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▶ インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】金属の電気めっき又は電着のための電極
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/12 20060101AFI20240126BHJP
   C23C 24/08 20060101ALI20240126BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
C25D17/12 B
C23C24/08 A
C25D7/00 J
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021504802
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2019069443
(87)【国際公開番号】W WO2020025351
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】102018000007835
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ボノメッティ, ヴァレンティーナ
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-306670(JP,A)
【文献】特表2006-503187(JP,A)
【文献】特開2014-159027(JP,A)
【文献】国際公開第2003/000957(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/073916(WO,A1)
【文献】米国特許第05419824(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0042682(US,A1)
【文献】台湾特許出願公開第201807264(TW,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/08
C25B 11/00 - 11/097
C25D 17/10 - 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板、第1の組成物の少なくとも一つのトップコーティング層及び第1の組成物とは異なる第2の組成物の少なくとも一つのコーティング層を含む電解槽中の電解質溶液からの金属の電気めっき又は電着に適した電極であって、コーティング層が、導電性基板とトップコーティング層との間に配置され、第1の組成物が、90-100質量%のニオブ又はその酸化物を含有し、前記トップコーティング層が、酢酸にシュウ酸ニオブが入った水溶液を含む前駆体溶液の熱分解を介して得られることを特徴とする、電極。
【請求項2】
第1の組成物が100質量%のニオブ又はその酸化物を含有する、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
第1の組成物がアンチモン、インジウム、モリブデン、タングステン、ビスマス、タンタル、又はそれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも一つのドープ剤を0.01-10質量%の量で含有する、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
トップコーティング層中のニオブの全量が2-18g/mである、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
第2の組成物が、50-80質量%のイリジウム及び20-50質量%のタンタルからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
第2の組成物とは異なる第3の組成物を含有する少なくとも一つの下層をさらに含み、前記下層が導電性基板とコーティング層との間に配置される、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
第3の組成物がタンタルとチタンの酸化物の混合物を含む、請求項6に記載の電極。
【請求項8】
導電性基板が、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、タングステン、アルミニウム、シリコン、それらの合金及び金属間混合物からなる群より選択されるバルブ金属でできている、請求項1から7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
導電性基板の上方にトップコーティングを形成することを含む、請求項1に記載の電極を製造するための方法であって、
導電性基板が少なくとも一つのコーティング層を含むコーティングでコーティングされ、
トップコーティングが90-100質量%のニオブ又はその酸化物を含有する少なくとも一つのトップコーティング層を含み、
前記少なくとも一つのトップコーティング層を形成することが、以下の逐次的工程
(i)少なくとも一つのコーティング層でコーティングされた導電性基板の上方に前駆体溶液を塗布すること;
(ii)前駆体溶液を50-100℃の温度で5-20分間乾燥させること;
(iii)乾燥させた前駆体溶液を350-600℃の温度で5-20分間熱分解すること;
を含み、
前駆体溶液が、酢酸にシュウ酸ニオブが入った水溶液を希釈することにより得られるNb前駆体溶液を含む、方法。
【請求項10】
前記少なくとも一つのトップコーティング層を形成することが、
(ii)前駆体溶液を50-70℃の温度で7-15分間乾燥させること;
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも一つのトップコーティング層を形成することが、
(iii)乾燥させた前駆体溶液を470-550℃の温度で7-15分間熱分解すること;
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
電解質溶液に少なくとも部分的に浸漬した少なくとも一つのアノード及び少なくとも一つのカソードを含む電解質溶液からの金属の電気めっき又は電着のための不分離電解槽であって、電解質溶液が溶液中に有機置換基及び前記金属を含有し;
前記少なくとも一つのアノードが請求項1から8のいずれか一項に記載の電極であることを特徴とする、不分離電解槽。
【請求項13】
請求項12に記載の不分離電解槽で行われ、前記相中のアノード電位を維持しながら前記有機置換基の消費量が削減されるように前記槽中の少なくとも一つのアノードが操作される、電解質溶液からの金属の電気めっき又は電着のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つのトップコーティング層及び少なくとも一つの電気化学的に活性なコーティング層を含む金属の電気めっき又は電着のための電極の分野と、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
電気めっきにおいて、より一般的には電着プロセスにおいて、薄い金属コーティングは電解浴中に溶解された金属のカチオンから出発して形成され、電解反応を介して指定されたカソード表面の上方に堆積される。反応は、電解槽に浸漬された少なくともアノード-カソード対を含有する電解槽内で行われる。この槽は活性化チタンアノードのような寸法的に安定なアノードを備えていることが多く、電解質は典型的にはある量の添加された有機元素を含む。これらの添加剤は通常、光沢剤、レベラー、界面活性剤及び抑制剤を含み、例えば、金属の均一な堆積を促進し、その物理的-機械的特性、例えば、その引張強度及び伸びを制御するために使用される。しかしながら、動作中、これらの有機成分は、主にアノードで起こる酸化によって、経時的に劣化する。結果として生じる添加剤の消費量は金属めっき/堆積物の品質に影響を及ぼし、また、プロセスの全体コストにも強く影響を及ぼす。
【0003】
さらに、金属の電気めっき及び電着のためのプロセス条件は、電池構成要素、特に活性化アノード上で非常に過酷であり得る。腐食性電解質、及び特定の用途では、高い電流密度が活性コーティング層を劣化させることによって電極寿命及び性能に影響を及ぼし、消費される添加剤の量をさらに悪化させる。
【0004】
活性化電極の上方に酸化タンタルをベースとする少なくとも一つのトップコーティング層を含む金属の電気めっき又は電着のための電極、すなわち少なくとも電気化学的に活性なコーティング層を備える電極は、前述の問題に部分的に対処することが出願人に知られている。
【0005】
米国特許第6527939号及び米国特許公開第2004031692号には、酸素発生を含む用途において潜在的な電気触媒コーティング層を保護し、電解質中の有機元素又は他の酸化可能な種を酸化から防ぐために、活性化電極上にバルブ金属又はスズトップコーティング層を使用することが教示されている。バルブ金属トップコーティング層はアルコール溶媒中のバルブ金属アルコキシドから、酸の存在の有無にかかわらず、又は溶解した金属の塩を使用して形成されることが教示されている。しかしながら、一般にバルブ金属トップコートのための当技術分野で記載されている調製方法、特に従来技術の実施例で教示されているTa又はSnベースのトップコートの調製方法は、他のバルブ金属トップコート組成物、特にNbベースの組成物についてもうまく機能することが見出されなかった。
【0006】
さらに、Snベースのトップコーティングは一般に、電解質のわずかなスズ汚染でさえ、堆積された銅の品質に悪影響を及ぼす可能性がある銅箔などの用途では望ましくない。
【0007】
したがって、延長された耐用年数及び制限された添加剤の消費量を示す電気めっき/電着プロセスのための代替又は改良された電極を提供することが望ましい。
【0008】
また、電気めっき及び電着プロセスのためのNbベースのトップコーティング層を含む電極を製造するための代替的かつ改善された方法を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、電気めっき及び電着プロセスのための改善された活性化電極、及びその製造方法に関する。電極は、有機添加剤を含有する電解質環境で操作され、ここで電極は酸化を介して有機成分の量を減少させ得る。
【0010】
活性化電極は、添加剤の消費量に対するバリア効果の改善を誘発し得る酸化ニオブを含有する少なくとも一つのトップコーティング層を備えており、ここで、Nbベースのトップコーティング層は、酸前駆体、すなわち酢酸にシュウ酸ニオブが入った水溶液の熱分解により得ることができる。
【0011】
本発明のその他の利益及び利点は、以下の発明を実施するための形態に基づいて当業者に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一態様下では、本発明は、導電性基板、第1の組成物の少なくとも一つのトップコーティング層及び第1の組成物とは異なる第2の組成物の少なくとも一つの電気化学的に活性なコーティング層を含む電解槽中の電解質溶液からの金属の電気めっき又は電着に適した電極に関し、電気化学的に活性なコーティング層は、導電性基板とトップコーティング層との間に配置され、第1の組成物は、90-100%のニオブ又はその酸化物を含有する(金属を基準とした重量パーセントで表される)。
【0013】
先行技術で開示された調製方法を介して得られる電極とは対照的に、酢酸にシュウ酸ニオブが入った水溶液を含む前駆体溶液の熱分解を介して得られるNbベースのトップコーティング層は添加剤の消費量に有利な影響を与え、それにより電着/電気めっき金属の質を改善することを、発明者は驚くべきことに観察した。さらに、上記の方法を介して得ることができるNbベースのトップコーティングは、電気化学的に活性なコーティングに存在し得る任意の白金族金属又はその酸化物の電解質への曝露を最小限にすることにより電極の耐用年数を延長させ得る。上記は、電池の電極電位に悪影響を及ぼすことなく達成することができる。
【0014】
よって、本発明による電極は、先行技術に記載されるTa及びSnベースのトップコートを備える電極に関して、実行可能で有利な代替案を示し得る。
【0015】
Nbベースのトップコーティング層とは、90-100%のニオブ又はその酸化物を含有する(金属を基準とした重量パーセントで表される)トップコーティング層を意味する。
【0016】
さらに、本発明によるNbベースのトップコーティングを備えた電極は、先行技術に記載された調製方法により得られるNbベースのトップコーティング層を備えた電極に対して、改善された代替案も示し得る。そのような方法は、例えば、酸の存在にかかわらず、アルコール溶媒に溶解された、前駆体としてのバルブ金属のアルコキシド又は塩化物の使用を教示している。これらの既知の方法は、バルブ金属がタンタルであるときに適切な結果をもたらすが、バルブ金属がニオブであるときには満足度が低い。
【0017】
通常、ニオブ塩化物は、水分の存在下で、水がごく微量で存在する場合でも、加水分解する。結果として、塩化物は酸化ニオブとして沈殿し、それにより、コーティングの塗布を妨げ、コーティング溶液の安定性の問題を引き起こす。
【0018】
発明者は、予想通り、これらのニオブ前駆体が加水分解する傾向が結果として生じるトップコーティングの性能に悪影響を及ぼすことを発見した。実際、NbClが塩酸又はアルコール(ブタノール、イソプロパノール、及びエタノールなど)に入った溶液から出発して得られるNbベースのトップコーティング層は、適切で再現性のある電極を供給しないことがわかった。
【0019】
特に、アルコールの高い蒸発率は、特にエタノール及びイソプロパノールについて観察することができるように、結果として生じる溶液の安定性に大きく影響する。
【0020】
さらに、トップコーティング層は100℃をはるかに上回る温度で熱的に処理されるため、通常、電極調製プロセスにはアルコール等の可燃性溶液を使用しないことが望ましい。
【0021】
Nbアルコキシドから出発して得られるNbベースのトップコーティング層は、添加剤の消費量に対するバリア効果が非常に低い極めて多孔性の電極をもたらした。
【0022】
上に列挙したすべての溶液の中で、NbClがブタノールに入ったもののみが作用電極を生成することがわかったが、添加剤の消費量及び耐用年数に関しては、本発明によるNbベースのトップコートと当該技術分野で知られるTaベースのトップコートの両方に及ばなかった。
【0023】
発明者の知る限り、上記は、なぜNbベースのトップコーティングを備えた金属の電気めっき又は電着用の電極が市販されておらず、想定される用途で通常用いられないかを説明し得る。
【0024】
概して、本発明による電極は、特に、例えばプリント回路基板の製造における、硫酸塩電解液からの銅箔の電着に使用する場合に寸法的に安定なアノードとして特に有用である。
【0025】
本発明による電極は、低レベルの塩化物を含むシステムにおいて、例えば、塩素及び/又は次亜塩素酸塩の生成を阻害するために、溶液中の酸化可能な種の酸化を低減することが望ましい電気化学的プロセスにも有利に使用され得る。
【0026】
本発明による電極は、例えば、対向する電極が電解質を含有する物理的なギャップによって分離されている非分割電解槽に使用され得る。電池は、アノードを取り囲む、ポリプロピレンのようなプラスチック材料などの絶縁材料のバッグを含み得る。
【0027】
目的の金属の電気めっき及び電着において、電解質は、典型的には、電気めっき/電着される金属が溶解している水ベースの溶液である。
【0028】
電解質は通常、光沢剤、レベラー、界面活性剤、及び抑制剤などの添加剤を含有する。添加剤は、ビス(スルホプロピルナトリウム)ジスルフィド(SPS)、ポリエチレングリコール又はアミンなどのジスルフィド化合物を含み得る。
【0029】
電極の導電性基板は、バルブ金属、例えば、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、及びタングステンであり得る。代替的には、スズ又はニッケルが使用され得る。導電性基板の適切な金属には、上記の元素金属自体に加えて、それらの合金及び金属間混合物が含まれ得る。導電性基板の好ましい材料はチタンであり、それは、チタンの頑丈さ、耐食性及び一般的な入手可能性による。
【0030】
導電性基板は、その目的を実行するのに適した任意の形態であり得る。特に、それは、プレート、メッシュ、シート、ブレード、チューブ又はワイヤーの形態であり得る。
【0031】
当該技術分野で慣例として、基板上方にコーティング層のいずれかを塗布する前に、後者は予防的に洗浄され、場合によっては、粒界エッチング、ブラスト又はプラズマ溶射などの当該技術分野で知られている任意の従来の技術によって接着を強化するために処理され、続いて基板を洗浄し、それに付着した残留物を除去するために表面処理される。
【0032】
基板表面には、場合によってはコーティング層の塗布前の予備処理などの他の調製工程が施されてもよい。例えば、表面は、水和若しくは窒化に供されてもよく、又は基板を空気中で加熱することによって若しくはアノード酸化によって酸化物層を備え得る。
【0033】
本発明による電極は、トップコーティング層の組成物とは異なる組成物を有する少なくとも一つの電気化学的に活性なコーティング層を含む電気化学的に活性なコーティングで活性化される。
【0034】
電気化学的に活性なコーティングは、トップコーティングと導電性基板との間に置かれる。トップコーティングは、電解質の他の構成要素が潜在的な電気化学的に活性なコーティングに適切にアクセスできるようにしながら、電解質中のより大きな添加剤分子が電気化学的に活性なコーティングに到達してその上で酸化するのを妨げる可能性が高い。
【0035】
電気化学的に活性なコーティング層組成物は、マグネシウム、トリウム、カドミウム、タングステン、スズ、鉄、銀、シリコン、タンタル、チタン、アルミニウム、ジルコニウム及びニオブなどのバルブ金属、並びにイリジウム、オスミウム、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムなどの白金族金属の混合物であり得る。
【0036】
イリジウムとタンタルの混合物は、本発明の実行に非常にうまく機能することがわかった。好ましくは、前記混合物は、50-80%のイリジウムと20-50%のタンタル(元素を基準とした重量パーセントで表す)を含有する。
【0037】
電気化学的に活性なコーティング層は、導電性基板上に直接又は任意選択的な下層の上方に塗布されてもよく、このことは、電気化学的に活性なコーティング層の電極基板へ接着を促進し、及び/又は導電性基板の不動態化を防止し得る。
【0038】
下層は電気化学的に活性なコーティングの組成物とは異なる組成物を有するであろうことが理解される。
【0039】
下層は、タンタルとチタンの酸化物の混合物などのバルブ金属酸化物の混合物を含み得る。後者は、本発明の実行にうまく機能することがわかった。特に、10-40%のTaと60-90%のTiの組成物は、電気化学的に活性なコーティング層の電極基板への非常に良好な接着をもたらし、不動態化を防止することが観察された。
【0040】
各電気化学的に活性なコーティング層、及び各任意選択的な下層は、当該技術分野で知られる方法に従って形成され得る。
【0041】
好ましくは、電気化学的に活性なコーティングは、前駆体の熱分解により形成される。好ましくは、前駆体は、400-600℃の温度で分解される。場合によっては、熱分解されたコーティングは、最後の層を塗布した後、430-600℃の温度でさらにベイクされ得る。
【0042】
本発明によるNbベースのトップコートは、電気化学的に活性なコーティングの上方の少なくとも一つの層に塗布され;各トップコーティング層は、当該技術分野で知られる標準手順に従って乾燥され、その後、熱分解される。
【0043】
当業者は、所望の負荷を達成するために必要な数のトップコーティング層を塗布することになる。発明者は、通常、トップコーティング中のNbの全量が2-18g/mであると良好な結果が得られることを発見した。サイクル数を減らすためには、2-12g/m、好ましくは7-10g/mの減少した負荷を使用してもよい。
【0044】
例えば12-18g/mのより高い負荷により、さらに改善された添加剤の消費量がもたらされ得る。
【0045】
そのような負荷は、各トップコーティング層のピックアップに依存する多くの層、すなわち調製サイクルで達成され得る。3-20のサイクル数、及び1層あたり0.5-2gNb/mのピックアップは、本発明の実行においてうまく機能することがわかった。
【0046】
本発明による電極に利用されるコーティング層のいずれかは、ブラシ若しくはローラーコーター、ディップスピン及びディップドレイン法、噴霧、電気噴霧、又は前述の技術の任意の組み合わせによる塗布などの、液体組成物の電極基板への塗布に適切な当該技術分野で知られる手段のいずれかにより塗布され得る。
【0047】
通常、添加剤の消費量を最小限にするための電極の容量は、他のパラメータのなかでも、トップコーティングの厚さに依拠し、これは、層ごとの所与の金属ピックアップについて、調製サイクルの数と関連する可能性がある。発明者は、本発明による電極のNbベースのトップは、層ごとに同じピックアップを使用すると、トップコーティング層の数が半分のTaベースのトップコートと同じ厚さに達し得ることを観察した。トップコーティングの厚さは、添加剤の消費量を防ぐためのコーティングの容量に影響を及ぼす唯一のパラメータではないが、電極活性層と電解質中の有機成分との間に物理的分離を導入することにより、そのような効果に寄与することに留意されたい。
【0048】
発明者は、トップコートの全金属負荷のg/mあたりの本発明によるNbベースのトップコートのバリア効果は、トップコートを有しない同じ電極のバリア効果に対して、51%超改善されることを観察した。
【0049】
バリア効果の改善は、サイクリックボルタモグラムを介して測定され、比較試験3に記載の手順に従って電解槽中の鉄イオンの酸化に対するトップコーティングの効果が決定された。
【0050】
通常、電気化学的及び化学的な可逆反応Fe(II)->Fe(III)+e-の特徴的なサイクリックボルタモグラムピークは、塗布されるトップコーティングのタイプによって、その厚み及び多孔率に応じて変化する。
【0051】
固定実験条件(参照された実験の温度、レドックス反応、スキャン速度、レドックスプローブなど)では、電極のサイクリックボルタモグラムのピーク高さは、トップコーティングにより提供される「バリア」を貫通することができ、電極の活性層で酸化することができる鉄(II)イオンの数に比例する結果となる。
【0052】
ピーク高さが高いほど、鉄(II)イオンの消費量に対するトップコーティングのバリア効果は低く、したがって光沢剤の消費量に対するトップコーティングのバリア効果は低いが、後者は、使用される特定の光沢剤分子などの他のパラメータによっても部分的に影響を及ぼされることになる。
【0053】
発明者は、トップコーティングを有しない電極のサイクリックボルタモグラムのピーク高さをトップコーティングを有する同じ電極のサイクリックボルタモグラムのピーク高さで割ることによってトップコーティングにより提供されるバリア効果の改善を定量的に計算した。その後、結果はトップコーティングに存在するg/mでの全金属負荷に調整される。
【0054】
一実施態様下では、本発明による電極のトップコーティング層は、実質的に100%のNb又はその酸化物を含有する。
【0055】
「実質的に100%のNb又はその酸化物」という表現は、下のコーティングから拡散する可能性のある微量の元素又は前駆体溶液の微量の不純物を除いて、ニオブからなるトップコーティング層を意味する。
【0056】
本発明の実施態様による電極のトップコーティングは、本発明によるニオブ前駆体溶液、つまり、シュウ酸ニオブが酢酸に入った水溶液の熱分解を介して得ることができるようなものであり、ここで酢酸は脱イオン水で希釈され得る。
【0057】
この実施態様による電極は、同数の層及び同じ負荷を有するTaベースのトップコーティングを備えた電極に対して、添加剤の消費量に対するバリア効果の改善を示すことがわかった。
【0058】
さらに、この実施態様による電極は、当該技術分野で記載される方法に従って調製されたNbベースのトップコーティング層を備えた電極に対して、バリア効果の大きな改善を示すことがわかった。
【0059】
特に、本実施態様に関連して、発明者は、gNb/mあたりのNbトップコーティングのバリア効果は、比較試験3に記載の手順に従って測定された電気化学的に活性なコーティング単独でのバリア効果に対して、85%超改善され、さらには100%超改善されることを観察した。
【0060】
代替的な実施態様下では、Nbベースのトップコーティング層は、アンチモン、インジウム、モリブデン、タングステン、ビスマス又はタンタルなどの第1の組成物の前駆体溶液にドープ剤前駆体として包含されるのに適した少なくとも一つのドープ剤を備える。そのようなドープ剤は、典型的には、トップコーティング層中約0.01重量%から約10重量%の量で、好ましくは約0.01重量%から約5重量%の量で存在し得る。ドープ剤は、金属又は亜酸化物を含むその酸化物の形態であり得る。
【0061】
本発明は、導電性基板、90-100%のニオブ又はその酸化物を含有する第1の組成物の少なくとも一つのトップコーティング層を含むトップコーティング、及び第1の組成物とは異なる第2の組成物の少なくとも一つの電気化学的に活性なコーティング層を含む電解槽中の電解質溶液からの金属の電気めっき又は電着に適した電極にも関し、トップコーティングの調整されたバリア効果は、レドックスプローブFe(II)|Fe(III)の存在下でのサイクリックボルタンメトリーにより測定される場合、潜在的な電気化学的に活性なコーティングのバリア効果の51-200%である。調整されたバリア効果の測定は、トップコーティングを有しない電極のサイクリックボルタモグラムのピーク高さをNbベースのトップコーティングを有する電極のピーク高さで割ることによって、比較試験3に記載されるように行われ、トップコーティングの全金属負荷(g/m)に合わせて調整されるものとする。
【0062】
本発明の実施態様によるNbベースのトップコーティングは、シュウ酸ニオブが酢酸に入ったNb前駆体溶液を含む前駆体溶液の熱分解を介して得ることができる。前記前駆体溶液は、単独で又は本発明に関する好ましい若しくは代替的な実施態様に関連して、本明細書に記載される前駆体溶液に相当する。
【0063】
当該技術分野に記載されるNb前駆体溶液で調製されたNbベースのトップコーティングは、せいぜい、コーティングされていない電極に関して51%の改善に達しない調整されたバリア効果を示す。
【0064】
上記の電極の好ましい実施態様によれば、上記の電極の第1の組成物は、実質的に100%のNb又はその酸化物を含有し、前記トップコーティングを有する電極のバリア効果の改善は、トップコーティングを有しない電極のバリア効果の85-200%倍であり、全gNb/mあたりで測定されると100-200%に達し得る。
【0065】
さらなる態様下では、本発明は、以上に記載された電極を製造するための方法に関する。本方法は、導電性基板を少なくとも一つの層を含む電気化学的に活性なコーティングでコーティングし、続いて電気化学的に活性なコーティングの上方にトップコーティングを形成することを含む。トップコーティングは、90-100%のニオブ又はその酸化物を含有する少なくとも一つのトップコーティング層を含む。各トップコーティング層は、以下の逐次的工程を実施することにより形成される:
(i)活性化導電性基板の上方にNb前駆体溶液を含む前駆体溶液を適用する工程;
(ii)前駆体溶液を50-100℃の温度で5-20分間、好ましくは50-70℃の温度で7-15分間乾燥させる工程;
(iii)乾燥させた前駆体溶液を320-600℃の温度で5-20分間熱分解する工程。
【0066】
好ましくは、上の熱分解工程は、350-550℃で5-20分間、さらにより好ましくは470-550℃で7-15分間行われる。
【0067】
工程(i)-(iii)は、周期的に、所望の金属負荷を達成するのに必要な回数繰り返され得る。
【0068】
各サイクルの後、前駆体溶液の熱分解工程(iii)の最後に、後続のサイクルに進む前に、電極は室温に達するまで冷却されることを、当業者は理解している。
【0069】
3-20のサイクル数は、適切なバリア効果をもたらすトップコーティング厚さを生み出すことがわかった。いくつかの実施態様では、4-16のサイクル数は、過電圧の増加を損なうことなく機能することがわかっており、よって、比較的少ない数の熱サイクルを維持し、結果としてコストの節約になる。
【0070】
上記のNb前駆体溶液は、シュウ酸ニオブが希酢酸に入った水溶液を混合することにより得られる。
【0071】
Nb前駆体溶液中のNbの濃度は、20-50g/lで選択され得る。この範囲は、添加剤の消費量の削減に有益である特にコンパクトなトップコーティング層構造を確実にすることが観察された。
【0072】
希酢酸とは、特に良好な湿潤性を提供するために好ましくは5-20%の濃度で、さらにより好ましくは7-13%の濃度で水、好ましくは脱イオン水で希釈されたCHCOOHを意味する。
【0073】
特許請求される方法によれば、少なくとも一つのトップコーティング層の形成は、活性化基板、すなわち、少なくとも一つの電気化学的に活性なコーティング層を備えた基板の上方で生じる。後者は、清浄な又は前処理された基板の上方に直接形成されてもよく、又は基板の上方にコーティングされた少なくとも一つの任意選択的な下層の上部に形成することができる。
【0074】
電気化学的に活性なコーティング層、任意選択的な下層、及び電極基板は、以上に記載の実施態様のいずれかによるものであり得る。
【0075】
一実施態様によれば、前駆体溶液はNb前駆体溶液からなる。したがって、結果として生じる電極は、トップコーティング中に部分的に拡散し得る電気化学的に活性なコーティングの微量の元素、又はNb前駆体溶液中の微量の他の金属を除いて、実質的に100%のNb又はその酸化物を含有するトップコーティングを備えることになる。
【0076】
代替的な実施態様によれば、前駆体溶液は、Nb前駆体溶液及びドープ剤前駆体溶液を含有し、ドープ剤は、アンチモン、インジウム、モリブデン、タングステン、ビスマス、タンタルからなる群より選択され、前記前駆体溶液中のNb対ドープ剤の重量比は、90-99,999:10-0,001;好ましくは95-99,999:5-0,001である。
【0077】
異なる態様下では、本発明は、電解質溶液に部分的に又は完全に浸漬された少なくとも一つのアノード及び少なくとも一つのカソードを含む電解質溶液からの金属の電気めっき又は電着のための不分離電解槽に関する。電解質溶液は、溶液に堆積/めっきされる金属及び少なくとも一つの有機置換基を含有する。
【0078】
槽に使用されるアノードは、以上に記載された電極である。
【0079】
槽は、プリント回路基板で使用され得る。
【0080】
例えば、本発明による槽は、硫酸銅を含有する水性電解質からの銅箔の電着に使用され得る。
【0081】
有機置換基は有機添加剤であり得る。
【0082】
異なる態様下では、本発明は、電解質溶液からの金属の電気めっき又は電着のための方法であって、該方法が以上に記載されるような任意の電解槽で行われ、電解質に存在する有機置換基の消費量が槽のアノード電位を損なうことなく削減されるように、前記槽の少なくとも一つのアノードが操作される。
【0083】
以下の実施例は、発明を実施に移す特定の方法を実証するために含まれており、その実施可能性は、請求された値の範囲で大部分が検証されている。
【0084】
以下に開示される装置、組成物及び技術は、本発明の実施において十分に機能するために発明者によって発見された装置、組成物及び技術を表すことを当業者は理解すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示される特定の実施態様において多くの変更を行うことができ、それでも本発明の範囲から逸脱することなく同様の又は類似する結果を得ることができることを理解すべきである。
【0085】
実験準備
以下の実施例、反例及び比較試験で使用するすべての電極試料において、100mm×100mm×1mmのサイズのチタングレード1メッシュから出発して、超音波浴中で10分間アセトンで脱脂して電極基板を製造した。その後メッシュにスチールグリットサンドブラストを施し、続いて沸点でHCl 20重量%でエッチングした。
【実施例
【0086】
実施例1
65:35の重量比のイリジウムとタンタルの酸化物に基づく混合物を含有する電気化学的に活性なコーティング溶液で清浄な電極基板試料をコーティングした。
【0087】
電気化学的に活性なコーティング前駆体溶液を10層塗布し、イリジウムの全負荷量を15g/mにした。
【0088】
各電気化学的に活性なコーティング層をブラシで塗布し、50℃の温度で10分間乾燥させた。各電気化学的に活性なコーティング層を、その後、510℃の温度で15分間熱分解し、次の層に進む前に、最後に室温に冷却させた。
【0089】
その後、活性化電極をNb前駆体のトップコーティング溶液でコーティングした。
【0090】
Nb前駆体溶液は、13%の水性CH3COOHに45g/lでシュウ酸ニオブが入った水溶液からなっていた。
【0091】
トップコーティングを9層塗布し、Nbの全負荷量を9g/mにした。
【0092】
各トップコーティング層をブラシで塗布し、55℃の温度で10分間乾燥させた。各トップコーティング層を、その後、500℃の温度で10分間熱分解し、次の層に進む前に、室温に冷却させた。
【0093】
このように得られた電極をS1とラベル付けした。
【0094】
反例1
Nb前駆体溶液がブタノールに溶解したNbClからなっており、Nb前駆体溶液中のニオブの濃度が45g/lであったことを除いて、実施例1に概説した手順に従って、試料電極を調製した。
【0095】
このように得られた電極をCS1とラベル付けした。
【0096】
反例2
実施例1に記載した手順に従って、清浄な電極基板試料を実施例1に記載した電気化学的に活性なコーティングでコーティングした。
【0097】
その後、活性化電極をTa前駆体のトップコーティング溶液でコーティングした。
【0098】
Ta前駆体溶液は、45gTa/lでTaClがブタノールに入った水溶液からなっていた。
【0099】
トップコーティング溶液を9層塗布し、Taの全負荷量を9g/mにした。
【0100】
各トップコーティング層をブラシで塗布し、55℃の温度で10分間乾燥させた。各トップコーティング層を、その後、500℃の温度で10分間熱分解し、次の層に進む前に、室温に冷却させた。
【0101】
このように得られた電極をCS2とラベル付けした。
【0102】
反例3
実施例1に記載したように清浄な電極基板試料を電気化学的に活性なコーティングでコーティングした。
【0103】
その後、トップコーティング溶液を18層塗布し、Taの全負荷量を18g/mにしたことを除いて、反例2に記載したように、活性化電極をTa前駆体のトップコーティング溶液でコーティングした。
【0104】
このように得られた電極をCS3とラベル付けした。
【0105】
試料S1、CS1、CS3は、SEM断面イメージングで測定して4マイクロメートルの平均トップコーティング厚を示した。試料CS2は、2マイクロメートルの平均厚さを示した。
【0106】
比較試験1
25ASF(1平方フィートあたりのアンペア)で190分間ハリング槽中でダミーの銅めっきを行うことにより、すべての試料を光沢剤の消費量について測定した。
【0107】
アノードについて、試料S1、CS1、CS2、CS3をポリプロピレンバッグの内部で代替的に使用した。
【0108】
カソードは真鍮プレートであった。
【0109】
電解質は、水、硫酸、ホルムアルデヒド、有機塩及び硫酸銅を含有していた。有機塩、すなわち光沢剤は、二ナトリウムの3,3’-ジチオビス[プロパンスルホネート]であった。
【0110】
光沢剤の消費量を、1リットルの光沢剤を消費するのに必要な電荷を決定することによるサイクリックボルタンメトリーストリッピングによって測定した。結果を表1でAh/lで表して報告している。
【0111】
比較試験2
すべての試料についてHSO 150g/l中のビーカーで1kA/mで寿命試験をして、1000時間毎にモニターした。
【0112】
6Vを超える槽電圧の急激な増加を測定するために必要な時間(時間単位)に対応する各試料の不活性化時間を表1に列挙する。
【0113】
比較試験3
レドックスプローブFe(II)|Fe(III)の存在下でのサイクリックボルタンメトリーによって試料S1、CS1、CS2、CS3のバリア効果を測定した。
【0114】
50mlのFe(II)の溶液を、HSO中の硫酸第一鉄150g/lからの20g/lのFe(II)で調製した。
【0115】
3電極槽で室温(25℃)で20mV/sの走査速度で実験を行った。
【0116】
対電極は、3cmの活性部分の寸法的に安定なチタンアノードであり、実施例1に記載のように調製され、トップコーティングを有しない、65%イリジウム及び35%タンタルの電気化学的に活性なコーティングでコーティングされた。
【0117】
基準電極は、飽和塩化第一水銀電極であった。
【0118】
それぞれの試験試料S1、CS1、CS2、CS3について、電気化学的に活性なコーティングの上方にトップコーティング層を塗布しなかったことを除いて、実施例1に記載の手順に従って、BLと称するベースライン電極を調製した。
【0119】
試料S1、CS1、CS2、CS3、及びベースラインBLを10mm×30mmのサイズに切り、10×10mmの活性部分を残すようにテフロンテープで覆った。
【0120】
実験は5つの試験からなり、作用電極は試料S1、CS1、CS2、CS3及びベースラインBLから代替的に選択した。
【0121】
サイクリックボルタモグラムのピーク高さをすべての試料及びBLについて測定した。
【0122】
各試料S1、CS1、CS2、CS3のトップコーティングバリア効果(TC BE)の改善を、対応するベースラインBL電極のピーク高さと試料について測定されたピーク高さとの間の比として計算した。すなわち、
TC BE(試料)=ピーク高さ(BL)/ピーク高さ(試料)。
【0123】
その後、各試料のトップコーティングバリア効果の改善を、TC BE(試料)をトップコーティングの金属量で割ることによって得られる(g/mで測定され、数値がパーセンテージで表される(g/mあたり))トップコーティングの全金属負荷について調整した。
【0124】
測定結果を表1に列挙する。
【0125】
前述の記載は、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明は、その範囲から逸脱することなく異なる実施態様に従って使用してもよく、その範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0126】
本出願の明細書及び特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」という用語並びに「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」などのその変形は、他の要素、構成要素、又は追加のプロセス工程の存在を除外することを意図しない。
【0127】
文書、行為、材料、装置、記事などの議論は、本発明の文脈を提供することのみを目的として、本明細書に含まれる。これらの事項のいずれか若しくはすべてが先行技術の基礎の一部を形成したこと、又は本出願の各請求項の優先日より前に本発明に関連する分野の一般的な知識であったことは、示唆又は表明されていない。