(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20060101AFI20240126BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L53/02
(21)【出願番号】P 2020034078
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】知野 圭介
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/099105(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/027022(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(I)及び(II):
〔成分(I)〕カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分;
〔成分(II)〕共有結合性架橋部位を有しかつ水素結合性架橋部位を有さない架橋したスチレン系ブロック共重合体;
を含
み、
前記成分(I)のポリマー成分が、無水マレイン酸基を側鎖に有するポリマーと、トリアゾール環、イソシアヌレート環、チアジアゾール環、ピリジン環、イミダゾール環、トリアジン環及びヒダントイン環の中から選択される少なくとも1種の含窒素複素環を含有するポリオールとの反応物からなり、
前記成分(I)において、前記ポリマー(A)及び(B)の主鎖がそれぞれ、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、及び、エチレン-オクテン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記成分(II)が、主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と、該架橋性二重結合と反応して共有結合による架橋部位を形成する架橋剤である有機過酸化物との反応物からなり、かつ、
前記成分(II)の含有量が前記成分(I)100質量部に対して50~750質量部であること、
を特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体が、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体、及び、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項
1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記成分(II)中のスチレン系ブロック共重合体の分子同士を架橋する共有結合性架橋部位が、炭素架
橋からなることを特徴とする請求項1
又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記成分(II)の含有量が組成物の総量の0.1~80質量%であることを特徴とする請求項1~
3のうちのいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、その成形加工時に加工温度で溶融し、周知の樹脂成形法で成形することが可能であることから、産業上極めて有用な材料である。そして、このような熱可塑性エラストマー組成物の分野においては、用途に応じた特性を発揮させるために、様々な組成物が研究されている。例えば、特開2017-206589号公報(特許文献1)には、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖を有しかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のエラストマー成分と、前記エラストマー成分100質量部に対して20質量部以下の含有比率の有機化クレイと、潤滑剤とを含有してなる熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。このような特許文献1に記載の熱可塑性エラストマー組成物は、押出成形時の加工性が十分に高いものであった。しかしながら、上記特許文献1に記載のような熱可塑性エラストマー組成物においても、高温における圧縮永久歪に対する耐性が必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高温における圧縮永久歪に対する耐性に優れるとともに、流動性を十分に高いものとすることが可能な熱可塑性エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性エラストマー組成物を下記成分(I)及び(II)を含むものとすることにより、得られる組成物を高温における圧縮永久歪に対する耐性に優れたものとすることができると共に、十分に高い流動性を有するものとすることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(I)及び(II):
〔成分(I)〕カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分;
〔成分(II)〕共有結合性架橋部位を有しかつ水素結合性架橋部位を有さない架橋したスチレン系ブロック共重合体;
を含み、
前記成分(I)のポリマー成分が、無水マレイン酸基を側鎖に有するポリマーと、トリアゾール環、イソシアヌレート環、チアジアゾール環、ピリジン環、イミダゾール環、トリアジン環及びヒダントイン環の中から選択される少なくとも1種の含窒素複素環を含有するポリオールとの反応物からなり、
前記成分(I)において、前記ポリマー(A)及び(B)の主鎖がそれぞれ、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、及び、エチレン-オクテン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記成分(II)が、主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と、該架橋性二重結合と反応して共有結合による架橋部位を形成する架橋剤である有機過酸化物との反応物からなり、かつ、
前記成分(II)の含有量が前記成分(I)100質量部に対して50~750質量部であること、
を特徴とするものである。
【0007】
上記本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体が、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体、及び、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0008】
また、上記本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、前記成分(II)中のスチレン系ブロック共重合体の分子同士を架橋する共有結合性架橋部位が、炭素架橋からなることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、前記成分(II)の含有量が組成物の総量の0.1~80質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温における圧縮永久歪に対する耐性に優れるとともに、流動性を十分に高いものとすることが可能な熱可塑性エラストマー組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0013】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(I)及び(II):
〔成分(I)〕カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分;
〔成分(II)〕共有結合性架橋部位を有しかつ水素結合性架橋部位を有さない架橋したスチレン系ブロック共重合体;
を含むことを特徴とするものである。ここで、先ず、各成分を分けて説明する。
【0014】
<成分(I):ポリマー成分について>
本発明にかかる成分(I)としてのポリマー成分は、上述のポリマー(A)~(B)からなる群から選択される少なくとも1種のものである。
【0015】
このようなポリマー(A)~(B)において、「側鎖」とは、ポリマーの側鎖および末端をいう。また、「カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)」とは、ポリマーの主鎖を形成する原子(通常、炭素原子)に、水素結合性架橋部位としてのカルボニル含有基および/または含窒素複素環(より好ましくはカルボニル含有基および含窒素複素環)が化学的に安定な結合(共有結合)をしていることを意味する。また、「側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有され」とは、水素結合性架橋部位を有する側鎖(以下、便宜上、場合により「側鎖(a’)」と称する。)と、共有結合性架橋部位を有する側鎖(以下、便宜上、場合により「側鎖(b)」と称する。)の双方の側鎖を含むことによってポリマーの側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方が含有されている場合の他、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を有する側鎖(1つの側鎖中に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖:以下、このような側鎖を便宜上、場合により「側鎖(c)」と称する。)を含むことで、ポリマーの側鎖に、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方が含有されている場合を含む概念である。
【0016】
ここで、このようなポリマー成分としては、前記ポリマーが、エラストマー性を有するポリマー(エラストマー性ポリマー)であることが好ましい。そのため、ポリマー成分としては、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のエラストマー成分であることが好ましい。なお、このようなポリマー成分として好適なエラストマー成分は、特許第5918878号公報に記載のエラストマー成分と同義であり、同公報の段落[0032]~段落[0145]に記載のものを好適に利用できる。
【0017】
また、このようなポリマー成分(前記ポリマー(A)~(B))の主鎖(主鎖部分を形成するポリマー)は、一般的に公知の天然高分子または合成高分子であって、そのガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマーからなるものであればよく、特に限定されるものではない。このようなポリマー(A)~(B)の主鎖は、それぞれ、ジエン系ゴム、ジエン系ゴムの水素添加物、オレフィン系ゴム、シリコーン系ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、水添されていてもよいポリスチレン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー(好ましくは、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマー)、ポリ塩化ビニル系ポリマー(好ましくはポリ塩化ビニル系エラストマー性ポリマー)、ポリウレタン系ポリマー(好ましくはポリウレタン系エラストマー性ポリマー)、ポリエステル系ポリマー(好ましくはポリエステル系エラストマー性ポリマー)、及び、ポリアミド系ポリマー(好ましくはポリアミド系エラストマー性ポリマー)の中から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。なお、このようなポリオレフィン系ポリマーとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、リニアポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン等が挙げられる。なお、前記ポリマー成分が、前記エラストマー性ポリマー(A)~(B)である場合、かかるエラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖(主鎖部分を形成するポリマー)は、一般的に公知の天然高分子または合成高分子であって、そのガラス転移点が室温(25℃)以下のエラストマー性のポリマーからなるものであればよく(いわゆるエラストマーからなるものであればよく)、特に限定されるものではない。このようなエラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖(主鎖部分を形成するポリマー)としては、ガラス転移点が室温(25℃)以下の公知のエラストマー性のポリマー(例えば、特許第5918878号公報の段落[0033]~[0036]に記載のもの)を適宜利用できる。また、このようなポリマー成分(前記ポリマー(A)~(B))の主鎖としては、老化しやすい二重結合がないという観点からは、ジエン系ゴムの水添物、オレフィン系ゴム、ポリオレフィン系ポリマーが好ましい。なお、前記ポリマー成分(前記ポリマー(A)~(B))の主鎖としては、後述の架橋剤(A)と反応しないといった観点からは、架橋性二重結合を含まないものであることが好ましい。
【0018】
また、このようなポリマー成分において、前記ポリマー(A)~(B)の主鎖はそれぞれ、圧縮永久歪と流動性のバランスがより優れたものとなるといった観点からは、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、及び、エチレン-オクテン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ポリプロピレン、ポリエチレン(より好ましくは高密度ポリエチレン(HDPE))、及び、エチレン-ブテン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。なお、ここにいう高密度ポリエチレンとは、密度が0.93g/cm3以上のポリエチレンをいう。
【0019】
また、このようなポリマー成分としては、前記ポリマー(A)~(B)の1種を単独で利用するものであってもあるいは2種以上の混合物であってもよい。また、このようなポリマー(A)~(B)のガラス転移点は前述のように25℃以下である。なお、前記ポリマー(A)~(B)がエラストマー性ポリマーである場合、室温でゴム状弾性を示す。また、本発明において「ガラス転移点」は、示差走査熱量測定(DSC-Differential Scanning Calorimetry)により測定したガラス転移点である。測定に際しては、昇温速度は10℃/minにするのが好ましい。なお、このようなポリマー成分は、後述の架橋剤(A)と反応しないといった観点からは、架橋性二重結合を含まないポリマー(A)及び/又は架橋性二重結合を含まないポリマー(B)を利用することが好ましい。
【0020】
また、前記ポリマー(A)~(B)は、上述のように、側鎖として、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a);水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a’)及び共有結合性架橋部位を含有する側鎖(b);並びに、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位を含有する側鎖(c);のうちの少なくとも1種を有するものとなる。なお、本発明において、側鎖(c)は、側鎖(a’)としても機能しつつ側鎖(b)としても機能するような側鎖であるとも言える。以下において、各側鎖を説明する。
【0021】
〈側鎖(a’):水素結合性架橋部位を含有する側鎖〉
水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a’)は、水素結合による架橋を形成し得る基(例えば、水酸基、後述の側鎖(a)に含まれる水素結合性架橋部位等)を有し、その基に基づいて水素結合を形成する側鎖であればよく、その構造は特に制限されるものではない。ここにおいて、水素結合性架橋部位は、水素結合によりポリマー同士(より好ましくはエラストマー同士)を架橋する部位である。なお、水素結合による架橋は、水素のアクセプター(孤立電子対を含む原子を含有する基等)と、水素のドナー(電気陰性度が大きな原子に共有結合した水素原子を備える基等)とがあって初めて形成されることから、ポリマー同士(より好ましくはエラストマー同士)の側鎖間において水素のアクセプターと水素のドナーの双方が存在しない場合には、水素結合による架橋が形成されない。そのため、ポリマー同士(より好ましくはエラストマー同士)の側鎖間において、水素のアクセプターと水素のドナーの双方が存在することによって初めて、水素結合性架橋部位が系中に存在することとなる。なお、本発明においては、ポリマー同士(より好ましくはエラストマー同士)の側鎖間において、水素のアクセプターとして機能し得る部分(例えばカルボニル基等)と、水素のドナーとして機能し得る部分(例えば水酸基等)の双方が存在することをもって、その側鎖の水素のアクセプターとして機能し得る部分とドナーとして機能し得る部分とを、水素結合性架橋部位と判断することができる。
【0022】
このような側鎖(a’)中の水素結合性架橋部位としては、より強固な水素結合を形成するといった観点から、後述の側鎖(a)がより好ましい。また、同様の観点で、前記側鎖(a’)中の水素結合性架橋部位としては、カルボニル含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位であることがより好ましい。
【0023】
〈側鎖(a):カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖〉
カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)は、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有するものであればよく、他の構成は特に限定されない。このような水素結合性架橋部位としては、カルボニル含有基および含窒素複素環を有するものがより好ましい。
【0024】
このようなカルボニル含有基としては、カルボニル基を含むものであればよく、特に限定されず、その具体例としては、アミド、エステル、イミド、カルボキシ基、カルボニル基等が挙げられる。このようなカルボニル含有基は、カルボニル含有基を前記主鎖に導入し得る化合物を用いて、前記主鎖(主鎖部分のポリマー)に導入した基であってもよい。このようなカルボニル含有基を前記主鎖に導入し得る化合物は特に限定されず、その具体例としては、ケトン、カルボン酸およびその誘導体等が挙げられる。なお、このようなカルボン酸およびその誘導体等のカルボニル含有基を前記主鎖に導入し得る化合物としては、公知のもの(例えば特許第5918878号公報の段落[0051]~[0053]に記載のもの等)を適宜利用できる。また、このようなカルボニル基(カルボニル含有基)を導入し得る化合物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0025】
また、前記側鎖(a)が含窒素複素環を有する場合、前記含窒素複素環は、直接又は有機基を介して前記主鎖に導入されていればよく、その構成等は特に制限されるものではない。このような含窒素複素環は、複素環内に窒素原子を含むものであれば複素環内に窒素原子以外のヘテロ原子、例えば、イオウ原子、酸素原子、リン原子等を有するものでも用いることができる。ここで、前記側鎖(a)中に含窒素複素環を用いた場合には、複素環構造を有すると架橋を形成する水素結合がより強くなり、得られる組成物の引張強度がより向上するため好ましい。なお、このような含窒素複素環としては、公知のもの(例えば特許第5918878号公報の段落[0054]~[0067]に記載のもの等)を適宜利用できる。なお、このような含窒素複素環は置換基を有するものであってもよい。
【0026】
このような含窒素複素環としては、リサイクル性、圧縮永久歪、硬度および機械的強度、特に引張強度に優れるため、それぞれ置換基を有していてもよい、トリアゾール環、イソシアヌレート環、チアジアゾール環、ピリジン環、イミダゾール環、トリアジン環及びヒダントイン環の中から選択される少なくとも1種であることが好ましく、それぞれ置換基を有していてもよい、トリアゾール環、イソシアヌレート環、チアジアゾール環、ピリジン環、イミダゾール環およびヒダントイン環の中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このような含窒素複素環が有していてもよい置換基としては、例えば、水酸基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、アルコキシシリル基、エーテル基、エステル基、アミド基等が挙げられる。
【0027】
また、前記側鎖(a)において、上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環の双方が含まれる場合、上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環は、互いに独立の側鎖として主鎖に導入されていてもよいが、上記カルボニル含有基と上記含窒素複素環とが互いに異なる基を介して結合した1つの側鎖として主鎖に導入されていることが好ましい。このような側鎖(a)の構造としては、例えば、特許第5918878号公報の段落[0068]~[0081]に記載されているような構造としてもよい。
【0028】
また、側鎖(a)としては、反応後に前記主鎖を形成するポリマー(ポリマー形成用の材料(より好ましくはエラストマー性ポリマー形成用の材料))に、官能基として環状酸無水物基(より好ましくは無水マレイン酸基)を有するポリマー(環状酸無水物基を側鎖に有するポリマー)を用いて、前記官能基(環状酸無水物基)と、該環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)とを反応させて、水素結合性架橋部位を形成して、ポリマーの側鎖を側鎖(a)としたものが好ましい。このような水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)は、上記含窒素複素環そのものであってもよく、無水マレイン酸等の環状酸無水物基と反応する置換基(例えば、水酸基、チオール基、アミノ基等)を有する含窒素複素環であってもよい。
【0029】
〈側鎖(b):共有結合性架橋部位を含有する側鎖〉
本明細書において「共有結合性架橋部位を含有する側鎖(b)」は、主鎖を形成するポリマーの分子同士を共有結合により架橋する部位(共有結合性架橋部位:例えば、無水マレイン酸基と、無水マレイン酸基と反応する化合物とを反応せしめて形成し得る、アミド、エステル、および、チオエステルからなる群より選択される少なくとも1つの結合等の化学的に安定な結合(共有結合)等によりポリマー同士を架橋する部位)を含有している側鎖であることを意味する。このように、本明細書において「共有結合性架橋部位」は、共有結合によりポリマーの分子同士を架橋する部位である。なお、側鎖(b)は共有結合性架橋部位を含有する側鎖であるが、共有結合性架橋部位を有しつつ、更に、水素結合が可能な基を有して、側鎖間において水素結合による架橋を形成するような場合には、後述の側鎖(c)として利用されることとなる(なお、前記ポリマー(より好ましくはエラストマー)の分子同士の側鎖間に水素結合を形成することが可能な、水素のドナーと、水素のアクセプターの双方が含まれていない場合、例えば、系中に単にエステル基(-COO-)が含まれている側鎖のみが存在するような場合には、エステル基(-COO-)同士では特に水素結合は形成されないため、かかる基は水素結合性架橋部位としては機能しない。他方、例えば、カルボキシ基やトリアゾール環のような、水素結合の水素のドナーとなる部位と、水素のアクセプターとなる部位の双方を有する構造をポリマー同士の側鎖にそれぞれ含む場合には、前記ポリマー同士(より好ましくはエラストマー同士)の側鎖間で水素結合が形成されるため、水素結合性架橋部位が含有されることとなる。また、例えば、前記樹脂の分子同士の側鎖間に、エステル基と水酸基とが共存して、それらの基により側鎖間で水素結合が形成される場合、その水素結合を形成する部位が水素結合性架橋部位となる。そのため、側鎖(b)が有する構造自体や、側鎖(b)が有する構造と他の側鎖が有する置換基の種類等に応じて、側鎖(c)として利用される場合がある。)。
【0030】
このような共有結合性架橋部位を含有する側鎖(b)は特に制限されないが、例えば、官能基を側鎖に有するポリマー(前記主鎖部分を形成させるためのポリマー(なお、このような官能基を側鎖に有するポリマーとしては、官能基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーが好ましい))と、前記官能基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)とを反応させることで、形成される共有結合性架橋部位を含有するものであることが好ましい。このような側鎖(b)の前記共有結合性架橋部位における架橋は、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により形成されてなることが好ましい。そのため、前記主鎖部分を形成させるためのポリマー(以下、場合により「主鎖を構成するポリマー」と称する)が有する前記官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生起しうる官能基であることが好ましい。
【0031】
このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」としては、例えば、1分子中にアミノ基および/またはイミノ基を2個以上(アミノ基およびイミノ基をともに有する場合はこれらの基を合計して2個以上)有するポリアミン化合物;1分子中に水酸基を2個以上有するポリオール化合物;1分子中にイソシアネート(NCO)基を2個以上有するポリイソシアネート化合物;1分子中にチオール基(メルカプト基)を2個以上有するポリチオール化合物;等が挙げられる。ここにおいて「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」は、かかる化合物が有する置換基の種類や、かかる化合物を利用して反応せしめた場合に反応の進行の程度、等によっては、前記水素結合性架橋部位及び前記共有結合性架橋部位の双方を導入し得る化合物となる(例えば、水酸基を3個以上有する化合物を利用して、共有結合による架橋部位を形成する場合において、反応の進行の程度によっては、官能基を側鎖に有するポリマー(より好ましくは官能基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー)の該官能基に2個の水酸基が反応して、残りの1個の水酸基が水酸基として残るような場合も生じ、その場合には、水素結合性の架橋を形成する部位も併せて導入され得ることとなる。)。そのため、ここに例示する「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」には、「水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物」も含まれ得る。このような観点から、側鎖(b)を形成する場合には、「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」の中から目的の設計に応じて化合物を適宜選択したり、反応の進行の程度を適宜制御する等して、側鎖(b)を形成すればよい。なお、共有結合性架橋部位を形成する化合物が複素環を有している場合には、より効率よく水素結合性架橋部位も同時に製造することが可能になり、後述の側鎖(c)として、前記共有結合性架橋部位を有する側鎖を効率よく形成することが可能となる。そのため、かかる複素環を有しているような化合物の具体例については、側鎖(c)を製造するための好適な化合物として、特に側鎖(c)と併せて説明する。なお、側鎖(c)は、その構造から、側鎖(a)や側鎖(b)等の側鎖の好適な一形態であるとも言える。
【0032】
このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」として利用可能な前記ポリアミン化合物、前記ポリオール化合物、前記ポリイソシアネート化合物、前記ポリチオール化合物としては、公知のもの(例えば特許第5918878号公報の段落[0094]~[0106]に記載のもの等)を適宜利用することができる。
【0033】
また、このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」としては、ポリエチレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリプロピレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリエチレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリプロピレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリエチレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)、ポリプロピレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)であることが好ましい。
【0034】
このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」と反応する、前記主鎖を構成するポリマーが有する官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生起(生成:形成)し得る官能基が好ましく、かかる官能基としては、環状酸無水物基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、チオール基等が好適に例示される。
【0035】
〈側鎖(c):水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖〉
このような側鎖(c)は、1つの側鎖中に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖である。このような側鎖(c)に含まれる水素結合性架橋部位は、側鎖(a’)において説明した水素結合性架橋部位と同様のものであり、側鎖(a)中の水素結合性架橋部位と同様のものが好ましい。また、側鎖(c)に含まれる共有結合性架橋部位としては、側鎖(b)中の共有結合性架橋部位と同様のものを利用できる(その好適な架橋も同様のものを利用できる。)。
【0036】
このような側鎖(c)は、官能基を側鎖に有するポリマー(前記主鎖部分を形成させるためのポリマー:より好ましくは官能基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー)と、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入する化合物)とを反応させることで、形成される側鎖であることが好ましい。
【0037】
このような水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入する化合物)としては、複素環(特に好ましくは含窒素複素環)を有しかつ共有結合性架橋部位を形成することが可能な化合物(共有結合を生成する化合物)が好ましく、中でも、複素環含有ポリオール、複素環含有ポリアミン、複素環含有ポリチオール等がより好ましい。なお、このような複素環を含有する、ポリオール、ポリアミンおよびポリチオールは、複素環(特に好ましくは含窒素複素環)を有するものである以外は、前述の「共有結合性架橋部位を形成することが可能な化合物(共有結合を生成する化合物)」において説明した前記ポリオール化合物、前記ポリアミン化合物および前記ポリチオール化合物と同様のものを適宜利用することができる。また、複素環を含有する、ポリオール、ポリアミンおよびポリチオールとしては公知のもの(例えば、特許5918878号公報の段落[0113]に記載のもの)を適宜利用できる。なお、「水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入する化合物)」と反応する、前記主鎖を構成するポリマーが有する官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生起(生成:形成)し得る官能基が好ましく、かかる官能基としては、環状酸無水物基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、チオール基等が好適に例示される。
【0038】
〈側鎖(b)~(c)中の共有結合性架橋部位として好適な構造について〉
側鎖(b)及び/又は(c)に関して、共有結合性架橋部位における架橋が、第三級アミノ結合(-N=)、エステル結合(-COO-)を含有している場合であって、これらの結合部位が水素結合性架橋部位としても機能する場合、得られる組成物の圧縮永久歪および機械的強度(破断伸び、破断強度)がより高度に改善されるとの理由から好ましい。このように、共有結合性架橋部位を有する側鎖中の第三級アミノ結合(-N=)やエステル結合(-COO-)が、他の側鎖との間において、水素結合を形成するような場合、かかる第三級アミノ結合(-N=)、エステル結合(-COO-)を含有している共有結合性架橋部位は、水素結合性架橋部位も備えることとなり、側鎖(c)として機能し得る。
【0039】
前記主鎖を構成するポリマーが有する官能基と反応して前記第三級アミノ結合及び/又は前記エステル結合を含有している共有結合性架橋部位を形成させることが可能な化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成することが可能な化合物)としては、ポリエチレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリプロピレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリエチレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリプロピレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリエチレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)、ポリプロピレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)を好適なものとして挙げることができる。
【0040】
前記側鎖(b)及び/又は側鎖(c)の上記共有結合性架橋部位における架橋としては、下記一般式(1)~(3)のいずれかで表される構造を少なくとも1つ含有しているものが好ましく、式中のGが第三級アミノ結合、エステル結合を含有しているものがより好ましい(なお、以下の構造において、水素結合性架橋部位を含む場合、その構造を有する側鎖は、側鎖(c)として利用されるものである。)。
【0041】
【0042】
上記一般式(1)~(3)中、E、J、KおよびLはそれぞれ独立に単結合;酸素原子、アミノ基NR’(R’は水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)またはイオウ原子;あるいはこれらの原子または基を含んでもよい有機基であり、Gは酸素原子、イオウ原子または窒素原子を含んでいてもよく、直鎖状、分岐鎖状又は環状の炭素数1~20の炭化水素基である。
【0043】
このような置換基Gとしては、下記一般式(111)~(114)で表される基が好ましく、耐熱性が高く、水素結合により、高強度になるという観点から、下記一般式(111)で表される基及び下記一般式(112)で表される基であることがより好ましい。
【0044】
【0045】
また、前記側鎖(b)及び(c)において、上記共有結合性架橋部位における架橋は、環状酸無水物基と、水酸基あるいはアミノ基及び/又はイミノ基との反応により形成されることが好ましい。例えば、反応後に主鎖部分を形成するポリマーが官能基として環状酸無水物基(例えば無水マレイン酸基)を有している場合に、該ポリマーの環状酸無水物基と、水酸基あるいはアミノ基および/またはイミノ基を有する前記共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)とを反応させて、共有結合により架橋する部位を形成してポリマー間を架橋させることで、形成される架橋としてもよい。
【0046】
また、このような側鎖(b)及び(c)において、前記共有結合性架橋部位における架橋は、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により形成されてなることがより好ましい。
【0047】
以上、側鎖(a’)、側鎖(a)、側鎖(b)、側鎖(c)について説明したが、このようなポリマー中の側鎖の各基(構造)等は、NMR、IRスペクトル等の通常用いられる分析手段により確認することができる。
【0048】
このようなポリマー成分(より好ましくはエラストマー成分)としては、前記ポリマー(A)~(B)のうちの1種を単独で利用してもよく、あるいは、それらのうちの2種以上を混合して利用してもよい。なお、前記ポリマー(B)(より好ましくはエラストマー性ポリマー(B))は、側鎖(a’)及び側鎖(b)の双方を有するポリマーであっても、側鎖(c)を有するポリマーであってもよいが、このようなポリマー(B)の側鎖に含有される水素結合性架橋部位としては、より強固な水素結合が形成されるといった観点から、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位(より好ましくはカルボニル含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位)であることが好ましい。また、前記ポリマー(B)の側鎖に含有される前記共有結合性架橋部位における架橋は、その架橋部位を含む側鎖間において水素結合等の分子間相互作用を引き起こさせることも可能となるといった観点から、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により形成されてなることが好ましい。
【0049】
このようなポリマー(A)~(B)を製造する方法としては特に制限されず、公知の方法(例えば、特許5918878号公報に記載の方法(段落[0139]~[0140]に記載の方法等))を適宜採用できる。また、このようなポリマー(A)~(B)を製造する方法としては、例えば、官能基(例えば環状酸無水物基等)を側鎖に有するポリマー(より好ましくは官能基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー)を用いて、該ポリマーを、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物、並びに、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物及び前記官能基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物の混合原料のうちの少なくとも1種の原料化合物と反応させて、前記側鎖(a)を有するポリマー;側鎖(a')及び側鎖(b)を有するポリマー;及び/又は前記側鎖(c)を有するポリマーを製造する方法を採用してもよい。なお、このような反応の際に採用する条件(温度条件や雰囲気条件等)は特に制限されず、官能基や該官能基と反応させる化合物(水素結合性架橋部位を形成する化合物及び/又は共有結合性架橋部位を形成する化合物)の種類に応じて適宜設定すればよい。なお、前記ポリマー(A)の場合は、水素結合部位を持つモノマーを重合して製造しても良い。
【0050】
このような官能基を側鎖に有するポリマー(より好ましくは官能基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマー)としては、前述のポリマー(A)~(B)の主鎖を形成することが可能なポリマーであって、官能基を側鎖に有するものが好ましい。ここで、「官能基を側鎖に含有するポリマー」とは、主鎖を形成する原子に官能基(上述の官能基等、例えば、環状酸無水物基等)が化学的に安定な結合(共有結合)をしているポリマーをいい、ポリマー(例えば公知の天然高分子または合成高分子)と官能基を導入し得る化合物とを反応させることにより得られるものを好適に利用できる。
【0051】
また、このような官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生起し得る官能基であることが好ましく、中でも、環状酸無水物基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、チオール基等が好ましく、環状酸無水物基が特に好ましい。また、このような環状酸無水物基としては、無水コハク酸基、無水マレイン酸基、無水グルタル酸基、無水フタル酸基が好ましく、中でも、容易にポリマー側鎖に導入可能で、工業上入手が容易である観点からは、無水マレイン酸基がより好ましい。また、前記官能基が環状酸無水物基である場合には、例えば、前記官能基を導入し得る化合物として、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸およびこれらの誘導体等の環状酸無水物を用いて、ポリマー(例えば公知の天然高分子または合成高分子:なお、このようなポリマーとしてはエラストマー性ポリマーが好ましい)に官能基を導入してもよい。
【0052】
また、このようなポリマー(A)及び(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分としては、工業的に入手しやすく、しかも機械的強度及び圧縮永久歪に対する耐性を高度にバランスよく有するものとすることが可能であるといった観点から、
環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと;
水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいトリアゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいピリジン、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいチアジアゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいイミダゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいイソシアヌレート、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいトリアジン、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいヒダントイン、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリトール(pentaerythritol)、スルファミド、並びに、ポリエーテルポリオールのうちの少なくとも1種の化合物(以下、場合により単に「化合物(X)」と称する。)と;
の反応物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このように、ポリマー(A)及び(B)(より好ましくはエラストマー性ポリマー(A)及び(B))としては、前記環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと前記化合物(X)との反応物がより好ましい。なお、このような化合物(X)としては、共有結合性の架橋部位の生成と同時に水素結合性の架橋部位の生成も可能であるといった観点から、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいピリジン、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいチアジアゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいイミダゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいイソシアヌレート、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいトリアジン、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいヒダントイン、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリトール(pentaerythritol)、スルファミド、並びに、ポリエーテルポリオールがより好ましい。
【0053】
なお、このような環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと前記化合物(X)との反応物を調製するための方法は特に制限されないが、例えば、前記環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと前記化合物(X)とを含む混合物を、これらが反応するような温度条件(好ましくは50~230℃)で混合(例えば加圧ニーダーにて混合)することにより調製する方法を採用してもよい。なお、このような反応温度等は利用する化合物(X)や前記環状酸無水物基の種類等に応じて適宜設定すればよい。
【0054】
また、本発明においては、前記ポリマー成分(より好ましくはエラストマー成分)の種類に応じて、得られる組成物に用途に応じた特性を適宜付与することも可能である。例えば、前記ポリマー(A)をポリマー成分とする場合においては、組成物中に側鎖(a)に由来する特性をより多く付与できるため、特に破断伸び、破断強度、流動性を向上させることが可能となる。また、前記ポリマー(B)をポリマー成分とする場合においては、組成物中に、側鎖中の共有結合性架橋部位に由来する特性をより多く付与できるため、圧縮永久歪に対する耐性(耐圧縮永久歪性)をより向上させることが可能となる。なお、前記ポリマー(B)をポリマー成分として含有する場合においては、組成物中において、共有結合性架橋部位に由来する特性の他に、水素結合性架橋部位(側鎖(a’)において説明した水素結合性架橋部位)に由来する特性をも付与できるため、流動性(成形性)を保持した状態で、耐圧縮永久歪性をより向上させることも可能となり、その側鎖の種類やポリマー(B)の種類等を適宜変更することで、用途に応じた所望の特性を、より効率よく発揮させることも可能となる。
【0055】
また、前記ポリマー成分として、ポリマー(A)及び(B)を含有する場合には、ポリマー(A)とポリマー(B)の含有比率は質量比([ポリマー(A)]:[ポリマー(B)])で1:9~9:1とすることが好ましく、2:8~8:2とすることがより好ましい。このようなポリマー(A)の含有比率が前記下限未満では流動性(成形性)、機械的強度が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると圧縮永久歪に対する耐性が低下する傾向にある。
【0056】
また、ポリマー成分に由来して、組成物中に側鎖(a’)と側鎖(b)の双方が存在する場合には、その側鎖(a’)の全量と側鎖(b)の全量とが、質量比を基準として、1:9~9:1となっていることが好ましく、2:8~8:2となっていることがより好ましい。このような側鎖(a’)の全量が前記下限未満では流動性(成形性)、機械的強度が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると圧縮永久歪に対する耐性が低下する傾向にある。なお、このような側鎖(a’)は、側鎖(a)を含む概念である。そのため、側鎖(a’)として側鎖(a)のみが含まれるような場合においても、上記質量比で、組成物中に側鎖(a)と側鎖(b)の双方が存在することが好ましい。
【0057】
<成分(II):架橋したスチレン系ブロック共重合体について>
本発明にかかる成分(II)は、共有結合性架橋部位を有しかつ水素結合性架橋部位を有さない架橋したスチレン系ブロック共重合体である。なお、ここにいう「スチレン系ブロック共重合体」とは、いずれかの部位にスチレンブロック構造を有するコポリマーであればよい。また、ここにおいて「水素結合性架橋部位」の意味は成分(I)において説明したものと同義である。なお、このような成分(II)において「水素結合性架橋部位を有さない」とは、スチレン系ブロック共重合体での分子同士や、スチレン系ブロック共重合体と他の成分との間で水素結合により架橋する部位を有していないことを意味し、水素結合による架橋を形成し得るような構造部分(例えば、水素結合による架橋を形成し得るような、水酸基やカルボニル基等といった基等)を有していないことを意味する。
【0058】
また、成分(II)における「共有結合性架橋部位」は、共有結合によりスチレン系ブロック共重合体の分子同士を架橋する部位であればよく、その形態は特に制限されるものではない。このような成分(II)中のスチレン系ブロック共重合体の分子同士を架橋する共有結合性架橋部位としては、より強固な架橋の形成が可能であるとともに、架橋形成の簡便さに優れるといった観点から、炭素架橋、酸素架橋及び硫黄架橋からなる群から選択される少なくとも1種の架橋からなることが好ましく、炭素架橋からなることがより好ましい。
【0059】
また、このような成分(II)としては、主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と、該架橋性二重結合と反応して共有結合による架橋部位を形成するための架橋剤(以下、場合により、単に「架橋剤(A)」と称する)との反応物からなることが好ましい。ここにおいて「架橋性二重結合」とは、他の二重結合とラジカル反応可能で、ラジカル反応により架橋を形成可能な二重結合(ラジカル反応により架橋することが可能な二重結合);いわゆる加硫剤(硫黄や過酸化物)を用いた加硫反応(架橋反応)により架橋を形成することが可能な二重結合;付加反応可能な二重結合、水素が引き抜かれやすいアリル水素を有する二重結合;等のように、架橋を形成することが可能(架橋反応に関与可能)な二重結合をいう。また、ここにおいて「主鎖」とは、側鎖以外の部分であって分子内で構造の骨格をなす最も長い分子鎖をいい、また、「主鎖に架橋性二重結合を有する」とは、主鎖中のいずれかの部位に0.1モル%以上の割合(かかる割合は主鎖を構成する全構造単位(全モノマー単位)に対する架橋性二重結合を含む構造単位の割合である)で架橋性二重結合が存在することによってスチレン系ブロック共重合体が架橋を形成することが可能(架橋反応に関与可能)な二重結合を有していればよいことを意味する。例えば、主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体がスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)である場合には、ブタジエンやイソプレンが重合した後の二重結合が架橋可能となり、また、主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体がスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン‐エチレン‐プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン‐エチレン‐エチレン‐プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)である場合には、これらがSBSやSISに対して水素添加することにより製造されるものではあるが、その製造時に水素添加量を制御して二重結合を残すことにより、その残った二重結合により架橋可能となる。また、重合時にジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物を共重合して主鎖中に二重結合が導入されたもの等を好適に利用してもよい。
【0060】
このような主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体(架橋前のスチレン系ブロック共重合体)としては、より高い架橋密度及びより高いオイル保持性を有するものととすることが可能となるといった観点から、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン‐エチレン‐プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン‐エチレン‐エチレン‐プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)が好ましい。また、このような主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体の中でも、SBS、SEBS、SIS、SEEPSがより好ましく、SBS、SEBS、SEEPSが更に好ましい。このような主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体は、1種を単独で利用してもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。
【0061】
また、このような主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体は、流動性(押出肌・オイルブリード抑制)と圧縮永久歪の双方をより高度な水準でバランスよく発揮できるという観点からは、2種以上を組み合わせて利用することが好ましい。また、主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体を2種以上利用する場合、一方が架橋後に架橋密度が低くなるもの(たとえばSEBS)となりかつもう一方が架橋後に架橋密度が高くなるもの(たとえばSBS)となるように2種以上のものを選択して組み合わせることが好ましく、SBSとSEBSを組み併せて利用することが好ましい。このようにSBSとSEBSを組み合わせることでSEBSは架橋性二重結合が1モル%程度しかないので架橋後の架橋密度が低くなり、SBSは架橋性二重結合を60~90モル%有しているので、架橋後の架橋密度を高くできる。なお、SBSとSEBSを組み合わせて利用する場合、これらの質量比(SBS:SEBS)が1:9~9:1(より好ましくは2:8~8:2)となるようにしてSBSとSEBSを利用することが好ましい。また、SBSとSEBSを組み合わせて利用する場合、耐永久歪性(圧縮・引張)及び流動性がより向上するといった観点からは、SEBSとラジアル状のSBSを組み合わせることが好ましい。ここにいうSBSの「ラジアル状」とは分子鎖が放射状に結びついている構造であることをいい、「リニア状」とは分子構造が直鎖状の構造であることをいう。
【0062】
また、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体は、スチレン含有量が10~70質量%(より好ましくは20~60質量%)のスチレン系ブロック共重合体であることが好ましい。このようなスチレン含有量が前記下限未満ではスチレンブロック成分の減少により熱可塑性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとオレフィン成分の減少によりゴム弾性が低下する傾向にある。なお、このようなスチレン系ブロック共重合体中のスチレン含有量は、JIS K6239(2007年発行)に記載のIR法に準拠した方法により測定できる。
【0063】
さらに、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び、分子量分布の分散度(Mw/Mn)は、それぞれ、機械的強度、オイル吸収性の観点から、Mwは10万以上100万以下であることが好ましく、20万以上80万以下であることがより好ましく、30万以上70万以下であることが更に好ましい。また、Mnは、5万以上60万以下であることが好ましく、10万以上55万以下であることがより好ましく、15万以上50万以下であることが更に好ましい。更に、Mw/Mnは、5以下であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。なお、このような重量平均分子量(Mw)や前記数平均分子量(Mn)および分子量分布の分散度(Mw/Mn)は、いわゆるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めることができる。また、このような分子量等の測定の具体的な装置や条件としては、島津製作所製の「Prominence GPCシステム」を利用できる。
【0064】
また、このようなスチレン系ブロック共重合体が十分なエラストマー性を発現するためには、そのソフトブロック部のガラス転移点が、-80~0℃であることが好ましい。ここで「ソフトブロック部」とは、本スチレン系ブロック共重合体中で非芳香族モノマーから構成されているセグメントのことをいう。なお、ここにいう「ガラス転移点」は、前述のように、示差走査熱量測定(DSC-Differential Scanning Calorimetry)により測定したガラス転移点である。このようなDSC測定に際しては、昇温速度は10℃/minにするのが好ましい。
【0065】
このような主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体としては、主鎖に架橋性二重結合を有するものであれば、市販品を用いてもよく、例えば、クレイトン社製の商品名「G1633」「D1101」「DX410」「G1651」「D1111」;クラレ社製の商品名「V9461」「4055」「4077」「4099」「タフプレンA」;旭化成社製の商品名「H1053」「H1051」;李長英(LCY)社製の商品名「GP3501」「GP3502」「GP3411」「GP9901」、「GP7533」、「GP7551」;等を適宜用いてもよい。
【0066】
また、前記架橋剤(A)としては、スチレン系ブロック共重合体の主鎖中の架橋性二重結合と反応して共有結合による架橋を形成することが可能なものであって、かつ、反応後に形成される架橋を共有結合性架橋部位を有しかつ水素結合性架橋部位を有さないものとすることが可能なものであればよく、特に制限されないが、過酸化物系架橋剤、硫黄系架橋剤、フェノール樹脂系架橋剤、アミノ樹脂系架橋剤、キノン系架橋剤、ハロゲン系架橋剤、アゾ系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、双極性化合物系架橋剤、光系架橋剤を好適に利用することができ、中でも、過酸化物系架橋剤、硫黄系架橋剤がより好ましく、過酸化物系架橋剤が特に好ましい。
【0067】
また、このような過酸化物系架橋剤としては、特に制限されず、前記架橋性二重結合と反応して、いわゆる炭素(酸素)架橋からなる共有結合性架橋部位を形成することが可能な公知の過酸化物からなる架橋剤を適宜利用できるが、中でも、有機過酸化物が好ましい。また、このような有機過酸化物としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン-3等のパーオキシエステル類;ジアセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、p-クロロベンゾイルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類等が挙げられる。この中では、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンを好適に使用することができる。
【0068】
また、このような有機過酸化物は、加工温度を適切にする観点から、1分間半減期温度が50~250℃(より好ましくは100~230℃)であることが好ましい。このような条件を満たす有機過酸化物としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン-3等が挙げられる。
【0069】
また、このような有機過酸化物の中でも、より高い半減期温度を有するといった観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジクミルパーオキシド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンがより好ましく、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が特に好ましい。なお、このような過酸化物系架橋剤は、1種を単独で利用してもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0070】
なお、このような架橋剤(A)として有機過酸化物(過酸化物系架橋剤の一種)を用いる場合、前記反応物を得る際に、架橋助剤を利用することが好ましい。このような架橋助剤としては、例えば、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物;p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム化合物;N-メチル-N-4-ジニトロソアニリン、ニトロソベンゼン等のニトロソ化合物;トリメチロールプロパン-N,N’-m-フェニレンジマレイミド等のマレレイミド化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等の多官能性メタクリレートモノマー;ビニルブチラート、ビニルステアレート等の多官能性ビニルモノマー等;その他イオウ、ジフェニルグアニジン、トリアリルシアヌレート、ジメタクリル酸亜鉛、ジアクリル酸亜鉛等等が挙げられる。
【0071】
また、前記硫黄系架橋剤としては、特に制限されず、前記架橋性二重結合と反応して、いわゆる硫黄架橋からなる共有結合性架橋部位を形成することが可能な公知の硫黄系の架橋剤を適宜利用できる。このような硫黄系架橋剤としては、粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不活性イオウ、油処理イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイドなどのイオウ系加硫剤や、亜鉛華、酸化マグネシウム、リサージ、p-キノンジオキシム、p-ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ-p-ベンゾキノン、ポリ-p-ジニトロソベンゼン、メチレンジアニリンなどが挙げられる。なお、反応性の観点から、粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不活性イオウ、油処理イオウが好ましく、中でも、粉末硫黄、油処理硫黄がより好ましく、油処理硫黄が更に好ましい。なお、このような硫黄系架橋剤は、1種を単独で利用してもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0072】
また、このような架橋剤(A)として硫黄系架橋剤を利用する場合には、前記反応物を得る際に、架橋助剤(加硫促進剤及び/又は加硫促進助剤)を利用することが好ましい。このような加硫促進剤としては、例えば、チアゾール系(MBT、MBTS、ZnMBT等)、スルフェンアミド系(CBS、DCBS、BBS等)、グアニジン系(DPG、DOTG、OTBG等)、チウラム系(TMTD、TMTM、TBzTD、TETD、TBTD、TOTN(テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド)等)、ジチオカルバミン酸塩系(ZTC、NaBDC等)、チオウレア系(ETU等)、キサントゲン酸塩系(ZnBX等)の加硫促進剤が好ましい。また、このような加硫促進助剤としては、例えば、酸化亜鉛(例えば酸化亜鉛3種);ステアリン酸、アセチル酸、プロピオン酸、ブタン酸、アクリル酸、マレイン酸等の脂肪酸;アセチル酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ブタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、マレイン酸亜鉛等の脂肪酸亜鉛等が好ましい。
【0073】
このような主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と前記架橋剤(A)との反応物としては、耐永久歪性(圧縮・引張)がより向上するといった観点から、SBS、SEBS、SIS、SEEPSからなる郡から選択される少なくとも1種と、過酸化物系架橋剤との反応物がより好ましく、SBS、SEBS、SEEPSからなる郡から選択される少なくとも1種と過酸化物系架橋剤との反応物がより好ましい。
【0074】
このような主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と前記架橋剤(A)との反応物を調製するための方法は特に制限されないが、例えば、主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と前記架橋剤(A)と必要に応じて架橋助剤とを含む混合物を架橋性二重結合と前記架橋剤(A)とが反応するような温度条件(好ましくは60~250℃)で混合(例えば加圧ニーダーにて混合)することにより調製する方法を採用してもよい。なお、このような反応における温度条件は前記架橋剤(A)の種類等に応じて、架橋反応が進行するような温度に適宜設定すればよい。
【0075】
〔組成について〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(I)及び(II)を含むことを特徴とするものである。
【0076】
このような熱可塑性エラストマー組成物において、前記成分(I)の含有量は特に制限されるものではないが、組成物の総量に対して1~99質量%であることが好ましく、10~90質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることが更に好ましい。このような成分(I)の含有量を前記範囲とすることで、流動性の点でより高い効果を得られる傾向にある。なお、成分(I)の含有量を前記下限値以上の値とすることで、耐永久歪性(圧縮・引張)がより向上する傾向にある。
【0077】
また、このような熱可塑性エラストマー組成物において、前記成分(II)の含有量は特に制限されるものではないが、組成物の総量に対して0.1~80質量%であることが好ましく、0.5~70質量%であることがより好ましく、1~60質量%であることが更に好ましい。このような成分(II)の含有量を前記範囲とすることで、耐永久歪性(圧縮・引張)及び流動性の点でより高い効果を得られる傾向にある。すなわち、成分(II)の含有量を前記下限値以上の値とすることで、耐永久歪性(圧縮・引張)がより向上する傾向にあり、他方、前記上限値以下の値とすることで流動性がより向上する傾向にある。
【0078】
また、このような成分(II)の含有量は、前記成分(I)100質量部に対して1~3000質量部とすることが好ましく、10~2000質量部とすることがより好ましく、20~1500質量部とすることが更に好ましく、30~1000質量部とすることが特に好ましく、50~750質量部とすることが最も好ましい。このように、前記成分(I)100質量部に対する成分(II)の含有量を前記範囲とすることで、耐永久歪性(圧縮・引張)及び流動性の点でより高い効果を得られる傾向にある。すなわち、成分(II)の含有量を前記下限値以上の値とすることで、耐永久歪性(圧縮・引張)がより向上する傾向にあり、他方、前記上限値以下の値とすることで流動性がより向上する傾向にある。
【0079】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、引張特性の更なる改善が可能となるといった観点から、クレイ(以下、場合により、単に「成分(III)」と称する)を更に含有しているものが好ましい。このようなクレイとしては、特に制限されるものではなく、公知のクレイ(例えば、特許第5918878号公報の段落[0146]~段落[0156]に記載のもの等)を適宜利用することができる。このようなクレイとしては、引張特性改善の観点から、有機化クレイがより好ましい。このような有機化クレイとしては特に制限されないが、クレイが有機化剤により有機化されてなるものであることが好ましい。このような有機化剤としても特に制限されず、クレイを有機化することが可能な公知の有機化剤(例えば、特許第5918878号公報の段落[0152]に記載のもの)を適宜利用することができる。
【0080】
また、このような有機化クレイとしては、クレイの4級アンモニウム塩を好適に利用することができる。なお、このような有機化クレイの4級アンモニウム塩としては、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩、ジメチルオクタデシルアンモニウム塩、及び、これらの混合物をより好適に利用でき、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩とジメチルオクタデシルアンモニウム塩との混合物を更に好適に利用できる。
【0081】
このような成分(III)を含有する場合、前記成分(III)の含有量としては特に制限されるものではないが、引張特性がより向上するといった観点から、前記成分(I)100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましく、0.05~5質量部であることが更に好ましく、0.08~3質量部であることが特に好ましい。
【0082】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、低硬度化を図れるとともに流動性をより向上させることが可能となるといった観点から、プロセスオイル(以下、場合により、単に「成分(IV)」と称する)を更に含有しているものが好ましい。このような「プロセスオイル」としては、特に制限されず、公知のプロセスオイルを適宜利用することができ、例えば、パラフィンオイル(パラフィン系オイル)、ナフテンオイル(ナフテン系オイル)、アロマオイル(アロマ系オイル)等が挙げられる。このようなプロセスオイルとしては、市販のものを適宜利用してもよい。
【0083】
また、このようなプロセスオイルの中でも、エラストマーとの間でより高い相溶性が得られるとともに、熱劣化による黄変をより高度な水準で抑制することが可能であるという観点からは、パラフィンオイルが特に好ましい。また、このようなプロセスオイルとして好適なパラフィンオイルとしては特に制限されず、公知のパラフィンオイル(例えば、特開2017-57323号公報の段落[0153]~段落[0157]に記載のもの等)を適宜利用できる。なお、このようなパラフィンオイルとしては、そのオイルに対して、ASTM D3238-85に準拠した相関環分析(n-d-M環分析)を行って、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率(パラフィン部:CP)、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率(ナフテン部:CN)、及び、芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率(芳香族部:CA)をそれぞれ求めた場合において、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率(CP)が60%以上であることが好ましい。また、前記パラフィンオイルは、JIS K 2283(2000年発行)に準拠して測定される、40℃における動粘度が5mm2/s~1000mm2/sのものであることが好ましく、10~900mm2/sであることがより好ましく、15~800mm2/sであることが更に好ましい。動粘度を上記範囲内とすることで、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の流動性をより向上させることが可能となる。さらに、前記パラフィンオイルは、JIS K2256(2013年発行)に準拠したU字管法により測定されるアニリン点が0℃~150℃であることが好ましく、10~145℃であることがより好ましく、15~145℃であることが更に好ましい。アニリン点を上記範囲内とすることで、エラストマー成分の間により高い相溶性が得られる。なお、これらの動粘度及びアニリン点の測定方法はそれぞれ特開2017-57323号公報の段落[0153]~段落[0157]に記載されている方法を採用できる。また、このようなプロセスオイルの調製方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。また、このようなプロセスオイルとしては、市販品を利用してもい。
【0084】
このような成分(IV)を含有する場合、前記成分(IV)の含有量としては特に制限されるものではないが、低硬度化を図れるとともに流動性がより向上するといった観点から、前記成分(I)100質量部に対して10~2000質量部であることが好ましく、20~1500質量部であることがより好ましく、30~1200質量部であることが更に好ましく、50~1000質量部であることが特に好ましい。
【0085】
また、このような成分(IV)を含有する場合、前記成分(IV)の含有量としては特に制限されるものではないが、低硬度化を図れるとともに流動性がより向上するといった観点から、前記成分(II)100質量部に対して10~2000質量部であることが好ましく、20~1500質量部であることがより好ましく、30~1200質量部であることが更に好ましく、50~1000質量部であることが特に好ましい。
【0086】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、前記成分(III)及び(IV)以外にも、他のポリマー、補強剤(充填剤の一種:例えばシリカ、カーボンブラック等)、アミノ基を導入してなる充填剤、該アミノ基導入充填剤以外のアミノ基含有化合物、金属元素を含む化合物、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、前記プロセスオイル以外の可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、消臭剤(重曹等)、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤、クレイ以外のフィラー、滑剤、スリップ剤、光安定剤、導電性付与剤、防菌剤、中和剤、軟化剤、充填材、着色剤、熱伝導性充填材などの各種の添加剤を含有することができる。このような添加剤は、特に制限されず、公知のもの(例えば、特許5918878号公報の段落[0169]~[0174]に記載のものや、特開2006-131663号公報に例示されているようなもの等)を適宜使用することができる。また、前記添加剤としての他のポリマーとしては、化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂を好適に利用することができる。このような化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂としては、例えば、特開2017-57322号公報の段落[0204]~[0214]に記載のものを好適に利用できる。
【0087】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に前記添加剤を含有せしめる場合、前記添加剤の含有量が、前記成分(I)100質量部に対して0.001~20質量部程度であることが好ましい。なお、成形加工性の観点から滑剤を利用する場合には、滑剤の含有量は、前記成分(I)及び(II)の合計量100質量部に対して1~10質量部程度であることがより好ましい。また、他のポリマーを添加する場合は、前記成分(I)100質量部に対して1~1000質量部程度であることが好ましい。
【0088】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ゲル分率(質量基準)が1~99%であることが好ましく、10~95%であることがより好ましく、20~90%であることが更に好ましい。このようなゲル分率が前記下限以上となることで流動性がより向上する傾向にあり、他方、前記上限以下とした場合には耐永久歪性(圧縮・引張等)がより向上する傾向にある。このように、ゲル分率が前記範囲内にある場合には、流動性と耐永久歪性(圧縮・引張等)をより高い次元でバランスよく発揮できる傾向にある。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のゲル分率の値(質量%)が、該組成物中の成分(II)の含有量(質量%:仕込み量)の値の0.8~1.2倍程度(更に好ましくは0.9~1.1倍程度)の大きさであることがより好ましい。このように、該組成物中の成分(II)の含有量(質量%)とゲル分率の値がほぼ等しい値(好ましくは0.8~1.2倍程度の大きさの値、より好ましくは0.9~1.1倍程度の大きさの値)となる場合には、ゲルが成分(II)からなるものと認識することができ、また、これにより成分(II)が架橋したものであることも確認することが可能である。
【0089】
なお、ここにいう「ゲル分率」は以下に記載の方法で測定できる。すなわち、先ず、熱可塑性エラストマー組成物のシートから縦5mm、横5mm、厚み2mmの大きさのシート片を多数切り出し、約1g分集めて測定用の試料とする。次に、かかる測定用の試料の質量を測定する。また、別途、80メッシュのステンレス製の金網(ステンレス網:ステンレスメッシュ)を準備し、その質量を予め測定しておく。次いで、予め質量を測定したステンレス網で、前記測定用の試料を包んで、300mLの溶媒(例えばキシレン)に浸漬して7時間還流させる。なお、このような溶媒としては、測定対象となる熱可塑性エラストマー組成物中の成分(I)を溶解可能なものであって、成分(II)が溶解されないようなものを選択して利用することが好ましく、例えば、前記成分(I)が、主鎖がポリプロピレンからなるポリマー成分の場合にはキシレンを好適に利用できる。次に、このようにして7時間還流させた後、前記溶媒の中から前記測定試料を包んだ前記ステンレス網を取り出し、トルエンで洗浄した後、24時間、室温の温度条件で風乾し、その後、更に、真空乾燥器にて圧力1~10Pa、温度50℃の条件で6時間乾燥させる。このようにして乾燥させた後に残留成分の入ったステンレス網の質量を測定する。そして、ステンレス網の質量を差し引いて、残留成分の質量を算出する。次いで、測定用の試料の質量(使用量)に対する前記残留成分の質量を算出することにより、ゲル分率([ゲル分率(単位:%)]={(残留成分の質量)/(測定用の試料の質量)}×100)を求めることができる。
【0090】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K6922-2(2010年発行)に準拠して測定される230℃、10kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.01g/10分以上であることが好ましく、0.1g/10分以上であることがより好ましく、1g/10分であることが更に好ましい。このようなメルトフローレート(MFR)が、前記下限以上の値となる場合にはより高度な加工性を発現できる。なお、このようなメルトフローレート(MFR)は、JIS K6922-2(2010年発行)に記載のB法に準拠して測定される値であり、後述の実施例の欄で採用している方法と同様にして測定できる。
【0091】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を調製するための方法としては、特に制限されるものではなく、前記成分(I)~(II)を均一に混合(必要に応じて、前記成分(I)~(II)とともに更に成分(III)~(IV)を均一に混合)することが可能な方法を採用することが好ましい。また、このような本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造するための方法としては、例えば、
前記環状酸無水物基を側鎖に有するポリマー(以下、場合により単に「ポリマー(P)」と称する)と;
主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と;
該架橋性二重結合と反応して共有結合による架橋部位を形成するための架橋剤(A)と;
を混合して混合物を得た後、更に、前記混合物に対して、
前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(i)、並びに、前記化合物(i)及び前記環状酸無水物基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(ii)の混合原料のうちの少なくとも1種の原料化合物
を添加し、混合することにより、上記成分(I)及び(II)を含む熱可塑性エラストマー組成物を得る方法(A)を好適に採用することができる。以下、このような方法(A)について説明する。
【0092】
このような方法(A)に用いる「環状酸無水物基を側鎖に有するポリマー」としては、上述のものを適宜利用できる。なお、前記環状酸無水物基を側鎖に有するポリマー(ポリマー(P))は、ポリマーの主鎖を形成する原子に環状酸無水物基が化学的に安定な結合(共有結合)をしているポリマーのことをいい、例えば、前記ポリマー(A)~(B)の主鎖部分を形成することが可能なポリマーと、環状酸無水物基を導入し得る化合物とを反応させることにより得られるものを好適に利用することができる。このようなポリマー(P)としては、例えば、環状酸無水物基を側鎖に有するポリオレフィンポリマー(例えば、環状酸無水物基を側鎖に有する高密度ポリエチレン(HDPE)、環状酸無水物基を側鎖に有するポリプロピレン(PP)、環状酸無水物基を側鎖に有するエチレンプロピレンコポリマー、環状酸無水物基を側鎖に有するエチレンブチレンコポリマー、環状酸無水物基を側鎖に有するエチレンオクテンコポリマー、環状酸無水物基を側鎖に有するポリオレフィン系エラストマー性ポリマー等)等が挙げられる。なお、このようなポリマー(P)としては、公知のもの(例えば、特許第5918878号公報の段落[0183]~段落[0193]に記載のもの)を適宜利用することができる。また、このようなポリマー(P)としては、高分子量で高強度であるといった観点、架橋性二重結合を有していないため架橋剤(A)と反応せず、所望の反応のみが行われるように反応を制御することがより容易となるといった観点等から、環状酸無水物基を側鎖に有するポリオレフィンポリマーがより好ましく、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリエチレンポリプロピレンコポリマー、無水マレイン酸変性ポリエチレンポリブチレンコポリマーが更に好ましい。
【0093】
また、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体及び架橋剤(A)としては、上述のものを適宜利用できる。
【0094】
また、このような方法(A)において、前記ポリマー(P)と前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と前記架橋剤(A)とを混合する際には、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体の添加量は、前記ポリマー(P)100質量部に対して、10~2000質量部とすることが好ましく、20~1500質量部とすることがより好ましく、30~100質量部とすることが更に好ましい。また、前記架橋剤(A)の添加量は、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体100質量部に対して0.1~20質量部とすることが好ましく、0.2~15質量部とすることがより好ましく、0.3~10.0質量部とすることが更に好ましい。このような架橋剤(A)の使用量が前記下限以上とすることで、流動性をより向上させることが可能となる傾向にあり、他方、前記上限以下とすることで耐永久歪性(圧縮・引張等)をより向上させることが可能となる傾向にある。
【0095】
また、このような方法(A)において、前記ポリマー(P)と前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と前記架橋剤(A)とを混合する際には、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体及び架橋剤(A)をより効率よく反応させるために、前記架橋助剤を更に含有させることが好ましい。このように、前記架橋剤(A)とともに架橋助剤を使用する場合には、前記架橋助剤の添加量を、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体100質量部に対して、0.1~100質量部とすることが好ましく、1~80質量部とすることがより好ましく、2~50質量部とすることが更に好ましい。また、前記架橋剤(A)とともに架橋助剤を使用する場合には、前記架橋助剤の使用量を前記架橋剤(A)100質量部に対して、0.1~2000質量部とすることが好ましく、1~1500質量部とすることがより好ましく、5~1000質量部とすることが更に好ましい。このような架橋助剤の使用量を前記範囲内とすることで、架橋密度をより効率よく上昇させることができ、耐永久歪性(圧縮・引張等)の点でより高い効果を得ることが可能となる。
【0096】
また、前記ポリマー(P)と、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と、架橋剤(A)とを混合する際には、混合物を可塑化した状態とすることができ、かつ、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と架橋剤(A)との反応をより効率よく引き起こすことが可能となるといった観点から、混合時の温度を100~250℃とすることが好ましく、120~230℃とすることがより好ましい。なお、前記各成分を混合する方法は特に制限されず、例えば、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押出し機、万能撹拌機等により混合する方法を採用することができる。なお、このような温度条件で混合することで、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と、架橋剤(A)とを反応させることが可能となり、これにより混合物を可塑化させつつ、混合物中に架橋したスチレン系ブロック共重合体(成分(II))を形成することも可能となる。
【0097】
また、前記方法(A)においては、前記ポリマー(P)と、前記主鎖に架橋性二重結合を有するスチレン系ブロック共重合体と、架橋剤(A)とを混合して混合物を得た後、該混合物に前記原料化合物(化合物(i)及び/又は化合物(ii))を添加し、混合する。
【0098】
このような化合物(i)としては、例えば、前述の含窒素複素環そのものであってもよく、あるいは、前記含窒素複素環に無水マレイン酸等の環状酸無水物基と反応する置換基(例えば、水酸基、チオール基、アミノ基等)が結合した化合物(前記置換基を有する含窒素複素環)であってもよい。なお、このような化合物(i)としては、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を同時に導入することが可能な化合物)を利用してもよい(なお、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を有する側鎖は、水素結合性架橋部位を有する側鎖の好適な一形態といえる。)。
【0099】
また、前記化合物(ii)は、前述の「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」と同様のものを好適に利用することができる(その化合物として好適なものも同様である)。また、このような化合物(ii)としては、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を同時に導入することが可能な化合物)を利用してもよい(なお、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を有する側鎖は、共有結合性架橋部位を有する側鎖の好適な一形態といえる。)。このような水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物としては、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジンが特に好ましい。
【0100】
なお、このような原料化合物として用いられる化合物(i)及び化合物(ii)としては、例えば、特許5918878号公報の段落[0203]~[0207]に記載のものを適宜利用できる。また、前記原料化合物(化合物(i)及び/又は化合物(ii))としては、前述の化合物(X)がより好ましい。さらに、化合物(i)及び化合物(ii)の添加量(これらの総量:一方の化合物のみを利用する場合には、その一方の化合物の量となる。)や添加方法は、特に制限されず、目的とする設計に応じて適宜設定できる(例えば、特許5918878号公報の段落[0208]~[0210]を参照して適宜設計変更してもよい)。
【0101】
また、このような原料化合物(化合物(i)及び/又は化合物(ii))としては、耐圧縮永久歪性の観点からは、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、スルファミド、ペンタエリスリトール、2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン、ポリエーテルポリオールが好ましく、ペンタエリスリトール、2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートが更に好ましい。
【0102】
また、前記混合物に前記原料化合物を添加する際には、前記原料化合物の添加量を、前記ポリマー(P)100質量部(前記ポリマーが前記エラストマー性ポリマーである場合、前記エラストマー性ポリマー100質量部)に対して、0.1~10質量部とすることが好ましく、0.3~7質量部とすることがより好ましく、0.5~5.0質量部とすることが更に好ましい。このような原料化合物の添加量を、前記下限以上とすることで、架橋密度をより高くすることがで、所望の物性をより効率よく発現させることが可能となる傾向にあり、他方、前記上限以下とすることで過剰なブランチの生成を抑制して架橋密度をより向上させることが可能となる傾向にある。
【0103】
また、前記混合物に前記原料化合物を添加した後に混合する際には、混合物を軟化させて反応を瞬時に進めることが可能となるといった観点からは、混合時の温度を100~250℃とすることが好ましく、120~230℃とすることがより好ましい。このような温度条件下において混合しながら、前記ポリマー(P)と前記原料化合物とを反応させることにより、前記ポリマーが有する環状酸無水物基が開環されて、環状酸無水物基と前記原料化合物とが化学結合されるため、これにより、混合物中において、前記ポリマー(A)、並びに、前記ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分(成分(I))を形成することができる。なお、前記各成分を混合する方法は特に制限されず、例えば、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押出し機、万能撹拌機等により混合する方法を採用することができる。
【0104】
また、このような組成物の調製の際には、必要に応じて、上記成分(III)~(IV)や他の添加剤などを適宜含有させてもよい。このような成分(III)~(IV)や他の添加剤を添加するタイミング等は特に制限されないが、前記原料化合物を添加する前の段階において(前記混合物を得る段階において)、上記成分(III)~(IV)や他の添加剤を添加しておくことが好ましい。特に、上記成分(III)は、前記原料化合物を添加する前の段階で(前記混合物を得る段階で)用いることで、より効率よく、かつ、より均一に上記成分(III)を組成物中に分散させることが可能となる。
【0105】
また、このようにして得られる熱可塑性エラストマー組成物の形態は特に制限されず、ペレタイザー等の公知の装置を利用して適宜成形する等して、ペレット状、ベール状、ロッド状、リボン状、シート状等の各種形態としてもよい。なお、このような本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、日用品、自動車部品、電化製品、工業部品等の用途に適宜利用可能であるが、特に高温(125℃)における圧縮永久歪に対する耐性が高いものとなることから、従来の熱可塑性エラストマー組成物では利用が困難となるような高温下においても使用可能であることから、高温条件で使用されるような自動車部品(例えばエンジンルーム内のホース、ベルト、ブッシュ、マウント等のゴム部品)等にも好適に利用することができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
〔各実施例等において利用した材料について〕
先ず、後述の実施例等において組成物等の製造に利用した材料(化合物等)の商品名等を分けて説明する。なお、下記実施例においては、ここに記載する略称や名称等により各材料を表現する。
(1)ポリマー成分形成用の材料について
・マレイン化PP:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(理研ビタミン株式会社製の商品名「リケエイドMG670P」、マレイン化率:1.834質量%、重量平均分子量:153000)
・化合物(X1):トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート(日星産業株式会社製の商品名「タナックP」)
(2)架橋したスチレン系ブロック共重合体の形成用の材料について
・SEBS:スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(クレイトン社製の商品名「G1633」、分子の形状等:リニア状(なお、水素添加前のブタジエン部に由来して主鎖中に0.1モル%以上1.0モル%以下の架橋性二重結合を含む)、スチレン含有量:30質量%)
・SEEPS:スチレン‐エチレン‐エチレン‐プロピレン-スチレンブロック共重合体(株式会社クラレ製の商品名「V9461」:分子の形状等:、水素添加前のイソプレン部およびスチレン部に導入された二重結合に由来して主鎖中に架橋性二重結合を含む)、スチレン含有量:30質量%、)
・SBS-(I):スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(クレイトン社製の商品名「DX410JS」、分子の形状等:ラジアル状(なお、ブタジエン部に由来して主鎖中に架橋性二重結合を含む)、スチレン含有量:18質量%、スチレンとブタジエンのジブロックの含有量60質量%(ポリスチレンとポリブタジエン、スチレン・ブタジエン・スチレンのトリブロック等の合計量:40質量%))
・SBS-(II):スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(クレイトン社製の商品名「D1101JO」、分子の形状等:リニア状(なお、ブタジエン部に由来して主鎖中に架橋性二重結合を含む)、スチレン含有量:31質量%、スチレンとブタジエンのジブロックの含有量16質量%(ポリスチレンとポリブタジエン、スチレン・ブタジエン・スチレンのトリブロック等の合計量:84質量%))
・架橋剤(I):2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3(日本油脂株式会社製の商品名「パーヘキシン25B-40」、分子量:286.42、1分間半減期温度:194.3℃)
・架橋剤(II):2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂株式会社製の商品名「パーヘキサ25B-40」、分子量:290、1分間半減期温度:179.8℃)
・架橋剤(III):ジクミルパーオキシド(日本油脂株式会社製の商品名「パークミルD-40」、分子量:270、1分間半減期温度:175.2℃)
・架橋剤(IV):α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソピロピルベンゼン(日本油脂株式会社製の商品名「パーブチルP-40」、分子量:338.49、1分間半減期温度:175.4℃)
・架橋助剤:トリアリルイソシアヌレート(三菱ケミカル株式会社製の商品名「TAIC WH-60」)
(3)その他の添加成分
・パラフィンオイル:JXTGエネルギー株式会社製の商品名「300HV-S(J)」
・有機化クレイ(株式会社ホージュン製の商品名「エスベンWX」)。
【0108】
〔熱可塑性エラストマー組成物の特性の評価方法〕
次に、各実施例等で得られた熱可塑性エラストマー組成物の特性を評価するための方法について説明する。なお、各実施例及び比較例ごとに、得られた結果を表1~3に示す。
【0109】
<測定用のシートの調製>
各実施例等で得られた熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ用いて、以下のようにして、組成物の特性の評価に利用するためのシートを調製した。すなわち、先ず、水冷冷却機能付の加圧プレス機を用い、200℃に加熱した後、縦15cm、横15cm、厚み2mmの大きさの金型に熱可塑性エラストマー組成物43gを入れて、加圧前に200℃で5分間加熱(予熱)し、次いで、温度:200℃、使用圧力:20Mpa、加圧時間:5分の条件で加圧(熱プレス)した後、使用圧力:20MPa、加圧時間:2分の条件で水冷冷却プレスを更に行い、前記金型からプレス後の熱可塑性エラストマー組成物を取り出して、厚み2mmの測定用のシートを得た。
【0110】
<圧縮永久歪(C-Set)の測定>
上述のようにして得られた測定用のシートをそれぞれ用いて、以下のようにして、各実施例等で得られた熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪(C-Set)を求めた。先ず、上記測定用のシートを直径29mmの円盤状に打ち抜いて7枚重ね合わせ、高さ(厚み)が12.5±0.5mmになるようにしてサンプルを調製した。このようにして得られたサンプルを用い、専用治具で25%圧縮し、125℃で22時間放置した後の圧縮永久歪(単位:%)をJIS K6262(2013年発行)に準拠して測定した。なお、圧縮装置としてはダンベル社製の商品名「加硫ゴム圧縮永久歪試験器 SCM-1008L」を用いた。
【0111】
<メルトフローレート(MFR)の測定>
各実施例等で得られた熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ用いて、JIS K6922-2(2010年発行)に記載のB法に準拠してメルトフローレート(MFR、単位:g/10分)を測定した。すなわち、各実施例等で得られた熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ用い、メルトフローレート測定装置として東洋精機製作所製の商品名「Melt Indexer G-01」を用いて、該装置の炉体内に熱可塑性エラストマー組成物を3g添加した後、温度を230℃にして5分間保持した後、230℃に維持しつつ5kgに荷重する条件で、前記炉体の下部に接続されている直径1mm、長さ8mmの筒状のオリフィス部材の開口部(直径1mmの開口部)から、単位時間あたりに流出する質量(g)を測定(前記炉体内において温度を230℃にして5分間保持した後、荷重を開始してから流出する熱可塑性エラストマー組成物の質量の測定を開始する)し、10分間に流出する熱可塑性エラストマー組成物の質量(g)に換算することにより求めた。
【0112】
<ゲル分率の測定>
上述のようにして得られた測定用のシートをそれぞれ用いて、以下のようにして、各実施例等で得られた熱可塑性エラストマー組成物のゲル分率(単位:%)を算出した。すなわち、先ず、熱可塑性エラストマー組成物の上記シートから、縦5mm、縦5mm、厚み2mmの大きさのシート片を多数切り出し、約1g分集めてゲル分率の測定用の試料とした。次に、得られた測定用の試料の質量を測定した。また、別途、80メッシュのステンレス網を準備し、その質量を測定した。その後、前記測定用の試料を前記ステンレス網で包み、これを300mlのキシレンに浸漬した後、7時間還流させた。このように7時間還流させた後に、キシレン中から前記ステンレス網を取り出し、その後、トルエンで洗浄して室温の温度条件で24時間風乾し、その後、更に、真空乾燥器にて圧力1~10Pa、温度50℃の条件で6時間乾燥させた。このようにして乾燥させた後に、残留成分を内部に含むステンレス網の質量を測定し、次いで、その質量から予め測定したステンレス網の質量を差し引いて、残留成分の質量を算出した。そして、測定用の試料の質量(使用量)に対する前記残留成分の質量を算出することにより、ゲル分率を求めた。
【0113】
なお、このようなゲル分率の測定方法によれば、基本的にキシレンに溶解しない成分である「架橋したスチレン系ブロック共重合体」が前記残留成分として残るものと考えられる。そこで、組成物の総量に対する架橋したスチレン系ブロック共重合体の含有量(理論量(単位:質量%))を併せて表1~3に示す。なお、かかるスチレン系ブロック共重合体の含有量に関して、表1~3には単に「理論量」と記載する。
【0114】
<IR(赤外分光分析)測定>
前記ゲル分率の測定の際に得られた残留成分(ゲル)に対して、赤外分光分析測定装置(Thermo Scientific社製の商品名「NICOLET is10」)を用いて、ATR法にて赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)の測定を行い、前記残留成分(ゲル)に関して1400-1450cm-1のベンゼン環に由来する吸収(ピーク)があるか否かを確認した。なお、表1~3には、1400-1450cm-1のベンゼン環に由来するピークが確認されたものを「E」と示し、かかるピークが確認されなかったものを「N」と示す。また、かかる1400-1450cm-1の位置にピークが確認される場合には、組成物の調製に利用した材料の種類から、前記残留成分(ゲル)はスチレン系ブロック共重合体(SEBS等)に由来した成分であるものと判断することができる。また、前記残留成分(ゲル)はゲル化していることから、IRスペクトルにおいて1400-1450cm-1の位置にピークが確認される場合、そのスチレン系ブロック共重合体(SEBS等)が架橋しているものと理解できる。
【0115】
(実施例1)
14gのSEBS、14gのSBS-(I)、28gのパラフィンオイル、0.56gの架橋剤及び1.68gの架橋助剤を予め混合した混合物と、7gのマレイン化PPとを200℃に加熱した加圧ニーダーに投入し、100rpmの回転速度で3分間素練りして可塑化させた後、更に、0.007gの有機化クレイを添加し、200℃の温度条件で4分間混練して、加圧ニーダー中に混合物を得た。次いで、前記混合物に対して0.125gの化合物(X1)を更に加え、200℃の温度条件で8分間混練し、熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0116】
(実施例2~5)
SBS-(I)の代わりにSBS-(II)を用い、かつ、SEBS、SBS-(II)、架橋剤及び架橋助剤の使用量をそれぞれ表1に記載の割合となるように変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ調製した。
【0117】
(実施例6)
SEBS及びSBS-(I)の代わりにSEEPSを単独で用い、かつ、SEEPS、架橋剤及び架橋助剤の使用量をそれぞれ表1に記載の割合となるように変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ調製した。
【0118】
(実施例7)
SBS-(I)を利用せず、かつ、SEBS及び架橋助剤の使用量をそれぞれ表1に記載の割合となるように変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ調製した。
【0119】
(実施例8)
SEBSを利用せず、かつ、SBS-(I)及び架橋助剤の使用量をそれぞれ表1に記載の割合となるように変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ調製した。
【0120】
(実施例9)
有機化クレイを利用しなかった以外は、実施例2と同様にして熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0121】
(比較例1)
架橋剤及び架橋助剤を使用しなかった以外は、実施例7と同様にして熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0122】
なお、表1には、実施例1~9及び比較例1において、熱可塑性エラストマー組成物の調製に用いた成分の質量比(マレイン化PPの含有量を100質量部とした場合の各成分の質量割合)も併せて示す。
【0123】
【0124】
(実施例10~12)
架橋剤(I)の代わりに架橋剤(II)を用い、かつ、架橋助剤の使用量を表2に記載の割合となるように変更した以外は、実施例3と同様にして熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ調製した。得られた熱可塑性エラストマー組成物の特性の評価結果を表2に示す。なお、かかる組成物の調製に用いた成分の質量比(マレイン化PPの含有量を100質量部とした場合の各成分の質量割合)を表2に示す。
【0125】
【0126】
(実施例13~14)
架橋剤(I)の代わりに、表3に記載の割合で架橋剤(III)又は架橋剤(IV)を利用した以外は、実施例3と同様にして熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ調製した。得られた熱可塑性エラストマー組成物の特性の評価結果を表3に示す。なお、表3には、実施例3で得られた熱可塑性エラストマー組成物の特性の評価結果も併せて示す。なお、表3には、実施例3及び10で得られた熱可塑性エラストマー組成物の特性の評価結果も併せて示す。なお、かかる組成物の調製に用いた成分の質量比(マレイン化PPの含有量を100質量部とした場合の各成分の質量割合)を表3に示す。
【0127】
【0128】
表1~3に示した結果から明らかなように、実施例1~14で得られた熱可塑性エラストマー組成物においてはゲル分率と前記理論量(架橋したスチレン系ブロック共重合体の含有量:組成物の総量に対するスチレン系ブロック共重合体と架橋剤との合計量の割合(質量%))がほぼ同等の値となっており、かつ、IR測定においてベンゼン環に由来するピークが観測されていること等から、ゲル化している残留成分が、利用している材料の種類等から、基本的に、スチレン系ブロック共重合体と架橋剤との反応物(架橋したスチレン系ブロック共重合体)からなるものであると分かる。そのため、実施例1~14で得られた熱可塑性エラストマー組成物においては、製造に利用したスチレン系ブロック共重合体成分(SEBS、SBS、SEEPS)が組成物中において架橋したものとなっていることが分かる。
【0129】
表1~3に示した結果から明らかなように、実施例1~14で得られた熱可塑性エラストマー組成物においてはいずれも、比較例1で得られた熱可塑性エラストマー組成物よりも、高温に対する圧縮永久歪に対する耐性により優れたものとなり、更にMFRがより高い値となって加工時の流動性に優れたものとなることが確認された。特に、実施例1~14で得られた熱可塑性エラストマー組成物においてはいずれも、高温における圧縮永久歪(測定条件:125℃、22時間)が40%以下となっていた。
【0130】
また、表1に示した結果から明らかなように、実施例7と比較例1とは、組成物の調製時の架橋剤(I)及び架橋助剤の使用の有無のみが相違し、他の成分の使用量などが同一であることから、これらを比較すると、組成物中に架橋したSEBSを含む熱可塑性エラストマー組成物(実施例7)の方が、未架橋のSEBSのみを含む熱可塑性エラストマー組成物(比較例1)よりも、高温条件下(122℃、22時間)における圧縮永久歪(%)の値がより小さくなっており、高温に対する圧縮永久歪に対する耐性により優れたものとなることが分かった。更に、組成物中に架橋したSEBSを含む熱可塑性エラストマー組成物(実施例7)の方が、未架橋のSEBSのみを含む熱可塑性エラストマー組成物(比較例1)よりも、MFRがより高い値となり、流動性がより高く、加工性により優れたものとなることが分かった。
【0131】
さらに、表1に示した実施例1と実施例2の特性の評価結果から、SEBSと組み合わせてラジアル状のSBS(SBS-(I))を利用した場合に、リニア状のSBS(SBS-(II))を利用した場合よりも、圧縮永久歪に対する耐性及び流動性が更に優れたものとなることも分かった。
【0132】
また、表1に示した実施例2と実施例3の特性の評価結果、並びに、表2に示した実施例10~12の特性の評価結果から、架橋助剤の量比に基く効果の違いを確認したところ、架橋助剤の量比を増やせば増やすほど圧縮永久歪に対する耐性がより高度なものとなることが分かった。これは、架橋助剤をより多く利用することにより架橋助剤が架橋の起点となって星状に架橋することに起因するものと本発明者らは推察する。他方、表2に示した実施例10~12の特性の評価結果から、MFRの値は、架橋助剤の質量を架橋剤の質量の7.5倍程度(実施例11)とした場合により高い値となっていた。
【0133】
また、表3に示した実施例3、実施例9及び実施例12~13の特性の評価結果から、1分間半減期温度がより高い架橋剤(なお、架橋剤(I)~(IV)の1分間半減期温度の高さの順序は、高い方から順に、架橋剤(I)、架橋剤(II)、架橋剤(IV)、架橋剤(III)となる)を利用するほど、圧縮永久歪に対する耐性がより高度なものとなることが分かった。このような結果から、1分間半減期温度がより高い架橋剤を利用することで、より効率的に架橋を形成することが可能となるものと本発明者らは推察する。
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上説明したように、本発明によれば、高温における圧縮永久歪に対する耐性に優れるとともに、流動性を十分に高いものとすることが可能な熱可塑性エラストマー組成物を提供することが可能となる。このように、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、特に高温における圧縮永久歪に対する耐性に優れるため、高温条件下で利用される自動車部品等を製造するための材料等として特に有用である。