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特許7427175電解質用添加剤、リチウム二次電池用電解質及びリチウム二次電池
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  • 特許-電解質用添加剤、リチウム二次電池用電解質及びリチウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】電解質用添加剤、リチウム二次電池用電解質及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240129BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240129BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019110272
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020202149
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 正坤
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】武 志俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-134261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0151336(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00 -10/39
H01M 6/00 - 6/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中、M1はPを示す。R1フェニル基を示す。nは1以上の整数を示す。]
で表される化合物と、
一般式(2):
【化2】
[式中、M2はPを示す。R2フェニル基を示す。R3は酸素原子を示す。mは0以上の整数を示す。実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物とを含有する電解質用添加剤であって、且つ、
前記電解質用添加剤の総量を100モル%として、前記一般式(1)で表される化合物を10~90モル%含有し、前記一般式(2)で表される化合物を90~10モル%含有する、リチウム二次電池の電解質用添加剤。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウム二次電池の電解質用添加剤を含有する、リチウム二次電池用電解質。
【請求項3】
請求項に記載のリチウム二次電池用電解質を備える、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質用添加剤、リチウム二次電池用電解質及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のリチウム二次電池等の二次電池に対する要求は年々高まっている。近年では、高い安全性に加えて、高いエネルギー貯蔵密度を実現することができる二次電池の構築が求められている。例えば、リチウム金属をアノード(負極)とするリチウム二次電池は、現在主流のリチウムイオン二次電池と比較して高いエネルギー貯蔵密度を有することから、次世代二次電池の有望な候補とされている。
【0003】
しかしながら、リチウム二次電池においては、リチウム金属表面でのとげ状突起、いわゆるデンドライトの形成に伴う電池の内部ショートの危険性や、充放電サイクル耐性の低下が実用化の障害となってきた。この観点から、前述の次世代二次電池の高い要求に応えるべく、各種の電極材料を改良することのみならず、二次電池を構成する電解質及び電解質に含まれる添加剤(電解質用添加剤)を開発することも重要とされている。
【0004】
例えば、非特許文献1では、アノードとしてグラファイトを用いたリチウムイオン二次電池において、電解質中に添加されたトリフェニルホスィン(TP)が酸化物カソード材料上で充電時の高電圧印加時に生成した酸素分子を除去することで、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル耐性を向上させることを示している。また、非特許文献2では、炭酸エステル系の電解液へのトリフェニルホスフィンオキシド(TPO)の添加により、グラファイト/LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2系のリチウムイオン二次電池性能を向上させることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of Power Sources, 243 (2013) 831-835
【文献】Chem. Mater., 30, (2018) 2726-2741
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来の電解質用添加剤はリチウムイオン二次電池に適用した例が知られるのみで、リチウム二次電池に適用しても効果があるかどうかは理解できない。特に、安全性に問題があるとされているリチウム二次電池に適用して安全性が向上するかどうかは示されていない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、安全性に優れ、容量に優れたリチウム二次電池を製造することができる電解質用添加剤、リチウム二次電池用電解質及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、電解質用添加剤として、特定の化合物を組合せて使用した場合には、安全性に優れ、容量に優れたリチウム二次電池を製造することができることを見出した。本発明らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0009】
項1.一般式(1):
【0010】
【化1】
【0011】
[式中、M1は配位元素を示す。R1は同一又は異なって、1価の芳香族炭化水素基を示す。nは1以上の整数を示す。]
で表される化合物と、
一般式(2):
【0012】
【化2】
【0013】
[式中、M2は配位元素を示す。R2は同一又は異なって、1価の芳香族炭化水素基を示す。R3は酸素原子、硫黄原子又はハロゲン原子を示す。mは0以上の整数を示す。実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物とを含有する、電解質用添加剤。
【0014】
項2.前記一般式(1)において、M1がMg、Al、Si、P又はBである、項1に記載の電解質用添加剤。
【0015】
項3.前記一般式(2)において、M2がMg、Al、Si、P又はBである、項1又は2に記載の電解質用添加剤。
【0016】
項4.前記一般式(1)において、R1がフェニル基である、項1~3のいずれか1項に記載の電解質用添加剤。
【0017】
項5.前記一般式(2)において、R2がフェニル基である、項1~4のいずれか1項に記載の電解質用添加剤。
【0018】
項6.前記電解質用添加剤の総量を100モル%として、前記一般式(1)で表される化合物を10~90モル%含有し、前記一般式(2)で表される化合物を90~10モル%含有する、項1~5のいずれか1項に記載の電解質用添加剤。
【0019】
項7.項1~6のいずれか1項に記載の電解質添加剤を含有する、リチウム二次電池用電解質。
【0020】
項8.項7に記載のリチウム二次電池用電解質を備える、リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、安全性に優れ、容量に優れたリチウム二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】試験例1(実施例1及び比較例1)で得た液体電解質を備えるリチウム二次電池の電気化学測定(放電容量及び充放電サイクル耐性)の結果を示す。
図2】試験例2(実施例2及び比較例4)で得た液体電解質を備えるリチウム二次電池の電気化学測定(放電容量及び充放電サイクル耐性)の結果を示す。
図3】試験例1(実施例1及び比較例1~3)で製作したリチウム二次電池の充放電曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0024】
1.電解質用添加剤
本発明の電解質用添加剤は、一般式(1):
【0025】
【化3】
【0026】
[式中、M1は配位元素を示す。R1は同一又は異なって、1価の芳香族炭化水素基を示す。nは1以上の整数を示す。]
で表される化合物と、
一般式(2):
【0027】
【化4】
【0028】
[式中、M2は配位元素を示す。R2は同一又は異なって、1価の芳香族炭化水素基を示す。R3は酸素原子、硫黄原子又はハロゲン原子を示す。mは1以上の整数を示す。実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物とを含有する。
【0029】
一般式(1)で表される化合物は、リチウム二次電池の熱暴走を抑制し、一般式(2)で表される化合物は、その分解生成物が電極上で安定な界面層(Stable solid Electrolyte Interphase (SEI))を形成し、電解質と電極との副反応を抑制し、デンドライト形成抑制効果を有する。これら一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とを組合せた場合は、予想外にもこれらの効果が相乗的に向上し、安全性に優れ、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等に優れたリチウム二次電池を製造することができる。
【0030】
一般式(1)において、M1で示される配位元素としては、特に制限はないが、得られるリチウム二次電池の安全性、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等の観点から、Mg、Al、Si、P、B等が好ましく、P、B等がより好ましい。
【0031】
一般式(1)において、R1で示される1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。アリール基の炭素数は、6~20が好ましく、6~14がより好ましく、6~10がさらに好ましい。また、アラルキル基の炭素数は、7~20が好ましく、7~14がより好ましく、7~10がさらに好ましい。
【0032】
アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニレン基等が挙げられ、アラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基等が挙げられる。
【0033】
なかでも、得られるリチウム二次電池の安全性、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等の観点から、アリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。なお、nが2以上の整数である場合は、R1は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
一般式(1)においては、nは、1以上の整数であり、得られるリチウム二次電池の安全性、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等の観点から、好ましくは2~4の整数である。なお、nの好ましい数値はM1の種類によって異なる。具体的には、M1がMgの場合はnは2が好ましく、M1がAlの場合はnは3が好ましく、M1がSiの場合はnは4が好ましく、M1がPの場合はnは3が好ましく、M1がBの場合はnは3が好ましい。
【0035】
上記のような条件を満たす一般式(1)で表される化合物としては、例えば、
【0036】
【化5】
【0037】
等が挙げられ、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0038】
一般式(2)において、M2で示される金属元素としては、特に制限はないが、より安定な界面層が形成され、得られるリチウム二次電池の安全性、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等の観点から、Mg、Al、Si、P、B等が好ましく、P、B等がより好ましい。なお、一般式(2)で表される化合物は、M2として、一般式(1)で表される化合物におけるM1と同じ化合物を使用することもできるし、異なる化合物を使用することもできる。
【0039】
一般式(2)において、R2で示される1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。アリール基の炭素数は、6~20が好ましく、6~14がより好ましく、6~10がさらに好ましい。また、アラルキル基の炭素数は、7~20が好ましく、7~14がより好ましく、7~10がさらに好ましい。
【0040】
アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニレン基等が挙げられ、アラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基等が挙げられる。
【0041】
なかでも、得られるリチウム二次電池の安全性、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等の観点から、アリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。なお、一般式(2)で表される化合物は、R2として、一般式(1)で表される化合物におけるR1と同じ化合物を使用することもできるし、異なる化合物を使用することもできる。また、mが2以上の整数である場合は、R2は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
一般式(2)において、R3で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0043】
得られるリチウム二次電池の安全性、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等の観点からは、R3としては、酸素原子が好ましい。
【0044】
一般式(2)において、実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合であり、R3の種類によって異なる。具体的には、R3が酸素原子及び硫黄原子の場合は二重結合であり、R3がハロゲン原子の場合は単結合である。
【0045】
一般式(2)においては、mは、0以上の整数であり、得られるリチウム二次電池の安全性、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等の観点から、好ましくは1~4の整数である。なお、mの好ましい数値はR3及びM2の種類によって異なる。具体的には、M2がMgの場合はmは0(ただしR3がハロゲン原子の場合は1)が好ましく、M2がAlの場合はmは1(ただしR3がハロゲン原子の場合は2)が好ましく、M2がSiの場合はmは2(ただしR3がハロゲン原子の場合は3)が好ましく、M2がPの場合はmは3(ただしR3がハロゲン原子の場合は4)が好ましく、M2がBの場合はmは1(ただしR3がハロゲン原子の場合は2)が好ましい。なお、一般式(2)で表される化合物は、mとして、一般式(1)で表される化合物におけるnと同じ化合物を使用することもできるし、異なる化合物を使用することもできる。
【0046】
上記のような条件を満たす一般式(2)で表される化合物としては、例えば、
【0047】
【化6】
【0048】
等が挙げられ、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0049】
本発明の電解質用添加剤において、一般式(1)で表される化合物の含有量は、特に制限されるわけではないが、得られるリチウム二次電池の安全性、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等の観点から、本発明の電解質用添加剤の総量を100モル%として、10~90モル%含有することが好ましく、20~80モル%含有することがより好ましく、30~70モル%含有することがさらに好ましく、40~60モル%含有することが特に好ましい。また、本発明の電解質用添加剤において、一般式(2)で表される化合物の含有量は、特に制限されるわけではないが、得られるリチウム二次電池の安全性、容量(特に放電容量)、充放電サイクル耐性、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等の観点から、本発明の電解質用添加剤の総量を100モル%として、10~90モル%含有することが好ましく、20~80モル%含有することがより好ましく、30~70モル%含有することがさらに好ましく、40~60モル%含有することが特に好ましい。
【0050】
本発明の電解質用添加剤には、本発明の効果が阻害されない程度であれば、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、例えば、光安定剤、酸化防止剤、防腐剤、重合阻害剤、顔料、着色剤、防カビ剤等が挙げられる。また、その他の成分として、公知の電解質用添加剤を含むこともできる。本発明の電解質用添加剤がその他成分を含む場合、その他成分の含有量は、本発明の電解質用添加剤の総量を100質量%として、0~5質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。なお、本発明の電解質用添加剤は、上記した一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物のみで構成されていてもよい。
【0051】
本発明の電解質用添加剤は、例えば、二次電池に使用される電解質への添加剤として使用することができ、特にはリチウム二次電池用の電解質への添加剤として使用することができる。本発明の電解質用添加剤を含有する電解質を二次電池、特にリチウム二次電池に適用することで、二次電池、特にリチウム二次電池の安全性を高め、優れた容量(特に放電容量)、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等をもたらすことができる。
【0052】
本発明の電解質用添加剤は、固体電解質及び液体電解質のいずれにも適用することができ、いずれの場合においても二次電池、特にリチウム二次電池の安全性を高め、優れた容量(特に放電容量)、エネルギー貯蔵密度、クーロン効率等をもたらすことができる。特に、本発明の電解質用添加剤を液体電解質に適用した場合、この液体電解質を備える二次電池(特にリチウム二次電池)は、優れた充放電サイクル耐性を有することもできる。
【0053】
本発明の電解質用添加剤を電解質に含有させる方法は特に限定されず。公知の電解質用添加剤の添加方法を広く採用することができる。なお、電解質の種類は後述する。
【0054】
本発明の電解質用添加剤の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。また、上記した一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物は、市販品からも入手することができる。
【0055】
2.リチウム二次電池用電解質
本発明のリチウム二次電池用電解質は、本発明の電解質用添加剤を含有する。本発明のリチウム二次電池用電解質は、例えば、リチウム二次電池等の各種二次電池に好適に使用することができる。特に、電解質が本発明の電解質用添加剤を含むことで、電解質自体の性能が増強される。
【0056】
本発明の電解質用添加剤が適用できる固体電解質及び液体電解質は、特に限定されず、公知の電解質を広く適用することができる。
【0057】
固体電解質としては、例えば、Li10GeP2S12、xLi2S-(1-x)P2S5(0.6≦x≦0.85)、Na11Sn2PS12等の硫化物電解質;Na3PSe4;Li3xLa2/3-xTiO3(0≦x≦0.16)等の酸化物電解質;Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦0.5)(LATP);LixLa3M2O12(3≦x≦7.5、M= Ta, Nb, Zr);Na3Zr2Si2PO12;ポリマーベースの電解質等が挙げられる。ポリマーベースの電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等をベースとする電解質が挙げられる。ポリマーベースの電解質は、必要に応じて、LiPF6、LiClO4、リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(LiTFSI)、NaClO4、NaBF4等の公知の電解質を含むことができる。その他、固体電解質としては、公知の無機電解質と混合してなるハイブリッド電解質を挙げることもできる。
【0058】
液体電解質としては、極性溶媒に溶解したリチウム塩又はナトリウム塩が挙げられる。極性溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート化合物;1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)等のエーテル化合物等を挙げることができる。リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)等が挙げられる。ナトリウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF6)、ナトリウムビスフルオロスルホニルイミド(NaFSI)、ナトリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(NaTFSI)等が挙げられる。液体電解質の具体例としては、例えば、LiPF6のエチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶液、LiTFSIのエチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶液、LiPF6の1,3-ジオキソラン(DOL)及び1,2-ジメトキシエタン(DME)の混合溶液、LiTFSIの1,3-ジオキソラン(DOL)及び1,2-ジメトキシエタン(DME)の混合溶液等を挙げることができる。
【0059】
本発明のリチウム二次電池用電解質中の本発明の電解質用添加剤の含有量は特に限定されない。例えば、本発明のリチウム二次電池用電解質が液体である場合、当該液体電解質中の本発明の電解質用添加剤の濃度は0.005~0.5mol/Lが好ましく、0.01~0.2mol/Lがより好ましい。
【0060】
また、本発明のリチウム二次電池用電解質が固体である場合、当該固体電解質の総量を100質量%として、本発明の電解質用添加剤の含有量は、0.01~50質量%が好ましく、0.3~3質量%がより好ましい。
【0061】
本発明のリチウム二次電池用電解質には、本発明の効果が阻害されない程度であれば、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、例えば、光安定剤、酸化防止剤、防腐剤、重合阻害剤、顔料、着色剤、防カビ剤等が挙げられる。本発明のリチウム二次電池用電解質がその他成分を含む場合、その他成分の含有量は、本発明のリチウム二次電池用電解質の総量を100質量%として、0~5質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。
【0062】
3.リチウム二次電池
本発明のリチウム二次電池は本発明のリチウム二次電池用電解質を備える。つまり、本発明のリチウム二次電池は、本発明の電解質用添加剤を含有するリチウム二次電池用電解質を構成要素として含むことができる。本発明のリチウム二次電池は、本発明のリチウム二次電池用電解質に本発明の電解質用添加剤が含まれる限りは、その他の構成は特に限定されず、例えば、公知と同様の構成とすることができる。例えば、本発明のリチウム二次電池は、本発明の電解質用添加剤が含まれるリチウム二次電池用電解質に加えて、カソード、アノード及びセパレータを備えることができる。電池の大きさ及び形状は、リチウム二次電池の用途に応じて適宜決定することができる。
【0063】
カソードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。カソードの活物質としては、公知の活物質を広く適用することができ、例えば、LiFePO4、LiCoO2、LiNixMnyCozO2(0.3≦x≦0.95、0.025≦y≦0.4、0.025≦y≦0.4)、LiNi1-y-zCoyAlzO2(0.05≦y≦0.15、0<z≦0.05)、LiMn2O4、LiMPO4(M= Co、Ni)、Li2FePO4F、V2O5、LixV3O8(1.5≦x≦5.5)、Li1-xVOPO4(0.5≦x≦0.92)、Li4Ti5O12、LiFeMO4(M= Mn、Si)、S、Se、SeS2、O2、Na3V2(PO4)3、Na2MnP2O7、NaFePO4、Na3MnZr(PO4)3等を挙げることができる。
【0064】
アノードは、本発明はリチウム二次電池における課題を解決するものであるため、リチウム金属を採用することができる。なお、リチウム金属以外にも、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を採用することもできる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。アノードの活物質としては、Li、Na、K、Mg、Al、Zn等の金属;グラファイトおよび他の炭素材料;Si(C)ベース、Si(O)ベース又はSnベースの合金あるいは金属酸化物;Li4Ti5O12等を挙げることができる。
【0065】
セパレータとしては、リチウム二次電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等の材質からなり、多孔質膜、不織布、織布等の形態の材料を用いることができる。
【0066】
リチウム二次電池を組み立てる方法も特に制限はなく、公知のリチウム二次電池の組み立て方法と同様の方法でリチウム二次電池を得ることができる。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0068】
実施例における電解質用添加剤に使用する化合物として、シグマ-アルドリッチジャパン製のトリフェニルホスフィン(TP)及びトリフェニルホスフィンオキシド(TPO)を準備し、TP及びTPOの使用の有無による電解質の性能評価を行った。
【0069】
[試験例1;「1M LiPF6 in EC: DEC」ベース]
実施例1:TP及びTPO使用
CR2025型のLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2|Li金属コイン電池を構築した。このコイン電池において、両極活物質はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(正極活物質)及びLi(負極活物質)とした。正極は、塗工済正極板(正極活物質LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2;正極集電体アルミホイル;容量1.5mAh/cm2)を宝泉(株)から購入した。また、負極は、負極集電体として銅箔の上に負極活物質としてリチウム金属箔を構成した。液体電解質は、トリフェニルホスィン(TP)及びトリフェニルホスィンオキシド(TPO)をシグマ-アルドリッチジャパンより購入した市販の電解液(1M LiPF6 in EC: DEC (1: 1 vol.%) (50μL))にそれぞれ0.025Mの濃度となるように溶解した。この液体電解質をLiPF6+ 5%TP-TPO in EC: DECと表記した。この液体電解質で湿らせたポリプロピレン製セパレータと、前記両極を用い、公知の方法でCR2025型のコイン電池に封入した。得られたリチウム二次電池は、Wuhan LAND electronics社の充放電装置(LAND batteries testing system)を使用して、充放電の電圧範囲を2.7~4.3Vとして30℃で充放電試験を行った。
【0070】
比較例1:TP及びTPO不使用
CR2025型のLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2|Li金属コイン電池を構築した。このコイン電池において、両極活物質はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(正極活物質)及びLi(負極活物質)とした。正極は、塗工済正極板(正極活物質LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2;正極集電体アルミホイル;容量1.5mAh/cm2)を宝泉(株)から購入した。また、負極は、負極集電体として銅箔の上に負極活物質としてリチウム金属箔を構成した。液体電解質は、シグマ-アルドリッチジャパンより購入した市販の電解液(1M LiPF6 in EC: DEC (1: 1 vol.%) (50μL))を使用した。この液体電解質をLiPF6 in EC: DECと表記した。この液体電解質で湿らせたポリプロピレン製セパレータと、前記両極を用い、公知の方法でCR2025型のコイン電池に封入した。得られたリチウム二次電池は、Wuhan LAND electronics社の充放電装置(LAND batteries testing system)を使用して、充放電の電圧範囲を2.7~4.3Vとして30℃で充放電試験を行った。
【0071】
比較例2:TP使用
CR2025型のLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2|Li金属コイン電池を構築した。このコイン電池において、両極活物質はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(正極活物質)及びLi(負極活物質)とした。正極は、塗工済正極板(正極活物質LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2;正極集電体アルミホイル;容量1.5mAh/cm2)を宝泉(株)から購入した。また、負極は、負極集電体として銅箔の上に負極活物質としてリチウム金属箔を構成した。液体電解質は、トリフェニルホスィン(TP)をシグマ-アルドリッチジャパンより購入した市販の電解液(1M LiPF6 in EC: DEC (1: 1 vol.%) (50μL))に0.05Mの濃度となるように溶解した。この液体電解質をLiPF6+ 5%TP in EC: DECと表記した。この液体電解質で湿らせたポリプロピレン製セパレータと、前記両極を用い、公知の方法でCR2025型のコイン電池に封入した。得られたリチウム二次電池は、Wuhan LAND electronics社の充放電装置(LAND batteries testing system)を使用して、充放電の電圧範囲を2.7~4.3Vとして30℃で充放電試験を行った。
【0072】
比較例3:TPO使用
CR2025型のLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2|Li金属コイン電池を構築した。このコイン電池において、両極活物質はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(正極活物質)及びLi(負極活物質)とした。正極は、塗工済正極板(正極活物質LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2;正極集電体アルミホイル;容量1.5mAh/cm2)を宝泉(株)から購入した。また、負極は、負極集電体として銅箔の上に負極活物質としてリチウム金属箔を構成した。液体電解質は、トリフェニルホスィンオキシド(TPO)をシグマ-アルドリッチジャパンより購入した市販の電解液(1M LiPF6 in EC: DEC (1: 1 vol.%) (50μL))に0.05Mの濃度となるように溶解した。この液体電解質をLiPF6+ 5%TPO in EC: DECと表記した。この液体電解質で湿らせたポリプロピレン製セパレータと、前記両極を用い、公知の方法でCR2025型のコイン電池に封入した。得られたリチウム二次電池は、Wuhan LAND electronics社の充放電装置(LAND batteries testing system)を使用して、充放電の電圧範囲を2.7~4.3Vとして30℃で充放電試験を行った。
【0073】
[試験例2;「1M LiTFSI in DOL: DME」ベース]
実施例2:TP及びTPO使用
CR2025型のLiFePO4|Li金属コイン電池を構築した。このコイン電池において、両極活物質はLiFePO4(正極活物質)及びLi(負極活物質)とした。正極は、塗工済正極板(正極活物質LiFePO4;正極集電体アルミホイル;容量1.5mAh/cm2)を宝泉(株)から購入した。また、負極は、負極集電体として銅箔の上に負極活物質としてリチウム金属箔を構成した。液体電解質は、トリフェニルホスィン(TP)及びトリフェニルホスィンオキシド(TPO)をXiamen Tob New Energy Technology Co., Ltd. Chinaより購入した市販の電解液(1M LiTFSI in DOL: DME (1: 1 vol.%) (50μL))にそれぞれ0.025Mの濃度となるように溶解した。この液体電解質をLiTFSI + 5%TP-TPO in DOL: DMEと表記した。この液体電解質で湿らせたポリプロピレン製セパレータと、前記両極を用い、公知の方法でCR2025型のコイン電池に封入した。得られたリチウム二次電池は、Wuhan LAND electronics社の充放電装置(LAND batteries testing system)を使用して、充放電の電圧範囲を2.5~4.0Vとして30℃で充放電試験を行った。
【0074】
比較例4:TP及びTPO不使用
CR2025型のLiFePO4|Li金属コイン電池を構築した。このコイン電池において、両極活物質はLiFePO4(正極活物質)及びLi(負極活物質)とした。正極は、塗工済正極板(正極活物質LiFePO4;正極集電体アルミホイル;容量1.5mAh/cm2)を宝泉(株)から購入した。また、負極は、負極集電体として銅箔の上に負極活物質としてリチウム金属箔を構成した。液体電解質は、Xiamen Tob New Energy Technology Co., Ltd. Chinaより購入した市販の電解液(1M LiTFSI in DOL: DME (1: 1 vol.%) (50μL))を使用した。この液体電解質をLiTFSI in DOL: DMEと表記した。この液体電解質で湿らせたポリプロピレン製セパレータと、前記両極を用い、公知の方法でCR2025型のコイン電池に封入した。得られたリチウム二次電池は、Wuhan LAND electronics社の充放電装置(LAND batteries testing system)を使用して、充放電の電圧範囲を2.5~4.0Vとして30℃で充放電試験を行った。
【0075】
なお、試験例1及び2での電池の構築においては、グローブボックス((株)美和製作所製)を不活性雰囲気下での電池製作のために使用し、H2O及びO2濃度がいずれも0.1ppm以下であるArガス雰囲気下で行った。また、試験例1及び2での電池製作に使用したセパレータは直径16mm、厚さ0.025mmとし、負極活物質(リチウム金属箔)は、直径12mm、厚さ0.1mmとし、負極集電体(銅箔)は、直径12mm、厚さ0.01mmとし、正極板(正極活物質塗工済)は、直径12mm、厚さ0.05mmとした。
【0076】
(評価結果)
図1は、試験例1(実施例1及び比較例1)で得た液体電解質を備えるリチウム二次電池の電気化学測定(放電容量及び充放電サイクル耐性)の結果を示す。図1から、液体電解質がTP及びTPOの双方を含むことで、電解質用添加剤を無添加の場合と比較して高い放電容量を有するとともに、100サイクルの充放電後に高い容量保持率を示した。特に、高い充放電レート(0.5C)において、充放電サイクルの繰り返しに伴う容量の低下が少ないことがわかる。これは、液体電解液中に添加したTP及びTPOの混合物が、電極表面上に安定な界面層(SEI;Solid Electrolyte Interphase)を形成し、電極表面上での電解質と電極の反応による電解質分解等の副反応やリチウムデンドライトの形成を抑制したためと推察される。
【0077】
図2は、試験例2(実施例2及び比較例4)で得た液体電解質を備えるリチウム二次電池の電気化学測定(放電容量及び充放電サイクル耐性)の結果を示す。図2からも、液体電解質がTP及びTPOの双方を含むことで、電解質用添加剤を無添加の場合と比較して高い放電容量を有するとともに、70サイクルの充放電後に高い容量保持率を示した。この結果から、液体電解質中に添加TP及びTPOを添加することによる放電容量及び充放電サイクル耐性改善効果は、電解質の種類を問わず有効であると推察される。
【0078】
図3は、試験例1(実施例1及び比較例1~3)で製作したリチウム二次電池の充放電曲線を示す。図3から、TP及びTPOの双方を添加した場合(実施例1)の総量と同量のTPを単独で電解液に添加した場合(比較例2)、セルはTPの酸化に伴う過充電挙動を示した。この過程では、TPの酸化に伴い、カソード-液体電解質間に、安定なカソード-電解質中間相(CEI;Cathode Electrolyte Interface)が形成されているものと推測される。加えて、TPは過充電時に生成する酸素ガスを効果的に除去しているものと考えられる。このような効果により、TPの添加により、電池により高い電圧が印加されることが許容されるようになる。
【0079】
一方で、TP及びTPOの双方を添加した場合(実施例1)の総量と同量のTPOを単独で添加した場合(比較例3)、観測された充放電曲線から、カソード及びアノードの両表面に安定化被膜が形成されていると推測され、これらが高い放電容量とクーロン効率を生じさせていると考えられる。
【0080】
それに対して、TP及びTPOの双方を添加した場合(実施例1)、上記の単独添加の場合に比べてよりスムースな充放電曲線と一層高い放電容量が観測されている。つまり、電極がより安定となり副生反応を抑制するとともに、放電容量及び充放電サイクル耐性が向上する。TP及びTPOの双方を添加した場合は、電解質用添加剤の量は同じであるにも関わらず、TPを単独で添加した場合及びTPOを単独で添加した場合のいずれと比較してもよりスムースな充放電曲線と一層高い放電容量が観測されており、これらの結果から、TP及びTPOの双方を添加する場合には、TPを単独で添加した場合及びTPOを単独で添加した場合の効果を単なる足し合わせたものではなく相乗効果が見られることが明らかとなった。
【0081】
以上より、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の双方を含む電解質用添加剤は、リチウム二次電池に高い放電容量をもたらすことができ、しかも、優れた充放電サイクル耐性をもたらすことができることが実証された。
図1
図2
図3