IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターの特許一覧 ▶ 三谷産業株式会社の特許一覧

特許7427187VOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法
<>
  • 特許-VOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法 図1
  • 特許-VOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法 図2
  • 特許-VOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法 図3
  • 特許-VOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法 図4
  • 特許-VOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法 図5
  • 特許-VOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法 図6
  • 特許-VOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】VOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/224 20060101AFI20240129BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20240129BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20240129BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B01J27/224 A ZAB
B01D53/86 275
B01J23/83 A
C04B41/85 D
C04B41/85 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019199262
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021069996
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】394027559
【氏名又は名称】三谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】染川 正一
(72)【発明者】
【氏名】井上 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】川見 佳正
(72)【発明者】
【氏名】藤原 哲之
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-028486(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157721(WO,A1)
【文献】特開平04-280088(JP,A)
【文献】特開2013-158714(JP,A)
【文献】特開2012-016646(JP,A)
【文献】特開2001-054723(JP,A)
【文献】特開平06-343827(JP,A)
【文献】特開2017-159203(JP,A)
【文献】特開2007-117911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
C04B 41/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素(SiC)を主成分とする担体の表面に、コバルト(Co)とセリウム(Ce)の複合酸化物が直接担持されており、
前記複合酸化物は、平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子のまわりがコバルトイオンを前駆体とするコバルト酸化物およびセリウムイオンを前駆体とするセリウム酸化物で覆われており、
(i)平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子、(ii)コバルトイオンを前駆体とするコバルト酸化物、(iii)セリウムイオンを前駆体とするセリウム酸化物の質量比は、
(i):20~50質量%、(ii):6~12質量%、(iii):39~66質量%である
ことを特徴とするVOC処理用触媒。
【請求項2】
VOCがハロゲン系有機化合物であることを特徴とする請求項1のVOC処理用触媒。
【請求項3】
請求項1のVOC処理用触媒と、VOC処理用触媒への通電装置とを有することを特徴とするVOC処理装置。
【請求項4】
請求項3のVOC処理装置を利用したVOCの処理方法であって、
VOCを含むガスと前記VOC処理用触媒とを接触させる工程、および、
前記通電装置によって前記VOC処理用触媒の担体を通電加熱する工程、
を含むことを特徴とするVOCの処理方法。
【請求項5】
VOCがハロゲン系有機化合物であることを特徴とする請求項4のVOCの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性を有するVOC処理用触媒と、これを有するVOC処理装置およびVOCの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等から排出される有機物成分を含む排ガスは住居環境に悪い影響を及ぼし、健康被害や悪臭苦情の原因となる。例えば塗装工場や印刷工場、化学品製造過程等から排出される揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:以下「VOC」と記載する)や、皮革工場、し尿処理工場などから排出されるアンモニア化合物、塗装工場や飲食店等から排出されるヤニ類がある。これら化合物の多くは、人体や自然環境にとって有害である。
【0003】
VOCの処理方法としては直接燃焼法、触媒燃焼法、物理化学的吸着法、生物処理法、プラズマ法など各種のものが提案されているが、これらの中で、触媒燃焼法は装置および維持管理が簡単であることから広く採用されている。
【0004】
触媒燃焼法においては、従来、触媒として白金、パラジウムなどの貴金属が使用されてきたが、貴金属は高価であるためコストを抑えることが難しく、代替材料の開発が進められてきた。
【0005】
そして、これまでに、本出願人らはコージェライト基材に担持させたセリウム(Ce)およびコバルト(Co)を主成分とする金属酸化物触媒について提案している(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5422320号
【文献】特許第5717491号
【文献】再表2014/157721号公報
【文献】特開2018‐126738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
触媒燃焼法によってVOCを処理する場合、トルエン、キシレン、ブタノール、酢酸エチルなどの炭素(C)、酸素(O)、水素(H)のみで構成される有機化合物の分解においては、完全燃焼後には二酸化炭素(CO)と水(HO)のみが生成されるため、触媒に悪い影響を与えにくい。しかしながら、塩素を含んだハロゲン系有機化合物、例えばジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロエチレンなどが処理対象となる場合は、燃焼によって塩化水素(塩酸へと変化する。)が生じる。
【0008】
このため、アルミナ担体を使用した金属白金を触媒成分に利用した従来の触媒では、塩化白金が出現し触媒活性が低下する問題があった。更に担体のアルミナも塩酸による浸食により強度が無くなり形状崩壊する現象が見られ有効な触媒として活用できなかった。また、特許文献1、2の触媒においても、強い酸性によって担体の溶出とこれに伴う触媒成分の凝集や剥離が生じ、触媒が劣化してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、耐酸性を有し、ハロゲン系VOCの処理においても長期間使用することができるVOC処理用触媒と、これを有するVOC処理装置、VOCの処理方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明のVOC処理用触媒は、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする担体の表面に、コバルト(Co)とセリウム(Ce)の複合酸化物が担持されていることを特徴としている。
【0011】
本発明のVOC処理装置は、前記VOC処理用触媒と、VOC処理用触媒への通電装置とを有することを特徴としている。
【0012】
本発明のVOCの処理方法は、前記VOC処理装置を利用したVOCの処理方法であって、前記通電装置によって前記VOC処理用触媒の担体を通電加熱する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明のVOC処理用触媒は、耐酸性を有することで、ハロゲン系VOCによる触媒の劣化を抑制することができる。このため、既存の白金触媒などでは対応が困難であったハロゲン系VOCが発生する工場などにおいて、触媒燃焼式による処理が可能となる。
【0014】
本発明のVOC処理装置およびVOCの処理方法によれば、通電装置からSiC担体へ直接的に通電加熱することで、SiC担体の自己発熱能を利用してVOCを分解することができる。このため、外部の加熱装置を省略することができ、装置の小型化、処理コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】SiC担体上に担持されたCo,Ce酸化物の電子顕微鏡写真である。
図2】触媒加速劣化装置の概要を示した図である。
図3】触媒加速劣化試験装置における実験結果を示した図である。
図4】担体表面における触媒の劣化抑制機構を示した模式図である。
図5】Co,Ce酸化物/SiC触媒を用いた各種塩素系VOCの分解実験結果(SV 22000h-1、各VOC濃度 1000ppm)を示した図である。
図6】Co,Ce酸化物/SiC触媒、白金担持アルミナ触媒を用いた各種塩素系VOCの分解実験結果(SV 10000h-1、各VOC濃度 2000ppm)を示した図である。
図7】塩酸暴露後の触媒(白金担持アルミナ触媒、Co,Ce酸化物/コージェライト触媒、Co,Ce酸化物/SiC触媒の状態を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、特許文献1、2などで提案したコバルト(Co)とセリウム(Ce)の複合酸化物(コバルト・セリウム系複合酸化物)が容易に炭化ケイ素(SiC)を主成分とする基材に付着するという新規な知見を得て、本発明を完成させるに至った。SiCは、濡れ性の悪さや高温耐性を有する材料であり、物質が付着し難い(はじく性質を有する)ことが知られている。このため、SiC基材にコバルト・セリウム系複合酸化物が付着することは予期できないことであった。
【0017】
以下、本発明のVOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法の一実施形態について説明する。
【0018】
本発明のVOC処理用触媒の対象となるVOCとしては、例えば、トルエン、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ベンゼン、キシレン、酢酸エチル、ジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロエチレンなどのうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0019】
本発明のVOC処理用触媒は、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする担体の表面に、コバルト(Co)とセリウム(Ce)の複合酸化物(コバルト・セリウム系複合酸化物)が担持されている。
【0020】
コバルト・セリウム系複合酸化物は、特に限定されないが、特許文献3、4を参照することができる。
【0021】
その一例を示すと、VOC処理用触媒は、
(A)平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子を、コバルトイオン生成可能な塩又は化合物、セリウムイオンを生成可能な塩又は化合物および水と混合して触媒浸漬液を調製する工程、
(B)得られた触媒浸漬液に炭化ケイ素(SiC)を主成分とする担体を浸漬処理する工程、及び
(C)浸漬処理後の担体を焼成する工程
を含む方法によって製造することができる。これにより、SiC担体に、触媒粒子(コバルト・セリウム系複合酸化物)が担持される。触媒粒子は、平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子のまわりがコバルトイオンを前駆体とするコバルト酸化物およびセリウムイオンを前駆体とするセリウム酸化物で覆われている。ここで平均粒子径は、レーザー回折法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(d0.5)を意味する。また、「コバルト酸化物粒子のまわりがコバルト酸化物及びセリウム酸化物で覆われている」とは、コバルト酸化物粒子の表面にコバルト酸化物及びセリウム酸化物が形成されていることを意味する。したがって、触媒粒子は、平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子と、コバルトイオンを前駆体とするコバルト酸化物と、セリウムイオンを前駆体とするセリウム酸化物と、を有している。
【0022】
触媒粒子は、コバルト酸化物粒子のまわりがコバルト酸化物及びセリウム酸化物の他、銅イオンを前駆体とする銅酸化物で覆われていてもよい。すなわち、触媒粒子は、さらに銅イオンを前駆体とする銅酸化物を有して構成され、前記コバルト酸化物、前記セリウム酸化物、および前記銅酸化物が前記コバルト酸化物粒子の表面に形成されていてもよい。担持触媒は、触媒粒子の分散性向上のために、複合ケイ酸塩を主体とする粘土鉱物を有してもよく、触媒粒子同士が分散された構造であってもよい。
【0023】
コバルト酸化物粒子は、各種のコバルト化合物、例えば炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機酸塩やアルコラート、カルボン酸塩、錯塩等の有機化合物や有機塩等の焼成物、乾固物であってよい。なかでも炭酸塩を前駆体とした化合物を空気中250~400℃で低温焼成することで作製したものが好ましい。また、コバルト酸化物粒子は、平均粒子径が0.8~2.0μmの範囲内に粉砕処理されたものであることも好ましい。粉砕処理は乾式粉砕処理でもよいし湿式粉砕処理でもよくその処理方法は問わない。例えば、乾式ジェットミルを用いて粉砕処理を行ってもよいし、乾式ビーズミル法や湿式回転ボールミル法等によって粉砕処理を行ってもよい。コバルト酸化物粒子の平均粒子径が0.8μm未満の場合には、コバルトの酸化物粒子同士が凝集しやすくなり、加熱下でその比表面積低下を招き、活性が低下しやすいので好ましくない。また、2.0μmを超える場合には、担体との接着面積が小さく、剥離しやすくなるため好ましくない。かかる観点から、活性が低下しにくく耐久性が良好でありしかも剥離性が良好な、耐久性と剥離性とのバランスが良好な担持触媒を得るためには、コバルト酸化物粒子の平均粒子径は0.8~2.0μmの範囲が好ましい。
【0024】
そして、本発明での前記コバルトイオン、セリウムイオンは、コバルト、そしてセリウムが塩もしくは化合物として水溶性のものとして形成される。例えば、硝酸塩、硫酸塩等である。このようなコバルトイオン、セリウムイオンには、銅イオンを共存させてもよい。銅イオンを共存させて製造した担持触媒は、コバルト酸化物粒子のまわりがコバルト酸化物及びセリウム酸化物の他、銅イオンを前駆体とする銅酸化物で覆われたものとなる。銅イオンは、触媒粒子の酸化物質量比で0.1~30質量%の範囲になるようにコバルトイオン及びセリウムイオンに共存させるのがより好ましい。これによって、触媒性能がより良好な担持触媒を得ることができる。
【0025】
そして、本発明において用いられる担体は、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする各種形状のものである。具体的には、ボール型やハニカム型の形状を例示することができる。また、担体については、直径5μm~50μm程度の気孔を表面に有する多孔質構造体を採用することもできる。
【0026】
より具体的なVOC処理用触媒の製造方法としては、例えば、平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子を、コバルトイオン生成可能な塩や化合物、セリウムイオン生成可能な塩や化合物、そして水とともに混合して触媒浸漬液を調製する。必要に応じて、銅イオン生成可能な塩や化合物や、カオリン、活性白土等の複合ケイ酸塩を主体とする粘土鉱物を混合して触媒浸漬液を調製してもよい。次いで、これをSiC担体に浸漬処理し、脱水後に焼成する。この焼成によってコバルトイオン、セリウムイオンは各々酸化物に変換されることになる。触媒浸漬液に銅イオンが含まれる場合には、この焼成によって銅イオンも酸化物に変換されることになる。
【0027】
本発明のVOC処理用触媒において、(i)平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子、(ii)コバルトイオンを前駆体とするコバルト酸化物、(iii)セリウムイオンを前駆体とするセリウム酸化物の質量比については、特に限定されないが、(i):20~50質量%、(ii):6~12質量%、(iii):39~66質量%が考慮される。また焼成温度については、特に限定されないが、200~500℃が考慮される。また、SiC担体への担持量についても、触媒の使用対象のVOCの種類や処理条件等を考慮して適宜に定めることができるが、一般的には、質量比として、SiC担体に対して10~30質量%の範囲が好ましく考慮される。
【0028】
本発明のVOC処理用触媒を用いて気相中に含まれるVOCを分解する場合は、VOCを含むガスを150℃~350℃、好ましくは200℃~300℃で本発明のVOC処理用触媒と接触させればよい。
【0029】
本発明のVOC処理用触媒は、担体が炭化ケイ素(SiC)で構成されており、このSiCとCo,Ce触媒の相乗効果によって耐酸性を有している。このため、本発明のVOC処理用触媒は、ハロゲン系VOCの分解に伴って生じる塩化水素や硫黄酸化物などによる触媒性能の劣化が抑制され、長期間使用することができる。なお、発生した塩化水素や硫黄酸化物は別途水処理などを行うことで除去が可能である。
【0030】
本発明のVOC処理用触媒によれば、既存の白金触媒では対応が困難であったハロゲン系VOCが発生する工場等のVOCの処理現場において、触媒燃焼式の適応が可能となる。これにより、環境触媒や排ガス処理装置市場の活性化、労働環境の改善、住居環境の改善等への貢献が期待される。
【0031】
また、本発明のVOC処理装置は、上述した本発明のVOC処理用触媒と、VOC処理用触媒への通電装置とを有している。本発明のVOC処理方法は、VOCを含むガスとVOC処理用触媒とを接触させる工程と、通電装置によってVOC処理用触媒の担体を通電加熱する工程を含む。
【0032】
通電装置からVOC処理用触媒のSiC担体へ直接的に通電加熱することで、SiC担体の自己発熱能を利用して所定の温度まで直ちに昇温させてVOCを分解することができる。このため、外部の加熱装置を省略することができ、装置の小型化、処理コストの低減を図ることができる。
【0033】
本発明のVOC処理用触媒、VOC処理装置およびVOCの処理方法は、以上の実施形態に限定されることはない。
【実施例
【0034】
以下、実施例とともに本発明について説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
<実施例1>触媒の作製
触媒の製造方法は、本発明者らが創案した方法(特許文献2)を参考にした。具体的にはコバルト炭酸塩を空気中で300℃~500℃の範囲内の一定温度で5時間焼成した後、ジェットミル法にて粉砕を行った。粉砕後のコバルト酸化物に対して蒸留水、硝酸コバルト、硝酸セリウム等を加えてよく攪拌混合し、コバルト・セリウム系前駆体溶液を調製した。この前駆体溶液の貯留容器中にハニカム型のSiCセラミックス担体を1分間浸漬した後、エアブローし、空気中において500℃で1時間焼成することにより、コバルト・セリウム系複合酸化物を担持した担持触媒(以下、「Co,Ce酸化物/SiC触媒」と記載する)を得た。
【0036】
同様に、ハニカム型のコージェライトセラミックス担体を、前駆体溶液の貯留容器中に1分間浸漬し、エアブローした後、セラミックス担体を空気中において500℃で1時間焼成することにより担持触媒(以下、「Co,Ce酸化物/コージェライト触媒」と記載する)を得た。
【0037】
<実施例2>剥離性評価
実施例1で得た触媒の剥離性評価を行うため、試料を蒸留水に浸し、超音波洗浄機(アズワン株式会社製 USK-1R)を用いて、水中で10秒間超音波処理した後、試料を乾燥させた。乾燥後、触媒の付着状態を目視にて観察した。
【0038】
また、比較のため、コバルト・セリウム系前駆体溶液に変えてアルミナスラッジを前駆体とした担持触媒も作製し、同様の剥離性評価を行った。具体的には、公知文献(国際公開番号: WO2010103669 A1)を参考にしてアルミナスラリーを作製し、SiC担体とコージェライト担体にコーティングした。
【0039】
結果を表1に示す。また、図1にコバルト・セリウム系複合酸化物をSiC担体表面に担持した触媒の走査電子顕微鏡写真を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示したように、コバルト・セリウム系前駆体溶液では、SiC担体を用いた場合もコージェライト担体を用いた場合も、剥離は確認されなかった。一方、SiC担体上にコーティングしたアルミナ粒子は水中での超音波で剥離し、コージェライト担体上ではアルミナは剥離し難いことが確認された。
【0042】
<実施例3>加速劣化試験
実施例1で得たCo,Ce酸化物/SiC触媒とCo,Ce酸化物/コージェライト触媒について性能評価を行った。
【0043】
図2は、触媒加速劣化装置の概要を示した図である。触媒加速劣化装置は、触媒を設置する触媒部と溶剤を揮発する揮発部とを備えており、触媒部と揮発部は、それぞれ400℃程度に加熱可能とされている。ファンによって一方方向にガスを逃がしながら、加熱された揮発部で揮発した有機成分を加熱した触媒に高濃度で吹き付けるという機構である。触媒部と揮発部の温度はモニターしており、有機物が触媒によって分解されるとその反応熱により、触媒部の温度が上昇することを利用して、触媒に活性があるかどうかを簡易的に評価した。実験条件としては、触媒部および揮発部の温度設定:400℃、溶剤流入速度:500μl/min、設置触媒量:0.5 g、被毒前駆体(ジクロロメタン)濃度:5 vol%/トルエンとした。
【0044】
結果を図3に示す。図3(a)、(b)はトルエンのみを溶剤に用いた結果であり、図3(c)、(d)はトルエンにジクロロメタンを混ぜた溶剤を用いた結果である。また、図3(a)、(c)はCo,Ce酸化物/コージェライト触媒、図3(b)、(d)はCo,Ce酸化物/SiC触媒を用いた結果である。
【0045】
Co,Ce酸化物/コージェライト触媒では、Cl系物質の混入によって活性が劣化している様子が確認された。一方、Co,Ce酸化物/SiC触媒では、劣化が途中で止まり、活性が維持されていることが確認された。下地にSiC担体を用いることで塩素系VOCに対する耐酸性が付与され、触媒の劣化が抑制されたことが示されている。
【0046】
図4は、担体表面における触媒の劣化抑制機構を示した模式図である。図4に示したように、SiCにはHClガスが染み込みづらく、反応の活性サイト以外の部分で触媒にダメージを与える影響が小さいことが要因の一つと考えられた。
【0047】
<実施例4>触媒活性試験
実施例1で得たCo,Ce酸化物/SiC触媒について、各種塩素系VOCの分解実験(触媒活性試験)を行った。
【0048】
触媒活性試験については、所定の空間速度(SV)となるように流量を設定したコンプレッサーより供給された空気を、常時、触媒と接触するように送り込み続ける装置を用いた。目的のVOCは送液ポンプにて200℃に加熱した注入管の中に注入することで加熱した空気とガス状で混合させた。触媒は外部ヒーターにて最大450℃までの任意の温度に加熱した。ヒーター温度を調整して反応温度を変化させながら、反応槽に入る前のガスと、反応槽を通過したガスをGC-MS(質量分析装置付きガスクロマトグラフ)で分析し、それぞれのガスの濃度を求めた(反応層に入る前のガスの濃度をC1、反応層を通過したガスの濃度をC2とする)。分解率c(%)をc=C2/C1×100の式から求めた。
【0049】
結果を図5図7に示す。なお、空間速度(SV)は、図5は22000h-1、図6では10000h-1となるように風量を調整した。
【0050】
図5(各VOC濃度1000ppm)に示したように、Co,Ce酸化物/SiC触媒は、分解温度500℃以上において3成分とも90%以上分解できることが確認された。特に、塩化メチレン・1,2-ジクロロエタンについては400~450℃で95%以上の分解率を示した。また、図6(各VOC濃度2000ppm)に示したように、Co,Ce系/SiC触媒は、各種塩素系VOCが高濃度の場合であっても500℃程度でほぼ分解できることが確認され、従来の白金担持アルミナ触媒と比べ分解率が高いことが示された。
【0051】
<実施例5>塩酸暴露試験
酸性ガス存在下での触媒の耐久性を試験するため、従来の白金担持アルミナ触媒、Co,Ce酸化物/コージェライト触媒、Co,Ce酸化物/SiC触媒の塩酸暴露雰囲気下での劣化状況を比較した。方法としては、40mL 濃塩酸を入れた瓶をデシケーター中に置き、塩酸暴露雰囲気を調整した。さらに、上記3種類の触媒をデシケーター内に置いて室温で2週間静置させた。
【0052】
図7に示したように、従来の白金担持アルミナ触媒は黄色に変色し、Co,Ce酸化物/コージェライト触媒は変色し表面がぼろぼろになったが、Co,Ce酸化物/SiC触媒では劣化は確認されなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7