(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】腫瘍細胞の生存を低下させるDFFAアンチセンスオリゴヌクレオチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240129BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240129BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61P35/00
A61K31/7088
(21)【出願番号】P 2020007858
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】和泉 弘人
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-516089(JP,A)
【文献】特開平11-239495(JP,A)
【文献】Open Life Sciences,2018年,13,227-235
【文献】Molecular Cancer,2010年,9:211
【文献】Cellular Oncology,2013年,36,515-526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DFFA遺伝子の発現を阻害する一本鎖オリゴヌクレオチドであって、配列番号6、8及び14からなる群より選択されるいずれかの配列番号で表されるヌクレオチド配列からなる
、一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項2】
請求項
1に記載の一本鎖オリゴヌクレオチドを含有してなる、DFFA遺伝子の発現阻害剤。
【請求項3】
異常細胞の生存を低下させる、請求項
2に記載の剤。
【請求項4】
がんの治療及び/又は予防用である、請求項
2又は
3に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA fragmentation factor subunit alpha(以下、「DFFA」と略記する場合がある)の発現を阻害し、腫瘍細胞の生存を低下させる新規なアンチセンスオリゴヌクレオチド(以下、「ASO」と略記する場合がある)及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
アポトーシスの経路には外因経路と内因経路とがあるが、いずれの場合も、カスパーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素群がカスケード式に活性化され、最終的にカスパーゼ3/6/7が基質タンパク質を切断することによってアポトーシスが実行される。
【0003】
多くのがん細胞は共通してアポトーシス経路に異常を持ち、細胞死から免れている。そのため、その異常経路を制御することはがん治療の一つの糸口となり得る(非特許文献1)。例えば、がん細胞のアポトーシス耐性を引き起こす遺伝子異常として、内因経路の抑制因子として働くBcl-2遺伝子の発現亢進が知られており、当該遺伝子を標的とした抗がん薬の開発が進められている。あるいは、カスパーゼの阻害因子であるIAPの阻害薬やIAPの阻害因子Smacのmimetic、さらには外因経路のデスリガンドであるTRAILの受容体に対するアゴニスト抗体等も、臨床試験が実施されている(非特許文献1)。
【0004】
一方で、がん細胞におけるアポトーシスの異常経路自体を制御するのではなく、エフェクターカスパーゼのさらに下流のシグナルに着目して、がん細胞にアポトーシスを誘導しようとする試みは、これまで全く報告されていない。
【0005】
DNA fragmentation factor subunit alpha(DFFA)はDNA fragmentation factor subunit beta(DFFB)とヘテロダイマーを形成して細胞質に存在するが、カスパーゼ3が活性化するとDFFAを分解し、その結果、遊離したDFFBは核内に移行してDNAを断片化し、アポトーシスが誘導される。がんとの関連においては、DFFAを高発現する肝臓がん患者は低発現する患者に比べて予後不良である一方、腎臓がんではDFFAを高発現する患者の方が予後は良好であると報告されている(非特許文献2)。しかしながら、DFFAをがんの創薬標的とした研究例は皆無である。
【0006】
ところで、人工核酸であるASOは、核内でRNAとワトソン-クリック塩基対を形成し、従来の低分子化合物では得られない、特異的なRNAの発現調節を可能とする。化学修飾によりRNA結合性、ヌクレアーゼ抵抗性、薬物動態、薬理効果が増強されている。また、免疫反応の誘導が少なく、生体忍容性が高く改良されており、個体臓器に様々な時期、病期に投与可能であり、ヒトでの長期薬理作用が示されている。
しかしながら、DFFAに対するASOを用いた先行研究は見当たらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】吉田達志ら, 京都府立医科大学誌, 128(2) (2019) p81-99
【文献】THE HUMAN PROTEIN ATLAS(https://www.proteinatlas.org/ENSG00000160049-DFFA/pathology)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、エフェクターカスパーゼを活性化させずとも、がん細胞にアポトーシスを誘導し得る新規な抗がん薬を提供することである。また、本発明の別の目的は、腫瘍細胞の生存を低下させる活性を有する新規なASOを同定し、以ってがんを治療及び/又は予防する新規手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、DFFA mRNAの5’-UTR及びコーディング領域の一部に対して相補的なASOを網羅的に設計・合成し、培養がん細胞に導入したところ、当該がん細胞の生存率を40%未満に低下させるDFFAに対するASOを3種類見出した。
本発明者は、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
[1]DFFA遺伝子の発現を阻害する一本鎖オリゴヌクレオチドであって、
配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなる、DFFAをコードする核酸における41~90番目及び121~160番目のヌクレオチド配列からなる群より選択されるいずれかのヌクレオチド配列からなる標的領域中の、連続する10個以上のヌクレオチドからなる配列と相補的なヌクレオチド配列を含む、一本鎖オリゴヌクレオチド。
[2]前記標的領域が、配列番号1で表されるヌクレオチド配列における41~70番目、61~90番目及び121~150番目のヌクレオチド配列からなる群より選択されるいずれかのヌクレオチド配列と、その近傍のヌクレオチド配列とからなる、[1]記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[3]ヌクレオチド長が10~35ヌクレオチドである、[1]又は[2]に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
[4]ヌクレオチド長が30ヌクレオチドである、[3]に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
[5]配列番号6、8及び14からなる群より選択されるいずれかの配列番号で表されるヌクレオチド配列からなる、[4]に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の一本鎖オリゴヌクレオチドを含有してなる、DFFA遺伝子の発現阻害剤。
[7]異常細胞の生存を低下させる、[6]に記載の剤。
[8]がんの治療及び/又は予防用である、[6]又は[7]に記載の剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のASOによれば、強力にDFFA遺伝子の発現を阻害することができ、投与量、投与回数、さらには製造コストを低減し、かつ有害事象の発現を抑制しつつ、異常細胞の生存を低下させて、該異常細胞が関与する疾患(例、がん)の治療及び予防が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】DFFA mRNAに対して設計された各種ASO(50 nM)をHeLa細胞にリポフェクション法にて導入した場合の72時間後の細胞生存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.DFFA遺伝子の発現を阻害する一本鎖オリゴヌクレオチド
本発明はDFFA遺伝子の発現を阻害する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)(以下、「本発明のASO」ともいう。)を提供する。ここで「アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)」とは、標的となる核酸中の連続する10個以上のヌクレオチドからなる配列と特異的にハイブリダイズする一本鎖オリゴヌクレオチドを意味する。
また、「DFFA遺伝子の発現を阻害する」とは、結果として、ASOと細胞とを接触させた場合に、接触させない場合と比較して、DFFAタンパク質の発現量を低減させ、DFFAの活性を低下させる任意の態様を包含する意味で用いられ、例えば、RNase Hによる標的RNAの分解(例えば、ギャップマーによる)や、標的RNAとの特異的かつ安定したハイブリッド形成によるタンパク質合成阻害を含む。発現の阻害の程度は、統計学的に有意であれば特に制限されないが、例えば、細胞とASOとを接触させない場合と比較して、20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上、DFFA mRNA又はタンパク質の発現量を低下させた場合に、当該ASOはDFFA遺伝子の発現阻害活性を有するとみなすことができる。
【0014】
本発明のASOは、異常細胞(例、がん細胞)の生存を低下させる(好ましくは、アポトーシス細胞死を誘導する)活性を有する。例えば、本発明のASOは、50 nMの濃度でリポフェクタミン法によりHeLa細胞に導入した場合の72時間後の細胞生存率が、約60%未満、好ましくは40%未満となる程度に、細胞の生存を低下させ得る。
【0015】
本発明のASOは、DFFA mRNAの特定の領域を標的として特異的にハイブリダイズすることを特徴とする。DFFA mRNAのヌクレオチド配列としては、配列番号1で表されるヒトDFFA transcript variant 1のmRNAのヌクレオチド配列(NCBIデータベースに、Accession No. NM_004401.2として登録されている)もしくはその非ヒト哺乳動物オルソログ、又はその遺伝子多型が挙げられる。本明細書においては、以下、特にことわらない限り、配列番号1で表されるヒトDFFA mRNAのヌクレオチド配列に基づいて、ヌクレオチドの位置やヌクレオチド配列の範囲等を記載するが、その場合、その遺伝子多型や非ヒト哺乳動物オルソログにおける対応するヌクレオチドやヌクレオチド配列も、当該記載内容に包含されるものである。
【0016】
具体的には、本発明のASOは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるDFFA mRNA(但し、該ヌクレオチド配列中「t」は「u」と読み替える。)における41~90番目及び121~160番目のヌクレオチド配列からなる群より選択されるいずれかのヌクレオチド配列からなる領域を標的とし、該領域中の連続する10個以上のヌクレオチドからなる配列と相補的なヌクレオチド配列を含む。ここで「相補的」とは、標的配列に対して完全相補的な(即ち、ミスマッチなくハイブリダイズする)配列だけでなく、哺乳動物細胞の生理的条件下でDFFA mRNAとハブリダイズし得る限り、1ないし数(例、1、2、3、4、5)ヌクレオチド、好ましくは、1又は2ヌクレオチドのミスマッチを含む配列であってもよい。例えば、DFFA mRNA中の標的ヌクレオチド配列の相補鎖配列に対して、90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の同一性を有する配列が挙げられる。本発明における「ヌクレオチド配列の同一性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。また、個々の塩基における相補性は、対象となる塩基とワトソン・クリック型塩基対を形成することに限定されるものではなく、フーグスティーン型塩基対やゆらぎ塩基対(Wobble base pair)を形成することも含む。
【0017】
あるいは、「相補的なヌクレオチド配列」とは、標的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列である。ここで「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50~65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
【0018】
好ましい実施態様において、本発明のASOが標的とするDFFA mRNA中の領域は、配列番号1で表されるヌクレオチド配列における41~70番目、61~90番目及び121~150番目のヌクレオチド配列からなる群より選択されるいずれかのヌクレオチド配列と、その近傍のヌクレオチド配列とからなる領域である。ここで「その近傍のヌクレオチド配列」とは、ヌクレオチド番号で規定された前記各領域の5’-及び3’-末端に隣接する10ヌクレオチド以下(例、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1ヌクレオチド)、好ましくは5ヌクレオチド以下のヌクレオチド配列を意味する。
【0019】
本発明のASOは、上記したいずれかの標的領域中の連続する10個以上(例、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35個)、好ましくは15個以上のヌクレオチドからなる配列を標的配列とし、それと相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0020】
本発明のASOの長さは特に限定されないが、例えば10~35ヌクレオチド長であり、好ましくは12~30ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは15~30ヌクレオチド長である。
【0021】
本発明のASOの構成単位としては、例えば、リボヌクレオチド及びデオキシリボヌクレオチドが挙げられる。これらのヌクレオチドは、修飾されていても(修飾されたヌクレオチド残基を「修飾ヌクレオチド残基」と称する場合がある)、非修飾であってもよい(非修飾のヌクレオチド残基を「非修飾ヌクレオチド残基」と称する場合がある)。
【0022】
前記ヌクレオチド残基は、構成要素として、糖、塩基及びリン酸を含む。リボヌクレオチドは、糖としてリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、5-メチルシトシン(mC)及びウラシル(U)(チミン(T)に置き換えることもできる)を有し、デオキシリボヌクレオチド残基は、糖としてデオキシリボース残基を有し、塩基として、アデニン(dA)、グアニン(dG)、シトシン(dC)、5-メチルシトシン(dmC)及びチミン(dT)(ウラシル(dU)に置き換えることもできる)を有する。以下では、アデニン、グアニン、(5-メチル)シトシン、ウラシル、チミンを有するヌクレオチドをそれぞれ、アデニンヌクレオチド、グアニンヌクレオチド、(5-メチル)シトシンヌクレオチド、ウラシルヌクレオチド、チミンヌクレオチドと称する場合がある。
【0023】
前記非修飾ヌクレオチド残基は、前記各構成要素が、例えば、天然に存在するものと同一又は実質的に同一であり、好ましくは、人体において天然に存在するものと同一又は実質的に同一である。
【0024】
前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、前記非修飾ヌクレオチド残基の構成要素のいずれが修飾されてもよい。本発明において、「修飾」には、例えば、前記構成要素の置換、付加及び/又は欠失、前記構成要素における原子及び/又は官能基の置換、付加及び/又は欠失が挙げられる。前記修飾ヌクレオチド残基としては、例えば、天然に存在するヌクレオチド残基、人工的に修飾したヌクレオチド残基等が挙げられる。前記天然由来の修飾ヌクレオチド残基としては、例えば、リンバックら(Limbach et al.、1994、Summary:the modified nucleosides of RNA、Nucleic Acids Res.22:2183~2196)を参照できる。また、前記修飾ヌクレオチド残基としては、例えば、前記ヌクレオチドの代替物の残基が挙げられる。
【0025】
前記ヌクレオチド残基の修飾は、例えば、糖-リン酸骨格(該骨格には、塩基も含まれる)(以下、糖リン酸骨格)の修飾が挙げられる。
【0026】
前記糖リン酸骨格において、糖がリボースの場合、例えば、リボース残基を修飾できる。前記リボース残基は、例えば、2’位炭素を修飾でき、具体的には、例えば、2’位炭素に結合する水酸基をメチル基で修飾、あるいは該水酸基を水素又はフルオロ等のハロゲンに置換できる。また、前記2’位炭素の水酸基を水素に置換することで、リボース残基をデオキシリボースに置換できる。前記リボース残基は、例えば、立体異性体に置換でき、例えば、アラビノース残基に置換してもよい。以下では、前記のように糖の2’位炭素に結合する水酸基をメトキシ基で修飾した核酸を2'-O-メチル修飾核酸と称することがある。また、本発明において、「核酸」にはヌクレオチドなどの核酸モノマーが包含される。
【0027】
前記糖リン酸骨格は、例えば、非リボース残基(非デオキシリボース残基も包含されるものとする)及び/又は非リン酸を有する非リボースリン酸骨格に置換してもよく、このような置換も糖リン酸骨格の修飾に包含される。前記非リボースリン酸骨格は、例えば、前記糖リン酸骨格の非荷電体が挙げられる。前記非リボースリン酸骨格に置換された、前記ヌクレオチドの代替物は、例えば、モルホリノ、シクロブチル、ピロリジン等が挙げられる。前記代替物は、この他に、例えば、人工核酸が挙げられる。具体例として、例えば、PNA(ペプチド核酸)、架橋構造型人工核酸(BNA:Bridged Nucleic Acid)などが挙げられる。BNAとしては、例えば、ロックト人工核酸(LNA:Locked Nucleic Acid)、2’-O,4’-C-エチレン架橋核酸(ENA:2’-O,4’-C-Ethylenebridged Nucleic Acid)などが挙げられる。以下に、本発明に用いることができるLNA及びENAを含むBNAの具体的な構造(ヌクレオシド部分)を示す(国際公開第2016/006697号公報より引用)。
【0028】
【0029】
式中、Rは、水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基、または核酸合成のアミノ基の保護基を表す。好ましくは、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、またはベンジル基であり、より好ましくは、Rは、水素原子またはメチル基である。また、式中、Baseは塩基を表す。
【0030】
これらの人工核酸は、例えば、特開2002-241393、特開2000-297097等を参照して合成することができる。
【0031】
前記糖リン酸骨格において、例えば、リン酸基を修飾できる。前記糖リン酸骨格において、糖残基に最も隣接するリン酸基は、αリン酸基と呼ばれる。前記αリン酸基は、負に荷電し、その電荷は、糖残基に非結合の2つの酸素原子にわたって、均一に分布している。前記αリン酸基における4つの酸素原子のうち、ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と非結合である2つの酸素原子は、以下、「非結合(non-linking)酸素」ともいう。他方、前記ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と結合している2つの酸素原子は、以下、「結合(linking)酸素」という。前記αリン酸基は、例えば、非荷電となる修飾、又は、前記非結合酸素における電荷分布が非対称型となる修飾を行うことが好ましい。
【0032】
前記リン酸基は、例えば、前記非結合酸素を置換してもよい。前記酸素は、例えば、S(硫黄)、Se(セレン)、B(ホウ素)、C(炭素)、H(水素)、N(窒素)及びOR(Rは、アルキル基又はアリール基)のいずれかの原子で置換でき、好ましくは、Sで置換される。前記非結合酸素は、いずれか一方又は両方が置換されていてもよく、好ましくは、いずれか一方又は両方がSで置換される。より具体的には、前記修飾リン酸基として、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、ボラノホスフェート、ボラノホスフェートエステル、ホスホネート水素、ホスホロアミデート、アルキル又はアリールホスホネート、及びホスホトリエステル等が挙げられ、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートが好ましい。
【0033】
また、前記リン酸基はリン非含有のリンカーに置換してもよい。当該リンカーとしては、例えば、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチル、カルバメート、アミド、チオエーテル、エチレンオキサイドリンカー、スルホネート、スルホンアミド、チオホルムアセタール、ホルムアセタール、オキシム、メチレンイミノ、メチレンメチルイミノ、メチレンヒドラゾ、メチレンジメチルヒドラゾ、及びメチレンオキシメチルイミノなどが挙げられ、好ましくは、メチレンカルボニルアミノ基及びメチレンメチルイミノ基が挙げられる。あるいは、前記リン酸基は他のリン酸非含有のリンカーに置換してもよい。このようなリンカーとしては、例えば、“Med. Chem. Commun., 2014, 5, 1454-1471”に記載されたもの等が挙げられる。
【0034】
好ましい実施態様において、本発明のASOに含まれるリン酸基の1/2以上、より好ましくは2/3以上が、上記のうちの1以上のリン酸基修飾を受けており、特に好ましくは、すべてのリン酸基が修飾を受けている。例えば、30merのASOであれば、15個以上、好ましくは20個以上、より好ましくはすべてのリン酸基が、例えばホスホロチオエート化、ホスホロジチオエート化等されている。リン酸ジエステル結合部の非結合酸素の硫黄原子による置換は、ASOの組織内分布において重要である。
【0035】
本発明のASOは、例えば、3’末端及び5’末端の少なくとも一方のヌクレオチド残基が修飾されてもよい。前記修飾は、例えば、3’末端及び5’末端のいずれか一方でもよいし、両方でもよい。前記修飾は、例えば、前述のとおりであり、好ましくは、末端のリン酸基に行うことが好ましい。前記リン酸基は、例えば、全体を修飾してもよいし、前記リン酸基における1つ以上の原子を修飾してもよい。前者の場合、例えば、リン酸基全体の置換でもよいし、欠失でもよい。
【0036】
前記末端のヌクレオチド残基の修飾は、例えば、他の分子の付加が挙げられる。前記他の分子としては、例えば、後述する標識物質や、保護基等の機能性分子が挙げられる。前記保護基としては、例えば、S(硫黄)、Si(ケイ素)、B(ホウ素)、エステル含有基等が挙げられる。前記標識物質等の機能性分子は、例えば、本発明のASOの検出等に利用できる。
【0037】
前記他の分子は、例えば、前記ヌクレオチド残基のリン酸基に付加してもよいし、スペーサーを介して、前記リン酸基又は前記糖残基に付加してもよい。前記スペーサーの末端原子は、例えば、前記リン酸基の前記結合酸素、又は、糖残基のO、N、SもしくはCに、付加又は置換できる。前記糖残基の結合部位は、例えば、3’位のCもしくは5’位のC、又はこれらに結合する原子が好ましい。前記スペーサーは、例えば、前記PNA等のヌクレオチド代替物の末端原子に、付加又は置換することもできる。
【0038】
前記スペーサーは、特に制限されず、例えば、-(CH2)n-、-(CH2)nN-、-(CH2)nO-、-(CH2)nS-、O(CH2CH2O)nCH2CH2OH、無塩基糖、アミド、カルボキシ、アミン、オキシアミン、オキシイミン、チオエーテル、ジスルフィド、チオ尿素、スルホンアミド、及びモルホリノ等、ならびに、ビオチン試薬及びフルオレセイン試薬等を含んでもよい。前記式において、nは、正の整数であり、n=3又は6が好ましい。
【0039】
前記末端に付加する分子は、これらの他に、例えば、色素、インターカレート剤(例えば、アクリジン)、架橋剤(例えば、ソラレン、マイトマイシンC)、ポルフィリン(TPPC4、テキサフィリン、サッフィリン)、多環式芳香族炭化水素(例えば、フェナジン、ジヒドロフェナジン)、人工エンドヌクレアーゼ(例えば、EDTA)、親油性担体(例えば、コレステロール、コール酸、アダマンタン酢酸、1-ピレン酪酸、ジヒドロテストステロン、1,3-ビス-O(ヘキサデシル)グリセロール、ゲラニルオキシヘキシル基、ヘキサデシルグリセロール、ボルネオール、メントール、1,3-プロパンジオール、ヘプタデシル基、パルミチン酸、ミリスチン酸、O3-(オレオイル)リトコール酸、O3-(オレオイル)コール酸、ジメトキシトリチル、又はフェノキサジン)及びペプチド複合体(例えば、アンテナペディアペプチド、Tatペプチド)、アルキル化剤、リン酸、アミノ、メルカプト、PEG(例えば、PEG-40K)、MPEG、[MPEG]2、ポリアミノ、アルキル、置換アルキル、放射線標識マーカー、酵素、ハプテン(例えば、ビオチン)、輸送/吸収促進剤(例えば、アスピリン、ビタミンE、葉酸)、合成リボヌクレアーゼ(例えば、イミダゾール、ビスイミダゾール、ヒスタミン、イミダゾールクラスター、アクリジン-イミダゾール複合体、テトラアザマクロ環のEu3+複合体)等が挙げられる。
【0040】
本発明のASOは、前記5’末端が、例えば、リン酸基又はリン酸基アナログで修飾されてもよい。前記リン酸基は、例えば、5’一リン酸((HO)2(O)P-O-5’)、5’二リン酸((HO)2(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’三リン酸((HO)2(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’-グアノシンキャップ(7-メチル化又は非メチル化、7m-G-O-5’-(HO)(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’-アデノシンキャップ(Appp)、任意の修飾又は非修飾ヌクレオチドキャップ構造(N-O-5’-(HO)(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’一チオリン酸(ホスホロチオエート:(HO)2(S)P-O-5’)、5’一ジチオリン酸(ホスホロジチオエート:(HO)(HS)(S)P-O-5’)、5’-ホスホロチオール酸((HO)2(O)P-S-5’)、硫黄置換の一リン酸、二リン酸及び三リン酸(例えば、5’-α-チオ三リン酸、5’-γ-チオ三リン酸等)、5’-ホスホルアミデート((HO)2(O)P-NH-5’、(HO)(NH2)(O)P-O-5’)、5’-アルキルホスホン酸(例えば、RP(OH)(O)-O-5’、(OH)2(O)P-5’-CH2、Rはアルキル(例えば、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル等))、5’-アルキルエーテルホスホン酸(例えば、RP(OH)(O)-O-5’、Rはアルキルエーテル(例えば、メトキシメチル、エトキシメチル等))等が挙げられる。
【0041】
前記ヌクレオチド残基において、前記塩基は、特に制限されず、例えば、天然の塩基でもよいし、非天然の塩基でもよい。前記塩基は、例えば、天然由来でもよいし、合成品でもよい。前記塩基として、例えば、一般的な塩基、その修飾アナログ、ユニバーサル塩基などが使用できる。
【0042】
前記塩基としては、例えば、アデニン及びグアニン等のプリン塩基、シトシン、5-メチルシトシン、ウラシル及びチミン等のピリミジン塩基が挙げられる。前記塩基としては、この他に、イノシン、チミン、キサンチン、ヒポキサンチン、ヌバラリン(nubularine)、イソグアニシン(isoguanisine)、ツベルシジン(tubercidine)等が挙げられる。前記塩基は、例えば、2-アミノアデニン、6-メチル化プリン等のアルキル誘導体;2-プロピル化プリン等のアルキル誘導体;5-ハロウラシル及び5-ハロシトシン;5-プロピニルウラシル及び5-プロピニルシトシン;6-アゾウラシル、6-アゾシトシン及び6-アゾチミン;5-ウラシル(プソイドウラシル)、4-チオウラシル、5-ハロウラシル、5-(2-アミノプロピル)ウラシル、5-アミノアリルウラシル;8-ハロ化、アミノ化、チオール化、チオアルキル化、ヒドロキシル化及び他の8-置換プリン;5-トリフルオロメチル化及び他の5-置換ピリミジン;7-メチルグアニン;5-置換ピリミジン;6-アザピリミジン;N-2、N-6、及びO-6置換プリン(2-アミノプロピルアデニンを含む);5-プロピニルウラシル及び5-プロピニルシトシン;ジヒドロウラシル;3-デアザ-5-アザシトシン;2-アミノプリン;5-アルキルウラシル;7-アルキルグアニン;5-アルキルシトシン;7-デアザアデニン;N6,N6-ジメチルアデニン;2,6-ジアミノプリン;5-アミノ-アリル-ウラシル;N3-メチルウラシル;置換1,2,4-トリアゾール;2-ピリジノン;5-ニトロインドール;3-ニトロピロール;5-メトキシウラシル;ウラシル-5-オキシ酢酸;5-メトキシカルボニルメチルウラシル;5-メチル-2-チオウラシル;5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウラシル;5-メチルアミノメチル-2-チオウラシル;3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウラシル;3-メチルシトシン; N4-アセチルシトシン;2-チオシトシン;N6-メチルアデニン;N6-イソペンチルアデニン;2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン;N-メチルグアニン;O-アルキル化塩基等が挙げられる。また、プリン及びピリミジンは、例えば、米国特許第3,687,808号、「Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering」、858~859頁、クロシュビッツ ジェー アイ(Kroschwitz J.I.)編、John Wiley & Sons、1990、及びイングリッシュら(Englischら)、Angewandte Chemie、International Edition、1991、30巻、p.613に開示されるものが含まれる。
【0043】
前記修飾ヌクレオチド残基は、これらの他に、例えば、塩基を欠失する残基、すなわち、無塩基の糖リン酸骨格を含んでもよい。また、前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、国際公開第2004/080406号に記載された残基が使用できる。
【0044】
本発明のASOは、例えば、標識物質で標識化されてもよい。前記標識物質は特に制限されず、例えば、蛍光物質、色素、同位体等が挙げられる。前記蛍光物質としては、例えば、ピレン、TAMRA、フルオレセイン、Cy3色素、Cy5色素等の蛍光団が挙げられる。前記色素としては、例えば、Alexa488等のAlexa色素等が挙げられる。前記同位体としては、例えば、安定同位体及び放射性同位体が挙げられ、好ましくは安定同位体である。前記安定同位体は、例えば、被ばくの危険性が少なく、専用の施設も不要であることから取り扱い性に優れ、また、コストも低減できる。また、前記安定同位体は、例えば、標識した化合物の物性変化がなく、トレーサーとしての性質にも優れる。前記安定同位体は、特に制限されず、例えば、2H、13C、15N、17O、18O、33S、34S及び36Sが挙げられる。
【0045】
好ましい実施態様において、本発明のASOは、以下のいずれかのヌクレオチド配列を、DFFA mRNA中の標的配列(配列番号1で表されるヌクレオチド配列中の位置で表示する)に相補的な配列として含む。
CGAGAAGTCGCGGGAGGCCGGAGCGGCGGT(配列番号6)(標的配列:41-70)
TGCCCACCTTCGAGAAGTCGCGGGAGGCCG(配列番号7)(標的配列:51-80)
AGGTGGGACCTGCCCACCTTCGAGAAGTCG(配列番号8)(標的配列:61-90)
GAGTCCGGATCTCGCCAGATTCTGGTACCC(配列番号14)(標的配列:121-150)
CACGGCTTTAGAGTCCGGATCTCGCCAGAT(配列番号15)(標的配列:131-160)
(但し、tはuに置き換えてもよく、cは5-メチルシトシン(mC)に置き換えてもよい。)
より好ましくは、本発明のASOは、上記のいずれかのヌクレオチド配列からなる核酸である。
【0046】
さらに好ましい実施態様において、本発明の具体例として、配列番号6、8及び14のいずれかで表されるヌクレオチド配列を、標的配列に対する相補鎖配列として含むASOが挙げられる。特に好ましくは、本発明のASOは、上記いずれかの配列番号で表されるヌクレオチド配列からなる核酸である。
【0047】
別の実施態様において、本発明のASOは、
(1)5’末端に位置する5’ウイング領域;
(2)3’末端に位置する3’ウイング領域;及び
(3)領域(1)および領域(2)の間に位置するデオキシギャップ領域
を含む、ギャップマー型の核酸であり得る。ギャップマー型のASOとは、DNA(デオキシギャップ領域)と、その両側に、修飾や架橋が導入された核酸とを有する核酸(ウイング領域)であり、該DNA鎖を主鎖として、主鎖に相補的な標的RNAとヘテロ2本鎖核酸を形成し、標的RNAは、細胞に内在するRNase Hにより分解される。ウイング領域の構成ヌクレオチドはRNAであってもDNAであってもよい。
【0048】
ギャップマー型ASOの5’及び3’ウイング領域は、それぞれ独立して2~5ヌクレオチド長であり、好ましくは3~5ヌクレオチド長である。また、ギャップマー型ASOのデオキシギャップ領域の長さは、7~10ヌクレオチドであり、好ましくは8~10ヌクレオチドである。また、ギャップマー型ASOの全長は、例えば12~30ヌクレオチド長であり、好ましくは12~25ヌクレオチド長である。
【0049】
本発明のASOは、自体公知の化学合成法により製造することができる。例えば、ホスホロアミダイト法及びH-ホスホネート法等が挙げられる。当該化学合成法は、例えば、市販の自動核酸合成機を用いて実施することができ、アミダイトを使用する場合、例えば、市販のアミダイトとして、RNA Phosphoramidites(2’-O-TBDMSi、商品名、三千里製薬)、ACEアミダイト及びTOMアミダイト、CEEアミダイト、CEMアミダイト、TEMアミダイト等を用いることができる。
【0050】
2.本発明のASOの用途
本発明のASOは、DFFA mRNAに特異的にハイブリダイズし、DFFA遺伝子の発現を阻害することができる。従って、本発明はまた、本発明のASOを含有してなるDFFA遺伝子の発現阻害剤を提供する。
【0051】
本発明のDFFA遺伝子の発現阻害剤は、例えば、DFFAを発現する対象に、本発明のASOを単独で、あるいは薬理学的に許容される担体とともに接触させることにより、該対象内に導入することができる。当該接触工程は、対象が動物個体の場合、本発明のDFFA遺伝子の発現阻害剤を該動物に投与することにより行うことができる。また、対象が動物由来の細胞、組織又は器官の培養である場合には、該培養物の培地に本発明のDFFA遺伝子の発現阻害剤を添加することにより実施することができる。
【0052】
本発明のASOの標的細胞内への導入を促進するために、本発明のDFFA遺伝子の発現阻害剤は、核酸導入用試薬をさらに含んでいてもよい。該核酸導入用試薬として、アテロコラーゲン;リポソーム;ナノパーティクル;リポフェクチン、リプフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質等を用いることができる。また、本発明のASOの標的細胞内への導入は、例えば、塩化カルシウムを培地に添加するカルシウムイオン富化(CEM)法により行うこともできる。
【0053】
上述のように、アポトーシスの経路には外因経路と内因経路とがあるが、いずれの場合も、カスパーゼ群がカスケード式に活性化され、最終的にカスパーゼ3/6/7が基質タンパク質を切断することによってアポトーシスが実行される。即ち、一般的なカスパーゼ依存的なアポトーシスの場合、シグナルはカスパーゼ3等のエフェクターカスパーゼに集約される。DFFAはDFFBとヘテロダイマーを形成してDFFBの活性を阻害するが、活性化したカスパーゼ3によってDFFAが分解されると、遊離し活性化したDFFBは核内に移行し、DNAを断片化して細胞にアポトーシスを誘導する。そのため、疾患の発症及び/又は増悪に関与する異常細胞に本発明のASOを導入し、DFFA遺伝子の発現を阻害すると、カスパーゼ3を活性化させずとも、DFFBを活性化して当該異常細胞にアポトーシスを誘導することができる。従って、本発明はまた、本発明のASOを含有してなる異常細胞の生存抑制(アポトーシス誘導)剤を提供する。
【0054】
本発明の細胞生存抑制剤は、異常細胞又はそれを有する対象に、上記と同様にして接触させることができる。
【0055】
異常細胞としては、それを有する対象に任意の疾患や病態を引き起こしたり、それを増悪させるものであれば特に制限はないが、好ましくはがん細胞である。従って、本発明のASOを有効成分とする医薬は、がんの治療及び/又は予防に用いることができる。がんとしては特に制限はなく、例えば、上皮細胞由来の癌であり得るが、非上皮性の肉腫や血液がんであってもよい。より具体的には、例えば、消化器のがん(例えば、食道がん、胃がん、十二指腸がん、大腸がん(結腸がん、直腸がん)、肝がん(肝細胞がん、胆管細胞がん)、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、肛門がん)、泌尿器のがん(例えば、腎がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、精巣(睾丸)がん)、胸部のがん(例えば、乳がん、肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がん))、生殖器のがん(例えば、子宮がん(子宮頸がん、子宮体がん)、卵巣がん、外陰がん、膣がん)、頭頸部のがん(例えば、上顎がん、咽頭がん、喉頭がん、舌がん、甲状腺がん)、皮膚のがん(例えば、基底細胞がん、有棘細胞がん)を含むが、これらに限定されない。
【0056】
本発明のASOは単独で用いてよいし、あるいは医薬上許容される担体とともに、医薬組成物として製剤化してもよい。
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0057】
本発明のASOの標的細胞内への導入を促進するために、本発明の医薬は核酸導入用試薬をさらに含んでいてもよい。該核酸導入用試薬としては、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0058】
また、本発明の医薬は、本発明のASOがリポソームに封入されてなる医薬組成物であってもよい。リポソームは、1以上の脂質二重層により包囲された内相を有する微細閉鎖小胞であり、通常は水溶性物質を内相に、脂溶性物質を脂質二重層内に保持することができる。本明細書において「封入」という場合には、本発明のASOはリポソーム内相に保持されてもよいし、脂質二重層内に保持されてもよい。本発明に用いられるリポソームは単層膜であっても多層膜であってもよく、また、粒子径は、例えば10~1000nm、好ましくは50~300nmの範囲で適宜選択できる。標的組織への送達性を考慮すると、粒子径は、例えば200nm以下、好ましくは100nm以下であり得る。
【0059】
オリゴヌクレオチドのような水溶性化合物のリポソームへの封入法としては、リピドフィルム法(ボルテックス法)、逆相蒸発法、界面活性剤除去法、凍結融解法、リモートローディング法等が挙げられるが、これらに限定されず、任意の公知の方法を適宜選択することができる。
【0060】
本発明の医薬は、経口的に又は非経口的に、哺乳動物(例:ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、サル)に対して投与することが可能であるが、非経口的に投与するのが望ましい。
【0061】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入(例:脳室内投与)、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0062】
医薬組成物中の本発明のASOの含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.1ないし100重量%である。
【0063】
本発明の医薬の投与量は、投与の目的、投与方法、対象疾患の種類、重篤度、投与対象の状況(性別、年齢、体重など)によって異なるが、例えば、成人に全身投与する場合、通常、本発明のASOの一回投与量として2 nmol/kg以上50 nmol/kg以下、局所投与する場合、1 pmol/kg以上10 nmol/kg以下が望ましい。かかる量を、例えば1~6か月、好ましくは2~4か月、より好ましくは約3か月の間隔で投与することができる。
本発明のASOは、顕著にDFFA発現阻害活性及び細胞生存抑制活性に優れているので、少ない投与量・投与回数で治療及び/又は予防効果を奏することができ、患者のQOL改善、医療費の削減、有害事象の発現抑制が可能となる。
【0064】
本発明の医薬は、本発明のASOとの配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。他の活性成分としては、例えば、がんに対して治療効果を有する種々の化合物を適宜配合することができる。例えば、他の活性成分として、アルキル化薬(例、マスタード類、ニトロソウレア類)、代謝拮抗薬(例、葉酸系、ピリミジン系、プリン系)、抗腫瘍性抗生物質(例、アントラサイクリン)、ホルモン類似薬(例、抗エストロゲン薬、抗アンドロゲン薬、LH-RHアゴニスト、プロゲステロン、エストラジオール)、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害薬(例、トポイソメラーゼI阻害薬、トポイソメラーゼII阻害薬)などを含有していてもよい。これらの併用薬剤は、本発明の医薬とともに製剤化して単一の製剤として投与することもできるし、あるいは、本発明の医薬とは別個に製剤化して、本発明の医薬と同一もしくは別ルートで、同時もしくは時間差をおいて投与することもできる。また、これらの併用薬剤の投与量は、該薬剤を単独投与する場合に通常用いられる量であってよく、あるいは通常用いられる量より減量することもできる。
【0065】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
DFFA mRNAの配列情報(NM_004401.2)に基づいて、5’-UTR及びコーディング領域の一部に対して相補的なASOを15種類、網羅的に設計した(表1)。即ち、すべてのASOの長さを30ヌクレオチドとし、標的配列を3’側に10ヌクレオチドずつずらしながら170番目のヌクレオチドまでをカバーするASOを設計した。従って、隣り合うASOはそれぞれ20ヌクレオチドがオーバーラップしている。
【0067】
【0068】
常法に従って、上記各ヌクレオチド配列を有するASOを合成した。
【0069】
1,000 cell/well ヒト子宮頸がん細胞株HeLa細胞にRNAiMAX(Life Technologies)を使って15種類のDFFA antisense oligonucleotideをトランスフェクションした。ウエルあたり、oligo 50 nM, RNAiMAX 0.4 μl, medium 120 μlを使用し、72時間後にWST8 assayを行い、細胞生存率を解析した。3つのウエルの平均で、各プレートにCtrl (control antisense oligonucleotide) を入れ、これを1にセットした。結果を
図1に示す。
【0070】
細胞生存率を40%未満に抑制するDFFA antisense oligonucleotideを3種類(DFFA-AS-05、DFFA-AS-07、DFFA-AS-13)見出した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のASOは、強力にDFFA遺伝子の発現を阻害することができるので、投与量、投与回数、さらには製造コストを低減し、かつ有害事象の発現を抑制しつつ、異常細胞(例、がん細胞)の生存を低下させることができる、したがって、当該異常細胞が関与する疾患(例、がん)の治療及び予防にきわめて有効である。
【配列表】