(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】車両用異常検知装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240129BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20240129BHJP
G01R 31/58 20200101ALI20240129BHJP
H01H 47/00 20060101ALI20240129BHJP
H02H 7/18 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
H02J7/00 S
B60R16/02 650P
G01R31/58
H01H47/00 A
H02H7/18
(21)【出願番号】P 2020089143
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 卓大
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-202793(JP,A)
【文献】特開2017-140920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
B60R 16/00 - 17/02
H01H 47/00 - 47/36
H02H 7/00
H02H 7/10 - 7/20
G01R 31/50 - 31/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1蓄電部と、第2蓄電部と、前記第1蓄電部と前記第2蓄電部との間に設けられるとともに前記第1蓄電部から電力が供給される経路をなし且つ前記第2蓄電部から電力が供給される経路をなす蓄電部間の電力路と、を備えた車両用電源システムに用いられる車両用異常検知装置であって、
前記蓄電部間の電力路の少なくとも一部をなし、異常を検知する対象である対象配線部と、
前記対象配線部に対して予め定められた異常確認動作を行い、前記異常確認動作の結果に基づいて前記対象配線部の異常を検知する異常検知部と、
を有する車両用異常検知装置。
【請求項2】
前記異常検知部は、時間領域反射率測定法により前記対象配線部の異常を検知する請求項1に記載の車両用異常検知装置。
【請求項3】
前記異常検知部は、少なくとも前記電源システムが搭載された車両の走行中に前記異常確認動作を行う請求項1又は請求項2に記載の車両用異常検知装置。
【請求項4】
前記第1蓄電部は、前記電源システムが搭載された車両において前後方向一方側に設置されるものであり、
前記第2蓄電部は、前記車両において前記前後方向他方側に設置されるものであり、
前記対象配線部は、前記車両における前記前後方向一方側の第1位置から前記車両における前記前後方向他方側の第2位置まで配されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用異常検知装置。
【請求項5】
前記異常検知部は、前記対象配線部の異常を検知した場合に、前記対象配線部に異常が生じたことを記録媒体に記録させる動作又は報知部に報知させる動作を行う請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両用異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つの蓄電部によって負荷に電力を供給し得るシステムにおいて、いずれかの蓄電部の経路でオープン故障などの異常が発生した場合に、その異常を検出し得るリレー装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用電源システムには、負荷に対して第1蓄電部からも第2蓄電部からも電力が供給されるものがある。このような電源システムでは、両蓄電部間に設けられる共通の電力路において負荷が接続される場合、この共通の電力路でオープン故障などの異常が生じ、一方の蓄電部から負荷に電力が供給されなくなっても、他方の蓄電部から負荷に電力が供給され続ける。つまり、共通の電力路において上記異常が発生しても、負荷の動作は停止せずに継続するため、負荷を監視するだけでは上記異常を検知することは難しい。
【0005】
本開示は、複数の蓄電部のいずれからも電力が供給され得る蓄電部間の電力路において、配線部の異常が生じたことを検知し得る技術を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一つである車両用異常検知装置は、
第1蓄電部と、第2蓄電部と、前記第1蓄電部と前記第2蓄電部との間に設けられるとともに前記第1蓄電部から電力が供給される経路をなし且つ前記第2蓄電部から電力が供給される経路をなす蓄電部間の電力路と、を備えた車両用電源システムに用いられる車両用異常検知装置であって、
前記蓄電部間の電力路の少なくとも一部をなし、異常を検知する対象である対象配線部と、
前記対象配線部に対して予め定められた異常確認動作を行い、前記異常確認動作の結果に基づいて前記対象配線部の異常を検知する異常検知部と、
を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一つである車両用異常検知装置は、複数の蓄電部のいずれからも電力が供給され得る蓄電部間の電力路において、配線部の異常が生じたことを検知し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態の車両用異常検知装置を備えた車両用電源システムを概略的に例示するブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1の車両用電源システムを、第1負荷群と第2負荷群とにまとめて示す説明図である。
【
図3】
図3は、
図1の車両用電源システムを具体的に示すブロック図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の車両用異常検知装置における異常検知処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図5】
図5は、他の実施形態の車両用異常検知装置を備えた車両用電源システムを具体的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本開示の実施形態が列記されて例示される。なお、以下で例示される〔1〕~〔8〕の特徴は、矛盾しない範囲でどのように組み合わされてもよい。
【0010】
〔1〕第1蓄電部と、第2蓄電部と、前記第1蓄電部と前記第2蓄電部との間に設けられるとともに前記第1蓄電部から電力が供給される経路をなし且つ前記第2蓄電部から電力が供給される経路をなす蓄電部間の電力路と、を備えた車両用の電源システムに用いられる車両用異常検知装置であって、前記蓄電部間の電力路の少なくとも一部をなし、異常を検知する対象である対象配線部と、前記対象配線部に対して予め定められた異常確認動作を行い、前記異常確認動作の結果に基づいて前記対象配線部の異常を検知する異常検知部と、を有する。
【0011】
〔1〕の車両用異常検知装置は、第1蓄電部及び第2蓄電部のいずれからも電力が供給される蓄電部間の電力路において対象配線部に異常が発生した場合に、異常検知部によって対象配線部の異常を検知することができる。
【0012】
〔2〕前記異常検知部は、時間領域反射率測定法により前記対象配線部の異常を検知する〔1〕に記載の車両用異常検知装置。
【0013】
〔2〕の車両用異常検知装置は、対象配線部に断線等の異常が生じているか否かをより正確に判定することができる。例えば、この車両用異常検知装置は、対象配線部の特性インピーダンスが変化するような異常が生じた場合、電圧を閾値と比較して異常を判定する方法や電流値を閾値と比較して異常を判定する方法によって検知しにくい異常も、異常検知が可能である。
【0014】
〔3〕前記異常検知部は、少なくとも前記電源システムが搭載された車両の走行中に前記異常確認動作を行う〔1〕又は〔2〕に記載の車両用異常検知装置。
【0015】
〔3〕の車両用異常検知装置は、一方の蓄電部からの電力供給が失陥した場合に対象配線部が適正に機能するか否かを車両の走行中に確認しておくことができる。つまり、この車両用異常検知装置は、車両の走行中に対象配線部の異常が発生した場合であっても、この異常を検知できる可能性が高く、対象配線部の異常に対してより早期に対策しやすい構成である。
【0016】
〔4〕前記第1蓄電部は、前記電源システムが搭載された車両において前後方向一方側に設置されるものであり、前記第2蓄電部は、前記車両において前後方向他方側に設置されるものであり、前記対象配線部は、前記車両における前後方向一方側の第1位置から前記車両における前後方向他方側の第2位置まで配されている〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の車両用異常検知装置。
【0017】
〔4〕の車両用異常検知装置は、第1蓄電部と第2蓄電部を車両において前後にずらして配置し得る電源システムにおいて、対象配線部を車両の前側から後ろ側に広めに配置しつつ、このように広く配置された対象配線部を検査することができる。
【0018】
〔5〕前記異常検知部は、前記対象配線部の異常を検知した場合に、前記対象配線部に異常が生じたことを記録媒体に記録させる動作又は報知部に報知させる動作を行う〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の車両用異常検知装置。
【0019】
〔5〕の車両用異常検知装置は、対象配線部を介して電力供給を受ける負荷が正常に動作する場合であっても、対象配線部に異常が生じた場合には、その旨を記録又は報知することができ、ユーザ等に知らしめることができる。よって、ユーザ等は、一方の蓄電部の失陥と対象配線部の異常が重なるような不具合が発生する前に、このような不具合が発生する可能性が高まったことを認識することができ、予め対策を講じておくことができる。
【0020】
〔6〕前記第1蓄電部は、前記電源システムが搭載された車両において左右方向一方側に設置されるものであり、前記第2蓄電部は、前記電源システムが搭載された車両において左右方向他方側に設置されるものであり、前記対象配線部は、前記車両における左右方向一方側の位置から前記車両における左右方向他方側の位置まで配されている〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の車両用異常検知装置。
【0021】
〔6〕の車両用異常検知装置は、第1蓄電部と第2蓄電部を車両において左右にずらして配置し得る電源システムにおいて、対象配線部を車両の左側から右側に広めに配置しつつ、このように広く配置された対象配線部を検査することができる。
【0022】
〔7〕前記電源システムは、前記蓄電部間の電力路に接続される特定負荷に対して電力を供給し、前記蓄電部間の電力路における前記特定負荷への分岐位置と前記第1蓄電部及び前記第2蓄電部のいずれか一方との間において前記対象配線部に断線が生じた場合に、前記第1蓄電部及び前記第2蓄電部のいずれか他方から前記特定負荷への電力供給が維持されるシステムである〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の車両用異常検知装置。
【0023】
〔7〕の車両用異常検知装置が用いられる電源システムは、特定負荷への分岐位置よりも一方の蓄電部側の経路において対象配線部に断線が生じても、他方の蓄電部から特定負荷へ電力が供給されるため、特定負荷への電力が遮断されることを防ぐことができる。しかし、この電源システムでは、断線が生じても特定負荷の動作を継続することができるため、特定負荷の動作の可否を監視するだけでは断線の発生を検知することができない。これに対し、〔7〕の車両用異常検知装置は、異常検知部によって対象配線部の異常を検知することができるため、上記のような断線を検知することができる。
【0024】
〔8〕前記電源システムは、前記第1蓄電部から電力が供給される経路である第1電力路と、前記第1電力路から分岐した電力路であり前記第1蓄電部及び前記第2蓄電部から電力が供給される電力路である第2電力路と、前記第1電力路と前記第2電力路との間を導通状態と遮断状態とに切り替えるリレーと、を含み、前記第1電力路に少なくとも第1負荷が電気的に接続され、前記第2電力路に少なくとも第2負荷が電気的に接続され、少なくとも前記リレーがオフ状態のときに、前記第1負荷に対して前記第2蓄電部から電力が供給されず且つ前記第2負荷に対して前記第1蓄電部から電力が供給されず、前記第2負荷は、少なくとも前記第1負荷の動作が停止した場合に、前記第1負荷の動作を実行する負荷である〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の車両用異常検知装置。
【0025】
〔8〕の車両用異常検知装置が用いられる電源システムでは、第1蓄電部の失陥や第1電力路の異常(地絡など)が発生した場合、リレーをオフ状態に切り替えて第1電力路と第2電力路との間を遮断し、第2電力路側を保護することができる。このような構成のものでは、リレーをオフ状態に切り替えることで第2蓄電部のみが第2電力路側に電力を供給する状況になった場合に、対象配線部に断線等が生じていると一部又は全部の負荷に電力が供給されなくなってしまう。このような異常が、リレーのオフ状態まで或いは第1電力路又は第1蓄電部に異常が生じるまで検知できないと、保護動作が適正になされない事態が生じてしまう。これに対し、〔8〕の車両用異常検知装置は、対象配線部の異常を検知しておくことができるため、上記のような事態が生じにくい。
【0026】
<第1実施形態>
1.電源システムの概要
図1に示される車両用電源システム100は、車両110に搭載される電源システムである。車両用電源システム100は、以下の説明では、単に電源システム100とも称される。電源システム100は、第1蓄電部91及び第2蓄電部92を備え、車両110に設けられた様々な電気部品に電力を供給するシステムとして構成されている。
【0027】
第1蓄電部91は、主電源として機能し、例えば鉛バッテリなどの公知の電源によって構成されている。第1蓄電部91は、鉛バッテリに限定されず、充放電可能に構成された他の種類の蓄電部であってもよい。第1蓄電部91は、第1電力路11を介して電力を供給するメインバッテリとして機能する。第1蓄電部91は、高電位側の端子が第1電力路11に電気的に接続され、第1電力路11に直流電圧を印加する構成をなす。第1蓄電部91の低電位側の端子は、例えばグラウンドに電気的に接続されている。
【0028】
第2蓄電部92は、例えばリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの公知の電源によって構成されている。第2蓄電部92は、第2電力路12を介して電力を供給するサブバッテリとして機能する。第2蓄電部92は、高電位側の端子が第2電力路12に電気的に接続され、第2電力路12に直流電圧を印加する構成をなす。第2蓄電部92の低電位側の端子は、例えばグラウンドに電気的に接続されている。
【0029】
なお、図示は省略されているが、第1電力路11に電気的に接続され、第1電力路11に電力を供給し得る構成で、発電機が設けられていてもよい。
【0030】
リレー40は、第1電力路11と第2電力路12との間を導通状態と遮断状態とに切り替えるリレーである。リレー40がオン状態のときには第1電力路11と第2電力路12との間が導通した導通状態となり、第1電力路11から第2電力路12への電力供給及び第2電力路12から第1電力路11への電力供給が許容される。リレー40がオフ状態のときには第1電力路11と第2電力路12との間の導通が遮断された遮断状態となり、第1電力路11から第2電力路12への電力供給が遮断され、第2電力路12から第1電力路11への電力供給が遮断される。
【0031】
第1電力路11は、第1蓄電部91に電気的に接続された導電路であり、第1蓄電部91から電力が供給される経路である。第1電力路11には、第1蓄電部91から出力される直流電圧が印加される。第1電力路11は、主経路11Aと分岐経路11Bとを備える。主経路11Aは、第1蓄電部91に電気的に接続されるとともに車両110内において広い範囲にわたって配策される導電路である。主経路11Aには、第1蓄電部91の出力電圧に基づく電圧が印加される。分岐経路11Bは、主経路11Aから分岐した導電路であり、主経路11Aと同等の電圧が印加される導電路である。
【0032】
第1電力路11は、第1蓄電部91から第1負荷への電力供給に用いられる経路である。第1負荷は、第1電力路11に電気的に接続された負荷であり、リレー40がオフ状態となったときに第1蓄電部91から電力を供給されうる負荷である。即ち、第1負荷は、第2蓄電部92から第1電力路11に対して電力が供給されない状態でも、第1蓄電部91から電力が供給されうる負荷である。リレー40がオフ状態のときには、第1負荷に対して第2蓄電部92から電力は供給されない。
図1~
図3では、第1負荷の例として、前側第1ECU71、左側第1ECU72、後側第1ECU73、右側第1ECU78、が例示されている。前側第1ECU71、左側第1ECU72、後側第1ECU73、右側第1ECU78は、例えば、ゲートウェイとして機能し、データ通信を制御する機器として構成され、自身に割り当てられた領域の管理及び制御を行い得るECU(Electronic Control Unit)であり、自身に割り当てられた領域のセンサや負荷などを管理及び制御する機能、及び他のECUと通信を行う機能を有する。
【0033】
なお、図示はされていないが、第1負荷は、これらのECUによって制御や管理され得る負荷も含む。第1負荷としては、ステアリング用アクチュエータ、シフトバイワイヤシステム、電子制御ブレーキシステムなどのイグニッション系負荷が含まれていてもよい。或いは、第1負荷として、ナビゲーション装置、オーディオ装置、エアーコンディショナーなどのアクセサリ系負荷が含まれていてもよい。第1負荷は、これらの負荷に限定されない。具体的には、第1負荷は、他の種類のECUであってもよく、ECU以外の負荷であってもよい。
【0034】
第2電力路12は、第2蓄電部92に電気的に接続された導電路であり、第2蓄電部92から出力される直流電圧が印加される導電路である。第2電力路12は、第1電力路11から分岐した電力路であり、第1蓄電部91及び第2蓄電部92から電力が供給される電力路である。第2電力路12は、主経路である蓄電部間の電力路20と、分岐経路である分岐導電路21とを備える。
【0035】
図3のように、蓄電部間の電力路20は、第2蓄電部92に電気的に接続されるとともに車両110(
図1)内において広い範囲にわたって配策される導電路である。蓄電部間の電力路20は、第1蓄電部91と第2蓄電部92との間に設けられるとともに第1蓄電部91から電力が供給される経路をなし且つ第2蓄電部92から電力が供給される経路をなす導電路である。
図3の例では、蓄電部間の電力路20の一端がリレー40に接続され、他端が第2蓄電部92の高電位側の端子に接続されている。蓄電部間の電力路20には、第2蓄電部92の出力電圧に基づく電圧が印加される。分岐導電路21は、蓄電部間の電力路20から分岐した導電路であり、蓄電部間の電力路20と同等の電圧が印加される導電路である。
【0036】
第2電力路12は、第2蓄電部92から第2負荷への電力供給に用いられる経路である。第2負荷は、第2電力路12に電気的に接続された負荷であり、リレー40がオフ状態となったときに第2蓄電部92から電力を供給されうる負荷である。即ち、第2負荷は、第1蓄電部91から第2電力路12に対して電力が供給されない状態でも、第2蓄電部92から電力が供給されうる負荷である。リレー40がオフ状態のときには、第2負荷に対して第1蓄電部91から電力は供給されない。第2負荷は、第1負荷のうちの所定の負荷の機能が停止した場合に当該所定の負荷の機能を実行する冗長系の負荷を含む。
図1~
図3では、第2負荷の例として、前側第2ECU81、左側第2ECU82、後側第2ECU83、右側第2ECU88、が例示されている。前側第2ECU81、左側第2ECU82、後側第2ECU83、右側第2ECU88は、車両内における各領域の管理又は制御を行い得る。第2負荷は、冗長系のECUであり、第1負荷が機能しない場合に第1負荷に代えて第1負荷の機能を実行し得るECUである。例えば、前側第2ECU81は、前側第1ECU71が機能しない場合に前側第1ECU71の代わりに前側第1ECU71の機能を実行し得るECUである。同様に、後側第2ECU83は、後側第1ECU73が機能しない場合に後側第1ECU73の代わりに後側第1ECU73の機能を実行し得るECUである。
【0037】
なお、図示はされていないが、第2負荷は、ECU以外の負荷も含む。第2負荷としては、ステアリング用アクチュエータ、シフトバイワイヤシステム、電子制御ブレーキシステムなどのイグニッション系負荷が含まれていてもよい。例えば、第2負荷としてのシフトバイワイヤシステムは、第1負荷としてのシフトバイワイヤシステムが機能しない場合に、第1負荷としてのシフトバイワイヤシステムの代わりにシフトバイワイヤシステムとして機能する冗長系の負荷である。また、第2負荷としての電子制御ブレーキシステムは、第1負荷としての電子制御ブレーキシステムが機能しない場合に、第1負荷としての電子制御ブレーキシステムの代わりに電子制御ブレーキシステムとして機能する冗長系の負荷である。このように、複数の第2負荷のうちの少なくとも一部は、第1負荷の動作が停止する異常が生じた場合に、第1負荷の代わりに第1負荷の動作を実行する冗長系の負荷として構成される。なお、第2負荷としては、アクセサリ系負荷が含まれていてもよい。
【0038】
図2のように、電源システム100は、蓄電部間の電力路20に接続される特定負荷80に対して電力を供給しうる。
図2、
図3の例では、前側第2ECU81、左側第2ECU82、後側第2ECU83などが特定負荷の一例に相当する。
図2、
図3のように、電源システム100は、蓄電部間の電力路20における特定負荷80への分岐位置と第1蓄電部91及び第2蓄電部92の一方との間において対象配線部22に断線が生じた場合に、他方から特定負荷80への電力供給が維持される。例えば、蓄電部間の電力路20における前側第2ECU81への分岐位置Paと第1蓄電部91との間に断線が生じた場合に、第2蓄電部92から前側第2ECU81への電力供給が維持される。或いは、蓄電部間の電力路20における後側第2ECU83への分岐位置Pdと第2蓄電部92との間に断線が生じた場合に、第1蓄電部91から後側第2ECU83への電力供給が維持される。
【0039】
2.車両用異常検知装置の詳細
車両用異常検知装置1は、車両110内の配線の異常を検知する装置である。車両用異常検知装置1は、以下の説明では、異常検知装置1とも称される。異常検知装置1は、主に、対象配線部22と異常検知部50とを備える。
【0040】
対象配線部22は、蓄電部間の電力路20の少なくとも一部をなし、異常を検知する対象の配線部である。
図1の例では、第1蓄電部91は、電源システム100が搭載された車両110において前後方向一方側(具体的には前側)に設置され、第2蓄電部92は、電源システム100が搭載された車両において前後方向他方側(具体的には後ろ側)に設置される。対象配線部22は、車両110における前後方向一方側(前側)の第1位置P1から車両110における前後方向他方側(後ろ側)の第2位置P2まで配されている。本明細書において、車両110の前後方向一方側とは、車両110における前後方向の中心位置C1よりも前後方向一方側であることを意味し、具体的には、車両110における前後方向の中心位置C1よりも前側であることを指す。また、車両110の前後方向他方側とは、車両110における前後方向の中心位置C1よりも前後方向他方側であることを意味し、具体的には、車両110における前後方向の中心位置C1よりも後ろ側であることを指す。中心位置C1は、当該位置から車両110の前端までの前後方向の距離と、当該位置から車両の後端までの前後方向の距離とが等しくなる中央位置である。
【0041】
図1の例では、第1蓄電部91は、電源システム100が搭載された車両110において左右方向一方側(具体的には左側)に設置され、第2蓄電部92は、電源システム100が搭載された車両において左右方向他方側(具体的には右側)に設置される。対象配線部22は、車両110における左右方向一方側(左側)の第1位置P1から車両110における左右方向他方側(右側)の第2位置P2まで配されている。本明細書において、車両110の左右方向一方側とは、車両110における左右方向の中心位置C2よりも左右方向一方側であることを意味する。中心位置C2は、当該位置から車両110の左端までの左右方向の幅と、当該位置から車両の右端までの左右方向の幅とが等しくなる中央位置である。
【0042】
異常検知部50は、対象配線部22に対して予め定められた異常確認動作を行う装置である。異常検知部50は、主に、制御部50Aと計測装置50Bとを有する。
【0043】
異常検知部50は、制御部50Aが計測装置50Bに対して予め定められた異常確認動作を行わせ、計測装置50Bによる異常確認動作の結果に基づいて対象配線部22の異常を検知する。具体的には、異常検知部50の一部をなす計測装置50Bが、時間領域反射率測定法によって対象配線部22の特性インピーダンスを測定する。そして、制御部50Aは、計測装置50Bが対象配線部22の特性インピーダンスを測定したときの測定結果に基づいて対象配線部22の異常を検知する。以下では、時間領域反射率測定法は、TDR(time domain reflectometry)とも称される。
【0044】
制御部50Aは、例えば、CPUなどの演算部、半導体メモリなどの記憶部、所定の通信方式で外部装置と通信を行う通信部などを備えた制御装置として構成されている。
【0045】
計測装置50Bは、時間領域反射率測定法によって伝送線路の特性インピーダンスを計測する装置として構成されている。
【0046】
対象配線部22は、時間領域反射率測定法によって特性インピーダンスを検査する対象の伝送線路である。対象配線部22は、一端が第1位置P1に配され、他端が第2位置P2に配される。計測装置50Bは、対象配線部22における第1位置P1と第2位置P2との間の特性インピーダンスを上述のTDRによって計測する。
【0047】
報知部52は、報知動作を行い得る装置である。報知部52は、ランプや表示装置などの表示部として構成され、表示によって報知を行う構成であってもよい。報知部52は、スピーカなどの音声装置によって構成され、音声によって報知を行う構成であってもよい。報知部52は、通信装置によって構成され、外部への情報送信によって報知を行う構成であってもよい。報知部52は、表示部、音声装置、通信装置のうちの2以上を備えていてもよい。
【0048】
記憶部54は、半導体メモリなどの記録媒体を備えており、各種情報を記憶する装置として構成されている。
【0049】
次の説明は、異常検知部50による異常検知処理に関する。
異常検知部50の制御部50Aは、所定の開始条件の成立した場合に
図4に示される異常検知制御を実行する。所定の開始条件は、特に限定されない。例えば、車両の始動スイッチがオン状態になったことが「所定の開始条件」であってもよく、制御部50Aに対して電力の供給が開始されたことが「所定の開始条件」であってもよい。また、前回の異常検知処理の終了から所定時間が経過したことが「所定の開始条件」であってもよい。
【0050】
制御部50Aは、
図4に示される異常検知処理を車両走行中に繰り返し実行するように動作する。つまり、異常検知部50は、少なくとも電源システム100が搭載された車両110の走行中に繰り返し異常確認動作を行い、異常確認動作がなされる毎に、対象配線部22が異常であるか否かを判定するようになっている。例えば、制御部50Aは、車両走行中において、前回の異常検知処理の終了から所定時間が経過する毎に、
図4の異常検知処理を開始するようになっている。
【0051】
制御部50Aは、
図4の異常検知処理を開始した場合、ステップS11の処理を実行し、計測装置50Bに測定動作を行わせるように指示する。計測装置50Bは、ステップS11において制御部50Aから指示があった場合、時間領域反射率測定法によって対象配線部22の特性インピーダンスを計測する。具体的には、計測装置50Bは、対象配線部22に対して予め定められた信号(高速なパルスやステップ信号)を注入し、信号の反射波形及び透過波形を観測することで、対象配線部22の特性インピーダンスを計測する。
【0052】
制御部50Aは、ステップS11でなされた計測の結果に基づいて、計測結果が異常であるか否かを判定する。具体的には、制御部50Aは、ステップS11でなされたTDRにおいて計測装置50Bが計測した対象配線部22の特性インピーダンスが予め定められた正常範囲内であるか否かを判定する。制御部50Aは、ステップS12において、対象配線部22の特性インピーダンスが予め定められた正常範囲内であると判定した場合、即ち、計測結果が異常でない場合には、ステップS13において予め定められた正常時処理を行う。正常時処理は、対象配線部22の状態が正常である旨の情報をログとして記憶部54に記憶する処理であってもよく、対象配線部22の状態が正常である旨を外部に報知する処理であってもよい。
【0053】
制御部50Aは、ステップS12において、対象配線部22の特性インピーダンスが予め定められた正常範囲内でないと判定した場合、即ち、計測結果が異常である場合には、ステップS14において予め定められた異常時処理を行う。異常時処理は、対象配線部22の状態が異常である旨の情報をログとして記憶部54に記憶させる処理であってもよい。或いは、異常時処理は、対象配線部22の状態が異常である旨を車両110内の表示部に表示させるように、報知部52に表示動作を行わせる処理であってもよい。或いは、異常時処理は、対象配線部22の状態が異常である旨を他の装置(例えば他のECU)に伝達するように、報知部52に通信動作を行わせる処理であってもよい。
【0054】
このように、異常検知部50は、対象配線部22の異常を検知した場合に、対象配線部22に異常が生じたことを記憶部54()に記録させる動作又は報知部に報知させる動作を行うようになっている。
【0055】
次の説明は、第1実施形態の効果に関する。
第1実施形態の車両用異常検知装置1は、第1蓄電部91及び第2蓄電部92のいずれからも電力が供給される蓄電部間の電力路20において対象配線部22に異常が発生した場合に、異常検知部50によって対象配線部22の異常を検知することができる。
【0056】
異常検知装置1において、異常検知部50は、時間領域反射率測定法により対象配線部22の異常を検知する。この異常検知装置1は、対象配線部22に断線等の異常が生じているか否かをより正確に且つより確実に判定することができる。例えば、この異常検知装置1は、対象配線部22の特性インピーダンスが変化するような異常が生じた場合、電圧を閾値と比較して異常を判定する方法や電流値を閾値と比較して異常を判定する方法によって検知しにくい異常であっても、異常検知が可能である。
【0057】
異常検知装置1において、異常検知部50は、電源システム100が搭載された車両110の走行中に異常確認動作を行い得る。この異常検知装置1は、一方の蓄電部からの電力供給が失陥した場合に対象配線部22が適正に機能するか否かを車両の走行中に確認しておくことができる。つまり、この異常検知装置1は、車両110の走行中に対象配線部22の異常が発生した場合であっても、この異常を検知できる可能性が高く、対象配線部22の異常に対してより早期に対策しやすい構成である。この異常検知装置1は、車両110の走行中に一方の蓄電部からの電力供給が途絶えたときに、他方の蓄電部からのバックアップ動作が対象配線部22の異常によって阻害されてしまう事態を、より生じにくくすることができる。
【0058】
異常検知装置1は、第1蓄電部91及び第2蓄電部92を車両110において前後にずらして配置し得る電源システム100において、対象配線部22を車両110の前側から後ろ側に広めに配置することができる。そして、異常検知装置1は、このように広く配置された対象配線部22をより正確に検査することができる。
【0059】
異常検知装置1は、対象配線部22を介して電力供給を受ける負荷が正常に動作する場合であっても、対象配線部22に異常が生じた場合には、その旨を記録又は報知することができ、ユーザ等に知らしめることができる。よって、ユーザ等は、一方の蓄電部の失陥と対象配線部22の異常が重なるような不具合が発生する前に、このような不具合が発生する可能性が高まったことを認識することができ、予め対策を講じておくことができる。
【0060】
異常検知装置1は、第1蓄電部91及び第2蓄電部92を車両110において左右にずらして配置し得る電源システム100において、対象配線部22を車両110の左側から右側に広めに配置することができる。そして、異常検知装置1は、このように広く配置された対象配線部22をより正確に検査することができる。
【0061】
電源システム100は、特定負荷80への分岐位置よりも一方の蓄電部側の経路において対象配線部22に断線が生じても、他方の蓄電部から特定負荷80へ電力が供給されるため、特定負荷80への電力が遮断されることを防ぐことができる。しかし、この電源システム100では、断線が生じても特定負荷80の動作を継続することができるため、特定負荷80の動作の可否を監視するだけでは、断線の発生を検知することができない。これに対し、異常検知装置1は、異常検知部50によって対象配線部22の異常を検知することができるため、上記のような断線を検知することができる。
【0062】
異常検知装置1が用いられる電源システム100では、第1蓄電部91の失陥や第1電力路11の異常(地絡など)が発生した場合、リレー40をオフ状態に切り替えて第1電力路11と第2電力路12との間を遮断し、第2電力路12側を保護することができる。このような構成のものでは、リレー40をオフ状態に切り替えることで第2蓄電部92のみが第2電力路12側に電力を供給する状況になった場合に、対象配線部22に断線等が生じていると一部又は全部の負荷に電力が供給されなくなってしまう。このような異常が、リレー40のオフ状態まで或いは第1電力路11又は第1蓄電部91に異常が生じるまで検知できないと、保護動作が適正になされない事態が生じてしまう。これに対し、異常検知装置1は、対象配線部22の異常を検知しておくことができるため、上記のような事態が生じにくい。
【0063】
<他の実施形態>
本開示は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述又は後述の実施形態の特徴は、矛盾しない範囲であらゆる組み合わせが可能である。また、上述又は後述の実施形態のいずれの特徴も、必須のものとして明示されていなければ省略することもできる。更に、上述した実施形態は、次のように変更されてもよい。
【0064】
上述の実施形態の説明では、
図1~
図3のような構成をなす電源システム100が例示され、この電源システム100に用いられる異常検知装置1が例示されたが、この例に限定されない。例えば、
図5のように、蓄電部間の電力路20においてリレー40とは異なるリレー42が設けられていてもよい。或いは、
図3又は
図5のような構成において、第1電力路や第2電力路にヒューズが設けられていてもよい。
【0065】
上述の実施形態の説明では、対象配線部22の異常をTDRに基づいて判定する方法が例示されたが、この方法に限定されない。例えば、
図5のような構成において、リレー40をオフ状態とし、リレー42をオン状態としたときに、位置Pa、位置Pb、位置Pc、位置Pdのいずれかの電圧が閾値電圧以下である場合に、対象配線部22が異常であると判定してもよい。同様に、リレー42をオフ状態とし、リレー40をオン状態としたときに、位置Pa、位置Pb、位置Pc、位置Pdのいずれかの電圧が閾値電圧以下である場合に、対象配線部22が異常であると判定してもよい。
【0066】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 :車両用異常検知装置
11 :第1電力路
11A :主経路
11B :分岐経路
12 :第2電力路
20 :蓄電部間の電力路
21 :分岐導電路
22 :対象配線部
40 :リレー
42 :リレー
50 :異常検知部
50A :制御部
50B :計測装置
52 :報知部
54 :記憶部
71 :前側第1ECU
72 :左側第1ECU
73 :後側第1ECU
78 :右側第1ECU
80 :特定負荷
81 :前側第2ECU
82 :左側第2ECU
83 :後側第2ECU
88 :右側第2ECU
91 :第1蓄電部
92 :第2蓄電部
100 :車両用電源システム
110 :車両
C1 :中心位置
C2 :中心位置
P1 :第1位置
P2 :第2位置
Pa :分岐位置
Pd :分岐位置