(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】ポリ(フェニレンエーテル)組成物、その製造法、およびそれから製造した物品
(51)【国際特許分類】
C08L 71/12 20060101AFI20240126BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20240126BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20240126BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20240126BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240126BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240126BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
C08L71/12
C08K5/521
C08K7/14
C08L25/04
C08L53/02
C08K3/22
C08K3/32
(21)【出願番号】P 2022555711
(86)(22)【出願日】2021-01-11
(86)【国際出願番号】 IB2021050177
(87)【国際公開番号】W WO2021186252
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-09-14
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521198963
【氏名又は名称】エスエイチピーピー グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キルティ シャルマ
【審査官】山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533925(JP,A)
【文献】特表2017-514970(JP,A)
【文献】特開2018-090656(JP,A)
【文献】特表2015-527476(JP,A)
【文献】特表2011-524440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08;C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記組成物が、
3から70質量%の、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体とポリ(フェニレンエーテル)とを含むポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、
0から70質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、
5から20質量%の有機リン酸エステルと、
3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、
15から30質量%の高衝撃ポリスチレン、
3から10質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体、または
これらの組み合わせ、
より選ばれる耐衝撃性改良剤と、
必要に応じて、
1から5質量%の二酸化チタン、
1から5質量%のヒドロキシアパタイト(hydroxyl apatite)、または
これらの組み合わせ、
とを含み、
前記ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物の存在量が30質量%以上である場合、前記耐衝撃性改良剤が、15から30質量%の高衝撃ポリスチレンであり、
前記耐衝撃性改良剤が、前記水素化ブロック共重合体を含んでいる場合、前記ポリ(フェニレンエーテル)組成物が、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせを含み、
それぞれの前記成分の質量%が、前記ポリ(フェニレンエーテル)組成物の総質量に対してであることを特徴とする組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記ポリ(フェニレンエーテル)組成物が、
23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.5mm試験片(test bars)を用いた測定で、V0のUL 94燃焼性等級(flammability rating)と、
250ボルト以上の比較トラッキング指数(comparative tracking index)と
を示すことを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項
1に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記組成物が、更に、
0から0.2質量%のアンチドリップ剤、
0.5から2質量%の黒色着色剤、
0から2質量%の離型剤、
0から1質量%の安定剤、および
1から5質量%の炭化水素樹脂、
の1つ以上を含むことを特徴とする組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、 第2ポリ(フェニレンエーテル)が存在し、前記第2ポリ(フェニレンエーテル)が、ウベローデ粘度計を使用した、クロロホルム中25℃での測定で、0.3から0.6デシリットル/グラム(dL/g
)の固有粘度を持つ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)を含むことを特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、 前記有機リン酸エステルが、レゾルシノール=ビス(リン酸ジフェニル)、ビスフェノールA=ビス(リン酸ジフェニル)、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、 15から30質量%の高衝撃ポリスチレンを含むことを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記組成物が、
3から10質量%の、スチレンと共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、
1から5質量%の二酸化チタン、1から5質量%のヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせと、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記組成物が、
3から28質量%の、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体とポリ(フェニレンエーテル)とを含むポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、
0から70質量%の、前記第2ポリ(フェニレンエーテル)と、
5から20質量%の、前記有機リン酸エステルと、
3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、
15から30質量%の高衝撃ポリスチレン、または
3から10質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体、
より選ばれる耐衝撃性改良剤と、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記組成物が、
3から70質量%の、前記ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、
0から30質量%の、前記第2ポリ(フェニレンエーテル)と、
7から20質量%の、前記有機リン酸エステルと、
5から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、
15から30質量%の高衝撃ポリスチレンと、
0から0.2質量%のアンチドリップ剤と、
必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤と、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記組成物が、
5から25質量%の、前記ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、
38から68質量%の、前記第2ポリ(フェニレンエーテル)と、
10から15質量%の、前記有機リン酸エステルと、
3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、
3から10質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、
1から5質量%の炭化水素樹脂と、
0から0.3質量%のアンチドリップ剤と、
0から2質量%の離型剤と、
0から1質量%安定剤と、
1から5質量%の、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせと、
必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤と、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項11】
請求項1に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記組成物が、
5から20質量%の、前記ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、
40から65質量%の、前記第2ポリ(フェニレンエーテル)と、
10から15質量%の、前記有機リン酸エステルと、
5から10質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、
3から8質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、
0から0.3質量%のアンチドリップ剤と、
0から2質量%の離型剤と、
0から1質量%の安定剤と、
1から5質量%の、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせと、
必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤と、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項12】
請求項1に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記組成物が、
5から20質量%の、前記ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、
40から65質量%の、前記第2ポリ(フェニレンエーテル)と、
10から15質量%の、前記有機リン酸エステルと、
3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、
3から8質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、
1から5質量%のヒドロキシアパタイトと、
1から5質量%の二酸化チタンと、
0から0.3質量%のアンチドリップ剤と、
0から2質量%の離型剤と、
0から1質量%の安定剤と、
必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤と、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、
前記ポリ(フェニレンエーテル)組成物が、
23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.5mm試験片を用いた測定で、V0のUL 94燃焼性等級と、
250ボルト以上の比較トラッキング指数と、
必要に応じて、
23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.0mm試験片を用いた測定で、V0のUL 94燃焼性等級、
ISO 180による測定で、7kJ/m
2以上の、ノッチ付きアイゾット衝撃強さ、
ISO 1133またはASTM D1238による、280℃、10kg荷重での測定で、14cm
3/10分以上のメルトボリュームレート(melt volume rate)、および、
ISO 75/fまたはASTM D648による測定で、120℃以上の荷重たわみ温度(heat deflection temperature)、
の1つ以上と、
を示すことを特徴とする組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物を製造する方法であって、前記製造法が、前記組成物の成分を溶融混合する工程を含むことを特徴とする製造法。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか1項に記載のポリ(フェニレンエーテル)組成物を含
むことを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ポリ(フェニレンエーテル)組成物、その製造法、およびそれから製造した物品に関する。
【0002】
本願は、2020年3月20日出願、欧州特許出願第20164551.2号に対する優先権およびその利益を主張するものであり、その内容は全て本件に引用して援用する。
【背景技術】
【0003】
ポリ(フェニレンエーテル)は、その優れた耐水性、寸法安定性、および固有難燃性で知られている。多種多様の消費者および工業製品、例えば、配管設備(plumbing fixtures)、電気筐体(electrical boxes)、自動車部品、ワイヤおよびケーブル用絶縁材の要求に合わせるため、様々な他のプラスチックと混ぜ合わせて、強度、剛性、耐薬品性、耐熱性などの特性を調整することができる。
【0004】
ポリ(フェニレンエーテル)系組成物の一部の用途では、高い電気抵抗が必要である。例として、電子工学、自動車、および家電工業の成形品が挙げられる。多くの用途でも、良好な燃焼性(特に、薄肉用途(thin-walled applications)で)、剛性、耐熱性、耐薬品性、低い密度、高い衝撃強さなどの特性と併せて、高い電気抵抗が必要である。既知の組成物は、これらの基準の1つ以上には対応しているが、これらの特性を全て併せ持った組成物はまだない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、高い耐熱性を保ちながら、V0のUL 94等級を示す、ポリ(フェニレンエーテル)含有組成物が求められている。好ましい電気抵抗を示す組成物となるものであれば更に有益と考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成物は、3から70質量%の、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体とポリ(フェニレンエーテル)とを含むポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、0から70質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、5から20質量%の有機リン酸エステルと、3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、15から30質量%の高衝撃ポリスチレン、3から10質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体、またはこれらの組み合わせより選ばれる耐衝撃性改良剤と、必要に応じて、1から5質量%の二酸化チタン、1から5質量%のヒドロキシアパタイト(hydroxyl apatite)、またはこれらの組み合わせとを含み、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物の存在量が30質量%以上である場合、耐衝撃性改良剤は15から30質量%の高衝撃ポリスチレンであり、耐衝撃性改良剤が水素化ブロック共重合体を含んでいる場合、ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせを含み、それぞれの成分の質量%は、ポリ(フェニレンエーテル)組成物の総質量に対してである。
【0007】
ポリ(フェニレンエーテル)組成物を製造する方法であって、この製造法は、組成物の成分を溶融混合する工程を含む。
【0008】
物品であって、この物品は、ポリ(フェニレンエーテル)組成物を含む。
【0009】
上記およびその他の特徴の例を、以下の詳細な記述で説明する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発明者は、特定の量の、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体とポリ(フェニレンエーテル)とを含むポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、有機リン酸エステルと、ガラス繊維を含む補強充填剤と、高衝撃ポリスチレン、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体、またはこれらの組み合わせである耐衝撃性改良剤と、必要に応じて、第2ポリ(フェニレンエーテル)と、必要に応じて、1から5質量%の二酸化チタン、1から5質量%のヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせと、を含むポリ(フェニレンエーテル)組成物が、有益な特性の組み合わせを示すことを思いがけず発見した。例えば、この組成物は、バランスの良い、難燃性(即ち、厚さ1.5、1.0mmで、V0の、または、厚さ0.75mmでV1の、UL 94燃焼性等級を達成)、耐熱性、耐薬品性(例えば、LiPF6などのリチウムイオン電池電解質に対して)、PLC 2の比較トラッキング指数(comparative tracking index)等級、低い密度、改善された衝撃強さを示すことができる。この組成物は、様々な物品の製造に特に有用と考えられる。物品の例としては、電気自動車バッテリモジュール、バッテリハウジング、バッテリケース、バッテリセルフレーム、バッテリセルスペーサ、バッテリセルリテーナ、バスバーホルダ、端子カバー、電気または電子部品、熱硬化性回路遮断器、電子写真複写機の定着ローラホルダ、光起電接続箱、光起電コネクタ、電気コネクタ、自動車用電気コネクタ、継電器、充電カプラ(charge coupler)、電気器具部品(appliance component)、自動車用部品、ポータブルデバイス、携帯電話部品(mobile component)、または固定型電気部品(stationary electrical component)が挙げられる(但し、これらに限定しない)。本願に開示されている組成物は、ポリ(フェニレンエーテル)ホモポリマ系の組成物よりも優れており、また、V0のUL 94燃焼性等級を必要とする用途で使用される他の材料、例えば、ハロゲン化難燃剤を使うことの多い、ガラス充填ポリ(エチレンテレフタレート)組成物およびガラス充填ポリ(ブチレンテレフタレート)組成物よりも優れている。本組成物は、望ましいV0等級を達成するために、ハロゲン化難燃剤を必要としない。
【0011】
従って、本願に開示されている態様の1つは、ポリ(フェニレンエーテル)組成物である。この組成物は、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体とポリ(フェニレンエーテル)(ポリシロキサンブロックを組み入れていない)とを含むポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物を含んでいる。このポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物を、略して、文中で“反応生成物”と呼ぶことがある。ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンとの混合物の酸化重合により合成する。この酸化重合では、望ましい生成物としてポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体が、副生成物としてポリ(フェニレンエーテル)が生成する。必要に応じて本組成物中に存在し、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物に由来しない“第2ポリ(フェニレンエーテル)”と区別するため、反応生成物中に存在するこのポリ(フェニレンエーテル)を、文中で“第1ポリ(フェニレンエーテル)”と呼ぶことがある。第1ポリ(フェニレンエーテル)とポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体とを分けることは困難であり、またその必要もない。このため、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体は、第1ポリ(フェニレンエーテル)とポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体の両方を含む“ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物”として、本発明の組成物に組み入れることができる。
【0012】
ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体は、ポリ(フェニレンエーテル)ブロックとポリシロキサンブロックとを含む。ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)ブロックは、次の構造式で示される、フェニレンエーテル繰り返し単位を含む。
【0013】
【化1】
式中、それぞれの繰り返し単位において、それぞれのZ
1は独立して、ハロゲン、非置換または置換C
1~12ヒドロカルビル(但し、ヒドロカルビル基は第三級ヒドロカルビルではない)、C
1~12ヒドロカルビルチオ、C
1~12ヒドロカルビルオキシ、またはC
2~12ハロヒドロカルビルオキシ(ハロゲンおよび酸素原子は少なくとも2つの炭素原子で隔てられている)であり、それぞれのZ
2は独立して、水素、ハロゲン、非置換または置換C
1~12ヒドロカルビル(但し、ヒドロカルビル基は第三級ヒドロカルビルではない)、C
1~12ヒドロカルビルチオ、C
1~12ヒドロカルビルオキシ、またはC
2~12ハロヒドロカルビルオキシ(ハロゲンおよび酸素原子は少なくとも2つの炭素原子で隔てられている)である。ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)ブロックは、2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル繰り返し単位、即ち、次の構造式で示される繰り返し単位
【化2】
、2,3,6-トリメチル-1,4-フェニレンエーテル繰り返し単位、またはこれらの組み合わせを含む。
【0014】
ある態様において、ポリシロキサンブロックは、次の構造式で示される繰り返し単位を含む。
【0015】
【化3】
式中、R
1およびR
2は出現毎に、独立して、水素、C
1~12ヒドロカルビル、またはC
1~12ハロヒドロカルビルであり、ポリシロキサンブロックは更に、次の構造式で示される末端単位を含む。
【化4】
式中、Yは、水素、C
1~12ヒドロカルビル、C
1~12ヒドロカルビルオキシ、またはハロゲンであり、R
3およびR
4は出現毎に、独立して、水素、C
1~12ヒドロカルビル、またはC
1~12ハロヒドロカルビルである。ある態様において、ポリシロキサン繰り返し単位は、ジメチルシロキサン(-Si(CH
3)
2O-)単位を含む。ある態様において、ポリシロキサンブロックは次の構造式で示される。
【化5】
式中、nは、平均して20から60である。
【0016】
ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンは、少なくとも1つのヒドロキシアリール末端基を含んでいる。ある態様において、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンは1つのヒドロキシアリール末端基を持ち、この場合、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンジブロック共重合体が生成する。ある態様において、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンは2つのヒドロキシアリール末端基を持ち、この場合、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンジブロック共重合体、および/または、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサン-ポリ(フェニレンエーテル)トリブロック共重合体が生成する。更に、3つ以上のヒドロキシアリール末端基を持ち、対応する分枝ブロック共重合体を形成する、分枝構造を持ったヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンも可能である。
【0017】
ある態様において、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンは、平均で、20から80のシロキサン繰り返し単位、詳細には25から70のシロキサン繰り返し単位、より詳細には30から60のシロキサン繰り返し単位、更に詳細には35から50のシロキサン繰り返し単位、また更に詳細には40から50のシロキサン繰り返し単位を含む。ポリシロキサンブロック中のシロキサン繰り返し単位の数は基本的に、共重合および分離条件に影響されず、このため、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサン出発原料中のシロキサン繰り返し単位の数に等しい。それ以外が知られていない場合(When not otherwise known)、ヒドロキシルアリール末端化ポリシロキサン分子1個当たりのシロキサン繰り返し単位の平均数は、シロキサン繰り返し単位の信号強度とヒドロキシアリール末端基の信号強度とを比較する、核磁気共鳴(NMR)法で求めることができる。例えば、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンが、オイゲノールキャップドポリジメチルシロキサンである場合、シロキサン繰り返し単位の平均数は、ジメチルシロキサン共鳴のプロトンと、オイゲノールメトキシ基のプロトンの積分値を比較する、プロトン核磁気共鳴(1H NMR)法で求めることが可能である。
【0018】
ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物の質量平均分子量は、少なくとも30,000g/モルである。例えば、反応生成物の質量平均分子量は、30,000から150,000g/モル、または35,000から120,000g/モル、望ましくは40,000から90,000g/モル、更に望ましくは45,000から70,000g/モルとすることができる。ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物の数平均分子量は、10,000から50,000g/モル、望ましくは10,000から30,000g/モル、より望ましくは14,000から24,000g/モルである。
【0019】
ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物の固有粘度は、ウベローデ粘度計による、クロロホルム中25℃での測定で、少なくとも0.3デシリットル/g(dL/g)である。ある態様において、固有粘度は0.3から0.5dL/g、より詳細には0.31から0.5dL/g、より詳細には0.35から0.47dL/gである。
【0020】
ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンをブロック共重合体に組み入れる際の効率の目安のひとつは、反応生成物中の、いわゆるポリ(フェニレンエーテル)“テイル(tail)”基の濃度が低いことである。2,6-ジメチルフェノールの単独重合では、生成分子の大部分が、線状生成分子の一方の終端が3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル“ヘッド(head)”で、もう一方の終端が2,6-ジメチルフェノシキ“テイル”となっている、いわゆるヘッド-テイル構造を持つ。つまり、一価フェノールが、2,6-ジメチルフェノールから成る場合、ポリ(フェニレンエーテル)テイル基は次の構造式で示される。
【0021】
【化6】
式中、環の3、4、および5位置は、水素原子で置換されている(つまり、用語“2,6-ジメチルフェノキシ”は一価の基を指し、2価の2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル基は含まない)。一価フェノールとヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンとの共重合では、ブロック共重合体にヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンを組み込むことで、フェニレンエーテル“テイル”基の濃度が下がると考えられる。即ち、ある態様において、一価フェノールは2,6-ジメチルフェノールから成り、反応生成物は、反応生成物の質量に対して、0.4質量%以下、詳細には0.1から0.4質量%の2,6-ジメチルフェノキシ基を含んでいる。2,6-ジメチルフェノキシテイル末端基は、線状生成物分子の一方の終端が、3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル“ヘッド”で、もう一方の終端が、2,6-ジメチルフェノキシ“テイル”である、ヘッド-テイル(ヒドロキシモノ末端化)構造を持つポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)ホモポリマに特徴的なものである。従って、2,6-ジメチルフェノキシテイル末端基の濃度が低いことは、反応生成物に含まれる、このような単官能性ホモポリマの濃度が低く、望ましいポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体の濃度が高いことを示している。
【0022】
ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物は、一価フェノールの酸化生成物であるジフェノキノンから誘導した基を更に含むことができる。例えば、一価フェノールが2,6-ジメチルフェノールである場合、ジフェノキノンは、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジフェノキノンである。共重合のビルド相(build phase)の間、ジフェノキノンは一般に、ヘッド-テイル型ポリ(フェニレンエーテル)の“テイル”端に、対応するビフェニル基として組み込まれる。更に反応の間に、末端ビフェニル基は、ポリ(フェニレンエーテル)鎖内部のビフェニル基となることができる。ある態様において、一価フェノールは2,6-ジメチルフェノールから成り、反応生成物は、0.1から2.0質量%、詳細には1.1から2.0質量%の2,6-ジメチル-4-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)フェノキシ(“ビフェニル”)基を含んでいる。このビフェニル基は、二官能性(ヘッド-ヘッドまたはヒドロキシルジ末端化)構造中だけに存在する。従って、ビフェニル基の濃度が低いことは、反応生成物に含まれる、このような二官能性ホモポリマの濃度が低く、望ましいポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体の濃度が高いことを示している。
【0023】
酸化共重合は、110分以上の反応時間で行うことができる。反応時間は、酸素流の開始と終了の間の経過時間である(略して、文中において繰り返し“酸素”または“酸素流”と呼んでいるが、当然、空気など、酸素を含む任意の気体を酸素源として使用できる)。ある態様において、反応時間は110から300分間、詳細には140から250分間、より詳細には170から220分間である。
【0024】
酸化共重合は、モノマ添加の完了と酸素流の終了との間の時間である“ビルド時間(build time)”を含むことができる。ある態様において、反応時間は、80から160分間のビルド時間を含む。ある態様において、ビルド時間の少なくとも一部の間の反応温度は40から60℃、詳細には45から55℃とすることができる。
【0025】
ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物は、揮発性および不揮発性汚染物質が最少となるような分離法で、溶液から分離することができる。例えば、ある態様において、反応生成物に含まれる揮発性物質の総量は1質量%以下、詳細には0.2から1質量%である。ある態様では、モノマ混合物を、金属(銅やマンガンなど)を含む触媒の存在下で酸化共重合させ、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物は、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物の質量に対して、100質量百万分率以下の金属、詳細には5から100質量百万分率の金属、より詳細には10から50質量百万分率の金属、更に詳細には20から50質量百万分率の金属を含む。
【0026】
ある種の単離法により、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物を、残留ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサン出発物質を本質的に含まないものとすることが可能である。言い換えると、このような単離法により、反応生成物に含まれるポリシロキサンを、本質的に、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体のポリシロキサンブロックから成るものとすることができる。共重合反応の終了後、当該技術で公知の、ポリ(フェニレンエーテル)を溶液から単離するための方法を用いて、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物を溶液から単離することができる。例えば、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物を、少なくとも50質量%の、1つ以上のC1~6アルカノール(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールなど)を含む逆溶媒(antisolvent)で沈殿させて単離することができる。イソプロパノールは未反応のヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンの良溶媒であるため、イソプロパノールを含む逆溶媒の使用は有益である。従って、イソプロパノールを含む逆溶媒(例えば、イソプロパノール単独)での沈殿および/または洗浄により、単離された生成物からヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンが十分に除去される。これらの方法を用いることで、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物の総質量に対して、含まれるヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンが1.5質量%以下、詳細には、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンが1質量%以下、より詳細には、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンが0.5質量%以下、更に詳細には、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンが0.1質量%以下の、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物を製造することが可能である。ある態様において、本組成物に含まれる、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体中で共有結合していないヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンは、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体中で共有結合しているヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンを100質量部として、20質量部以下である。この限界内で、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体中で共有結合していないヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンの量は、10質量部以下、詳細には5質量部以下、より詳細には2質量部以下、更に詳細には1質量部以下とすることができる。
【0027】
ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物は、75質量%より多い、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサン出発物質をポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体に組み入れたものである。詳細には、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体に組み入れたヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンの量は、少なくとも80質量%、より詳細には少なくとも85質量%、更に詳細には少なくとも90質量%、更にまた詳細には少なくとも95質量%とすることができる。
【0028】
ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物の調製、特性分析、および特性に関するその他詳細は、Carrilloほかによる、米国特許第8,017,697号、Carrilloほかによる、米国特許出願公開第US2012/0329961 A1号に見ることができる。
【0029】
ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物は、反応生成物の総質量に対して、1から30質量%のシロキサン繰り返し単位と、70から99質量%のフェニレンエーテル繰り返し単位とを含む。当然のことながら、シロキサン繰り返し単位はヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンから誘導され、フェニレンエーテル繰り返し単位は一価フェノールから誘導される。ある態様において、例えば、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物をイソプロパノール中で沈殿させて精製する場合、シロキサン繰り返し単位は、本質的に、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体中に組み入れられたヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンの残基から成る。
【0030】
ある態様において、反応生成物は、反応生成物の総質量に対して、1から8質量%のシロキサン繰り返し単位と、12から99質量%のフェニレンエーテル繰り返し単位とを含む。この範囲内で、シロキサン繰り返し単位の量は、2から7質量%、詳細には3から6質量%、より詳細には4から5質量%とすることができ、フェニレンエーテル繰り返し単位の量は、93から98質量%、詳細には94から97質量%、より詳細には95から96質量%とすることができる。
【0031】
反応生成物は、比較的少量の、非常に低分子量の種を含むことができる。つまり、ある態様において、反応生成物は、25質量%未満の、分子量が10,000g/モル未満の分子、詳細には5から25質量%の、分子量が10,000g/モル未満の分子、より詳細には7から21質量%の、分子量が10,000g/モル未満の分子を含む。ある態様において、分子量が10,000g/モル未満の分子は、平均で、5から10質量%のシロキサン繰り返し単位、詳細には6から9質量%のシロキサン繰り返し単位を含む。
【0032】
同様に、反応生成物は、比較的少量の、非常に高分子量の種も含むことができる。つまり、ある態様において、反応生成物は、25質量%未満の、分子量が100,000g/モルよりも大きい分子、詳細には5から25質量%の、分子量が100,000g/モルよりも大きい分子、より詳細には7から23質量%の、分子量が100,000g/モルよりも大きい分子を含む。ある態様において、分子量が100,000g/モルよりも大きい分子は、平均で、3から6質量%のシロキサン繰り返し単位、詳細には4から5質量%のシロキサン繰り返し単位を含む。
【0033】
ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物を調製するための、非常に具体的な手順において、一価フェノールは2,6-ジメチルフェノールであり、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンは、35から60のジメチルシロキサン単位を含む、オイゲノールキャップドポリジメチルシロキサンであり、酸化共重合の反応時間は170から220分間であり、ヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンは、一価フェノールとヒドロキシアリール末端化ポリシロキサンとを合わせた質量の、2から7質量%を構成している。
【0034】
本組成物は、組成物の総質量に対して、3から70質量%のポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応生成物を含む。この範囲内で、反応生成物の量は、30質量%未満、詳細には28質量%以下、または25質量%以下とすることができる。ある態様において、反応生成物の量は、3から28質量%、3から25質量%、5から25質量%、5から28質量%、3から20質量%、または5から20質量%とすることができる。
【0035】
ある態様において、本組成物は、必要に応じて、第2ポリ(フェニレンエーテル)を更に含むことができる。例えば、共重合体反応生成物の使用量が、50質量%未満、30質量%未満、または20質量%未満の場合、第2ポリ(フェニレンエーテル)を組成物に加えることが有益なことがある。文中で使用されている用語“第2ポリ(フェニレンエーテル)”とは、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサンブロック共重合体反応から誘導されたものではないポリ(フェニレンエーテル)を指す。第2ポリ(フェニレンエーテル)は、第1ポリ(フェニレンエーテル)と化学的に同じでも、異なっていても良い。適当な第1および第2ポリ(フェニレンエーテル)としては、次の構造式で示される繰り返し構造単位を含むものが挙げられる。
【0036】
【化7】
式中、それぞれの繰り返し単位において、それぞれのZ
1は独立して、ハロゲン、非置換または置換C
1~12ヒドロカルビル(但し、ヒドロカルビル基は第三級ヒドロカルビルではない)、C
1~12ヒドロカルビルチオ、C
1~12ヒドロカルビルオキシ、またはC
2~12ハロヒドロカルビルオキシ(ハロゲンおよび酸素原子は少なくとも2つの炭素原子で隔てられている)であり、それぞれのZ
2は独立して、水素、ハロゲン、非置換または置換C
1~12ヒドロカルビル(但し、ヒドロカルビル基は第三級ヒドロカルビルではない)、C
1~12ヒドロカルビルチオ、C
1~12ヒドロカルビルオキシ、またはC
2~12ハロヒドロカルビルオキシ(ハロゲンおよび酸素原子は少なくとも2つの炭素原子で隔てられている)である。ある態様において、第2ポリ(フェニレンエーテル)は、2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル繰り返し単位、即ち、次の構造式で示される繰り返し単位
【化8】
、2,3,6-トリメチル-1,4-フェニレンエーテル繰り返し単位、またはこれらの組み合わせを含む。
【0037】
ある態様において、第2ポリ(フェニレンエーテル)は、ウベローデ粘度計を使用した、クロロホルム中25℃での測定で、0.3から0.6dL/g、望ましくは0.35から0.50dL/gの固有粘度を持つことができる。具体的な態様において、第2ポリ(フェニレンエーテル)は、ウベローデ粘度計を使用した、クロロホルム中25℃での測定で、0.3から0.6dL/g、望ましくは0.35から0.50dL/gの固有粘度を持つ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)である。
【0038】
第2ポリ(フェニレンエーテル)が存在する場合、その使用量は、組成物の総質量に対して70質量%までとすることができる。この範囲内で、第2ポリ(フェニレンエーテル)の使用量は、30質量%までとすることができる。更にこの範囲内で、第2ポリ(フェニレンエーテル)の使用量は、38から68質量%または40から65質量%とすることができる。
【0039】
ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、必要に応じた第2ポリ(フェニレンエーテル)に加えて、本組成物は、有機リン酸エステル難燃剤を更に含むことができる。ある態様において、難燃剤は、有機リン酸エステルから成り、他の難燃剤を含まないものとすることができる。有機リン酸エステル難燃剤の例としては、フェニル基、置換フェニル基、またはフェニル基と置換フェニル基との組み合わせを含むリン酸エステル、レゾルシノールを原料とするビスアリールリン酸エステル(例えば、レゾルシノールビス(リン酸ジフェニル)など)、また、ビスフェノールを原料とするビスアリールリン酸エステル(例えば、ビスフェノールAビス(リン酸ジフェニル)など)が挙げられる。ある態様において、有機リン酸エステルは、リン酸トリス(アルキルフェニル)(例えば、CAS登録番号 89492-23-9、またはCAS登録番号 78-33-1)、レゾルシノールビス(リン酸ジフェニル)(CAS登録番号 57583-54-7)、ビスフェノールAビス(リン酸ジフェニル)(CAS登録番号 181028-79-5)、リン酸トリフェニル(CAS登録番号 115-86-6)、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(例えば、CAS登録番号 68937-41-7)、リン酸t-ブチルフェニルジフェニル(CAS登録番号 56803-37-3)、リン酸ビス(t-ブチルフェニル)フェニル(CAS登録番号 65652-41-7)、リン酸トリス(t-ブチルフェニル)(CAS登録番号 78-33-1)、およびこれらの組み合わせより選ばれる。
【0040】
ある態様において、有機リン酸エステルは、次の構造式で示されるリン酸ビスアリールを含む。
【0041】
【化9】
式中、Rは出現毎に、独立して、C
1~12アルキレン基であり、R
9およびR
10は出現毎に、独立して、C
1~5アルキル基であり、R
5、R
6、およびR
8は、独立して、C
1~12ヒドロカルビル基であり、R
7は出現毎に、独立して、C
1~12ヒドロカルビル基であり、nは1から25であり、s1およびs2は、独立して、0、1、または2の整数である。ある態様において、OR
5、OR
6、OR
7、およびOR
8は、独立して、フェノール、モノアルキルフェノール、ジアルキルフェノール、またはトリアルキルフェノールから誘導される。当業者ならば容易に理解されるように、リン酸ビスアリールはビスフェノールから誘導される。ビスフェノールの例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メタン、および1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが挙げられる。ある態様において、ビスフェノールは、ビスフェノールAまたはレゾルシノールを含む。
【0042】
ある態様において、本組成物は、必要に応じて、有機リン酸エステル以外の難燃剤を除外することができる。例えば、ある態様において、本組成物は、ジアルキルホスフィン酸金属塩、ホスファゼン、ハロゲン化難燃剤、窒素含有難燃剤(例えば、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミンなど、またはこれらの混合物)など、またはこれらの組み合わせを含む難燃剤を除外することができる。
【0043】
本組成物は、組成物の総質量に対して5から20質量%の量の有機リン酸エステルを含む。この範囲内で、有機リン酸エステルの存在量は、少なくとも7質量%、少なくとも10質量%、少なくとも12質量%、または少なくとも15質量%、あるいは、多くとも18質量%、多くとも15質量%、多くとも12質量%、多くとも10質量%、または多くとも7質量%とすることができる。例えば、有機リン酸エステルの存在量は、10から15質量%とすることができる。
【0044】
ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサン反応生成物、必要に応じた第2ポリ(フェニレンエーテル)、および有機リン酸エステルに加えて、本組成物は、ガラス繊維を含む補強充填剤を更に含む。ある態様において、補強充填剤は、ガラス繊維から成るものとすることができる(即ち、組成物中に他の補強充填剤は存在しない)。適当なガラス繊維としては、E、A、C、ECR、R、S、D、およびNEガラス、更に、石英を材料とするものが挙げられる。ある態様において、ガラス繊維の直径は、2から30マイクロメートル(μm)、詳細には5から25μm、より詳細には10から15μmである。ある態様において、配合前のガラス繊維の長さは、2から7ミリメートル(mm)、詳細には3から5mmである。ポリ(フェニレンエーテル)との相溶性を良くするため、ガラス繊維に、必要に応じて、いわゆる接着促進剤を加えることができる。接着促進剤としては、クロム錯体、シラン類、チタン酸塩、ジルコアルミン酸塩、プロピレン-無水マレイン酸共重合体、反応性セルロースエステルなどが挙げられる。適当なガラス繊維は、例えば、Owens Corning、日本電気硝子(株)、PPG、および Johns Manville などの供給者より市販されている。
【0045】
補強充填剤の存在量は、組成物の総質量に対して3から15質量%とすることができる。例えば、補強充填剤の存在量は、5から15質量%、5から10質量%、または10から15質量%とすることができる。
【0046】
ポリ(フェニレンエーテル)-ポリシロキサン反応生成物、必要に応じた第2ポリ(フェニレンエーテル)、有機リン酸エステル、および補強充填剤に加えて、本組成物は、耐衝撃性改良剤を更に含む。耐衝撃性改良剤としては、高衝撃ポリスチレン、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
ある態様において、耐衝撃性改良剤は、ゴム変性ポリスチレンとも呼ばれる高衝撃ポリスチレン(HIPS)を含むことができる。ゴム変性ポリスチレンは、ポリスチレンとポリブタジエンとを含むものである。ある態様において、ゴム変性ポリスチレンは、ゴム変性ポリスチレンの質量に対して、80から96質量%のポリスチレン、詳細には88から94質量%のポリスチレンと、4から20質量%のポリブタジエン、詳細には6から12質量%のポリブタジエンとを含む。適当なゴム変性ポリスチレンは、例えば、SABICより、HIPS3190として市販されている。
【0048】
耐衝撃性改良剤が高衝撃ポリスチレンを含む場合、高衝撃ポリスチレンの存在量は、組成物の総質量に対して15から30質量%とすることができる。本組成物が30質量%以上の量のポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物を含んでいる場合、耐衝撃性改良剤は、少なくとも15質量%、望ましくは15から30質量%の量の高衝撃ポリスチレンであることが必要である。
【0049】
ある態様において、耐衝撃性改良剤は、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体を含むことができる。この成分を、略して“水素化ブロック共重合体”と呼ぶ。水素化ブロック共重合体は、水素化ブロック共重合体の質量に対して、10から90質量%のポリ(アルケニル芳香族化合物)含量と、90から10質量%の水素化ポリ(共役ジエン)含量とを含むことができる。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、ポリ(アルケニル芳香族化合物)含量の低い水素化ブロック共重合体であって、そのポリ(アルケニル芳香族化合物)含量は、低ポリ(アルケニル芳香族化合物)含量水素化ブロック共重合体の質量に対して、10から40質量%未満、詳細には20から35質量%、より詳細には25から35質量%、更に詳細には30から35質量%である。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、ポリ(アルケニル芳香族化合物)含量の高い水素化ブロック共重合体であって、そのポリ(アルケニル芳香族化合物)含量は、高ポリ(アルケニル芳香族化合物)含量水素化ブロック共重合体の質量に対して、40から90質量%、詳細には50から80質量%、より詳細には60から70質量%である。
【0050】
ある態様において、水素化ブロック共重合体の質量平均分子量は40,000から400,000g/モルである。数平均分子量と質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレン標準との比較から求めることができる。ある態様において、水素化ブロック共重合体の質量平均分子量は200,000から400,000g/モル、詳細には220,000から350,000g/モルである。ある態様において、水素化ブロック共重合体の質量平均分子量は、40,000から200,000g/モル、詳細には40,000から180,000g/モル、より詳細には40,000から150,000g/モルである。
【0051】
水素化ブロック共重合体の調製に使用するアルケニル芳香族モノマは、次の構造式で示される構造を持つことができる。
【0052】
【化10】
式中、R
11およびR
12はそれぞれ独立して、水素原子、C
1~8アルキル基、またはC
2~8アルケニル基を示し、R
13およびR
17はそれぞれ独立して、水素原子、C
1~8アルキル基、塩素原子、または臭素原子を示し、R
14、R
15、およびR
16はそれぞれ独立して、水素原子、C
1~8アルキル基、またはC
2~8アルケニル基を示し、あるいは、R
14とR
15が中央の芳香族環と共にナフチル基を形成し、または、R
15とR
16が中央の芳香族環と共にナフチル基を形成している。具体的なアルケニル芳香族モノマとしては、例えば、スチレン、クロロスチレン(p-クロロスチレンなど)、メチルスチレン(α-メチルスチレン、p-メチルスチレンなど)、t-ブチルスチレン(3-t-ブチルスチレン、4-t-ブチルスチレンなど)が挙げられる。ある態様において、アルケニル芳香族モノマはスチレンである。
【0053】
水素化ブロック共重合体の調製に使用する共役ジエンは、C4~20共役ジエンとすることができる。適当な共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなど、およびこれらの組み合わせが挙げられる。ある態様において、共役ジエンは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、またはこれらの組み合わせである。ある態様において、共役ジエンは1,3-ブタジエンである。
【0054】
水素化ブロック共重合体は、(A)アルケニル芳香族化合物から誘導された少なくとも1つのブロックと、(B)共役ジエンから誘導された少なくとも1つのブロックとを含む共重合体であって、ブロック(B)中の脂肪族不飽和基の含量は、水素化によって、少なくとも部分的に少なくなっている。ある態様において、(B)ブロック中の脂肪族不飽和度(unsaturation)は、少なくとも50%、詳細には少なくとも70%まで小さくなっている。ブロック(A)および(B)の配列としては、直鎖状構造、グラフト構造、および分枝鎖のある、または無い、放射状テレブロック(radial teleblock)構造が挙げられる。直鎖状ブロック共重合体としては、テーパード(tapered)直鎖状構造およびノンテーパード(non-tapered)直鎖状構造が挙げられる。ある態様において、水素化ブロック共重合体はテーパード直鎖状構造である。ある態様において、水素化ブロック共重合体はノンテーパード直鎖状構造である。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、アルケニル芳香族モノマがランダムに組み込まれた(B)ブロックを含む。直鎖状ブロック共重合体構造としては、ジブロック(A-Bブロック)、トリブロック(A-B-AブロックまたはB-A-Bブロック)、テトラブロック(A-B-A-Bブロック)、およびペンタブロック(A-B-A-B-AブロックまたはB-A-B-A-Bブロック)構造、更には、(A)と(B)を合わせて6個以上のブロックを含む直鎖状構造が挙げられ、このとき、それぞれの(A)ブロックの分子量は、他の(A)ブロックと同じでも異なっていても良く、それぞれの(B)ブロックの分子量は、他の(B)ブロックと同じでも異なっていても良い。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、またはこれらの組み合わせである。
【0055】
ある態様において、水素化ブロック共重合体は、アルケニル芳香族化合物および共役ジエン以外のモノマの残基を含まない。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、アルケニル芳香族化合物および共役ジエンから誘導したブロックから成る。これは、これらや他のモノマから生成したグラフト(grafts)を含まない。また、炭素および水素原子から成るためヘテロ原子を含まない。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、無水マレイン酸など、1つ以上の酸官能化試剤の残基を含む。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む。
【0056】
水素化ブロック共重合体の製造法は当該技術において公知であり、多くの水素化ブロック共重合体が市販されている。代表的な市販の水素化ブロック共重合体としては、Kraton Performance Polymers Inc.より、KRATON(登録商標)G1701(37質量%のポリスチレン)および G1702(28質量%のポリスチレン)として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)ジブロック共重合体;Kraton Performance Polymers Inc.より、KRATON(登録商標)G1641(33質量%のポリスチレン)、G1650(30質量%のポリスチレン)、G1651(33質量%のポリスチレン)、および G1654(31質量%のポリスチレン)として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体;および、(株)クラレより、SEPTON(登録商標)S4044、S4055、S4077、およびS4099として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体が挙げられる。その他の市販の水素化ブロック共重合体としては、Dynasolより、CALPRENE(登録商標)H6140(31質量%のポリスチレン)、H6170(33質量%のポリスチレン)、H6171(33質量%のポリスチレン)、および H6174(33質量%のポリスチレン)として、また、(株)クラレより、SEPTON(登録商標)8006(33質量%のポリスチレン)および 8007(30質量%のポリスチレン)として入手可能な、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン(SEBS)トリブロック共重合体;Kraton Performance Polymersより、KRATON(登録商標)A1535(56.3~60.3質量%のポリスチレン)および A1536(37~44質量%のポリスチレン)として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン-スチレン)-ポリスチレンテーパードブロック共重合体;(株)クラレより、SEPTON(登録商標)2006(35質量%のポリスチレン)および 2007(30質量%のポリスチレン)として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレン(SEPS)共重合体;および、Kraton Performance Polymers Inc.より、KRATON(登録商標)G4609(45%の鉱油と、SEBS(33質量%のポリスチレン)を含む)およびG4610(31%の鉱油と、SEBS(33質量%のポリスチレン)を含む)として、また、旭化成(株)より、TUFTEC(登録商標)H1272(36%の油と、SEBS(35質量%のポリスチレン)を含む)として入手可能な、これらの水素化ブロック共重合体の油展化合物が挙げられる。2つ以上の水素化ブロック共重合体の混合物も使用できる。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、質量平均分子量が少なくとも100,000g/モルのポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む。
【0057】
本組成物は、組成物の総質量に対して3から10質量%の量の水素化ブロック共重合体を含む。この範囲内で、水素化ブロック共重合体の存在量は、3から8質量%、3から6質量%、または3から5質量%とすることができる。
【0058】
本組成物は、必要に応じて、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせを更に含むことができる。本組成物が、水素化ブロック共重合体である耐衝撃性改良剤を含んでいる場合、組成物は、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせを含む。
【0059】
ある態様において、本組成物は、ヒドロキシアパタイト(CAS登録番号 1306-06-5)を含む。ヒドロキシアパタイトは、Ca5(OH)(PO4)3の化学式を持つ。ヒドロキシアパタイトは、ヒドロキシルアパタイト、リン酸三カルシウム、三塩基性リン酸カルシウム(tribasic calcium phosphate)、ヒドロキシオルトリン酸五カルシウム、およびアパタイトとしても知られる。ある態様において、ヒドロキシアパタイトの平均粒径は1から10μmである。この範囲内で、平均粒径は、2μm以上とすることができる。更にこの範囲内で、平均粒径は、8μm以下とすることができる。本組成物は、組成物の総質量に対して1から5質量%の量のヒドロキシアパタイトを含むことができる。この範囲内で、ヒドロキシアパタイトの量は、1質量%以上とすることができる。更にこの範囲内で、ヒドロキシアパタイトの量は、5質量%以下とすることができる。例えば、ヒドロキシアパタイトの存在量は、組成物の総質量に対して1から4質量%、1から3質量%、または1.5から2.5質量%とすることができる。
【0060】
二酸化チタンが存在する場合、本組成物は、組成物の総質量に対して1から5質量%の量の二酸化チタンを含むことができる。
【0061】
本組成物は、必要に応じて、追加の組成物を更に含むことができ、追加組成物は、望ましい特性が得られるよう選ばれた1つ以上の添加剤を含み、これらの添加剤はまた、本組成物の好ましい特性にあまり悪影響を及ぼさないように選ばれたものである。追加組成物または個別の添加剤は、本組成物を生成するために成分を混合する際、適当な時期に混ぜ合わせることができる。追加組成物としては、流動性調節剤、充填剤(例えば、粒子状ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、炭素、鉱物、または金属)、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外(UV)光安定剤、UV吸収剤、可塑剤、潤滑剤、剥離剤(離型剤など)、静電気防止剤、防曇剤(anti-fog agent)、抗菌剤、着色剤(例えば、染料または顔料)、表面効果剤(surface effect additive)、放射線安定剤、難燃剤、アンチドリップ剤(例えば、PTFEを封入した(encapsulated)スチレン-アクリロニロリル共重合体(TSAN))、またはこれらの組み合わせが挙げられる。添加剤は、効果のあることが一般的に知られている量を使用する。例えば、追加組成物(耐衝撃性改良剤、充填剤、または補強剤以外のもの)の総量は、組成物中のポリマの総質量に対して0.001から10.0質量%または0.01から5質量%とすることができる。
【0062】
例えば、本組成物は、必要に応じて、アンチドリップ剤を更に含むことができる。アンチドリップ剤は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの繊維形成(fibril forming)または繊維非形成(non-fibril forming)フルオロポリマを含むことができる。アンチドリップ剤は、硬い共重合体、例えば、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN)に封入されていても良い。SAN中に封入されたPTFEは、TSANとして知られる。TSANは、封入型フルオロポリマの総質量に対して、50質量%のPTFEと、50質量%のSANとを含む。SANは、共重合体の総質量に対して、例えば、75質量%のスチレンと、25質量%のアクリロニトリルとを含むことができる。アンチドリップ剤の使用量は、組成物の総質量に対して0.1から10質量%、0.1から1質量%、0.1から0.5質量%、0.1から0.3質量%、または0.1から0.2質量%とすることができる。
【0063】
本組成物は、必要に応じて、着色剤、特に黒色着色剤を更に含むことができる。黒色着色剤は、例えば、カーボンブラック顔料を含むことができる。黒色着色剤の組成物中における存在量は、組成物の総質量に対して0.1から2質量%、0.25から2質量%、または0.5から2質量%とすることができる。
【0064】
黒色着色剤に加えて、本組成物は、必要に応じて追加の着色剤(例えば、染料または顔料)を更に含むことができる。有用な顔料としては、例えば、無機顔料として、金属酸化物および混合した金属酸化物(酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化鉄など);硫化物(硫化亜鉛など);アルミン酸塩;ナトリウムスルホケイ酸塩(sodium sulfo-silicates)、硫酸塩、クロム酸塩など;カーボンブラック;亜鉛フェライト;群青など、有機顔料として、アゾ類、ジアゾ類、キナクリドン類、ペリレン類、ナフタレンテトラカルボン酸類、フラバントロン類(flavanthrones)、イソインドリノン類、テトラクロロイソインドリノン類、アントラキノン類、アントロン類(enthrones)、ジオキサジン類、フタロシアニン類、およびアゾレーキ類;ピグメントレッド101、ピグメントレッド122、ピグメントレッド149、ピグメントレッド177、ピグメントレッド179、ピグメントレッド202、ピグメントバイオレット29、ピグメントブルー15、ピグメントブルー60、ピグメントグリーン7、ピグメントイエロー119、ピグメントイエロー147、ピグメントイエロー150、およびピグメントブラウン24など;またはこれらの組み合わせが挙げられる。ある態様において、本組成物は、必要に応じて、二酸化チタンを更に含むことができる。二酸化チタンが存在する場合、その含有量は、組成物の総質量に対して1から5質量%、1から4質量%、1から3質量%、または2から3質量%とすることができる。
【0065】
本組成物は、必要に応じて、離型剤を更に含むことができる。離型剤は、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を含むことができる。組成物中における離型剤の含有量は、組成物の総質量に対して0から2質量%、0.5から2質量%、1から2質量%、または1.25から1.75質量%とすることができる。
【0066】
本組成物は、必要に応じて、安定剤を更に含むことができる。安定剤は、例えば、熱安定剤とすることができる。熱安定添加剤としては、有機亜リン酸エステル(例えば、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス(2,6-ジメチルフェニル)、亜リン酸トリス(混合モノおよびジノニルフェニル)など)、ホスホン酸エステル(例えば、ホスホン酸ジメチルベンゼンなど)、リン酸エステル(例えば、リン酸トリメチルなど)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。熱安定剤は、IRGAPHOS(登録商標)168として入手可能な、リン酸トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)とすることができる。熱安定剤の使用量は、一般に、組成物中のポリマの総質量に対して0.01から5質量%である。例えば、安定剤の存在量は、組成物の総質量に対して0.01から1質量%とすることができる。
【0067】
本組成物は、必要に応じて、炭化水素樹脂を更に含むことができる。炭化水素樹脂の例は、脂肪族炭化水素樹脂、水素化脂肪族炭化水素樹脂、脂肪族/芳香族炭化水素樹脂、水素化脂肪族/芳香族炭化水素樹脂、脂環式炭化水素樹脂、水素化脂環式炭化水素樹脂、脂環式/芳香族炭化水素樹脂、水素化脂環式/芳香族炭化水素樹脂、水素化芳香族炭化水素樹脂、ポリテルペン樹脂、テルペン-フェノール樹脂、ロジン、ロジンエステル、水素化ロジンおよびロジンエステル、およびこれらの混合物である。文中で“水素化”が炭化水素樹脂に関して使用されている場合、完全に、十分に、および部分的に水素化された樹脂が含まれる。適当な芳香族樹脂としては、芳香族変性脂肪族樹脂、芳香族変性脂環式樹脂、および、芳香族含量が1から30質量%である水素化芳香族炭化水素樹脂が挙げられる。当該技術で公知の方法を用いて、上記の任意の樹脂を、不飽和エステルまたは無水物とグラフト化させても良い。このようなグラフト化により樹脂の特性を向上させることができる。ある態様において、炭化水素樹脂は水素化芳香族炭化水素樹脂である。
【0068】
適当な炭化水素樹脂は市販されており、例えば、Exxon Mobil Chemical Companyから入手可能な、EMPR 100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、116、117、118樹脂、およびOPPERA樹脂;荒川化学工業(株)から入手可能な、ARKON P140、P125、P115、M115、M135、およびSUPER ESTERロジンエステル;Arizona Chemical Companyから入手可能な、SYLVARESポリテルペン樹脂、スチレン化テルペン樹脂、およびテルペンフェノール系樹脂;Arizona Chemical Companyから入手可能な、SYLVATAC および SYLVALITEロジンエステル;Cray Valleyから入手可能な、NORSOLENE脂肪族芳香族樹脂;DRT Chemical Companyから入手可能な、DERTOPHENE テルペンフェノール系樹脂および DERCOLYTEポリテルペン樹脂;Eastman Chemical Companyから入手可能な、EASTOTAC樹脂、PICCOTAC樹脂、REGALITE および REGALREZ水素化脂環式/芳香族樹脂、PICCOLYTE および PERMALYNポリテルペン樹脂、ロジン、およびロジンエステル;Goodyear Chemical Companyから入手可能な、WINGTACK樹脂;Neville Chemical Companyから入手可能な、クマロン/インデン樹脂;日本ゼオン(株)から入手可能な、QUINTONE酸変性C5樹脂、C5/C9樹脂、および酸変性C5/C9樹脂;および、ヤスハラケミカル(株)から入手可能な、CLEARON水素化テルペン樹脂が挙げられる。
【0069】
ある態様において、炭化水素樹脂は、80から180℃、詳細には100から170℃、より詳細には110から150℃、更に詳細には120から130℃の軟化点を持つ。軟化点は、ASTM E28-99により、リングアンドボール軟化点として測定する。具体的な炭化水素樹脂は、125℃の軟化点を持つ、ARKON P125である。
【0070】
本組成物は、組成物の総質量に対して1から5質量%、1から4質量%、または2から3質量%の量の炭化水素樹脂を含むことができる。
【0071】
ある態様において、本願に開示されているポリ(フェニレンエーテル)組成物は、3から28質量%の、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体とポリ(フェニレンエーテル)とを含むポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、0から70質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、5から20質量%の有機リン酸エステルと、3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、15から30質量%の高衝撃ポリスチレン、または、3から10質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体より選ばれる耐衝撃性改良剤とを含むことができる。
【0072】
ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、3から70質量%のポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、0から30質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、5から20質量%の有機リン酸エステルと、5から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、15から30質量%の高衝撃ポリスチレンと、0から0.2質量%のアンチドリップ剤と、必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤とを含むことができる。
【0073】
ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、5から25質量%のポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、38から68質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、10から15質量%の有機リン酸エステルと、3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、3から10質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、1から5質量%の炭化水素樹脂と、0から0.3質量%のアンチドリップ剤と、0から2質量%の離型剤と、0から1質量%の安定剤と、1から5質量%の、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせと、必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤とを含むことができる。当然のことながら、この態様、前述の態様のいずれか、または、今後述べられる態様のいずれでも、組成物中の各成分を合わせた量の合計は100質量%である。
【0074】
ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、5から20質量%のポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、40から65質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、10から15質量%の有機リン酸エステルと、5から10質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、3から8質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、0から0.3質量%のアンチドリップ剤と、0から2質量%の離型剤と、0から1質量%の安定剤と、1から5質量%の、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせと、必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤とを含むことができる。
【0075】
ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、5から20質量%のポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、40から65質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、10から15質量%の有機リン酸エステルと、3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、3から8質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、1から5質量%のヒドロキシアパタイトと、1から5質量%の二酸化チタンと、0から0.3質量%のアンチドリップ剤と、0から2質量%の離型剤と、0から1質量%の安定剤と、必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤とを含むことができる。
【0076】
本願に開示されているポリ(フェニレンエーテル)組成物は、後の実施例で更に詳しく述べるような、いくつもの有利な特性を示すことができる。例えば、本ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.5mm試験片(test bar)を用いた測定で、V0のUL 94燃焼性等級を示すことができる。本ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.0mm試験片を用いた測定で、V0のUL 94燃焼性等級を示すことができる。本ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、175ボルト以上、望ましくは250ボルト以上の、比較トラッキング指数を示すことができる。本ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、ISO 180による測定で、7kJ/m2以上の、ノッチ付きアイゾット衝撃強さを示すことができる。本ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、ISO 1133またはASTM D1238による、280℃、10kg荷重での測定で、14cm3/10分以上のメルトボリュームフローレートを示すことができる。本ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、ISO 75/fまたはASTM D648による測定で、120℃以上の荷重たわみ温度(heat deflection temperature)を示すことができる。本ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、上記の特性の1つ以上を示すことができる。
【0077】
望ましくは、本組成物は、23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.5mm試験片を用いた測定で、V0のUL 94燃焼性等級と、250ボルト以上の比較トラッキング指数と、必要に応じて、23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.0mm試験片を用いた測定で、V0のUL 94燃焼性等級、ISO 180による測定で、7kJ/m2以上の、ノッチ付きアイゾット衝撃強さ、ISO 1133またはASTM D1238による、280℃、10kg荷重での測定で、14cm3/10分以上のメルトボリュームレート、および、ISO 75/fまたはASTM D648による測定で、120℃以上の荷重たわみ温度、の1つ以上とを示す。
【0078】
本ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、組成物の成分を溶融混合または溶融混練(melt-kneading)して作ることができる。溶融混合または溶融混練は、リボンブレンダ、HENSCHEL(登録商標)ミキサ、BANBURY(登録商標)ミキサ、ドラムタンブラ、単軸押出機、双軸押出機、多軸押出機、コニーダなど、一般的な装置を用いて行うことができる。
【0079】
本願に開示されているポリ(フェニレンエーテル)組成物は、様々な物品の製造において有用と考えられる。物品は、任意の適当な方法、例えば、単層および多層シート押出、射出成形、ブロー成形、フィルム押出、異形押出、引き抜き成形、圧縮成形、熱成形、加圧成形、ハイドロフォーミング、真空成形などで成形することができる。前述の物品製造法を組み合わせて使用しても良い。代表的な物品としては、電気自動車バッテリモジュール、電気部品、熱硬化性回路遮断器、電子写真複写機の定着ローラホルダ、光起電性接続箱コネクタ(photovoltaic junction box connector)、自動車用電気コネクタ、継電器、充電カプラ、または電気器具部品が挙げられる(但し、これらに限定しない)。具体的な態様において、本ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、電気自動車バッテリモジュールに特に有用と考えられる。
【0080】
本願に開示されている内容を次の実施例で更に詳しく説明するが、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0081】
以下の実施例で使用する材料を表1に示す。
【0082】
【0083】
以下の実施例の組成物は、Werner & Pfleiderer 内径28mmの双軸押出機を、300回転/分、原料処理量8~20kg/時間(35ポンド/時間)で稼働させ、溶融混合して調製した。難燃剤およびガラス繊維は、それぞれ別の供給機を用いて、下流の投入口から加えたが、他の固形成分は全て供給口から投入した。押出機温度は、ゾーン1(最上流ゾーン)で180℃(華氏464度)、ゾーン2~10で260~320℃(華氏500度)、金型で300~320℃(華氏550度)に保った。回転力は約65%に保った。混合した押出物を冷却し、ストランドカットしてペレットとした。
【0084】
全ての材料を混ぜ合わせて主供給機から供給した。押し出した組成物のストランドを切ってペレットとし、乾燥させた。90トンおよび110トンのバン・ドーン射出成形機を使用し、バレル温度を270~320℃(華氏550~590度)、金型温度を100~120℃(華氏190度)として、試験品を射出成形した。
【0085】
様々な物理的特性について、ASTMおよびISOで測定するための試験品を、90トンおよび110トンのバン・ドーン射出成形機を使用し、バレル温度を270~320℃(華氏550~590度)、金型温度を100~120℃(華氏190~210度)として、射出成形した。厚さ0.75、1.0、または1.5mmの燃焼性試験用棒状試験片を、90トンのバン・ドーン射出成形機を使用し、バレル温度を270~320℃(華氏570~610度)、金型温度を100~120℃(華氏190~210度)として、射出成形した。
【0086】
組成物の成形試料の特性を、以下の試験法で求めた。曲げ弾性率(flexural modulus)および曲げ強さ(メガパスカル(MPa)の単位で示す)は、23℃で、ASTM D790に従い、3.2mmの棒状試験片を使用し、試験速度を1.3mm/分として、または、ISO 178に従って測定した。ノッチ無しおよびノッチ付きアイゾット衝撃強さ(それぞれ、IUIおよびINI)(J/mの単位で示す)は、ASTM D256に従い、23℃および-30℃で、5.5ジュールのハンマと3.2mmの棒状試験片を用いて、または、ISO 180に従って(kJ/m2で示す)測定した。破断引張応力(tensile stress at break)(MPaの単位で示す)および破断引張ひずみ(tensile strain at break)(%の単位で示す)は、23℃で、ASTM D638に従い、試験速度を5mm/分として、または、ISO 527に従って測定した。引張弾性率(tensile modulus)(MPaの単位で示す)は、23℃で、ASTM D638に従い、または、ISO 527に従い、試験速度を5mm/分として測定した。荷重たわみ温度(heat deflection temperature:HDT)は、ASTM D648に従い、3.2mmの棒状試験片を使用して、または、ISO75/fに従い、1.8MPaの応力で測定し、セルシウス度の単位で示した。比重は、ASTM D792に従って測定し、または、密度(g/cm3で示す)は、ISO 1183に従い、23℃で測定した。メルトボリュームレート(melt volume rate:MVR)(cm3/10分の単位で示す)は、ASTM D1238に従い、またはISO 11443に従って、280℃、10kg荷重で測定した。見掛けの溶融粘度(melt viscosity:MV)(Pa-sの単位で示す)は、ISO 11443に従い、剪断速度1500s-1、300℃で測定した。ビカットB値(℃で示す)は、ASTM D1525(3.2mm)、方法B120に従って求めた。
【0087】
射出成形した試験片の難燃性は、Underwriter’s Laboratory Bulletin 94 “Tests for Flammability of Plastic Materials, UL 94”、20mm垂直燃焼試験(Vertical Burning Flame Test)に従って求めた。試験前に、厚さ1.5mmの試験片を、23℃、相対湿度50%で少なくとも48時間、または、70℃、相対湿度50%で168時間、状態調節した。UL 94 20mm垂直燃焼試験では、一組10~20本の試験片を試験した。それぞれの試験片に対し、10秒間接炎してから炎を外し、試験片が自己消火するまでの時間(第1接炎後時間:t1)を記録した。次に、再度、10秒間接炎してから炎を外し、試験片が自己消火するまでの時間(第2接炎後時間:t2)と、接炎後グローイング時間(アフターグロー時間:t3)を記録した。V0の等級となるには、個々の検体のそれぞれの接炎後時間t1およびt2が10秒以下でなければならず、5個全ての検体についての合計接炎後時間(5個全ての検体のt1+t2)が、50秒以下でなければならず、個々の検体のそれぞれの第2接炎後時間+アフターグロー時間(t2+t3)が30秒以下でなければならず、また、保持具上で炎を出している、または赤熱している検体がなく、燃えている粒子または滴下物による綿着火がない。V1の等級となるには、個々の検体のそれぞれの接炎後時間t1およびt2が30秒以下でなければならず、5個全ての検体の合計接炎後時間(5個全ての検体のt1+t2)が250秒以下でなければならず、個々の検体のそれぞれの第2接炎後時間+アフターグロー時間(t2+t3)が60秒以下でなければならず、また、保持具上で炎を出している、または赤熱している検体がなく、燃えている粒子または滴下物による綿着火がない。V2の等級となるには、個々の検体のそれぞれの接炎後時間t1およびt2が30秒以下でなければならず、5個全ての検体の合計接炎後時間(5個全ての検体のt1+t2)が250秒以下でなければならず、個々の検体のそれぞれの第2接炎後時間+アフターグロー時間(t2+t3)が60秒以下でなければならず、また、保持具上で炎を出している、または赤熱している検体はないが、燃えている粒子または滴下物による綿着火が起こることがある。
【0088】
比較トラッキング指数(comparative Tracking Index:CTI)は、絶縁体の電気的破壊(トラッキング)特性を計るために使用する。トラッキングは、絶縁体表面での電気的破壊の指標である。大きな電圧差により炭化路が形成され、材料表面に導電性漏れ径路が徐々にできる。CTI試験手順を、ASTM D3638試験法に記載のとおりに行った。即ち、試験手順は、50滴の0.1質量%塩化アンモニウム溶液を材料(厚さ3mm)の表面に滴下後、破壊が起こる最大電圧を測定する工程を含む。トラッキング指数に基づいて、試料を、比較トラッキング性能水準カテゴリー(Comparative Tracking Performance Level Category:PLC)に分類する。比較トラッキング性能水準カテゴリーを表2に示す。
【0089】
【0090】
組成および特性を表3A~3Eにまとめる。各成分の量は、組成物の総質量に対する質量%で示されている。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
表3Aに示すように、高濃度の難燃剤と共にPPE-Siを含む実施例3~5の組成物は、厚さ1.5mmの試験片、および/または、厚さ1.0mmの試験片で、V0の難燃性等級を達成し、実施例1および2と比較した衝撃強さの変化は僅かであった。予想どおり、PPEのみを含む比較例1~3の組成物は、高い難燃剤濃度でも、V1のUL 94等級を示すか、評価不能(not rated:NR)であった。PPE-Siのみをベースとした実施例1~3は、比較例1~3よりも良好な衝撃強さ、低いHDTおよびビカット温度、低い曲げおよび引張特性を示す。表3Aの実施例8は、添加剤としてTCPを使用することで、他の特性を低下させることなく、実施例3よりもCTI性能を改善できることを示している。表3Aの実施例6および7は、添加剤としてTCPをすることで、1.5mmでの燃焼性特性を低下させずに、実施例5よりもCTI性能を改善できることを示している。
【0099】
表3Aは更に、炭化水素樹脂、SEBS、またはこれらの組み合わせのいずれかを含む比較例4~6が、10%のガラスを充填した組成物において、流動性および衝撃特性は向上するが、難燃剤の負荷量を高くしても、厚さ1.5mmでV0の燃焼性等級が達成できないことを示している。
【0100】
表3Bにおいて、HIPSを含まず、著しく高濃度のPPEを含む比較例7が、厚さ1.5mmでもV0の燃焼性等級を達成できないことを示している。比較例8~10は、組成物に6%のPPE-Siを加えると、組成物の熱、流動性、および衝撃特性に悪影響を及ぼすことなく、1.5mmで、V0の望ましいレベルまで燃焼性性能が向上したことを示している。しかし、CTI性能はPLC3であった。比較例11は、4.2質量%のPPE-Si濃度は、望ましいV0の燃焼性等級を達成するには不十分であることを示唆しているが、この組成物がPLC3を達成したことを示している。表3Bの実施例9および10は、添加剤としてTCPを使用することで、それぞれ比較例9および10と比べて、衝撃性能は多少低下するが、CTI性能を改善できることを示している。
【0101】
表3Cは、耐衝撃性改良剤の分散性を良くするため、PPE中のSEBSマスターバッチ(masterbatch:MB)を使用する組成物の効果を示している。最初の実施例(比較例10b)は表3Bの比較例10を繰り返したもので、ISO試験基準に従って測定した全ての特性を示している。比較例12は、SEBSマスターバッチを使用して製造する以外は、実施例10と同じ組成および特性を備えている。表3Cのその他の実施例は、望ましいV0燃焼性等級を保ちながら、どのようにして衝撃強さを最大化し、流動性を改善するかを示している。SEBS MBの濃度が高く、ガラス繊維濃度の低い比較例13および14は、僅かに改善された衝撃および流動性と、低い弾性係数(modulus)を示すが、望ましいV0の燃焼性等級には合致しない。比較例15、17、および19は、高濃度の難燃剤およびSEBS MBと、低濃度のガラスと共に、HCR流動性促進剤を含んでいて、低い密度、高い衝撃強さおよび流動性と、V0の燃焼性等級を示すが、PLC3のCTI等級しか達成しない。6質量%未満のPPE-Siを含む比較例16および18は、V0の燃焼性等級を達成しなかった。
【0102】
燃焼性等級、衝撃、および流動性に影響を与えずに密度を下げるため、HCR、SEBS、およびガラス繊維の量を更に変更した、比較例20~25の組成物を表3Dに示す。詳細には、比較例24および25はそれぞれ、低PPE-Si濃度(10質量%)であっても望ましい特性を示す。しかし、これらの組成物はそれぞれ、PLC3のCTI等級を示した。
【0103】
表3Eは、V0の燃焼性等級と共に、PLC2のCTI等級を達成する組成物を示している。実施例11~19は、三塩基性リン酸カルシウムまたは二酸化チタンあるいはそれらの組み合わせを添加したため、より高いCTI PLC等級を示すが、密度は大きくなった。実施例11は更に、1.0mmでV0の燃焼性等級を達成した。
【0104】
本願の開示内容は更に、以下の態様も包含する。
【0105】
態様1:ポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成物は、3から70質量%の、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体とポリ(フェニレンエーテル)とを含むポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、0から70質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、5から20質量%の有機リン酸エステルと、3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、15から30質量%の高衝撃ポリスチレン、3から10質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体、またはこれらの組み合わせより選ばれる耐衝撃性改良剤と、必要に応じて、1から5質量%の二酸化チタン、1から5質量%のヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせとを含み、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物の存在量が30質量%以上である場合、耐衝撃性改良剤は、15から30質量%の高衝撃ポリスチレンであり、耐衝撃性改良剤が水素化ブロック共重合体を含んでいる場合、ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせを含み、それぞれの成分の質量%は、ポリ(フェニレンエーテル)組成物の総質量に対してである。
【0106】
態様2:態様1のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、このポリ(フェニレンエーテル)組成物は、23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.5mm試験片を使用した測定で、V0のUL 94燃焼性等級と、250ボルト以上の比較トラッキング指数とを示す。
【0107】
態様3:態様1または2のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成は、更に、0から0.2質量%のアンチドリップ剤、0.5から2質量%の黒色着色剤、0から2質量%の離型剤、0から1質量%の安定剤、および1から5質量%の炭化水素樹脂、の1つ以上を含む。
【0108】
態様4:態様1から3のいずれかのポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、第2ポリ(フェニレンエーテル)が存在し、第2ポリ(フェニレンエーテル)は、ウベローデ粘度計を使用した、クロロホルム中25℃での測定で、0.3から0.6dL/g、望ましくは0.35から0.50dL/gの固有粘度を持つ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)を含む。
【0109】
態様5:態様1から4のいずれかのポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、有機リン酸エステルは、レゾルシノール=ビス(リン酸ジフェニル)、ビスフェノールA=ビス(リン酸ジフェニル)、またはこれらの組み合わせを含む。
【0110】
態様6:態様1から5のいずれかのポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成物は、15から30質量%の高衝撃ポリスチレンを含む。
【0111】
態様7:態様1から5のいずれかのポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成物は、3から10質量%の、スチレンと共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、1から5質量%の二酸化チタン、1から5質量%のヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせとを含む。
【0112】
態様8:態様1のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成物は、3から28質量%の、ポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体とポリ(フェニレンエーテル)とを含むポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、0から70質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、5から20質量%の有機リン酸エステルと、3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、15から30質量%の高衝撃ポリスチレン、または、3から10質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体より選ばれる耐衝撃性改良剤とを含む。
【0113】
態様9:態様1のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成物は、3から70質量%のポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、0から30質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、5から20質量%の有機リン酸エステルと、5から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、15から30質量%の高衝撃ポリスチレンと、0から0.2質量%のアンチドリップ剤と、必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤とを含む。
【0114】
態様10:態様1のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成物は、5から25質量%のポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、38から68質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、10から15質量%の有機リン酸エステルと、3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、3から10質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、1から5質量%の炭化水素樹脂と、0から0.3質量%のアンチドリップ剤と、0から2質量%の離型剤と、0から1質量%の安定剤と、1から5質量%の、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせと、必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤とを含む。
【0115】
態様11:態様1のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成物は、5から20質量%のポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、40から65質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、10から15質量%の有機リン酸エステルと、5から10質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、3から8質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、0から0.3質量%のアンチドリップ剤と、0から2質量%の離型剤と、0から1質量%の安定剤と、1から5質量%の、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、またはこれらの組み合わせと、必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤とを含む。
【0116】
態様12:態様1のポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、この組成物は、5から20質量%のポリ(フェニレンエーテル)-ポリ(シロキサン)ブロック共重合体反応生成物と、40から65質量%の第2ポリ(フェニレンエーテル)と、10から15質量%の有機リン酸エステルと、3から15質量%の、ガラス繊維を含む補強充填剤と、3から8質量%の、アルケニル芳香族化合物と共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、1から5質量%のヒドロキシアパタイトと、1から5質量%の二酸化チタンと、0から0.3質量%のアンチドリップ剤と、0から2質量%の離型剤と、0から1質量%の安定剤と、必要に応じて、0.5から2質量%の黒色着色剤とを含む。
【0117】
態様13:態様1から12のいずれかのポリ(フェニレンエーテル)組成物であって、このポリ(フェニレンエーテル)組成物は、23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.5mm試験片を用いた測定で、V0のUL 94燃焼性等級と、250ボルト以上の比較トラッキング指数と、必要に応じて、23℃で48時間および70℃で168時間状態調節後の1.0mm試験片を用いた測定で、V0のUL 94燃焼性等級、ISO 180による測定で、7kJ/m2以上の、ノッチ付きアイゾット衝撃強さ、ISO 1133またはASTM D1238による、280℃、10kg荷重での測定で、14cm3/10分以上のメルトボリュームレート、および、ISO 75/fまたはASTM D648による測定で、120℃以上の荷重たわみ温度、の1つ以上とを示す。
【0118】
態様14:態様1から13のいずれかのポリ(フェニレンエーテル)組成物を製造する方法であって、この製造法は、組成物の成分を溶融混合する工程を含む。
【0119】
態様15:態様1から13のいずれかのポリ(フェニレンエーテル)組成物を含む物品。
【0120】
態様16:態様15の物品であって、この物品は、電気自動車バッテリモジュール、バッテリハウジング、バッテリケース、バッテリセルフレーム、バッテリセルスペーサ、バッテリセルリテーナ、バスバーホルダ、端子カバー、電気または電子部品、熱硬化性回路遮断器、電子写真複写機の定着ローラホルダ、光起電接続箱、光起電コネクタ、電気コネクタ、自動車用電気コネクタ、継電器、充電カプラ、電気器具部品、自動車部品、ポータブルデバイス、携帯電話部品、または固定型電気部品である。
【0121】
本組成物、方法、および物品は、選択的に、文中に開示されている任意の適当な材料、ステップ、または構成要素を含む(comprise)、から成る(consist of)、または本質的に~から成る(consist essentially of)ことができる。本組成物、方法、および物品は、付加的に、または選択的に、本組成物、方法、および物品の機能または目的の達成に必ずしも必要ではない任意の材料(または種)、ステップ、または構成要素を除いて、または実質的に含まないように構成することができる。
【0122】
文中に開示されている範囲は全て終点を含んでおり、終点は独立して互いに組み合わせ可能である。“組み合わせ(combinations)”は、混合物(blends、mixtures)、合金、反応生成物などを含む。用語“第1(first)”、“第2(second)”などは、順番、数量、または重要度を何ら示すものではなく、ある要素と別の要素とを区別するために使用する。用語“a”、“an”、および“the”は、数量の限定を示すものではなく、別途指示のない限り、または文脈によって明らかに否定されない限り、単数形と複数形の両方を含むと解釈すべきである。“または(or)”は、別に明示されない限り、“および/または(and/or)”を意味する。明細書中における“一部の(some)態様”、“ある(an)態様”などでの言及は、その態様に関連して述べられているある要素が、文中に記載されている少なくとも1つの態様に含まれているが、他の態様中には存在してもしていなくても良いことを意味する。文中で使用されている用語“これらの組み合わせ(combination thereof)”は、挙げられている要素を1つ以上含み、非限定(open)であって、挙げられていない類似の要素が1つ以上存在していても良い。更に、記載されている要素は、様々な態様において、任意の適当な方法で組み合わせても良いことは当然である。
【0123】
文中にそうでないことが明記されていない限り、全ての試験基準は、本願の出願日、あるいは、優先権が主張されている場合、この試験基準が記載されている最先の優先権出願の出願日時点で有効な、最も新しい基準である。
【0124】
別途定義のない限り、文中で使用する技術および科学用語は、本願の属する技術分野の当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を持つ。引用されている全ての特許、特許出願、その他の参考文献は、その内容を全て本件に引用して援用する。しかし、本願中の用語が援用する参考文献の用語と矛盾する、または一致しない場合は、援用する参考文献からの矛盾する用語よりも本願の用語を優先する。
【0125】
化合物は標準命名法を用いて記述する。例えば、指示された何らかの基で置換されていない位置は、指示された結合で、または水素原子で満たされたその価数を持つものとする。2つの文字または記号に挟まれていないダッシュ(“-”)は、置換基の結合に使われる位置を示すために使用する。例えば、-CHOは、カルボニル基の炭素で結合している。
【0126】
文中で使用する用語“ヒドロカルビル”は、単独で、あるいは、接頭辞、接尾辞、または他の用語の一部として使用される場合であっても、炭素と水素だけを含む残基を示す。この残基は、脂肪族または芳香族、直鎖、環式、二環式、分枝、飽和、または不飽和とすることができる。更に、脂肪族、芳香族、直鎖、環式、二環式、分枝、飽和、および不飽和炭化水素基の組み合わせも含むことができる。しかし、ヒドロカルビル残基が置換されていると述べられている場合、必要に応じて、置換基残基を構成する炭素および水素の他に、ヘテロ原子を含んでいても良い。つまり、詳しく述べるならば、置換されている場合、ヒドロカルビル残基は、1つ以上のカルボニル基、アミノ基、ヒドロキシル基なども含むことができ、あるいは、ヒドロカルビル残基の骨格内にヘテロ原子を含んでいても良い。用語“アルキル”は、分枝または直鎖、飽和脂肪族炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、s-ペンチル、n-およびs-ヘキシルを意味する。“アルケニル”は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む、分枝または直鎖、一価炭化水素基(例えば、エテニル(-HC=CH2))を意味する。“アルコキシ”は、酸素を経て結合しているアルキル基(即ち、アルキル-O-)、例えば、メトキシ、エトキシ、sec-ブチルオキシ基を意味する。“アルキレン”は、分枝または直鎖、飽和二価脂肪族炭化水素基(例えば、メチレン(-CH2-)またはプロピレン(-(CH2)3-))を意味する。“シクロアルキレン”は、二価の環式アルキレン基 -CnH2n-x (式中、xは、環化によって置き換わった水素の数)を意味する。“シクロアルケニル”は、1つ以上の環と、環内に1つ以上の炭素-炭素二重結合とを含み、全ての環員が炭素である一価基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル)を意味する。“アリール”は、指定した数の炭素原子を含む芳香族炭化水素基(例えば、フェニル、トロポン、インダニル、ナフチル)を意味する。“アリーレン”は、二価のアリール基を意味する。“アルキルアリーレン”は、アルキル基で置換されたアリーレン基を意味する。“アリールアルキレン”は、アリール基で置換されたアルキレン基(例えば、ベンジル)を意味する。接頭辞“ハロ”は、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード置換基の1つ以上を含む基または化合物を意味する。異なるハロ基の組み合わせ(例えば、ブロモとフルオロ)、またはクロロ基のみが存在していても良い。接頭辞“複素(ヘテロ:hetero)”は、ヘテロ原子である少なくとも1つの環員(例えば、1、2、または3個のヘテロ原子)を含む化合物または基を意味し、このときヘテロ原子は、それぞれ独立して、N、O、S、Si、またはPである。“置換された”は、化合物または基が、置換されている原子の通常の価数を超えないという条件で、水素の代わりに、少なくとも1つ(例えば、1、2、3、または4個)の置換基(それぞれ独立して、C1~9アルコキシ、C1~9ハロアルコキシ、ニトロ(-NO2)、シアノ(-CN)、C1~6アルキルスルホニル(-S(=O)2-アルキル)、C6~12アリールスルホニル(-S(=O)2-アリール)、チオール(-SH)、チオシアノ(-SCN)、トシル(CH3C6H4SO2-)、C3~12シクロアルキル、C2~12アルケニル、C5~12シクロアルケニル、C6~12アリール、C7~13アリールアルキレン、C4~12ヘテロシクロアルキル、およびC3~12ヘテロアリールとすることができる)で置換されていることを意味する。ある基について示されている炭素原子の数は置換基を含んでいない。例えば、-CH2CH2CNは、ニトリルで置換されたC2アルキル基である。
【0127】
特定の実施形態について述べてきたが、現時点で予想されていない、または予想されていないと考えられる、代替(alternatives)、変形(modifications)、変化(variations)、改善(improvements)、および実質的同等物が、出願者や他の同業者によって考案されることがある。従って、出願時の、および修正の可能性のある添付請求項は、これらの代替、変形、変化、改善、および実質的同等物を全て包含するものとする。