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特許7427102既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法
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  • 特許-既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20240126BHJP
   E02D 17/18 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
E02D29/02 301
E02D17/18 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022549950
(86)(22)【出願日】2020-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-06
(86)【国際出願番号】 CN2020140898
(87)【国際公開番号】W WO2021164432
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】202010106914.1
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521455637
【氏名又は名称】中鉄二院工程集団有限責任公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】魏永幸
(72)【発明者】
【氏名】胡京濤
(72)【発明者】
【氏名】周波
(72)【発明者】
【氏名】▲チュウ▼宇光
(72)【発明者】
【氏名】謝毅
(72)【発明者】
【氏名】曽榜栄
(72)【発明者】
【氏名】劉▲ワン▼茹
(72)【発明者】
【氏名】羅程鴻
(72)【発明者】
【氏名】李睿
(72)【発明者】
【氏名】王智猛
(72)【発明者】
【氏名】張建文
(72)【発明者】
【氏名】肖杭
(72)【発明者】
【氏名】付正道
(72)【発明者】
【氏名】肖朝乾
(72)【発明者】
【氏名】薛元
(72)【発明者】
【氏名】代偉
(72)【発明者】
【氏名】呉邵海
(72)【発明者】
【氏名】肖雄
(72)【発明者】
【氏名】鄭永飛
(72)【発明者】
【氏名】李国棟
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-197604(JP,A)
【文献】特開2001-090093(JP,A)
【文献】特開2005-146849(JP,A)
【文献】特開2000-328586(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0072245(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第107882062(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110777844(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02D 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法であって、アンカー杭により既存の釣り合い重り式擁壁を補強し、前記アンカー杭のパラメータ設計は、
実際の転倒防止評価係数を導入し、釣り合い重り式擁壁の実際のモーメントモデルにおける水平応力と垂直応力の関係を説明し、ここで、前記実際のモーメントモデルの水平応力と垂直応力は、最初に設計された水平応力と垂直応力、および第1の土圧補正係数に従って取得されることと、
実際の滑り止め評価係数を導入し、釣り合い重り式擁壁の実際の応力モデルにおける水平応力と垂直応力の関係を説明し、ここで、前記実際の応力モデルにおける水平応力と垂直応力は、最初に設計された水平応力と垂直応力、および第2の土圧補正係数に従って取得されることと、
前記第1の土圧補正係数および第2の土圧補正係数に従って土圧補正係数を決定し、前記土圧補正係数で前記最初に設計された水平応力と垂直応力を補正し、実際の水平応力と実際の垂直応力を求めることと、
標転倒防止評価係数を導入し、釣り合い重り式擁壁補強後のモーメントモデルにおける実際の水平応力と実際の垂直応力の関係を説明し、目標滑り止め評価係数を導入し、釣り合い重り式擁壁補強後の応力モデルにおける実際の水平応力と垂直応力の関係を説明することと、
前記目標転倒防止評価係数と前記目標滑り止め評価係数の値に基づいて、補強後のモーメントモデルにおけるアンカー杭の応力を計算し、アンカー杭の応力に応じてアンカー杭のパラメータを取得することと、を含むことを特徴とする既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【請求項2】
前記アンカー杭は、既存の釣り合い重り式擁壁のつま先に配置され、アンカー杭は、既存の釣り合い重り式擁壁に沿って縦方向に配置され、既存の釣り合い重り式擁壁とアンカー杭とは、接続鉄筋及び高強度セメントモルタルによって整体として接続され、前記接続鉄筋と既存の釣り合い重り式擁壁とは、壁本体に穴を開けた後に注入された前記高強度セメントモルタルによって整体として接続され、前記接続鉄筋は、前記アンカー杭の鉄筋篭と溶接されて一体構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【請求項3】
前記実際の転倒防止評価係数と前記実際の滑り止め評価係数の値は、擁壁の変形と亀裂に応じて、既存の釣り合い重り式擁壁の転倒防止安定性と滑り止め安定性をそれぞれ評価して取得されることを特徴とする請求項1に記載の既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【請求項4】
前記実際の転倒防止評価係数K02
【数1】
であり、
ここで、Wは釣り合い重り式擁壁の自重重力、単位はkN/m、Wは釣り合い重り式擁壁の上壁盛土の自重重力、単位はkN/m、Zは釣り合い重り式擁壁の自重重心から転倒計算点までの水平距離、単位はm、Zw1は釣り合い重り式擁壁の上壁盛土の自重重心から転倒計算点までの水平距離、単位はm、Zは釣り合い重り式擁壁の上壁土圧の水平分力から転倒計算点までの水平距離、単位はm、Zは釣り合い重り式擁壁の上壁土圧の垂直分力から転倒計算点までの垂直距離、単位はm、Zx1は釣り合い重り式擁壁の下壁土圧の水平分力から転倒計算点までの水平距離、単位はm、Zy1は釣り合い重り式擁壁の下壁土圧の垂直分力から転倒計算点までの垂直距離、単位はmであり、E’は上壁の実際土圧の水平分力、単位はkN/mであり、E’は上壁の実際土圧の垂直分力、単位はkN/mであり、E’x1は下壁の実際土圧の水平分力、単位はkN/mであり、E’y1は下壁の実際土圧の垂直分力、単位はkN/mであることを特徴とする請求項3に記載の既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【請求項5】
前記第1の土圧補正係数Ψ1
【数2】
であることを特徴とする請求項4に記載の既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【請求項6】
前記滑り止め評価係数KC2
【数3】
であり、
ここで、θは既存の釣り合い重り式擁壁の底と水平面との間の夾角、fはベース摩擦係数であることを特徴とする請求項5に記載の既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【請求項7】
第2の土圧補正係数Ψ2
【数4】
であることを特徴とする請求項6に記載の既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【請求項8】
前記目標転倒防止評価係数Kop
【数5】
であり、
前記目標滑り止め評価係数Kcp
【数6】
であり、
ここで、Mは、アンカー杭から既存の釣り合い重り式擁壁のつま先への作用曲げモーメント、単位は(kN.m/m)、Fは、アンカー杭から既存の釣り合い重り式擁壁のつま先への作用力、単位は(kN/m)であり、Ψは、土圧補正係数であることを特徴とする請求項7に記載の既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【請求項9】
前記目標転倒防止評価係数の値は
【数7】
であり、
ここで、
【数8】
であり、
γ1は構造的重要性係数であり、1.1以上であり、γ2は施工総合影響係数、1.0以上であり、
前記目標滑り止め評価係数の値が
【数9】
であり、
ここで、
【数10】
であることを特徴とする請求項8に記載の既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【請求項10】
前記アンカー杭の応力は、アンカー杭の合力F’と、合力の作用点と壁のつま先との間の距離hを含み、
【数11】
であり、
ここで、lはアンカー杭の中心の水平方向の間隔、単位はmであることを特徴とする請求項9に記載の既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤工学の技術分野、特に既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤工学では、路床の盛土や丘の中腹の土体が崩壊するのを防ぐために土体の側圧に耐えるように構築された壁構造は、擁壁と呼ばれる。擁壁は、堤防の盛土や切土斜面、及び橋台、トンネルの開口部と川の堤防などをサポートするために広く使用されている。壁の裏側の傾斜状況に応じて、擁壁は下部傾斜式擁壁、上部傾斜式擁壁、垂直式擁壁、釣り合い重り式擁壁などに分けることができる。そのうち、釣り合い重り式擁壁とは、釣り合い重りプラットフォームの上部にある盛土の重力を利用して壁の重心を後方に移動し、土体の側圧に抵抗する擁壁を指し、法面つけ効果が高いため、盛土に広く使用されている。
【0003】
しかし、釣り合い重り式擁壁を実際に使用する際には、地震、雨水浸食、地質条件の変化などの自然要因及び初期施工時の人的要因の影響を受けやすく、特定の滑り変形やキャンバー変形の損害が発生し、釣り合い重り式擁壁に滑り抵抗性または転倒抵抗性の安定性が低下になる。釣り合い重り式擁壁の上方の鉄道や道路や公共工事などの主要プロジェクトの通常の使用と運営を保護するために、対処する必要があることが多く、エンジニアリングでは、擁壁を解体して再構築または厚くする方法がよく使用される。解体と再構築は問題を完全に解決することができるが、それはしばしば既存のエンジニアリングプロジェクトの通常の運営に影響を与え、投資は大きく、経済的および社会的利益は乏しく、擁壁を厚くすることは、擁壁の外側に新しい擁壁を作成する(例えば特許文献1)ことが多いものの、保守性のために、新しい擁壁は通常、設計時に既存の擁壁の作用を考慮せず、新しい擁壁にすべての荷重をかける。
【0004】
釣り合い重り式擁壁には、ある程度の滑り変形やキャンバー変形があるが、完全に潰れたり破壊されたりすることはなく、短時間で使用でき、ある程度の支持力がある。新しい擁壁を構築する従来の方法では、既存の擁壁の支持力はまったく考慮されていないため、経済性が低く、エンジニアリング投資が無駄になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】中国特許出願公開CN105604088A号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、既存の釣り合い重り式擁壁を補強する際に既存の釣り合い重り式擁壁の支持力が考慮されず、結果として経済性が低下するという従来技術に存在する問題を克服するために、既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法を提供し、安全性を確保することを前提として経済性を改善し、エンジニアリング投資を節約することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
既存の釣り合い重り式擁壁の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法であって、アンカー杭により既存の釣り合い重り式擁壁を補強し、ここで、前記アンカー杭のパラメータ設計は、
実際の転倒防止評価係数を導入し、釣り合い重り式擁壁の実際のモーメントモデルにおける水平応力と垂直応力の関係を説明し、ここで、前記実際のモーメントモデルの水平応力と垂直応力は、最初に設計された水平応力と垂直応力、および第1の土圧補正係数に従って取得されることと、
実際の滑り止め評価係数を導入し、釣り合い重り式擁壁の実際の応力モデルにおける水平応力と垂直応力の関係を説明し、ここで、前記実際の応力モデルにおける水平応力と垂直応力は、最初に設計された水平応力と垂直応力、および第2の土圧補正係数に従って取得されることと、
前記第1の土圧補正係数および第2の土圧補正係数に従って土圧補正係数を決定し、前記土圧補正係数で前記最初に設計された水平応力と垂直応力を補正し、実際の水平応力と実際の垂直応力を求めることと、
標転倒防止評価係数を導入し、釣り合い重り式擁壁補強後のモーメントモデルにおける実際の水平応力と実際の垂直応力の関係を説明し、目標滑り止め評価係数を導入し、釣り合い重り式擁壁補強後の応力モデルにおける実際の水平応力と垂直応力の関係を説明することと、
前記目標転倒防止評価係数と前記目標滑り止め評価係数の値に基づいて、補強後のモーメントモデルにおけるアンカー杭の応力を計算し、アンカー杭の応力に応じてアンカー杭のパラメータを取得することと、を含む。
【0008】
好ましくは、前記アンカー杭は、既存の釣り合い重り式擁壁のつま先に配置され、アンカー杭は、既存の釣り合い重り式擁壁に沿って縦方向に配置され、既存の釣り合い重り式擁壁とアンカー杭は、接続鉄筋及び高強度セメントモルタルによって整体として接続され、前記接続鉄筋と既存の釣り合い重り式擁壁とは、壁本体に穴を開けた後に注入された前記高強度セメントモルタルによって整体として接続され、前記接続鉄筋は、前記アンカー杭の鉄筋篭と溶接されて一体構造を形成する。
【0009】
好ましくは、前記実際の転倒防止評価係数と前記実際の滑り止め評価係数の値は、擁壁の変形と亀裂に応じて、既存の釣り合い重り式擁壁の転倒防止安定性と滑り止め安定性をそれぞれ評価して取得される。
【0010】
好ましくは、前記実際の転倒防止評価係数K02
【数1】
であり、
ここで、Wは釣り合い重り式擁壁の自重重力であって単位がkN/mであり、Wは釣り合い重り式擁壁の上壁盛土の自重重力であって単位がkN/m、Zは釣り合い重り式擁壁の自重重心から転倒計算点までの水平距離であって単位がmであり、Zw1は釣り合い重り式擁壁の上壁盛土の自重重心から転倒計算点までの水平距離であって単位がmであり、Zは釣り合い重り式擁壁の上壁土圧の水平分力から転倒計算点までの水平距離であって単位がmであり、Zは釣り合い重り式擁壁の上壁土圧の垂直分力から転倒計算点までの垂直距離であって単位がmであり、Zx1は釣り合い重り式擁壁の下壁土圧の水平分力から転倒計算点までの水平距離であって単位がmであり、Zy1は釣り合い重り式擁壁の下壁土圧の垂直分力から転倒計算点までの垂直距離であって単位がmであり、E’は上壁の実際土圧の水平分力であって単位がkN/mであり、E’は上壁の実際土圧の垂直分力であって単位がkN/mであり、E’x1は下壁の実際土圧の水平分力であって単位がkN/mであり、E’y1は下壁の実際土圧の垂直分力であって単位がkN/mである。
【0011】
好ましくは、前記第1の土圧補正係数Ψ1
【数2】
である。
【0012】
好ましくは、前記滑り止め評価係数KC2
【数3】
であり、
ここで、θは既存の釣り合い重り式擁壁の底と水平面との間の夾角、fはベース摩擦係数である。
【0013】
好ましくは、第2の土圧補正係数Ψ
【数4】
である。
【0014】
好ましくは、前記目標転倒防止評価係数Kop
【数5】
であり、
前記目標滑り止め評価係数Kcp
【数6】
であり、
ここで、Mはアンカー杭から既存の釣り合い重り式擁壁のつま先への作用曲げモーメントであって単位が(kN.m/m)であり、Fはアンカー杭から既存の釣り合い重り式擁壁のつま先への作用力であって単位が(kN/m)であり、Ψは土圧補正係数である。
【0015】
好ましくは、
前記目標転倒防止評価係数の値は
【数7】
であり、ここで、
【数8】
であり、γ1は構造的重要性係数であって1.1以上であり、γは施工総合影響係数であって1.0以上であり、
前記目標滑り止め評価係数の値が
【数9】
であり、ここで、
【数10】
である。
【0016】
好ましくは、前記アンカー杭の応力は、アンカー杭の合力F’と、合力の作用点と壁のつま先との間の距離hを含み、
【数11】
であり、ここで、lはアンカー杭の中心の水平方向の間隔であって単位がmである。
【発明の効果】
【0017】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0018】
本発明は、既存の釣り合い重り式擁壁のまだ保持されている部分的な支持力を十分に考慮し、既存の釣り合い重り式擁壁の前にアンカー杭で補強した後、既存の擁壁の抵抗力が向上し、構造物の滑り止めと転倒防止の安全性が向上し、既存の釣り合い重り式擁壁と新設のアンカー杭の応力に応じてアンカー杭のサイズを設計し、既存の技術と比較して、アンカー杭が分担する負荷が軽減され、アンカー杭のサイズが最適化され、したがって、安全性を確保することを前提として、プロジェクトへの投資が削減され、経済性が改善される。且つ、アンカー杭と釣り合い重り式擁壁とは鉄筋でアンカーされており一つの全体を形成し、優れた構造的整体性と耐震性能を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のステップフロー概略図である。
図2】既存の釣り合い重り式擁壁の最初に設計された応力概略図である。
図3】既存の釣り合い重り式擁壁の施工と運営後の実際の応力概略図である。
図4】補強後の既存の釣り合い重り式擁壁とアンカー杭の荷重概略図である。
図5】既存の釣り合い重り式擁壁アンカー杭補強構造の断面概略図である。
図6】既存の釣り合い重り式擁壁アンカー杭補強構造の立面概略図である。
図7】既存の釣り合い重り式擁壁実例の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、試験例および発明を実施するための形態を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。本発明の前述の主題の範囲が以下の実施例に限定されることを理解されるべきではなく、本発明の内容に基づいて実施されるすべての技術が本発明の範囲に属する。
【実施例
【0021】
(実施例1)
本発明により提供された既存の釣り合い重り式擁壁1の滑り止めおよび転倒防止の安全性を改善するための方法は図1に示すように、以下のステップを含む。
【0022】
S100安全性評価の方法と手段により、既存の釣り合い重り式擁壁1の転倒防止安定性を評価し、転倒防止安定性評価安全係数、すなわち実際の転倒防止評価係数K02を取得し、既存の釣り合い重り式擁壁1の滑り止め安定性を評価し、滑り止め安定性評価安全率、すなわち実際の滑り止め評価係数KC2を取得した。
【0023】
S200釣り合い重り式擁壁1の構造と実際の転倒防止評価係数および実際の滑り止め評価係数により、土圧補正係数を取得し、
工学的経験と土圧理論によれば、図2図3図4、および図5に示すように、土圧の作用点と作用方向は変化しないが、大きさのみが変化すると想定された。土体破壊モードは単純なくさび破壊であるため、(式1)に示すように、釣り合い重り式擁壁1の実際の土圧は、設計された土圧に対する均一な変化として簡略化でき、
【数12】
【0024】
式中:
Ψ--土圧補正係数
--上壁設計土圧水平分力(kN/m)
--上壁設計土圧垂直分力(kN/m)
x1--下壁設計土圧水平分力(kN/m)
y1--下壁設計土圧垂直分力(kN/m)
E’--上壁実際土圧水平分力(kN/m)
E’--上壁実際土圧垂直分力(kN/m)
E’x1--下壁実際土圧水平分力(kN/m)
E’y1--下壁実際土圧垂直分力(kN/m)
【0025】
現場の既存の釣り合い重り式擁壁1の実際の転倒防止評価係数K02に従って土圧補正係数Ψを計算した。
【0026】
【数13】
【0027】
(式1)と(式2)を合わせて、(式3)に示すように土圧補正係数Ψを求めた。
【0028】
【数14】
【0029】
式中:
W--自重重力(kN/m)
--上壁盛土自重重力(kN/m)
--自重重心から転倒計算点(壁のつま先)までの水平距離(m)
w1--上壁盛土の自重重心から転倒計算点までの水平距離(m)
--釣り合い重り式擁壁1の上壁土圧の水平分力から転倒計算点までの水平距離(m)
--上壁土圧の垂直分力から転倒計算点までの垂直距離(m)
x1--下壁土圧の水平分力から転倒計算点までの水平距離(m)
y1--下壁土圧の垂直分力から転倒計算点までの垂直距離(m)
【0030】
その他のパラメータの意味については、(式1)を参照することになった。
【0031】
現場の既存の釣り合い重り式擁壁1の実際の滑り止め評価係数KC2に従って、土圧補正係数Ψを計算した。
【0032】
【数15】
【0033】
(式1)と(式4)を合わせて、(式5)に示すように土圧補正係数Ψを求めた。
【0034】
【数16】
【0035】
式中:
θ--壁の底と水平面の間の夾角
f--ベース摩擦係数
【0036】
その他のパラメータの意味については、(式1)及び(式2)を参照することになった。
【0037】
(式6)に示すように、(式3)と(式5)の大きい方の値を土圧補正係数Ψ(1.0以上)として使用した。
【0038】
【数17】
【0039】
(式1)に土圧補正係数Ψを代入して、上壁の実際の土圧の水平分力E’、上壁の実際の土圧の垂直分力E’、下壁の実際の土圧の水平分力E’x1、および下壁の実際の土圧の垂直分力E’y1を取得できる。
【0040】
S300アンカー杭2を、転倒防止評価係数と滑り防止評価係数が目標値に達するように増やし、土圧補正係数に従ってアンカー杭2の応力状態を求め、
既存の釣り合い重り式擁壁1の前にアンカー杭2を設置した後、既存の擁壁の抵抗が向上し、擁壁の転倒防止安定性と滑り止め安定性の係数はいずれも向上した。土圧は客観的に存在し、擁壁への施工による干渉が少ないことから、アンカー杭2の設置後、既存の擁壁の後ろに存在している土圧が変化していないと考えられる。
【0041】
目標の転倒防止評価係数Kopに従って、アンカー杭2から既存の釣り合い重り式擁壁1のつま先に対する作用曲げモーメントを計算した。
【0042】
【数18】
【0043】
式中:M--アンカー杭2から既存の釣り合い重り式擁壁1のつま先に対する作用曲げモーメント(kN.m/m)
01--最初に設計された転倒防止評価係数、
γ--構造的重要性係数であって1.1以上であり、
γ--施工総合影響係数であって1.0以上であり、
【0044】
その他のパラメータの意味については、(式1)及び(式3)を参照し
(式7)、(式8)及び(式9)を同時に、(式10)に示すように、アンカー杭2から既存の釣り合い重り式擁壁1のつま先に対する作用曲げモーメントMを得て
【数19】
【0045】
目標の滑り止め評価係数Kcpに従って、アンカー杭2から既存の釣り合い重り式擁壁1のつま先にかかる作用力Fを計算した。
【0046】
【数20】
【0047】
式中:F--アンカー杭2から既存の釣り合い重り式擁壁1のつま先に対する作用力(kN/m)
C1--最初に設計された滑り止め評価係数、
γ--構造的重要性係数、1.1以上であり、
γ--施工総合影響係数、1.0以上であり、
θ--既存の釣り合い重り式擁壁1の底と水平面との間の夾角
f--ベース摩擦係数
【0048】
その他のパラメータの意味については、(式1)及び(式3)を参照し
(式11)と(式12)を同時に、(式13)に示すように、アンカー杭2から既存の釣り合い重り式擁壁1のつま先にかかる作用力Fを得て
【数21】
【0049】
さらに、(式14)および(式15)に示すように、アンカー杭2の受ける既存の釣り合い重り式擁壁1の合力および合力作用点を計算し、最後にアンカー杭2応力を得た。
【0050】
【数22】
【0051】
ここで:
【数23】
【0052】
式中:F’--アンカー杭2が受けた、既存の釣り合い重り式擁壁1の水平的推力の合力(kN)、
--水平的推力の合力作用点から壁のつま先までの垂直距離(m)、
--アンカー杭2のパイル中心の水平方向の間隔(m)、
Ψ--土圧補正係数、
γ--構造的重要性係数、1.1以上であり、
γ--施工総合影響係数、1.0以上であり、
θ--既存の釣り合い重り式擁壁1の底と水平面との間の夾角、
f--ベース摩擦係数。
【0053】
S400アンカー杭2の応力状況に応じて、アンカー杭2のサイズを設計し、
アンカー杭2の合力F’と、合力の作用点から壁のつま先までの距離hが得られた後、従来のアンカー杭2の計算に従って杭のサイズを設計できる。
【0054】
(実施例2)
図7に示すように、ある単線のクラスI鉄道盛土の既存の釣り合い重り式擁壁1が知られ、該擁壁の高さは4.0m、根入れ深さは1.4mであり、具体的な構造サイズは以下のとおりである。天端の幅は0.6m、プラットフォームの幅は0.4m、壁の斜面の勾配は1:0.05、上壁の裏の斜面の勾配は1:0.45、下壁の裏の斜面は1:0.25、壁のつま先ステップの幅は0.2m、壁のつま先ステップの高さは0.4m、壁のつま先ステップの勾配は壁の斜面の勾配と同じであり、壁底の勾配は0.200:1であり、ベース摩擦係数fは0.35である。
【0055】
安全性評価の方法と手段(変形と亀裂に応じて評価)に従って、既存の釣り合い重り式擁壁1の転倒防止と滑り止めの安定性を評価し、それぞれ実際の転倒防止評価係数と実際の滑り止め評価係数K02=1.4およびKC2=1.1を得た。
【0056】
最初に設計された書類によると、設計された既存の釣り合い重り式擁壁1は、擁壁の自重W=129.813kN/m、上壁盛土の自重W=23.742kN、上壁の設計土圧の水平分力E=22.962kN/m、上壁の設計土圧の垂直分力E=21.985kN、下壁の設計土圧の水平分力Ex1=56.763kN、下壁の設計土圧の垂直分力Ey1=3.436kNであり、自重重心から転倒計算点(壁のつま先)までの水平距離Z=0.986m、上壁盛土の自重中心から転倒計算点までの水平距離Zw1=1.661m、上壁の土圧の水平分力から転倒計算点までの水平距離Z=2.024m、上壁土圧の垂直分力から転倒計算点までの垂直距離Z=3.026m、下壁の土圧の水平分力から転倒計算点までの水平距離Zx1=1.749m、下壁土圧の垂直分力から転倒計算点までの垂直距離Zy1=0.918である。
【0057】
現場の既存の釣り合い重り式擁壁1の実際の転倒防止評価係数K02=1.4、および既存の釣り合い重り式擁壁1の実際の滑り止め評価係数KC2=1.1と組み合わせると、土圧補正係数Ψが得られ、(式16)に示す。
【0058】
【数24】
【0059】
既存の釣り合い重り式擁壁1の前にアンカー杭2を設置した後、既存の擁壁の抵抗が向上し、その結果、転倒防止と滑り止めの安定性が向上した。該鉄道プロジェクトの構造的重要性係数γ=1.1、施工総合影響係数γ=1.1。アンカー杭2の上部と壁のつま先との間の垂直距離はh=4.0mであり、アンカー杭2の中心間の距離はl=4.0mとした。
【0060】
最初に設計された状況と組み合わせて、最初に設計された滑り止め評価係数を計算した
【0061】
【数25】
【0062】
さらに、(式18)および(式19)に示すように、アンカー杭2が受けた既存の釣り合い重り式擁壁1の合力作用力F’と、合力作用点から壁のつま先までの高さhを計算した。
【0063】
【数26】
【0064】
現場での施工、施工プロセスのステップは次のとおりである。
【0065】
1.既存の釣り合い重り式擁壁1の防爆仕切り側壁にドリルで穴を開け、接続鉄筋3を挿入し、グラウト注入に高強度セメントモルタル4を使用してシールした。
2.既存の釣り合い重り式擁壁1のつま先の外側にある杭穴を掘削し、鉄筋篭5を吊り上げ・取付し、接続鉄筋3と鉄筋篭5を全体に接続した。
3.垂直型枠でアンカー杭22を打設した。
ステップ1~3を繰り返して、次のアンカー杭2を作成し、または、ステップ1~3に従って、次のアンカー杭2を同時に作成することもでき(ただし、杭は間隔的に作成する必要がある)、図6に示すように、施工が完了するまで停止した。
【0066】
従来の設計では、既存の釣り合い重り式擁壁1の支持効果は考慮されていない。比較分析により、既存の釣り合い重り式擁壁1の支持効果を考慮しない場合、アンカー杭2の壁のつま先以上の部分の合力は277.213kN、アンカー杭2の壁のつま先以上の部分の曲げモーメントは522.917kN.mであり、既存の釣り合い重り式擁壁1の支持効果を考慮した後、アンカー杭2の壁のつま先の以上の部分の合力F=445.986kN、アンカー杭2の壁のつま先以上の部分の曲げモーメントM=680.189kN.mであることがわかる。この方法を使用した後、作用力Fが37.8%減少し、作用曲げモーメントMが23.1%減少し、アンカー杭2の荷重が大幅に減少し、アンカー杭2のサイズと長さが減少し、経済性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
上記は、本発明の限定ではなく、本発明の特定の実施形態の詳細な説明にすぎない。本発明の原理および範囲から逸脱することなく、当業者によって行われた様々な置換、修正および改善は、本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0068】
1-既存の釣り合い重り式擁壁
2-アンカー杭
3-接続鉄筋
4-高強度セメントモルタル
5-鉄筋篭
6-地上線
7-本体構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7