(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】加飾性水系組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20240129BHJP
A61K 8/00 20060101ALI20240129BHJP
A61K 8/03 20060101ALI20240129BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240129BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/00
A61K8/03
A61K8/34
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2019572308
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2019005758
(87)【国際公開番号】W WO2019160132
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018026682
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳平
(72)【発明者】
【氏名】豊玉 彰子
(72)【発明者】
【氏名】奥薗 透
(72)【発明者】
【氏名】山本 瑠璃
(72)【発明者】
【氏名】福島 文徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 結
(72)【発明者】
【氏名】坂西 裕一
(72)【発明者】
【氏名】福田 瞳
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0254017(US,A1)
【文献】国際公開第2016/093121(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子が溶解している水系分散媒にオパール型コロイド結晶が分散されており、該オパール型コロイド結晶を形成しているコロイド粒子は該水系分散媒に分散可能であり平均粒径が10nm以上1000nm以下の範囲であって粒径の変動係数が20%以内とされており、前記コロイド粒子は架橋された高分子からなり、
該コロイド粒子の比重は該水系分散媒の比重の0.9倍~1.1倍の範囲にあることを特徴とする加飾性水系組成物。
【請求項2】
前記水系分散媒に溶解している前記高分子の平均分子量は10万以上である請求項1に記載の加飾性水系組成物。
【請求項3】
前記コロイド粒子はポリN-イソプロピルアクリルアミドからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の加飾性水系組成物。
【請求項4】
前記コロイド粒子はポリN-イソプロピルアクリルアミド
とアクリルアミド
の共重合体からなることを特徴とする1又は2に記載の加飾性水系組成物。
【請求項5】
前記水系分散媒は水以外にアルコールを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加飾性水系組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項の加飾性水系組成物を固化した加飾性固化体。
【請求項7】
水系分散媒と、
該水系分散媒に溶解可能な高分子と、
平均粒径が10nm以上1000nm以下の範囲であって粒径の変動係数が20%以内
であって、比重が該水系分散媒の比重の0.9倍~1.1倍の範囲にあるコロイド粒子と、
を混合することによってオパール型コロイド結晶からなる粒子の分散液とすることを特徴とする加飾性水系組成物の製造方法。
【請求項8】
前記水系分散媒に溶解している前記高分子の平均分子量は10万以上である請求項7に記載の加飾性水系組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オパール型のコロイド結晶が水系分散媒中に分散しており、Bragg回折によって構造色を示す加飾性水系組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイド結晶とは、数nmから数μmの大きさを有する粒径の揃った粒子が周期的に規則正しく並んだ秩序構造を形成したものをいう。コロイド結晶は、通常の結晶と同様に、格子面間隔に応じた電磁波をBragg回折する。その回折波長は、製造条件(粒子濃度、粒径、粒子あるいは媒体の屈折率など)を選ぶことで、可視光領域や赤外領域等、様々な波長領域に設定することができる。このため、コロイド結晶を水系分散媒中に分散させ、キラキラした加飾性水系組成物とする技術が開発されている(例えば特許文献1~3)。
【0003】
ところで、コロイド結晶として3つのタイプが良く知られている。
第一は荷電型コロイド結晶であり、表面電荷によって荷電したコロイド粒子の分散系(荷電コロイド系)において、粒子間に働く静電反発力により形成される。
図1に示すように、静電反発力が小さいときは、コロイド粒子はブラウン運動により自由に動き回るために、ランダムな位置になる。ところが、静電反発力が強くなると粒子が他の粒子からできるだけ遠ざかろうとする結果、所定の格子間隔で並んだコロイド結晶を形成する。静電反発力は長距離におよぶため、粒子濃度の低い(すなわち、粒子間の距離の長い)ところで結晶が生成する。
【0004】
第二は粒子間に剛体球反発のみが働く剛体球系コロイド結晶である。限られた空間内に巨視的な球を多数詰め込むと、球は結晶様に規則配列するが、剛体球系コロイド結晶は、この現象に似ている。結晶化の支配パラメーターは分散液中の粒子体積分率φのみであり、
図2に示すように、結晶化はφ=0.49程度で生じる(Alder 転移と呼ばれる)。φ>0.49 の高濃度条件では、粒子の配列がランダムであるより規則的なほうが粒子の可能な配置の数が多くなるため、無秩序状態より結晶状態のほうがエントロピーはむしろ大きくなる。したがって、剛体球系コロイド結晶は最密充填条件ではなく、粒子同士は接触していない状態で結晶構造が形成されている。
【0005】
第三はオパール型コロイド結晶であり、
図2の一番右側に示すように、粒子同士接触し充填した結晶構造を有している。宝石のオパールは粒径のそろったシリカ(SiO
2)微粒子が沈降して最密充填したコロイド結晶となったものであり、コロイド微粒子が最密充填結晶されたコロイド結晶は、一般にオパール型コロイド結晶と呼ばれる。このときの体積分率は、結晶構造により異なるが、例えば体心立方格子で0.68、面心立方格子では0.74程度である。
【0006】
前述した特許文献1~3に記載された加飾性水系組成物は、上記3種のコロイド結晶のうち荷電型コロイド結晶を利用したものである。すなわち、荷電型コロイド結晶が水系分散媒中に形成されたものであり、可視光の干渉によりキラキラした構造色を有する液体となる。このため、化粧水等に応用することが提案されている。
【0007】
しかし、荷電型コロイド結晶は塩濃度が高くなると電気的な斥力が小さくなり、コロイド粒子を一定の距離に保つことが困難となる。例えば、コロイド粒子が希薄な場合には、塩濃度が数10μM以上で荷電型コロイド結晶は形成されなくなる。また、コロイド粒子の濃度が10%以上では、塩濃度が0.1mM程度以上で荷電型コロイド結晶は形成されなくなる。このため、塩濃度0.1mM以上で安定な荷電型コロイドを形成させることはできない。化粧水等の化粧品にはイオン性の添加物やpHのバッファーが含まれていたりするため、化粧品の加飾等に利用することは実用上困難となっていた。
【0008】
一方、剛体球系コロイド結晶は、粒子の体積分率が0.5以上という高濃度が必要となるため、これを化粧品の加飾等に利用することは困難である。また、オパール型コロイド結晶に至っては、粒子の体積分率が0.74以上という更なる高濃度が必要となるため、これを化粧品の加飾等に利用することは、さらに困難となる。
【0009】
剛体球系コロイド結晶やオパール型コロイド結晶を粉砕し、分散媒中で分散させて構造色を発揮させることも考えられるが、これらのコロイド結晶の微粉砕物を液中に安定に長期間分散させることは難しく、均一な発色はやはり困難であった。
【0010】
なお、本発明者らは、オパール型のコロイド結晶の製造方法として、粒子径のそろった2種類のコロイド粒子が分散するコロイド系に高分子を溶解させることにより、沈殿したコロイド粒子がオパール型コロイドの共晶となることを見出している(特許文献4)。この方法はコロイド粒子が沈殿して共晶構造が形成されるというものであり、オパール型コロイド結晶は分散媒に分散されてはおらず、オパール型コロイド結晶が水系溶媒に分散した状態である加飾性水系組成物とはならないものである。
【0011】
また、水系分散媒ではないが、分散媒としてエチルナフタレンを用い、2種類の架橋されたポリスチレン粒子と、1種類の線状のポリスチレン高分子の混合系において、格子定数の異なる複数種類のオパール型コロイド結晶がエチルナフタレン中に分散して共存するという現象が見出されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平6-100432号
【文献】特許第3537156号公報
【文献】特開平5-320022号公報
【文献】WO2016/093121
【非特許文献】
【0013】
【文献】Anna Kozina,et.al. Soft Matter, 10, 9523-9533(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、オパール型コロイド結晶が水系分散媒中に均一に安定に分散しており、光の干渉により構造色を呈する加飾性水系組成物及びその製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
コロイド分散液中において分散媒に溶解可能な高分子が添加されていた場合、コロイド粒子どうしが近づくと、
図3に示すように、溶解している高分子が入ることができない狭い領域(以下「枯渇領域(Depletion region)」という)ができる。このため、枯渇領域とそれ以外の領域との間では高分子の濃度差による浸透圧差が生じ、コロイド粒子どうしが接近し、接触して最密充填されたオパール型コロイド結晶が形成されることが知られている。本発明者らは、この現象を利用し、水系分散媒中にコロイド粒子が分散されているコロイド系に高分子を溶解させることにより、オパール型コロイド結晶が水系分散媒中に分散された加飾性水系組成物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の加飾性水系組成物は、高分子が溶解している水系分散媒にオパール型コロイド結晶が分散されており、該オパール型コロイド結晶を形成しているコロイド粒子は該水系分散媒に分散可能であり平均粒径が10nm以上1000nm以下の範囲であって粒径の変動係数が20%以内とされていることを特徴とする。
【0017】
本発明の加飾性水系組成物では、水系分散媒中(本明細書において「水系分散媒」とは水を50重量%以上含む分散媒と定義される)に高分子が溶解しているため、オパール型コロイド結晶を構成しているコロイド粒子同士が近付いた近傍では、高分子が入り込めない枯渇領域が形成される。このため、枯渇領域とそれ以外の領域との間で浸透圧差が生じ、コロイド粒子どうしが引き合って接触し、オパール型コロイド結晶が形成される。この浸透圧差は電解質の濃度によってほとんど変化しないため、電解質濃度が0.1mMとなっても、結晶構造が壊れたりはしない。なお、溶解している高分子(以下「depletant」ということがある)は、必ずしも線状の高分子である必要はなく、枝分かれした高分子や、結晶を構成する微粒子と異なるサイズの微粒子でも良い。実施例では、代表的な例として、線状高分子を用いた場合を念頭に述べるが、線状高分子に限定されるものではない。
【0018】
また、オパール型コロイド結晶を構成するコロイド粒子は、粒径の変動係数が20%以内とされているため、欠陥の少ない規則正しいコロイド結晶構造をとることができる。ここで、粒径の変動係数とは粒子径の標準偏差×100/平均粒子径の値をいう。
【0019】
さらに、コロイド粒子の平均粒径が10nm以上1000nm以下の範囲とされているため、紫外線や可視光線や赤外線等様々な波長の電磁波を回析できる。このため、加飾性を有する組成物とすることができる。
【0020】
したがって、本発明の加飾性水系組成物は、水系分散媒中に均一に安定にオパール型コロイド結晶が分散しており、光の干渉により構造色を呈することとなる。
【0021】
オパール型コロイド結晶粒子を構成するコロイド粒子の比重は水系分散媒の比重の0.9倍~1.1倍の範囲にあることが好ましい。こうであれば、コロイド粒子の比重が水系分散媒の比重と近いため、オパール型コロイド結晶粒子が沈降し難く、安定に分散することができる。水系分散媒の比重をオパール型コロイド結晶を構成するコロイド粒子の比重に近づけるために、水系分散媒に砂糖等の溶質を添加してもよい。一方、粒子の密度が大きい場合でも沈降を利用した加飾が考えられる。
【0022】
また、本発明の加飾性水系組成物の水系分散媒に溶解させる高分子として限定はないが、ビニル系の高分子(例えばアクリル酸系ポリマー、メタクリル酸系ポリマー等)の他、水溶性の多糖類(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、アルギン酸等)を好適に用いることができる。また、コロイド粒子間に枯渇領域ができやすいという観点から、平均分子量(ここで平均分子量とは数平均分子量のことをいう。以下同様)が1万以上であることが好ましく、さらに好ましいのは平均分子量が10万以上である。
【0023】
また、本発明の加飾性水系組成物の分散媒に分散されているオパール型コロイド結晶を形成するコロイド粒子は、架橋された高分子からなるコロイド粒子である。コロイド粒子がこのような高分子であれば、架橋された網目構造の中を分散媒が自由に通り抜けることができるため、コロイド粒子の見かけの比重が分散媒に極めて近くなる。このため、コロイド粒子からなるオパール型コロイド結晶の見かけ比重も分散媒と極めて近くなり、オパール型コロイド結晶が沈殿せずに安定に分散媒中に分散されることとなる。また、溶媒とコロイド粒子との屈折率も近くなるので、分散液の透明感が上がる。
また、架橋された高分子として限定はないが、例えばアクリルアミド、水溶性のアクリルアミド誘導体(例えばメチロールアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等)、アクリル酸、水溶性のアクリル酸誘導体(例えばアクリル酸ヒドロキシエチル等)等を構成単位とする高分子が挙げられる。さらには、多糖類やその誘導体を用いることもできる。
また、架橋された高分子は、架橋された網目構造の中を水系分散媒が自由に通り抜け易いという観点から、親水性に優れていることが好ましい。
【0024】
本発明の加飾性水系組成物は、分散されているオパール型コロイド結晶によって可視光の干渉によりキラキラとした美しい構造色を呈することから、化粧水や乳液などの化粧品に利用することができる。
【0025】
また、本発明の加飾性水系組成物を温度、pH等のセンシング材料として用いることができる。溶媒の温度やpHによって粒径が変化するコロイド粒子を用いると、それらが形成するコロイド微結晶の回折波長が温度やpHに応じて変化するため、目視や分光的にセンシング可能である。
【0026】
また、本発明の加飾性水系組成物は、固化剤によって固化した加飾性固化体とすることもできる。こうすることにより、コロイド結晶粒子が固定化され、機械的強度が飛躍的に高くなる。このため、ハンドリングが極めて容易となる。また、この固化体に圧力をかけた場合にコロイド結晶の格子間隔が変化することから、その反射スペクトルの変化を測定することにより、圧力センサー等に用いることができる。
【0027】
本発明の加飾性水系組成物は、水系分散媒と、該水系分散媒に溶解可能な高分子と、平均粒径が10nm以上1000nm以下の範囲であって粒径の変動係数が20%以内のコロイド粒子と、を混合することによってオパール型コロイド結晶からなる粒子の分散液とすることにより製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】荷電型コロイド結晶の形成を示す模式図である。
【
図3】コロイド系への高分子の溶解による枯渇効果(Depletion effect)を示す模式図である。
【
図5】架橋された高分子からなるコロイド粒子の模式図である。
【
図6】加飾性水系組成物の製造方法を示す工程図である。
【
図7】実施例1で調製した加飾性水系組成物の写真である。
【
図8】実施例1で調製した加飾性水系組成物について測定セルの底からの高さを変えて反射スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【
図9】比較例2で調製した加飾性水系組成物について測定セルの底からの高さを変えて反射スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【
図10】合成例1~合成例4で調製したマイクロゲルを水-エタノール系溶液に各種温度において分散させたときの分散状態を示す写真である。
【
図11】合成例4で調製したマイクロゲルの反射スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図12】実施例9の加飾性水系組成物の写真である。
【
図13】実施例11~13の加飾性水系組成物の写真である。
【
図14】加飾性水系組成物に溶解した高分子の濃度と格子間距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面を参照しつつ説明する。
実施形態の加飾性水系組成物の模式図を
図4に示す。この加飾性水系組成物は、水や水-エタノール(重量比で水50%以上)等の水系分散媒1中に平均分子量が10万以上の高分子2が溶解しており、さらに、オパール型コロイド結晶3が分散している。オパール型コロイド結晶3はコロイド粒子4が最密充填された構造とされている。コロイド粒子4の平均粒径が10nm以上1000nm以下の範囲であって粒径の変動係数が20%以内とされている。
【0030】
この加飾性水系組成物では、水系分散媒1中に平均分子量が10万以上の高分子2が溶解しているため、オパール型コロイド結晶3を構成しているコロイド粒子4同士が近付いた近傍では
図3に示すように、高分子(depletant)の枯渇領域(depletion region)が形成される。このため、枯渇領域とそれ以外の領域との間で浸透圧差(Osmotic pressure difference)が生じ、コロイド粒子4どうしが引き合って接触し、オパール型コロイド結晶3が形成される。高分子の平均分子量は、20万以上であることが好ましく、さらに好ましくは30万以上、さらにより好ましくは50万以上である。浸透圧差は電解質の濃度によってほとんど変化しないため、溶媒の電解質濃度が0.1mMとなっても、オパール型コロイド結晶の構造が壊れることはない。
【0031】
また、オパール型コロイド結晶3を構成するコロイド粒子4は、粒径の変動係数が20%以内とされているため、欠陥の少ない規則正しいコロイド結晶構造をとることができる。さらに、コロイド粒子4の平均粒径が10nm以上1000nm以下の範囲とされているため、紫外線や可視光線や赤外線等様々な波長の電磁波を回析できる。このため、加飾性を有する組成物とすることができる。
【0032】
したがって、本発明の加飾性水系組成物は、オパール型コロイド結晶3によって光の干渉が起こり、キラキラとした構造色を呈することとなる。
【0033】
オパール型コロイド結晶を構成するコロイド粒子の粒径の変動係数は20%以内とされていることを要し、好ましくは15%未満、さらに好ましくは10%未満、さらにより好ましくは5%未満である。
【0034】
また、オパール型コロイド結晶粒子を構成するコロイド粒子の比重は水系分散媒の比重の0.9倍~1.1倍の範囲にあることが好ましい。こうであれば、コロイド粒子の比重が水系分散媒の比重と近いため、オパール型コロイド結晶粒子が沈降し難く、安定に分散することができるからである。さらに好ましいのは0.99倍~1.01倍の範囲であり、最も好ましいのは0.995倍~1.005倍の範囲である。
【0035】
また、加飾性水系組成物の水系分散媒に溶解している高分子は、水系分散媒に溶解するものであれば用いることができる。高分子の平均分子量は1万以上であることが好ましい。こうであれば、コロイド粒子どうしが近づいたときにできる隙間に高分子が入り込めない領域(すなわち枯渇領域)が大きくなるため、浸透圧差によって粒子どうしが接近し、オパール型コロイド結晶が確実に形成されることとなる。さらに好ましいのは平均分子量が10万以上の高分子である。また、好ましい高分子の特性としては、水系分散媒中に分散されているコロイド粒子に吸着し難い性質を有する高分子である。コロイド粒子に吸着し易い高分子である場合、高分子が凝集剤として働き、コロイド粒子が凝集して沈澱するおそれがあるからである。
【0036】
本発明において、コロイド粒子間に枯渇引力を発現させるために添加される水溶性の高分子(Depletant)としては、水溶性のイオン性高分子や水溶性の非イオン性高分子を用いることができる。水溶性の非イオン性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエーテル、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。また、水溶性イオン性高分子としては、ポリビニルピリジン、ポリビニルベンジルアンモニウム、ポリペプチド等のカチオン性高分子や、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリN-イソプロピルアクリルアミド、ポリペプチドなどの生体高分子、ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸やアルギン酸など多糖類等の天然高分子等のアニオン性高分子が挙げられる。これら高分子の選択にあたっては、コロイド粒子の表面電荷と反対の符号の電荷を有する高分子は、コロイド粒子に吸着して荷電コロイドを形成してしまうため、好ましくない。ただし、コロイド粒子の表面電荷と反対の符号の電荷を有する高分子であっても、塩濃度を高くすれば、電気二重層が極めて薄くなり、コロイド粒子どうしが接近できるようになり、高分子の濃度差による浸透圧の差が生じて枯渇引力が発生し、オパール型コロイド結晶となるため、利用可能となる。さらには、この現象を積極的に利用し、コロイド中の塩濃度を適宜調節して電気二重層の厚さをコントロールすれば、コロイド粒子どうしの引力を制御でき、ひいてはオパール型コロイド結晶の成長速度やコロイド結晶の光に対する半値幅等を制御することができる。塩濃度を制御する方法としては、高分子中のイオン性基(カルボン酸塩やアミノ基等)の存在割合を制御したり、塩を添加したりすること等が挙げられる。また、線状の高分子に限らず、枯渇効果引力効果を発揮するものであれば、様々な枝分かれ状の高分子や、高分子の会合体、ミセル、球状粒子も利用できる。
【0037】
また、オパール型コロイド結晶を形成するコロイド粒子は、親水性の高分子からなる粒子であることが好ましい。こうであれば、水系分散媒中でオパール型コロイド結晶粒子を安定に分散させることが容易となる。このようなコロイド粒子を構成する高分子として、例えばポリN-イソプロピルアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエーテル、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。また、コロイド粒子として、これらの高分子の混合物や共重合体を用いることもできる。
【0038】
また、水溶性イオン性高分子としては、ポリビニルピリジン、ポリビニルベンジルアンモニウム、ポリペプチド等のカチオン性高分子や、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリペプチド、ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸やアルギン酸など多糖類等の天然高分子等のアニオン性高分子等が挙げられる。
さらに好ましいのは、
図5に示すように、架橋された高分子からなる親水性のコロイド粒子10である。このコロイド粒子10は高分子11が架橋剤で架橋された構造とされており、架橋された網目構造の中を分散媒が自由に通り抜けることができる。このため、コロイド粒子10の見かけの比重が分散媒に極めて近くなり、コロイド粒子10からなるオパール型コロイド結晶の見かけ比重も分散媒と極めて近くなり、オパール型コロイド結晶が沈殿せずに安定に分散媒中に分散されることとなる。このようなゲルを構成する高分子として、上記の水溶性高分子が望ましい。
一方、スチレン等の疎水性粒子であっても、表面に解離基が導入されれば、安定に分散媒に分散可能となるため、用いることができる。このような高分子としてはスチレンスルホン酸の共重合により親水化されたポリスチレン等が挙げられる。
【0039】
また、本発明の加飾性水系組成物は、固化剤によって固化した加飾性固化体とすることもできる。こうすることにより、機械的強度を飛躍的に高めることができ、ハンドリングが極めて容易となる。また、この固化体に圧力をかけた場合にコロイド結晶の格子間隔が変化することから、その反射スペクトルの変化を測定することにより、圧力センサー等に用いることができる。
【0040】
固化剤としては、例えば、ゲルモノマー、架橋剤及び光重合開始剤を含む溶液等が挙げられる。ゲルモノマーとしては、アクリルアミド及びその誘導体などのビニル系モノマー、架橋剤としては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、また光重合開始剤としては、2、2‘-アゾビス[2-メチル-N-[2-ヒドロキシエチル]-プロピオンアミド]等が挙げられる。この他、アジド系感光基をポリビニルアルコールにペンダントした水溶性の感光性樹脂等も用いることができる。また、樹脂モノマー中でコロイド結晶を形成させた後に、固化してもよい。
【0041】
本発明の加飾性水系組成物は、
図6に示す工程に従って製造することができる。
【0042】
(マイクロゲル調製工程S1)
まず、マイクロゲル調製工程S1として、
図5に示す、架橋された高分子からなる親水性のコロイド粒子10を調製する。すなわち、高分子の原料となるモノマーと、架橋剤と、界面活性剤と、重合開始剤とを精製水中に分散・混合し、加温することにより乳化重合を行う。これにより、
図5に示す架橋された高分子からなるマイクロゲルが分散媒に分散した液にとなる。
【0043】
(透析工程S2)
さらに、こうして得られたマイクロゲル分散液を水に対して透析し、界面活性剤や重合開始剤を除去する(透析工程S2)。
【0044】
(コロイド結晶化工程S3)
透析によって精製されたマイクロゲル分散液に高分子水溶液を添加し、撹拌する。これにより、ただちに試料全体が一様に構造色を示すオパール型コロイド結晶が分散された加飾性水系組成物となる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明をさらに具体化した実施例について比較例と比較しつつ説明する。
(実施例1)
・マイクロゲルの調製
モノマーとしてN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM、和光純薬工業)、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(BIS、和光純薬工業)、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(SDS和光純薬工業)、ラジカル重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム(KPS、関東化学)を用いた。NIPAM(3.93g)を175 mLのMilli-Q純粋装置で製造した純水(以下「純水」という)に溶解し、BIS(0.075g)を10mLの純粋に溶解し、SDS(0.075g)を60mlの純粋に溶解した。これら3種の溶液を混合した後、500mL四つ口丸底フラスコに移し、Arを流通させながら、70℃850 rpmで1時間撹拌した。また、別途にKPS(0.15g)を5mLの純水に溶解して70℃に保っておいた溶液を、上記四つ口丸底フラスコに追加投入し、Ar流通下、70℃、850 rpmでさらに4時間撹拌して乳化重合反応を行い、ポリイソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)がN,N’-メチレンビスアクリルアミド(BIS)によって架橋されたマイクロゲルの分散液を得た。
【0046】
・加飾性水系組成物の調製
上記のようにして得られたマイクロゲル分散液を純水で透析して精製し、およそ2重量%に希釈した。この試料にポリアクリルアミド(PAAm,平均分子量40万)の水溶液を2重量%となるように添加したところ、ただちに試料全体が一様に構造色を示した(
図7右)。PAAm濃度=0.2重量の場合にもただちに試料全体が一様に構造色を示したが、時間の経過とともに試料を入れた容器の底部に沈澱し、沈殿物に構造色が観察された(
図7左)。
【0047】
(比較例1)
比較例1では、上記のマイクロゲル分散液にPAAmを添加しなかった。それ以外については実施例1と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0048】
(比較例2)
比較例2では、比較例1のマイクロゲル分散液中のマイクロゲルを遠心分離によって強制的に沈殿させ、マイクロゲル濃度を40wt%とした。
【0049】
<評 価>
実施例1の加飾性水系組成物について、ファイバー分光装置により反射スペクトルを測定した。PAAm濃度=2重量%の試料について、測定セルにおける底からの高さ(h)を変えて計測した。その結果、
図8に示すように、反射スペクトルは底からの高さによらずほぼ同じ形状であり、ピーク位置においてBragg式より求めた粒子中心間距離は約250nmであった。この値はマイクロゲルどうしがが接触して、微小なオパール型コロイド結晶が形成されていることを示しており、枯渇引力による結晶化を示唆している(
図3参照)。
【0050】
これに対して、マイクロゲルに高分子(PAAm)を加えなかった比較例1では、
試料全体が構造色を示すことは無かった。このため、遠心分離機によってマイクロゲルを強制的に沈殿させ、マイクロゲル濃度を40重量%程度以上とした比較例2では、構造色が観察された。比較例2の反射スペクトルを
図9に示す。このとき、遠心容器セルの下部(マイクロゲルが濃縮されて高濃度となった領域)にのみ、構造色が発現した。また、測定セルの底からの高さ(h)によって反射ピーク波長が変化し、Bragg式より求めた粒子中心間距離は290 nm~310 nmの範囲で変化した。以上の結果から、比較例2ではマイクロゲル粒子どうしに剛体球反発のみが働く剛体球系コロイド結晶が形成され、マイクロゲルどうしは接触していないことが分かった。
【0051】
(実施例2及び実施例3)
実施例2及び実施例3では、分散媒となる純水に塩化ナトリウムNaClを所定の濃度(実施例2では0.1mM、実施例3では0.01mM)となるように添加した。その他の条件については実施例1(ポリアクリルアミドの濃度は2重量%)と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0052】
(実施例4)
実施例4では、分散媒となる純水に塩酸HClを0.01mMの濃度となるように添加した。その他の条件については実施例1(ポリアクリルアミドの濃度は2重量%)と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0053】
(実施例5)
実施例5では、分散媒となる純水に水酸化ナトリウムNaOHを0.01mMの濃度となるように添加した。その他の条件については実施例1(ポリアクリルアミドの濃度は2重量%)と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0054】
<評 価>
上記のようにして調製した実施例2~5の加飾性水系組成物は、実施例1の場合と同様、PAAmの添加後、ただちに試料全体が一様に実施例1と同様の構造色を示した。また、反射スペクトルの測定結果は実施例1の場合と測定誤差範囲内で一致した。以上のことから、塩濃度が0.1mMの水溶液であっても、安定にオパール型コロイド結晶が分散しており、構造色を呈することが分かった。したがって、実施例1~5の加飾性水系組成物は、イオン性の添加物やpHのバッファーが含まれていたりする化粧水等にも十分に利用できる。
【0055】
(実施例6)
実施例6では、実施例1の加飾性水系組成物を透析によって精製した後、凍結乾燥により粉末とした。この粉末を、2重量%PAAm水溶液に添加したところ、ゲル濃度が2重量%以上の場合において、構造色が観察され、オパール型コロイド結晶の分散液となることが分かった。
【0056】
(実施例7)
実施例1と同様にして調製した精製PNIPAゲル(3.56重量%)水溶液250μLに、ポリアクリル酸(PAA,平均分子量100万)の水溶液(PAA濃度=5重量%になるように調製)を25mg添加したところ、ただちに試料全体が一様な構造色を示し、オパール型コロイド結晶の分散液となることが分かった。
【0057】
(実施例8)
実施例1と同様にして調製した精製PNIPAMマイクロゲル(3.56重量%)200μLに、ポリアクリル酸ナトリウム塩(NaPAA,PAAの平均分子量100万, 中和度50%)の水溶液(NaPAA濃度=5重量%になるように調製)を、それぞれ5~30mg添加したところ、試料全体が一様に構造色を示し、オパール型コロイド結晶の分散液となることが分かった。
【0058】
(比較例3及び比較例4)
いっぽう、実施例1と同様にして調製した精製PNIPAMマイクロゲル(3.56重量%)250μLに、比較例3では平均分子量2.5万、比較例4では分子量が5,000のNaPAA(中和度50%)水溶液(5重量%)を25 mg添加したところ、構造色は観察できず、オパール型コロイド結晶の分散液とはならないことが分かった。この原因としては、NaPAAの分子量が小さいため、PNIPAMマイクロゲルどうしが近付いた隙間にNaPAA分子が入り込むことができることから、枯渇領域ができずに浸透圧差が生じなかったためと考えられる。
【0059】
<共重合マイクロゲル分散液の調製>
マイクロゲル分散液として、以下に示す合成例1~4のNIPAM-AAm共重合ゲル分散液を合成した。
【0060】
(合成例1)
モノマーとしてNIPAMを85mol%、アクリルアミドを10mol%、BISを 5mol%用い、SDSを1.5wt%、KPSを0.6wt%の割合で添加し、他の条件は実施例1と同様にしてNIPAM-AAm共重合体マイクロゲル分散液を調整した。
【0061】
(合成例2)
モノマーとしてNIPAMを75mol%、アクリルアミドを20mol%、BISを 5mol%用い、SDSを3.0wt%、KPSを0.6wt%の割合で添加し、他の条件は実施例1と同様にしてNIPAM-AAm共重合体マイクロゲル分散液を調整した。
【0062】
(合成例3)
モノマーとしてNIPAMを85mol%、アクリルアミドを10mol%、BISを 5mol%用い、SDSを1.0wt%、KPSを0.6wt%の割合で添加し、他の条件は実施例1と同様にしてNIPAM-AAm共重合体マイクロゲル分散液を調整した。
【0063】
(合成例4)
モノマーとしてNIPAMを75mol%、アクリルアミドを20mol%、BISを 5mol%用い、SDSを2.0wt%、KPSを0.6wt%の割合で添加し、他の条件は実施例1と同様にしてNIPAM-AAm共重合体マイクロゲル分散液を調整した。
【0064】
以上のようにして得られた合成例1~4のNIPAM-AAm共重合体マイクロゲル分散液について、その粒子径を動的光散乱法によって拡散係数を測定し、その値をアインシュタイン-ストークスの式に入れて求めた。結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
<マイクロゲルの水系溶媒中での分散試験及び反射スペクトルの測定>
合成例1~合成例4で調製したマイクロゲル分散液を凍結乾燥して粉末とし、濃度がそれぞれ0,10,20,30,40,および50 wt%のエタノール水溶液中に2重量%となるようにしてマイクロゲルを分散させた。その結果、
図10に示すように、全ての分散液で、20℃~50℃の範囲において、マイクロゲルは凝集することなく分散し、オパール型コロイド結晶の干渉による発色が観察された。また、合成例4の分散液の反射スペクトルを温度を変えて測定したところ、
図11に示すように、少なくとも50℃まで反射ピークが観察され、また外観も発色が維持された。
【0067】
(実施例9)
実施例9では、合成例1及び合成例2のマイクロゲル分散液を凍結乾燥して粉末とし、2重量%となるように水に分散させた分散液に、室温下、PAAを10mmol/L又は20mmol/Lとなるように添加した。その結果、
図12に示すように、オパール型コロイド結晶の生成に伴う干渉色が認められた。なおエタノール濃度30 wt%以上では、マイクロゲルの収縮のため、結晶部分の体積が減少して上澄みが観察された。このように、エタノールを添加しても発色を維持することができた。エタノール濃度が60wt%以上のものでは、PAAmが溶けなかった。温度耐性については50℃に耐えるマイクロゲルを合成することに成功した。最終的に54℃でサンプルが白濁した。エタノールについても50wt%エタノールに耐えることはできなかったが30 wt%まで耐性は向上した。エタノール30 wt%のサンプルのみ沈降が激しかった。60 wt%~100 wt%エタノールに対してマイクロゲルは分散したが、高分子として添加したPAAmはエタノールに対して貧溶媒であり、溶解しなかった。
【0068】
(実施例10)
実施例10の加飾性水系組成物は、以下の操作によって調製した。
まず、合成例3で調製したマイクロゲル分散液を凍結乾燥して粉末とし、マイクロゲル濃度が2重量%となるように、濃度が0,10,20,30,40,および50wt%のエタノール水溶液に分散させた。この分散液にヒドロキシエチルセルロース(分子量50万、商品名SE550(株式会社ダイセル製))を濃度=0.5wt%となるように添加した。
【0069】
(実施例11~13)
実施例11の加飾性水系組成物では、実施例10の場合とは分子量の異なるヒドロキシエチルセルロースを用いた(実施例11では分子量102万、商品名SE600(株式会社ダイセル製)、実施例12では分子量148万、商品名SE850(株式会社ダイセル製))を用い、実施例13では分子量156万、商品名SE900(株式会社ダイセル製))。その他については実施例10の場合と同様にして調製した。その結果、
図13に示すように、オパール型コロイド結晶の生成に伴う干渉色が明確に認められた。
【0070】
(実施例14)
実施例1と同様にして調製した精製PNIPAMゲル(直径193 nm、 3.56重量%) 500μLに、ポリエチレングリコール(平均分子量50万)の20重量%溶液を0.05g添加したところ、試料全体が一様な構造色を示し、水溶性の高分子としてポリエチレングリコールを用いても、オパール型コロイド結晶の分散液を調製できることが分かった。
【0071】
<加飾性水系組成物に溶解した高分子の濃度と格子間距離との関係>
加飾性水系組成物に溶解した高分子の濃度と格子間距離との関係を調べるため、以下の実験を行った。
まず、実施例1の方法で作成したNIPAMマイクロゲルの水分散液を用意し、分子量40万のPAAm(または分子量100万のPEG)を添加し、Bragg回析波長の測定から格子間距離を求めた。一方、マイクロゲルの大きさが一定とした場合の粒子間距離を計算で求めた。結果を
図14に示す。この図から、PAAm(又はPEG)の濃度が高くなるにつれて、格子間距離が小さくなることが分かった。
【0072】
<オパール型コロイド結晶の分散液の固化>
上述した各実施例のオパール型コロイド結晶の分散液を、公知の方法(特開2006-182833:ゲル固定化コロイド結晶)により固定化することができる。以下に、その具体例を示す。
【0073】
各実施例のオパール型コロイド結晶の分散液に、下記薬剤を添加し溶解させる。
ゲルモノマー:N, N’-ジメチロールアクリルアミド(N-MAM)
0.67mol/L
架橋剤:メチレンビスアクリルアミド(BIS) 10mmol/L
光重合開始剤:2,2’-アゾビス[2-メチル-N-[2-ヒドロキシエチル]-プロピオン
アミド 4mg/mL
ドデシル硫酸ナトリウム:10μmol/L
【0074】
そして、上記の組成の分散液に紫外線を照射することによりゲルモノマーを重合させ、オパール型コロイド結晶の分散液の固化体を得る。
【0075】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の加飾性水系組成物は、オパール型のコロイド結晶が水系分散媒中に分散しておりBragg回析によってキラキラとした美観に優れた構造色を示す。また、その構造色は塩濃度が0.1mM程度では変化ないため、化粧水等の化粧品に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0077】
1…水系分散媒,2…高分子,3…オパール型コロイド結晶、4,10…コロイド粒子、11…高分子、12…架橋剤、13…架橋点、S1…マイクロゲル調製工程、S2…透析工程、S3…コロイド結晶化工程