(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】ゲル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 71/02 20060101AFI20240129BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240129BHJP
C08F 20/00 20060101ALI20240129BHJP
C08G 65/48 20060101ALI20240129BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240129BHJP
C08K 5/101 20060101ALI20240129BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C08L71/02
C08F2/44 C
C08F20/00
C08G65/48
C08K5/09
C08K5/101
C08L33/00
(21)【出願番号】P 2019128885
(22)【出願日】2019-07-11
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大矢 裕一
(72)【発明者】
【氏名】土肥 遼太
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 文佳
(72)【発明者】
【氏名】能▲崎▼ 優太
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/083522(WO,A1)
【文献】特開2013-237737(JP,A)
【文献】特開2012-001596(JP,A)
【文献】特開2016-199647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08F,C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒、該溶媒に可溶な三次元網目状ポリマー、及びモノマーを含む重合性組成物であって、
前記三次元網目状ポリマーが、下記式(2a)で表される化合物及び下記式(2b)で表される化合物を反応成分とする反応生成物であることを特徴とする重合性組成物。
【化1】
(式中、各角括弧内のL
1及びL
2は、互いに反応して結合を形成する基であり、各丸括弧内のR
1及びR
2は、独立して、水素原子、又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基であり、各角括弧内のn1及びn2は、独立して、25~250の整数である。)
【請求項2】
前記三次元網目状ポリマーの重量平均分子量が500万以下である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記三次元網目状ポリマーが水に可溶である、請求項1又は2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記モノマーが単官能エチレン性不飽和モノマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記溶媒が水である、請求項1~4のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項6】
架橋剤を含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項7】
第1のポリマー及び第2のポリマーを含むゲルであって、
第1のポリマーが、溶媒に可溶な三次元網目状ポリマーであり、前記三次元網目状ポリマーが、下記式(2a)で表される化合物及び下記式(2b)で表される化合物を反応成分とする反応生成物であり、
第2のポリマーが、単官能エチレン性不飽和モノマーを重合成分とするポリマーであり、第1のポリマーの網目に侵入した構造を有することを特徴とするゲル。
【化2】
(式中、各角括弧内のL
1及びL
2は、互いに反応して結合を形成する基であり、各丸括弧内のR
1及びR
2は、独立して、水素原子、又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基であり、各角括弧内のn1及びn2は、独立して、25~250の整数である。)
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の重合性組成物を重合して得られたゲル。
【請求項9】
ゲルを製造する方法であって、溶媒に可溶な三次元網目状ポリマーを用いることを特徴とする方法であり、前記三次元網目状ポリマーが、下記式(2a)で表される化合物及び下記式(2b)で表される化合物を反応成分とする反応生成物であることを特徴とする方法。
【化3】
(式中、各角括弧内のL
1及びL
2は、互いに反応して結合を形成する基であり、各丸括弧内のR
1及びR
2は、独立して、水素原子、又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基であり、各角括弧内のn1及びn2は、独立して、25~250の整数である。)
【請求項10】
前記三次元網目状ポリマーの存在下で単官能エチレン性不飽和モノマーを重合することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
下記式(2a)で表される化合物及び下記式(2b)で表される化合物を反応成分とする反応生成物であ
り、前記反応生成物の末端が末端封鎖剤で封鎖されていることを特徴とする、溶媒に可溶な三次元網目状ポリマー。
【化4】
(式中、各角括弧内のL
1及びL
2は、互いに反応して結合を形成する基であり、各丸括弧内のR
1及びR
2は、独立して、水素原子、又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基であり、各角括弧内のn1及びn2は、独立して、25~250の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル、その製造方法及びその製造に使用する重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルは柔軟な物性を示し、様々な材料に応用されている。ゲルは、特に、生体組織に対して優れた力学的適合性、優れた衝撃吸収性、金属材料に比べた低摩擦性などの性質を有することから、人工軟骨、組織再生用の足場材料などへの応用が期待されている。
【0003】
ゲルは、高分子鎖が架橋点で繋がった三次元網目構造を有する。従来の化学架橋ゲルでは、化学結合により形成される架橋点が、ゲルの網目内に不均一に分布して固定化されている。このような架橋の不均一性のため、化学架橋ゲルは、外部からの応力によって破断することが多い。これに対して、通常の化学架橋ゲルとは異なり、架橋点が自由に動くゲル、及び二つの異なる高分子ネットワークから形成され片方のネットワークが犠牲結合として働くゲルが知られている。
【0004】
架橋点が自由に動くゲルとしては、例えば、高分子鎖を環状分子によって幾何学的に架橋した環動ゲルがある。二つの異なる高分子ネットワークから形成され片方のネットワークが犠牲結合として働くゲルとしては、密に架橋された第1のネットワークゲルと疎に架橋された第2のネットワークゲルが相互に侵入した網目構造を有するダブルネットワークゲルが知られている。また、特開2008-163055号公報(特許文献1)には、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造に、第2のポリマーとして架橋網目構造を有するポリマーが侵入した構造を有するダブルネットワークゲルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
環動ゲルは、主にポリロタキサン構造、すなわち、8の字状の環状化合物であるα-シクロヘデキストリンの2量体に2本のポリエチレングリコール鎖が貫通した構造に限定され、ゲルを構成するモノマーとして、種々のモノマーを使用することができず、応用範囲が狭い。
【0007】
第1のネットワークにゲルを用いたダブルネットワークゲルは、2段階の重合が必要であるうえ、第1のネットワークが不溶性のゲルであるため、第2のネットワーク重合時に自由に成形することができない。これに対して、特許文献1に記載のダブルネットワークゲルは、第1のポリマーネットワークを含む微粒子を用いているため、1段階の重合及び自由成形が可能である。しかし、このゲルは、第1のポリマーネットワークを含む微粒子を特殊な方法で調製する必要があり、前記微粒子が不溶であるためにスラリー状の液中で第2のネットワーク重合を行う必要がある他、前記微粒子より微細な構造を持つゲルを作製することが困難である。
【0008】
したがって、本発明の目的の一つは、従来の環動ゲル及びダブルネットワークゲルの問題を克服したゲルを製造するのに有用な新規三次元網目状ポリマー及び該ポリマーを含む重合性組成物を提供することにある。
【0009】
また、本発明の更なる目的は、応用性、成形性、実用性などに優れたゲル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、溶媒に可溶な三次元網目状ポリマーの合成に成功し、該三次元網目状ポリマーの存在下で各種モノマーを重合することにより様々なゲルを容易に調製できること、該ゲルが、従来の環動ゲル及びダブルネットワークゲルよりも、作製の容易さ、応用性、成形性、実用性などに優れていることを見出した。これらの知見に基づいて更に検討を重ね、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、以下の態様を包含する。
項1.
溶媒、該溶媒に可溶な三次元網目状ポリマー、及びモノマーを含む重合性組成物。
項2.
前記ポリマーの重量平均分子量が500万以下である、項1に記載の重合性組成物。
項3.
前記ポリマーが水に可溶である、項1又は2に記載の重合性組成物。
項4.
前記ポリマーが、下記式(1a):
【化1】
(式中、各丸括弧内のRは、独立して、水素原子、又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基であり、各角括弧内のnは、独立して、25~250の整数である。)
で表される単位を有する、項1~3のいずれか一項に記載の重合性組成物。
項5.
前記モノマーが単官能エチレン性不飽和モノマーである、項1~4のいずれか一項に記載の重合性組成物。
項6.
前記溶媒が水である、項1~5のいずれか一項に記載の重合性組成物。
項7.
架橋剤を含まない、項1~6のいずれか一項に記載の重合性組成物。
項8.
第1のポリマー及び第2のポリマーを含むゲルであって、第1のポリマーが、溶媒に可溶な三次元網目状ポリマーであり、第2のポリマーが、第1のポリマーの網目に侵入した構造を有するゲル。
項9.
項1~7のいずれか一項に記載の重合性組成物を重合して得られたゲル。
項10.
ゲルを製造する方法であって、溶媒に可溶な三次元網目状ポリマーを用いることを特徴とする方法。
項11.
前記固形ポリマーの存在下でモノマーを重合することを特徴とする、項10に記載の方法。
項12.
溶媒に可溶な三次元網目状ポリマー。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、溶媒に可溶な三次元網目状ポリマーが提供される。該三次元網目状ポリマーの存在下で各種モノマーを重合することにより様々なゲルを容易に調製できる。該ゲルは、応用性、成形性、実用性(例えば、膨潤性、破断強度、破断歪み)などに優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例の三次元網目状ポリマーのGPCチャートである。
【
図2】
図2は、各種物質の
1H-NMRチャートである。
【
図3】
図3は、実施例の三次元網目状ポリマーの浸漬時間と膨潤率との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例の三次元網目状ポリマーの引張り試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<三次元網目状ポリマー>
本明細書において、溶媒に可溶な三次元網目状ポリマーは、単に「三次元網目状ポリマー」と称したり、「分子ネット」と称する場合がある。溶媒に可溶とは、例えば、室温で、三次元網目状ポリマーの濃度が1重量%(wt%)となるように溶媒を加えて撹拌した場合に三次元網目状ポリマーが溶解することをいう。三次元網目状ポリマーの形状は、室温で、固形(例えば、粉末状、蝋状)であってもよく、無定形又は液状であってもよい。三次元網目状ポリマーは、ゲルの製造に好適に使用することができる。
【0015】
三次元網目状ポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、500万以下が好ましく、400万以下がより好ましく、350万以下がさらに好ましい。また、三次元網目状ポリマーの重量平均分子量は、5万以上が好ましく、10万以上がより好ましく、20万以上がさらに好ましく、30万以上が特に好ましい。
【0016】
三次元網目状ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、特に制限されないが、8.0以下が好ましく、7.0以下がより好ましく、6.0以下がさらに好ましい。なお、三次元網目状ポリマーの分子量分布は、通常、3.0以上である。
【0017】
三次元網目状ポリマーの重量平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。GPCの条件は、三次元網目状ポリマーの種類により適宜選択されるが、例えば、溶離液としてジメチルホルムアミド(DMF)を用い、基準物質としてポリエチレングリコール(PEG)を用いることが好ましい。
【0018】
溶媒としては、三次元網目状ポリマーを溶解するものである限り特に制限はなく、例えば、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、アミド、スルホキシド、環状エーテル、アルキルケトンなどが挙げられる。
【0019】
ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムなどが挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどが挙げられる。アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。スルホキシドとしては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどが挙げられる。アルキルケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0020】
三次元網目状ポリマーは、水に可溶(即ち、親水性ポリマー)であることが好ましく、水にも有機溶媒にも可溶であることがより好ましい。
【0021】
三次元網目状ポリマーの構造は、特に制限はなく、例えば、3個以上の分岐鎖を有する単位を含む分岐ポリマー(又は星形ポリマー)である。当該単位は、3~8個の分岐鎖を有することが好ましく、3~6個の分岐鎖を有することがより好ましく、3又は4個の分岐鎖を有することがさらに好ましい。少なくとも1個の分岐鎖は、ポリアルキレングリコール骨格を含むことが好ましく、ポリC2-4アルキレングリコール骨格を含むことがより好ましく、ポリエチレングリコール骨格又はポリプロピレングリコール骨格を有することがさらに好ましく、ポリエチレングリコール骨格を有することが特に好ましい。各分岐鎖の分子量は、網目のサイズに応じて適宜選択することができ、例えば500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上、さらに好ましくは2000以上である。また、各分岐鎖の分子量は、例えば20000以下、好ましくは15000以下、より好ましくは10000以下、さらに好ましくは5000以下である。
【0022】
三次元網目状ポリマーを構成する単位としては、例えば、3以上のヒドロキシル基を有する化合物を開始剤として、エポキシ、ラクトン、ラクチド、グリコリド等を開環重合したもの、3以上のアミノ基を有する化合物を開始剤として、アミノ酸-N-カルボン酸無水物を脱炭酸開環重合したもの、3以上のアルキルハライド基を有する化合物を開始剤として、後述のエチレン性不飽和モノマーを原子移動ラジカル重合(ATRP)したもの、又はその末端ハロ基を改変(例えば、より反応性の高い置換基に変換)したものが挙げられる。これらのうち、3以上のヒドロキシル基を有する化合物を開始剤として、エポキシを開環重合したものが好ましい。3以上のヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが挙げられる。
【0023】
好適な実施態様において、三次元網目状ポリマーは、下記式(1a)又は(1b):
【化2】
(式中、各丸括弧内のRは、独立して、水素原子、又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基であり、Aは、メチル基又はエチル基であり、各角括弧内のnは、独立して、25~250の整数である。)
のいずれかで表される単位を有する。
【0024】
各丸括弧内のRは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、均一な網目構造を形成する点から、同一であることが好ましい。
【0025】
本明細書において、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、i-プロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基)などのC1-6アルキル基が挙げられる。
【0026】
Rで表されるアルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基が挙げられる。
【0027】
本明細書において、アリール基とは、5又は6員の芳香族炭化水素環からなる単環又は多環系の基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。
【0028】
本明細書において、アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基(n-プロポキシ基、i-プロポキシ基)、ブトキシ基(n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基)などのC1-6アルコキシ基が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基などのC6-12アリールオキシ基が挙げられる。
【0029】
Rで表されるアルキル基の置換基の数は、例えば、1個~置換可能な最大数の範囲から適宜選択することができ、例えば、1個、2個、3個、又は4個であってもよい。
【0030】
Rとしては、水素原子又はC1-4アルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基がより好ましく、水素原子又はメチル基がさらに好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0031】
各角括弧内のnは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、均一な網目構造を形成する点から、同一であることが好ましい。
【0032】
nは、25~180の整数が好ましく、30~150の整数がより好ましく、40~130の整数がさらに好ましく、40~115の整数がさらにより好ましく、40~60の整数が特に好ましい。
【0033】
式(1a)で表される単位は、ペンタエリスリトールと、下記式:
【化3】
(式中、Rは、前記と同じである。)
で表される化合物との反応により形成することができる。
【0034】
式(1b)で表される単位は、それぞれ、トリメチロールエタン又はトリメチロールプロパンと、下記式:
【化4】
(式中、Rは、前記と同じである。)
で表される化合物との反応により形成することができる。
【0035】
三次元網目状ポリマーは、式(1a)又は式(1b)で表される単位を複数有し、各単位がリンカーにより互いに連結された構造を有することが好ましい。リンカーとしては、例えば、後述のL1及びL2の反応によって形成される基が挙げられる。
【0036】
三次元網目状ポリマーは、式(1a)で表される単位を複数有することが好ましい。該三次元網目状ポリマーは、下記式(2a)及び(2b):
【化5】
(式中、各角括弧内のL
1及びL
2は、互いに反応して結合を形成する基であり、R
1及びR
2は、Rと同様に定義され、n1及びn2は、nと同様に定義される。)
で表される成分の反応生成物であることが好ましい。
【0037】
L
1及びL
2は、互いに反応して結合を形成する限り特に制限はないが、下記式(3a)及び(3b):
【化6】
[式中、
L
11及びL
21は、それぞれ、1個以上の置換基を有していてもよいアルキレン基、-NH-Q
1-、-C(=O)-Q
2-、-Q
3-O-Q
4-、-Q
5-NH-Q
6-、-Q
7-O-C(=O)-Q
8-、-Q
9-O-C(=O)-NH-Q
10-、-Q
11-C(=O)-Q
12-、-Q
13-C(=O)-NH-Q
14-、-Q
15-NH-C(=O)-NH-Q
16-、又は-Q
17-O-C(=O)-O-Q
18-(これらは、いずれの末端がL
12又はL
22に結合してもよい。)であり、
Q
1~Q
18は、それぞれ、1個以上の置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
L
12及びL
22は、互いに反応可能な官能基である。]
で表される基であることが好ましい。
【0038】
本明細書において、アルキレン基とは、-CαH2α-(αは1以上の整数である。)で表される基であり、その具体例としては、それぞれ、-CH2-、-(CH2)2-、-CH(CH3)-、-(CH2)3-、-(CH2)4-、-(CH(CH3))2-、-(CH2)2-CH(CH3)-、-(CH2)5-、-(CH2)3-CH(CH3)-、-(CH2)2-CH(C2H5)-、-(CH2)6-、-(CH2)7-、-(CH2)2-C(C2H5)2-、-(CH2)3-C(CH3)2-CH2-が挙げられる。
【0039】
アルキレン基の置換基としては、例えば、ハロ基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アミノ基が挙げられる。
【0040】
本明細書において、ハロ基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。
【0041】
本明細書において、アシル基としては、例えば、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基が挙げられる。アルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基などのC1-6アルキルカルボニル基が挙げられる。アリールカルボニル基としては、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基などのC6-12アリールカルボニル基が挙げられる。アシルオキシ基中のアシル基も、上記で例示した基を採用することができる。
【0042】
本明細書において、アミノ基には、第1級アミノ基、第2級アミノ基、及び第3級アミノ基が含まれる。第2級アミノ基としては、例えば、モノアルキルアミノ基が挙げられ、その具体例としては、モノメチルアミノ基、モノエチルアミノ基などのモノC1-6アルキルアミノ基が挙げられる。第3級アミノ基としては、例えば、ジアルキルアミノ基が挙げられ、その具体例としては、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などのジC1-6アルキルアミノ基が挙げられる。
【0043】
アルキレン基の置換基の数は、1個~置換可能な最大数の範囲から適宜選択することができ、例えば、1個、2個、3個、又は4個であってもよい。
【0044】
L12及びL22の反応としては、特に制限はなく、例えば、縮合反応、付加反応が挙げられる。また、前記反応は、例えば、クリック反応、カップリング反応、ディールス・アルダー反応、又はNative chemical ligation反応であってもよい。
【0045】
L12及びL22の組合せとしては、例えば、下記(a)~(l)が挙げられる。
(a)ハロ基、及びこれと反応可能な基
(b)ヒドロキシル基、及びこれと反応可能な基
(c)チオール基、及びこれと反応可能な基
(d)第1級又は第2級アミノ基、及びこれと反応可能な基
(e)カルボキシル基、スルホ基、酸無水物基、酸ハライド基、又は活性エステル基、及びこれと反応可能な基
(f)-N=C=O又は-N=C=S、及びこれと反応可能な基
(g)-N3、及びこれと反応可能な基
(h)-B(OH)2、及びこれと反応可能な基
(i)-CH=CH2、及びこれと反応可能な基
(j)ジエン基、及びこれと反応可能な基
(k)-C≡CH、及びこれと反応可能な基
(l)チオエステル基、及びこれと反応可能な基
【0046】
(a)において、ハロ基と反応可能な基としては、例えば、ヒドロキシル基、チオール基、第1級又は第2級アミノ基が挙げられる。
【0047】
(b)において、ヒドロキシル基と反応可能な基としては、例えば、ハロ基、カルボキシル基、スルホ基、酸無水物基、酸ハライド基、活性エステル基、-N=C=O、-N=C=Sが挙げられる。
【0048】
本明細書において、酸無水物基としては、例えば、カルボン酸無水物基(-C(=O)-O-C(=O)-を含有する基)、スルホン酸無水物基(-S(=O)2-O-S(=O)2-を含有する基)が挙げられる。
【0049】
本明細書において、酸ハライド基としては、例えば、酸クロリド基、酸ブロミド基が挙げられる。酸クロリド基としては、例えば、-C(=O)-Cl、-S(=O)2-Clが挙げられる。酸ブロミド基としては、例えば、-C(=O)-Br、-S(=O)2-Brが挙げられる。
【0050】
本明細書において、活性エステル基とは、-C(=O)-O-Z
1、又は、-S(=O)
2-O-Z
2(式中、Z
1及びZ
2は、それぞれ、置換基である。)で表される基である。Z
1及びZ
2としては、例えば、C
1-4アルキル基、フェニル基、4-クロロフェニル基、1,2,3,4,5-ペンタフルオロフェニル基、ニトロフェニル基、下記式:
【化7】
で表される基、下記式:
【化8】
(式中、Z
3及びZ
4は、それぞれ、水素原子又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基である。)
で表される基が挙げられる。
【0051】
(c)において、チオール基と反応可能な基としては、例えば、ハロ基、カルボキシル基、スルホ基、酸無水物基、酸ハライド基、活性エステル基、-N=C=O、-N=C=S、-CH=CH
2、下記式:
【化9】
で表される基、下記式:
【化10】
で表される基、下記式:
【化11】
で表される基が挙げられる。
【0052】
(d)において、第1級又は第2級アミノ基と反応可能な基としては、例えば、ハロ基、アルデヒド基、エポキシ基、カルボキシル基、スルホ基、酸無水物基、酸ハライド基、活性エステル基、-N=C=O、-N=C=S、-N
3、下記式:
【化12】
(式中、Z
5は、独立して、水素原子又はC
1-4アルキル基である。)
で表される基が挙げられる。
【0053】
(e)において、カルボキシル基、スルホ基、酸無水物基、酸ハライド基、又は活性エステル基と反応可能な基としては、例えば、ヒドロキシル基、チオール基、アミノ基、-N=C=O、-N=C=Sが挙げられる。
【0054】
(f)において、-N=C=O又は-N=C=Sと反応可能な基としては、例えば、ヒドロキシル基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、酸無水物基、酸ハライド基、活性エステル基が挙げられる。
【0055】
(g)において、-N3と反応可能な基としては、例えば、-C≡CH、アミノ基が挙げられる。
【0056】
(h)において、-B(OH)2と反応可能な基としては、例えば、-CH(OH)2が挙げられる。
【0057】
(i)において、-CH=CH2と反応可能な基としては、例えば、チオール基、ジエン基(-CH=CH-CH=CH-を含有する基)が挙げられる。
【0058】
(j)において、ジエン基と反応可能な基としては、例えば、-CH=CH-を含有する基が挙げられ、その具体例としては、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、マレイミド基が挙げられる。
【0059】
(k)において、-C≡CHと反応可能な基としては、例えば、-N3が挙げられる。
【0060】
(l)において、チオエステル基(例えば、-(C=O)-S-Z6;Z6は、水素原子又は又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基である)と反応可能な基としては、例えば、-C(NH2)-CH2-SHなどが挙げられる。
【0061】
好適な実施態様において、式(2a)及び(2b)で表される化合物は、下記式(2c)及び(2d):
【化13】
(式中、各角括弧内のn4及びn6は、それぞれ独立して1~6の整数であり、n3及びn5は、nと同様に定義される。)
で表される化合物である。
【0062】
<三次元網目状ポリマーの製造方法>
一実施態様において、三次元網目状ポリマーの製造方法は、
(A)3個以上の分岐鎖を有し、且つ、各分岐鎖の末端に基L1を有する化合物aを、2又は3個以上の分岐鎖を有し、且つ、各分岐鎖の末端に基L1と反応する基L2を有する化合物bと反応させる工程、及び
(B)前記反応の系に末端封鎖剤を添加する工程
を含む。
【0063】
工程(A)の反応に供する化合物a及びbとしては、例えば、式(2a)及び(2b)で表される化合物が挙げられる。化合物aの使用量は、基L1と基L2のモル比が約1:1になるような量が好ましい。化合物aの基L1の数と化合物bの基L2の数が同じ場合、化合物aの使用量は、化合物bの1モルに対して、例えば0.5~2モルであり、0.8~1.2モルであることが好ましい。
【0064】
工程(A)の反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、<三次元網目状ポリマー>で例示した溶媒を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0065】
工程(A)の反応条件は反応が進行する限り特に制限されない。反応温度は、例えば0~80℃であり、10~40℃であることが好ましい。反応時間は、例えば1~72時間であり、6~54時間であることが好ましい。
【0066】
工程(B)により、工程(A)の反応を停止することができる。末端封鎖剤としては、基L1又はL2と反応可能な基を1個有する化合物である限り特に制限されない。例えば、基L1又はL2がスクシンイミドエステル基の場合を例に説明すると、末端封鎖剤としては、例えば、第1級又は第2級アミンが挙げられ、その具体例としては、アルキルアミン、ジアルキルアミン、アルカノールアミンが挙げられる。アルキルアミンとしては、例えば、エチルアミン、プロピルアミンなどのC2-6アルキルアミンが挙げられる。ジアルキルアミンとしては、例えば、ジエチルアミン、ジプロピルアミンなどのジC2-6アルキルアミンが挙げられる。アルカノールアミンとしては、例えば、エタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、3-アミノ-1-プロパノールなどのC2-6アルカノールアミンが挙げられる。
【0067】
末端封鎖剤の使用量は、末端封鎖に必要な量であれば特に制限されず、基L1又はL2の1モルに対して、例えば100~300モルであり、150~250モルであることが好ましい。
【0068】
工程(A)で得られた生成物(又は中間生成物)と末端封鎖剤との反応温度は、例えば、工程(A)の反応温度と同様の条件を採用することができる。末端封鎖剤との反応時間は、反応が十分に進行する限り特に制限されず、例えば6~60時間であり、12~54時間であることが好ましい。
【0069】
三次元網目状ポリマーの製造方法は、さらに任意の工程を含むことができる。任意の工程としては、例えば、粗生成物を精製する工程が挙げられる。精製方法としては、例えば、濾過、透析、再沈殿が挙げられる。これらのうち、濾過が好ましく、濾過の中でも限外濾過が好ましい。
【0070】
<重合性組成物>
重合性組成物は、溶媒、該溶媒に可溶な三次元網目状ポリマー、及びモノマーを含んでいる。重合性組成物は、ゲルの製造に好適に使用することができる。
【0071】
三次元網目状ポリマーの含有濃度は、特に制限されないが、重合性組成物の総重量に対して、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、3重量%以上がさらに好ましく、5重量%以上が特に好ましい。また、三次元網目状ポリマーの含有濃度は、重合性組成物の総量に対して、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、35重量%以下がさらに好ましく、30重量%以下が特に好ましい。
【0072】
モノマーとしては、三次元網目状ポリマーの存在下で重合体を形成可能なものである限り特に制限はなく、多種多様のモノマーを使用することができる。例えば、モノマーとしては、開環重合モノマー、縮合重合モノマー、付加重合モノマーが挙げられる。開環重合モノマーとしては、例えば、ラクトン、ラクチド、グリコリドを使用することができる。縮合重合モノマーとしては、例えば、ポリオール、ポリカルボン酸、ポリアミンを使用することができる。付加重合モノマーとしては、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(以下、「エチレン性不飽和モノマー」と称する。)を使用することができる。これらのうち、エチレン性不飽和モノマーが好ましい。エチレン性不飽和モノマーにおいて、エチレン性不飽和二重結合の数は、特に制限されず、1個以上であればよいが、1個(すなわち、単官能エチレン性不飽和モノマー)であることが好ましい。
【0073】
単官能エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、オレフィンモノマー、ビニルエーテルモノマー、不飽和カルボン酸モノマー、(メタ)アクリロニトリルモノマー、ビニルエステルモノマー、脂環式ビニルモノマー、複素環式ビニルモノマー、スチレンモノマーなどが挙げられる。エチレン性不飽和モノマーは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
オレフィンモノマーとしては、例えば、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、ジクロロエチレンなどが挙げられる。
【0075】
ビニルエーテルモノマーとしては、例えば、エチルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0076】
不飽和カルボン酸モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、それらの塩、エステル、又はアミドが挙げられる。
【0077】
前記塩としては、例えば、アルカリ金属塩が挙げられ、その具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0078】
前記エステルについて、(メタ)アクリル酸のエステルを例に説明すると、例えば、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸C1-6アルキルが挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-6アルキルが挙げられる。
【0079】
前記アミドについて、(メタ)アクリル酸のアミドを例に説明すると、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0080】
ビニルエステルモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどが挙げられる。
【0081】
脂環式ビニルモノマーとしては、例えば、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、5-ビニル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0082】
複素環式ビニルモノマーとしては、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、2-メチル-1-ビニルイミダゾール、2-ビニルピリジン、N-ビニルフタルイミド、9-ビニルカルバゾールなどが挙げられる。
【0083】
スチレンモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0084】
モノマーは、溶媒の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、溶媒として水を使用する場合、親水モノマーであることが好ましく、不飽和カルボン酸モノマーであることがより好ましく、(メタ)アクリル酸モノマーがさらに好ましく、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルが特に好ましい。
【0085】
モノマーの含有濃度は、特に制限されないが、重合性組成物の総量に対して、1重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。また、モノマーの含有濃度は、重合性組成物の総量に対して、50重量%以下が好ましく、45重量%以下がより好ましく、40重量%以下がさらに好ましい。なお、モノマーの含有濃度は、三次元網目状ポリマーの非存在下では(モノマー単独では)ゲルが形成されない濃度であっても、三次元網目状ポリマーの存在下でモノマーを重合することにより、ゲルを形成することができる。
【0086】
溶媒としては、<三次元網目状ポリマー>で例示した溶媒を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0087】
重合性組成物は、さらに重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤としては、例えば、過酸化物開始剤、アゾ開始剤、光重合開始剤が挙げられる。
【0088】
過酸化物開始剤としては、例えば、ヒドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、アルキルパーエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシケタール、過硫酸塩などが挙げられる。
【0089】
ヒドロパーオキサイドとしては、例えば、t-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドなどが挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。ジアシルパーオキサイドとしては、例えば、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどが挙げられる。アルキルパーエステルとしては、例えば、過酢酸t-ブチルなどが挙げられる。過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0090】
過酸化物開始剤は、還元剤と組み合わせてレドックス開始剤として使用してもよい。還元剤としては、例えば、テトラメチルエチレンジアミンが挙げられる。
【0091】
アゾ開始剤としては、例えば、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)などのアゾニトリル、アゾアミド、アゾアミジンが挙げられる。
【0092】
光重合開始剤としては、例えば、2-オキソグルタル酸、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、アセトフェノン、アミノアセトフェノン、アントラキノン、チオキサントン、ケタール、ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0093】
光重合開始剤は、光増感剤と組み合わせてもよい。光増感剤としては、第3級アミンが挙げられ、その具体例としては、トリアルキルアミン、トリアルカノールアミン、ジアルキルアミノ安息香酸アルキルエステル、ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノンが挙げられる。
【0094】
重合開始剤の使用量は、重合開始に必要な量であれば特に制限されず、モノマー100重量部に対して、0.01~10重量部であることが好ましく、0.05~5重量部であることがより好ましく、0.1~1.0重量部であることがさらに好ましい。
【0095】
重合性組成物は、応力の不均一性を分散する点から、架橋剤を含まないことが好ましい。架橋剤としては、例えば、2個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物が挙げられ、その具体例としては、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メチレンビス(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0096】
<複合体>
一実施態様において、複合体は、第1のポリマー及び第2のポリマーを含む複合体であって、第1のポリマーが三次元網目状ポリマーであり、第2のポリマーが第1のポリマーの網目に侵入(又は絡み合った)構造を有する複合体である。該複合体は、第1のポリマーと第2のポリマーとが絡み合うことにより、膨潤性、破断強度、破断歪みなどにおいて優れた物性を有する。
【0097】
第2のポリマーは、特に制限されず、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンなどであってもよいが、<重合性組成物>で例示したモノマーを1種又は2種以上使用して重合したポリマー、すなわち、エチレン性不飽和ポリマーであることが好ましい。
【0098】
他の実施態様において、複合体は、複合体は、三次元網目状ポリマーの存在下で、好ましくは三次元網目状ポリマーを溶媒に溶解した溶液中で、モノマーを重合することにより得られた複合体である。換言すれば、複合体は、重合性組成物を重合することにより得られた複合体である。
【0099】
複合体の形状は、ゲルであることが好ましい。ゲルは、第1のポリマー(三次元網目状ポリマー)と第2のポリマー(モノマーの重合により得られるポリマー)とが絡み合った構造を有しており、絡み合った点は自由に可動できるため、膨潤性、破断強度、破断歪みなどにおいて優れた物性を有する。
【0100】
例えば、ゲルの、下記式:
膨潤率=(膨潤後のゲル重量-ゲルの乾燥重量)/ゲルの乾燥重量
で表される膨潤率は、例えば5%以上であり、好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。なお、ゲルの乾燥重量とは、ゲルを凍結乾燥して測定した重量である。また、膨潤後のゲル重量は、凍結乾燥後のゲルを超純水に浸漬し、24時間後に超純水を回収してゲル表面の水分を拭き取った後の重量である。
【0101】
ゲルの破断強度は、例えば、1.0MPa以上、好ましくは1.1MPa以上、さらに好ましくは1.2MPa以上である。また、ゲルの破断歪みは、例えば、700%以上、好ましくは750%以上、さらに好ましくは800%以上である。破断強度及び破断歪みは、後述の実施例の方法により測定することができる。
【0102】
ゲルは、様々な用途に使用することができ、例えば、人工軟骨、組織再生用の足場材料、創傷被覆材、人工鼻骨・豊胸材等の充填剤、人工硝子体などの生体材料、薬物徐放担体、衝撃吸収材、潤滑剤、吸水性樹脂、保湿剤、土壌改良剤などに使用することができる。
【0103】
<複合体又はゲルの製造方法>
一実施態様において、複合体又はゲルを製造する方法は、三次元網目状ポリマーを用いることを特徴とする方法である。好適な実施態様において、複合体又はゲルを製造する方法は、三次元網目状ポリマーの存在下、好ましくは三次元網目状ポリマーが溶媒に溶解した溶液中でモノマーを重合することを特徴とする方法である。換言すれば、複合体又はゲルを製造する方法は、重合性組成物を重合することを特徴とする方法である。モノマー(又は重合性組成物)の重合条件は、重合が進行する限り特に制限されない。重合は、例えば、室温(例えば、1~40℃)又は加熱下で行うことができる。重合時間としては、特に制限はないが、例えば0.5~24時間であり、1~12時間であることが好ましい。
【実施例】
【0104】
(1)三次元網目状ポリマー(分子ネット)の作製
工程(i):分子ネットの合成
下記式で表される4-arm PEG-NH
2 (分子量:10,000, SINOPEG, 中国)(50.0mg,5.00μmol)及び4-arm PEG-OSu (分子量:10,000,日油株式会社)(50.0mg,5.00μmol)をそれぞれサンプル管に秤量し、ジクロロエタンを9.94mL加え0.4wt%の各溶液を調製した。
【化14】
室温下において、攪拌している4-arm PEG-NH
2溶液に4-arm PEG-OSu溶液を2~3分かけて滴下し、室温で攪拌を続けた。48時間後、3-アミノ-1-プロパノール(東京化成工業株式会社)(300μL,OSuの200当量)を加え、48時間攪拌した。その後、エバポレーターにより溶媒を除去し、真空ポンプにより減圧乾燥を行い、白色蝋状固体の生成物を得た。反応生成物全体の重量平均分子量は371,900、分子量分布は5.97であった。含まれる各ピークの分子量及びその範囲をGPCにより分析した結果を表1及び
図1に示す。
【表1】
【0105】
工程(ii):分子ネットの精製
工程(i)で得られた生成物をサンプル管に入れ、超純水を加え溶解し、攪拌した。分画分子量5万の限外濾過膜(Vivaspin)を用いて遠心分離(株式会社トミー精工)(8,000×g,20℃,30分)した。濾過膜を通過しなかった液に再び超純水を加えて希釈し、同様の操作を繰り返した。2回目の操作の後、濾過膜を通過しなかった液を取り出し、凍結乾燥することで白色蝋状固体を得た。得られた固体の
1H-NMR測定(
図2)を行い、4-arm PEG-OSu由来のOSu基、3-アミノ-1-プロパノール由来のアミノ基の消失を確認した。
【0106】
(2)レドックス開始剤によるpolyHEMAゲルの調製
[実施例1]
工程(ii)で得られた分子ネットをサンプル管に20.0mg秤量し、メタノール:水=1:1(体積比)混合溶媒を538μL加え、分子ネット溶液(4wt%)を調製した。その後、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)(東京化成工業株式会社)を300μL加えて攪拌した(最終HEMA濃度40wt%)。これに、過硫酸アンモニウム(APS)(富士フイルム和光純薬株式会社) 10wt%水溶液50μLとN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)(富士フイルム和光純薬株式会社)5μLを順に加え、蓋をして静置した。1時間後、サンプル管を約180°傾斜(サンプル管の口を真下に向けた状態で倒立)させ、流れなければ「ゲル」、流れれば「ゾル」と判断した。
【0107】
[比較例1~4]
添加物の種類及び含有量を表2に示したものに変更した以外は、実施例1と同様にして反応生成物を得た。
【0108】
【0109】
<結果>
重合後、比較例1~4は全てゾル状態であったが、分子ネットを含んだ実施例1はゲル化した。
【0110】
(3)光開始剤によるポリアクリル酸ゲルの調製
[実施例2]
アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社)を減圧蒸留し、重合禁止剤を除去した。窒素バブリングした超純水5mLに2-オキソグルタル酸(富士フイルム和光純薬株式会社)10.6mgを溶解しストックソリューション(10.6mg/5mL)を調製した。工程(ii)で得られた分子ネット(24.9mg)(乾燥固体)をサンプル管に入れて、サンプル管内部を窒素置換した。次に、窒素バブリングにより脱気済みの超純水423μLを加えて溶解した。そこに、モノマーとしてアクリル酸(M)50μL、開始剤(I)として上記2-オキソグルタル酸のストックソリューション50μLを加え、ボルテックスミキサーにより混合して溶解した。この時の分子ネットの量は系中溶媒(水)に対して5wt%、アクリル酸量は最終溶液における重量%濃度で40%、モノマー/開始剤の比率はM/I=1,000(モル比)となる。この溶液に対し、暗室でハンディUVランプ(アズワン株式会社)を用いて、UV光(λ=365nm)(照射距離5cm)を6時間照射した。その後、実施例1と同様にゾル-ゲル調査を行った。
【0111】
[実施例3~6]
分子ネットの仕込み量及びアクリル酸の含有量を表3に示したものに変更した以外は、実施例2と同様にして実験を行った。
【0112】
[比較例5~7]
分子ネットの仕込み量及びアクリル酸の含有量を表3に示したものに変更した以外は、実施例2と同様にして実験を行った。
【0113】
[比較例8~9]
比較例5~7と同様に、分子ネットを使用せず、モノマー添加時に架橋剤として表3に示した量のN,N’-メチレンビスアクリルアミド(bis-AAm)(富士フイルム和光純薬株式会社)を超純水(窒素バブリング済)に溶解させたストックソリューション(11.25mg/250μL)を50μL加えて実験を行った。
【0114】
(4)鋳型を使用した測定用サンプル調製
[実施例7]
表3に示した組成で実施例2と同様にして、重合前混合物を調製した。これを縦5cm×横4cm×深さ1cmの直方体状テフロンシャーレ鋳型に流し込み、実施例2と同様にUV光を照射した。
【0115】
[比較例10~11]
比較例5~7及び8~9と同様に、分子ネットを使用せず、アクリル酸の含有量及び架橋剤の添加量を表3のように設定した重合前混合物を調製し、実施例6と同様に鋳型中で重合を行った。
【表3】
【0116】
(5)膨潤試験
実施例5~6及び比較例8~9で調製したゲルを凍結乾燥により乾燥した。直径9cm,高さ2cmの円形ガラスシャーレに超純水90mLを加え、乾燥後のゲルを浸漬した。所定時間後に超純水を回収してゲル表面の水分を拭き取り、重量を測定し、下記式:
膨潤率=(膨潤後のゲル重量-ゲルの乾燥重量)/ゲルの乾燥重量
により、膨潤率を算出した。
測定後、シャーレ中の水を捨て、新たな超純水を90mL加えて観測を継続した。
図3に膨潤試験の結果を示した。
【0117】
<結果>
分子ネットを用いたゲル(実施例5~6)は、bis-AAmを架橋剤として調製した通常の化学架橋ゲル(比較例8~9)と比較して高い膨潤率を示した。
【0118】
(6)ゲル作製直後の引張り試験
実施例7及び比較例10~11で得られたフィルム状のゲルを幅5mm(縦50mm)に切断し、引張り試験片とした。引張り試験はSHIMADZU製AGS-Jを用い、50Nのロードセルを使用して引張り速度10mm/minで引張り試験を行った。
図4に引張り試験の結果を示した。
【0119】
<結果>
分子ネットを用いたゲル(実施例7)は、bis-AAmを架橋剤として調製した通常の化学架橋ゲル(比較例11)と比較して、より大きな破断強度と破断歪みを示した。また、アクリル酸のみを重合して調製したゲル(比較例10)と比較して、破断強度は同程度であるが、より大きな破断歪みを示した。