(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】センサモジュール
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20240126BHJP
【FI】
G01B7/16 R
(21)【出願番号】P 2019181206
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 聡
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-067764(JP,A)
【文献】特開昭56-092403(JP,A)
【文献】特開2006-032590(JP,A)
【文献】特開2019-128183(JP,A)
【文献】特開2018-138890(JP,A)
【文献】実開平07-020721(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する樹脂製の基材と、
前記基材の一方の面に形成された抵抗体と、
前記抵抗体を被覆する絶縁樹脂層と、
前記抵抗体と電気的に接続され、前記絶縁樹脂層から露出する端子部と、を有し、
前記絶縁樹脂層が熱可塑性ポリイミド層であるひずみゲージ
と、
一方の面に電極が形成されたフレキシブルプリント基板と、
起歪体と、を有し、
前記端子部は、導電性接着層により前記電極と電気的に接続され、
前記フレキシブルプリント基板の他方の面側の前記電極と平面視で重なる領域が、前記起歪体に貼り付けられているセンサモジュール。
【請求項2】
前記絶縁樹脂層は、前記起歪体に融着されている請求項1に記載のセンサモジュール。
【請求項3】
前記絶縁樹脂層は、前記フレキシブルプリント基板の一方の面の前記電極が形成されていない領域に融着されている請求項1に記載のセンサモジュール。
【請求項4】
前記導電性接着層が異方性導電フィルムである請求項
1乃至
3の何れか一項に記載のセンサモジュール。
【請求項5】
前記絶縁樹脂層の厚さが5μm以上7μm以下である請求項1
乃至4の何れか一項に記載のセンサモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に貼り付けて、測定対象物のひずみを検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、ひずみを検出する抵抗体を備えており、抵抗体の材料としては、例えば、Cr(クロム)やNi(ニッケル)を含む材料が用いられている。又、抵抗体は、例えば、基材上に形成され、保護フィルムとなる絶縁樹脂層により被覆されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のひずみゲージでは、保護フィルムとなる絶縁樹脂層側を起歪体や基板等の取付け対象物に取付ける際の作業効率が悪いという問題があった。つまり、取付け対象物に接着剤を塗布する工程や、接着対象物から余分な接着剤を除去する工程等が必要となるため、作業効率が悪かった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、絶縁樹脂層側を起歪体や基板等の取付け対象物に取付ける際の作業効率を向上可能なひずみゲージを有するセンサモジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本センサモジュールは、可撓性を有する樹脂製の基材と、前記基材の一方の面に形成された抵抗体と、前記抵抗体を被覆する絶縁樹脂層と、前記抵抗体と電気的に接続され、前記絶縁樹脂層から露出する端子部と、を有し、前記絶縁樹脂層が熱可塑性ポリイミド層であるひずみゲージと、一方の面に電極が形成されたフレキシブルプリント基板と、起歪体と、を有し、前記端子部は、導電性接着層により前記電極と電気的に接続され、前記フレキシブルプリント基板の他方の面側の前記電極と平面視で重なる領域が、前記起歪体に貼り付けられている。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、絶縁樹脂層側を起歪体や基板等の取付け対象物に取付ける際の作業効率を向上可能なひずみゲージを有するセンサモジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
【
図3】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
【
図4】第2実施形態に係るセンサモジュールを例示する断面図である。
【
図5】ひずみゲージを起歪体に融着する具体的な手順の一例を示す図である。
【
図6】第3実施形態に係るセンサモジュールを例示する断面図である。
【
図7】第4実施形態に係るセンサモジュールを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図1のA-A線に沿う断面を示している。
図1及び
図2を参照すると、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、端子部41と、絶縁樹脂層60とを有している。
【0011】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体30が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の抵抗体30が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体30が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。又、平面視とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0012】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材10の厚さが5μm~200μmであると、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0013】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0014】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0015】
抵抗体30は、基材10上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、
図1では、便宜上、抵抗体30を梨地模様で示している。
【0016】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0017】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0018】
抵抗体30の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上であると、抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましい。又、抵抗体30の厚さが1μm以下であると、抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材10からの反りを低減できる点で更に好ましい。
【0019】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上できる。又、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50質量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0020】
端子部41は、抵抗体30の両端部から延在しており、平面視において、抵抗体30よりも拡幅して略矩形状に形成されている。端子部41は、ひずみにより生じる抵抗体30の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。抵抗体30は、例えば、端子部41の一方からジグザグに折り返しながら延在して他方の端子部41に接続されている。端子部41の上面を、端子部41よりもはんだ付け性が良好な金属で被覆してもよい。なお、抵抗体30と端子部41とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成できる。
【0021】
抵抗体30を被覆し端子部41を露出するように基材10の上面10aに絶縁樹脂層60(絶縁樹脂層)が設けられている。絶縁樹脂層60は、ひずみゲージ1を起歪体に貼り付ける際の融着層として機能する。又、絶縁樹脂層60を設けることで、抵抗体30に機械的な損傷等が生じることを防止できる。又、絶縁樹脂層60を設けることで、抵抗体30を湿気等から保護できる。なお、絶縁樹脂層60は、端子部41を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0022】
絶縁樹脂層60は、熱可塑性ポリイミド層である。絶縁樹脂層60の厚さt(抵抗体30上に積層されている部分の厚さ)は、5μm以上7μm以下であることが好ましい。理由は、次の通りである。
【0023】
熱可塑性ポリイミド層は、製造上の制約により厚く形成することが困難であるため、熱可塑性ポリイミド層の厚さは10μm未満であることが好ましい。又、ひずみゲージ1を起歪体に貼り付けたときに、抵抗体30と起歪体との間の距離(すなわち、熱可塑性ポリイミド層の厚さ)が検出感度に影響するため、熱可塑性ポリイミド層の厚さは薄い方が好ましい。発明者らの検討によれば、熱可塑性ポリイミド層の厚さが7μm以下であれば、起歪体表面からの歪の伝達性が良好となり、十分に高感度なひずみ検出が可能となる。よって、熱可塑性ポリイミド層の厚さが7μm以下であれば、製造上の制約も満足でき、かつ十分に高感度となる。
【0024】
熱可塑性ポリイミド層は、起歪体が導電体である場合は、起歪体と抵抗体30との絶縁層も兼ねる。熱可塑性ポリイミド層の厚さが5μm以上であれば十分な絶縁性が得られるが、5μmよりも薄くなるとピンホールの発生等により絶縁性が低下する。又、熱可塑性ポリイミド層の厚さが5μm以上であれば十分な接着強度が得られる。
【0025】
このように、熱可塑性ポリイミド層である絶縁樹脂層60の厚さtは5μm以上7μm以下とすることが好ましく、この範囲内であれば、十分に高感度なひずみ検出が可能であり、かつ製造上の要求も満足し、かつ十分な絶縁性及び接着強度が得られる。
【0026】
熱可塑性ポリイミド層は、熱可塑性ポリイミドの他に、熱可塑性ポリイミド以外の樹脂及び/又はフィラーを含有してよい。熱可塑性ポリイミドは高価であるため、熱可塑性ポリイミド層が低コストの樹脂及び/又はフィラーを含有することで、ひずみゲージ1の原料費を低減できる。
【0027】
熱可塑性ポリイミド層に含有される熱可塑性ポリイミド以外の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、オキセタン樹脂等が挙げられる。又、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)等のエンジニアリングプラスチックを用いてもよい。
【0028】
エポキシ樹脂を含有する熱可塑性ポリイミド層は、ポリアミド酸とエポキシ樹脂を混合して加熱することにより得ることができる。このようにして得られたエポキシ樹脂を含有する熱可塑性ポリイミド層は、エポキシ樹脂を含有しない熱可塑性ポリイミド層と比べて接着強度が高いという利点がある。
【0029】
フィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化ホウ素、酸化ケイ素等の無機微粒子が挙げられる。熱可塑性ポリイミド層に無機微粒子を適当な比率で含有させることにより、絶縁樹脂層60の線膨張係数を調整できる。
【0030】
絶縁樹脂層60には残留応力が発生する場合があるため、絶縁樹脂層60の線膨張係数をひずみゲージ1を貼り付ける起歪体の線膨張係数に近い値として、残留応力を抑制することが好ましい。よって、無機微粒子を含有する熱可塑性ポリイミド層は、無機微粒子の配合量により線膨張係数を調整できるため、絶縁樹脂層60の材料として好適である。
【0031】
ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の上面10aに
図1に示す平面形状の抵抗体30及び端子部41を形成する。抵抗体30及び端子部41の材料や厚さは、前述の通りである。抵抗体30と端子部41とは、同一材料により一体に形成できる。
【0032】
抵抗体30及び端子部41は、例えば、抵抗体30及び端子部41を形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィによってパターニングすることで形成できる。抵抗体30及び端子部41は、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0033】
ゲージ特性を安定化する観点から、抵抗体30及び端子部41を成膜する前に、下地層として、基材10の上面10aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により膜厚が1nm~100nm程度の機能層を真空成膜することが好ましい。なお、機能層は、機能層の上面全体に抵抗体30及び端子部41を形成後、フォトリソグラフィによって抵抗体30及び端子部41と共に
図1に示す平面形状にパターニングされる。
【0034】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である抵抗体30の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素や水分による抵抗体30の酸化を防止する機能や、基材10と抵抗体30との密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0035】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に抵抗体30がCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が抵抗体30の酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0036】
機能層の材料は、少なくとも上層である抵抗体30の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0037】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。又、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si3N4、TiO2、Ta2O5、SiO2等が挙げられる。
【0038】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0039】
但し、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0040】
機能層の材料と抵抗体30及び端子部41の材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、抵抗体30及び端子部41としてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0041】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、抵抗体30及び端子部41を成膜できる。或いは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、抵抗体30及び端子部41を成膜してもよい。
【0042】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。又、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0043】
なお、抵抗体30がCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、抵抗体30の結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による抵抗体30の酸化を防止する機能、及び基材10と抵抗体30との密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0044】
このように、抵抗体30の下層に機能層を設けることにより、抵抗体30の結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる抵抗体30を作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上できる。又、機能層を構成する材料が抵抗体30に拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上できる。
【0045】
抵抗体30及び端子部41を形成後、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し端子部41を露出する絶縁樹脂層60を設けることで、ひずみゲージ1が完成する。
【0046】
絶縁樹脂層60は、例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し端子部41を露出するように熱可塑性ポリイミドワニスを塗布し、焼成することで、基材10上に形成できる。なお、熱可塑性ポリイミドワニスは、熱可塑性ポリイミド以外の樹脂及び/又はフィラーを含有してよい。又、熱可塑性ポリイミドワニスに代えて、熱可塑性ポリアミド酸ワニスを用いてもよい。
【0047】
なお、抵抗体30及び端子部41の下地層として基材10の上面10aに機能層を設けた場合には、ひずみゲージ1は
図3に示す断面形状となる。符号20で示す層が機能層である。機能層20を設けた場合のひずみゲージ1の平面形状は、
図1と同様である。
【0048】
このように、ひずみゲージ1では、絶縁樹脂層60が熱可塑性ポリイミド層である。そのため、絶縁樹脂層60側を起歪体や基板等の取付け対象物に取付ける際の作業効率を向上可能である。
【0049】
すなわち、ひずみゲージ1の絶縁樹脂層60側を起歪体や基板等の取付け対象物に取付ける場合には、絶縁樹脂層60を取付け対象物に接触させて加熱及び加圧を同時に行い、次いで冷却するだけでよい。これにより、ひずみゲージ1を取付け対象物に高い接着強度で固定できる。
【0050】
したがって、ひずみゲージや取付け対象物に接着剤を塗布する工程や、ひずみゲージと取付け対象物との接触面から余分な接着剤を除去する工程等が不要となる。そのため、ひずみゲージ1と取付け対象物との接着に熱硬化性の接着剤を用いる従来の工程に比べて、取付け対象物への取付けを短時間で効率よく行うことができる。
【0051】
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、ひずみゲージを起歪体に貼り付けたセンサモジュールの例を示す。つまり、第1実施形態に係るひずみゲージの取付け対象物が起歪体である場合の例である。なお、第2実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0052】
図4は、第2実施形態に係るセンサモジュールを例示する断面図である。
図4を参照すると、センサモジュール3は、ひずみゲージ1と、起歪体110とを有している。起歪体110の上面110aには、接着剤等によりフレキシブルプリント基板120が貼り付けられており、フレキシブルプリント基板120上には電極130が形成されている。
【0053】
センサモジュール3において、ひずみゲージ1は、基材10を起歪体110とは反対側に向けて、起歪体110の上面110aと固定されている。より具体的には、ひずみゲージ1の絶縁樹脂層60は、起歪体110の上面110aに融着されている。
【0054】
起歪体110は、例えば、Fe、SUS(ステンレス鋼)、Al等の金属やPEEK等の樹脂から形成され、印加される力に応じて変形し、生じたひずみをひずみゲージ1に伝達する物体である。ひずみゲージ1は、起歪体110に生じるひずみを抵抗体30の抵抗値変化として検出できる。
【0055】
起歪体110は、例えば板状部材であるが、これには限られず、ロバーバル形、リング形等の様々な形状としてよい。又、起歪体110に取付けられるひずみゲージ1の数は1つには限られず任意としてよい。
【0056】
ひずみゲージ1の端子部41は、導電性接着層200により、フレキシブルプリント基板120上の電極130と電気的に接続されている。導電性接着層200は、例えば、異方性導電フィルム(Anisotropic Conductive Film、ACF)である。導電性接着層200として異方性導電フィルムを用いることで、端子部41と電極130とを容易に接続できるため、はんだ等で接続する場合と比べて作業効率を大幅に向上できる。
【0057】
センサモジュール3を製造するには、まず、
図4に示した位置となるように、起歪体110の上面110aに、ひずみゲージ1を配置する。そして、
図4に示す状態で加熱及び加圧を行い、ひずみゲージ1を絶縁樹脂層60により起歪体110の上面110aに融着する。又、端子部41と電極130とを導電性接着層200により接合する。
【0058】
図5(a)~
図5(d)は、ひずみゲージを起歪体に融着する具体的な手順の一例を示す図である。
【0059】
まず、
図5(a)に示すように、コンベア500上に載置された起歪体110に治具520によって保持されたひずみゲージ1を近接させる。なお、起歪体110の電極130上には、予め導電性接着層200となる異方性導電フィルムを配置しておく。
【0060】
次に、
図5(b)に示すように、ひずみゲージ1の絶縁樹脂層60を起歪体110の上面110aに接触させると共に、ひずみゲージ1の端子部41を起歪体110の電極130上に配置された異方性導電フィルムに接触させる。
【0061】
次に、
図5(c)に示すように、コンベア500の下方に配置された瞬間加熱ヒータ540によって、起歪体110の一部分、すなわち、ひずみゲージ1の絶縁樹脂層60が接触する部分及び異方性導電フィルムが配置された部分を局所的に加熱する。同時に、治具520を更に下方に押し付けることで、ひずみゲージ1を起歪体110に押圧し、ひずみゲージ1の絶縁樹脂層60と起歪体110の上面110aとを圧着すると共に、端子部41と電極130とを異方性導電フィルムを介して圧着する。これにより絶縁樹脂層60を形成する熱可塑性ポリイミドが溶融する。又、異方性導電フィルムが硬化する。
【0062】
加熱温度は、一例として220℃~260℃程度、加圧力は一例として1N/m2~2N/m2程度、加熱及び加圧を行う時間は、一例として5秒~20秒程度とすることができる。
【0063】
次に、冷却を行う。具体的には、
図5(d)に示すように、治具520によるひずみゲージ1の保持を解除し、ひずみゲージ1と起歪体110とを空冷する。これにより、絶縁樹脂層60を形成する熱可塑性ポリイミドが凝固し、ひずみゲージ1が起歪体110に高い接着強度で融着される。
【0064】
以上により、
図4に示すセンサモジュール3が完成する。なお、絶縁樹脂層60の加熱及び加圧と、異方性導電フィルムの加熱及び加圧とを独立に行ってもよい。この場合、加熱温度や加圧時間を独立に設定できる。
【0065】
このように、センサモジュール3は、ひずみゲージ1の絶縁樹脂層60側を起歪体110に取付けた構造である。ひずみゲージ1では、絶縁樹脂層60が熱可塑性ポリイミド層であるため、第1実施形態で説明したように、絶縁樹脂層60側を起歪体110に取付ける際の作業効率を向上可能である。
【0066】
又、
図5を参照して説明したひずみゲージ1の起歪体110への取付け方法は、ひずみゲージ1の絶縁樹脂層60と起歪体110との接触面の近傍のみを局所的に加熱し、ひずみゲージ1の起歪体110への融着を行っている。したがって、本実施形態の取付け方法によれば、治具によって固定されたひずみゲージと起歪体とを炉内に配置し、ひずみゲージ、起歪体、治具の全体を150度以上で1時間以上加熱する従来の工程に比べて、加熱に要するエネルギー量を大きく低減できる。
【0067】
ひずみゲージ1が備える絶縁樹脂層60は短時間の加熱及び加圧で起歪体110に融着できるため、ひずみゲージ1を起歪体110に取付ける取付け工程を、治具520と瞬間加熱ヒータ540とを用いた一個流し工程として実現できる。このような一個流しの取付け工程は、1時間以上の加熱工程を含むバッチ処理工程として行われる従来法の加熱・加圧工程に比べて大幅に簡略化されている。
【0068】
なお、従来法の加熱・加圧工程は、ひずみゲージと起歪体とを治具で一体に保持して加圧し、一体に保持されたひずみゲージと起歪体とを炉内で加熱し、加熱後にひずみゲージ及び起歪体を炉から取り出して治具を取り外す工程を含む。
【0069】
又、ひずみゲージ1の端子部41とフレキシブルプリント基板120の電極130との電気的接続に異方性導電フィルムを用いることで、端子部41と電極130とを容易に接続できるため、はんだ等で接続する場合と比べて作業効率を大幅に向上できる。
【0070】
〈第3実施形態〉
第3実施形態では、フレキシブルプリント基板を備えたひずみゲージの例を示す。つまり、第1実施形態に係るひずみゲージの取付け対象物がフレキシブルプリント基板である場合の例である。なお、第3実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0071】
図6は、第3実施形態に係るセンサモジュールを例示する断面図である。
図6を参照すると、センサモジュール5は、ひずみゲージ1と、フレキシブルプリント基板140とを有している。フレキシブルプリント基板140上には電極130が形成されている。
【0072】
ひずみゲージ1の端子部41は、導電性接着層200により、フレキシブルプリント基板140上の電極130と電気的に接続されている。導電性接着層200は、例えば、異方性導電フィルムである。ひずみゲージ1の絶縁樹脂層60は、フレキシブルプリント基板140の電極130が形成されていない領域の一部分に融着されている。
【0073】
絶縁樹脂層60とフレキシブルプリント基板140との融着は、例えば、
図5を参照して説明した工程において、コンベア500上に起歪体110の代わりにフレキシブルプリント基板140を載置すればよい。絶縁樹脂層60は熱可塑性ポリイミド層であるため、絶縁樹脂層60側をフレキシブルプリント基板140に取付ける際の作業効率を向上可能である。
【0074】
フレキシブルプリント基板140の一部は、平面視において、ひずみゲージ1が配置されている領域の外側に延伸している。そのため、例えば、フレキシブルプリント基板140のひずみゲージ1の外側に延伸する領域に外部接続用の電極を配置することで、ひずみゲージ1と外部回路とを容易に電気的に接続できる。
【0075】
なお、フレキシブルプリント基板140の裏面側(電極130が形成されていない側)に、粘着層と離形フィルムを順次積層してもよい。これにより、センサモジュール5を起歪体に容易に貼り付けられる。
【0076】
〈第4実施形態〉
第4実施形態では、センサモジュール5を起歪体に貼り付けたセンサモジュールの例を示す。なお、第4実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0077】
図7は、第4実施形態に係るセンサモジュールを例示する断面図である。
図7を参照すると、センサモジュール7は、センサモジュール5と、起歪体110とを有している。フレキシブルプリント基板140の電極130が形成されている側とは反対側が、起歪体110の上面110aに貼り付けられている。
【0078】
フレキシブルプリント基板140の一部は、平面視において、ひずみゲージ1が配置されている領域の外側に延伸している。そのため、例えば、フレキシブルプリント基板140のひずみゲージ1の外側に延伸する領域に外部接続用の電極を配置することで、ひずみゲージ1と外部回路とを容易に電気的に接続できる。
【0079】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 ひずみゲージ、3、5、7 センサモジュール、10 基材、10a 上面、30 抵抗体、41 端子部、60 絶縁樹脂層、110 起歪体、120、140 フレキシブルプリント基板、130 電極、200 導電性接着層