IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山田 尋士の特許一覧

特許7426757歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置
<>
  • 特許-歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置 図1
  • 特許-歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置 図2
  • 特許-歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置 図3
  • 特許-歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置 図4
  • 特許-歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置 図5
  • 特許-歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置 図6
  • 特許-歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/00 20060101AFI20240126BHJP
   G16H 30/40 20180101ALI20240126BHJP
【FI】
A61C7/00
G16H30/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023015029
(22)【出願日】2023-02-03
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】513143755
【氏名又は名称】山田 尋士
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 尋士
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-504077(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0291417(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3673862(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/00
G16H 30/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも患者の、下顎の左右それぞれにおける中心咬合位と中心位の基準臼歯のずれ量、左右それぞれにおける上顎の第二小臼歯舌側咬頭と下顎の第二小臼歯と第一大臼歯が互いに接触する部位とのずれ量、および下顎の左右それぞれにおけるスピー彎曲の深さを含む観察値の入力を受け付ける観察値受付ステップと、
前記観察値に基づいて左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯間の矯正すべき差分量を演算する演算ステップと、
前記観察値および前記差分量を同一画面に出力する出力ステップと
をコンピュータに実行させる歯科矯正支援プログラム。
【請求項2】
前記観察値受付ステップは、前記観察値として更に前記患者の成長に応じた移動量を受け付ける請求項1に記載の歯科矯正支援プログラム。
【請求項3】
少なくとも前記患者の左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯に対する目標移動量を含む目標関連値の入力を受け付ける目標関連値受付ステップと、
前記観察値と前記目標関連値に基づいて前記差分量を再演算する再演算ステップと、
前記観察値、前記目標関連値および再演算された前記差分量を同一画面に出力する再出力ステップと
をコンピュータに実行させる請求項1に記載の歯科矯正支援プログラム。
【請求項4】
前記観察値受付ステップは、前記観察値として更に前記患者の、顔面正中を基準とした上顎の左右の基準臼歯間の近遠心方向のずれ量を受け付け、
前記再出力ステップは、左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯の予想移動量を併せて出力する請求項3に記載の歯科矯正支援プログラム。
【請求項5】
前記出力ステップは、セファロ分析によって得られた諸値を併せて出力し、
前記再出力ステップは、前記諸値を前記目標移動量が達成された場合の矯正値に更新して出力する請求項3または4に記載の歯科矯正支援プログラム。
【請求項6】
少なくとも患者の、下顎の左右それぞれにおける中心咬合位と中心位の基準臼歯のずれ量、左右それぞれにおける上顎の第二小臼歯舌側咬頭と下顎の第二小臼歯と第一大臼歯が互いに接触する部位とのずれ量、および下顎の左右それぞれにおけるスピー彎曲の深さを含む観察値の入力を受け付ける観察値受付部と、
前記観察値に基づいて左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯間の矯正すべき差分量を演算する演算部と、
前記観察値および前記差分量を同一画面に出力する出力部と
を備える歯科矯正支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科矯正支援プログラムおよび歯科矯正支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科矯正の治療に関して、コンピュータを用いて治療の進捗情報を患者に伝えることにより、患者の不安を緩和させる歯科矯正支援装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このように、歯科矯正の治療分野にも、様々な支援装置が開発されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-036755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯科矯正の治療においては、歯科医師の施術を支援する装置も多く開発されてきている。例えば、口腔内スキャナや歯科用CT装置は、近時広く普及しつつある。しかし、それらの多くの装置は、患者の口腔内のデータを取得したり、口腔内の様子を視認性良く描画したりするに留まり、それらの情報を活用してどのような施術を行うかは、依然として歯科医師の力量に依存するのが現状である。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、多くの歯科医師が適切な矯正治療を行えるように、その治療方針の立案を支援する歯科矯正支援プログラム等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様における歯科矯正支援プログラムは、少なくとも患者の、下顎の左右それぞれにおける中心咬合位と中心位の基準臼歯のずれ量、左右それぞれにおける上顎の第二小臼歯舌側咬頭と下顎の第二小臼歯と第一大臼歯が互いに接触する部位とのずれ量、および下顎の左右それぞれにおけるスピー彎曲の深さを含む観察値の入力を受け付ける観察値受付ステップと、観察値に基づいて左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯間の矯正すべき差分量を演算する演算ステップと、観察値および差分量を同一画面に出力する出力ステップとをコンピュータに実行させる。
【0007】
また、本発明の第2の態様における歯科矯正支援装置は、少なくとも患者の、下顎の左右それぞれにおける中心咬合位と中心位の基準臼歯のずれ量、左右それぞれにおける上顎の第二小臼歯舌側咬頭と下顎の第二小臼歯と第一大臼歯が互いに接触する部位とのずれ量、および下顎の左右それぞれにおけるスピー彎曲の深さを含む観察値の入力を受け付ける観察値受付部と、観察値に基づいて左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯間の矯正すべき差分量を演算する演算部と、観察値および差分量を同一画面に出力する出力部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、歯科医師は、患者の口腔の状態に関していずれの観察値に着目すれば良いかを容易に認識でき、また、それらの観察値に基づいて演算される矯正すべき移動量が当該観察値と共に表示されるので、患者の口腔内の状況を適切に把握してより良い治療方針を立案しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る歯科矯正支援プログラムが利用されるシステム環境を示す図である。
図2】支援装置と主な周辺装置のハードウェア構成図である。
図3】アプリウィンドウの全体の様子を示す図である。
図4】アプリウィンドウのうちの観察値領域を示す図である。
図5】アプリウィンドウのうちの目標関連値領域を示す図である。
図6】アプリウィンドウのうちの演算結果領域を示す図である。
図7】処理部が実行する処理の処理手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成のすべてが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本実施形態に係る歯科矯正支援プログラムが利用されるシステム環境を示す図である。本実施形態に係る歯科矯正支援プログラムは、歯科矯正支援アプリとして例えばPCである支援装置100にインストールされて実行される。支援装置100は、コンピュータを構成するプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)が、インストールされた歯科矯正支援アプリを実行することにより、歯科矯正支援装置として機能する。
【0012】
支援装置100は、データサーバ200と例えばLAN(Local Area Network)を介して接続されている。データサーバ200は、患者の口腔内の状態に関する情報を取得する各種装置であるデータ取得デバイス300のそれぞれで取得された数値情報や画像データを蓄積している。データ取得デバイス300の例としては、歯科用X送装置、口腔内スキャナ、歯科用CT装置が挙げられる。
【0013】
支援装置100は、歯科矯正支援アプリの要求に従ってデータサーバ200から対象となるデータを取得する。また、歯科矯正支援アプリ以外のデータ処理アプリの実行時においても、当該データ処理アプリの要求に従ってデータサーバ200から対象のデータを取得する。例えば、データサーバ200に蓄積されたデータをデータ処理アプリが解析し、その解析結果を歯科矯正支援アプリが利用する場合もあり得る。また、データサーバ200に蓄積されたデータそのものが、データ取得デバイス300から取得された数値情報や画像データを解析した解析データであっても構わない。
【0014】
支援装置100で実行される歯科矯正支援アプリは、歯科医師であるユーザに対して支援装置100と接続された表示モニタ110を介して、処理結果を視認可能に呈示したり、演算処理に必要な情報を要求したりする。支援装置100と接続された入力デバイス120は、ユーザが歯科矯正支援アプリに対して実行指示や演算処理に必要な情報を入力するために利用される。
【0015】
なお、本実施形態においては、ユーザがPCにインストールした歯科矯正支援アプリが実行される例について説明するが、支援装置100は、PCに限らず、タブレット端末等であってもよい。例えば、クラウドサーバが歯科矯正支援アプリを実行し、その処理結果をタブレット端末で表示する態様であれば、クラウドサーバが歯科矯正支援装置として機能することになる。なお、以下の説明においては、PCである支援装置100で処理された処理結果を表示モニタ110で表示する場合の表示画面の例を用いて説明するが、表示態様は、利用される情報端末によって適宜変更され得る。
【0016】
図2は、支援装置100と主な周辺装置のハードウェア構成図である。支援装置100は、上述のように主に、データサーバ200、表示モニタ110、入力デバイス120と接続されている。表示モニタ110は、例えば液晶パネルによって構成され、支援装置100が出力する映像信号を視認可能に表示する表示部としての機能を担う。入力デバイス120は、ユーザが支援装置100に与える指示や情報を入力するためのデバイスである。入力デバイス120は、例えばキーボードやマウスであり、表示モニタ110に重畳されたタッチパネルや音声指示デバイスなどを採用してもよい。
【0017】
支援装置100は、主に、処理部130、記憶部140、および通信ユニット150によって構成される。処理部130は、支援装置100の制御とプログラムの実行処理を行うプロセッサ(CPU)である。プロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理チップと連携する構成であってもよい。特に、処理部130は、記憶部140に記憶された、あるいは外部装置から送られてくる歯科矯正支援プログラムに従って、歯科矯正の支援に関する様々な処理を実行する。
【0018】
記憶部140は、不揮発性の記憶媒体であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)によって構成されている。記憶部140は、支援装置100の制御や処理を実行するプログラムの他にも、制御や演算に用いられる様々なパラメータ値、関数、ルックアップテーブル、学習済みモデル等を記憶し得る。また、記憶部140は、患者の属性情報や治療情報を含む患者情報のデータベースを記憶する。なお、患者情報のデータベースは、データサーバ200等のネットワーク装置が備える記憶媒体に記憶されていてもよい。
【0019】
通信ユニット150は、データサーバ200とのデータ授受を担い、例えばLANユニットによって構成されている。通信ユニット150は、処理部130の制御に従って、データサーバ200との間で情報の授受を行う。
【0020】
処理部130は、歯科矯正支援プログラムが指示する処理に応じて様々な演算を実行する実行する機能演算部としての役割も担う。処理部130は、取得部131、受付部132、演算部133、出力部134として機能し得る。取得部131は、通信ユニット150と協働して、データサーバ200に対して必要となるデータを要求し、要求指示に対応してデータサーバ200から送られてくるデータを取得する。
【0021】
受付部132は、入力デバイス120を介してユーザから入力された指示や数値を受け付ける。具体的には後述するが、受付部132は、ユーザから受け付ける指示や数値の内容に応じて、主に、対象となる患者について観察された観察値の入力を受け付ける観察値受付部と、矯正治療における目標移動量等の目標関連値を受け付ける目標関連値受付部として機能する。
【0022】
演算部133は、観察値や目標関連値に基づいて左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯間の矯正すべき差分量を演算したり、左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯間の矯正すべき差分量や、それぞれの基準臼歯の予想移動量を演算したりする。具体的な演算手法については後述する。出力部134は、表示モニタ110に表示させる情報を表示モニタへ出力する。また、外部装置から演算結果等の出力を要求された場合には、通信ユニット150を介して当該外部装置へ出力する。出力部134は、例えば、上記の観察値、差分量、予想移動量等を表示モニタ110に表示される歯科矯正支援アプリのウィンドウ内に配列して表示させる。
【0023】
図3は、歯科矯正支援アプリのアプリウィンドウ500の全体の様子を示す図である。アプリウィンドウ500は、歯科矯正支援アプリの実行中に表示モニタ110に表示されるGUI(Graphical User Interface)画面である。特に図3は、ユーザによって指定された患者情報を読み出し、ユーザからの入力を受け付け、その演算結果を呈示するアプリウィンドウ500の一例を示す。
【0024】
図示するアプリウィンドウ500は、主に、患者情報510、演算ボタン521、保存ボタン522、観察値領域530、目標関連値領域540、演算結果領域550を含む。患者情報510は、ユーザが指定した患者のIDや属性情報を示す。演算ボタン521は、
演算部133に演算を開始させることを指示するための指示ボタンである。保存ボタン522は、演算結果や記入された診断コメントを患者情報に関連付けて保存することを指示するための指示ボタンである。
【0025】
観察値領域530は、主に、取得部131が取得した数値情報の数値や画像データの画像を表示すると共に、受付部132が観察値受付部としてユーザから特定の観察値の入力を受け付けるための入力ボックスを表示する領域である。目標関連値領域540は、主に、受付部132が目標関連値受付部として、ユーザが治療方針を決定するにあたりシミュレーションする目標関連値の入力を受け付けるための入力ボックスを表示する領域である。演算結果領域550は、主に、演算部133が演算した演算結果を表示する領域である。これら観察値領域530、目標関連値領域540、演算結果領域550の具体的な表示内容と関連する処理演算について、順に説明する。
【0026】
図4は、アプリウィンドウ500のうちの観察値領域530を示す図である。観察値領域530には、取得部131が取得した指定患者についての数値情報の数値や画像データの画像が表示されている。具体的には、歯科用CT装置や口腔内スキャナで撮像されCG加工された上顎歯列画像や咬合側視画像などが、関連する数値と共に表示されている。関連する数値は、ボックスに囲まれて表示されている。
【0027】
観察値のうちデータサーバ200にすでに蓄積されているものであれば、取得部131が取得した数値がそのまま表示されている。本実施形態においては、そのような観察値であっても、歯科医師であるユーザが専用のアプリを用いるなどして詳細に分析した結果に修正できるように、修正を受け付ける入力ボックスの形式を採用して表示されている。
【0028】
一方、観察値のうちデータサーバ200に蓄積されておらず歯科医師であるユーザが解析した結果を入力する必要があるもの、あるいはデータサーバ200に蓄積された観察値であっても後述する演算処理に特に必要なものに対しては、ユーザに入力を促したり確認させたりするように視認性を高めて強調された入力ボックスが配置されている。本実施形態においては、入力ボックス内に枠で囲われた識別子を重畳することで強調されている。識別子は、アルファベットと数字で表現され、例えばCO-CRのずれ量について右側観察値の入力ボックスには「a1」の識別子が、左側観察値の入力ボックスには「a2」の識別子が重畳されている。なお、視認性を高めるための表示は、例えばマウスカーソルを近づけたときのみに現れてもよいし、識別子ではなく入力ボックスの枠を装飾したり近傍に特定アイコンを配置したりしてもよい。
【0029】
本実施形態において強調された入力ボックスで表される観察値は、図において「CO-CRのずれ量」と表現されている下顎の左右それぞれにおける中心咬合位と中心位の基準臼歯のずれ量(a1、a2)と、それぞれの入力ボックスが左右の咬合側視画像に重ねて設けられている、左右それぞれにおける上顎の第二小臼歯舌側咬頭と下顎の第二小臼歯と第一大臼歯が互いに接触する部位とのずれ量(b1、b2)、および下顎の左右それぞれにおけるスピー彎曲の深さ(c1、c2)と、患者の下顎の成長に応じた移動量(d)と、補助線が重畳された上顎歯列画像の脇に入力ボックスが設けられている、顔面正中を基準とした上顎の左右の基準臼歯間の近遠心方向のずれ量(e)である。
【0030】
本実施形態においては、CO-CRのずれ量(a1、a2)の基準臼歯は、第一大臼歯を採用する。すなわち、ユーザは、中心咬合位(CO)と中心位(CR)で右側の第一大臼歯がどれだけずれているかのずれ量(a1)と、左側の第一大臼歯がどれだけずれているかのずれ量(a2)を、近心位をマイナスとして入力する。なお、本実施形態においては、取得部131がデータサーバ200から取得した観察値のうち、FH平面から左右第一大臼歯近心頬側咬頭と中切歯までの高さの距離、上下顎前歯部の正中のずれ量が参照値としてCT画像に重ねて表示されている。
【0031】
上顎の第二小臼歯舌側咬頭と下顎の第二小臼歯と第一大臼歯が互いに接触する部位とのずれ量(b1、b2)は、現実的にはこれらの歯を基準とすることが望ましいが、患者の状態等によっては、他の歯を基準としてもよい。その場合には、後に説明する計算式において、他の歯を基準とした場合との遠近心位の差分量を加味する。下顎の左右それぞれにおけるスピー彎曲の深さ(c1、c2)は、下顎の歯列を横から見たときの咬頭の包絡線が凹状の湾曲線となるその深さである。なお、本実施形態においては、取得部131がデータサーバ200から取得した観察値のうち、上下顎の左右それぞれの叢生量が参照値として、左右の咬合側視画像の間に表示されている。
【0032】
患者の下顎の成長に応じた移動量(d)は、患者が特に成長期の未成年である場合に考慮すべきものであり、歯科医師であるユーザは、患者の特性に応じて適切な値を入力する。具体的には、患者において下顎の下前方方向への成長が予想される場合には下顎の臼歯も前方方向へ移動するので、ユーザは下顎の第一大臼歯の移動量を予想して入力する。
【0033】
本実施形態においては、顔面正中を基準とした上顎の左右の基準臼歯間の近遠心方向のずれ量(e)の基準臼歯は、左右共に第一大臼歯を採用する。すなわち、ユーザは、左側の第一大臼歯を基準として、右側の第一大臼歯がどれだけずれているかのずれ量を、近心位をマイナスとして入力する。なお、本実施形態においては、入力ボックスの近傍にCT画像である上顎歯列画像を表示して補助線を重畳することにより、いずれのずれ量が入力対象であるかの理解を助けている。
【0034】
また、観察値領域530の下部には、取得部131がデータサーバ200から取得した観察値のうち、歯牙幅に関する観察値が参照値として表示されている。具体的には、上顎右側(UR)の歯列を構成する各歯の歯幅とその合計、上顎左側(UL)の歯列を構成する各歯の歯幅とその合計、下顎右側(DR)の歯列を構成する各歯の歯幅とその合計、下顎左側(DL)の歯列を構成する各歯の歯幅とその合計がそれぞれ表示されている。なお、本実施形態においては、いずれの数値もmm単位を用いるが、他の単位を選択できるように構成しても構わない。
【0035】
図5は、アプリウィンドウ500のうちの目標関連値領域540を示す図である。目標関連値領域540には、ユーザが治療方針を決定するにあたり目標関連値を試行錯誤的に入力し得る入力ボックスが表示されている。そのような入力ボックスの一部として、患者の左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯に対する目標移動量の入力を受け付ける入力ボックスが含まれている。現状のANB角から治療目標にする上顎前歯の位置算出する(後述する演算結果領域550の右上図において、Dr. Steiner(米国)のセファロ分析上で前歯の位置の治療目標を参照する。)。上顎前歯の目標値に現状の上顎前歯の位置に近づけるように前歯部の前後退量を確認し、小臼歯抜歯や非抜歯の決定、臼歯の遠近心移動の設定を行う。
【0036】
本実施形態においては、基準臼歯はそれぞれの第一大臼歯を採用する。すなわち、ユーザは、上顎の右側第一大臼歯、左側第一大臼歯、下顎の右側第一大臼歯、左側第一大臼歯のそれぞれに対して、自身の考えに応じて、例えばTAD(Temporary Anchorage Device)を用いて遠心移動させるならプラスの数値を、例えば抜歯により近心移動させるならマイナスの数値を想定移動量として入力する。ただし、上顎の右側第一大臼歯と左側第一大臼歯の想定移動量は通常は同一の値であるので、本実施形態においては、上顎臼歯移動量(f1)として一つの入力ボックスにまとめ、下顎についてはそれぞれ下顎右側臼歯移動量(f2)と下顎左側臼歯移動量(f3)のそれぞれの入力ボックスを設けている。
【0037】
また、本実施形態においては、上顎右側と左側、下顎右側と左側のそれぞれに対して、抜歯部位を指定できる入力ボックスを設けている。ユーザは、抜歯により叢生の改善や近心移動させたい場合には、観察値領域530に表示された歯牙幅に関する観察値を参照して、いずれの歯を抜歯するかの番号を対応する抜歯部位の入力ボックスに入力する。例えば図の例では、上顎右側第4歯と上顎左側第4歯が抜歯部位として入力されている。なお、本実施形態においては、ユーザが抜歯部位の入力ボックスに番号を入力すると、上顎臼歯移動量(f1)、下顎右側臼歯移動量(f2)、下顎左側臼歯移動量(f3)のそれぞれの入力ボックスの数値は、当該歯が抜かれた場合の移動量に更新される。
【0038】
図6は、アプリウィンドウ500のうちの演算結果領域550を示す図である。取得部131がデータサーバ200から観察値を取得し、受付部132がユーザから特定の観察値や目標関連値の入力を受け付けた後に演算ボタン521の押下が検知されたら、演算部133は演算処理を実行する。演算結果領域550には、主に、その演算結果が表示される。演算結果領域550は、演算処理の結果である、左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯間の矯正すべき差分量を表示する第1出力枠551と、左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯の予想移動量を表示する第2出力枠552を含む。また、演算結果領域550には、観察値としてのセファロ分析取得値と、演算処理の結果としての、目標移動量が達成された場合におけるそれら諸値の矯正予想値(ANBから算出した前歯の位置)も表示されている。
【0039】
本実施形態においては、矯正すべき差分量を計算する基準臼歯は、それぞれの第一大臼歯を採用する。すなわち、取得部131が取得した観察値と受付部132が受け付けた特定の観察値、さらには受付部132が受け付けた目標関連値に基づいて演算部133により演算された、上顎右側第一大臼歯と下顎右側第一大臼歯間の矯正すべき差分量(R差分量)と、上顎左側第一大臼歯と下顎左側第一大臼歯間の矯正すべき差分量(L差分量)が第1出力枠551に表示される。
【0040】
本実施形態においては、目標関連値である上顎臼歯移動量(f1)、下顎右側臼歯移動量(f2)、下顎左側臼歯移動量(f3)が未入力の状態、あるいは全て「0」が入力された状態で演算ボタン521が押されると、現在の患者の状態における左右それぞれの矯正すべき差分量が演算され、その結果が表示される。このとき、それぞれの入力ボックスの数値は、
(R差分量)=(b1)-|(c1)|/5+(a1)
(L差分量)=(b2)-|(c2)|/5+(a2)
として演算される。ここで、スピー彎曲の深さ(c1、c2)に1/5を乗じて遠心に移動するのは経験値に基づくものであり、この値は患者の歯の傾斜によって適宜修正するように構成してもよい。
【0041】
一方、目標関連値である上顎臼歯移動量(f1)、下顎右側臼歯移動量(f2)、下顎左側臼歯移動量(f3)が入力された状態で演算ボタン521が押されると、入力されたそれぞれの目標移動量が達成された場合における、残りの差分量が演算され、その結果が表示される。このとき、それぞれの入力ボックスの数値は、
(R差分量)=(b1)-|(c1)|/5+(a1)+(f1)-(f2)
(L差分量)=(b2)-|(c2)|/5+(a2)+(f1)-(f3)
として演算される。したがって、最初に現在の患者の状態における左右それぞれの矯正すべき差分量が演算されその結果が表示された後に、上顎臼歯移動量(f1)、下顎右側臼歯移動量(f2)、下顎左側臼歯移動量(f3)の少なくともいずれかに「0」以外の数値が入力されて演算ボタン521が押されると、演算部133による再演算が実行され、演算結果の表示は、入力された目標移動量が達成された場合における残りの差分量に更新される。
【0042】
なお、本実施形態においては、R差分量およびL差分量の結果に大きく寄与する数値に限って演算の基礎としているが、より厳密に演算する場合には、他の観察値や目標関連値を用いてもよい。また、そのような数値の採用に応じて計算式も適宜変更しても構わない。
【0043】
本実施形態においては、左右それぞれにおける上顎と下顎の予想移動量を計算する基準臼歯は、それぞれの第一大臼歯を採用する。すなわち、取得部131が取得した観察値と受付部132が受け付けた特定の観察値および目標関連値に基づいて演算部133により演算された、上顎右側第一大臼歯の予想移動量(UR移動量)、下顎右側第一大臼歯の予想移動量(DR移動量)、上顎左側第一大臼歯の予想移動量(UL移動量)および下顎左側第一大臼歯の予想移動量(DL移動量)のそれぞれが第2出力枠552に表示される。
【0044】
本実施形態においては、目標関連値である上顎臼歯移動量(f1)、下顎右側臼歯移動量(f2)、下顎左側臼歯移動量(f3)が入力されて演算ボタン521が押されると、それぞれの予想移動量が演算され、その結果が表示される。このとき、それぞれの入力ボックスの数値は、
(UR移動量)=(f1)
(UL移動量)=(f1)+(e)
(DR移動量)=(f2)+|(c1)|/5
(DL移動量)=(f3)+|(c2)|/5
として演算される。
【0045】
観察値としてのセファロ分析取得値は、上顎前歯の傾斜角、下顎前歯の傾斜角、上顎前歯と下顎前歯のなす角、上顎前歯の突出量、下顎前歯の突出量を示す。角度は度単位で表され、突出量はmm単位で表される。全てのデータを入力した後に治療予測値にも数値が入る。大きな値を示す場合、上顎臼歯の遠心移動や小臼歯抜歯を選択することで、口唇の突進を改善する。ここで、成長などの変化、CO-CRのずれがある場合はANB(上下顎の前後の評価)数値が変わる。その数値から上顎および下顎の前歯の目標値が産出され、その数位に近づけるように入力値を調整するとよい。また、目標値の評価に、鼻とオトガイを結んだE-Line(エステティックライン)より内側に設定することを加えてもよい。
【0046】
本実施形態においては、目標関連値である上顎臼歯移動量(f1)、下顎右側臼歯移動量(f2)、下顎左側臼歯移動量(f3)が入力されて演算ボタン521が押されると、これらの角度および突出量の矯正予想値も演算され、セファロ分析取得値の表示領域に隣接する領域に各矯正予想値(ANBから算出した前歯の位置)が表示される。なお、本実施形態においては、観察値と矯正予想値のそれぞれの表示領域を分けて表示するが、演算ボタン521が押され演算結果が得られた時点で観察値を矯正予想値へ更新する表示態様でも構わない。
【0047】
このように、観察値領域530、目標関連値領域540、演算結果領域550を同一画面に表示させれば、歯科医師であるユーザは、いずれの観察値に着目してどのような種類の目標値をどれくらいの範囲で定めればよいかを試行錯誤的に定めながら、矯正差分量や予想移動量の演算結果を繰り返し確認することができる。したがって、たとえ経験の浅い歯科医師であっても、矯正治療においてより適切な治療方針を立案することができる。
【0048】
次に、歯科矯正支援プログラムの指示に従って処理部130が実行する処理の処理手順について説明する。図7は、処理部130が実行する処理の処理手順を示すフロー図である。図示するフローは、ユーザに対象患者を指定された時点から開始する。
【0049】
取得部131は、ステップS101で、指定された対象患者に関する諸データをデータサーバ200から取得する。ここで取得される諸データは、対象患者の観察値を含む数値情報や、当該観察値に関連する画像データ等を含む。出力部134は、これらの観察値や画像データの画像をアプリウィンドウ500の表示態様に合わせて配列して表示モニタ110に表示させる。
【0050】
ステップS102へ進むと、受付部132は、ユーザにより入力された特定の観察値を受け付ける。さらにステップS103で、受付部132は、ユーザにより入力された目標関連値を受け付ける。ステップS102とステップS103は逆順でもよく、並列であっても構わない。
【0051】
演算ボタン521が押されるとステップS104へ進み、演算ボタン521は、矯正差分量、予想移動量等を演算する。出力部134は、ステップS105で、演算部133が演算した演算結果をアプリウィンドウ500の表示態様に合わせて配列して表示モニタ110に表示させる。
【0052】
処理部130は、ステップS106で、ユーザから保存ボタン520が押されたか否かを確認する。保存ボタン520が押されていたら保存指示がなされたと判断して、ステップS107へ進む。保存ボタン520が押されていなければステップS102へ戻り、再演算に係る処理を実行する。
【0053】
ステップS107へ進むと、処理部130は、演算結果を予め定められたフォーマットに従ってデータに纏め、対象患者の諸データの一つとしてデータサーバ200へ送信して保存させる。なお、ユーザは、過去に行った演算処理の結果を、データサーバ200から読み出して表示モニタ110に表示させることにより、確認することができる。処理部130は、保存処理が完了したら、一連の処理を終了させる。
【0054】
以上、本実施形態について説明したが、歯科医師であるユーザが、いずれの観察値に着目してどのような種類の目標値をどれくらいの範囲で定めればよいかを試行錯誤的に定めながら、矯正差分量や予想移動量の演算結果を繰り返し確認することができる実施態様であれば、上記の仕様に限らず様々な仕様を採用し得る。例えば、本実施形態においては、アプリウィンドウ500内に観察値領域530、目標関連値領域540、演算結果領域550を並べて配置したが、それぞれがポップアップウィンドウで表示される態様でも構わない。また、ユーザが観察値を確認する場合や目標関連値を定める場合に、自動的に他のアプリを立ち上げて、小ウィンドウで関連情報を確認できるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0055】
100…支援装置、110…表示モニタ、120…入力デバイス、130…処理部、131…取得部、132…受付部、133…演算部、134…出力部、140…記憶部、150…通信ユニット、200…データサーバ、300…データ取得デバイス、500…アプリウィンドウ、510…患者情報、521…演算ボタン、522…保存ボタン、530…観察値領域、540…目標関連値領域、550…演算結果領域、551…第1出力枠、552…第2出力枠
【要約】
【課題】多くの歯科医師が適切な矯正治療を行えるように、その治療方針の立案を支援する歯科矯正支援プログラム等を提供する。
【解決手段】歯科矯正支援プログラムは、少なくとも患者の、下顎の左右それぞれにおける中心咬合位と中心位の基準臼歯のずれ量、左右それぞれにおける上顎の第二小臼歯舌側咬頭と下顎の第二小臼歯と第一大臼歯が互いに接触する部位とのずれ量、および下顎の左右それぞれにおけるスピー彎曲の深さを含む観察値の入力を受け付ける観察値受付ステップと、観察値に基づいて左右それぞれにおける上顎と下顎の基準臼歯間の矯正すべき差分量を演算する演算ステップと、観察値および差分量を同一画面に出力する出力ステップとをコンピュータに実行させる。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7