(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】麻酔を誘発する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/357 20060101AFI20240129BHJP
A61P 23/00 20060101ALI20240129BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240129BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240129BHJP
A61K 31/045 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/08 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/341 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/351 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/01 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/5517 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/5513 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/4174 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/05 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/13 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/4748 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/02 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/015 20060101ALN20240129BHJP
A61K 31/025 20060101ALN20240129BHJP
【FI】
A61K31/357
A61P23/00
A61P25/20
A61P43/00 111
A61K31/045
A61K31/08
A61K31/341
A61K31/351
A61K31/01
A61K31/5517
A61K31/5513
A61K31/4174
A61K31/05
A61K31/13
A61K31/4748
A61K31/02
A61K31/015
A61K31/025
(21)【出願番号】P 2021114241
(22)【出願日】2021-07-09
(62)【分割の表示】P 2019160900の分割
【原出願日】2013-03-14
【審査請求日】2021-08-06
(32)【優先日】2012-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【氏名又は名称】釜平 双美
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【氏名又は名称】水原 正弘
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ジェイ・ブロスナン
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-039676(JP,A)
【文献】米国特許第03749791(US,A)
【文献】米国特許第03749794(US,A)
【文献】米国特許第03749793(US,A)
【文献】米国特許第03314850(US,A)
【文献】Journal of Fluorine Chemistry,1977年,Vol.9, No.5,p.359-375
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IV:
【化1】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式IVの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物
を含む、麻酔を誘導するための医薬組成物であって、該化合物が、a)1,3-ジオキソラン,4,5-ジクロロ-2,2,4,5-テトラフルオロ-(CAS番号87075-00-1)
である、医薬組成物。
【請求項2】
所望の麻酔作用を達成するのに十分な経路によって投与される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
静脈内経路、吸入経路、皮下経路、筋肉内経路および経皮経路からなる群より選択される経路によって投与される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
化合物が、全身麻酔作用、鎮静作用、精神安定作用、不動化、健忘、無痛覚、意識消失および自律神経系無活動からなる群より選択される所望の麻酔エンドポイントを達成するのに十分な量で投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
呼吸器系で投与される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
哺乳類に投与される、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬的に許容される担体をさらに含む、請求項1記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本特許出願は、2012年8月10日に出願された、米国仮特許出願第61/681,747号および2012年7月10日に出願された、米国仮特許出願第61/670,098号についての優先権の利益を主張するものであり、その全内容は本明細書によって引用される。
【0002】
(連邦政府の助成による研究開発下で行われた発明の権利についての陳述)
本発明は、国立衛生研究所によって付与された認可番号GM092821で政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
(技術分野)
本発明は、麻酔薬のモル水溶解度を測定することによって麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の選択性を決定する方法を提供する。さらに、本発明は、より高いまたはより低い水溶解度を有するように麻酔薬を改良または修飾することによって麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の選択性を調節する方法を提供する。さらに、本発明は、有効量の本方法にしたがって同定された麻酔化合物を呼吸器経路で(例えば、吸入または肺送達で)投与することによって対象において麻酔を誘発する方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
麻酔作用の分子機構
【0005】
共通の臨床用途における全ての全身麻酔薬は、3回膜貫通(TM3)型イオンチャネル(例えば、NMDA受容体)、4回膜貫通(TM4)型イオンチャネル(例えば、GABAA受容体)、または両方のイオンチャネルのスーパーファミリーのメンバーのいずれかを調節する。Sonner,et al.,Anesth Analg(2003)97:718-40。例えば、多数の構造的に関連しない吸入麻酔薬は、GABAA電流を増強し、NMDA電流を阻害する。しかしながら、どうして種々の化合物全てが関連しないイオンチャネルを調節しなければならないのだろうか?酵素-基質結合について提示される、タンパク質とリガンド間の特異性の高い「誘発適合」モデル(Koshland,Proc Natl Acad Sci U S A 1958;44:98-104)は、自然界に見られない化合物(すなわち、麻酔薬)との非相同タンパク質全体の特異的結合部位の保護を意味するので、そのモデルは問題がある。Sonner,Anesth Analg(2008)107:849-54。さらに、異種受容体に対する多様な麻酔作用は、典型的には、単一受容体クラスの調節が典型的に生じる、50%有効濃度(EC50)の50~200倍の薬物濃度で、例えば、GABAA受容体のエトミデートアゴニズム(Tomlin et al.,Anesthesiology(1998)88:708-17;Hill-Venning,et al.,Br J Pharmacol(1997)120:749-56;Belelli,et al.,Br J Pharmacol(1996)118:563-76;Quast,et al.,J Neurochem(1983)41:418-25;およびFranks,Br J Pharmacol 2006;147 Suppl 1:S72-81)またはNMDA受容体のジゾシルピン(MK-801)アンタゴニズムと共に現れる。Wong,et al.,Proc Natl Acad Sci U S A(1986)83:7104-8;Ransom,et al.,Brain Res(1988)444:25-32;およびSircar,et al.,Brain Res(1987)435:235-40。どの分子特性が単一受容体(または単一受容体スーパーファミリーのメンバー)に対して特異性をもたらすのか、そして、どの特性が他の麻酔薬に複数の関連しない受容体を調節させるのかは知られていない。しかしながら、イオンチャネル調節が所望の麻酔効果-ならびに望ましくない薬物の副作用-をもたらすのに重要であることから、新規かつより安全な薬剤を開発するためにどの因子が麻酔薬受容体の特異性に影響を及ぼすのかを知ることが望ましい。
【0006】
麻酔薬および特異的なイオンチャネル標的
【0007】
全身麻酔薬は、ニューロンに対する正味の過分極作用を有する細胞膜受容体およびチャネルに対する作用によって中枢神経系の抑制を媒介する。Sonner,et al.,Anesth Analg(2003)97:718-40;Grasshoff,et al.,Eur J Anaesthesiol(2005)22:467-70;Franks,Br J Pharmacol(2006)147 Suppl 1:S72-81;33;Hemmings,et al.,Trends Pharmacol Sci(2005)26:503-10;およびForman,et al.,Int Anesthesiol Clin(2008)46:43-53。麻酔薬は脂溶性に応じて細胞膜に分配するが、それは、これらの薬剤が麻酔作用をもたらす可能性が高い競合タンパク結合による。実際、全身麻酔薬は、膜を含まない酵素の機能を競合的に阻害することを示しており(Franks,et al.,Nature(1984)310:599-601)、そのことは、脂質相がタンパク質機能の麻酔薬調節に不可欠でないことを示す。親和性が高い特異的結合部位は、これらの麻酔薬のいくつかについて同定されている。例えば、プロポフォール(Jewett,et al.,Anesthesiology(1992)77:1148-54;Bieda,et al.,J Neurophysiol(2004)92:1658-67;Peduto,et al.,Anesthesiology 1991;75:1000-9;Sonner,et al,Anesth Analg(2003)96:706-12;およびDong et al.,Anesth Analg(2002)95:907-14)、エトミデート(Flood,et al.,Anesthesiology(2000)92:1418-25;Zhong,et al.,Anesthesiology 2008;108:103-12;O’Meara,et al.,Neuroreport(2004)15:1653-6)、およびチオフェンタール(Jewett,et al.,Anesthesiology(1992)77:1148-54;Bieda,et al,J Neurophysiol(2004)92:1658-67;Yang,et al.,Anesth Analg(2006)102:1114-20)は全て、GABA
A受容体電流を強く増強し、それらの麻酔効果は、GABA
A受容体アンタゴニスト、例えばピクロトキシンまたはビククリンによって強く拮抗されるかまたは阻止される。ケタミンは、NMDA受容体のそのアンタゴニズムによって大部分(だが、完全ではなく)麻酔をかける。Harrison et al.,Br J Pharmacol (1985)84:381-91;Yamamura,et al.,Anesthesiology(1990)72:704-10;およびKelland,et al.,Physiol Behav(1993)54:547-54。デクスメデトミジンは、α2特異的アドレナリン受容体アンタゴニスト、例えばアチパメゾールによって拮抗されるα2特異的アドレナリン受容体アゴニストである。Doze,et al.,Anesthesiology(1989)71:75-9;Karhuvaara,et al.,Br J Clin Pharmacol(1991)31:160-5;およびCorrea-Sales,et al.,Anesthesiology(1992)76:948-52。単一受容体がほとんどまたは全ての麻酔作用に寄与する麻酔薬もまた、低い水性ED50値を有することは恐らく偶然ではない(表1を参照のこと)。
【表1】
【0008】
インビトロまたはインビボのいずれかのイオンチャネル変異は、非常に強力かつ特異的な薬剤だけでなく吸入麻酔薬に対しても麻酔薬選択性を著しく変化させる。GABAA受容体におけるいくつかの変異(Hara,et al.,Anesthesiology 2002;97:1512-20;Jenkins,et al.,J Neurosci 2001;21:RC136;Krasowski,et al.,Mol Pharmacol 1998;53:530-8;Scheller,et al.,Anesthesiology 2001;95:123-31;Nishikawa,et al.,Neuropharmacology 2002;42:337-45;Jenkins,et al.,Neuropharmacology 2002;43:669-78;Jurd,et al.,FASEB J 2003;17:250-2;Kash,et al.,Brain Res 2003;960:36-41;Borghese,et al.,J Pharmacol Exp Ther 2006;319:208-18;Drexler,et al.,Anesthesiology 2006;105:297-304)またはNMDA受容体におけるいくつかの変異(Ogata,et al.,J Pharmacol Exp Ther (2006) 318:434-43;Dickinson,et al.,Anesthesiology 2007;107:756-67)は、イソフルラン、ハロタン、および他の揮発性麻酔薬に対する反応を低下させうる。受容体が麻酔薬に反応しないようにする変異は、特異的薬物との結合に関与する単一部位を示唆することができるが、それは本件では必要ではない。これらの変異のほとんどは、両親媒性タンパク質ポケット(Bertaccini et al.,Anesth Analg(2007)104:318-24;Franks,et al.,Nat Rev Neurosci(2008)9:370-86)または外側の脂質膜周辺のいずれかにおいて、脂質-水界面周辺に存在すると考えられている。麻酔薬は、サイズによりそのタンパク質相互作用部位から除外される可能性がある。しかしながら、変異は、受容体を調節するために必要な「非特異的」低親和性麻酔薬-タンパク質相互作用の数を実質的に増大する(が、完全に排除しない)ことも可能である。本発明では、変異受容体の調節は、野生型最小肺胞内濃度(MAC)を超えた麻酔濃度でのみ起こるか(Eger,et al.,Anesthesiology(1965)26:756-63)、または、薬物が十分な数の変異タンパク質との「非特異的」相互作用をもたらすために活性部位で十分に溶解しなければ、受容体調節は飽和水性薬物濃度でさえ起こらない。
【0009】
イオンチャネル上の特異的「誘発適合」結合部位の別の議論は、「カットオフ」効果である。例えば、アルカノールの炭素鎖長の増加は、12の炭素鎖長(ドデカノール)に達するまで、マイヤー・オーバートン(Meyer-Overton)仮説(Overton CE:Studies of Narcosis.London,Chapman and Hall,1991)によって予測されるように、脂溶性および麻酔効果を増大する(Alifimoff,et al.,Br J Pharmacol(1989)96:9-16)。より長い鎖長を有するアルカノールは、麻酔薬ではなかった(したがって、C=13炭素数で「カットオフ」効果)。しかしながら、カットオフ効果に達するのに必要な炭化水素鎖長は、アルカンではC=9(Liu,et al.,Anesth Analg(1993)77:12-8)、パーフルオロ化アルカンではC=2(Liu,et al.,Anesth Analg(1994)79:238-44)、そして、パーフルオロ化メチルエチルエーテルではC=3である(Koblin,et al.,Anesth Analg(1999)88:1161-7)。サイズが特異的麻酔薬結合部位と結合するのに不可欠である場合、どうして「カットオフ」鎖長は一定ではないのか?細胞レベルで、直鎖アルコールは、C=10で完全カットオフを有するオクタノールまでNMDA受容体機能を最大限に阻害することができる。しかしながら、直鎖1,Ω-ジオールは、C=16まで観察されなかった完全カットオフを有するデカノールまでNMDA受容体を最大限に阻害する(Peoples,et al.,Mol Pharmacol(2002)61:169-76)。炭化水素鎖長の増加は、分子体積を増大しないだけでなく、水溶解度を低下させる。したがって、カットオフ効果は、最大の分子サイズよりむしろ、効果をもたらすのに必要な最小の水溶解度を示す。
【0010】
麻酔薬および低親和性「非特異的」イオンチャネル効果
10マイクロモル濃度以下で、麻酔薬は、単独または別の内因性リガンドの存在下において、イオン伝導度を変化させる構造変化を誘導するためにタンパク質上の比較的高親和性部位への特異的結合によってイオンチャネルにそれらの効果を発揮する可能性が高い。しかしながら、これらの薬剤は、高濃度で存在する場合、他の受容体(または異なる部位の同一受容体)とまだ相互に作用しうる。例えば、2つの異種受容体(R1およびR2)が、各々、麻酔作用をもたらすと仮定する。R1=1での薬物の効果、R1が単独で完全な麻酔作用をもたらすことができ、そして、R1のEC99がR2のEC1より低いと仮定すると、該薬物は、R1を選択的に調節することによって麻酔状態をもたらす。しかしながら、これらの仮定のいずれかが真実でなければ、R2のある寄与は、麻酔作用をもたらすのに必要である(
図1)。
【0011】
多数の注射用麻酔薬は、上記の例に従うように見える。プロポフォールは、約60μMのEC50を有するGABAA受容体電流の正のモジュレーターであり(Hill-Venning,et al.,Br J Pharmacol(1997)120:749-56;Prince,et al.,Biochem Pharmacol(1992)44:1297-302;Orser,et al.,J Neurosci(1994)14:7747-60;Reynolds,et al.,Eur J Pharmacol(1996)314:151-6)、プロポフォールは、GABAA電流の増強によってその麻酔作用の大部分を仲介すると考えられている(Sonner,et al,Anesth Analg(2003)96:706-12)。しかしながら、プロポフォールはまた、160μMのIC50で関連しないNMDA受容体からの電流を阻害する(Orser,et al.,Br J Pharmacol(1995)116:1761-8)。ケタミンは、NMDA受容体のアンタゴニズムによって大部分麻酔をかけ、そして、14μMのIC50で阻害するけれども(Liu,et al.,Anesth Analg (2001) 92:1173-81)、365μMのケタミンはまた、関連しない4回膜貫通型GABAA受容体電流を56%増加する(Lin,et al.,J Pharmacol Exp Ther(1992)263:569-78)。これらの場合、(高親和性反応対低親和性反応についての)異なる2種類の相互作用は、単一受容体上で起こり、同一の定性的効果をもたらすことが妥当であると思われる。一方、揮発性吸入麻酔薬は、一般に、<50μMの水相濃度でGABAAおよびNMDA受容体に対しほとんどまたは全く効果がない(Lin,et al.,J Pharmacol Exp Ther(1992)263:569-78;Moody,et al.,Brain Res(1993)615:101-6;Harris,et al.,J Pharmacol Exp Ther(1993)265:1392-8;Jones,et al.,J Physiol(1992)449:279-93;Hall,et al.,Br J Pharmacol(1994)112:906-10)。これらの薬剤は、不動化に関連する任意の麻酔薬感受性受容体に対する特異的リガンドでない可能性がある;したがって、それらは、麻酔に必要であるこれらの薬剤のより高い水相濃度に反映されうる、非特異的タンパク質-リガンド相互作用にのみ依存しうる(表1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Sonner,et al.,Anesth Analg(2003)97:718-40
【文献】Koshland,Proc Natl Acad Sci U S A 1958;44:98-104
【文献】Sonner,Anesth Analg(2008)107:849-54
【文献】Tomlin et al.,Anesthesiology(1998)88:708-17
【文献】Hill-Venning,et al.,Br J Pharmacol(1997)120:749-56
【文献】Belelli,et al.,Br J Pharmacol(1996)118:563-76
【文献】Quast,et al.,J Neurochem(1983)41:418-25
【文献】Franks,Br J Pharmacol 2006;147 Suppl 1:S72-81
【文献】Wong,et al.,Proc Natl Acad Sci U S A(1986)83:7104-8
【文献】Ransom,et al.,Brain Res(1988)444:25-32
【文献】Sircar,et al.,Brain Res(1987)435:235-40
【文献】Grasshoff,et al.,Eur J Anaesthesiol(2005)22:467-70
【文献】Franks,Br J Pharmacol(2006)147 Suppl 1:S72-81;33
【文献】Hemmings,et al.,Trends Pharmacol Sci(2005)26:503-10
【文献】Forman,et al.,Int Anesthesiol Clin(2008)46:43-53
【文献】Franks,et al.,Nature(1984)310:599-601
【文献】Jewett,et al.,Anesthesiology(1992)77:1148-54
【文献】Bieda,et al.,J Neurophysiol(2004)92:1658-67
【文献】Peduto,et al.,Anesthesiology 1991;75:1000-9
【文献】Sonner,et al,Anesth Analg(2003)96:706-12
【文献】Dong et al.,Anesth Analg(2002)95:907-14
【文献】Flood,et al.,Anesthesiology(2000)92:1418-25
【文献】Zhong,et al.,Anesthesiology 2008;108:103-12
【文献】O’Meara,et al.,Neuroreport(2004)15:1653-6
【文献】Yang,et al.,Anesth Analg(2006)102:1114-20
【文献】Harrison et al.,Br J Pharmacol (1985)84:381-91
【文献】Yamamura,et al.,Anesthesiology(1990)72:704-10
【文献】Kelland,et al.,Physiol Behav(1993)54:547-54
【文献】Doze,et al.,Anesthesiology(1989)71:75-9
【文献】Karhuvaara,et al.,Br J Clin Pharmacol(1991)31:160-5
【文献】Correa-Sales,et al.,Anesthesiology(1992)76:948-52
【文献】Tonner et al.,Anesthesiology (1992) 77:926-31
【文献】Tonner,et al.,Anesth Analg (1997) 84:618-22
【文献】Franks,et al.,Br J Anaesth (1993) 71:65-76
【文献】Hara,et al.,Anesthesiology 2002;97:1512-20
【文献】Jenkins,et al.,J Neurosci 2001;21:RC136
【文献】Krasowski,et al.,Mol Pharmacol 1998;53:530-8
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【文献】Jenkins,et al.,Neuropharmacology 2002;43:669-78
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【文献】Drexler,et al.,Anesthesiology 2006;105:297-304
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【文献】Dickinson,et al.,Anesthesiology 2007;107:756-67
【文献】Bertaccini et al.,Anesth Analg(2007)104:318-24
【文献】Franks,et al.,Nat Rev Neurosci(2008)9:370-86
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【文献】Overton CE:Studies of Narcosis.London,Chapman and Hall,1991
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【文献】Liu,et al.,Anesth Analg(1993)77:12-8
【文献】Liu,et al.,Anesth Analg(1994)79:238-44
【文献】Koblin,et al.,Anesth Analg(1999)88:1161-7
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【文献】Prince,et al.,Biochem Pharmacol(1992)44:1297-302
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【文献】Hall,et al.,Br J Pharmacol(1994)112:906-10
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
一つの態様において、本発明は、対象において麻酔を誘発する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、有効量の式I:
【化1】
[式中:
nは、0~4であり;
R
1は、Hはであり;
R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式Iの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与する方法を提供する。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、Xは、Fである。いくつかの実施態様において、R
1は、H、CH
2OH、CHFOH、CF
2OH、CHClOH、CCl
2OHまたはCFClOHから選択される。いくつかの実施態様において、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。いくつかの実施態様において、化合物は、
a)メタノール,1-フルオロ-1-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エトキシ]-(CAS番号1351959-82-4);
b)1-ブタノール,4,4,4-トリフルオロ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)-(CAS番号14115-49-2);
c)1-ブタノール,1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロ-(CAS番号3056-01-7);
d)1-ブタノール,2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-(CAS番号782390-93-6);
e)1-ブタノール,3,4,4,4-テトラフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-(CAS番号90999-87-4);
f)1-ペンタノール,1,1,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-(CAS番号313503-66-1);および
g)1-ペンタノール,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,5-ウンデカフルオロ-(CAS番号57911-98-5)
からなる群から選択される。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、対象において麻酔を誘発する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、有効量の式II:
【化2】
[式中:
nは、1~3であり;
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式IIの水素原子数が炭素原子数を超えなず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、Xは、Fである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。いくつかの実施態様において、化合物は、
a)エタン,1,1,2-トリフルオロ-1,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号362631-92-3);
b)エタン,1,1,1,2-テトラフルオロ-2,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号115395-39-6);
c)エタン,1-(ジフルオロメトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号40891-98-3);
d)エタン,1,1,2,2-テトラフルオロ-1,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号378-11-0);
e)エタン,1,2-ジフルオロ-1,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号362631-95-6);
f)エタン,1,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号1683-90-5);
g)プロパン,1,1,3,3-テトラフルオロ-1,3-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号870715-97-2);
h)プロパン,2,2-ジフルオロ-1,3-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号156833-18-0);
i)プロパン,1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号133640-19-4;
j)プロパン,1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(フルオロメトキシメトキシ)-(CAS番号124992-92-3);および
k)プロパン,1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号104159-55-9)
からなる群から選択される。
【0015】
別の態様において、本発明は、対象において麻酔を誘発する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、有効量の式III:
【化3】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式IIIの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、Xは、Fである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。いくつかの実施態様において、化合物は、
a)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,6-ヘキサフルオロ-(CAS番号362631-99-0);
b)1,4-ジオキサン,2,3-ジクロロ-2,3,5,5,6,6-ヘキサフルオロ-(CAS番号135871-00-0);
c)1,4-ジオキサン,2,3-ジクロロ-2,3,5,5,6,6-ヘキサフルオロ-,trans-(9CI)(CAS番号56625-45-7);
d)1,4-ジオキサン,2,3-ジクロロ-2,3,5,5,6,6-ヘキサフルオロ-,cis-(9CI)(CAS番号56625-44-6);
e)1,4-ジオキサン,2,2,3,5,6,6-ヘキサフルオロ-(CAS番号56269-26-2);
f)1,4-ジオキサン,2,2,3,5,5,6-ヘキサフルオロ-(CAS番号56269-25-1);
g)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,6-ヘキサフルオロ-,trans-(9CI)(CAS番号34206-83-2);
h)1,4-ジオキサン,2,2,3,5,5,6-ヘキサフルオロ-,cis-(9CI)(CAS番号34181-52-7);
i)p-ジオキサン,2,2,3,5,5,6-ヘキサフルオロ-,trans-(8CI)(CAS番号34181-51-6);
j)1,4-ジオキサン,2,2,3,5,6,6-ヘキサフルオロ-,cis-(9CI)(CAS番号34181-50-5);
k)p-ジオキサン,2,2,3,5,6,6-ヘキサフルオロ-,trans-(8CI)(CAS番号34181-49-2);
l)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,6-ヘキサフルオロ-,(5R,6S)-rel-(CAS番号34181-48-1);
m)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,5,6-ヘプタフルオロ-(CAS番号34118-18-8);および
n)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,5,6,6-オクタフルオロ-(CAS番号32981-22-9)
からなる群から選択される。
【0016】
別の態様において、本発明は、対象における麻酔を誘発する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、有効量の式IV:
【化4】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式IVの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、Xは、Fである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。いくつかの実施態様において、化合物は、
a)1,3-ジオキソラン,2,4,4,5-テトラフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号344303-08-8);
b)1,3-ジオキソラン,2-クロロ-4,4,5-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号344303-05-5);
c)1,3-ジオキソラン,4,4,5,5-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号269716-57-6);
d)1,3-ジオキソラン,4-クロロ-2,2,4-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号238754-29-5);
e)1,3-ジオキソラン,4,5-ジクロロ-2,2,4,5-テトラフルオロ-,trans-(9CI)(CAS番号162970-78-7);
f)1,3-ジオキソラン,4,5-ジクロロ-2,2,4,5-テトラフルオロ-,cis-(9CI)(CAS番号162970-76-5);
g)1,3-ジオキソラン,4-クロロ-2,2,4,5,5-ペンタフルオロ-(CAS番号139139-68-7);
h)1,3-ジオキソラン,4,5-ジクロロ-2,2,4,5-テトラフルオロ-(CAS番号87075-00-1);
i)1,3-ジオキソラン,2,4,4,5-テトラフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-,trans-(9CI)(CAS番号85036-66-4);
j)1,3-ジオキソラン,2,4,4,5-テトラフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-,cis-(9CI)(CAS番号85036-65-3);
k)1,3-ジオキソラン,2-クロロ-4,4,5-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-,trans-(9CI)(CAS番号85036-60-8);
l)1,3-ジオキソラン,2-クロロ-4,4,5-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-,cis-(9CI)(CAS番号85036-57-3);
m)1,3-ジオキソラン,2,2-ジクロロ-4,4,5,5-テトラフルオロ-(CAS番号85036-55-1);
n)1,3-ジオキソラン,4,4,5-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号76492-99-4);
o)1,3-ジオキソラン,4,4-ジフルオロ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)-(CAS番号64499-86-1);
p)1,3-ジオキソラン,4,5-ジフルオロ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)-,cis-(9CI)(CAS番号64499-85-0);
q)1,3-ジオキソラン,4,5-ジフルオロ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)-,trans-(9CI)(CAS番号64499-66-7);
r)1,3-ジオキソラン,4,4,5-トリフルオロ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)-(CAS番号64499-65-6);
s)1,3-ジオキソラン,2,4,4,5,5-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号55135-01-8);
t)1,3-ジオキソラン,2,2,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-(CAS番号21297-65-4);および
u)1,3-ジオキソラン,2,2,4,4,5-ペンタフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号19701-22-5)
からなる群から選択される。
【0017】
別の態様において、本発明は、対象において麻酔を誘発する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、有効量の式V:
【化5】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9およびR
10は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式Vの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、Xは、Fである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9およびR
10は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。いくつかの実施態様において、化合物は、
a)シクロペンタン,5-クロロ-1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-(CAS番号362014-70-8);
b)シクロペンタン,1,1,2,2,3,4,4,5-オクタフルオロ-(CAS番号773-17-1);
c)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロ-(CAS番号828-35-3);
d)シクロペンタン,1,1,2,3,3,4,5-ヘプタフルオロ-(CAS番号3002-03-7);
e)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-(CAS番号149600-73-7);
f)シクロペンタン,1,1,2,2,3,4,5-ヘプタフルオロ-(CAS番号1765-23-7);
g)シクロペンタン,1,1,2,3,4,5-ヘキサフルオロ-(CAS番号699-38-7);
h)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロ-(CAS番号15290-77-4);
i)シクロペンタン,1,1,2,2,3,4-ヘキサフルオロ-(CAS番号199989-36-1);
j)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロ-(CAS番号123768-18-3);および
k)シクロペンタン,1,1,2,2,3-ペンタフルオロ-(CAS番号1259529-57-1)
からなる群から選択される。いくつかの実施態様において、化合物は、
c)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロ-(CAS番号828-35-3);
e)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-(CAS番号149600-73-7);および
h)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロ-(CAS番号15290-77-4)
からなる群から選択される。
【0018】
別の態様において、本発明は、対象において麻酔を誘発する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、有効量の1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-シクロヘキサン(CAS番号830-15-9)を呼吸器系で対象に投与し、それによって対象において麻酔を誘発することを含む。
【0019】
別の態様において、本発明は、対象において麻酔を誘発する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、有効量の式VI:
【化6】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式VIの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、Xは、Fである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。いくつかの実施態様において、化合物は、
a)フラン,2,3,4,4-テトラフルオロテトラヒドロ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)-(CAS番号634191-25-6);
b)フラン,2,2,3,3,4,4,5-ヘプタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号377-83-3);
c)フラン,2,2,3,3,4,5,5-ヘプタフルオロテトラヒドロ-4-(トリフルオロメチル)-(CAS番号374-53-8);
d)フラン,2,2,3,4,5-ペンタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,(2α,3β,4α)-(9CI)(CAS番号133618-53-8);
e)フラン,2,2,3,4,5-ペンタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,(2α,3α,4β)-(CAS番号133618-52-7);
f)フラン,2,2,3,4,5-ペンタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,(2α,3β,4α)-(9CI)(CAS番号133618-53-8);
g)フラン,2,2,3,4,5-ペンタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,(2α,3α,4β)-(9CI)(CAS番号133618-52-7);
h)フラン,2,2,3,3,5,5-ヘキサフルオロテトラヒドロ-4-(トリフルオロメチル)-(CAS番号61340-70-3);
i)フラン,2,3-ジフルオロテトラヒドロ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)-(CAS番号634191-26-7);
j)フラン,2-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロテトラヒドロ-(CAS番号1026470-51-8);
k)フラン,2,2,3,3,4,4,5-ヘプタフルオロテトラヒドロ-5-メチル-(CAS番号179017-83-5);
l)フラン,2,2,3,3,4,5-ヘキサフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,trans-(9CI)(CAS番号133618-59-4);および
m)フラン,2,2,3,3,4,5-ヘキサフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,cis-(9CI)(CAS番号133618-49-2)
からなる群から選択される。
【0020】
別の態様において、本発明は、対象において麻酔を誘発する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、有効量の式VII:
【化7】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9およびR
10は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式VIIの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、Xは、Fである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9およびR
10は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。いくつかの実施態様において、化合物は、
a)2H-ピラン,2,2,3,3,4,5,5,6,6-ノナフルオロテトラヒドロ-4-(CAS番号71546-79-7);
b)2H-ピラン,2,2,3,3,4,4,5,5,6-ノナフルオロテトラヒドロ-6-(トリフルオロメチル)-(CAS番号356-47-8);
c)2H-ピラン,2,2,3,3,4,4,5,6,6-ノナフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号61340-74-7);
d)2H-ピラン,2,2,6,6-テトラフルオロテトラヒドロ-4-(トリフルオロメチル)-(CAS番号657-48-7);
e)2H-ピラン,2,2,3,3,4,4,5,5,6-ノナフルオロテトラヒドロ-6-メチル-(CAS番号874634-55-6);
f)ペルフルオロテトラヒドロピラン(CAS番号355-79-3);
g)2H-ピラン,2,2,3,3,4,5,5,6-オクタフルオロテトラヒドロ-,(4R,6S)-rel-(CAS番号362631-93-4);および
h)2H-ピラン,2,2,3,3,4,4,5,5,6-ノナフルオロテトラヒドロ-(CAS番号65601-69-6)
からなる群から選択される。
【0021】
種々の実施態様において、化合物は、約1.1mMより低く、約0.016mMを超えるモル水溶解度を有する。種々の実施態様において、化合物は、GABAA受容体を増強するが、NMDA受容体を阻害しない。
【0022】
いくつかの実施態様において、対象は動物である。いくつかの実施態様において、対象はヒトである。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、上記および本明細書に記載の方法に用いられる化合物または化合物の混合物を含む、組成物を提供し、ここで、該組成物は、化合物または化合物の混合物の吸入または肺送達用に処方される。
【0024】
さらなる態様において、本発明は、NMDA受容体を阻害することなくGABAA受容体を選択的に活性化または増強する麻酔薬を選択する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、
a)麻酔薬のモル水溶解度を測定すること;および
b)GABAA受容体を選択的に増強し、NMDA受容体を阻害しない、約1.1mMより低いモル水溶解度を有する麻酔薬を選択し、それによってNMDA受容体を阻害することなくGABAA受容体を選択的に活性化または増強する麻酔薬を選択することを含む。種々の実施態様において、麻酔薬は、吸入麻酔薬である。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、ハロゲン化アルコール、ハロゲン化ジエーテル、ハロゲン化ジオキサン、ハロゲン化ジオキソラン、ハロゲン化シクロペンタン、ハロゲン化シクロヘキサン、ハロゲン化テトラヒドロフランおよびハロゲン化テトラヒドロピランからなる群から選択され、ここで、麻酔薬は25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、水素原子数は炭素原子数を超えない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、上記および本明細書に記載の方法で投与される化合物から選択される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、ノナン、ミダゾラム、ジアゼパム、ウンデカノール、エトミデート、1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタン、およびそれらの類似体からなる群から選択される。
【0025】
関連する態様において、本発明は、GABAA受容体を増強し、NMDA受容体を阻害する麻酔薬を選択する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、
a)麻酔薬のモル水溶解度を測定すること;および
b)GABAA受容体を増強し、NMDA受容体を阻害する、約1.1mMを超えるモル水溶解度を有する麻酔薬を選択し、それによってGABAA受容体を増強し、NMDA受容体を阻害する麻酔薬を選択することを含む。種々の実施態様は、麻酔薬は、吸入麻酔薬である。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、ハロゲン化アルコール、ハロゲン化ジエーテル、ハロゲン化ジオキサン、ハロゲン化ジオキソラン、ハロゲン化シクロペンタン、ハロゲン化シクロヘキサン、ハロゲン化テトラヒドロフランおよびハロゲン化テトラヒドロピランからなる群から選択され、ここで、麻酔薬は25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、水素原子数は炭素原子数を超えない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、上記および本明細書に記載の方法で投与される化合物から選択される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、セボフルラン、プロポフォール、ケタミン、イソフルラン、エンフルラン、ジゾシルピン、デスフルラン、ハロタン、シクロプロパン、クロロホルム、2,6-ジメチルフェノール、メトキシフルラン、ジエチルエーテル、亜酸化窒素、エタノール、およびそれらの類似体からなる群から選択される。
【0026】
別の態様において、本発明は、麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の特異性を決定する方法であって、麻酔薬のモル水溶解度が、麻酔薬感受性受容体に対する所定の溶解度閾値濃度を超えるかまたはそれより低いか否かを決定することを含み、ここで、
約1.2mMより低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しないが、NMDA受容体を阻害し、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができ;
約1.1mMより低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、NavチャネルまたはNMDA受容体を阻害しないが、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し,グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができ;
約0.26mMより低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しない、NMDA受容体を阻害しないまたは二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)電流を増強しないが、グリシン受容体を増強し、GABAA受容体を増強することができ;および
約68μMより低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しない、NMDA受容体を阻害しない、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)電流を増強しない、またはGABAA受容体を増強しないが、グリシン受容体を増強することができ、それによって麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の特異性を決定する、方法を提供する。種々の実施態様において、麻酔薬は、吸入麻酔薬である。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、ハロゲン化アルコール、ハロゲン化ジエーテル、ハロゲン化ジオキサン、ハロゲン化ジオキソラン、ハロゲン化シクロペンタン、ハロゲン化シクロヘキサン、ハロゲン化テトラヒドロフランおよびハロゲン化テトラヒドロピランからなる群から選択され、ここで、麻酔薬は25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、水素原子数は炭素原子数を超えない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、上記および本明細書に記載の方法で投与された化合物から選択される。
【0027】
別の態様において、本発明は、麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の特異性を調節する方法を提供する。いくつかの実施態様において、該方法は、麻酔薬が調節できる麻酔薬感受性受容体に対する所定の水溶解度閾値濃度を超えるように麻酔薬のモル水溶解度を調節することまたは麻酔薬が調節できない麻酔薬感受性受容体に対する所定のモル水溶解度閾値濃度より低くなるように麻酔薬のモル水溶解度を調節することを含み、ここで、
約1.2mMより低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しないが、NMDA受容体を阻害し、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができ;
約1.1mMより低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しないまたはNMDA受容体を阻害しないが、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができ;
約0.26mMより低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しない、NMDA受容体を阻害しないまたは二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)電流を増強しないが、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができ;および
約68μMより低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しない、NMDA受容体を阻害しない、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)電流を増強しないまたはGABAA受容体を増強しないが、グリシン受容体を増強することができ、それによって麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の特異性を決定する。種々の実施態様において、麻酔薬は、吸入麻酔薬またはその類似体である。いくつかの実施態様において、ハロゲン化アルコール、ハロゲン化ジエーテル、ハロゲン化ジオキサン、ハロゲン化ジオキソラン、ハロゲン化シクロペンタン、ハロゲン化シクロヘキサン、ハロゲン化テトラヒドロフランおよびハロゲン化テトラヒドロピランからなる群から選択され、ここで、麻酔薬は25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、水素原子数は炭素原子数を超えない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、上記および本明細書に記載の方法で投与された化合物から選択される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、ノナン、ミダゾラム、ジアゼパム、ウンデカノール、エトミデート、1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタン、およびそれらの類似体からなる群から選択される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、セボフルラン、プロポフォール、ケタミン、イソフルラン、エンフルラン、ジゾシルピン、デスフルラン、ハロタン、シクロプロパン、クロロホルム、2,6-ジメチルフェノール、メトキシフルラン、ジエチルエーテル、亜酸化窒素、エタノール、およびそれらの類似体からなる群から選択される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.1mMより低いモル水溶解度を有するように調整され、GABAA受容体を増強するが、NMDA受容体を阻害しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.1mMを超えるモル水溶解度を有するように調整され、GABAA受容体を増強し、NMDA受容体を阻害する。
【0028】
定義
用語「吸入麻酔薬」は、麻酔機器に接続された麻酔マスクまたはETチューブを通じて呼吸をすることによって投与される質の高い麻酔作用を有するガスまたは蒸気をいう。吸入麻酔薬の例として、限定されるものではないが、揮発性麻酔薬(ハロタン、イソフルラン、セボフルランおよびデスフルラン)およびガス(エチレン、亜酸化窒素およびキセノン)が挙げられる。
【0029】
用語「注射用麻酔薬または鎮静剤」は、皮下注射針および注射器で皮下注射することができ、そして、脳または脊髄の神経に対する作用によって、個体を疼痛性刺激に対して無感覚にしうるか、または疼痛性刺激の個体の感知した感覚を低下させうるか、または健忘作用および/もしくは鎮静作用を個体内に誘発しうる、麻酔薬または鎮静剤をいう。
【0030】
用語「麻酔薬感受性受容体」は、麻酔薬と結合して、その麻酔薬との結合によって機能が調節される細胞膜タンパク質をいう。麻酔薬感受性受容体は、通常、二次メッセンジャー系(例えば、G-タンパク質およびチロシンキナーゼ)を介してイオンチャネルと間接的に結合され、2回、3回、4回または7回膜貫通領域を有しうる、イオンチャネルまたは細胞膜である。かかる受容体は、2以上のサブユニットからなり、タンパク質の複合体の一部として機能しうる。これらの受容体の活性化または阻害は、細胞静止膜電位を変化させるかまたは内因性リガンドによって通常誘発されるイオン透過性および細胞膜電位の変化が変わるような方法で内因性リガンドに対する細胞受容体の反応を変化させる細胞膜を通過するイオン透過性の直接的変化をもたらす。麻酔薬感受性受容体の例として、ガンマ-アミノ酪酸(GABA)受容体、N-メチル-D-アスパラギン酸塩(NMDA)受容体、電位依存性ナトリウムイオンチャネル、電位依存性カリウムイオンチャネル、二孔ドメインカリウムチャネル、アドレナリン受容体、アセチルコリン受容体、グリシンおよびオピオイド受容体が挙げられる。
【0031】
用語「有効量」または「医薬的に有効な量」は、所望の結果、例えば、麻酔を誘発するのに十分な量をもたらす、対象を無意識にするおよび/または対象を動けなくするのに必要な1種または複数の化合物の量および/または投与量、および/または投与レジメンをいう。
【0032】
本明細書に用いられる、用語「医薬的に許容される」は、本発明の範囲内で有用な化合物の生物学的活性または特性を失わず、比較的無毒性である物質、例えば、担体または希釈剤をいう、すなわち、該物質は、望ましくない生物学的効果をもたらすことなく、または、含有される組成物の成分のいずれかと有害な方法で相互に作用することなく、個体に投与されうる。
【0033】
本明細書に用いられる、用語「医薬的に許容される塩」は、無機酸、無機塩基、有機酸、有機塩基、溶媒和物、水和物、およびそれらの包接化合物を含む、医薬的に許容される無毒性の酸および塩基から調製される投与化合物の塩をいう。
【0034】
本明細書に用いられる、用語「組成物」または「医薬組成物」は、本発明の範囲内で有用な少なくとも1種の化合物と医薬的に許容される担体との混合物をいう。医薬組成物は、対象への化合物の投与を促進する。
【0035】
語句「投与させる」は、対象に問題がある薬剤(複数可)/化合物(複数可)の投与を管理および/または許可する、医療専門家(例えば、医師)、または対象の医療を管理する人が取る行動をいう。投与させることは、適当な治療または予防レジメンの診断および/または決定、および/または対象に対して特定の薬剤(複数可)/化合物を処方することに関与しうる。そのような処方することには、例えば、処方箋書式を下書きすること、診療記録に注釈を付けることなどが含まれうる。
【0036】
用語「患者」、「個体」、「対象」は、区別することなく、任意の哺乳類、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳類、例えば、非ヒト霊長類、家畜哺乳類(例えば、イヌ、ネコ)、農業哺乳類(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ)、または実験哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター)をいう。
【0037】
用語「モル水溶解度」は、25℃およびpH=7.0で純水中に飽和濃度で存在する化合物の1リットル当たりの計算または測定されたモル数をいう。
【0038】
用語「溶解度カットオフ値」は、特定の麻酔薬感受性受容体を活性化しうる麻酔化合物の閾値水溶解度濃度をいう。麻酔薬の水溶解度が特定の麻酔薬感受性受容体に対する溶解度カットオフ値より低い場合、薬剤は、その受容体を活性化しない。麻酔薬の水溶解度が特定の麻酔薬感受性受容体に対する溶解度カットオフ値を超える場合、薬剤は、その受容体を活性化しうるが、活性化する必要はない。
【0039】
単独または別の置換基の一部としての、用語「アルキル」は、特に明記しない限り、所定の炭素原子数を有する、直鎖または分枝鎖炭化水素基を意味する(すなわち、C1-8は、1ないし8個の炭素を意味する)。アルキル基の例として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどが挙げられる。本明細書の各定義(例えば、アルキル、アルコキシ、アルキルアミノ、アルキルチオ、アルキレン、ハロアルキル)について、接頭辞がアルキル部分の主鎖の炭素原子数を示すように含まれていない場合、その基または部分は、24個以下、例えば、20個、18個、16個、14個、12個、10個、8個、6個以下の主鎖の炭素原子を有する。
【0040】
単独または別の置換基の一部としての、用語「アルキレン」は、1個またはそれ以上の炭素-炭素二重結合を含有する不飽和炭化水素鎖を意味する。典型的には、アルキル(またはアルキレン)基は、本発明において好ましい10個以下の炭素原子を有する基と共に、1ないし24個の炭素原子を有する。「低級アルキル」または「低級アルキレン」は、一般的に4個以下の炭素原子を有する、短鎖のアルキルまたはアルキレン基である。
【0041】
用語「シクロアルキル」は、所定の環原子数を有し(例えば、C3-6シクロアルキル)、完全飽和であるかまたは環の頂点間に1個の二重結合しか有しない炭化水素環をいう。1個または2個のC原子は、カルボニルで所望により置き換えられうる。「シクロアルキル」はまた、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビシクロ[2.2.2]オクタンなどの二環式または多環式炭化水素環を意味する。接頭辞がシクロアルキル中の環炭素原子数を示すように含まれてない場合、その基または部分は、8個以下の環炭素原子を有する。
【0042】
用語「アルコキシ」、「アルキルアミノ」および「アルキルチオ」(またはチオアルコキシ)は、通常の意味で用いられ、酸素原子、アミノ基、または硫黄原子それぞれを介して残りの分子と結合しているアルキル基をいう。さらに、ジアルキルアミノ基について、アルキル部分は、同一であっても異なっていてもよく、また、各々が結合する窒素原子と共に3~8員の環を形成するために結合しうる。したがって、-NRaRbとして表される基は、ピペリジニル、ピロリジニル、モルホリニル、アゼチジニルなどを含むことを意味する。
【0043】
単独または別の置換基の一部としての、用語「ハロ」または「ハロゲン」は、特に明記しない限り、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子を意味する。さらに、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキルおよびポリハロアルキルを含むことを意味する。例えば、用語「C1-4ハロアルキル」は、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどを含むことを意味する。
【0044】
用語「アリール」は、置換されていないかまたはアルキル、シクロアルキル、シクロアルキル-アルキル、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、アシルアミノ、モノ-アルキルアミノ、ジ-アルキルアミノ、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ヘテロアルキル、COR(ここで、Rは、水素、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキル-アルキル、フェニルもしくはフェニルアルキル、アリールまたはアリールアルキルである)、-(CR’R’’)n-COOR(ここで、nは0~5の整数であり、R’およびR’’は、独立して、水素またはアルキルであり、そして、Rは、水素、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキル-アルキル、フェニルもしくはフェニルアルキル、アリールまたはアリールアルキルである)または-(CR’R’’)n-CONRaRb(ここで、nは0~5の整数であり、R’およびR’’は、独立して、水素またはアルキルであり、そして、RaおよびRbは、各々独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、フェニルもしくはフェニルアルキル、アリールまたはアリールアルキルである)から選択される、1~4個の置換基、好ましくは1個、2個、または3個の置換基で独立して置換されている、5~14個の環原子の一価の単環式、二環式、多環式芳香族炭化水素基を意味する。より具体的には、用語アリールには、限定されるものではないが、フェニル、ビフェニル、1-ナフチル、および2-ナフチル、ならびにそれらの置換された形態が含まれる。同様に、用語「ヘテロアリール」は、1~5個のヘテロ原子またはヘテロ原子官能基は、芳香族特性を保持しながら、環炭素を置換しているアリール基、例えば、ピリジル、キノリニル、キナゾリニル、チエニルなどをいう。ヘテロ原子は、N、O、またはSから選択され、ここで、窒素および硫黄原子は所望により酸化されてもよく、窒素原子(複数可)は所望により四級化されてもよい。ヘテロアリール基は、ヘテロ原子を介して残りの分子と結合しうる。アリール基の非限定的な例として、フェニル、ナフチルおよびビフェニルが挙げられるのに対し、ヘテロアリール基の非限定的な例として、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル(pyrimindinyl)、トリアジニル、キノリニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シンノリニル、フタラジニル(phthalaziniyl)、ベンゾトリアジニル、プリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾピラゾリル、ベンゾトリアゾリル、イソベンゾフリル、イソインドリル、インドリジニル、ベンゾトリアジニル、チエノピリジニル、チエノピリミジニル、ピラゾロピリミジニル、イミダゾピリジン、ベンゾチアゾリル(benzothiaxolyl)、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、イソチアゾリル、ピラゾリル、インダゾリル、プテリジニル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、ピロリル、チアゾリル、フリル、チエニルなどが挙げられる。簡潔に言えば、用語アリールは、他の基と組み合わせて用いる場合(例えば、アリールオキシ、アリールアルキル)、上記のアリール基およびヘテロアリール基の両方を含むことを意味する。
【0045】
アリール基の置換基は、多様であり、一般的に、芳香族環系上のゼロからオープン価数のゼロから総数の範囲の数で-ハロゲン、-OR’、-OC(O)R’、-NR’R’’、-SR’、-R’、-CN、-NO2、-CO2R’、-CONR’R’’、-C(O)R’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’’C(O)2R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NH-C(NH2)=NH、-NR’C(NH2)=NH、-NH-C(NH2)=NR’、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R’’、-NR’S(O)2R’’、-N3、ぺルフルオロ(C1-4)アルコキシ、およびぺルフルオロ(C1-4)アルキルから選択され、ここで、R’、R’’およびR’’’は、独立して、水素、C1-8アルキル、C3-6シクロアルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、非置換アリールおよびヘテロアリール、(非置換アリール)-C1-4アルキル、または非置換アリールオキシ-C1-4アルキルから選択される。
【0046】
アリール環またはヘテロアリール環の隣接した原子上の2個の置換基は、式-T-C(O)-(CH2)q-U-(式中、TおよびUは、独立して、-NH-、-O-、-CH2-または単結合であり、qは、0~2の整数である)の置換基で所望により置き換えられてもよい。あるいは、アリール基またはヘテロアリール基の隣接した原子上の2個の置換基は、式-A-(CH2)r-B-(式中、AおよびBは、独立して、-CH2-、-O-、-NH-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR’-または単結合であり、rは、1~3の整数である)の置換基で所望により置き換えられてもよい。そのように形成された新しい環の単結合の1つは、二重結合で所望により置き換えられてもよい。あるいは、アリール環またはヘテロアリール環の隣接した原子上の2個の置換基は、式-(CH2)s-X-(CH2)t-(式中、sおよびtは、独立して、0~3の整数であり、Xは、-O-、-NR’-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、または-S(O)2NR’-である)の置換基で所望により置き換えられてもよい。-NR’-および-S(O)2NR’-中の置換基R’は、水素または非置換C1-6アルキルから選択される。
【0047】
本明細書に用いられる、用語「ヘテロ原子」は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、およびシリコン(Si)を含むことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1は、2種の麻酔薬感受性受容体(R1およびR2)のMACへの寄与率に対する薬物投与量の効果を示す図である。薬物は、R1に対して高親和性を示すが、単独で麻酔作用をもたらすことはできない。R2との低親和性相互作用からの小さな関与が、100%の麻酔作用(MAC)をもたらすのに必要である。
【
図2】
図2は、計算された25℃で緩衝化していない水中の麻酔薬モル溶解度(SciFinder Scholarからの値)に応じたイオンチャネル調節の集計を示す。4回膜貫通型受容体(TM4)を調節するかまたはどの受容体型も調節しない薬物は、溶解度に平行な横線の下にある白丸(○,A-F)として示される。3回膜貫通型受容体(TM3)およびTM4受容体の両方を調節する薬物は、溶解度に平行な横線の上にある小さい黒丸(●,G-U)として示される。A=ノナン、B=ミダゾラム(Nistri,et al.,Neurosci Lett(1983)39:199-204)、C=ジアゼパム(Macdonald,et al.,Nature(1978)271:563-564)、D=ウンデカノール(Dildy-Mayfield,et al.,Br J Pharmacol(1996)118:378-384)、E=エトミデート(Flood,et al.,Anesthesiology(2000)92:1418-1425)、F=1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタン(Kendig,et al.,Eur J Pharmacol(1994)264:427-436)、G=セボフルラン(Jenkins,et al.,Anesthesiology 1999;90:484-491;Krasowski,Br J Pharmacol (2000) 129:731-743;Hollmann,Anesth Analg (2001) 92:1182-1191,Nishikawa,et al.,Anesthesiology (2003) 99:678-684)、H=プロポフォール(Yamakura,et al.,Neurosci Lett (1995) 188:187-190;Hales,et al.,Br J Pharmacol (1991) 104:619-628)、I=ケタミン(Flood,et al.,Anesthesiology (2000) 92:1418-1425;Hollmann,Anesth Analg (2001) 92:1182-1191;Yamakura,et al.,Anesthesiology (2000) 92:1144-1153)、J=イソフルラン(Jenkins,et al.,Anesthesiology (1999) 90:484-491;Krasowski,et al.,Br J Pharmacol (2000) 129:731-743;Hollmann,et al.,Anesth Analg (2001) 92:1182-1191;Yamakura,et al.,Anesthesiology (2000) 93:1095-1101;Ogata,et al.,J Pharmacol Exp Ther (2006) 318:434-443)、K=エンフルラン(Krasowski,et al.,Br J Pharmacol (2000) 129:731-743;Martin,et al.Biochem Pharmacol (1995) 49:809-817)、L=ジゾシルピン(Yamakura,et al.,Anesthesiology (2000) 92:1144-1153;Wong,et al.,Proc Natl Acad Sci U S A (1986) 83:7104-7108)、M=デスフルラン(Hollmann,et al.,Anesth Analg (2001) 92:1182-1191;Nishikawa,et al.,Anesthesiology (2003) 99:678-684)、N=ハロタン(Jenkins,et al.,Anesthesiology (1999) 90:484-491;Ogata,et al.,J Pharmacol Exp Ther (2006) 318:434-443;Martin,et al.,Biochem Pharmacol (1995) 49:809-817)、O=シクロプロパン(Ogata,et al.,J Pharmacol Exp Ther (2006) 318:434-443;Hara,et al.,Anesthesiology (2002) 97:1512-1520.)、P=クロロホルム,61 Q=2,6-ジメチルフェノール,65、R=メトキシフルラン(Jenkins,et al.,Anesthesiology (1999) 90:484-491;Krasowski,et al.,Br J Pharmacol (2000) 129:731-743;Martin,et al.Biochem Pharmacol (1995) 49:809-817)、S=ジエチルエーテル(Krasowski,et al.,Br J Pharmacol (2000) 129:731-743;Martin,et al.Biochem Pharmacol (1995) 49:809-817)、T=亜酸化窒素(Yamakura,et al.,Anesthesiology (2000) 93:1095-1101;Ogata,et al.,J Pharmacol Exp Ther (2006) 318:434-443)、U=エタノール(Yamakura,et al.,Anesthesiology (2000) 93:1095-1101)。従来の薬剤および実験薬剤のほとんどは、4回膜貫通型イオンチャネル(例えば、γ-アミノ酢酸タイプAまたはGABA
A受容体、グリシン受容体、およびニコチン性アセチルコリン受容体)および3回膜貫通型イオンチャネル(例えば、N-メチル-d-アスパラギン酸塩受容体またはNMDA受容体)のメンバーを調節する。しかしながら、低モル水溶性の薬剤は、3回膜貫通型受容体を調節しない。
【
図3】
図3は、GABA
A受容体(左)またはNMDA受容体(右)のいずれかを発現する卵母細胞からの試料の二電極膜電位固定法の記録を示す。黒棒(━)は、アゴニスト暴露の期間を示し、矢印(⇔)は、飽和アルカン暴露の期間を示す。ブタンおよびペンタンは共に、GABA
A受容体を正に調節する。ブタンはNMDA受容体を負に調節するが、ペンタンは作用しない。したがって、NMDA受容体は、ブタンとペンタン間のアルカンカットオフを示す。
【
図4】
図4は、モル水溶解度ごとの受容体カットオフ効果の概要を示す。各炭化水素官能基について、白棒は、GABA
AおよびNMDA受容体の両方を調節する化合物を示し、黒棒は、飽和濃度でGABA
A受容体を調節するが、NMDA受容体に対しては作用しない化合物を示す。中間の灰色棒は、データが存在しない溶解度値を示す。
【
図5】
図5は、薬物炭素原子数ごとの受容体カットオフ効果の概要を示す。重要な情報については、
図3を参照のこと。受容体カットオフパターンは、薬物炭素原子数に応じて明らかではない。
【
図6】
図6は、各薬物の算出された分子体積ごとの受容体カットオフ効果の概要を示す。重要な情報については、
図3を参照のこと。受容体カットオフパターンは、分子体積に応じて明らかではない。
【
図7】
図7は、モル水溶解度ごとのイオンチャネルおよび受容体調節のグラフを示す。薬物は、白棒で示される溶解度範囲にわたってチャネルまたは受容体活性を調節し、黒棒で示される溶解度範囲にわたって活性を調節しない。灰色領域は、13の全ての異なる炭化水素タイプを試験した、全てのチャネルおよびNMDA受容体を除く受容体に関する、3の異なる炭化水素タイプ(1-アルコール、n-アルカン、およびジアルキルエーテル)の溶解度カットオフ付近の95%信頼区間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
I.序論
本発明は、麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の特異性が、麻酔薬の水溶解度を変化させることによって調節(増加または低下)されうる驚くべき知見に一部基づく。麻酔薬感受性受容体の異なるファミリーに対する閾値溶解度カットオフ値に基づき、麻酔薬は、麻酔薬の水溶解度より低い水溶解度カットオフ値を有する受容体のサブセットを活性化するが、麻酔薬の水溶解度を超える水溶解度カットオフ値を有する受容体を活性化しないように設計されうる。一般に、比較的高い水溶解度を有する麻酔薬は、多数の麻酔薬感受性受容体を活性化する;比較的低い水溶解度を有する麻酔薬は、より少ない麻酔薬感受性受容体を活性化する。本知見は、例えば、麻酔薬の水溶解度と異なる麻酔薬感受性受容体の閾値溶解度カットオフ値を比較することによって、異なる麻酔薬感受性受容体に対する特定の麻酔薬の特異性を決定することを見出す。本知見はまた、その水溶解度を調節するための麻酔薬の合理的化学修飾または誘導体化および異なる麻酔薬感受性受容体に対する特異性を誘発することを見出す。
【0050】
いくつかの麻酔薬は、4回膜貫通型受容体(すなわち、GABA
A)または3回膜貫通型受容体(すなわち、NMDA)のいずれかと高親和性(低EC50)で結合するが、両受容体のスーパーファミリーのメンバーとは結合しない。しかしながら、十分な両親媒性を有する薬物は、両受容体のスーパーファミリーのメンバーを調節しうる;これは、ケタミンおよびプロポフォールだけでなく、多数の従来の薬剤および実験薬剤にも言えることである(
図2)。
図2の情報に基づき、十分な水溶解度は、系統発生学的に関連しない受容体スーパーファミリーの調節を可能にするのに十分であるように見える。さらに、
図2は、約1mMより低いモル溶解度を有する化合物が、受容体スーパーファミリー特異性を示すが、より大きなモル水溶解度を有する化合物が、十分な濃度で適用される場合に、3および4回膜貫通型受容体を調節しうることを示唆する。低親和性イオンチャネル効果を仲介する水性麻酔薬濃度の重要性は、どうしてタンパク質中の水空洞付近または細胞膜-細胞外の境界面付近の受容体点変異が揮発性麻酔薬に対する感受性に著しく影響を及ぼしうるかを説明する(Lobo,et al.,Neuropharmacology (2006) 50:174-81)。さらに、炭化水素鎖長の増大を伴う麻酔薬カットオフ効果は、大きな疎水性分子の不十分なモル水溶解度が原因かもしれない(Katz,et al.,J Theor Biol (2003) 225:341-9)。事実上、これは、サイズカットオフではなく溶解度カットオフかもしれない。
【0051】
麻酔薬は、均等に脂質二重層中に分布していない。ハロタンは、リン脂質の頭部基の接触面を好む。(Vemparala,et al.,Biophys J(2006)91:2815-25)。キセノン原子は、脂質-水界面の領域および二層の中心領域を好む(Stimson,et al.,Cell Mol Biol Lett(2005)10:563-9)。麻酔薬である、シクロプロパン、亜酸化窒素、デスフルラン、イソフルラン、および1,1,2-トリフルオロエタン(TFE)は全て、水とヘキサンの界面で増強する(Pohorille et al.,Toxicol Lett(1998)100-101:421-30)。しかしながら、TFEと構造上類似する化合物である、ペルフルオロエタンは、親水性-疎水性界面最大値を示さず、水および非固定化剤(nonimmobilizer)に溶解しにくい(Pohorille,supra)。脂質-水界面での両親媒性麻酔薬の蓄積が、表面張力を低下し(Wustneck,et al.,Langmuir(2007)23:1815-23)、膜リン脂質の側圧プロファイルを軽減しうるとの仮説が立てられている(Terama,et al.,J Phys Chem B(2008)112:4131-9)。これは、膜タンパク質の水分補給状態を変化させ(Ho,et al.,Biophys J(1992)63:897-902)、その結果、イオンチャネルを介して伝達を変化させることができた。特定のチャネルの「麻酔薬感受性」は、単に界面親水性相互作用によって調節される受容体の指標でありうる可能性がある。
【0052】
しかしながら、非類似のイオンチャネルについて、同数の親水性または疎水性麻酔薬相互作用が同一であると推定する理由はない。2回膜貫通型(例えば、P2X、P2Z受容体)、3回膜貫通型(例えば、AMPA、カイナイト、およびNMDA受容体)、4回膜貫通型(nACh、5-HT3、GABAA、GABAC、およびグリシン受容体)、および7回膜貫通型(G-タンパク質共役受容体)スーパーファミリーは、系統的に関連しない(Foreman JC,Johansen T:Textbook of Receptor Pharmacology,第2版.Boca Raton,CRC Press,2003)。したがって、受容体を調節するのに必要な脂質-水界面での麻酔薬分子数が、異なるスーパーファミリーのメンバーによって異なるが、非常に高い配列相同性を有するので同一スーパーファミリー内のチャネルに対してより同等である可能性が高いように思える。
【0053】
脂質-水界面での麻酔薬の非特異的相互作用が、低親和性および無差別な(promiscuous)イオンチャネル調節に重要である場合、少なくとも2つの予測が行われうる。
【0054】
第一に、十分な水溶解度は、界面相互作用に重要であるので、十分な水溶解度を有する任意の両親媒性分子は、麻酔薬感受性チャネルを調節することができる。該主張は、GABAA、グリシン、NMDA、二孔ドメインカリウムチャネル、および他の麻酔薬感受性チャネルが、二酸化炭素、アンモニア、ケトン体、および洗剤を含む、従来の麻酔薬および従来にない麻酔薬によって調節されうることを示す多数の試験によってサポートされる(Yang,et al,Anesth Analg (2008) 107:868-74;Yang,et al.,Anesth Analg (2008) 106:838-45;Eger,et al.,Anesth Analg (2006) 102:1397-406;Solt,et al.,Anesth Analg (2006) 102:1407-11;Krasowski,et al.,J Pharmacol Exp Ther (2001) 297:338-51;Brosnan,et al.,Anesth Analg (2007) 104:1430-3;Brosnan,et al.,Br J Anaesth (2008) 101:673-9;Mohammadi,et al.,Eur J Pharmacol (2001) 421:85-91;Anderson,et al.,J Med Chem (1997) 40:1668-81;Brosnan,et al.,Anesth Analg (2006) 103:86-91).87-96)。さらに、従来の麻酔薬に対するイオンチャネル感受性を低下する受容体変異はまた、同様に従来にないものに対する感受性を低下しうる(Yang,et al.,Anesth Analg (2008) 106:838-45),これは、これらの異種化合物全てが、関連のないイオンチャネルと相互作用するための共通の非特異的メカニズムを有することを示唆する。
【0055】
第二に、非特異的界面相互作用の数は、非相同性チャネル間で異なる。したがって、イオンチャネル調節についてのカットオフ効果の主な決定要因は、薬物の水溶解度であるので、閾値溶解度カットオフ濃度は、関連しないスーパーファミリーからのイオンチャネル間で異なる(例えば、3回対4回膜貫通型受容体)。予備データは、該濃度を支持する(
図9)。これらの試験では、GABA
A(ヒトα
1β
2γ
2s)受容体またはNMDA(ヒトNR1/ラットNR2A)受容体のいずれかを発現する卵母細胞の全セル電流を、異なる官能基を有する飽和炭化水素の存在下および不在下で測定した。所定の相同性炭化水素類(同一官能基を有する)について、薬物溶解度は、Ω位の炭化水素鎖長の増大によって変化した。例えば、アルカン類は、n-ブタン、n-ペンタンおよびn-ヘキサンから構成された;アルコール類は、1-デカノールおよび1-ドデカノールから構成された;アミン類は、1-オクタデカミンおよび1-エイコサンアミンから構成された;エーテル類は、ジペンチルエーテルおよびジヘキシルエーテルから構成された。試験された全ての化合物は、GABA
A受容体の陽性モジュレーター(基準値から>10%増)であったが、約1mMより大きいモル水溶解度を有する化合物のみが、
図9に示されるように、NMDA受容体を調節することもできた(基準値から>10%減)。したがって、水溶解度は、GABA
A対NMDA受容体に対する特異性と相関性があった。溶解度値が、全セル電流が実際に測定されたポリイオン性緩衝液の代わりに緩衝化していない純水中で化合物について算出される-測定されない-ので、該相関性は著しく良好である。鎖長の増大は分子体積を増大するけれども、特異性カットオフは、任意の特定の炭化水素鎖長と関連性がなかった。さらに、鎖長の増大はまた、溶液中炭化水素の活性を変化する;しかし、飽和蒸気圧と受容体特異性カットオフの間に相関性はなかった。
【0056】
吸入麻酔薬は、心血管および呼吸抑制に関して患者に危険を及ぼすとしても、動物およびヒトにおいて全身麻酔として広く臨床に使用されている。継続した薬物開発は、麻酔薬の安全性を改善するのに重要である。しかしながら、臨床に使用される全ての揮発性麻酔薬は、1970年代以前に開発された(Terrell,Anesthesiology (2008) 108:531-3)。
【0057】
より新しくかつより安全な麻酔薬の製造は、どの受容体または受容体スーパーファミリーが調節される可能性があるのかを予測する特性の知識を必要とする(Solt,et al.,Curr Opin Anaesthesiol 2007;20:300-6)。NMDA対GABAA受容体特異性に関する閾値溶解度を立証するデータが本明細書にて提供される;類似の溶解度-特異性「カットオフ」値は、同様に他の受容体について存在する。これは、種々の受容体およびイオンチャネルでの作用が薬物の薬理学的特性を決定するので、重要である。NMDA受容体に対して選択的に作用する吸入剤は、他の注射用NMDAアンタゴニストと同様に、無痛覚および自律神経系無活動の増大を示しうる(Cahusac,et al.,Neuropharmacology(1984)23:719-24;Bovill,et al.,Br J Anaesth(1971)43:496-9;Sanders,Br Med Bull(2004)71:115-35;France,et al.,J Pharmacol Exp Ther (1989)250:197-201;Janig,et al.,J Auton Nerv Syst(1980)2:1-14;およびNess,et al.,Brain Res 1988;450:153-69)。特定のGABA受容体を通じて主に作用する薬物は、良好な健忘を示しうるが(Clark,et al.,Arch Neurol(1979)36:296-300;Bonin,et al.,Pharmacol Biochem Behav(2008)90:105-12;Cheng,et al.,J Neurosci 2006;26:3713-20;Sonner,et al.,Mol Pharmacol(2005)68:61-8;Vanini,et al.,Anesthesiology(2008)109:978-88)、有意な呼吸器抑制にも寄与しうる(Harrison,et al.,Br J Pharmacol 1985;84:381-91;Hedner,et al.,J Neural Transm(1980)49:179-86;Yamada,et al.,Brain Res 1982;248:71-8;Taveira da Silva,et al.,J Appl Physiol(1987)62:2264-72;Delpierre,et al.,Neurosci Lett(1997)226:83-6;Li,et al.,J Physiol(2006)577:307-18;Yang,J Appl Physiol(2007)102: 350-7)。他のカットオフ値は、麻酔された患者において心臓血管の不安定性をもたらす、陰性変力作用および血管拡張を引き起こす受容体について存在しうる。
【0058】
閾値カットオフ値の知識、および物理的特性の算出された推定値を通じてそれらの値を容易に予測する手段は、安全性プロフィールを改善する新規薬剤の合理的設計を促進する。例えば、固定化効果が弱い優れた鎮痛剤は、薬剤の水溶解度の増加によって、例えば、アルコール基もしくはハロゲンの添加によって、または、高親和性結合相互作用と関連しない長い脂肪族鎖の除去によって優れた全身麻酔薬に変えられうる。逆に、優れた固定化剤は、そのカットオフ値を超える受容体調節によって生じる特定の副作用を除外するために水溶解度を減少するように変化しうる。薬物の作用を弱めるために高親和性部位での活性が変化する可能性もある、その結果、薬物のED50を増大し、そして、これらの高濃度で低親和性部位からの潜在的に所望の薬力学的効果を加える。
【0059】
閾値溶解度-特異性カットオフ値の知見は、麻酔メカニズムに関する予測を可能にする。例えば、同一のスーパーファミリーである受容体は配列相同性を有するので、それらの溶解度カットオフ値は、異なるスーパーファミリーからの受容体より相互に類似するはずである。
【0060】
II.麻酔をもたらす化合物
a.現在の吸入麻酔薬の特性
麻酔薬感受性受容体における候補化合物の効果および薬理活性を予測するための水溶解度閾値を用いて、気道を通って送達される麻酔を誘発する化合物が同定されている。いくつかの化合物は、NMDA受容体を阻害することなくGABAA受容体を増強する。候補化合物は、それらの水溶解度、蒸気圧、生理食塩水-ガス分配係数、炭素ハロゲン比、臭気(またはその欠乏)、例えば、吸入または肺送達用製剤における、安定性、異なる麻酔薬感受性受容体上の薬理活性、および毒性に基づき、選択される。
【0061】
i.モル水溶解度およびチャネルのカットオフ値
吸入剤は、中枢神経系内の神経細胞の興奮を低下させるのに用いるイオンチャネルおよび細胞膜受容体の相加効果で麻酔をかける。特定のイオンチャネルおよび細胞膜受容体での麻酔作用は、モル水溶解度によって予測される。約1.1mMより大きいモル水溶解度を有する炭化水素はNMDA受容体を調節するのに対し、溶解度が小さい麻酔薬は一般的に調節しないが、わずかに低い溶解度値でNMDA受容体を調節し続けるアルコールおよびわずかに高い溶解度値でカットオフ効果を示すエーテルとの該カットオフ値については小さな変動がある。逆に、GABAA受容体を増強できない吸入炭化水素は、麻酔薬ではない。GABAA受容体調節の水溶解度カットオフは、約0.068mMであるが、本発明者らの実験室から得た最新データは、0.3mM~0.016に広がる95%信頼区間を示す。これらのGABAA溶解度カットオフ値は、可能性のある麻酔薬候補の急速なデータベーススクリーニングのための絶対的なモル水溶解度の下限値を提供する。0.068mMより溶けにくい吸入剤は、麻酔作用を示しそうにない。100mMより溶けやすいガス状ではない揮発性化合物は、所望の薬物速度論的特性を有しそうにないので、該値は、データベーススクリーニングのための溶解度の上限値として用いる。
【0062】
ii.蒸気圧
吸入麻酔薬は、呼吸器系で投与されるので、患者に急速に薬物を送達するのを促進するために十分に高い蒸気圧が必要である。蒸気圧はまた、1気圧で吸入して送達される薬物の(水溶性および脂溶性ごとの)麻酔作用を超えなければならない。データベーススクリーニングについて、本発明者らは、25℃で0.1気圧(76mmHg)の最小蒸気圧を選択した。
【0063】
iii.生理食塩水-ガス分配係数
低オスワルドの生理食塩水-ガス分配係数を有する吸入麻酔薬は、所望のかつ急速な
ウォッシュイン(washin)とウォッシュアウト(washout)動態を示す。これらの値は、すでに公開されたQSPR相関を用いて、または低オスワルドの生理食塩水-ガス分配係数を共に示唆する高蒸気圧および低水溶性を示す化学ファミリー内の化合物を同定することによって推定されうる。化合物は、37℃で生理食塩水-ガス分配係数≦0.8を有するべきである。
【0064】
iv.炭素ハロゲン比
最新の麻酔薬は、臨床的に有用であるために不燃性でなければならない。ハロゲン化は、可燃性を減少させる。水素原子数が炭素原子数を超えなかった化合物が好ましい。
【0065】
v.親化合物の特性
1.臭気
悪臭化合物は、患者または周術期の人々(personnel)にとって耐えられないであろう。チオールまたはスルフィド結合を含む化合物ならびに第一級および第二級アミン化合物は不快な臭気を有するので、これらの基を含有する揮発性化合物は、スクリーニングから除外された。
【0066】
2.安定性
二価の塩基(および時に、一価の塩基)は、麻酔回路においてCO2吸収に用いられる;したがって、臨床的に有用な薬剤は、強塩基の存在下において、安定でなければならない。ソーダ石灰中で不安定であったアルデヒド、ケトン、またはカルボン酸基を含む化合物は好ましくない。麻酔薬はまた、インビボにおける加水分解および酸化還元反応に抵抗性があるはずである。エステル結合を有する化合物は、熱的に不安定であるかまたは血漿および組織コリンエステラーゼによって加水分解されうる;そして、加水分解に抵抗性がある化合物は、(他の薬物の代謝に必須である)これらの酵素の望ましくない阻害を引き起こす可能性があるかもしれない。そのため、エステル結合を有する化合物は好ましくない。非芳香族不飽和炭素結合を有する麻酔薬は、過去に使用されており(フルロキセン、イソプロペニルビニルエーテル、トリクロロエチレン、ビニルエチレン(vinethylene)、エチレン)、いくつかの薬剤に関する毒性に関連する広範な代謝をうけることを示されている。二重炭素結合または三重炭素結合を有する薬剤は好ましくない。
【0067】
3.麻酔薬-感受性チャネルおよび受容体効果
臨床上関連する麻酔薬は、興奮性イオンチャネルおよび細胞受容体を阻害し、抑制性イオンチャネルおよび細胞受容体を増強する。しかしながら、第3級アミンを含む非ハロゲン化化合物(4-メチルモルホリン、N-メチルピペラジン)での試験は、高濃度で麻酔作用を遮断し、ニューロン損傷を引き起こす可能性があると予測されるNMDA受容体の直接的活性化を引き起こした。したがって、第3級アミンを含む化合物は好ましくない。
【0068】
4.インビトロおよびインビボ毒性
いくつかの親構造(例えば、ピロリジン)は、卵母細胞の電気生理学的試験中に細胞毒性を引き起こした。これらの化合物は好ましくない。動物またはヒト(例えば、シランおよびボラン)に対して高い毒性を示すことが以前知られていた他の構造も好ましくない。
【0069】
b.代表的な麻酔薬
前記基準を有する代表的な麻酔薬化合物には、限定されるものではないが、ハロゲン化アルコール誘導体、ハロゲン化ジエーテル(ポリエーテル)誘導体、ハロゲン化ジオキサン誘導体、ハロゲン化ジオキソラン誘導体、ハロゲン化シクロペンタン誘導体、ハロゲン化シクロヘキサン誘導体、ハロゲン化テトラヒドロフラン誘導体およびハロゲン化テトラヒドロピラン誘導体が含まれる。化合物は、呼吸経路で対象に送達するために、例えば、吸入または肺送達用に処方されうる。
【0070】
本明細書に記載の化合物は、酸と塩を形成してもよく、かかる塩は、本発明に含まれる。一つの実施態様において、塩は、医薬的に許容される塩である。用語「塩」は、本発明の方法に有用である遊離酸の付加塩を包含する。用語「医薬的に許容される塩」は、医薬応用において有用性を示す範囲内で毒性プロフィールを有する塩をいう。
【0071】
適当な医薬的に許容される酸付加塩は、無機酸または有機酸から調製されうる。無機酸の例として、硫酸塩、硫酸水素塩、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸およびリン酸(リン酸水素およびリン酸二水素を含む)が挙げられる。適当な有機酸は、脂肪族系、環状脂肪族系、芳香族系、アラリファティック系(araliphatic)、複素環系、カルボン酸系またはスルホン酸系の有機酸から選択されうる、その例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β-ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸およびガラクツロン酸が挙げられる。
【0072】
本発明の化合物の適当な医薬的に許容される塩基付加塩には、例えば、金属塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および遷移金属塩を含む)、例えば、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよび亜鉛塩が含まれ、医薬的に許容される塩基付加塩には、塩基性アミン、例えば、N,N’-ジベンジルエチレン-ジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)およびプロカインから製造された有機塩も含まれる。これらの塩の全ては、例えば、適当な酸または塩基を化合物と反応させることによって対応する化合物から製造されうる。
【0073】
本明細書に記載の化合物のいくつかは、キラル中心を含む。キラル中心は、一般に、4個の特有の置換基と結合している炭素原子をいう。これらのキラル中心を含む化合物に関して、本発明は、純粋エナンチオマーのいずれかとして、エナンチオマーの混合物として、ならびにジアステレオ異性体の混合物または精製されたジアステレオマーとしてこれらのキラル中心を含む化合物の使用、およびその投与を含む方法を提供する。いくつかの実施態様において、特定のエナンチオマーのR配置は、特定の方法については好ましい。また他の実施態様において、特定のエナンチオマーのS配置は、特定の方法については好ましい。本発明には、キラル中心を有する化合物のラセミ混合物の投与方法が含まれる。本発明には、化合物の1つの特定の立体異性体を投与する方法が含まれる。ある実施態様において、あるエナンチオマーの別のエナンチオマーに対する特定の比率は、本明細書に記載の方法と共に使用するのに好ましい。他の実施態様において、あるジアステレオマーの別のジアステレオマーに対する特定の比率は、本明細書に記載の方法と共に使用するのに好ましい。
【0074】
i.ハロゲン化アルコール誘導体
代表的なハロゲン化アルコール誘導体には、限定されるものではないが、式I:
【化8】
[式中:
nは、0~4であり、
R
1は、Hであり;
R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式Iの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物が含まれる。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、Xは、Fである。いくつかの実施態様において、R
1は、H、CH
2OH、CHFOHおよびCF
2OH、CHClOH、CCl
2OHまたはCFClOHから選択される。いくつかの実施態様において、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。
【0075】
いくつかの実施態様において、ハロゲン化アルコール誘導体は、
a)メタノール,1-フルオロ-1-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エトキシ]-(CAS番号1351959-82-4);
b)1-ブタノール,4,4,4-トリフルオロ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)-(CAS番号14115-49-2);
c)1-ブタノール,1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロ-(CAS番号3056-01-7);
d)1-ブタノール,2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-(CAS番号782390-93-6);
e)1-ブタノール,3,4,4,4-テトラフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-(CAS番号90999-87-4);
f)1-ペンタノール,1,1,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-(CAS番号313503-66-1);および
g)1-ペンタノール,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,5-ウンデカフルオロ-(CAS番号57911-98-5)
からなる群から選択される。
【0076】
いくつかの他の実施態様において、ハロゲン化アルコール誘導体は、
a)2-ペンタノール,1,1,1,3,3,5,5,5-オクタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号144475-50-3);
b)2-ペンタノール,1,1,1,3,4,5,5,5-オクタフルオロ-4-(トリフルオロメチル)-(2R,3S)-(CAS番号126529-27-9);
c)2-ペンタノール,1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-,(2R,3S)-rel-(CAS番号126529-24-6);
d)2-ペンタノール,1,1,1,3,4,5,5,5-オクタフルオロ-4-(トリフルオロメチル)-(2R,3R)-(CAS番号126529-17-7);
e)2-ペンタノール,1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-,(2R,3R)-rel-(CAS番号126529-14-4);
f)1-ブタノール,1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-(CAS番号119420-27-8);
g)1-ブタノール,2,3,3,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号111736-92-6);
h)2-ペンタノール,1,1,1,3,3,4,5,5,5-ノナフルオロ-,(R*,S*)-(9CI)(CAS番号99390-96-2);
i)2-ペンタノール,1,1,1,3,3,4,5,5,5-ノナフルオロ-,(R*,R*)-(9CI)(CAS番号99390-90-6);
j)2-ペンタノール,1,1,1,3,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号67728-22-7);
k)1-ペンタノール,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,5-ウンデカフルオロ-(CAS番号57911-98-5);
l)2-ペンタノール,1,1,1,3,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-(CAS番号377-53-7);
m)1-ペンタノール,2,2,3,4,4,5,5,5-オクタフルオロ-(CAS番号357-35-7);
n)1-ブタノール,2,3,4,4,4-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号357-14-2);
o)1-ペンタノール,2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロ(CAS番号355-28-2);
p)1-ブタノール,2,3,4,4,4-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-,(R*,S*)-(9CI)(CAS番号180068-23-9);
q)1-ブタノール,2,3,4,4,4-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(R*,R*)-(9CI)(CAS番号180068-22-8);
r)2-ブタノール,1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号144444-16-6);
s)2-ブタノール,1,1,1,3,3,4,4,4-オクタフルオロ-(CAS番号127256-73-9);
t)1-ブタノール,2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-(CAS番号782390-93-6);
u)2-プロパノール,1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号2378-02-01);
v)1-ヘキサノール,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロ(CAS番号1118030-44-6);
w)1-ヘキサノール,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロ-(CAS番号119420-28-9);
x)1-ヘキサノール,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-トリデカフルオロ-(CAS番号7057-81-0);
y)1-ヘキサノール,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-(CAS番号2043-47-2);
z)1-ヘキサノール,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロ-(CAS番号423-46-1);
aa)1-ヘキサノール,2,2,3,4,4,5,5,6,6,6-デカフルオロ-(CAS番号356-25-2);
ab)1-ヘキサノール,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-ウンデカフルオロ-(CAS番号185689-57-0);
ac)1-ヘキサノール,2,2,3,3,4,4,5,6,6,6-デカフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号849819-50-7);
ad)1-ヘキサノール,2,2,3,3,4,4,5,6,6,6-デカフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号89076-11-9);
ae)1-ヘキサノール,2,2,3,4,4,6,6,6-オクタフルオロ-3,5,5-トリス(トリフルオロメチル)-(CAS番号232267-34-4);
af)1-ヘキサノール,2,2,3,4,4,5,6,6,6-ノナフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-(CAS番号402592-21-6);
ag)1-ヘキサノール,4,5,5,6,6,6-ヘキサフルオロ-4-(トリフルオロメチル)-(CAS番号239463-96-8);および
ah)1-ヘキサノール,4,4,5,5,6,6,6-ヘプタフルオロ-3,3-ビス(トリフルオロメチル)-(CAS番号161261-12-7)
からなる群から選択される。
【0077】
いくつかの実施態様において、上記のハロゲン化アルコール誘導体は、吸入鎮静剤として、また吸入精神安定剤、吸入鎮痛剤、そして吸入睡眠薬としても有用である。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のハロゲン化アルコール誘導体は、吸入鎮静剤として有用である。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のハロゲン化アルコール誘導体は、吸入精神安定剤として有用である。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のハロゲン化アルコール誘導体は、吸入鎮痛剤として有用である。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のハロゲン化アルコール誘導体は、吸入睡眠薬として有用である。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のハロゲン化アルコール誘導体は、精神安定剤として有用である。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のハロゲン化アルコール誘導体は、鎮痛剤として有用である。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のハロゲン化アルコール誘導体は、睡眠薬として有用である。
【0078】
いくつかの特定の実施態様において、ハロゲン化アルコール誘導体は、1-ヘキサノール,2,2,3,3,4,4,5,6,6,6-デカフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号89076-11-9)から選択される。1-ヘキサノール,2,2,3,3,4,4,5,6,6,6-デカフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-は、飽和水相濃度でGABA-A受容体アゴニストおよび弱いNMDA受容体アンタゴニストとして有用であることが観察された。本発明は、対象または患者に鎮静状態または催眠状態を誘導するために1-ヘキサノール,2,2,3,3,4,4,5,6,6,6-ドデカフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-の投与方法を含む。
【0079】
ii.ハロゲン化ジエーテル(ポリエーテル)誘導体
代表的なハロゲン化ジエーテル(ポリエーテル)誘導体には、限定されるものではないが、式II:
【化9】
[式中:
nは、1~3であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式IIの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物が含まれる。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、XはFである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。
【0080】
いくつかの実施態様において、ハロゲン化ジエーテル(ポリエーテル)誘導体は、
a)エタン,1,1,2-トリフルオロ-1,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号362631-92-3);
b)エタン,1,1,1,2-テトラフルオロ-2,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号115395-39-6);
c)エタン,1-(ジフルオロメトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号40891-98-3);
d)エタン,1,1,2,2-テトラフルオロ-1,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号378-11-0);
e)エタン,1,2-ジフルオロ-1,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号362631-95-6);
f)エタン,1,2-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号1683-90-5);
g)プロパン,1,1,3,3-テトラフルオロ-1,3-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号870715-97-2);
h)プロパン,2,2-ジフルオロ-1,3-ビス(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号156833-18-0);
i)プロパン,1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号133640-19-4;
j)プロパン,1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(フルオロメトキシメトキシ)-(CAS番号124992-92-3);および
k)プロパン,1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメトキシ)-(CAS番号104159-55-9)
からなる群から選択される。
【0081】
iii.ハロゲン化ジオキサン誘導体
代表的なハロゲン化ジオキサン誘導体には、限定されるものではないが、式III:
【化10】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式IIIの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物が含まれる。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、XはFである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。
【0082】
いくつかの実施態様において、ハロゲン化ジオキサン誘導体は、
a)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,6-ヘキサフルオロ-(CAS番号362631-99-0);
b)1,4-ジオキサン,2,3-ジクロロ-2,3,5,5,6,6-ヘキサフルオロ-(CAS番号135871-00-0);
c)1,4-ジオキサン,2,3-ジクロロ-2,3,5,5,6,6-ヘキサフルオロ-,trans-(9CI)(CAS番号56625-45-7);
d)1,4-ジオキサン,2,3-ジクロロ-2,3,5,5,6,6-ヘキサフルオロ-,cis-(9CI)(CAS番号56625-44-6);
e)1,4-ジオキサン,2,2,3,5,6,6-ヘキサフルオロ-(CAS番号56269-26-2);
f)1,4-ジオキサン,2,2,3,5,5,6-ヘキサフルオロ-(CAS番号56269-25-1);
g)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,6-ヘキサフルオロ-,trans-(9CI)(CAS番号34206-83-2);
h)1,4-ジオキサン,2,2,3,5,5,6-ヘキサフルオロ-,cis-(9CI)(CAS番号34181-52-7);
i)p-ジオキサン,2,2,3,5,5,6-ヘキサフルオロ-,trans-(8CI)(CAS番号34181-51-6);
j)1,4-ジオキサン,2,2,3,5,6,6-ヘキサフルオロ-,cis-(9CI)(CAS番号34181-50-5);
k)p-ジオキサン,2,2,3,5,6,6-ヘキサフルオロ-,trans-(8CI)(CAS番号34181-49-2);
l)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,6-ヘキサフルオロ-,(5R,6S)-rel-(CAS番号34181-48-1);
m)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,5,6-ヘプタフルオロ-(CAS番号34118-18-8);および
n)1,4-ジオキサン,2,2,3,3,5,5,6,6-オクタフルオロ-(CAS番号32981-22-9)
からなる群から選択される。
【0083】
iv.ハロゲン化ジオキソラン誘導体
代表的なハロゲン化ジオキソラン誘導体には、限定されるものではないが、式IV:
【化11】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式IVの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物が含まれる。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、XはFである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。
【0084】
いくつかの実施態様において、ハロゲン化ジオキソラン誘導体は、
a)1,3-ジオキソラン,2,4,4,5-テトラフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号344303-08-8);
b)1,3-ジオキソラン,2-クロロ-4,4,5-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号344303-05-5);
c)1,3-ジオキソラン,4,4,5,5-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号269716-57-6);
d)1,3-ジオキソラン,4-クロロ-2,2,4-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号238754-29-5);
e)1,3-ジオキソラン,4,5-ジクロロ-2,2,4,5-テトラフルオロ-,trans-(9CI)(CAS番号162970-78-7);
f)1,3-ジオキソラン,4,5-ジクロロ-2,2,4,5-テトラフルオロ-,cis-(9CI)(CAS番号162970-76-5);
g)1,3-ジオキソラン,4-クロロ-2,2,4,5,5-ペンタフルオロ-(CAS番号139139-68-7);
h)1,3-ジオキソラン,4,5-ジクロロ-2,2,4,5-テトラフルオロ-(CAS番号87075-00-1);
i)1,3-ジオキソラン,2,4,4,5-テトラフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-,trans-(9CI)(CAS番号85036-66-4);
j)1,3-ジオキソラン,2,4,4,5-テトラフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-,cis-(9CI)(CAS番号85036-65-3);
k)1,3-ジオキソラン,2-クロロ-4,4,5-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-,trans-(9CI)(CAS番号85036-60-8);
l)1,3-ジオキソラン,2-クロロ-4,4,5-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-,cis-(9CI)(CAS番号85036-57-3);
m)1,3-ジオキソラン,2,2-ジクロロ-4,4,5,5-テトラフルオロ-(CAS番号85036-55-1);
n)1,3-ジオキソラン,4,4,5-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号76492-99-4);
o)1,3-ジオキソラン,4,4-ジフルオロ-2,2-bis(トリフルオロメチル)-(CAS番号64499-86-1);
p)1,3-ジオキソラン,4,5-ジフルオロ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)-,cis-(9CI)(CAS番号64499-85-0);
q)1,3-ジオキソラン,4,5-ジフルオロ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)-,trans-(9CI)(CAS番号64499-66-7);
r)1,3-ジオキソラン,4,4,5-トリフルオロ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)-(CAS番号64499-65-6);
s)1,3-ジオキソラン,2,4,4,5,5-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-(CAS番号55135-01-8);
t)1,3-ジオキソラン,2,2,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-(CAS番号21297-65-4);および
u)1,3-ジオキソラン,2,2,4,4,5-ペンタフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号19701-22-5)
からなる群から選択される。
【0085】
v.ハロゲン化シクロペンタン誘導体
代表的なハロゲン化シクロペンタン誘導体には、限定されるものではないが、式V:
【化12】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9およびR
10は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式Vの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物が含まれる。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、XはFである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9およびR
10は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。
【0086】
いくつかの実施態様において、ハロゲン化シクロペンタン誘導体は、
a)シクロペンタン,5-クロロ-1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-(CAS番号362014-70-8);
b)シクロペンタン,1,1,2,2,3,4,4,5-オクタフルオロ-(CAS番号773-17-1);
c)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロ-(CAS番号828-35-3);
d)シクロペンタン,1,1,2,3,3,4,5-ヘプタフルオロ-(CAS番号3002-03-7);
e)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-(CAS番号149600-73-7);
f)シクロペンタン,1,1,2,2,3,4,5-ヘプタフルオロ-(CAS番号1765-23-7);
g)シクロペンタン,1,1,2,3,4,5-ヘキサフルオロ-(CAS番号699-38-7);
h)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロ-(CAS番号15290-77-4);
i)シクロペンタン,1,1,2,2,3,4-ヘキサフルオロ-(CAS番号199989-36-1);
j)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロ-(CAS番号123768-18-3);および
k)シクロペンタン,1,1,2,2,3-ペンタフルオロ-(CAS番号1259529-57-1)
からなる群から選択される。
【0087】
いくつかの実施態様において、ハロゲン化シクロペンタン誘導体は、
c)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロ-(CAS番号828-35-3);
e)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-(CAS番号149600-73-7);および
h)シクロペンタン,1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロ-(CAS番号15290-77-4)
からなる群から選択される。
【0088】
いくつかの実施態様において、投与されるかまたは本明細書に記載の方法のいずれかと共に用いられる化合物は、1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタンである。ある実施態様において、化合物は、
【化13】
からなる群から選択される構造を有する。ある実施態様において、投与されるかまたは本明細書に記載の方法のいずれかと共に用いられる化合物は、(4R,5S)-1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタン、(4S,5S)-1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタン、および(4R,5R)-1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタンからなる群から選択される。(4R,5S)-1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタン、(4S,5S)-1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタン、および(4R,5R)-1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタンの混合物は、本明細書に記載の方法と共に用いられうる。本発明はまた、1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタンの特定の立体異性体、例えば、(4R,5S)-1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタン、または(4S,5S)-1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタン、または(4R,5R)-1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタンを投与すること、または本明細書に記載の方法のいずれかと共に用いることを含む。
【0089】
いくつかの実施態様において、投与されるかまたは本明細書に記載の方法のいずれかと共に用いられる化合物は、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(CAS番号15290-77-4)である。ある実施態様において、化合物は、
【化14】
からなる群から選択される構造を有する。ある実施態様において、投与されるかまたは本明細書に記載の方法のいずれかと共に用いられる化合物は、(R)-1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンおよび(S)-1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンからなる群から選択される。(R)-1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンおよび(S)-1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンの混合物、例えば、ラセミ混合物は、本明細書に記載の方法と共に用いられる。本発明はまた、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(CAS番号15290-77-4)の特定の立体異性体、例えば、(R)-1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンまたは(S)-1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンを投与すること、または本明細書に記載の方法のいずれかと共に用いることを含む。
【0090】
vi.ハロゲン化シクロヘキサン誘導体
代表的なハロゲン化シクロヘキサン誘導体には、限定されるものではないが、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-シクロヘキサン(CAS番号830-15-9)が含まれる。
【0091】
vii.ハロゲン化テトラヒドロフラン誘導体
代表的なハロゲン化テトラヒドロフラン誘導体には、限定されるものではないが、式VI:
【化15】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式VIの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物が含まれる。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、XはFである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。
【0092】
いくつかの実施態様において、ハロゲン化テトラヒドロフラン誘導体は、
a)フラン,2,3,4,4-テトラフルオロテトラヒドロ-2,3-bis(トリフルオロメチル)-(CAS番号634191-25-6);
b)フラン,2,2,3,3,4,4,5-ヘプタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号377-83-3);
c)フラン,2,2,3,3,4,5,5-ヘプタフルオロテトラヒドロ-4-(トリフルオロメチル)-(CAS番号374-53-8);
d)フラン,2,2,3,4,5-ペンタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,(2α,3β,4α)-(9CI)(CAS番号133618-53-8);
e)フラン,2,2,3,4,5-ペンタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,(2α,3α,4β)-(CAS番号133618-52-7);
f)フラン,2,2,3,4,5-ペンタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,(2α,3β,4α)-(9CI)(CAS番号133618-53-8);
g)フラン,2,2,3,4,5-ペンタフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,(2α,3α,4β)-(9CI)(CAS番号133618-52-7);
h)フラン,2,2,3,3,5,5-ヘキサフルオロテトラヒドロ-4-(トリフルオロメチル)-(CAS番号61340-70-3);
i)フラン,2,3-ジフルオロテトラヒドロ-2,3-bis(トリフルオロメチル)-(CAS番号634191-26-7);
j)フラン,2-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロテトラヒドロ-(CAS番号1026470-51-8);
k)フラン,2,2,3,3,4,4,5-ヘプタフルオロテトラヒドロ-5-メチル-(CAS番号179017-83-5);
l)フラン,2,2,3,3,4,5-ヘキサフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,trans-(9CI)(CAS番号133618-59-4);および
m)フラン,2,2,3,3,4,5-ヘキサフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-,cis-(9CI)(CAS番号133618-49-2)
からなる群から選択される。
【0093】
viii.ハロゲン化テトラヒドロピラン誘導体
代表的なハロゲン化テトラヒドロピラン誘導体には、限定されるものではないが、式VII:
【化16】
[式中:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9およびR
10は、独立して、H、X、CX
3、CHX
2、CH
2XまたはC
2X
5から選択され;および
Xは、ハロゲンである]
で表され、25℃で少なくとも0.1気圧(76mmHg)の蒸気圧を有し、式VIIの水素原子数が炭素原子数を超えず、それによって対象において麻酔を誘発する、化合物またはその化合物の混合物が含まれる。種々の実施態様において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲンである。いくつかの実施態様において、XはFである。いくつかの実施態様において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9およびR
10は、独立して、H、F、Cl、Br、I、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2F
5、CCl
3、CHCl
2、CH
2Cl、C
2Cl
5、CCl
2F、CClF
2、CHClF、C
2ClF
4、C
2Cl
2F
3、C
2Cl
3F
2、またはC
2Cl
4Fから選択される。
【0094】
いくつかの実施態様において、ハロゲン化テトラヒドロピラン誘導体は、
a)2H-ピラン,2,2,3,3,4,5,5,6,6-ノナフルオロテトラヒドロ-4-(CAS番号71546-79-7);
b)2H-ピラン,2,2,3,3,4,4,5,5,6-ノナフルオロテトラヒドロ-6-(トリフルオロメチル)-(CAS番号356-47-8);
c)2H-ピラン,2,2,3,3,4,4,5,6,6-ノナフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-(CAS番号61340-74-7);
d)2H-ピラン,2,2,6,6-テトラフルオロテトラヒドロ-4-(トリフルオロメチル)-(CAS番号657-48-7);
e)2H-ピラン,2,2,3,3,4,4,5,5,6-ノナフルオロテトラヒドロ-6-メチル-(CAS番号874634-55-6);
f)ペルフルオロテトラヒドロピラン(CAS番号355-79-3);
g)2H-ピラン,2,2,3,3,4,5,5,6-オクタフルオロテトラヒドロ-,(4R,6S)-rel-(CAS番号362631-93-4);および
h)2H-ピラン,2,2,3,3,4,4,5,5,6-ノナフルオロテトラヒドロ-(CAS番号65601-69-6)
からなる群から選択される。
【0095】
III.有効でありうる対象
本明細書に記載の麻酔化合物および方法は、それを必要とする任意の対象において麻酔を誘発する利用法を見出す。例えば、対象は、一時的意識消失および/または不動化の誘発を必要とする外科手術を受けていてもよい。
【0096】
特定の麻酔薬感受性受容体または麻酔薬受容体の一部を活性化する麻酔薬に対して感受性または拒絶反応を有するかまたは有する危険性がある、麻酔薬の投与を受けている対象が選択されうる。例えば、患者は、1またはそれ以上のNMDA受容体、二孔カリウムチャネル、電位依存性イオンチャネル、GABA受容体、グリシン受容体、または別の麻酔薬感受性受容体を活性化する麻酔薬に対して感受性または拒絶反応を有しうるかまたは有する危険がありうる。かかる場合、患者に投与される麻酔薬は、調節を回避しようとする受容体に対して溶解度閾値濃度より低い水溶解度を有する。
【0097】
種々の実施態様において、GABAA受容体を増強することによって健忘および/または不動化を対象において誘発するが、NMDA受容体の阻害に関連しうる予測される呼吸器系または神経系の副作用の誘発を最小限にするかまたは回避することが望ましい。
【0098】
IV.製剤および投与法
a.製剤
本発明はまた、対象において麻酔を誘発するための、(例えば、本明細書に記載の、式I、式II、式III、式IV、式V、式VI、式VIIおよび/または式VIIIの)化合物もしくはは化合物の混合物またはそれらの塩を含む医薬組成物の使用を包含する。
【0099】
該医薬組成物は、対象への投与に適する形態の、少なくとも1種の本発明の化合物またはその塩からなりうるか、または医薬組成物は、少なくとも1種の本発明の化合物またはその塩、および1種またはそれ以上の医薬的に許容される担体、1種またはそれ以上のさらなる成分、あるいはそれらのいくつかの組み合わせを含みうる。少なくとも1種の本発明の化合物は、例えば、当該分野において周知であるように、生理学的に許容されるカチオンまたはアニオンと組み合わせて、生理学的に許容される塩の形態で医薬組成物として存在しうる。
【0100】
相対量の活性成分、医薬的に許容される塩、および本発明の医薬組成物中の任意のさらなる成分は、同一性、大きさ、および治療を受ける患者の状態に応じて、さらに、組成物が投与される経路に応じて、異なる。一例として、組成物は、0.1%~100%(w/w)の活性成分を含みうる。
【0101】
本明細書に用いられる、用語「医薬的に許容される担体」は、意図とする機能を果たすことができるように対象内または対象への本発明の範囲内の有用な化合物の送達または輸送に関与する、医薬的に許容される物質、組成物または担体、例えば、液体もしくは固体充填剤、分散剤、懸濁化剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒および封入物質を意味する。典型的には、かかる構成物は、ある臓器または身体の部分から別の臓器または身体の部分に運ばれるかまたは輸送される。各担体は、本発明の範囲内の有用な化合物を含む、製剤の他の成分と適合し、対象に有害ではないという意味で「許容」されなければならない。医薬的に許容される担体として機能しうる物質のいくつかの例として、糖類、例えば、乳糖、グルコースおよびショ糖;デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン;セルロース、およびその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;トラガント末;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、ココアバターおよび坐剤ワックス;油、例えば、落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油および大豆油;グリコール類、例えば、プロピレングリコール;ポリオール類、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;エステル類、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリル酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;界面活性剤;アルギン酸;発熱物質除去蒸留水;等張食塩水;リンガー溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;および医薬製剤中に用いられる他の無毒性適合物質が挙げられる。本明細書に用いられる、「医薬的に許容される担体」はまた、任意のおよび全てのコーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、吸収遅延剤、ならびに本発明の範囲内の有用な化合物の活性と適合し、対象に生理学的に許容されるものを含む。補助的活性化合物はまた、組成物中に取り込まれうる。「医薬的に許容される担体」は、本発明の範囲内の有用な化合物の医薬的に許容される塩をさらに含みうる。本発明の実施に際して用いられる医薬組成物に含まれうる他のさらなる成分は、当該分野において既知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy (Remington:The Science & Practice of Pharmacy),第21版,2011,Pharmaceutical Press,およびAnsel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,Allen,et al.,eds.,第9版,2010,Lippincott Williams & Wilkins(それは、本明細書によって引用される)に記載されている。
【0102】
種々の実施態様において、化合物は、呼吸器経路を介して送達するために処方される、例えば、適当には吸入、肺送達、鼻腔内送達用として開発される。種々の実施態様において、化合物または化合物の混合物は、キャリアガス、例えば、酸素、空気、もしくはヘリウム、またはそれらの混合物中に気化されるかまたはそれらと直接混合されるかまたはそれらで希釈される。保存剤は、必要に応じて、気化製剤中にさらに含まれうる。他の期待される製剤には、予定のナノ粒子、およびリポソーム製剤が含まれる。投与経路(複数可)は、当業者にとっては明らかなものであり、治療を受ける疾患のタイプおよび重症度、治療を受ける動物またはヒト患者のタイプおよび年齢などを含む、種々の因子によって決まる。
【0103】
本明細書に記載の医薬組成物の製剤は、薬理学分野において既知のまたは今後開発される任意の方法によって調製されうる。一般に、該予備的方法は、活性成分を担体または1種もしくはそれ以上の他の補助成分と関連させ、次いで、必要に応じてまたは所望により、製品を所望の単回または複数回投与単位にするかまたは包装する工程を含む。
【0104】
本明細書に用いられる、「単位用量」は、所定量の活性成分を含む医薬組成物の個別の量である。活性成分の量は、一般に、対象に投与される活性成分の投与量または使いやすい少量の該投与量、例えば、2分の1または3分の1の投与量と同等である。単位剤形は、1日1回量または1日複数回量の1つ(例えば、1日当たり約1~4回またはそれ以上)で用いられうる。1日複数回量を用いる場合、単位剤形は、投与量ごとに同一であっても異なっていてもよい。
【0105】
本明細書に記載の医薬組成物の記述は、主としてヒトへの倫理的投与に適する医薬組成物を対象とするものであるが、該組成物は、あらゆる動物への投与に一般的に適していると当業者によって理解されよう。あらゆる動物への投与に適する組成物にするためのヒトへの投与に適する医薬組成物の修飾は、よく理解されており、通常の技術を有する獣医薬理学者は、単に通常の実験を行えばかかる修飾を設計し、そして、実施することができる。本発明の医薬組成物の投与が予測される対象には、限定されるものではないが、ヒトおよび他の霊長類、哺乳類(農業哺乳類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ)、家畜哺乳類(例えば、ネコ、およびイヌ)、および実験哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター)を含む、商業的に関連がある哺乳類を含む)が含まれる。
【0106】
b.投与
いくつかの実施態様において、該方法は、患者に選択された麻酔薬(例えば、本明細書に記載の、式I、式II、式III、式IV、式V、式VI、式VIIおよび/または式VIIIの化合物または化合物の混合物)を投与することをさらに含む。麻酔薬は、所望の麻酔作用、健忘作用、鎮痛作用、または鎮静作用を達成するのに十分な任意の経路によって投与されうる。例えば、麻酔薬は、静脈内に、吸入して、皮下に、筋肉内に、経皮に、局所的に、または有効な作用を達成するための任意の他の経路によって投与されうる。
【0107】
麻酔薬は、所望の麻酔エンドポイント、例えば、不動化、健忘、無痛覚、意識消失または自律神経無活動を達成するのに十分な量で投与される。
【0108】
麻酔薬の投与量は、当業者によって行われる投薬およびスケジュールレジメンによって決まる。本発明の方法に用いられる薬剤の適当な投与量の一般的ガイダンスは、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,第12版,2010,supra、およびPhysicians’Desk Reference(PDR)、例えば、第65版(2011)または第66版(2012) Eds.,PDR Networkに記載されており、その各々は本明細書によって引用される。
【0109】
麻酔薬の適当な投与量は、選択された投与経路、組成物の製剤、患者反応、病態の重症度、対象の体重、および処方医師の判断を含む、いくつかの因子にしたがって変わる。投与量は、個々の患者が必要に応じて、時間と共に増加または減少しうる。通常、患者は、低量で投与が開始され、次いで、患者にとって許容される有効な投与量まで増加させる。
【0110】
有効量の決定は、特に、本明細書に記載の詳細な説明を考慮すると、当業者の能力の十分範囲内にある。一般に、1種またはそれ以上の組み合わせの効果的な量または有効量は、最初に低量または少量の麻酔薬を投与し、次いで、所望の効果が最小限の中毒性副作用を有するかまたは全く有しない治療対象において観察されるまで、投与量または用量を徐々に増加し、必要に応じて第2または第3の薬剤を加えることによって決定される。麻酔薬の適当な用量および投薬スケジュールを決定するための適用方法は、例えば、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,第12版, 2010, supraに; Physicians’ Desk Reference (PDR), supraに;Remington: The Science and Practice of Pharmacy (Remington: The Science & Practice of Pharmacy),第21版, 2011, Pharmaceutical Press,およびAnsel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, Allen, et al., eds.,第9版, 2010, Lippincott Williams & Wilkins;およびMartindale: The Complete Drug Reference, Sweetman, 2005, London: Pharmaceutical Press.,およびMartindale, Martindale: The Extra Pharmacopoeia,第31版, 1996, Amer Pharmaceutical Assnに記載されており、その各々は、本明細書によって引用される。
【0111】
投与量および投与間隔は、所望の治療効果を維持するのに十分である活性化合物の血漿濃度を提供するために個々に調整されうる。好ましくは、治療的に有効な血中濃度は、一回量を投与することによって達成されるが、効果的な複数回投与スケジュールは、本発明に含まれる。局所投与または選択的取り込みの場合、薬物の有効な局所濃度は、血漿濃度に関連しなくてもよい。当業者は、過度な実験を行うことなく、治療的に有効な局所投与量を最適化することができる。
【0112】
類似化合物の用量は、少なくとも出発点としての親化合物を基づく。
【0113】
種々の実施態様において、組成物は、呼吸経路、例えば、吸入、肺送達および/または鼻腔内送達を介して対象に送達される。吸入麻酔薬投与方法およびそのデバイスは、当該分野において既知であり、例えば、MILLER’S ANESTHESIA,Ronald D.Miller,et al.編集,2 vols,第7版,Philadelphia,PA,Churchill Livingstone/Elsevier,2010;およびMeyer,et al.,Handb Exp Pharmacol.(2008) (182):451-70に記載されている。一つの実施態様において、麻酔を導入するのに有用な医薬組成物は、例えば、所望の麻酔時間で送達される、1気圧(1atm)の約0.1~10.0パーセント、 例えば、1atmの約0.5-5.0パーセント、例えば、1atmの約1.0-3.5パーセント、例えば、1atmの約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5または10.0パーセントの投与量を送達するために投与されうる。用いられる投与量は、薬効、および投与される化合物または化合物の混合物によって決まる。
【0114】
蒸気またはガスの形態の治療的に活性な薬物の送達についての詳細な情報は、当該分野において利用可能である。麻酔技術に精通する個体に知られているように、化合物は、典型的には、半開または半閉鎖麻酔回路の使用によって吸入に適する所望の薬物濃度を達成するために、キャリアガス、例えば、酸素、空気、もしくはヘリウムまたはそれらの混合物を用いて噴霧器で気化される。麻酔技術に精通する個体に知られているように、ガス状の化合物はまた、半開または半閉鎖麻酔回路の使用によって吸入に適する所望の薬物濃度を達成するために、キャリアガス、例えば、酸素、空気、もしくはヘリウムまたはそれらの混合物と直接混合されうる。麻酔技術に精通する個体に知られているように、薬物はまた、開回路(open circuit)とも称される、呼吸マスクへのまたは呼吸マスクを介する直接適用によって投与されうる。麻酔技術に精通する個体に知られているように、動物では、薬物はまた、動物対象が入っている密室または密閉容器に投与され、それにより動物が呼吸する気道によって送達される。
【0115】
本発明のいくつかの態様において、麻酔化合物または化合物の混合物は、適当な溶媒、例えば、水、エタノール、または生理食塩水に溶解または懸濁され、噴霧投与される。噴霧器は、流体を微細液滴に分けて、それらをガス流に分散させて微粒子のエアロゾルをもたらす。医療噴霧器は、水または水性溶液またはコロイド状懸濁液を呼吸気道の表面に沈着する間に患者の肺に入ることができる微細な吸入可能な液滴のエアロゾルに変換するように設計される。典型的な空気圧(圧縮ガス)医療用噴霧器は、2~4μmの呼吸範囲において体積または質量中央径を有する微細液滴中に1リットルのガス当たり約15~30μlのエアロゾルをもたらす。主に、水または生理食塩水溶液は、典型的には1.0~5.0mg/mLの範囲の低溶質濃度で用いられる。
【0116】
エアロゾル溶液を肺に送達するための噴霧器は、AERx(商標)(Aradigm Corp.,Hayward,Calif.)およびAcorn II(登録商標)(Vital Signs Inc.,Totowa,N.J.)を含む、多数の供給源から商業的に入手可能である。
【0117】
定量吸入器はまた、既知であり、入手可能である。呼吸で作動する吸入器は、典型的には、圧縮された高圧ガスを含み、患者の吸気努力が機械レバーを動かすかまたは検出された流量が、熱線風速計によって検出される、プリセット閾値を超える場合、自動的に定量を提供する。例えば、米国特許第3,187,748号;第3,565,070号;第3,814,297号;第3,826,413号;第4,592,348号;第4,648,393号;第4,803,978号;および第4,896,832号を参照のこと。
【0118】
いくつかの実施態様において、本発明は、対象において無痛覚をもたらす方法であって、有効量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施態様において、無痛覚は精神安定作用を含む。いくつかの実施態様において、無痛覚は鎮静作用を含む。いくつかの実施態様において、無痛覚は健忘を含む。いくつかの実施態様において、無痛覚は催眠状態を含む。いくつかの実施態様において、無痛覚は、有害刺激に対して無感覚な状態を含む。
【0119】
いくつかの実施態様において、本発明は、対象において精神安定作用または鎮静作用をもたらす方法であって、有効量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。特定の実施態様において、本発明は、対象において精神安定作用をもたらす方法であって、有効量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。いくつかの他の実施態様において、本発明は、対象において健忘をもたらす方法であって、有効量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。典型的には、対象において健忘をもたらすのに必要な本明細書に記載の化合物または化合物の混合物の量は、対象において精神安定作用をもたらすのに必要な量よりも多い。また他の実施態様において、本発明は、対象において催眠状態をもたらす方法であって、有効量の本明細書の記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。典型的には、対象において催眠状態をもたらすのに必要な本明細書に記載の化合物または化合物の量は、対象において健忘をもたらすのに必要な量よりも多い。また他の実施態様において、本発明は、対象において有害刺激に対して無感覚な状態をもたらす方法であって、有効量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。典型的には、有害刺激に対して無感覚な状態をもたらすのに必要な本明細書に記載の化合物または化合物の混合物の量は、対象において睡眠状態をもたらすのに必要な量よりも多い。
【0120】
いくつかの実施態様において、本発明は、対象において精神安定作用または鎮静作用を誘導する方法であって、有効量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。ある実施態様において、本発明は、対象において精神安定作用を誘導する方法であって、有効量の本発明に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。いくつかの他の実施態様において、本発明は、対象において健忘を誘導する方法であって、有効量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。典型的には、対象において健忘を誘導する本明細書に記載の化合物または化合物の混合物の量は、対象において精神安定作用を誘導するのに必要な量よりも多い。また他の実施態様において、本発明は、対象において催眠状態を誘導する方法であって、有効量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。典型的には、対象において催眠状態を誘導するのに必要な本明細書に記載の化合物または化合物の混合物の量は、対象において健忘を誘導するのに必要な量よりも多い。また他の実施態様において、本発明は、対象において有害刺激に対して無感覚な状態を誘導する方法であって、有効量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を呼吸器系で対象に投与することを含む、方法を提供する。典型的には、対象において有害刺激に対して無感覚な状態を誘導するのに必要な本明細書に記載の化合物または化合物の混合物は、対象において催眠状態を誘導する野に必要な量よりも多い。
【0121】
本発明は、本明細書に記載の化合物または化合物の混合物の投与量に応じて対象において麻酔状態のスペクトルを導入する方法を含む。いくつかの実施態様において、該方法は、対象において精神安定作用または鎮静作用を誘導するために低用量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を投与することを含む。いくつかの他の実施態様において、該方法は、対象において健忘を誘導するために精神安定作用を誘導するのに必要な投与量よりも高用量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を投与することを含む。また他の実施態様において、該方法は、対象において催眠状態を誘導するために対象において健忘を誘導するのに必要な投与量よりもさらに高用量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を投与することを含む。また他の実施態様において、該方法は、対象において有害刺激への無感覚な状態を誘導するために催眠状態を誘導するのに必要な量よりもさらにより高用量の本明細書に記載の化合物または化合物の混合物を投与することを含む。
【0122】
V.麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の特異性を決定する方法
本発明は、麻酔薬の水溶解度を測定し、麻酔薬の水溶解度と麻酔薬感受性受容体に対する水溶解度カットオフ値または閾値とを比較することによって麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の特異性または選択的活性化を決定する方法を提供する。麻酔薬感受性受容体に対する水溶解度カットオフ値または閾値より低い水溶解度を有する麻酔薬は、その受容体を活性化しない。麻酔薬感受性受容体に対する水溶解度カットオフ値または閾値より高い水溶解度を有する麻酔薬は、その受容体を活性化しうる。
【0123】
a.麻酔薬
麻酔薬は、患者に投与する場合、麻酔特性を有する任意の化合物でありうる。一般に、麻酔薬の投与量の増加は、患者において不動化、健忘、無痛覚、意識消失および自律神経系無活動を引き起こす。麻酔薬は、全身麻酔薬(例えば、全身性)であり、吸入または注射することができる。
【0124】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、吸入麻酔薬である。例えば、いくつかの実施態様において、麻酔薬は、エーテル類およびハロゲン化エーテル類(例えば、デスフルラン、エンフルラン、ハロタン、イソフルラン、メトキシフルラン、セボフルラン、ジエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、およびそれらの類似体を含む);アルカン類およびハロゲン化アルカン類(例えば、ハロタン、クロロホルム、塩化エチル、およびそれらの類似体を含む)、シクロアルカン類およびシクロハロアルカン類(例えば、シクロプロパンおよびそれらの類似体を含む)、アルケン類およびハロアルケン類(例えば、トリクロロエチレン、エチレン、およびそれらの類似体を含む)、アルキン類およびハロアルキン類およびそれらの類似体、ビニルエーテル類(例えば、エチルビニルエーテル、ジビニルエーテル、フルオキセチン、およびそれらの類似体を含む)からなる群から選択される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、デスフルラン、エンフルラン、ハロタン、イソフルラン、メトキシフルラン、亜酸化窒素、セボフルラン、キセノン、およびそれらの類似体からなる群から選択される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、本明細書に記載の、ハロゲン化アルコール、ハロゲン化ジエーテル、ハロゲン化ジオキサン、ハロゲン化ジオキソラン、ハロゲン化シクロペンタン、ハロゲン化シクロヘキサン、ハロゲン化テトラヒドロフランおよびハロゲン化テトラヒドロピランからなる群から選択される。種々の実施態様において、吸入麻酔薬は、本明細書に記載の、式I、式II、式III、式IV、式V、式VI、式VIIおよび/または式VIIIの化合物または化合物の混合物である。
【0125】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、注射用麻酔薬または鎮静剤である。例えば、いくつかの実施態様において、麻酔薬は、アルキルフェノール類(例えば、プロポフォールおよびその類似体を含む)、イミダゾール誘導体(例えば、エトミデート、メトミデート、クロニジン、デトミジン、メデトミジン、デメトミジン、およびその類似体を含む)、バルビツール酸塩およびその類似体、ベンゾジアゼピンおよびその類似体、シクロヘキシルアミン類(例えば、ケタミン、チレタミン、およびその類似体を含む)、ステロイド麻酔薬(例えば、アルファキサロンおよびその類似体を含む)、オピオイドおよびオピオイド様化合物(例えば、天然モルヒネおよびその誘導体、コデインおよびその誘導体、パパベリンおよびその誘導体、テバインおよびその誘導体、モルフィナンおよびその誘導体、ジフェニルプロピルアミンおよびその誘導体、ベンゾモルファンおよびその誘導体、フェニルピペラジンおよびその誘導体を含む)、フェノチアジンおよびハロゲン化フェノチアジン化合物およびそれらの類似体、ブテロフェノンおよびハロゲン化ブテロフェノン化合物およびそれらの類似体、グアイアコールおよびハロゲン化グアイアコール(例えば、オイゲノールおよびその類似体を含む)、および置換された安息香酸塩およびハロゲン化安息香酸塩誘導体(例えば、トリカインおよびその類似体を含む)からなる群から選択される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、プロポフォール、エトミデート、バルビツール酸塩、ベンゾジアゼピン、ケタミン、およびそれらの類似体からなる群から選択される。
【0126】
麻酔化合物は、当該分野において周知であり、例えば、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,第12版,2010,supra,およびa Physicians’Desk Reference(PDR)、例えば、第65(2011)または第66版(2012),PDR Networkに記載されている。
【0127】
b.麻酔薬感受性受容体
麻酔薬感受性受容体は、麻酔薬と結合し、それによって活性化される受容体およびイオンチャネルである。麻酔薬感受性受容体には、2回、3回、4回および7回膜貫通型受容体タンパク質が含まれる。麻酔薬感受性受容体の例として、グリシン受容体、GABA受容体、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)、NMDA受容体、オピオイド受容体およびかかる受容体の一部が挙げられる。麻酔薬感受性受容体は当該分野において周知である。それらの配列はよく特徴付けられている。
【0128】
N-メチル-D-アスパラギン酸塩(NMDA)受容体チャネルは、3つの異なるサブユニット:NR1(GRIN1)、NR2(GRIN2A、GRIN2B、GRIN2C、またはGRIN2D)およびNR3(GRIN3AまたはGRIN3B)からなるヘテロマーである。NR2サブユニットは、グルタミン酸塩のアゴニスト結合部位としての機能を果たす。該受容体は、哺乳類の脳における主な興奮性神経伝達物質受容体である。NMDA受容体は、例えば、Albensi,Curr Pharm Des(2007) 13(31):3185-94:Paoletti and Neyton,Curr Opin Pharmacol (2007) 7(1):39-47;Cull-Candy,et al.,Curr Opin Neurobiol(2001) 11(3):327-35において掲載されている。ヒトNMDA NR1(NMDAR1,GRIN1)のアイソフォームのGenBankアクセッション番号には、NM_000832.6→NP_000823.4(NR1-1)、NM_021569.3→NP_067544.1(NR1-2)、NM_007327.3→NP_015566.1(NR1-3)、NM_001185090.1→NP_001172019.1(NR1-4)、NM_001185091.1→NP_001172020.1(NR1-5)を含み;ヒトNMDA NR2A(NMDAR2A,GRIN2A)のアイソフォームのGenBankアクセッション番号は、NM_000833.3→NP_000824.1(アイソフォーム1)、NM_001134407.1→NP_001127879.1(アイソフォーム1)、NM_001134408.1→NP_001127880.1(アイソフォーム2)を含み;ヒトNMDA NR2B(NMDAR2B,GRIN2B)のGenBankアクセッション番号は、NM_000834.3→NP_000825.2を含み;ヒトNMDA NR2C(NMDAR2C,GRIN2C)のGenBankアクセッション番号は、NM_000835.3→NP_000826.2を含み;ヒトNMDA NR2D(NMDAR2D,GRIN2D)のGenBankアクセッション番号は、NM_000836.2→NP_000827.2を含み;ヒトNMDA NR3A(NMDAR3A,GRIN3A)のGenBankアクセッション番号は、NM_133445.2→NP_597702.2を含み;ヒトNMDA NR3B(NMDAR3B,GRIN3B)のGenBankアクセッション番号は、NM_138690.1→NP_619635.1を含む。NMDA受容体配列はまた、非ヒト哺乳類についてよく特徴付けられている。
【0129】
γ-アミノ酪酸(GABA)-A受容体は、複数のサブユニットクラス:α、β、γ、δおよびρからのタンパク質からなる、五量体である。GABA受容体は、例えば、Belelli,et al.,J Neurosci(2009) 29(41):12757-63;およびMunro,et al.,Trends Pharmacol Sci(2009) 30(9):453-9に掲載されている。ヒトGABA-A受容体,α1(GABRA1)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_000806.5→NP_000797.2(変種1)、NM_001127643.1→NP_001121115.1(変種2)、NM_001127644.1→NP_001121116.1(変種3)、NM_001127645.1→NP_001121117.1(変種4)、NM_001127646.1→NP_001121118.1(変種5)、NM_001127647.1→NP_001121119.1(変種6)、NM_001127648.1→NP_001121120.1(変種7)を含む。ヒトGABA-A受容体,α2(GABRA2)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_000807.2→NP_000798.2(変種1)、NM_001114175.1→NP_001107647.1(変種2)を含む。ヒトGABA-A受容体,α3(GABRA3)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_000808.3→NP_000799.1を含む。ヒトGABA-A受容体,α4(GABRA4)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_000809.3→NP_000800.2(変種1)、NM_001204266.1→NP_001191195.1(変種2)、NM_001204267.1→NP_001191196.1(変種3)を含む。ヒトGABA-A受容体,α5(GABRA5)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_000810.3→NP_000801.1(変種1)、NM_001165037.1→NP_001158509.1(変種2)を含む。ヒトGABA-A重要体,α6(GABRA6)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_000811.2→NP_000802.2を含む。ヒトGABA-A受容体,β1(GABRB1)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_000812.3→NP_000803.2を含む。ヒトGABA-A受容体,β2(GABRB2)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_021911.2→NP_068711.1(変種1)、NM_000813.2→NP_000804.1(変種2)を含む。ヒトGABA-A受容体,β3(GABRB3)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_000814.5→NP_000805.1(変種1)、NM_021912.4→NP_068712.1(変種2)、NM_001191320.1→NP_001178249.1(変種3)、NM_001191321.1→NP_001178250.1(変種4)を含む。ヒトGABA-A受容体,γ1(GABRG1)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_173536.3→NP_775807.2を含む。ヒトGABA-A受容体,γ2(GABRG2)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_198904.2→NP_944494.1(変種1)、NM_000816.3→NP_000807.2(変種2)、NM_198903.2→NP_944493.2(変種3)を含む。ヒトGABA-A受容体,γ3(GABRG3)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_033223.4→NP_150092.2を含む。ヒトGABA-A受容体,ρ1(GABRR1)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_002042.4→NP_002033.2(変種1)、NM_001256703.1→NP_001243632.1(変種2)、NM_001256704.1→NP_001243633.1(変種3)、NM_001267582.1→NP_001254511.1(変種4)を含む。ヒトGABA-A受容体,ρ2(GABRR2)のGenBankアクセッション番号は、NM_002043.2→NP_002034.2を含む。ヒトGABA-A受容体,ρ3(GABRR3)のGenBankアクセッション番号は、NM_001105580.2→NP_001099050.1を含む。
【0130】
電位感受性ナトリウムチャネルは、大きな中心孔を形成するグリコシル化αサブユニット、2個のより小さな補助的βサブユニットからなる異種複合体である。電位依存性ナトリウムチャネルは、例えば、French and Zamponi,IEEE Trans Nanobioscience(2005)4(1):58-69;Bezanilla,IEEE Trans Nanobioscience(2005)4(1):34-48;Doherty and Farmer,Handb Exp Pharmacol(2009)194:519-61;England,Expert Opin Investig Drugs(2008)17(12):1849-64;およびMarban,et al.,J Physiol(1998)508(3):647-57に掲載されている。ナトリウムチャネル、電位依存性、I型、αサブユニット(SCN1A,Nav1.1)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_001165963.1→NP_001159435.1(変種1)、NM_006920.4→NP_008851.3(変種2)、NM_001165964.1→NP_001159436.1(変種3)、NM_001202435.1→NP_001189364.1(変種4)を含む。ナトリウムチャネルナトリウムチャネル,電位依存性,II型,αサブユニット(SCN2A,Nav1.2)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_021007.2→NP_066287.2(変種1)、NM_001040142.1→NP_001035232.1(変種2)、NM_001040143.1→NP_001035233.1(変種3)を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,III型,αサブユニット(SCN3A,Nav1.3)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_006922.3→NP_008853.3(変種1)、NM_001081676.1→NP_001075145.1(変種2)、NM_001081677.1→NP_001075146.1(変種3)を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,IV型,αサブユニット(SCN4A,Nav1.4)のGenBankアクセッション番号は、NM_000334.4→NP_000325.4を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,V型,αサブユニット(SCN5A,Nav1.5)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_198056.2→NP_932173.1(変種1)、NM_000335.4→NP_000326.2(変種2)、NM_001099404.1→NP_001092874.1(変種3)、NM_001099405.1→NP_001092875.1(変種4)、NM_001160160.1→NP_001153632.1(変種5)、NM_001160161.1→NP_001153633.1(変種6)を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,VII型,αサブユニット(SCN6A,SCN7A,Nav2.1,Nav2.2)のGenBankアクセッション番号は、NM_002976.3→NP_002967.2を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,VIII型,αサブユニット(SCN8A,Nav1.6)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_014191.3→NP_055006.1(変種1)、NM_001177984.2→NP_001171455.1(変種2)を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,IX型,αサブユニット(SCN9A,Nav1.7)のGenBankアクセッション番号は、NM_002977.3→NP_002968.1を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,X型,αサブユニット(SCN10A,Nav1.8)のGenBankアクセッション番号は、NM_006514.2→NP_006505.2を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,XI型,αサブユニット(SCN11A,Nav1.9)のGenBankアクセッション番号は、NM_014139.2→NP_054858.2を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,I型,βサブユニット(SCN1B)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_001037.4→NP_001028.1(変種a)、NM_199037.3→NP_950238.1(変種b)を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,II型,βサブユニット(SCN2B)のGenBankアクセッション番号は、NM_004588.4→NP_004579.1を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,III型,βサブユニット(SCN3B)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_018400.3→NP_060870.1(変種1)、NM_001040151.1→NP_001035241.1(変種2)を含む。ナトリウムチャネル,電位依存性,IV型,βサブユニット(SCN4B)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_174934.3→NP_777594.1(変種1)、NM_001142348.1→NP_001135820.1(変種2)、NM_001142349.1→NP_001135821.1(変種3)を含む。
【0131】
グリシン受容体は、αおよびβサブユニットからなる五量体である。グリシン受容体は、例えば、Kuhse,et al.,Curr Opin Neurobiol(1995)5(3):318-23;Betz,et al.,Ann NY Acad Sci(1999)868:667-76;Colquhoun and Sivilotti,Trends Neurosci(2004)27(6):337-44;およびCascio,J Biol Chem(2004)279(19):19383-6が掲載されている。グリシン受容体,α1(GLRA1)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_001146040.1→NP_001139512.1(変種1)、NM_000171.3→NP_000162.2(変種2)を含む。グリシン受容体,α2(GLRA2)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_002063.3→NP_002054.1(変種1)、NM_001118885.1→NP_001112357.1(変種2)、NM_001118886.1→NP_001112358.1(変種3)、NM_001171942.1→NP_001165413.1(変種4)を含む。グリシン受容体、α3(GLRA3)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_006529.2→NP_006520.2(アイソフォームa)、NM_001042543.1→NP_001036008.1(アイソフォームb)を含む。グリシン受容体,α4(GLRA4)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_001024452.2→NP_001019623.2(変種1)、NM_001172285.1→NP_001165756.1(変種2)を含む。グリシン受容体,β(GLRB)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_000824.4→NP_000815.1(変種1)、NM_001166060.1→NP_001159532.1(変種2)、NM_001166061.1→NP_001159533.1(変種3)を含む。
【0132】
二孔カリウムチャネルは、例えば、Besana,et al.,Prostaglandins Other Lipid Mediat(2005)77(1-4):103-10;Lesage and Lazdunski,Am J Physiol Renal Physiol(2000)279(5):F793-801;Bayliss and Barrett,Trends Pharmacol Sci(2008)29(11):566-75;Reyes,et al.,J Biol Chem(1998)273(47):30863-9;およびKang and Kim,Am J Physiol Cell Physiol(2006)291(1):C138-46に掲載されている。カリウムチャネル,サブファミリーK,メンバー2(KCNK2,TREK1,K2p2.1)の変種のGenBankアクセッション番号は、NM_001017424.2→NP_001017424.1(変種1)、NM_014217.3→NP_055032.1(変種2)、NM_001017425.2→NP_001017425.2(変種3)を含む。カリウムチャネル,サブファミリーK,メンバー3(KCNK3,TASK;TBAK1;K2p3.1)のGenBankアクセッション番号は、NM_002246.2→NP_002237.1を含む。カリウムチャネル,サブファミリーK,メンバー6(KCNK6,KCNK8;TWIK2;K2p6.1)のGenBankアクセッション番号は、1.NM_004823.1→NP_004814.1を含む。
【0133】
c.麻酔薬の水溶解度の決定
麻酔薬の水溶解度は、当該分野にて既知の任意の方法を用いて決定されうる。例えば、水溶解度は、コンピュータ実装アルゴリズムを用いて決定されうる。そのアルゴリズムの一つは、American Chemical Societyが提供するSciFinder Scholarによって入手可能であり、そしてscifinder.cas.org.のワールドワイドウェブで入手可能である。SciFinder Scholarを用いた水溶解度値は、Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Software V9.04 for Solaris (1994-2009 ACD/Labs)を用いて計算される。溶解度値は、25℃で純粋中pH=7で計算される。麻酔薬の水溶解度を決定するための他のコンピュータ実装アルゴリズムは、利用法を見出し、当該分野において周知である。例えば、水溶解度を計算するためのソフトウェアはまた、Advanced Chemistry Development of Toronto, Ontario, Canada (acdlabs.comのワールドワイドウェブ上)から商業的に入手可能である。Chemixソフトウェアは、無料で入手可能であり、home.c2i.net/astandneのインターネットからダウンロードすることができる。
【0134】
あるいは、化合物の水溶解度は、実験的に決定されうる。例えば、麻酔作用が生体系で測定される条件は、通常、22~23℃にて緩衝電解質溶液中でpH(7.4)である。これらの相違点は、
図4に示される異なる炭化水素基に対するNMDA溶解度カットオフのわずかな変化を構成する可能性がある。
【0135】
d.麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の特異性の決定
麻酔薬の水溶解度を、麻酔薬感受性受容体の溶解度カットオフまたは閾値濃度と比較する。麻酔薬のモル水溶解度が麻酔薬感受性受容体の溶解度カットオフまたは閾値濃度より低い場合、麻酔薬は、その麻酔薬感受性受容体を活性化しない。麻酔薬のモル水溶解度が麻酔薬感受性受容体の溶解度カットオフまたは閾値濃度より大きい場合、麻酔薬は、その麻酔薬感受性受容体を活性化しうる。
【0136】
例えば、いくつかの実施態様において、Navチャネルに対して所定の溶解度閾値濃度より低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しないが、NMDA受容体を阻害し、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができる。
【0137】
いくつかの実施態様において、NMDA受容体に対して所定の溶解度閾値濃度より低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネル阻害しないまたはNMDA受容体を阻害しないが、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができる
【0138】
いくつかの実施態様において、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)に対して所定の溶解度閾値濃度より低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しない、NMDA受容体を阻害しないまたは二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)電流を増強しないが、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができる。
【0139】
いくつかの実施態様において、GABAA受容体に対して所定の溶解度閾値濃度より低いモル水溶解度を有する麻酔薬は、Navチャネルを阻害しない、NMDA受容体を阻害しない、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)電流を増強しないまたはGABAA受容体を増強しないが、グリシン受容体を増強することができる。
【0140】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、NMDA受容体に対して所定の溶解度閾値濃度より低い(例えば、約1.1mMより低い)モル水溶解度を有し、GABAA受容体を増強するが、NMDA受容体を阻害しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、NMDA受容体に対して所定の溶解度閾値濃度より大きい(例えば、約1.1mMより大きい)水溶解度を有し、GABAA受容体を増強し、NMDA受容体を阻害する。
【0141】
種々の実施態様において、NMDA受容体に対する溶解度閾値濃度は、約0.45mMないし約2.8mMの範囲、例えば、1mMないし2mMの範囲、例えば、約0.1mM、0.2mM、0.3mM、0.4mM、0.5mM、0.6mM、0.7mM、0.8mM、0.9mM、1.0mM、1.1mM、1.2mM、1.3mM、1.4mM、1.5mM、1.6mM、1.7mM、1.8mM、1.9mMまたは2.0mMである。いくつかの実施態様において、NMDA受容体に対する所定の溶解度閾値濃度は、約1.1mMである。いくつかの実施態様において、NMDA受容体に対する所定の溶解度閾値濃度は、約2mMである。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、NMDA受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度より低いモル水溶解度を有するので、NMDA受容体を阻害しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約2mMより低い、例えば、約2.0mM、1.9mM、1.8mM、1.7mM、1.6mM、1.5mM、1.4mM、1.3mM、1.2mM、1.1mMまたは1.0mMより低い水溶解度を有する。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、NMDA受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える水溶解度を有するので、NMDA受容体を阻害することができる。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.0mMを超える、例えば、約1.1mM、1.2mM、1.3mM、1.4mM、1.5mM、1.6mM、1.7mM、1.8mM、1.9mMまたは2.0mMを超えるモル水溶解度を有する。
【0142】
種々の実施態様において、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体に対する溶解度閾値濃度は、約0.10-1.0mMの範囲、例えば、約0.10mM、0.20mM、0.26mM、0.30mM、0.35mM、0.40mM、0.45mM、0.50mM、0.55mM、0.60mM、0.65mM、0.70mM、0.75mM、0.80mM、0.85mM、0.90mM、0.95mMまたは1.0mMである。いくつかの実施態様において、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体に対する所定の溶解度閾値濃度は、約0.26mMである。いくつかの実施態様において、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体は、TREKまたはTRESK受容体である。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度より低い(例えば、約0.26mMより低い)モル水溶解度を有するので、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体を増強しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える(例えば、約0.26mMを超える)モル水溶解度を有するので、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体を増強することができる。
【0143】
種々の実施態様において、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)に対する溶解度閾値濃度は、約1.2ないし約1.9mMの範囲、例えば、約1.2mM、1.3mM、1.4mM、1.5mM、1.6mM、1.7mM、1.8mMまたは1.9mMである。いくつかの実施態様において、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)に対する所定の溶解度閾値濃度は、約1.2mMである。いくつかの実施態様において、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)に対する所定の溶解度閾値濃度は、約1.9mMである。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)の閾値水溶解度カットオフ濃度より低い(例えば、約1.2mMより低い)モル水溶解度を有するので、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)を阻害しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える(例えば、約1.9mMを超える)水溶解度を有するので、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)を阻害することができる。
【0144】
種々の実施態様において、GABAA受容体に対する溶解度閾値濃度は、約50-100μMの範囲、例えば、約50μM、60μM、65μM、68μM、70μM、75μM、80μM、85μM、90μM、95μMまたは100μMである。いくつかの実施態様において、GABAA受容体に対する所定の溶解度閾値濃度は、約68μMである。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、GABAA受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度より低い(例えば、約68μMより低い)モル水溶解度を有するので、GABAA 受容体を増強しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、GABAA受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える(例えば、約68μMを超える)水溶解度を有するので、GABAA受容体を増強することができる。
【0145】
種々の実施態様において、グリシン受容体に対する溶解度閾値濃度は、約0.7~89μMの範囲、例えば、約0.7μM、3.9μM、7.8μM、17μM、31μM、62μM、89μMである。いくつかの実施態様において、グリシン受容体に対する所定の溶解度閾値濃度は、約7.8μMである。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、グリシン受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度より低いモル水溶解度を有するので、グリシン受容体を活性化しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、グリシン受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える水溶解度を有する。
【0146】
e.所望の麻酔薬の選択
いくつかの実施態様において、方法は、例えば、麻酔薬によって活性されうる麻酔薬感受性受容体の一部に基づき、適当なまたは所望の麻酔薬を選択する工程をさらに含む。
【0147】
例えば、選択された麻酔薬は、麻酔薬がNavチャネルを阻害しないが、NMDA受容体を阻害し、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができるような、Navチャネルに対する所定の溶解度閾値濃度より低い(例えば、約1.2mMより低い)水溶解度を有しうる。
【0148】
いくつかの実施態様において、選択された麻酔薬は、麻酔薬がNavチャネルまたはNMDA受容体を阻害しないが、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができるような、NMDA受容体に対する所定の溶解度閾値濃度より低い(例えば、約1.1mMより低い)水溶解度を有しうる。
【0149】
いくつかの実施態様において、選択された麻酔薬は、麻酔薬がNavチャネルを阻害しない、NMDA受容体を阻害しないまたは二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)電流を増強しないが、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができるような、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)に対する所定の溶解度閾値濃度より低い(例えば、約0.26mMより低い)水溶解度を有しうる。
【0150】
いくつかの実施態様において、選択された麻酔薬は、麻酔薬がNavチャネルを阻害しない、NMDA受容体を阻害しない、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)電流を増強しないか、またはGABAA受容体を増強しないが、グリシン受容体を増強することができるような、GABAA受容体に対する所定の溶解度閾値濃度より低い(例えば、約68μMより低い)水溶解度を有しうる。
【0151】
いくつかの実施態様において、選択された麻酔薬は、麻酔薬がGABAA受容体を増強するが、NMDA受容体を阻害しないような、NMDA受容体に対する所定の溶解度閾値濃度より低い(例えば、約1.1mMより低い)水溶解度を有しうる。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、NMDA受容体に対する所定の溶解度閾値濃度より大きい(例えば、約1.1mMより大きい)水溶解度を有し、GABAA受容体を増強し、NMDA受容体を阻害する。
【0152】
いくつかの実施態様において、選択された麻酔薬は、NMDA受容体、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)、またはGABAA受容体を活性化しないが、グリシン受容体を活性化することができるような、水溶解度を有する。麻酔薬は、約7.8μMより低い水溶解度を有しうる。
【0153】
選択された麻酔薬は、通常、7.8μMより大きい水溶解度を有する。
【0154】
VI.麻酔薬の水溶解度を変化させることによって麻酔薬感受性受容体に対する麻酔薬の特異性を調節する方法
本発明はまた、麻酔薬の水溶解度を調整することによって麻酔薬感受性受容体または麻酔薬感受性受容体の一部に対する麻酔薬の特異性を調節する(すなわち、増大させるまたは低下させる)方法を提供する。麻酔薬は、水溶解度、その結果、麻酔薬感受性受容体または麻酔薬感受性受容体の一部に対する麻酔薬の特異性を増大または低下させるために化学修飾されうるかまたは化学変化されうる。
【0155】
種々の実施態様において、該方法は、上記のように、親麻酔薬の水溶解度を測定し、次いで、麻酔薬感受性受容体の親麻酔薬閾値カットオフ値の水溶解度を比較することによって実施されうる。麻酔薬の水溶解度が、麻酔薬感受性受容体の水溶解度閾値カットオフ濃度より低い場合、麻酔薬はその受容体を調節しない。麻酔薬感受性受容体を調節する能力が望ましい場合、麻酔薬の水溶解度は、例えば、親麻酔薬の類似体が目的とする受容体または受容体の一部の水溶解度閾値カットオフ濃度を超える水溶解度を有することができるように、親麻酔薬化学修飾することによって十分に増大しうる。かかる場合、親麻酔薬の類似体は、目的とする麻酔薬感受性受容体または麻酔薬感受性受容体の一部を調節しうる。
【0156】
逆に、麻酔薬の水溶解度が麻酔薬感受性受容体の水溶解度閾値カットオフ濃度を超える場合、麻酔薬はその受容体を調節することができる。麻酔薬感受性受容体を調節する能力が望ましくない場合、麻酔薬の水溶解度は、例えば、親麻酔薬の類似体が目的とする受容体または受容体の一部の水溶解度閾値カットオフ濃度より低い水溶解度を有するように、親麻酔薬化学修飾することによって十分に低下しうる。かかる場合、親麻酔薬の類似体は、目的とする受容体または受容体の一部を調節しない。
【0157】
親麻酔薬の水溶解度は、当該分野において周知の方法を用いて調整されうる。例えば、親麻酔薬は、化学修飾されうる。親麻酔薬上の置換基は、所望により、化合物の水溶解度を増大または低下させるために、加えてもよく、除去してもよくまたは変化させてもよく、親麻酔薬に比べて、それぞれ、増大または低下した水溶解度を有する。有用な麻酔薬類似体は、麻酔をもたらす機能的能力を保持する。しかしながら、麻酔薬類似体の効力および/または有効性は、親麻酔薬に比べて増大または低下しうる。
【0158】
例えば、麻酔薬の水溶解度を低下させるために、極性またはヘテロ原子置換基、例えば、ヒドロキシルまたはアミノ基は、除去されてもよくまたはより大きい疎水性置換基、例えば、ハロゲンもしくはアルキル基で置換されてもよい。水溶解度はまた、アルキル置換基、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、アルコキシなどの炭素数を増加することによって低下しうる。1個、2個、3個、4個またはそれ以上の炭素は、所望により、麻酔薬の水溶解度を低下させるために、必要に応じて、アルキル置換基に加えられうる。
【0159】
逆に、麻酔薬の水溶解度を増加させるために、疎水性置換基、例えば、ハロゲンまたはアルキル基は、除去されてもよくまたは極性もしくはヘテロ原子置換基、例えば、ヒドロキシルまたはアミノ基で置換されてもよい。水溶解度はまた、例えば、アルキル置換基、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、アルコキシなどの炭素数を減少させることによって増大しうる。1個、2個、3個、4個またはそれ以上の炭素は、所望により、麻酔薬の水溶解度を増加するために、必要に応じて、アルキル置換基あkら除去されうる。
【0160】
例えば、いくつかの実施態様において、麻酔薬は、麻酔薬がNavチャネルまたはNMDA受容体を阻害しないが、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができるような、受容体に対する所定の溶解度閾値濃度より低い(例えば、約1.1mMより低い)水溶解度を有するように調整される。異なる麻酔薬受容体に対する水溶解度閾値濃度は、上記および本明細書に記載される通りである。
【0161】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、麻酔薬がNavチャネルを阻害しない、NMDA受容体を阻害しないまたは二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)電流を増強しないが、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができるような二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)に対する所定の溶解度閾値濃度より低い(例えば、約0.26mMより低い)水溶解度を有するように調整される。
【0162】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、麻酔薬がNavチャネルを阻害しないが、NMDA受容体を阻害し、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)を増強し、グリシン受容体を増強し、そして、GABAA受容体を増強することができるような、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)に対する所定の溶解度閾値濃度より低い(例えば、約1.2mMより低い)水溶解度を有するように調整される。
【0163】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、GABAA受容体を増強し、NMDA受容体を阻害することができるような、NMDA受容体に対する所定の溶解度閾値濃度を超える(例えば、約1.1mMを超える)水溶解度を有するように調整される。
【0164】
種々の実施態様において、麻酔薬は、NMDA受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度より低い水溶解度を有するように調整されるので、NMDA受容体を活性化しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約2mMより低い、例えば、約2.0mM、1.9mM、1.8mM、1.7mM、1.6mM、1.5mM、1.4mM、1.3mM、1.2mM、1.1mMまたは1.0mMより低い水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.1mMより低い水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、NMDA受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.0mMを超える、例えば、約1.1mM、1.2mM、1.3mM、1.4mM、1.5mM、1.6mM、1.7mM、1.8mM、1.9mMまたは2.0mMを超える水溶解度を有するよに調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.1mMを超える水溶解度を有するように調整される。
【0165】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度より低い水溶解度を有するように調整されるので、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体を増強しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約0.10mM、0.20mM、0.26mM、0.30mM、0.35mM、0.40mM、0.45mM、0.50mM、0.55mM、0.60mM、0.65mM、0.70mM、0.75mM、0.80mM、0.85mM、0.90mM、0.95mMまたは1.0mMより低い水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約0.26mMより低い水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える水溶解度を有するように調整されるので、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体を増強することができる。いくつかの実施態様において、約0.10mM、0.20mM、0.26mM、0.30mM、0.35mM、0.40mM、0.45mM、0.50mM、0.55mM、0.60mM、0.65mM、0.70mM、0.75mM、0.80mM、0.85mM、0.90mM、0.95mMまたは1.0mMを超える水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約0.26mMを超える水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、二孔ドメインカリウムチャネル(K2P)受容体は、TREKまたはTRESK受容体である。
【0166】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)の閾値水溶解度カットオフ濃度より低い水溶解度を有するように調整されるので、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)を阻害しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.2mM、1.3mM、1.4mM、1.5mM、1.6mM、1.7mM、1.8mMまたは1.9mMより低い水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.2mMより低い水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える水溶解度を有するように調整されるので、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)を阻害することができる。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.2mM、1.3mM、1.4mM、1.5mM、1.6mM、1.7mM、1.8mMまたは1.9mMを超える水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約1.9mMを超える水溶解度を有するように調整される。
【0167】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、GABAA受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度より低い水溶解度を有するように調整されるので、GABAA受容体を増強しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約50μM、60μM、65μM、68μM、70μM、75μM、80μM、85μM、90μM、95μMまたは100μMより低い水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約68μMより低い水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、GABAA受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える水溶解度を有するように調整されるので、GABAA受容体を増強することができる。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約50μM、60μM、65μM、68μM、70μM、75μM、80μM、85μM、90μM、95μMまたは100μMを超える水溶解度を有するように調整される。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、約68μMを超える水溶解度を有するように調整される。
【0168】
いくつかの実施態様において、麻酔薬は、グリシン受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度より低い水溶解度を有するように調整されるので、グリシン受容体を増強しない。いくつかの実施態様において、麻酔薬は、グリシン受容体の閾値水溶解度カットオフ濃度を超える水溶解度を有するように調整されるので、グリシン受容体を増強することができる。グリシン受容体に対する溶解度カットオフは、約7.8μMであるが、0.7~89μMの範囲であってもよい。
【0169】
いくつかの実施態様において、該方法は、所望の水溶解度を有する麻酔薬類似体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様において、該方法は、上記のおよび本明細書に記載の麻酔薬類似体を投与する工程をさらに含む。
【実施例】
【0170】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、限定するためのものではない。
【0171】
実施例1
【0172】
炭化水素モル水溶解度は、NMDA対GABAA受容体調節を予測する
【0173】
背景:多数の麻酔薬は、3回膜貫通型(例えば、NMDA)および4回膜貫通型(例えば、GABAA)受容体を調節する。受容体ファミリー特異性を示す臨床および実験麻酔薬は大抵、低い水溶解度を有する。本発明者らは、炭化水素のモル水溶解度がインビトロにおいて受容体調節を予測するために用いられうることを決定した。
【0174】
方法:GABAA(α1β2γ2s)またはNMDA(NR1/NR2A)受容体は、卵母細胞において発現され、標準二電極膜電位性固定法を用いて試験した。14の異なる有機官能基からの炭化水素は、飽和濃度で試験され、各基を有する化合物は、ω-位のまたは飽和環中の炭素番号だけが異なっていた。GABAAまたはNMDA受容体に対する効果は、統計上ゼロとは異なる基準値からの10%以上の可逆電流変化として規定された。
【0175】
結果:両受容体タイプを調節する各官能基から少なくともいくつかのメンバーを有する炭化水素部分は、GABAAを増強し、そして、NMDA受容体電流を阻害した。NMDA受容体に対する水溶解度カットオフは、95%CI=0.45~2.8mMである、1.1mMで生じた。NMDA受容体カットオフ効果は、炭化水素鎖長または分子体積とあまり相関性がなかった。試験した炭化水素の溶解度範囲内ではGABAA受容体に対するカットオフは観察されなかった。
【0176】
結論:NMDA受容体機能の炭化水素調節は、モル水溶解度カットオフを示す。関連しない受容体カットオフ値間の差は、これらの部位でのタンパク質-炭化水素相互作用の数、親和性または効果が異なる可能性があることを示唆する。
【0177】
方法
卵母細胞採取および受容体発現.トリカインで麻酔をかけたアフリカツメガエルから得た卵巣を、カルフォルニア大学デービス校で動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)の承認を受けたプロトコールを用いて外科手術で取り出した。卵巣小胞中隔を手で断裂した後、卵巣を0.2% I型コラゲナーゼ(Worthington Biochemical,Lakewood,NJ)中で培養し、卵母細胞を取り出し(defolliculate)、それを洗浄し、88mM NaCl、1mM KCl、2.4mM NaHCO3、20mM HEPES、0.82mM MgSO4、0.33mM Ca(NO3)2、0.41mM CaCl2、5mM ピルビン酸ナトリウム、ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシンからなり、pH=7.4に補正された、未使用でフィルター処理された修正バース液に保存した。全ての塩および抗生物質は、A.C.S.グレード(Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)であった。
【0178】
用いられるクローンは、Dr.R.A.Harris(University of Texas,Austin)から無償で提供され、配列決定され、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)のデータベース中の参考資料と比較して、各遺伝子の同一性が確認された。GABAA受容体を、pCIS-IIベクター中のヒトGABAA α1ならびにラットGABAA β2およびγ2のサブユニットのクローンを用いて発現した。約0.25~1ngの1:1:10の割合でα1、β2、またはγ2遺伝子のいずれかを含有する全プラスミド混合物を、卵母細胞の動物極を通って核内に注入し、2~4日後に試験した。これらのプラスミド比は、GABAとの共投与中に10μMクロルジアゼポキシドに対する受容体増強または10μM塩化亜鉛に対する非感受性によって確認されたように、γ-サブユニットの発現受容体への取り込みを確保した。個々の卵母親細胞において、グルタミン酸塩受容体を、pCDNA3ベクター中のラットNMDA NR1クローンおよびBluescriptベクター中のラットNMDA NR2Aクローンを用いて発現した。各サブユニットをコードするRNAを、市販の転写キット(T7 mMessage mMachine,Ambion,Austin,TX)を用いて調製し、1:1の比率で混合し、1~10ngの全RNAを卵母細胞に注入し、1~2日後に試験した。卵母細胞に、対照として同量の水を注入した。
【0179】
GABAA受容体電気生理学試験.卵母細胞を、気密ガラス製シリンジおよびテフロン管を用いて1.5ml/分にてシリンジポンプで投与された溶液を含む250μL の線形かん流チャンバー中で試験した。卵母細胞GABAA電流を、1.5mL/分にてシリンジポンプで投与された溶液を含む250μLのチャネル線形かん流チャンバーを用いて80mVの保持電位で標準二極電位膜固定法を用いて試験した。
【0180】
18.2MΩ H2O中で調製され、濾過され、pH=7.4に調整された、115mM NaCl、2.5mM KCl、1.8mM CaCl2、および10mM HEPESからなるカエルリンガー(FR)液を、卵母細胞をかん流するために用いた。アゴニスト溶液はまた、EC10-20の4-アミノ酪酸(FR-GABA)を含有していた(Brosnan,et al.,Anesth Analg(2006) 103:86-91;Yang,et al.,Anesth Analg(2007) 105:673-679;Yang,et al.,Anesth Analg(2007) 105:393-396)。5分間FRかん流した後、卵母細胞を、30秒間FR-GABAに暴露し、次いで、さらに5分間FR洗浄した;これを、安定なGABAA誘発ピークを得るまで繰り返した。次に、試験薬物の飽和溶液(表2)-または気体の試験化合物については、平衡酸素を含む気圧の90%に等しい蒸気圧-を含むFRは、2分間卵母細胞チャンバーをかん流し、次いで、30秒間同一の薬物濃度を含有するFR-GABA溶液でかん流するために用いた。次に、FRを5分間かん流して、薬物を洗浄し、最終的に卵母細胞を30秒間FR-GABAでかん流して、初期基準値反応の10%範囲内まで電流の回復を確認した。
【0181】
表2:
試験化合物の供給源、純度および物理的特性。ケミカル・アブストラクツ・サービス(Chemical Abstracts Service)番号(CAS番号)、分子量(MW)、25℃での蒸気圧(Pvap)、pH=7での純水中モル溶解度、および分子体積は、SciFinder Scholarに示される(測定値よりむしろ)計算された推定値である。
【表2-1】
【表2-2】
【0182】
NMDA受容体電気生理学的試験. 全細胞NMDA受容体電流の測定方法が記載されている(Brosnan,et al.,Br J Anaesth(2008) 101:673-679;Brosnan,et al.,Anesth Analg(2011) 112:568-573)。すなわち、基準かん流溶液は、等モルBaCl2がカルシウム塩に置換され、0.1mM EGTAが加えられた、GABAAのものと同一であった;これは、バリウムカエルリンガー液(BaFR)を形成した。NMDA試験用アゴニスト溶液はまた、BaFREG溶液を形成するために0.1mMグルタミン酸塩(E)および0.01mMグリシン(G)を含有していた。
【0183】
シリンジポンプおよびかん流チャンバー装置ならびにクランプ保持電位および基準アゴニスト暴露プロトコールは、GABAA試験について記載のものと同一であった。同一の試験化合物、濃度、および調製方法が、GABAA電圧固定試験と同様に、NMDA電圧固定試験において用いられた(表2)。
【0184】
反応計算およびデータ分析.薬物反応を調節することは、以下のように対照(基準)ピークのパーセントとして計算された:
【数1】
ここで、I
DおよびI
Bは、それぞれ、アゴニスト+薬物およびアゴニスト基準かん流中に測定されたピーク電流である。存在する場合、薬物による直接受容体活性化は、アゴニスト反応のパーセントとして同様に計算された。各薬物およびチャネルの平均電流反応は、平均値±SDで示される。受容体反応の欠如(カットオフ)は、2標本のスチューデントt検定を用いてゼロと統計上区別できない基準電流から<10%変化と定義される。したがって、基準ピークの≧110%薬物反応は、受容体機能の増強を示し、そして、基準ピークの≦90%薬物反応は、受容体機能の阻害を示す。
【0185】
各炭化水素官能基のカットオフ上下の化合物の計算溶解度のlog
10(log
10S)は、受容体カットオフを決定するために用いられた。各炭化水素について、順に増大する炭化水素鎖長の間の予測できない溶解度効果の「灰色領域」が存在していた(
図3)。平均溶解度カットオフは、受容体機能を調節する難溶性の化合物および作用が認められない可溶性の周辺化合物の平均log
10Sとして計算された。該結果から、受容体溶解度カットオフのlog
10Sの95%信頼区間が計算された。
【0186】
結果
NMDAおよびGABA
A受容体に対する炭化水素作用は表3に要約され、試料の記録は
図3に示される。全ての試験化合物は、GABA
A受容体機能をプラスに調節し、少しの5-ないし-6個の炭素化合物、特に、1-フルオロアルカン類およびチオール類は、弱い直接GABA
A受容体活性化をもたらした。弱い直接受容体活性化はまた、ジブチルエーテルで生じた。アルデヒド類、アルキン類、およびシクロアルカン類を除いて、GABA
A受容体阻害は、炭化水素鎖長が増大するに伴い低下する傾向があった。水溶解度カットオフ作用は、試験化合物に対するGABA
A受容体については観察されなかった。
【0187】
表3
5~6個の卵母細胞ごとに標準二電極膜電位固定法を用いて、対照アゴニストピークの百分率として表される、NMDAおよびGABAA受容体調節に対する14個の異なる官能基によって生じる平均応答(±SEM)。直接作用%は、受容体アゴニストの共投与を伴わない薬物反応である。アゴニスト作用%は、アゴニストの共投与を伴う薬物反応である(NMDA受容体に対するグルタミン酸塩およびグリシン;GABAA受容体に対するγ-アミノ酢酸)。薬物反応は、対照アゴニストピークより低い薬物+アゴニスト反応に対する阻害(-)、対照アゴニストピークを超える薬物+アゴニスト反応に対する相乗効果(+)、および対照アゴニストピークから<10%異なる薬物+アゴニスト反応に対する無反応(0)を示す。
【表3-1】
【表3-2】
【0188】
対照的に、NMDA受容体電流は、各官能基内のより低級炭化水素によって減少したが(表2)、炭化水素鎖を伸ばすことは、最終的に空応答-カットオフ効果をもたらした。NMDA受容体機能に対する直接的炭化水素効果は、グルタミン酸塩およびグリシンアゴニストの不在下において検出されなかった。
【0189】
NMDA受容体電流調節のカットオフ効果は、0.45mM~2.8mMの95%信頼区間である1.1mMの炭化水素の水溶解度に関連している(
図4)。より溶けやすい炭化水素は、飽和水性濃度で適用される場合にNMDA受容体電流を連続して阻害し、該範囲より低い炭化水素は、NMDA受容体機能に対してあまり効果はなかった。さらに、試験期間中、水溶解度は、アルケン類、アミン類、環状炭化水素、および硫黄含有化合物と共に生じるように、該臨界溶解度値をグループ化する単一ペアのみの化合物の同一性および試験を必要とするためにNMDA受容体カットオフを十分に予測した。
【0190】
炭化水素鎖長の増大は、水溶解度を低下させるが、分子サイズも増大する。しかしながら、炭素数(
図5)または分子体積(
図6)の関数としてグラフに描く場合、観察されたNMDA受容体カットオフ作用は、一貫したパターンを示さない。例えば、n-アルカン類、1-アルケン類、および1-アルキン類は、恐らく二重結合および三重結合それぞれによって与えられる水溶解度の増大の結果として、炭化水素鎖カットオフの進行的伸長を示す。NMDA受容体カットオフを示す化合物の分子サイズの大きな変化もあった。アルカン類は、ブタンおよびペンタン、それぞれ、4個および5個の炭素長の間のNMDA受容体カットオフを示したのに対し、第一級アミンは、1-オクタデカンアミンおよび1-エイコサンアミン、それぞれ、18個および20個の炭素長の間のカットオフを示した。予測したように、NMDA受容体カットオフに関連するこれらの化合物の分子体積はまた、第一級アミンがアルカンより3倍以上大きいように、かなり異なっている、
【0191】
考察
NMDA受容体調節は、約1.1mMの水溶解度カットオフに関連する(
図4)。その一方、GABA
A受容体は全ての試験化合物を増強した、それは、GABA
Aカットオフがより低い水溶解度値で生じるかまたはGABA
A受容体がそのようなカットオフがない可能性があることを示唆している。受容体カットオフ作用を見出すために単一炭化水素長の増大は、同様にカットオフ作用に関与しうる炭素数および分子体積の交絡因子を導入する(Eger,et al.,Anesth Analg(1999) 88:1395-1400;Jenkins,J Neurosci(2001) 21:RC136;Wick,Proc Natl Acad Sci U S A(1998) 95:6504-6509;Eger,Anesth Analg(2001) 92:1477-1482)。炭素数(
図5)または分子体積(
図6)に応じた全ての官能基のカットオフ値の集計比較は、識別可能なパターンを示さない、それは、これらの物理的特性が、薬物受容体調節の主要な限定因子でありそうにないことを示唆している。
【0192】
それにもかかわらず、カットオフとモル水溶解度の相関性が非常に良好であるが、それは完全ではない。いくつかの変化は、単に官能基群内の中間溶解度の化合物の欠如による。例えば、ペンタンチオールは、NMDA受容体を阻害するのに対し、炭素が1個長いヘキサンチオールは阻害しなかった(表3)。該カットオフ前のチオールは、そのカットオフ後の同種のものより約3倍水に溶けやすい;1-チオールのより狭く定義されたカットオフ図をえることはまだ不可能である。個のさらなる炭素を1-と3-アルキル基それぞれに加えた、ジアルキルベンゼン類でさらに大きな変化が観察された。NMDAアンタゴニスト1,3-ジメチルベンゼンとそのカットオフ同種1,3-ジエチルベンゼンの間の溶解度比は、18を超える(表3)。
【0193】
モル水溶解度NMDA受容体カットオフについての変化はまた、炭化水素のモル水溶解度の測定値よりむしろ計算値に起因しうる。水溶解度は、特に難溶性の物質について正確に測定することは困難である。計算された溶解度は、小さな非荷電性化合物についてはより正確であるが、1log単位内に絶対誤差をまだ有しうる(Delaney,et al.,Drug Discov Today(2005) 10:289-295)。しかしながら、非極性n-アルカン類の予測値でさえ、炭化水素鎖長が増大するにつれて実験データからの大きな偏差を示しうる(Ferguson,J Phys Chem B(2009) 113:6405-6414)。
【0194】
さらに、本試験に用いられるモル溶解度値は、25℃かつpH=7.0での純水について計算された。これらは、薬物-受容体作用を試験した条件ではなかった。リンガー卵母細胞かん流液は、緩衝液および250mOsm溶液をもたらすナトリウム、カリウム、および塩素の生理的濃度を含有していた。ハロエーテルおよびハロアルカン麻酔薬ガスは、ベンゼン類、アミン類、およびケトン類の水生理食塩水溶解度比と同様に、オスモル濃度に反比例して変化する(Lerman,et al.,Anesthesiology(1983) 59:554-558)(Long,et al.,Chem Rev(1952) 51:119-169)。塩の存在は、純水について計算された値を用いる場合、いくつかの化合物の水溶解度の過大評価をもたらした。同様に、溶解度はまた、温度依存性である。試験は22℃で行われた;ガスの水溶解度は、25℃で計算された値より大きいはずである。対照的に、本試験において用いられるほとんどの溶質は、溶解について負のエンタルピーを有するので(Abraham,et al.,J Am Chem Soc(1982)104:2085-2094)、溶解度は、より低い大気温度で減少するはずである。反転は、ルシャトリエの原理によって予測されるように、発熱溶液について起こるはずである。ニドロニウムイオン濃度について、ほとんどの試験化合物の溶解度は、7ないし8のpH値で明らかに影響を受ける。しかしながら、アミン基を含む炭化水素は、生理的pHにより近いpKa値を有し、1-エイコサンアミンおよび1-オクタデカンアミンの計算された水溶解度(表2)は、pHが7から8に増加するにつれて約66%まで減少する。本試験におけるアミンの計算されたモル水溶解度は、7.4に等しい生理的pHで恐らく多少過剰評価されていた。
【0195】
実験で測定された値よりむしろ計算された値に内在するこれらの誤差にもかかわらず、モル水溶解度とNMDA受容体調節カットオフの間の関連性は、明白なままである。麻酔薬は、受容体上の低親和性結合を示す;これらの弱い相互作用は、誘導的フィット結合と矛盾する。むしろ、麻酔薬は、タンパク質上またはその内の既存のポケットおよび表面に結合する可能性がある(Trudell,et al.,Br J Anaesth(2002)89:32-40)。調節の臨界水溶解度は、臨界調節部位が親水性または両親媒性のいずれかであることを意味する。炭化水素は、麻酔薬感受性受容体上のアミノ酸残基を有する水素結合ドナーとして-または求電子剤の場合、水素結合アクセプターとして-作用し、これらの結合ポケットから水分子の置換およびタンパク質機能の変化をもたらす(Bertaccini,et al.,Anesth Analg(2007)104:318-324;Abraham,et al.,J Pharm Sci(1991)80:719-724;Streiff,et al.,J Chem Inf Model(2008)48:2066-2073)。これらの低エネルギー麻酔薬-タンパク質相互作用は、置換された水分子がアミノ酸よりむしろバルク溶媒中の同様の分子とよく水素結合するので、エンタルピー的に有効であると仮定されている(Bertaccini,et al.,Anesth Analg(2007)104:318-324;Streiff,et al.,J Chem Inf Model(2008)48:2066-2073)。ハロタンおよびイソフルランの両方が、GABAA受容体を含む4回膜貫通型受容体スーパーファミリーのメンバーである、ニコチン性アセチルコリン受容体のδ-サブユニット中のα-ヘリックス間に形成された水が接近可能なポケット中に結合することが示されている(Chiara,et al.,Biochemistry(2003)42:13457-13467)。ニコチン性アセチルコリン受容体およびGABAA受容体のモデルは、内因性アゴニストまたは麻酔薬結合が親水性ポケット中の水蓄積を増大し、そして、チャネル開閉に重要である親水性部位の数および接近可能性を増大しうることをさらに示唆している(Willenbring,et al.,Phys Chem Chem Phys(2010)12:10263-10269;Williams,et al.,Biophys J(1999)77:2563-2574)。しかしながら、水溶性が不十分である分子は、チャネル機能を調節するために十分な臨界部位で十分な水分子を置換することができないかもしれない。
【0196】
吸入麻酔薬、例えば、イソフルラン、キセノン、および二酸化炭素によるNMDA受容体調節は、親水性アゴニスト結合部位-少なくとも一部-で起こる(Brosnan,et al.,Anesth Analg(2011) 112:568-573;Dickinson,et al.,Anesthesiology(2007) 107:756-767)。親水性相互作用が麻酔薬感受性受容体の炭化水素調節に重要である根拠にもかかわらず、麻酔薬様作用を発揮するのに必要な最小限の炭化水素親水性は、NMDA受容体とGABAA受容体の間で異なる。これらの受容体は、異なり、そして、系統学的に別個のスーパーファミリーに属するので、調節をもたらすのに必要な置換された水分子の数および/または臨界親水性タンパク質ポケットに対する炭化水素対水分子の相対的親和性および/またはアロステリック調節に必要な親水性部位の数はまた、タンパク質間で異なる可能性があるように見える。言い換えれば、イオンチャネル伝導度を変化させるためにNMDA受容体と相互に作用するのに必要である炭化水素分子-種類を問わず-の最小数であり、そして、この数は、GABAA受容体イオンチャネル伝導度を変化させるのに必要なものより著しく大きい。他のイオンチャネルがモル水溶解度と相関性がある炭化水素カットオフ効果を示し、これらの溶解度カットオフ値は、別個のまたは関連しないタンパク質間のカットオフ値よりも共通の系統発生を有するチャネル間で類似する可能性があることを意味している。
【0197】
水溶解度カットオフより低い炭化水素は、恐らく機能を変化させる受容体上の親水性調節または変換部位で水とうまく競合するために水相中に不十分な分子を有する。同様に、麻酔をかけるためにマイヤー・オーバートン相関によって予測される遷移化合物および非固定化剤は、期待された効力より低いかまたは完全に麻酔効果に欠ける。本試験におけるNMDAカットオフ炭化水素のように、遷移化合物および非固定化剤は全て、低水溶解度の共通の特性を有する(Eger EI,2nd.Mechanisms of Inhaled Anesthetic Action In:Eger EI,第2版.The Pharmacology of Inhaled Anesthetics.IL,USA:Baxter Healthcare Corporation,2002;33-42)。非固定化剤、例えば1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタンは、海馬におけるGABAA依存性錐体細胞(Perouansky,et al.,Anesth Analg(2005)100:1667-1673)またはNMDA依存性CA1ニューロン(Taylor,et al.,Anesth Analg(1999)89:1040-1045)を低下させず、中枢神経系の他の部位ではこれらの効果を欠如する可能性がある。水溶解度を低下させるにつれて、受容体効果の喪失に差がある-例えば、本試験におけるNMDA受容体対GABAA受容体で生じる。全動物モデルにおける麻酔薬カットオフ作用は、薬剤の水溶解度と相関性があり、中枢神経系抑制への1以上の麻酔薬-受容体寄与の喪失によって説明されうる。逆に、受容体モル水溶解度カットオフ値は、揮発性麻酔薬効力に必須であるイオンチャネルを定義するために用いられうる。吸入剤は、脳および脊髄における神経細胞の興奮性を低下させるために多数の細胞受容体およびイオンチャネルとの低親和性相互作用によって作用する可能性があるが、水溶解度が低下するにつれて特定の標的-恐らく、GABAAまたはグリシン受容体-による喪失または不十分な寄与が、薬物を非固定化剤にしうる。さらに、いくつかの麻酔薬感受性受容体に対するカットオフ値より低い水溶解度を有する薬剤はまた、望ましくない薬理特性、例えば、GABAA受容体調節の消失後の発作をもたらしうる(Raines,Anesthesiology(1996)84:663-671)。対照的に、NMDA受容体は、従来の揮発性麻酔薬43の固定化作用に寄与しうるが、ペンタンのような薬剤は、飽和水性濃度でさえNMDA受容体を調節せず(表3)、また、測定可能な最小限の肺胞内濃度を有するので、それらは、一般的原理として吸入麻酔薬作用に必須ではない(Liu,et al.,Anesth Analg(1993)77:12-18;Taheri,et al.,Anesth Analg(1993)77:7-11)。
【0198】
水溶解度のみがNMDA受容体カットオフを予測するけれども、サイズおよび形状は、該作用に影響を及ぼすことができなければならない。本試験において試験されたほとんどの炭化水素は、1-または2-炭素位に局在する官能基を有していた。しかしながら、エーテル類は全て、1,1’-オキシビスアルカン類であった;エーテルの各メンバーは、酸素原子のいずれかの両側のアルキル基へのこn対称1-炭素付加から構成されていた(表2)。したがって、強力な部分正電荷を有する水分子またはアミノ酸残基との水素結合を可能にする該電子が豊富な酸素原子は、エーテルの中心に埋め込まれて存在する。結果的に、等量のモル水溶解度を有する炭化水素について、長鎖の疎水性炭素鎖が脂質膜にある間麻酔薬結合ポケットにその求核末端をより容易に挿入するかもしれない長鎖の第一級アミンと比べてジアルキルエーテルにとっては親水性受容体ポケットにおいて水素結合を形成することはより困難であるかもしれない(表2)。これは、本試験におけるエーテルがどうして他の官能基を有する炭化水素よりわずかに大きいNMDAカットオフを示すように見えるのかを説明しうる。恐らくメチル-アルキルエーテル類がジアルキルエーテル類の代わりに用いられていたとしても、該基の見掛けのモル水溶解度カットオフはより低いであろう。
【0199】
炭化水素鎖は任意の官能基内で伸長するので、GABAA受容体の効力はまた増大傾向にあった。これは、親水性の増大に応じて麻酔効果が増大するというマイヤー・オーバートンの予測と一致する(Mihic,et al.,Mol Pharmacol(1994)46:851-857;Horishita,et al.,Anesth Analg(2008)107:1579-1586)。しかしながら、NMDA受容体がカットオフ前の炭化水素によって阻害された効力は、官能基間で大きく変化した。ほとんどの化合物は、NMDA受容体電流の約25ないし40%阻害をもたらした。しかしながら、アルカンであるn-ブタンはカットオフ前のNMDA受容体電流をほぼ完全に抑制したが、チオールである1-ペンタンチオールは15%しかNMDA受容体電流を抑制しなかった。溶解度値は炭化水素類の中でも一貫性がないので、溶解度が炭化水素官能基の種類の中のカットオフに漸近的に近づくにつれて調節効力の変化を評価することは不可能である。恐らく、受容体調節に必要な臨界モル水溶解度により近い薬剤は、薬物親油性が増大するにもかかわらず効力を失い始める。そうだとしたら、NMDA受容体効力の差異は、カットオフ前の試験薬剤の該理論的臨界モル水溶解度と水溶解度間の相対的差異を反映しうる。
【0200】
最終的に、個々および特有の麻酔薬感受性受容体の水溶解度カットオフ値は、新規の薬剤設計を支援しうる構造-活性の関係の可能性を与える。麻酔薬は、多数の所望の効果、例えば無痛覚および健忘、および、多数の副作用、例えば低血圧および低換気をもたらす。異なる薬力学的特性は、異なる細胞受容体もしくはチャネルまたはそれらの組み合わせによって仲介される可能性がある。したがって、NMDA受容体カットオフより低い水溶解度を低下させるために化合物を修飾することによって、GABAA対NMDA受容体に対する絶対的特性を得ることができ、そして、NMDA受容体阻害によって仲介される副作用は低下または排除されるはずである。逆に、高不溶性の薬剤は、NMDA受容体からの所望の薬理効果を追加するためにNMDAカットオフを超えるモル水溶解度を増大するように修飾されうる、ただし、固定化剤対NMDA受容体に対する固定化剤の50%有効濃度は、相対的受容体特異性を維持するために十分な差はない。同時に、カットオフ値の差は、薬剤設計にとって重要な境界を示唆する。飽和水性濃度までGABAA受容体に対する効果はないので、NMDA受容体に対する絶対的特異性を示す低親和性受容体結合を有する麻酔薬を設計することは恐らく不可能である。最小限の肺胞内濃度およびNMDA受容体での麻酔効果がGABAA受容体での麻酔効果よりはるかに大きい場合に限り、NMDA受容体に対する相対的な麻酔薬特異性を達成しうる。
【0201】
実施例2
1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(CAS番号15290-77-4)は麻酔を誘発する
全ての既知の吸入麻酔薬は、多数の関連しない麻酔薬受容体、例えば膜貫通-3(TM3)受容体、膜貫通-4(TM4)受容体、またはTM2およびTM4の両方の受容体を調節する。本発明者らは、1また2個の炭素鎖長のみ異なる、一連の同族n-アルコール類、n-アルカン類、n-アルケン類、n-アルキン類、n-アルデヒド類、第一級アミン類、1-アルキルフッ化物類、ジアルキルエーテル類、アルキルベンゼン類、エステル類、ハロアルカン類、ケトン類、スルフィド類、およびチオール類を試験した。本発明者らは、卵母細胞の二電極膜電位固定法モデルにおいて飽和薬物濃度でNMDA受容体(TM3スーパーファミリーのメンバー)およびGABAA受容体(TM4スーパーファミリーのメンバー)上のこれらの薬物の効果を試験した。GABAA対NMDA受容体について、本発明者らは、特異性と蒸気圧、炭素鎖長、または分子体積の間に相関性がないことを見出した。しかしながら、約0.4~約2.9mMの95%信頼区間にある約1.1mMに等しい水溶解度-特異性カットオフ値(計算されたpH=7での水中モル溶解度)が存在する。該閾値より溶解度が高い化合物は、NMDA受容体を負に調節し、GABAA受容体を正に調節しうる。該閾値より溶解度が低い化合物は、GABAA受容体のみを正に調節する。本発明者らは、グリシン受容体、K2Pチャネルおよび電位依存性ナトリウムチャネルに対する近似水溶解度カットオフ値を同定した。
【0202】
上記の構造活性関係は、候補麻酔薬を同定、未知の候補麻酔薬の受容体効果プロファイルを予測、そして、それらの水溶解度、ひいてはそれらの薬理効果プロファイルを変化させるように既知の麻酔薬を修飾しうる方法を提供するために用いられた。上記方法を用いて、本発明者らは、GABAA対NMDA受容体に対する絶対的選択性を示す(すなわち、NMDA受容体を阻害することなくGABAA受容体を増強する)薬剤を含む、GABAA受容体を調節することが予測されるいくつかの候補環状ハロゲン化炭化水素および環状ハロゲン化複素環を同定した。本発明者らは、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(HFCP)(CAS番号15290-77-4)を同定し、GABAAを選択的に調節するが、NMDA受容体を調節せず、全身麻酔効果を発揮するその溶解度によって予測した(今回まで、生体系において麻酔作用を一切評価しなかった)。HFCPは、無色、無臭、不燃性、ソーダ石灰中で安定であり、吸入によって送達するのに十分な蒸気圧を有する。
【0203】
HFCPは、1気圧の1.0±0.2(平均値±SD)パーセントで4匹の健康なND4マウスにて立ち直り反射の消失を引き起こした(意識消失の代替的測定)。該無臭の薬剤は、麻酔誘発中に興奮または咳嗽を引き起こさなかった。麻酔の2時間後、マウスを、HFCP投与を中止して約1分後に起こした。2日後に採取された心臓、肺、腎臓および肝臓組織の組織病理は、炎症または毒性の兆候を明らかにしなかった。その水溶解度によって予測されるように、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンは、インビトロでGABAA、グリシン、およびいくつかの抑制性カリウムチャネルを増強するが、飽和水性濃度までNMDA受容体に対する効果は有していない。NMDA受容体効果を欠くにもかかわらず、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンは、従来の薬剤によってもたらされる所望の効果と同様に見える意識消失および固定性の所望の薬理学的エンドポイントをもたらすことができる。
【0204】
本発明者らの知る限り、新規吸入麻酔薬は、これらの薬剤の作用機序および活性-構造関係の不完全な理解のために現在開発は行われていない。吸入麻酔薬は、日常的臨床使用における薬物の最も低い治療指標(低い安全域)を有する;より新しくかつ安全な薬剤を開発する必要がある。本発明者らは、麻酔薬が固定化および健忘に寄与するチャネルまたは受容体を調節しうるか否かを決定するのに重要である、物理的特性(モル水溶解度)を同定した。本発明者らは、NMDA受容体調節も欠く臨床に用いられる新規の揮発性麻酔薬(HFCP)を同定するためにこの知識を適用した。
【0205】
実施例3
1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタン (CAS番号 828-35-3)は麻酔を誘発する
1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタン (CAS番号 828-35-3)は、1気圧の3.3±0.4(平均値±SD)パーセントの濃度で4匹の健康なSprague-Dawleyラットにおいて立ち直り反射の消失を引き起こした。該薬物は、わずかだが爽やかな臭気を有し、興奮または咳嗽を伴わずに非常に急速に麻酔を誘発した。薬剤を中止した後、ラットを起こし、1分以内に歩行可能にした。その水溶解度によって予測されるように、1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタンは、インビトロでGABAA、グリシン、およびいくつかの抑制性カリウムチャネルを増強するが、飽和水性濃度までNMDA受容体に対する効果がない。NMDA受容体作用を欠くにもかかわらず、1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタンは、従来の薬剤によってもたらされる所望の効果と同様に見える意識消失および固定性の所望の薬理学的エンドポイントをもたらすことができる。
【0206】
実施例4
ペルフルオロテトラヒドロピラン(CAS番号355-79-3)は麻酔を誘発する
ペルフルオロテトラヒドロピラン(CAS番号355-79-3)は、1-10%の濃度でマウスにおいて立ち直り反射の消失を引き起こした。
【0207】
実施例5
2,2,3,3,4,5-ヘキサフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-フランは麻酔を誘発する
2,2,3,3,4,5-ヘキサフルオロテトラヒドロ-5-(トリフルオロメチル)-フラン(CAS番号133618-59-4およびCAS番号133618-49-2からの異性体の混合物)は、1~10%の濃度でマウスにおいて立ち直り反射の消失を引き起こした。
【0208】
実施例6
合成スキーム
本明細書に記載のハロゲン化麻酔化合物の一般的合成スキームは、当該分野において既知である。特定の化合物の一般的合成スキームについて記載している参考文献は、以下の表4に集約されている。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【表4-7】
【表4-8】
【表4-9】
【表4-10】
【0209】
ハロゲン化化合物(麻酔化合物を含む)の一般的合成スキームは、例えば、Chambers,「Fluorine in Organic Chemistry」.WileyBlackwell,2004.ISBN:978-1405107877;Iskra,「Halogenated Heterocycles: Synthesis,Application and Environment (Topics in Heterocyclic Chemistry)」.Springer,2012.ISBN:978-3642251023;およびGakh,and Kirk,「Fluorinated Heterocycles」(ACS Symposium Series).American Chemical Society,2009.ISBN:978-0841269538に掲載されている。
【0210】
ハロゲン化アルコール
ハロゲン化アルコールの合成スキームは、表4に集約され、式Iのものを含む、本明細書に記載のハロゲン化アルコール麻酔化合物の合成に適用されうる。ハロゲン化アルコールの合成について記載する代表的な参考資料には、限定されるものではないが、例えば、Mochalina,et al.,Akademii Nauk SSSR(1966),169(6),1346-9;Delyagina,et al.,Akademii Nauk SSSR,Seriya Khimicheskaya(1972),(2),376-80;Venturini,et al.,Chimica Oggi (2008),26(4),36-38;Navarrini,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(2008),129(8),680-685;Adcock,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1987),37(3),327-36;Cantini,et al.,Ital.Appl.(2007),IT 2007MI1481 A1 20071023;Marraccini,et al.,Eur.Pat.Appl.(1990),EP 404076 A1;Adcock,et al.,Journal of Organic Chemistry(1973),38(20),3617-18;Aldrich,et al.,Journal of Organic Chemistry (1964), 29(1),11-15;Weis,et al.,Industrial & Engineering Chemistry Research(2005),44(23),8883-8891;Arimura,et al.,Journal of Chemical Research,Synopses(1994),(5),202-3;Du,et al.,Journal of the American Chemical Society(1990),112(5),1920-6;Galimberti,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(2005),126(11-12),1578-1586;およびNavarrini,et al.,Eur.Pat.Appl.(2004),EP 1462434 A1が含まれる。一般的に、フッ素化アルコールは、例えば、Navarrini,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(2008),129(8),680-685に記載の、直接次亜フッ素酸塩付加および逆次亜フッ素酸塩付加の方法を用いて合成されうる。
【0211】
典型的な直接次亜フッ素酸塩付加において、過剰のオレフィン中で作用するために半バッチ法において所望の温度で維持されたオレフィン溶液中に次亜フッ素酸塩流が気泡化する。付加反応器は、外部容器によって冷却された、標準寸法で設計された250mlの米国鉄鋼協会(American Iron and Steel Institute)(AISI)316ステンレス鋼でありうる。該反応器は、放出底部バルブおよび2個の供給管を用いて実現されうる。反応器のヘッドは、排気ガス流を回収する外部管および機械的/磁気的伝導撹拌システムを備えていてもよい。付加反応器および排気ガスの供給口は、例えば、赤外線(IR)、ガスクロマトグラフィー-熱伝導度検出器(GC-TCD)およびガスクロマトグラフィー-赤外線(GC-IR)によってオンラインで分析されうる。付加後に、反応器は、約30分間4nL/hのヘリウムで取り外すことができ、容器は取り外され、生じた混合物を、例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC-質量分析(MS)および核磁気共鳴法(NMR) 19Fによって分析した。原反応混合物を真空中または大気圧下で蒸留されうる。
【0212】
典型的な逆次亜フッ素酸塩付加において、所望の温度で過剰の次亜フッ素酸塩中で作用するために次亜フッ素酸塩溶液中にオレフィン流が気泡化する。両試薬の連続供給口を備えた連続撹拌槽型反応器(CSTR)で行われうる。反応器は、所望の温度で冷却された溶媒が充填され、CF3OF(2.35nL/h)、He(2.5nL/h)、COF2(0.3nL/h)を含むガス流が、オレフィンを加え始める前に反応器に供給される(例えば、約12分間)。オレフィンを加えた後、安全のために、反応器を開ける前に残存次亜フッ素酸塩を除去することを義務付ける。バルクから多量の過剰次亜フッ素酸塩を除去するために、液体相を、-80~-90℃の温度にて約30分間4nL/hのヘリウム流で除去し、その後、-80~-90℃の範囲の温度を維持しながら、約2mlのCFCl=CFClを反応器に加えて、残量の次亜フッ素酸塩を除去しうる。微量のCF3OFは、CF3O-CFCl-CF2Clを生じるCFCl=CFClと完全に反応する。
【0213】
ハロゲン化シクロペンタンおよびシクロヘキサン
ハロゲン化シクロペンタンおよびシクロヘキサンの合成スキームは、表4に集約され、式VおよびVIの化合物を含む、本明細書に記載のハロゲン化シクロペンタンおよびシクロヘキサン麻酔化合物の合成に適用されうる。ハロゲン化シクロペンタンおよびハロゲン化シクロヘキサンの合成について記載している代表的な参考文献には、限定されるものではないが、例えば、Imura,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(2001),JP 2001261594 A;Heitzman,et al.,Journal of the Chemical Society(1963),281-9;Sekiya,Akira,et al.,PCT Int.Publ.WO 96/00707 A1,Sekiya,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(1996),JP 08143487 A;Rao,et al,PCT Int.Publ.WO 93/05002 A2;Burdon,et al.,Journal of the Chemical Society(1965),(April),2382-91;Yamada,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(1999),JP 11292807 A;Otsuki,Petrotech(Tokyo,Japan)(2005),28(7),489-493;Takada,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(2002),JP 2002241325 A;Suzuki,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(2001),JP 2001247494 A;Sekiya,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(2001),JP 2001240567 A;Kim,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(2001),JP 2001240569 A;Sakyu,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(2000),JP 2000247912 A;Saku,et al,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(2000),JP 2000226346 A;Yamada,et al.,PCT Int.Publ.WO 99/50209 A1;Yamada,et al.,PCT Int.Publ.WO 99/33771 A1;Sekiya,et al.,PCT Int.Publ.WO 98/51650 A1;Banks,et al.,Journal of the Chemical Society [Section] C:Organic(1968),(5):548-50;Stepanov,et al.,Russian Journal of Organic Chemistry(2010),46(9):1290-1295;Saku,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(2000),JP 2000226346 A;Sekiya,et al.,PCT Int.Publ.WO 98/51650 A1;Sekya,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(1996),JP 08143487 A;Yamada,et al.,PCT Int.Publ.WO 94/07829 A1;Anton,PCT Int.Publ.WO 91/13846 A1;Bielefeldt,et al.,Eur.Pat.Appl.(1991),EP 442087 A1;Bielefeldt,et al.,Ger.Offen.(1989),DE 3735467 A1;およびEvans,et al.,Journal of the Chemical Society(1963),(Oct.),4828-34が含まれる。一般的に、フッ素化シクロペンタンおよびフッ素化シクロヘキサンは、例えば、Evans,et al.,Journal of the Chemical Society(1963),(Oct.), 4828-34;Burdon,et al.,Journal of the Chemical Society(1965),(April), 2382-91に記載の方法を用いて合成されうる。
【0214】
ハロゲン化シクロペンタンまたはハロゲン化シクロヘキサンは、例えば、Evans,et al.,Journal of the Chemical Society (1963),(Oct.),4828-34に記載されるように、水素化リチウムアルミニウムでハロゲン化シクロアルケンを還元することによって合成されうる。該アプローチでは、(ポリ)フルオロシクロアルケンを、エーテル中で水素化リチウムアルミニウムと混合して、付加脱離方法において数種の(ポリ)フルオロシクロアルケンを得る。これらの(ポリ)フルオロアルケンは特徴付けられ、いくつかの(ポリ)フルオロシクロアルカンおよび関連化合物は、それらから製造されうる。脱離は、該系の最も重要な反応であり、cis-E2-方法の可能性がある経路である。ポリフルオロシクロアルケンと水素化リチウムアルミニウムとの反応について、(ポリ)フルオロシクロアルケンを、-20℃で水素化リチウムアルミニウムのジエチルエーテル中撹拌懸濁液に滴下する。最初の反応が終わるとき、溶液を還流し、次いで、-20℃まで冷却し、沈殿物が残存しなくなるまで50%v/v硫酸、次いで、水を滴下する。乾燥(MgSO4)エーテル溶液を、分取ガスクロマトグラフィー(カラムタイプB,100℃,N2流速60l./hr.)で分離される(ポリ)フルオロシクロアルケンの混合物(180g)を残すためにガラスヘリックスを詰めた真空ジャケットカラム(1’x11/2”)で蒸発する。該方法で調製された1H-ノナフルオロシクロヘキセンは、リン酸トリトリル-珪藻土(1:3)を詰めたタイプAのカラム中で第2のガスクロマトグラフィー分離によって除去されうる微量のエーテルを含有していた。(ポリ)フルオロシクロアルケンの二重結合は、例えば、フッ化コバルトでのフッ素化によって、または大気圧下での接触水素化によって容易に飽和され、対応する所望の(ポリ)フルオロシクロアルカンを得ることができる。(ポリ)フルオロシクロアルケンの特性化は、例えば、酸化、NMR分光法、質量分析、耐アルカリ性、およびガスクロマトグラフィーを含む、標準的方法を用いて行われうる。
【0215】
対応する(ポリ)フルオロシクロアルカンを得るためのシクロアルカジエンとフッ素化コバルトとの気相フッ素化および(ポリ)フルオロシクロアルケンから出発する(ポリ)フルオロシクロアルカンの別の合成、フッ素化コバルトでフッ素化し、次いで、水素化リチウムアルミニウムで還元することは、例えば、Heitzman,et al.,Journal of the Chemical Society(1963),281-9に記載されている。シクロアルカジエンの気相フッ素化について、シクロアルカジエンは、190℃~250℃で維持された三フッ化コバルトを含有する反応器に加える。生成物を固体二酸化炭素で冷却した銅トラップに回収し、反応器中の残渣を窒素の緩流でトラップに押し流す。全生成物を氷水に注ぎ、炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄する。透明な有機層を分離し、樹脂を破棄する。合わせた生成物を、ディクソンガーゼリング(1/16”x1/16”)を詰めた真空ジャケットカラム(4’x1”)で蒸留する。蒸留は、分析ガスクロマトグラフィーによって調節される。(ポリ)フルオロアルカンの合成について、対応する(ポリ)フルオロシクロアルケンを最初に塩素化し、次いで、還元する。塩素化について、オレフィンおよび液体塩素を、-78℃でコンデンサーを装着した石英フラスコ中で4時間紫外線照射する。水性炭酸水素ナトリウム(10% w/v)で生成物を洗浄して過剰の塩素を除去する。(ポリ)シクロフルオロシクロアルカン生成物を(P2O5)乾燥し、蒸留して、ガスクロマトグラフィーおよび赤外線分光法で分析しうる。還元について、乾エーテル中(ポリ)クロロフルオロシクロアルカン生成物を、0℃で水素化リチウムアルミニウムの乾エーテル中撹拌懸濁液に加える。装置は、-78℃まで冷却したコンデンサーが装着されている。15℃で5時間撹拌した後、未変化水素化リチウムアルミニウムを、固体を溶解するために水、次いで、塩酸(10%v/v)を加えて、0℃で除去する。エーテル相をカラム(2’x1/4”)で蒸留し、残渣をガスクロマトグラフィーおよび赤外線分光法で分析しうる。
【0216】
対応する(ポリ)フルオロシクロアルケンへの塩素付加、次いで、水素化リチウムアルミニウム還元による(ポリ)フルオロシクロアルカンの合成は、例えば、Burdon,et al.,Journal of the Chemical Society(1965),(April),2382-91に記載されている。塩素化について、(ポリ)フルオロシクロアルケンを、紫外線照射下で過剰の塩素と混合する。還元について、乾エーテル中の(ポリ)クロロフルオロシクロアルカンを、2時間かけて0℃で水素化リチウムアルミニウムの乾エーテル中撹拌溶液に加える。反応混合物をさらに2時間撹拌し、次いで、過剰の水素化リチウムアルミニウムを50%硫酸を用いて常法で除去する。乾燥(MgSO4)エーテル層をガラスヘリックスを詰めた6インチのカラムで蒸留し、残渣を残す。残渣中の種類は、分取スケールのガスクロマトグラフィーで分離されうる[例えば、カラム4.8m.x35mm.diam.,フタル酸ジノニル-珪藻土(1:2)を充填;温度98℃ N2,流速11l./hr.]。溶出成分は、赤外線分光法(IR)および/またはNMRで分析されうる。
【0217】
ハロゲン化ジオキサン
ハロゲン化ジオキサンの合成スキームは、表4に集約されており、式IIIの化合物を含む、本明細書に記載のハロゲン化ジオキサン麻酔化合物の合成に適用されうる。ハロゲン化ジオキサンの合成について記載している代表的な参考文献には、限定されるものではないが、例えば、Krespan,et al.,PCT Int.Appl.(1991),WO91/04251;Krespan,et al.,Journal of Organic Chemistry(1991),56(12),3915-23;Coe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1975),6(2),115-28;Burdon,et al.,U.S.Patent No.3,883,559;Burdon,et al.,Tetrahedron(1971),27(19),4533-51;Adcock,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1980),16(3),297-300;Dodman,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1976),8(3),263-74;Meinert,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1992),59(3),351-65;Berenblit,et al.,Zhurnal Prikladnoi Khimii(Sankt-Peterburg,Russian Federation)(1980),53(4),858-61;Lagow,et al.,U.S.Patent No.4,113,435;Berenblit,et al.,Zhurnal Prikladnoi Khimii(Sankt-Peterburg,Russian Federation)(1975),48(10),2206-10;Adcock,et al.,Journal of Organic Chemistry(1975),40(22),3271-5;Abe,et al.,Jpn.Tokkyo Koho(1974),JP49027588B;Berenblit,et al.Zhurnal Organicheskoi Khimii(1974),10(10),2031-5;Adcock,et al.,Journal of the American Chemical Society(1974),96(24),7588;Abe,et al.,Bulletin of the Chemical Society of Japan(1973),46(8),2524-7;およびSianesi,et al.,Ger.Offen.(1972),DE2111696Aが含まれる。一般的に、フッ素化ジオキサンは、例えば、Burdon,et al.,Tetrahedron(1971),27(19),4533-51に記載されるように、三フッ化コバルト(CoF3)またはテトラフルオロコバルト酸カリウムでフッ素化することによって合成されうる。ポリフルオロジオキセン(Polyfluorodioxene)は、一般に、例えば、Coe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1975),6(2),115-28に記載されるように、適当なポリフルオロジオキサンの脱フッ化水素反応によって合成されうる。
【0218】
例えば、Burdon,et al.,Tetrahedron(1971),27(19),4533-51に記載されるように、ジオキサンのCoF3での典型的なフッ素化において、N2(10dm3/hr)を流しながら100℃で撹拌したCoF3層にジオキサンを通す(装置は、Bohme,Br.Dtsch.Chem.Ges.74:248(1941)およびBordwell,et al.,J Amer Chem Soc 79:376(1957)に記載されている)。全ジオキサンを反応器に加えた後(約3時間)、さらに2時間N2を流し続ける。-78℃で生成物を捕捉し、氷水に注ぐ。分離して、-60℃で保存するとテトラフルオロジオキサンの結晶を沈着する淡黄色の液体を得る。複数回(例えば、4回)のかかるフッ素化からの生成物を、水性NaHCO3で洗浄し、ディクソンガーゼリング(1/16”x1/16”)を詰めた2’真空ジャケットガラスカラム上でP2O5から蒸留する。回収した画分を、例えば、分析ガス-液体クロマトグラフィー(GLC)でさらに分離し、そして、例えば、GLC、IR、MSおよび/またはNMRで分析しうる。
【0219】
例えば、Burdon,et al.,Tetrahedron(1971),27(19),4533-51に記載されるように、ジオキサンのKCoF4での典型的なフッ素化において、N2(10dm3/hr)を流しながら加熱し(230℃)、撹拌したKCoF4層にジオキサンを通す(装置は、Burdon,et al.,J.Chem Soc.2585(1969)に記載されている)。約3時間かけて加え、次いで、2時間N2を流し続ける。生成物を、-78℃まで冷却した銅トラップに回収し、水で洗浄し、乾燥して、粗物質を得る。粗生成物またはその試料を、例えば、分析ガス-液体クロマトグラフィー(GLC)でさらに分離し、そして、例えば、GLC、IR、MSおよび/またはNMRで分析しうる。
【0220】
例えば、Burdon,et al.,Tetrahedron(1971),27(19),4533-51に記載されるように、ポリフルオロジオキサンのAlF3での典型的な異性化において、N2(1.5dm3/hr)を流しながらガラス片に支持されるAlF3末を詰めた加熱(各場合に規定された温度)のガラス管(12”x3/4”)にジオキサンを通す。生成物を、液体空気中で冷却されたトラップに回収する。ポリフルオロジオキサンを、約390℃~約490℃の範囲の高温で異性化する。異性化生成物は、例えば、分析ガス-液体クロマトグラフィー(GLC)でさらに分離され、そして、例えば、GLC、IRおよび/またはNMRで分析されうる。
【0221】
ハロゲン化ジオキソラン
ハロゲン化ジオキソランの合成スキームは、表4に集約され、式IVの化合物を含む、本明細書に記載のハロゲン化ジオキソラン麻酔化合物の合成に適用されうる。ハロゲン化ジオキソランの合成について記載している代表的な参考文献には、限定されるものではないが、例えば、Kawa,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(2000),JP2000143657A;Russo,et al.,Eur.Pat.Appl.(1999),EP937720A1;Russo,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(2004),125(1),73-78;Navarrini,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1995),71(1),111-17;Navarrini,et al.,Eur.Pat.Appl.(1992),EP499158A;Navarrini,et al.,Eur.Pat.Appl.(1995),EP683181A1;Muffler,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1982),21(2),107-32;Anton,et al.,PCT Int.Appl.(1991),WO9109025A2;Berenblit,et al.,Zhurnal Organicheskoi Khimii(1974),10(10),2031-5;Berenblit,et al.,Zhurnal Prikladnoi Khimii(Sankt-Peterburg,Russian Federation)(1975),48(10),2206-10;Prager,Journal of Organic Chemistry(1966),31(2),392-4;Throckmorton,Journal of Organic Chemistry(1969),34(11),3438-40;Sianesi,et al.,Ger.Offen.(1972),DE2111696A;およびNavarrini,et al.,Eur.Pat.Appl.(1991),EP460948A2が含まれる。一般的に、フッ素化ジオキソランは、例えば、Navarrini,et al.,J Fluorine Chem 71:111-117(1995)に記載されるように、ビス-(フルオロオキシ)ジフルオロメタン(BDM)をハロゲン化アルケンに加えて、または、例えば、Muffler,et al.,J Fluorine Chem 21:107-132(1982)に記載されるように、ハロゲン化クロロアルコキシフルオロカルボニルまたはケトンとフッ化物イオンを反応させて、合成されうる。
【0222】
例えば、Navarrini,et al.,J Fluorine Chem 71:111-117(1995)に記載されるように、ビス-(フルオロオキシ)ジフルオロメタン(BDM)のハロゲン化アルケンへの典型的な付加反応において、半連続または連続系が用いられうる。半連続系の一般的製法において、約-196℃~25℃の範囲の温度で維持された、機械的スターラー、還流冷却器、熱電温度計、内部プランジングパイプを装備したガラス反応器(Navarrini, et al., supraの表1を参照のこと)に、オレフィンのCFC13もしくはCF2C12中0.2~5M溶液(50~300ml)または純粋オレフィンを加える。次いで、1:5比にてHeで希釈したビス(フルオロオキシ)ジフルオロメタン(通常、流速1時間当たり約1リットル)の流量は、90%のオレフィンが変換されるまで反応器に供給される。添加後に、微量の未反応CF2(OF)2を除去するために反応混合物によってヘリウムを気泡化する。ジオキソランを、HMS 500 C Spaltrohr Fischer装置を用いて分留によって単離する。連続系の一般的製法において、Heで希釈された1時間当たり約0.4リットルの流速でビス(フルオロオキシ)ジフルオロメタン(1時間当たり約2リットル)およびオレフィン(1時間当たり36mmol)は、約-196℃~25℃の範囲の温度でマグネットエントレインメント機械的スターラー、還流冷却器、熱電温度計および内部プランジングパイプを装備した、オレフィンの10-1~10-2M溶液を含有するマルチ首ガラス反応器に同時だが別々に供給される(Navarrini, et al., supraの表1を参照のこと)。4時間試薬を供給した後、微量の未反応CF2(OF)2を除去するために反応混合物によってヘリウムを気泡化する。反応混合物を、分留して精製しうる。反応生成物を、必要に応じて、-50℃、-80℃、-100℃、-120℃および-196℃まで冷却したトラップに通して分離しうる。-50℃、-60℃、-75℃、-100℃、-105℃、-112℃、-120℃および-196℃まで冷却した各トラップに通して-100℃~-120℃で回収した混合物をさらに蒸留して、例えば、-75℃、-100℃、-112℃のトラップにおいて純粋ジオキソランを回収する。回収したジオキソラン生成物は、例えば、GLC、IR、MSおよび/またはNMRで分析されうる。
【0223】
ハロゲン化ピラン
ハロゲン化ピランの合成スキームは、表4に集約され、式VIIの化合物を含む、本明細書に記載のハロゲン化テトラヒドロピラン麻酔化合物の合成に適用されうる。ハロゲン化ピランの合成について記載している代表的な参考資料には、限定されるものではないが、例えば、Abe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1979),13(6),519-30;Abe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(2005),126(3),325-332;Jpn.Kokai Tokkyo Koho(1980),JP55051084A;Abe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1979),13(6),519-30;Abe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1978),12(1),1-25;GB Pat.No.862538;Sander,et al.,(1959),DE1069639;GB Pat No.718318;Abe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1979),13(6),519-30;Abe,et al.,Bulletin of the Chemical Society of Japan(1976),49(7),1888-92;Wang,Organic Reactions(Hoboken,NJ,United States)(1985),vol.34;Dmowski,et al.,Polish Journal of Chemistry(1978),52(1),71-85;Hasek,et al.,Journal of the American Chemical Society(1960),82,543-51;Abe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(2005),126(3),325-332;Moldavsky,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1998),87(1),111-121;Nishimura,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho(1989),JP01249728A;Nishimura,Eur.Pat.Appl.(1988),EP271272A2;Abe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1979),13(6),519-30;De Pasquale,Journal of Organic Chemistry(1973),38(17),3025-30;Abe,et al.,Jpn.Tokkyo Koho(1973),JP48012742B;Henne,et al.,Journal of the American Chemical Society(1952),74,5420-2;Kauck,et al.,(1952),US Pat.No.2594272;およびZapevalova,et al.,Zhurnal Organicheskoi Khimii(1977),13(12),2573-4が含まれる。一般的に、フッ素化ピランは、ペルフッ素化二塩基性エステルをジオールに還元し、該ジオールをエーテルに環化し、環状エーテルを塩素化して、ペルハロゲン化環状エーテルを得、次いで、ペルハロゲン化環状エーテルをフッ素化して、所望のペルフッ素化環状エーテルを得ることによって合成されうる。典型的には、ペルフッ素化二塩基性エステルのジオールへの還元について、ペルフッ素化二塩基性を乾エーテル中にてLiAlH4で還元して、ジオールを得る。ジオールは、例えば、ベンゼンから再結晶されうる。環化について、グリコールおよび濃硫酸の混合物(10g. または0.1mole)を、約185℃~約250℃の範囲の温度で油浴中に保持する。蒸留した環状エーテルを、例えば、Drieriteを用いて乾燥し、そして、再蒸留しうる。環状エーテルの塩素化について、環状エーテルを、サンランプまたはUVランプで照射された石英フラスコ中に静置する。2日間かけて塩素を気泡化する。還流冷却器に取り付けた氷冷トラップは、時々戻る、混入物質を捕獲する。ぺルフルオロ化環状エーテルを得るための環状エーテルのフッ素かについて、環状エーテルおよびSbF3Cl2を、スチール製噴霧器中で155℃で24時間加熱する。圧力は、約230p.s.i.まで上昇し、室温まで冷却すると約50p.s.i.まで低下する。該圧力は、原ぺルフルオロ化環状エーテルを回収するドライアイストラップに放出される。より大きな環について、2工程の製法が適用されうる。環状エーテルおよびSbF3Cl2を、振盪しながら、450mlのスチール製噴霧器中で7時間125℃まで加熱する。圧力は、約75p.s.i.まで上昇する。温度は16時間で160℃まで昇温し、それは圧力を280p.s.i.まで上昇させる。冷却後、沸点の低い画分を蒸留によって回収する。沸点の低い画分およびSbF3Cl2を、噴霧器中にて160℃で5時間振盪する。圧力は、約320p.s.i.まで上昇する。冷却後、粗生成物を繰り返し蒸留して、所望のぺルフルオロ化環状エーテルを得る。該ぺルフルオロ化環状エーテルは、微量のアンチモン塩を除去するために2つの10%HClバブラーに通して精製され、不飽和不純物を除去するためにH2SO4を濃縮し、最終的にP2O5から蒸留されうる。精製された物質は、例えば、GLC、IR、MSおよび/またはNMRによって分析されうる。
【0224】
ハロゲン化フラン
ハロゲン化フランの合成スキームは、表4に集約されており、式VIの化合物を含む、本明細書に記載のハロゲン化テトラヒドロフラン麻酔化合物の合成に適用されうる。ハロゲン化フランの合成について記載している代表的な参考文献には、限定されるものではないが、例えば、Chepik,et al.,Izvestiya Akademii Nauk SSSR,Seriya Khimicheskaya (1991),(11),2611-18;Abe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry (1979),13(6),519-30;Abe,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho (1978),JP53025552A;Abe,et al.,Jpn.Tokkyo Koho (1976),JP51045594B;Abe,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho (1976),JP51082257A;Abe,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho (1975),JP50106955A;Abe,et al.,Jpn.Tokkyo Koho (1973),JP48012742B;Jpn.Kokai Tokkyo Koho (1981),JP56142877A.;Abe,et al.,Journal of Fluorine Chemistry (1979),13(6),519-30;Abe,et al.,Jpn.Kokai Tokkyo Koho (1978),JP53124259A;Burdon,et al.,Journal of Fluorine Chemistry (1991),51(2),179-96;およびAbe,et al.,Bulletin of the Chemical Society of Japan (1976),49(7),1888-92が含まれる。一般に、フッ素化フランは、例えば、電解フッ素化またはテトラヒドロフランのテトラフルオロコバルト酸塩(III)および/または三フッ化コバルトへの接触によって製造されうる。
【0225】
代表的な電気化学的フッ素化反応は、例えば、Abe and Nagase, J Fluorine Chem 13:519-530 (1979)に記載されている。用いられうる電解槽は、Abe, et al., J Fluorine Chem 12:1 (1978); およびAbe, et al., J Fluorine Chem 12:359 (1976)に記載されている。フッ素化される化合物(例えば、フラン)を、1リットルの電気化学的に精製された無水フッ化水素を含有する該電解槽に加え、生じた溶液を、槽電圧が9.0Vまで急速に上がるまで437分(234Ahr)かけて3.5A/dm2の陽極電流密度、5.0~6.2Vの槽電圧、および約5~6℃の槽温度でフッ素化した。最初に、冷却トラップ(-196℃)中に収集された生成物を、低温度蒸留装置のトラップを用いて大体少なくとも2留分に分離する。その後、これらの留分中の生成物の組成物を、例えば、分析ガス-液体クロマトグラフィー(GLC)でさらに分離し、そして、例えば、GLC、IR、MSおよび/またはNMRで分析しうる。
【0226】
テトラフルオロコバルト酸塩(III)および/または三フッ化コバルトによる典型的なフッ素化反応は、例えば、Burdon,et al.,Journal of Fluorine Chemistry(1991),51(2),179-96に記載されている。テトラフルオロコバルト酸カリウム(III)によるフッ素化について、テトラヒドロフランを、200℃で3時間標準撹拌反応器(1.2mx15cm i.d.;6Kg KCoF4)に通す。反応器を窒素でパージし(1.5時間で1時間当たり15リットル)、トラップ含有物を水で洗浄する。乾燥した粗生成物を、例えば、GLC、IR、MSおよび/またはNMRによって分析しうる。三フッ化コバルトによるフッ素化について、粗生成物を、3時間同様の反応器(1.3mx18cm i.d.;10KgのCoF3で充填)中に液体シールを介して通す。約120~150℃の範囲で温度を保持する。窒素スイープ(2時間で1時間当たり25リットル)後、冷却トラップ(-78℃)の含有物を、氷上に注ぎ、水で洗浄する。合わせた生成物を、(水性重炭酸ナトリウム、次いで、水)洗浄し、(MgSO4、次いで、P2O5)乾燥した。一部を、GLCで分析して、1m真空ジャケットスピニングバンド式カラムで部分的に蒸留しうる。得られた留分を、分取GLC(例えば、Pye Series 104機,フレームイオン化検出器を備える;管包装,Ucon L.B.550X on Chromasorb P 30-60(1:4);分析管,1.7mx4mm i.d.;半分取管,9.1mx7mm i.d.)によってさらに分離し、各生成物の純粋な試料を得ることができる。必要に応じてまたは所望により、フッ素化生成物は異性化されうる。異性化に用いられる装置は、フッ化アルミニウムおよびガラス小球の1:1混合物を充填した、電気加熱した硬ガラス管(320mmx25mm i.d.)でありうる。使用前、窒素流をゆっくりと流しながら、これを24時間280℃まで加熱する。420℃の管温度で、 フッ素化生成物を、窒素流に30分間通過させる。異性化されたおよび異性化されていない生成物を、例えば、分析ガス液体クロマトグラフィー(GLC)でさらに分離し、そして、例えば、GLC、IR、MSおよび/またはNMRで分析しうる。
【0227】
本明細書に記載の実施例および実施態様は、説明するためのものであり、それを踏まえた種々の修飾および変形は、当業者に示唆されるものであり、本願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解されよう。本明細書に引用される全ての刊行物、特許、および特許出願は、その全体が本明細書によって引用される。