(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】形質転換体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240129BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20240129BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240129BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240129BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240129BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20240129BHJP
C12Q 1/6897 20180101ALI20240129BHJP
【FI】
C12N15/113 Z
C12N15/29 ZNA
C12N15/62 Z
C12N5/10
A01H5/00 A
A01H5/10
C12Q1/6897 Z
(21)【出願番号】P 2020021831
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 博文
(72)【発明者】
【氏名】安達 広明
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082942(WO,A1)
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci.,2012年,Vol.109, No.49,pp.20148-20153
【文献】BMC Genomics,2017年,Vol.18,771 (pp.1-17)
【文献】Mol. Plant Pathol.,2011年,Vol.12, No.1,pp.73-91
【文献】Plant Cell Physiol.,2018年,Vol.59, No.1,pp.8-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A01H 1/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)サリチル酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列を含む発現カセット、並びに
(B)ジャスモン酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列を含む発現カセット
からなる群より選択される少なくとも1種を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記発現カセット(A)を含み、且つ前記サリチル酸応答プロモーターがPR1プロモーターである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記発現カセット(B)を含み、且つ前記ジャスモン酸応答プロモーターがVSP1プロモーターである、請求項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記オリゴマー形成抑制型変異体がNPR1タンパク質のシステイン残基の変異体である、請求項1~3のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記レポータータンパク質が蛍光タンパク質又は発光タンパク質である、請求項1~4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記発現カセット(A)及び前記発現カセット(B)を含む、請求項1~5のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む、形質転換体。
【請求項8】
植物細胞、植物体、又は植物体の一部である、請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
植物体である請求項7又は8に記載の形質転換体に成長する、種子。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の形質転換体の被検物質の存在下におけるレポーターシグナルを検出することを含む、方法。
【請求項11】
前記レポーターシグナルの経時変化及び/又は前記形質転換体内の空間的変化を検出することを含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換体、プラントアクチベーターのスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントアクチベーターは、植物の免疫系を高め、これにより植物の病害に対する耐性を向上させることができる。植物は病原体の侵入に対し、植物ホルモンであるサリチル酸およびジャスモン酸シグナル伝達系によって防御応答を発揮する。このため、サリチル酸およびジャスモン酸の経路を活性化する薬剤であれば、プラントアクチベーターとして使用し得る。
【0003】
ただ、サリチル酸とジャスモン酸は互いのシグナル伝達を拮抗的に作用することが知られている。具体的には、サリチル酸経路は活物寄生菌(Biotroph)に対して抵抗性を高めるのに対して、ジャスモン酸経路は殺生菌(Necrotroph)に対して抵抗性を高め、一方で、サリチル酸及びジャスモン酸は互いに他方の経路を抑制する。このため、一方の経路のみを活性化する薬剤では、他方の経路を抑制してしまい、結果的に植物の成長に悪影響を与え得る。
【0004】
これまでに、サリチル酸/ジャスモン酸シグナルの可視化が試みられてきた。例えば、非特許文献1には、サリチル酸応答プロモーターの制御下にレポーター遺伝子が配置されてなるサリチル酸センサーが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Plant Cell Physiol. 59(1): 8-16 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
より効果的なプラントアクチベーターの開発には、サリチル酸経路とジャスモン酸経路の両方を活性化する薬剤のスクリーニングが必要である。例えば、サリチル酸経路を先に活性化し、その後ジャスモン酸経路を活性かできるような薬剤が望ましいと考えられる。しかし、非特許文献1のような従来技術では、レポータータンパク質の安定性も相まって、このような両経路の拮抗作用を踏まえたスクリーニングは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、サリチル酸/ジャスモン酸経路の拮抗を観察することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、(A)サリチル酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列を含む発現カセット、並びに(B)ジャスモン酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列を含む発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種を含む、ポリヌクレオチド、であれば上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. (A)サリチル酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列を含む発現カセット、並びに
(B)ジャスモン酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列を含む発現カセット
からなる群より選択される少なくとも1種を含む、ポリヌクレオチド。
【0010】
項2. 前記発現カセット(A)を含み、且つ前記サリチル酸応答プロモーターがPR1プロモーターである、項1に記載のポリヌクレオチド。
【0011】
項3. 前記発現カセット(B)を含み、且つ前記ジャスモン酸応答プロモーターがVSP1プロモーターである、項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【0012】
項4. 前記オリゴマー形成抑制型変異体がNPR1タンパク質のシステイン残基の変異体である、項1~3のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0013】
項5. 前記レポータータンパク質が蛍光タンパク質又は発光タンパク質である、項1~4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0014】
項6. 前記発現カセット(A)及び前記発現カセット(B)を含む、項1~5のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0015】
項7. 項1~6のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む、形質転換体。
【0016】
項8. 植物細胞、植物体、又は植物体の一部である、項7に記載の形質転換体。
【0017】
項9. 植物体である項7又は8に記載の形質転換体に成長する、種子。
【0018】
項10. 項7又は8に記載の形質転換体の被検物質の存在下におけるレポーターシグナルを検出することを含む、方法。
【0019】
項11. 前記レポーターシグナルの経時変化及び/又は前記形質転換体内の空間的変化を検出することを含む、項10に記載の方法。
【0020】
項12. 項7又は8に記載の形質転換体の被検物質の存在下におけるレポーターシグナルを指標とする、プラントアクチベーターのスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、サリチル酸/ジャスモン酸経路の拮抗を観察するためのサリチル酸センサー及びジャスモン酸センサーを提供することができる。さらには、これを含む形質転換体、該形質転換体を用いたシグナル検出方法、プラントアクチベーターのスクリーニング方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】試験例4においてサリチル酸処理から5時間後の観察画像を示す。SAはサリチル酸処理群を示し、MockはMock処理群を示す。h(hour)は処理後の経過時間を示す。
【
図2】試験例4においてサリチル酸処理から5時間後、ジャスモン酸で処理した後の観察画像をに示す。MeJAはジャスモン酸処理群を示し、MockはMock処理群を示す。minはジャスモン酸またはMock処理後の経過時間を示す。
【
図3】試験例5においてジャスモン酸処理から4時間後の観察画像をに示す。h(hour)は処理後の経過時間を示す。
【
図4】試験例5においてジャスモン酸処理から4時間後、サリチル酸で処理した後の観察画像をに示す。SAはサリチル酸処理群を示し、MockはMock処理群を示す。h(hour)はサリチル酸またはMock処理後の経過時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0024】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0025】
本明細書中において、アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたblastpと呼ばれるプログラムやtblastnと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の「同一性」も上記に準じて定義される。
【0026】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0027】
本明細書において、DNA、RNAなどのヌクレオチドには、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。
【0028】
2.ポリヌクレオチド
本発明は、その一態様において、(A)サリチル酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列を含む発現カセット、並びに(B)ジャスモン酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列を含む発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種を含む、ポリヌクレオチド(本明細書において、「本発明のポリヌクレオチド」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0029】
2-1.発現カセット(A)
サリチル酸応答プロモーターは、サリチル酸に対して応答可能な(転写活性が増大する)プロモーターである限り、特に制限されない。サリチル酸応答プロモーターとしては、例えばサリチル酸応答性遺伝子のプロモーター、具体的にはPR1プロモーター(PR1遺伝子のプロモーターを示す。以下同様。)、PR2(BGL2)(β-1,3-glucanase遺伝子)プロモーター、ICS1(EDS16)(サリチル酸合成に関わる遺伝子)プロモーター等が挙げられる。これらの中でも、転写活性、持続性、サリチル酸に対する応答特異性等の観点から、特に好ましくはPR1プロモーターが挙げられる。
【0030】
PR1遺伝子としては、特に制限されず、各種植物由来のPR1遺伝子が挙げられる。各種植物由来のPR1遺伝子は公知であり、該遺伝子の例としては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来PR1遺伝子(NCBI Gene ID: 815949)、タバコ(Nicotiana benthamiana)由来PR1遺伝子(NCBI RefSeq番号: JN247448)、ダイズ(Glycine max)由来PR1遺伝子(NCBI RefSeq番号: BU577813)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来PR1遺伝子(NCBI RefSeq番号: AY050221)、トウモロコシ(Zea mays)由来PR1遺伝子(NCBI RefSeq番号: NM_001111929)、イネ(Oryza sativa)由来PR1遺伝子(NCBI RefSeq番号: AJ278436)等が挙げられる。
【0031】
PR2遺伝子としては、特に制限されず、各種植物由来のPR2遺伝子が挙げられる。各種植物由来のPR2遺伝子は公知であり、該遺伝子の例としては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来PR2遺伝子(NCBI Gene ID: 824893)等が挙げられる。
【0032】
ICS1遺伝子としては、特に制限されず、各種植物由来のICS1遺伝子が挙げられる。各種植物由来のICS1遺伝子は公知であり、該遺伝子の例としては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来ICS1遺伝子(NCBI Gene ID: 843810)等が挙げられる。
【0033】
プロモーターは、通常、転写開始点、その上流(5’側)の配列、及び必要に応じてその下流(3’側)の配列を含む。サリチル酸応答プロモーターとしては、PR1等の遺伝子の転写開始点の塩基を+1、その下流(3´側)が正の値、その上流(5´側)が0又は負の値とした場合、例えば-10000~+500、好ましくは-5000~+200、より好ましくは-2000~+150のDNA領域内の、転写開始点を含む任意のDNA領域が挙げられる。なお、転写開始点が複数存在する場合は、最も転写量の多い転写開始点を選択することができる。サリチル酸応答プロモーターの長さ(塩基対数:bp)は、例えば500~10000 bp、好ましくは1000~5000 bp、より好ましくは1500~3000 bpの範囲の長さが挙げられる。
【0034】
サリチル酸応答プロモーターの具体例としては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来PR1プロモーターの一例として配列番号1で示される塩基配列を含むプロモーターが挙げられる。
【0035】
サリチル酸応答プロモーターは、サリチル酸応答性遺伝子の内在性プロモーターと同等程度のサリチル酸応答性を有する限りにおいて、塩基配列の変異(例えば、置換、欠失、挿入、付加等)を有していてもよい。この場合、変異を有するプロモーターの塩基配列は、サリチル酸応答性遺伝子の内在性プロモーターの対応塩基配列と、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する。変異の部位は、例えば公知の発現制御エレメント(例えばサリチル酸応答領域(例えばactivation sequence-1(as-1)等)、基本転写因子結合領域、各種アクチベーター結合領域等)以外の部位であることが望ましい。なお、発現制御エレメントのコンセンサス配列は既に公知であり、各種データベース上で容易に探索することができる。このようなデータベースとしては、例えばplantpromoterdb(http://ppdb.agr.gifu-u.ac.jp/ppdb/cgi-bin/index.cgi)等が挙げられる。また、サリチル酸応答領域については、既報(例えばFront. Plant Sci., July 2018 | Volume 9 | Article 930等)を参考にして、決定することができる。
【0036】
サリチル酸応答プロモーターとしては、サリチル酸応答性遺伝子のプロモーター以外にも、人工プロモーターを使用することもできる。例えば、コアプロモーター領域及びサリチル酸応答領域を含むプロモーターを任意にデザインして、サリチル酸応答プロモーターとして使用することができる。
【0037】
レポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列は、レポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質をコードする塩基配列である限り特に制限されない。
【0038】
レポータータンパク質としては、特に制限されず、例えば特定の基質と反応して発光(発色)する発光(発色)タンパク質、或いは励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質等が挙げられる。これらの中でも、蛍光タンパク質が好適に使用される。発光(発色)タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられ、蛍光タンパク質としては、例えばGFP、sGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、mRFP、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum等が挙げられる。また、レポータータンパク質には、そのレポーター特性が著しく損なわれない限りにおいて各種アミノ酸変異が含まれていてもよく、また、公知のタンパク質タグ、公知のシグナル配列等が付加されてなるタンパク質も包含される。
【0039】
JAZ1タンパク質は、ジャスモン酸経路で働くタンパク質である。各種植物由来のJAZ1タンパク質のアミノ酸配列は公知である、或いは公知のJAZ1遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列に基づいて(例えば、これらとの同一性解析等により)容易に決定することができる。一例として、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のJAZ1遺伝子としては、NCBI RefSeq番号:NP_973862.1で特定されるアミノ酸配列(配列番号33)からなるタンパク質(NCBI RefSeq番号:NM_202133.1で特定されるmRNA配列中のコード配列(配列番号2)でコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質)が挙げられる。
【0040】
JAZ1タンパク質には、変異体も含まれる。JAZ1タンパク質は、ジャスモン酸に応答して分解される性質が著しく損なわれない限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入等の変異(好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)を有していてもよい。
【0041】
JAZ1タンパク質のアミノ酸配列は、同種植物の野生型JAZ1タンパク質のアミノ酸配列と、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、よりさらに好ましくは99%以上の同一性を有する。また、JAZ1タンパク質のアミノ酸配列は、同種植物の野生型JAZ1タンパク質のアミノ酸配列と同一であるか又は該アミノ酸配列に対して1もしくは複数個(例えば2~10、好ましくは2~5、より好ましくは2~3個、さらに好ましくは2個)が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列である、遺伝子である。
【0042】
JAZ1タンパク質は、上記性質を有する限りにおいて、公知のタンパク質タグ、シグナル配列、酵素タンパク質等のタンパク質が付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。
【0043】
レポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列は、レポータータンパク質コード配列と、JAZ1タンパク質コード配列とが、インフレームに連結されてなるコード配列である。両者の配置の順序は、特に制限されず、5’側からJAZ1タンパク質コード配列、レポータータンパク質コード配列の順に配置されていてもよいし、5’側からレポータータンパク質コード配列、JAZ1タンパク質コード配列の順に配置されていてもよいが、好ましくは、前者である。また、両者の向きは、特に制限されず、互いに同じ方向で配置されていてもよいし、互いが逆向きに配置されていてもよい。
【0044】
レポータータンパク質コード配列と、JAZ1タンパク質コード配列とは、リンカーコード配列を含む他のコード配列を介して連結されていてもよいし、直接連結されていてもよいが、好ましくは前者である。リンカーとしては、例えばグリシン残基の割合が比較的高い(例えば20%以上、40%以上、60%以上)のリンカーを採用することができる。また、他の配列の長さは、例えば3~99bp、好ましくは6~51bp、より好ましくは9~21bpである。
【0045】
また、レポータータンパク質コード配列は、1つのみであってもよいし、2つ以上(例えば2つ、3つ、4つ、5つ)であってもよい。レポータータンパク質コード配列が2つ以上である場合、各配列がコードするレポータータンパク質は同一であってもよいし異なっていてもよい。レポータータンパク質コード配列が2つ以上である場合、それぞれはタンデムに配置されていてもよいし、JAZ1タンパク質コード配列や他のコード配列を介して配置されていてもよい。
【0046】
発現カセット(A)において、レポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列は、サリチル酸応答プロモーターの制御下に配置されている。換言すれば、レポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列は、該配列の転写がサリチル酸応答プロモーターによって制御されるように配置されている。具体的な配置の態様としては、例えばサリチル酸応答プロモーターの3´側直下にレポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列が配置されている態様(例えば、サリチル酸応答プロモーター3´末端の塩基からレポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列の5´末端の塩基までの間が、例えば100 bp以下、好ましくは50 bp以下、より好ましくは20 bp以下である態様)が挙げられる。
【0047】
2-2.発現カセット(B)
ジャスモン酸応答プロモーターは、ジャスモン酸に対して応答可能な(転写活性が増大する)プロモーターである限り、特に制限されない。ジャスモン酸応答プロモーターとしては、例えばジャスモン酸応答性遺伝子のプロモーター、具体的にはVSP1プロモーター(VSP1遺伝子のプロモーターを示す。以下同様。)、PDF1.2プロモーター、VSP2プロモーター等が挙げられる。これらの中でも、転写活性、ジャスモン酸に対する応答特異性等の観点から、特に好ましくはVSP1プロモーターが挙げられる。
【0048】
VSP1遺伝子としては、特に制限されず、各種植物由来のVSP1遺伝子が挙げられる。各種植物由来のVSP1遺伝子は公知であり、該遺伝子の例としては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来VSP1遺伝子(NCBI Gene ID: 832547)等が挙げられる。
【0049】
PDF1.2遺伝子としては、特に制限されず、各種植物由来のPDF1.2遺伝子が挙げられる。各種植物由来のPDF1.2遺伝子は公知であり、該遺伝子の例としては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来PDF1.2遺伝子(NCBI Gene ID: 834469)等が挙げられる。
【0050】
VSP2遺伝子としては、特に制限されず、各種植物由来のVSP2遺伝子が挙げられる。各種植物由来のVSP2遺伝子は公知であり、該遺伝子の例としては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来VSP2遺伝子(NCBI Gene ID: 832546)等が挙げられる。
【0051】
プロモーターは、通常、転写開始点、その上流(5’側)の配列、及び必要に応じてその下流(3’側)の配列を含む。ジャスモン酸応答プロモーターとしては、VSP1等の遺伝子の転写開始点の塩基を+1、その下流(3´側)が正の値、その上流(5´側)が0又は負の値とした場合、例えば-10000~+500、好ましくは-5000~+200、より好ましくは-2000~+150のDNA領域内の、転写開始点を含む任意のDNA領域が挙げられる。なお、転写開始点が複数存在する場合は、最も転写量の多い転写開始点を選択することができる。ジャスモン酸応答プロモーターの長さ(塩基対数:bp)は、例えば500~10000 bp、好ましくは1000~5000 bp、より好ましくは1500~3000 bpの範囲の長さが挙げられる。
【0052】
ジャスモン酸応答プロモーターの具体例としては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来VSP1プロモーターの一例として配列番号7で示される塩基配列を含むプロモーターが挙げられる。
【0053】
ジャスモン酸応答プロモーターは、ジャスモン酸応答性遺伝子の内在性プロモーターと同等程度のジャスモン酸応答性を有する限りにおいて、塩基配列の変異(例えば、置換、欠失、挿入、付加等)を有していてもよい。この場合、変異を有するプロモーターの塩基配列は、ジャスモン酸応答性遺伝子の内在性プロモーターの対応塩基配列と、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する。変異の部位は、例えば公知の発現制御エレメント(例えばジャスモン酸応答領域、基本転写因子結合領域、各種アクチベーター結合領域等)以外の部位であることが望ましい。なお、発現制御エレメントのコンセンサス配列は既に公知であり、各種データベース上で容易に探索することができる。このようなデータベースとしては、例えばplantpromoterdb(http://ppdb.agr.gifu-u.ac.jp/ppdb/cgi-bin/index.cgi)等が挙げられる。
【0054】
ジャスモン酸応答プロモーターとしては、ジャスモン酸応答性遺伝子のプロモーター以外にも、人工プロモーターを使用することもできる。例えば、コアプロモーター領域及びジャスモン酸応答領域を含むプロモーターを任意にデザインして、ジャスモン酸応答プロモーターとして使用することができる。
【0055】
レポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列は、レポータータンパク質とNPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体との融合タンパク質をコードする塩基配列である限り特に制限されない。
【0056】
レポータータンパク質としては、上記発現カセット(A)と同様である。
【0057】
NPR1タンパク質は、サリチル酸経路で働くタンパク質である。各種植物由来のNPR1タンパク質のアミノ酸配列は公知である、或いは公知のNPR1遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列に基づいて(例えば、これらとの同一性解析等により)容易に決定することができる。一例として、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のNPR1遺伝子としては、NCBI RefSeq番号:NP_973862.1で特定されるアミノ酸配列(配列番号33)からなるタンパク質(NCBI RefSeq番号:NM_202133.1で特定されるmRNA配列中のコード配列(配列番号2)でコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質)が挙げられる。
【0058】
NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体は、NPR1タンパク質同士がS-S結合で連結してなるオリゴマーの形成が抑制された変異体である限り、特に制限されない。このような変異としては、典型的には、システイン残基の変異体(システイン残基の他のアミノ酸残基への変異体)が挙げられる。変異させるシステイン残基の位置は、オリゴマー形成が抑制される限り特に制限されず、例えばシロイヌナズナNPR1タンパクのアミノ酸配列(配列番号39)であれば、例えばN末端から156番目のアミノ酸残基(システイン残基)が挙げられる。シロイヌナズナ以外の植物における上記システイン残基は、シロイヌナズナにおける上記システイン残基に対応するシステイン残基として、例えばシロイヌナズナNPR1タンパク質のアミノ酸配列との同一性解析により、容易に同定することができる。より具体的には、例えばシロイヌナズナNPR 1タンパク質のアミノ酸配列(アミノ酸配列1)とシロイヌナズナ以外の植物におけるアミノ酸配列(アミノ酸配列2)とを比較して、同一性が最大となるように両者を並列に並べた場合に、アミノ酸配列2における、アミノ酸配列1中の上記システイン残基に対応するシステイン残基を、オリゴマー形成抑制に関与するシステイン残基と決定することができる。上記システイン残基の変異後のアミノ酸残基は、特に制限されず、アラニン残基、グリシン残基等の各種アミノ酸残基を採用することができる。
【0059】
NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体には、サリチル酸に応答して分解される性質が著しく損なわれない限りにおいて、オリゴマー形成抑制変異以外の、置換、欠失、付加、挿入等の変異(好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)を有していてもよい。
【0060】
本発明の好ましい一態様においては、NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体は、さらに、NPR1の下流へのシグナル伝達を抑制する変異を含むことが好ましい。このような変異としては、典型的には、システイン残基の変異体(システイン残基の他のアミノ酸残基への変異体)が挙げられる。変異させるシステイン残基の位置は、オリゴマー形成が抑制される限り特に制限されず、例えばシロイヌナズナNPR1タンパクのアミノ酸配列(配列番号39)であれば、例えばN末端から150番目のアミノ酸残基(システイン残基)が挙げられる。
【0061】
NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のアミノ酸配列は、同種植物の野生型NPR1タンパク質に対してオリゴマー形成抑制変異が加えられてなるアミノ酸配列と、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、よりさらに好ましくは99%以上の同一性を有する。また、NPR1タンパク質のアミノ酸配列は、同種植物の野生型NPR1タンパク質に対してオリゴマー形成抑制変異が加えられてなるアミノ酸配列と同一であるか又は該アミノ酸配列に対して1もしくは複数個(例えば2~10、好ましくは2~5、より好ましくは2~3個、さらに好ましくは2個)が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列である、遺伝子である。
【0062】
NPR1タンパク質は、上記性質を有する限りにおいて、公知のタンパク質タグ、シグナル配列、酵素タンパク質等のタンパク質が付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、上記発現カセット(A)と同様である。
【0063】
レポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列は、レポータータンパク質コード配列と、NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列とが、インフレームに連結されてなるコード配列である。両者の配置の順序は、特に制限されず、5’側からNPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列、レポータータンパク質コード配列の順に配置されていてもよいし、5’側からレポータータンパク質コード配列、NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列の順に配置されていてもよい。また、両者の向きは、特に制限されず、互いに同じ方向で配置されていてもよいし、互いが逆向きに配置されていてもよい。
【0064】
レポータータンパク質コード配列と、NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列とは、リンカーコード配列を含む他のコード配列を介して連結されていてもよいし、直接連結されていてもよいが、好ましくは前者である。リンカー、他の配列の長さについては、上記発現カセット(A)と同様である。
【0065】
また、レポータータンパク質コード配列は、1つのみであってもよいし、2つ以上(例えば2つ、3つ、4つ、5つ)であってもよい。レポータータンパク質コード配列が2つ以上である場合、各配列がコードするレポータータンパク質は同一であってもよいし異なっていてもよい。レポータータンパク質コード配列が2つ以上である場合、それぞれはタンデムに配置されていてもよいし、NPR1タンパク質コード配列や他のコード配列を介して配置されていてもよい。
【0066】
発現カセット(B)において、レポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列は、ジャスモン酸応答プロモーターの制御下に配置されている。換言すれば、レポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列は、該配列の転写がジャスモン酸応答プロモーターによって制御されるように配置されている。具体的な配置の態様上記発現カセット(A)と同様である。
【0067】
2-3.その他
本発明のポリヌクレオチドは、一態様において、発現カセット(A)及び発現カセット(B)を含む。これにより、サリチル酸経路及びジャスモン酸経路の拮抗や、活性化の字空間的変化をより効率的に検出することができる。
【0068】
本発明のポリヌクレオチドは、一態様において、レポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列及び/又はレポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列の下流に、該コード配列からの転写の終結シグナルを含むことが好ましい。終結シグナルは、コード配列からの転写を終結させることができる塩基配列である限り特に制限されない。「下流に」とは、特に制限されないが、例えばコード配列の3´末端の塩基から終結シグナルの5´末端の塩基までの間の塩基対数(bp)が、例えば100 bp以下、好ましくは50 bp以下、より好ましくは20 bp以下である態様が挙げられる。終結シグナルとしては、例えば、ヒートショックタンパク質終結シグナル(NosT (Noparin synthase Terminator)、HspT (Heat shock protein Terminator)、35sT (CaMV35S Terminator)等が挙げられる。
【0069】
本発明のポリヌクレオチドは、一態様において、発現カセット(A)及び/又は発現カセット(B)の上流に、T-DNA領域の左境界領域(LB: left border)を、該コード配列の下流にT-DNA領域の右境界領域(RB: right border)を有していることが好ましい。
【0070】
本発明のポリヌクレオチドは、上記以外の他の配列を、或いは上記の配列に加えて更に他の配列を含むものであってもよい。他の配列としては、特に制限されず、サブクローニング用ベクターや発現ベクターが含み得る公知の配列を各種採用することができる。このような配列の一例としては、例えば複製起点、薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、ホスフィノトリシン耐性遺伝子、クロルスルフロン耐性遺伝子、メトトレキサート耐性遺伝子、イミダゾリノン耐性遺伝子、グリホサート耐性遺伝子等が挙げられる。
【0071】
本発明のポリヌクレオチドはベクターの形態であってもよい。ベクターの種類としては、特に制限されず、例えばバイナリーベクター)、タバコモザイクウイルス、キュウリモザイクウイルス、アフリカキャッサバモザイクウイルス、リンゴ小球形潜在ウイルス、オオムギ斑葉モザイクウイルス、Bean pod mottle virus、Beet curly top virus、Brome mosaic virus、Cabbage leaf curl virus、Cotton leaf crumple virus、シンビジュームモザイクウイルス、ブドウAウイルス、Pea early browning virus、Poplar mosaic virus、ジャガイモXウイルス、Rice tungro bacilliform virus、サテライトタバコモザイクウイルス、Tobacco curly shoot virus、タバコ茎えそウイルス等の植物ウイルスベクター)、サブクローニング用ベクター等が挙げられる。
【0072】
本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写技術等を利用して作製することができる。
【0073】
3.形質転換体
本発明は、その一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含む、形質転換体(本明細書において、「本発明の形質転換体」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0074】
本発明の形質転換体は、本発明のポリヌクレオチドを、全細胞又は少なくとも一部の細胞のゲノム外及び/又はゲノム内に含む限りにおいて、特に制限されない。
【0075】
本発明の形質転換体の宿主としては、例えば植物細胞、植物体、植物体の一部(例えばリーフディスク等)、大腸菌などの原核細胞、動物細胞、動物等が挙げられる。後述の本発明のスクリーニング方法等にそのまま使用し得るという観点から、宿主としては、好ましくは植物細胞、植物体、植物体の一部が挙げられる。
【0076】
植物種については、特に制限されない。植物としては、例えばコケ植物、シダ植物、裸子植物、被子植物のモクレン類、単子葉類、真正双子葉類(バラ類I、バラ類II、キク類I、キク類II及びそれらの外群)を含む広い範囲の植物を挙げることができる。植物のより具体的な例としては、ゼニゴケ、トマト、ピーマン、トウガラシ、ナス、タバコ等のナス類; キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ等のウリ類; キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ等の菜類; セルリー、パセリー、レタス等の生菜・香辛菜類; ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ類; ダイズ、ラッカセイ、インゲン、エンドウ、アズキ等の豆類; イチゴ、メロン等のその他果菜類; ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ等の直根類; サトイモ、キャッサバ、ジャガイモ、バレイショ、サツマイモ、ナガイモ等のイモ類; イネ、トウモロコシ、コムギ、ソルガム、オオムギ、ライムギ、ミナトカモジグサ、ソバ等の穀類; ダイズ、アズキ、リョクトウ、ササゲ、インゲンマメ、ラッカセイ、エンドウ、ソラマメ等のマメ類; アスパラガス、ホウレンソウ、ミツバ等の柔菜類; トルコギキョウ、ストック、カーネーション、キク等の花卉類; ベントグラス、コウライシバ等の芝類; ナタネ、ラッカセイ、セイヨウアブラナ、ナンヨウアブラギリ等の油料作物類; ワタ、イグサ等の繊維料作物類; クローバー、デントコーン、タルウマゴヤシ等の飼料作物類; リンゴ、ナシ、ブドウ、モモ等の落葉性果樹類; ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類; サツキ、ツツジ、スギ、ポプラ、パラゴムノキ等の木本類等が挙げられる。
【0077】
本発明の形質転換体は、全細胞又は少なくとも一部の細胞において、本発明のポリヌクレオチドにコードされるレポーター融合タンパク質を発現していることが好ましい。この態様において、本発明の形質転換体の宿主は、植物細胞、植物体、又は植物体の一部であることが好ましい。この好ましい態様の形質転換体であれば、そのまま、後述の本発明のスクリーニング方法等において使用することができる。この態様においては、よりハイスループットのスクリーニングを可能ならしめるという観点から、宿主は、植物細胞又は植物体の一部(好ましくはリーフディスク)であることが好ましい。
【0078】
本発明の形質転換体は、宿主に、本発明のポリヌクレオチドを導入することにより作製することができる。導入方法は、特に制限されず、導入対象に応じて、適宜選択することができる。導入方法としては、例えばリーフディスク法、フローラル・ディップ法、フローラル・スプレー法等のアグロバクテリウム法)、パーティクル・ガン法)、ウイルス媒介性核酸送達)、エレクトロポレーション法等が挙げられる。これらの中でも、簡便性や安全性等の観点から、好ましくはアグロバクテリウム法が挙げられる。
【0079】
本発明は、その一態様において、植物体である本発明の形質転換体に成長する、種子、に関する。当該種子は、例えば本発明のポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた本発明の形質転換体の成熟体から、得ることができる。
【0080】
4.検出方法
本発明は、その一態様において、本発明の形質転換体の被検物質の存在下におけるレポーターシグナルを検出することを含む、方法(本明細書において、「本発明の検出方法」と示すこともある。)、に関する。以下、これについて説明する。
【0081】
被検物質としては、天然に存在する化合物又は人工に作られた化合物を問わず広く使用することができる。また、精製された化合物に限らず、多種の化合物を混合した組成物や、動植物の抽出液も使用することができる。化合物には、低分子化合物に限らず、タンパク質、核酸、多糖類等の高分子化合物も包含される。また、被検物質として病原菌の構成分子によって誘導される免疫(PTI:Pattern-Triggered- Immunity)又は病原菌が宿主に分泌するある種のタンパク質によって誘導される免疫(ETI:Effector-Triggered- Immunity)、或いはこれらに加えてさらに別の被検物質を用いることにより、PTIへの影響や、ETIへの影響を評価することも可能である。
【0082】
「被検物質の存在下」とは、本発明の形質転換体に被検物質が接触できる状態である限り特に制限されない。被検物質を接触させる態様は、特に制限されず、対象の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、対象が植物体やその一部である場合、接触の態様としては、例えば散布、滴下、塗布、環境中(例えば土壌中、水中、固形培地中、液体培地中等)への混合や溶解等が挙げられる。また、対象が植物細胞である場合、接触の態様としては、例えば培地への添加等が挙げられる。
【0083】
被検物質の接触時間は、被検物質がサリチル酸経路及び/又はジャスモン酸経路を調節できる程度の時間である限り、特に制限されない。該接触時間は、例えば1秒~72時間程度である。
【0084】
レポーターシグナルの検出は、レポーターの種類に応じて適切な手法により検出することができる。蛍光シグナルである場合は、例えば、対象を蛍光顕微鏡で観察することにより、検出することができる。発光シグナルである場合は、例えば、対象をプレートリーダーで検出することができる。
【0085】
本発明の検出方法によって、レポーターシグナルの経時変化及び/又は前記形質転換体内の空間的変化を検出することができる。例えば、発現カセット(A)を含む本発明のポリヌクレオチドを含む形質転換体を用いた場合であれば、被検物質接触後にレポーターシグナルが検出され、該シグナルがその後消失した場合は、サリチル酸経路が先に活性化され、後にジャスモン酸経路が活性化されたことを示す。また、別の例として、発現カセット(A)及び発現カセット(B)を含む本発明のポリヌクレオチド(或いは、発現カセット(A)を含む本発明のポリヌクレオチド及び発現カセット(B)を含む本発明のポリヌクレオチドと)を含む形質転換体を用いた場合であれば、被検物質接触後に発現カセット(A)由来のレポーターシグナルが検出され、その後、発現カセット(A)由来のレポーターシグナルと発現カセット(B)由来のレポーターシグナルの両方が検出された場合は、サリチル酸経路が先に活性化され、後にジャスモン酸経路が活性化されたことを示す。
【0086】
5.スクリーニング方法
本発明は、その一態様において、本発明の形質転換体の被検物質の存在下におけるレポーターシグナルを指標とする、プラントアクチベーターのスクリーニング方法(本明細書において、「本発明のスクリーニング方法」と示すこともある。)、に関する。以下、これについて説明する。
【0087】
被検物質、「被検物質の存在下」、被検物質の接触時間、及びレポーターシグナルの検出については、「5.検出方法」で説明したとおりである。
【0088】
本発明のスクリーニング方法は、より具体的には、下記工程(a)及び工程(b)を含み、さらに工程(c)を含むことが好ましい:
(a)本発明の形質転換体と被検物質とを接触させる工程、及び
(b)被検物質を接触させた前記形質転換体におけるレポーターシグナル強度(以下、「被検シグナル強度」)を測定し、該被検シグナル強度と、被検物質を接触させない前記形質転換体におけるレポーターシグナル強度(以下、「対照シグナル強度」)と比較する工程。
【0089】
(c)被検シグナル強度が対照シグナル強度よりも高い場合に、プラントアクチベーター(又はその候補物質)として選択する工程。
【0090】
工程(b)においては、被検シグナルの経時変化及び/又は前記形質転換体内の空間的変化を検出することにより、サリチル酸/ジャスモン酸経路の拮抗を観察することができ、それを踏まえたスクリーニングを行うことができる。
【0091】
本発明のスクリーニング方法は、さらに具体的な一態様(態様1)においては、発現カセット(A)を含む本発明のポリヌクレオチドを含む形質転換体を用いた場合であれば、被検シグナル強度を、対照シグナル強度と比較した結果、被検シグナル強度が対照シグナル強度よりも高い場合(例えば、被検シグナル強度が対照シグナル強度の1.1倍、1.3倍、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍の場合)に、被検物質をサリチル酸経路プラントアクチベーターとして選択することにより行うことができる。この場合において、被検シグナル強度が、被検物質の接触後、増加し、その後(レポーターシグナルの自然減衰の時間よりも短時間で)減少した場合は、サリチル酸経路及びジャスモン酸経路両方のプラントアクチベーターとして選択することができる。
【0092】
本発明のスクリーニング方法は、さらに具体的な一態様(態様2)においては、発現カセット(B)を含む本発明のポリヌクレオチドを含む形質転換体を用いた場合であれば、被検シグナル強度を、対照シグナル強度と比較した結果、被検シグナル強度が対照シグナル強度よりも高い場合(例えば、被検シグナル強度が対照シグナル強度の1.1倍、1.3倍、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍の場合)に、被検物質をジャスモン酸経路プラントアクチベーターとして選択することにより行うことができる。この場合において、被検シグナル強度が、被検物質の接触後、増加し、その後(レポーターシグナルの自然減衰の時間よりも短時間で)減少した場合は、サリチル酸経路及びジャスモン酸経路両方のプラントアクチベーターとして選択することができる。
【0093】
本発明のスクリーニング方法は、さらに具体的な一態様(態様3)においては、発現カセット(A)及び発現カセット(B)を含む本発明のポリヌクレオチド(或いは、発現カセット(A)を含む本発明のポリヌクレオチド及び発現カセット(B)を含む本発明のポリヌクレオチドと)を含む形質転換体を用いた場合であれば、被検シグナル強度を、対照シグナル強度と比較した結果、被検シグナル強度が対照シグナル強度よりも高い場合(例えば、被検シグナル強度が対照シグナル強度の1.1倍、1.3倍、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍の場合)に、被検物質をプラントアクチベーターとして選択することにより行うことができる。この場合において、発現カセット(A)被検シグナル強度が、被検物質の接触後、増加し、その後発現カセット(A)被検シグナル強度が減少し且つ発現カセット(B)被検シグナル強度が増加した場合は、サリチル酸経路及びジャスモン酸経路両方のプラントアクチベーターとして選択することができる。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0095】
試験例1.サリチル酸(SA)/ジャスモン酸(JA)センサーの構築
サリチル酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型JAZ1タンパク質コード配列を含むSAセンサーポリヌクレオチド、ジャスモン酸応答プロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質融合型NPR1タンパク質のオリゴマー形成抑制型変異体のコード配列を含むJAセンサーポリヌクレオチド、並びにこれら2つのセンサーを含むデュアルカラーセンサーを構築した。具体的には、以下のようにして行った。
【0096】
SAセンサーポリヌクレオチドの構成DNA断片は、5’側からPR1プロモーター(配列番号1)、制限酵素サイト(6bp)、JAZ1タンパク質コード配列(配列番号2)、制限酵素サイト(6bp)、6アミノ酸のリンカーコード配列(配列番号3)、synthetic GFP(sGFP)コード配列(配列番号4)、制限酵素サイト(6bp)、HSP90ターミネーター(配列番号5)を含む。SAセンサーポリヌクレオチドの構成DNA断片の塩基配列は配列番号6で示される。リンカーコード配列はPCRによりsGFPの5’側に付加した。DNA断片を、所定の制限酵素で消化して、pGreen0229ベクターに挿入して、SAセンサーポリヌクレオチドを得た。
【0097】
JAセンサーポリヌクレオチドの構成DNA断片は、5’側からVSP1プロモーター(配列番号7)、アミノ酸変異を導入したNPR1(C150/156A)コード配列(配列番号8)、6アミノ酸のリンカーコード配列(配列番号3)、monomeric red fluorescent protein 1 (mRFP1)コード配列(配列番号9)、HSP90ターミネーター(配列番号5)を含む。JAセンサーポリヌクレオチドの構成DNA断片の塩基配列は配列番号10で示される。DNA断片を、Golden Gate法によってpGreen0229ベクターに挿入した。具体的には次の通りである。それぞれのDNA断片は、BsaIサイトを含むForwardプライマーおよびReverseプライマーを用いて増幅した。PCR産物をTA cloning法によってpGEM-T Easyベクター (Promega Co.) に挿入することでGolden Gate法におけるドナーとした。リンカー配列は、PCRによりmRFP1の5’側に付加した。また、NPR1へのアミノ酸変異はMegaprimer法により行った。対象遺伝子の全長ORFを含むプラスミドを鋳型として、配列特異的Forwardプライマーと、変異導入用プライマーを用いてPCRを行い、末端付近に特異的塩基置換を持つDNA断片を得た。得られたDNA断片と配列特異的Reverseプライマーを用いて、全長ORFを含むプラスミドを鋳型としたPCRを再度行うことで、アミノ酸変異を施したDNA断片を得た。センサーの構築に用いた3つのプライマー(AtNPR1 PstI F、AtNPR1 BamHI R、AtNPR1 C150A/C156A R)の塩基配列を順に配列番号30~32に示す。
【0098】
デュアルカラーセンサーの構築は以下のように行った。SAセンサーを持つpGreen0229ベクターをXbaI/StuIで消化し、その両端にBsaIサイトを付加したLacZ遺伝子をSAセンサーの下流に挿入してレシピエントベクターを得た。次に、pGEM-T Easyベクターに導入されたJAセンサーの各DNA断片をGolden Gate法によってレシピエントベクターに挿入し、青白選択を行った。その結果得られたデュアルカラーセンサーは、5’側からPR1プロモーター(配列番号1)、制限酵素サイト(6bp)、JAZ1タンパク質コード配列(配列番号2)、制限酵素サイト(6bp)、6アミノ酸のリンカーコード配列(配列番号3)、synthetic GFP(sGFP)コード配列(配列番号4)、制限酵素サイト(6bp)、HSP90ターミネーター(配列番号5)、VSP1プロモーター(配列番号7)、アミノ酸変異を導入したNPR1(C150/156A)コード配列(配列番号8)、6アミノ酸のリンカーコード配列(配列番号3)、monomeric red fluorescent protein 1 (mRFP1)コード配列(配列番号9)、HSP90ターミネーター(配列番号5)を含む。全長の塩基配列は配列番号29で示される。部位特異的塩基置換に用いた18のプライマー(AtPR1pro EcoRI F、AtPR1pro SpeI R、AtJAZ1 SpeI F、AtJAZ1 BamHI R、sGFP ClaI SpeI BamHI 3GA F、sGFP XbaI R2、HSP90t-Xba1-Fw、HSP90t-Xba1-Rv、GG-VSP1p-Fw、GG-VSP1p-Rv、GG-NPR1-Fw、GG-NPR1-Rv、GG-L-mRFP-Fw、GG-mRFP-Rv、GG-HSP90-Ter2-Fw、GG-HSP90-Ter2-Rv、pGreenXbaI-BsaI-LacZ15-Fw、pGreenStuI-BsaI-LacZ15-Rv)の塩基配列を順に配列番号11~28に示す。
【0099】
SAセンサーポリヌクレオチドからは、JAZ1タンパク質(配列番号33)とsGFP(配列番号34)の融合タンパク質(配列番号35)が発現する。JAセンサーポリヌクレオチドからは、アミノ酸変異を導入したNPR1(C150/156A)タンパク質(配列番号36)とmRFP1(配列番号37)の融合タンパク質(配列番号38)が発現する。
【0100】
試験例2.タバコ形質転換体の作製
タバコ植物として日本たばこ産業株式会社から分譲されたベンサミアナタバコ (Nicotiana benthamiana) を用いた。乾熱滅菌した土太郎 (住友林業緑化株式会社) とバーミキュライトを2:1で混ぜた混合土を8割ほど入れ、その上にプライムミックス (サカタノタネ) を重層したポリエチレンポットに播種し、25℃の恒温室において24時間の明条件下で生育させた。処理を行った植物体は23℃の恒温室に移し、16時間の明条件及び8時間の暗条件下で静置した。
【0101】
アグロバクテリウムの形質転換を、公知の方法に準じて行った。100 ngのプラスミド(試験例1)と氷上で溶解したアグロバクテリウム (GV3101株) のElectro Cell 40 μLを混合し、氷上で10分間静置した。これを氷冷したキュベットに入れ、Micro PluserTM (Bio Rad) により、2.2 kVでエレクトロポレーションした。直ちに200 mLのSOC培地 [2% Bact Tryptone、0.5% Bact Yeast Extract、0.05% NaCl、10 mM MgCl2、10 mM MgSO4、20 mM glucose] をキュベットに加え、混合した。これを回収し、28℃で60分培養後50 μg/mLリファンピシン、50 μg/mLカナマイシンを含むLB寒天培地上に植菌し、28℃で2日間静置した。単コロニーを、同じ抗生物質を含む2 mLのLB液体培地を用いて28℃で一晩振とう培養した。この培養液と等量の80%グリセロールを加え、-80℃で保存した。
【0102】
アグロバクテリウムを介した遺伝子の一過的発現を、公知の方法に準じて行った。培養液に同じ抗生物質および15 μM アセトシリンゴンを含む3倍量のLB液体培地を加え、3-5時間振とう培養した。培養液を遠心分離 (13,000 x g、1分間) してアグロバクテリウムを集菌し、MES/MgCl2緩衝液 [10 mM MES-NaOH, pH 5.6、10 mM MgCl2] に懸濁した後、再び遠心分離した。集菌したアグロバクテリウムをOD600が0.3になるように150μMアセトシリンゴンを含むMES/MgCl2緩衝液に懸濁し、室温で1時間静置した後、針のないシリンジを用いて播種後約4週間のベンサミアナ葉の細胞間隙に注入した。
【0103】
試験例3.シロイヌナズナ形質転換体の作製
シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) として、ARBC (Arabidopsis Biological Resource Center) より購入した野生型 (Col-0) を用いた。乾熱滅菌したソイルミックスとバーミキュライトを1:1で混ぜ、この混合土を入れたポリエチレンポットに播種し、22℃、8時間の明条件および16時間の暗条件で栽培した。
【0104】
形質転換用のシロイヌナズナは、公知の方法に準じて以下のように育成した。播種後3週間のシロイヌナズナが抽苔し始め、茎の高さが数cmになったところで摘心した。数日おきに摘心したシロイヌナズナを形質転換に供試した。
【0105】
50μg/mLカナマイシン、50μg/mLリファンピシンを加えたLB液体培地2 mLを入れた試験管中で28℃、一晩プラスミドを導入したアグロバクテリウム (GV3101株) を振とう培養した。培養液をそれぞれ同じ抗生物質を含むLB液体培地で3倍希釈し、15 μMになるようにアセトシリンゴン溶液を加え、4時間振とう培養した。培養液を遠心分離 (13,000 x g、1分間) してアグロバクテリウムを集菌し、1 mLの浸潤用懸濁液 [2.2 mg/mL Murashige and Skoog basal medium (日本製薬)、1 x B5 Vitamin、50 mg/mLスクロース、0.5 mg/mL MES (pH 5.7)、44 nM ベンジルアミノプリン、0.02 % Silwet L-77] 中に懸濁した。
【0106】
形質転換を行う前に、すでに結実している花を取り除いた。新しい花芽に20μL のアグロバクテリウム懸濁液を滴下した後、カップを被せて植物全体を覆い、22℃で12時間の明条件および12時間の暗条件下で1日静置した。その後、カップを外し、数日から1週間水を与えずに育成し、土が乾いたタイミングで少量の水を与えた。アグロバクテリウム接種後、約2~4週間で種子を採取した。
【0107】
形質転換体の選抜は、以下のように行った。採取した種子を以下の手順で表面殺菌した。70 % エタノール中で1分間静置した後、エタノールを除き、2 % 次亜塩素酸ナトリウムを加えて10分間静置した。その後、滅菌水で5回洗い、250μg/mL クラフォランを含む0.1 % Agar溶液に懸濁した。7.5μg/mLビアラホスを含む選抜用Murashige-Skoog寒天培地 [2.2 mg/mL Murashige and Skoog basal medium (日本製薬)、1 x B5 Vitamin、10 mg/mLスクロース、0.8 % Bacto Agar (Becton, Dickinson and Co.)] に種子懸濁液を一様に広げた。4℃で2日静置した後、23℃の人工気象器に移して発芽させ、ビアラホス耐性植物を選抜した。この植物の本葉が5~6枚展開するまで育てた後、培養土に移植した。4~5週間育成し、個々の植物からT2種子を得た。T2種子を選抜用寒天培地に播いて発芽させ、選抜遺伝子の分離比をおよびホルモン処理による蛍光を確認した。蛍光の確認された個体を培養土に移植して育成し、T3種子を得た。
【0108】
試験例4.SAセンサーによるSA応答及びJA応答
SAセンサーを導入したシロイヌナズナ形質転換体に対してSA処理、JA処理を行い、その応答を観察した。具体的には以下のようにして行った。
【0109】
4 mMのSA溶液を葉の細胞間隙内に針のない注射器で注入し、注入5時間後に蛍光顕微鏡下で観察した。更に、SA処理5時間後の葉組織に100μMのMeJA溶液を注入処理し、同様に蛍光顕微鏡下で観察した。
【0110】
SA処理から5時間後の観察画像を
図1に示す。SA処理から5時間後、JAで処理した後の観察画像を
図2に示す。SAセンサーは、SA処理により応答し、JA処理により抑制されることが分かった。
【0111】
試験例5.JAセンサーによるJA応答及びSA応答
JAセンサーを導入したシロイヌナズナ形質転換体に対してJA処理、SA処理を行い、その応答を観察した。具体的には以下のようにして行った。
【0112】
100μMのMeJA溶液を葉の細胞間隙内に針のない注射器で注入し、注入4時間後に共焦点レーザー顕微鏡下で観察した。更に、MeJA処理4時間後の葉組織に4 mMのSA溶液を注入処理し、同様に共焦点レーザー顕微鏡下で観察した。
【0113】
JA処理から4時間後の観察画像を
図3に示す。JA処理から4時間後、SAで処理した後の観察画像を
図4に示す。JAセンサーは、JA処理により応答し、SA処理により抑制されることが分かった。
【配列表】