(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240126BHJP
【FI】
H01G4/30 201G
H01G4/30 201F
H01G4/30 311E
H01G4/30 513
H01G4/30 516
H01G4/30 517
(21)【出願番号】P 2018075984
(22)【出願日】2018-04-11
【審査請求日】2021-01-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】松下 祐二
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】小池 秀介
【審判官】篠原 功一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-150256(JP,A)
【文献】特開2004-186222(JP,A)
【文献】特開2016-119446(JP,A)
【文献】特開2010-243000(JP,A)
【文献】特開2001-68372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部電極層とセラミックを主成分とする誘電体層とが交互に積層され、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成され、略直方体形状を有するセラミック本体と、前記対向する2端面から前記セラミック本体の少なくともいずれかの側面にかけて形成された1対の外部電極と、を備え、長さを0.25mm以上1.6mm以下とし、幅を0.125mm以上0.8mm以下とし、高さを0.125mm以上0.8mm以下とする積層セラミックコンデンサを用意する工程と、
前記積層セラミックコンデンサの体積をx(mm
3)とし、190℃から260℃まで加熱する場合の水素ガス、水蒸気および炭酸ガスの合計ガス発生量をy(分子数/10
15個)とした場合に、y≦1+1.48xを満たすまで、前記積層セラミックコンデンサに対して減圧加熱することを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記セラミックコンデンサを得る工程は、
セラミック誘電体層グリーンシートと、内部電極用導電ペーストと、を交互に積層し、積層された複数の内部電極用導電ペーストを交互に対向する2端面に露出させることによって、略直方体形状のセラミック積層体を形成する工程と、
前記2端面に外部電極用導電ペーストを配置する工程と、
前記外部電極用導電ペーストが配置された前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含むことを特徴とする請求項
1記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記外部電極用導電ペーストの焼成によって得られる下地層上にめっき層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項
2記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記積層セラミックコンデンサを得る工程は、
セラミック誘電体層グリーンシートと、内部電極用導電ペーストと、を交互に積層し、積層された複数の内部電極用導電ペーストを交互に対向する2端面に露出させることによって、略直方体形状のセラミック積層体を形成する工程と、
前記2端面に外部電極用導電ペーストを配置して焼き付ける工程と、を含むことを特徴とする請求項
1記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記外部電極用導電ペーストの焼き付けによって得られる下地層上にめっき層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項
4記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記減圧加熱の前に、雰囲気を空気、窒素、アルゴン又はヘリウムのいずれかで置換することを特徴とする請求項
1記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体層と内部電極層とが交互に積層され、積層された複数の内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成されたセラミック本体と、当該2端面に設けられた1対の外部電極とを備えた積層セラミックコンデンサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層セラミックコンデンサは、リフロー等によって実装される。この場合において、積層セラミックコンデンサから発生するガスによって、ハンダ爆ぜが生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ハンダ爆ぜを抑制することができる積層セラミックコンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法は、内部電極層とセラミックを主成分とする誘電体層とが交互に積層され、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成され、略直方体形状を有するセラミック本体と、前記対向する2端面から前記セラミック本体の少なくともいずれかの側面にかけて形成された1対の外部電極と、を備え、長さを0.25mm以上1.6mm以下とし、幅を0.125mm以上0.8mm以下とし、高さを0.125mm以上0.8mm以下とする積層セラミックコンデンサを用意する工程と、前記積層セラミックコンデンサの体積をx(mm3)とし、190℃から260℃まで加熱する場合の水素ガス、水蒸気および炭酸ガスの合計ガス発生量をy(分子数/1015個)とした場合に、y≦1+1.48xを満たすまで、前記積層セラミックコンデンサに対して減圧加熱することを特徴とする。
【0011】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記セラミックコンデンサを得る工程は、セラミック誘電体層グリーンシートと、内部電極用導電ペーストと、を交互に積層し、積層された複数の内部電極用導電ペーストを交互に対向する2端面に露出させることによって、略直方体形状のセラミック積層体を形成する工程と、前記2端面に外部電極用導電ペーストを配置する工程と、前記外部電極用導電ペーストが配置された前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記外部電極用導電ペーストの焼成によって得られる下地層上にめっき層を形成する工程を含んでいてもよい。
【0013】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記積層セラミックコンデンサを得る工程は、セラミック誘電体層グリーンシートと、内部電極用導電ペーストと、を交互に積層し、積層された複数の内部電極用導電ペーストを交互に対向する2端面に露出させることによって、略直方体形状のセラミック積層体を形成する工程と、前記2端面に外部電極用導電ペーストを配置して焼き付ける工程と、を含んでいてもよい。
【0014】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記外部電極用導電ペーストの焼き付けによって得られる下地層上にめっき層を形成する工程を含んでいてもよい。上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記減圧加熱の前に、雰囲気を空気、窒素、アルゴン又はヘリウムのいずれかで置換してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハンダ爆ぜを抑制することができる積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図2】外部電極の断面図であり、
図1のA-A線の部分断面図である。
【
図3】リフロー工程の標準条件について例示する図である。
【
図4】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図5】積層セラミックコンデンサを加熱した場合の温度と、ガス発生量との関係を例示する図である。
【
図6】積層セラミックコンデンサの他の製造方法のフローを例示する図である。
【
図7】体積と合計ガス発生量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0018】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有するセラミック本体10と、セラミック本体10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、セラミック本体10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、セラミック本体10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0019】
セラミック本体10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、導体層として機能する内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、セラミック本体10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層構造において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0020】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.6mm、幅0.8mm、高さ0.8mmであり、または長さ2.0mm、幅1.25mm、高さ1.25mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。なお、以下において、積層セラミックコンデンサ100の体積とは、これらの規格サイズの基準となる寸法を用いて算出してある。公差寸法については考慮しないこととする。
【0021】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。誘電体層11は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO3(チタン酸バリウム)、CaZrO3(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO3(チタン酸カルシウム)、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)、ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。
【0022】
図2は、外部電極20bの断面図であり、
図1のA-A線の部分断面図である。なお、
図2では断面を表すハッチを省略している。
図2で例示するように、外部電極20bは、下地層21上に、Cuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24が形成された構造を有する。下地層21、Cuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24は、セラミック本体10の両端面から4つの側面に延在している。なお、
図2では、外部電極20bについて例示しているが、外部電極20aも同様の構造を有する。
【0023】
下地層21は、Ni、Cuなどの金属または合金を主成分とし、下地層21の緻密化のためのガラス成分を含んでいてもよく、下地層21の焼結性を制御するための共材を含んでいてもよい。ガラス成分は、Ba,Sr,Ca,Zn(亜鉛),Al(アルミニウム),Si(ケイ素),B(ホウ素)等の酸化物である。共材は、セラミック成分であり、例えば、誘電体層11が主成分とするセラミック成分である。
【0024】
積層セラミックコンデンサ100は、リフローによって実装される。リフロー工程において、積層セラミックコンデンサ100から染み出した水分や、Ni等の結晶水などがガスとして発生し、溶融したハンダに接触し、ハンダ爆ぜが生じるおそれがある。このことは、積層セラミックコンデンサ100から発生するガス量が十分に少なければ、ハンダ爆ぜを抑制できることを意味する。そこで、本実施形態においては、積層セラミックコンデンサ100の加熱時における発生ガス量に着目する。
【0025】
まず、積層セラミックコンデンサ100から発生するガスは、主として水素(H2)ガス、水蒸気(H2O)、および炭酸ガス(CO、CO2)である。いずれのガスによってもハンダ爆ぜが生じるおそれがあるため、これらの水素ガス、水蒸気および炭酸ガスの合計ガス発生量に着目する。
【0026】
図3は、リフロー工程の標準条件について例示する図である。
図3で例示するように、リフロー工程は、積層セラミックコンデンサ100が190℃程度まで加熱される予熱工程と、190℃を超えて加熱され260℃程度のピーク温度まで加熱されるハンダ付け工程とを含む。ハンダ付け工程の後は、徐冷される。予熱工程において、積層セラミックコンデンサ100から水蒸気などのガス成分が発生する。例えば、積層セラミックコンデンサ100の吸着している水分などがガス成分として発生する。しかしながら、予熱工程では、積層セラミックコンデンサ100の内部において、水分などが残存することがある。この残存する水分などは、予熱工程ではガス成分として発生せず、ハンダ付け工程でさらに高温まで加熱されないと積層セラミックコンデンサ100に残存する傾向にある。ハンダ爆ぜを生じるガス成分は、ハンダ付け工程で発生するガス成分である。したがって、ハンダ付け工程で発生するガス成分量が少ないことが求められる。そこで、本実施形態においては、190℃から260℃まで加熱した場合に発生するガス量が閾値を超えないようにする。
【0027】
積層セラミックコンデンサ100のサイズが大きければ、ハンダ量も多くなるため、発生ガスの絶対量が多くてもハンダに対する影響が比較的小さくなる。一方、積層セラミックコンデンサ100のサイズが小さければ、ハンダ量も少なくなるため、発生ガスの絶対量が少なくてもハンダに対する影響が比較的大きくなる。そこで、本実施形態においては、積層セラミックコンデンサ100の体積も閾値に反映させる。本発明者が鋭意研究を行った結果、190℃から260℃まで加熱した場合にy≦1+1.48xとなるようにする。なお、「y」は合計ガス発生量(分子数/1015個)であり、「x」は積層セラミックコンデンサ100の体積(mm3)である。このように合計ガス発生量yを規定することで、発生ガス量が十分に抑制されるため、ハンダ爆ぜを抑制することができる。
【0028】
なお、水分はめっき層に多く残存する傾向にあるため、本実施形態は、めっき層が備わる積層セラミックコンデンサに対して、特に高い効果を発揮することができる。また、Niめっき層に結晶水が残存することがあるため、本実施形態は、Niめっき層が備わる積層セラミックコンデンサに対して、特に高い効果を発揮することができる。なお、水素ガスは、Niめっき層、Ni下地層、Ni内部電極などに多く残存する傾向にあると推測される。したがって、本実施形態は、Niめっき層、Ni下地層、Ni内部電極が備わる積層セラミックコンデンサに対して特に高い効果を発揮することができる。炭酸ガスは、下地層となる外部電極用導電ペーストや、誘電体層となるスラリーに含まれるバインダに由来すると考えられるため、下地層、誘電体層などに多く残存する傾向にあると推測される。したがって、本実施形態は、バインダを含む導電ペーストやスラリーを用いて焼成する場合に特に高い効果を発揮することができる。
【0029】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図4は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0030】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、チタン酸バリウムは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11を構成するセラミックの合成方法としては、従来から種々の方法が知られており、例えば固相合成法、ゾル-ゲル合成法、水熱合成法等が知られている。
【0031】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg(マグネシウム),Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni,Li(リチウム),B,Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0032】
例えば、セラミック粉末に添加化合物を含む化合物を混合して820~1150℃で仮焼を行う。続いて、得られたセラミック粉末を添加化合物とともに湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック粉末を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック粉末について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0033】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、例えば厚み1.0μm以下のグリーンシートを成型する。または、薄いグリーンシートを複数枚積層することで、所望の厚みのグリーンシートを成型することもできる。
【0034】
次に、グリーンシートの表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極層パターンを配置することで、パターン形成シートとする。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50nm以下のBaTiO3を均一に分散させてもよい。
【0035】
その後、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、所定層数(例えば100~500層)だけ積層する。積層した誘電体グリーンシートの上下に、カバー層13を形成するためのカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法にカットする。
【0036】
(塗布工程)
得られたセラミック積層体をN2雰囲気中で脱バインダした後に、セラミック積層体の両端面から各側面にかけて、下地層21の主成分金属を含む金属フィラー、共材、バインダ、溶剤などを含む外部電極用導電ペーストを塗布し、乾燥させる。
【0037】
(焼成工程)
このようにして得られた成型体を、250~500℃のN2雰囲気中で脱バインダ処理した後に、酸素分圧10-10~10-12atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成することで、各化合物が焼結して粒成長する。
【0038】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0039】
(めっき処理工程)
次に、焼結体の2端面に形成された下地層21上に、めっき処理により、Cuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24を形成する。それにより、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0040】
(減圧乾燥工程)
めっき処理工程後において、減圧乾燥を行うことで、積層セラミックコンデンサ100からガス成分を発生させる。例えば、ガス発生量が少ない場合には、減圧乾燥のみ、もしくは乾燥空気やN
2(窒素)、Ar(アルゴン)などで雰囲気を置換した後に減圧してもよい。なお、表1で示すように、He(ヘリウム)は、空気、N
2およびArよりも熱伝導率が5倍以上高くなっている。したがって、ガス発生量が多い場合には、雰囲気をヘリウムで置換した後に減圧することが好ましい。
【表1】
【0041】
次に、積層セラミックコンデンサ100を加熱する。ここで、積層セラミックコンデンサ100を加熱した場合の温度と、ガス発生量との関係について説明する。
図5は、積層セラミックコンデンサ100を加熱した場合の温度と、ガス発生量との関係を例示する図である。
図5で例示するように、100℃程度までに、ガス発生量に1つめのピークが生じる。このピークは、主として、積層セラミックコンデンサ100に吸着しているガス成分を表しているものと考えられる。したがって、100℃程度までの加熱では、積層セラミックコンデンサ100の内部に残存するガス成分を除去できないおそれがある。そこで、120℃以上に加熱する。
図5で例示するように、200℃程度までに、ガス発生量に2つめのピークが生じる。このピークは、主として、積層セラミックコンデンサ100の内部に残存しているガス成分を表しているものと考えられる。したがって、200℃程度まで加熱することが好ましい。しかしながら、Snの融点が232℃であるため、230℃を上回るまで加熱すると、Snめっきの溶融や変質が発生するおそれがある。そこで、本実施形態では、減圧乾燥工程において、積層セラミックコンデンサ100を120℃以上230℃以下に加熱する。ただし、15分未満の時間では積層セラミックコンデンサ100の内部のガスを十分に除去できないおそれがある。そこで、15分以上、120℃以上230℃以下の温度に保持する。
【0042】
減圧乾燥工程では、四重極型質量分析計により、発生したガスをモニタリングし、合計ガス発生量yが、1+1.48x以下となることを確認する。なお、加熱発生ガス分析(TDS、Py-GC/MS、TPD等)により、ガスの種類、発生する温度などを事前に確認しておくことができる。確認されたガス発生挙動をもとに、乾燥温度と、終了基準となる単位時間あたりのガス発生量とを、乾燥条件に設定する。
【0043】
(包装工程)
その後、積層セラミックコンデンサ100に対してテーピング包装を行う。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100が製造される。
【0044】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法によれば、190℃から260℃まで加熱した場合にy≦1+1.48xとなるように、減圧乾燥工程が行われる。このように合計ガス発生量yを規定することで、発生ガス量が少なくなり、ハンダ爆ぜを抑制することができる。
【0045】
なお、水分はめっき層に多く残存する傾向にあるため、本実施形態は、めっき層が備わる積層セラミックコンデンサに対して、特に高い効果を発揮することができる。また、Niめっき層に結晶水が残存することがあるため、本実施形態は、Niめっき層が備わる積層セラミックコンデンサに対して、特に高い効果を発揮することができる。なお、水素ガスは、Niめっき層、Ni下地層、Ni内部電極などに多く残存する傾向にあると推測される。したがって、本実施形態は、Niめっき層、Ni下地層、Ni内部電極が備わる積層セラミックコンデンサに対して特に高い効果を発揮することができる。炭酸ガスは、下地層となる外部電極用導電ペーストや、誘電体層となるスラリーに含まれるバインダに由来すると考えられるため、下地層、誘電体層などに多く残存する傾向にあると推測される。したがって、本実施形態は、バインダを含む導電ペーストやスラリーを用いて焼成する場合に特に高い効果を発揮することができる。
【0046】
図6は、積層セラミックコンデンサ100の他の製造方法のフローを例示する図である。
図6の製造方法が
図4の製造方法と異なる点は、塗布工程を行わず、再酸化処理工程後に焼付工程を行った後に、めっき処理工程を行う点である。以下、焼付工程について説明する。
【0047】
(焼付工程)
再酸化処理工程後のセラミック本体10の両端面に、下地層21の主成分金属を含む金属フィラー、ガラス成分、バインダ、溶剤などを含む外部電極用導電ペーストを塗布し、乾燥させる。その後、外部電極用導電ペーストを焼き付ける。それにより、下地層21が形成される。この手法の金属フィラーには、Cu等が好適である。なお、焼き付けは、700℃~900℃で約3分~30分、特に760℃~840℃で5分~15分行うことが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0049】
(実施例1~4)
チタン酸バリウム粉末に必要な添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダおよび溶剤を加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシートを作製した。有機バインダとしてポリビニルブチラール(PVB)等を用い、溶剤としてエタノール、トルエン等を加えた。その他、可塑剤などを加えた。次に、内部電極層12の主成分金属(Ni)の粉末と、共材(チタン酸バリウム)と、バインダ(エチルセルロース)と、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる内部電極用導電ペーストを作製した。
【0050】
誘電体シートに内部電極用導電ペーストをスクリーン印刷し、パターン形成シートを作製した。基材を剥離した状態でパターン形成シートを重ねていき、その上下に、上記誘電体材料を含むカバーシートをそれぞれ積層した。その後、熱圧着によりセラミック積層体を得て、所定の形状に切断した。
【0051】
得られたセラミック積層体を250℃~500℃のN2雰囲気中で脱バインダした後に、セラミック積層体の両端面から各側面にかけて、Niを主成分とする金属フィラー、共材、バインダ、溶剤などを含む外部電極用導電ペーストを塗布し、乾燥させた。その後、外部電極用導電ペーストが塗布された成型体を、酸素分圧10-10~10-12atmの還元性雰囲気中において1100℃~1300℃で焼成して焼結体を得た。その後、外部電極用導電ペーストの焼成によって形成された下地層上に、めっき処理により、Cuめっき層、Niめっき層およびSnめっき層を形成した。それにより、積層セラミックコンデンサのサンプルを作製した。
【0052】
その後、雰囲気を乾燥空気で置換した後に減圧し、190℃まで加熱し、20分以上保持した。それにより、サンプルからガスを発生させた。
【0053】
実施例1のサンプルのサイズは、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであった。実施例2のサンプルのサイズは、長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであった。実施例3のサンプルのサイズは、長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであった。実施例4のサンプルのサイズは、長さ1.6mm、幅0.8mm、高さ0.8mmであった。
【0054】
(比較例1~4)
チタン酸バリウム粉末に必要な添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダおよび溶剤を加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシートを作製した。有機バインダとしてポリビニルブチラール(PVB)等を用い、溶剤としてエタノール、トルエン等を加えた。その他、可塑剤などを加えた。次に、内部電極層12の主成分金属(Ni)の粉末と、共材(チタン酸バリウム)と、バインダ(エチルセルロース)と、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる内部電極用導電ペーストを作製した。
【0055】
誘電体シートに内部電極用導電ペーストをスクリーン印刷し、パターン形成シートを作製した。基材を剥離した状態でパターン形成シートを重ねていき、その上下に、上記誘電体材料を含むカバーシートをそれぞれ積層した。その後、熱圧着によりセラミック積層体を得て、所定の形状に切断した。
【0056】
得られたセラミック積層体を、酸素分圧10-10~10-12atmの還元性雰囲気中において1100℃~1300℃で焼成して焼結体を得た。その後、得られた焼結体の内部電極層パターンが露出する2端面に、Cuを主成分とする金属フィラー、バインダ、溶剤などを含む外部電極用導電ペーストを塗布する。なお、外部電極用導電ペーストには、下地層のセラミック積層体への密着性を得るために、ガラスを形成する焼結助剤を分散させておいてもよい。次に、窒素雰囲気中で、上記焼結体を得るための焼成温度よりも低い温度(例えば、800℃~900℃程度の温度)で焼成し、下地層を焼き付ける。外部電極用導電ペーストの焼成によって形成された下地層上に、めっき処理により、Niめっき層およびSnめっき層を形成した。それにより、積層セラミックコンデンサのサンプルを作製した。
【0057】
比較例1のサンプルのサイズは、長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであった。比較例2のサンプルのサイズは、長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであった。比較例3のサンプルのサイズは、長さ1.6mm、幅0.8mm、高さ0.8mmであった。比較例4のサンプルのサイズは、長さ2.0mm、幅1.25mm、高さ0.6mmであった。
【0058】
(分析)
実施例1~4および比較例1~4の各サンプルについて、加熱を行い、190℃から260℃までの範囲で発生した水素ガス、水蒸気および炭酸ガスの合計ガス発生量を測定した。表2に結果を示す。また、サンプルの体積と、合計ガス発生量との関係を
図7に示す。表2および
図7に示すように、実施例1~4では、190℃から260℃まで加熱した場合にy≦1+1.48xの関係を満たした。これは、実施例1~4の各サンプルに対して、減圧加熱を行ったからであると考えられる。これに対して、比較例1~4では、190℃から260℃まで加熱した場合にy>1+1.48xとなった。これは、比較例1~4の各サンプルに対して、減圧加熱を行わなかったからであると考えられる。
【表2】
【0059】
次に、実施例1~4および比較例1~4の他のサンプルについて、リフローにより基板に実装した場合のハンダ爆ぜについて調べた。表3に結果を示す。表3に示すように、比較例1~4ではハンダ爆ぜが生じた。これは、比較例1~4ではy>1+1.48xとなったためにリフロー時の発生ガス量が多かったからであると考えられる。これに対して、実施例1~4ではハンダ爆ぜが生じなかった。これは、実施例1~4ではy≦1+1.48xとなったためにリフロー時の発生ガス量が抑制されたからであると考えられる。
【表3】
【0060】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 セラミック本体
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
20a,20b 外部電極
21 下地層
22 Cuめっき層
23 Niめっき層
24 Snめっき層
100 積層セラミックコンデンサ