(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】直接起動同期リラクタンス・モータの回転子構造及びモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20240126BHJP
H02K 19/10 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
H02K1/22 Z
H02K19/10 A
(21)【出願番号】P 2021559281
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 CN2019128234
(87)【国際公開番号】W WO2020253198
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】201910533174.7
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517441262
【氏名又は名称】グリー エレクトリック アプライアンス、インコーポレイテッド オブ チューハイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フ、ユーシェン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ビン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シー、チンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ユー、キンホン
(72)【発明者】
【氏名】リー、シャ
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/083639(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111625(WO,A1)
【文献】特開2003-333813(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108768015(CN,A)
【文献】特開2003-259615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスリット溝(20)が設けられた、回転子コア(10)と、
磁気バリア層を形成するために、前記スリット溝(20)のそれぞれの両端部に隣接してそれぞれ配置された、2つの充填溝(30)と
を備える、直接始動同期リラクタンス・モータ回転子であって、前記充填溝(30)の第1の端部が、前記スリット溝(20)に隣接して配置されており、前記充填溝(30)の第2の端部が、前記回転子コア(10)の外側に向かって延びるように配置されており、前記充填溝(30)の延在する方向は、d軸と実質的に平行であり、斜角縁部(31)が、前記充填溝(30)のうちの少なくとも1つの前記第2の端部に、前記回転子コア(10)のd軸とは反対側に配置され、その結果、前記回転子コア(10)のd軸磁束が、前記斜角縁部(31)に形成された流路に沿って固定子に入るときに、急激に変化
せず、
複数の独立した充填溝(40)が、各磁極の前記回転子コア(10)の外縁にさらに配置され、補強リブ(50)が、前記隣接する独立した充填溝(40)間に形成され、前記補強リブ(50)の幅がLであり、0.5σ≦L<σであり、σが、前記固定子と前記回転子コア(10)との間の空隙の幅である、直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項2】
夾角θが、前記d軸とは反対側の前記充填溝(30)の側壁と、前記斜角縁部(31)との間の角度であり、125°≦θ≦165°である、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項3】
145°≦θ≦155°である、請求項2に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項4】
前記斜角縁部(31)が、前記充填溝(30)のそれぞれの前記第2の端部に配置されるか、又は前記斜角縁部(31)が、間隔を置いて配置される、前記充填溝(30)のそれぞれの前記第2の端部に配置される、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項5】
前記斜角縁部(31)の第1の端部から第2の端部までの距離がkであり、前記充填溝(30)の幅がwであり、0.3w≦k<wである、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項6】
前記角度θが、前記d軸から離れる方向に徐々に増加する、請求項2に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項7】
前記複数のスリット溝(20)及び前記充填溝(30)が、線形区間及び円弧区間の組合せによって形成される、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項8】
前記充填溝(30)の前記第2の端部の少なくとも一部が、前記回転子の外周と通じており、開口溝を形成する、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項9】
前記開口溝の幅がmであり、0.1w≦m≦0.7wである、請求項8に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項10】
前記充填溝(30)が、前記隣接するスリット溝(20)と夾角に配置され、隣接する2つの前記充填溝(30)間に形成される磁気伝導流路が、前記d軸と平行に配置される、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項11】
前記充填溝(30)の長さが、前記d軸に近接する方向に徐々に増加する、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項12】
隣接する2つの前記充填溝(30)間の距離が、前記d軸から離れる方向に徐々に減少する、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項13】
前記スリット溝(20)の幅が、前記回転子コア(10)の径方向外向きに徐々に減少する、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項14】
前記スリット溝(20)の長さが、前記回転子コア(10)の径方向外向きに徐々に減少する、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項15】
隣接する2つの前記スリット溝(20)間に形成される磁気伝導流路の幅が、前記回転子コア(10)の径方向外向きに徐々に減少する、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項16】
前記充填溝(30)が、導電性且つ磁気絶縁性の材料で充填され、前記回転子コア(10)の両端にある導電性端部リングと共に籠形を形成する、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項17】
前記充填溝(30)に充填された前記導電性且つ磁気絶縁性の材料が、前記導電性端部リングの材料と同じものであ
る、請求項16に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項18】
導電性且つ磁気絶縁性の材料の充填面積の、すべての前記充填溝(30)及び前記スリット溝(20)の総面積に対する比が、Q2であり、0.3≦Q2≦0.7である、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項19】
q軸の下のすべての前記スリット溝(20)の全幅と前記q軸の下の前記独立した充填溝(40)の幅との合計の、前記回転子コア(10)の径方向の有効コア幅に対する比が、Q1であり、0.35≦Q1≦0.5である、請求項
1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項20】
第1の補強リブが、同じ磁気バリア層内の前記充填溝(30)と前記スリット溝(20)との間に配置され、第2の補強リブが、前記充填溝(30)と前記回転子コア(10)の外縁との間に配置される、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項21】
前記第1の補強リブ及び前記第2の補強リブのうちの少なくとも一方の幅がL4であり、0.8σ≦L4≦3σである、請求項
20に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項22】
前記複数の独立した充填溝(40)が、前記回転子コア(10)の周方向に間隔を置いて配置され、前記回転子コア(10)の中心角αを占め、0.1τ≦α≦0.4τであり、τが極ピッチ角、τ=180°/p、pが極対の数である、請求項
1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項23】
前記スリット溝(20)及び前記スリット溝の両端にある前記充填溝(30)によって形成される、少なくとも2つの前記磁気バリア層がある、請求項1に記載の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子。
【請求項24】
請求項1から
23までのいずれか一項に記載の、前記直接始動同期リラクタンス・モータ回転子を備える、モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ・デバイスの技術分野、詳細には、直接始動同期リラクタンス・モータ回転子及びモータに関する。本開示は、2019年6月19日に中国国家知識産権局に出願された特許出願である、出願番号第201910533174.7号、発明の名称「直接始動同期リラクタンス・モータ回転子及びモータ(Direct Starting Synchronous Reluctance Motor Rotor and Motor)」の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
直接始動同期リラクタンス・モータは、誘導モータと同期リラクタンス・モータとの構造上の特性を組み合わせることにより、籠形(squirrel cage)誘導によってトルクを発生させることで始動を実現し、回転子のインダクタンス・ギャップによってリラクタンス・トルクを発生させて定速走行を実行し、直接電力を投入することで始動及び運転を実現する。直接始動同期リラクタンス・モータは、直接始動永久磁石モータと比較して、希土類である永久磁石材料又は減磁がなく、低コスト且つ信頼性が高い。直接始動同期リラクタンス・モータは、非同期モータと比較して、高効率且つ定速である。直接始動同期リラクタンス・モータが始動されるとき、動作原理は非同期モータの動作原理と同様であり、非同期トルクで始動される。同期速度に達すると、非同期トルクは0になる。このとき、動作原理はリラクタンス・モータの動作原理と同じであり、リラクタンス・トルクで同期して運転が実行される。
【0003】
従来の同期リラクタンス・モータは、始動及び運転制御用のドライバを必要とするため、コストが高く、制御が困難である。加えて、ドライバは、ある一定の損失を引き起こし、モータ・システム全体の効率を低下させる。関連技術分野において、中国特許公開第106537740A号の特許は、回転子、リラクタンス機、及び回転子の製造方法を提供しており、回転子の磁束バリアの充填材料は、回転子周辺に達し、回転子周辺の一部を形成する。そして、磁束バリアに材料が充填された後に機械加工が必要になり、その結果製造時間が長くなり、低効率となり、製造コストが高くなる。さらに、モータはトルク・リップルが大きく、また振動ノイズが大きい。中国特許公開第207320974U号の特許は、トルク・リップルを低減するために、非対称構造の回転子コアを備えた自己始動同期リラクタンス・モータを提供しており、それによって、トルク・リップルによって引き起こされる電磁ノイズ及び電磁振動を抑制又は低減する。しかし、非対称構造に起因して新しい電磁力がもたらされ、その結果新しい電磁ノイズが生じる。関連技術では、高効率、低騒音、及び高い始動能力を同時に備える同期設計を実現することは困難であり、関連技術は多くの場合、いくつかの欠陥を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許公開第106537740A号
【文献】中国特許公開第207320974U号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の主な目的は、直接始動同期リラクタンス・モータ回転子及びモータを提供し、関連技術における大きな振動ノイズの問題を解決し、リラクタンス・トルク、効率、及びモータの始動能力を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本開示の態様によれば、複数のスリット溝が設けられた回転子コアを備える、直接始動同期リラクタンス・モータ回転子が提供され、2つの充填溝が、磁気バリア層を形成するために、各スリット溝の両端にそれぞれ配置され、充填溝の第1の端部が、スリット溝に隣接して配置され、充填溝の第2の端部が、回転子コアの外側に向かって延びるように配置され、斜角縁部が、充填溝のうちの少なくとも1つの第2の端部に、設けられている回転子コアのd軸とは反対側に配置され、その結果、回転子コアのd軸磁束は、斜角縁部に形成された流路に沿って固定子に入るときに、急激に変化しないようになる。
【0007】
さらに、夾角θは、d軸とは反対側の充填溝の側壁と、斜角縁部との間の角度であり、125°≦θ≦165°である。
【0008】
さらに、145°≦θ≦155°である。
【0009】
さらに、充填溝のそれぞれの第2の端部に、斜角縁部が設けられるか、又は間隔を置いて配置される充填溝のそれぞれの第2の端部に、斜角縁部が設けられる。
【0010】
さらに、斜角縁部の第1の端部から第2の端部までの距離はkであり、充填溝の幅はwであり、0.3w≦k<wである。
【0011】
さらに、角度θは、d軸から離れる方向に徐々に増加する。
【0012】
さらに、複数のスリット溝及び充填溝は、線形区間及び円弧区間の組合せによって形成される。
【0013】
さらに、充填溝の第2の端部は、回転子コアの外側に向かって延び、充填溝の第2の端部の少なくとも一部は、回転子の外周と通じており、開口溝を形成する。
【0014】
さらに、開口溝の幅はmであり、0.1w≦m≦0.7wである
【0015】
さらに、充填溝は、隣接するスリット溝と夾角に配置され、隣接する2つの充填溝間に形成される磁気伝導流路は、d軸と平行又は夾角に配置される。
【0016】
さらに、充填溝の長さは、d軸に近い方向に徐々に増加する。
【0017】
さらに、隣接する2つの充填溝間の距離は、d軸から離れる方向に徐々に減少する。
【0018】
さらに、スリット溝の幅は、回転子コアの径方向外向きに徐々に減少する。
【0019】
さらに、スリット溝の長さは、回転子コアの径方向外向きに徐々に減少する。
【0020】
さらに、隣接する2つのスリット溝間に形成される磁気伝導流路の幅は、回転子コアの径方向外向きに徐々に減少する。
【0021】
さらに、充填溝は、導電性且つ磁気絶縁性の材料で充填され、回転子コアの両端にある導電性端部リングと共に籠形を形成する。
【0022】
さらに、充填溝に充填された導電性且つ磁気絶縁性の材料は、導電性端部リングの材料と同じものであり、好ましくは、アルミニウム又はアルミニウム合金である。
【0023】
さらに、導電性且つ磁気絶縁性の材料の充填面積の、すべての充填溝及びスリット溝の総面積に対する比は、Q2であり、0.3≦Q2≦0.7である。
【0024】
さらに、複数の独立した充填溝はさらに、どの磁極がある回転子コアの外縁にも配置され、補強リブは、隣接する独立した充填溝間に形成され、補強リブの幅はLであり、0.5σ≦L<σであり、σは、固定子と回転子コアとの間の空隙の幅である。
【0025】
さらに、q軸の下のすべてのスリット溝の全幅とq軸の下の独立した充填溝の幅との合計の、回転子コアの径方向の有効コア幅に対する比は、Q1であり、0.35≦Q1≦0.5である。
【0026】
さらに、第1の補強リブは、同じ磁気バリア層内の充填溝とスリット溝との間に配置され、第2の補強リブは、充填溝と回転子コアの外縁との間に配置される。
【0027】
さらに、第1の補強リブ及び第2の補強リブのうちの少なくとも一方の幅はL4であり、0.8σ≦L4≦3σである。
【0028】
さらに、複数の独立した充填溝が、回転子コアの周方向に間隔を置いて配置され、回転子コアの中心角αを占め、0.1τ≦α≦0.4τであり、τは極ピッチ角、τ=180°/p、pは極対の数である。
【0029】
さらに、スリット溝及びスリット溝の両端にある充填溝によって形成される、少なくとも2つの磁気バリア層がある。
【0030】
本開示の別の態様によれば、前述の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子を備えるモータが提供される。
【0031】
本開示の技術的解決策によれば、斜角縁部は、充填溝の第2の端部に、回転子コアから離れる方向に配置され、その結果、回転子コアのd軸磁束は、斜角縁部に形成された流路に沿って固定子に入るとき、急激に変化しないようになる。この配置により、モータのリラクタンス・トルク・リップルが低減され、それにより、発生する振動ノイズを低減し、d軸インダクタンス及びd軸とq軸との間の磁束差を増加させ、より大きなリラクタンス・トルクを生成し、回転子付きモータの出力トルクを増加させ、モータ効率を向上させることができる。
【0032】
本開示の一部を構成する本明細書の図面は、本開示のさらなる理解をもたらすために使用される。例示的な実施例及び実施例の説明は、本開示に対する不適切な制限を構成するものではなく、本開示を説明するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本開示による直接始動同期リラクタンス・モータ回転子の、第1の実施例の構造図である。
【
図2】本開示による直接始動同期リラクタンス・モータ回転子の、第2の実施例の構造図である。
【
図4a】関連技術における、斜角縁部のない充填溝の磁気回路の概略図である。
【
図4b】本開示による直接始動同期リラクタンス・モータ回転子の、斜角縁部を有する充填溝の磁気回路の概略図である。
【
図5】本開示及び関連技術における、モータ・トルク曲線の比較図である。
【
図6】本開示及び関連技術における、モータ始動プロセスでの速度曲線の比較図である。
【
図7】本開示による直接始動同期リラクタンス・モータ回転子の、第3の実施例の構造図である。
【
図8】本開示による直接始動同期リラクタンス・モータ回転子の、第4の実施例の構造図である。
【
図9】本開示による直接始動同期リラクタンス・モータ回転子の、第5の実施例の構造図である。
【
図10】本開示による直接始動同期リラクタンス・モータ回転子の、籠形の概略図である。
【
図11】本開示による直接始動同期リラクタンス・モータ回転子の、第6の実施例の構造図である。
【
図12】本開示による直接始動同期リラクタンス・モータ回転子の、第6の実施例の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本開示の実施例及び実施例における機能は、矛盾がない場合、互いに組み合わされ得ることに留意されたい。本開示について、図面を参照し、実施例と併せて、以下のように詳細に説明することにする。
【0035】
本明細書で使用されている用語は、特定の実施例を説明するためだけのものであり、本開示による例示的な実施例を限定することを意図するものではないことに留意されたい。本明細書で使用されている場合、文脈中に明示的に別段の指定がない限り、単数形は複数形を含むことも意図している。加えて、この明細書で「備える」及び/又は「含む」という用語が使用されている場合、機能、ステップ、動作、デバイス、構成要素、及び/又はこれらの組合せの存在を示していることを理解されたい。
【0036】
本開示の説明、特許請求の範囲、及び図面における「第1の」、「第2の」などの用語は、必ずしも特定の順序又は順番を説明するものではなく、類似の対象物を区別するために使用されることに留意されたい。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、したがって、ここに記載されている本開示の実施例は、たとえば、ここに図示又は記載されたもの以外の順序で具現化され得ることを理解されたい。加えて、「含む」及び「有する」という用語並びにそれらのどんな変形も、非排他的な包含を網羅することを意図している。たとえば、一連のステップ又はユニットを含むプロセス、方法、システム、製品、又はデバイスに関して、そのステップ又はユニットを明示的に列挙する必要はなく、また明示的に列挙されていない、又はプロセス、方法、製品、若しくはデバイスに固有の、他のステップ又はユニットも含まれ得る。
【0037】
説明の便宜上、「の上に」、「より上に」、「の上面の上に」、「を越えて」などの空間相対的な用語が、図面に示されている、1つのデバイス又は機能と他の任意のデバイス又は機能との間の空間位置関係を説明するために使用され得る。空間相対的な用語は、図面に描かれているデバイスの向きに加えて、使用中又は動作中の様々な向きを包含することを、意図していることを理解されたい。たとえば、図面内でデバイスが反転している場合、「他のデバイス又は構造より上」又は「他のデバイス又は構造の上」と記述されているデバイスが、「他のデバイス又は構造より下」又は「他のデバイス又は構造の下」となるように配置されるであろう。したがって、「より上に」という例示的な用語は、2つの向き、すなわち、「より上に」及び「より下に」を含むことができる。デバイスは、他の様々な方向に(90度回転しているか、又は他の向きに)配置することもでき、ここで使用される空間相対的な記載は、それに応じて説明されることになる。
【0038】
ここで、本開示による例示的な実施例を、図面を参照してより詳細に説明することにする。しかし、こうした例示的な実施例は、多くの様々な形態で具現化することができ、ここに記載されている実施例に限定されると解釈されるべきではない。こうした実施例は、本開示の内容を完璧且つ完全にして、こうした例示的な実施例の概念を当業者に完全に伝えるために提示されていることを理解されたい。図面では、明確にするために、層の厚さ及び面積を拡大することが可能であり、また同じ参照番号が同じデバイスを示すために使用されるので、その説明は省略されるであろう。
【0039】
図1から
図3、
図4b、及び
図5を参照すると、本開示による実施例は、直接始動同期リラクタンス・モータ回転子を提供する。
【0040】
具体的には、
図1に示されているように、回転子は、複数のスリット溝20が設けられた回転子コア10を備える。磁気バリア層を形成するために、各スリット溝20の両端に2つの充填溝30がそれぞれ配置され、充填溝30の第1の端部は、スリット溝20に隣接して配置されている。充填溝30の第2の端部は、回転子コア10の外側に向かって延びるよう配置されている。斜角縁部31は、充填溝30の少なくとも1つの第2の端部に、回転子コア10のd軸とは反対側に配置され、その結果、回転子コア10のd軸磁束は、斜角縁部31に形成された流路に沿って固定子に入るとき、急激に変化しないようになる。
【0041】
この実施例では、斜角縁部31は、充填溝30の第2の端部に、回転子コア10のd軸とは反対側に配置され、その結果、回転子コア10のd軸磁束は、斜角縁部31に形成された流路に沿って固定子に入るとき、急激に変化しないようになる。この配置により、モータのリラクタンス・トルク・リップルが低減され、それにより、発生する振動ノイズを低減し、d軸インダクタンス並びにd軸とq軸との間の磁束差を増加させ、より大きなリラクタンス・トルクを生成し、回転子付きモータの出力トルクを増加させ、モータ効率を向上させることができる。ここで、
図4aは、関連技術における斜角縁部のない磁気回路の概略図を示している。
図2に示されているように、斜角縁部は、1つの磁極の、4つの隣接する充填溝30に設けられている。もちろん、
図1に示されているように、各充填溝に斜角縁部が設けられていてもよく、又は斜角縁部は、間隔を置いて(
図7に示されているように)又は任意に配置されていてもよい。
【0042】
ここで、夾角θは、d軸とは反対側の充填溝30の側壁と、斜角縁部31との間の角度であり、125°≦θ≦165°である。夾角は、好ましくは、145°≦θ≦155°を満たしている。斜角縁部31の第1の端部から第2の端部までの距離はkであり、充填溝30の幅はwであり、0.3w≦k<wである。角度θは、d軸から離れる方向に徐々に増加する。斜角縁部31を配置することにより、モータのリラクタンスの急激な変化及びリラクタンス・トルク・リップルを低減することができ、一方、固定子に入るd軸インダクタンスを増大させることができる。
【0043】
複数のスリット溝20及び充填溝30は、
図9に示されているように、線形断面、円弧断面、及び様々な形状の組合せであってもよい。充填溝30の第2の端部は、回転子コア10の外側に向かって延び、充填溝30の第2の端部の少なくとも一部は、
図11に示されているように、回転子の外周と通じており、開口溝を形成する。開口溝の幅mは、0.1w≦m≦0.7wを満たしている。開口溝は、q軸のインダクタンスを低減し、モータのリラクタンス・トルク及びモータの効率を向上させることができる。各充填溝30は、隣接するスリット溝20と夾角に配置され、隣接する2つの充填溝30間に形成される磁気伝導流路は、d軸と平行又は夾角に配置される。夾角が小さいため、磁気伝導流路は、d軸と実質的に平行である。充填溝30の長さは、d軸に近い方向に徐々に増加する。隣接する2つの充填溝30間の距離は、d軸から離れる方向に徐々に減少する。モータ効率が効果的に向上し、またモータ始動能力が向上する。
【0044】
さらに、スリット溝20の幅は、回転子コア10の径方向外向きに徐々に減少する。q軸の下のすべてのスリット溝20の全幅とq軸の下の独立した充填溝40の幅との合計の、回転子コア10の径方向の有効コア幅に対する比は、Q1であり、0.35≦Q1≦0.5である。スリット溝20の長さは、回転子コア10の径方向外向きに徐々に減少し、隣接する2つのスリット溝20間に形成される磁気伝導流路の幅は、回転子コア10の径方向外向きに徐々に減少する。ここで、充填溝30は、導電性且つ磁気絶縁性の材料で充填され、
図10に示されているように、回転子コア10の両端にある導電性端部リング60と共に籠形を形成する。充填溝30に充填された導電性且つ磁気絶縁性の材料は、導電性端部リングの材料と同じものであり、好ましくは、アルミニウム又はアルミニウム合金であり得る。導電性で磁気絶縁性の材料の充填面積の、すべての充填溝30及びスリット溝20の総面積に対する比は、0.3から0.7であり、好ましくは、0.4から0.6である。この配置が、回転子を備えたモータの効率をさらに向上させることができ、籠形が、モータを始動させる助けとなり得、適切な充填面積が、モータの始動能力を向上させることができる。ここで、有効コア幅とは、回転子コアの内側の円から外側の円までの幅である。
【0045】
複数の独立した充填溝40はさらに、どの磁極がある回転子コア10の外縁にも配置され、補強リブ50は、隣接する独立した充填溝40間に形成され、補強リブ50の幅はLであり、0.5σ≦L<σであり、σは、固定子と回転子コア10との間の空隙の幅である。この配置により、モータのトルク・リップルを効果的に低減することができる。
図1に示されているように、3つの独立した充填溝40があり、その中に2つの補強リブ50がq軸に対して外へ広がり、対称になるよう配置されている。
図8に示されているように、複数の独立した充填溝40も全体に通じて、モータ始動能力を向上させることができる。
【0046】
ここで、
図2に示されているように、複数の独立した充填溝40が、回転子コア10の周方向に間隔を置いて配置され、回転子コア10の中心角αを占め、0.1τ≦α≦0.4τであり、τは極ピッチ角、τ=180°/p、pは極対の数である。この配置により、モータの効率を効果的に向上させ、モータの始動能力を確保することができる。
【0047】
さらに、第1の補強リブは、同じ磁気バリア層内の充填溝30とスリット溝20との間に配置され、第2の補強リブは、充填溝30と回転子の外周との間に配置される。補強リブの幅はL4であり、0.8σ≦L4≦3σである。それによって、回転子の構造強度を確保し、磁気漏れを極力低減して、モータ効率を向上させている。
【0048】
好ましくは、スリット溝20及びスリット溝の両端にある充填溝30によって形成される、少なくとも2つの磁気バリア層がある。
図1及び
図2に、4つの磁気バリア層が示されている。
【0049】
上記の実施例の回転子は、モータ・デバイスの技術分野に適用され得る。すなわち、モータは、本開示の別の態様にしたがって提供される。モータは、前述の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子を備える。
【0050】
具体的には、本開示の直接始動同期リラクタンス・モータ回転子では、斜角縁部が充填溝の端部に配置され、モータのリラクタンスの急激な変化及びリラクタンス・トルク・リップルを低減し、それによって発生する振動ノイズを低減する。斜角縁部を配置することにより、固定子に入るd軸インダクタンスが増加し、それによってモータの出力トルクを増加させることができる。
【0051】
充填溝の端部の斜角縁部を最適に設計することにより、モータのリラクタンス・トルク・リップルが低減され、それにより、発生する振動ノイズを低減し、d軸インダクタンス及びd軸とq軸との間の磁束差を増加させ、より大きなリラクタンス・トルクを生成し、モータの出力トルクを増加させ、モータ効率を向上させることができる。ここで、斜角縁部の縁部と、対応する充填溝の縁部との間の角度θは、125°≦θ≦165、好ましくは145°≦θ≦155°を満たし、斜角縁部の効果を確実にするために、適切な角度範囲が選択される。さらに、隣接する2つの充填溝間の距離はL1であり、d軸から離れる方向に徐々に減少する。スリット溝の幅はL2であり、回転子コアの中心から離れる方向に徐々に減少する。隣接する2つのスリット溝間に形成される磁気流路の幅はL3であり、回転子コアの中心から離れる方向に徐々に減少する。回転子の中心に近い磁気流路は、強力な磁場強度を有し、磁場飽和がモータの出力及び効率に影響を与えないように、磁気流路は広く設計されている。
【0052】
スリット溝及び対応する充填溝は、組み合わされて磁気バリア層を形成し、各充填溝は、モータの非同期始動を実現するために、導電性且つ磁気絶縁性の材料、好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金で充填される。磁気バリア層は、d軸とq軸との間にインダクタンス差を生成し、モータの同期運転を維持するためのリラクタンス・トルクを生成する。q軸方向の充填溝は、別個に分割された複数の充填溝で構成され、充填溝間のリブの幅はLであり、0.5σ≦L<σであり、σは、固定子コアと回転子コアとの間の空隙の幅である。充填溝はリブによって分割されており、リブの幅は、空隙の幅より小さい。充填溝及びリブにより、固定子との相互作用によって生じるリップル及びモータの振動ノイズが低減される。
【0053】
角度αは、回転子の中心に対する、q軸方向の充填溝、すなわち、独立した充填溝によって占められ、0.1τ≦α≦0.4τであり、τは極ピッチ角、すなわちτ=180°/p、pは極対の数である。好ましくは、0.25τ≦α≦0.35τである。この実施例では、pは2であり、τ=90°であるため、9°≦α≦36°、好ましくは22.5°≦α≦31.5°である。それによって、充填溝は、d軸のリラクタンスをさらに増加させ、d軸磁束を低減するための磁気バリア層として機能することができ、モータの始動性能を向上させるための始動籠形として機能することもできる。充填溝及びスリット溝は回転子周縁で対になって配置されており、回転子コアの径方向に、充填溝及びスリット溝によって形成される少なくとも2つの磁気バリア層がある。
【0054】
斜角縁部の幅kは、対応する充填溝の端部の幅wより小さい。好ましくは、0.3w≦k≦0.7wである。斜角縁部を適切な幅に設定することにより、斜角縁部の有効性を確保し、磁気漏れを低減することができる。
図4b及び
図4aは、斜角縁部がある場合と斜角縁部がない場合との、本開示におけるモータの磁場分布に与える影響の比較図である。斜角縁部が配置された後、磁場は隙間(notch)を通って徐々に固定子に転移し、それによって磁場の急激な変化を回避し、電磁トルクのピーク値を低減し、トルク・リップルを低減する目的を達成することができる。一方、隙間は、磁気流路の幅、固定子に入るd軸の磁場、及びd軸インダクタンスを増加させ、それによってモータの出力トルクを確保する。
【0055】
ここで、スリット溝の両端にある充填溝の延在する方向は、d軸磁束がd軸方向に円滑に流れることができるように、d軸と実質的に平行である。充填溝が、対応するd軸により近づくにつれて、充填溝のd軸方向に延在する長さ及び面積が増加する。反対に、充填溝が対応するd軸からより離れるにつれて、充填溝のd軸方向に延在する長さ及び面積は減少する。深く且つ狭い充填溝には表皮効果があり、不均等な充填溝は、始動プロセスでの引き込みトルクを増加させる。これは、モータの始動性能を向上させるのに有用である。
【0056】
さらに、充填溝及びスリット溝は、回転子周縁で対になって配置されている。充填溝及びスリット溝によって回転子コアの径方向に形成される、少なくとも2つの磁気バリア層があり、それによって対極及び複数の磁気バリアの層を形成し、インダクタンス・ギャップ及びリラクタンス・トルクを増加させる。
【0057】
図5は、本開示の技術及び関連技術におけるモータ・トルク曲線の比較図を示している。本開示の技術的解決策を採用することにより、モータのトルク・リップルは約半分に低減されるが、モータの平均トルクは減少せず、それによって、モータの発生する振動ノイズを低減するのに役立つ、良好な技術的効果が実現することが分かる。ここで、充填溝及びスリット溝は、直線形状に限定されるものではなく、弧の形状であってもよい。
【0058】
図6は、本開示の技術及び関連技術における、モータ始動プロセスでの速度曲線の比較図を示している。本開示のモータの始動速度はより速く、始動時間及び安定化時間はより短く、始動能力はより高いことが分かる。
図12に示されているように、Lは補強リブ50の幅、L1は隣接する2つの充填溝間に形成された磁気伝導流路の幅、L2はスリット溝の幅、L3は隣接する2つのスリット溝間に形成された磁気伝導流路の幅、L4は第1の補強リブ又は第2の補強リブの幅である。この実施例では、第1の補強リブの幅は、第2の補強リブの幅と同じであっても相異なっていてもよい。
【0059】
加えて、この明細書で言及される「1つの実施例」、「別の実施例」及び「実施例」は、この実施例に関連して説明されている具体的な機能、構造、又は特性が、本開示に全体的に説明されている少なくとも1つの実施例に含まれることを意味することに、さらに留意されたい。明細書内のいくつかの場所に現れる同じ表現は、必ずしも同じ実施例を指すとは限らない。さらに、特定の機能、構造、又は特性が、任意の実施例に関連して説明されている場合、他の任意の実施例に関連する機能、構造、又は特性の実施態様も、本開示の範囲に包含されるべきであることを主張する。
【0060】
各実施例の説明は、それ自体の強調点を有する。1つの実施例で詳述されていない部分については、他の実施例の関連する説明を参照されたい。
【0061】
上記のものは、本開示を限定するものではなく、本開示のまさに好適な実施例である。当業者は、本開示に対する様々な修正及び変更を行うことができる。本開示の精神及び原則の範囲内で行われる、あらゆる修正、同等の置換、改善などは、本開示の保護される範囲に包含されるべきである。
【符号の説明】
【0062】
10 回転子
20 スリット溝
30 充填溝
31 斜角縁部
40 独立した充填溝
50 補強リブ
60 導電性端部リング