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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】マイナーアクチノイドの分離方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20240129BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20240129BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
G21F9/12 501J
G21F9/12 501D
B01J20/10 C
B01J20/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020143601
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038892
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】塚本 泰介
(72)【発明者】
【氏名】島田 隆
(72)【発明者】
【氏名】柿木 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】垣谷 健太
(72)【発明者】
【氏名】西岡 洋
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-219347(JP,A)
【文献】特開2017-048107(JP,A)
【文献】特開2019-094221(JP,A)
【文献】特開平07-159595(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0319058(US,A1)
【文献】山口瑛子、高橋嘉夫、田中雅人,吸着構造のイオン半径依存性:粘土鉱物への吸着反応について,2017年度日本地球化学会第64回年会講演要旨集,日本,2017年,p.157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
B01J 20/10
B01J 20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイナーアクチノイド及びランタノイドを含む放射性溶液のうち前記ランタノイドを、イオン半径の違いによって吸着可能な吸着剤に吸着させるステップと、
前記ランタノイドを前記吸着剤に吸着させるステップによって前記ランタノイドを吸着した前記吸着剤と前記放射性溶液とを分離し、前記マイナーアクチノイドを含む溶液を回収するステップと、
を有するマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項2】
前記ランタノイドを前記吸着剤に吸着させるステップの前に、
前記放射性溶液に、前記マイナーアクチノイドに選択的に配位する配位子を加え、前記マイナーアクチノイドの見かけのイオン半径を前記ランタノイドのイオン半径よりも大きくするステップを有する、請求項1に記載のマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項3】
前記吸着剤は、ガラス固化可能である無機吸着剤であり、ケイ素を含む結晶性金属酸化物を含み、前記ケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量が、前記結晶性金属酸化物100質量%に対し、10質量%以上である、請求項1又は2に記載のマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項4】
前記マイナーアクチノイドを含む溶液を回収するステップによって前記放射性溶液と分離した、前記ランタノイドを吸着した前記吸着剤をガラス固化するステップを更に有する、請求項3に記載のマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項5】
前記結晶性金属酸化物がアルカリ金属を含む、請求項3又は4に記載のマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項6】
前記結晶性金属酸化物がチタンを含む、請求項3~5のいずれか一項に記載のマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項7】
前記結晶性金属酸化物における前記ケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量が、前記結晶性金属酸化物100質量%に対し、10質量%以上80質量%以下である、請求項3~6のいずれか一項に記載のマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項8】
前記結晶性金属酸化物が、結晶子サイズが500nm以下であること、及びイオン交換を行う結晶面の他の結晶面に対するアスペクト比が1以上であること、のいずれか一方又は両方を満たす、請求項3~7のいずれか一項に記載のマイナーアクチノイドの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイナーアクチノイドの分離方法及び無機吸着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水炉等から排出される使用済み核燃料の再処理においては、使用済み核燃料の溶液からU(ウラン)及びPu(プルトニウム)が回収される。U及びPuを回収した後に残る高レベル放射性廃棄物(Highly Active Liquid Waste)(以下、「HALW」とも記す。)には、核分裂生成物(Fission Products)(以下、「FP」とも記す。)のほか、Np(ネプツニウム)、Am(アメリシウム)、Cm(キュリウム)等のマイナーアクチノイド(Minor Actinide)(以下、「MA」とも記す。);La(ランタン)、Ce(セリウム)、Eu(ユウロピウム)等のランタノイド(以下、「Ln」とも記す。)等が含まれる。HALWは、濃縮工程を経てガラス固化体とされ、地層処分される計画となっている。
【0003】
MAは、1万年オーダの長半減期を持つ核種があり、HALWの処分における負荷増大の要因となっている。そこで、HALWからMAを回収し、回収したMAを高速増殖炉等で燃焼させることが検討されている。
LnはMAと化学的性質が似ていることから、HALWからMAを回収する際にLnが同伴しやすい。そのため、MA回収工程後に、MAとLnとを分離するMA精製工程が行われる。MA回収工程及びMA精製工程の代表的な方法として、MAを抽出するための溶媒(抽出剤溶液)を用いた溶媒抽出法及び抽出クロマト法が知られている。
【0004】
図4に、MAの回収から燃焼までのプロセスの一例を示す。この例では、まず、HALWからMAを回収する(MA回収工程)。MA回収工程では、HALWからMAを溶媒抽出し、抽出液からMAを水相へ逆抽出する。MA回収工程では、一部のLnがMAに同伴する。次いで、逆抽出液を濃縮した後、MAとLnとを分離する(MA精製工程)。MA精製工程では、濃縮液からMAを溶媒抽出し、抽出液からMAを水相へ逆抽出することで、Lnが分離されたMA含有溶液を得る。その後、得られたMA含有溶液を濃縮し、その濃縮液を用いてMA燃料を製造し、MA燃料を燃焼させる。HALWからMAを抽出した後の廃液(FP含有)は、濃縮し、ガラス固化し、保管した後、地層処分する。濃縮液からMAを抽出した後の廃液(Ln含有)は、濃縮し、ガラス固化して廃棄する。
【0005】
MA、Ln等の複数の元素を吸着剤に吸着させ、その後、吸着剤から特定の元素を選択的に溶離させることで、前記複数の元素を分離する方法も知られている(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-20546号公報
【文献】特開2018-123373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、MA回収工程からは、HALWからMAを抽出した後の廃液が発生し、MA精製工程からは、濃縮液からMAを抽出した後の廃液が発生する。
このうち、MA回収工程から発生する廃液は、MA回収を行わない現状の再処理工程におけるHALWと同程度であるので、現状と同様の濃縮工程を経てガラス固化を行うことが可能である。一方、MA精製工程から発生する廃液についても同様にガラス固化を行うことになるが、この際、MA精製工程において逆抽出のために加えた量の水を濃縮工程によって蒸発させる必要がある。また、溶媒抽出及び逆抽出を経て得られた逆抽出液中の抽出対象物質の濃度は、もともとの溶液中の濃度より低くなるのが通常である。そのため、MA精製工程から発生する廃液の処理のための濃縮工程には、現状のHALWの処理のための濃縮工程よりも大きな設備規模が必要で、建設費が増加するとともに、運転において大きなエネルギーを消費するのでランニングコストも増加する。
【0008】
特許文献1~2のように、吸着剤から特定の元素を選択的に溶離させる場合、得られる溶離液中の特定元素の濃度は、逆抽出液と同様、もともとの溶液中の濃度より低くなる。そのため、この溶離液について濃縮工程を経てガラス固化を行う場合、濃縮工程には、MA精製工程から発生する廃液の処理のための濃縮工程と同様に、現状のHALWの処理のための濃縮工程よりも大きな設備規模が必要となる。
【0009】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、MA及びLnを含む放射性溶液からMAを分離する際に発生する廃液量を低減できるMAの分離方法、並びにMA及びLnを含む放射性溶液からMAを分離するのに有用な無機吸着剤を短時間で製造できる無機吸着剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示に係るMAの分離方法は、MA及びLnを含む放射性溶液のうち前記Lnを、イオン半径の違いによって吸着可能な吸着剤に吸着させるステップと、前記Lnを前記吸着剤に吸着させるステップによって前記Lnを吸着した前記吸着剤と前記放射性溶液とを分離し、前記MAを含む溶液を回収するステップと、を有する。
【0011】
本開示に係る無機吸着剤の製造方法は、少なくとも、ケイ素を含む第1の結晶性物質と、チタンを含む第2の結晶性物質とを含む2種以上の原料を、前記ケイ素/前記チタンの原子比が0.5~50となるように乾式で混合するステップと、前記2種以上の原料が混合された混合物を成形するステップと、成形された前記混合物をドライゲルコンバージョン法により処理して、ケイ素及びチタンを含む結晶性金属酸化物を含む無機吸着剤を得るステップと、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示のMAの分離方法によれば、MA及びLnを含む放射性溶液からMAを分離する際に発生する廃液量を低減できる。
本開示の無機吸着剤の製造方法によれば、MA及びLnを含む放射性溶液からMAを分離するのに有用な無機吸着剤を短時間で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の第一実施形態に係る分離方法を説明するフロー図である。
図2】本開示の第二実施形態に係る分離方法を説明するフロー図である。
図3】本開示の第三実施形態に係る分離方法を説明するフロー図である。
図4】比較例に係るプロセスを説明するフロー図である。
図5】実施例(DGC法)で製造された無機吸着剤及び水熱合成法で製造されたNatisiteについてのX線回折(XRD)スペクトルチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「MA(マイナーアクチノイド)」とは、アクチノイドに属する超ウラン元素のうちPuを除いた元素である。
「アクチノイド」とは、原子番号89から103までの元素の総称である。
「Ln(ランタノイド)」とは、原子番号57から71までの元素の総称である。
【0015】
〔MAの分離方法〕
<第一実施形態>
以下、本開示の第一実施形態に係るMAの分離方法について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係る分離方法は、
HALWからMAをLnとともに分離する分離処理を行うことで、MA及びLnを含む溶液(以下、「MA・Ln含有溶液」とも記す。)を得るステップS1-1と、
MA・Ln含有溶液を固化する固化処理を行うことで、MA及びLnを含む固化体を得るステップS1-2と、
ステップS1-2によって得た固化体を保管するステップS1-3と、
ステップS1-3によって保管した後の固化体を溶解するステップS1-4と、
ステップS1-4によって得た固化体溶液(MA及びLnを含む放射性溶液)のうちLnを、イオン半径の違いによって吸着可能な吸着剤(以下、「Ln吸着剤」とも記す。)に吸着させるステップS1-5と、
ステップS1-5によってLnを吸着したLn吸着剤と固化体溶液とを分離し、固化体溶液を回収するステップS1-6と、
を有する。
【0016】
ステップS1-1によってHALWからMA及びLnが分離された後に残る廃液(FP含有溶液)は、濃縮し、ガラス固化し、保管した後、地層処分する。
ステップS1-6によって回収された、LnをLn吸着剤に吸着させた後の固化体溶液は、MAを含む溶液(MA含有溶液)である。MA含有溶液は、必要に応じて高発熱性のMAを分離した後、燃料製造に用いる。例えば、MA含有溶液をU、Puと混合し、混合酸化物を得ることにより、燃料を製造する。得られた燃料は、高速増殖炉等で燃焼する。
【0017】
本実施形態に係る分離方法は、必要に応じて、ステップS1-2の後、ステップS1-3の前に、固化体に対し、炭素、水素、酸素、窒素成分の一部又は全部を除去する安定化処理を行うステップを更に有していてもよい。
【0018】
ステップS1-5で用いられるLn吸着剤がガラス固化可能な無機吸着剤である場合、本実施形態に係る分離方法は、ステップS1-6で分離した、Lnを吸着したLn吸着剤を、ガラス固化するステップS1-7を更に有することが好ましい。
ステップS1-7によって得たガラス固化体は、例えば、保管し、地層処分する。
【0019】
(HALW)
HALWは、使用済み核燃料の溶液からU及びPuを分離した廃液である。HALWは、FP、MA、Ln等を含み、U及びPuを含まない。HALWは、典型的には、MAとして少なくとも、Np、Am及びCmを含み、Lnとして少なくとも、La及びCeを含む。
【0020】
HALWとしては、例えば、ピューレックス(PUREX:Plutonium Uranium Redox EXtraction)法による再処理で生成する廃液が挙げられる。ピューレックス法では、UやPuを含む硝酸溶液と、トリブチルリン酸(TBP)と、ドデカン等の有機溶媒とを接触混合する。これにより、硝酸溶液中のUやPuがTBPと錯体を形成して有機溶媒側へ移動する。一方、FP、MA、Lnは硝酸溶液(廃液)側に残る。
【0021】
(ステップS1-1:分離処理)
分離処理としては、例えば、HALWからMAをLnとともに溶媒抽出法により抽出する処理(以下、「抽出処理」とも記す。)を含む処理、又はHALWのMA及びLnを吸着剤に吸着させ、前記吸着剤に吸着したMA及びLnを溶離させる処理(以下、「吸着-溶離処理」とも記す。)を含む処理が挙げられる。
分離処理が抽出処理を含む場合、抽出処理の後に、抽出処理により得られた抽出液からMA及びLnを逆抽出する処理(以下、「逆抽出処理」とも記す。)をさらに含んでいてもよい。
【0022】
抽出処理では、例えば、HALWと、抽出剤を含む有機溶媒溶液(抽出剤溶液)とを接触させる。HALWと抽出剤溶液とを接触させると、MAやLnが抽出剤溶液側に移行する。
抽出処理で得た抽出液はそのままMA・Ln含有溶液としてステップS1-2に供してもよく、さらに逆抽出処理を行ってもよい。工程数や廃液量をより低減できる点では、抽出処理で得た抽出液をMA・Ln含有溶液としてステップS1-2に供することが好ましい。
【0023】
抽出剤としては、例えば、MA及びLnと錯体を形成する錯化剤が挙げられる。かかる錯化剤は、選択的にMAと錯体を形成する錯化剤に比べて安価であることから好ましい。錯化剤の具体例としては、n-オクチル(フェニル)-N,N’-ジイソブチルカルバモイルメチルフォスフィンオキシド-トリブチルリン酸混合物(CMPO-TBP混合物)、ジイソデシルリン酸、6,6’-ビス(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-1,2,4-ベンゾトリアジン-3-イル)-2,2’-ビピリジン(BTBP)、N,N’-ジブチル-N,N’-ジメチルテトラデシルマロナミド(DMDBTDMA)、N,N,N’,N’-テトラオクチル-3-オキサペンタンジアミド(TODGA)等が挙げられる。抽出剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
有機溶媒は、使用する抽出剤に応じて適宜選定できる。有機溶媒は、再利用可能であること、安価であること、放射線劣化に耐性があることが望ましい。有機溶媒の具体例としては、例えばn-ドデカンが挙げられる。有機溶媒は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
逆抽出処理では、例えば、抽出液と、硝酸を含む水溶液(ストリッピング剤)とを接触させる。これにより、抽出液中のMAとLnが水溶液側に移行する。一方、抽出液中の有機溶媒は水溶液側に移行せずに抽出液側に残るので、再利用できる。
逆抽出処理で得た逆抽出液は典型的にはそのまま、MA・Ln含有溶液としてステップS1-2に供する。
【0026】
吸着-溶離処理に用いる吸着剤は、MA及びLnを吸着可能であればよい。
HALWのMA及びLnを吸着剤に吸着させる方法としては、HALWと吸着剤とを接触させる方法が挙げられる。HALWと吸着剤とを接触させる方法としては、カラム式、バッチ式等が挙げられる。
吸着剤に吸着したMA及びLnは、吸着剤と溶離液とを接触させることにより溶離させることができる。
吸着-溶離処理で得られた溶離液、つまり吸着剤と接触させた後の溶離液は、MA及びLnを含む。典型的には、この溶離液をそのままMA・Ln含有溶液としてステップS1-2に供する。
【0027】
(ステップS1-2:固化処理)
固化処理としては、例えば、分解処理、水熱処理、ガラス固化処理が挙げられる。
ガラス固化処理を行う場合、ガラス固化処理の前に、MA・Ln含有溶液を濃縮する濃縮処理を行うことが好ましい。
【0028】
MA・Ln含有溶液が、抽出処理により得られた抽出液である場合、固化処理としては、蒸留・分解処理が好ましい。
抽出液に対して蒸留・分解処理を行うことにより、抽出液の有機溶媒が除去されるとともにMAが酸化される。これにより、MA酸化物を含む固化体が得られる。
蒸留・分解処理としては、例えば、蒸留、熱分解、焼却が挙げられる。蒸留は、回分式、連続式(棚段塔や充填塔)等の公知の蒸発方式を用いて実施できる。
【0029】
MA・Ln含有溶液が、逆抽出処理で得られた逆抽出液、又は吸着-溶離処理で得られた溶離液である場合、固化処理としては、水熱処理、又はMA・Ln含有溶液を濃縮し、得られた濃縮液をガラス固化する処理(濃縮-ガラス固化処理)が好ましい。
MA・Ln含有溶液を水熱処理することにより、MA・Ln含有溶液に含まれるMAが酸化され、MA酸化物を含む固化体が析出する。固化体は固液分離により液状媒体(水)と分離される。これにより、MA酸化物を含む固化体が得られる。
MA・Ln含有溶液の濃縮、濃縮液のガラス固化はそれぞれ常法により実施できる。
【0030】
(安定化処理)
固化体には、抽出剤、抽出剤の放射線分解物等の有機物が含まれることがある。固化体に有機物が含まれていると、保管時にガスが発生し、放射性物質の閉じ込め機能を損なう、不具合が発生するおそれがある。固化体に対し、炭素、水素、酸素、窒素成分の一部又は全部を除去する安定化処理を行うことで、このような不具合の発生を抑制できる。
安定化処理としては、例えば、か焼、焼結が挙げられる。
【0031】
(ステップS1-3:保管)
ステップS1-3では、固化体を一時的に保管する。
固化体の保管方法としては、放射性廃棄物の乾式保管方法として公知の方法を利用でき、例えば、固化体を複数のキャニスタに格納し、これら複数のキャニスタをキャスクに収納し、保管施設で保管する方法が挙げられる。
【0032】
固化体を保管する期間は、適宜設定できる。
Cm等の高発熱性のMAは燃料製造に適さないため、固化体が高発熱性のMAを含む場合、ステップS1-4では、固化体を、固化体に含まれる高発熱性のMAが十分に減衰するまで保管することが好ましい。これにより、ステップS1-6で回収されるMA含有溶液をMA燃料製造に用いる場合に、MA含有溶液からのCm等の高発熱性のMAの分離を不要にすることができる。なお、HALWに含まれるCmは主に、半減期が約18年と比較的短い244Cmである。
【0033】
(ステップS1-4:固化体溶解)
固化体を溶解するには、例えば、MA酸化物を含む固化体であれば硝酸水溶液を加えればよい。固化体がガラス固化体である場合は、固化体を酸溶液等で溶解した後、得られた溶液からガラス成分を分離する。
固化体を溶解して得られる溶液は、MAとLnとを含む。
【0034】
(ステップS1-5:Ln吸着)
Ln吸着剤は、イオン半径の違いによって、つまり分子ふるい効果によって、MA及びLnのうちLnを吸着可能である。
表1にLn及びMAの水和イオン半径(水素原子の大きさを無視した値)を示す。表1中、Am及びCm以外の他の元素はLnである。Lnは、「ランタノイド収縮」と言われる現象に従い、原子番号が大きくなるほどイオン半径が小さくなることが知られている。
【0035】
【表1】
【0036】
ステップS1-5では、Ln吸着剤として、本実施形態の分離方法で分離しようとするMAを吸着しにくく、該MAよりもイオン半径の小さいLnを吸着しやすい吸着剤が選択される。例えば、MAとしてCm及びCmよりもイオン半径の大きいMA(Am等)を分離しようとする場合、水和イオン半径が4.91Å以上のイオンを吸着しにくく、水和イオン半径が4.91Å未満(例えば4.85Å以下)のLnを吸着しやすい吸着剤が選択される。
【0037】
Ln吸着剤は、ガラス固化可能であることが好ましい。Ln吸着剤がガラス固化可能であれば、Lnが吸着したLn吸着剤を、Lnを溶離させることなくそのままステップS1-7に供することができる。ガラス固化可能な吸着剤は、典型的には無機吸着剤である。無機吸着剤は、有機物を含まないので、そのままガラス固化できる。
【0038】
無機吸着剤としては、例えば、アルミノケイ酸塩(ゼオライト等)、ボロシリケート、シリコチタン酸塩、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、が挙げられる。
アルミノケイ酸塩、ボロシリケート及びシリコチタン酸塩において塩を形成するカチオンとしては、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオンが挙げられる。
【0039】
無機吸着剤は、ガラス固化しやすい点で、ケイ素を含む結晶性金属酸化物(以下、「Si系結晶性金属酸化物」とも記す。)を含むことが好ましい。ケイ素は典型的には酸素とともに結晶骨格を構成する。Si系結晶性金属酸化物は、ケイ素及び酸素以外の他の元素の1種以上を更に含んでいてもよい。
「結晶性金属酸化物」とは、X線回折(以下、「XRD」とも記す。)法においてピーク強度が認められる金属酸化物を示す。
Si系結晶性金属酸化物としては、例えば、結晶性シリコチタン酸塩、ゼオライト、ボロシリケート、二酸化ケイ素が挙げられる。
【0040】
Si系結晶性金属酸化物において、ケイ素の二酸化ケイ素(SiO)換算での含有量は、ガラス固化しやすい点で、Si系結晶性金属酸化物100質量%に対し、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。ガラス固化体は一般的にホウケイ酸ガラスを主成分とし、二酸化ケイ素が40~50質量%程度含まれる。ケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量が10質量%以上であれば、ガラス固化処理との親和性が高い。
ケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量は、Si系結晶性金属酸化物100質量%に対し、100質量%であってもよい。
Si系結晶性金属酸化物が他の元素を含む場合、ケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量は、Si系結晶性金属酸化物100質量%に対し、80質量%以下が好ましい。
【0041】
ガラス固化体組成に近づけるために、ケイ素の一部がホウ素に置換されていてもよい。ホウ素は典型的にはケイ素、酸素とともに結晶骨格を構成する。
ホウ素を含むSi系結晶性金属酸化物としては、例えば、ボロシリケートが挙げられる。
ホウ素の酸化ホウ素(B)換算での含有量は、ガラス固化しやすさの点から、Si系結晶性金属酸化物100質量%に対し、50質量%以下が好ましい。
【0042】
Si系結晶性金属酸化物は、アルカリ金属を含むことが好ましい。ガラスは一般的にアルカリ金属を含むので、Si系結晶性金属酸化物がアルカリ金属を含むとよりガラス固化しやすくなる。アルカリ金属は典型的には結晶骨格の間にイオンの形態で存在し、Ln吸着の際にLnとイオン交換される。アルカリ金属としてはナトリウムが好ましい。
アルカリ金属を含むSi系結晶性金属酸化物としては、例えば、塩を形成するカチオンの少なくとも一部がアルカリ金属イオンである、結晶性シリコチタン酸塩、ゼオライト、ボロシリケートが挙げられる。
【0043】
Si系結晶性金属酸化物は、チタンを含むことが好ましい。チタンを含むSi系結晶性金属酸化物は、後述する無機吸着剤の製造方法によって容易にペレット状のものを製造することができる。チタンは典型的にはケイ素、酸素とともに結晶骨格を構成する。チタンを含むSi系結晶性金属酸化物は、ケイ素、チタン及び酸素以外の元素を更に含んでいてもよい。
【0044】
チタンを含むSi系結晶性金属酸化物としては、例えば、結晶性シリコチタン酸塩が挙げられる。結晶性シリコチタン酸塩としては、例えば、Natisite[NaTiSiO](正方晶)、ETS-4[NaTiSi1238(OH)・12HO](斜方晶)、AM-1(JDF-L1)[NaTiSi22・4HO](正方晶)等が挙げられる。
ここで、ETS-4は、米国のEngelhard社に由来する名称で、Engelhard TitanoSilicate-4ともいう。AM-1は、ポルトガルのAveiro大学とイギリスのManchester大学に由来する名称で、Aveiro-Manchester material number 1ともいう。JDF-L1は、中国の吉林大学(Jilin University)と英国王立研究所のDavy-Faraday研究室に由来する名称で、Jilin-Davy-Faraday,Layered solid no.1ともいう。
【0045】
チタンを含むSi系結晶性金属酸化物において、ケイ素/チタンの原子比は、0.5以上が好ましい。ケイ素/チタンの原子比が0.5以上であれば、Si系結晶性金属酸化物が形成されやすい。
ケイ素/チタンの原子比は、50以下が好ましく、2以下が特に好ましい。
【0046】
チタンを含むSi系結晶性金属酸化物において、ケイ素の一部がホウ素に置換されていてもよい。
ケイ素の一部がホウ素に置換されている場合、ホウ素の酸化ホウ素(B)換算での含有量は、ガラス固化しやすさの点から、Si系結晶性金属酸化物100質量%に対し、50質量%以下が好ましい。
(ケイ素+ホウ素)/チタンの原子比の好ましい範囲は、ケイ素/チタンの好ましい範囲と同様である。
【0047】
チタンを含むSi系結晶性金属酸化物は、ガラス固化しやすい点で、アルカリ金属を含むことが好ましい。
チタンを含むSi系結晶性金属酸化物がアルカリ金属を含む場合、アルカリ金属の酸化物換算での含有量は、ガラス固化しやすさの点から、Si系結晶性金属酸化物100質量%に対し、5~30質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
アルカリ金属/チタンの原子比は、1以上が好ましい。アルカリ金属/チタンの原子比が1以上であれば、吸着容量がより優れる。
【0048】
Si系結晶性金属酸化物は、(i)結晶子サイズが500nm以下であること、及び(ii)イオン交換を行う結晶面の他の結晶面に対するアスペクト比が1以上であること、のいずれか一方又は両方を満たすことが好ましい。(i)及び(ii)のいずれか一方又は両方を満たすSi系結晶性金属酸化物は、吸着容量が高い。吸着容量が高い吸着剤を用いることで、装置規模の低減が可能となる。
なお、上記(i)及び(ii)のいずれか一方又は両方を満たすSi系結晶性金属酸化物を用いるほか、H水でのエッチング処理等によって無機吸着剤の表面積を大きくすることによっても、吸着容量を高めることができる。
【0049】
(i)の結晶子サイズは、200nm以下が好ましい。結晶子サイズの下限は、例えば10nmである。結晶子サイズは、例えば、XRD法により測定される。
後述するドライゲルコンバージョン法を用いてSi系結晶性金属酸化物を製造すると、水熱合成法を用いて製造する場合に比べて、結晶子サイズが小さくなる傾向がある。また、ケイ素/チタンの原子比やナトリウム/チタンの原子比を調整することによっても結晶子サイズを調整できる。
【0050】
(ii)のアスペクト比(ac面,bc面に対するab面の比率)は、1.5以上が好ましい。アスペクト比は、例えば、XRD法により測定される。
Si系結晶性金属酸化物の製造時に媒晶剤を添加する(フッ化物イオン等のアニオンを共存させる)ことで、結晶成長方向の制御が可能である。例えば、Natisiteであれば、媒晶剤を用いてab軸方向に成長させるか、c軸方向の成長を抑制することで、イオン交換を行う結晶面であるab面の他の結晶面(ac面、bc面)に対するアスペクト比を大きくすることができる。
【0051】
Ln吸着剤の形状は特に限定されないが、ペレット状であることが好ましい。Ln吸着剤がペレット状であれば、カラムに充填して使用できる。また、粉末状である場合に比べ、ハンドリング性が良好である。ペレットの大きさは特に限定されないが、例えば円形の場合、直径5~50mm、厚さ1~10mm程度が好ましい。
ペレット状のLn吸着剤は、例えば、後述する無機吸着剤の製造方法により製造できる。
【0052】
ステップS1-4で得た固化体溶液(MA及びLnを含む放射性溶液)のLnをLn吸着剤に吸着させる方法としては、固化体溶液とLn吸着剤とを接触させる方法が挙げられる。
固化体溶液とLn吸着剤とを接触させる方法としては、カラム式、バッチ式等が挙げられる。ステップS1-5と後述するステップS1-6とを連続的に行うことができる点で、カラム式が好ましい。カラム式では、Ln吸着剤が充填されたカラムに固化体溶液を通液する。
カラム式の場合、固化体溶液の通液条件は、例えば空間速度SV=0.1~20h-1である。
バッチ式の場合、固化体溶液とLn吸着剤との接触時間は、例えば8~24時間である。
固化体溶液とLn吸着剤とを接触させる際の温度は、例えば10~40℃である。
【0053】
(ステップS1-6:分離回収)
ステップS1-6では、ステップS1-5でLnを吸着したLn吸着剤とMA含有溶液とを分離し、MA含有溶液を回収する。
Ln吸着剤とMA含有溶液との分離方法は特に限定されず、公知の固液分離方法を用いることができる。
ステップS1-4で固化体溶液とLn吸着剤とをカラム式により接触させる場合、Ln吸着剤が充填されたカラムに固化体溶液を通液すると、カラム内でLn吸着剤と接触した固化体溶液(MA含有溶液)がカラムから流出する一方、Ln吸着剤はカラム内に留まる。これにより、MA含有溶液を回収できる。
【0054】
(ステップS1-7:ガラス固化)
Lnを吸着したLn吸着剤をガラス固化する方法としては、例えば溶融炉を用いてLn吸着剤とガラス原料を溶融し、溶融体を冷却固化する方法等が挙げられる。
【0055】
(作用効果)
上記構成の分離方法では、MA・Ln含有溶液のLnをLn吸着剤により吸着し、このLn吸着剤を分離してMA含有溶液を回収するので、図4に示す比較例に係るプロセスに比べて、放射性溶液からMAを分離する際に発生する廃液量を低減でき、廃液濃縮の負荷、濃縮を行うための設備規模を低減できる。
図4に示す比較例に係るプロセスでは、MA精製工程で溶媒抽出及び逆抽出を行うので、MA含有溶液のMA濃度が低く、これを濃縮する必要があるが、上記構成の分離方法では、回収されるMA含有溶液がMAを高濃度に含むので、これを濃縮することなくMA燃料製造に供することができ、濃縮する場合でも濃縮負荷が少ない。
また、図4に示す比較例に係るプロセスでは、MA精製工程で溶媒抽出及び逆抽出を行うので、低濃度のLn含有溶液が発生し、これを濃縮する必要があるが、上記構成の分離方法では、低濃度のLn含有溶液が発生しない。
【0056】
また、上記構成の分離方法では、Lnを吸着したLn吸着剤を、Lnを溶離させることなくガラス固化するので、低濃度のLn含有溶液が発生せず、廃液濃縮の負荷をより低減できる。
また、上記構成の分離方法では、固化体を溶解することでLnとMAとを含む溶液を得るので、図4に示す比較例に係るプロセスのように濃縮工程を行わなくても、MA及びLnを高濃度に含む放射性溶液が得られる。
また、上記構成の分離方法では、HALWからMAを分離するので、HALWの処分負荷を低減できる。HALWからMAを分離した後の廃液をガラス固化した固化体は、HALWの全量をガラス固化した固化体に比べ、量が少なく、閉じ込め期間も短いので、地層処分の負荷が少ない。また、分離したMAを固化体として保管するので、溶液形態で保管する場合に比べて、保管の負荷が少ない。固化体を、固化体に含まれる高発熱性のMAが十分に減衰するまで保管することで、MA含有溶液からの高発熱性のMAの分離を不要にすることもできる。
【0057】
<第二実施形態>
以下、本開示の第二実施形態に係る分離方法について、図2を参照して説明する。
図2に示すように、本発明の第二実施形態に係る分離方法は、
HALWからMAをLnとともに分離する分離処理を行うことで、MA・Ln含有溶液を得るステップS2-1と、
MA・Ln含有溶液を固化する固化処理を行うことで、MA及びLnを含む固化体を得るステップS2-2と、
ステップS2-2によって得た固化体を保管するステップS2-3と、
ステップS2-3によって保管した後の固化体を溶解するステップS2-4と、
ステップS1-4によって得た固化体溶液(MA及びLnを含む放射性溶液)に、MAに選択的に配位する配位子を加え、MAの見かけのイオン半径をLnのイオン半径よりも大きくするステップS2-5と、
ステップS2-5によってMAの見かけのイオン半径を大きくした固化体溶液のうちLnを、Ln吸着剤に吸着させるステップS2-6と、
ステップS2-6によってLnを吸着したLn吸着剤と固化体溶液とを分離し、固化体溶液を回収するステップS2-7と、
を有する。
【0058】
ステップS2-1によってHALWからMA及びLnが分離された後に残る廃液(FP含有溶液)は、濃縮し、ガラス固化し、保管した後、地層処分する。
ステップS2-7によって回収された、LnをLn吸着剤に吸着させた後の固化体溶液は、MA含有溶液である。MA含有溶液は、必要に応じて高発熱性のMAを分離した後、燃料製造に用いる。得られた燃料は、高速増殖炉等で燃焼する。
【0059】
本実施形態に係る分離方法は、必要に応じて、ステップS2-2の後、ステップS2-3の前に、固化体に対し、炭素、水素、酸素、窒素成分の一部又は全部を除去する安定化処理を行うステップを更に有していてもよい。
【0060】
ステップS2-6で用いられるLn吸着剤がガラス固化可能な無機吸着剤である場合、本実施形態に係る分離方法は、ステップS2-7で分離した、Lnを吸着したLn吸着剤を、ガラス固化するステップS2-8を更に有することが好ましい。
ステップS2-8によって得たガラス固化体は、例えば、保管し、地層処分する。
【0061】
(ステップS2-1:分離処理)
ステップS2-1は、ステップS1-1と同様である。
【0062】
(ステップS2-2:固化処理)
ステップS2-2は、ステップS1-2と同様である。
【0063】
(ステップS2-3:保管)
ステップS2-3は、ステップS1-3と同様である。
【0064】
(ステップS2-4:固化体溶解)
ステップS2-4は、ステップS1-4と同様である。
【0065】
(ステップS2-5:配位子添加)
前記した表1に示すように、LnのなかにはMAよりもイオン半径が大きいものがある。前記した第一実施形態では、このようなLnはLn吸着剤に吸着しにくく、MA含有溶液に残りやすい。そこで、固化体溶液に、MAに選択的に配位する配位子を加え、MAの見かけのイオン半径をLnのイオン半径よりも大きくすることで、MAよりもイオン半径が大きいLnもLn吸着剤に吸着させることができる。
【0066】
HASB(Hard and Soft Acids and Bases)理論において、MAのカチオンは、NやS等のソフトな塩基と錯形成しやすく、Lnのカチオンは、Oのようにハードな塩基と錯形成しやすい。したがって、MAに選択的に配位する配位子としては、ソフトな塩基が用いられる。
MAに選択的に配位する配位子の具体例としては、C2-BTP(2,6-bis(5,6-dietyl-1,2,4-triazin-3-yl))、ADAAM(アルキルジアミドアミン)等が挙げられる。
【0067】
MAの見かけのイオン半径は、表1に示したLnと分離しやすい点で、5.5Å以上が好ましく、10Å以上がより好ましい。
MAの見かけのイオン半径は、使用する配位子によって調整できる。
【0068】
(ステップS2-6:Ln吸着)
ステップS2-6は、ステップS1-5と同様である。
ただし、ステップS2-6では、Ln吸着剤として、ステップS2-5で見かけのイオン半径を大きくしたMAを吸着しにくく、該MAよりもイオン半径の小さいLnを吸着しやすい吸着剤が選択される。例えば、MAの見かけの水和イオン半径が10Å以上の場合、水和イオン半径が10Å以上のイオンを吸着しにくく、水和イオン半径が10Å未満(例えば5.20Å以下)のLnを吸着しやすい吸着剤が選択される。
【0069】
(ステップS2-7:分離回収)
ステップS2-7は、ステップS1-6と同様である。
【0070】
(ステップS2-8:ガラス固化)
ステップS2-8は、ステップS1-7と同様である。
【0071】
(作用効果)
上記構成の分離方法では、第一実施形態と同様に、MA・Ln含有溶液のLnをLn吸着剤により吸着し、このLn吸着剤を分離してMA含有溶液を回収するので、図4に示す比較例に係るプロセスに比べて、放射性溶液からMAを分離する際に発生する廃液量を低減でき、廃液濃縮の負荷、濃縮を行うための設備規模を低減できる。
また、上記構成の分離方法では、MA・Ln含有溶液のLnを吸着剤により吸着する前に、MAの見かけのイオン半径をLnのイオン半径よりも大きくするので、MAよりもイオン半径が大きいLnもLn吸着剤で吸着でき、MAをより選択的に分離できる。
【0072】
また、上記構成の分離方法では、第一実施形態と同様に、Lnを吸着したLn吸着剤を、Lnを溶離させることなくガラス固化するので、低濃度のLn含有溶液が発生せず、廃液濃縮の負荷をより低減できる。
また、上記構成の分離方法では、第一実施形態と同様に、固化体を溶解することでLnとMAとを含む溶液を得るので、図4に示す比較例に係るプロセスのように濃縮工程を行わなくても、MA及びLnを高濃度に含む放射性溶液が得られる。
また、上記構成の分離方法では、第一実施形態と同様に、HALWからMAを分離するので、HALWの処分負荷を低減できる。
【0073】
<第三実施形態>
以下、本開示の第二実施形態に係る分離方法について、図3を参照して説明する。
図3に示すように、本発明の第三実施形態に係る分離方法は、
HALWからMAをLnとともに分離する分離処理を行うことで、MA・Ln含有溶液を得るステップS3-1と、
ステップS3-1によって得たMA・Ln含有溶液を濃縮するステップS3-2と、
ステップS3-2によって得た濃縮液(放射性溶液)のうちLnを、Ln吸着剤に吸着させるステップS3-3と、
ステップS3-3によってLnを吸着したLn吸着剤と濃縮液とを分離し、濃縮液を回収するステップS3-4と、
ステップS3-4によって回収した濃縮液を更に濃縮するステップS3-5と、
を有する。
【0074】
ステップS3-1によってMA及びLnを分離した後の廃液(FP含有溶液)は、濃縮し、ガラス固化し、保管した後、地層処分する。
ステップS3-4によって回収された、LnをLn吸着剤に吸着させた後の濃縮液は、MA含有溶液である。MA含有溶液は、ステップS3-5によって更に濃縮し、必要に応じて高発熱性のMAを分離した後、燃料製造に用いる。得られた燃料は、高速増殖炉等で燃焼する。
【0075】
ステップS3-3で用いられるLn吸着剤がガラス固化可能な無機吸着剤である場合、本実施形態に係る分離方法は、ステップS3-4で分離した、Lnを吸着したLn吸着剤を、ガラス固化するステップS3-6を更に有することが好ましい。
ステップS3-6によって得たガラス固化体は、例えば、保管し、地層処分する。
【0076】
(ステップS3-1:分離処理)
ステップS3-1は、ステップS1-1と同様である。
【0077】
(ステップS3-2、S3-5:濃縮)
濃縮方法としては、蒸発濃縮法等の公知の濃縮方法を利用できる。ステップS3-2、S3-5では、ステップS3-5で濃縮した後のMA含有溶液がHALWと同程度の濃度となるようにMA・Ln含有溶液又はMA含有溶液を濃縮すればよい。
【0078】
(ステップS3-3:Ln吸着)
ステップS3-3は、ステップS1-5と同様である。
【0079】
(ステップS3-4:分離回収)
ステップS3-4は、ステップS1-6と同様である。
【0080】
(ステップS3-6:ガラス固化)
ステップS3-6は、ステップS1-7と同様である。
【0081】
(作用効果)
上記構成の分離方法では、第一実施形態と同様に、MA・Ln含有溶液のLnをLn吸着剤により吸着し、このLn吸着剤を分離してMA含有溶液を回収するので、図4に示す比較例に係るプロセスに比べて、放射性溶液からMAを分離する際に発生する廃液量を低減でき、廃液濃縮の負荷、濃縮を行うための設備規模を低減できる。
【0082】
また、上記構成の分離方法では、第一実施形態と同様に、Lnを吸着したLn吸着剤を、Lnを溶離させることなくガラス固化するので、低濃度のLn含有溶液が発生せず、廃液濃縮の負荷をより低減できる。
また、上記構成の分離方法では、第一実施形態と同様に、HALWからMAを分離するので、HALWの処分負荷を低減できる。
【0083】
<その他の実施形態>
以上、本開示のMAの分離方法の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
なお、上記第一実施形態において、分離処理に得たMA・Ln含有溶液を濃縮して固化処理に供してもよい。
上記第三実施形態において、ステップS3-2及びステップS3-5のいずれか一方を省略してもよい。例えばステップS3-2を省略し、MA・Ln含有溶液を濃縮することなくステップS3-1(Ln吸着)に供してもよい。
上記第三実施形態において、ステップS3-3の前に、ステップS3-2によって得た濃縮液(MA及びLnを含む放射性溶液)に、MAに選択的に配位する配位子を加え、MAの見かけのイオン半径をLnのイオン半径よりも大きくするステップを有していてもよい。
【0084】
〔無機吸着剤の製造方法〕
<第四実施形態>
以下、本開示の第四実施形態に係る無機吸着剤の製造方法について説明する。
本実施形態に係る無機吸着剤の製造方法は、
少なくとも、ケイ素を含む第1の結晶性物質と、チタンを含む第2の結晶性物質とを含む2種以上の原料を、前記ケイ素/前記チタンの原子比が0.5~50となるように乾式で混合するステップS4-1と、
ステップS4-1によって前記2種以上の原料が混合された混合物を成形するステップS4-2と、
ステップS4-2によって成形された前記混合物(以下、「成形体」とも記す。)をドライゲルコンバージョン法により処理して、ケイ素及びチタンを含む結晶性金属酸化物(以下、「Si-Ti系結晶性金属酸化物」とも記す。)を含む無機吸着剤を得るステップS4-3と、
を有する。
【0085】
(ステップS4-1)
第1の結晶性物質は、Si-Ti系結晶性金属酸化物のケイ素源であり、ケイ素以外の元素を含んでいてもよい。第1の結晶性物質としては、例えば、結晶性ケイ酸ナトリウム(例えば[δ-NaSi])が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
第2の結晶性物質は、Si-Ti系結晶性金属酸化物のチタン源であり、チタン以外の元素を含んでいてもよい。第2の結晶性物質として例えば、結晶性チタン酸ナトリウム(例えば[NaTi14])が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0086】
第1の結晶性物質と第2の結晶性物質の混合比は、ステップS4-1で得られる混合物におけるケイ素/チタンの原子比が0.5~50となるように設定される。ケイ素/チタンの原子比が0.5以上であれば、Si系結晶性金属酸化物が形成されやすく、50以下であれば、局所的な二酸化ケイ素の形成を抑制出来る。
ケイ素/チタンの原子比は、0.5~2がより好ましい。
なお、過剰なケイ素は過剰部で局所的に二酸化ケイ素の構造となるため、吸着性能を阻害しないと考えられる。
【0087】
必要に応じて、第1の結晶性物質及び第2の結晶性物質とともに、他の原料を混合してもよい。他の原料としては、例えば媒晶剤が挙げられる。
媒晶剤としては、例えばフッ化ナトリウム等のアルカリ金属のハロゲン化物、塩化バリウム等のアルカリ土類金属のハロゲン化物、亜硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等が挙げられる。
【0088】
2種以上の原料は、乾式で、つまり水等の液状媒体を加えずに混合する。これにより、Si-Ti系結晶性金属酸化物を得る過程で液状媒体の蒸発乾固処理等を行う必要がなく、無機吸着剤の製造に要する時間を短縮できる。
混合方法は、公知の乾式混合方法を用いることができる。例えば第1の結晶性物質及び第2の結晶性物質がそれぞれ粉末状である場合、それらを粉体混合すればよい。
【0089】
(ステップS4-2)
ステップS4-1で得られた混合物は、例えばプレス成形により成形できる。
プレス成形における圧力は、例えば20~50MPaである。
プレス成形時の温度は、例えば10~40℃である。
【0090】
混合物を成形した成形体の形状は特に限定されないが、ペレット状であることが好ましい。成形体がペレット状であれば、ペレット状の無機吸着剤が得られる。無機吸着剤がペレット状であれば、カラムに充填して使用できる。また、粉末状である場合に比べ、ハンドリング性が良好である。ペレットの大きさは特に限定されないが、例えば円形の場合、直径5~50mm、厚さ1~10mm程度が好ましい。
【0091】
(ステップS4-3)
ドライゲルコンバージョン法とは、水蒸気、例えば加圧水蒸気を用いて、気相で結晶化を促す手法のことを示す。
成形体をドライゲルコンバージョン法により処理すると、Si-Ti系結晶性金属酸化物が生成する。
成形体をドライゲルコンバージョン法により処理するには、例えば、耐圧容器に水と成形体とをそれらが接触しないように入れ、加熱する。
耐圧容器としては、例えば水熱合成用容器を使用できる。耐圧容器は、耐熱性に優れる点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製が好ましい。
水と成形体とが接触しないようにするには、例えば、耐圧容器内に、上面が水面から突出するように台座を配置し、台座の上面に成形体を載置する。台座は、耐熱性に優れる点から、PTFE製が好ましい。
加熱温度は、150℃以上、耐圧容器の耐熱温度以下が好ましい。耐圧容器の耐熱温度は、例えばPTFE製の場合は260℃程度である。
加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、12時間以上が好ましい。
【0092】
ステップS4-3後、必要に応じて、得られたSi-Ti系結晶性金属酸化物を水で洗浄し、乾燥してもよい。
【0093】
得られる無機吸着剤は、Si-Ti系結晶性金属酸化物を含み、ステップS4-2で成形した成形体と同様の形状を有する。
Si-Ti系結晶性金属酸化物におけるケイ素/チタンの原子比は、ステップS4-1で得られる混合物におけるケイ素/チタンの原子比と同様である。
【0094】
ケイ素の二酸化ケイ素換算(SiO)での含有量は、ガラス固化しやすい点で、Si-Ti系結晶性金属酸化物100質量%に対し、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
また、ケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量は、Si-Ti系結晶性金属酸化物100質量%に対し、80質量%以下が好まししい。
【0095】
Si-Ti系結晶性金属酸化物において、ケイ素の一部がホウ素に置換されていてもよい。
ケイ素の一部がホウ素に置換されたSi-Ti系結晶性金属酸化物を得るには、例えば、第1の結晶性物質又は第2の結晶性物質又は他の原料に、ホウ素を含むものを用いればよい。
ホウ素の酸化ホウ素(B)換算での含有量は、ガラス固化しやすさの点から、Si-Ti系結晶性金属酸化物100質量%に対し、50質量%以下が好ましい。
(ケイ素+ホウ素)/チタンの原子比の好ましい範囲は、ケイ素/チタンの好ましい範囲と同様である。
【0096】
Si-Ti系結晶性金属酸化物は、ガラス固化しやすさの点から、アルカリ金属を含むことが好ましい。アルカリ金属としてはナトリウムが好ましい。
アルカリ金属を含むSi-Ti系結晶性金属酸化物を得るには、例えば、第1の結晶性物質又は第2の結晶性物質又は他の原料に、アルカリ金属を含むものを用いればよい。
【0097】
Si-Ti系結晶性金属酸化物がアルカリ金属を含む場合、アルカリ金属の酸化物換算での含有量は、ガラス固化しやすさの点から、Si系結晶性金属酸化物100質量%に対し、5~30質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
アルカリ金属/チタンの原子比は、1以上が好ましい。アルカリ金属/チタンの原子比が1以上であれば、吸着容量がより優れる。
【0098】
Si-Ti系結晶性金属酸化物の例としては、Natisite[NaTiSiO](正方晶)、ETS-4[NaTiSi1238(OH)・12HO](斜方晶)、AM-1(JDF-L1)[NaTiSi22・4HO](正方晶)等が挙げられる。
【0099】
Si-Ti系結晶性金属酸化物は、(i)結晶子サイズが500nm以下であること、及び(ii)イオン交換を行う結晶面の他の結晶面に対するアスペクト比が1以上であること、のいずれか一方又は両方を満たすことが好ましい。
(i)の結晶子サイズは、200nm以下が好ましい。結晶子サイズの下限は、例えば10nmである。
(ii)のアスペクト比(ac面,bc面に対するab面の比率)は、1.5以上が好ましい。
【0100】
〔付記〕
各実施形態に記載のMAの分離方法及び無機吸着剤の製造方法は、例えば以下のように把握される。
(1)上記第一実施形態~第三実施形態に係るMAの分離方法は、MA及びLnを含む放射性溶液のうちLnを、イオン半径の違いによって吸着可能な吸着剤に吸着させるステップ(S1-5、S2-6、S3-3)と、Lnを吸着剤に吸着させるステップによってLnを吸着した吸着剤と放射性溶液とを分離し、MAを含む溶液を回収するステップ(S1-6、S2-7、S3-4)と、を有する。
【0101】
この分離方法では、放射性溶液のLnを吸着剤により吸着させ、この吸着剤を分離してMA含有溶液を回収するので、放射性溶液からMAを分離する際に発生する廃液量を低減でき、廃液濃縮の負荷、濃縮を行うための設備規模を低減できる。
【0102】
(2)上記第二実施形態に係るMAの分離方法は、Lnを吸着剤に吸着させるステップ(S2-6)の前に、放射性溶液に、MAに選択的に配位する配位子を加え、MAの見かけのイオン半径をLnのイオン半径よりも大きくするステップ(S2-5)を有する。
これにより、MAよりもイオン半径が大きいLnも吸着剤で吸着でき、MAをより選択的に分離できる。
【0103】
(3)上記第一実施形態~第三実施形態に係るMAの分離方法は、吸着剤が、ガラス固化可能である無機吸着剤であり、ケイ素を含む結晶性金属酸化物を含み、ケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量が、結晶性金属酸化物100質量%に対し、10質量%以上である。
吸着剤が、ガラス固化可能であることにより、Lnを吸着した吸着剤をガラス固化することができる。Lnを吸着した吸着剤を、Lnを溶離させることなくガラス固化することで、低濃度のLn含有溶液が発生せず、廃液濃縮の負荷をより低減できる。
また、一般に、ガラス固化処理を行うためには、固化処理対象中のケイ素濃度をガラス固化が可能なケイ酸濃度にする必要があり、Lnを吸着した吸着剤中のケイ素濃度が低い場合には、Lnを吸着した吸着剤にガラスの元となるホウケイ酸ガラス等を添加する作業、いわゆる組成調整が必要になる。Lnを吸着した吸着剤中のケイ酸濃度が低すぎると、ホウケイ酸ガラス等の添加量が増加し、その分、ガラス固化体への吸着剤の含有許容量が小さくなる。結晶性金属酸化物におけるケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量が10質量%以上であれば、ホウケイ酸ガラス等の添加量が少なくても又はホウケイ酸ガラス等を添加しなくても、固化処理対象中のケイ素濃度をある一定濃度以上にできる。そのため、ガラス固化体への吸着剤の含有許容量が向上し、Lnを吸着した吸着剤をガラス固化しやすく、かつ、ガラス固化処理における組成調整のために添加するホウケイ酸ガラス等の量を削減する若しくは不要とすることが可能となる。
【0104】
(4)上記第一実施形態~第三実施形態に係るMAの分離方法は、MAを含む溶液を回収するステップ(S1-6、S2-7、S3-4)によって放射性溶液と分離した、Lnを吸着した吸着剤をガラス固化するステップを更に有する。
これにより、低濃度のLn含有溶液が発生せず、廃液濃縮の負荷をより低減できる。
【0105】
(5)上記第一実施形態~第三実施形態に係るMAの分離方法は、結晶性金属酸化物がアルカリ金属を含む。
これにより、Lnを吸着した吸着剤をガラス固化しやすい。
【0106】
(6)上記第一実施形態~第三実施形態に係るMAの分離方法は、結晶性金属酸化物がチタンを含む。
これにより、後述する無機吸着剤の製造方法によって容易にペレット状のものを製造することができる。
【0107】
(7)上記第一実施形態~第三実施形態に係るMAの分離方法は、結晶性金属酸化物におけるケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量が、結晶性金属酸化物100質量%に対し、10質量%以上80質量%以下である。
一般的にガラス固化体はホウケイ酸ガラスを主成分とする。ケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量を上記範囲内とすることにより、結晶性金属酸化物の組成をよりガラス固化体組成に近づけることができ、Lnを吸着した吸着剤をよりガラス固化しやすく、かつ、ガラス固化処理における組成調整のために添加するホウケイ酸ガラス等の添加量を削減する若しくは不要とすることが可能となる。
【0108】
(8)上記第一実施形態~第三実施形態に係るMAの分離方法は、結晶性金属酸化物が、結晶子サイズが500nm以下であること、及びイオン交換を行う結晶面の他の結晶面に対するアスペクト比が1以上であること、のいずれか一方又は両方を満たす。
これにより、吸着剤の吸着容量が高く、装置規模の低減が可能となる。
【0109】
(9)上記第四実施形態に係る無機吸着剤の製造方法は、少なくとも、ケイ素を含む第1の結晶性物質と、チタンを含む第2の結晶性物質とを含む2種以上の原料を、ケイ素/チタンの原子比が0.5~50となるように乾式で混合するステップ(S4-1)と、前記2種以上の原料が混合された混合物を成形するステップ(S4-2)と、成形された前記混合物をドライゲルコンバージョン法により処理して、ケイ素及びチタンを含む結晶性金属酸化物を含む無機吸着剤を得るステップ(S4-3)と、を有する。
【0110】
この製造方法では、ケイ素を含む第1の結晶性物質と、チタンを含む第2の結晶性物質とを含む2種以上の原料を乾式で混合し、混合物を成形し、ドライゲルコンバージョン法により処理するので、ケイ素及びチタンを含む結晶性金属酸化物を含む無機吸着剤を短時間で製造できる。第1の結晶性物質と第2の結晶性物質とを、製造目的である無機吸着剤の組成に近い混合物が得られるように乾式で混合して用いることで、無機吸着剤の製造手順の簡素化、結晶化時間の短時間化が可能である。
また、得られる無機吸着剤は、成形された混合物と同様の形状を有するので、例えば混合物をペレット状に成形すると、得られる無機吸着剤をそのままカラムに充填して吸着プロセスに適用できる。また、ドライゲルコンバージョン法で得られるSi-Ti系結晶性金属酸化物は、結晶子サイズが小さい傾向がある。したがって、この製造方法により得られる無機吸着剤は、前記したMAの分離方法におけるLn吸着剤として有用である。
【0111】
一般的な水熱合成法では、合成される無機吸着剤は粉体となるため、吸着プロセスへの適用の際にカラムに充填して使用することが困難である。
特開2017-48107号公報には、ドライゲルコンバージョン法を利用して無機吸着剤を製造する方法が開示されている。しかし、この方法では、調製溶液の蒸発乾固処理等が必要であり、無機吸着剤の作製に時間を要する。
【0112】
(10)上記第四実施形態に係る無機吸着剤の製造方法は、結晶性金属酸化物におけるケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量が、結晶性金属酸化物100質量%に対し、10質量%以上80質量%以下である。
一般的にガラス固化体はホウケイ酸ガラスを主成分とする。ケイ素の二酸化ケイ素換算での含有量を上記範囲内とすることにより、結晶性金属酸化物の組成をよりガラス固化体組成に近づけることができ、Lnを吸着した吸着剤をよりガラス固化しやすく、かつ、ガラス固化処理における組成調整のために添加するホウケイ酸ガラス等の添加量を削減する若しくは不要とすることが可能となる。
【実施例
【0113】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0114】
(実施例1)
結晶性チタン酸ナトリウム([NaTi14])と結晶性ケイ酸ナトリウム([δ-NaSi])をケイ素/チタンの原子比が1となるように秤量し、混合した。得られた混合物を成型器に入れ、圧力400kgf/cm、で加圧成形し、直径20mm、厚さ5mmの円形状の成形体を得た。
水熱合成用PTFE容器内に水を入れた。また、成形体と水が接触しないようにPTFE製の台座を入れ、台座の上に成形体をセットした。次いで、200℃で20時間加熱した。その後、容器内の成形体を取出し、水で洗浄し、80℃で5時間乾燥して無機吸着剤を得た。
【0115】
実施例1で製造された無機吸着剤と水熱合成法で製造されたNatisiteをXRDにより分析し比較した。各々のXRDスペクトルチャートを図5に示す(上段:実施例1で製造された無機吸着剤、下段:水熱合成法で製造されたNatisite)。
図5に示す通り、実施例1で得られた無機吸着剤と従来法で製造されたNatisiteとは、XRDスペクトルチャートのピークが同様であることが観察された。このことから、無機吸着剤がNatisite[NaTiSiO]を含むことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5