(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】色調変化のためのインジケータ、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
C09B 47/00 20060101AFI20240129BHJP
C09B 47/30 20060101ALI20240129BHJP
C09B 67/02 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C09B47/00
C09B47/30
C09B67/02 A
(21)【出願番号】P 2020022208
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】江口 美陽
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132945(JP,A)
【文献】特開2007-161767(JP,A)
【文献】特開2011-150037(JP,A)
【文献】特開2007-163169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 47/00
C09B 47/30
C09B 67/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水膨潤性の層状ケイ酸塩の粒子と、前記粒子の表面に吸着され
た、次式のいずれかで表されるテトラピロール環を有する中性化合物と、ハンセン溶解度パラメータの極性項又は水素結合項が7.0MPa
0.5以上35MPa
0.5以下である有機溶媒と、を含有する複合
体を備える色調変化のためのインジケータ。
【化1】
【請求項2】
前記中性化合物が、ポルフィリン、クロリン、バクテリオクロリ
ン、及び、フタロシアニ
ンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の
インジケータ。
【請求項3】
前記中性化合物がポルフィリ
ンである、請求項1又は2に記載の
インジケータ。
【請求項4】
前記水膨潤性の層状ケイ酸塩が、カオリナイト類、又は、スメクタイト類である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
インジケータ。
【請求項5】
前記水膨潤性の層状ケイ酸塩がサポナイトである、請求項1~4のいずれか1項に記載の
インジケータ。
【請求項6】
前記粒子の平均粒子径が10~100μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の
インジケータ。
【請求項7】
前記中性化合物がテトラフェニルポルフィリ
ンである、請求項1~6のいずれか1項に記載の
インジケータ。
【請求項8】
前記有機溶媒の含有量は、前記複合体の全質量に対して0.1~10質量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の
インジケータ。
【請求項9】
前記有機溶媒は、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、エタノール、及び、メタノールからなる群から選択される、請求項1~8のいずれかに記載の
インジケータ。
【請求項10】
前記複合体は、基材上に位置する、請求項1~9のいずれか1項に記載の
インジケータ。
【請求項11】
請求項1
~10のいずれか1項に記載の
インジケータを製造するための
インジケータの製造方法であって、
ハンセン溶解度パラメータの極性項又は水素結合項が7.0MPa
0.5以上35MPa
0.5以下である有機溶媒
に次式のいずれかで表される中性化合物、及び、水膨潤性の層状ケイ酸塩を分散させ、前記有機溶媒中で複合体を得ること
と、
前記複合体を乾燥させて、前記有機溶媒の一部を除去することと
を含む、
インジケータの製造方法。
【化2】
【請求項12】
前記有機溶媒の一部を除去することは、減圧乾燥を行うことを含む、請求項11に記載
のインジケータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色調変化のためのインジケータ、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒の影響により可視吸収スペクトルが変化するソルバトクロミック色素が知られている。
特許文献1には、「ポルフィリン化合物を層状ケイ酸塩の層間に挿入した複合体からなるソルバトクロミック色素。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に具体的に記載されているソルバトクロミック色素は、溶媒に浸漬したり、乾燥させて溶媒を十分除去したりすると、色調が変わるものの、環境中の微少な変化を検知するために使用するには、色調変化を起こさせるための溶媒含有量の変化量が大きすぎるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、色調変化を起こさせるための溶媒含有量の変化量がより少なくて済む複合体を提供することを課題とする。また、本発明は、積層体、及び、複合体の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0007】
[1] 水膨潤性の層状ケイ酸塩の粒子と、上記粒子の表面に吸着されたテトラピロール環を有する中性化合物と、ハンセン溶解度パラメータの極性項又は水素結合項が7.0MPa0.5以上である有機溶媒と、を含有する複合体。
[2] 上記中性化合物が、ポルフィリン、クロリン、バクテリオクロリン、コリン、及び、フタロシアニン、並びに、これらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である[1]に記載の複合体。
[3] 上記中性化合物がポルフィリン、又は、ポルフィリン誘導体である、[1]又は[2]に記載の複合体。
[4] 上記水膨潤性の層状ケイ酸塩が、カオリナイト類、又は、スメクタイト類である、[1]~[3]のいずれかに記載の複合体。
[5] 上記水膨潤性の層状ケイ酸塩がサポナイトである、[1]~[4]のいずれかに記載の複合体。
[6] 上記粒子の平均粒子径が10~100μmである、[1]~[5]のいずれかに記載の複合体。
[7] 上記中性化合物がテトラフェニルポルフィリン、又は、その誘導体である、[1]~[6]のいずれかに記載の複合体。
[8] 上記中性化合物がテトラフェニルポルフィリン、又は、その誘導体であり、上記水膨潤性の層状ケイ酸塩がサポナイトである、[1]~[7]のいずれかに記載の複合体。
[9] 基材と、上記基材の表面上に配置された、[1]~[8]のいずれかに記載の複合体を含有する複合体層と、を有する積層体。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の複合体を製造するための複合体の製造方法であって、ハンセン溶解度パラメータの極性項又は水素結合項が7.0MPa0.5以上である有機溶媒に上記中性化合物、及び、上記水膨潤性の層状ケイ酸塩からなる群より選択される少なくとも一方を分散させ、前記有機溶媒中で複合体を得ることを含む、複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、色調変化を起こさせるための溶媒含有量の変化量がより少なくて済む複合体を提供することができる。また、本発明によれば、積層体、及び、複合体の製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る積層体の一実施形態の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[複合体]
本発明の実施形態に係る複合体(以下、「本複合体」ともいう。)は、水膨潤性の層状ケイ酸塩の粒子と、上記粒子の表面に吸着されたテトラピロール環を有する中性化合物と、溶媒と、を含む。上記複合体により本発明の効果が得られる機序としては必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のとおり推測している。
なお、以下の機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれる。
【0012】
特許文献1に記載されたソルバトクロミック色素は、層状ケイ酸塩の層間にポルフィリン分子が配向しているため、溶媒が浸入/乾燥することで、層状ケイ酸塩の層間距離を変化し、これによって層間のポルフィリン分子の配向状態が変化して色調の変化が起きる。従って、層状ケイ酸塩の層間距離が変化する程度に十分に溶媒が浸入したり、又は、層状ケイ酸塩の層間距離が変化する程度に十分に溶媒が除去されたりして初めて色調が変わる。言い換えれば、色調の変化を起こさせるために必要な溶媒含有量の変化量が多い。
すなわち、微少な環境変化(密閉系の開放等)を検知するには不十分だった。
【0013】
一方で、本複合体は層状ケイ酸塩の層間ではなく、水膨潤性の層状ケイ酸塩の粒子、すなわち、水膨潤性の層状ケイ酸塩の固体の表面にテトラピロール環を有する中性化合物が吸着した状態となっているものと推測される。これは、層状ケイ酸塩粒子と中性化合物とを特定の溶媒中で、ファンデルワールス力等の弱い相互作用で複合化させたためであると推測される。
【0014】
本発明の複合体は、乾燥によって層状ケイ酸塩の粒子の表面を被覆していた有機溶媒が少なくなると、中性化合物の塩基部位と層状ケイ酸塩粒子の表面の酸との直接相互作用を起こさせることができる。
本複合体では、この吸着相互作用の強さの違い(直接相互作用が起きたか否か)により色調の変化が起きており、特許文献1の色素とは色調変化の原理が異なり、これが感度の違いに影響しているものと推測される。
以下では、本複合体中の各成分について詳述する。
【0015】
〔層状ケイ酸塩の粒子〕
水膨潤性の層状ケイ酸塩の粒子が含有する層状ケイ酸塩としては特に制限されず、公知の水膨潤性の層状ケイ酸塩が挙げられる。
なお、本明細書において、水膨潤性の層状ケイ酸塩とは、水中で結晶間に水が浸入して膨潤する層状ケイ酸塩を意味し、天然に得られるものであっても、合成されるものであってもよい。水膨潤性の層状ケイ酸塩は、水中では、薄片状の微粒子(微結晶)となって分散する。
【0016】
本複合体における水膨潤性の層状ケイ酸塩の粒子の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、一般に複合体の全質量に対して、50.0~99.89質量%が好ましい。なお、複合体は、水膨潤性の層状ケイ酸塩の粒子の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。複合体が、2種以上の水膨潤性の層状ケイ酸塩の粒子を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0017】
このような水膨潤性の層状ケイ酸塩としては特に制限されないが、カオリナイト類、及び、スメクタイト類等が挙げられる。カオリナイト類としては、特に制限されないが、カオリナイト、及び、ハロイサイト等が挙げられる。また、スメクタイト類としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、スティーブンサイト、及び、ヘクトライト等が挙げられる。
水膨潤性の層状ケイ酸塩としては、より効率的に複合体が得られる点で、スメクタイト類が好ましく、サポナイトがより好ましい。
【0018】
上記粒子の粒子径としては特に制限されないが、一般に、10~100μmが好ましい。なお、本明細書において、粒子の粒子径は、走査型顕微鏡像における50個の粒子の直径の算術平均を意味する。なお、上記直径は、粒子の短径と長径の算術平均を意味する。
【0019】
〔テトラピロール環を有する中性化合物〕
本明細書においてテトラピロール環を有する中性化合物(以下、「特定中性化合物」ともいう。)とは、後述するテトラピロール環を有し、かつ、極性が低く水に溶解しにくい化合物を意味し、より具体的には、水への溶解度が0.5mg/100gH2O(20℃)以下の化合物(水に不溶である化合物を含む)を意味し、0.1mg/100gH2O(20℃)以下が好ましく、0.01mg/100gH2O(20℃)以下がより好ましく、水に不溶であることが更に好ましい。
【0020】
本複合体における特定中性化合物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、一般に、複合体の全質量に対して、0.01~40質量%が好ましい。なお、複合体は、特定中性化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。複合体が、2種以上の特定中性化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0021】
また、本明細書においてテトラピロール環とは、4個のピロール(又はその誘導体)を含む環状構造を有する化合物を意味し、ポルフィリン、クロリン、バクテリオクロリン、コリン、及び、フタロシアニン、並びに、これらの誘導体が挙げられ、なかでも、ポルフィリン誘導体が好ましい。
特に制限されないが、テトラピロール環を有する化合物としては、例えば、以下の式に記載した化合物、又は、以下の式に記載した化合物の誘導体化合物が挙げられる。
【0022】
【0023】
本複合体の大きさとしては特に制限されないが、一般に10~1000μmが好ましい。
【0024】
〔溶媒〕
本発明に係る複合体は、ハンセン溶解度パラメータの極性項又は水素結合項が7.0MPa0.5以上である有機溶媒(以下、「特定有機溶媒」ともいう。)を含有する。なお、極性項、及び、水素結合項の上限値としては特に制限されないが、一般に、35MPa0.5が好ましい。
本複合体における特定有機溶媒の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、一般に複合体の全質量に対して、0.1~10質量%が好ましい。なお、複合体は、特定有機溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。複合体が、2種以上の特定有機溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0025】
なお、本明細書において、ハンセン溶解度パラメータとは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項、極性項、及び、水素結合項の3成分に分割し、3次元空間に表したものである。分散項は分散力による効果、極性項は双極子間力による効果、水素結合項は水素結合力による効果を示す。
【0026】
なお、ハンセン溶解度パラメータの定義と計算は、Charles M.Hansen著「Hansen Solubility Parameters;A Users Handbook,Second Edition(CRC Press,2007)」のに記載されている。また、コンピュータソフトウェア「Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)」を用いることにより、文献値等が知られていない溶媒に関しても、その化学構造から簡便にハンセン溶解度パラメータを推算することができる。
なお、本明細書におけるハンセン溶解度パラメータは、文献値を用いた。
【0027】
特定有機溶媒(ハンセン溶解度パラメータの分散項/極性項/水素結合項)としては、例えば、酢酸エチル(15.8/5.3/7.2)、ジオキサン(19/1.8/7.4)、テトラヒドロフラン(16.8/5・7/8)、アセトン(15.5/10.4/7.0)、アセトニトリル(15.3/18/6.1)、エタノール(15.8/8.8/19.4)、及び、メタノール(15.1/12.3/22.3)等が挙げられる。
【0028】
本複合体は、色調の変化に必要とされる、溶媒の含有量の変化量が少ないため、微少な環境の変化であっても検知することができ、インジケータ等として使用できる。具体的には、本複合体を予め密封した場合、開封されると本複合体が乾燥する過程で色調が変化していくため、密封状態が維持されているか否か、及び/又は、開封(開放)後の経過時間を判断するためのインジケータとして使用できる。
【0029】
[積層体]
本発明に係る積層体(以下「本積層体」ともいう。)は、基材と、基材上に配置された複合体とを有する積層体である。
図1は、本積層体の一実施形態の模式的な断面図である。積層体10は、基材11と、上記基材11上に配置された複合体12とを有する。
【0030】
なお、積層体10は、平板状の基材11を有しており、複合体12は、その一方側の主面上に配置されているが、本積層体としては上記に制限されず、基材の形状は、平板状以外にも、曲面を有する3次元形状であってもよく、例えば、多孔質の粒状物等であってもよい。また、複合体は平板上の基材の両方の主面上に配置されていてもよい。また、基材が多孔質体であれば、基材の表面に複合体が担持されている形態であってもよい。
また、積層体10においては、基材11の一方側の主面の全体を覆うように複合体12が配置されているが、基材の表面の少なくとも一部に複合体が配置されていればよい。
基材としては特に制限されず、金属、ガラス、酸化物、及び、樹脂等が挙げられる。このような積層体は、インジケータ等として機能する。
【0031】
[本複合体の製造方法]
本複合体の製造方法は、特定有機溶媒に中性化合物、及び、水膨潤性の層状ケイ酸塩からなる群より選択される少なくとも一方を分散させ、前記有機溶媒中で複合体を得ることを含む、複合体の製造方法である。
【0032】
特定有機溶媒に中性化合物、及び/又は、水膨潤性の層状ケイ酸塩とを分散させる方法としては特に制限されないが、分散液に対して所定量の中性化合物と層状ケイ酸塩とを添加し、攪拌する方法等が挙げられる。
例えば、温度が10~50℃で、1時間~5日間静置する方法等が使用できる。
【0033】
なお、有機溶媒中で複合体を得る方法としては、特定有機溶媒に、中性化合物、又は、水膨潤性の層状ケイ酸塩の一方を分散し、別の有機溶媒に、中性化合物、又は、水膨潤性の層状ケイ酸塩の他方を分散しそれらを混合する方法であってもよい。この場合、「別の有機溶媒」は、特定有機溶媒と同一であっても異なってもよいが、特定有機溶媒と同一種類の有機溶媒であることが好ましい。
なお、「同一種類」とは、有機溶媒の種類は同じであるが、別に準備されたものを意味する。すなわち、一方の特定有機溶媒に中性化合物を分散させ、他方の特定有機溶媒に層状ケイ酸塩の粒子を分散させることを意味する。
【0034】
複合体中の有機溶媒の含有量を調整するために、複合体を乾燥させて、有機溶媒の一部を除去してもよい。有機溶媒を除去する方法としては特に制限されないが、減圧乾燥する方法が挙げられる。減圧乾燥の際の温度としては特に制限されないが、一般に、10~50℃が好ましい。
【0035】
上記製造方法によれば、中性化合物が水膨潤性の層状ケイ酸塩の粒子の表面に吸着された複合体を簡便に製造できる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0037】
[実施例1:複合体1の製造]
テトラフェニルポルフィリン(STREM Chemicals社製、以下「TPP」ともいう。)の0.2mgを、テトラヒドロフラン(THF)の13mLに溶解させ、TPPのTHF溶液を調製した。次に、上記THF溶液にサポナイト(製品名「スメクトン-SA」、クニミネ工業株式会社製)の50mgを入れて混合し、25℃で3日間静置して十分平衡化させた。その後、ろ過し、30分間減圧乾燥して、複合体を得た。
【0038】
得られた複合体は淡赤色の粉末であった。この粉末を走査型電子顕微鏡で観察したところ、粒子径は、10~50μmだった。
【0039】
[比較例1:複合体C1の製造]
特開2007-161767号公報の0019段落に記載された方法を参考に、「Snポルフィリン化合物」に代えて、α,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィリン p-トルエンスルホナート(TMPyP)を用いて、膜状の複合体を製造した。
なお、TMPyPは以下の式で表される化合物であり、水への溶解度が8mg/100gH2O(20℃)である。得られた複合体は緑色だった。
【0040】
【0041】
[比較例2:混合物C2の製造]
テトラフェニルポルフィリンの1mgとサポナイトの50mgを粉体混合して、混合物C2を得た。得られた粉末は白色だった。
【0042】
[評価]
実施例1の複合体500mgを、内容積20mlのガラス容器に密閉した。このとき、複合体は淡赤色だった。その後、上記容器を大気開放したところ、複合体の色調は速やかに緑色に変化した。
【0043】
一方、比較例1の複合体C1の500mgをTHFに浸漬したところ、色調が緑から淡赤色に変化した。これをろ過し、30分間減圧乾燥したところ、色調が緑に変化した。この複合体を上記ガラス容器に密閉し、その後、大気開放しても、複合体の色調は変化しなかった。すなわち、減圧乾燥のように大量の溶媒が除去される場合には、複合体の色調が変化するが、密閉容器の開閉程度の微細な変化では、複合体の色調は変化しなかった。
【0044】
次に、混合物C2についても、実施例1の複合体と同様の方法で評価したが、色調は変化しなった。
【0045】
(X線回折)
複合体1のX線回折の測定結果を
図2に示した。
図2中、「複合体」とあるのは、複合体1の測定結果であり、「サポナイト」とあるのは、サポナイトのみの測定結果である。
図2中、横軸は回折角(°)を表し、縦軸は、強度(Count Per Second)である。
【0046】
図2に示した結果から、両者のピーク位置(2θ)は、6.9°付近で変化がなかった。これは、層間距離d=12.8オングストロームに対応するもので、サポナイトの層(シート)の厚みが9.6オングストロームであり、3.2オングストロームは吸着した水分によるものと考えられる。
すなわち、複合体1においては、TPPとの複合化によって、サポナイトの層間距離はほとんど影響を受けていないことがわかった。これにより、複合体1においては、TPPが、サポナイトの層間よりも、サポナイトの表面に担持されているこが示唆された。
【0047】
なお、Langmuir 2013, 29, 2108-2119の
図13(a)「air」に記載されているとおり、サポナイトの層間に金属ポルフィリン化合物が挿入された複合体においては、層間距離が13.5オングストローム(差が3.9オングストローム)となるため、この結果からも複合体1において、TPPはサポナイトの層間よりも、サポナイトの表面に担持されていることが示唆された。