(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着製品及びその剥離方法
(51)【国際特許分類】
C09J 133/04 20060101AFI20240129BHJP
C09J 9/02 20060101ALI20240129BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240129BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240129BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J9/02
C09J11/06
C09J7/38
B32B27/00 M
(21)【出願番号】P 2020025563
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】592103442
【氏名又は名称】ビッグテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】共田 陸史
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-001360(JP,A)
【文献】特開2010-037355(JP,A)
【文献】国際公開第2017/064918(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157406(WO,A1)
【文献】特表2018-513225(JP,A)
【文献】特開2010-095675(JP,A)
【文献】特開2020-164778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 133/04
C09J 9/02
C09J 11/06
C09J 7/38
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマーと、
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1-ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1-ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドから選択されるイオン液体と、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルとを含み、前記イオン液体の含有量及び前記ポリエチレングリコールのアルキルエーテルの含有量がそれぞれ前記アクリル系ポリマー100重量部に対して5重量部以上30重量部以下であ
り、
前記ポリエチレングリコールのアルキルエーテルが、120以上360以下の重量平均分子量を有するポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールジプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ポリエチレングリコールジイソプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールジブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ポリエチレングリコールジイソブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノペンチルエーテル及びポリエチレングリコールジペンチルエーテルから選択される、電気剥離性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコールのアルキルエーテルが、120以上360以下の重量平均分子量を有する
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル又はポリエチレングリコールジメチルエーテルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アクリル系ポリマーが、炭素数1以上8以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有アクリル系モノマー及び/又はヒドロキシル基含有アクリル系モノマーとの共重合体を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物を、導電性の物体に接するように貼り付け、前記組成物に10Vの電圧を10秒間印加した場合、前記組成物が直接貼り付けた導電性の物体から糊残りなく剥離可能であって、前記導電性の物体が、導電性の被着体、導電性補助材、導電性の基材又は導電性の固定対象物のいずれかである、請求項1~
3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
基材と、前記基材に接するように形成された電気剥離性粘着剤層とを有し、前記電気剥離性粘着剤層が、請求項1~
4のいずれか1つに記載の電気剥離性粘着剤組成物を含む、電気剥離性粘着製品。
【請求項6】
芯材と、前記芯材の両面にそれぞれ接するように形成された2つの電気剥離性粘着剤層とを有し、前記電気剥離性粘着剤層が、
アクリル系ポリマーと、
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1-ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1-ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドから選択されるイオン液体と、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルとを含み、前記イオン液体の含有量及び前記ポリエチレングリコールのアルキルエーテルの含有量がそれぞれ前記アクリル系ポリマー100重量部に対して5重量部以上30重量部以下である、電気剥離性粘着剤組成物を含む、電気剥離性粘着製品。
【請求項7】
前記粘着製品が、粘着テープ又は粘着シートである、請求項
5又は
6に記載の粘着製品。
【請求項8】
請求項
5~7のいずれか1つに記載の粘着製品を、導電性の物体上に前記粘着剤層が接するように貼り付けた後、導電性の物体を介して前記粘着剤層に30V以下の電圧を印加することにより、前記粘着製品を直接貼り付けた前記導電性の物体から剥離させる方法であって、前記導電性の物体が、導電性の被着体、導電性補助材又は導電性の固定対象物のいずれかである、電気剥離性粘着製品の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気剥離性粘着剤組成物に関する。また、本発明は、電気剥離性粘着製品に関する。更に、本発明は、当該製品の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被着体への粘着性及び被着体からの剥離性を有する粘着剤や粘着テープが、種々の用途(例えば、表面保護フィルム、塗装用マスキングテープ、剥離可能なメモ等)で使用されている。これらのうち、粘着テープは、一般的に基材と、その上に積層された粘着剤層とで構成されている。この粘着剤層は、被着体の運搬時、貯蔵時、加工時等には、被着体から剥離しない程度の粘着性を有するが、機能を果たした後には、容易に取り除きうる剥離性を有していることが必要となる。
【0003】
被着体からの粘着剤の剥離方法としては、物理的方法以外に、光、熱、振動、又は通電による刺激にて剥離する方法等が知られている。通電による剥離性を実現する方法として、例えば特開2010-037354号公報(特許文献1)等に記載された方法が提案されている。特許文献1では、粘着剤にポリマーとイオン液体とを使用することにより、電圧の印加によって被着体から剥離可能な粘着剤が提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
使用時の粘着力が強く、かつ30V以下のような低電圧の印加でも剥離性(粘着力の低下)に優れ、剥離後に被着体上に粘着剤が残らない(すなわち、糊残りのない)電気剥離性粘着製品の開発がさらに望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アクリル系ポリマーと、10-4 S/cm以上10-2 S/cm以下のイオン伝導率を示すイオン液体と、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルとを含み、イオン液体の含有量及びポリエチレングリコールのアルキルエーテルの含有量がそれぞれアクリル系ポリマー100重量部に対して5重量部以上30重量部以下である、電気剥離性粘着剤組成物を提供する。
【0007】
更に、本発明は、基材と、基材に接するように形成された電気剥離性粘着剤層とを有し、電気剥離性粘着剤層が、電気剥離性粘着剤組成物を含む電気剥離性粘着製品を提供する。
更に、本発明は、芯材と、芯材の両面それぞれ接するように形成された2つの電気剥離性粘着剤層とを有し、電気剥離性粘着剤層が、電気剥離性粘着剤組成物を含む電気剥離性粘着製品を提供する。
【0008】
更に、本発明は、電気剥離性粘着製品を、導電性の物体上に電気剥離性粘着剤層が接するように貼り付けた後、導電性の物体を介して電気剥離性粘着剤層に30V以下の電圧を印加することにより、電気剥離性粘着製品を直接貼り付けた導電性の物体から剥離させる方法であって、導電性の物体が、導電性の被着体、導電性補助材又は導電性の固定対象物のいずれかである、電気剥離性粘着製品の剥離方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、糊残りがほとんどなく、剥離性が良好な新規電気剥離性粘着製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】片面テープの形態の電気剥離性粘着製品の例である。
【
図2】両面テープの形態の電気剥離性粘着製品の例である。
【
図3A】導電性の被着体と導電性の基材に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から導電性の基材を剥離させる回路例である。
【
図4A】導電性の被着体と導電性の固定対象物に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から導電性の固定対象物を剥離させる回路例である。
【
図5A】導電性の被着体と導電性補助材に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から非導電性の固定対象物を剥離させる回路例である。
【
図6A】導電性補助材と導電性の固定対象物に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から導電性の固定対象物を剥離させる回路例である。
【
図7A】非導電性の被着体に粘着させた導電性補助材と非導電性の固定対象物に粘着させた導電性補助材に電圧を印加し、電気剥離性粘着製品から非導電性の固定対象物を剥離させる回路例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[電気剥離性粘着剤組成物]
本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物(以下、単に粘着剤組成物ともいう)は、アクリル系ポリマー、イオン液体と、移動促進剤とを含む。
【0012】
(アクリル系ポリマー)
本実施形態のアクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーを、任意の重合開始剤の存在下で重合させることで得ることができる。アクリル系ポリマーは、導電性の物体に粘着できさえすれば、どのようなポリマーも使用できる。導電性の物体とは、導電性の被着体、導電性補助材、導電性の基材又は導電性の固定対象物を指す(これらの定義については後述)。アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、粘着性の観点から、10万以上500万以下が好ましく、20万以上400万以下がより好ましく、30万以上300万以下が更に好ましい。ここで、重量平均分子量は、Shodex社のGPC (System21)を用い、移動相をテトラヒドロフランとして算出した値を意味する。この値は、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0013】
アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、0℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下が更に好ましい。上記Tgは、例えば下式のFox式に基づいて算出することができる。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+・・・・・+(Wn/Tgn)
【0014】
アクリル系ポリマーは、架橋剤を作用させることで、架橋させてもよい。架橋剤としては、例えば、トルエンジイソシアネート及びメチレンビスフェニルイソシアネート等のイソシアネート系架橋剤が挙げられる。架橋剤の使用割合は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、1重量部以上であることが好ましい。アクリル系ポリマーを架橋させることで、粘着剤組成物を基材上に層として形成した場合、その層の耐クリープ性や耐せん断性を改良することができる。架橋剤のより好ましい使用割合は、5重量部以上10重量部以下である。
【0015】
上記アクリル系ポリマーは、炭素数1以上8以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有アクリル系モノマー及び/又はヒドロキシル基含有アクリル系モノマーとの共重合体を含むことがより好ましい。アクリル系ポリマーが、これらの共重合体を含むことで、粘着力に優れた粘着剤組成物となる。
【0016】
(1)アクリル系モノマー
アクリル系モノマーには、炭素数1以上14以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが主成分(50重量%以上)として含まれていることが好ましい。なお、(メタ)アクリレートは、メタクリレート又はアクリレートを意味する。
【0017】
炭素数1以上14以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、及びドデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。これらアルキル(メタ)アクリレートの内、炭素数1以上8以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、n-ブチル(メタ)アクリレートが更に好ましく、n-ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0018】
他のアクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有モノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、及び(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)-メチルアクリレート等のヒドロキシル基含有モノマーが挙げられる。これら他のアクリル系モノマーは、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。他のアクリル系モノマーとしては、カルボキシル基含有モノマー又はヒドロキシル基含有モノマーのいずれか、あるいはその両方が含まれていることが好ましい。
【0019】
アクリル系モノマーは、上記の他のアクリル系モノマーを使用せず、アルキル(メタ)アクリレートのみからなっていてもよい。また、所望の性能の粘着剤組成物を容易に入手する観点から、他のアクリル系モノマーが50重量%未満1重量%以上含まれていることが好ましく、5重量%以上30重量%以下含まれていることがより好ましく、5重量%以上15重量%以下含まれていることが更に好ましい。
【0020】
また、カルボキシル基含有モノマー又はヒドロキシル基含有モノマーのいずれか、あるいはその両方が含まれている場合、これら両モノマーの総含有量は、全モノマー量を100重量部とした場合、1重量部以上20重量部以下の範囲であることが好ましい。この範囲で両モノマーを使用することで、粘着特性を改善できる。更に、両モノマーの総含有量は、1重量部以上10重量部以下の範囲であることがより好ましい。
【0021】
更に、(メタ)アクリレートには、必要に応じて、ビニル系モノマーを添加してもよい。ビニル系モノマーとしては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルボン酸アミド類、スチレン及びN-ビニルカプロラクタム等が挙げられる。これらビニル系モノマーは、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0022】
(2)重合開始剤
任意に使用される重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫化物、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(フェニルメチル)-プロピオンアミジン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラハイドロピリミジン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド及び2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノイルパーオキサイド及びt-ブチルペルオキシピバレイト等の過酸化物系重合開始剤;過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとにより構成されたレドックス系重合開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0023】
重合開始剤は、アクリル系モノマー100重量部に対して0.005重量部以上1重量部以下の範囲で使用することが好ましい。この範囲で重合開始剤を使用することで、粘着特性に優れたアクリル系ポリマーを形成できる。
【0024】
(3)他の成分
他の成分としては、粘着剤組成物を基材上に塗布する際の使用容易性の観点から、有機溶剤が含まれていてもよい。有機溶剤は特に限定されず、粘着剤に使用可能な公知の有機溶剤が挙げられる。例えば、ヘキサン及びヘプタン等の脂肪族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素が挙げられる。これら有機溶剤は、1種のみ使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、有機溶剤を使用する場合、アクリル系ポリマーからなる固形分含量が10重量%以上となるように、その使用割合を調整することが好ましい。また、使用割合は、固形分含量が20重量%以上50重量%以下となるように調製されていることが好ましい。
【0025】
(イオン液体)
イオン液体は、室温で液体である塩であり、常温溶融塩とも呼ばれる。また、イオン液体は、耐熱性、不燃性、不揮発性及び化学的安定性等の特性を有する。
イオン液体は、電圧を印加することで、陽極側にアニオンが移動し、陰極側にカチオンが移動する。電極と粘着剤組成物との界面で酸化還元反応が起こることで、粘着剤組成物の粘着力が弱まり、その結果、剥離性が向上すると考えられている。
【0026】
本実施形態のイオン液体は、10-4 S/cm以上10-2 S/cm以下のイオン伝導率を有する。この範囲のイオン伝導率を有することで、粘着剤組成物に電圧の印加によって剥離する性質を十分に付与できる。イオン伝導率は、10-3 S/cm以上10-2 S/cm以下であることがより好ましい。イオン伝導率の測定法は、実施例の欄に記載する。
イオン液体としては、例えば、下記式(1)が挙げられる。
【0027】
【化1】
(式中、R
1は、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数2以上8以下の二価の炭化水素基であり、式中のN
+と共に環を構成し、
R
2及びR
3は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基であり(但し、窒素原子が隣接する炭素原子と二重結合を形成している場合は、R
3は存在しない)、
X
-は、Br
-、AlCl
4
-、Al
2Cl
7
-、NO
3
-、BF
4
-、PF
6
-、CH
3COO
-、CF
3COO
-、CF
3SO
3
-、(CF
3SO
2)
2N
-、(FSO
2)
2N
-、(CF
3SO
2)
3C
-、AsF
6
-、SbF
6
-、F(HF)
n
-、CF
3(CF
2)
3SO
3
-、(CF
3CF
2SO
2)
2N
-及びCF
3CF
2COO
-から選択されるアニオンである)
【0028】
上記式中、R1とN+とから構成される環には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びシクロオクタン等の飽和脂環族炭化水素、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロペンタジエン及びベンゼン等の不飽和環状炭化水素等の炭化水素環を構成する少なくとも1つの炭素原子を窒素原子に置き換えた環が含まれる。ヘテロ原子としては、N、O、S、P等が挙げられ、好ましくはNである。
【0029】
炭素数1以上6以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基等が挙げられる。炭素数3以上8以下のアルキル基は、構造異性体を含む。
上記イオン液体は、ピリジニウム系カチオン、環状脂肪族系アンモニウムカチオン及びイミダゾリウム系カチオンから選択されるカチオンと、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-及びBF4
-から選択されるアニオンとの塩であることが、電圧の印加後の剥離性を向上させる観点からより好ましい。
【0030】
イオン液体は、第一工業製薬、関東化学、広栄化学工業等から入手可能である。例えば、第一工業製薬から1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(AS-110)、関東化学から1-ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートが入手可能で、広栄化学工業から1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(IL-C3)、1-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート(IL-P10)、1-ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(IL-P14)及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI-TFSI)を入手することができる。
【0031】
(移動促進剤)
本実施形態では、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルは、移動促進剤として用いられる。ポリエチレングリコールのアルキルエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(ジ)メチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)エチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)プロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)イソプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)ブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)イソブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(ジ)メチルエーテル及びポリエチレングリコールモノ(ジ)ペンチルエーテル等が挙げられる。特に、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルとしては、ポリエチレングリコールモノ(ジ)メチルエーテルが好ましい。ポリエチレングリコールのアルキルエーテルは、日本乳化剤、東邦化学工業等から入手可能である。これらは、電圧の印加時に、イオン液体の移動を助ける移動促進剤としての優れた機能を有すると発明者等は考えている。
ポリエチレングリコールのアルキルエーテルは、120以上600以下の重量平均分子量を有していることが好ましく、120以上360以下の重量平均分子量を有していることがより好ましい。ここでいう、重量平均分子量は、GPCで算出した値を意味する。この範囲の重量平均分子量を有するポリエチレングリコールのアルキルエーテルを用いることで、粘着剤組成物に加える印加が30V以下の様な低電圧でも、十分な剥離性を有し、糊残りのない剥離を行うことができる粘着剤組成物を提供できる。特に、120以上360以下の重量平均分子量を有するポリエチレングリコールモノ(ジ)メチルエーテルを用いることにより、電圧の印加前の粘着力と電圧の印加後の剥離性に優れ、糊残りのない剥離が可能な電気剥離性粘着剤組成物を提供できる。なお、従来のポリエチレングリコールを用いた粘着剤組成物では、低電圧の印加では粘着剤組成物の粘着性が十分低下せず、剥離困難であることを確認している。つまり、上記の電圧の印加前の粘着力と電圧の印加後の剥離性に優れ、糊残りのない剥離が可能という特性は、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルを用いた粘着剤組成物特有の現象であることを発明者等は意外にも見出している。
【0032】
粘着剤組成物が含むイオン液体及び移動促進剤は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、それぞれ5重量部以上30重量部以下の範囲である。この範囲で使用することで、電圧の印加前の粘着力と印加後の剥離性に優れ、糊残りのない剥離が可能な電気剥離性粘着剤組成物を提供できる。
【0033】
(添加剤)
本実施形態の粘着剤組成物には、上記成分以外に、導電性フィラー、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、充填材、難燃剤又は界面活性剤等の添加剤が含まれていてもよい。
導電性フィラーとしては、例えば、黒鉛、カーボンブラック等の炭素粒子や炭素繊維、銀や銅等の金属粒子等が挙げられる。
【0034】
(粘着剤組成物の製造方法)
本実施形態の粘着剤組成物は、アクリル系ポリマー、イオン液体、移動促進剤及び任意の架橋剤等を公知の方法で攪拌することにより製造することができる。攪拌方法としては、例えばディゾルバーによって攪拌することが挙げられる。攪拌時に、上記の添加剤が加えられていてもよい。
【0035】
(粘着剤組成物の用途)
本実施形態の粘着剤組成物は、電圧を印加することによってUV照射や加熱処理を行うことなく粘着剤組成物を導電性の物体から容易に剥離させることができる。そのため、UV照射を行うことができない非透明性の部材や熱に弱い部材などの粘着固定に好適に用いることができる。また、本発明の粘着剤組成物は導電性の物体の粘着固定性にも優れるため、高い加工精度が要求される部材の固定や、薄い金属板や基板等の物理的固定が難しい部材の固定の為に好適に用いることができる。例えば、電子部品製造工程における部品の仮止め(例えば、LSIチップのダイシング時のウェハの仮止め)に粘着剤組成物を使用でき、電圧を印加することで容易に糊残りなく仮止めを解除できる。
【0036】
本実施形態の粘着剤組成物は、糊残りなく粘着剤組成物を導電性の物体から剥離させることができる。これにより、例えば家電、PC等の製品が、希少価値の高い部品や安全に回収し再利用したい部品等を含む場合、当該部品を本発明の粘着剤組成物で固定して販売し、その後、使用後の家電、パソコンなどを回収し、固定した部品に電圧を印加することで当該部品を容易に再回収できる。部品等を容易に再回収できることは、リサイクル、リユースの観点からも有用である。
その他の用途としては、センサーと導電性の物体との接合用途が挙げられる。この用途でも、低電圧の印加によりセンサーを剥離させることで、容易にセンサーを回収でき、センサーを繰り返し使用できるので、経済的である。
【0037】
(電気剥離性粘着製品)
本実施形態の電気剥離性粘着製品(以下、単に粘着製品ともいう)は、基材と、基材に接するように形成された電気剥離性粘着剤層によって構成される。また、粘着製品の別の形態としては、芯材と、芯材の両面にそれぞれ接するように形成された2つの電気剥離性粘着剤層によって構成される。
これらの粘着製品の電気剥離性粘着剤層は、電気剥離性粘着剤組成物を含んでいる。本実施形態の粘着製品は、粘着製品によって被着体に固定される対象となる物質(固定対象物と呼称する)を、被着体に固定する物質として機能する。
粘着製品の形状は、特に限定されないが、例えば、粘着テープや粘着シート等、用途に応じて適切な形態を取り得る。電気剥離性粘着剤層の使用面は、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートのフィルムや剥離紙などで使用するまで保護されていてもよい。
【0038】
本実施形態の被着体とは、本実施形態の電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を介して固定対象物が固定される場所を提供する物体を指す。
ここで、固定とは、直接的な固定と間接的な固定とがあり、直接的な固定とは、被着体及び固定対象物が粘着製品と直接接している状態を指し、間接的な固定とは、被着体及び/又は固定対象物が粘着製品と直接触れず、導電性補助材を介して接している状態を指す。固定対象物が被着体に固定できるのであれば、固定方法は直接的な固定であっても間接的な固定であっても構わない。
【0039】
被着体は、導電性を有する被着体(導電性の被着体)であっても導電性を有さない被着体(非導電性の被着体)であってもよい。被着体が導電性の被着体である場合は、被着体に粘着製品を直接貼り付けてもよい。被着体が非導電性の被着体である場合は、非導電性の被着体に導電性補助材を貼り付けるのが必須である。導電性補助材を貼り付ける際には、任意の粘接着剤が用いられる。
導電性の被着体としては、例えば、鉄、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、又はこれらの金属の合金からなる金属板、金属製品又は金属製の作業台等が挙げられる。非導電性の被着体としては、例えば木製の合板やプラスチック製品又は非金属製の作業台等が挙げられる。
【0040】
本実施形態の固定対象物は、特に限定されないが、固定対象物が導電性を有していれば、固定対象物を粘着製品に直接貼り付けてもよい。固定対象物が非導電性であった場合は、非導電性の被着体の場合と同様に、固定対象物に導電性補助材を貼り付けてから粘着製品に貼り付けるのが必須である。
導電性の固定対象物としては、例えば、鉄、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、又はこれらの金属の合金からなる箔(厚さ100μm未満)、板(厚さ100μm以上)、これらの金属又は合金が混合あるいはコーティングされた繊維を含有したメッシュ又は布、これらの金属又は合金を含有した樹脂シート、これらの金属、合金又は導電性金属酸化物を含む層を備えた樹脂板等が挙げられる。非導電性の固定対象物としては、樹脂又はプラスチック板等が挙げられる。
【0041】
本実施形態の基材とは、電気剥離性粘着剤組成物を塗布する平面状の物体を指す。基材は導電性であっても、非導電性であってもよい。
粘着製品に用いられる基材としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、又はこれらの金属の合金からなる箔又は板、PETやポリイミドのフィルム、炭素繊維、紙、織布又は不織布等が挙げられ、厚みも特に限定されない。ただし、粘着製品に用いられる非導電性の基材は、剥がして使用する。これらは、用いる電気剥離性粘着製品の形状によって適切になるように選択することができる。
電気剥離性粘着剤層は、基材の片面だけでなく、両面に構成されていてもよい。この場合、基材は芯材と呼称する。芯材は、電圧の印加時にそれぞれの電気剥離性粘着剤間でイオン液体を通せるものである事が必須である。イオン液体を通せる素材である事で、両面の電気剥離性粘着剤層に電圧を印加させることができる。
基材又は芯材を用いることによって、粘着製品に強度を持たせることができ、使用時の作業性を向上させることができる。
【0042】
導電性補助材としては、導電性を有していれば特に限定されず、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、これらの金属の合金、又は導電性金属酸化物(ITO等)を蒸着したフィルム等、これら金属又は合金が混合されるかコーティングされた繊維を含有した布、これら金属又は合金を含有した樹脂シート、これらの金属、合金又は導電性金属酸化物を含む層を備えた樹脂板が挙げられる。
【0043】
図1に片面テープの形態の粘着製品の例を示し、
図2に両面テープの形態の粘着製品の例を示す。
図3A-
図7Bにこれらの粘着製品の電気剥離性粘着剤層に、導電性の物体を介して電圧を印加する際の回路例及び印加後の剥離例を記載する。本発明の粘着製品の使用形態は以下の回路例及び剥離例に限定されない。なお、以下の剥離例では、被着体側に電気剥離性粘着剤層又は粘着製品が残るように記載しているが、それぞれの例の直流電源の正負の向きを逆に配置することによって、固定対象物に粘着製品が残るように剥離を行うことができる。なお、電源のどちら側に粘着製品が残るようになるかは、粘着製品の組成によって異なり、特に限定されるものではない。
図中、1は電気剥離性粘着剤層、2は基材又は芯材、3は導電性の被着体、4は直流電源、5は導電性の固定対象物、6は非導電性の固定対象物、7は任意の粘接着剤、8は導電性補助材、9は非導電性の被着体を意味する。
【0044】
図3Aは、片面テープの形態の粘着製品を、導電性の被着体3へ粘着して電圧を印加した例を示している。ここでの基材2は導電性を有する素材である。
図3Aのように、基材2と導電性の被着体3に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、
図3Bのように粘着させた導電性の基材2を導電性の被着体3から剥離させることができる。
【0045】
図4Aは、導電性の固定対象物5を、両面テープの形態である粘着製品を用いて導電性の被着体3へ粘着して電圧を印加した例を示している。両面テープは、芯材2の両面に電気剥離性粘着剤層1が形成されている。
図4Aのように、導電性の固定対象物5と導電性の被着体3に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、
図4Bのように粘着させた導電性の固定対象物5を導電性の被着体3から剥離させることができる。
【0046】
図5Aは、非導電性の固定対象物6を、両面テープの形態である粘着製品を用いて導電性の被着体3へ粘着して電圧を印加した例を示している。
図5Aのように、非導電性の固定対象物6に、導電性補助材8として任意の粘接着剤7を用いてアルミ板を貼り付け、非導電性の固定対象物6及び導電性補助材8と、導電性の被着体3とを粘着製品を用いて粘着する。この導電性補助材8と導電性の被着体3に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、
図5Bのように粘着させた非導電性の固定対象物6を導電性の被着体3から剥離させることができる。この場合、非導電性の固定対象物6に貼り付けた導電性補助材8は非導電性の固定対象物6に残る。
【0047】
図6Aは、導電性の固定対象物5を、両面テープの形態である粘着製品を用いて非導電性の被着体9へ粘着して電圧を印加した例を示している。
図6Aのように、非導電性の被着体9に、導電性補助材8として任意の粘接着剤7を用いてアルミ板を貼り付け、導電性の固定対象物5と、導電性補助材8と非導電性の被着体9とを粘着製品を用いて粘着する。この導電性の固定対象物5と導電性補助材8に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、
図6Bのように粘着させた導電性の固定対象物5を非導電性の被着体9から剥離させることができる。
【0048】
図7Aは、非導電性の固定対象物6を、両面テープの形態である粘着製品を用いて非導電性の被着体9へ粘着して電圧を印加した例を示している。
図7Aのように、非導電性の固定対象物6及び非導電性の被着体9それぞれに、導電性補助材8として任意の粘接着剤7を用いてアルミ板を貼り付け、非導電性の固定対象物6を粘着させた導電性補助材8と、非導電性の被着体9を粘着させた導電性補助材8とを粘着製品を用いて粘着する。それぞれの導電性補助材8に端子を繋ぎ、直流電源4と回路を形成することで電気剥離性粘着剤層1に電圧を印加し、
図7Bのように粘着させた非導電性の固定対象物6を非導電性の被着体9から剥離させることができる。この場合、非導電性の固定対象物6に貼り付けた導電性補助材8は非導電性の固定対象物6に残る。
本実施形態の粘着製品は、30V以下の電圧の印加によって上記それぞれの剥離操作を行うことができる。
【0049】
電気剥離性粘着剤層の厚さは特に限定されないが、200μm-25μmの範囲にある事が好ましい。電気剥離性粘着剤層の厚さがこの範囲になる事で、電圧の印加前の粘着力が強く、かつ電圧の印加後の剥離性に優れた粘着製品を提供できる。
電気剥離性粘着剤層は、電圧の印加前に25N/25mm以上の粘着力を有していることが好ましい。25N/25mm以上の粘着力を有していることで、被着体の固定性に優れた粘着製品となる。
【0050】
(剥離方法)
本実施形態の電気剥離性粘着剤層及び粘着製品は、導電性の物体上に電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を貼り付けた後、電圧を印加することにより、電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を直接貼り付けた導電性の物体から剥離させることができる。
剥離方法としては、例えば、固定対象物及び被着体が導電性を有していれば、固定対象物及び被着体に端子をつなぎ、端子間に電圧を印加することによって電気剥離性粘着剤層又は粘着製品を固定対象物又は被着体から剥離させることができる。固定対象物及び/又は被着体が導電性を有していなければ、導電性補助材としてアルミ板などを粘接着させることで非導電性でも固定・剥離操作を行うことができる。これらの固定・剥離操作は上記粘着製品の剥離例に例示されている。
【0051】
印加する電圧は、剥離ができさえすれば特に限定されないが、電圧印加装置の規模、固定対象物への影響や作業中の事故による人体へのリスクを考慮すると、低電圧であることが好ましい。印加する電圧の範囲は、例えば、200V, 120V, 100V, 90V, 80V, 70V, 60V, 50V, 40V, 30V及び20Vの電圧から上限を、5V, 6V, 7V, 8V, 9V, 10V及び15Vの電圧から下限を選択して組み合わせることができる。この中でも、特に10V以上30V以下の範囲の低電圧で作業することが、印加装置が小型で済むことや、安全性や固定対象物へ与える影響の面から好ましい。
本実施形態の電気剥離性粘着剤層及び粘着製品は、印加する電圧が数V程度の低い電圧でも導電性の物体から剥離させることができるので、電源が例えば市販の乾電池であっても、剥離操作を行うことができる。これは、本実施形態によって、作業者の安全性に優れ、更に持ち運びが可能な簡易な印加装置によって剥離操作を行うことができることを示している。
電圧の印加時間は、電気剥離性粘着剤層又は粘着製品から剥離さえできれば特に限定されないが、固定対象物への影響を考慮すると、3分以内であることが好ましい。特に、安全性や被着体への影響から、10Vの電圧で10秒の印加によって導電性の物体から糊残りなく剥離可能である事が好ましい。
剥離時の温度は特に規定されないが、剥離操作の容易性から、室温で行うことが好ましい。本実施形態の電気剥離性粘着剤層又は粘着製品は、上記のように低電圧かつ短時間で導電性の物体からの剥離が可能なので、固定対象物への熱による影響を極めて少なくして行うことができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明を更に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
アクリル系ポリマー、イオン液体及び移動促進剤を用いて、以下のようにして粘着製品を作製した。
1. アクリル系ポリマーの調製
n-ブチルアクリレート(三菱ケミカル社)91重量部、アクリル酸(三菱ケミカル社)8重量部及び2-ヒドロキシエチルメタクリレート(日本触媒社)1重量部からなるモノマー混合物と、重合溶媒(酢酸エチル:トルエン(重量比)=9:1)186重量部を、ガラス製フラスコに投入し、窒素ガスで置換した後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、純正化学社)0.2重量部を加え、85℃に昇温して5時間重合反応させて、アクリル系粘着剤を得た。得られたアクリル系粘着剤は、アクリル系ポリマー(重量平均分子量約80万、Tg-46℃)を35重量%含み、7,000mPa・sの粘度を有していた。
【0054】
2. 粘着剤組成物の調製
上記アクリル系粘着剤100重量部(アクリル系ポリマー35重量部)にイソシアネート系架橋剤としてのコロネートL-55E(東ソー社)3重量部と、イオン液体としてEMIBF4(関東化学社:イオン伝導率;1.4×10-2 S/cm)3.5重量部と、移動促進剤としてジメチルテトラグリコール(日本乳化剤社:分子量約220)3.5重量部とを添加し、室温で10分間ディゾルバーにより撹拌し、静置脱泡することで粘着剤組成物を得た。
【0055】
3. イオン伝導率の測定
イオン液体のイオン伝導率を次のようにして測定した。測定は常温で、Solartron社の1260周波数応答アナライザを用い、ACインピーダンス法によって行った。具体的には、二極式セル(東京システム社)を用いてイオン液体をステンレスで挟み、テフロン(登録商標)製のスペーサーによって、一定の面積A(0.07cm2)と厚さL(0.09cm)の円盤状に制御することでサンプルを得た。このサンプルに振幅が10mVの電圧を印加し、振幅を規定する周波数を1MHzから0.1Hzへと変化させたときに得られるCole-Coleプロットを、等価回路を用いてカーブフィットすることによりバルク抵抗(Ω)を求めた。サンプルの面積A、サンプルの厚さL及びバルク抵抗Rbを下記式に代入することで、イオン液体のイオン伝導率δを算出した。
δ=L/(Rb×A)
(δ:イオン伝導率、Rb:バルク抵抗、L:サンプルの厚さ(cm)、A:サンプルの面積(cm2))
【0056】
4. 粘着製品の作製
上記粘着剤組成物を、表面が剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社のE-7006、厚さ75μm)上に塗工し、得られた塗膜を100℃で5分間乾燥させることで、厚さ40μmの電気剥離性粘着剤層を得た後、厚さ50μmのアルミニウム箔(基材)に電気剥離性粘着剤層を貼り合わせた。その後、40℃で3日間養生させることで、片面の粘着製品(片面テープ)を得た。得られた粘着テープを下記評価に付した。
【0057】
(実施例2)
電気剥離性粘着剤層を80μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例3)
イオン液体をIL-P14(広栄化学工業社)としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例4)
イオン液体をAS-110(第一工業製薬社)としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例5)
イオン液体をEMI-TFSI(広栄化学工業社)としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例6)
イオン液体をEMI-TFSI 7.0重量部、移動促進剤を7.0重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例7)
イオン液体をEMI-TFSI 7.0重量部、移動促進剤を7.0重量部とし、電気剥離性粘着剤層を80μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例8)
イオン液体をEMI-TFSI 7.0重量部、移動促進剤をジメチルトリグリコール(日本乳化剤社:分子量約178)7.0重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例9)
イオン液体をAS-110 1.75重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例10)
イオン液体をAS-110、移動促進剤を10.5重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例11)
イオン液体をEMI-TFSI、移動促進剤をポリエチレングリコールモノメチルエーテル(日本乳化剤社:分子量約240)としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例12)
イオン液体をEMI-TFSI 1.75重量部、移動促進剤をポリエチレングリコールモノメチルエーテルとしたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例13)
イオン液体をEMI-TFSI、移動促進剤をポリエチレングリコールモノメチルエーテル10.5重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(実施例14)
イオン液体をEMI-TFSI、移動促進剤をトリエチレングリコールモノメチルエーテル(日本乳化剤社:分子量約164)としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
【0058】
(比較例1)
移動促進剤を用いないこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(比較例2)
イオン液体をIL-P14にし、移動促進剤を用いないこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(比較例3)
イオン液体をAS-110にし、移動促進剤を用いないこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(比較例4)
イオン液体をEMI-TFSIにし、移動促進剤を用いないこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(比較例5)
移動促進剤をポリエチレングリコール400(第一工業製薬社)としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(比較例6)
イオン液体をAS-110にし、移動促進剤をポリエチレングリコール400としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(比較例7)
イオン液体をEMI-TFSI 1.05重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(比較例8)
イオン液体をEMI-TFSI、移動促進剤を12.25重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
(比較例9)
イオン液体をAS-110 1.05重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着製品を得た。
【0059】
5. 粘着製品の評価
(1)粘着力の測定
実施例1~14及び比較例1~9の各粘着製品を、幅25mm、長さ250mmにカットし、粘着テープをそれぞれの実施例・比較例毎に各5個得た。研磨したステンレス板(導電性の被着体)に各粘着テープを、電気剥離性粘着剤層側がステンレス板に接するように置き、2kgのゴムローラを用いて300mm/分の速度で試料片の長さ方向に1往復させることで、粘着テープを圧着して評価サンプルを得た。圧着して30分後に、島津製作所製オートグラフAGS-Hを用いて、JIS Z-0237(2009)に準拠し、引張速度300mm/分で評価サンプル中の粘着テープを被着体から180°の角度に剥がす(180°ピールする)のに要した力(粘着力:N/25mm)を測定し、各評価サンプルに対して測った値の平均値を測定値とした。
上記と同様に、用意した粘着テープに対して、被着体への圧着30分後に、評価サンプルの導電性の被着体側が正極、基材側が負極になるように電極を取り付け、電源として家庭用電源に変圧器を用いて10Vの電圧を10秒間印加した。印加後、上記と同様にして粘着テープを被着体から180°ピールするのに要した力を測定した。
【0060】
(2)糊残りの評価
剥離後の導電性の被着体を目視にて観察し、粘着剤が導電性の被着体側に存在する場合を「糊残りあり」とし、導電性の被着体側に存在しない場合を「糊残りなし」とした。
【0061】
(3)剥離性の評価
粘着製品の剥離性を、電圧印加後の粘着力の低下度合い(低下率)により評価した。低下率は、下記式
低下率=(電圧印加前の粘着力-電圧印加後の粘着力)/電圧印加前の粘着力×100(%)
として算出した。低下率が80%以上の場合、電圧の印加による剥離が容易である。50%より大きく80%以下の場合、剥離が可能であり、50%より低い場合は剥離が困難である。
【0062】
上記実施例1~14及び比較例1~9のイオン液体の種類及びその使用量、移動促進剤の種類及びその使用量、電気剥離性粘着剤層の厚さ、及び各粘着製品の評価結果を表1に示す。表1中、それぞれの使用量はアクリル系ポリマー100重量部に対する量に換算されている。表中のA1はEMIBF4、A2はIL-P14、A3はAS-110、A4はEMI-TFSI, B1はジメチルテトラグリコール、B2はジメチルトリグリコール、C1はポリエチレングリコールモノメチルエーテル、C2はトリエチレングリコールモノメチルエーテル、D1はポリエチレングリコール400をそれぞれ示す。
なお、A1-A4に含まれるカチオン及びアニオンは以下の通りである。
A1
【0063】
【0064】
【化3】
上記化学式3において、R, R’及びXは非開示である。
A3
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
表1に記載の結果から以下のことが理解できる。
本実験で用いた粘着製品は、いずれも電圧の印加前の粘着力が25N/25mm以上であり、使用時の粘着性が強いことが分かる。
実施例1-5及び比較例1-4から、実施例の使用量のイオン液体・移動促進剤を用いることで、電圧の印加後に糊残りがなく、優れた剥離性を示す粘着製品を得ることができる。
実施例1-2及び実施例7-8から、電気剥離性粘着剤層の厚みを変化させても電圧の印加後に糊残りがなく、優れた剥離性を示す粘着製品が得られることがわかる。
実施例1及び3-5から、イオン液体が発明を実施するための形態に記載のものであれば、電圧の印加後に糊残りがなく、優れた剥離性を示す粘着製品が得られることがわかる。
実施例7、8、11、14及び比較例5-6から、移動促進剤としてポリエチレングリコールを用いると糊残りが出るのに対し、移動促進剤としてポリエチレングリコールのアルキルエーテルを用いることで、電圧の印加後に糊残りがなく、優れた剥離性を示す粘着製品が得られることがわかる。
実施例1-14及び比較例7-9から、イオン液体と移動促進剤とを、アクリル系ポリマー100重量部に対して、それぞれ5重量部以上30重量部以下の割合で含有している粘着製品が、電圧の印加後に糊残りがなく、優れた剥離性を示すことがわかる。
【0069】
(実施例及び比較例の電圧の印加時間の評価)
実施例5-6及び比較例4の粘着製品から評価サンプルをそれぞれ4個採取し、評価サンプルに、10Vの電圧を、3秒間、5秒間、7秒間及び10秒間印加し、粘着力を測定した。粘着力の測定は実施例1と同様に行い、それぞれの平均値を測定値とした。得られた結果を表2に示す。
【0070】
【0071】
表2の結果より、本発明の粘着製品は短時間の電圧印加でも粘着力が大きく低下することが分かる。
【0072】
(実施例及び比較例の印加電圧の評価)
実施例5-6及び比較例4の粘着製品から評価サンプルをそれぞれ4個採取し、評価サンプルに、1.5V、3V、10V及び15Vの電圧を10秒間印加し、粘着力を測定した。粘着力の測定は実施例1と同様に行い、それぞれの平均値を測定値とした。得られた結果を表3に示す。
【0073】
【0074】
表3の結果より、本発明の粘着製品は、比較例と異なり、10Vの様な低い電圧でも粘着力を低下させることができることが分かる。
【0075】
以上の実験結果より、アクリル系ポリマーと、10-4 S/cm以上10-2 S/cm以下のイオン伝導率を示すイオン液体とポリエチレングリコールのアルキルエーテルとを含み、前記イオン液体の含有量及び前記ポリエチレングリコールのアルキルエーテルの含有量がそれぞれ前記アクリル系ポリマー100重量部に対して5重量部以上30重量部以下である、粘着剤組成物によって、使用時の粘着力が強く、かつ低電圧の印加でも剥離性に優れ、剥離後の糊残りの少ない粘着製品が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0076】
1 電気剥離性粘着剤層
2 基材又は芯材
3 導電性の被着体
4 直流電源
5 導電性の固定対象物
6 非導電性の固定対象物
7 任意の粘接着剤
8 導電性補助材
9 非導電性の被着体