(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】ニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240129BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240129BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240129BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2021163429
(22)【出願日】2021-10-04
(62)【分割の表示】P 2018532259の分割
【原出願日】2017-01-13
【審査請求日】2021-11-01
(32)【優先日】2016-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩康
(72)【発明者】
【氏名】スン・シャン
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-170656(JP,A)
【文献】特開2012-113823(JP,A)
【文献】特開2015-056382(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182665(WO,A1)
【文献】特開2015-130340(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0057163(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0228979(US,A1)
【文献】国際公開第2015/111740(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0340689(US,A1)
【文献】特開2012-017253(JP,A)
【文献】特開2014-116111(JP,A)
【文献】特開2003-017054(JP,A)
【文献】特開平10-302779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li
1+aNi
1-b-cCo
bM
cO
2(Mは元素Mn、Al、B、Mg、Ti、Sn、Zn、Zrのうち少なくとも1種、-0.1≦a≦0.2、0.05≦b≦0.5、0.01≦c≦0.4)を芯粒子Xとし、被覆化合物YとしてAl
2O
3、被覆化合物ZとしてLiOH及びLi
2CO
3を有し、水酸化リチウムLiOHの含有量が
0.19重量%以上且つ0.40重量%以下、炭酸リチウムLi
2CO
3の含有量が0.65重量%以下、水酸化リチウム含有量に対する炭酸リチウム含有量の重量比が1以上であり、前記被覆化合物Yに対する前記被覆化合物Zの比率範囲が1~100重量比である正極活物質粒子粉末。
【請求項2】
請求項1記載の正極活物質粒子粉末であって、BET比表面積が0.05~0.70m
2/g、凝集粒子メジアン径D50が1~30μm、2%粉体pHが11.40以下である正極活物質粒子粉末。
【請求項3】
請求項1記載の正極活物質粒子粉末を、正極活物質の少なくとも一部に用いた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年1月15日に米国特許庁に出願した米国仮特許出願第62/279,215号および2016年12月13日に米国特許庁に出願した米国特許出願第15/377,197号および2016年12月21日に米国特許庁に出願した米国特許出願第15/386,406号を優先権主張する。これらの先行出願は参照により本出願に引用される。
【0002】
本発明は、元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種を含む被覆化合物Yと、Li元素を含む被覆化合物Zを有するニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末、及びその製造方法に関する。また、不純物相としての水酸化リチウム及び炭酸リチウムの含有量が極めて低い正極活物質粒子粉末、及びその製造方法に関する。更に、該活物質粒子粉末を用いて、高電圧充放電繰り返し特性に優れ、且つ、高温保存時のガス発生を抑制した高エネルギー密度を持つ非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、携帯電話やパソコン等の電子機器の小型・軽量化に拍車がかかり、これらの駆動用電源として高エネルギー密度を有する二次電池への要求が高くなっている。このような状況下において、重量、及び体積当たりの充放電容量が大きく、且つ、充放電の繰り返し特性が高い電池が注目されている。
【0004】
従来、高エネルギー型のリチウムイオン二次電池に有用な正極活物質粒子粉末の一つとして、4V級の電圧をもつ層状(岩塩型)構造のニッケル酸リチウムLiNiO2が知られている。該粒子粉末は、汎用の正極活物質のコバルト酸リチウムLiCoO2粒子粉末に比べ、安価で出力特性に優れているため、主に電動工具電源に利用されている。近年、その特徴を活かして、電気自動車の駆動電源としても利用されつつある。しかしながら、活物質粒子粉末からのLi+イオン以外の構成イオンの溶出や合成時における原料粉末同士の反応の不完全性から、高電圧時において充放電繰り返し特性の低下や高温保存時のガス発生の問題を引き起こしている。そのため、更なる粉体特性改善が求められている。
【0005】
周知の通り、ニッケル酸リチウムの正極活物質粒子粉末を構成するNiO6八面体において、Ni3+イオンは室温で低スピン状態であり、d軌道の電子配置はt2g
6eg
1で標記できるように安定性が高いとは言い難い。また、Ni2+イオンはLi+イオンとイオン半径が近く、合成時にカチオンミキシングといった構造欠陥を起こしやすい。そのため、Ni3+イオンをCo3+イオンやAl3+イオンで置換することで改善が図られている(非特許文献1)。
【0006】
一方、Ni3+イオンを異種元素イオンで置換したニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末においても、尚、不純物相として、炭酸リチウムや水酸化リチウムを必要以上に含んでいる。該未反応のリチウム化合物は、粉体pHを上げる主要因であり、電極スラリー作製時にゲル化を引き起こし、更には、二次電池充放電に伴い、高温保存時のガス発生を引き起こす。特に、水酸化リチウムの影響が著しいため、該粒子粉末表面に存在する未反応物を炭酸化(特許文献1及び2)、或いは、水洗・乾燥による除去(非特許文献2)を施している。
【0007】
ニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末の更なる改善として、該粒子粉末を芯粒子とした表面処理が提案され、未反応の炭酸リチウムや水酸化リチウムを別のリチウム化合物に変えている。該表面処理による被膜は、充放電で生成するフッ酸の保護膜として働き、電池の寿命を延ばしている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】C.Delmas等、 Electrochimica Acta、Vol.45、1999年、243-253頁
【文献】J.Kim等、Electrochem.and Solid-State Lett.、Vol.9、2006年、A19-A23頁
【文献】M.-J.Lee等、J.Mater.Chem.A、Vol.3、2015年、13453-13460頁
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-302779号公報
【文献】特開2004-335345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高電圧時の充放電繰り返し特性に優れ、且つ、高温保存時のガス発生を抑制した二次電池用のニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末は、現在最も要求されているが、未だ十分なものは得られていない。
【0011】
即ち、非特許文献1及び2、並びに特許文献1及び2に記載された技術では、含有する水酸化リチウム及び/又は炭酸リチウムを低減できても、電解液と直接接触するため、正極活物質/電解液界面で生じる副反応を抑制することができず、充放電繰り返し特性や高温保存時のガス発生を十分に低減できるとは言い難い。また、ニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末の水洗、乾燥に掛る費用は比較的大きく、量産に向いた手法とは言い難い。
【0012】
非特許文献3記載の技術は、ゾル-ゲル法を用いてバナジウムでニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末を表面処理する方法である。しかしながら、バナジウムは安全性が低く、ゾル-ゲル法という高価な製法であるため、量産に向いた手法とは言い難い。また、得られる表面被膜の膜厚は17nmと正極活物質/電解液界面での副反応を抑制するには、十分すぎるくらい厚い。
【0013】
そこで、本発明は、元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種を含む被覆化合物Yと、Li元素を含む被覆化合物Zを有するニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末、及びその製造方法の提供を技術的課題とする。また、水酸化リチウム及び炭酸リチウムの含有量が極めて低い正極活物質粒子粉末、及びその製造方法の提供を技術的課題とする。更に、該活物質粒子粉末を用いて、高電圧充放電繰り返し特性に優れ、且つ、高温保存時のガス発生を抑制した高エネルギー密度を持つ非水電解質二次電池の提供を技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0015】
即ち、本発明は、層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li1+aNi1-b-cCobMcO2(Mは元素Mn、Al、B、Mg、Ti、Sn、Zn、Zrのうち少なくとも1種、-0.1≦a≦0.2、0.05≦b≦0.5、0.01≦c≦0.4)を芯粒子Xとし、元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種を含む被覆化合物Yと、Li元素を含む被覆化合物Zを有し、水酸化リチウムLiOHの含有量が0.40重量%以下、炭酸リチウムLi2CO3の含有量が0.65重量%以下、水酸化リチウム含有量に対する炭酸リチウム含有量の重量比が1以上である正極活物質粒子粉末である(本発明1)。
【0016】
また、本発明は、本発明1記載の正極活物質粒子粉末であって、前記被覆化合物Yに対する前記被覆化合物Zの比率範囲が1~100重量比である正極活物質粒子粉末である(本発明2)。
【0017】
また、本発明は、本発明1記載の正極活物質粒子粉末であって、BET比表面積が0.05~0.70m2/g、凝集粒子メジアン径D50が1~30μm、2%粉体pHが11.40以下である正極活物質粒子粉末である(本発明3)。
【0018】
また、本発明は、本発明1記載の正極活物質粒子粉末の製造方法であって、芯粒子Xの表面に、前記被覆化合物Yを気相成長法で形成させた後、前記被覆化合物Zを加湿処理と大気中150~450℃の熱処理で形成させることを特徴とする製造方法である(本発明4)。
【0019】
また、本発明は、本発明1記載の正極活物質粒子粉末の製造方法であって、芯粒子Xの表面に、前記被覆化合物Zを加湿処理と大気中150~450℃の熱処理で形成させた後、前記被覆化合物Yを気相成長法で形成させることを特徴とする製造方法(本発明5)。
【0020】
また、本発明は、本発明1記載の正極活物質粒子粉末を、正極活物質の少なくとも一部に用いた非水電解質二次電池である(本発明6)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末は、元素Al、Mg、Zr、Ti,Siのうち少なくとも1種を含む被覆化合物Yと、Liを含む被覆化合物Zを備えるため、電解液とニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末との直接接触を妨げ、副反応を抑制する。そのため、高電圧時の充放電繰り返し特性に優れた非水電解質二次電池正極活物質粒子粉末として好適である。また、本発明に係る正極活物質粒子粉末は、水酸化リチウムと炭酸リチウムの含有量が低く、電極スラリー作製時のゲル化を防ぎ、且つ、高温保存時のガス発生もまた抑制できる。従って、寿命が長く、安全で、高エネルギー密度を有する非水電解質二次電池として好適である。
【0022】
また、本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末の製造方法において、気相成長法による被覆化合物Yの形成と、加湿処理後の熱処理で被覆化合物Zの形成を特徴としている。従って、先行の表面処理技術のような、ニッケル酸リチウム複合酸化物のpH調整しながらの水洗、濾別、乾燥、高濃度酸素ガス雰囲気下熱処理等を伴わないので、量産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明で得られたニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末の模式図である。
【
図2】実施例2で得られたニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末の低倍率(×1,000)のSEM写真である。
【
図3】実施例2で得られたニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末の高倍率(×50,000)のSEM写真である。
【
図4】実施例1で得られた芯粒子となり得るニッケル酸リチウム複合酸化物であり、比較例1で用いた正極活物質粒子粉末の高倍率(×50,000)のSEM写真である。
【
図5】比較例3で用いた正極活物質粒子粉末の高倍率(×50,000)のSEM写真である。
【
図6】本発明の(1)実施例1及び(2)実施例2で得られた、並びに(3)比較例1及び(4)比較例3で用いた正極活物質粒子粉末のX線光電子分光法で得られた元素比(リチウムLi、炭素C、酸素O、アルミニウムAl、コバルトCo、ニッケルNi)のエッチング深さ依存である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0025】
まず、本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末について述べる。
【0026】
本発明に係るニッケル酸リチウムLiNiO2は空間群R3-mの三方晶系の層状(岩塩)構造をとる。ここで、一般に、空間群の-は3上に書かれるが便宜上このように記載した。また、本発明に係る同結晶構造のニッケル酸リチウム複合酸化物は該ニッケル酸リチウムを母体とし、化学式Li1+aNi1-b-cCobMcO2で表わされる。ここで、Mは元素Mn、Al、B、Mg、Ti、Sn、Zn、Zrのうち少なくとも1種であり、-0.1≦a≦0.2、0.05≦b≦0.5、0.01≦c≦0.4である。
【0027】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末は、前記化学式で表わされる粒子を芯粒子Xとし、元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種を含む被覆化合物Yと、Li元素を含む被覆化合物Zを有している。更に、水酸化リチウムLiOHの含有量は0.40重量%以下、炭酸リチウムLi2CO3の含有量は0.65重量%以下、水酸化リチウム含有量に対する炭酸リチウム含有量の重量比が1以上を特徴とする正極活物質粒子粉末である。水酸化リチウムの含有量が0.4重量%を超えると電極スラリー作製時の塗料化が困難であり、炭酸リチウムの含有量が0.6重量%を超えると二次電池の充放電のサイクル特性が悪化する傾向にある。また、炭酸リチウムの含有量が水酸化リチウムの含有量を下回ると二次電池のガス発生を低減しにくくなる。
【0028】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末において、水酸化リチウムLiOHの含有量は0.30重量%以下が好ましく、炭酸リチウムLi2CO3の含有量は0.50重量%以下が好ましく、水酸化リチウム含有量に対する炭酸リチウム含有量の重量比は1.7以上が好ましい。該水酸化リチウムや該炭酸リチウムは前記Li元素を含む被覆化合物Zの一部でも構わない。また、前記Li元素を含む被覆化合物Zは酸化物、炭化物、或いは水酸化物を構成していると推定される。
【0029】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末において、元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種を含む被覆化合物Yは酸化物、炭化物、或いは水酸化物を構成していると推定される。
【0030】
被覆化合物Yと被覆化合物Zの形態は、
図1に示すような、芯粒子表面の島状の部分被覆でも構わないし、芯粒子全体被覆しても構わないし、また、薄膜状の被覆であっても構わない。更に、被覆化合物Yの上に被覆化合物Zが存在しても、逆に、被覆化合物Zの上に被覆化合物Yが存在しても構わない。
【0031】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末において、BET比表面積は0.05~0.70m2/gが好ましい。0.05m2/g未満の場合粗粒が多くなり、また、0.70m2/gを超える場合嵩高い粒子粉末となり、いずれの場合も正極活物質粒子粉末として不適である。より好ましくは0.1~0.40m2/gである。
【0032】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末において、凝集粒子メジアン径D50は1~30μmが好ましい。1μm未満の場合嵩高い粒子粉末となり、30μmを超える場合粗粒が多くなり、いずれの場合も正極活物質粒子粉末として不適である。より好ましくは2~25μmである。
【0033】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末において、電極スラリーのゲル化の観点から、2%pHは11.40以下が好ましい。より好ましくは11.30以下である。
【0034】
次に、本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末における、ニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xの製造方法について述べる。
【0035】
本発明におけるニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子X製造において、水酸化ニッケル粒子粉末を前駆体とする。該粒子のニッケル元素はコバルト元素や元素M(Mn、Al、B、Mg、Ti、Sn、Zn、Zr)で置換されても構わない。該前駆体の製造方法は特に限定しないが、湿式反応によるアンモニア錯体を用いた晶析法が好ましい。該前駆体をリチウム原料と所望の添加物と混合し、得られた混合物を焼成する。リチウム原料は特に限定はしないが、炭酸リチウム、水酸化リチウム、及び水酸化リチウム・一水塩が用いられる
【0036】
本発明におけるニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xは、前記操作である該前駆体と各原料の混合物の焼成による固相反応法を基に作製される。固相反応とは、目的の粒子粉末を構成する元素を含む原料を混合し、高温の熱処理により固体原料間での化学反応を促進させる方法である。該前駆体に対し、固相反応中のリチウムの拡散を容易にするために、リチウム原料の粒径は微細なものが望ましい。該前駆体と原料の混合は溶媒を用いない乾式法によることが望ましく、原料粉末の混合装置としては、らいかい機、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー等を用いることができる。
【0037】
周知の通り、ニッケル酸リチウムの固相反応合成において、高温での焼成時にニッケルの一部がNi2+イオンとなり、結晶中のLi+イオンと置換されるという構造欠陥が生じ、電池特性が阻害される。また、より高温における焼成ではNiOが生成することが知られている。(H.Arai等、Solid State Ionics、Vol.80、1995年、頁261-269参照)
【0038】
本発明におけるニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xの製造方法は、前記混合物を600~930℃の温度範囲で焼成することを特徴としている。焼成温度が600℃未満の場合、固相反応が十分に進まず、所望のニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末を得ることができない。930℃を超える場合、構造欠陥としてリチウムサイトに侵入するNi2+イオンの量が増大し、岩塩構造のNiO不純物相として成長する。好ましくは700~900℃である。
【0039】
本発明におけるニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xは、Ni2+イオンの含有量低減のため、酸素濃度が高い雰囲気での焼成が好ましい。前記焼成温度の保持時間は5~15時間程度であり、昇温、降温速度は50~200℃/時間程度である。焼成炉としては、ガス流通式箱型マッフル炉、ガス流通式回転炉、ローラーハースキルン等を用いることができる。
【0040】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xに対する、元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種を含む被覆化合物Yの製造方法について述べる。
【0041】
本発明に係る前記被覆化合物Yは、気相成長法により作製されことが好ましい。気相成長法として、化学気相析出(CVD)法、物理気相成長法(PVD)法、原子層堆積(ALD)法が列挙される。より好ましい方法の一つの原子層堆積方法は原子1層(約1Å)ずつを形成させる気相成長法であり、次に続く4つの工程を繰り返すことで原子を層状或いは粒子状として堆積させる方法である。1)被処理物へ原料ガスAを供給、即ち、被処理物表面で原料ガスAが反応、2)原料ガスAの排気、3)被処理物表面上で更に反応させる原料ガスBを供給、4)原料ガスBの排気。ここで、原料ガスAと原料ガスBは必ず異なった組成のガスである(X.Meng、等、Adv.Mater.、Vol.24、2012年、3589-3615頁参照)。
【0042】
本発明に係る前記被覆化合物Yの製造方法の原子層堆積法において、原料ガスAと原料ガスBの好ましい組み合わせを以下に示す。原料ガスA/原料ガスB;Al2(CH3)6/H2O;Mg(C2H5)2/H2O;ZrCl4/H2O、;TiCl4/H2O、;SiCl4/H2O等があり、同法により酸化物、炭化物、或いは水酸化物を形成すると推定している。
【0043】
本発明に係る前記被覆化合物Yの製造方法の原子層堆積法において、工程1)から工程4)を繰り返す回数は1~100回である。好ましくは、2~50回、より好ましくは、2~10回である。
【0044】
本発明に係る前記被覆化合物Yの製造方法の原子層堆積法において、工程1)から工程4)を行う温度は10~250℃内の任意の温度である。
【0045】
本発明に係る前記被覆化合物Yは、気相成長法により作製されるため、数nmと非常に薄い膜状である場合もある。該構造の同定のための粒子表面分析として、高分解能透過型電子顕微鏡観察、飛行時間型二次イオン質量分析法による深さ方向の元素分析、X線光電子分光法による深さ方向の元素分析等が挙げられる。また、溶媒中の被覆化合物のみの化学的なエッチングで溶出した元素濃度から推定する方法も挙げられる。
【0046】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xに対する、Li元素を含む被覆化合物Zの製造方法について述べる。
【0047】
本発明に係る前記被覆化合物Zを形成させる技術は、ニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xに残存する水酸化リチウムLiOHを効率良く炭酸リチウムLi2CO3へ変える技術であり、従来の技術と異なる。即ち、適度な加湿処理により、ニッケル酸リチウム複合酸化物からLiを溶出させることなく、該残存水酸化リチウムLiOHを低温で炭酸化しやすいLiOH・H2Oへと化学変化させることを特徴としている。
【0048】
本発明に係る前記被覆化合物Zは、ニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xを加湿処理後、大気中150~450℃の熱処理で形成されることが好ましい。加湿処理の条件として、温度10~50℃、雰囲気ガスの相対湿度10~90%、処理時間0.5~15時間であることが好ましい。加湿が厳しい条件の温度50℃を超えて、雰囲気ガスの相対湿度90%を超えて、又は、処理時間15時間を超える場合、ニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xからリチウムが溶出し始めると推定される。より好ましい加湿処理条件として、温度15~30℃、雰囲気ガスの相対湿度15~80%、処理時間1~10時間である。また、加湿処理後に生成したLiOH・H2OをLi2CO3へと反応させ、且つニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xからリチウムが溶出しないようにするために、大気中の熱処理温度のより好ましい範囲は200~400℃である。
【0049】
本発明に係る前記被覆化合物Zは、後述の試料懸濁液のワルダー法による滴定において、残存するLiOHやLi2CO3と推定される。より厳密な推定によると、前記懸濁液中にLiOHとなり得るLi2Oや他のLi化合物が被覆化合物Zを形成している可能性もある。従って、残存するLiOH系不純物を加湿処理でLiOH・H2Oとし、大気中の低温熱処理でLi2CO3へ変える技術であり、被覆化合物Zは粒子状またはフィルム状である場合もある。該構造の同定のための粒子表面分析として、高分解能透過型電子顕微鏡観察、高分解能走査型電子顕微鏡観察、飛行時間型二次イオン質量分析法による深さ方向の元素分析、X線光電子分光法による深さ方向の元素分析等が挙げられる。
【0050】
前記の芯粒子Xの表面に形成する前記の被覆化合物Yに対する被覆化合物Zの比率範囲は、通常1~100重量比、好ましくは2~50重量比更に好ましくは3~40重量比mol比である。上記の比率範囲であることにより、高充電時の充放電繰り返し特性に優れ、高温保存時によるガス発生を低減するニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末となり得る。
【0051】
次に、本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末を用いた非水電解質二次電池について述べる。
【0052】
本発明に係る正極活物質粒子粉末を用いて正極シートを製造する場合には、常法に従って、導電剤と結着剤を添加し、混合する。導電剤としてはカーボンブラック、グラファイト等が好ましい。結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。溶媒として、例えば、N-メチル-ピロリドンを用いることが好ましい。正極活物質粒子粉末と導電材と結着剤を含むスラリーを蜂蜜状になるまで混練する。得られた正極合剤スラリーを溝が25μm~500μmのドクターブレードで塗布速度は約60cm/secで集電体上に塗布し、溶媒除去と結着剤軟化のため80~180℃で乾燥する。集電体には約20μmのAl箔を用いる。正極合剤を塗布した集電体に線圧0.1~3t/cmのカレンダーロール処理を行って正極シートを得る。
【0053】
負極活物質としては、リチウム金属、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、黒鉛等を用いることができ、正極と同様のドクターブレード法や金属圧延により負極シートは作製される。
【0054】
また、電解液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの組み合わせ以外に、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種類を含む有機溶媒を用いることができる。
【0055】
さらに、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類を上記溶媒に溶解して用いることができる。
【0056】
電池内部の発生ガスの定量化に用いる電池はラミネート型が望ましい。充放電を数回繰り返して、二次電池として問題無く作動することを確認した後、例えば、充電状態の電池を85℃-24時間保持する。室温にて増加した体積を測定し、正極活物質当たりの二次電池体積増加分を算出する。
【0057】
本発明に係る正極活物質粒子粉末を用いて製造した対極Liの二次電池は、25℃において、4.4Vの充電後の初期放電容量が、200mAh/g程度であり、レート0.5C/1Cでの充放電100サイクルでの容量維持率は95%以上である。また、前記条件でのガス発生は正極活物質1g当たり1cc以下である。
【0058】
<作用>
本発明に係る好ましいニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末は、気相成長法で形成された被覆化合物Yと、加湿処理後の熱処理で形成されたLi元素を含む被覆化合物Zを備える。そのため、残存する水酸化リチウム含有量が極めて低く、また、非水電解液と該正極活物質粒子粉末との直接接触を妨げることができる。同時に適度に残存する被覆化合物ZはLiを含む電解液の分解反応を低減すると予測される。従って、電極スラリー作製時にゲル化が無く、また、得られる二次電池は充放電に伴う電極反応以外の副反応を抑制するので、高電圧時の充放電繰り返し特性に優れ、且つ、高温保存時のガス発生による電池の体積膨張を抑えた正極活物質粒子粉末として好適である。
【実施例】
【0059】
本発明の具体的な実施の例を以下に示す。
【0060】
[実施例1]
前駆体であるコバルト含有水酸化ニッケルNi0.84Co0.16(OH)2は水溶媒中のアンモニア錯体を経由した晶析法で数日間かけて得られた。該水酸化物と水酸化リチウム・一水塩LiOH・H2Oと水酸化アルミニウムAl(OH)3を、モル比でLi:Ni:Co:Al=1.02:0.81:0.15:0.04になるよう所定量を計量後、ハイスピードミキサーで混合し、ローラーハースキルンにおいて酸素雰囲気下770℃で芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物を得た。
【0061】
得られたニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末30gを20℃、相対湿度21%の大気を80ft/min流通させて6時間保持し、含有するLiOHをLiOH・H2Oへとした。続いて、大気中350℃、2時間で該不純物をLi2CO3へと変え、被覆化合物Zを作製した。
【0062】
被覆化合物Yを形成するため、上記の被覆化合物Zを備えたニッケル酸リチウム複合酸化物を原子層堆積法で処理した。該法の原料ガスAにトリメチルアルミニウムAl2(CH3)3、原料ガスBにH2Oを用いた。180℃で4サイクル処理して、本発明のニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末を得た。
【0063】
本発明のニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末の粉体評価は以下のように行った。
【0064】
試料表面、及び形状を観察するために電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)のS-4800[(株)日立ハイテクノロジーズ]を用いた。高倍率における観察から炭酸リチウム粒子を推定した。
【0065】
試料のBET比表面積は試料を窒素ガス下で250℃、60分間乾燥脱気した後、Monosorb[Quantachrome Instruments]を用い、測定した。
【0066】
試料の結晶相の同定と結晶構造パラメータの算出のため、粉末X線回折装置SmartLab3kW[(株)リガク]を用いて測定した。X線回折パターンはCu-Kα、40kV、44mAの条件下で、モノクロメータを通して測定し、15≦2θ(deg.)≦120、0.02°のステップで、3deg./min.で測定した。
【0067】
試料の体積基準の凝集粒子メジアン径D50の計測に、レーザー回折・散乱式の粒度分布計SALD-2201[(株)島津製作所]を用いた。
【0068】
試料中のLiOHとLi2CO3は室温で水溶媒懸濁させた溶液の塩酸滴定曲線から算出されるワルダー法を採用した。ここで、10gの試料を50ccの水に1時間マグネチィックスターラーで懸濁させた。
【0069】
試料の2%pHは100ccの純水中に2gの試料を室温で懸濁させ、pHメータを用いて室温で測定した。
【0070】
試料の主成分元素であるリチウムとニッケル、及び副成分のコバルト、アルミニウムの含有量は、該試料粉末を塩酸で完全に溶解後、ICP発光分光分析装置(ICP-OES)ICPS-7510[(株)島津製作所]を用い、検量線法で測定した。
【0071】
試料の表面組成分析にX線光電子分光(XPS)装置DLD Axis Ultra XPS[Kratos Analytical Ltd.]を用いた。測定条件として、単色化X線(Alkα)をX線源とし、アノード電圧14kV、エミッション電流8mAで、Arエッチングにより表面から深さ方向に分析し、Ta2O5基板換算の深さ方向のプロファイルを作成した。
【0072】
ALD法による被覆化合物は原料ガス種からAl2O3と推定され、定量化は、試料5gを純水100ccに分散させ、煮沸、冷却後、溶解したAlの量から計算した。
【0073】
得られた正極活物質粒子粉末を用いて、下記製造方法によるCR2032型コインセルでの二次電池特性を評価した。
【0074】
正極活物質と導電剤であるアセチレンブラック、グラファイト及び結着剤のポリフッ化ビニリデンを重量比90:3:3:4となるよう精秤し、N-メチル-2-ピロリドンに分散させ、高速混練装置で十分に混合して正極合剤スラリーを調整した。次に該合剤スラリーを集電体のアルミニウム箔にドクターブレードPI-1210 film coater[Tester Sangyo Co., LTD]で塗布し、120℃で乾燥して、0.5t/cmに加圧して、1cm2当たり9mgの正極活物質粒子粉末を含有する正極シートを作製した。該正極シートを16mmφに打ち抜き、正極とした。
【0075】
負極として、16mmφに打ち抜いた金属リチウム箔を用いた。
【0076】
セパレーターとして、セルガード#2400[Celgard,LLC]20mmφを用いた。エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート(1:1体積比)混合溶媒に、1mol/LになるようLiPF6を溶解し、電解液として用いた。これら部材を組み立て、CR2032型コインセルを作製した。
【0077】
電解液や金属リチウムが大気により分解されないよう、露点を管理したアルゴン雰囲気のグローブボックス中で電池の組み立てを行った。
【0078】
25℃における初期放電容量の測定は充放電試験装置TOSCAT-3000[TOYO system]を用い、0.1Cの定電流下で、放電電圧下限を3.0Vとし、充電上限電圧を4.4Vとした条件の試験を行った。また、25℃における100回の充放電サイクル試験に0.5C/1Cの定電流下で、放電電圧下限を3.0Vとし、充電上限電圧を4.4Vとした条件の試験を行った。
【0079】
電池内部の発生ガスの定量化にグラファイトを負極、LiPF6を電解質(濃度:1mol/L)、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート(1:1体積比)を電解液溶媒とし、ラミネート型の電池(サイズ:105mm×55mm)を構成した。下限電圧3.0V、上限電圧4.2Vとし、初回充放電を充電レート0.05Cと放電レート0.1Cで、二回目の充放電を充電レート0.2Cと放電レート0.5Cで、3回目の充電レートを0.1Cで行った。3回目の充電状態で電流を流すのを止め、85℃-24時間保持後、室温にてアルキメデス法にて増加した体積を測定し、正極活物質1g当たりの二次電池体積増加分を算出した。
【0080】
前記の芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物はICP組成分析とXRD相分析により、層状構造のLi1.02Ni0.81Co0.15Al0.04O2であった。
【0081】
また、前記のニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末は
図6(1)にXPSの深さ方向のプロファイルを示すように、表層に元素Li、Al、Cが多く検出され、被覆化合物Yと被覆化合物Zを備えており、被覆化合物YはAl
2O
3、被覆化合物ZはLiOHとLi
2CO
3と推定される。Al濃度は最表面において最も高く、10nm/Ta
2O
5の深さから減少し始める。一方、Li濃度は最表面から内部に向かって増加し、10nm/Ta
2O
5の深さにおいて最大値に達する。これは、最表面において化合物Yがリッチとなり、一方表面下の内部において化合物Zがリッチであることを示す。保護層としてのそのような層は、優れた高電圧充放電繰り返し特性を有し、高温保存時のガス発生を抑制したニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末を提供する。XRDによる格子定数は六方格子で表わすと、a=2.8651Å、c=14.185Åであった。
【0082】
実施例及び比較例のニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末の粉体特性及び電池特性を表1、2及び4に示す。水酸化リチウム、炭酸リチウム、共に低い含有量であり、その比は1以上であった。4.4V高充電圧時の初期容量も200mAh/g程度を示し、同充電電圧での100回のサイクル特性の容量維持率も95%以上であった。85℃保存時のガス発生試験による体積増加もわずか0.33cc/gと推定され、高性能の二次電池特性を示した。
【0083】
[実施例2]
実施例1で得られた芯粒子Xとなり得る層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li1.02Ni0.81Co0.15Al0.04O2を用い、原子層堆積法で被覆化合物Yを形成させた。同法での処理条件は実施例1と同様で、用いた原料ガスAはトリメチルアルミニウムAl2(CH3)6、原料ガスBはH2Oであり、180℃で4サイクルの処理であった。その後、温度20℃で相対湿度21%の空気を80ft/min.流通させて6時間加湿処理し、大気中350℃-2時間で被覆化合物Zを形成させた。
【0084】
得られたニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末は
図6(2)にXPSの深さ方向のプロファイルを示すように、表層に元素Li、Al、Cが多く検出され、Al
2O
3と推定される被覆化合物Yと、LiOH及びLi
2CO
3と推定される被覆化合物Zを備えていた。Li濃度は最表面において最も高く、10nm/Ta
2O
5の深さから減少し始める。一方、Al濃度は最表面から内部に向かって増加し、10nm/Ta
2O
5の深さにおいて最大値に達する。これは、最表面において化合物Zがリッチとなり、一方表面下の内部において化合物Yがリッチであることを示す。XRDによる格子定数は六方格子で表わすと、a=2.8653Å、c=14.177Åであった。粉体特性及び電池特性を示すように、実施例1同様、高性能の二次電池特性を示した。
図2のSEM写真に示すように、該活物質粒子粉末は凝集粒子を構成しており、その平均粒子径はD
50=15.8μmと近い値と観察された。
図3のSEM写真に示すように、サブミクロンの一次粒子から構成され、被覆化合物Y或いは被覆化合物Zにより表層は凹凸が観察された。
【0085】
[比較例1]
実施例1で得られた芯粒子Xとなり得る層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li
1.02Ni
0.81Co
0.15Al
0.04O
2を、表面処理することなく正極活物質粒子粉末として用いた。
図6(3)にXPSの深さ方向のプロファイルを示すように、表層に元素Li、Cが多く検出され、Alは全く検出されず、LiOHとLi
2CO
3が存在すると推定される。しかしながら、
図4のSEM写真に示すように、粒子表面は滑らかであり、時折、100nm以下の粒子が観察される程度であり、被覆化合物を備えているとは言い難かった。また、XRDによる格子定数は六方格子で表わすと、a=2.8651Å、c=14.181Åであった。
【0086】
正極活物質粒子粉末としての粉体特性及び電池特性を表に示す。水酸化リチウムは高い含有量であり、水酸化リチウムに対する炭酸リチウムの比は1未満であり、水酸化リチウムの存在比は高かった。4.4V高充電圧時の初期容量は200mAh/g程度であったが、同充電電圧での100回のサイクル特性の容量維持率も86%と低かった。85℃保存時のガス発生試験による体積増加も1.06cc/gと高く、低性能の二次電池特性を示した。
【0087】
[比較例2]
実施例2の途中の製造工程から抜き取った試料、即ち、原子層堆積法での処理後の試料を正極活物質として用いた。表に粉体特性及び電池特性を示すように、高い水酸化リチウムの含有量を示し、2%粉体pHも高く、低性能の二次電池特性を示した。
【0088】
[比較例3]
実施例1の途中の製造工程から抜き取った試料、即ち、加湿処理と大気中の熱処理を経た直後の試料を正極活物質として用いた。表に粉体特性及び電池特性を示すように、高い炭酸リチウムの含有量を示し、低性能の二次電池特性を示した。
図5のSEM写真を示すように、粒子表面は滑らかでなく、粒子表面全体に渡って、100nm以下の粒子が観察され、炭酸リチウムと推定される被覆化合物Zを備えていた。
【0089】
[比較例4]
実施例1で得られた芯粒子Xとなり得る層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li
1.02Ni
0.81Co
0.15Al
0.04O
2を50vol%CO
2/50vol%大気の混合ガス流通下で250℃-2時間処理を行った。表に粉体特性及び電池特性を示すように、高い水酸化リチウムの含有量を示し、低性能の二次電池特性を示した。
図6(4)にXPSの深さ方向のプロファイルを示すように、表層に元素Li、Cが多く検出され、Alは全く検出されず、Li
2CO
3と推定された。
【0090】
[実施例3]
前駆体であるコバルト含有水酸化ニッケルNi0.84Co0.16(OH)2(D50は約6μm)は水溶媒中のアンモニア錯体を経由した晶析法で数日間かけて得られた。以降、実施例1と同様の処理を行った。実施例3~7、及び比較例5~14で得られたニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末の粉体特性及び電池特性を表2に示す。
【0091】
[実施例4]
実施例1で得られた芯粒子Xとなり得る層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li1.02Ni0.81Co0.15Al0.04O2を用い、原子層堆積法で被覆化合物Yを形成させた。同法での処理条件はサイクル数を2とした以外は実施例1と同様で、用いた原料ガスAはトリメチルアルミニウムAl2(CH3)6、原料ガスBはH2Oであり、180℃での処理であった。その後、温度20℃で相対湿度21%の空気を80ft/min.流通させて6時間加湿処理し、大気中350℃-2時間で被覆化合物Zを形成させた。
【0092】
[実施例5]
原子層堆積法のサイクル数を2から3.5と変更した以外は、実施例4と同様の処理を行った。
【0093】
[実施例6]
実施例5において、温度20℃で相対湿度21%の空気80ft/min.流通させた6時間の加湿処理を、温度20℃でAir:CO2=1:1(体積比)の混合ガス8L/min(相対湿度約20%)で2時間流通させた処理、と変更した以外は、実施例5と同様の処理を行った。
【0094】
[実施例7]
原子層堆積法のサイクル数を2から7と変更した以外は、実施例4と同様の処理を行った。
【0095】
[比較例5]
実施例3の途中で得られたローラーハースキルンにおいて酸素雰囲気下770℃で芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物をそのまま正極活物質として用いた。
【0096】
[比較例6]
加湿処理後、大気中350℃、2時間で被覆化合物Zを作製する工程を省くこと以外、実施例3同様の処理を行った。
【0097】
[比較例7]
実施例1に用いた芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物を、空気:CO2=3:1(体積比)の混合ガス条件下、350℃-2時間処理した。原子層堆積法での処理は行わなかった。
【0098】
[比較例8]
実施例4に用いた芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物を、空気:CO2=3:1(体積比)の混合ガス条件下、350℃-2時間処理した。原子層堆積法での処理は行わなかった。
【0099】
[比較例9]
実施例4の途中の工程で得られた芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物に、被覆化合物Yを形成させて、正極活物質として用いた。
【0100】
[比較例10]
実施例5の途中の工程で得られた芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物に、被覆化合物Yを形成させて、正極活物質として用いた。
【0101】
[比較例11]
実施例7の途中の工程で得られた芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物に、被覆化合物Yを形成させて、正極活物質として用いた。
【0102】
[比較例12]
実施例3の途中の工程で得られた芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末30gを、温度20℃相対湿度21%の大気80ft/min流通させて6時間保持し、含有するLiOHをLiOH・H2Oへとした。続いて、大気中350℃、2時間で該不純物をLi2CO3へと変え、被覆化合物Zを作製した。被覆化合物Yを形成させる工程は省略した。
【0103】
[比較例13]
温度20℃相対湿度21%の大気80ft/min流通させて6時間保持を、空気:CO2=1:1(体積比)の混合ガスを8L/minで流しながら2時間保持と変更する以外は、比較例12と同様の処理を行った。
【0104】
[比較例14]
実施例4の途中の工程で得られた芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末30gを、温度20℃の空気:CO2=1:1(体積比)の混合ガスを8L/minで流しながら2時間保持し、含有するLiOHをLiOH・H2Oへとした。続いて、大気中350℃、2時間で該不純物をLi2CO3へと変え、被覆化合物Zを作製した。被覆化合物Yを形成させる工程は省略した。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末で得られる二次電池特性は、高電圧充放電繰り返し及び高温保存時のガス発生の観点から高性能であったと言及できる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、異なる2つの表面被覆化合物を有することで、高充電時の充放電繰り返し特性に優れ、高温保存時によるガス発生を低減するニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池提供する。該ニッケル酸リチウム系正極活物質粒子は不純物の水酸化リチウム及び炭酸リチウムの含有量が極めて低く、得られる二次電池は寿命が長く、高エネルギー密度を有する。