(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】モータシステム、及びロータリ圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02P 29/68 20160101AFI20240126BHJP
H02K 1/2793 20220101ALI20240126BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20240126BHJP
H02K 16/04 20060101ALI20240126BHJP
H02K 21/38 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
H02P29/68
H02K1/2793
H02K7/14 B
H02K16/04
H02K21/38 M
(21)【出願番号】P 2020071916
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】二井 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幹人
(72)【発明者】
【氏名】坂口 綾菜
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】岡田 義之
(72)【発明者】
【氏名】小川 真
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶生
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-131444(JP,A)
【文献】特開2018-093617(JP,A)
【文献】国際公開第2007/114079(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/68
H02K 1/2793
H02K 7/14
H02K 16/04
H02K 21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びるシャフトと、
該シャフトに設けられ、前記軸線を中心とする円盤状のロータと、
前記ロータの前記軸線方向一方側を向く面に配置された第一磁石と、
前記ロータの前記軸線方向他方側を向く面に配置され、前記第一磁石とは異なる特性を有する第二磁石と、
前記ロータに対して前記軸線方向一方側から対向し、第一コイルを有する第一ステータと、
前記ロータに対して前記軸線方向他方側から対向し、第二コイルを有する第二ステータと、
を有するアキシャルギャップモータと、
前記第一コイルと前記第二コイルとに選択的に電力を供給可能な電力供給部と、
を備え
、
前記第二磁石は、前記第一磁石よりも、重希土類元素の添加量の違いに基づいて、保磁力と残留磁束密度が高く、
前記第一磁石、及び前記第二磁石の温度を検出する温度検出部をさらに備え、
前記電力供給部は、前記検出された温度が予め定められた閾値以下である場合に、前記第一コイル、及び前記第二コイルに電力を供給し、前記検出された温度が前記閾値よりも高い場合に、前記第二コイルのみに電力を供給するモータシステム。
【請求項2】
軸線に沿って延びるシャフトと、
該シャフトに設けられ、前記軸線を中心とする円盤状のロータと、
前記ロータの前記軸線方向一方側を向く面に配置された第一磁石と、
前記ロータの前記軸線方向他方側を向く面に配置され、前記第一磁石とは異なる特性を有する第二磁石と、
前記ロータに対して前記軸線方向一方側から対向し、第一コイルを有する第一ステータと、
前記ロータに対して前記軸線方向他方側から対向し、第二コイルを有する第二ステータと、
を有するアキシャルギャップモータと、
前記第一コイルと前記第二コイルとに選択的に電力を供給可能な電力供給部と、
を備え、
前記第二磁石は、重希土類元素の添加量の違いに基づいて、前記第一磁石よりも保磁力が低く、かつ残留磁束密度が高く、
前記第一磁石、及び前記第二磁石の温度を検出する温度検出部をさらに備え、
前記電力供給部は、前記検出された温度が予め定められた閾値以下である場合に、前記第一コイル、及び前記第二コイルに電力を供給し、前記検出された温度が前記閾値よりも高い場合に、前記第一コイルのみに電力を供給するモータシステム。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載にモータシステムと、
前記シャフトとともに偏心回転するロータリピストンと、
該ロータリピストンが収容される圧縮室を形成するシリンダと、
を備えるロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記アキシャルギャップモータは、前記軸線方向における前記圧縮室側に前記第二磁石が位置するように配置されている請求項
3に記載のロータリ圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータシステム、及びロータリ圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
空調装置における冷媒の圧縮に用いられる装置として、ロータリ圧縮機が知られている。ロータリ圧縮機は、モータと、当該モータによって駆動されるシャフトと、シャフトに取り付けられたロータリピストンと、これを覆うシリンダと、を備えている。ロータリピストンがシリンダの圧縮室内で偏心回転することで冷媒が圧縮される。
【0003】
近年、上記のモータとして、アキシャルギャップモータと呼ばれる形式のものが広く用いられている(例えば下記特許文献1)。特許文献1に記載されたアキシャルギャップモータは、1つのロータと、当該ロータに軸線方向両側からそれぞれ対向する2つのステータと、を有している。ロータは軸線を中心とする円盤状をなし、厚さ方向の両側には、外周縁に沿って永久磁石が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような永久磁石は、高温環境下で減磁しやすいことが知られている。高温環境下でも減磁しにくい磁石として、希土類磁石(重希土類元素の添加量が多い希土類磁石)を用いる例も実用化されている。しかしながら、このような希土類磁石は一般的に高価であることから、アキシャルギャップモータのコストを押し上げる要因となってしまう。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、安価で、かつ高温環境下でも安定的に運用することが可能なモータシステム、及びロータリ圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係るモータシステムは、軸線に沿って延びるシャフトと、該シャフトに設けられ、前記軸線を中心とする円盤状のロータと、前記ロータの前記軸線方向一方側を向く面に配置された第一磁石と、前記ロータの前記軸線方向他方側を向く面に配置され、前記第一磁石とは異なる特性を有する第二磁石と、前記ロータに対して前記軸線方向一方側から対向し、第一コイルを有する第一ステータと、前記ロータに対して前記軸線方向他方側から対向し、第二コイルを有する第二ステータと、を有するアキシャルギャップモータと、前記第一コイルと前記第二コイルとに選択的に電力を供給可能な電力供給部と、を備え、前記第二磁石は、前記第一磁石よりも、重希土類元素の添加量の違いに基づいて、保磁力と残留磁束密度が高く、前記第一磁石、及び前記第二磁石の温度を検出する温度検出部をさらに備え、前記電力供給部は、前記検出された温度が予め定められた閾値以下である場合に、前記第一コイル、及び前記第二コイルに電力を供給し、前記検出された温度が前記閾値よりも高い場合に、前記第二コイルのみに電力を供給する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、安価で、かつ高温環境下でも安定的に運用することが可能なモータシステム、及びロータリ圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係る第一磁石と第二磁石のH-B線図である。
【
図3】本開示の第一実施形態に係るモータシステムの変形例を示す回路図である。
【
図4】本開示の第二実施形態に係る第一磁石と第二磁石のH-B線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
(ロータリ圧縮機の構成)
以下、本開示の第一実施形態に係るロータリ圧縮機100(圧縮機)について、
図1と
図2を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るロータリ圧縮機100は、モータシステムMと、圧縮部Pと、を備えている。モータシステムMが発生させる動力によって圧縮部Pが駆動され、冷媒が圧縮される。
【0011】
(モータシステムの構成)
モータシステムMは、アキシャルギャップモータ70と、電力供給部80と、温度検出部90と、を有している。
【0012】
(アキシャルギャップモータの構成)
アキシャルギャップモータ70は、シャフト1と、ロータ2と、ステータ3と、を有している。
【0013】
シャフト1は、シャフト本体1Hと、偏心軸11と、を有している。シャフト本体1Hは、軸線Acに沿って延びる柱状をなしている。偏心軸11は、軸線Acに対して径方向に偏心した円盤状をなしている。偏心軸11は、後述するシリンダ4内に収容される。
【0014】
ロータ2は、シャフト本体1Hの延在中途の位置(中央部)に一体に設けられている。ロータ2は、ロータコア21と、永久磁石22(第一磁石22A、及び第二磁石22B)と、を有している。ロータコア21は、軸線Acを中心とする円盤状をなしている。永久磁石22は、ロータコア21の周縁に沿って延びるリング状をなしている。なお、この永久磁石22に代えて、ロータコア21の周縁に複数の磁石を周方向に間隔をあけて配列する構成を採ることも可能である。
【0015】
ロータコア21における軸線Ac方向一方側(つまり上側)の面に設けられている永久磁石22は第一磁石22Aとされている。ロータコア21における軸線Ac方向他方側(つまり下側)の面に設けられている永久磁石22は第二磁石22Bとされている。これら第一磁石22Aと第二磁石22Bとの間には、
図2に示すような特性の差異がある。具体的には、第二磁石22Bは、第一磁石22Aに比べて保磁力が高く、かつ残留磁束密度が高い。なお、
図2中の横軸は保磁力を表し、縦軸は残留磁束密度を表している。第一磁石22A、及び第二磁石22Bとして具体的には、ネオジム磁石を含む希土類磁石が好適に用いられる。上記の保磁力と残留磁束密度の差異は、重希土類元素の添加量に基づいて決定される。つまり、第二磁石22Bでは、第一磁石22Aよりも重希土類元素の添加量が多い。
【0016】
ステータ3は、ロータ2に軸線Ac方向の両側から対向するようにして配置されているステータ3は、上部ステータ3A(第一ステータ)と、下部ステータ3B(第二ステータ)と、を含む。上部ステータ3Aは、ロータ2に対して軸線Ac方向の一方側(上側)から対向している。上部ステータ3Aは、バックヨーク31Aと、ティース32Aと、コイル33A(第一コイル)と、を有している。バックヨーク31Aは、軸線Acを中心とする円環状をなしている。バックヨーク31Aの中心を含む部分には、シャフト1が挿通される開口が形成されている。ティース32Aは、バックヨーク31Aにおける軸線Ac方向他方側(下側)を向く面上であって、径方向における中央位置から軸線Ac方向に突出する棒状をなしている。ティース32Aは、軸線Acに対する周方向に等間隔をあけて複数配列されている。コイル33Aは、各ティース32Aに銅線を巻回することで形成されている。コイル33Aには、後述する電力供給部80から電力が供給される。
【0017】
下部ステータ3Bは、バックヨーク31Bと、ティース32Bと、コイル33B(第二コイル)と、を有している。バックヨーク31Bは、軸線Acを中心とする円環状をなしている。バックヨーク31Bの中心を含む部分には、シャフト1が挿通される開口が形成されている。ティース32Bは、バックヨーク31Bにおける軸線Ac方向一方側(上側)を向く面上であって、径方向における中央位置から軸線Ac方向に突出する棒状をなしている。ティース32Bは、軸線Acに対する周方向に等間隔をあけて複数配列されている。コイル33Bは、各ティース32Bに銅線を巻回することで形成されている。コイル33Bには、後述する電力供給部80から電力が供給される。これにより、上部ステータ3Aと下部ステータ3Bとが励磁され、ロータ2との間で生じる電磁力によってシャフト1が回転する。つまり、ロータ2とステータ3は、1ロータ2ステータ型のアキシャルギャップモータを構成している。
【0018】
下部ステータ3Bの軸線Ac方向他方側(下側)には、シリンダ4が当接している。シリンダ4は、軸線Acを中心とする筒状をなしている。シリンダ4の内側には上述の偏心軸11、及び当該偏心軸11に嵌め込まれたリング状のロータリピストン12が収容されている。また、シリンダ4の周方向における一部には、外部から冷媒を導くための吸入口8が設けられている。つまり、シリンダ4は、外部から導かれた冷媒を圧縮するための圧縮室Cを形成している。この圧縮室Cは、軸線Ac方向において、上記アキシャルギャップモータ70の第二磁石22B側(つまり下側)に位置している。
【0019】
シリンダ4の軸線Ac方向他方側(下側)には、端板5(下部端板5B)が当接している。つまり、下部端板5Bはシリンダ4をバックヨーク31Bとともに軸線Ac方向から挟んでいる。下部端板5Bは、軸線Acを中心とする円盤状をなしている。下部端板5Bの中心を含む部分には、軸受6(下部軸受6B)が取り付けられている。
【0020】
アキシャルギャップモータ70の軸線Ac方向一方側(上側)には、他の端板5(上部端板5A)が設けられている。上部端板5Aは、軸線Acを中心とする円盤状をなしている。上部端板5Aの中心を含む部分には、他の軸受6(上部軸受6A)が取り付けられている。これら上部軸受6A、及び下部軸受6Bによってシャフト本体1Hの軸端が支持されている。また、上部端板5A、及び下部端板5Bは、ハウジング7の内周面に対して締まり嵌めされた状態で固定されている。
【0021】
(電力供給部、温度検出部の構成)
電力供給部80は、上述のアキシャルギャップモータ70に電力を供給する。電力供給部80は、第一インバータ81Aと、第二インバータ81Bと、制御部82と、を有している。第一インバータ81Aは、上部ステータ3Aのコイル33A(第一コイル)に電力を供給可能とされている。第二インバータ81Bは、下部ステータ3Bのコイル33B(第二コイル)に電力を供給可能とされている。制御部82は、温度検出部90の検出結果に基づいて、第一インバータ81A、及び第二インバータ81Bの通電状態を切り替える。つまり、電力供給部80は、コイル33Aとコイル33Bとに選択的に電力を供給可能とされている。
【0022】
温度検出部90は、永久磁石22の温度を検出するセンサである。温度検出部90が検出した温度が、予め定められた閾値以下である場合(つまり、アキシャルギャップモータ70が通常の温度環境下で運転されている場合)、制御部82は、第一インバータ81A、及び第二インバータ81Bの双方を通電状態とする。これにより、コイル33Aと第一磁石22Aとの間、及びコイル33Bと第二磁石22Bとの間で電磁力が発生する。その結果、アキシャルギャップモータ70は、発生可能な最大のトルクのもとで駆動される。
【0023】
一方で、温度検出部90が検出した温度が、予め定められた閾値よりも高い場合(つまり、アキシャルギャップモータ70が相対的に高温の環境下で運転されている場合)、制御部82は、第二インバータ81Bのみを通電状態とする。これにより、コイル33Bと第二磁石22Bとの間のみで電磁力が発生する。その結果、アキシャルギャップモータ70は、発生可能な最大のトルクよりも低いトルクのもと、高温環境下で継続して駆動される。
【0024】
(作用効果)
ロータリ圧縮機100を運転するに当たっては、まず電力供給部80からアキシャルギャップモータ70に電力を供給する。これにより、コイル33A,33Bと、永久磁石22との間で電磁力が発生し、シャフト1が軸線Ac回りに回転駆動される。シャフト1の回転に伴って圧縮室C内ではロータリピストン12が偏心回転する。これにより、圧縮室Cの容積が時間変化し、外部から導かれた冷媒が徐々に圧縮され、高圧冷媒となる。高圧冷媒はハウジング7内を経て、吐出口7Aから外部に取り出される。
【0025】
ところで、上記のような永久磁石22は、高温環境下で減磁しやすいことが知られている。特に、圧縮室Cでは、圧縮されて高温となった冷媒が流通しているため、減磁が生じやすい環境下である言える。このような高温環境下でも減磁しにくい磁石として、希土類磁石(重希土類元素の添加量が多い希土類磁石)を用いる例も実用化されている。しかしながら、希土類磁石は一般的に高価であることから、アキシャルギャップモータ70のコストを押し上げる要因となってしまう。
【0026】
しかしながら、上記構成によれば、ロータ2には特性の異なる第一磁石22Aと第二磁石22Bとが設けられている。第一コイル33Aと第二コイル33Bとに選択的に電力が供給されることで、第一磁石22A、及び第二磁石22Bそれぞれの特性に合わせて、高い自由度のもとアキシャルギャップモータ70を運転することが可能となる。言い換えれば、減磁しにくい特性を有する高価な磁石を一部のみに用いることで、製造コストを抑えつつ、高温環境下でも継続して運転可能なモータシステムMを提供することができる。
【0027】
上記構成によれば、第二磁石22Bのみが保磁力と残留磁束密度が高い磁石とされ、第一磁石22Aは当該第二磁石22Bよりも特性の劣る磁石とされる。つまり、第一磁石22Aと第二磁石22Bの双方を特性の高い磁石とした構成に比べて、装置の製造コストを低く抑えることができる。
【0028】
上記構成によれば、第一磁石22A、及び第二磁石22Bの温度に基づいて、電力供給部80の動作が切り替えられる。これら磁石の温度が閾値よりも高い場合には、第二コイル33Bのみに電力が供給される。つまり、この場合、アキシャルギャップモータ70は、通常の温度環境下よりも低いトルクのもとで駆動を継続することが可能となる。これにより、例えば高温環境下でトルクを犠牲にしながらも動作を継続させる必要がある場合、上記構成を用いることで要求を満たすことができる。
【0029】
上記構成では、高温となりやすい圧縮室C側にアキシャルギャップモータ70の第二磁石22Bが位置している。つまり、高温環境下でも相対的に減磁しにくい特性を有する第二磁石22Bが高温側に配置されている。これにより、高温環境下でも安定してトルクを得ることができるため、圧縮機をより安定的に運転することが可能となる。
【0030】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第一実施形態では、電力供給部80が2つのインバータ(第一インバータ81A、及び第二インバータ81B)を有し、それぞれが個別にコイル33A,33Bを励磁する構成について説明した。しかしながら、変形例として
図3に示すような構成を採ることも可能である。同図に示す電力供給部80´は、1つのみのインバータ81´と、3つのスイッチS1,S2,S3とを有している。インバータ81´に対して、コイル33Aの各相(U1相、V1相、W1相)と、コイル33Bの各相(U2相、V2相、W2相)とが互いに並列に接続されている。U1相とU2相との間にはスイッチS1が設けられ、V1相とV2相との間にはスイッチS2が設けられている。W1相とW2相との間にはスイッチS3が設けられている。上述の温度検出部90が検出した温度が閾値以上となった場合には、スイッチS1~S3を遮断する(つまり、オフ状態とする)ことで、コイル33Bのみが励磁された状態となる。このように、1つのインバータ81´と3つのスイッチS1~S3を用いることのみによって、上記第一実施形態と同様の機能をより安価に実現することが可能である。
【0031】
<第二実施形態>
次に、本開示の第二実施形態について、
図4を参照して説明する。なお、上記第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。本実施形態では、第一磁石22A、及び第二磁石22Bの特性が、上記第一実施形態とは異なっている。
図4に示すように、第一磁石22Aは、第一磁石22Aよりも保磁力が低く、かつ残留磁束密度が高い。このような特性を示す組み合わせの一例として、第一磁石22Aにネオジム磁石が用いられ、第二磁石22Bにサマリウムコバルト磁石が用いられる。
【0032】
上記構成によれば、第二磁石22Bのみが保磁力が低く、かつ残留磁束密度が高い磁石とされ、第一磁石22Aは当該第二磁石22Bよりも特性の劣る磁石とされる。つまり、第一磁石22Aと第二磁石22Bの双方を特性の高い磁石とした構成に比べて、装置の製造コストを低く抑えることができる。
【0033】
また、第一実施形態と同様に、第一磁石22A、及び第二磁石22Bの温度に基づいて、電力供給部80の動作が切り替えられる。これら磁石の温度が閾値よりも高い場合には、第一コイル33Aのみに電力が供給される。これにより、残留磁束密度が相対的に高い第一磁石22Aと、第一コイル33Aとの間のみに電磁力が発生する。この場合、アキシャルギャップモータ70は、通常の温度環境下よりも低いトルクのもとで駆動を継続することが可能となる。これにより、例えば高温環境下でトルクを犠牲にしながらも動作を継続させる必要がある場合、上記構成を用いることで要求を満たすことができる。
【0034】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第一実施形態の変形例として説明した電力供給部80´の構成を適用することも可能である。
【0035】
さらに、上記の各実施形態に共通する変形例として、第一磁石22Aと第二磁石22Bの寸法(厚さ)を違えることで保磁力及び残留磁束密度に差異を持たせることも可能である。例えば、高温環境下で必要とされるトルクが予め定められている場合には、当該トルクの値を達成可能な磁力特性を満たすように、第一磁石22A又は第二磁石22Bの寸法を決定することが可能である。これにより、必要となる磁石の量をさらに低減し、製造コストを抑えることができる。また、磁石の寸法のみならず、コイル33A,33Bの寸法(軸線Ac方向における寸法)を違えることによって、上記のようなトルクの差異を持たせることも可能である。言い換えると、高温環境下で必要とされるトルクを満たすように、コイル33A又は33Bの長さを最低限度まで小さくすることが可能である。これにより、アキシャルギャップモータ70のさらなる小型化を実現することが可能となる。
【0036】
<付記>
各実施形態に記載のモータシステムM、及びロータリ圧縮機100(圧縮機)は、例えば以下のように把握される。
【0037】
(1)第1の態様に係るモータシステムMは、軸線Acに沿って延びるシャフト1と、該シャフト1に設けられ、前記軸線Acを中心とする円盤状のロータ2と、前記ロータ2の前記軸線Ac方向一方側を向く面に配置された第一磁石22Aと、前記ロータ2の前記軸線Ac方向他方側を向く面に配置され、前記第一磁石22Aとは異なる特性を有する第二磁石22Bと、前記ロータ2に対して前記軸線Ac方向一方側から対向し、第一コイル33Aを有する第一ステータ3Aと、前記ロータ2に対して前記軸線Ac方向他方側から対向し、第二コイル33Bを有する第二ステータ3Bと、を有するアキシャルギャップモータ70と、前記第一コイル33Aと前記第二コイル33Bとに選択的に電力を供給可能な電力供給部80と、を備える。
【0038】
上記構成によれば、第一コイル33Aと第二コイル33Bとに選択的に電力が供給されることで、第一磁石22A、及び第二磁石22Bそれぞれの特性に合わせて、高い自由度のもとアキシャルギャップモータ70を運転することが可能となる。
【0039】
(2)第2の態様に係るモータシステムMでは、前記第二磁石22Bは、前記第一磁石22Aよりも保磁力と残留磁束密度が高い。
【0040】
上記構成によれば、第二磁石22Bのみが保磁力と残留磁束密度が高い磁石とされ、第一磁石22Aは当該第二磁石22Bよりも特性の劣る磁石とされる。つまり、第一磁石22Aと第二磁石22Bの双方を特性の高い磁石とした構成に比べて、装置の製造コストを低く抑えることができる。
【0041】
(3)第3の態様に係るモータシステムMは、前記第一磁石22A、及び前記第二磁石22Bの温度を検出する温度検出部90をさらに備え、前記電力供給部80は、前記検出された温度が予め定められた閾値以下である場合に、前記第一コイル33A、及び前記第二コイル33Bに電力を供給し、前記検出された温度が前記閾値よりも高い場合に、前記第二コイル33Bのみに電力を供給する。
【0042】
永久磁石には、高温環境下での減磁が生じることが知られている。高温環境下でも減磁しにくい磁石として、希土類磁石(重希土類元素の添加量が多い希土類磁石)を用いる例も実用化されている。しかしながら、このような希土類磁石は一般的に高価であることから、製造コストを押し上げる要因となってしまう。しかしながら、上記構成によれば、第一磁石22A、及び第二磁石22Bの温度に基づいて、電力供給部80の動作が切り替えられる。これら磁石の温度が閾値よりも高い場合には、第二コイル33Bのみに電力が供給される。つまり、この場合、アキシャルギャップモータ70は、通常の温度環境下よりも低いトルクのもとで駆動を継続することが可能となる。これにより、例えば高温環境下でトルクを犠牲にしながらも動作を継続させる必要がある場合、上記構成を用いることで要求を満たすことができる。
【0043】
(4)第4の態様に係るモータシステムMでは、前記第二磁石22Bは、前記第一磁石22Aよりも保磁力が低く、かつ残留磁束密度が高い。
【0044】
上記構成によれば、第二磁石22Bのみが保磁力が低く、かつ残留磁束密度が高い磁石とされ、第一磁石22Aは当該第二磁石22Bよりも特性の劣る磁石とされる。つまり、第一磁石22Aと第二磁石22Bの双方を特性の高い磁石とした構成に比べて、装置の製造コストを低く抑えることができる。
【0045】
(5)第5の態様に係るモータシステムMは、前記第一磁石、及び前記第二磁石の温度を検出する温度検出部をさらに備え、前記電力供給部は、前記検出された温度が予め定められた閾値以下である場合に、前記第一コイル、及び前記第二コイルに電力を供給し、前記検出された温度が前記閾値よりも高い場合に、前記第一コイルのみに電力を供給する。
【0046】
上記構成によれば、第一磁石22A、及び第二磁石22Bの温度に基づいて、電力供給部80の動作が切り替えられる。これら磁石の温度が閾値よりも高い場合には、第一コイル33Aのみに電力が供給される。これにより、残留磁束密度が相対的に高い第一磁石22Aと、第一コイル33Aとの間のみに電磁力が発生する。この場合、アキシャルギャップモータ70は、通常の温度環境下よりも低いトルクのもとで駆動を継続することが可能となる。これにより、例えば高温環境下でトルクを犠牲にしながらも動作を継続させる必要がある場合、上記構成を用いることで要求を満たすことができる。
【0047】
(6)第6の態様に係る圧縮機は、モータシステムMと、前記シャフト1とともに偏心回転するロータリピストン12と、該ロータリピストン12が収容される圧縮室Cを形成するシリンダ4と、を備える。
【0048】
上記構成によれば、高温環境下で安定的に運転することが可能な圧縮機を安価に提供することができる。
【0049】
(7)第7の態様に係る圧縮機では、前記アキシャルギャップモータ70は、前記軸線Ac方向における前記圧縮室C側に前記第二磁石22Bが位置するように配置されている。
【0050】
圧縮室Cには、圧縮されて高温となった冷媒が流通している。上記構成では、高温となりやすい圧縮室C側にアキシャルギャップモータ70の第二磁石22Bが位置している。つまり、高温環境下でも相対的に減磁しにくい特性を有する第二磁石22Bが高温側に配置されている。これにより、高温環境下でも安定してトルクを得ることができるため、圧縮機をより安定的に運転することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
100 ロータリ圧縮機
1 シャフト
1H シャフト本体
11 偏心軸
12 ロータリピストン
2 ロータ
21 ロータコア
22 永久磁石
22A 第一磁石
22B 第二磁石
3 ステータ
3A 上部ステータ
3B 下部ステータ
31A,31B バックヨーク
32A,32B ティース
33A,33B コイル
4 シリンダ
5 端板
5A 上部端板
5B 下部端板
6 軸受
6A 上部軸受
6B 下部軸受
7 ハウジング
7A 吐出口
8 吸入口
70 アキシャルギャップモータ
80,80´ 電力供給部
81A 第一インバータ
81B 第二インバータ
81´ インバータ
82 制御部
90 温度検出部
Ac 軸線
C 圧縮室
M モータシステム
P 圧縮部