(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】医療用注射装置のための針カバー
(51)【国際特許分類】
A61M 5/32 20060101AFI20240126BHJP
【FI】
A61M5/32 500
(21)【出願番号】P 2021549666
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020054901
(87)【国際公開番号】W WO2020173937
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-12-07
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】310021434
【氏名又は名称】ベクトン ディキンソン フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロンシアン ホアン
(72)【発明者】
【氏名】ボー ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー ズケリ
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0144219(US,A1)
【文献】特表2016-526996(JP,A)
【文献】特表2009-526241(JP,A)
【文献】特開2008-307369(JP,A)
【文献】特表2019-500089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用注射装置(40)のバレル(41)の先端部(42)に取り付けられた針(45)を保護するための針カバー(1)であって、先端部(42)がバレルの遠位面(44)から延びており、針カバー(1)が、
- 長手方向軸(B)に沿って延びる内側針シールド(10)であって、バレル(41)の先端部(42)に封止接触するように構成された内側近位接続部(12)を備える、内側針シールド(10)と、
- 少なくとも部分的に内側針シールド(10)を取り囲み、前記内側針シールドに固定された、外側針シールド(20)と
を備え、
針カバー(1)は、外側針シールド(20)と一体の少なくとも1つのアクチュエータ(30)を備えることを特徴とし、前記少なくとも1つのアクチュエータは、長手方向軸(B)に対して傾斜している
近位内側傾斜面(35)を備え、
アクチュエータ(30)は、針カバー(1)をくさび効果によって先端部(42)に沿って遠位方向に移動させるように、長手方向軸(B)に対して半径方向内方に移動可能であり、近位内側傾斜面(35)をバレル(41)の遠位面(44)にスライド式に係合させる、針カバー(1)。
【請求項2】
- 針カバー(1)がバレル(41)の先端部に取り付けられたときに、針カバー(1)とバレル(41)の遠位面(44)との間に軸方向の隙間が与えられ、
- アクチュエータは、半径方向内方に突出する少なくとも1つのラグを備え、前記ラグは、前記近位内側傾斜面を備え、
ラグは、近位内側傾斜面がバレルの遠位面に係合するときに軸方向の隙間に挿入され、針カバーに当接して、前記針カバーを遠位方向に押すように構成されている、請求項1に記載の針カバー。
【請求項3】
近位内側傾斜面は、長手方向軸(B)に対して40°から50°の間の角度で傾斜している、請求項1または2に記載の針カバー。
【請求項4】
アクチュエータは、長手方向軸に対して半径方向内方に変形するように構成された可撓性アクチュエータである、請求項1から3のいずれかに記載の針カバー。
【請求項5】
可撓性アクチュエータは、弾性変形するように構成されている、請求項4に記載の針カバー。
【請求項6】
アクチュエータは、針シールドから近位方向に半径方向に延びる1つ以上の可撓性アームを備え、各アームは長手方向軸に対して半径方向内方に移動可能である、請求項4または5に記載の針カバー。
【請求項7】
アクチュエータは、2つの可撓性アームを備え、アームは、長手方向軸に対して向かい合っている、請求項6に記載の針カバー。
【請求項8】
内側針シールドは、エラストマー特性を有する材料で作られている、請求項1から7のいずれかに記載の針カバー。
【請求項9】
エラストマー特性を有する材料が、熱可塑性エラストマー、エラストマー、またはゴムである、請求項8に記載の針カバー。
【請求項10】
外側針シールドが、硬質材料で作られている、請求項1から9のいずれかに記載の針カバー。
【請求項11】
外側針シールドが、硬質プラスチックで作られている、請求項10に記載の針カバー。
【請求項12】
医療用アセンブリであって、医療用注射装置、および医療用注射装置の先端部に取り付けられている請求項1から11のいずれかに記載の針カバーを備え、
医療用注射装置が、
・医療用組成物を収容するように適合されたバレルと、
・バレルの遠位面から延びる先端部であって、先端部を貫通し、バレルと流体連通する流体経路を画定する先端部と、
・先端部に取り付けられ、流体経路と流体連通する針と、
を備える、医療用アセンブリ。
【請求項13】
医療用注射装置のバレルおよび先端部が、ガラス製である、請求項12に記載の医療用アセンブリ。
【請求項14】
針カバーとバレルの遠位面との間に軸方向の隙間を備え、近位内側傾斜面が前記軸方向の隙間に面している、請求項12または13に記載の医療用アセンブリ。
【請求項15】
医療用注射装置の先端部から、請求項1から11のいずれかに記載の針カバーを取り外す方法であって、
- 針カバーがくさび効果によって先端部に沿って遠位方向に移動するように、アクチュエータを半径方向内方につまんで、
近位内側傾斜面をバレルの遠位面にスライド式に係合させる工程と、
- 針カバーをバレルに対して遠位方向に引き、針カバーを注射装置の先端部から取り外す工程と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、医療用注射装置に取り付けた針を覆うための、医療用注射装置の先端部に取り付けられるように適合された針カバーに関する。本発明はまた、医療用注射装置と、医療用注射装置の針を封入する針カバーとを備える医療用アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
技術的背景
注射器などの医療用注射装置は、典型的には、医療用組成物を収容するための容器を備える。当該医療用注射装置の当該容器は、通常、医療用溶液が容器および/またはリザーバから放出される流体経路を画定する長手方向先端部の形状の末端部を含む。患者の皮膚を刺し、組成物の注射を行うために、針が先端部に取り付けられる。
【0003】
最終使用前のあらゆるけがを防止するために、針を囲むように針カバーを先端部に取り付ける。これにより、装置の周囲の人が針に物理的にアクセスできなくなる。針カバーは、エラストマー特性を有する材料の内側針シールドを備え、さらに、内側針シールドを囲む硬質プラスチックの外側針シールドを備えることができる。
【0004】
内側針シールドは、医療用注射装置の封止を確実にする。その目的のために、内側針シールドは、封止部を備え、この封止部は、注射器の先端部の外面に封止接触し、密封を提供する。内側針シールドは、外部環境からの医療用組成物の汚染を防止し、それによって容器の閉じた完全な状態を保証する。内側針シールドはさらに、組成物が針の出口から外部環境へ漏出することを防止する。その目的のために、針は、好ましくは、内側針シールド内に刺入される。
【0005】
針カバーは、医療用注射装置を使用する直前に、医療用注射装置の先端部から取り外すことができる。
【0006】
公知の針カバーの欠点は、カバーを先端部から取り外すことが比較的困難であり得ることである。カバーを取り外すためには、使用者は、注射装置と針カバーの両方を握って針カバーを引っ張らなければならない。針カバーを引っ張るには、使用者がかなりの努力をする必要がある。
【0007】
針カバーを取り外すのに必要な力は,「引き抜き力(pull out force)」(頭字語POF)と呼ばれる物理的パラメータによって測定される。注射器などの注射装置から公知の針カバーを取り外すのに必要な引き抜き力は、非常に高くなり得、特に、内側針シールドによって先端部に加えられる圧力に起因して、内側針シールドと先端部との間に摩擦が生じる。
【0008】
その結果、力が低下した使用者、例えば疾患により弱った使用者は、針シールドを取り外して治療のために注射装置を使用することができない可能性がある。
【0009】
また,看護師などの注射装置を使用することが多い医療従事者は,注射装置から針カバーを引き抜くために加える力をコントロールできず,コントロールできない危険な動きをする可能性があるため,自傷行為のリスクが高い。最後に、注射器の針は、針シールドの取り外し中に、この高い必要とされる引き抜き力のために曲げられ得る。
【発明の概要】
【0010】
発明の簡単な説明
本発明は、医療用注射装置の先端部を密封しつつ、引き抜き力を低減することができる医療用注射装置のための針カバーを提供することを目的とする。
【0011】
この目的のために、本発明の1つの目的は、医療用注射装置のバレルの先端部に取り付けられた針を保護するための針カバーであって、先端部がバレルの遠位面から延びており、針カバーは、
- 長手方向軸(longitudinal axis)に沿って延びる内側針シールドであって、バレルの先端部に封止接触するように構成された内側近位接続部を備える、内側針シールドと、
- 少なくとも部分的に内側針シールドを取り囲み、当該内側針シールドに固定された、外側針シールドと
を備え、
針カバーは、外側針シールドと一体の少なくとも1つのアクチュエータを備えることを主な特徴とし、当該少なくとも1つのアクチュエータは、長手方向軸に対して傾斜している近位内側表面を備え、アクチュエータは、針カバーをくさび効果によって先端部に沿って遠位方向に移動させるように、長手方向軸に対して半径方向内方に移動可能であり、近位内側傾斜面(proximal inner tilted surface)をバレルの遠位面とスライド式(slidingly)に係合させる。
【0012】
本出願において、「遠位方向」は、注射方向を意味するものとして理解されるべきである。遠位方向は、注射中のプランジャロッドの移動方向に対応し、バレル内に最初に含まれていた医療用組成物は、バレルから放出される。「近位方向」は、当該注射方向とは反対の方向を意味するものと理解されるべきである。
【0013】
「くさび効果(wedge effect)」は、本明細書では、傾斜した近位内側表面によって、使用者によってアクチュエータに加えられた半径方向の力を、針カバーの取り外しを容易にする軸方向の力に変換することを意味する。
【0014】
本発明のコネクタの他の任意の特徴によれば、
- 針カバーは、以下を包含する。
- 針カバーがバレルの先端部に取り付けられたときに、針カバーとバレルの遠位面との間に与えられる軸方向の隙間(axial clearance)、および
- アクチュエータは、半径方向内方に突出する少なくとも1つのラグを備え、当該ラグは、当該近位内側傾斜面を備え、
ラグは、近位内側傾斜面がバレルの遠位面に係合するときに軸方向の隙間に挿入され、針カバーに当接して、当該針カバーを遠位方向に押すように構成されている;
- 近位内側表面は、長手方向軸に対して40°から50°の間の角度で傾斜している;
- アクチュエータは、長手方向軸に対して半径方向内方に変形するように構成された可撓性アクチュエータである;
- 可撓性アクチュエータが弾性変形するように構成されている;
- アクチュエータは、針シールドから半径方向に近位方向に延びる1つ以上の可撓性アームを備え、各アームは、長手方向軸に対して半径方向内方に移動可能(radially movable inwardly)である;
- アクチュエータは、2つの可撓性アームを備え、該アームは、長手方向軸に対して向かい合っている;
- 内側針シールドは、エラストマー特性を有する材料で作られている;
- エラストマー特性を有する材料が熱可塑性エラストマー、エラストマー、またはゴムである;
- 外側針シールドは硬質材料で作られている;
- 外側針シールドは硬質プラスチックで作られている。
【0015】
本発明の別の目的は、医療用アセンブリであって、医療用注射装置、および医療用注射装置の先端部に取り付けられている上述したような針カバーを備え、
医療用注射装置が、
・医療用組成物を収容するように適合されたバレルと、
・バレルの遠位面から延びる先端部であって、先端部を貫通し、バレルと流体連通する流体経路を画定する先端部と、
・先端部に取り付けられ、流体経路と流体連通する針と、
を備える。
【0016】
医療用注射装置のバレルおよび先端部は、好ましくはガラス製である。
【0017】
医療用アセンブリは、針カバーとバレルの遠位面との間に軸方向の隙間を備え、近位内側傾斜面は、当該軸方向の隙間に面している。
【0018】
本発明の他の目的は、上述したような針カバーを医療用注射装置の先端部から取り外す方法であって、
- 針カバーをくさび効果によって先端部に沿って遠位方向に移動させるように、アクチュエータを半径方向内方につまんで、傾斜面をバレルの遠位面にスライド式に係合させる工程と、
- 針カバーをバレルに対して遠位方向に引き、針カバーを注射装置の先端部から取り外す工程とを含む、方法である。
【0019】
有利には、当該つまむこと及び引くことは、使用者の指が同じ位置にある状態で、単一工程で行うことができる。好ましくは、使用者の指は、くさび効果を最大にするために傾斜面の周囲に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付図面を参照して、以下の詳細な説明から明らかになる。
【
図1】針カバーおよび注射装置を備える、本発明の医療用アセンブリの一実施形態の側面図である。
【
図2】針カバーが取り付けられていない医療用注射装置の側面図である。
【
図3】本発明の針カバーの一実施形態の斜視図である。
【
図4】
図3の針カバーの正面図および側面図を示す。
【
図5】注射装置の先端部からの針カバーの取り外しを示す、従来技術の医療用アセンブリの側面図である。
【
図6】針カバーをつまむ前の、注射装置の先端部から針カバーの取り外しを示す、本発明の医療用アセンブリの側面図である。
【
図7】針カバーをつまむ間の、注射装置の先端部から針カバーの取り外しを示す、
図4の医療用アセンブリの側面図である。
【
図8】従来技術の針カバー及び本発明の針カバーについて、針カバーの進路に応じて、注射装置の先端部から針カバーを取り外すために、針カバーに加えられる力の発生を示す比較グラフである。
【
図9】
図8のグラフに対応する引き抜き力値の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態の詳細な説明
本発明は、針を保護するために、針45を備えた医療用注射装置40の先端部42に、封止して取り付けられるように構成された針カバー1に関する。
【0022】
針カバー1が注射装置40に取り付けられると、針カバーと注射装置との組み合わせは、外部汚染から針を保護しながら、使用者が針カバーに取り囲まれた針に接触することを防止する医療用アセンブリ100を形成する。
【0023】
アセンブリ100は、使用前、すなわちバレルに入った組成物を患者に注射する前に供給される。
【0024】
医療用注射装置40は、好ましくは注射器である。
【0025】
図1及び
図2に示すように、医療用注射装置40は、近位面43から遠位面44まで長手方向軸Aに沿って延び、注射される医療用組成物を収容するように適合されたバレル41と、組成物を注射するためにバレル41内で近位位置から遠位位置まで並進移動可能なプランジャロッド(図示せず)とを備える。
【0026】
医療用注射装置40は、バレルの遠位面44から軸Aに沿って延びる遠位先端部42をさらに備える。遠位先端部42は、バレルと流体連通する流体経路を形成するように少なくとも部分的に中空である。
【0027】
針45は、注射装置の先端部42に取り付けられ、流体通路と流体連通している。
【0028】
医療用注射装置40は、ガラス製であることが好ましく、ガラス注射器であることがより好ましい。このようなガラス注射器は、病院環境で主に使用され、容易に滅菌可能である。医療用注射装置は、プレフィルド注射器であることが好ましい。医療用注射装置は、針を刺した(staked needle)注射器がより好ましい。
【0029】
針カバー1は、長手方向軸Bに沿って延びる本体11を備えた内側針シールド10を備えている。針カバーを注射装置の先端部に取り付けると、軸Bが軸Aと一致する。針カバー1は、さらに、少なくとも部分的に内側針シールド10を取り囲むように構成された外側針シールド20を備え、それによって、少なくとも部分的に当該内側針シールドを取り囲む。
【0030】
外側針シールド20は、少なくとも1つの近位アクチュエータ30を備える。
【0031】
アクチュエータは、好ましくは、外側針シールドと一体であり、すなわち、同じ材料で形成され、一体になっている(組み立てを必要としない)。例えば、外側針シールドが射出成形によって形成される場合、アクチュエータは、射出成形の同じ工程で形成される。
【0032】
アクチュエータは、好ましくは、アクチュエータの遠位部によって外側針シールドと一体化される。
【0033】
外側針シールド20は、半径方向内方に突出する少なくとも1つのラグ34を備える。ラグ34は、有利には、内側に向かって広がっており、それにより、近位に配置された第1の内側表面35と、先端まで遠位に配置された第2の表面36とを画定している。
【0034】
図6を参照すると、針カバー1は、注射装置の先端部42を少なくとも部分的に包囲し、それによって、針カバー1とバレルの遠位面44との間に軸方向の隙間G
0を与える。これは、針カバー1がバレルの遠位面44に当接しないことを意味する。
【0035】
軸方向の隙間G0は、有利には、ラグ34を収容するように構成されたハウジング27として作用する。
【0036】
第1の内側表面35は有利には湾曲しており、その湾曲は軸Bに向かって内側に向けられている。
【0037】
第1の内側表面35は、軸Bに対して傾斜している。すなわち、第1の内側表面35と軸Bとは平行ではない。したがって、第1の内面は、バレルの遠位面に沿って延びている、軸Aに垂直な軸Cに対しても傾斜している(
図6および7を参照)。本明細書の以下において、第1の内側表面35を「傾斜面」と称する。傾斜面と軸Cとのなす角度は、「角度α」と称され、40°~50°であることが好ましい。傾斜面と軸Bとのなす角度は、90°-αに等しく、40°~50°であることが好ましい。バレルは軸Bに平行に延びているので、傾斜面と軸Bとのなす角度は、アームの傾斜面とバレルとのなす角度でもある。
【0038】
好ましい実施形態によれば、近位アクチュエータ30は、1つ以上の可撓性アーム31を備える。
【0039】
図3および
図4に示す実施形態では、外側針シールド20は、軸Bに対して向かい合っている2つの可撓性アーム31を備える。あるいは、外側針シールドは、1つの可撓性アームのみを備えることもできる。
【0040】
各可撓性アーム31は、外側針シールドの本体21から近位方向に延びている。
【0041】
各可撓性アーム31は、有利には、外側針シールドの本体21から半径方向外方に近位方向に延びる第1部分32と、接合部37で第1部分と接合した、さらに近位方向に延びる第2部分33とを備える。
【0042】
示された実施形態では、可撓性アーム31は、外側針シールドから半径方向外方に延びる。したがって、力が加えられない場合、可撓性アーム31は、
図1および
図6で特に明白なように、注射装置のバレルから離れており、特にバレルの遠位面から離れている。アーム31とバレル41との間の距離は、もちろん調整することができる。このような可撓性アームの配置は、外側針シールドの直径がバレルの直径以下の場合に、可撓性アームとバレルとの間に所定の距離を与えるために必要である。
【0043】
外側針シールド20が少なくとも1つのアーム31を備える場合、ラグ34はアームから半径方向内方に突出する。
【0044】
外側針シールド20が作動位置にあるアーム31を備える場合、軸方向の隙間G0は、当該アーム31のラグ34を収容する。
【0045】
或いは、外側針シールド20の直径がバレル41の直径よりも大きい場合、アームとバレルとの間の距離は既に与えられているので、可撓性アーム31は、外側に広がることなく、単に長手方向に延びることができる。
【0046】
各可撓性アーム31は、該アームに加えられる半径方向内方に向けられた力に応じて、長手方向軸Bに対して半径方向内方に移動可能である。
【0047】
より詳細には、当該アーム31は、静止位置と、傾斜面がバレル41の遠位面44と係合する作動位置との間で移動可能である。好ましくは、静止位置において、アームの第2の部分33は、バレル41から所定の距離、離れている。傾斜面35がバレルの遠位面44に係合することにより、針カバー1はくさび効果により先端部42に沿って遠位方向に移動する。この態様については、以下に詳述する。
【0048】
好ましくは、可撓性アーム31は、弾性変形するように構成される。言い換えると、可撓性アームは、使用者の介入なしに作動位置から静止位置に戻ることができる。
【0049】
好ましい実施形態によれば、針カバーは、軸Bに関して対称である2つのアームを備える。これは、アームが同じ寸法を有し、針カバーの本体に対して同様に配置され、軸Cと同じ角度αを画定することを意味する。
【0050】
アーム31の寸法は、良好な可撓性を提供するために調整することができ、十分なくさび効果を提供し、針カバーと注射装置との間のハウジング27内へのラグ34の挿入を可能にする。なお、アームの全長に対するラグの長さの比は、0.2~0.5、ラグを備えるアームの全長に対するラグの厚さ(または高さ)の比は、0.5~0.75である。
【0051】
内側針シールドの本体は、円筒形状であり、円形断面であることが好ましい。
【0052】
内側針シールドの本体は、注射装置の先端部42と封止係合するように構成された内側近位接続部12を備える。内側近位接続部12は、好ましくは、本体の残りの部分よりも大きな直径を有する。このように、内側近位接続部は、本体の残りの部分との区別が容易であり、内側針シールド10の外側針シールド20への固定は、以下に述べるように改善される。
【0053】
針カバー1を注射装置40に取り付けると、内側針シールド10が先端部42の少なくとも一部を包囲し、近位接続部が先端部の近位部にしっかりと接触する。有利なことに、内側針シールド10は、少なくともバルジ46の外面を包囲する。内側針シールド10は、好ましくは、エラストマー特性を有する材料で作られる。このように、内側針シールドを注射装置に接続する際に、先端部の形状に合うように近位接続部がわずかに変形してもよい。一方、針の先端部は、内側針シールドを貫通してもよい。これにより、針を介して外部環境に医療用組成物が漏出するリスクがさらに低減される。
【0054】
エラストマー特性を有する材料は、熱可塑性エラストマー、エラストマー、又はゴムが好ましい。好ましくは、エラストマー特性を有する材料は滅菌可能である。
【0055】
外側針シールド20は、硬質材料で作られることが好ましい。好ましくは、硬質材料は硬質プラスチックである。硬質材料は、外側針シールドに剛性を与え、これにより、当該外側針シールドは、針シールドを衝撃からよりよく保護することができる。これにより、針カバーの構造的完全性が改善される。
【0056】
【0057】
この実施形態によれば、外側針シールド20は、長手方向軸Bに沿って延びる本体21を備えている。本体は、円筒形状を有していることが好ましい。
【0058】
本体21は、内側針シールドの内側近位接続部12を囲む近位部分22を備える。
【0059】
近位部分22は、内側針シールドの内側近位接続部12を包囲するために、本体21の残りの部分よりも大きい直径を有することが好ましい。
【0060】
外側針シールド20は、内側針シールド10に固定されている。この目的のために、外側針シールドの近位部分22には、上部24、下部25及び側部26を含む貫通ノッチ23が有利に設けられており、貫通ノッチ23はまた、当該近位部分の外周に沿って少なくとも部分的に延在している。したがって、内側針シールドの内側近位接続部12は、部分的に貫通ノッチ23内にスナップ嵌合接続で挿入される。内側針シールドの内側近位接続部12は、ノッチの上部24及び下部25の両方に当接し、それによって、外側針シールドに対する軸Bに沿った内側シールドの並進運動を防止する。
【0061】
有利には、内側近位接続部12は、ノッチ23の側部26にも当接し、それによって、外側針シールドに対する軸B周りの内側シールドのいかなる回転運動も防止する。
【0062】
貫通ノッチ23はまた、使用者のために窓を形成し、使用者は、内側針シールド10が外側針シールド20内に取り囲まれることを確実にすることができるので有利である。
【0063】
内側針シールド10及び外側針シールド20は、ノッチ23及び内側近位接続部12のスナップ嵌合接続以外の固定手段によって、又は当該スナップ嵌合接続に加えて、一緒に固定されていてもよい。あるいは、内側針シールドの外面および外側針シールドの内面は、適合する形状を有する構造要素を備えることができる。
【0064】
次に、本発明の医療用アセンブリ100の機能を、
図5、
図6および
図7を参照して説明する。
【0065】
図5は、従来技術の医療用アセンブリ100Aを示している。針カバー1Aを医療用注射装置40Aから取り外すために、使用者は、まず、外側針シールド20Aを両側から押圧またはつまみ、それによって、外側針シールドの中間部に半径方向内方に向けられた力をはたらかせる。「つまみ力」と呼ばれる使用者により加えられる力は、P(f
1)で示される。
【0066】
この力により、内側針シールド10Aが変形する。内側針シールドの中間部が先端部に押し付けられ、内側近位接続部が先端部から僅かに外れる。これは、内側針シールドの内面と先端部の外面との間の接触界面上の圧力分布の修正がもたらされる。
【0067】
そして、使用者は、針カバー1をつまんだまま、針カバー1Aをバレル41Aに対して遠位方向に引っ張り、針カバー1Aを注射装置の先端部から取り外す。
【0068】
注射装置40Aから針カバー1Aを取り外すことができるにもかかわらず、内側針シールドによって先端部に加えられる圧力は高い。実際、使用者が針カバー1Aをつまむ力は高く、内側針シールドと先端部との間に摩擦を生じさせる。このような摩擦は、針カバー1Aの先端部42Aに対する並進運動を制限し、その結果、高い引き抜き力が生じる。
【0069】
図6および7は、本発明による医療用アセンブリ100を示し、アクチュエータの2つのアーム31は、それぞれ、静止位置および作動位置にある。
【0070】
図6を参照すると、針カバー1とバレル41の遠位面44との間には軸方向の隙間G
0が与えられており、それによってハウジング27を画定ている。各アームの傾斜面35はバレルの遠位面44と摩擦係合し、軸Cとの角度αを画定している。あるいは、アームは、静止位置においてバレルから離れていてもよいことに留意されたい。
【0071】
針カバー1を医療用注射装置40から取り外すために、使用者は、まず、2つのアームをつまみ、それによって、当該アーム上に半径方向内方に向けられた力を加える。つまみ力はP(f2)と記録される。好ましくは、つまみ力は軸方向の隙間の周りに作用する。
【0072】
この力により、アームは、
図7に示すように、静止位置から作動位置まで半径方向内方に移動する。
【0073】
各アームの第1の部分32と第2の部分33との間の接合部37は、半径方向外方に向かって屈曲する。
【0074】
各アームの傾斜面35は、ラグ34がハウジング内に入ると、バレルの遠位面44上を摺動する。この態様については、以下に詳述する。
【0075】
アームの傾斜面35がバレルの遠位面44上を摺動すると、くさび効果によって半径方向から遠位方向へ力が伝達される。言い換えると、つまみ力は、遠位方向への並進力に変換される。
【0076】
これにより、針カバー1は、使用者により加えられる引き抜き力なしに、ウェッジ効果により遠位方向にΔxとして表される所定の距離移動する。Δx移動した針カバーの位置とバレル先端面との距離をG1と表記する。したがって、Δx=G1-G0である。
【0077】
所定の距離Δxは、角度αに依存する。実際、角度αが大きいほど、距離Δxは大きくなる。しかし、角度αが大きいほど、つまみ力も大きくなる。従って、所望の距離Δxと必要とされる最大つまみ力との間にバランスが見出されなければならないが、針カバーを取り外すために必要とされる高いつまみ力は使用者にとって有害であり得ることに留意されたい。
【0078】
次いで、使用者は、アームを引き続きつまんでいる間に、針カバー1をバレル41に対して遠位方向に引っ張り、注射装置の先端部42から針カバーを取り外す。
【0079】
これにより、使用者が針カバーを引いたときに、針カバーを注射装置の先端部から取り外すために移動しなければならない距離が、距離Δxだけ減少する。
【0080】
さらに、従来技術の医療用アセンブリ100Aと比較して、使用者は、針カバーの本体をつまむのではなく、アクチュエータのアーム31をつまむ。したがって、内側針シールドの内面35が先端部42の外面に押し付けられることがなく、これら2つの面の間での結果として生じる摩擦が防止される。
【0081】
傾斜面35がバレルの遠位面44上を摺動することと、針カバー1Aの本体の代わりにアーム31に加えられるつまみ力とによって生じるくさび効果により、引き抜き力が大きく低減される。引き抜き力は約30%~35%低減する(下記実施例を参照)。
【0082】
図6および7に示す実施形態によれば、アームの第2の部分に設けられたラグ34は、ハウジング27内に挿入するように構成される。
【0083】
より詳細には、アーム31が静止位置にあるとき、ラグ34はハウジング27から離れており、バレルの遠位面44と接触していてもよいし、離れていてもよい。
【0084】
アーム31が静止位置から作動位置に移動すると、ラグ34はハウジング27内に入り、傾斜面35はバレルの遠位面44上を摺動する。
【0085】
アームをさらにつまんだ後、ラグ34は、外側針シールドの近位部分22、好ましくは内側針シールドの内側近位接続部に接触する。図示された実施形態では、ラグの基部38は、ラグとアームの第2の部分との間の傾斜の不連続性によって区切られており、外側針シールドの近位部分22の周囲に当接している。
【0086】
さらにアーム31をつまむと、ラグ34の第2内面36が外側針シールドの近位部分22に当接する。これにより、アーム31は針カバー1を遠位方向に押圧する。この追加の力により、使用者が針カバー1を引いて、注射装置から針カバー1を取り外す前に、注射装置の先端部42に対して針カバーを遠位方向に更に移動させるためのくさび効果が増大する。これにより、引き抜き力がさらに低減される。
【0087】
本発明の医療用アセンブリはまた、つまみ力の減少をもたらす。
【0088】
実際、使用者が針カバーの本体をつまむ公知の医療用アセンブリの場合、外側の針カバーは、通常、硬質材料で作られているので、使用者によって加えられるつまみ力は高い。特に、つまみ力は、外側針シールドを変形させるのに十分でなければならず、その結果、内側針シールドに力が加わり、使用者がさらに当該針カバーを引っ張ると、針カバーが先端部に対して遠位方向に移動することを可能にする。
【0089】
本発明の医療用アセンブリの場合、使用者は、可撓性であるアームをつまみ、これは、そのようなアームが、使用者の対応する力の下で半径方向内方に変形するように構成されることを意味する。特に、アームの寸法や構成材料などのアームの機械的特徴は、この目的のために調整される。
【0090】
もちろん、既に述べたように、つまみ力は、適切なつまみ力を達成するために、アームの機械的特徴だけでなく、調整され得る角度αにも依存する。
【0091】
実施例:引き抜き力の測定およびつまみ力の計算
引き抜き力の測定
従来技術の針カバー(ラグまたはアームなどのアクチュエータを含まない)と本発明の針カバーの両方が、ガラス注射器の先端部に予め取り付けられており、本実施例ではこれらを比較する。ガラス注射器は、従来技術の針カバーと本発明の針カバーとで同一であり、同一の製造バッチに属する。
【0092】
これらのアッセイにおいて、従来技術の10個の針カバーおよび2つの可撓性アームを備えた本発明の10個の針カバーを評価した。
【0093】
注射器から針カバーを取り外すのに必要な力の測定を行う。テストはトラクションベンチ(500mm/分)で実施する。この方法は、以下の工程を含む。
- 注射器をホルダーの上に置く工程、
- 空気圧式ジョーで針カバーを保持する工程、
- 針カバーを一定の変位速度で引っ張り、取り外す工程。
【0094】
本発明の各針カバーについて、可撓性アームは、隙間の端まで手動でつままれる。その結果、針カバーは、最大距離Δxの注射器の先端部に対して遠位方向に移動した。次に、針カバーをトラクションベンチ内に配置して、針カバーを注射器の先端部から取り外すために加えられる残りの力を測定する。
【0095】
従来技術の針カバーは、トラクションベンチ内に直接配置される。
【0096】
針カバーを先端部から取り外すために針カバーを引っ張るのに必要な力が、針カバーの変位および時間の関数として記録される。
【0097】
図8は、注射器の先端部から針カバーを取り外すために、従来技術の針カバー(曲線F1)および本発明の針カバー(曲線F2)に加えられた、針カバーの進路Cに対する、引っ張り力Fの発生を示す。進路Cは、針カバーと注射装置の先端部との間のギャップを表す。本発明の針カバーの進路は、従来技術の針カバーの進路の後に始まるが、これは、本発明の針カバーが、隙間の端まで手動でつまみ押されたからである。
【0098】
針カバーを取り外すのに必要な力は、針カバーの移動の開始時に、引き抜き力に対応する「POF値」と呼ばれる最大値に達するまで増加する。
図8の曲線F1から分かるように、引き抜き力は約24N(ニュートン)である。この結果は、先行技術の全ての針カバーについて測定されたPOFの平均値(POF(F1))及び本発明の針カバーについて測定されたPOFの平均値(POF(F2))を表す、
図9によって確認される。従来技術の針カバーについて測定されたPOFの平均値は、24.83Nである。次いで、
図8の曲線F1において、力は、注射器先端部に対する針カバーの摺動によるスリップスティック効果(slip-stick effect)に起因する第2のピークにおいて再び増加する。
【0099】
曲線F2は、針カバーの進路Cに対して、注射器の先端部から針カバーを取り外すために本発明の針カバーに加えられた引っ張り力Fの発生を示す。引っ張り力は1つのピークのみを示している。実際、
図8の曲線F1に見られる最初のピークは存在しない。これは、測定前に可撓性アームをつまんだことにより、注射器先端部に対して針カバーが既に移動したためである。従って、針カバーを先端部から取り外すために針カバーを引っ張るのに必要な力の一部は、針カバーを引っ張る前に可撓性アームに加えられるつまみ力に変換される。その結果、引き抜き力は約16Nと大幅に減少した。この結果は、本発明の針カバーに対する引き抜き力の平均値が16.36Nであることを示す
図9によって確認される。
【0100】
これら2つの引き抜き力の値は、本発明の針カバーが、公知の針カバーと比較して、引き抜き力の大きな低減をもたらすことを明確に示す。引き抜き力の低減は約34%である。