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特許7426796部材、その製造方法、その製造装置、及び半導体製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】部材、その製造方法、その製造装置、及び半導体製造装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20240126BHJP
   C01F 17/218 20200101ALI20240126BHJP
   C01F 17/259 20200101ALI20240126BHJP
【FI】
C23C24/04
C01F17/218
C01F17/259
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019187126
(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公開番号】P2021063247
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】野口 恭史
(72)【発明者】
【氏名】永山 健一
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 敏洋
(72)【発明者】
【氏名】キム チャングァン
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-508684(JP,A)
【文献】特開2017-150083(JP,A)
【文献】特開2018-184657(JP,A)
【文献】特開2020-029614(JP,A)
【文献】国際公開第2018/217062(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0135157(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0078200(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0052517(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0082119(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 17/00 - 17/38
C23C 4/00 - 6/00
C23C 24/00 - 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された表面層と、を備え、
前記表面層は、Y-O-Fからなる粒子を含み、緻密度98%以上の緻密膜であり、
前記基材は、基材本体と、当該基材本体上において前記表面層と接触する界面に形成された基材側界面層と、を備え、
前記基材側界面層は、フッ素を含
前記基材側界面層は、前記表面層と接触する第1の層と、前記第1の層よりも前記基材本体側に位置する第2の層と、を備え、
前記第1の層は、前記表面層と比較して、フッ素の含有量が低く、
前記第2の層は、前記第1の層と比較して、フッ素の含有量が高い、
部材。
【請求項2】
前記表面層の(100)面に対する(151)面のX線回折ピーク強度比は、前記表面層の原料粉末もしくは原料粉末材料のICDDデータの(100)面に対する(151)面のX線回折ピーク強度比と比較して高い、
ことを特徴とする請求項に記載の部材。
【請求項3】
前記Y-O-Fからなる粒子は、平均粒径10nm以上100nm以下であ
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の部材。
【請求項4】
前記基材と前記表面層との密着力が、40MPaを超える、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の部材。
【請求項5】
前記Y-O-Fは、Y、Y0.8261.348、Y、Y、Y171423のいずれか1つを含む斜方晶の結晶構造を有する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の部材。
【請求項6】
前記基材は、セラミックス、金属、ガラス、及び有機化合物のいずれか1つを含む、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載された部材。
【請求項7】
前記基材は、ステンレス鋼、α-Al 、又はSiO である、
ことを特徴とする請求項6に記載された部材。
【請求項8】
前記基材本体は、α-Al であり、
前記表面層は、Y からなる粒子を含み、
前記第1の層は、Y及びAlを含み、
前記第2の層は、Al及び酸素を含む、
ことを特徴とする請求項7に記載された部材。
【請求項9】
前記第1の層は、前記表面層と比較して、酸素の含有量が低く、
前記第2の層は、前記第1の層と比較して、酸素の含有量が高い、
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載された部材。
【請求項10】
前記表面層の膜厚が、1.5μm以上16μm以下である、
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載された部材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載された部材を備える半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材、その製造方法、その製造装置、及び半導体製造装置に関し、特に、基材と、当該基材上に表面層とを備えた、部材、その製造方法、その製造装置、及び半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の構造物は、斜方晶の結晶構造を有するイットリウムオキシフッ化物(Y-O-F)の多結晶体を主成分とし、この多結晶体における平均結晶子サイズが100ナノメートル未満である。X線回折により回折角2θ=32.0°付近において検出されるピーク強度をγと、回折角2θ=32.8°付近において検出されるピーク強度をδとしたときに、ピーク強度比γ/δは、0%以上150%以下である。
【0003】
このような構造物は、エアロゾルデポジション法を用いて、基材上にダイレクトに形成する。このような構造物は、良好な耐プラズマ性を有する。そのため、このような構造物は、基材上に形成される表面層として機能し、耐プラズマ性を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-082154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、Y-O-Fは、エアロゾルデポジション法において用いられる材料と比較して破壊靭性値が小さい傾向にある。そのため、エアロゾルデポジション法を用いて、Y-O-Fからなる粒子を基材上に吹き付けても、圧粉体を形成することがあった。圧粉体は、基材から脱離しやすい。
【0006】
本発明は、良好な耐プラズマ性を有する表面層を安定して形成するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の第1の態様に係る部材は、
基材と、
前記基材上に形成された表面層と、を備え、
前記表面層は、Y-O-Fからなる粒子を含み、
前記基材は、前記表面層と接触する基材側界面層を備え、
前記基材側界面層は、フッ素を含む。
【0008】
このような構成によれば、表面層は、Y-O-Fからなる粒子を含み、良好な耐プラズマ性を有する。また、表面層が、Y-O-Fからなる粒子を含み、基材における基材側界面層が、フッ素を含み、表面層と接触している。よって、表面層と基材との界面近傍とにおいて、フッ素が移動し、原子の混合が発生している。したがって、表面層と基材との接合強度は良好である。すなわち、良好な耐プラズマ性を有する表面層が基材上に安定して形成されている。
【0009】
また、前記基材は、前記基材側界面層と接触する基材本体を備え、
前記基材側界面層は、第1の層と、前記第1の層よりも前記基材本体側に位置する第2の層と、を備え、
前記第2の層は、前記第1の層と比較して、フッ素の含有量が高いことを特徴としてもよい。
【0010】
このような構成によれば、表面層と基材との界面近傍とにおいて、原子の混合が進んでいる。したがって、表面層と基材との接合強度を高め得る。すなわち、良好な耐プラズマ性を有する表面層の基材上への形成の安定化を図ることができる。
【0011】
また、前記表面層の(1 0 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比は、前記表面層の原料粉末もしくは原料粉末材料のICDDデータの(1 0 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比と比較して高いことを特徴としてもよい。
【0012】
このような構成によれば、表面層は、原料粉末と比較して、配向性が高い。よって、表面層の耐プラズマ性の安定化を図ることができる。
【0013】
また、前記Y-O-Fからなる粒子は、平均粒径10nm以上100nm以下であり、
前記表面層は緻密度98%以上であることを特徴としてもよい。
【0014】
このような構成によれば、表面層は、Y-O-Fからなる粒子によってよく充填されている。表面層の耐プラズマ性の安定化を図ることができる。
【0015】
また、前記Y-O-Fは、Y、Y0.8261.348、Y、Y、Y171423のいずれか1つを含む斜方晶の結晶構造を有することを特徴としてもよい。
【0016】
このような構成によれば、表面層は、斜方晶の結晶構造を有するY-O-Fを含む。表面層の耐プラズマ性の安定化を図ることができる。
【0017】
また、前記基材は、セラミックス、金属、ガラス、及び有機化合物のいずれか1つを含むことを特徴としてもよい。
【0018】
このような構成によれば、基材と表面層との接合強度の安定化を図ることができる。すなわち、良好な耐プラズマ性を有する表面層の基材上への形成の安定化を図ることができる。
【0019】
本発明の実施形態の第2の態様に係る半導体製造装置は、上記された部材を備える。
【0020】
このような構成によれば、部材は、良好な耐プラズマ性を有する表面層が形成された基材を備える。
【0021】
本発明の実施形態の第3の態様に係る部材の製造方法は、
平面を有する基材に、複数の原料粒子を含む原料粉末をノズルを介して噴霧して、表面層を当該基材の当該平面上に形成するステップを備え、
前記原料粉末の噴霧軸と前記基材の前記平面とが交差して成す粒子入射角度は30度以下である。
【0022】
このような構成によれば、基材は、良好な耐プラズマ性を有する表面層が安定して形成されている。
【0023】
また、前記ノズルから射出された直後において、前記原料粒子の平均速度が60m/sec以下であることを特徴としてもよい。
【0024】
このような構成によれば、良好な耐プラズマ性を有する表面層を安定して形成することができる。
【0025】
また、前記原料粉末は、Y、Y0.8261.348、Y、Y、Y171423のいずれか1つを含む斜方晶の結晶構造を有するY-O-Fからなる粒子を含むことを特徴としてもよい。
【0026】
このような構成によれば、良好な耐プラズマ性を有する表面層を安定して形成することができる。
【0027】
また、平面を有する基材を保持するチャンバと、
当該チャンバの内側に開口するノズルと、を備え、
前記ノズルは、原料粉末を前記平面に噴霧して、表面層を前記平面上に形成し、
前記原料粉末の噴霧軸と前記平面とが交差して成す粒子入射角度は30度以下であることを特徴としてもよい。
【0028】
このような構成によれば、良好な耐プラズマ性を有する表面層を基材上に安定して形成することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、良好な耐プラズマ性を有する表面層を安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施の形態にかかる部材の断面図である。
図2】実施の形態1にかかる部材の断面図である。
図3】実施の形態にかかる部材の製造方法を示すフローチャートである。
図4】実施の形態にかかる部材の製造装置の構成を示す概略図である。
図5】粒径に対する頻度及び積算分布曲線を示すグラフである。
図6】Y原料粉末のミクロ組織を示す写真及び要部拡大写真である。
図7】Y原料粉末のX線回折パターンを示すグラフである。
図8】斜方晶(直方晶)Yの結晶構造を示す斜視図である。
図9】実施例1~3、及び比較例1~2にかかる部材を示す写真である。
図10A】実施例4にかかる部材の表面近傍の断面を示すSEM写真及び要部拡大写真である。
図10B】実施例5にかかる部材の表面近傍の断面を示すSEM写真及び要部拡大写真である。
図10C】参考例にかかる部材の表面近傍の断面を示すSEM写真及び要部拡大写真である。
図11】実施例4、5、及び参考例について粒子入射角度θに対する表面層の厚みを示すグラフである。
図12】原料粉末と、実施例4、5、及び参考例に係る表面層のX線回折パターンを示すグラフである。
図13】原料粉末、参考例、実施例4、5のX線回折ピーク強度比を示すグラフである。
図14A】実施例5に係る部材の断面のTEM写真である。
図14B】実施例5に係る部材の断面のTEM要部拡大写真、及び電子回折パターンである。
図14C】実施例5に係る部材の断面のTEM要部拡大写真である。
図14D】実施例5に係る部材の断面のTEM要部拡大写真である。
図15A】EDXによる実施例5の界面領域の元素マッピングの暗視野像である。
図15B】EDXによる実施例5の界面領域の元素マッピングのY(イットリウム)元素マップである。
図15C】EDXによる実施例5の界面領域の元素マッピングのAl(アルミニウム)元素マップである。
図15D】EDXによる実施例5の界面領域の元素マッピングのO(酸素)元素マップである。
図15E】EDXによる実施例5の界面領域の元素マッピングのF(フッ素)元素マップである。
図16】実施の形態にかかる製造方法による、表面層の形成メカニズムを示す概略図である。
図17】プラズマ照射試験の方法を示す概略図である。
図18】実施例14、比較例3、4についてプラズマ照射試験の表面粗度の変化を示すグラフである。
図19】実施例14に係る部材の断面のTEM写真である。
図20A】EDXによる実施例14の界面領域の元素マッピングの暗視野像である。
図20B】EDXによる実施例14の界面領域の元素マッピングのF元素マップである。
図20C】EDXによる実施例14の界面領域の元素マッピングのO元素マップである。
図20D】EDXによる実施例14の界面領域の元素マッピングのY元素マップである。
図21】関連する技術のエアロゾルデポジション法による、表面層の形成メカニズムを示す概略図である。
図22】比較例3に係る部材の断面のTEM写真である。
図23A】EDXによる比較例3の界面領域の元素マッピングの暗視野像である。
図23B】EDXによる比較例3の界面領域の元素マッピングのF元素マップである。
図23C】EDXによる比較例3の界面領域の元素マッピングのO元素マップである。
図23D】EDXによる比較例3の界面領域の元素マッピングのY元素マップである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施の形態)
以下、図1を参照して実施の形態について説明する。
【0032】
図1に示すように、部材100は、基材1と、表面層2とを備える。表面層2は、基材1上に形成されている。
【0033】
基材1は、基材本体11と、基材側界面層12とを備える。基材側界面層12は、表面層2と接触する。基材側界面層12は、フッ素を含む。
【0034】
表面層2は、Y-O-F(オキシフッ化イットリウム)を含み、耐プラズマ性に優れる。表面層2は、表面2aを有する。部材100の表面は、表面層2に覆われており、表面層2の表面2aに相当する。部材100は、良好な耐プラズマ性を有する。
【0035】
以上より、表面層2は、Y-O-Fを含み、良好な耐プラズマ性を有する。また、表面層2が、Y-O-Fを含み、基材側界面層12が、フッ素を含む。よって、表面層2と基材1との界面近傍とにおいて、フッ素が移動し、原子の混合が発生している。したがって、表面層2と基材1との接合強度は良好である。すなわち、良好な耐プラズマ性を有する表面層2が基材上に安定して形成されている。
【0036】
また、部材100は、半導体装置の一構成要素として利用することができる。部材100を半導体装置の一構成要素として利用すると、良好な耐プラズマ性を発揮する。そのため、部材100は、プラズマによる半導体装置の一構成要素として好適である。
【0037】
(実施の形態1)
以下、図2を参照して実施の形態1について説明する。実施の形態1に係る部材は、基材側界面層を除いて、実施の形態に係る部材100と同じ構成を有する。
【0038】
図2に示すように、部材200は、基材側界面層13を含み、基材側界面層13は、フッ素を含む。基材側界面層13は、第1の層13aと、第2の層13bとを備える。基材本体11は、基材側界面層13と接触する。第2の層13bは、第1の層13aよりも基材本体11側に位置する。第2の層13bは、第1の層13aと比較して、フッ素の含有量が高い。また、基材側界面層13は、Yを実質的に含有していないとよい。
【0039】
部材200の各構成の具体例について説明する。
表面層2の(1 0 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比は、表面層2の原料粉末の(1 0 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比と比較して高いとよい。Y-O-Fからなる粒子は、平均粒径10nm以上100nm以下であり、表面層2は緻密度98%以上であるとよい。なお、Y-O-Fからなる粒子の平均粒径は、SEM観察やTEM観察によって、特定してもよい。なお、表面層2の緻密度の上限値は、100%である。Y-O-Fは、Y、Y0.8261.348、Y、Y、Y171423のいずれか少なくとも1つを含む斜方晶の結晶構造を有するとよい。基材1は、セラミックス、金属、ガラス、及び有機化合物のいずれか1つを含むとよい。このようなセラミックスは、例えば、α―Al(アルミナ)が挙げられる。このような金属は、例えば、ステンレス鋼が挙げられる。
【0040】
以上より、部材200の構成によれば、第2の層13bは、第1の層13aよりも基材本体11側に位置し、さらに、第1の層13aと比較してフッ素の含有量が高い。よって、表面層2と基材1との界面近傍とにおいて、原子の混合が進んでいる。したがって、表面層2と基材1との接合強度を高め得る。すなわち、良好な耐プラズマ性を有する表面層2の基材1上への形成の安定化をさらに図ることができる。
【0041】
(製造方法)
次に、図3を参照して、実施の形態にかかる製造方法について説明する。
【0042】
ノズル又は基材1を所定の姿勢位置に固定する(ノズル配置ステップST1)。具体的には、ノズルが原料粉末の噴霧軸と基材1の平面とが交差してなす粒子入射角度は30度以下となるように、ノズル及び基材1の少なくとも1つを姿勢及び位置を固定する。基材1は、平面1aを有するものであればよく、例えば、基板である。
【0043】
続いて、原料粉末と窒素ガスとを、所定の空間、例えば、成膜チャンバ内において混合し、エアロゾルを生成する(エアロゾル生成ステップST2)。例えば、原料粉末は、複数の原料粒子を含む。当該原料粒子は、例えば、Y-O-Fである。Y-O-Fは、Y、Y0.8261.348、Y、Y、Y171423のいずれか少なくとも1つを含む斜方晶の結晶構造を有する。
【0044】
最後に、基材1の平面1aに、エアロゾル化した原料粉末を、ノズルを介して噴霧して、表面層2を基材1の当該平面上に形成する(エアロゾル吹き付けステップST3)。
【0045】
ここで、エアロゾル化した原料粉末による噴霧の噴霧軸と基材の平面とが交差してなす粒子入射角度は30度以下である。当該粒子入射角度の範囲は、5度以上30度以下であるとよい。当該粒子入射角度の下限値は、5、15、20、25度のいずれかであるとよい。当該粒子入射角度の上限値は、15、20、25、30度のいずれかであるとよい。また、当該粒子入射角度の範囲は、5度以上であると、粒子が基材に衝突して基材を削ることが発生し難くなるので、好ましい。また、当該粒子入射角度の範囲は、5度以上であると、多くの製造装置を用いることができるので、好ましい。当該粒子入射角度の範囲は、30度以下であると、緻密膜の形成を図ることができてよい。また、当該粒子入射角度の範囲は、20度以下であると、α―Al、ステンレス鋼等、幅広い材料からなる基板に対して緻密膜の安定的な形成を図ることができてよい。
【0046】
エアロゾル化した原料粉末による噴霧の噴射速度は、例えば、0m/sec超過、60m/sec以下であるとよい。この噴射速度の下限値は、0m/sec超過、15、18.5、45、又は55.6m/secのいずれか1つであるとよい。この噴射速度の上限値は、18.5、45、55.6、又は60m/secのいずれか1つであるとよい。
【0047】
以上より、基材1の平面上に表面層2を形成することができる。よって、部材100、200(図1、2参照)を製造することができる。
【0048】
(製造装置)
次に、図4を参照して、製造装置300について説明する。製造装置300を用いると、上記した実施の形態にかかる製造方法を実施することができる。
【0049】
図4に示すように、製造装置300は、成膜チャンバ30と、エアロゾル発生器32とを備える。
【0050】
エアロゾル発生器32は、その内側にエアロゾル発生空間32aを備える。エアロゾル発生器32は、エアロゾル発生空間32a内に原料粉末P1を保持する。エアロゾル発生器32は、ヒータ33を備え、ヒータ33は、エアロゾル発生空間32a内に適宜熱を供給し、原料粉末P1、ガス等を加熱する。
【0051】
エアロゾル発生器32は、ガス流路42、43を介してガス供給源と接続されている。エアロゾル発生空間32aは、エアロゾル媒体ガスがガス供給源からガス流路42、43を通過して、適宜、供給される。ガス流路42には、MFC34、バルブ51がこの順に設けられている。ガス流路42は、エアロゾル発生空間32a内の上側にまで延びる。ガス流路43には、MFC(マスフローコントローラ)34、バルブ51がこの順に設けられている。ガス流路43は、エアロゾル発生空間32aの底部近傍に延び、原料粉末P1に直接ガスを供給する。
【0052】
エアロゾル発生器32は、ガス流路44を介して、排気路45に接続される。排気路45には、バルブ54、MBP(メカニカルブースターポンプ)471、パーティクルミストトラップ472、RP(ロータリーポンプ)473、及びオイルミストトラップ474がこの順に設けられている。ガス流路44は、バルブ54とMBP471との間における排気路45に接続されている。
【0053】
成膜チャンバ30は、ノズル31と、基材保持部49と、バルブ56、57とを備える。
【0054】
成膜チャンバ30は、その内側に成膜空間30aを備える。成膜空間30aには、ノズル31が配置されている。ノズル31は、所定の姿勢を取るように配置されている。ノズル31の位置姿勢を変更可能に保持する保持部に保持されていてもよい。ノズル31とエアロゾル発生器32とは、流路41を介して接続されている。ノズル31は、エアロゾル発生器32から、エアロゾル化した原料粉末P1を供給される。ノズル31は、このエアロゾル化した原料粉末P1を、成膜空間30a内に噴射する。この噴射されたエアロゾル化した原料粉末P1は、噴霧軸A1に沿って移動する。
【0055】
基材保持部49は、モータM等を用いて、基材1を保持したまま3次元直交座標系におけるXYZ軸方向に移動することができる。基材1は、平面1aを有する。上記した、エアロゾル化した原料粉末P1の噴霧軸A1と基材1の平面1aとが交差して成す粒子入射角度θは、30度以下である。
【0056】
バルブ56、57が開閉することによって、成膜空間30a内にガスを供給したり、成膜空間30a内からガスを排出したりしてもよい。
【0057】
成膜チャンバ30は、排気路45と、流路46とに接続される。
【0058】
バルブ54を開いたまま、MBP471、及びRP473を用いて、適宜、成膜空間30a内のガスを排気し、減圧するとよい。パーティクルミストトラップ472、及びオイルミストトラップ474を用いて、ミスト等を除去するとよい。
【0059】
流路46には、成膜チャンバ30から下流側に向かって、バルブ55、集塵機48がこの順に設けられている。バルブ55を開いたまま、集塵機48を用いて適宜、成膜空間30a内の塵や異物を除去するとよい。
【実施例
【0060】
次に、図5図23Dを参照して、実施の形態1にかかる実施例について説明する。
【0061】
実施例は、部材200の一例である。部材200の一例は、製造装置300の一例を用いて、実施の形態にかかる製造方法を実施することによって、形成した。下記において、実施例を含む実験の詳細について説明する。
【0062】
(Y原料粉末)
原料粉末として、Yからなる複数の粒子を用いた。Yからなる複数の粒子を、レーザ回折粒径測定装置(MicrotracBEL Co., Ltd. Aerotrac II)を用いて計測した。このYからなる複数の粒子の粒径分布を図5に示す。図5に示すように、このYからなる複数の粒子の平均粒径(D50)は、原則、0.9μm(=900nm)である。なお、後述する実施例6~8で用いられたYからなる複数の粒子の平均粒径(D50)は、0.8μm(=800nm)である。平均粒径(D50)は、粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。また、粒径は、レーザー回折・散乱法によって求められる。
【0063】
このYからなる複数の粒子のミクロ組織を、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。その観察した写真及び要部拡大写真を図6に示す。図6に示すように、原料粉末は、例えば、粒径約0.9μmである複数の粒子を多く含む。当該粒径は、図5に示す平均粒径(D50)0.9μmに相当する値である。
【0064】
からなる複数の粒子の結晶組織を、Cu-Kα線によるX線回折法を用いて観察した。その結果を図7に示す。図7に示すように、原料粉末のピーク位置およびピーク強度比は、黒丸で示すICDD(International Center for Diffraction Data)の斜方晶Yのデータ(01-080-1124)とほぼ一致しており、Yの斜方晶の単一相を含む。図8は、斜方晶(直方晶)Yの結晶構造を示す。図8では、3次元abc直交座標系を用いた。
【0065】
(基板:ステンレス鋼)
次に、粒子入射角度θについて予備的に評価するために行った実験について説明する。
【0066】
基板として、ステンレス鋼からなる板を用いた。基板として、ステンレス鋼からなる板を用いると、膜の状態、特に形態を目視で評価しやすいからである。
【0067】
粒子入射角度θを除いて、上記した実施の形態に係る製造方法と同じ構成の製造方法を用いて、表面層を基板に形成し、部材を製造した。プロセス条件は、基板サイズ:20mm×80mm、粒子入射角度θ:0~90度、ノズルと基板との距離:10mm、使用ガスの種類:窒素、基板温度:室温、ガス流量:24L/min、最大粒子速度:44.4m/sec、成膜チャンバ内の圧力:100Pa、エアロゾルチャンバ内の圧力:50kPa、成膜時間:1minとした。粒子入射角度θに応じてテストピースを分けて、実施例1~3、比較例1~2とした。なお、最大粒子速度は、ガス流速である。すなわち、最大粒子速度は、ガス流量をノズル開口面積で割った値である。
【0068】
表面層の状態を目視で評価し、実施例1~3、及び比較例1~2を「緻密膜」、「圧粉体」、「緻密膜、圧粉体混在」とのいずれかに認定した。粒子入射角度θに対する膜の状態を、以下の表1に示す。また、実施例1~3、及び比較例1~2にかかる部材を示す写真を図9に示した。
【表1】
【0069】
図9に示すように、実施例1、2に係る部材E1、E2上には、圧粉体CP1が形成されていない一方、緻密膜DF1が形成されている。実施例3に係る部材E3上には、緻密膜DF1、圧粉体CP1が形成されている。比較例1、2に係る基板C1、C2上には、緻密膜DF1が形成されていない一方、圧粉体CP1が形成されている。粒子入射角度θが、30度以下であると、緻密膜DF1が形成することが確認されたため、好ましい。粒子入射角度θは、5度以上であると、緻密膜DF1が形成することを確認した。よって、粒子入射角度θの範囲は、5度以上30度以下であるとよい。
【0070】
(基板:α―Al
次に、粒子入射角度θが30度以下において、さらに詳細な製造条件を評価するため、実験を行った。上記した、粒子入射角度θについて予備的な評価するために行った実験結果から、粒子入射角度θが30度以下であると、緻密膜が形成しうることを確認した。
【0071】
基材として、α―Alからなる基板を用いた。α―Alは、プラズマプロセスに用いられるチャンバ内のパーツに多く利用される材料である。
【0072】
実施の形態に係る製造方法を用いて、表面層を基材に形成した。プロセス条件は、基板サイズ:30mm×30mm、ノズルと基板との距離:40mm、エアロゾルチャンバ内の圧力:50kPaとし、他は以下の表2に示す条件を用いた。
【表2】
【0073】
実施例4~13、参考例について、表面層の状態を目視観察し、さらにSEMやTEMを用いて表面近傍の断面を観察した。原料粉末、実施例4~13、参考例について、X線回折パターンを計測し、一部密着力を計測した。これらの結果を以下の表3に示す。原料粉末は、Yからなる複数の粒子であり、実施例1~13、参考例に係る製造方法において用いられたものと同一の種類の原料粉末である。
【表3】
【0074】
実施例4、5、参考例にかかる基板の表面近傍の断面を、SEMを用いて観察した。図10A図10Cに、それらの断面を示すSEM写真及び要部拡大写真を示す。
【0075】
図10Aに示すように、実施例4に係る部材E1において、表面層SF1が基板SS1上に形成されている。表面層SF1は、直径約10nm(=0.01μm)の粒子を含む。同様に、図10Bに示すように、実施例5に係る部材E2の表面層SF2は、直径約10nmの大きさを有する粒子を含む。直径約10nm(=0.01μm)の粒子は、原料粉末に含まれる、平均粒径(D50)0.9μmの粒子と比較して格段に小さい。よって、表面層SF1、SF2は、原料粉末が衝突によって破壊されて形成したと、考えられる。
【0076】
一方、図10Cに示すように、参考例に係る部材E3の表面層SF3は、例えば、直径約500~1000nm(=0.50~1.0μm)の粒子がほとんどで、直径約10nm(=0.01μm)の粒子は非常に少ない。直径約500~1000nm(=0.50~1.0μm)の粒子は、原料粉末に含まれる、平均粒径(D50)0.9μmの粒子と実質的に同じ大きさである。よって、表面層SF3のほとんどは、原料粉末がそのまま圧縮・堆積して形成した圧粉体から構成されると考えられる。なお、部材E3についてテープテストを行うと、表面層SF3は、基板SS3から容易に剥離した。参考例に係る表面層SF3と基板SS3との密着力は、実施例4に係る表面層SF1と基板SS1との密着力と比較して低い。表面層SF3と基板SS3との密着力は、実施例5に係る表面層SF2と基板SS2との密着力と比較して低い。参考例の密着力は、「不良」と判定した。
【0077】
参考例、実施例4、5について、粒子入射角度θに対する表面層の厚みを図11に示す。図11に示すように、粒子入射角度θが増大するにつれ、表面層の厚みが増大する傾向にある。粒子入射角度θが20度以下では、表面層の状態は、緻密膜であった。粒子入射角度θが30度では、表面層の状態は、ほぼ圧粉体であった。粒子入射角度θが20度以下であると、表面層の状態が緻密膜になる傾向にあり、好ましい。
【0078】
原料粉末と、参考例、実施例4、5に係る表面層とのX線回折パターンを図12に示す。図12に示すように、表面層のピーク位置は、黒丸で示すICDDの斜方晶Yのデータ(01-080-1124)とほぼ一致しており、図7に示す原料粉末と同様に、参考例、実施例4、5に係る表面層は、Yの斜方晶の単一相を含む。
【0079】
原料粉末、参考例、実施例4、5のX線回折ピーク強度比を、図13に示す。具体的には、図13は、原料粉末、参考例、実施例4、5の(1 0 0)面のX線回折ピーク強度に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度の比と、(0 10 0)面のX線回折ピーク強度に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度の比とを示す。
【0080】
図13に示すように、参考例、実施例4、5に係る表面層の(1 0 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比は、原料粉末の(1 0 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比と比較して高い。参考例、実施例4、5に係る表面層の(1 0 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比は、粒子入射角度θが増大するにつれて、増大する。粒子入射角度θに応じて結晶配向性が変化すると考えられる。
【0081】
一方、参考例、実施例4、5に係る表面層の(0 10 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比は、原料粉末の(0 10 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比と比較して低い。なお、原料粉末のX線回折パターンは、原料粉末材料のICDDのデータとほぼ一致するので、参考例、実施例4、5に係る表面層の(0 10 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比は、原料粉末材料に関するICDDデータの(0 10 0)面に対する(1 5 1)面のX線回折ピーク強度比と比較して低い、と言い換えることもできる。
【0082】
次に、実施例5についてTEM(Transmission Electron Microscope)及びEDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いた観察の結果について説明する。
【0083】
実施例5に係る部材の断面のTEM写真を図14Aに示す。図14Aに示すように、実施例5に係る部材E2において、表面層SF2、及び基板SS2を確認することができる。なお、表面層SF2上には、Pt(プラチナ)保護膜Pt1が形成されている。
【0084】
実施例5に係る部材のTEM要部(図14A参照)の拡大写真、及び電子回折パターンを図14Bに示す。図14Bに示すように、実施例5に係る部材は、多結晶組織を有する。なお、実施例5に係る部材は、空隙が全く見られなかったので、緻密度98%以上100%以下であると判断した。
【0085】
実施例5に係る部材のTEM要部(図14A参照)の拡大写真を図14C及び図14Dに示す。図14Cに示すように、10nmオーダー、例えば、10-100nmの大きさを有する複数の結晶CR1が、表面層SF2内に配列されている。図14Dに示すように、表面層SF2と基板SS2との間に、基板側界面層L2が設けられている。
【0086】
EDXによる実施例5の界面領域の元素マッピングを図15A図15Dに示す。図15A図15Eは、それぞれEDXによる界面領域の元素マッピングの暗視野像、Y(イットリウム)元素マップ、Al(アルミニウム)元素マップ、O(酸素)元素マップ、及びF(フッ素)元素マップを示す。
【0087】
図15Aに示すように、基板側界面層L2は、第1の層L21と、第1の層L21よりも基板SS2側に位置する第2の層L22とを備える。
【0088】
図15B及び図15Cに示すように、第1の層L21は、Y及びAlを含有する。図15C図15D、及び図15Eに示すように、第2の層L22は、Al、F、及びOを含有する。よって、基板側界面層L2は、Y、及びFを含有する。基板SS2は、α-Alからなるため、Y、及びFを実質的に含有してない。一方、表面層SF2は、Yからなる粒子を含む。そのため、基板側界面層L2が含有するY、及びFは、エアロゾル吹き付けステップST3(図3参照)において、エアロゾル化した原料粉末を基板SS2に噴霧し、Yからなる粒子が基板SS2に衝突し、YとOとFとが基板SS2内部に浸透したものと、考えられる。OとFとを含む第2の層L22は、Yを含む第1の層L21と比較して、基板SS2内部側に位置する。OとFとは、Yと比較して、原子量が小さいため、エアロゾル吹き付けステップST3において、基板SS2内側に深く移動したと考えられる。すなわち、基板SS2と表面層SF2との界面領域において、Y、O、F等の原子が移動し、混合したと考えられる。
【0089】
基板SS2と表面層SF2との密着力をスタッドプルテストを用いて計測した。表3に示すように、実施例5の密着力は、54.2MPaと良好な値であった。これは、上記した基板SS2と表面層SF2との界面領域における原子が混合したことが一因と考えられる。
【0090】
(デポジションメカニズム)
次に、図16を参照して、エアロゾル吹き付けステップST3(図3参照)において、表面層形成メカニズムの考えられる一例について説明する。
【0091】
エアロゾル吹き付けステップST3において、平面1aを有する基材1に、エアロゾル化した原料粉末を、ノズルを介して噴霧する。図16に示すように、Yからなる粒子22が基材1の平面1aに対して、所定の方向に直進して、衝突する(ステップST31)。粒子22の直進方向に沿った仮想軸と平面1aとが交差して成す粒子入射角度θは、0度超過30度以下である。なお、aの直進方向に沿った仮想軸は、ノズルの噴霧軸と同じ方向に延びる。
【0092】
続いて、粒子22を基材1の平面1aに衝突させると、粒子22を平面1aに沿って移動させつつ、平面1aによって削られる(ステップST32)。粒子22から削り取られた粒子22a、22bは平面1a上に付着し、残存する。一方、削られなかった粒子22cは、平面1aから脱離して、基材1の外方へ移動する。
【0093】
粒子22が平面1aに衝突した後、平面1aに接触しながら平面1aに沿った方向に移動するため、平面1aから摩擦力を受ける。そのため、平面1aに沿った方向にせん断応力を受ける。粒子22が平面1aに削り取られて、破砕し分裂する。分裂した粒子22のうち一部は、平面1aに移着し、その残部は平面1aから脱離する。この移着した粒子22の一部は、平面1aから基材1の内側に浸透、又は拡散したと、考えられる。
【0094】
(関連する技術)
一方、関連する技術として、エアロゾルデポジション法がある。当該エアロゾルデポジション法の一例は、図21に示すように、まず、Yからなる複数の粒子92を、基板91に対して略垂直方向に噴出する(ステップST91)。続いて、Yからなる複数の粒子92を基板に衝突させ、塑性変形させる(ステップST92)。すると、Yからなる複数の粒子92が固まり、基板91上に堆積する。複数の粒子92について、ステップST91、ステップST92を実施することにより、表面層を形成する。
【0095】
なお、Yからなる粒子がYからなる粒子と比較して、軟らかく、破砕しにくい。そのため、粒子92がYからなる場合、当該エアロゾルデポジション法の一例では、表面層が圧粉体に成り易く、緻密層に成り難い傾向にあると考えられる。
【0096】
(評価:耐プラズマ性)
次に、図17図20Dを参照して、実施例について耐プラズマ性を評価した実験について説明する。
【0097】
実施例14に係る部材は、成膜時間と、基板サイズとを除いて、実施例5に係る部材と同じ構成である。実施例14に係る部材では、成膜時間は、225minであり、基板サイズ25mm×25mmである。
【0098】
なお、比較例3に係る部材は、原料粉末、粒子入射角度θを除いて、実施例14に係る部材と同じ構成である。比較例3に係る部材では、原料粉末は、Yからなる複数の粒子を含み、粒子入射角度θは90度である。比較例3に係る部材の表面層は、Yからなる複数の粒子を含む。また、比較例4に係る部材では、表面層が無いことを除いて、実施例14及び比較例3に係る部材と同じ構成である。比較例4に係る部材は、Alからなる基板である。
【0099】
実施例14、比較例3、4に係る部材についてプラズマ照射試験を行った。プラズマ照射試験では、まず、10μmの厚さになるまでミラー研磨を当該部材100(図17参照)について行う。図17は、プラズマ照射試験の方法を示す概略図である。続いて、図17に示すように、薄板ガラス9を用いて、部材100の一部を覆う。さらに、誘導結合プラズマ反応イオンエッチング装置を用いて、SF6/O2ガスを供給しつつ、プラズマを部材100に照射する(ステップST41)。続いて、薄板ガラス9を除いた後、表面粗さ・輪郭形状測定機のスタイラス93を用いて部材100の表面粗度を計測する(ステップST42)。なお、部材100の表面は、その部位に応じて、ステップ高さH1の差がある。
【0100】
プラズマ照射試験の試験条件は、チャンバ内圧力3.7Pa、SF6ガス流速200SCCM、O2ガス流速50SCCM、照射時間0、2、6時間、周波数13.56MHz、バイアスパワー13w、ICPパワー600wとした。
【0101】
プラズマ照射試験の表面粗度の変化を図18に示す。図18は、実施例14、比較例3、4についてプラズマ照射試験の表面粗度の変化を示すグラフである。図18に示すように、プラズマ照射試験の前後で、実施例14では、表面粗度は、0.0050μmから0.0051μmと0.0001μm増加した。比較例3では、表面粗度は、0.0042μmから0.0052μmと0.0010μm増加した。比較例4では、約0.040μmから0.0110μmと0.070μm増加した。実施例14は、比較例4と比較して、表面粗度の変化が明らかに小さかった。実施例14では、比較例3と比較して、表面粗度の変化が、実質的に同じ、又はわずかに小さかった。表面粗度の変化が小さいと、耐プラズマ性が良好であると考えられる。複数のYからなる粒子を含む表面層は、表面粗度に基づいて、複数のYからなる粒子を含む表面層と比較して耐プラズマ性が実質的に同じ、又は上回ると考えられる。
【0102】
次に、6時間照射された実施例14、及び比較例3にかかる部材の断面についてTEM及びEDXを用いた観察の結果について説明する。
【0103】
実施例14に係る部材の断面のTEM写真を図19に示す。EDXによる実施例5の界面領域の元素マッピングを図20A図20Dに示す。具体的には、図20A図20Dは、それぞれEDXによる実施例14の界面領域の元素マッピングの暗視野像、F元素マップ、O元素マップ、及びY元素マップを示す。
【0104】
比較例3に係る部材の断面のTEM写真を図22に示す。EDXによる比較例3の界面領域の元素マッピングを図23A図23Dに示す。具体的には、図23A図23Dは、それぞれEDXによる比較例3の界面領域の元素マッピングの暗視野像、F元素マップ、O元素マップ、及びY元素マップを示す。
【0105】
図22図23A図23Dに示すように、比較例3に係る部材は、表面層SF91を含む。図23Bに示すように、表面層SF91は、フッ素を含有している。上記したように、プラズマ照射試験前において、表面層SF91は、Yからなる複数の粒子からなるため、フッ素を含有していない。しかし、プラズマ照射試験後において、表面層SF91がフッ素を含有している。表面層SF91が含有するFは、比較例3に係る部材の外部、例えばプラズマ照射によって生じたFラジカルによって、取り込まれたものと考えられる。つまり、YはFが取り込まれて変質したものと考えられる。
【0106】
一方、図19図20A図20Dに示すように、実施例14に係る表面層SF3は、Fを含有している。もともと表面層SF3は、Yからなる複数の粒子を含んでいるからである。そのため、例えばFラジカルによる表面層SF3の変質が発生せず、実施例14では、比較例3と比較して高い耐プラズマ性を有しうると考えられる。
【0107】
(基板:SiO
次に、基材として、SiOを用いた実施例について説明する。
【0108】
表2に示すように、実施例6~8では、基材として、SiOを用いた。実施例6~8では、基板材料、粒子入射角度θ、成膜時間を除いて、実施例4、5、及び参考例1と同じ製造条件である。実施例6~8では、粒子入射角度θ、成膜時間についても実施例4、5、及び参考例1のそれと、大きく変わらない。
【0109】
実施例6~8では、表面層の状態は、緻密膜であった。よって、基材として、SiOを用いても、緻密膜を形成することができる。
【0110】
表3に示すように、実施例6~8のI(1 0 0)/I(1 5 1)が、原料粉末のI(1 0 0)/I(1 5 1)(=0.045)よりも高かった。実施例6~8のI(0 10 0)/I(1 5 1)が、原料粉末のI(0 10 0)/I(1 5 1)(=0.206)よりも低かった。よって、基材として、SiOを用いても、結晶配向性が原料粉末と異なる傾向にある。
【0111】
(成膜チャンバ内圧力:80-245Pa)
次に、成膜チャンバ圧力を所定の範囲に変化させた場合の実施例について説明する。
【0112】
表2に示すように、実施例9~11では、製造条件の成膜チャンバ圧力は、80-245Paであった。実施例9~11は、成膜チャンバ圧力を除いて、実施例5と同じ製造条件である。
【0113】
実施例9~11では、表面層の状態は、緻密膜であった。よって、製造条件の成膜チャンバ圧力が80-245Paであっても、緻密膜を形成することができる。
【0114】
表3に示すように、実施例9~11のI(1 0 0)/I(1 5 1)が、原料粉末のI(1 0 0)/I(1 5 1)(=0.045)よりも高かった。実施例9~11のI(0 10 0)/I(1 5 1)が、原料粉末のI(0 10 0)/I(1 5 1)(=0.206)よりも低かった。よって、製造条件の成膜チャンバ圧力が80-245Paであっても、結晶配向性が原料粉末と異なる傾向にある。
【0115】
(粒子速度:18.5-55.6m/sec)
次に、粒子速度が所定の範囲を変化した場合の実施例について説明する。
【0116】
表2に示すように、実施例12、及び13では、製造条件の粒子速度は、18.5-55.6m/secであった。実施例12、及び13は、成膜チャンバ圧力を除いて、実施例5と同じ製造条件である。
【0117】
実施例5、12、及び13では、表面層の状態は、緻密膜であった。よって、製造条件の粒子速度が、18.5-55.6m/secであっても、緻密膜を形成することができる。粒子速度の範囲は、例えば、15-60m/secであると、緻密膜を形成しえてよい。
【0118】
表3に示すように、実施例5、12、及び13のI(1 0 0)/I(1 5 1)が、原料粉末のI(1 0 0)/I(1 5 1)(=0.045)よりも高かった。実施例9~11のI(0 10 0)/I(1 5 1)が、原料粉末のI(0 10 0)/I(1 5 1)(=0.206)よりも低かった。よって、製造条件の粒子速度が、18.5-55.6m/secであっても、結晶配向性が原料粉末と異なる傾向にある。
【0119】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0120】
100、200 部材
1 基材 1a 平面
2 表面層 2a 表面
22、22a、22b、22c 粒子
11 基材本体
12、13 基材側界面層
13a 第1の層 13b 第2の層
300 製造装置
30 成膜チャンバ 30a 成膜空間
31 ノズル
P1 原料粉末 DF1 緻密膜
SF1、SF2、SF3 表面層 SS1、SS2、SS3 基板
ST1 ノズル配置ステップ ST2 エアロゾル生成ステップ
ST3 エアロゾル吹き付けステップ θ 粒子入射角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図20C
図20D
図21
図22
図23A
図23B
図23C
図23D