Li
2S
2/Li
2S)に対応している。また2.3~2.4Vにおいて二つ重なった酸化ピークAは、硫化リチウムが硫黄元素に酸化される連続二段階充電反応(すなわち、Li
2S
2/Li
2S→Li
2S
4~8及びLi
2S
4~8→Li
2S
8/S)に対応している。電池を0.01~0.03mV/sの各速度で掃引を行い、曲線はいずれもピーク値がはっきりとした酸化還元ピークを呈した。より大きなエネルギーでこそ酸化還元反応に必要な充分な数のリチウムイオンをすぐに拡散し供給することができるため、その分極の程度は掃引速度が上昇するにしたがって大きくなる。そのリチウムイオンの拡散係数を計算すると、二つの還元ピークC1、C2及び酸化ピークAは商業用リチウムイオン電池より優れたリチウムイオン拡散速度を有しており、それぞれ1.0×10
-7、3.1×10
-7、7.9×10
-7cm
2/sであり、コアシェル陰極材料の緻密な炭素繊維構造の隙間は確かに高効率のリチウムイオン輸送経路になることを実証した。
【0072】
図17はリチウム硫黄電池の硫黄に対する電解液の比が4~7μL/mgの条件の下でのリチウムイオン拡散係数図を示している。還元ピークC1は硫黄元素が多硫化物に還元される反応であり(すなわちS→Li
2S
4~8)、還元ピークC2は長鎖多硫化物が硫化リチウムに還元される固体析出反応であり(すなわちLi
2S
4~8→Li
2S
8/S)、酸化ピークA1及び酸化ピークA2は固体硫化リチウムが長鎖多硫化物及び硫黄元素へと反応する連続充電酸化反応であり(すなわちLi
2S
2/Li
2S→Li
2S
4~8及びLi
2S
4~8→Li
2S
8/S)、高い拡散係数はリチウムイオンのコアシェル陰極における安定的な拡散能力及びその高い電気化学利用率を示している。
【0073】
上記の分析結果は、本発明のコアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池が優れた電子及びイオンの伝導能力を有していることを立証している。次に0.10C、0.15C、0.20Cの各充放電レートの下で長期サイクル試験を行った。
図18~22の少量電解液3~7μL/mgのリチウム硫黄電池の充放電曲線よりその電気化学反応性の分析をした。約2.25Vの放電の上部プラトーはサイクリックボルタモグラム中(
図13(a)に示されている)のC1還元ピークに対応し、これは硫黄元素が長鎖多硫化物に還元される反応であり、高度に重なった放電の上部プラトーはこの段階の還元反応の相変化は高い反応性及び可逆性を有することを示しており、硫黄に対する電解液の比が低下してもその優れた電気化学反応能力には影響しないことを表している。また約2.00Vの放電の下部プラトーはサイクリックボルタモグラム中(
図13(a)に示されている)のC2還元ピークに対応し、これは長鎖多硫化物が硫化リチウムに還元され固体が析出する反応であるが、高度に重なり平たい放電の下部プラトーは反応の動力とリチウムイオン拡散効率は少量電解液環境による障害を受けていないことを示している。約2.25~2.40Vの連続充電の下部プラトー及び上部プラトーはサイクリックボルタモグラム中(
図13(a)に示されている)の連続A酸化ピークに対応し、これはすなわち固体硫化リチウムが液体長鎖多硫化物及び硫黄元素へと反応する連続充電酸化反応であり、平たく高度に重なった充電プラトーは充電酸化反応の可逆性及び安定性を示している。
【0074】
この優れた電気化学反応能力は、コアシェル陰極の高導電性炭素基材のシェルは固体活性物質の低導電度の劣位性を有効に補うことができるとともに、電解液に溶けやすい液体長鎖多硫化物の拡散を有効に抑制できるため活性物質の不可逆的な損耗を低減できること、及びミクロポアのない高導電性炭素基材のシェルは余計な電解液を吸収せず添加された電解液を有効に利用でき、その緻密な繊維の隙間は確かに活性物質の拡散を抑制すると同時にリチウムイオン輸送経路を与えることを証明している。測定された優れた電気化学特性によると、コアシェル陰極は高硫黄積載量電極及び少量電解液型リチウム硫黄電池で高効率電気化学反応及び安定的な100サイクルの可逆充放電サイクルを達成させることができる。
【0075】
実施例4:各レートのサイクル安定性試験
【0076】
電気化学分析でコアシェル陰極は高い電子伝導能力及び高いイオン伝導能力を有することを実証した。本実施例ではさらに0.10C、0.15C、0.20Cの各充放電レートの下で電池のレート特性試験を行った。
図23は硫黄に対する電解液の比が4~7μL/mgのレート特性の分析結果である。
図24は硫黄に対する電解液の比が3μL/mgのレート特性の分析結果である。硫黄に対する電解液の比が7μL/mgの時、ピーク値の放電電気容量が847~858mAh/gまで達する。硫黄に対する電解液の比が6μL/mgの時、ピーク値の放電電気容量が732~834mAh/gまで達する。硫黄に対する電解液の比が5μL/mgの時、ピーク値の放電電気容量が723~809mAh/gまで達する。硫黄に対する電解液の比が4μL/mgの時、ピーク値の放電電気容量が756~826mAh/gまで達する。硫黄に対する電解液の比が3μL/mgの時、ピーク値の放電電気容量が約703mAh/gまで達する。また、サイクル期間はいずれも98%の高クーロン効率の性能を有している。
【0077】
各レートで安定的且つ可逆的に50サイクルした後、硫黄に対する電解液の比が7μL/mgの時、686~723mAh/gの放電電気容量を有し、硫黄に対する電解液の比が6μL/mgの時、619~675mAh/gの放電電気容量を有し、硫黄に対する電解液の比が5μL/mgの時、666~722mAh/gの放電電気容量を有し、硫黄に対する電解液の比が4μL/mgの時、713~782mAh/gの放電電気容量を有している。安定的且つ可逆的に10サイクルした後、硫黄に対する電解液の比が3μL/mgの時、約655mAh/gの放電電気容量を有している。計算するといずれも80%よりも大きい容量維持率を有しており、その性能は硫黄に対する電解液の比の低下によって明らかに低下することはなく、本発明は少量電解液型リチウム硫黄電池の製造に成功したことを実証した。
【0078】
高硫黄量電極の電池のパラメータとして高硫黄積載量12mg/cm2及び高硫黄含有量64.1wt%が同時に達成されることをさらに考慮すると、硫黄に対する電解液の比が低下した場合、電解液中に溶ける液体多硫化物の濃度は上昇し、ひいては陰極と陽極の間の多硫化物の濃度勾配が大きくなり、その結果、活性物質を陰極領域から拡散・流出させ電気容量の損耗が発生する確率が高まる。また、電解液中の多硫化物の濃度が上昇すると同時に、電解液粘度の上昇が発生しリチウムイオンの安定的な拡散が妨げられるため、電池システムの反応能力及び活性物質の利用能力を低下させる。この劣位性は、大きい電子流及び大きいイオン流における各レートでのサイクル時には更に悪化する。しかし本発明で製造されたコアシェル陰極の高電子伝導及び高イオン伝導特性は高エネルギー密度の電池中の高活性物積載量及び低い硫黄に対する電解液の比がもたらす課題を補うことができ、緻密なミクロポアのない繊維組織は高効率の電解液利用能力を提供でき、活性物質を陰極領域に有効に留めることができる。コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池は少量電解液環境中の各レートでのサイクルでも依然として優れた反応能力、安定性及び容量維持率を有していることを実証した。
【0079】
実施例5:長期サイクル特性の分析と比較
【0080】
少量電解液リチウム硫黄電池における高硫黄積載量コアシェル陰極の長期サイクル安定性を
図25~27に示す。
図25は高硫黄量コアシェル陰極について硫黄に対する電解液の比が4~7μL/mgの電池において0.10Cの等レートで100サイクルの長期サイクル試験を行った結果であり、
図26は高硫黄量コアシェル陰極について硫黄に対する電解液の比が4~6μL/mgの電池において、0.10C~0.20Cの各充放電レートの下で100サイクルの長期サイクル試験の結果並びに200サイクルの長期サイクル特性を測定したものを示したものである。
図27は0.10Cの等レートで100サイクルの長期サイクル試験結果における単位面積あたりの電気容量とエネルギー密度を示したものである。
【0081】
図25が示すように、サイクル初期においては799~858mAh/gのピーク値の放電電気容量を有しており、安定的に100サイクルが完了した後にも420~615mAh/gの可逆的な電気容量を有しており、計算すると少なくとも70%の高容量維持率を有しており、且つサイクル期間に98%又はそれ以上の高クーロン効率を有している。
図26(d)も等レートで安定的に200サイクルし、その期間に少なくとも70%の高容量維持率、及び98%より大きい高クーロン効率の性能を有していることを示している。安定的且つ可逆的な長期サイクルの性能は、コアシェル陰極構造がリチウム硫黄電池システムの卓越した電気化学反応の動力と容量維持率を提供していることを再度証明した。
【0082】
本発明のコアシェル陰極構造を応用したリチウム硫黄電池の性能における優位性及び商業的価値を具体的に示し検証するために、以下に電池の性能と工学パラメータの2つの面から比較をする。電池の性能において、0.10Cの等レートで100サイクルの長期サイクル試験結果の単位面積あたりの電気容量及びエネルギー密度を計算した。結果は
図27に示されている。低い硫黄に対する電解液の比である4~7μL/mgの時において、高硫黄積載量コアシェル陰極のピーク値の単位面積あたりの電気容量は10.1~10.8mAh/cm
2に達し、100サイクルを経た後にも単位面積あたりの電気容量は5.3~7.7mAh/cm
2に達し、そのサイクル初期と100サイクル後における単位面積あたりの電気容量の性能は、いずれも、2~4mAh/cm
2の性能が要求される、ハイブリッド自動車及び電気自動車を駆動する商業用電池より遥かに優れている。ほかにも実験結果のエネルギー密度を計算したところ、そのピーク値のエネルギー密度は20.1~21.6mWh/cm
2であり、100サイクルを経た後にも10.6~15.5mWh/cm
2のエネルギー密度性能を有しており、サイクル初期と100サイクル後の特性の性能はいずれもエネルギー密度が約10.1mWh/cm
2のコバルト酸リチウムの商業用リチウムイオン電池より優れている。以上が電池の性能に関する分析であり、本発明の商業的価値が充分に見られた。
【0083】
また工学パラメータについて、本実施例では、電池の工学パラメータとして12mg/cm
2の高硫黄積載量、64.1wt%の高硫黄含有量及び3~7μL/mgの低い硫黄に対する電解液の比を同時に達成するように設定し、この工学パラメータにおいて100サイクル以上の安定的な長期サイクルを完了し、この段階で文献レポートを整理分析し
図28にまとめた。
図28(a)は電池のエネルギー密度を高めるのに重要な工学性能パラメータの指標である硫黄積載量と硫黄含有量のパラメータをまとめたものである。本実施例のパラメータはこの目標を同時に達成し、いずれも硫黄積載量が1~2mg/cm
2及び硫黄含有量が50~60wt%という文献の平均値より優れた値となっている。
図28(b)はサイクル数と硫黄に対する電解液の比のパラメータをまとめた。硫黄に対する電解液の比を低下させて初めてエネルギー密度を高めるという目標を達成することができるが、少量電解液により反応の動力が低下し、サイクル特性を犠牲にしてしまう可能性がある。しかし本発明は、設定した電解液の添加量が文献で報告される平均値の20μL/mgより遥かに低く、少量電解液での平均の約50サイクルを超える100サイクルの安定的な長期サイクルを完了した。以上より、工学パラメータについて本発明のパラメータに関する商業的価値が示された。工学パラメータで示された本発明のパラメータに関する商業的価値と卓越した電池性能は、いずれも本発明のコアシェル陰極が新しい電極構造を通してリチウム硫黄電池の電気化学反応における材料の本質的な制限を克服したことを実証した。
【0084】
図28(c)にサイクル数と電気容量に対する電解液の比のパラメータをまとめた。電気容量に対する電解液の比は、電解液に対する活性物質である硫黄の利用率の性能を表している。電解液含有量の多さが顕著に活性物質の利用率に影響を与え、ひいては電池の電気容量の性能にも影響を与えるため、この工学パラメータは硫黄に対する電解液の比のように直接制御できない。しかし、電気容量に対する電解液の比は電池内部の活性物質でない物質の重量と電池の電気容量の性能を関連付けるため、定められた硫黄に対する電解液の比に対して、もし電気容量に対する電解液の比が低ければ、電池システムは比較的高い活性物質の利用率を有することを表し、比較的高い比エネルギー性能を有することを示す。文献レビューによると商業的価値の有る電気容量に対する電解液の比は5μL/mAhより低くなる必要があると提言されており、本発明のコアシェル構造陰極を応用したリチウム硫黄電池は電気容量に対する電解液の比が最低4.26μL/mAhまで低下でき、且つ100サイクル及び200サイクルの安定的な長期サイクルを完了することができる。
【0085】
本発明のコアシェル陰極は高導電性炭素繊維基材を基に製造され、そのよく折れ曲がり密に交織された炭素繊維ネットワーク構造は高活性物質積載量と容量維持率、長距離における電荷伝導、低電解液消耗量を同時に達成する。したがって、少量電解液の条件下で含まれる大量の活性物質を高効率利用でき、高硫黄積載量電極の少量電解液電池中における安定的で高効率のサイクル特性を実現した。材料工学の電池のプロセス技術について、コアシェル硫黄電極は高硫黄積載量12mg/cm2と高硫黄含有量64.1wt%を同時に達成し、少量電解液型リチウム硫黄電池において僅か3~7μL/mgの値の硫黄に対する電解液の比を実現し、各パラメータは先行技術が到達できる水準よりはるかに優れている。
【0086】
材料科学的な電池の性能において、高硫黄積載量コアシェル電極は0.10C、0.15C、0.20Cでの優れたレート特性を有し、安定的に100サイクル以上する長期サイクルにおいても電池の充放電は可逆性を示し、またそれぞれ10.1~10.8mAh/cm2と20.1~21.6mWh/cm2まで達する極めて良い単位面積あたりの電気容量及びエネルギー密度を示し、電池の各電気化学特性も先行技術の電気化学特性より優れており、これらは電気自動車の駆動に商業的に要求される性能よりも高い。
【0087】
本発明は、電池のプロセス技術と電気化学特性の全体の向上を実現し、新しいコアシェル陰極構造設計をリチウム硫黄電池システムに応用することで、リチウム硫黄電池の材料的制限を克服しその性能を引き上げることができ、少量電解液の高エネルギー密度の商業用目標の達成に成功したことを証明した。
【符号の説明】
【0088】
100:コアシェル陰極
110:シェル
111:第一層
112:O型リング
113:第二層
120:コア
2:リチウム硫黄電池
21:電池正極蓋
22:セパレータ
23:リチウム金属の陽極
24:電池負極蓋
【要約】 (修正有)
【課題】優れた電気化学効率と可逆性を実現するコアシェル陰極を提供する。
【解決手段】本発明は導電性多孔質炭素材を含むシェル110と、前記シェルに包まれる内部キャビティであるコア120とを含み、前記コアは活性物質及び電解液を含み、前記活性物質は一般式Li
2S
x(xは4≦x≦8)を有する液体多硫化物を含み、前記シェルは、下から上に順番に積層される第一層111、O型リング112及び第二層113を含み、これにより前記内部キャビティを形成し前記活性物質及び前記電解液を収容することを特徴とする、コアシェル陰極100を提供する。また、本発明は高硫黄積載量、高硫黄含有量を同時に達成し、少量電解液の環境においても高エネルギー密度、高容量維持率及び高いサイクル安定性を同時に満たす、前記コアシェル陰極を応用したリチウム硫黄電池を提供する。
【選択図】
図1