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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】圧電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/50 20230101AFI20240126BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20240126BHJP
   H10N 30/053 20230101ALI20240126BHJP
   H10N 30/067 20230101ALI20240126BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240126BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20240126BHJP
   H10N 30/093 20230101ALI20240126BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
H10N30/50
H10N30/853
H10N30/053
H10N30/067
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/093
C04B35/495
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020057955
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158250
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】後藤 隆幸
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-163055(JP,A)
【文献】特開2015-205805(JP,A)
【文献】特開2006-028001(JP,A)
【文献】特開2018-082015(JP,A)
【文献】特開2014-026998(JP,A)
【文献】国際公開第2007/094115(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/50
H10N 30/853
H10N 30/053
H10N 30/067
H10N 30/20
H10N 30/30
H10N 30/093
C04B 35/495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とし、さらにLi 2 Mn
3 、LiMn 2 4 及びLiMnO 2 から選択される少なくとも1種のマンガン酸リチウ
ムを含有する圧電セラミックスで構成されている圧電セラミックス層と、
銀の含有量が80質量%以上である金属で形成されており、前記圧電セラミックス層
間に備えられた内部電極と、
を有し、
前記圧電セラミックス層に含まれる、前記主成分を構成しないLi及びMnの含有量がそれぞれ、該主成分を100モル%とした場合に、元素換算で0.6モル%以下のLi、及び0.1モル%以上2.0モル%以下のMnとなる
ことを特徴とする積層型圧電素子。
【請求項2】
前記圧電セラミックス層が、CuKα線を用いたX線回折測定に基づいて、以下の算出方法により得られるマンガン酸リチウムの回折強度をIとしたときに、4.5≦I≦12を満たす、請求項1に記載の積層型圧電素子。
[算出方法]
1)2θ=10~40°におけるピーク強度の最大値をI0,max、最小値をI0,minとし
て、各測定点におけるピーク強度I0,2θの値を下記計算式で規格化したIを算
出する。
=(I0,2θ-I0,min)/(I0,max-I0,min)×1000
2)2θ=18~19°における前記I2θの最大値I2θ,maxと最小値I2θ,minとの
差(I2θ,max-I2θ,min)を、マンガン酸リチウムの回折強度をIとする。
【請求項3】
前記圧電セラミックス層が、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素、並びに銀をさらに含む、請求項1又は2に記載の積層型圧電素子。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属元素の合計含有量が、前記アルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素の含有量を100モル%としたときに、0.2モル%を超え、5モル%以下である、請求項に記載の積層型圧電素子。
【請求項5】
前記アルカリニオブ酸塩が、以下の組成式(1)で表される、請求項又はに記載の積層型圧電素子。
(AguM2v(K1-w-xNawLix1-u-v(SbyTazNb1-y-z)O3
…(1)
(組成式(1)中、M2は前記アルカリ土類金属を示す。また、u,v,w,x,y,z,aは、0.005<u≦0.05、0.002<v≦0.05、0.007<u+v≦0.1、0≦w≦1、0.02<x≦0.1、0.02<w+x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.4、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値である。)
【請求項6】
前記圧電セラミックス層がさらにSiを含み、その含有量が、前記アルカリニオブ酸塩を100モル%とした場合に0.1モル%以上3.0モル%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層型圧電素子。
【請求項7】
前記内部電極及び/又は前記圧電セラミックス層を被覆する保護部をさらに具備し、該保護部がマンガン酸リチウムを含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の積層型圧電素子。
【請求項8】
ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末、有機結合剤、並びに酸化
マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン及びマンガン酸リチウムから選択される少なく
とも1つのマンガン化合物を含むと共に、さらに前記マンガン化合物以外のリチウム化
合物を含み、前記リチウム化合物及び前記マンガン化合物の量が、前記アルカリニオブ
酸塩の粉末を100モル%としたときに、Liが元素換算で0.1モル%以上0.6モ
ル%以下、及びMnが元素換算で0.1モル%以上2.0モル%以下である生シートを
準備すること、
銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極前駆体を前記生シート上に配置す
ること、
前記内部電極前駆体が配置された前記生シートを積層して積層体を作製すること、並
びに
前記積層体を焼成して、前記アルカリニオブ酸塩を主成分とし、Li 2 MnO 3 、L
iMn 2 4 及びLiMnO 2 から選択される少なくとも1種のマンガン酸リチウムを
さらに含む焼結体層の間に、内部電極を備える焼成体を得ること、
を含む、積層型圧電素子の製造方法。
【請求項9】
前記生シートを、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素をさらに含むものとする、請求項に記載の積層型圧電素子の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ土類金属元素の合計含有量を、前記アルカリニオブ酸塩の粉末を100モル%としたときに、0.2モル%を超え、5モル%以下とする、請求項に記載の積層型圧電素子の製造方法。
【請求項11】
前記生シートを、前記アルカリニオブ酸塩の粉末を100モル%としたときに、元素換算で0.1モル%以上3.0モル%以下のSiをさらに含むものとする、請求項10のいずれか1項に記載の積層型圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、圧電性を有するセラミックス(圧電セラミックス)を一対の電極で挟み込んだ構造の電子部品である。ここで、圧電性とは、電気エネルギーと機械エネルギーとを相互に変換可能な性質である。
【0003】
圧電素子は、前述した圧電セラミックスの性質を利用して、一対の電極間に印加された電圧を、圧力や振動といった機械エネルギーに変換することで、他の物体を動かしたり、自身を動作させたりすることができる。他方、圧電素子は、振動や圧力といった機械エネルギーを電気エネルギーに変換し、当該電気エネルギーを一対の電極間の電圧として取り出すこともできる。
【0004】
電極間に印加された電圧を機械的な振動に変換する場合、圧電素子は、幅広い周波数の振動を発生することができる。具体的には、一般的な生活環境に存在する、低周波音と呼ばれる1~100Hz程度の周波数帯、人間が音として感知することが可能な20Hz~20kHz程度の周波数帯、超音波と呼ばれる20kHz~数GHzの周波数帯、及び電磁波のような数~数十GHz程度の周波数帯等の振動が挙げられる。このため、圧電素子は、スピーカーや振動部品等に利用されている。他方、圧電素子は、前述のような種々の周波数帯の振動を感受することで、これに対応する幅広い周波数帯の電圧を発生することもできる。
【0005】
圧電素子の構造としては、圧電セラミックスの表面にのみ電極を形成したものの他、積層型圧電素子と呼ばれる、積層された複数の圧電セラミックス層を内部電極で挟み込んだものが知られている。積層型圧電素子は、圧電セラミックス層の積層方向に大きな変位が得られるため、例えばアクチュエータ等に利用可能である。積層型圧電素子は、典型的には、圧電セラミックス層と内部電極とを同時に焼成することにより製造される。
【0006】
こうした圧電素子を構成する圧電セラミックスとしては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O、PZT)及びその固溶体を主成分とするものが広く用いられている。PZT系の圧電セラミックスは、高いキュリー温度を有することから、高温環境下でも使用可能な圧電素子を得ることができると共に、高い電気機械結合係数を有することから、電気的エネルギーと機械的エネルギーとを効率良く変換可能な圧電素子を得ることができるという利点を有する。また、適切な組成を選択することにより、1000℃を下回る温度で焼成できるため、圧電素子の製造コストを低減できる利点も有する。特に、前述した積層型圧電素子では、圧電セラミックスと同時焼成される内部電極に、銀の含有割合の多い、換言すれば白金やパラジウム等の高価な材料の含有割合の少ない、低融点の材料が使用できるようになることが、大きなコスト低減効果を生む。
【0007】
しかし、PZT系の圧電セラミックスは、有害物質である鉛を含むことが問題視されており、これに代わる、鉛を含まない圧電磁器組成物が求められている。
【0008】
現在まで、鉛を含まない圧電セラミックスとして、アルカリニオブ酸((Li,Na,K)NbO)系、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi0.5Na0.5)TiO、BNT)系、ビスマス層状化合物系及びタングステンブロンズ系等の種々の組成を有するものが報告されている。これらのうち、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスは、キュリー点が高く、電気機械結合係数も比較的大きいことから、PZT系に代わるものとして注目されている(特許文献1)。
【0009】
このニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスを低温焼成化して、銀の含有割合の多い内部電極との一体焼成を可能とし、積層型圧電素子の製造コストを削減する試みがなされている。例えば、特許文献2では、ニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスの組成を、アルカリ土類金属と銀とを含有するものとすることで、Ag0.7Pd0.3の内部電極と一体焼成できたことが報告されている。また、特許文献2では、得られた積層型圧電素子が高い電気抵抗率を示したことも報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2007/094115号
【文献】特開2017-163055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、積層型圧電素子の製造コストの更なる削減が求められており、内部電極を、銀の含有量が80質量%以上の金属で構成することが検討されている。
【0012】
この場合、銀の含有量が70質量%以下の金属に比べてさらに融点が低くなるため、内部電極を融解させずに一体焼成するためには、圧電セラミックス層を形成する圧電セラミックスの更なる低温焼成化が必要となる。しかし、内部電極中の銀の含有割合が増加すると、焼成時に圧電セラミックス層中に拡散する銀の量も増加し、これが圧電セラミックス層の焼結性を低下させるため、前述した低温焼成化は困難となる。加えて、圧電セラミックス層中への銀の拡散及びこれに起因する焼結性の低下は、いずれも圧電セラミックス層の電気抵抗の低下を引き起こし、積層型圧電素子の信頼性の低下につながることも問題となる。
【0013】
特許文献2には、上述のニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスにLi2O及びSiO2を含有させることで、焼結性を向上させることができる旨の記載がある。しかし、これらの成分の含有量によっては、導電性を有するLi3NbO4の生成量が多くなり、絶縁性が低下する場合があった。
【0014】
また、特許文献2には、Mn原子がアルカリニオブ酸塩に固溶置換したりその格子中取り込まれたりすることで、圧電セラミックスの電気抵抗の低下を防止できる旨の記載もある。しかし、Mnの添加によって焼成温度が低下することは、これまでのところ確認されていない。
【0015】
そこで本発明は、これらの問題点を解決し、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスを用いた積層型圧電素子を、信頼性の低下を抑制しつつ低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、積層型圧電素子の圧電セラミックス層を、主成分であるアルカリニオブ酸塩に加えてマンガン酸リチウムを含有するものとすることで、当該課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の一実施形態は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とし、さらにマンガン酸リチウムを含有する圧電セラミックスで構成されている圧電セラミックス層と、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成されており、前記圧電セラミックス層間に備えられた内部電極と、を有することを特徴とする積層型圧電素子である。
【0018】
また、本発明の他の実施形態は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末、酸化マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン及びマンガン酸リチウムから選択される少なくとも1つのマンガン化合物並びに有機結合剤を含む生シートを準備すること、銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極前駆体を前記生シート上に配置すること、前記内部電極前駆体が配置された前記生シートを積層して積層体を作製すること、並びに前記積層体を焼成して、前記アルカリニオブ酸塩を主成分とし、マンガン酸リチウムをさらに含む焼結体層の間に、内部電極を備える焼成体を得ることを含む、積層型圧電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスを用いた積層型圧電素子を、信頼性の低下を抑制しつつ低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子の構造を示す断面図
図2】ペロブスカイト型構造の単位格子モデルを示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す実施形態に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0022】
[積層型圧電素子]
本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子100(以下、単に「第1実施形態」と記載することがある。)は、図1にその断面図を模式的に示すように、圧電セラミックス層40の間に内部電極10が配置された構造を有する。そして、前記内部電極10は、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成されている。なお、図1に示される内部電極10のうち、同じアルファベット(「a」又は「b」)が付されたものは、同一極性の電極を意味する。また、圧電セラミックス層40は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩を主成分とし、さらにマンガン酸リチウムを含有する圧電セラミックスで構成されている。
【0023】
内部電極10は、銀の含有量が80質量%以上である金属で形成される。銀の含有量を80質量%以上とすることで、白金やパラジウム等の高価な金属の使用量を減らして素子の製造コストを抑えることができる。また、導電性に優れる銀の割合が増加することから、内部電極10の電気抵抗率が減少し、圧電素子として使用する際の電気的損失が低減される。銀の含有量が80質量%以上の金属としては、銀-パラジウム合金が例示される。内部電極10中の銀の含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0024】
内部電極10を構成する金属中の銀の含有量は、各種測定機器を用いて内部電極10の元素分析を行い、検出された全元素に対する銀の質量割合を算出することで確認できる。使用する測定機器としては、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)又は透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)に装着したエネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)又は波長分散型X線分光器(WDS:Wavelength Dispersive X-ray Spectrometry)、電子線マイクロアナライザー(EPMA
:Electron Probe Micro Analyzer)及びレーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)等が例示される。
【0025】
圧電セラミックス層40は、アルカリニオブ酸塩を主成分とし、さらにマンガン酸リチウムを含有する。
【0026】
主成分であるアルカリニオブ酸塩は、構成元素として、リチウム、ナトリウム及びカリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ金属元素、並びにニオブを含有する、ペロブスカイト型構造を有する酸化物である。ここで、ペロブスカイト型構造は、図2に示すように、単位格子の頂点に位置するAサイト、単位格子の面心に位置するOサイト、及び前記Oサイトを頂点とする八面体内に位置するBサイトを有する結晶構造である。本実施形態におけるアルカリニオブ酸塩では、アルカリ金属イオンがAサイトに、ニオブイオンがBサイトに、酸化物イオンがOサイトに、それぞれ位置する。この他に、各サイトには、前述した以外の種々のイオンを含んでいてもよい。
【0027】
圧電セラミックス層40には、マンガン酸リチウムが含まれる。これにより、高い圧電性及び絶縁性が得られ、圧電素子を特性に優れたものとすることができる。マンガン酸リチウムには、Li2MnO3、LiMn24及びLiMnO2等の種々の組成式で表されるものが存在するが、いずれの化合物によっても前述の効果は発現する。
【0028】
ここで、圧電セラミックス層40にマンガン酸リチウムが含まれることは、以下の手順で確認される。まず、レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)を用いて、圧電セラミックス層40中で周囲との色相、明度又は彩度の違いにより認識される斑点部分、及び圧電セラミックス層40中の該斑点部分以外の部分について、Li、Mn及びNbの含有量をそれぞれ測定する。次に、得られた測定結果から、原子%で表示したNb量に対するLi量の比(Li/Nb)、及び原子%で表示したNb量に対するMn量の比(Mn/Nb)を、各測定箇所についてそれぞれ算出する。最後に、前記斑点部分と該斑点部分以外の部分とで、算出されたLi/Nbの値同士、及びMn/Nbの値同士を比較し、両値が共に前記斑点部分で大きくなった場合に、該斑点部分をマンガン酸リチウムと判定する。
【0029】
より優れた圧電性及び絶縁性を得る点からは、前記圧電セラミックス層40に含まれる、前記主成分を構成しないLi及びMnの含有量をそれぞれ、該主成分を100モル%とした場合に、元素換算で0.6モル%以下のLi、及び0.1モル%以上2.0モル%以下のMnとして、マンガン酸リチウムの含有量を適量とすることが好ましい。前記Li及びMnの含有量は、前記主成分100モル%に対して、元素換算で0.5モル%以下のLi、及び0.3モル%以上1.5モル%以下のMnとすることがより好ましい。Liの含有量が多すぎると、焼結粒子間に存在するLi3NbO4等の導電性化合物量が多くなり、圧電セラミックス層40の絶縁性が低下するおそれがある。また、Mnの含有量が多すぎると、前記主成分中のLiとMnとの反応により該主成分中のLiが欠乏し、圧電セラミックス層40の圧電性及び絶縁性が低下するおそれがある。
【0030】
ここで、Liは、前記主成分の構成元素でもあるが、前記主成分100モル%に対する量として説明されるLiの量には、前記主成分中のLiは含まれない。圧電セラミックス層40に含まれる前記主成分を構成しないLiの量は、後述するアルカリニオブ酸塩の組成式の決定方法において、組成分析の結果得られたLiの総量からアルカリニオブ酸塩中に固溶し得るLi量を除いた残部として算出される。
【0031】
圧電セラミックス層40は、CuKα線を用いたX線回折測定に基づいて、以下の算出方法により得られるマンガン酸リチウムの回折強度をIとしたときに、4.5≦I≦12を満たす範囲内とすることが好ましい。
【0032】
[算出方法]
1)2θ=10~40°におけるピーク強度の最大値をI0,max、最小値をI0,minとし
て、各測定点におけるピーク強度I0,2θの値を下記計算式で規格化したIを算
出する。

=(I0,2θ-I0,min)/(I0,max-I0,min)×1000

2)2θ=18~19°における前記Iの最大値I2θ,maxと最小値I2θ,minとの
差(I2θ,max-I2θ,min)を、マンガン酸リチウムの回折強度をIとする。
【0033】
前記Iの値は、層状岩塩型構造を有するLi2MnO3及びスピネル型構造を有するLiMn24をはじめとする、種々のマンガン酸リチウムのメインピークの回折強度に相当するため、該値が大きいほどマンガン酸リチウムの含有量が多いこととなる。前記Iの値を4.5以上とすることで、絶縁性に優れた圧電セラミックス層40が得られる。この点からは、前記Iの値は5以上とすることがより好ましい。他方、前記Iの値を12以下とすることで、圧電性に優れた圧電セラミックス層40が得られる。この点からは、前記Iの値は10以下とすることがより好ましい。
【0034】
前述したX線回折測定は、積層型圧電素子100の圧電セラミックス層40、すなわち内部電極10又はこれと外部電極とに挟まれた部分について行うことが原則である。しかし、測定のための外部電極の除去が困難である場合、又は圧電セラミックス層40の厚さが薄いために内部電極10からの回折線の影響を除去することが困難な場合には、圧電セラミックス層40を電極ごと粉砕して得た粉末状試料について測定を行ってもよい。この場合、測定結果から電極を構成する金属に由来するピークを除外した上で、前述の方法によりマンガン酸リチウムの回折強度Iを算出する。また、後述するサイドマージン部20及び/又はカバー部30で形成された保護部が、圧電セラミックス層40と同じ組成を有することが確認された場合には、該保護部について行ったX線回折測定の結果を、圧電セラミックス層40についての測定結果としてもよい。
【0035】
圧電セラミックス層40は、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素をさらに含有してもよい。これにより、圧電セラミックス層40が、焼結粒子径の小さい緻密なものとなり、優れた圧電性を発現する。この点からは、アルカリ土類金属元素の合計含有量は、主成分であるアルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素(実際にはイオン状態であることが多い)の含有量を100モル%としたときに0.2モル%を超えることが好ましく、0.3モル%以上とすることがより好ましく、0.5モル%以上とすることがさらに好ましい。他方、圧電セラミックス層40の電気的絶縁性をさらに向上させて、高電界下での使用を可能にすると共に、素子寿命を長くする点からは、前記合計含有量は、5.0モル%以下とすることが好ましく、3.0モル%以下とすることがより好ましく、1.0モル%以下とすることがさらに好ましい。
【0036】
前記アルカリニオブ酸塩のBサイト中の元素の含有量、及び前記アルカリ土類金属の含有量は、いずれも後述する組成式の確認方法における元素比率の測定結果から決定される。
【0037】
圧電セラミックス層40の主成分であるアルカリニオブ酸塩は、優れた圧電特性を発現させる点、及び高電界下で使用した際に長寿命の素子を得る点からは、下記組成式(1)で表されるものが好ましい。

(AguM2v(K1-w-xNawLix1-u-v(SbyTazNb1-y-z)O3
…(1)

ただし、式中のM2は、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素を示す。また、u,v,w,x,y,z,aは、0.005<u≦0.05、0.002<v≦0.05、0.007<u+v≦0.1、0≦w≦1、0.02<x≦0.1、0.02<w+x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.4、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値である。
【0038】
ここで、圧電セラミックス層40が、前述の組成式で表されるアルカリニオブ酸塩を主成分とすることは、積層型圧電素子100の表面に露出させた圧電セラミックス層40、又は積層型圧電素子100を粉砕して得た粉末について、Cu-Kα線を用いたX線回折装置(XRD)で回折線プロファイルを測定し、ペロブスカイト型構造由来のプロファイルにおける最強回折線強度に対する、他の構造由来の回折プロファイルにおける最強回折線強度の割合が10%以下であることを確認した後、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)、イオンクロマトグラフィー装置ないしは、蛍光X線分析装置(XRF)によって、前記圧電セラミックス層40に含まれる各元素の比率を測定し、該測定結果が前記組成式における比率となっていること、により確認される。なお、積層型圧電素子100の表面に露出させた圧電セラミックス層40についてXRD測定を行う場合の露出方法は特に限定されず、圧電素子を切断ないし研磨する方法等を採用できる。また、積層型圧電素子100を粉砕した粉末についてXRD測定を行う場合の粉砕手段も特に限定されず、ハンドミル(乳鉢・乳棒)等を利用できる。さらに、積層型圧電素子100を粉砕した粉末についてXRD測定を行う場合には、内部電極10を構成する金属のピークも検出されるため、これを除外した上で前述の確認を行う。
【0039】
圧電セラミックス層40は、前述の主成分100モル%に対して、0.1モル%以上3.0モル%以下のSiを含有してもよい。これにより、圧電セラミックス層40を、より緻密なものとすることができる。また、Mnと反応しきれずに余剰となったLiと反応してLi2SiO3やLi4SiO4等の電気的絶縁性の高い化合物を生成することで、Li3NbO4をはじめとする導電性を有する化合物の生成を抑制し、圧電セラミックス層40の電気抵抗率の低下抑制に寄与する。この作用を高める点からは、前記アルカリニオブ酸塩の構成元素以外のLiに対するSiのモル比(Si/Li)を1.0以上とすることが好ましく、1.5以上とすることがより好ましく、2.0以上とすることがさらに好ましい。
【0040】
Siの含有量は、前述の作用を十分に発揮させる点からは、前記主成分100モル%に対して0.5モル%以上とすることがより好ましく、1.0モル%以上とすることがさらに好ましい。他方、前記主成分100モル%に対するSiの含有量を3.0モル%以下とすることで、圧電性を有さない異相の生成量が抑えられ、優れた圧電特性を有する圧電セラミックスとなる。この点からは、Siの含有量は、前記主成分100モル%に対して2.5モル%以下とすることがより好ましく、2.0モル%以下とすることがさらに好ましい。
【0041】
圧電セラミックス層40は、必要に応じて、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの元素を適当な量で含むことで、積層型圧電素子100の焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
【0042】
また、圧電セラミックス層40は、必要に応じて、第二遷移元素であるY、Mo、Ru、Rh及びPdから選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの元素を適当な量で含むことで、積層型圧電素子100の焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
【0043】
さらに、圧電セラミックス層40は、必要に応じて、第三遷移元素であるLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、W、Re、Os、Ir、Pt及びAuから選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの元素を適当な量で含むことで、積層型圧電素子100の焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
【0044】
勿論、第1実施形態においては、圧電セラミックス層40に、前述の第一遷移元素、第二遷移元素、及び第三遷移元素のうちの複数種類を含有させることもできる。
【0045】
第1実施形態では、図1に示すように、Y軸方向両側面と内部電極10との間に、サイドマージン部20が形成されてもよく、Z軸方向上下面に、それぞれカバー部30が形成されていてもよい。サイドマージン部20及びカバー部30は、圧電セラミックス層40及び内部電極10を保護する保護部として機能する。
【0046】
サイドマージン部20及びカバー部30は、積層型圧電素子100の焼成時の収縮率や、積層型圧電素子100内における内部応力の緩和等の観点から、圧電セラミックス層40と同様に、アルカリニオブ酸塩を主成分とする焼結体で形成されていることが好ましい。この点からは、サイドマージン部20及びカバー部30は、圧電セラミックス層40と同様に、マンガン酸リチウム(LiMn24)を含有することがより好ましい。しかし、サイドマージン部20及びカバー部30を形成する材料は、高い絶縁性を有する材料であれば、アルカリニオブ酸塩を主成分とするものでなくともよい。
【0047】
第1実施形態では、積層型圧電素子100の表面に、第1及び第2の外部電極(図示せず)をさらに具備してもよい。この場合、前記内部電極10が、1層おきに異なる外部電極に接続される。この構成によれば、第1及び第2の外部電極間における電気エネルギーと、内部電極10間に配置された圧電セラミックス層40の積層方向における機械エネルギーとが、相互に効率よく変換可能となる。
【0048】
外部電極を構成する材料は、導電性が高く、分極条件下及び圧電素子の使用環境下で物理的及び化学的に安定なものであれば特に限定されない。使用可能な電極材料の例としては、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びニッケル(Ni)、並びにこれらの合金等が挙げられる。
【0049】
積層型圧電素子の製造方法]
本発明の他の実施形態に係る圧電セラミックスの製造方法(以下、単に「第2実施形態」と記載することがある。)は、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末、酸化マンガン、炭酸マンガン及び酢酸マンガンから選択される少なくとも1つのマンガン化合物、並びに有機結合剤を含む生シートを準備すること、銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極前駆体を前記生シート上に配置すること、前記内部電極前駆体が配置された前記生シートを積層して積層体を作製すること、並びに前記積層体を焼成して、前記アルカリニオブ酸塩を主成分とし、マンガン酸リチウムをさらに含む焼結体層の間に、内部電極を備える焼成体を得ることを含む。
【0050】
ペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末は、例えば、リチウム、ナトリウム及びカリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ金属元素を含む化合物の粉末、並びにニオブを含む化合物の粉末を、所期の比率で混合し、焼成(仮焼成)することで得られる。最終生成物である圧電セラミックスの特性を所期のものとするために、アルカリ金属及びニオブ以外の元素を含む化合物を配合してもよい。また、市販のアルカリニオブ酸塩粉末が利用できる場合は、これをそのまま用いてもよい。
【0051】
アルカリニオブ酸塩の原料として使用する化合物の一例としては、リチウム化合物としての炭酸リチウム(Li2CO3)、ナトリウム化合物としての炭酸ナトリウム(Na2CO3)及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、カリウム化合物としての炭酸カリウム(K2CO3)及び炭酸水素カリウム(KHCO3)、並びにニオブ化合物としての五酸化ニオブ(Nb25)が挙げられる。また、任意成分ではあるものの、よく使用される化合物としては、タンタル化合物としての五酸化タンタル(Ta25)や、アンチモン化合物としての三酸化アンチモン(Sb23)等が挙げられる。
【0052】
前述の各化合物の配合比率は、焼成により得られるアルカリニオブ酸塩の焼結体が、以下の組成式(1)で表されるものとなるように調整することが好ましい。

(AguM2v(K1-w-xNawLix1-u-v(SbyTazNb1-y-z)O3…(1)

ただし、式中のM2はカルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素を示す。また、u,v,w,x,y,z,aは、0.005<u≦0.05、0.002<v≦0.05、0.007<u+v≦0.1、0≦w≦1、0.02<x≦0.1、0.02<w+x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.4、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値である。
【0053】
このような配合比率とすることで、銀の含有量が80質量%以上の金属で形成された内部電極と一体焼成した際に、より圧電特性に優れ、高電界下での使用でもより寿命の長い素子を得ることができる。
【0054】
前述の化合物粉末を混合する方法は、不純物の混入を抑えつつ各粉末が均一に混合されるものであれば特に限定されず、乾式混合、湿式混合のいずれを採用してもよい。混合方法としてボールミルを用いた湿式混合を採用する場合には、例えば、部分安定化ジルコニア(PSZ)ボールを用い、エタノール等の有機溶媒を分散媒とするボールミルによって8~60時間程度撹拌した後、有機溶媒を揮発乾燥すればよい。
【0055】
得られた混合粉末の仮焼成条件は、前述の各化合物が反応して所期のアルカリニオブ酸塩が得られるものであれば特に限定されない。一例として、大気中、700~1000℃の温度で、1~10時間焼成することが挙げられる。仮焼成後の粉末は、そのまま生シートの製造に供してもよいが、ボールミルやスタンプミル等によって解砕することが、後述するリチウム化合物、マンガン化合物及び有機結合剤との混合性を高める点で好ましい。
【0056】
第2実施形態では、前述のペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末に、酸化マンガン、炭酸マンガン酢酸マンガン及びマンガン酸リチウムから選択される少なくとも1つのマンガン化合物を添加する。このマンガン化合物は、後述する積層体の焼成時に、前記アルカリニオブ酸塩中のリチウムと反応してマンガン酸リチウムを生成し、焼成温度が低い場合でも、緻密で絶縁性の高い焼結体層の生成を可能にする。なお、マンガン酸リチウムには、Li2MnO3、LiMn24及びLiMnO2等の種々の組成式で表されるものが存在するため、前記マンガン化合物としてマンガン酸リチウムを添加した場合でも、リチウムと反応して異なる組成のマンガン酸リチウムを生成する。
【0057】
第2実施形態では、前記アルカリニオブ酸塩の粉末に、前記マンガン化合物に加えてリチウム化合物を添加してもよい。これにより、焼成時に生成するマンガン酸リチウムの量を増加させ、より緻密で絶縁性の高い焼結体層の生成が可能となる。使用するリチウム化合物としては、炭酸リチウム及びフッ化リチウム等が例示される。
【0058】
前記リチウム化合物及びマンガン化合物の添加量は、要求される焼成温度や圧電素子の特性に応じて適宜決定すればよい。一例として、前記アルカリニオブ酸塩の粉末を100モル%としたときに、Liが元素換算で0.6モル%以下、及びMnが元素換算で0.1モル%以上2.0モル%以下となる量とすることが挙げられる。焼結性、圧電性及び絶縁性を均衡させる点からは、前記Li及びMnの含有量は、前記アルカリニオブ酸塩100モル%に対して、元素換算で0.5モル%以下のLi、及び0.3モル%以上1.5モル%以下のMnとすることが好ましい。
【0059】
第2実施形態では、前述のペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末、並びに前述のリチウム化合物及びマンガン化合物に、有機結合剤を添加する。この有機結合剤は、前述した各成分の混合物を所期の形状に成形・保持できるとともに、焼成ないしこれに先立つバインダー除去処理により、炭素等を残存させることなく揮発するものであれば、その種類は限定されない。使用できる有機結合剤の例としては、ポリビニルアルコール系、ポリビニルブチラール系、セルロース系、ウレタン系及び酢酸ビニル系のものが挙げられる。
有機結合剤の使用量も特に限定されないが、後工程で除去されるものであるため、所期の成形性・保形性が得られる範囲内で極力少なくすることが、原料コストを低減する点で好ましい。
【0060】
前述した各成分の混合方法は、不純物の混入を防ぎつつ各成分が均一に混合されるものであれば特に限定されない。一例として、ボールミル混合が挙げられる。
【0061】
前述した各成分を混合する際には、その後の生シートへの成形性を向上させる可塑剤や、粉末を均一分散させるための分散剤等の各種添加剤を混合してもよい。
【0062】
また、第2実施形態では、前述のペロブスカイト構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末に、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属の化合物を添加してもよい。このアルカリ土類金属化合物は、後述するように、焼成時に内部電極から拡散してくる銀との相互作用により、生成する焼結体における焼結粒子径及びそのばらつきを抑えて、緻密なものとすることで、優れた圧電特性の発現に寄与する。この作用を高める点からは、アルカリ土類金属化合物の添加量は、前記アルカリニオブ酸塩の粉末を100モル%としたときに、アルカリ土類金属元素の合計含有量が0.2モル%を超える量とすることが好ましく、0.3モル%以上となる量とすることがより好ましく、0.5モル%以上となる量とすることがさらに好ましい。他方、電気的絶縁性の高い圧電セラミックス層を得る点からは、アルカリ土類金属化合物の添加量は、アルカリ土類金属元素の合計含有量が、前記アルカリニオブ酸塩の粉末100モル%に対して、5.0モル%以下となる量とすることが好ましく、3.0モル%以下となる量とすることがより好ましく、1.0モル%以下となる量とすることがさらに好ましい。さらに、アルカリ土類金属の化合物を添加する場合には、アルカリニオブ酸塩の組成や焼成条件を調整することで、アルカリ土類金属元素の少なくとも一部を、ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩のAサイトに固溶させることが好ましい。
【0063】
使用するアルカリ土類金属化合物としては、カルシウム、ストロンチウム又はバリウムを含有する化合物であれば特に限定されない。これらの元素のうちの複数を含むものであってもよく、所期の圧電セラミックスが得られる範囲で他の元素を含むものであってもよい。アルカリ土類金属化合物の例としては、カルシウムを含むものとして炭酸カルシウム(CaCO3)、メタケイ酸カルシウム(CaSiO3)及びオルトケイ酸カルシウム(Ca2SiO4)が、ストロンチウムを含有するものとして炭酸ストロンチウム(SrCO3)が、バリウムを含むものとして炭酸バリウム(BaCO3)が挙げられる。
【0064】
また、第1実施形態で説明したSiを始め、圧電セラミックスの各種特性を改善するための添加元素や、焼結助剤として機能する化合物ないし組成物を混合してもよい。添加元素を混合する場合に使用される化合物の例としては、Si源として使用する二酸化ケイ素(SiO2)、メタケイ酸カルシウム(CaSiO3)及びオルトケイ酸カルシウム(Ca2SiO4)等が挙げられる。
【0065】
添加元素のうち、Siについては、焼成時に、アルカリニオブ酸塩に含まれる元素又は別途添加した元素と反応して、Li2SiO3、Li4SiO4、K3Nb36Si27、KNbSi27、K3LiSiO4若しくはKLi3SiO4等の結晶相、又はこれらの元素を含む非結晶相を析出することで、アルカリ金属の揮発及び焼結粒子間への析出を抑制することができる点で有用である。
【0066】
また、Siは、焼結助剤としての機能も発現し、焼成温度を低下させる作用も有する。この場合のSiの添加量は、第1実施形態で説明した範囲内とすることが好ましい。
【0067】
前述した各成分の混合物から生シートを成形する方法としては、ドクターブレード法、押出成形法等の慣用されている方法を採用できる。
【0068】
第2実施形態では、前述の手順で得られた生シート上に、銀の含有量が80質量%以上の金属を含む内部電極前駆体を配置する。内部電極前駆体は、慣用されている方法で配置すればよく、銀の含有量が80質量%以上の金属粉末を含むペーストを、内部電極の形状に印刷又は塗布する方法が、コストの点で好ましい。印刷又は塗布により内部電極前駆体を配置する際には、焼成後の焼結体層への付着強度を向上させるため、ガラスフリットや、生シート中に含まれるアルカリニオブ酸塩粉末と同様の組成を有する粉末を、ペースト中に含有させてもよい。
【0069】
生シート上に内部電極前駆体を配置する際には、積層型圧電素子とした際にサイドマージン部となるスペースを空けて配置してもよい。
【0070】
第2実施形態では、前述の内部電極前駆体が配置された生シートを積層し、該生シート同士を接着して積層体を作製する。
積層及び接着は慣用されている方法で行えば良く、生シート同士をバインダーの作用で熱圧着する方法がコストの点で好ましい。
【0071】
積層及び圧着に際しては、積層方向の両端部に、積層型圧電素子とした際にカバー部となる生シートを追加してもよい。この場合、追加する生シートは、前述の内部電極前駆体が配置された生シートと同一の組成であっても、これとは異なる組成であってもよい。焼成時の収縮率を揃える観点からは、追加する生シートの組成は、前述の内部電極前駆体が配置された生シートと同一又は類似の組成であることが好ましい。
【0072】
第2実施形態では、前述の手順で得られた積層体を焼成する。焼成に先立って、積層体から有機結合剤を除去してもよい。この場合、有機結合剤の除去と焼成とは同じ焼成装置を用いて連続して行ってもよい。有機結合剤の除去及び焼成の条件は、バインダーの揮発温度及び含有量、並びに圧電磁器組成物の焼結性及び内部電極材料の耐久性等を考慮して適宜設定すればよい。有機結合剤を除去する条件の例としては、大気雰囲気中、300~500℃の温度で5~20時間が挙げられる。保持する焼成条件の例としては、大気雰囲気中、800℃~1100℃で1時間~5時間が挙げられる。1つの生成形体から複数の積層型圧電素子用焼成体を得る場合には、焼成に先立って生成形体を幾つかのブロックに分割してもよい。
【0073】
第2実施形態では、前述の焼成により、前記生シートからアルカリニオブ酸塩を主成分とする焼結体層を生成させると同時に、前記内部電極前駆体から内部電極を生成させて、アルカリニオブ酸塩を主成分とする焼結体層の間に内部電極を備える焼成体を得る。その際、前記焼結体層中には、マンガン酸リチウムが析出する。これにより、積層型圧電素子とした際に、高い圧電性及び絶縁性を示す圧電セラミックス層が得られ、該圧電素子を特性に優れたものとすることができる。
【0074】
また、焼成時には、内部電極から焼結体層にAgが拡散するが、生シート及び焼結体層がカルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属元素を含む場合には、このAgとアルカリ土類金属元素との相互作用により、焼結体層が、微細な焼結粒子で形成された緻密なものとなる。
【0075】
第2実施形態では、焼成により得られた焼成体を分極処理して積層型圧電素子とする。分極処理は、典型的には、焼成体の表面に導電材料で一対の電極を形成し、当該電極間に高電圧を印加することで行う。
電極の形成には、電極材料を含むペーストを焼結体表面に塗布ないし印刷して焼き付ける方法や、焼結体表面に電極材料を蒸着する方法等の、慣用されている方法を採用できる。電極材料としては、第1実施形態で外部電極を構成する材料として挙げた、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びニッケル(Ni)、並びにこれらの合金等が使用できる。
分極処理の条件は、焼成体に亀裂等の損傷を生じることなく、各焼結体層中の自発分極の向きを揃えられるものであれば特に限定されない。一例として、100℃~150℃の温度にて4kV/mm~6kV/mmの電界を印加することが挙げられる。
【実施例
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
[積層型圧電素子の製造]
ペロブスカイト型構造を有するアルカリニオブ酸塩の粉末として、組成式Li0.06Na0.520.42NbO3で表される仮焼粉を準備した。この仮焼粉100モル%に対し、0.1モル%のLi2CO3、1.3モル%のSiO2、0.5モル%のBaCO3及び0.5モル%のMnCO3、並びにポリビニルブチラール系の有機結合剤をそれぞれ添加して、湿式ボールミル混合した。得られた混合スラリーをドクターブレードにて成形し、厚さ13μmの生シートを得た。この生シート上に、Ag-Pd合金ペースト(Ag/Pd質量比=9/1)をスクリーン印刷して電極パターンを形成した後、該生シートを26層積層し、加熱しながら50MPa程度の圧力で加圧することで圧着して積層体を得た。この積層体を個片化した後、大気中で脱バインダー処理を行い、これに引き続いて大気中、980℃で2時間の焼成を行って、焼成体を得た。この焼成体の表面に、Agを含む導電性ペーストを、該表面に1層おきに露出した内部電極に対して接触するように塗布し、600℃まで昇温して焼き付けることで、一対の外部電極を形成した。最後に、100℃の恒温槽中で、前記一対の外部電極間に3.0kV/mmの電界を3分間印加して分極処理を行い、実施例1に係る積層型圧電素子を得た。
【0078】
[圧電セラミックス層におけるマンガン酸リチウムの存在確認とその回折強度算出]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、CuKα線によるX線回折測定を、X線回折装置(株式会社リガク製、RINT2500シリーズ)を用いて行った。測定の結果、ペロブスカイト型構造に由来するピークに加えて、該構造からは出現しないはずの、2θ=18~19°に位置するピークが確認された。このピーク位置は、層状岩塩型構造を有するLi2MnO3及びスピネル型構造を有するLiMn24をはじめとする、種々のマンガン酸リチウムのメインピーク位置に相当することから、実施例1に係る積層型圧電素子は、これらの化合物に代表されるマンガン酸リチウムを圧電セラミックス層中に含有するものといえる。
【0079】
得られたX線回折測定結果に基づいて、上述した方法でLiMn24 をはじめとする、種々のマンガン酸リチウムのメインピークの回折強度Iを算出したところ、I=4.52となった。
【0080】
[圧電セラミックス層中のLi及びMnの分布確認]
得られた積層型圧電素子のサイドマージン部を光学顕微鏡で観察したところ、白色の母相中に橙色及び黒色の斑点の存在が確認された。該母相部分及び斑点部分について、レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)によりLi、Nb及びMnの含有量を測定し、Nbの含有量を100原子%としたときの各元素の含有量を算出した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
この結果から、橙色及び黒色の各斑点部分では、母相部分に比べてLi及びMnの含有比率が大きくなっていることが判る。この結果及び前述のX線回折測定の結果、並びに実施例1に係る積層型圧電素子では圧電セラミックス層及びサイドマージン部の組成が同一であるとの事実を合わせて考察すると、実施例1に係る積層型圧電素子では、圧電セラミックス層中にマンガン酸リチウムを含むLi及びMnに富む化合物が、斑点状に生成しているといえる。
【0083】
[積層型圧電素子の電気抵抗率測定]
得られた積層型圧電素子に対して、室温で6kV/mmの電界を5分間印加したときの電圧値及び電流値を測定した。そして、得られた測定値及び素子寸法に基づいて、実施例1に係る積層型圧電素子の電気抵抗率を算出した。得られた電気抵抗率は、8.7×1012Ω・mであった。
【0084】
[圧電特性の評価]
得られた積層型圧電素子の圧電特性を、変位性能d* 33(pm/V)により評価した。まず、積層型圧電セラミックスに100Hz程度で最大電界8kV/mmとなる単極性のサイン波形を打ち込み、その際の積層型圧電素子の変位量を、レーザードップラー変位計にて測定した。そして、得られた積層型圧電素子の変位量を、圧電セラミックス層の厚さ(電極間距離)及び最大電界から算出される最大電圧、並びに積層型圧電素子を構成する圧電セラミックス層の層数で除することで、1層の圧電セラミックス層における単位電圧あたりの変位性能d* 33を算出した。得られたd* 33は、225pm/Vであった。
【0085】
(実施例2~4)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するMnCO3の量を、該仮焼粉100モル%に対して0.2モル%に変更したこと、及び積層体の焼成温度を1020℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る積層型圧電素子を製造した。また、アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するMnCO3の量を、該仮焼粉100モル%に対して1.0モル%に変更したこと、及び積層体の焼成温度を950℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る積層型圧電素子を製造した。さらに、アルカリニオブ酸塩の仮焼粉に添加するMnCO3の量を、該仮焼粉100モル%に対して2.0モル%に変更したこと以外は実施例2と同様にして、実施例4に係る積層型圧電素子を製造した。
【0086】
[圧電セラミックス層におけるマンガン酸リチウムの存在確認とその回折強度算出]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、実施例1と同様の方法でX線回折測定を行ったところ、いずれの素子においても、ペロブスカイト型構造に由来するピークに加えて、2θ=18~19°に位置するピークが確認された。該測定結果に基づいて、マンガン酸リチウムの回折強度Iを算出したところ、実施例2ではI=4.11、実施例3ではI=6.14、実施例4ではI=12.34となった。
【0087】
[積層型圧電素子の電気抵抗率測定]
得られた積層型圧電素子の電気抵抗率を、実施例1と同様の方法で測定したところ、実施例2では7.2×108Ω・cm、実施例3では1.6×1013Ω・cm、実施例4では3.2×109Ω・cmであった。
【0088】
[圧電特性の評価]
得られた積層型圧電素子のd* 33を、実施例1と同様の方法で算出したところ、実施例2では220pm/V、実施例3では227pm/V、実施例4では190pm/Vであった。
【0089】
(比較例)
[積層型圧電素子の製造]
アルカリニオブ酸塩の仮焼粉にMnCO3を添加しなかったこと以外は実施例2と同様にして、比較例に係る積層型圧電素子を製造した。
【0090】
[圧電セラミックス層におけるマンガン酸リチウムの存在確認とその回折強度算出]
得られた積層型圧電素子中の圧電セラミックス層について、実施例1と同様の方法でX線回折測定を行ったところ、ペロブスカイト型構造に由来するピークのみが確認され、2θ=18~19°に位置するピークは確認されなかった。
【0091】
[積層型圧電素子の電気抵抗率測定]
得られた積層型圧電素子の電気抵抗率を、実施例1と同様の方法で測定したところ、5.0×106Ω・cmであった。
【0092】
[圧電特性の評価]
得られた積層型圧電素子のd* 33を、実施例1と同様の方法で算出したところ、203pm/Vであった。
【0093】
ここまで説明した実施例1~4及び比較例の結果を、Mnの添加モル数で整理して表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
得られた結果から、本発明の一実施形態では、生シートへのLi化合物及びMn化合物の添加により、焼成時にマンガン酸リチウムが生成して焼結性が向上し、低温で焼成した場合でも緻密な圧電セラミックス層が得られると推測される。その結果、高い電気抵抗率を有し、電気的信頼性の高い積層型圧電素子が得られると解される。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、アルカリニオブ酸系の圧電セラミックスを用いた積層型圧電素子を、信頼性の低下を抑制しつつ低コストで提供することができる。このような積層型圧電素子は、構成成分に鉛を含まないために、そのライフサイクルにおいて環境への負荷を低減できる点で有用である。また、前記積層型圧電素子は、内部電極中の銀の含有割合が高いため、その電気抵抗率が低くなり、使用時の電気的損失を低減できる点でも有用である。
【符号の説明】
【0097】
100 積層型圧電素子
10 内部電極
20 サイドマージン部
30 カバー部
40 圧電セラミックス層
図1
図2