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特許7426924偏心揺動型減速装置、内ピン及び内ピンの製造方法
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  • 特許-偏心揺動型減速装置、内ピン及び内ピンの製造方法 図1
  • 特許-偏心揺動型減速装置、内ピン及び内ピンの製造方法 図2
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  • 特許-偏心揺動型減速装置、内ピン及び内ピンの製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置、内ピン及び内ピンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240126BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
F16H1/32 A
B29C45/14
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020211117
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022097881
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】筑後 了治
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-197275(JP,A)
【文献】特開2018-146017(JP,A)
【文献】特開2020-041570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、前記外歯歯車の自転成分と同期する複数の内ピンとを備える偏心揺動型減速装置であって、
前記内ピンは、径方向における中央部と、前記中央部の外側に位置する表層部とを有し、
前記中央部は、第1繊維強化樹脂で構成され、
前記表層部は、前記第1繊維強化樹脂に含まれる繊維の長さよりも短い繊維を含んだ第2繊維強化樹脂、あるいは、繊維を含まない樹脂で構成されている、
偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記複数の内ピンと一体成形されたフランジ部を更に備える、
請求項1記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記フランジ部の径方向における中央の範囲が前記第2繊維強化樹脂又は繊維を含まない前記樹脂で構成され、
前記フランジ部における前記内ピンとの接続部が前記第1繊維強化樹脂で構成されている、
請求項2記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
前記フランジ部と一体成形された出力軸を更に備え、
前記出力軸が前記第2繊維強化樹脂又は繊維を含まない前記樹脂で構成されている、
請求項2又は請求項3に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
前記フランジ部と一体成形された出力軸を更に備え、
前記出力軸は径方向における軸中央部が前記第1繊維強化樹脂で構成され、前記軸中央部の外側に位置する軸表層部が前記第2繊維強化樹脂又は繊維を含まない前記樹脂で構成されている、
請求項2又は請求項3に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項6】
前記内ピンの前記中央部は、軸方向の一端部よりも他端部の方が細い、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項7】
前記内ピンの前記中央部は、軸方向における前記フランジ部側の一端部よりも他端部の方が細い、
請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項8】
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車とを有する偏心揺動型減速装置に組み込まれ、前記外歯歯車の自転成分と同期する内ピンであって、
径方向における中央部と、
前記中央部の外側に位置する表層部とを有し、
前記中央部は第1繊維強化樹脂で構成され、
前記表層部は、前記第1繊維強化樹脂に含まれる繊維の長さよりも短い繊維を含んだ第2繊維強化樹脂、あるいは、繊維を含まない樹脂で構成されている、
内ピン。
【請求項9】
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車とを有する偏心揺動型減速装置に組み込まれ、前記外歯歯車の自転成分と同期する内ピンの製造方法であって、
前記内ピンの径方向における中央部を成形する第1成形工程と、
前記中央部の周囲の表層部を成形する第2成形工程と、
を含む内ピンの製造方法。
【請求項10】
前記第1成形工程では、第1繊維強化樹脂で前記中央部を成形し、
前記第2成形工程では、前記第1繊維強化樹脂に含まれる繊維の長さよりも短い繊維を含んだ第2繊維強化樹脂、あるいは、繊維を含まない樹脂で前記表層部を成形する、
請求項9記載の内ピンの製造方法。
【請求項11】
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、前記外歯歯車の自転成分と同期する複数の内ピンとを備える偏心揺動型減速装置であって、
前記内ピンは、3mm以上の繊維で強化された繊維強化樹脂で構成されている、
偏心揺動型減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置、内ピン及び内ピンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂製の内ピンを有する偏心揺動型減速装置が示されている。この偏心揺動型減速装置は、内ピンを樹脂製とすることで、軽量化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-132364公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
偏心揺動型減速装置において樹脂製の内ピンは強度を上げることが難しく、減速装置の高トルク化が困難であった。
【0005】
本発明は、樹脂製の内ピンを有しかつ高トルク化を実現できる偏心揺動型減速装置を提供することを目的とする。さらに、このような偏心揺動型減速装置に適用できる内ピン、並びに、内ピンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る偏心揺動型減速装置は、
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、前記外歯歯車の自転成分と同期する複数の内ピンとを備える偏心揺動型減速装置であって、
前記内ピンは、径方向における中央部と、前記中央部の外側に位置する表層部とを有し、
前記中央部は、第1繊維強化樹脂で構成され、
前記表層部は、前記第1繊維強化樹脂に含まれる繊維の長さよりも短い繊維を含んだ第2繊維強化樹脂、あるいは、繊維を含まない樹脂で構成されている。
【0007】
本発明に係る別の一態様の偏心揺動型減速装置は、
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、前記外歯歯車の自転成分と同期する複数の内ピンとを備える偏心揺動型減速装置であって、
前記内ピンは、3mm以上の繊維で強化された繊維強化樹脂で構成されている。
【0008】
本発明に係る内ピンは、
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車とを有する偏心揺動型減速装置に組み込まれ、前記外歯歯車の自転成分と同期する内ピンであって、
径方向における中央部と、
前記中央部の外側に位置する表層部とを有し、
前記中央部は第1繊維強化樹脂で構成され、
前記表層部は、前記第1繊維強化樹脂に含まれる繊維の長さよりも短い繊維を含んだ第2繊維強化樹脂、あるいは、繊維を含まない樹脂で構成されている。
【0009】
本発明に係る内ピンの製造方法は、
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車とを有する偏心揺動型減速装置に組み込まれ、前記外歯歯車の自転成分と同期する内ピンの製造方法であって、
前記内ピンの径方向における中央部を成形する第1成形工程と、
前記中央部の周囲の表層部を成形する第2成形工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂製の内ピンを有しかつ高トルク化を実現できる偏心揺動型減速装置を提供することを目的とする。さらに、このような偏心揺動型減速装置に適用できる内ピン、並びに、内ピンの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態1に係る偏心揺動型減速装置の断面図である。
図2】実施形態1における内ピンの製造方法の第1例を説明する図である。
図3】実施形態1における内ピンの製造方法の第2例を説明する図である。
図4】キャリア体の変形例を示す断面図である。
図5】実施形態2の内ピンの製造方法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る偏心揺動型減速装置の断面図である。本明細書では、特に断りなく軸方向、径方向、周方向と記したとき、軸方向は偏心揺動型減速装置1の回転軸O1に沿った方向を意味し、径方向は回転軸O1に垂直な方向を意味し、周方向は回転軸O1を中心とする回転方向を意味する。
【0014】
<基本構成>
実施形態1の偏心揺動型減速装置1は、第1偏心体12b及び第2偏心体12cを有する偏心体軸12、第1外歯歯車14、第2外歯歯車16、内歯歯車18、並びに、内ピン20bを有するキャリア体20を備える。さらに、偏心揺動型減速装置1は、第1カバー22、第2カバー24、第3カバー26及び軸受31、32、34、35、37、38を備える。
【0015】
偏心体軸12は、回転軸O1が中心軸線と重なる軸部12aと、回転軸O1から偏心して設けられた第1偏心体12b及び第2偏心体12cとを有する。第1偏心体12b及び第2偏心体12cは、回転軸O1に垂直な断面が円形であり、偏心体軸12が回転することで互いに異なる位相で偏心回転する。
【0016】
第1外歯歯車14は、第1偏心体12bに軸受31を介して組み込まれ、偏心体軸12が回転することで揺動する。第2外歯歯車16は、第2偏心体12cに軸受32を介して組み込まれ、偏心体軸12が回転することで、第1外歯歯車14と異なる位相で揺動する。第1外歯歯車14には、複数の内ピン20bをそれぞれ通す複数の内ピン孔14hが周方向に並んで設けられている。同様に、第2外歯歯車16には、複数の内ピン20bをそれぞれ通す複数の内ピン孔16hが周方向に並んで設けられている。各内ピン20bは、第1外歯歯車14の内ピン孔14hと、第2外歯歯車16の内ピン孔16hとに通される。第1外歯歯車14と第2外歯歯車16との間にはサシワ28が配置されて間隔が設けられている。
【0017】
内歯歯車18は、径方向内側に複数の内歯を有し、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16を内接噛合する。内歯歯車18は、環状の内歯歯車本体と、内歯歯車本体に保持されて内歯として機能する複数の外ピンとを有する構成であってもよい。内歯歯車18は、そのフランジ部に設けられた複数の連結用孔に通された連結部材(ボルト等)Bを介して、第1カバー22及び第2カバー24と連結されている。
【0018】
キャリア体20は、周方向に並んだ複数の内ピン20bと、複数の内ピン20bを支持するフランジ部20a2と、フランジ部20a2の中央から軸方向における内ピン20bとは逆方に延在する出力軸20a1とを有する。図1において、出力軸20a1とフランジ部20a2との仮想的な境界を二点鎖線で示している。フランジ部20a2は、複数の内ピン20bよりも径方向外方に張り出した円板状の形態を有する。複数の内ピン20bとフランジ部20a2と出力軸20a1とは一体化されている。キャリア体20に含まれる複数の内ピン20bは、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16に係合し、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の自転成分と同期する。ここで、同期するとは、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16が自転運動する構成の場合、上記自転運動を導いて内ピン20bが当該自転運動に対応する角速度で公転することを意味する。公転とは回転軸O1を中心とした周回運動を意味する。さらに、上記同期とは、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の自転が拘束され、内歯歯車18が自転する構成の場合、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の自転の拘束に対応して内ピン20bの公転が拘束されることを意味する。内ピン20bが公転する構成では、キャリア体20は内ピン20bの公転に対応して当該公転の周期で自転する。内ピン20bの公転が拘束される構成では、当該公転の拘束に応じてキャリア体20の自転が拘束(非回転)される。
【0019】
第1カバー22は、内歯歯車18、第1外歯歯車14、第2外歯歯車16及びキャリア体20の複数の内ピン20bを、軸方向における一方(負荷側)から覆い、第2カバー24はこれらを軸方向における他方(入力側)から覆う。第1カバー22及び第2カバー24は、内歯歯車18に複数の連結部材(ボルト等)Bを介して連結される。第1カバー22は、軸受34、35を介してキャリア体20の出力軸20a1を回転自在に支持する。第2カバー24は、軸受37、38を介して偏心体軸12の軸部12aを回転自在に支持する。第3カバー26は、第1カバー22の負荷側に連結され、軸受34の外輪を軸方向において位置決めする。
【0020】
上記の構成のうち、内ピン20bを含むキャリア体20は樹脂材料から構成される。内歯歯車18の本体、偏心体軸12、第1外歯歯車14、第2外歯歯車16、第1カバー22、第2カバー24、及びサシワ28、は樹脂材料から構成されるが、金属材料から構成されてもよい。内歯歯車18の外ピン及び第3カバー26は、金属材料から構成されるが、樹脂材料から構成されてもよい。キャリア体20を構成する樹脂材料の詳細は後述する。キャリア体20以外の構成部材の樹脂材料には、FRP(Fiber-Reinforced Plastic)、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)、単一素材である樹脂、紙ベーク材又は布ベーク材など、様々な樹脂材料が適用可能である。上記金属材料には、鉄系の金属、アルミ、アルミ合金、マグネシウム合金など、様々な金属が適用可能である。上記金属材料の替わりにセラミック等の材料が適用されてもよい。
【0021】
<動作説明>
偏心体軸12が回転すると第1偏心体12b及び第2偏心体12cが偏心回転し、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16が180度の位相差で揺動される。2つの外歯歯車(第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16)があることで、伝達容量の増大及び強度の維持が図られ、偏心揺動型減速装置1の回転バランスを保つことができる。第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16は、内歯歯車18に内接噛合しており、内歯歯車18は第1カバー22及び第2カバー24と連結されている。このため、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16は、偏心体軸12が1回転するごとに、内歯歯車18に対して歯数差分だけ相対回転(自転)する。第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の自転成分は、内ピン20bを介してキャリア体20に伝達される。これらの結果、偏心体軸12の回転運動が、1/(第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の共通の歯数)の減速比で減速されてキャリア体20の出力軸20a1から出力される。
【0022】
<内ピン及びキャリア体の詳細>
本明細書において、繊維の長さ又は繊維長と言ったときには、繊維の平均の長さ、すなわち平均繊維長を意味するものとする。各部の繊維長の比較は、各部に含まれる個々の繊維の長さを比較しているのではなく、各部に含まれる複数の繊維の平均的な長さの比較を意味する。
【0023】
内ピン20bは、径方向における中央に位置する中央部201と、中央部201の外側に位置する表層部202とを有する。ここで径方向とは、各内ピン20bの中央軸から垂直な方向を意味する。以下の、内ピン20bの説明において同様である。中央部201と表層部202とは、それぞれ異なる2種類の樹脂材料から構成されかつ一体化されている。
【0024】
中央部201は、高い強度を有する第1樹脂材料から構成される。表層部202は、高い成形性を有する第2樹脂材料から構成される。具体的には、第1樹脂材料は、0.5mmより長い(例えば繊維長3mm)強化繊維を含有する樹脂である。第2樹脂材料は、0.5mm以下の強化繊維を含む樹脂、あるいは、強化繊維を含まない樹脂である。第1樹脂材料及び第2樹脂材料の樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが採用されるが、その他の種類の樹脂であってもよい。第1樹脂材料及び第2樹脂材料の強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などが採用されるが、その他の繊維であってもよい。第1樹脂材料の強化繊維は、編まれていない複数の繊維であってもよいし、シート状などに編まれた繊維であってもよいし、編まれた繊維を短冊状にカットした繊維であってもよい。第1樹脂材料の強化樹脂は、繊維長3mm以上の長さを有し、樹脂との体積比で10%以上の繊維を含有していると好ましい。樹脂の種類、強化繊維の種類は、中央部201と表層部202とで異なってもよい。なお、樹脂の種類は、中央部201と表層部202とで同一にすると好ましく、同一とすることで中央部201と表層部202との接着性を向上できる。上記の第1樹脂材料は、本発明に係る第1繊維強化樹脂の一例に相当する。上記の第2樹脂材料は、本発明に係る「第2繊維強化樹脂あるいは繊維を含まない樹脂」の一例に相当する。
【0025】
中央部201は、軸方向において、内ピン20bのフランジ部20a2側の一端から他端にかけて存在するが、上記他端まで延在していなくてもよい。中央部201は、上記他端に近いほど細くなるテーパーを有するが、このテーパーは無くてもよい。テーパーは、中央部201の軸方向における一端部と他端部以外の範囲にも存在する。テーパーは、上記一端から他端部にかけて連続して設けられていてもよい。
【0026】
表層部202は、軸方向において、内ピン20bの一端から他端にかけて存在する。表層部202の外周面は、円筒外周面形状を有する。
【0027】
キャリア体20のフランジ部20a2は、少なくとも内ピン20bとの接続部203が上記の第1樹脂材料から構成される。接続部203における第1樹脂材料は、フランジ部20a2の内ピン20b側から軸方向における反対側の端面まで存在していても良いし、上記反対側の端面まで達しない範囲に存在していてもよい。接続部203と内ピン20bの中央部201とは、一体形成され、連続している。フランジ部20a2の径方向における中央の範囲、並びに、出力軸20a1は、上記の第2樹脂材料から構成される。
【0028】
<内ピン及びキャリア体の製造方法>
実施形態1における内ピン20bの製造方法は、中央部201を形成する第1成形工程と、第1成形工程の後に中央部201の周囲に表層部202を成形する第2成形工程とを含む。続いて、製造方法の具体的な例(第1例と第2例)を説明する。
【0029】
図2は、実施形態1における内ピンの製造方法の第1例を説明する図である。第1例の製造方法は、第1樹脂材料H1を加熱する工程J1と、加熱した第1樹脂材料H1をキャビティC1を有する型E0に搬送する工程J2と、入子e1、e2、e3が第1位置にある型E0を閉じて圧縮成形を行う第1成形工程J3と、型E0内の入子e1、e2、e3を第2位置へ変位させてキャビティC2、C3、C4を作る工程J4と、型E0のキャビティC2、C3、C4に第2樹脂材料H2を射出し成形する第2成形工程J5と、型E0から成形品であるキャリア体20を取り出す工程J6とを含む。このような工程を経て、実施形態1のキャリア体20を製造できる。
【0030】
型E0は、入子e1、e2、e3が第1位置(図2の搬送工程J2及び第1成形工程J3のときの位置)にあるときのキャビティC1が、キャリア体20のうち第1樹脂材料が占める部分(中央部201及びフランジ部20a2の接続部203)に対応する形状を有する。さらに、入子e1、e2、e3はキャリア体20のうち第2樹脂材料で占められる部分に位置する。したがって、入子e1、e2、e3が第2位置に移動して生じるキャビティC2、C3、C4は、キャリア体20のうち第2樹脂材料が占める部分(表層部202、フランジ部20a2の中央の範囲と出力軸20a1)に対応する形状を有する。
【0031】
図3は、実施形態1における内ピンの製造方法の第2例を説明する図である。第2例の製造方法は、第1の型E1に第1樹脂材料H11を投入し、第1の型E1を閉めて中間成形品M11を成形(例えば圧縮成形)する第1成形工程J11と、第1の型E1から中間成形品M11を取り出す工程J12と、第2の型E2に中間成形品M11を投入し第2の型E2を閉じる工程J13と、第2の型E2に第2樹脂材料H12を射出して成形(例えばインサート成形)する第2成形工程J14と、第2の型E2から成形品であるキャリア体20を取り出す工程J15とを含む。このような工程を経て、実施形態1のキャリア体20を製造できる。
【0032】
第1成形工程J11は、第1の型E1に第1樹脂材料を投入したのち、第1の型E1を加熱して圧縮成形してもよいし、第1樹脂材料を加熱後に第1の型E1に投入し、圧縮成形してもよい。
【0033】
第1の型E1のキャビティC11は、キャリア体20のうち第1樹脂材料が占める部分(中央部201及びフランジ部20a2の接続部203)に対応する形状を有する。第2の型E2のキャビティC12、キャリア体20に対応する形状を有する。
【0034】
なお、第1例及び第2例の製造方法では、第1樹脂材料の部分の成形法として圧縮成形を示したが、射出成形などその他の成形法が適用されてもよい。さらに、第2樹脂材料の部分の成形法として射出成形を示したが、圧縮成形などその他の成形法が適用されてもよい。
【0035】
以上のように、実施形態1の偏心揺動型減速装置1によれば、内ピン20bの中央部201が第1樹脂材料で構成され、表層部202が第2樹脂材料で構成されている。したがって、第1樹脂材料により強化された中央部201によって、内ピン20bの強度を向上でき、さらに、第2樹脂材料から構成される表層部202により、内ピン20bの寸法及び形状の精度を向上できる。仮に、内ピン20bの全てを、強化された樹脂材料で作成した場合、強度が得られる一方、寸法及び形状の精度が低下し、偏心揺動型減速装置1に適用することが困難となる。それに対して、実施形態1の内ピン20bによれば、樹脂から構成され、高強度でありながら、偏心揺動型減速装置1に適用できる寸法及び形状の精度が得られる。したがって、内ピン20bを樹脂製とすることで軽量化されつつ、高いトルクの出力が可能な偏心揺動型減速装置1を実現できる。
【0036】
さらに、実施形態1の偏心揺動型減速装置1によれば、複数の内ピン20bはフランジ部20a2とともに一体化されている。したがって、複数の内ピン20bの製造工程及び組付工程の煩雑さを低減できる。
【0037】
さらに、実施形態1の偏心揺動型減速装置1によれば、フランジ部20a2における内ピン20bとの接続部203が、強化された第1樹脂材料で構成され、フランジ部20a2の径方向における中央の範囲が第2樹脂材料で構成されている。したがって、トルクを伝達する際に応力が集中する内ピン20bの接続箇所の強度をより向上し、より高いトルクの伝達が可能となる。さらに、応力が集中しないフランジ部20a2の中央の範囲を第2樹脂材料で構成することでキャリア体20の低コスト化を図ることができる。
【0038】
さらに、実施形態1の偏心揺動型減速装置1によれば、フランジ部20a2と一体成形された出力軸20a1を備え、出力軸20a1が第2樹脂材料で構成されている。したがって、出力軸20a1を含めて複数の内ピン20bの製造工程及び組付工程の煩雑さを低減できる。さらに、出力軸20a1に応力が集中しない場合に、出力軸20a1に第2樹脂材料が用いられることで、部品の低コスト化を図ることができる。
【0039】
なお、図4の変形例のキャリア体20Aに示すように、出力軸20a1においても、径方向における中央の部分である軸中央部211を第1樹脂材料で構成し、軸中央部211の外側に位置する軸表層部212を第2樹脂材料で構成してもよい。さらに、軸中央部211は軸方向においてフランジ部20a2側よりも逆側(出力側)が細いテーパーを有していてもよい。テーパーは、軸中央部211の軸方向における一端部と他端部以外の範囲にも存在し、軸中央部211の一端から他端部にかけて連続して設けられていてもよい。このような構成の出力軸20a1は、上述した内ピン20bの製造方法と同様の方法で製造できる。この構成によれば、出力軸20a1の高強度化と出力軸20a1の外周面の寸法及び形状の精度の向上とを図れる。さらに、テーパーにより軸中央部211の一端側が細いことで、出力軸20a1の軸中央部211を離型しやすく、出力軸20a1の成形性が向上する。
【0040】
さらに、実施形態1の偏心揺動型減速装置1によれば、内ピン20bの中央部201が、一端部(フランジ部20a2側の一端部)よりも他端部の方が細い。したがって、内ピン20bの製造工程において、中央部201を離型しやすく、内ピン20bの成形性を向上できる。さらに、中央部201はフランジ部20a2側が太いことで、内ピン20bの応力が集中しやすい部分の強度を向上できる。
【0041】
実施形態1の内ピン20bの製造方法によれば、第1樹脂材料を使用した第1成形工程と第2樹脂材料を使用した第2成形工程とにより、内ピン20bの中央部201と表層部202とを成形できる。そして、上述のように高強度でかつ寸法及び形状の精度が高い内ピン20bを実現できる。
【0042】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係る内ピンの製造方法を説明する図である。実施形態2の偏心揺動型減速装置は、内ピン120b(あるいはキャリア体120)が異なる他は、実施形態1と同様である。
【0043】
実施形態2の内ピン120b(図5の取出し工程J24を参照)は、3mm以上の繊維で強化された樹脂材料で構成されている。樹脂材料の樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが採用されるが、その他の種類の樹脂であってもよい。繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などが採用されるが、その他の繊維であってもよい。繊維は、編まれていない複数の繊維であってもよいし、シート状などに編まれた繊維であってもよいし、編まれた繊維を短冊状にカットした繊維であってもよい。繊維は、3mm以上であり、樹脂との体積比で10%以上含有されるのが好ましい。
【0044】
さらに、内ピン120bは、フランジ部120a2と一体化されていてもよい。さらに、図示を省略するが、内ピン120b及びフランジ部120a2は、出力軸と一体化されていてもよい。
【0045】
実施形態2の内ピン120b及びキャリア体120の製造方法は、図5に示すように、型E10に樹脂材料H100を投入し、樹脂材料H100とともに型E10を加熱する工程J21と、型E10を閉めて圧縮成形する工程J22と、型E10による加圧を保持したまま型E10を冷却する工程J23と、型E10から成形品であるキャリア体120を取り出す工程J24とを含む。型E10は、内ピン120bを含むキャリア体120に対応した形状のキャビティを有する。このような工程により、3mm以上の繊維で強化された樹脂材料H100により内ピン120bを含めてキャリア体120を製造できる。射出成形では、成形機のシリンダで樹脂材料が送られる際にスクリュにより繊維が切断される場合があり、また、金型のゲート部で繊維が切断される場合があることから、長い繊維を含有する樹脂材料H100を用いた成形が困難であるが、圧縮成形により長い繊維を含有する樹脂材料H100を用いて比較的に精度の高い成形が可能となる。
【0046】
実施形態2の内ピン120bを有する偏心揺動型減速装置によれば、樹脂製の内ピン120bにより、偏心揺動型減速装置の軽量化を図ることができ、さらに、高い強度を有する内ピン120bにより、偏心揺動型減速装置の高トルク化を図ることができる。
【0047】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、第1樹脂材料と第2樹脂材料とに含有される繊維の長さの一例を示したが、繊維の長さは一例に過ぎず、第2樹脂材料が繊維を含有する材料である場合に、第1樹脂材料に含有される繊維の長さが、第2樹脂材料の繊維よりも長ければよい。
【0048】
また、上記実施形態では、内ピン20bの製造方法として、第1成形工程では高い強度が得られる第1樹脂材料を使用し、第2成形工程では高い成形性が得られる第2樹脂材料を使用した例を示した。しかし、本発明に係る内ピンの製造方法は、中央部を成形する第1成形工程と、表層部を成形する第2成形工程とを含めば、使用する材料は上記の例に限られない。例えば、繊維の含有又は非含有に関わらず、強度、コスト、成形性、等々の様々な特性が異なる2種類の樹脂材料を第1成形工程と第2成形工程とで使い分けることで、強度と成形性など複数の材料の利点が合わさった内ピンを製造できる。
【0049】
また、上記実施形態では、複数の内ピンがフランジ部及び出力軸と一体化された構成を示したが、各内ピンが単体で形成され、内ピンがフランジ部に接合される構成が適用されてもよい。上記の接合は、樹脂製又は金属製のボルト等の接合部材を介した接合、接着剤などを介した接合、嵌め合せによる接合など、様々な接合が適用されてもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 偏心揺動型減速装置
12 偏心体軸
14 第1外歯歯車
14h 内ピン孔
16 第2外歯歯車
16h 内ピン孔
18 内歯歯車
20、20A、120 キャリア体
20a1 出力軸
211 軸中央部
212 軸表層部
20a2 フランジ部
20a2、120a2 フランジ部
20b、120b 内ピン
201 中央部
202 表層部
203 接続部
E0、E10 型
E1 第1の型
E2 第2の型
e1、e2、e3 入子
H1、H11 第1樹脂材料
H2、H12 第2樹脂材料
J3、J11 第1成形工程
J5、J14 第2成形工程
O1 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5