(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】血糖値低下用又はGI値低下用の組成物又は組み合わせ
(51)【国際特許分類】
A23L 33/145 20160101AFI20240126BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20240126BHJP
A23L 31/15 20160101ALI20240126BHJP
【FI】
A23L33/145
C12N1/16 Z
A23L31/15
(21)【出願番号】P 2019203769
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】714004734
【氏名又は名称】テーブルマーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】冨永 光重
(72)【発明者】
【氏名】近藤 敦
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-307150(JP,A)
【文献】国際公開第2019/212050(WO,A1)
【文献】特開2017-153432(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080490(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179691(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0120569(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
C12N 1/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有する、血糖値低下用食品組成物。
【請求項2】
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有する、GI値低減用食品組成物。
【請求項3】
酵母エキスが、サッカロマイセス属に属する酵母又はカンジダ属に属する酵母の酵母エキスである、請求項1又は2に記載の食品組成物。
【請求項4】
酵母エキスが、サッカロマイセス・セレビシエに属する酵母又はカンジダ・ユチリスに属する酵母の酵母エキスである、請求項3に記載の食品組成物。
【請求項5】
酵母エキスが、酵母の重量に対し0.1重量%-5重量%の濃度のバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼで処理された、
請求項1-4のいずれか1項に記載の食品組成物。
【請求項6】
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼで処理された酵母エキスが、分子量3000以上の高分子を含有する、
請求項1-5のいずれか1項に記載の食品組成物。
【請求項7】
液状、ゲル状、ペースト状、固形状、粉末状又は顆粒状である、
請求項1-6のいずれか1項に記載の食品組成物。
【請求項8】
食品組成物にバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有させることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品組成物と組み合わされる穀物を主原料とする食品、の血糖値低下作用を高める方法。
【請求項9】
食品組成物にバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有させることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品組成物と組み合わされる穀物を主原料とする食品、のGI値を低減させる方法。
【請求項10】
請求項1-7のいずれか1項に記載の食品組成物と、穀物を主原料とする食品との組み合わせ。
【請求項11】
穀物を主原料とする食品が、米、麺、餅、パン、お好み焼、たこ焼、もんじゃ焼、ピザ、トルティーヤ、点心、中華まん、チヂミ、シリアル食品又は菓子である、
請求項10に記載の組み合わせ。
【請求項12】
血糖値低下に用いるための
請求項10又は11のいずれか1項に記載の組み合わせ。
【請求項13】
GI値低減に用いるための
請求項10-12のいずれか1項に記載の組み合わせ。
【請求項14】
請求項1-7のいずれか1項に記載の食品組成物と、穀物を主原料とする食品とを組み合わせることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品の血糖値低下作用を高める方法。
【請求項15】
請求項1-7のいずれか1項に記載の食品組成物と、穀物を主原料とする食品とを組み合わせることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品のGI値を低減させる方法。
【請求項16】
酵母エキスを、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理することを含む、当該酵母エキスの血糖値低下機能を向上させる方法。
【請求項17】
酵母エキスを、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理することを含む、当該酵母エキスのGI値低減機能を向上させる方法。
【請求項18】
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された、血糖値低下機能及び/又はGI値低減機能が向上した酵母エキス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値低下用又はGI値低減用の食品組成物又は組み合わせに関する。本発明はまた、食品組成物及び/又は食品の血糖値低下作用を高める方法、又は、当該食品組成物及び/又は当該食品のGI値を低減させる方法に関する。本発明はさらに、酵母エキスの血糖値低下機能を向上させる方法、又は、酵母エキスのGI値低減機能を向上させる方法、あるいは、血糖値低下機能及び/又はGI値低減機能が向上した酵母エキスに関する。
【背景技術】
【0002】
血糖値は、血液内のグルコース(ブドウ糖)の濃度である。ヒトの血糖値は、血糖値を下げるインスリン、血糖値を上げるグルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンといったホルモンにより、非常に狭い範囲の正常値に保たれている。体内におけるグルコースはエネルギー源として重要である反面、高濃度のグルコースは糖化反応を引き起こし微小血管に障害を与え生体に有害であるため、インスリンなどによりその濃度(血糖値)が常に一定範囲に保たれている。
【0003】
血糖上昇に対する防御機構を、動物はほとんど備えていない。血糖値が高くなったとき、それを調節するホルモンはインスリンだけである。このたった1つの調節メカニズムが破綻した場合、糖尿病などの高血糖症を発症することになる。体内における血糖値を制御し、高血糖を防ぐことは極めて重要である。成人病や糖尿病などの予防のためにも、血糖値を低下させる食品の開発が求められている。
【0004】
醸造酵母が血糖減少特性を有する物質を含有することが知られている。該物質は、クロム結合能を有するキノリン誘導体(分子量174)である(特公平6-86379)。また、Edenらは、インビトロでのラット脂肪細胞を用いた研究で、ビール酵母由来の酵母エキスがインスリンによる脂肪細胞内への糖取り込みを増強することを記載している(N.Edens, et al.:J Nutr. 2002 Jun;132(6):1141-1148)。ただし当該文献のデータは、in vitroのデータに過ぎず、実際に動物に投与したときの作用について、明らかになっていない。
【0005】
特開2009-291076は、乾燥菌体あたり2.5重量%以上のグルタチオンを含有するサッカロマイセス・セレビジエから得られる乾燥酵母エキスにより、高脂肪粉末飼料を与えたマウスにおいて血糖値上昇抑制効果が得られたことを記載している。
【0006】
血糖値低下の目安として、GI値が考案され、食品などの血糖値上昇、低下の指標として広く用いられている。これまで開発されている主な低GI食品は、主に食品ごとの組み合わせによって血糖値の上昇を抑制したり、糖質を難消化性デキストリンなどの他の素材に置き換えることにより、糖の質と量を調整するものであった。
【0007】
WO2017/179691は、血糖値低下用又はGI値低減用の食品組成物を記載している。当該食品組成物は、サッカロマイセス属酵母の酵母エキスを含有する、ものである。当該文献には、穀物を主原料とする食品と、サッカロマイセス属酵母エキスを含有するソースやタレなどを組み合わせることで、GI値を低下させる、ことが記載されている。
【0008】
より優れた血糖値制御(血糖値上昇を抑制する)機能を有し、かつ、味・食感にも優れた食品組成物の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公平6-86379
【文献】特開2009-291076
【文献】WO2017/179691
【文献】WO2016/175235
【文献】WO08/081519
【文献】特開平10-327802
【非特許文献】
【0010】
【文献】N.Edens, et al.:J Nutr. 2002 Jun;132(6):1141-1148
【文献】Jenkins,D.J., et al.:Am. J. Clin. Nutr., 1981;34:362-366
【文献】Atkinson FS,Foster-Powell K,Brand-Miller JC, International Tables of Glycemic Index and Glycemic Load Value:2008. Diab Care 2008;31(12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、血糖値低下用又はGI値低減用の食品組成物又は組み合わせを提供することを目的とする。
本発明者らは、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスが、顕著な血糖値低下作用及びGI値低減作用を有することを見出し、本発明の食品組成物を想到した。本発明者らはさらに、本発明のバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有する食品組成物を、穀物を主原料とする食品と組み合わせることにより、顕著な血糖値低下作用及びGI値低減作用を有する組み合わせを提供することに成功した。
【0012】
本発明はまた、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを用いた、食品組成物及び/又は食品の血糖値低下作用を高める方法、又は、当該食品組成物及び/又は当該食品のGI値を低減させる方法を提供する。本発明はさらに、酵母エキスの血糖値低下機能を向上させる方法、又は、酵母エキスのGI値低減機能を向上させる方法、あるいは、血糖値低下機能及び/又はGI値低減機能が向上した酵母エキスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む
[態様1]
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有する、血糖値低下用食品組成物。
[態様2]
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有する、GI値低減用食品組成物。
[態様3]
酵母エキスが、サッカロマイセス属に属する酵母又はカンジダ属に属する酵母の酵母エキスである、態様1又は2に記載の食品組成物。
[態様4]
酵母エキスが、サッカロマイセス・セレビシエに属する酵母又はカンジダ・ユチリスに属する酵母の酵母エキスである、態様3に記載の食品組成物。
[態様5]
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼが、プロチンSD-NY10(登録商標)又はニュートラーゼ(登録商標)である、態様1-4のいずれか1項に記載の食品組成物。
[態様6]
酵母エキスが、酵母の重量に対し0.1重量%-5重量%の濃度のバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼで処理された、態様1-5のいずれか1項に記載の食品組成物。
[態様7]
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼで処理された酵母エキスが、分子量3000以上の高分子を含有する、態様1-6のいずれか1項に記載の食品組成物。
[態様8]
液状、ゲル状、ペースト状、固形状、粉末状又は顆粒状である、態様1-7のいずれか1項に記載の食品組成物。
[態様9]
食品組成物にバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有させることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品組成物と組み合わされる穀物を主原料とする食品、の血糖値低下作用を高める方法。
[態様10]
食品組成物にバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有させることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品組成物と組み合わされる穀物を主原料とする食品、のGI値を低減させる方法。
[態様11]
態様1-8のいずれか1項に記載の食品組成物と、穀物を主原料とする食品との組み合わせ。
[態様12]
穀物を主原料とする食品が、米、麺、餅、パン、お好み焼、たこ焼、もんじゃ焼、ピザ、トルティーヤ、点心、中華まん、チヂミ、シリアル食品又は菓子である、態様11に記載の組み合わせ。
[態様13]
血糖値低下に用いるための態様11又は12のいずれか1項に記載の組み合わせ。
[態様14]
GI値低減に用いるための態様11-13のいずれか1項に記載の組み合わせ。
[態様15]
態様1-8のいずれか1項に記載の食品組成物と、穀物を主原料とする食品とを組み合わせることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品の血糖値低下作用を高める方法。
[態様16]
態様1-8のいずれか1項に記載の食品組成物と、穀物を主原料とする食品とを組み合わせることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品のGI値を低減させる方法。
[態様17]
酵母エキスを、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理することを含む、当該酵母エキスの血糖値低下機能を向上させる方法。
[態様18]
酵母エキスを、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理することを含む、当該酵母エキスのGI値低減機能を向上させる方法。
[態様19]
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された、血糖値低下機能及び/又はGI値低減機能が向上した酵母エキス。
【発明の効果】
【0014】
本発明の食品組成物は、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有させることにより、顕著な血糖値低下作用及びGI値低減作用を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキス(標品1)、標品1の高分子(分子量3000以上)分画及び低分子(分子量3000以下)分画を分子量で分画した結果を示す。縦軸(mAU)は、吸光度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.食品組成物
本発明は、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有する、血糖値低下用食品組成物、に関する。
【0017】
本発明はまた、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有する、GI値低減用食品組成物、に関する。
「プロテアーゼ」は、ペプチド結合加水分解酵素の総称で、タンパク質やポリペプチドを加水分解して、異化する酵素である。エンド型プロテアーゼは、タンパク質やペプチド鎖の配列中央を切断するタイプである。
【0018】
本発明において酵母エキスの酵素処理に用いるエンド型プロテアーゼは、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)由来である。バチルス属(混合物又は種が不明)由来のプロテアーゼやバチルス サブチリス(Bacillus subtilis)由来のプロテアーゼは含まない。
【0019】
非限定的に、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼは、プロチンSD-NY10(登録商標)又はニュートラーゼ(登録商標)である。プロチンSD-NY10(登録商標)(天野エンザイム社より購入)は、アミノ酸系調味料の製造、ペプチドの製造等に使用されているプロテアーゼである。ニュートラーゼ(登録商標)(ノボザイム ジャパン社より購入)は、タンパク質分解(エキス、調味料など)等に使用されているアルカリ性プロテアーゼである。いずれも食品に使用されている。
【0020】
「酵母エキス」は、酵母の有用な成分を自己消化や酵素、熱水などの処理を行うことにより抽出されたエキスのことである。本発明において、酵母エキスの抽出方法は特に限定されず、例えば、熱水抽出、酵素分解抽出、自己消化抽出などの方法により抽出される。現在の食品と食品添加物との分類では、酵母エキスは食品添加物ではなく、醤油や昆布エキスなどと同様に食品に分類されている。
【0021】
なお、酵母エキスは主成分としてアミノ酸や核酸関連物質、ミネラル、ビタミン類を含み、核酸をより多く含有するタイプ、核酸をほとんど含まずアミノ酸のみを含有するタイプ、核酸とアミノ酸の両方をバランスよく含有するタイプ、などがある。
【0022】
食品組成物に含まれる酵母エキスが由来する酵母の菌種は特に限定されない。非限定的に、酵母エキスは、サッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)に属する酵母又はカンジダ属(Candida sp.)に属する酵母の酵母エキスである。
【0023】
「サッカロマイセス属に属する酵母」は、主にパン発酵、ワイン若しくはビールの醸造などに用いられる酵母である。一態様において、サッカロマイセス属に属する酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(「パン酵母」、「出芽酵母」とも言う)に属する酵母である。出芽酵母は出芽によって増える酵母の総称であるが、「出芽酵母」と言えば、一般には、サッカロマイセス・セレビシエを指す。
【0024】
「カンジダ属に属する酵母」は、無色の不完全酵母で、出芽によって増殖する酵母である。一態様において、カンジダ属に属する酵母は、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)に属する酵母である。
【0025】
一態様として、サッカロマイセス・セレビシエに属する酵母としてはパン酵母、酵母エキスに用いる酵母、酒酵母など様々なものを用いることができ、特に限定されるものではない。
【0026】
一態様として、カンジダ・ユチリスとして使用可能な酵母としては、酵母エキスを作成するために用いる酵母などを使用することができる。
酵母をバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理する条件(酵素濃度、反応時間、温度、pH等)は、該プロテアーゼは酵母エキスに作用し、タンパク質やポリペプチドを少なくとも部分的に加水分解する条件であれば、特に限定されない。非限定的に、一態様において、酵母を、酵母の重量に対し好ましくは、0.1重量%-10重量%、0.5重量%-5重量%、1重量-2重量%の濃度のバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼで処理する。非限定的に、一態様において、酵母を、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼにより少なくとも30分、1時間、2時間、3時間、4時間処理する。使用するエンド型プロテアーゼの種類、酵母の量(反応スケール)等に応じて、10時間以上、例えば約14時間処理してもよい。反応温度は、エンド型プロテアーゼの種類に応じて適宜選択しうる。例えば、プロチンSD-NY10(登録商標)、ニュートラーゼ(登録商標)の場合、非限定的に、約30℃-約70℃、約40℃-約60℃、約50℃でありうる。反応溶液のpHも、エンド型プロテアーゼの種類に応じて適宜選択しうる。非限定的に、一態様において、pH6-8、好ましくは約pH7である。
【0027】
本明細書の実施例6において、分子量3000以上の高分子を含有する画分に、より高いGI低減効果が観察された。非限定的に、一態様において、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼで処理された酵母エキスは、分子量3000以上の高分子を含有する。
【0028】
以下、本明細書において、「バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキス」を単に「酵母エキス」と呼称する場合がある。
「血糖値低下用食品組成物」とは、本発明の食品組成物を主食として摂取した場合、あるいは主食と共に摂取した場合に、摂取しない場合と比べて、血糖値が低下する(あるいは上昇を抑制する)作用を有する食品組成物をいう。血糖値とは血液内のグルコース(ブドウ糖)の濃度である。ヒトの場合、空腹時血糖値はおおよそ80-120mg/dLであるが、食品の摂取により若干増加し、約20分-40分後には、健常者で最高で120-200mg/dLくらいまで上昇する。そして、健常者の場合、食品摂取後120分以内に空腹時血糖値レベルまで低下する。本発明において、「血糖値が低下する(あるいは上昇を抑制する)」とは、食品の摂取による血糖値上昇の最高値が減少する、摂取後の最高血糖値と空腹時血糖値との差(食品の摂取による血糖値上昇の最高値-空腹時血糖値)が減少する、血糖値上昇後、空腹時の血糖値レベルに下がるまでの時間が短くなる、グリセミック・インデックス(GI値)等によって示されるような摂食後血糖値の上昇度が低下する、などを意味する。
【0029】
「食品の摂取による血糖値上昇の最高値が減少する」とは、非限定的に、摂取する食品が酵母エキスを含有する場合に含有していない場合と比較して、上昇した血糖値の最高値が低下すること、好ましくは1mg/dL以上、5mg/dL以上、10mg/dL以上、20mg/dL以上、30mg/dL、40mg/dL以上低下することを意味する。
【0030】
「摂取後の最高血糖値と空腹時血糖値との差(食品の摂取による血糖値上昇の最高値-空腹時血糖値)が減少する」とは、非限定的に、摂取する食品が酵母エキスを含有する場合に、含有していない場合と比較して、「食品の摂取による血糖値上昇の最高値-空腹時血糖値」が減少すること、好ましくは1mg/dL以上、5mg/dL以上、10mg/dL以上、20mg/dL以上、30mg/dL、40mg/dL以上減少することを意味する。
【0031】
「血糖値上昇後、空腹時の血糖値レベルに下がるまでの時間が短くなる」とは、非限定的に、摂取する食品が酵母エキスを含有する場合に含有していない場合と比較して短くなること、好ましくは1分以上、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上短くなる、60分以上短くなる、ことを意味する。
【0032】
本明細書において、「血糖値低下作用」は、一態様として「GI値低減作用」を含む。「血糖値低下作用」の有無は、例えばGI値低減作用の有無を測定することにより判定することができる。
【0033】
「GI(グリセミックインデックス)」とは、食品に含まれる糖質の血液中への吸収度合いを示すものであり、食品ごとの摂取後の血糖値の上昇度合いを間接的に表現する数値である。具体的には、食品摂取2時間までに血液中に入る糖質量を計測したものであり、グルコース50gのIAUC(血糖上昇曲線下面積)を100とした時の検査食(糖質として50g相当)のIAUCの割合により算出する(Jenkins,D.J., et al.:Am. J. Clin. Nutr., 1981;34:362-366)。
【0034】
【0035】
上昇速度やピーク値は低くても、長時間血糖値が上がったままの食品は面積が大きくなりGI値が高くなる。また、急激に高い血糖値へ上昇し、大量のインスリンを分泌し、速やかに下降するような食品は面積が小さくなりGI値は低くなる。
【0036】
グルコースを基準とした場合、GI値70以上の食品を「高GI食品」、GI値56-69の間の食品を「中GI食品」、そして、GI値55以下の食品を「低GI食品」と定義する(Atkinson FS,Foster-Powell K,Brand-Miller JC, International Tables of Glycemic Index and Glycemic Load Value:2008. Diab Care 2008;31(12))。
【0037】
一般に、低GI食品とは、本来GI値の低い食品、あるいは、製造法、調理法の改良や血糖値低下作用を有する物質の添加により、GI値を低減させた食品を意味し、そのGI値は55以下とされている。本明細書において、低GI食品のGI値は、好ましくは55以下、50以下、47以下、45以下、42以下である。血糖値低下作用を有する物質の機序は、特に限定されるものではない。
【0038】
「GI値低減用食品組成物」とは、摂取する食品が酵母エキスを含有する場合に、含有していない場合と比較して、GI値が低減する(あるいは上昇を抑制する)作用を有する食品組成物をいう。また「GI値低減用食品組成物」は、本発明の食品組成物を、穀物を主原料とする食品組成物と共に摂取した場合に、摂取しない場合と比べて、GI値が低減する(あるいは上昇を抑制する)作用を有する食品組成物であってもよい。本発明の「GI値低減用組成物」は、酵母エキスを含有することによって、その食品組成物自体のGI値が低減する食品組成物、並びに、穀物を主原料とする食品組成物と共に摂取した場合に穀物を主原料とする食品組成物のGI値を低減させる作用を有する食品組成物、の双方を含む。
【0039】
本明細書において、「GI値が低減する」とは、非限定的に、摂取する食品が酵母エキスを含有する場合に含有していない場合と比較し、食品組成物のGI値が低減すること、好ましくは、10%以上、20%以上、30%以上、35%以上、40%以上低減すること、を意味する。
【0040】
本発明の酵母エキスを含有する食品組成物の種類は特に限定されない。好ましくは、液状、ゲル状、ペースト状、固形状、粉末状又は顆粒状である。より好ましくは、液状である。例えば、つゆ、たれ、ソースなどの態様が含まれる。本発明の食品組成物は、温かい状態であっても冷たい状態でもよい。本発明の食品組成物は、調理後に酵母エキスを添加されたものであっても、酵母エキスを含む状態で(加熱)調理されたものであってもよい。また、本発明の食品組成物は、限定されるものではないが、酵母エキスが喫食時の食味に悪影響を与えないものが好ましい。
【0041】
本発明の食品組成物は、非限定的にヒトを対象とする。健常者であっても、血糖制御を必要とする疾患・症状を伴う患者、特に、高血糖症(糖尿病、薬剤性高血糖症等)を伴う患者を対象としてもよい。好ましくは健常者である。
【0042】
腸管内分泌細胞から分泌される消化管ホルモンの一部は、インクレチンとも呼ばれ、食事摂取に伴い血中に分泌され、膵臓のβ細胞に作用し、インスリン分泌を促進する。インクレチンは、インスリン分泌を促進するだけでなく、膵β細胞の再生を促し、また迷走神経を介して中枢神経系にも作用し、摂食行動を抑制するため、糖尿病や肥満症の新規治療薬開発のための標的として注目されている。インクレチンには、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic peptide;GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1;GLP-1)の2種類が存在する。
【0043】
GLP-1は下部小腸に存在する小腸内分泌L細胞(以下、「L細胞」)から分泌される。L細胞には、ナトリウム依存性グルコーストランスポーターが存在し、細胞外、つまり管腔内のグルコースとナトリウムを細胞内へ共輸送する。その結果、膜電位が脱分極し、電位依存性L型Ca2+チャネルが活性化する。この電位依存性L型Ca2+チャネルから細胞内へCa2+が流入することにより、GLP-1がグルコース依存的に開口放出される。
【0044】
理論に縛られるわけではないが、酵母エキスの添加によるGI値低減作用は、酵母エキスは、インクレチンによりインスリン分泌を強め、血糖値低下作用、GI値低減効果を有する、と考えられる。
【0045】
酵母エキスをバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理し、高分子ペプチドの状態で食品中に存在させることにより、高い血糖値上昇抑制効果が得られる。理論に縛られるわけではないが、高分子の状態で喫食され、体内で分解されることにより効果が発揮すると推測される。
【0046】
II.食品または食品組成物の血糖値低下作用を高める方法又はGI値を低減させる方法。
本発明はまた、食品組成物にバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有させることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品組成物と組み合わされる穀物を主原料とする食品、の血糖値低下作用を高める方法、に関する。
【0047】
本発明はさらに、食品組成物にバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有させることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品組成物と組み合わされる穀物を主原料とする食品、のGI値を低減させる方法、に関する。
【0048】
「食品組成物」、「バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキス」、「血糖値低下作用を高める」、「GI値を低減させる」については、「I.食品組成物」において上述した通りである。「穀物を主原料とする食品」については、後述の「III.組み合わせ」において説明する。
【0049】
III.組み合わせ
本発明はさらに、本発明の食品組成物と、穀物を主原料とする食品の組み合わせ、に関する。本発明の組み合わせは、特に「血糖値低下」又は「GI値低減」に用いるために、特に有用である。本発明はまた、酵母エキスを含有する食品組成物と、穀物を主原料とする食品を含むセットに関する。本発明のセットは、血糖値低下作用を高めるため、あるいは、GI値を低減させるために使用できる。
【0050】
「食品組成物」、「血糖値低下作用を高める」、「GI値を低減させる」については、「I.食品組成物」において上述した通りである。
穀物を主原料とする食品は特に限定されない。限定されるものではないが、穀物としては、イネ(モチ米を含む)、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ライムギ、ライコムギ、ソバ、モロコシ、アワ、ヒエ、その他の雑穀が挙げられる。穀物を主原料とする食品は、穀物を粒の状態で調理したものであってよく、またこれらの穀物を加工した食品であってもよい。前者の例としては、米、後者の例としては、穀物粉生地を利用して製造される加工食品が挙げられる。穀物を加工した食品として、非限定的に、麺、餅、パン、お好み焼(ねぎ焼、広島焼を含む)、たこ焼、もんじゃ焼、ピザ、トルティーヤ、点心、中華まん、チヂミ、シリアル食品又は菓子(クレープ等)などが挙げられる。
【0051】
米は、炊飯米、炒飯、粥、パエリア等の態様であってよく、調理方法は特に限定されない。米の種類、品種も限定されなない。
麺は、非限定的に、好ましくは、うどん、冷や麦、素麺、そば、パスタ、中華麺、及びライスヌードルからなる群から選択される。麺は、常温麺、冷蔵麺、冷凍麺等の態様であってよい。
【0052】
餅は、もち米を加工して作る食品で、種類は特に限定されない。粒状の米を蒸して杵でついた「つき餅」と、穀物の粉に湯を加えて練り、蒸し上げた練り餅の2種類に大別され、いずれも本発明の穀物を主原料とする食品に含まれる。
【0053】
パンの種類も、特に限定されない。食パン(トースト)、水分量の少ないバケット、油分の多いクロワッサン等、様々なタイプのものを含む。麦を材料とする通常のパンの他、米を材料とする米パンも含む。
【0054】
お好み焼(ねぎ焼、広島焼を含む)、たこ焼、もんじゃ焼も、種類は特に限定されない。小麦を材料とし、中に含まれる具は限定されない。
ピザ、トルティーヤも、種類は特に限定されない。ピザは、小麦粉、水、塩、イースト、砂糖、少量のオリーブ油をこねた後に発酵させて生地を薄くのばし、その上に具を乗せ、オーブンや専用のかまどなどで焼いた食品である。トルティーヤは、すりつぶしたトウモロコシから作る、メキシコ等の伝統的な薄焼きパンである。小麦粉から作られた同様のものもトルティーヤと呼ばれる。
【0055】
点心は、中華料理の軽食の総称である。本発明における点心は、穀物を主原料とする点心であれば、種類は限定されない。餃子、焼売、春巻、小籠包等を含む。
中華まんとは、小麦粉、水、砂糖、酵母、ベーキングパウダーなどをこねて発酵させた柔らかい皮で具を包み、蒸し上げた饅頭である。具の種類に応じて、肉まん、あんまんなどがあるが、本発明において種類は限定されない。
【0056】
チヂミは、小麦粉、米粉、水、卵に適当な具(タマネギ、ニラ、ニンジン、ネギなど)を混ぜ合わせたタネを、フライパンで多めの油で揚げるように焼いたものである。韓国風お好み焼とも呼ばれる。
【0057】
シリアル食品は、トウモロコシ、オーツ麦、小麦、大麦、米などの穀物を押しつぶして薄い破片(フレーク)にする、パフ状にする(膨張させる)、混ぜ合わせてシート状にしてから砕く、などの加熱調理で食べやすく加工し、長期保存に適した形状にした簡便食である。本発明においてシリアル食品の種類は特に限定されず、例えば、コーンフレーク、オートミール等を含む。
【0058】
菓子の種類も、特に限定されない。例えば、饅頭等の和菓子、ケーキ、クレープ、ガレット等の洋菓子、ごま団子、月餅等の中華菓子などが含まれる。
このような穀物を主原料とする食品は、炭水化物を豊富に含んでおり、食事の主食となることが多い。
【0059】
本発明の組み合わせにおいて、酵母エキスを含有する食品組成物の種類は特に限定されない。好ましくは、液状、ゲル状、ペースト状、固形状、粉末状又は顆粒状である。より好ましくは、液状である。例えば、つゆ、たれ、ソースなどの態様が含まれる。食品組成物は、温かい状態であっても冷たい状態でもよい。
【0060】
穀物を主原料とする食品、例えば麺に酵母エキスを含有させると、物性(滑らかさ、粘り、弾力等)が変化し、味、食感が低下する場合がある。穀物を主原料とする食品に、例えば液状の本発明の酵母エキスを含有する食品組成物を組み合わせることにより、味、食感が低下する、という問題を解消できる。
【0061】
例えば、穀物を主原料とする食品が麺の場合、酵母エキスを含有する食品組成物として液状のつゆ(例えば、うどんに対するめんつゆ)、タレ、スープ、汁等を提供することが可能である。麺は、つゆと麺が別になっている「つけ麺」タイプであっても、スープ(汁)が麺に掛かっている「かけ麺」タイプであってもよい。
【0062】
穀物を主原料とする食品、酵母エキスを含有する食品組成物の組み合わせの例としては、他にも例えば、お茶漬け(ご飯と出汁)、カレーライスのライスとカレー、ご飯と味噌汁、お好み焼とソース、ケーキと紅茶又はコーヒー、など、通常組み合わせて食するものであれば、特に限定されない。
【0063】
「組み合わせて食する」とは、穀物を主原料とする食品が麺の場合、酵母エキスを含有する食品組成物とを完全に同時に口に入れる場合(例えば、うどんとめんつゆ、お茶漬けのご飯と出汁、お好み焼とソースなど)のみならず、1回の食事において実質的に同時に体内に取り入れるような態様も含む。本発明において酵母エキスを含有する食品組成物を
穀物を主原料とする食品と組み合わせて食することにより、体内において酵母エキスの有効成分が吸収され、穀物を主原料とする食品の消化・吸収による血糖値上昇を抑制、及び/又は、血糖値低下を促進させる効果が得られる。酵母エキスを含有する食品組成物が液状の場合、その有効成分の吸収が早いため、同時に食する穀物を主原料とする食品の消化・吸収による血糖値上昇の抑制/血糖値低下の促進を一層効果的に行うことができ、より好ましい。
【0064】
本発明はまた、本発明の食品組成物と、穀物を主原料とする食品とを組み合わせることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品の血糖値低下作用を高める方法、に関する。
本発明はさらに、食品組成物と、穀物を主原料とする食品とを組み合わせることを含む、当該食品組成物及び/又は当該食品のGI値を低減させる方法に関する。
【0065】
本発明はさらにまた、本発明の食品組成物と、穀物を主原料とする食品の組み合わせの、当該食品組成物及び/又は当該食品の血糖値低下作用を高める方法への使用、あるいは、本発明の食品組成物と、穀物を主原料とする食品の組み合わせの当該食品組成物及び/又は当該食品のGI値を低減させる方法への使用に関する。
【0066】
IV.酵母エキスの血糖値低下機能又はGI値低減機能を向上させる方法
本発明はまた、酵母エキスを、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理することを含む、当該酵母エキスの血糖値低下機能を向上させる方法、に関する。
【0067】
本発明はまた、酵母エキスを、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理することを含む、当該酵母エキスのGI値低減機能を向上させる方法、に関する。
【0068】
本発明はさらに、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された、血糖値低下機能及び/又はGI値低減機能が向上した酵母エキス、に関する。
【0069】
「バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキス」、「血糖値低下作用を高める」、「GI値を低減させる」については、「I.食品組成物」において上述した通りである。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
実施例1 酵母エキスの調製
(1)酵母エキスの調製
本実施例では、食品組成物に含有させる各酵母エキスを調製した。
【0072】
【0073】
各酵母の重量に対して1.3%の割合で表1に記載の各プロテアーゼ(スミチームFP-G:新日本化学工業社より購入、ニュートラーゼ:ノボザイムズ ジャパン社より購入、プロチンSD-NY10:天野エンザイム社より購入、ビオプラーゼOP:長瀬産業社より購入、オリエンターゼ90N:エイチビィアイ社より購入)を加え、表1の条件で酵素処理を行った。酵素処理の条件は、温度は50℃-55℃(酵母エキス4のみ70℃)、反応時間は4時間又は14時間で、pHはpH7(酵母エキス4のみpH10)あった。遠心分離により水溶性分画を回収し、食品組成物に含有させる酵母エキスとした。
【0074】
酵母の種類として、サッカロマイセス・セレビシエに属する酵母は、「α」(パン酵母、受託番号FERM BP-8081)、「β」(パン酵母、カネカイーストGA、カネカ社製)、「γ」(酵母エキス用酵母、寄託番号NITE BP-02025)、「δ」酵母エキス用酵母、受託番号FERM BP-10725)を用いた。カンジダ・ユチリスとして、「ε」(酵母エキス用酵母、受託番号FERM BP-5956)を用いた。
【0075】
実施例2 各酵母エキスのGI測定試験
本実施例では、各酵母エキスのGI値を測定した。
(2-1)GI値の測定条件
無作為に選んだ男女7-13名をパネラーとした。パネラーは、前日の夜10時以降を絶食とし、朝7時から10時の間に血糖値試験を開始した。血糖値は、メディセーフフィット(テルモ社製)又はメディセーフファインタッチ(テルモ社製)を用い、指先採血を行うことで測定した。
【0076】
摂取前に空腹時の血糖値を測定し、試験食を摂取した。試験食として、糖質の含有量を50gに調整した食品に、酵母エキスを固形分で0.1-1.0g添加したものを使用した。
【0077】
試験食の摂取前、試験食摂取開始から15分、30分、45分、60分、90分、120分の血糖値を測定し、IAUCを算出し、GI値を求めた。
(2-2)炒飯へ添加時のGI値測定と官能評価(食味)
(方法)
所定の方法で製造した炒飯164gに実施例1で製造した各酵母エキスを固形分で0.5g添加し、試験食として摂取した。そして、(2-1)の条件で血糖値を測定し、GI値を求めた。結果を表2に示す。
【0078】
【0079】
(結果)
アスペルギルス オリザエ由来のプロテアーゼ(スミチームFP-G)を用いて抽出した酵母エキス1を用いると、無添加時よりGI値が上昇した。
【0080】
バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型中性プロテアーゼ(ニュートラーゼ、プロチンSD-NY10)を用いて抽出した酵母エキス2、3,6,7、8、9を用いると、酵母の種類にかかわらず無添加時よりGI値が低下した。
【0081】
バチルス属(混合物又は種が不明)由来のプロテアーゼ(ビオプラーゼOP)やバチルス サブチリス由来のプロテアーゼ(オリエンターゼ90N)を用いて抽出した酵母エキス4,5を用いると、無添加時よりGI値が上昇した。
【0082】
(考察)
[GI値低減効果について]
上記の結果より、酵母の種類は、血糖値上昇抑制効果にはあまり関与しないのではないかと推察される。例えば、酵母エキス3、6、7、8、9はすべて酵母の種類が異なるが、いずれも無添加時よりGI値が低下した。酵母エキス抽出に用いる酵素の起源が重要であり、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼを用いた場合、GI値が低下した。
【0083】
以下、酵母エキス3について検討する。
(2-3)バケットへ添加時のGI値測定
(方法)
酵母エキス3を添加した発酵種を用い、中種法により、バケットを製造した。バケットの配合は以下の通りである。
【0084】
【0085】
無作為に選んだ男女9名をパネラーとした。バケット1個(約97g)、マーガリン6g、水150mlを同時に摂取した。そして、上記(2-1)の条件で血糖値を測定し、GI値を求めた。
【0086】
【0087】
食味は、本物のチーズっぽくなり、ポン・デ・ケイジョ(チーズパン)に近い味であった。セモリナ由来の生地のような風味であった。総じて、酵母エキスを添加しない場合と比較して、明らかに何かが添加されていることはわかるが、不快な風味ではなかった。
【0088】
(2-4)白だしへ添加時のGI値測定
(方法)
無作為に選んだ男女5名をパネラーとした。白だし5gに酵母エキス3を27.2g(水分率96.3%)を添加したつゆを喫食し、15分後、白米150gを喫食した。その後、上記(2-1)の条件で血糖値を測定し、GI値を求めた。対照の無添加は、無菌米飯150gと白だし5gとし、白飯の喫食の15分前につゆ(白だし5g)を喫食した。
【0089】
【0090】
(2-5)トーストへ添加時のGI値測定
(方法)
無作為に選んだ男女8名をパネラーとした。はじめに中種法により、トーストを焼成した。一方、マーガリン(4g)に酵母エキス3を固形分で0.5g添加したマーガリンを作成した。そして、トースト1個(約123g)に酵母エキス3を添加したマーガリンと水150mlを同時に摂取した。そして、上記(2-1)の条件で血糖値を測定し、GI値を求めた。対照の無添加は、トースト1個(約123g)とマーガリン(4g)と水150mlを同時に摂取した。
【0091】
【0092】
(2-6)小括
炒飯で効果の高かった酵母エキス3のGI値低減効果を、バケット、白だし及びトーストに関しても確認することができた。特に、白だしとトーストへの酵母エキス3を添加したGI値は、無添加時に対する有意差が認められた。
【0093】
実施例3 ベンチスケールでの標品の調製
本実施例では、ベンチスケールでの標品(バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンド型プロテアーゼによって処理された酵母エキスを含有する、組成物)を調製した。
【0094】
サッカロマイセス属酵母FT-4株の固形分10%懸濁液を1000L調整し、プロテアーゼ(プロチンSD-NY10)1470.5gを加え、50℃で14時間、pH7.0の条件下で酵素処理を行った。その後、85℃で30分間加熱により酵素を失活させた後、遠心分離により可溶性成分のみを回収した。次に、メンブランフィルターでろ過し、その後減圧濃縮を行い、酵母エキスを20.88kg得た。
【0095】
更に、得られた酵母エキスの一部を、噴霧乾燥し、粉末体2.9kgを得た。得られた酵母エキスを以下の実施例において、「標品1」と呼称する。
実施例4 ごま団子への添加時のGI値測定
本実施例では、酵母エキスをごま団子へ添加した場合のGI値を測定した。
【0096】
(方法)
下記の配合で原材料を混合し生地を作成した。
【0097】
【0098】
次に、生地とこし餡をそれぞれ1個分ずつの分量(生地18.75g、こし餡6.1g)に測り取り、丸めて、1時間、冷蔵した。その後、こし餡を生地で包み、団子状とした表面にごまをまぶして油ちょう後、冷凍保存した。
【0099】
無作為に選んだ男女5名をパネラーとした。GI値測定時には、凍結したごま団子を自然解凍し、ごま団子109.4gと水150mlを同時に摂取した。そして、上記(2-1)の条件で血糖値を測定し、GI値を求めた。
【0100】
【0101】
(結果)
標品1をごま団子の生地に用いると、GI値低減効果が認められた。標品1添加品は香ばしい焦げ風味があった。また、酵母エキスの異味はなかった。
【0102】
実施例5 標品1の成分分析
本実施例では、実施例3で調製した標品1の成分分析を行った。
(アミノ酸測定)
実施例3で得た標品1について、遊離アミノ酸及び全アミノ酸の含量を測定した。
【0103】
標品1の固形分を蒸留水にて1%に調整した後、酵母エキス200μlに6%過塩素酸300μlを加えて、超音波処理を5分行った。さらに2NのHClを100μl加えた。これを500μlチューブにとり、500μlの蒸留水を加え混合した後、12000rpmで10分間遠心した。上清を0.2μmのフィルターで濾過し、遊離アミノ酸測定試料とした。
【0104】
標品1を固形分6%に調整した後、2mlをバキュームチューブにいれ、2mlの濃塩酸を加えた。バキュームチューブを冷却しつつ、脱気したのち、120℃で24時間加熱し加水分解処理を行った。加水分解処理を行ったサンプルを蒸留水にて100倍希釈し、0.2μmのフィルターで濾過し、全アミノ酸試料とした。
【0105】
遊離アミノ酸測定試料、全アミノ酸試料の各々におけるアミノ酸含量についてアミノ酸分析機(日立L―8900)を用い測定した。反応液には、ニンヒドリンを用いた。測定結果は、mg/100gで示す。
【0106】
アミノ酸量
全アミノ酸 77573.1mg/100g
遊離アミノ酸 2252.1mg/100g
実施例6 高分子(分子量3000以上)高含有酵母エキス及び低分子(分子量3000以下)高含有酵母エキスのGI値
本実施例では、高分子(分子量3000以上)高含有酵母エキス及び低分子(分子量3000以下)高含有酵母エキスのGI値を測定した。
【0107】
(6-1)サンプルの調製
実施例3で得た酵母エキス(標品1)30gを蒸留水で1%の水溶液に調整した。分画分子量3000のペンシル型モジュール(MFペンシル型モジュールSEP-0013:旭化成ケミカルズ社製)を用い、容器を氷で冷却しながら24時間、分画を行った。透過しなかったサンプルを減圧濃縮し、凍結乾燥することで高分子高含有酵母エキス9.0g得た。一方、透過したサンプルを減圧濃縮し、凍結乾燥することで低分子高含有酵母エキス20.4gを得た。
【0108】
(6-2)GI値測定
酵母エキス無添加時(無添加)、酵母エキス添加時(標品1)、(6-1)で得た高分子高含有酵母エキス添加時(高分子分画)、低分子高含有酵母エキス添加時(低分子分画)の各サンプルについて、実施例2と同様の方法で、GI値を求めた。無作為に選んだ男女12名をパネラーとした。
【0109】
血糖値は、メディセーフフィット(テルモ社製)又はメディセーフファインタッチ(テルモ製)を用い、指先採血を行うことで測定した。
【0110】
【0111】
(結果)
酵母エキスについて、分子量3000のペンシル型モジュールを透析しなかった高分子分画についてGI値低減効果が最も大きく、標品1と低分子分画のGI値低減効果はほぼ同様であった。ただし、標品1、低分子分画の場合も高分子分画よりも小さいものの、無添加の場合と比較すると、いずれもGI値低減効果が観察された。これは、大部分が分子量3000以下の低分子分画については、標品1とほぼ同様のGI値低減効果であることに対し、大部分が分子量3000以上の高分子分画については、GI値低減効果が向上したことを示している。
【0112】
実施例7 高分子(分子量3000以上)高含有酵母エキスと低分子(分子量3000以下)高含有酵母エキスの各分子量分画
本実施例では、高分子(分子量3000以上)高含有酵母エキスと低分子(分子量3000以下)高含有酵母エキスについて分子量で分画した。
【0113】
(方法)
実施例3で得た標品1、実施例6で得た高分子分画(分子量3000以上)、低分子分画(分子量3000以下)、それぞれの酵母エキスを蒸留水で固形分1%に希釈した。希釈溶液を0.20マイクロのフィルターでろ過し測定用試料を調製した。
【0114】
測定用試料をGPC法(Gel Permeation Chromatography;ゲル浸透クロマトグラフィー)法により、下記条件下で分子量測定を行った。分子量解析は、ビタミンB12(分子量1355.38)とアプロチニン(分子量6511.44)のマーカーにおけるリテンションタイムにて検量線を引き、算出した。
【0115】
(マーカーについて)
ビタミンB12(分子量1355.38):リテンションタイム39.7分
アプロチニン(分子量6511.44):リテンションタイム26.5分
(測定条件)
装置:LC-10AD(SHIMADZU)
検出器:SPD-10A(SHIMADZU)
流速:0.4ml/分
注入量:10μl
検出波長:UV 214nm
カラム:Superdex TM 30 Increase 10/300GL(GEヘルスケアライフサイエンス)
カラム温度:RT
移動相:2×PBS(pH7.4)
0.02M リン酸緩衝液
0.28M NaCl
0.006M KCl
2×PBSは調製後30分超音波処理したものを使用した。
(結果)
結果を
図1に示す。標品1と比べて低分子分画の分子量分布はほとんど同様であった。低分子分画の分子量分布において、リテンションタイム30分前後の分画は少なく、その後は標品1とほぼ同様の分布である。一方、高分子分画の分子量分布において、リテンションタイム30分前後の分画が多く見られた。このことは、GI値低減効果を有する分子は広い分子量で分散しているものの、本試験でのリテンションタイム20-40分の、いわゆる高分子分画で特にGI値低減効果が高いことが示された。