(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】接着剤組成物、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
C09J 101/08 20060101AFI20240126BHJP
C09J 101/12 20060101ALI20240126BHJP
C09J 133/02 20060101ALI20240126BHJP
A47K 10/16 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
C09J101/08
C09J101/12
C09J133/02
A47K10/16 A
(21)【出願番号】P 2019219317
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019204150
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】安井 皓章
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099655(JP,A)
【文献】国際公開第2015/107995(WO,A1)
【文献】特開2016-166258(JP,A)
【文献】特開2017-002136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):
水溶性カルボキシメチルセルロース又はその塩と、
成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーと、
成分(C):水溶性アクリル系ポリマーと、
水と
を含有する、接着剤組成物。
【請求項2】
前記成分(C)が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸共重合体、ポリメタクリル酸共重合体、ポリアクリル酸ソーダ共重合体、ポリアクリル酸エステル、及びポリアクリル酸エステル共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項
1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記成分(B)が、酸化セルロースナノファイバーを含み、
前記酸化セルロースナノファイバーのカルボキシ基量が、0.60~2.0mmol/gである、請求項1
又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記成分(B)が、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含み、
前記カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのカルボキシメチル置換度が、0.010~0.50である、請求項1
又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
下記式(1)で表される減粘率が、55%以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
(1):((調製直後の接着剤組成物のB型粘度)-(40℃で14日保管後の接着剤組成物のB型粘度))/(調製直後の接着剤組成物のB型粘度)×100
(前記式(1)中、B型粘度は、25℃、60rpmの条件で測定した値である。)
【請求項6】
少なくとも成分(A):水溶性カルボキシメチルセルロース又はその塩及び成分(C):水溶性アクリル系ポリマーを水に溶解した後、成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーを添加して撹拌する工程、或いは
成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーを水に添加して撹拌した後、少なくとも成分(A):水溶性カルボキシメチルセルロース又はその塩及び成分(C):水溶性アクリル系ポリマーを添加して溶解する工程、を含み、
前記撹拌が、30~5000rpmの撹拌速度で、5~180分間撹拌する、接着剤組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いたテールシール糊。
【請求項8】
請求項
7に記載のテールシール糊によるシール部を有するロール紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、その製造方法及び用途に関し、詳しくは、接着剤組成物、接着剤組成物の製造方法、接着剤組成物を利用したテールシール糊及びロール紙に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパー等のロール製品(ロール紙)は、ロールの巻き終わり部位やロールの巻き始め部位がテールシール糊とよばれる接着剤で固定されている。このような接着剤の素材として、アクリル系水溶性ポリマーと、無機酸塩を含む接着剤組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テールシール糊は、接着時にロールの巻き終わり部位やロールの巻き始め部位が外れないよう固定する特性と、使用時にペーパーが破れないよう容易に剥がれる特性や使用後の廃棄時にペーパーが紙管から容易にはがれる特性が要求される。すなわち、接着時には接着力が強く、使用時には接着力が弱いことが望ましい。
特許文献1に記載の接着剤組成物は、接着力が経時変化しないものである。そのため、接着時にロールの巻き終わり部位が外れないよう固定するために接着力を強く設計すると、使用時にペーパーが破れてしまう。一方、使用時にペーパーが破れないよう接着力を弱く設計すると、接着時にロールの巻き終わり部位が外れてしまう。
【0005】
ところで、接着時には接着力が強く、使用時には接着力が弱くなる組成物を調製すると、組成物の粘度が経時的に減少してしまう。組成物の粘度の経時的な減少は、特に夏場の高温時に起きやすい。組成物の粘度が経時的に減少すると、塗布量にムラが生じて、製品の品質が変動することが懸念される。そのため、粘度の経時的な減少をできる限り小さくし得る接着剤組成物が望まれている。
【0006】
本発明の課題は、粘度の経時的な減少をできる限り小さくし得る接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、接着剤組成物が成分(A):カルボキシメチルセルロース又はその塩と、成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーと、を含有することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕~〔9〕を提供する。
〔1〕成分(A):カルボキシメチルセルロース又はその塩と、成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーと、を含有する、接着剤組成物。
〔2〕成分(C):アクリル系ポリマーと、をさらに含有する、上記〔1〕に記載の接着剤組成物。
〔3〕前記成分(C)が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸共重合体、ポリメタクリル酸共重合体、ポリアクリル酸ソーダ共重合体、ポリアクリル酸エステル、及びポリアクリル酸エステル共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、上記〔2〕に記載の接着剤組成物。
〔4〕前記成分(B)が、酸化セルロースナノファイバーを含み、前記酸化セルロースナノファイバーのカルボキシ基量が、0.60~2.0mmol/gである、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の接着剤組成物。
〔5〕前記成分(B)が、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含み、前記カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのカルボキシメチル置換度が、0.010~0.50である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の接着剤組成物。
〔6〕下記式(1)で表される減粘率が、55%以下である、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の接着剤組成物。
(1):((調製直後の接着剤組成物のB型粘度)-(40℃で14日保管後の接着剤組成物のB型粘度))/(調製直後の接着剤組成物のB型粘度)×100
(前記式(1)中、B型粘度は、25℃、60rpmの条件で測定した値である。)
〔7〕少なくとも成分(A):カルボキシメチルセルロース又はその塩、を水に溶解した後、成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーを添加して撹拌する工程、或いは成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーを水に添加して撹拌した後、少なくとも成分(A):カルボキシメチルセルロース又はその塩、を添加して溶解する工程、を含み、前記撹拌が、30~5000rpmの撹拌速度で、5~180分間撹拌する、接着剤組成物の製造方法。
〔8〕上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の接着剤組成物を用いたテールシール糊。
〔9〕上記〔8〕に記載のテールシール糊によるシール部を有するロール紙。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粘度の経時的な減少をできる限り小さくし得る接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書中、「AA~BB」(A及びBは、数字を意味する)の表記は、AA以上BB以下を意味する。
【0010】
[1.接着剤組成物]
本発明の接着剤組成物は、成分(A):カルボキシメチルセルロース又はその塩(以下、「成分(A)」ともいう)と、成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバー(以下、「成分(B)」ともいう)と、を含有する。また、本発明の接着剤組成物は、成分(C):アクリル系ポリマー(以下、「成分(C)」ともいう)と、をさらに含有することが好ましい。
本発明の接着剤組成物は、成分(A)を含有するので、接着時には接着力が強く、使用時には接着力が弱くなる性質を付与し得る。本発明の接着剤組成物は、成分(B)を含有するので、粘度の経時的な減少をできる限り小さくし得る。また、本発明の接着剤組成物は、成分(C)を含有する場合に、本発明の効果を特に発揮しつつ、接着時の接着性を付与し得る。
【0011】
[1-1.成分(A)]
成分(A)は、カルボキシメチルセルロース又はその塩である。カルボキシメチルセルロース又はその塩は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を有する。カルボキシメチルセルロースの塩としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の金属塩が挙げられる。成分(A)のカルボキシメチルセルロースは水溶性高分子の一種である。
なお、本明細書中、「セルロース」とは、D-グルコピラノース(以下、「グルコース残基」ともいう)がβ-1,4-結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に、起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非晶質領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。
【0012】
カルボキシメチルセルロース又はその塩は、従来公知の方法により調製し得る。例えばセルロース原料を出発原料にし、溶媒中、マーセル化剤と混合してマーセル化処理を行った後、カルボキシメチル化剤によりエーテル化反応を行うことで、カルボキシメチルセルロース又はその塩を調製することができる。
【0013】
セルロース原料としては、例えば、天然セルロース、再生セルロース、及び微細セルロースが挙げられる。
天然セルロースとしては、例えば、晒又は未晒パルプ、精製リンター、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロースが挙げられる。晒又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹が挙げられる。晒又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいは、機械的方法及び化学的方法を組み合わせた方法が例示される。晒又は未晒パルプとしては、メカニカルパルプ、ケミカルパルプ、砕木パルプ、亜硫酸パルプ、クラフトパルプ、製紙用パルプが例示される。また晒又は未晒パルプとしては、化学的に精製され、主として薬品に溶解して使用する、人造繊維、セロハンなどの主原料となる溶解パルプも例示される。
再生セルロースとしては、例えば、セルロースを、銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体等の溶媒に溶解し、改めて紡糸して得られる再生セルロースが挙げられる。
微細セルロースとしては、天然セルロース、再生セルロース等のセルロース系素材を、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等によって解重合処理して得られる微細セルロース、セルロース系素材を機械的に処理して得られる微細セルロースが例示される。
【0014】
溶媒としては、例えば、1種単独又は2種以上の低級アルコール(メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3級ブチルアルコール等)と水の混合溶媒を使用することができる。
なお、低級アルコールの混合割合は、通常、60~95質量%である。溶媒の使用量は、質量換算で、通常、セルロース原料の3~20倍である。
【0015】
マーセル化剤としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を使用することができる。マーセル化剤の使用量は、出発原料のグルコース残基当たり、モル換算で、0.5~20倍である。
【0016】
マーセル化処理の反応温度は、通常、0~70℃であり、10~60℃が好ましい。また、その反応時間は、通常、15分~8時間であり、30分~7時間が好ましい。
【0017】
カルボキシメチル化剤としては、例えば、モノクロロ酢酸やモノクロロ酢酸ナトリウムを使用することができる。カルボキシメチル化剤の使用量は、出発原料のグルコース残基当たり、モル換算で、0.05~2.0倍である。
【0018】
エーテル化反応の反応温度は、通常、30~90℃であり、40~80℃が好ましい。また、その反応時間は、通常、30分~10時間であり、1~4時間が好ましい。
【0019】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の純度を高めるため、公知の方法を行ってもよい。例えば、質量換算で、3~20倍の溶媒(1種単独又は2種以上の低級アルコールと水の混合溶媒)を使用し、純分99%まで精製処理した後、乾燥を行うことで、カルボキシメチルセルロース又はその塩の純度を高めることができる。
なお、低級アルコールとしては、上記溶媒に例示したものが挙げられる。
【0020】
他の成分との均一な混合を目的として、精製したカルボキシメチルセルロース又はその塩を機械的処理により微粉砕化及び/又は分級しても良い。機械的処理の具体例としては、カッティング式ミルを単独で、或いはカッティング式ミルと、衝撃式ミル及び/又は気流式ミルと、を併用して、さらには同機種で数段処理することができる。
【0021】
カッティング式ミルとしては、例えば、メッシュミル(ホーライ社製)、アトムズ(山本百馬製作所製)、ナイフミル(パルマン社製)、グラニュレータ(ヘルボルト社製)、ロータリーカッターミル(奈良機械製作所製)が挙げられる。
衝撃式ミルとしては、例えば、パルペライザ(ホソカワミクロン社製)、ファインインパクトミル(ホソカワミクロン社製)、スーパーミクロンミル(ホソカワミクロン社製)、サンプルミル(セイシン社製)、トルネードミル(日機装社製)、ターボミル(ターボ工業社製)、ベベルインパクター(相川鉄工社製)が挙げられる。
気流式ミルとしては、例えば、CGS型ジェットミル(三井鉱山社製)、ジェットミル(三庄インダストリー社製)、エバラジェットマイクロナイザ(荏原製作所製)、セレンミラー(増幸産業社製)が挙げられる。
なお、媒体ミルとしては、例えば、振動ボールミルが挙げられる。
【0022】
また、精製したカルボキシメチルセルロース又はその塩は、湿式粉砕機で処理してもよい。湿式粉砕機としては、例えば、マスコロイダー(増幸産業社製)、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0023】
乾式粉砕工程においては、粉砕後に分級工程を設けることによって、微細部分と粗砕部分に分別することもできる。また、分級工程は、湿式粉砕又は摩砕物を乾燥した後の乾燥物に対しても設定することができる。
【0024】
カルボキシメチルセルロース又はその塩は、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、日本製紙社製の商品名「サンローズ」(カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩)が挙げられる。
【0025】
カルボキシメチルセルロース又はその塩は、グルコース残基当たりのカルボキシメチル置換度が、0.40~2.0の範囲にあることが好ましく、0.40~1.6の範囲にあることがより好ましく、0.60~1.6の範囲にあることがさらに好ましく、1.0超1.6以下の範囲にあることがさらにより好ましい。グルコース残基当たりのカルボキシメチル置換度が斯かる範囲にあることで、水への溶解性を確保するとともに、接着剤組成物が過度に増粘することを防止し得る。
【0026】
カルボキシメチル置換度は、次のようにして算出することができる。試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CMC)を脱塩処理し、酸型カルボキシメチルセルロース(以下、「酸型CMC」ともいう)にする。酸型CMCを乾燥した絶乾酸型CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLで酸型CMCを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度を算出することができる。
A=[(100×F-0.1NのH2SO4(mL)×F’)×0.1]/(酸型CMCの絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
A:酸型CMC1gを中和するのに要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0027】
成分(A)の含有量は、組成物に対して0.001~5.0質量%が好ましく、0.01~3.0質量%がより好ましく、0.1~2.0質量%がさらに好ましい。成分(A)
の含有量が0.001質量%以上であると、接着時に接着力が強く、使用時には接着力が弱くなる性質を付与し得る。また、成分(A)の含有量が5.0質量%以下であると、成分(B)を併用することによる、粘度の経時的な減少をできる限り小さくし得る。
【0028】
成分(A)は、1種単独であってもよく、カルボキシメチル置換度、分子量等の異なる2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
[1-2.成分(B)]
成分(B)は、アニオン変性セルロースナノファイバーである。「アニオン変性セルロースナノファイバー」とは、セルロース分子鎖にアニオン性基を導入したアニオン変性セルロース繊維を、ナノスケールの繊維径となるまで解繊して得た微細繊維である。以下、「セルロースナノファイバー」を「CNF」と略すことがある。
アニオン変性セルロース繊維としては、例えば、カルボキシ化(酸化)セルロース繊維、カルボキシメチル化セルロース繊維、リン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸エステル化セルロース繊維が挙げられる。これらを解繊することで、それぞれ酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー、リン酸エステル化セルロースナノファイバー、亜リン酸エステル化セルロースナノファイバーが得られる。中でも、カルボキシ化(酸化)セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーが好ましい。
【0030】
本明細書中、「CNF」は、セルロース原料であるパルプ等がナノメートルレベルまで微細化されたものであり、繊維径が3~500nm程度の微細繊維をいう。セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径及び繊維長を平均することによって得ることができる。セルロースナノファイバーは、パルプに機械的な力を加えて微細化することで得られ、あるいは、カルボキシ化セルロース繊維(以下、「酸化セルロース繊維」ともいう)、カルボキシメチル化セルロース繊維、リン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸エステル化セルロース繊維のようなアニオン変性セルロース繊維を解繊することによって得ることができる。微細繊維の平均繊維長と平均繊維径は、酸化処理、解繊処理により調整することができる。
【0031】
セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0032】
セルロースナノファイバーの原料となるセルロース(以下、「セルロース原料」ともいう)の種類は特に限定されず、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするセルロースを使用することができる。好ましくは、植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは、植物由来のセルロース繊維である。
【0033】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されない。一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
【0034】
[化学変性]
上述のセルロース原料に対し、アニオン性基を導入することで、アニオン変性セルロース繊維とする。アニオン性基の導入方法は特に限定されないが、例えば、酸化又は置換反応によってセルロースのピラノース環にアニオン性基を導入する方法が挙げられる。具体的には、ピラノース環の水酸基を酸化してカルボキシ基へと変換する反応や、ピラノース環に対して置換反応により、カルボキシメチル基やリン酸エステル基、亜リン酸のエステル基を導入する反応を挙げることができる。
【0035】
[カルボキシメチル化]
前述の通りアニオン変性の一例として、カルボキシメチル化を挙げることができる。アニオン変性セルロース繊維の一例であるカルボキシメチル化セルロース繊維は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよく、また、市販品であってもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.010~0.50であり、0.01~0.44となるものが好ましく、0.02~0.40がさらに好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。
なお、カルボキシメチル置換度が0.50を超えると、水などの媒体に溶解するようになり、繊維状の形状を維持することができなくなる場合がある。
カルボキシメチル化セルロース繊維のカルボキシメチル置換度は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのカルボキシメチル置換度と同値である。
【0036】
カルボキシメチル化セルロース繊維のカルボキシメチル置換度は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振とうして、塩の形態のカルボキシメチル化セルロース繊維(以下、「CM化セルロース繊維」ともいう)を酸型CM化セルロース繊維に変換する。酸型CM化セルロース繊維(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで酸型CM化セルロース繊維を湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(酸型CM化セルロース繊維の絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:酸型CM化セルロース繊維1gを中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター。
【0037】
カルボキシメチル化セルロース繊維を製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる:
セルロース原料に、溶媒として、重量換算で3~20倍の水及び/又は低級アルコール(例えば、水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3級ブチルアルコール)を、単独で又は2種以上の混合媒体として加える。なお、溶媒に低級アルコールを混合して用いる場合の低級アルコールの混合割合は、60~95質量%であることが好ましい。
ここに、マーセル化剤として、セルロース原料の無水グルコース残基当たり、モル換算で、0.5~20倍のアルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。セルロース原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃(好ましくは、10~60℃)、かつ反応時間15分~8時間(好ましくは、30分~7時間)、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤、(例えば、モノクロロ酢酸又はその塩)をグルコース残基当たり、モル換算で0.05~10.0倍添加し、反応温度30~90℃(好ましくは、40~80℃)、かつ反応時間30分~10時間(好ましくは、1~4時間)、エーテル化反応を行う。
【0038】
アニオン変性CNFの調製に用いるアニオン変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化セルロース繊維」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、上記の水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化セルロース繊維」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化セルロース繊維」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0039】
[カルボキシ化(酸化)]
アニオン変性の一例としてカルボキシ化(酸化とも呼ぶ。)を挙げることができる。カルボキシ化とは、セルロースのピラノース環の水酸基を酸化してカルボキシ基(-COOH(酸型)又は-COOM(金属塩型)をいう(Mは金属イオンである。))に変換する反応をいう。本明細書において、カルボキシ化により得られるアニオン変性セルロース繊維を、カルボキシ化セルロース繊維又は酸化セルロース繊維とも呼ぶ。
カルボキシ化セルロース繊維は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシ化(酸化)することにより得ることができる。
【0040】
カルボキシ化セルロース繊維におけるカルボキシ基量は、特に限定されるものではないが、カルボキシ化セルロース繊維の絶乾質量に対して、0.6~3.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。カルボキシ基量は、酸化剤の種類や量、酸化反応の際の温度や時間などを制御することで、調整することができる。
カルボキシ化セルロース繊維のカルボキシ基量は、カルボキシ化セルロースナノファイバーのカルボキシ基量は同値である。
【0041】
カルボキシ化セルロース繊維のカルボキシ基量は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシ化セルロース繊維の0.5質量%スラリー(媒体:水)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とする。0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシ基量〔mmol/gカルボキシ化セルロース繊維〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシ化セルロース繊維の質量〔g〕。
【0042】
カルボキシ化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物及びこれらの混合物からなる群から選択される化合物と、の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシ基(-COOH)又はカルボキシレート基(-COO-)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロース原料の水中での濃度は特に限定されないが、5質量%以下とすることが好ましい。
【0043】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)及びその誘導体(例えば、4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物の使用量は、セルロース原料を酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応液全体に対し、0.1~4mmol/L程度がよい。
【0044】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能なアルカリ金属の臭化物が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、アルカリ金属のヨウ化物が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物及びヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0045】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物を使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolがさらにより好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して、1~40molが好ましい。
【0046】
セルロース原料の酸化は、比較的温和な条件下であっても反応が効率よく進行しやすい。よって、反応温度は4~40℃であってもよく、また、15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース鎖にカルボキシ基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応液における媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
【0047】
酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロース繊維を、再度、同一又は異なる反応条件で酸化することにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化を進行させることができる。
【0048】
カルボキシ化(酸化)の方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基がカルボキシ基へと酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3が好ましく、50~220g/m3がより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロース繊維の収率が良好となる。
【0049】
オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸等が挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作製し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0050】
[エステル化]
アニオン変性の一例として、エステル化を挙げることができる。エステル化の一例として、セルロース原料へのリン酸基又は亜リン酸基の導入を挙げることができる。本明細書において、リン酸基の導入により得られるアニオン変性セルロース繊維をリン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸基の導入により得られるアニオン変性セルロース繊維を亜リン酸エステル化セルロース繊維と呼び、両者を総称してエステル化セルロース繊維と呼ぶ。
【0051】
リン酸エステル化セルロース繊維の製造方法としては、セルロース原料又はそのスラリーに、リン酸基を有する化合物の粉末や水溶液を混合する方法を挙げることができる。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等を挙げることができ、これらを単独で、或いは2種以上混合して用いてもよい。
【0052】
セルロース原料に対するリン酸基を有する化合物の添加割合は、セルロース原料の固形分100質量部に対して、リン元素に換算した添加量で、0.1~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましく、2~200質量部がさらに好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。得られたリン酸エステル化セルロース繊維の懸濁液は、セルロースの加水分解を抑える観点から、脱水した後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は、0.001以上0.40未満が好ましい。
【0053】
亜リン酸エステル化セルロース繊維の製造方法としては、セルロース原料又はそのスラリーに、アルカリ金属イオン含有物並びに亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる添加物(A)と、を添加(好ましくは、亜リン酸水素ナトリウム)し、加熱してセルロース繊維に無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステル基を導入する方法を挙げることができる。なお、尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる添加物(B)を添加し、加熱してセルロース繊維に無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステル基及びカルバメート基を導入することがより好ましい。
アルカリ金属イオン含有物としては、例えば、水酸化物、硫酸金属塩類、硝酸金属塩類、塩化金属塩類、リン酸金属塩類、亜リン酸金属塩類、炭酸金属塩類を使用することができる。ただし、添加物(A)をも兼ねる亜リン酸金属塩類が好ましく、亜リン酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0054】
添加物(A)は、亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる。添加物(A)としては、例えば、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物を使用することができる。これらの亜リン酸類又は亜リン酸金属塩類は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、アルカリ金属イオン含有物をも兼ねる亜リン酸水素ナトリウムが好ましい。
添加物(A)の添加量は、セルロース原料1kgに対して、好ましくは1~10,000gであり、より好ましくは100~5,000gであり、さらに好ましくは300~1,500gである。
【0055】
添加物(B)は、尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる。添加物(B)としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素を使用することができる。これらの尿素又は尿素誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
添加物(B)の添加量は、添加物(A)1molに対して、好ましくは0.01~100molであり、より好ましくは0.2~20molであり、さらに好ましくは0.5~10molである。
【0056】
反応温度は100~200℃が好ましく、100~180℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、10~180分程度であり、30~120分がより好ましい。
亜リン酸のエステル基等を導入したセルロース繊維は、解繊するに先立って、洗浄することが好ましい。亜リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりの亜リン酸基の置換度は、0.01以上0.23未満が好ましい。
【0057】
[解繊]
アニオン変性セルロース繊維を解繊する装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の装置を用いて、アニオン変性セルロース繊維の分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。効率よく解繊するには、アニオン変性セルロース繊維の分散体に、50MPa以上の圧力を印加でき、かつ強力なせん断力を印加できる、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。圧力は、100MPa以上がより好ましく、140MPa以上がさらに好ましい。
解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0058】
分散処理においては通常、溶媒にアニオン変性セルロース繊維を分散する。溶媒は、アニオン変性セルロース繊維を分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。アニオン変性セルロース繊維が親水性であることから、溶媒は水であることが好ましい。
【0059】
分散体中のアニオン変性セルロース繊維の固形分濃度は、通常は0.1重量%以上であり、0.2重量%以上が好ましく、0.3重量%以上がより好ましい。これにより、アニオン変性セルロース繊維の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10重量%以下であり、6重量%以下が好ましい。これにより、流動性を保持することができる。
【0060】
また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、アニオン変性セルロース繊維に予備処理を施すことも可能である。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0061】
アニオン変性セルロース繊維は、製造後に得られる水分散体の状態であってもよく、必要に応じて後処理を経てもよい。後処理としては、例えば、乾燥(例、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法)、水への再分散(分散装置は限定されない)、粉砕(例えば、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の機器を使用した粉砕)が挙げられるが、特に限定されない。
【0062】
成分(B)の含有量は、水1kgに対して0.0001~0.3質量%が好ましく、0.0005~0.15質量%がより好ましく、0.001~0.12質量%がさらに好ましい。成分(B)の含有量が0.0001質量%以上であると、成分(A)を用いることによる粘度の経時的な減少をできる限り小さくし得る。また、成分(B)の含有量が0.3質量%以下であると、接着剤組成物が過度に増粘することを防止し得る。
【0063】
成分(B)は、1種単独であってもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0064】
[1-3.成分(C)]
成分(C)は、アクリル系ポリマーであり、水溶性アクリル系ポリマーが好ましい。アクリル系ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸共重合体、ポリメタクリル酸共重合体、ポリアクリル酸ソーダ共重合体、ポリアクリル酸エステル、及びポリアクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
なお、成分(C)は、1種単独であってもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
アクリル系ポリマーを構成する主モノマーは、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ラウリル基が挙げられる。
アクリル系ポリマーを構成する共重合モノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の多価カルボン酸類;多価カルボン酸類の酸無水物又は多価カルボン酸類のエステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有モノマー;酢酸ビニル、アクリル酸アミド、及びスチレンが挙げられる。
【0066】
成分(C)の含有量は、組成物に対して0.001~5質量%が好ましく、0.01~3質量%がより好ましく、0.01~1質量%がさらに好ましい。成分(C)の含有量が0.001質量%以上であると、本発明の効果を特に発揮しつつ、接着時の接着性を付与し得る。また、成分(C)の含有量が5質量%以下であると、調製直後の接着剤組成物が過度に高粘度になることを抑制し得る。
なお、成分(C)が水溶液の形態である場合、成分(C)の含有量は、固形分の含有量である。
【0067】
[1-4.比率]
本発明の接着剤組成物中、各構成成分の比率は(成分(C)/成分(A)/成分(B))は、組成物に対して0.001~5質量%/0.001~5質量%/0.0001~0.3質量%が好ましく、0.01~3質量%/0.01~3質量%/0.0005~0.15質量%がより好ましく、0.01~1質量%/0.1~2質量%/0.001~0.12質量%がさらに好ましい。
なお、各成分が水溶液の形態である場合、各構成成分の比率は固形分換算の値で算出する。
【0068】
[1-5.任意成分]
本発明の接着剤組成物は、本発明の効果を阻害しない限り、公知の任意成分を含有してもよい。任意成分としては、例えば、防腐剤、カップリング剤、界面活性剤防菌剤、防黴剤、防虫剤、防蟻剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、防錆剤、染料、顔料、分散剤、消泡剤、凍結防止剤、弱酸金属塩、金属ハロゲン化物、増量剤、充填剤が挙げられる。
【0069】
[1-6.物性値]
本発明の接着剤組成物の調製直後の粘度は、500mPa・s以上が好ましく、800mPa・s以上がより好ましい。調製直後の粘度が500mPa・s以上であると、接着時の接着性を確保し得る。また、その上限は、本発明の接着剤組成物の使用態様に応じて適宜設定することができ、例えば、1600mPa・s以下が好ましい。
なお、本明細書中、接着剤組成物の粘度は、接着剤組成物を濃度調整せずにそのまま、TV-10型粘度計(東機産業社)を用いて、25℃、60rpm、3号ローター使用の条件で測定した値である。
【0070】
本発明の接着剤組成物の減粘率は、55%以下が好ましく、45%以下がより好ましい。減粘率が、55%以下であると、粘度の経時的な減少が小さく、塗布量のムラが少なくなり、製品の品質を一定に保ち得る。減粘率の下限値は、通常、30%以上である。
なお、本明細書中、減粘率は、下記式(1)で算出される値である。
(1):((調製直後の接着剤組成物のB型粘度)-(40℃で14日保管後の接着剤組成物のB型粘度))/(調製直後の接着剤組成物のB型粘度)×100
【0071】
[2.接着剤組成物の製造方法]
本発明の接着剤組成物の製造方法は、少なくとも成分(A):カルボキシメチルセルロース又はその塩、を水に溶解した後、成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーを添加して撹拌する工程、或いは成分(B):アニオン変性セルロースナノファイバーを水に添加して撹拌した後、少なくとも成分(A):カルボキシメチルセルロース又はその塩、を添加して溶解する工程、を含む。そして、撹拌は、少なくとも成分(B)を30~5000rpm(好ましくは、1000~5000rpm)の撹拌速度で、5~180分間(好ましくは、10~100分間)撹拌する。この条件で撹拌することにより、接着剤組成物の調製直後の粘度を向上させるとともに、粘度の経時的な減少を小さくし得る。成分(C)を用いる場合、成分(A)と同時に添加する事が好ましい。また、成分(C)と成分(A)だけを溶解する際は30~600rpmの撹拌速度で、30~150分間行うことが好ましい。
なお、撹拌時の成分(B)の固形分濃度は、0.0001~0.3質量%である。
【0072】
本発明の接着剤組成物の製造方法は、予め撹拌した成分(B)を成分(C)及び成分(A)に添加してもよく、成分(C)及び成分(A)に成分(B)を添加した後で撹拌してもよい。
任意成分の添加時期は特に限定されないけれども、通常、成分(C)及び成分(A)と同時に添加する。
【0073】
[3.テールシール糊]
本発明のテールシール糊は、上記の接着剤組成物の好ましい用途である。接着剤組成物は、粘度の経時的な減少をできる限り小さくしたものであるため、接着時に粘度の変化が小さく、塗布量のムラが生じ難いものである。そのため、製品の品質を一定に保ち得る。
テールシール糊は、トイレットペーパーやキッチンペーパー等のロール製品の巻き終わり先端部位、巻き始め先端部位(例えば、巻き始めの紙管と紙の接着部位)等のシール部に使用される。ロール製品への塗布形式や塗布量は適宜設定できるが、通常、製品の短手方向に線状に塗布され、既知のテールシーラー機構により付与することができる。本発明のテールシール糊として上記接着剤組成物を用いる場合、接着剤組成物は、防腐剤や消泡剤などの、テールシール糊の成分として用いられ得る各種添加剤を適宜含んでもよい。
【0074】
[4.ロール紙]
本発明のロール紙は、上記のテールシール糊によるシール部を有する。ロール紙としては、トイレットペーパー、キッチンペーパー、ペーパータオル、ワイパー等が挙げられる。ロール紙の寸法は特に限定されず、通常の用途における寸法を適宜選択できる。
【0075】
ロール紙は、テールシール糊によるシール部をロール紙に形成する工程を含む方法により製造でき、上記工程以外は通常の製造方法と同様に、例えば原料パルプから抄紙機等を用いて既知の技術により抄造した原反ロールを得て、ロール紙を得る方法が挙げられる。ロール紙の原料は特に制限されず、例えば、バージンパルプ(例、NBKP、LBKP)や古紙パルプが挙げられ、これらの中から目的に応じて適宜1種又は2種を選択することができる。シール部は、通常、巻き終わり先端部位、巻き始めの紙管と紙の接着部位のいずれか又は両方に設けられる。シール部の形成方法としては、ロール紙の上記部位にテールシール糊を付着させる方法であればよく、例えば、テールシール糊をスプレーノズルからロール紙へ吐出する方法、プレートに付着させてからロール紙に転写する方法、糸にテールシール糊を付着させてロール紙に転写する方法が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。また、「部」とは、特に断りがない限り、質量部を意味する。
【0077】
[B型粘度(mPa・s)]:TV-10型粘度計(東機産業社)を用いてB型粘度(60rpm、25℃)を測定した。
【0078】
[減粘率(%)]:下記式(1)で算出した。
(1):((調製直後の接着剤組成物のB型粘度)-(40℃で15日保管後の接着剤組成物のB型粘度))/(調製直後の接着剤組成物のB型粘度)×100
【0079】
[カルボキシ基量]:カルボキシ基量は以下のようにして測定した。酸化セルロース繊維の0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした。0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまでの電気伝導度を測定した。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いてカルボキシ基量を算出した。
カルボキシ基量〔mmol/g酸化セルロース繊維〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕
なお、明細書に記載した通り、酸化セルロース繊維のカルボキシ基量と酸化セルロースナノファイバーのカルボキシ基量は同値である。
【0080】
[平均繊維径(nm)]:酸化セルロースナノファイバーの濃度が0.001質量%となるように希釈した酸化セルロースナノファイバー水分散液を調製した。この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作製した。原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測し、加重平均繊維径を算出した。
【0081】
[平均繊維長(nm)]:酸化セルロースナノファイバーをマイカ切片上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて200本の繊維の繊維長を測定し、長さ(加重)平均繊維長を算出した。なお、繊維長の測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて行った。
【0082】
[アスペクト比]:平均繊維長を平均繊維径で割ることで算出した。
【0083】
[カルボキシメチル置換度]:試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース繊維の塩(CMC)を酸型CMCにした。その絶乾酸型CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLで酸型CMCを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度は、次式によって算出した。
A=[(100×F-0.1NのH2SO4(mL)×F’)×0.1]/(酸型CMCの絶乾重量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
A:酸型CMC1gを中和するのに要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0084】
[結晶化度(%)]:セルロースI型の結晶化度は、試料のX線回折を測定することで求めた。X線回折の測定は、試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定した。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出した。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc=セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度
【0085】
(製造例1:酸化セルロースナノファイバーの製造)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)780mgと臭化ナトリウム75.5gを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで、酸化されたパルプ(酸化セルロース繊維)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシ基量は1.6mmol/gであった。
【0086】
上記の工程で得られた酸化セルロース繊維を水で3.0又は1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、酸化セルロースナノファイバー分散液を得た。得られた、酸化セルロースナノファイバーは、平均繊維径が3.5nmであった。
【0087】
(製造例2:カルボキシメチル化セルロースナノファイバー固形化品の水分散体の製造) 回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、イソプロピルアルコール(IPA)600部と、水酸化ナトリウム10部を水40部に溶解した水酸化ナトリウム水溶液とを加え、広葉樹パルプ(日本製紙社製、LBKP)を100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合し、マーセル化処理を行った。更に撹拌しつつ90%IPA40部にモノクロロ酢酸12部を溶解した溶液を添加した。30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応を行った。カルボキシメチル化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、94%である。反応終了後、pH7になるまで酢酸で中和、含水メタノールで洗浄、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.15、セルロースI型の結晶化度70%のカルボキシメチル化セルロース繊維のナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、73%であった。なお、カルボキシメチル置換度及びセルロースI型の結晶化度の測定方法は、上述の通りである。
【0088】
得られたカルボキシメチル化セルロース繊維のナトリウム塩を水に分散し、1.0%(w/v)水分散体とした。これを、150MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散体を得た。
【0089】
アニオン変性CNFとして、上記カルボキシメチル化CNF0.7質量%水性懸濁液に、カルボキシメチルセルロース(商品名:F350HC-4、粘度(1%、25℃)約3000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.9)を、アニオン変性CNFに対して40質量%(すなわち、アニオン変性CNFの固形分を100質量部としたときにカルボキシメチルセルロースの固形分が40質量部となるように)添加し、TKホモミキサー(12,000rpm)で60分間攪拌することにより、アニオン変性CNFの水分散液を調製した。この分散液のpHは7~8程度であった。この水分散液に、0.5%の水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを9に調整した後、ドラム乾燥機D0405(カツラギ工業社製)のドラム表面に塗布し、厚さ100~200μm程度の薄膜を形成させ、蒸気圧力0.5MPa.G、ドラム回転数2rpmで乾燥し、水分量5質量%のアニオン変性CNFの乾燥固形物を得た。
【0090】
次に、上記で得られた乾燥固形物を1.0%(w/v)となるように水を加え、ホモディスパーを用いて3000rpmで1時間攪拌した。
【0091】
(実施例1:接着剤組成物(1)の製造)
スリーワンモーターを用いて600rpmで撹拌している水1kgに、アクリル系ポリマー(商品名「アロンA-20PG-X」(東亜合成社製))1.5g、カルボキシメチルセルロース(商品名「サンローズ F-30HC」(日本製紙社製))7gを順次添加し、150分間かけて溶解した。この水溶液に、製造例1で得た酸化セルロースナノファイバー固形分1.0%品を水溶液中に、固形分で1g添加した後、ホモディスパーを用いて3000rpmで30分間撹拌して、接着剤組成物(1)を製造した。
【0092】
(実施例2:接着剤組成物(2)の製造)
製造例1の酸化セルロースナノファイバーを製造例2のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーに変更した以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物(2)を得た。
【0093】
(実施例3:接着剤組成物(3)の製造)
製造例1で得た酸化セルロースナノファイバー固形分3%品を用いた。この酸化セルロースナノファイバーを水1kgに固形分1gとなるように加えて、ホモディスパーを用いて3000rpmで30分希釈攪拌した。続いて、希釈攪拌液にスリーワンモーターを用いて100rpmで攪拌しながらアクリル系ポリマー(商品名「アロンA-20PG-X」(東亜合成社製))1.5g、カルボキシメチルセルロース(商品名「サンローズ F-30HC」(日本製紙社製))7gを順次添加し、120分間かけて溶解し、接着剤組成物(3)を得た。
【0094】
(実施例4:接着剤組成物(4)の製造)
製造例2で得た再分散前のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー粉末化品を、水1kgに固形1gとなるように加えて、ホモディスパーを用いて3000rpmで30分希釈攪拌した。続いて、希釈攪拌液にスリーワンモーターを用いて100rpmで攪拌しながらアクリル系ポリマー(商品名「アロンA-20PG-X」(東亜合成社製))1.5g、カルボキシメチルセルロース(商品名「サンローズ F-30HC」(日本製紙社製))7gを順次添加し、120分間かけて溶解し、接着剤組成物(4)を得た。
【0095】
(比較例1:接着剤組成物(5)の製造)
スリーワンモーターを用いて600rpmで撹拌している水に、アクリル系ポリマー(商品名「アロンA-20PG-X」(東亜合成社製))1.5g、カルボキシメチルセルロース(商品名「サンローズ F-30HC」(日本製紙社製))7gを順次添加し、150分間かけて溶解し、接着剤組成物(5)を得た。
【0096】
実施例1~4及び比較例1で製造した接着剤組成物(1)~(5)の調製直後のB型粘度、40℃で14日保管した後のB型粘度、並びに減粘率を下記表1に示す。なお、保管方法は、600mlパッククリーンに蓋をした状態である。
【0097】
実施例1~4及び比較例1で製造した接着剤組成物(1)~(5)をプレートに付着させてからロール紙に転写する方法で各接着剤組成物を塗布することにより生産されたトイレットペーパー(トイレットロール)の接着力を測定した。ウェット接着性は、トイレットペーパーの巻き終わり部に接着剤組成物を塗布してから5秒後に1m転がし、テール部が剥がれるか否かを目視にて確認した。作成した試料(3本)のすべてが剥がれなかったものを〇、一つでも剥がれが生じたものを×とした。ドライ接着性は、トイレットペーパーの巻き終わり部に接着剤組成物を塗布してから常温で24時間静置し乾燥した後に、接着剤組成物付与部分を把持して吊り下げた際に自重で剥がれるか否かを確認した。剥がれないものを〇、剥がれたものを×とした。
【0098】
【0099】
表1からわかるように、本発明の接着剤組成物は、調製直後のB型粘度が788mPa・s以上であるにもかかわらず、40℃で2週間保管した後の減粘率は54%以下であった。これに対し、成分(B)を添加しない接着剤組成物は、調製直後のB型粘度が562mPa・sと低い値にもかかわらず、40℃で2週間保管した後の減粘率は73%と著しい減少が認められた。また、表1からわかる通り、本発明の接着剤組成物を塗布したトイレットロールは、接着剤塗布時のウェット接着性と乾燥後のドライ接着性に優れていた。比較例の接着剤組成物はドライ接着性が不十分であった。