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特許7426799酸性液状ソフトミックス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】酸性液状ソフトミックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 9/00 20060101AFI20240126BHJP
   A23C 9/137 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
A23G9/00 101
A23C9/137
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019187661
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021061770
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】尹 滔文
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】応用糖質科学,1996年,43(3),pp.385-392
【文献】日本食品科学工学会誌,1996年,43(11),p.1238
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G,A23C,A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳原料とゼラチンと大豆多糖類とハイメトキシルペクチンとを含み、
全固形分濃度が20.0~40.0質量%であり、
無脂乳固形分濃度が0.5~12.0質量%であり、
pHが3.0~4.5であり、
10℃における粘度が500mPa・s以下である、酸性液状ソフトミックス。
【請求項2】
前記酸性液状ソフトミックスに対して72℃40分間の加熱処理を3回行ったときの前記粘度の変化率が75%以下である、請求項1に記載の酸性液状ソフトミックス。
【請求項3】
前記酸性液状ソフトミックスが乳化剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の酸性液状ソフトミックス。
【請求項4】
前記酸性液状ソフトミックスの脂肪含量が5.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の酸性液状ソフトミックス。
【請求項5】
乳原料とゼラチンと大豆多糖類とハイメトキシルペクチンとを含み、全固形分濃度が20.0~40.0質量%であり、無脂乳固形分濃度が0.5~12.0質量%であり、pHが3.0~4.5である混合液を調製する工程と、前記混合液を加熱殺菌する工程と、を有し、
前記混合液を調製する工程において、前記混合液に含まれる成分のうち少なくとも乳原料と、ゼラチンと、大豆多糖類及びハイメトキシルペクチンの少なくとも一部とを含む前添加成分を混合して原料液を調製し、前記原料液に乳酸菌を添加し、発酵させて発酵液を得、前記発酵液と、前記混合液に含まれる成分のうち前記前添加成分以外の成分とを混合して前記混合液を得る、酸性液状ソフトミックスの製造方法。
【請求項6】
前記前添加成分以外の成分が少なくともハイメトキシルペクチンを含む、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性液状ソフトミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フローズンヨーグルトの製造方法の一つとして、発酵乳規格の酸性液状ソフトミックスを、ソフトクリーム用フリーザーで空気と混合しながら凍結する方法が知られている。
酸性液状ソフトミックスは、製造時に加熱殺菌されたり、製造後に長期間保存されたりすることがある。そこで、熱安定性や保存安定性を向上する目的で、酸性液状ソフトミックスに安定剤を配合することが行われる。
【0003】
特許文献1には、安定剤としてペクチン及びアルギン酸プロピレングリコールエステルを含む酸性液状ソフトミックスが開示されている。
特許文献2には、少なくとも多糖類ガム質(ペクチン、寒天等)とゼラチンを含む安定剤と乳固形、甘味料、乳化剤からなるアイスミックスと、乳等にペクチン、ゼラチン、寒天及び乳化剤を混合し発酵させた酸性乳を冷蔵状態で混合する、酸凝集が防止された口当たりのなめらかな冷菓の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-14325号公報
【文献】特開2002-34462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ソフトクリーム用フリーザーは一般に加熱殺菌機能を備える。しかし、従来の酸性液状ソフトミックスは、ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌適性が充分ではない。このため、従来の酸性液状ソフトミックスをソフトクリーム用フリーザーで加熱殺菌(例えば72℃40分間)すると、酸性液状ソフトミックス中のタンパク質が凝集して水分と分離し食感にざらつきが出る、酸性液状ソフトミックスがドロドロになって固まる、脂肪浮上が生じて風味が低下する、粘度が過剰に高くなりソフトクリーム用フリーザーでの攪拌が困難になる等の問題が生じる。
本発明は、ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌時の物性変化が抑制された酸性液状ソフトミックス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]乳原料とゼラチンと大豆多糖類とペクチンとを含み、
全固形分濃度が20.0~40.0質量%であり、
無脂乳固形分濃度が0.5~12.0質量%であり、
pHが3.0~4.5であり、
10℃における粘度が500mPa・s以下である、酸性液状ソフトミックス。
[2]前記酸性液状ソフトミックスに対して72℃40分間の加熱処理を3回行ったときの前記粘度の変化率が75%以下である、[1]の酸性液状ソフトミックス。
[3]前記酸性液状ソフトミックスが乳化剤をさらに含む、[1]又は[2]の酸性液状ソフトミックス。
[4]前記酸性液状ソフトミックスの脂肪含量が5.0質量%以下である、[1]~[3]のいずれかの酸性液状ソフトミックス。
[5]乳原料とゼラチンと大豆多糖類とペクチンとを含み、全固形分濃度が20.0~40.0質量%であり、無脂乳固形分濃度が0.5~12.0質量%であり、pHが3.0~4.5である混合液を調製する工程と、前記混合液を加熱殺菌する工程と、を有し、
前記混合液を調製する工程において、前記混合液に含まれる成分のうち少なくとも乳原料と、ゼラチンと、大豆多糖類及びペクチンの少なくとも一部とを含む前添加成分を混合して原料液を調製し、前記原料液に乳酸菌を添加し、発酵させて発酵液を得、前記発酵液と、前記混合液に含まれる成分のうち前記前添加成分以外の成分とを混合して前記混合液を得る、酸性液状ソフトミックスの製造方法。
[6]前記前添加成分以外の成分が少なくともペクチンを含む、[5]の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌時の物性変化が抑制された酸性液状ソフトミックス及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の酸性液状ソフトミックスは、乳原料とゼラチンと大豆多糖類とペクチンとを含む。
酸性液状ソフトミックスは、乳化剤をさらに含むことが好ましい。
酸性液状ソフトミックスは、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分をさらに含むことができる。
【0009】
乳原料は乳由来の原料である。乳原料としては、公知の乳原料を用いることができ、好ましくは乳製品である。乳原料として、例えば、生乳(牛乳、水牛乳、羊乳、山羊乳、馬乳等)、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、濃縮乳、全粉乳、クリーム、バター、バターミルク、練乳、乳タンパク質が挙げられる。これらの乳原料は1種類のみ用いてもよく2種類以上を併用してもよい。乳原料として1種類のみを用いる場合、乳原料は無脂乳固形分を含む。乳原料として2種類以上を併用する場合、乳原料の少なくとも一部は、無脂乳固形分を含む。
酸性液状ソフトミックス中の乳原料の含有量は、酸性液状ソフトミックスの無脂乳固形分濃度が後述する範囲内となるように選定される。
【0010】
ゼラチンは、食感の向上、及び保存中の安定性のために用いられる。
ゼラチンの含有量は、酸性液状ソフトミックスの総質量に対し、0.01~1.0質量%が好ましく、0.05~0.4質量%がより好ましく、0.1~0.3質量%がさらに好ましい。ゼラチンの含有量が前記下限値以上であれば、食感がより優れる。ゼラチンの含有量が前記上限値以下であれば、酸性液状ソフトミックスの粘度(10℃)を500mPa・s以下としやすい。
【0011】
大豆多糖類は、低粘度を維持しつつ乳タンパク質の熱安定性を高め、ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌適性を向上させるために用いられる。
大豆多糖類は、大豆から得られた多糖類で、主成分はヘミセルロースである。
大豆多糖類の含有量は、酸性液状ソフトミックスの総質量に対し、0.01~1.0質量%が好ましく、0.05~0.4質量%がより好ましく、0.1~0.3質量%がさらに好ましい。大豆多糖類の含有量が前記下限値以上であれば、酸性液状ソフトミックスのソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌適性がより優れる。大豆多糖類の含有量が前記上限値以下であれば、酸性液状ソフトミックスの粘度(10℃)を充分に低くしやすい。
【0012】
ペクチンは、乳タンパク質の熱安定性を高め、ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌適性を向上させるために用いられる。
ペクチンは、主にガラクチュロン酸とメチル化ガラクチュロン酸で構成される多糖類であり、メチル化ガラクチュロン酸が占める割合であるエステル化度をDE(Degree of esterification)値として表す。DE値が50%以上のものをハイメトキシル(HM)ペクチン、50%未満のものをローメトキシル(LM)ペクチンと呼ぶ。ペクチンとしては、乳タンパク質と結合し安定なネットワークを形成する観点から、HMペクチンが好ましい。
【0013】
ペクチンの含有量は、酸性液状ソフトミックスの総質量に対し、0.01~1.0質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましく、0.2~0.4質量%がさらに好ましい。ペクチンの含有量が前記下限値以上であれば、酸性液状ソフトミックスのソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌適性がより優れる。ペクチンの含有量が前記上限値以下であれば、酸性液状ソフトミックスの粘度(10℃)を充分に低くしやすい。
【0014】
乳化剤は、長期保存中の安定性及びソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌適性のさらなる向上のために用いられる。
乳化剤としては、食品添加用の乳化剤として公知のものを使用でき、例えばレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、有機酸モノグリセリド、脂肪酸モノグリセリドが挙げられる。これらの乳化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
乳化剤のHLB(親水親油バランス)値は、6~18が好ましく、8~16がより好ましい。なお、本明細書においてHLB値は、グリフィン法により求められる値である。
【0015】
乳化剤としては、酸性液状ソフトミックスのソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌適性の向上効果に優れることから、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルと他の乳化剤とを併用してもよい。
ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、乳化剤の総質量に対し、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0016】
乳化剤の含有量は、酸性液状ソフトミックスの総質量に対し、0.01~1.0質量%が好ましく、0.01~0.5質量%がより好ましく、0.05~0.4質量%がさらに好ましい。乳化剤の割合が前記下限値以上であれば、酸性液状ソフトミックスのソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌適性がより優れる。乳化剤の割合が前記上限値以下であれば、酸性液状ソフトミックスの加熱殺菌適性が良好である。
【0017】
他の成分としては、例えば、大豆多糖類及びペクチン以外の他の多糖類、糖類(ショ糖、オリゴ糖等)、甘味料、植物性脂肪、香料、pH調整剤、食物繊維(イヌリン、難消化性グルカン等)、乳酸菌、ビフィズス菌が挙げられる。これらの成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
他の多糖類としては発酵セルロースが好ましい。発酵セルロースの含有量は、酸性液状ソフトミックスの総質量に対し、0.01~1.0質量%が好ましく、0.01~0.5質量%がより好ましく、0.05~0.4質量%がさらに好ましい。
乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)、ラクトコッカス・ラクチス(L.lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)が挙げられる。
【0018】
酸性液状ソフトミックスは通常、水を含む。水は、乳原料に由来するものでもよく、別途配合されたものでもよい。
【0019】
酸性液状ソフトミックスの全固形分濃度は、20.0~40.0質量%であり、23.0~35.0質量%が好ましく、26.0~35.0質量%がより好ましい。全固形分濃度が前記下限値以上であれば、食感や保形性に優れる。全固形分濃度が前記上限値以下であれば、製造中の焦げ付き耐性に優れる。
全固形分濃度は、酸性液状ソフトミックスの総質量に対する固形分の割合であり、直接乾燥法により測定される。
【0020】
酸性液状ソフトミックスは無脂乳固形分(以下、「SNF」とも記す。)を含む。無脂乳固形分とは、脂肪分以外の乳由来の固形分である。酸性液状ソフトミックスのSNF濃度は、0.5~12.0質量%であり、3.0~10.0質量%が好ましく、5.0~9.0質量%がより好ましい。SNF濃度が前記下限値以上であれば、ボディ感や乳風味に優れる。SNF濃度が前記上限値以下であれば、ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌時の熱による乳タンパク質の凝集が抑えられやすい。
SNF濃度は、酸性液状ソフトミックスの総質量に対するSNFの割合である。SNFは、タンパク質含量(ケルダール法)×2.82により算出することができる。
【0021】
酸性液状ソフトミックスは脂肪を含んでいてもよい。
脂肪は、乳脂肪等の動物性脂肪でもよく、植物性脂肪でもよく、それらの混合物でもよい。風味の点では、乳脂肪を含むことが好ましい。
【0022】
酸性液状ソフトミックスの脂肪含量は、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下がさらに好ましい。脂肪含量が高くなると、ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌時に、熱による乳タンパク質の凝固が生じやすい。また、脂肪浮上による風味の低下も生じやすい。脂肪含量が5.0質量%以下であれば、ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌時の熱による乳タンパク質の凝集及び脂肪浮上が抑えられやすい。
脂肪含量は、風味の点では、0.0質量%超が好ましく、0.5質量%超がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。
上記の観点から、脂肪含量は0.0質量%超5.0質量%以下が好ましく、0.5質量%超5.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%超3.0質量%以下がさらに好ましい。
脂肪含量は、酸性液状ソフトミックスの総質量に対する脂肪の割合であり、レーゼ・ゴットリーブ法により測定される。
【0023】
酸性液状ソフトミックスのpHは、3.0~4.5であり、3.5~4.1が好ましい。pHが前記範囲内であれば、ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌時の熱による乳タンパク質の凝集が抑えられやすい。
pHは、特に断りがない限り、10℃における値である。
【0024】
酸性液状ソフトミックスの10℃における粘度(以下、「粘度(10℃)」とも記す。)は、500mPa・s以下であり、400mPa・s以下が好ましく、300mPa・s以下がより好ましい。粘度(10℃)が前記上限値以下であれば、ソフトクリーム用フリーザーでのフリージング処理時に酸性液状ソフトミックスを攪拌しやすい。
酸性液状ソフトミックスの粘度(10℃)の下限は特に限定されないが、保存中の安定性、沈殿や離水の観点では、30mPa・s以上が好ましく、80mPa・s以上がより好ましい。
粘度は、B型粘度計により測定される値である。
【0025】
酸性液状ソフトミックスは、酸性液状ソフトミックスに対して72℃40分間の加熱処理を3回行った前後の粘度(10℃)の変化率(以下、単に「粘度の変化率」とも記す。)が75%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。粘度の変化率が前記上限値以下であれば、ソフトクリーム用フリーザーで加熱殺菌後の粘度が充分に低く、フリージング処理時に攪拌しやすい。粘度の変化率は、0%に近いほど好ましい。
粘度の変化率は、下記式(1)により算出される。
粘度の変化率(%)=(V-V)/V×100 ・・・(1)
式中、Vは、72℃40分間の加熱処理を3回行った後の酸性液状ソフトミックスの粘度(10℃)(mPa・s)を示し、Vは、前記加熱処理を行う前の酸性液状ソフトミックスの粘度(10℃)(mPa・s)を示す。典型的にはV>Vである。
粘度の変化率は、大豆多糖類、ゼラチン及びペクチンそれぞれの含有量により調整できる。大豆多糖類、ゼラチン及びペクチンそれぞれの含有量が前記した好ましい範囲内であれば、粘度の変化率が75%以下となりやすい。
【0026】
本発明の酸性液状ソフトミックスは、発酵乳(殺菌)規格を満たすものであることが好ましい。本発明の酸性液状ソフトミックスが発酵乳(殺菌)規格を満たす場合、本発明の酸性液状ソフトミックスをソフトクリーム用フリーザーでフリージング処理することで、フローズンヨーグルトが得られる。
「発酵乳(殺菌)規格を満たす」とは、SNF濃度が8質量%以上、加熱殺菌前の生菌数が1×10cfu/mL以上、75℃以上で15分間の加熱殺菌処理又はこれと同等以上の殺菌効果を有する殺菌処理が施されていること、の条件を全て満たすことを意味する。
【0027】
本発明の酸性液状ソフトミックスは、例えば、以下の製造方法により製造できる。
乳原料とゼラチンと大豆多糖類とペクチンとを含み、全固形分濃度が20.0~40.0質量%であり、無脂乳固形分濃度が0.5~12.0質量%であり、pHが3.0~4.5である混合液を調製する工程と、前記混合液を加熱殺菌する工程と、を有し、
前記混合液を調製する工程において、前記混合液に含まれる成分のうち前添加成分を混合して原料液を調製し、前記原料液に乳酸菌を添加し、発酵させて発酵液を得、前記発酵液と、前記混合液に含まれる成分のうち前記前添加成分以外の成分(以下、「後添加成分」とも記す。)とを混合して前記混合液を得る、酸性液状ソフトミックスの製造方法。
【0028】
前添加成分は、前記混合液に含まれる成分のうち少なくとも乳原料と、ゼラチンと、大豆多糖類及びペクチンの少なくとも一部とを含む。前添加成分は、中性での不安定性の点から、ペクチンを含まないことが好ましい。前添加成分は、溶解性の点から、大豆多糖類を含むことが好ましい。前添加成分は、必要に応じて乳化剤、他の成分、乳原料に由来しない水を含んでいてもよい。
【0029】
原料液は、例えば、乳原料と、ゼラチンと、大豆多糖類及びペクチンの少なくとも一部(好ましくは大豆多糖類)と、必要に応じて乳化剤、他の成分及び水を混合して溶解し、均質化処理を行い、加熱殺菌(発酵前加熱殺菌)を行うことにより調製できる。均質化処理は常法により行うことができる。発酵前加熱殺菌方法としては、発酵乳(殺菌)規格を満たす酸性液状ソフトミックスを得る場合は、62℃で30分間の加熱殺菌、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法が好ましい。また、発酵前加熱殺菌の後、発酵温度にまで冷却することが好ましい。発酵前加熱殺菌後すぐに発酵させず、一旦タンク等に保存する場合は10℃以下に冷却することが好ましい。原料液のpHは、6.0~7.0が好ましい。原料液の固形分濃度は、20.0~40.0質量%が好ましい。
【0030】
乳酸菌としては、発酵乳の製造において公知の乳酸菌を使用できる。例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)、ラクトコッカス・ラクチス(L.lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)等の、発酵乳の製造に通常用いられている乳酸菌スターターの1種又は2種以上を用いることができる。
乳酸菌の添加量は、通常の範囲で適宜調節できる。
【0031】
原料液に乳酸菌を添加(発酵開始)し、発酵温度に保持して、予め設定されたpH(到達pH)となるまで発酵させる。pHが目標の値(到達pH)に達したら、10℃以下に冷却(発酵終了)して発酵液を得る。発酵菌を添加する前に予め原料液の温度を所定の発酵温度に調整しておくことが好ましい。発酵温度は、例えば35~47℃である。
乳酸菌による発酵においては酸が生成されるため、発酵が開始された後の原料液のpHは経時的に低下する。到達pHは4.0~4.3が好ましい。発酵液のpHは、乳酸菌の種類、添加量、発酵時間によって調整できる。発酵時間は、例えば3~10時間である。
【0032】
後添加成分は、典型的には、乳原料に由来しない水を含む。後添加成分として配合する水の量によって混合液の固形分濃度を20.0~40.0質量%に調製する。
後添加成分は、酸性での安定性の点から、少なくともペクチンを含むことが好ましい。後添加成分は、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。
【0033】
混合液の加熱殺菌(発酵後加熱殺菌)は、バッチ殺菌、チューブラー殺菌、プレート殺菌等、公知の加熱殺菌機を用いて行うことができる。発酵後加熱殺菌は、発酵乳(殺菌)の製造において一般的な条件で行うことができる。具体的には、75℃以上で15分間加熱するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌する。発酵後加熱殺菌の後は、速やかに冷却して目的の酸性液状ソフトミックスを得る。酸性液状ソフトミックスを容器に充填する場合は、発酵後加熱殺菌の後に充填温度(例えば10~50℃程度)に冷却し、容器に充填した後、10℃以下に冷却する。
【0034】
本発明の酸性液状ソフトミックスは、ソフトクリーム用フリーザーにて、加熱殺菌され、フリージング処理される。
ソフトクリーム用フリーザーでの加熱殺菌条件は、使用するソフトクリーム用フリーザーに設置された条件であってよい。典型的には、食品衛生法に基づく製造基準に準じた条件とされ、例えば、68℃30分間の加熱、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する加熱条件である。
ソフトクリーム用フリーザーでのフリージング処理では、酸性液状ソフトミックスを攪拌しながら冷凍させて空気を取り込む。取り込む空気の量は、例えば、オーバーランが15~75%となる量である。「オーバーラン」とは、原料の酸性液状ソフトミックスに対して混ぜ込まれた空気の体積の比率の値である。
【実施例
【0035】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。ただし本発明はこれら実施例に限定されるものではない。含有割合を表す「%」は、特に断りのない限り「質量%」である。後述する例1~3、5、6、8、10、12は実施例であり、例4、7、9、11は比較例である。
【0036】
<測定方法>
脂肪含量:レーゼ・ゴットリーブ法により測定した。
タンパク質含量:ケルダール法により測定した。
全固形分濃度:直接乾燥法により測定した。
SNF濃度:タンパク質含量(ケルダール法)×2.82により算出した。
粘度:B型粘度計(東機産業株式会社製、TVB-10形粘度計)にて、No.1ローター又はNo.2ローターを使用し、回転数60rpmで測定した。粘度が100mPa・s以下の場合はNo.1ローターを使用し、粘度が100mPa・sを超える場合はNo.2ローターを使用した。
粘度の変化率:酸性液状ソフトミックスに対し、オートクレーブにて、72℃40分間の加熱処理を3回行った。その後、酸性液状ソフトミックスの粘度(10℃)を測定し、前記式(1)により変化率を算出した。
【0037】
<原料>
以下の原料を用いた。
全粉乳:森永乳業社製、脂肪26.2%、タンパク質25.5%、SNF70.8%。
脱脂粉乳:森永乳業社製、脂肪1.0%、タンパク質34.0%、SNF95.2%。
ゼラチン:ゼラチンG微粉(製品名)、新田ゼラチン社製。
大豆多糖類:SM-1200(製品名)、三栄源エフ・エフ・アイ社製。
HMペクチン:SM-666(製品名)、三栄源エフ・エフ・アイ社製。
アルギン酸エステル:ダックロイド(製品名)、キッコーマンバイオケミファ社製。
ウェランガム:ウェランガム ビストップW(製品名)、三栄源エフ・エフ・アイ社製。
発酵セルロース:サンアーティスト(製品名)、三栄源エフ・エフ・アイ社製。
加工でんぷん:ファリネックスVA70WM(製品名)、松谷化学社製。
乳化剤:リョートーシュガーエステルS-1570(製品名)、三菱ケミカルフーズ社製、HLB値15のショ糖脂肪酸エステル。
砂糖:ビートグラニュー糖、ホクレン社製。
粉あめ:昭和産業社製。
乳酸:協和ファーマケミカル社製。
乳酸菌スターター:FD-FD-DVS Express1.0(製品名)、クリスチャンハンセン社製。
【0038】
(例1)
<酸性液状ソフトミックスの製造>
全粉乳5.0kg、脱脂粉乳5.6kg、砂糖6.8kg、粉あめ1.0kg、大豆多糖類0.20kg、ゼラチン0.12kg、乳化剤0.1kg、溶解水51.3kgを混合し、溶け残りのないように加温して溶解した後、15MPaの圧力で均質化した。得られた溶液を90℃で10分間加熱殺菌し、43℃に冷却して原料液を得た。原料液のpHは6.3であった。
得られた原料液に乳酸菌スターター4gを添加し、43℃で7時間発酵させた後、攪拌によりカードを破砕して発酵液を得た。発酵液のpHは4.1であった。
別途、ペクチン0.30kg、砂糖6.8kg、粉あめ3.0kg、溶解水19.6kgを混合して後添加液を調製した。
発酵液と乳酸0.4kgと後添加液とを混合し、60℃に加温し、プレート殺菌機にて94℃で20秒間の条件で加熱殺菌し、20℃に冷却して酸性液状ソフトミックスを得た。得られた酸性液状ソフトミックスは容器に充填し、10℃に冷却して保存した。
得られた酸性液状ソフトミックスの脂肪含量、タンパク質含量、全固形分濃度、SNF濃度、pH、製造直後の粘度(10℃)、粘度の変化率を表1に示す。
得られた酸性液状ソフトミックスについて以下の評価を行った。結果を表1に示す。なお、粘度の変化率については、以下に示すフリーザー適性の評価が良好だった場合(評価結果が〇の場合)のみ算出した。
【0039】
<保存性の評価>
酸性液状ソフトミックスを、10℃で30日間保存した。保存後の酸性液状ソフトミックスを目視で観察し、以下の基準で保存性を評価した。
○:離水、沈殿が認められず、均一である。
△:1~2mmほどの僅かな離水が見られ、若干不均一だが振れば元にもどる。
×:完全に上澄みと沈殿物に分離し、振っても完全には元に戻らない。
【0040】
<フリーザー適性の評価>
酸性液状ソフトミックスに対し、ソフトクリーム用フリーザーの殺菌機能による殺菌を行った。その後、以下の基準でフリーザー適性を評価した。
○:3回以上加熱しても、貯液タンク内の酸性液状ソフトミックスが固まっていない。
△:1~2回加熱耐性はあるが、貯液タンク内の酸性液状ソフトミックスが増粘してゲル化の傾向がみられる。
×:1回加熱するだけで、貯液タンク内の酸性液状ソフトミックスがゲル化し固まった。
【0041】
(例2~8)
原料液の組成、乳酸の添加量、後添加液の組成を表1~2に示すようにしたこと以外は例1と同様にして酸性液状ソフトミックスを得、保存性及びフリーザー適性の評価を行った。結果を表1及び2に示す。
【0042】
(例9~12)
原料液の組成、乳酸の添加量、後添加液の組成を表3に示すようにしたこと、及び発酵液と乳酸と後添加液とを混合した後の加熱殺菌を、バッチ殺菌機にて90℃達温の条件で行ったこと以外は例1と同様にして酸性液状ソフトミックスを得、保存性の評価を行った。また、以下のフリーザー適性の簡易評価を行った。結果を表3に示す。なお、粘度(10℃)が1000mPa・sを超えていた例11の酸性液状ソフトミックスについては、脂肪含量、タンパク質含量、全固形分濃度、SNF濃度、pH、製造直後の粘度(10℃)、粘度の変化率は測定しなかった。
【0043】
<フリーザー適性の簡易評価>
酸性液状ソフトミックスの40mLをオートクレーブにて75℃で30分間加熱し、遠沈管に入れ、4000rpm、5分の条件で遠心分離した。その後、離水の状態を観察し、以下の基準で評価した。
○:離水が見られない。
△:はっきりした離水が認められないが、遠沈管の下部が懸濁している。
×:はっきりした離水が認められる。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
ゼラチンと大豆多糖類とペクチンとを含み、粘度(10℃)が500mPa・s以下である例1~3、5、6、8、10、12の酸性液状ソフトミックスは、フリーザー適性を有していた。特に例1~3、5、6、8、10の酸性液状ソフトミックスは、保存性も有していた。
ゼラチンを含まない例4の酸性液状ソフトミックスは、フリーザー適性、保存性ともに有していなかった。
大豆多糖類を含まない例7の酸性液状ソフトミックスは、フリーザー適性、保存性ともに有していなかった。
粘度(10℃)が500mPa・s超である例9、11の酸性液状ソフトミックスは、フリーザー適性、保存性ともに有していなかった。
【0048】
表1の結果から、酸性液状ソフトミックスがゼラチンを含まない場合、保存性、フリーザー適性が共に悪いことがわかる。一方、酸性液状ソフトミックスがゼラチンを含む場合、保存性、フリーザー適性が共に良好で、脂肪含量を振った配合でも脂肪浮上等の問題も生じないことがわかる。
表2の結果から、酸性液状ソフトミックスが大豆多糖類を含まない場合、保存性、フリーザー適性が共に悪いことがわかる。一方、酸性液状ソフトミックスが大豆多糖類を含む場合、大豆多糖類の量、ペクチンの量及び添加のタイミング、乳化剤の量を変更しても、保存性、フリーザー適性が共に許容範囲内となることがわかる。
表3の結果と例8の結果を対比すると、ウェランガムや加工でんぷんの添加は、酸性液状ソフトミックスを大きく増粘させ、保存性、フリーザー適性を悪化させることがわかる。一方、発酵セルロースの添加は、保存性を向上させる可能性があることがわかる。