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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】微粒子付着防止剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20240129BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20240129BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240129BHJP
   A61K 36/65 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q17/00
A61P37/08
A61K36/65
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019111988
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020203845
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391045554
【氏名又は名称】株式会社クラブコスメチックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重山 佳太
(72)【発明者】
【氏名】坂口 育代
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150270(JP,A)
【文献】特開平10-194916(JP,A)
【文献】特開2017-066031(JP,A)
【文献】特開2006-002147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61K36/00-36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芍薬抽出物を有効成分として含む微粒子付着防止剤であって、
芍薬抽出物は、芍薬から水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物を用いて抽出されたものであり、
芍薬抽出物を1~10質量%の濃度で含有するように使用するためのものである、微粒子付着防止剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PM2.5や花粉などの微粒子の付着を防止する、新規な微粒子付着防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粒子径が2.5μm以下の粒子(微小粒子状物質(PM2.5))の飛来や日本人の花粉症患者が増加している(たとえば、非特許文献1、2を参照)。
【0003】
また、肌においては、大気中に浮遊するPM2.5や花粉が、肌のバリア機能低下やアトピー性皮膚炎を誘発するなどの報告がある(たとえば、非特許文献3~5を参照)。
【0004】
これらを予防するため、衣服などに付着したPM2.5や花粉を払う、掃除機などで吸引するなどの対処方法が行われている。
【0005】
また、特許文献1では、衣服の織り方を工夫して、衣服への花粉の吸着を防止しようとする技術も提案されているが、この場合、上述した特定の織り方をした織物を使用しなければならず、使用上での制限がある。
【0006】
特許文献2では、特定の両性イオン基を有するモノマーユニット、および/または、特定のアニオン基を有するモノマーユニットを構成単位として含むポリマーが、花粉が毛髪や衣服等に吸着することを防止する作用・効果を有することが開示されている。しかしながら、両性イオン基およびアニオン基を有するポリマーは皮膚に対する刺激が懸念され、より安全な微粒子吸着防止剤が求められている。
【0007】
また、人体は衣服などとの摩擦によりマイナスに帯電している。一方で、大気粉塵はプラスに帯電していることが知られており、マイナスに帯電している肌に大気粉塵が引き寄せられることで、付着すると考えられている。
【0008】
そのため、特許文献3は、PM2.5の付着を抑制できるPM2.5付着防止用水性組成物、スプレー式PM2.5付着防止処理剤、およびPM2.5付着防止処理方法として、特定のカチオン化合物が有用であることが開示されている。しかしながら、カチオン化合物は皮膚に対する刺激が懸念され、より安全な微粒子付着防止剤が求められている。
【0009】
また、金属である銀はプラスに帯電しているため、付着防止効果が期待される。しかしながら、銀は粒子径のサイズによって皮膚などに対する安全性が懸念され、より安全な微粒子吸着防止剤が求められている。このため、天然の素材を用いることで微粒子の付着を防止しようとする試みがなされている(たとえば特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2003-213541号公報
【文献】特開2006-2147号公報
【文献】特開2015-117451号公報
【文献】特開2017-066031号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Ning Tang et al.,「Polycyclic aromatic hydrocarbons and nitropolycyclic aromatic hydrocarbons in urban air particulates and their relationship to emission sources in the Pan-Japan Sea countries」,Atmospheric Environment,Volume 39,Issue 32,(2005),p.5817-5826
【文献】「花粉症患者実態調査報告書(平成28年度)」、平成29年12月発行、東京都福祉保健局
【文献】Junichi Kumamoto et al.,「Japanese Cedar(Cryptomeria japonica)pollen allergen induces elevation of intracellular calcium in human keratinocytes and impairs epidermal barrier function of human skin ex vivo」,Archives of Dermatological Research,(2016),308:49-54
【文献】Jean Krutmann et al.,「The skin aging exposome」,Journal of Dermatological Science,85,2017,152-161
【文献】Takanori Hidaka et al.,「The aryl hydrocarbon receptor AhR links atopic dermatitis and air pollution via induction of the neurotorophic factor artemin」,Nature Immunology,Volume 18,Number 1,2017,64-73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、皮膚への刺激性が低い、新規な微粒子付着防止剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の微粒子付着防止剤は、芍薬の抽出物、当帰の抽出物、カキの葉の抽出物およびペオニフロリンからなる群から選ばれる少なくともいずれかを有効成分として含む。
【0014】
本発明の微粒子付着防止剤は、芍薬の抽出物を、0.05~50%(w/w)の濃度で含有することが好ましい。
【0015】
本発明の微粒子付着防止剤は、当帰の抽出物を、0.05~50%(w/w)の濃度で含有することが好ましい。
【0016】
本発明の微粒子付着防止剤は、カキの葉の抽出物を、0.05~50%(w/w)の濃度で含有することが好ましい。
【0017】
本発明の微粒子付着防止剤が芍薬の抽出物、当帰の抽出物またはカキの葉の抽出物を有効成分とする場合、抽出溶媒は水とアルコールとの混合物であることが好ましく、水と1,3-ブチレングリコールとの混合物であることがより好ましい。
【0018】
本発明の微粒子付着防止剤は、ペオニフロリンを、0.000001~0.1%(w/w)の濃度で含有していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、皮膚への刺激性が低い、新規な微粒子付着防止剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の微粒子付着防止剤は、ボタン科の芍薬(Paeonia lactiflora)の抽出物(芍薬抽出物)、セリ科の当帰(Angelica acutiloba)の抽出物(当帰抽出物)、または、カキノキ科の柿(Diospyros kaki)の葉の抽出物(カキ葉抽出物)およびペオニフロリンからなる群から選ばれる少なくともいずれかを有効成分として含む。なお、本発明において「微粒子」は、粒子径40μm以下の粒子を指し、PM2.5、花粉、黄砂、ディーゼル粒子などを包含する。
【0021】
<芍薬抽出物、当帰抽出物、カキ葉抽出物>
本発明の微粒子付着防止剤において、芍薬抽出物、当帰抽出物、カキ葉抽出物は、一般的な抽出方法により得ることができ、たとえばそれぞれを抽出溶媒と共に浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得ることができる。
【0022】
抽出溶媒としては、一般的に抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、極性溶剤、非極性溶剤のいずれもを使用することができる。たとえば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの鎖状および環状エーテル類、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類、スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテルなどの炭化水素類および超臨界二酸化炭素、ピリジン類、油脂、ワックスなどその他オイル類などの有機溶剤、ならびにこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、水、アルコール類、アルコールと水との混合物、炭化水素類が挙げられ、アルコールと水との混合物、炭化水素類がより好ましい。アルコールとして好ましくは1,3-ブチレングリコールである。また、水と1,3-ブチレングルコールとの混合物がより好ましく、水と1,3-ブチレングリコールの1:1混合物が特に好ましい。
【0023】
本発明の微粒子付着防止剤において、芍薬抽出物、当帰抽出物およびカキ葉抽出物の濃度は特に制限されないが、より顕著に付着防止効果を奏することから、水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物を用いて抽出された場合、芍薬抽出物の濃度は0.001~50%(w/w)の範囲内であることが好ましく、0.01~20%(w/w)の範囲内であることがより好ましい。また、水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物を用いて抽出された場合、当帰抽出物の濃度は0.001~50%(w/w)の範囲内であることが好ましく、0.01~20%(w/w)の範囲内であることがより好ましい。さらに、水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物を用いて抽出された場合、カキ葉抽出物の濃度は0.001~50%(w/w)の範囲内であることが好ましく、1~20%(w/w)の範囲内であることがより好ましい。
【0024】
ここで、芍薬抽出物には、成分の1つとしてペオニフロリンが含まれていることが知られている。後述する実験例において示されるように、芍薬抽出物、当帰抽出物、カキ葉抽出物に代えて、ペオニフロリンを有効成分として含む場合にも、微粒子の付着防止効果を発揮する。本発明は、ペオニフロリンを有効成分として含む微粒子付着防止剤についても提供する。
【0025】
ペオニフロリンを有効成分として含む場合、その濃度は、0.000001~0.1%(w/w)の範囲内であることが好ましく、0.00001~0.01%(w/w)の範囲内であることがより好ましい。
【0026】
本発明の微粒子付着防止剤は、芍薬抽出物、当帰抽出物、カキ葉抽出物、ペオニフロリンをそのまま用いることもできるが、通常、各種の担体などとともに組成物として用いられる。本発明の微粒子付着防止剤において、その剤形も特に制限されるものではなく、たとえば化粧水、ミスト、乳液、クリーム、ファンデーション、サンスクリーンなどが挙げられる。その配合量は、通常、製剤中0.001%(w/w)以上、好ましくは0.01~20%(w/w)である。また、本発明の微粒子付着防止剤において、他の効果をもつ原料、たとえば本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、高級アルコール、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、防腐剤、界面活性剤、消臭剤、固着剤等、カチオン系、ノニオン系または両性のポリマーやシリコン系ポリマーなどと併用することが可能である。
【0027】
以下に実験例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<実験例>
(付着防止効果の評価法)
試験は、人工皮革(小松マテーレ株式会社製)またはリント布(株式会社浪速製作所製)をプラスチック容器の蓋の内側に取り付けたものに、サンプルを塗布して乾燥させ、プラスチック容器には都市大気粉塵(国立環境研究所製、NIES No.28;以下、「大気粉塵」)を一定量入れて実施した。
【0029】
プラスチック容器の蓋にマイナスの電荷を帯電させるために、綿のタオルを用いてプラスチック容器の蓋の外側を擦り、マイナス電荷を帯電させた後、プラスチック容器の本体に取り付けた。その後、プレートシェーカー(タイテック株式会社製)を用いて都市大気粉塵を散布した。その後、都市大気粉塵の付着率を算出し、下記評価基準に沿って評価した。
【0030】
(付着防止効果評価基準)
1:付着率が20%未満、
2:付着率が20%以上50%未満、
3:付着率が50%以上80%未満、
4:付着率が80%以上。
【0031】
また、皮膚刺激性については、10名のパネラーの官能評価を以下の基準で行った。
1:7名以上が刺激性を感じなかった、
2:5名以上7名未満が刺激性を感じなかった、
3:5名未満が刺激を感じなかった。
【0032】
以下の実施例、比較例を調製した。
<実施例1>
・芍薬抽出物:10質量%
(抽出溶媒は水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物)
・精製水:90質量%
<実施例2>
・芍薬抽出物:5質量%
(抽出溶媒は水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物)
・精製水:95質量%
<実施例3>
・芍薬抽出物:1質量%
(抽出溶媒は水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物)
・精製水:99質量%
<実施例4>
・当帰抽出物:10質量%
(抽出溶媒は水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物)
・精製水:90質量%
<実施例5>
・当帰抽出物:5質量%
(抽出溶媒は水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物)
・精製水:95質量%
<実施例6>
・当帰抽出物:1質量%
(抽出溶媒は水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物)
・精製水:99質量%
<実施例7>
・カキ葉抽出物:10質量%
(抽出溶媒は水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物)
・精製水:90質量%
<実施例8>
・カキ葉抽出物:5質量%
(抽出溶媒は水と1,3-ブチレングリコールとの1:1混合物)
・精製水:95質量%
<実施例9>
・ペオニフロリン:0.01質量%
・精製水:99.99質量%
<実施例10>
・ペオニフロリン:0.001質量%
・精製水:99.999質量%
<比較例1>
・精製水:100質量%
<比較例2>
・N-ヤシ油脂肪酸アシルL-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩:0.1質量%
・精製水:99.9質量%
<比較例3>
・N-ヤシ油脂肪酸アシルL-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩:1質量%
・精製水:99質量%
<比較例4>
・ラウリル硫酸ナトリウム:10質量%
・精製水:90質量%
<比較例5>
・1,3-ブチレングリコール:50質量%
・精製水:50質量%
実施例1~6についての結果を表1、実施例7~10についての結果を表2、比較例1~5についての結果を表3にそれぞれ示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
表1、2に示すように、実施例1~10は優れた微粒子の付着防止効果を示すと共に、皮膚刺激性がいずれも低いという結果が得られた。