(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】免疫原性組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20240126BHJP
C12N 15/33 20060101ALI20240126BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240126BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240126BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240126BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240126BHJP
A61K 39/00 20060101ALN20240126BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/33
A61K35/76
A61P35/00
A61P31/00
A61P37/04
A61K39/00 A
(21)【出願番号】P 2020570443
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2019065974
(87)【国際公開番号】W WO2019243307
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-20
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェロン,クリスティアーヌ マリー-ポール シモーヌ ジャンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンニーニ,サンドラ
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/114979(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作型バクテリオファージであって、片利共生性細菌に結合することおよび該片利共生性細菌へとそのゲノムポリヌクレオチドを挿入することができるが、該片利共生性細菌内で、子孫を生成することができず、溶原サイクルを行なうことができず、かつ溶菌サイクルを行なうことができない遺伝子操作型バクテリオファージであり、プロモーターの制御下に、少なくとも1種の異種抗原をコードする少なくとも1種の遺伝子を含むゲノムポリヌクレオチドを含み、そして該ゲノムポリヌクレオチドは、溶菌機構タンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項2】
前記片利共生性細菌が、皮膚、生殖器、口腔または腸管微生物叢の一部分である、請求項1に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項3】
前記片利共生性細菌が、アクネ菌(Propionibacterium acnes)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)または大腸菌(Escherichia coli)である、請求項2に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項4】
前記片利共生性細菌が大腸菌細菌であり、かつ腸管微生物叢の一部分である、請求項3に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項5】
前記片利共生性細菌が表皮ブドウ球菌またはアクネ菌であり、かつ皮膚微生物叢の一部分である、請求項3に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項6】
前記片利共生性細菌がラクトバチルス属であり、かつ生殖器微生物叢の一部分である、請求項3に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項7】
前記片利共生性細菌がストレプトコッカス・ゴルドニであり、かつ口腔内微生物叢の一部分である、請求項3に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項8】
前記ゲノムポリヌクレオチドが、カプシドタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子を除去するように遺伝子操作されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項9】
前記ゲノムポリヌクレオチドが、溶原機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項10】
前記ゲノムポリヌクレオチドが複製起点を保持する、請求項1~9のいずれか1項に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項11】
前記ゲノムポリヌクレオチドがファージ複製起点を保持する、請求項1~10のいずれか1項に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項12】
前記ゲノムポリヌクレオチドが細菌複製起点を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
【請求項13】
片利共生性細菌からの異種抗原の発現及び放出における遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド
の使用であって、
前記遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが、プロモーターの制御下に異種抗原をコードする異種抗原遺伝子を含
み、
i)カプシドタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失し
ている、
ii)溶菌機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失し
ている、または
iii)溶菌機構タンパク質をコードするすべての遺伝子が欠失し
ている、かつ任意で、溶原機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失している、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項
1~12のいずれか1項に記載の遺伝子操作型バクテリオファー
ジを含む医薬組成物。
【請求項15】
疾患、任意で感染性疾患または癌の予防的阻止での使用のための、請求項1~12のいずれか1項に記載の遺伝子操作型バクテリオファー
ジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子操作型バクテリオファージを用いる感染症の治療または予防の分野に関する。特に、本発明は、抗原を発現させるように遺伝子操作されているバクテリオファージを開示する。該バクテリオファージは、片利共生性細菌を標的とし、該片利共生性細菌内へと抗原をコードする核酸を挿入して、それにより、該片利共生性細菌を死滅させることなく、抗原および任意でアジュバントが放出される。そのようにして発現された抗原は、感染性物質または他の疾患に対する免疫応答をプライミングすることができる。
【背景技術】
【0002】
バクテリオファージは、Fredrick Twart(1915)およびFelix d'Herelle(1917)により発見され、長年知られている。バクテリオファージは、細菌に感染し、かつ細菌内で複製するDNAまたはRNAゲノムを有するウイルスである。バクテリオファージは、細菌内での溶菌または溶原サイクルを経験し得る。溶菌サイクル中には、バクテリオファージの遺伝物質が細菌中に注入され、ここで転写、翻訳および複製が行なわれ、これによりバクテリオファージタンパク質および核酸のアッセンブリおよびパッケージングがもたらされ、最終的に溶菌へとつながり、このとき、多数のバクテリオファージが放出されて、さらなる細菌に容易に感染できるようになる。一部のバクテリオファージはまた、溶原サイクルも行なうことができ、このとき、バクテリオファージ遺伝物質が、細菌ゲノム中に組み込まれる。
【0003】
バクテリオファージは、現在では、細菌感染症の治療に関する臨床試験で調査されている。黄色ブドウ球菌(S. aureus)、大腸菌(E. coli)および緑膿菌(P. aeruginosa)などの病原体が標的とされている。Wright A Clin Otolaryngol (2009) 34:349には、抗生物質耐性緑膿菌に起因する慢性耳炎の治療のための治療用バクテリオファージ調製物の比較臨床試験が記載されている。Sarker SA et al. Virology (2012) 434:222には、バングラディシュの健康成人ボランティアへの経口的T4様ファージカクテルの投与が記載されている(ClinicalTrials.govidentifier:NCT01818206)。
【0004】
遺伝子操作型バクテリオファージが、細菌量の消失または減少の目的で、複数の細菌標的に対して開発されている。例としては、以下のものが挙げられる:SASP gene delivery: a novel antibacterial approach. Fairhead H, Drug News Perspect. (2009):197-203;Engineered Phagemids for Nonlytic, Targeted Antibacterial Therapies, Krom RJ et al., Nano Lett. (2015)15, 4808-4813;Sequence-specific antimicrobials using efficiently delivered RNA-guided nucleases, Citorik RJ et al., Nature Biotechnology (2014)32 1141;Exploiting CRISPR-Cas nucleases to produce sequence-specific antimicrobials, Bikard D., Nature Biotechnology (2014)32, 1146。Dedrick et al. Nature Medicine 25, 730-733 (2019)には、播種性薬物耐性マイコバクテリウム・アブセス(Mycobacterium abscessus)を有する患者の治療のための遺伝子操作型バクテリオファージが開示されている。
【0005】
さらに、遺伝子操作型バクテリオファージはまた、ワクチンとして、または癌細胞を死滅させるための標的化送達のためにも開発されている。しかしながら、そのようなバクテリオファージは、細菌に感染することが意図されていない(Therapeutic and prophylactic applications of bacteriophage components in modern medicine. Adhya S et al. Cold Spring Harb Perspect Med. (2014) 1, 1;Killing cancer cells by targeted drug-carrying phage nanomedicines Bar H. et al. BMC Biotechnol. (2008) 37;Phage protein-targeted cancer nanomedicines, Petrenko VA and Jayanna PK. FEBS Lett. (2014) 588:341)。
【発明の概要】
【0006】
抗生物質耐性の増加に伴って、細菌感染症を治療または予防するためにさらなる戦略が開発されることが重要である。本発明は、遺伝子操作型バクテリオファージの使用における利点を表す。本発明の遺伝子操作型バクテリオファージは、片利共生性細菌を標的とし、シグナル配列を含む少なくとも1種の抗原をコードする核酸を挿入して、それにより、該片利共生性細菌からの発現された抗原の放出をもたらす。抗原は、片利共生性細菌を担持する宿主中での免疫応答を誘導することが可能である。発現された抗原が片利共生性細菌から放出される場合には、片利共生性細菌から離れて、抗原に対する免疫応答が生じ、これにより、免疫応答が、抗原に対して特異的であり、かつ該片利共生性細菌に影響を及ぼさないことを確実にする。抗原は、それに対する免疫応答が有用であるいずれかの疾患または病原体に関連し得る。
【0007】
したがって、遺伝子操作型バクテリオファージであって、片利共生性細菌に結合すること、およびそのゲノムポリヌクレオチドを該片利共生性細菌中に挿入することができるが、子孫を生成すること、該片利共生性細菌内での溶原サイクルおよび/または溶菌サイクルを行なうことができない遺伝子操作型バクテリオファージが提供され、ここで、該遺伝子操作型バクテリオファージは、プロモーターの制御下に、少なくとも1種の異種抗原をコードする遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含み、任意で、少なくとも1種の異種抗原をコードする遺伝子は、該片利共生性細菌からの異種抗原の放出を駆動することができるシグナル配列を含む。
【0008】
本発明のさらなる態様では、プロモーターの制御下に異種抗原をコードする異種抗原遺伝子を含む遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが提供され、このとき、異種抗原遺伝子は、任意で、片利共生性細菌からの異種抗原の放出を駆動することができるシグナル配列を含み、また、カプシドタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失し、溶菌機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失し、任意で、溶原機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失している。
【0009】
本発明のさらなる態様では、プロモーターの制御下に異種抗原をコードする異種抗原遺伝子を含む遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが提供され、ここで、異種抗原遺伝子は、任意で、片利共生性細菌からの異種抗原の放出を駆動することができるシグナル配列を含み、また、カプシドタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が存在せず、溶菌機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が存在せず、かつ任意で、溶原機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が存在しない。
【0010】
本発明のさらなる態様では、片利共生性細菌からの異種抗原の発現および任意で放出における、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドの使用が提供される。
【0011】
本発明のさらなる態様では、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含む医薬組成物またはワクチンが提供される。
【0012】
本発明のさらなる態様では、疾患、任意で感染性疾患または癌の予防的阻止での使用のための、本発明に従う遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが提供される。
【0013】
本発明のさらなる態様では、以下のステップ:(a) それを必要とする患者に、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージまたは本発明の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを投与して、それにより本発明の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが片利共生性細菌に接触するようにするステップ;(b) 該片利共生性細菌への該ゲノムポリヌクレオチドの挿入のステップ;および(c) 異種抗原に対する免疫応答を惹起するために十分なレベルでの異種抗原の発現および放出のステップを含む、疾患の治療方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の遺伝子操作型バクテリオファージを作製するための戦略を示す図である。
【
図2】遺伝子操作型バクテリオファージの遺伝的操作に関する可能性を示す図である。
【
図3】本発明の遺伝子操作型バクテリオファージの意図される使用を示す図である。
【
図4】A毒素のC末端の断片(アミノ酸2387~2706)、B毒素のC末端の断片(アミノ酸1750~2360)、またはA毒素およびB毒素の融合体1、2、3、4もしくは5を用いて免疫化されたマウスでの抗ToxA免疫原性を示すグラフである。
【
図5】A毒素のC末端の断片(アミノ酸2387~2706)、B毒素のC末端の断片(アミノ酸1750~2360)、またはA毒素およびB毒素の融合体1、2、3、4もしくは5を用いて免疫化されたマウスでの血球凝集阻害を示すグラフである。
【
図6】A毒素のC末端の断片(アミノ酸2387~2706)、B毒素のC末端の断片(アミノ酸1750~2360)、またはA毒素およびB毒素の融合体1、2、3、4もしくは5を用いて免疫化されたマウスでの抗ToxB免疫原性を示すグラフである。
【
図7】A毒素のC末端の断片(アミノ酸2387~2706)、B毒素のC末端の断片(アミノ酸1750~2360)、またはA毒素およびB毒素の融合体1、2、3、4もしくは5を用いて免疫化されたマウスでの細胞毒性阻害力価を示す図である。
【
図8】PE抗原の発現のための遺伝子操作型バクテリオファージゲノムの使用を示す図である。Aは、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムの模式図を示す。Bは、PE抗原の配列を示す。
【
図9】遺伝子操作型バクテリオファージに曝露された大腸菌細菌によるPE抗原の発現を示す図である。ドットブロットが示され、陽性対照は200ngの精製PEタンパク質であり、陰性対照は大腸菌細胞単独である。さらなるサンプルは、カナマイシン耐性コロニーからの溶解された大腸菌を含有し、それらのすべてがPEを発現する。
【
図10】免疫化後の抗体レベルを示す図である。マウス(n=33頭/群)を、2週間間隔で、1μg PilA、1μg PE、または1μg PE-PilAを、ミョウバンまたはAS01でアジュバント化して用いて、筋内(IM)にて3回免疫化するか、またはマウス(n=20頭/群)を、2週間間隔で、6μg PE、6μg PilA、または6μg PE-PilAを、大腸菌易熱性毒素(LT)でアジュバント化して用いて、鼻内(IN)にて3回免疫化した。2回目および3回目のIM注入(それぞれ、28日目および42日目)の14日間後または3回目のIN注入(42日目)の14日間後に、血清を回収した。PE特異的およびPilA特異的抗体レベルを、ELISAにより測定した。
【
図11】ビトロネクチン結合の阻害を示す図である。ミョウバンまたはAS01と共に製剤化した1μg PE、1μg PilA、または1μg PE-PilAを用いて、0日目、14日目および28日目に、マウス(n=33頭/群)を筋内投与により免疫化した。42日目に血清を回収し、各群内のすべての血清を用いてプールを作製した。これらの血清プールの2倍希釈物を、マイクロタイタープレート中でのPEに対するビトロネクチンの結合を阻害するために用いた。結合したビトロネクチンを、特異的抗体により検出した。結果を、ビトロネクチン結合の50%を阻害できる血清の希釈率として表わした。
【
図12】NTHi鼻咽頭定着モデルでのワクチン有効性を示す図である。LT-アジュバント化PE、PilA、PE-PilAまたはアジュバント単独(対照)を用いて、鼻内経路によりマウスを免疫化し、その後、NTHi 3224A株を用いて鼻内経路により抗原負荷(チャレンジ)した。鼻内洗浄液中の細菌コロニーを、抗原負荷後1日目および2日目にカウントし、log10平均cfuとして表わした。各シンボルは、マウスを表わす。破線は検出限界を示し;黒色水平バーは幾何平均である。統計解析を、ANOVA2を用いて行なった。群同士を経時的に比較した(Tukey補正検定)。PE群およびPE-PilA群と対照:p<0.001。PilA群と対照:p=0.9937。PE群とPE-PilA群:p=0.4239。4種類の中での代表的実験は、3224Aまたは3219C NTHi株のいずれかを用いた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、片利共生性細菌に結合することが可能である(例えば、結合するように適合化されている)が、該片利共生性細菌内で子孫を生成することが不可能である、遺伝子操作型バクテリオファージを開示し、ここで、遺伝子操作型バクテリオファージは、プロモーターの制御下で少なくとも1種の異種抗原をコードする遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含み、また、該少なくとも1種の異種抗原をコードする遺伝子は、任意で、該片利共生性細菌からの異種抗原の放出を駆動することが可能であるシグナル配列を保有する。ファージゲノムポリヌクレオチドは、遺伝子操作型バクテリオファージの生成を可能にするパッケージング配列を保有する。ファージゲノムポリヌクレオチドは、さらなるバクテリオファージ遺伝子を含む必要がない。ファージゲノムポリヌクレオチドは、任意で、ファージ複製起点を保有する。遺伝子操作型バクテリオファージは、典型的に、カプシドタンパク質から構成され、かつ遺伝子操作型ファージゲノムポリヌクレオチドを含むウイルス頭部、片利共生性細菌宿主細胞に結合するための手段および宿主細胞中へと遺伝子操作型ファージゲノムポリヌクレオチドを挿入するための手段を含む尾部/プレート構造を含む。ゲノムポリヌクレオチドは、少なくともパッケージングシグナル配列、ならびに任意でゲノム複製、バクテリオファージゲノムの転写および翻訳のために必須の配列を保持するように遺伝子操作される。しかしながら、バクテリオファージゲノムの他の部分は、異種抗原をコードする1種以上の遺伝子と置換することができる。バクテリオファージゲノムは、溶原サイクルの進行を可能にするタンパク質をコードする遺伝子を含まないことが好ましい。本発明のバクテリオファージゲノムが、生存可能なバクテリオファージの複製および放出を可能にする遺伝子をすべて含まないこともまた好ましい。バクテリオファージゲノムが、バクテリオファージの溶菌機構をコードしないこともまた好ましい。したがって、溶原サイクルの開始に関与するタンパク質をコードするか、またはバクテリオファージの構造タンパク質のうちの一部をコードする遺伝子を、欠失させることができ、かつ/または少なくとも1種の異種抗原をコードする遺伝子を用いて置換することができる。任意で、ファージゲノムポリヌクレオチドは、パッケージング配列を含み、かつ、ファージに由来するさらなる遺伝物質を含まない。パッケージングシグナルは、パッケージング配列ならびに少なくとも1種の異種抗原遺伝子を、プロモーターの制御下に含むゲノムポリヌクレオチドを、ファージ粒子中に挿入することにより、遺伝子操作型ファージが作製されることを可能にする。任意で、遺伝子操作型バクテリオファージは、片利共生性細菌に対する受容体を含む。これは、典型的には、片利共生性細菌に特異的に結合して、バクテリオファージが、該片利共生性細菌に結合し、該片利共生性細菌へとゲノムポリヌクレオチドを挿入することを可能にする、バクテリオファージの尾部由来のタンパク質である。
【0016】
「異種抗原」とは、異種抗原が、野生型バクテリオファージ中に存在しない抗原であることを意味する。これは、異なる細菌、例えば、病原性細菌由来の抗原であり得、またはウイルス由来もしくは真菌由来の抗原であり得る。抗原は、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質であるか、またはコードされる酵素により合成される糖でさえある。
【0017】
「異種病原体」とは、バクテリオファージでない病原体を意味する。
【0018】
用語「片利共生性細菌」(commensal bacterium)とは、治療対象である被験体体内に通常存在し、病原体感染には関連しない細菌を意味する。
【0019】
本発明の一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージは、片利共生性細菌に結合し、かつ該宿主細菌へとバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを挿入するように適合化されている。例えば、遺伝子操作型バクテリオファージは、バクテリオファージ尾部ファイバー/プレートをコードする遺伝子の改変を介して片利共生性細菌に結合するように適合化されている。そのような実施形態では、尾部ファイバー/プレートをコードする遺伝子は、任意で、選択された片利共生性細菌に対する尾部ファイバー/プレートの結合性を増加させるように突然変異または置換される。他の実施形態では、片利共生性細菌に対して高親和性を天然で有するバクテリオファージが選択され、本出願中で説明される通りの、さらなる遺伝子操作された改変を、片利共生性細菌中で異種抗原を生成するように遺伝子操作型バクテリオファージを適合化させるために行なうことができる。
【0020】
一実施形態では、片利共生性細菌は、皮膚、生殖器、口腔または腸管微生物叢の一部分である。例えば、片利共生性細菌は、アクネ菌(Propionibacterium acnes)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)または大腸菌(Escherichia coli)である。本発明は、腸管微生物叢の一部分としての大腸菌細菌、皮膚微生物叢の一部分としての表皮ブドウ球菌もしくはアクネ菌、生殖器微生物叢の一部分としてのラクトバチルス属、または口腔内微生物叢の一部分としてのストレプトコッカス・ゴルドニの標的化を含む。
【0021】
本発明の一実施形態では、片利共生性細菌は、腸内、皮膚上、または口腔内で見出される片利共生性細菌である。好適な片利共生性細菌の例としては、ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌、アクネ菌、または表皮ブドウ球菌細菌が挙げられる。
【0022】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージは、腸内の片利共生性細菌、例えば、大腸菌細菌を標的とする。片利共生性大腸菌細菌の場合には、カウドウイルス目が、片利共生性大腸菌に結合し、かつ大腸菌へとゲノムポリヌクレオチドを挿入することが可能である。カウドウイルス目は、尾部形態により区別される3種類の系統学的に関連するウイルス科から構成され:マイオウイルス科は長い収縮性の尾部を有し、サイフォウイルス科は長い非収縮性の尾部を有し、ポドウイルス科は短い尾部を有する。大腸菌バクテリオファージの例は、コリファージλ(サイフォウイルス科)、T4(マイオウイルス科)およびT7(ポドウイルス科)である。
【0023】
一実施形態では、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージは、皮膚上の片利共生性細菌、例えば、表皮ブドウ球菌またはアクネ菌を標的とする。
【0024】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージは、初期プロモーターまたは強力プロモーターの制御下にある、異種抗原をコードする遺伝子を含む。好適なプロモーターの例としては、バクテリオファージカプシドタンパク質の発現を制御するプロモーター、任意で、元のバクテリオファージ由来のバクテリオファージカプシドタンパク質の発現を制御するプロモーターが挙げられる。代替的な強力プロモーターとしては、高い発現レベルのタンパク質の発現を駆動する片利共生性細菌由来のプロモーターが挙げられる。これは、カプシドタンパク質をコードする遺伝子を、遺伝子操作型バクテリオファージ中で異種抗原をコードする遺伝子と置き換えることにより、簡便に達成することができる。あるいは、カプシドプロモーターまたは強力プロモーターなどの別のプロモーターを、異種抗原遺伝子に隣接する位置へと遺伝子操作することができる。
【0025】
一実施形態では、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージは、以下の科:マイオウイルス科(myoviridae)、サイフォウイルス科(siphoviridae)、ポドウイルス科(podoviridae)、コルチコウイルス科(corticiviridae)、テクティウイルス科(tectiviridae)、レビウイルス科(leviviridae)、シストウイルス科(cystoviridae)、イノウイルス科(inoviridae)、リポスリクスウイルス科(lipothrixviridae)、ルディウイルス科(rudiviridae)、プラズマウイルス科(plasmaviridae)およびフセロウイルス科(fuselloviridae)からなるウイルス科の群より選択される。これらの中でも、マイオウイルス科またはサイフォウイルス科またはポドウイルス科が好ましい。一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージは、遺伝子操作型ラムダコリファージである。
【0026】
一実施形態では、異種抗原遺伝子は、タンパク質を、分泌または排出のいずれかにより、片利共生性細菌から放出されるように仕向けるシグナル配列を保有する(Bacterial Secretion Systems - An Overview, Erin Green and Joan Mecsas, Microbiol. Spectr. 2016 Feb; 4(1): doi:10.1128/microbiolspec.VMBF-0012-2015)。好適なシグナル配列の例としては、細菌のI型、II型、III型、IV型またはV型シグナル配列が挙げられる。片利共生性細菌の選択および抗原の選択に応じて、当業者は、異種抗原の効率的な放出を達成するために用いるための適切なシグナル配列を決定することができる。
【0027】
典型的な例としては、DsbAシグナル配列を用いる共翻訳分泌、PelB、OmpAまたはOmpXシグナル配列を用いる翻訳後分泌、YdcG、SuflまたはYackシグナル配列を用いるTata分泌経路が挙げられる。
【0028】
一実施形態では、異種抗原は、グラム陽性またはグラム陰性細菌に由来する細菌タンパク質、例えば、病原性細菌に対する効果的な免疫応答を生じさせることが可能なタンパク質である。
【0029】
遺伝子操作型バクテリオファージが腸内に局在する片利共生性細菌を標的とする一実施形態では、異種抗原タンパク質は、ヒト腸の病原性細菌に対する免疫応答を生じさせることが可能であるタンパク質である。例えば、異種抗原は、任意で、C.ディフィシレ、ピロリ菌(Heliobacter pylori)、シゲラ属(Shigella)またはETEC大腸菌由来のタンパク質である。
【0030】
遺伝子操作型バクテリオファージによりコードされることができるクロストリジウム・ディフィシレタンパク質の例としては、C.ディフィシレのA毒素および/またはB毒素の反復ドメインの少なくとも一部分を含むタンパク質が挙げられる。A毒素および/またはB毒素の断片が毒性でないことが好ましい。特に、A毒素およびB毒素の反復ドメインの一部分を含む融合タンパク質は、国際公開第00/61762号、欧州特許出願公開第2753352号、米国特許出願公開第9409974号、国際公開第12/163817号、同第12/163811号に開示され、これらの刊行物中に開示される融合タンパク質は、本発明の異種抗原としての使用に好適である。異種抗原として用いることができるさらなるC.ディフィシレ抗原は、二元毒素(CdtAおよび/またはCdtB、国際公開第15/197737号)、国際公開第14/045226号または同第15/61529号に開示される他のC.ディフィシレタンパク質である。
【0031】
他の実施形態では、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージは、ウイルスタンパク質または真菌タンパク質である異種抗原タンパク質をコードする遺伝子を含む。
【0032】
一実施形態では、異種抗原は、ブドウ球菌、連鎖球菌、シゲラ属、シュードモナス属、プロピオニバクテリウム属、アシネトバクター属もしくは髄膜炎菌抗原または大腸菌、ピロリ菌、緑膿菌、C.ディフィシレ、アクネ菌、K.ニューモニアエ、淋菌(N. gonorrhaea)由来の抗原である。
【0033】
一実施形態では、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10種の異種抗原をコードする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10種の遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む。これらの遺伝子は、任意で、ゲノムポリヌクレオチドからの他の遺伝子の欠失と同じ位置で、ゲノムポリヌクレオチドに付加される。カプシドタンパク質は強力プロモーターの制御下にあるので、1つの選択肢は、カプシドタンパク質遺伝子(1種または複数種)を1種以上の異種タンパク質抗原を用いて置き換えることであり、その発現は強力プロモーターにより駆動される。さらに、またはあるいは、溶菌サイクルをコードする遺伝子または溶原性遺伝子を、1種以上の異種抗原コード遺伝子により置き換えることができる。一実施形態では、ファージゲノムポリヌクレオチドは、少なくとも1種のパッケージングシグナルおよびプロモーター(例えば、強力プロモーター)の制御下に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9または10種の異種抗原を含む。
【0034】
遺伝子操作型バクテリオファージは片利共生性細菌を溶菌せず、それにより、片利共生性細菌からの抗原産生および放出が継続できることが好ましい。したがって、遺伝子操作型バクテリオファージは、片利共生性細菌を溶菌させるか、または抗細菌性毒素(例えば、非溶菌性抗微生物ペプチド(AMP))として作用するかのいずれかであるタンパク質をコードする遺伝子を含まず、これらのタンパク質はゲノムポリヌクレオチドによりコードされないことが好ましい。
【0035】
本発明のさらなる態様は、遺伝子操作型バクテリオファージの遺伝物質である。したがって、本発明は、プロモーターの制御下に異種抗原をコードする異種抗原遺伝子を含む遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを提供し、このとき、異種抗原遺伝子は、任意で、片利共生性細菌からの異種抗原の放出を駆動することが可能なシグナル配列を含み、また、カプシドタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失し、溶菌機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失し、かつ任意で、溶原機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失している。
【0036】
本発明はまた、パッケージングシグナル配列およびプロモーターの制御下に異種抗原をコードする異種抗原遺伝子を含む遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドも提供し、このとき、異種抗原遺伝子は、任意で、片利共生性細菌からの異種抗原の放出を駆動することが可能であるシグナル配列を含み、また、カプシドタンパク質をコードする遺伝子が存在せず、溶菌機構タンパク質をコードする遺伝子が存在せず、かつ溶原機構タンパク質をコードする遺伝子が存在しない。
【0037】
一実施形態では、本発明は、パッケージングシグナル配列、ファージ複製起点、および片利共生性細菌からの異種抗原の放出を可能にするシグナル配列を含んでプロモーターの制御下にある異種抗原をコードする遺伝子を含む、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを開示する。
【0038】
一実施形態では、本発明は、パッケージングシグナル配列、ファージ複製起点、細菌複製起点、および片利共生性細菌からの異種抗原の放出を可能にするシグナル配列を含んでプロモーターの制御下にある異種抗原をコードする遺伝子を含む、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを開示する。
【0039】
一実施形態では、本発明は、パッケージングシグナル配列、ファージ複製起点、細菌複製起点、選択マーカー、および片利共生性細菌からの異種抗原の放出を可能にするシグナル配列を含んでプロモーターの制御下にある異種抗原をコードする遺伝子を含む、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを開示する。
一実施形態では、本発明は、パッケージングシグナル配列、ファージ複製起点、細菌複製起点、および片利共生性細菌からの異種抗原の放出を可能にするシグナル配列を含んでプロモーターの制御下にある異種抗原をコードする遺伝子を含み、かつファージカプシドタンパク質をコードする遺伝子を含まない、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを開示する。
【0040】
一実施形態では、本発明は、パッケージングシグナル配列、ファージ複製起点、細菌複製起点、および片利共生性細菌からの異種抗原の放出を可能にするシグナル配列を含んでプロモーターの制御下にある異種抗原をコードする遺伝子を含み、かつファージカプシドタンパク質をコードする遺伝子または溶菌機構タンパク質をコードする遺伝子のいずれをも含まない、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを開示する。
【0041】
一実施形態では、本発明は、パッケージングシグナル配列、ファージ複製起点、細菌複製起点、および片利共生性細菌からの異種抗原の放出を可能にするシグナル配列を含んでプロモーターの制御下にある異種抗原をコードする遺伝子を含み、かつファージカプシドタンパク質をコードする遺伝子またはファージ溶菌機構タンパク質をコードする遺伝子またはファージ溶原機構タンパク質をコードする遺伝子のいずれをも含まない、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを開示する。
【0042】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、ファージカプシドタンパク質および/またはファージ溶菌機構タンパク質および/またはファージ溶原機構タンパク質をコードする遺伝子を含まない。例えば、遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムは、ファージカプシド(capside)タンパク質をコードする遺伝子を含まず;遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムは、ファージ溶菌機構タンパク質をコードする遺伝子を含まず;遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムは、ファージ溶原機構タンパク質をコードする遺伝子を含まず;遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムは、ファージ溶菌機構タンパク質またはファージ溶原機構タンパク質をコードする遺伝子を含まず;遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムは、ファージカプシドタンパク質またはファージ溶菌機構タンパク質をコードする遺伝子を含まず;遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムは、ファージカプシドタンパク質またはファージ溶原機構タンパク質をコードする遺伝子を含まず;あるいは、遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムは、ファージカプシドタンパク質またはファージ溶菌機構タンパク質またはファージ溶原機構タンパク質をコードする遺伝子のうちのいずれも含まない。
【0043】
一実施形態では、子孫を生成することが不可能である遺伝子操作型バクテリオファージは、バクテリオファージカプシドタンパク質をコードしないゲノムポリヌクレオチドを有する。
【0044】
一実施形態では、溶原サイクルを行なうことが不可能である遺伝子操作型バクテリオファージは、ファージ溶原機構タンパク質をコードしないゲノムポリヌクレオチドを有する。
【0045】
一実施形態では、溶菌サイクルを行なうことが不可能である遺伝子操作型バクテリオファージは、ファージ溶菌機構タンパク質をコードしないゲノムポリヌクレオチドを有する。
【0046】
一実施形態では、片利共生性バクテリオファージに結合するように適合化されている遺伝子操作型バクテリオファージは、片利共生性細菌に結合する尾部ファイバー/プレートを含む。任意で、尾部ファイバー/プレートは、突然変異型配列を有し、任意で、突然変異型配列は、片利共生性細菌に対する遺伝子操作型バクテリオファージの結合性を増大させる。
【0047】
本発明のゲノムポリヌクレオチドは、少なくとも1種(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10種)の異種抗原をコードし、かつ、その発現は、片利共生性細菌が、該異種抗原に対して免疫応答が生起されるために十分な異種抗原タンパク質を産生するように、少なくとも1種のプロモーターにより駆動される。その/各異種抗原をコードする遺伝子は、片利共生性細菌からの異種抗原の放出を駆動するシグナルペプチドを含み、それにより、異種抗原が、片利共生性細菌から離れた場所で宿主(例えば、ヒト)の免疫系に遭遇することが可能になり、したがって、該片利共生性細菌が宿主免疫応答により標的とされない。カプシドタンパク質、溶菌機構および溶原機構タンパク質をコードする遺伝子の不在は、片利共生性細菌内での子孫の生成、溶菌サイクルまたは溶原サイクルの実行を不可能にする遺伝子操作型バクテリオファージをもたらす。したがって、片利共生性細菌は、異種抗原を放出し続け、それにより、堅牢な免疫応答が、異種抗原に対して生起される。一実施形態では、異種抗原は、片利共生性細菌の近傍で見出される病原体に対して効果的な免疫応答を生起する。
【0048】
一実施形態では、ゲノムポリヌクレオチドは、複製起点を保持し、それにより、ゲノムポリヌクレオチドが、片利共生性細菌内で複製されることができる。例えば、高コピー数の例では500~700コピーのゲノムポリヌクレオチドを片利共生性細胞中に見出すことができ、中コピー数ゲノムポリヌクレオチドでは20~100コピーのゲノムポリヌクレオチドが片利共生性細胞中で見出され、低コピー数の細菌ポリヌクレオチドでは5~20コピーが片利共生性細胞中で見出される。コピー数の増大は、より高レベルの異種抗原の転写/翻訳およびより高レベルの片利共生性細菌からの異種抗原の放出を可能にする。
【0049】
一実施形態では、異種抗原をコードする遺伝子は、強力プロモーターの制御下にある。例えば、異種抗原は、カプシドタンパク質の産生に関連するプロモーターの制御下にある。これは、カプシドタンパク質遺伝子を異種抗原遺伝子と置換することにより達成できる。他の強力プロモーターが当業者には容易に利用可能であり、例えば、片利共生性細菌中での高レベル発現を有するタンパク質の産生を駆動するプロモーターである。
【0050】
一実施形態では、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、以下の科:マイオウイルス科、サイフォウイルス科、ポドウイルス科、コルチコウイルス科、テクティウイルス科、レビウイルス科、シストウイルス科、イノウイルス科、リポスリクスウイルス科、ルディウイルス科、プラズマウイルス科およびフセロウイルス科からなるウイルス科の群に由来するバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドから遺伝子操作されている。例えば、マイオウイルス科またはサイフォウイルス科またはポドウイルス科ゲノムポリヌクレオチドから遺伝子操作されている。
【0051】
一実施形態では、大腸菌が片利共生性細菌として用いられ、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、T4、T7またはラムダコリファージゲノムポリヌクレオチドから好適に遺伝子操作されている。
【0052】
一実施形態では、ゲノムポリヌクレオチドは、カプシドタンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている。一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、溶菌機構タンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている。一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、溶原機構タンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている。何種類の遺伝子を欠失させるか決断する際には、ゲノムポリヌクレオチドのサイズが、遺伝子操作の前後で概ね同じサイズに維持されるべきであることが念頭に置かれるはずである。したがって、より多くまたはより大きな異種抗原が発現される予定であれば、より多くの非必須遺伝子を、バクテリオファージゲノムから欠失させるべきである。
【0053】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、複製起点を保持し、それにより、バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドの複製が生じることができ、潜在的により高レベルの異種抗原発現がもたらされる。
【0054】
一実施形態では、複製起点をバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドから欠失させ、それにより、ゲノムポリヌクレオチドの複製が生じなくなる。このことは、比較的低レベルの異種抗原が必要とされる場合、または異種抗原の発現レベルの比較的強い制御が必要とされる場合には適切であり得る。
【0055】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、複製起点および片利共生性細菌内でのバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドの複製を可能にするために必要なタンパク質をコードするすべての遺伝子を保持する。
【0056】
いかなる異種抗原でも、本発明を用いて、片利共生性細菌中で発現させることができる。一実施形態では、異種抗原は、感染性疾患または癌に関連する。一実施形態では、異種抗原タンパク質は、ウイルスタンパク質または真菌タンパク質またはグラム陽性もしくはグラム陰性細菌由来の細菌タンパク質である。1種より多く(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10種)の異種抗原がコードされる場合、同じ片利共生性細菌から、ウイルスおよび細菌の両方、またはウイルスおよび真菌または細菌および真菌または細菌、ウイルスおよび真菌の異種抗原を発現させることが可能である。このことは、細菌要因とウイルス要因の両方を含む中耳炎のような感染症に取り組むためには特に好適である。
【0057】
一実施形態では、異種抗原タンパク質は、ヒト腸管内の病原性細菌に対する免疫応答を生じさせることが可能なタンパク質である。例えば、クロストリジウム・ディフィシレ、ピロリ菌またはシゲラ属感染症である。
【0058】
一実施形態では、異種抗原は、C.ディフィシレ感染に対する免疫応答を生じさせることが可能である。例えば、ゲノムポリヌクレオチドは、好適には、C.ディフィシレに対する免疫応答を生じさせることが可能なタンパク質、例えば、C.ディフィシレA毒素、C.ディフィシレB毒素、C.ディフィシレA毒素および/もしくはC.ディフィシレB毒素の断片、またはC.ディフィシレA毒素およびC.ディフィシレB毒素の断片を含む融合タンパク質をコードする遺伝子を含む。一実施形態では、ゲノムポリヌクレオチドは、国際公開第12/163817号、同第12/163811号、同第14/96393号、同第15/197737号または同第14/45226号に開示されるタンパク質のうちの1種以上をコードする遺伝子を含む。
【0059】
一実施形態では、異種抗原は、シゲラ属、サルモネラ属、ピロリ菌または病原性大腸菌に対する免疫応答を生じさせることが可能である。この場合、片利共生性細菌は、好適にはヒト腸管由来の大腸菌である。
【0060】
一実施形態では、異種抗原は、ブドウ球菌、連鎖球菌、シゲラ属、シュードモナス属、アクネ菌、アシネトバクター属もしくは髄膜炎菌タンパク質または大腸菌、緑膿菌、C.ディフィシレ、K.ニューモニアエ、もしくは淋菌(N. gonorrhoea)抗原由来のタンパク質である。
【0061】
一実施形態では、異種抗原遺伝子は、分泌または排出による片利共生性細菌からの異種抗原の放出を駆動することが可能であるシグナル配列を含む。発現後の片利共生性細菌からの異種抗原の放出は、免疫応答が、片利共生性細菌を標的とする免疫応答を生じることなく、異種抗原に対して生起され得ることを確実にする。例えば、クラスI、II、III、IVまたはVシグナル配列が、異種抗原に連結される。当業者は、特定の片利共生性細菌での使用に対して、または特定の異種抗原に対して好適であろう多数のシグナル配列を知っている。
【0062】
一実施形態では、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、アジュバントをコードする遺伝子を含む。一実施形態では、アジュバントはTLR5アゴニストであり;例えば、フラジェリンまたは少なくとも7、10、20、30、40、50、70、100もしくは200個の連続するアミノ酸を含むその断片である。一実施形態では、より多くのフラジェリンの免疫原性エピトープ(超可変領域中)が除去されれば、アジュバント活性を保持しながら、免疫原性がより低いフラジェリンの断片がもたらされる(Nempont C et al J. Imunol. (2008) 181 (3) 2036-2043)。フラジェリンの超可変中央領域は、TLR5アゴニスト活性に必要でなく、したがって、この領域の欠失は、アジュバント活性が保持されることを可能にする。例えば、FliC(登録番号AAL20871)に関して、アミノ酸204~292、191~352または174-400の欠失は、TLR5活性を低下させなかった(Nempont C et al J. Imunol. (2008) 181 (3) 2036-2043)。
【0063】
一実施形態では、アジュバントの発現は、強力プロモーター、例えば、バクテリオファージ中のカプシドタンパク質プロモーターの制御下にある。一実施形態では、アジュバントは、異種抗原との融合タンパク質として発現される。例えば、異種抗原をコードする遺伝子は、アジュバント(任意でフラジェリン(flaggellin))(またはその断片)をコードする遺伝子に融合されて、それにより、単一の融合タンパク質が、該融合タンパク質遺伝子の一部分を形成するシグナルペプチドに起因して、片利共生性細菌から放出される。
【0064】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、片利共生性細菌に対する受容体をコードする遺伝子を含み、該受容体は、任意で、尾部ファイバーまたはプレートである。あるいは、片利共生性細菌に対する受容体は、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドによりコードされず、この場合、片利共生性ポリヌクレオチドに対する受容体は、遺伝子操作型バクテリオファージの生成で用いられるパッケージング細胞株中にコードされている。
【0065】
一実施形態では、異種抗原タンパク質は、遺伝子操作型バクテリオファージにより感染可能である片利共生性細菌中で天然に発現されない。
【0066】
好ましい実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、パッケージングシグナルを含む。
【0067】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージは、カプシド、ゲノムポリヌクレオチド、および片利共生性細菌へとそのゲノムポリヌクレオチドを挿入する手段を含み、このとき、ゲノムポリヌクレオチドは、プロモーターの制御下にある少なくとも1種の異種抗原をコードする少なくとも1種の遺伝子、パッケージングシグナルおよびファージ複製起点を保有する。
【0068】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージは、カプシド、ゲノムポリヌクレオチド、および片利共生性細菌へとそのゲノムポリヌクレオチドを挿入する手段を含み、このとき、ゲノムポリヌクレオチドは、プロモーターの制御下にある少なくとも1種の異種抗原をコードする少なくとも1種の遺伝子、パッケージングシグナル、ファージ複製起点および細菌複製起点を保有する。
【0069】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージは、カプシド、ゲノムポリヌクレオチド、および片利共生性細菌へとそのゲノムポリヌクレオチドを挿入する手段を含み、このとき、ゲノムポリヌクレオチドは、プロモーターの制御下にある少なくとも1種の異種抗原をコードする少なくとも1種の遺伝子、パッケージングシグナル、ファージ複製起点、細菌複製起点および選択マーカーを保有する。
【0070】
本発明のさらなる態様は、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含む医薬組成物である。医薬組成物は、任意で、局所治療として、または経口投与用のカプセル剤もしくはマイクロカプセル剤として製剤化され、このとき、遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、腸内で放出されるか、または洗口液として製剤化される。カプセル製剤またはマイクロカプセル製剤は、任意で、キトサン-アルギン酸塩、ポリメタクリル酸コポリマーまたは脂肪酸を含有する。
【0071】
本発明のさらなる実施形態は、上記の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含む医薬組成物である。一実施形態では、医薬組成物は、製薬上許容される賦形剤、例えば、局所用クリーム剤または軟膏剤としての投与を可能にするための賦形剤をさらに含む。
【0072】
本発明のさらなる態様は、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含むワクチンである。
【0073】
本発明のバクテリオファージは、必要とされる微生物叢への効果的な送達のために製剤化された医薬調製物として送達することができる。
【0074】
遺伝子操作型バクテリオファージが腸管微生物叢に到達することが必要である場合には、任意で、マイクロカプセル化が用いられる(国際公開第06/47871号、加国特許出願公開第2463827号、Yongsheng Ma et al, Applied and Environmental Micropbiology 74; 4799-4805 (2008))。マイクロカプセル化は、遺伝子操作型バクテリオファージが、経口的に送達され、かつ胃に関連する低pHから保護されることを可能にする。放出は、pH6~7、例えば、6.8が達成される腸液中で生じる。一実施形態では、マイクロカプセル化は、キトサン-アルギン酸塩、アルギン酸塩、ポリメタクリル酸コポリマー、アルギン酸塩-ポリメタクリル酸を含むか、または乳液および脂肪酸を用いるマイクロカプセルである。好適なコポリマーは、メタクリル酸およびメタクリル酸メチルに基づくアニオン性コポリマー、例えば、市販製品であるEudragit S100を含む。リポイド送達系が任意で用いられ、該送達系では、遺伝子操作されたバクテリオファージが、カチオン性脂質ベシクル(lipic vesicle)またはリポソーム中に封入される。
【0075】
遺伝子操作型バクテリオファージが皮膚に塗布される予定である場合、遺伝子操作型バクテリオファージは、任意で、局所治療用の組成物として製剤化される。一実施形態では、遺伝子操作型ファージは、賦形剤または安定化剤などの製薬上許容される担体と組み合わせられる。製薬上許容される担体、賦形剤および安定化剤の例としては、限定するものではないが、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸をはじめとする抗酸化剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミンおよびゼラチンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸;単糖、二糖およびグルコース、マンノースまたはデキストリンなどの他の炭水化物;マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成性対イオンが挙げられる。
【0076】
遺伝子操作型バクテリオファージは、例えば、ローション剤、クリーム剤、スプレー剤、エアロゾル剤、水性緩衝溶液、ゲル剤、マスク、フォーム剤などの様々な局所投与用製品形態に製剤化することができる。一実施形態では、ファージは、ゲルの水性溶液として製剤化される。組成物は、水、エステル、ミリスチン酸イソプロピルおよびパルミチン酸イソプロピル;ジカプリルエーテルおよびジメチルイソソルビドなどのエーテル;エタノールおよびイソプロパノールなどのアルコール;セチルアルコール、セテアリルアルコール、ステアリルアルコールおよびビフェニルアルコールなどの脂肪酸;イソオクタン、ジメチコーン、ジメチコーンクロスポリマー、ポリシロキサンおよびそれらの誘導体(例えば、有機修飾誘導体)などのシリコーン油;プロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコールなどのポリオール;またはそれらの混合物のいずれかの組み合わせを含み得る。水性ビヒクルとしては、エタノール、イソプロパノール等などの低級アルコールをはじめとする、水と混和性の1種以上の溶媒が挙げられる。
【0077】
一実施形態では、遺伝子操作型バクテリオファージ組成物は、生体適合性基材、例えば、コットン、ユーカリ、竹ろ紙もしくはバイオセルロースまたはそれらの組み合わせなどの天然繊維を含む基材に塗布される。
【0078】
本発明のさらなる態様は、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージのための医学用途および治療方法である。したがって、感染性疾患または癌などの他の疾患の予防的阻止での使用のための、異種タンパク質をコードする遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む遺伝子操作型バクテリオファージが提供され、このとき、異種タンパク質は、ファージ被膜/カプシドタンパク質の一部分として発現されない。感染性疾患は、任意で、細菌、ウイルスまたは真菌感染症、例えば、C.ディフィシレ感染を含む。
【0079】
同様に、以下のステップ:(a) 異種タンパク質をコードする遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む遺伝子操作型バクテリオファージを、それを必要とする患者に投与し、それにより、該遺伝子操作型バクテリオファージが細菌と接触するステップ;(b) 該細菌へのバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドの侵入のステップ;および(c) 異種抗原に対して免疫応答が惹起されるために十分なレベルでの該異種抗原の発現および放出のステップを含む、治療方法が提供される。
【0080】
本発明の遺伝子操作型バクテリオファージの主な使用(用途)は、疾患、特に細菌感染を含む感染性疾患または細菌およびウイルスもしくは細菌および真菌要素を含む疾患の治療および/または予防のためのものである。疾患の治療および/または予防は、好ましくはヒトでのものである。本発明の遺伝子操作型バクテリオファージは、異種抗原に対して免疫応答が惹起されるために十分なレベルで、少なくとも1種の異種抗原を発現する。異種抗原は、片利共生性細菌から分泌され、それにより、惹起される免疫応答は、異種抗原に対するものであり、片利共生性細菌に対するものではない。このようにして、それに対して免疫応答がプライミングされる病原性生物の近傍で、多量の分泌された抗原を生成するために片利共生性細菌を用いることにより、感染症が治療または予防される。
【0081】
本発明のさらなる態様は、本発明の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含むワクチンである。
【0082】
本発明のさらなる態様は、感染性または非感染性疾患の予防的阻止での使用に従う遺伝子操作型バクテリオファージ、またはそのための遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドである。そのような使用は、以下のステップのうちの1、2、3、4、または5種を含む:(i) 片利共生性細菌と接触し、かつ該片利共生性細菌へと遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを挿入するように、遺伝子操作型バクテリオファージを投与するステップ、(ii) 任意で、該片利共生性細菌内でのゲノムポリヌクレオチドの複製のステップ、(iii) 任意でアジュバントとの融合タンパク質としての、少なくとも1種の異種抗原の転写および翻訳のステップ、(iv) 該片利共生性細菌の溶菌を伴わない、該片利共生性細菌からの該少なくとも1種の異種抗原の放出(例えば、シグナル配列の作用を介する)のステップ、(v) 該異種抗原に対する免疫応答を生じさせるための、宿主免疫系との相互作用のステップ。異種抗原およびアジュバントは、上記の特性のうちのいずれかを有し得る。例えば、感染性または非感染性疾患は、細菌、ウイルスもしくは真菌感染、またはそれらもしくは癌のいずれかの組み合わせを含み得る。一実施形態では、片利共生性細菌は、アクネ菌、表皮ブドウ球菌、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス・ゴルドニまたは大腸菌であり;それらは、ヒト皮膚微生物叢、生殖器微生物叢、口腔内微生物叢または腸管微生物叢上の片利共生性細菌の例である。一実施形態では、疾患は、細菌感染症、例えば、ヒト腸管のC.ディフィシレ感染である。
【0083】
一実施形態では、前記使用は、ステップ(i)、(iii)、(iv)および(v)を含む。これらのステップは、遺伝子操作型バクテリオファージまたはそのゲノムポリヌクレオチドに関して上記で説明された特性のうちのいずれかを含み得る。
【0084】
本発明のさらなる態様は、以下のステップ:(a) 本発明の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを、それを必要とする患者に投与し、それにより、該遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが細菌と接触するステップ;(b) 該細菌へのバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドの侵入のステップ;および(c) 異種タンパク質に対して免疫応答が生起されるために十分なレベルでの該異種抗原タンパク質の発現および放出のステップを含む、疾患の治療方法である。
【0085】
一実施形態では、疾患は、細菌、ウイルスまたは真菌感染を含む。例えば、疾患は、細菌感染症、例えば、C.ディフィシレ感染を含む。
【0086】
本特許明細書中で引用されるすべての参考文献または特許出願は、参照により本明細書中に組み入れられる。
本発明は、以下の態様を提供する。
[1] 遺伝子操作型バクテリオファージであって、片利共生性細菌に結合することおよび該片利共生性細菌へとそのゲノムポリヌクレオチドを挿入することができるが、該片利共生性細菌内で、子孫を生成することができず、溶原サイクルを行なうことができず、かつ溶菌サイクルを行なうことができない遺伝子操作型バクテリオファージであり、プロモーターの制御下に、少なくとも1種の異種抗原をコードする少なくとも1種の遺伝子を含むゲノムポリヌクレオチドを含む、遺伝子操作型バクテリオファージ。
[2] 前記片利共生性細菌に結合し、かつ該宿主細菌内へとバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを挿入するように適合化されている、上記[1]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[3] バクテリオファージ尾部ファイバー/プレートをコードする遺伝子の改変により、片利共生性細菌に結合するように適合化されている、上記[2]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[4] 前記片利共生性細菌が、皮膚、生殖器、口腔または腸管微生物叢の一部分である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[5] 前記片利共生性細菌が、アクネ菌(Propionibacterium acnes)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)または大腸菌(Escherichia coli)である、上記[4]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[6] 前記片利共生性細菌が大腸菌細菌であり、かつ腸管微生物叢の一部分である、上記[5]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[7] 前記片利共生性細菌が表皮ブドウ球菌またはアクネ菌であり、かつ皮膚微生物叢の一部分である、上記[5]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[8] 前記片利共生性細菌がラクトバチルス属であり、かつ生殖器微生物叢の一部分である、上記[5]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[9] 前記片利共生性細菌がストレプトコッカス・ゴルドニであり、かつ口腔内微生物叢の一部分である、上記[5]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[10] 前記異種抗原をコードする遺伝子が、強力プロモーターの制御下にある、上記[1]~[9]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[11] 前記バクテリオファージが、マイオウイルス科(myoviridae)、サイフォウイルス科(siphoviridae)、ポドウイルス科(podoviridae)、コルチコウイルス科(corticiviridae)、テクティウイルス科(tectiviridae)、レビウイルス科(leviviridae)、シストウイルス科(cystoviridae)、イノウイルス科(inoviridae)、リポスリクスウイルス科(lipothrixviridae)、ルディウイルス科(rudiviridae)、プラズマウイルス科(plasmaviridae)およびフセロウイルス科(fuselloviridae)からなるウイルス科の群より選択される、上記[1]~[10]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[12] 前記バクテリオファージが、マイオウイルス科またはサイフォウイルス科またはポドウイルス科である、上記[11]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[13] 前記バクテリオファージが、T4、T7またはラムダコリファージである、上記[12]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[14] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、カプシドタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子を除去するように遺伝子操作されている、上記[1]~[13]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[15] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、カプシドタンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、上記[1]~[14]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[16] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、溶菌機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、上記[1]~[15]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[17] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、溶菌機構タンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、上記[1]~[16]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[18] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、溶原機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、上記[1]~[17]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[19] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、すべての溶原機構タンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、上記[1]~[18]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[20] 前記ゲノムポリヌクレオチドが複製起点を保持する、上記[1]~[19]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[21] 前記ゲノムポリヌクレオチドがファージ複製起点を保持する、上記[1]~[20]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[22] 前記ゲノムポリヌクレオチドが細菌複製起点を含む、上記[1]~[21]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[23] 前記ゲノムポリヌクレオチドが選択マーカーを含む、上記[1]~[22]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[24] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、複製起点および片利共生性細菌内での該バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドの複製を可能にするために必要なタンパク質をコードする遺伝子を保持する、上記[1]~[23]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[25] 高コピー数または中コピー数の遺伝子操作型バクテリオファージである、上記[20]~[24]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[26] 前記異種抗原がウイルスタンパク質である、上記[1]~[25]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[27] 前記異種抗原が真菌タンパク質である、上記[1]~[25]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[28] 前記異種抗原が、グラム陽性またはグラム陰性細菌由来の細菌タンパク質である、上記[1]~[25]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[29] 前記異種抗原が、ヒト腸管中の病原性細菌に対する免疫応答を生成することができるタンパク質である、上記[28]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[30] 前記異種抗原が、C.ディフィシレ(C. difficile)、ピロリ菌(H. pylori)、シゲラ属(Shigella)、サルモネラ属(Salmonella)または病原性大腸菌由来のタンパク質である、上記[28]または[29]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[31] 前記異種抗原が、C.ディフィシレ由来のA毒素および/またはB毒素由来の配列を含む、上記[28]~[30]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[32] 前記異種抗原が、ブドウ球菌、連鎖球菌、シゲラ属、シュードモナス属、アクネ菌、アシネトバクター属もしくは髄膜炎菌(meningococcal)タンパク質、または大腸菌、緑膿菌(P. aeruginosa)、C.ディフィシレ、ピロリ菌、K.ニューモニアエ(K. pneumoniae)、もしくは淋菌(N. gonorrhaea)由来のタンパク質である、上記[28]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[33] 少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10種の異種抗原をコードする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10種の遺伝子を含むゲノムポリヌクレオチドを含む、上記[1]~[32]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[34] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、少なくとも3種の異種抗原をコードする少なくとも3種の遺伝子を含む、上記[33]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[35] 前記少なくとも1種の異種抗原をコードする遺伝子が、前記片利共生性細菌からの該異種抗原の放出を駆動することができるシグナル配列を含む、上記[1]~[34]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[36] 前記シグナル配列が、分泌による前記片利共生性細菌からの前記異種抗原の放出を駆動することができる、上記[35]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[37] 前記シグナル配列が、排出による前記片利共生性細菌からの前記異種抗原の放出を駆動することができる、上記[35]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[38] 前記シグナル配列が、I型、II型、III型、IV型およびV型シグナル配列からなる群より選択される、上記[35]~[37]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[39] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、プロモーターの制御下に、アジュバントをコードする遺伝子を含む、上記[1]~[38]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[40] 前記アジュバントがTLR5アゴニストである、上記[39]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[41] 前記アジュバントが、フラジェリンまたは超可変領域が欠失しているその変異体である、上記[39]または[40]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[42] 前記アジュバントの発現が、強力プロモーターの制御下にある、上記[39]~[41]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[43] 前記アジュバントが、前記異種抗原との融合タンパク質として発現される、上記[39]~[42]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[44] 前記ゲノムポリヌクレオチドがパッケージング配列を含む、上記[1]~[43]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[45] 前記ゲノムポリヌクレオチドが、少なくとも1種のパッケージング配列を含み、かつバクテリオファージ遺伝子をコードするさらなる配列を含まない、上記[44]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[46] プロモーターの制御下に異種抗原をコードする異種抗原遺伝子を含む、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドであって、カプシドタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失し、溶菌機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失し、かつ任意で、溶原機構タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失している、上記遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[47] 前記異種抗原をコードする遺伝子が、強力プロモーターの制御下にある、上記[46]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[48] マイオウイルス科(myoviridae)、サイフォウイルス科(siphoviridae)、ポドウイルス科(podoviridae)、コルチコウイルス科(corticiviridae)、テクティウイルス科(tectiviridae)、レビウイルス科(leviviridae)、シストウイルス科(cystoviridae)、イノウイルス科(inoviridae)、リポスリクスウイルス科(lipothrixviridae)、ルディウイルス科(rudiviridae)、プラズマウイルス科(plasmaviridae)およびフセロウイルス科(fuselloviridae)からなるウイルス科の群に由来するバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドから遺伝子操作されている、上記[46]または[47]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[49] マイオウイルス科またはサイフォウイルス科またはポドウイルス科ゲノムポリヌクレオチドから遺伝子操作されている、上記[48]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[50] T4、T7またはラムダコリファージゲノムポリヌクレオチドから遺伝子操作されている、上記[49]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[51] カプシドタンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、上記[46]~[50]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[52] 溶菌機構タンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、上記[46]~[51]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[53] 溶原機構タンパク質をコードするすべての遺伝子を欠失するように遺伝子操作されている、上記[46]~[52]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[54] 複製起点を保持する、上記[46]~[53]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[55] 前記ゲノムポリヌクレオチドがファージ複製起点を保持する、上記[46]~[54]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[56] 前記ゲノムポリヌクレオチドが細菌複製起点を含む、上記[46]~[55]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[57] 前記ゲノムポリヌクレオチドが選択マーカーを含む、上記[46]~[56]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[58] 前記バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが、複製起点および片利共生性細菌内での該バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドの複製を可能にするために必要なタンパク質をコードするすべての遺伝子を保持する、上記[46]~[57]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[59] 前記異種抗原がウイルスタンパク質である、上記[46]~[58]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[60] 前記異種抗原が真菌タンパク質である、上記[46]~[58]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[61] 前記異種抗原が、グラム陽性またはグラム陰性細菌に由来する細菌タンパク質である、上記[46]~[58]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[62] 前記異種抗原が、ヒト腸管中の病原性細菌に対する免疫応答を生成することができるタンパク質である、上記[61]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[63] C.ディフィシレに対する、任意でC.ディフィシレA毒素またはC.ディフィシレB毒素に対する免疫応答を生成することができるタンパク質をコードする遺伝子を含む、上記[61]または[62]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[64] 前記異種抗原が、C.ディフィシレ(C. difficile)、ピロリ菌(H. pylori)、シゲラ属(Shigella)、サルモネラ属(Salmonella)または病原性大腸菌由来のタンパク質である、上記[52]または[63]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[65] 前記異種抗原が、C.ディフィシレA毒素またはB毒素由来の配列、任意で融合タンパク質またはC.ディフィシレA毒素およびB毒素を含む、上記[62]~[64]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[66] 前記異種抗原が、ブドウ球菌、連鎖球菌、シゲラ属、シュードモナス属、アクネ菌、アシネトバクター属もしくは髄膜炎菌(meningococcal)タンパク質、または大腸菌、緑膿菌(P. aeruginosa)、C.ディフィシレ、ピロリ菌、K.ニューモニアエ(K. pneumoniae)、もしくは淋菌(N. gonorrhoea)抗原由来のタンパク質である、上記[61]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[67] 少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10種の異種抗原をコードする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10種の遺伝子を含む、上記[46]~[66]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[68] 少なくとも3種の異種抗原をコードする少なくとも3種の遺伝子を含む、上記[67]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[69] 前記異種抗原遺伝子が、片利共生性細菌からの該異種抗原の放出を駆動することができるシグナル配列を含む、上記[46]~[68]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[70] 前記シグナル配列が、分泌による前記片利共生性細菌からの前記異種抗原の放出を駆動することができる、上記[69]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[71] 前記シグナル配列が、排出による前記片利共生性細菌からの前記異種抗原の放出を駆動することができる、上記[69]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[72] 前記シグナル配列が、I型、II型、III型、IV型およびV型シグナル配列からなるリストより選択される、上記[69]~[71]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[73] プロモーターの制御下に、アジュバントをコードする遺伝子を含む、上記[46]~[72]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[74] 前記アジュバントがTLR5アゴニストである、上記[73]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージ。
[75] 前記アジュバントが、フラジェリンまたは超可変領域の欠失を含むその変異体である、上記[73]または[74]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[76] 前記アジュバントの発現が、強力プロモーターの制御下にある、上記[73]~[75]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[77] 前記アジュバントが、前記異種抗原との融合タンパク質として発現される、上記[73]~[76]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[78] 片利共生性細菌に対する受容体をコードする遺伝子、任意で尾部ファイバー/プレートをコードする遺伝子を含む、上記[46]~[77]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[79] 前記異種抗原が、前記遺伝子操作型バクテリオファージにより感染可能な細菌中で天然に発現されない、上記[46]~[78]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[80] パッケージングシグナルを含む、上記[46]~[79]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[81] 少なくとも1種のパッケージング配列を含み、かつバクテリオファージ遺伝子をコードするさらなる配列を含まない、上記[80]に記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[82] 片利共生性細菌からの異種抗原の発現および放出における、上記[1]~[45]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージまたは上記[46]~[81]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドの、使用。
[83] 上記[1]~[81]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含む医薬組成物。
[84] 局所治療のために製剤化される、上記[83]に記載の医薬組成物。
[85] 経口投与のためのカプセル剤として製剤化された、上記[83]に記載の医薬組成物であって、前記遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが腸内で放出される、医薬組成物。
[86] 前記カプセル剤がマイクロカプセル剤である、上記[85]に記載の医薬組成物。
[87] 前記カプセル剤が、アルギン酸塩、キトサン-アルギン酸塩、ポリメタクリル酸コポリマー、アルギン酸塩-ポリメタクリレートまたは脂肪酸を含む、上記[85]または[86]に記載の医薬組成物。
[88] 洗口液として製剤化された、上記[83]に記載の医薬組成物。
[89] 上記[1]~[81]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含むワクチン。
[90] 疾患、任意で感染性疾患または癌の予防的阻止での使用のための、上記[1]~[45]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージまたは上記[46]~[81]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[91] 前記使用が、片利共生性細菌からの異種抗原の放出およびそれに続く該異種抗原に対する免疫応答のプライミングを含む、上記[90]に記載の使用のための遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[92] 前記疾患が、細菌、ウイルスまたは真菌感染を含む、上記[90]または[91]に記載の使用のための遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[93] 前記疾患が、細菌感染、例えば、C.ディフィシレ感染を含む、上記[92]に記載の使用のための遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[94] 前記疾患がウイルス感染を含む、上記[90]または[91]に記載の使用のための遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[95] 前記疾患が真菌感染を含む、上記[90]または[91]に記載の使用のための遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
[96] 以下のステップ:(a) それを必要とする患者に上記[1]~[45]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージまたは上記[46]~[81]のいずれかに記載の遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを投与し、それにより、該遺伝子操作型バクテリオファージまたは遺伝子操作型バクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが片利共生性細菌に接触するようにするステップ;(b) 該片利共生性細菌内への該ゲノムポリヌクレオチドの侵入のステップ、および(c) 前記異種抗原に対して免疫応答が惹起されるために十分なレベルでの該異種抗原の発現および放出のステップを含む、疾患の治療方法。
[97] 前記疾患が、細菌、ウイルスまたは真菌感染を含む、上記[96]に記載の治療方法。
[98] 前記疾患が、細菌感染、例えば、C.ディフィシレ感染を含む、上記[97]に記載の治療方法。
[99] 前記感染性疾患がウイルス感染を含む、上記[97]に記載の治療方法。
[100] 前記疾患が真菌感染を含む、上記[96]~[99]のいずれかに記載の治療方法。
【0087】
本発明がよりよく理解され得るために、以下の実施例を説明する。これらの実施例は、例示の目的のみのためのものであり、かついかなる様式でも本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0088】
実施例1:遺伝子操作型バクテリオファージの生成
遺伝子操作型バクテリオファージを効率的に生成させるために、バクテリオファージゲノムを、酵母人工染色体(YAC)または細菌人工染色体(BAC)骨格へと挿入し、これらの骨格は、それぞれ、酵母または細菌中での選択および複製のための構成要素を含む。あるいは、任意のプラスミドを、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムの必要なエレメントを組み立てるために用いることができる。
【0089】
あるいは、リコンビニアリング(recombineering)コンピテント細菌を用いることにより、細菌内で直接的にファージゲノムを遺伝子操作することができる(
図1)。例えば、Nobrega FL. et al. Trends in Microbiology 2015 23:185に記載される通りである。
【0090】
ファージの遺伝子操作に関しては多数の可能性があり、
図2に示される。バクテリオファージゲノムの一部分を欠失させて、最小合成バクテリオファージゲノムを取得することができ、このゲノムは、転写および翻訳のために必須の配列ならびにパッケージングシグナルを保持する。溶原サイクルに関与するタンパク質およびカプシドタンパク質をコードする遺伝子をはじめとする他の遺伝子を欠失させ、かつ選択された遺伝子に置換することができる。
図2に開示される4つの可能性には、(i) 十分な高レベルの発現を可能にする強力または初期プロモーターの制御下にある、少なくとも1種の異種抗原遺伝子、および(ii) 必要な範囲の片利共生性細菌宿主細胞にバクテリオファージが感染することを可能にする改変型尾部ファイバー/プレートが含まれる。遺伝子の選択的除去および置換により、バクテリオファージゲノムが概ね同じサイズを維持することが可能になる。
【0091】
遺伝子操作型バクテリオファージは、複製起点(ori)、パッケージングシグナル(1種または複数種)およびファージ尾部認識構成要素などの必須のファージゲノム構成要素を、数種類の異種構成要素に加えて含む、最小ファージゲノムに基づく。これらの構成要素のうちの第1のものは、初期または強力プロモーターにより駆動されるワクチン抗原をコードする少なくとも1種の遺伝子である。ワクチン抗原をコードする遺伝子はシグナル配列を保有しており、そのシグナル配列は、ワクチン抗原が、片利共生性宿主細菌により分泌または排出されること、したがって結果として生じる免疫応答が、該片利共生性宿主細菌に対するものでなく、病原性生物または病原性抗原に対して標的化されることを確実にするように設計されている。遺伝子操作型バクテリオファージは、数種類の必須遺伝子を欠損しており、したがって、哺乳動物被験体の治療で用いる場合に、完全な溶菌または溶原サイクルを開始できない。しかしながら、当該遺伝子操作型バクテリオファージは、
図3に示される通り、バクテリオファージカプシドアッセンブリ機構を有する大腸菌または他の非病原性細菌細胞中では複製できる。例えば、BAC構築物は、遺伝子操作型バクテリオファージ構成要素および細菌特異的構成要素の両方を含む(
図3を参照されたい)。
【0092】
ファージ増幅および精製
遺伝子操作型バクテリオファージは、片利共生性細菌(例えば、大腸菌)中で生成され、該細菌は、誘導性または構成的プロモーターの下でバクテリオファージカプシド機構を発現する。
【0093】
細菌宿主細胞は、細菌人工ゲノム(BAC)構築物または適切な人工的遺伝子操作型バクテリオファージゲノムを用いてトランスフェクションされる。細菌宿主細胞がトランス(trans)でカプシド機構を発現する場合、細菌宿主細胞は、遺伝子操作型バクテリオファージのゲノムが完全なバクテリオファージへとパッケージングされているファージを生成することが可能である。トランスフェクションされた細菌宿主細胞は、細菌宿主細胞中でファージ複製が進行することを可能にする好適な培地中で培養される。ファージ増殖は、培養物濁度、pO2、pHを用いてモニタリングすることができるか、または所定の長さのインキュベーション時間にわたって継続させ得る。公知のファージ生活環パラメーターに基づく。遠心分離により濃縮された感染細胞は、有機溶媒(例えば、クロロホルム)、EDTA、リゾチーム、または溶菌およびファージの放出を誘導するバクテリオファージ溶解素を用いて処理することができる(Gill JJ and Hyman P, Current Pharmaceutical Biotechnology 2010 11:2-14)。
【0094】
溶解後に、残余の細胞または比較的大きな細胞残渣を低速遠心分離により除去して、ファージ含有上清を残す。続いて、ポリエチレングリコール(PEG)を用いる沈降およびそれに続く透析によるPEGの除去により(Yamamoto et al (1970) 40; 734-744)、または細胞残渣を除去するために0.2mmフィルターに通し、その後に、ファージは保持するが培地成分および一部の細胞タンパク質の通過は許容する100kDaメンブレンに対する接線流ろ過を用いることにより、ファージを精製することができる。このステップに続いて、最大で70%の回収率を得ることができるスケーラブルクロマトグラフィーを行なう(Yamamoto et al (1970) 40; 734-744)。ファージディスプレイビリオンのハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーが、Biotechniques (2005) 39; 879に記載されている。T4バクテリオファージは、強アニオン交換一体型クロマトグラフィーカラムを用いることにより、精製することができる(Smrekar F et al, J. Chromotogr. B Analyt. Technol. Life. Sci. (2008) 861; 177-180)。
【0095】
抗原工場として片利共生性細菌を用いるために適合化されたバクテリオファージを用いる疾患の治療
遺伝子操作型バクテリオファージを用いる治療の総合的な目標は、急性または慢性細菌性疾患を予防し、かつ持続免疫により長期間にわたって疾患再発を防止することである。
【0096】
バクテリオファージの構想が、片利共生性宿主細菌中でワクチン抗原を生成することが可能であり、さらに、選択された抗原に対する免疫応答のプライミングを引き起こすワクチン抗原の十分な分泌を可能にすることを実証するための、in vitroおよびin vivo両方の実験が行なわれる。in vitro実証のためには、遺伝子操作型バクテリオファージを片利共生性細菌に感染させる。ワクチン抗原は、十分な抗原が片利共生性細菌から産生および放出されるように、強力プロモーターの制御下で発現される。抗原は、片利共生性細菌の生存性を損なうことなく、片利共生性細菌から放出される。バクテリオファージは、片利共生性宿主細菌中での生存可能なバクテリオファージ子孫を生成することができず、したがって、遺伝子操作型バクテリオファージによる1ラウンドの感染が、十分な片利共生性宿主細菌の感染および効果的な免疫応答が惹起されるために十分なワクチン抗原の分泌をもたらす。バクテリオファージゲノムの増幅が、ワクチン抗原の転写および翻訳のためのさらなる鋳型の利用可能性をもたらす。したがって、これらの実験は、持続的免疫を誘導するための潜在能力を実証することを目的とする。
【0097】
病原体として細菌を用いるin vivo前臨床モデルを用いて、この構想を実証する。動物を、遺伝子操作型バクテリオファージを用いて処置し、それにより、ワクチン抗原生成の最初のサイクルが片利共生性細菌中で行なわれ、抗原が放出されて免疫応答がプライミングされる。7~14日間後に動物から血液サンプルを取得して、それにより、ワクチン抗原に対する免疫応答を評価することができる。ワクチン抗原を標的とする保護的免疫応答の誘導を、動物から採取した血清に対するELISAなどの好適なアッセイによりモニタリングする。
【0098】
その後に、病原体量の減少および/または疾患症状の非存在に基づいて、ワクチン抗原により与えられた保護を評価するために、病原体を用いて動物に抗原負荷(チャレンジ)する。
【0099】
遺伝子操作型バクテリオファージが免疫応答をプライミングする能力を強化するために、遺伝子操作型バクテリオファージゲノムはまた、TLR5アゴニスト、TLR3アゴニストもしくはフラジェリン、またはそれらの変異体(例えば、超可変領域が欠失されている変異体;Nempont et al J. Immunol. (2008) 181; 2036-2043)などのアジュバントをコードする遺伝子をさらに含むことができる。アジュバント遺伝子は、強力または初期プロモーターの制御下にあり、かつワクチン抗原と同時に発現される。ワクチン抗原およびアジュバントの両方が、ワクチン抗原およびアジュバント遺伝子中にコードされるシグナル配列の存在により、片利共生性細菌から放出される。ワクチン抗原およびアジュバントの放出は、ELISAまたは抗原負荷モデルなどの適切なアッセイにより実証される通り、強化された免疫応答の誘導を可能にする。
【0100】
実施例2:バクテリオファージにより駆動される抗原生成での片利共生性細菌の使用の有効性の実証
遺伝子操作型バクテリオファージが片利共生性細菌に感染し、ワクチン抗原を発現し、かつ効果的な免疫応答を惹起するために十分な抗原を放出することを実証するための、in vitroおよびin vivo両方の実験が行なわれる。前臨床抗原負荷モデルを用いて、遺伝子操作型バクテリオファージが、免疫応答を誘導し、かつ感染から保護する能力を実証する。
【0101】
この構想を実証するために、クロストリジウム・ディフィシレがモデル病原体として用いられる。クロストリジウム・ディフィシレToxA/ToxB融合タンパク質(国際公開第12/163817号に記載される)が、構想の前臨床試験を実証するためにワクチン抗原として選択される。
【0102】
バクテリオファージゲノムをBAC(または適切な人工遺伝子操作型バクテリオファージゲノム)中へと遺伝子操作して、該ゲノムが、ワクチン抗原として、強力初期プロモーターの制御下に、C.ディフィシレ由来のタグ付き無毒化毒素を保有するようにする。バクテリオファージゲノムの他の構成要素は欠失しており、それにより、バクテリオファージゲノムは、バクテリオファージカプシド機構を保有する宿主細胞の補助なしには生存可能なバクテリオファージを生成しない。BACを、誘導性または構成的プロモーターの下にバクテリオファージカプシド機構を発現する大腸菌へとトランスフェクションし、培養することによりバクテリオファージを生成する。これらを、上記の通りに回収および精製する。
【0103】
精製された遺伝子操作型バクテリオファージを、片利共生性大腸菌に侵入し、かつ遺伝子操作型バクテリオファージに感染した大腸菌の片利共生性菌株でタグ付きC.ディフィシレ毒素を発現する能力に関してin vitroで評価し、これは、タグ付きC.ディフィシレ毒素に特異的な抗体を用いるウエスタンブロットにより評価される。
【0104】
免疫原性モデル
C57BL/6マウスを、14~30日間隔で、1、2または3用量のマイクロカプセル化された遺伝子操作型バクテリオファージ(106~1012CFU)を用いて処置する。血清サンプルおよび糞便サンプルを、1回目、2回目および3回目の免疫化から14日間後に採取する。血清IgGおよび糞便IgGを、遺伝子操作型バクテリオファージにより発現されるC.ディフィシレ抗原に対する免疫応答の生成に関して、ELISAにより評価する。例えば、A毒素およびB毒素に関するELISAが行なわれる。
【0105】
遺伝子操作型バクテリオファージがC.ディフィシレトキソイドを発現することを実証した後に、遺伝子操作型バクテリオファージをin vivoモデルで評価する:
【0106】
治療の有効性を実証するための抗原負荷モデル:
C57BL/6マウスを、C.ディフィシレを用いる抗原負荷前の-42日目、-28日目および-14日目に、1~3用量の遺伝子操作型バクテリオファージ(106~1012CFU)を用いて処置する。抗原負荷前に、抗生物質を用いてマウスを処置する。以下の抗生物質を、抗原負荷前の-6日目から-3日目まで、飲用水に添加する:カナマイシン0.4mg/mL、ゲンタマイシン0.035mg/mL、コリスチン850U/mL、メトロニダゾール0.215mg/mL、バンコマイシン0.045mg/mL。さらなる用量のクリンダマイシン0.2mg/100μLを、-1日目に腹腔内投与する。加えて、血清および糞便サンプルを、抗原負荷の前日に採取し、ToxAおよびToxBに対する血清IgGおよび糞便IgGのレベルがELISAにより測定される。
【0107】
1.5×106CFU/マウス(6529系統)または3×103CFU/マウス(43255系統)の経口抗原負荷用量が投与される。抗原負荷後の1~7日目に、マウスの死亡率を追跡する。加えて、糞便、盲腸および結腸中での定着を、抗原負荷後1、2、3、6および7日目に検査する。
【0108】
予測される結果
バクテリオファージ処置は、ELISAにより測定される場合のC.ディフィシレA毒素およびB毒素に対する免疫応答の生成をもたらす。腸管内での免疫応答の生成は、C.ディフィシレ抗原負荷に対する保護の生成を可能にすることが予測される。
【0109】
実施例3:ToxAまたはToxB断片およびToxA-ToxB融合体の免疫原性
C.ディフィシレ由来のA毒素およびB毒素の断片ならびにA毒素およびB毒素のエレメントを含む融合タンパク質(国際公開第12/163817号に記載される通り)の選択を、それらが免疫原性であり、かつ毒素に対する中和免疫応答を生じることができることを確実にするために、マウスモデルで試験した。
【0110】
マウス免疫化
15頭の雌性Balb/cマウスの群を、0日目、14日目および28日目に、AS03Bを用いてアジュバント化された3μgまたは10μgの別個のToxAおよびToxBの断片ならびにToxA-ToxB融合タンパク質を用いてIMで免疫化した。10頭のマウスの対照群には、AS03Bのみを接種した。
【0111】
抗ToxAおよび抗ToxBのELISA力価を、42日目(III後)に回収した個別の血清中で決定した。
【0112】
血球凝集阻害力価を、プールされたIII後血清中で決定した。
【0113】
抗ToxAおよび抗ToxB ELISA応答:プロトコール
ToxAまたはToxB断片のサンプルを、4℃で一晩、高結合性マイクロタイタープレート(Nunc MAXISORPTM)上に、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)中で1μg/mLでコーティングした。プレートを、揺動しながら、RTで30分間、PBS-BSA 1%を用いてブロッキングした。マウス抗血清を、PBS-BSA 0.2%-TWEENTM0.05%中で1/500に予備希釈し、続いて、さらなる2倍希釈物をマイクロプレート中で作製し、揺動しながらRTで30分間インキュベートした。洗浄後、Jackson ImmunoLaboratories Inc.のペルオキシダーゼコンジュゲート化affiniPureヤギ抗マウスIgG(H+L)(品番:115-035-003)をPBS-BSA 0.2%-tween 0.05%中に1:5000希釈して用いて、結合したネズミ抗体を検出した。検出抗体を、揺動しながら室温(RT)で30分間インキュベートした。4mg O-フェニレンジアミン(OPD)+5μL H2O2/10mL pH4.5 0.1Mクエン酸バッファーを用いて、室温で暗所にて15分間発色させた。50μL HClを用いて反応を停止させ、光学密度(OD)を、620nmと比較して490nmで読み取った。
【0114】
血清中に存在する抗ToxAまたは抗ToxB抗体のレベルを、中点力価で表わした。GMTを、各処置群中の15サンプル(対照群に関しては10サンプル)について算出した。
【0115】
血球凝集阻害アッセイ:プロトコール
マウスプール抗血清の連続2倍希釈(25μL)を、96ウェルU底マイクロプレートでリン酸緩衝生理食塩液(PBS)中で行なった。
【0116】
続いて、25μLの生来型A毒素(0.2μg/ウェル)を添加し、プレートを、室温で30分間インキュベートした。
【0117】
インキュベーション後、2%に希釈した50μLの精製ウサギ赤血球を、各ウェルに添加した。プレートを、37℃で2時間インキュベートした。
【0118】
ウェル中の拡散した赤血球として提示される血球凝集およびウェル中に沈殿する赤い点として観察される血球凝集の阻害について、プレートを目視で分析した。
【0119】
阻害力価を、血球凝集を阻害する血清の最高希釈率の逆数として定義した。
【0120】
細胞毒性アッセイ
IMR90線維芽細胞を、EMEM+10%胎児ウシ血清+1%グルタミン+1%抗生物質(ペニシリン-ストレプトマイシン-アムホテリシン)中、5%CO2、37℃で培養し、5.104細胞/ウェルの密度で96ウェル組織培養プレート中に播種した。
【0121】
24時間後、細胞培地をウェルから除去した。
【0122】
マウスプール抗血清の連続2倍希釈(50μL)を、細胞培地中で行なった。
【0123】
続いて、50μLの生来型B毒素(0.5ng/mL)を添加し、プレートを、5%CO2、37℃にて24時間インキュベートする。
【0124】
24時間後に細胞を観察し、丸くなった細胞の割合を決定した。
【0125】
阻害力価を、50%の細胞が丸くなるのを阻害する血清の最高希釈率の逆数として定義した。
【0126】
結果:
ToxA抗体を用いるELISA結果を、
図4に記載する。抗ToxA抗体は、ToxA単独を用いる免疫化後に誘導されたが、5種類の融合体のそれぞれを用いても誘導された。
【0127】
これらの抗体の機能的特性を、血球凝集アッセイで試験した。ToxBでは血球凝集は観察されないので、このアッセイは、ToxA評価のみに適合化されている。
【0128】
血球凝集阻害力価を、
図5に説明する。血球凝集阻害は、抗ToxA断片血清、またはToxA-ToxB融合体のそれぞれに対する血清を用いて観察された。
【0129】
ToxB抗体を用いるELISAもまた行なわれ;この結果を
図6に示す。抗ToxB抗体は、ToxB断片を単独で用いる免疫化後に誘導されたが、F2、F3およびF4融合体を用いても誘導された。
【0130】
細胞毒性阻害力価を、
図7に記載する。ToxB断片またはToxA-ToxB融合体を用いて免疫化されたマウス由来の血清を用いて得られた阻害力価は、対照血清を用いて得られたものよりも高かった。
【0131】
実施例4
合成ゲノム(コスミド)を有する遺伝子操作型バクテリオファージ粒子を用いる大腸菌培養物の形質導入後のタンパク質(PE)の発現
図8Aに示されるプラスミドを、
図8Bに示されるPEタンパク質をコードする遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、複製起点(P15a)およびhageカプシドへのプラスミドのパッケージングを可能にするcos部位を含めて構築した。プロテインE(PE)は、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)の非封入形態(NTHi)由来の偏在性抗原であり、表皮細胞への細菌の接着に関して重要であると記載されている(Ronander et al (2008) Microbes Infect 10:87-96)。プロテインE(PE)はビトロネクチンに結合することが知られており、これが補体攻撃から細菌を保護する(Singh et al (2013) Infect Immun 81:801-814)。
【0132】
・大腸菌C2987: DH5α由来の非病原性菌株である
・KanR:カナマイシン耐性
・P2vir1:厳密に溶菌性であるバクテリオファージP2の突然変異体であり、コスミドパッケージングに関してP2カプシドタンパク質を与えるヘルパーファージとして用いられる
・p15a:複製起点
・cos部位:ファージカプシドへのパッケージングに必須のファージ由来配列。
【0133】
この後の実験は、大腸菌に結合および侵入し、大腸菌中でTet01プロモーターの制御下でPE抗原を発現するバクテリオファージの能力を示す。
【0134】
遺伝子操作型バクテリオファージの調製:
バクテリオファージ粒子を生成するために、2mM CaCl2を含有する20mLのLBに、PE wtコスミドを含有する大腸菌C2987の一晩培養物を0.5mL用いて接種し、これをカナマイシン(50μg/mL)の存在下にて37℃で増殖させた。培養物を、OD600が1になるまで37℃で増殖させた。培養物に、10μLのP2vir1(1011)をMOI=0.1で感染させ、37℃で10分間静置した。下記の試薬を添加した:CaCl2(終濃度5mMまで)、MgCl2(終濃度16mMまで)およびグルコース(終濃度1%まで)。培養物を、180~200rpm、37℃で1時間振盪し、続いて、EDTAを終濃度10mMまで添加した。培養物を、溶菌が生じるまで、250rpm、37℃で振盪した(1~3時間)。2mLのクロロホルムを添加し、混合物を、ゆっくりと振盪しながら室温(RT)で30分間インキュベートした。続いて、混合物を13000rpm、RTで10分間遠心分離し、上清を回収して、0.2μmメンブレンを通してろ過し、4℃で保存した。大腸菌C2987に対して調べたP2vir1力価は、約1011~1012であった。
【0135】
P2vir1溶解物および遺伝子操作型バクテリオファージ粒子を用いた形質導入:
5mLの大腸菌C2987細胞の一晩培養物に、CaCl2を5mMの終濃度まで添加し、37℃で15分間振盪した。0.2mLの培養物を採取し、遺伝子操作型バクテリオファージ粒子を含む0.2mLのP2vir1溶解物(MOI=1への希釈)を添加し、振盪せずに37℃で20分間インキュベートした。0.4mLの1M Naクエン酸を添加して混合した。2.5~3mLのトップアガー7(TA7)を42℃に予熱して加え、混合し、カナマイシン(50μg/mL)を含むプレート上に注いだ。プレートを、37℃で一晩インキュベートし、プレート1枚当たり約300個のカナマイシン耐性形質導入体を取得した。
【0136】
形質導入後のPE抗原の発現の評価:
大腸菌C2987形質導入コロニーを、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB中、30℃で一晩増殖させた。一晩培養物のOD600を測定し、以下の式に従ってTris pH6、4%SDS中に希釈した:1mLの一晩培養物由来のペレットを再懸濁するために用いた溶解バッファーの体積(μL)=OD600/0.015(このステップは、タンパク質が抽出される細胞数を標準化するためのものである)。1mLの各培養物を、12000RCFで遠心分離した。得られた上清を廃棄し、ペレットを再懸濁し、続いて、95℃まで10分間加熱した。
【0137】
2μLの各サンプルをニトロセルロースメンブレン上に滴下し、メンブレンを乾燥させることにより、ドットブロットを行なった。陽性対照として、2μLの100μg/mL PE抗原を、
図9Aに表示される通りに用いた。
図9Bでは、2μLの陰性対照(未形質導入大腸菌)をドットブロットに含めた。メンブレンを、5%BSA、TBS-T(20mM Tris-HCl、150mM NaCl、0.05%Tween20、pH7.5)中に室温で30~60分間浸すことにより、非特異的結合をブロッキングした。続いて、メンブレンをTBS-T中で3回洗浄した。次に、メンブレンを、0.1%BSA含有TBS-T中に希釈したPEに対するマウスモノクローナル抗体と共に、室温で30分間インキュベートした。TBS-T中で3回洗浄した後、メンブレンを、抗マウスHRPコンジュゲートと共に、室温で30分間インキュベートした。TBS-T中で3回、およびTBS中で1回洗浄した後、メンブレンをECL試薬と共にインキュベートし、X線フィルムに露光させて光を検出させた。
【0138】
結果
ドットブロットの結果を、
図9に示す。見て取れる通り、すべての形質導入大腸菌コロニーが高レベルのPEタンパク質を生成し、200ngのPEタンパク質をロードした陽性対照と比較して、形質導入サンプルで、より暗色のスポットが得られた。
【0139】
実施例5:PEはマウスでの機能的免疫応答を生成できる
マウスの免疫化
33頭のマウスの群を、ミョウバンまたはAS01を用いてアジュバント化された1μg PilA、1μg PE、または1μg PE-PilAを用いて、0、14および28日目にIMで免疫化した。対照注射は、ミョウバンまたはAS01単独から構成された。各抗原に向けられたIgGレベルを、28日目(II後14日目)および42日目(III後14日目)に回収された血清中での酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により決定した。
【0140】
ELISA
抗PEまたは抗PilA IgGレベルを決定するために、マイクロタイタープレートを、PEまたはPilA(それぞれ2μg/mLまたは4μg/mL、炭酸バッファー中)を用いて、4℃で一晩コーティングした。洗浄後、ネズミ血清の連続2倍希釈物(実験に応じて、PEアッセイについては1/500から開始し、またはPilAアッセイについては1/20~1/500、0.05%Tween-20含有リン酸緩衝生理食塩液[PBS-T]中;25℃で1時間)。その後、両方のアッセイで、ペルオキシダーゼコンジュゲート化ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson laboratories、コード115-035-003;1/2500または1/1250、PBS-Tween中)を25℃で1時間添加した。15分間の過酸化水素の存在下でのクエン酸バッファー中のo-フェニレンジアミン二塩酸塩の添加により呈色反応を得て、1N HClの添加により停止させた。分光光度計で、490nmおよび620nmにてプレートを読み取った。両方の場合に、社内較正済み参照血清を用い、IgG濃度(μg/mLとして表わす)を、Soft Max Proソフトウェアを用いて4パラメーター法により算出した。
【0141】
ビトロネクチン結合性の阻害
液性応答の決定のために42日目に回収された血清はまた、ビトロネクチン結合アッセイ阻害のためにも用いられたが、このアッセイは、抗PE抗体の機能性を評価するための方法である。各群内でのすべての血清を用いてプールを作製した。ビトロネクチン結合アッセイを、マイクロタイタープレートで行なった。プレートを、PE(5μg/mL、PBS中)を用いて37℃で2時間コーティングした。洗浄後、PBS-ウシ血清アルブミン(BSA)1%と共にインキュベートすることにより、非特異的結合部位を飽和させ、続いて、熱不活性化免疫ネズミ血清の2倍連続希釈物(PBS-T-BSA 0.02%中)をウェルに添加し、4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、ビトロネクチン(Sigma-Aldrich SRP3186;4μg/mL)を添加し、37℃で1時間インキュベートした。最後に、もう1回の洗浄ステップ後、結合したビトロネクチンを、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート化ヒツジ抗ビトロネクチン抗体の添加(L12050350 C12120412;US Biologicals;1/1000 PBS-T中、37℃で30分間)、およびそれに続く、上記段落中に記載される通りのo-フェニレンジアミン二塩酸塩の添加により検出した。試験した各プールの中点力価(結合のうちの50%を阻害することが可能なネズミ血清の最初の希釈に対応する)を決定した。
【0142】
鼻咽頭定着モデル
鼻咽頭定着モデルのために、20頭のマウスの群を、LTを用いてアジュバント化された6μg PE、PilAまたはPE-PilAを用いて(50μg/mL;3回目の免疫化を除く)、0、14および28日目にIN(1つの鼻孔に10μL)で免疫化した。各抗原に対するIgGレベルを、42日目(III後14日目)に回収された血清中でのELISAにより測定した。動物に、5×106コロニー形成単位(cfu)の3224Aまたは3219C NTHi株を用いて42日目にもINで抗原負荷した(1つの鼻孔に10μL)。抗原負荷の1日後および2日後に、全鼻腔を切断し、ホモジナイズして、得られた懸濁物を、細菌量を決定するためにチョコレート寒天上で37℃にて一晩培養した。
【0143】
統計解析
ビトロネクチン結合の阻害は、ANOVA、およびそれに続くTukey補正検定により解析した。鼻咽頭モデルでのワクチン有効性は、群および時間を因子として用いるANOVA2により測定した。群間は、Tukey補正検定により比較した。バイオフィルム厚および生物量を、一元配置分散分析により解析した。受動伝達実験に関して、n=10のサンプルサイズが、χ2検定を用いて、80%の検出力を伴って、2種類の比率間(OM一致率)の65%の差の検出を可能にした。4種類の異なる統計解析を、各実験で行なって、OMを発症する動物の比率(フィッシャーの直接確率検定)、OM発症(疾患の最初の日)までの時間、回復時間(疾患の最後の日)およびスコア曲線下面積のそれぞれに対して、ワクチン接種群およびアジュバント対照群を比較した。p値が0.05以下であった場合に、結果が有意であると見なした。
【0144】
結果
免疫原性
PEを用いて免疫化したマウスからの血清に対して、ELISA試験を行なった。
【0145】
マウスでは、42日目に評価された場合に、PE-PilA免疫化後のPEに対する液性応答は、PE単独を用いる免疫化後のものと同様であった(筋内投与(IM)かつAS01を用いてアジュバント化された場合に、それぞれ、1106μg/mL対1273μg/mL、ならびに鼻内投与(IN)かつ大腸菌の易熱性毒素(LT)を用いてアジュバント化された場合に、それぞれ、1349μg/mL対1139μg/mL)。しかしながら、ミョウバンを用いてアジュバント化された場合にはこれは当てはまらなかった(
図10)。後者の場合には、マウスのうちの100%が、PE-PilAを用いて免疫化した後にセロコンバージョンしたが、抗PE抗体のレベルは、PE単独を用いた免疫化後よりもほぼ5倍低かった(それぞれ、126μg/mL対608μg/mL)。
【0146】
PE-PilA融合体に対する抗体を用いたPEによるビトロネクチン結合の阻害
本発明者らは、PEおよびPE-PilAを用いて免疫化されたマウスからの抗体が、PEに対するビトロネクチン結合を阻害できるか否かを決定することを目的とした(
図11)。液性応答の決定のために用いた血清を、抗体レベルについて調整することなく、本実験のために用いた。予測できた通り、アジュバント単独またはPilA単独(陰性対照)を用いて免疫化されたマウスからの血清は、抗PilA抗体が生成されたとしても、PEに対するビトロネクチンの結合を阻害することができなかった。ミョウバンと混合されたPE-PilAを用いて免疫化した場合に、惹起された抗体は、PE-ビトロネクチン認識を阻害することができたが、ミョウバンと混合されたPEを用いた免疫化後よりも低い程度までであり、このことが、2群間での抗PE抗体レベルでの差異を反映した。AS01を用いてアジュバント化された場合には、PEおよびPE-PilAは、免疫化後に同等の抗PE抗体レベルを与え、したがって、ビトロネクチン結合阻害のレベルは2群間で同様であった。
【0147】
鼻咽頭定着モデルでの保護
鼻咽頭定着に対する抗原の保護活性を評価するために、本発明者らは、非炎症性鼻咽頭定着ネズミモデルを用いた。このモデルでは、細菌は局所的に定着し、接種体積の少なさのために、肺までは広がらず、全身的に感染しない。アジュバント単独(LT)、PE単独、PilA単独またはPE-PilA(すべてアジュバント化された)を用いて鼻内投与によりマウスを免疫化し、その後、同じ経路を介して、3224Aまたは3219C NTHi株を用いて抗原負荷した。本発明者らの研究室でのパイロット実験が、このモデルでは非経口経路を用いて保護が生じないことを示したので、鼻内経路が用いられた。
【0148】
コホート間を経時的に比較した場合、細菌数の有意な減少(p<0.001)が、PE-PilAおよびPEを用いて免疫化された群で示された(
図12)。PilA単独では保護が観察されず(p=0.9937)、これは、PilA単独ではマウスでの免疫原性が弱いかまたはないことを示す以前の観察と合致する(
図10)。
【配列表】