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特許7427285有機物質を生物触媒的に製造及び回収する統合システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】有機物質を生物触媒的に製造及び回収する統合システム
(51)【国際特許分類】
   C12P 5/00 20060101AFI20240129BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20240129BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20240129BHJP
   C12P 7/24 20060101ALI20240129BHJP
   C12P 7/26 20060101ALI20240129BHJP
   C12P 7/62 20220101ALI20240129BHJP
   C12P 7/64 20220101ALI20240129BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20240129BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240129BHJP
   B03D 1/24 20060101ALI20240129BHJP
   B01J 8/22 20060101ALI20240129BHJP
   B01J 8/24 20060101ALI20240129BHJP
   B01J 8/38 20060101ALI20240129BHJP
   C12P 1/00 20060101ALN20240129BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20240129BHJP
【FI】
C12P5/00
C12P7/40
C12P7/02
C12P7/24
C12P7/26
C12P7/62
C12P7/64
C12P13/00
C12P21/00
B03D1/24 100
B01J8/22
B01J8/24 311
B01J8/38
C12P1/00 Z
C12M1/00 C
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2022503421
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-27
(86)【国際出願番号】 NL2020050421
(87)【国際公開番号】W WO2021010822
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】19187100.3
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522021413
【氏名又は名称】デルフト アドバンスト バイオフューエルズ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DELFT ADVANCED BIOFUELS B.V.
【住所又は居所原語表記】Alexander Fleminglaan 1, 2613 AX Delft Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】オウツフール、アルヤン
(72)【発明者】
【氏名】スタインブッシュ、キルステン ヨハンナ ヨゼフィーネ
(72)【発明者】
【氏名】ケルステ、ロビー ヴァウター ヘンドリクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴォールナー、ダヴィト ジェームズ ラルフ
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0045581(US,A1)
【文献】特表2017-512062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00
C12P 5/00
C12P 7/40
C12P 7/02
C12P 7/24
C12P 7/26
C12P 7/62
C12P 7/64
C12P 13/00
C12P 21/00
C12M 1/00
B03D 1/24
B01J 8/22
B01J 8/24
B01J 8/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物触媒的に製造された有機物質を反応混合物から回収する方法であって、
前記方法は、
・生物触媒を用いて前記生物触媒的に製造された有機物質が製造される反応混合物を提供する工程であって、前記反応混合物は前記生物触媒が分散又は溶解された水相を含み、前記水相は前記生物触媒の基質を含み、そして、更に流体生成物回収相の液滴若しくは気泡が前記水相に分散され、前記生物触媒的に製造された有機物質がそれぞれ前記液滴又は気泡内に移動する工程と、
前記生物触媒的に製造された有機物質を含む流体生成物回収相を水相及び生物触媒から分離する工程とを含み、
前記生物触媒的に製造された有機物質が製造される反応混合物を含む反応セクションと、前記生物触媒的に製造された有機物質を含む流体生成物回収相が水相から分離される分離セクションとを含む単一の装置の中で、前記生物触媒的に製造された有機物質の製造及び流体生成物回収相の分離が実施され、
前記方法は、同時の製造及び分離ステージを含み、
少なくとも前記同時の製造及び分離ステージの間に、
・基質及び/又は流体生成物回収相が反応セクションに連続的又は断続的に供給され、
・反応セクション中の流動状態が乱流状態であり、
・反応混合物の流体生成物回収相が前記生物触媒的に製造された有機物質を含み、反応混合物が反応セクションから分離セクションに連続的又は断続的に供給され、供給された反応混合物が層流状態で前記分離セクションに入り、前記分離セクション内で層流状態で又は層流状態と無流動状態との間を断続的に交互に繰り返して流体生成物回収相が水相から分離され、及び
前記生物触媒的に製造された有機物質を含む流体生成物回収相が、前記装置の分離セクションから連続的又は断続的に回収される、方法。
【請求項2】
前記反応セクション内の流体生成物回収相の内部への前記生物触媒的に製造された有機物質の移動速度又は吸収速度が、少なくとも前記同時の製造及び分離ステージの間、分離された流体生成物回収相の一部として前記生物触媒的に製造された有機物質が前記分離セクション内の水相から分離される速度とほぼ同じ速度に維持され、及び/又は、
前記反応セクション内の流体生成物回収相の内部への前記生物触媒的に製造された有機物質の移動速度又は吸収速度が、前記生物触媒的に製造された有機物質が製造される速度とほぼ同じ速度に維持され、
前記用語「ほぼ」が10%以下の誤差を意味する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応セクション内の前記分散された流体生成物回収相の前記液滴又は気泡のザウター平均粒径(D[3,2])が、10~250μmの範囲内に維持される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応セクション内の前記分散された流体生成物回収相の前記液滴又は気泡のザウター平均粒径(D[3,2])が、150~250μmの範囲内に維持される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも前記同時の製造及び分離ステージの間、前記生物触媒的に製造された有機物質の製造速度と前記生物触媒的に製造された有機物質の前記流体生成物回収相への動速度とがほぼ同じとなる速度で、前記基質及び前記流体生成物回収相が前記反応セクション中に供給され、
前記用語「ほぼ」が10%以下の誤差を意味する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、前記水相中の前記生物触媒的に製造された有機物質の濃度が、前記生物触媒の活性が前記生物触媒的に製造された有機物質の存在で阻害されない値に維持される、及び/又は、
少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、前記基質に由来する生物触媒を阻害する汚染物質の濃度が、前記生物触媒の活性が前記生物触媒的に製造された有機物質の存在で阻害されない値に維持される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記流体生成物回収相が、前記生物触媒的に製造された有機物質が前記水相よりも高い親和性を有する液体相であり、少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、前記液体相が前記反応セクション中に供給され、
前記流体生成物回収相が、前記生物触媒的に製造された有機物質の分配係数(すなわち、前記水相中の前記生物触媒的に製造された有機物質の平衡濃度に対する、前記流体生成物回収相中の前記生物触媒的に製造された有機物質の平衡濃度の比)が少なくとも3である、相である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、気体が反応セクションの下部に供給され、前記気体が前記反応混合物の上向きの動きを発生させ又は寄与し、これによって、前記反応混合物が、前記反応セクションと前記分離セクションとの間に位置するライザーに流入し、前記反応セクションと前記分離セクションの間の、及びライザーから前記分離セクションへの輸送導管を提供する、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記流体生成物回収相が、前記水相よりも低い密度を有する液体相であり、
前記ライザーの下流で、前記生物触媒的に製造された有機物質が富化された流体生成物回収相を含む反応混合物が、上向きの動きを発生させ又は寄与する気体から分離され、
前記気体から分離された前記反応混合物が、分離セクションで、前記生物触媒的に製造された有機物質が富化された流体生成物回収相を含む上層と、生物触媒を含む水相を含む下層とに分離され、
前記生物触媒的に製造された有機物質が富化された流体生成物回収相が、上層から回収され、及び
前記下層からの生物触媒を含む水相を、反応セクションに戻す、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
分離セクション中で、前記反応混合物を、前記生物触媒的に製造された有機物質が富化された流体生成物回収相を含む上層と、存在する場合、水相中に分散又は溶解された生物触媒を含む水相を含む下層とに分離し、
前記生物触媒的に製造された有機物質が富化された流体生成物回収相を前記上層から回収し、
存在する場合、水相中に分散又は溶解された生物触媒を含む水相を、前記下層から反応セクションに戻し、及び
前記上層と前記下層の間の界面の下の位置で、分離セクション中の反応混合物中に気体を供給する、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記生物触媒的に製造された有機物質が、炭化水素;有機酸;アルコール;ケトン;アルデヒド;環状カルボン酸エステル;非環状エステル;脂質;アミン;アミノ酸;及びペプチドからなる群から選択される、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記生物触媒的に製造された有機物質が、モノテルペン、セスキテルペン、芳香族炭化水素、イソプレノイド、C~C24脂肪酸、少なくとも4つの炭素原子を有するアルコール、少なくとも5つの炭素原子を有するケトン、少なくとも5つの炭素原子を有するアルデヒド、ラクトン、少なくとも5つの炭素原子を有する非環状エステル、及びグリセリドからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生物触媒が生きている生物を含み、前記生物触媒的に製造された有機物質が前記水相に分泌され、又は
前記生物触媒が、前記水相に分散若しくは溶解された単離された酵素又は単離された酵素の組み合わせを含み、又は
前記生物触媒が、前記水相に分散した1つ以上の担体材料に固定化された単離された酵素又は単離された酵素の組み合わせである、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記生物触媒が、細菌、古細菌及び真菌の群から選択される、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記生物触媒が、シュードモナス(Pseudomonas)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、クロストリジウム(Clostridium)属、エシェリキア(Escherichia)属、パラコッカス(Paracoccus)属、メタノコッカス(Methanococcus)属、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属、メタノカルドコッカス(Methanocardococcus)属、メタノサルチナ(Methanosarcina)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、ピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブラケスレア(Blakeslea)属、ファフィア(Phaffia)属(キサントフィロマイセス(Xanthophyllomyces)属)、ヤロウイア(Yarrowia)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ザイゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属の群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記生物触媒が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、大腸菌(Escherichi Coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・メタノリカス(Bacillus methanolicus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、ロドバクター・カプスラータ(Rhodobacter capsulatus)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、パラコッカス・カロティニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)、パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、ブラケスレア・トリスポラ(Blakeslea trispora)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ファフィア・ロドシーマ(Phaffia rhodozyma)(キサントフィロマイセス・デンドロアス(Xanthophyllomyces dendrorhous))、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)及びヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記流体生成物回収相が、疎水性液体である、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記疎水性液体が、アルカン、及びトリグリセリドの群から選択される1つ以上の疎水性液体を含む若しくはからなる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
気体状若しくは揮発性の生物触媒的に製造された有機物質のための流体生成物回収相として気体を用いる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれかに記載の方法であって、
前記方法が、装置を含む、物質を生物触媒的に製造するためのバイオリアクターシステムを用いて実施され、
前記装置は、前記装置の下部に位置する反応区画(11)と、分離区画(9)と、前記反応区画からの流体が上向きに流れるように適合されて反応区画(11)の最上部に、近くに又は真上に導管を規定するライザー(7)と、前記ライザー(7)を出た(非気体状の)液体が前記分離区画中に下向きに流れるように適合されて前記ライザー(7)の出口側と分離区画(9)の入口側の間の導管を規定する下降管(8)とを含み、
前記反応区画(11)は、攪拌器(13)と、物質の製造に用いる基質のための供給入口(1)と、流体生成物回収相用の入口(5)と、気体相用の入口(6)とを含み、
前記分離区画(9)は、下降管(8)の出口端よりも分離区画(2)の最上部の近くに位置する流体生成物回収相の出口を含み、
生物触媒をリサイクルするためのリサイクル設備(10)が、分離区画(9)への気体相用の入口(2)の下で分離区画(9)の一部から取られ、
前記装置が、気体相用の入口(2,6)を介して前記装置に導入される気体相用の出口を備えたヘッドスペースを有する、方法。
【請求項21】
前記反応区画(11)が前記分離区画(9)の下に配置され、両方の区画が仕切りの反対側にあり、前記リサイクル設備(10)が前記仕切り中に1つ以上の開口部を含み、前記仕切りが傾斜しており、前記1つ以上の開口部が仕切りの最低点に又はその近くに存在する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記傾斜した仕切りが、下降管(9)からの流体の流出方向に対して90~120°の角度にある、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記分離区画が、下降管(8)の出口端よりも前記分離区画(9)の底部の近くに配置される気体相用の入口(2)を含む、請求項20~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
流体導管を介して前記装置の反応区画(11)の供給入口(1)に接続された、流体のための出口を有するバイオリアクター容器を更に備える、請求項20~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
生物触媒的に製造された有機物質を流体生成物回収相から単離する方法であって、
・請求項1~24のいずれかに記載の方法を用いてなされる第1の抽出であって、
前記流体生成物回収相が液体生成物回収相であり、
前記生物触媒的に製造された有機物質の製造を触媒する生物触媒の存在下、前記生物触媒的に製造された有機物質が製造され、
水性反応培地から液体生成物回収相に前記生物触媒的に製造された有機物質を抽出し、
前記水性反応培地と接触した際、前記液体生成物回収相が別の相を形成し、前記液体生成物回収相が、少なくとも100℃の沸点を有する、第1の抽出;
・前記水性反応培地からの前記生物触媒的に製造された有機物質を含む前記液体生成物回収相の分離;
・前記液体生成物回収相から、100℃未満の沸点を有する液体生成物回収相と異なる逆抽出液に前記生物触媒的に製造された有機物質を抽出する、逆抽出と呼ばれる第2の抽出;
・前記液体生成物回収相からの前記生物触媒的に製造された有機物質を含む前記逆抽出液の分離;及び
・前記逆抽出液からの前記生物触媒的に製造された有機物質の分離を含む、方法。
【請求項26】
前記液体生成物回収相及び前記逆抽出液が有機液体である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
本方法において、前記液体生成物回収相が、100℃以上の沸点を有する脂肪酸又はそのエステル、ワックス、第一級アルコール、植物油及びアルカンからなる群から選択される有機液体であり、及び/又は
前記逆抽出液が、100℃未満の沸点を有するアルコール、エーテル及びエステルからなる群から選択される有機液体である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記液体生成物回収相が85g/L未満の水溶解度を有する、請求項25~27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記液体生成物回収相が0~1g/Lの水溶解度を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記液体生成物回収相及び前記逆抽出液を、それらが別の相を形成する温度及び比率で互いに接触させて、前記生物触媒的に製造された有機物質が前記液体生成物回収相から前記逆抽出液に抽出され、又は
前記液体生成物回収相及び前記逆抽出液を、それらが混合相を形成する温度及び比率で互いに接触させて、その後、温度を変化させて相分離を誘発させ、それによって、前記生物触媒的に製造された有機物質が富化された逆抽出液相が得られる、請求項25~29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記生物触媒的に製造された有機物質が蒸留によって前記逆抽出液から単離され、又は前記生物触媒的に製造された有機物質が沈殿によって、単離される、請求項25~30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記水性反応培地が、生物触媒を用いて前記生物触媒的に製造された有機物質が製造される反応混合物であり、
前記反応混合物が、前記生物触媒が分散又は溶解される水相を含み、
前記水相が前記生物触媒のための基質を含み、
更に、前記液体生成物回収相の液滴が前記水相に分散され、前記液滴中に前記生物触媒的に製造された有機物質が移動し、
前記水相及び前記生物触媒から前記生物触媒的に製造された有機物質を含む前記液体生成物回収相を分離し、
前記生物触媒的に製造された有機物質の製造及び前記液体生成物回収相の分離が、前記反応混合物を含み、前記生物触媒的に製造された有機物質が製造される反応セクションと、前記生物触媒的に製造された有機物質を含む液体生成物回収相が水相から分離される分離セクションとを含む装置の中で実施される、請求項25~31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記方法は、同時の製造及び分離ステージを含み、
少なくとも前記同時の製造及び分離ステージの間に、
・基質及び/又は液体生成物回収相が反応セクションに連続的又は断続的に供給され、
・反応セクション中の流動状態が乱流状態であり、
・反応混合物の液体生成物回収相が前記生物触媒的に製造された有機物質を含み、反応混合物が反応セクションから分離セクションに連続的又は断続的に供給され、供給された反応混合物が層流状態で前記分離セクションに入り、前記分離セクション内で層流状態で又は層流状態と無流動状態との間を断続的に交互に繰り返して液体生成物回収相が水相から分離され、及び
前記生物触媒的に製造された有機物質を含む液体生成物回収相が、前記装置の分離セクションから連続的又は断続的に回収される、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物触媒的に製造された有機物質を反応混合物から回収する方法に関する。本発明は更に、物質を生物触媒的に製造するバイオリアクターシステム、及び物質の生物触媒的製造におけるバイオリアクターシステムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵によって有機物質を製造することは、当技術分野で知られている。このような発酵方法で、微生物を用いて適切な基質を目的の有機物質に変換する。当技術分野で一般に知られているように、多種多様な有機物質の製造のために工業規模で用いることができる様々な微生物が知られている。一般に知られている発酵方法は、様々な有機物質、例えばアルコール、エステル、アミノ酸、炭水化物、脂質、ケトン、アルデヒド、有機酸の製造のための自然の微生物、例えば酵母又は細菌の使用、及び使用が遺伝的に改変された生物による方法を含む。自然に製造された有機物質の生成物力価を増加させるために、及び/又は微生物が自然には製造しない有機物質を微生物が製造することを可能にするために、生物を遺伝的に改変することができる。例えば、微生物によって自然に製造しないテルペン、テルペノイド又は他の有機物質の製造に関与する植物からの遺伝子を組み込むことによって、微生物を改変することができる。
【0003】
有機物質の生物触媒的製造の他の形態は、目的の有機物質への基質の変換を触媒し、例えば、溶液、懸濁液、分散液、凍結乾燥細胞(の懸濁液)、溶解物、又は支持体に固定化されたものとして、自然環境から(その中で有機物質が製造される生物から)単離される1以上の触媒を用いる。それが由来する生物から単離された酵素の使用は、反応の平衡が所望の側にシフトするように反応条件を調整する際の増加した柔軟性の観点で特に有用であり得る。また、有機物質が製造される反応混合物がより複雑ではなく、細胞を維持するための栄養は必要ではなく、生きている生物による無関係な物質の分泌を避け得る。
【0004】
生物触媒的方法で得られる反応混合物は、特に、生きている微生物又は生きていない微生物の細胞塊を用いる場合、寧ろ複雑である傾向がある。反応混合物は、通常、生物触媒、基質、栄養(生きている生物を用いる場合)、製造された有機物質、及び場合によっては副生成物、例えば、任意に製造される発酵気体(例えば、CO2)、又は生物触媒によって分泌される他の物質(生物を用いる場合)を含む。
【0005】
発酵混合物から発酵的に製造された有機物質を回収するための様々な方法が提案されている。炭化水素、脂質等の疎水性有機物質のために、水性培地との脂質又は炭化水素の低い水混和性に依存する方法を用いることができる。抽出技術も既知の可能性を有する。
【0006】
例えば、EP2196539は、脂質及び炭化水素バイオ燃料がカラムリアクターで製造された発酵混合物から脂質及び炭化水素バイオ燃料を分離する異なる固体/液体/液体分離技術の使用を記載する。単一の装置内で目的の生成物を製造し、それを発酵混合物から分離すること、又は製造と分離を同時に実施することは開示されていない。更に、リアクター内に分散された生成物回収相の液滴、気泡又は粒子を特定の範囲内に維持することは開示されていない。生成物を回収する逆抽出も開示されていない。
【0007】
WO2007/139924は、第1層としての宿主細胞を有する水性培地、及び宿主細胞によって製造された生物有機化合物を含む液体有機第2相を含む二相系で、生物有機化合物を製造及び分離する方法に関する。
WO2012/024186は、界面活性剤、宿主細胞、及び生物有機化合物を含む組成物を加熱し、それによってエマルジョンを不安定化する精製方法に関する。
【0008】
WO2010/123903、US2009/029445及びUS2012/129244は、微生物、特に藻類を含む水溶液から細胞内成分を収穫する方法を記載する。この方法は、細胞内成分を水溶液に放出するために微生物の細胞壁を破裂させることを含む。不利な点は、生成物が泡の一部として得られるため、生成物の単離のために更なる相分離(例えば、デカンテーション、遠心分離)が依然として必要であることである。
【0009】
WO2015/130167は、発酵容器内で又は発酵リアクターの第1区画内で製造された発酵混合物から脂質又は炭化水素を回収する方法に関する。発酵混合物は、水相と脂質又は炭化水素を含む液体生成物相とを含み、水相の少なくとも一部及び液体生成物相の一部を第2容器又は発酵リアクターの第2区画に供給し、それによって第2混合物を形成させ、第2混合物に気体を注入することで水相と生成物相の相分離を促進し、それによって生成物相を水相から分離する。
【0010】
WO2017/220957は、脂質生成物を含むブロスを発酵槽内で製造し、脂質生成物を含むブロスを分離器に移送し、脂質生成物を含む脂質相をブロスの他の構成成分から分離させる、脂質生成物を製造及び分離する方法に関する。
Bednarz et al(J Chem Technol Biotechnol(2018))は、細胞含有培地からのポリアミドモノマーのヘキサン-1,6-ジアミンの反応性抽出を研究した。しかし、生物触媒を用いてもジアミンは製造されなかった。Bednarzによると、抽出方法における最適な液滴直径は1.5~2.5mmであるべきである。
Lu及びLi(Journal of the Taiwan Institute of Chemical Engineers 45(2014)2106-2110)は、バッチでのアセトン-ブタノール-エタノール(ABE)発酵を実行する統合されたin situの抽出/気体逆抽出方法を提案する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば、既知の方法論は、製造された有機物質の種類(例えば、脂質又は炭化水素)への適用、方法の種類(例えば、バッチのみ、好気性のみ、嫌気性のみ、又は無酸素性のみ)への適用に特異的であるか、又は最大の微生物の濃度又は最大の製造された有機物質の濃度の観点で限定されているため、反応混合物から目的の製造された有機物質を(迅速に)回収する代替的な方法論及びバイオリアクターシステムが必要である。
【0012】
製造された反応混合物(発酵ブロス等)からの生成物の回収は、反応混合物の複雑な組成のため、複雑になる可能性がある。及び/又は、回収方法は、特に、in situの抽出(例えば、液体/液体抽出(L/L抽出))及び単一の反応容器内での分離を行うことを目的とする場合、目的の化合物の製造に用いられる微生物等の生物触媒に影響を与える可能性がある。これは、液体/液体ブロス混合物へのCIRCOX(商標)ベースの液体フローパターンによる分離で達成することができる。次に、より軽い液体は、反応容器内の分離セクションに移動する機会を与える。液体/液体エマルジョンの安定性を、気体増進油回収(GEOR)で不安定化することができる。
【0013】
バイオマス/細胞破片/消泡剤/溶媒の種類と濃度の不十分な組み合わせでは、有機相の分離が起こらず又はそれほど起こらず、逆に、バイオマス/消泡剤/溶媒の正しい選択では、はっきりとした有機相の分離が可能になる。
更に、阻害濃度(例えば毒性濃度)の製造された目的の生成物、副生成物、及び/又は、目的の生成物の製造に用いる生物触媒の基質中の阻害化合物の存在による触媒活性の阻害に続いて、好気性条件下で生物触媒的変換が行われる場合、微生物的変換のための酸素供給速度に制限がある。これは、非常に高い酸素需要株には適合しない。大規模生産では、酸素需要の問題がしばしばいっそうひどくなる。
【0014】
更に、抽出できる溶媒を含む菌株は、有機相のエマルジョン形成で頻繁に妨げられることが示されている。次に、この安定したエマルジョンは、下流の処理中にエンド・オブ・パイプで処理され、これはL/L分離が難しい場合がある(参照,例えば、Appl Environ Microbiol 2004, Oct 70(10):6333-6336,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC522095)。
【0015】
特に、例えば、全体的な体積製造速度の増加(強化されたリアクター)、生成物の変質の減少、生成物の損失の減少(より高い収率)、又は床面積の減少(リアクターシステムのコンパクトさ)の観点で、バイオリアクターシステムの強化された使用を可能にする方法又はバイオリアクターシステムが必要である。
【0016】
特に、本発明者らは、水相(例えば、発酵ブロス)中で反応混合物中の製造された物質の濃度が比較的低いレベルに保たれている場合にも、生物触媒的に製造された有機物質の効率的な回収を可能にする方法又はバイオリアクターシステムを提供することが望ましいことを認識した。低濃度での効率的な回収は挑戦的課題である。それにも関わらず、製造された物質が生物触媒に潜在的に毒性又は阻害性を示す場合、反応混合物中の低濃度は、比較的高い製造効率を維持する観点で一般に有利である。
【0017】
本発明者らは、生物触媒的に有機物質を製造を行い、反応セクション(例えば、発酵区画)と分離セクションを含む単一の装置で製造及び分離を同時に行う反応混合物の残りから、有機物質を含む相を分離することによって、上記の先行技術で遭遇する1つ以上の課題をそれぞれ克服して、1つ以上の上記のニーズ又は要望を対処することが可能であることを見出した。
対処され得る本発明の1つ以上の更なる目的は、本明細書の以下の部分に続く。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従って、本発明は、生物触媒的に製造された有機物質を反応混合物から回収する方法であって、
前記方法は、
・生物触媒を用いて前記物質が製造される反応混合物を提供する工程であって、前記反応混合物は前記生物触媒が好ましくは分散又は溶解された水相を含み、前記水相は前記生物触媒の基質を含み、そして、更に流体生成物回収相の液滴若しくは気泡又は固体生成物回収相の粒子が前記連続水相に分散され、製造された物質がそれぞれ前記液滴又は気泡内に移動し、固体生成物回収相の粒子の内部に又は表面上に製造された有機物質が付着する工程と、
・製造された物質を含む生成物回収相を水相及び生物触媒から分離する工程とを含み、
物質が製造される反応混合物を含む反応セクションと、製造された物質を含む生成物回収相が水相から分離される分離セクションとを含む装置の中で、有機物質の製造及び生成物回収相の分離が実施され、
前記方法は、同時の製造及び分離ステージを含み、
少なくとも前記同時の製造及び分離ステージの間に、
・基質及び/又は生成物回収相が反応セクションに連続的又は断続的に供給され、
・反応セクション中の流動状態が乱流状態であり、
・反応混合物の生成物回収相が製造された物質を含み、反応混合物が反応セクションから分離セクションに連続的又は断続的に供給され、供給された反応混合物が本質的に層流状態で前記分離セクションに入り、前記分離セクション内で本質的に層流状態で又は層流状態と無流動状態との間を断続的に交互に繰り返して生成物回収相が水相から分離され、及び
・生物触媒的に製造された物質を含む生成物回収相が、前記装置の分離セクションから連続的又は断続的に回収される、方法に関する。
【0019】
反応セクション及び分離セクションは、一般に、単一の反応容器内の別の区画等、同じ装置内の別の区画である。
生物触媒は、一般に、連続相内で、分散(微生物又は固体担体上の酵素等の固体生物触媒の場合)又は溶解(例えば、水溶性酵素)される。
【0020】
通常、流体回収相が用いられ、普通、回収相の液滴が反応セクション内の連続水相に分散される液体が用いられる。代替的に又は加えて、回収相の気泡が反応セクション内の連続水相に分散される気体状回収相を用いることができる。代替的に又は加えて、回収相の粒子が反応セクション内の連続水相に分散される固体回収相を用いることができる。目的の有機物質の既知の吸着剤の中から、適切な固体回収材料を選択することができる。好ましくは、吸着剤粒子、例えばビーズは、水相よりも低い密度を有し、浮上によってそれらを回収することができる。そのような粒子は当技術分野で知られており、高分子吸着剤粒子、特に機能化高分子粒子が含まれる。
【0021】
本発明者らは、特に、本発明がin situの生成物回収力(In Situ Product Recovery power:すなわち、ISPR力;製造された有機物質の生成物回収相への移動レベルの尺度)及び分離能力(すなわち、SC)の適合を可能にすることを見出した。通常、反応セクション中で生成物回収相内への/上への製造された物質の移動/吸着/吸収の速度を、分離セクション中で(分離された生成物回収相の一部として)製造された物質が水相から分離される速度とほぼ同じ速度に維持することで、及び/又は反応セクション中で生成物回収相内への/上への製造された物質の移動/吸着/吸収の速度(本明細書中、この速度は抽出速度とも呼ばれる)を、物質が製造される速度とほぼ同じ速度に維持することで、これが達成される。
【0022】
一般に、生成物回収相の比較的小さな粒子、気泡、又は液滴を反応セクション内の反応混合物に分散させることで、これが達成される。生成物回収相の液滴、粒子又は気泡が大きくなり過ぎると、抽出速度が低くなり過ぎて、抽出速度及び製造速度を少なくとも実質的に同じ速度に維持することができない。従って、製造速度及び移動/吸着/吸収の速度をほぼ同じ速度に維持することで、通常、(球形の)液滴、気泡又は粒子は、約10μm~150μmの平均(算術)直径を有するが、実際には、より大きな直径、特に最大250μmの直径も許容され得る。本明細書で用いられる反応区画内の生成物回収相の粒子/液滴/気泡の大きさは、ザウター平均粒径(D[3,2])である。ザウター平均粒径は、表面平均直径の2乗に対する体積平均粒径の3乗の比率、概略的にその粒子の表面積に対するその体積の比率(aiche.org)であり、球形の粒子の大きさだけではなく、非球形の形状/変形体の大きさをも表すため、当技術分野で一般に用いられている。本明細書で用いられるザウター平均粒径D[3,2]は、体積、面積及び直径についての粒子データ分析による光学的方法で測定され、特に、(本明細書の実施例で説明される)https://SOPAT.deを参照して、Maass, Sebastian & Rojahn, Jurgen & Hansch, Ronny & Kraume, Matthias. (2012). Automated drop detection using image analysis for online particle size monitoring in multiphase systems. Computers & Chemical Engineering. 45. 27-37. 10.1016/j.compchemeng.2012.05.014(https://www.researchgate.net/publication/256937907_Automated_drop_detection_using_image_analysis_for_online_particle_size_monitoring_in_multiphase_systems)に記載されている。実際には、D[3,2]も計算によって推定できる。
【0023】
反応セクション中の分散された生成物回収相の液滴、気泡又は粒子のザウター平均粒径(D[3,2])は、一般に、約10~約150μmの範囲内であるが、より高いD[3,2]、特に150~250μmの範囲のD[3,2]で、本発明の方法を行うこともできる。本発明者らは、約10~約150mmの範囲内のD[3,2]で本発明の方法が、生成物回収相の浮上性の観点及び生成物抽出の観点(物質移動領域の利用可能性 vs 液滴の直径)の両方から、十分に効果的であることを見出した。経験則として、D[3,2]が低いほど、生成物が水相から生成物回収相内に/中に移動する速度が高くなり、それにも関わらず、目的の有機物質を含む生成物回収相の分離がより困難に/遅くなる。従って、本発明者らは、D[3,2]をこの範囲内に維持することは、ISPR及びSCを適合させるための非常に有用な手段であることを理解した。好ましくは、D[3,2]は、約15~100μmの範囲内、特に約20~90μmの範囲内、より特に40~80mmの範囲内である。150μmを超えるD[3,2]、特に約250mm以下のD[3,2]は、依然として満足な結果を得えることができる。そのようなD[3,2]は、最初は小さい直径を有した粒子/液滴/気泡の合体の結果であり得る。比較的大きなD[3,2]の利点は、分離が容易になることである。更に、生成物回収相の連続的又は断続的な追加及び除去は、更なる程度の操作の自由度を与え、この操作の自由度を用いて生成物回収相の効果的な分散特性(液体の場合の液滴サイズ、滞留時間、生成物回収相の質量割合)を制御することができる。当業者が理解する通り、この追加は制御された方法で行うことができる。これによって、分散された生成物回収相と水相の乳化を低減又はまったく完全に回避する作業ポイントを可能にする。
【0024】
ISPR力とSCを適合させる他の手段は、回収相の選択、生物触媒反応の条件、及び分離セクションから反応セクションに流体を再循環させるための推進力を含む。以下、様々な手段について更に詳しく説明する。
【0025】
同時の製造及び分離ステージの間、反応混合物を連続的又は断続的に分離セクションに供給し、生成物回収相を装置の分離セクションから連続的又は断続的に除去する。更に、任意に、気体を分離セクションの内容物に導入する。少なくとも実質的に非乱流状態を維持しながら、分離セクションへの供給、分離セクションからの除去、及び任意に分離セクションへの気体の導入が、一般に行われる。分離セクションに流れがある場合、流れの状態は一般に本質的に層流である。しかし、連続的な流れがあることは必須ではない。本質的に層流の条件と流れのない条件を交互に行うことができる。従って、分離セクションに供給される反応混合物は、一般に、本質的に層流の条件下で分離セクションに入る。
【0026】
つまり一般に、分離セクション中の流体に動きがある場合、少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、本質的に層流である。同時のステージを通して、分離セクションへの、及び/又は分離セクションからの流れを維持することは必要ではない。反応混合物の供給、生成物の取り出しだけでなく、任意の気体の導入及び/又は任意の水相のリサイクルも、断続的にすることができる。それがない場合、分離が進行する。層流の条件は、特に回収相及び水相の間に密度の相違を用いる場合、分離能力にプラスの影響を与えることが分かった。レイノルズ数(Re)は、粘性力に対する慣性力の比として定義される一般的に知られる無次元数(Re=密度×流体速度×代表長さ/動的粘度)であり、流れの状態を定量化するために当技術分野で用いられる。低いRe、普通、約2300以下、好ましくは2000以下、例えば、100~1800のReは、層流を示す。高いRe、普通、2900以上、例えば3500~10000のReは、乱流を示す。しかし、化学工学の当業者は、流れの状態が本質的に層流であるかどうかを視覚的に(例えば、インクを注入して流れのパターンを観察することで)判断することもできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の主な利点は、単一の装置(統合アプローチ)でISPR力及び分離能力が適合することである。
更なる主要な利点は、本発明が、反応混合物から有機物質を効果的に回収しながら、反応セクション中の製造された有機物質の濃度を低く保つことで製造速度が遅くなるのを防ぐことを可能にすることである。1日の製造能力を、少なくとも多くの疎水性生成物では10倍を超えて、特定の生成物では100倍近くまで増やすことを可能にすることが分かった。
【0028】
更なる主要な利点は、同時の操作が、反応混合物を反応セクションから少なくとも実質的に連続的に除去しながら、高い製造能力が達成される少なくとも実質的に連続的な処理を可能にすることである。反応セクションからの反応混合物(生成物回収相を含む)の本質的に連続的又は断続的な除去を適用することによって、製造される目的の有機物質の濃度、及び/又は他の潜在的に反応を阻害する物質の濃度を低く、すなわち触媒活性を実質的に阻害するレベル未満に保つことができる。これはまた、1つ以上のフェノール等の潜在的に阻害する物質を含む粗製材料に由来する基質/栄養の使用を可能にする。
【0029】
本発明は更に、体積生産性を高める方法を提供するので、利点を提供する。特に成長しない又は成長の遅い生物触媒を用いる場合、例えば生物触媒が酵素を含む場合、これが役立つ。高い体積生産率は、特に生物触媒のリサイクルによって達成される。この場合、反応区画内で反応が進行している間、生物触媒が懸濁されており、阻害生成物又は阻害副生成物が除去される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の100Lの統合リアクターシステムの概略図を示す。
図2】発酵の間の溶存酸素(DO)プロファイルを示す。灰色の縦の線は、方法のパラメータにおける続いて起こる変更の開始を示す。左から右へ(凡例の上から2番目から下まで): 急激な供給の開始:急激な供給相の開始 定常供給の開始:定常供給相の開始 油の連続添加の開始:ひまし油の連続供給の開始 減少供給割合
図3】有機相及び水相の生成物の濃度を示す。生成物の濃度は有機相中、最も高い。そこで、水相から有機相への移動は成功し、水相と比較して有機相が生成物で富化された。水相中のフムレン濃度は発酵の間、僅かに増加し、有機相中の濃度は一定のままであった。発酵の間、非阻害レベルでのフムレンの濃度を保つに十分な準定常状態が達成された。
図4】反応セクションに加えられ、分離セクションから回収(収穫)された生成物回収相(生成物のための溶媒)の量を示す。分配係数は、両方の相における濃度に依存する。分配は、必ずしも濃度と共に直線状に上昇はしない。それは、有機の濃度が一定に保たれながら、水性生成物の濃度が僅かに増加することができるからである。溶媒の添加が連続しているが、分離セクションからの有機相の回収は断続的に起こった。
図5】発酵の間の攪拌速度を示す。攪拌速度は、発酵リアクター内の乱流条件、及び約10~約100μmの範囲の値のD[3,2]を維持するのに適した。
図6】発酵区画内の反応培地中の、及び分離セクションからのひまし油と生成物によって形成された有機相(クリーム、分離区画の最上層)中の発酵の間の細胞乾燥重量(CDW)を示す。細胞バイオマスは、主に反応セクション及びブリード中にあった。バイオマスは、分離セクションのクリームの中に、検出されなかったか、又は非常に低い濃度で検出された。そこで、収穫された有機相には細胞がないと考えられ、これは更なるDSPに有益であった。更に、細胞は収穫によって失われず、反応セクション(発酵区画)にリサイクルされた。
図7】異なる区画中の有機相割合を示す。反応区画中の有機相の割合は1~4%の望ましいレベルであった。
図8】分離セクションからのクリームの回収速度として表された回収速度を示す。
図9】連続相の間に添加された基質の水溶液の総量を示す。
図10】発酵の間の空気流量の設定値及び再循環流量を示す。
図11】液滴サイズと回収速度の関係を示す。
図12】経時的なドデカンのバランスを示す。
図13】本発明による装置を示す。
図14】連続相の間に統合リアクターに加えられ供給を示す。
図15】統合装置の発酵区画のDOプロファイルを示す。
図16】1m3の発酵槽及び統合リアクターの中の細胞乾燥重量(CDW)の進展を示す。CDW濃度は、1m3の発酵槽及び統合リアクターシステム(反応システム)中と同じであった。濃度勾配はなく、2つのリアクター間で液体の均一な交換があった。
図17】連続相の間の水相(統合リアクターシステムの1m3の発酵槽、反応セクション)及び有機相(統合リアクターシステムの分離セクション、すなわち収穫セクションの中)の中の生成物濃度を示す。生成物が有機相中で富化され、統合リアクターシステムの分離セクションに首尾よく輸送された。
図18】連続相の間の100Lの装置の分離区画から反応区画への再循環流を示す。
図19】連続相の間に統合リアクターシステムに添加された有機相(ひまし油、「溶媒」)の量、及び統合リアクターシステムから収穫された有機相の量を示す。統合されたリアクター/分離器の充填及び溶媒の添加の後、装置は長い遅延相なしに相を迅速に分離することができた。溶媒の総量は、実施例2と比較して2倍以上であった。そのため、相分離の面積を同じに保ちながら、統合リアクターシステムを1m3の発酵槽に接続することによって、発酵能力が向上した。所定のサイズの分離セクションが、より多くの発酵能力に対処できることが証明された。
図20】発酵の間のpHの進展を示す。
図21】バッチ相と連続相の光学密度(OD)値を示す。
図22】バッチ相と連続相の間の測定された再循環流量を示す。
図23】分離区画のN2ガス流量と液体レベルの測定を示す。
図24】バッチが終了した後の連続相の間の平均供給速度(黒い線)を示す。
図25】連続相の間の溶媒(回収相)の添加を示す。
図26】収穫(回収相)の有機割合を示す。
図27】水相中のブタノール濃度(caqu)と有機相のブタノール濃度(corg)を示す。バッチ相の間、ブタノール濃度が約6g/Lに増加した。生成物回収相の添加の開始と共に、多くのブタノールが生成物回収相に抽出された。バッチ相の後、微生物の生産性が減少した。その理由は、連続相の間にブタノール濃度が減少するためである。
図28】ひまし油を用いた場合の高い回収速度を示す。生成物含有相は、非常に高い有機割合(0.77~0.83)を有するクリームであった。
図29】ドデカンによる回収速度がより低かったことを示す。正味の速度の差(kg/h)はほぼ5倍である。とりわけ、ひまし油と比較して表面張力と粘度の違いによって、ドデカンの液滴の分布が大幅に小さい。生成物(ドデカン)含有相は、0.6~0.72の有機物質の割合を有する透明な油の分画をも含むクリームであった。
図30】発酵区画及び分離区画内の有機相中のブタノール濃度を示す。定常状態でのこの設定で可能なブタノールの最大濃度は、有機相中で約18g/Lであった。
図31】微生物の予想される生産性に対する生成物阻害の効果と、従って生産性に対するISPRの効果を示す。示されている3つの異なる溶媒(それぞれ独自のブタノールの分配(m=4,10,15)を有する)について、点線の円で示される3つの異なる定常状態を計算することができる。この実施例において、P:生成物、aqu:水性、m:溶媒及び水相の中の生成物の分配(partitioning)。
図32】測定された濃度で存在する化合物では、成長が阻害されなかった。
図33】有機相及び水相の中で、発酵のすべての間、水性のバニリン濃度が0.5g/L未満であり、バニリン酸とバニリルアルコールが有機相で富化されたことを示す(バニリン:暗い色の正方形&明るい色の正方形、バニリン酸:塗りつぶされた円&円パターン、及びバニリルアルコール:塗りつぶした三角形&三角形パターン)。
図34】発酵ブロス中のバニリン酸濃度を示す。
図35】経時的なバニリン酸の製造速度(四角)、抽出速度(円)、及び分離速度(三角形)を示す。
図36】オレイルアルコールから70%エタノール(補助溶媒)へのバニリン酸の成功的な逆抽出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は更に、特定のバイオリアクターシステム、すなわち、装置を含む、物質を生物触媒的に製造するためのバイオリアクターシステムであって、
前記装置は、前記装置の下部に位置する反応区画(11)と、分離区画(9)と、前記反応区画からの流体が上向きに流れるように適合されて反応区画(11)の最上部に、近くに又は真上に導管を規定するライザー(7)と、前記ライザー(7)を出た(非気体状の)液体が前記分離区画中に下向きに流れるように適合されて前記ライザー(7)の出口側と分離区画(9)の入口側の間の導管を規定する下降管(8)とを含み、
前記反応区画(11)は、攪拌器と、好ましくはスターラー、物質の製造に用いる基質のための供給入口(1)と、生成物回収相のための入口(5)と、気体相用の入口(6)、好ましくはスパージャーとを含み、
前記分離区画(9)は、通常、下降管(8)の出口端よりも分離区画(2)の最上部の近くに位置する生成物回収相の出口を含み、
生物触媒(通常は生物触媒を含む流体)をリサイクルするためのリサイクル設備(10)が、反応区画(11)への気体相用の入口(2)の下で分離区画(9)の一部から取られ、
前記装置が、気体相用の入口(2,6)を介して前記装置に導入される気体相用の出口を備えたヘッドスペースを有する、バイオリアクターシステムに関する。
【0032】
生成物回収相用の入口(5)は、ショートカットのリスクを回避するために、反応区画の中央部又は底部に配置されることが好ましい(生成物回収相が反応区画の大部分と接触することなく反応セクションから離れるため、抽出効率が実質的に低下する)。より好ましくは、入口(5)は、基質用の供給入口(1)よりも反応区画の底部の近くに配置される。これは、反応区画中の分布がより良い(よりよく混合される)ため、好ましい。更に、気体相用の入口(6)は、通常、基質用の供給入口(1)よりも反応区画の底部の近くに配置され、また生成物回収相用の入口(5)よりも反応区画の底部の近くに配置される。
【0033】
本発明は更に、有機物質の生物触媒的製造における本発明のバイオリアクターシステムの使用に関する。バイオリアクターシステムは、特に、本発明の方法に使用することができる。
【0034】
明確及び簡潔な説明のために、同じ又は別の実施態様の一部として、特徴を本明細書に記載する。しかし、本発明の範囲は、記載される特徴のすべて又はいくつかの組み合わせを有する実施態様を含み得ることが理解される。
【0035】
本明細書で用いられる用語「又は」は、特に明記しない限り、「及び/又は」として定義される。
本明細書で用いられる用語「a」又は「an」は、特に明記しない限り、「少なくとも1つ」として定義される。
名詞(例えば、化合物、添加剤等)が単数形で示される場合、複数形が含まれることが意味される。
【0036】
用語「(少なくとも)実質的な(に)」又は「本質的に」は、一般に、それが特定された一般的な特徴又は機能を有することを示すために本明細書で用いられる。定量化可能な機能を示す場合、この用語は、特に、その機能の最大値の少なくとも50%、特に75%を超え、更に特に90%を超えることを示すために用いられる。用語「本質的にない」は、一般に、物質が存在しない(有効出願日に利用可能な分析技術で達成可能な検出限界未満)、又は物質が実質的にない生成物の特性に大きな影響を与えないほど少量で存在することを示すために本明細書で用いられる。実際には、定量的には、物質の含有量が0~1重量%、特に0~0.5重量%、より特に0~0.1重量%の場合、生成物は通常、物質を本質的にないと見なされる。
【0037】
本出願の文脈において、用語「約」は、一般に、与えられた値から10%以下の誤差、特に5%以下の誤差、より特に2%以下の誤差を意味する。
本明細書中、用語「流体」は、液体、液体の混合物、及び外圧(重力以外の圧力)を加えずに流れる懸濁液、分散液等の少なくとも1つの他の相に用いられる。
本明細書で用いられる「有機物質」は、ISO 6060:1989に記載される化学的酸素要求量(COD)試験で決定できる化学的に酸化可能な如何なる有機物質を含む。
【0038】
当業者は、「上部」、「下部」、「中央」、「底部」、「底部近く」、「最上部」、「最上部近く」等の用語をよく知っている。一般に、これらは別のものとの関係で理解される。当業者は、共通の一般的知識、本明細書に記載された情報及び引用、並びに設備のユニット(例えば、バイオリアクター、別の容器、又はバイオリアクター若しくはセクションに含まれる物の量)の詳細に基づいて、その実施を行うことができる。
【0039】
経験則として、本出願の文脈から異なって理解されなければ、特定の参照点(例えば、「底部」又は「最上部」)の「近く」は、通常、参照点から「最大±20%の相対的な高さ」、特に参照点から「最大±15%の相対的な高さ」、より特に参照点から「最大±10%の相対的な高さ」を意味する。相対的な高さは、ユニットの全体の高さ(底部と最上部の高さの差)で割った底部からの距離である。
【0040】
経験則として、本出願の文脈から異なって理解されなければ、「上部」(最上部)部分は、一般に、ユニットの上部1/2、特にユニットの上部1/3を意味する。「下部」(底部)部分は、一般に、ユニットの下部1/2、特にユニットの下部1/3を意味する。中央の部分を指す場合、これは特にユニットの中央の1/3(底部から1/3から最上部から1/3)を意味する。
【0041】
用語「生物触媒的(に)」は、方法の少なくとも1つの反応工程が、生物学的材料又は生物学的供給源に由来する部分、例えば、生物又はそれに由来する生体分子で触媒される方法を記載するものとして、当技術分野で一般に知られている。生物触媒は、特に1つ以上の酵素を含むことができる。生物触媒は、任意の形態で用いることができる。1つの実施態様において、自然環境から単離された(酵素を生産する生物から単離された)1つ以上の酵素を、例えば、溶液、乳濁液、分散液、凍結乾燥細胞(の懸濁液)、溶菌液、又は支持体に固定化されたものとして用いる。1つの実施態様において、1つ以上の酵素は、生きている生物(例えば、生きている全細胞)の一部を形成する。生細胞、特に酵母細胞と細菌細胞で、特に良好な結果が達成された。生物触媒が生細胞を含む方法は、当技術分野で「発酵法」とも呼ばれる。嫌気性方法、好気性方法及び無酸素方法に、本発明を用いることができる。嫌気性方法の先行技術には様々な例があるが、酸素はATPを生成する非常に良い方法であるため、嫌気性方法は、反応エネルギーの入手可能性が低く、しばしば比較的低い製造速度を有するので、高い製造速度が望まれる場合、好気性条件下で実施できることが当技術分野でしばしば望まれる。好気性発酵は、酸素移動速度律速条件で実行される傾向があり、製造速度を更に容易に改善することができない。本発明は、嫌気性方法に対して通常よりも高い製造速度を維持できるという驚くべき利点を提供する。これは、数ある中で、好気性工業発酵方法で現在知られているボトルネックである酸素移動の制限が発生しないという事実のために可能であることが見出されている。また、嫌気性発酵では(好気性方法よりも)発生する熱が少ないため、更なる強化が可能であり、システムの冷却がシステムの設計上の制限を提出することがない。(バルクスケールの)好気性発酵システムでの酸素移動の制限は嫌気性システムに適用されないため、生成物回収相での抽出、特に発酵中の液体/液体抽出を用いることで、製造された有機物質(又は他の成分)の高すぎる濃度のためによる阻害/毒性に直面するリスクを回避することができる。従って、そのような阻害/毒性に直面するリスクがある嫌気性反応システムは、本発明の強化された方法から更に利益を得る。
【0042】
本発明の方法は、反応セクションが、基質及び生物触媒を含む水相、好ましくは水相に分散又は溶解された基質及び生物触媒を含む水相を備えるバッチステージで開始することができる。バッチステージで、基質の目的の有機物質への生物触媒的変換を開始させることができる。バッチステージの間に、気体(例えば、酸素含有気体)を加えることもできる。回収相を、バッチステージ中に導入することもでき、その後、加えることもできる。バッチステージから同時の製造及び分離ステージにいつ進むかを選択できる。例えば、基質の所定の部分が消費されるまで、又は本質的にすべての基質が消費されるまで、バッチステージを続けることができる。反応セクション中の製造された有機物質の目標濃度に達するまで、バッチステージを続けることができる。有機物質の製造に対する所定の生物触媒の活性に到達することに基づいて、同時の製造及び分離ステージに進むこと(例えば、触媒反応がもはや本質的に阻害されない時点で進むこと)もできる。有機物質の製造に対する生物触媒の活性は、通常、少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、有機物質の存在によって本質的に阻害されない。及び/又は、基質に由来する生物触媒の阻害汚染物質の濃度は、有機物質の製造に対する生物触媒の活性が、少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、汚染物質の存在によって本質的に阻害されない値に維持される。及び/又は、副生成物の濃度は、有機物質の製造が、少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、副産物によって本質的に阻害されない値に維持される。反応セクション中の有機物質(及び他の成分)の好ましい濃度は、物質(成分)の種類に依存する。通常、少なくとも目的の有機物質の濃度、より好ましくは他の成分の濃度は、それらが生物触媒に対して本質的に無毒である値に保たれ、又は濃度が、少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、方法が実施される装置の総製造能力における制限要因ではない値に少なくとも保たれる。有利には、同時の製造及び分離ステージの間の有機物質の濃度は、総製造速度の活性が、それ以外は同一の非阻害条件下の最大活性の50~100%、好ましくは80~100%、より好ましくは90~100%、又はより好ましくは95~100%であるものである。
【0043】
本発明の方法は、少なくとも有機物質の濃度に関して本質的に定常状態で、連続撹拌槽型リアクター(CSTR)の条件下で反応セクションを操作することが可能である。その場合、好ましくは、反応セクションの底部中の攪拌手段、より好ましくは底部のスターラーが用いられる。他の種類のリアクター、例えば、気泡ポンプ式リアクター又は気泡塔を用いることができる。CSTR又はCSTR様の(例えば、パルス供給)リアクター等のリアクターの原理を気泡ポンプと組み合わせることも可能である。既知の発酵方法では、一般に定常状態に到達しない。同時の製造及び分離ステージの間、反応セクション内の製造された物質の濃度を本質的に一定に保つことは有利である。これによって、高い製造速度が維持される。最適の濃度は、目的の有機物質、生物触媒、回収相等の要因に依存する。必要に応じて、反応セクション中に、有機物質の濃度を監視する設備が存在する。更に、濃度が設定値又は設定範囲の濃度から大きく逸脱した時、濃度に関連するパラメーターを変更するように適合されたコントローラ等の、濃度を調節する設備が存在してもよい。関連するパラメーターには、基質の供給速度、生成物回収相の添加速度、反応セクションからの反応混合物の取り出し速度、生物触媒の濃度及び温度が含まれる。
【0044】
装置のセクション内の有機物質の濃度を調節する装置に関係なく、本発明は、特に生物触媒に対して潜在的に阻害性/毒性である有機物質を製造する場合、及び/又は装置のセクション内に、生物触媒に対して毒性/阻害性である可能性がある、又は分離効率に影響を与える可能性がある1つ以上の他の成分が存在する場合、いくつかの固有の自己修正特性を有する。例えば、生成物の回収速度が製造速度よりも高くなると、反応セクションの水相の現行の生成物濃度が低くなり、より高い生産性(例えば、阻害条件が低くなるため)、高い全体としての生成物の回収が得られる。有機相の回収及び(連続的な)流動挙動の制御によって、溶媒混合の戦略及び条件の機会が可能になる。これによって、有機相の回収及び流動挙動の制御が可能になる。例えば、十分な抽出生成物を維持しながら、反応セクションでの低い溶媒濃度を積極的に達成し、維持することができ、しかし、発酵区画での溶媒の正味の蓄積はない。
【0045】
以下で更に詳細に議論されるように、生成物回収相の選択、反応セクションへの供給の平均流量、反応セクションからの反応混合物の取り出し速度、及び反応混合物を分離セクションに供給する速度、分離セクションから反応セクションへの水相のリサイクル、装置からの有機物質を含む生成物回収相の取り出し速度、装置からの水相(分散された生物触媒を含んでもよい)の取り出し、及び例えば、分離区画内の制御されたポイントのいずれかの最上部での化学物質(界面活性化学物質、抽出剤、共溶媒)の任意の添加のような手段を用いて、反応セクション内の有機物質の濃度を所望のレベルに維持することができる。
【0046】
同時の製造及び分離ステージの間、反応セクションへの供給、反応セクションからの反応混合物の取り出し、分離セクションへの供給、及び分離セクションからの有機物質を含む生成物回収相の取り出し速度を、連続的又は断続的に行う。定常状態の操作では、物質収支が維持される。すなわち、装置に供給される体積(例えば、基質と任意に栄養を含む水相の供給及び回収相の供給)は、装置から取り除かれる体積(例えば、分離セクションから取り出された有機物質を含む生成物回収相)と本質的に同じ速度に保たれる。連続的な供給は、一定の速度である必要はない。断続的に体積を供給すること(パルス供給)も可能であり、その場合、装置からのほぼ同じ体積の取り出しも、通常、断続的に行われる。断続的に供給/取り出しする場合、供給/取り出しの期間の間隔、供給/取り出しがない期間、及びそのような期間の存続期間は、共通の一般的知識、本明細書に開示された情報、及び任意に限られた量の試行錯誤に基づいて、広い範囲内で選択することができる。経験則として、断続的に取り出し/供給する際、通常、少なくとも1日に1回、これを行う。実際には、1日当たりの回数が増えると、供給/取り出しが本質的に連続的な状態に近づく。例えば、1日300回(約5分に1回)ほど頻繁に、又はそれ以上の頻度で、断続的な供給/取り出しを行うことができる。特に、断続的に供給又は取り出しを行う場合、有利には、1日に2~100回、より特に1日に4~48回、例えば、実用上の理由から、通常はほぼ等間隔で1日6~24回、これを行う。
【0047】
反応セクション中の有機物質の濃度を有利なレベルに維持するために、少なくとも同時の製造及び分離ステージの間、物質の製造速度、及び製造された物質の生成物回収相への移動速度又は生成物回収相への付着速度がほぼ同じである速度で、基質及び生成物回収相を反応セクション中に供給することが更に好ましい。製造速度、及び回収相中への移行/回収相上への付着の速度がほぼ同じでない場合、反応セクションの条件を、例えば、下記の通り、変更することができる。
・D[3,2]を減らすと、回収相中への移行/回収相上への付着が増加する。これは、乱流の程度を増やすこと(より多くの攪拌、例えばスターラーを用いる場合、回転速度を上げる)で達成することができる。同様に、D[3,2]を増やすと、回収相中への移行/回収相上への付着が減少する。
・反応セクションへの生成物回収相の供給速度を増加させることで、生成物回収相中への移行/生成物回収相上への付着を増加させることができる。同様に、減少させることで、逆の効果が生じる。
・基質の供給速度の増加、及び/又は生物触媒の濃度の増加を用いることで、製造速度を増加させ、それによって有機物質の濃度を増加させることができる。同様に、削減させることで、逆の効果が生じる。
・温度を変えることができる。効果は、生物触媒の種類、分配係数、生成物回収相、及び現行の温度に依存する。
【0048】
本発明の利点は、反応混合物中の水に対する生成物回収相の全体的な比率が比較的に高く、特に(例えば、有効溶媒量10%v/vで操作する)「通常の」抽出バッチ方法と比較して、同様の毎日の製造能力で30~50倍高くにまでなることができることである。生成物濃度の維持、又は生物触媒の実質的に非阻害レベルでの他の潜在的に阻害する成分の他に、この改善の理由は、従来のバッチ方法と比較して、生成物回収相の全体積が反応セクションに一度に存在しないという事実にある。従来のバッチ方法は、生成物回収相を1回加え、バッチ相の終点ですべて一緒に収穫する。
【0049】
通常、反応混合物中の水相に対する生成物回収相の重量対重量比率は、0.005~0.30、好ましくは0.01~0.20、特に0.02~0.1の範囲である。高い比率は、反応混合物中の比較的に低い有機物質の濃度でも、生成物回収相中への効果的な移動及び生成物回収相上への効果的な付着を可能にする。回収相、基質の添加速度及び供給速度を選択することによって、正味の水相希釈速度がシステムに適用され、これによって、生物触媒の高い保持での操作が可能になる。これによって、より高い生物触媒濃度、及びより高い全体的な体積生産性が得られる。
【0050】
生成物回収相では、通常、少なくとも実質的に水に不溶性である化合物又は化合物の混合物が用いられる。通常、水溶性は、少なくとも発酵培地と接触する温度、及び/又は周囲温度(25℃)で、85g/L未満、特に10g/L未満、好ましくは0~1g/Lである。更に、生成物回収相は、通常、回収される有機物質に基づいて選択される。すなわち、生成物回収相は、製造された物質が、生成物回収相が分散している水相よりも高い親和性を有する相である。従って、目的の有機物質が、相の親和性の差によって水相から取り除かれる。共通の一般的知識に基づいて、又は経験的に、目的の有機物質に適した相を選択できる。好ましくは、生成物回収相は、製造された物質が反応セクションに存在する条件の下での少なくとも3、好ましくは5~1000、より好ましくは7~250、特に10~100の分配係数(すなわち、水相における製造された物質の平衡濃度に対する生成物回収相における製造された物質の平衡濃度の比率)を有する相である。分配係数が高いほど、生成物回収相中への移動速度/生成物回収相上への付着速度が高い。他方、生成物回収相からの有機物質のその後の分離が望まれる場合、少なくともいくつかの有機物質について、分配係数が極端に高ければ、これはより複雑になり得る。
【0051】
生成物回収相を選択する際に考慮すべきもう1つの特性は、生成物回収相の密度である。重力又は遠心分離による分離が可能になるため、水相との密度の相違が望ましい。水相よりも密度の低い回収相で、特に良好な結果が達成された。
【0052】
反応セクション内で、生成物回収相は連続相中に分散される。しかし、生成物回収相は乳化されている必要はない。通常、乳化剤又は他の分散安定剤を添加せずに、液体生成物回収相の場合にも、本発明の方法は有利に実施される。本発明に従って、生成物回収相は、通常、乱流状態(十分に力強く攪拌すること)を維持することで分散されて保たれる。乳化剤(又は他の追加の分散安定剤)を加えずに実施する主な利点は、乳化剤の不存在によって、分離セクション中で水相からの生成物回収相の分離が容易になることである。また、乳化剤を用いない場合、後に取り除く必要がない。
【0053】
好ましくは、生成物の回収のために液体回収相が用いられる。液体回収相は、製造された有機物質の抽出に非常に有用である。通常、分離セクション内で、反応混合物の残りの部分(水相、通常、水相中に分散又は溶解された生物触媒を用いる場合は生物触媒も含む)から別の層を形成する液体相が用いられる。その分離技術は、重力沈降技術として分離技術の分野で一般に知られている。本発明に従って、反応混合物の残りから回収相を完全に取り除く必要はない。回収相で少なくとも富化され、有機物質を含む回収相の層が形成されれば、十分である。本発明の方法は、反応混合物から、回収相の80~100%、好ましくは回収相の90%以上、より好ましくは回収相の95%以上の回収を可能にする。回収相の層(生成物層)は、一般に、少なくとも実質的に水相を含まない。少なくとも同時のステージの間、分離セクションに、通常、回収相が反応混合物の残りより低い密度である場合、回収相の層の間の界面の下に、回収相が反応混合物の残りより高い密度である場合、その界面より上に、回収相を含む反応混合物を供給する。一般に、層間の界面からより離れると、反応混合物の残りの中の回収相の割合が少なくなる。少なくともいくつかの実施態様において、本質的に回収相がない区域が分離セクションに存在する。
【0054】
本発明の装置において、本発明の方法に用いる場合、反応混合物の残りの部分の最上部に層を形成させる。
生成物回収相に特に適した液体は、有機液体、特に、反応混合物の水相とは別の相を形成する疎水性有機液体である。好ましい液体は、アルカン、特に6つ以上の炭素(C6以上)、好ましくはC7~C25、例えばC7~C15を有するアルカンである。特に適した液体アルカンの特定の例は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、及びペンタコサンである。アルカンは、直鎖状、分岐鎖状又は環状であり得る。中でも、ドデカンで良好な結果が達成された。更に、液体疎水性アルコールが特に適している。好ましくは、アルコールは、C8以上のアルコール、より好ましくはC10~C20アルコールから選択される。アルコールは、直鎖状、分岐鎖状又は環状であり得る。特に適したアルコールの特定の例は、オクタノール、デカノール、ドデカノール、オレイルアルコールである。更に、液体トリグリセリド、好ましくは植物油が特に適している。特に好ましい例は、ひまし油、ひまわり油及び大豆油である。与えられた生成物回収相のための液体の様々な例は、水に溶けないか、水に溶けにくい。更に、それらは、通常、良好な生体適合性を示す。生体適合性は、生物触媒作用のために生細胞を使用する場合に着目される。
【0055】
加えて、又は代替的に、生成物回収相として気体相を用いることができる。これは、目的の有機物質が揮発物、例えば、揮発性のフレーバー又はフレグランス成分である場合、特に関心がある。気体をin situで製造すること(発酵気体、特に嫌気性/無酸素状態の場合だけでなく、好気性システムの場合でも)ができる、又は、気体を外部供給物、例えば、空気又は酸素(好気性条件の場合)、二酸化炭素、窒素又は別の不活性気体を介して反応セクションに導入することができる。
加えて、又は代替的に、生成物回収相として固相を用いることができる。その例は、有機物質のための既知の吸着剤、例えば、ゼオライト材料(ZSM-5)、アンバーライト樹脂、被覆樹脂/被覆ゼオライトである。
【0056】
生成物回収相として有用であることに加えて、気体はまた、気泡ポンプ効果を生み出すために反応セクションに有利に導入される。これは、反応混合物が反応セクションの最上部で、又はその近くで反応セクションを離れる実施態様において特に有用である。これは、通常、水相より低い密度を有する流体回収相を用いる場合である。次に、気泡ポンプによって、機械式ポンプを必要とせずに、反応セクションから分離セクションへの反応混合物の流れが可能になる。好気性方法の場合、気体(酸素/空気)を用いて、有機物質の製造を触媒する微生物に酸素を供給することもできる。従って、本発明の好ましい方法において、少なくとも同時のステージの間、反応セクションの下部に気体を供給し、気体が反応混合物の上向きの動きを発生させ又は寄与し、それによって、反応混合物が、反応セクション及び分離セクションの間に位置するライザーの中に流れ、両セクションの間、及びライザーから分離セクションへの輸送導管を提供する。
【0057】
混合物が反応セクションから分離セクションへと更に下流に流れると、流れの状態は乱流が少なくなり(Reが減少し)、少なくとも回収相が水相から分離される分離セクション(9)で、流れの状態が本質的に層流になる。一般に、同時のステージの間、少なくとも水相よりも低い密度を有する液体回収相を用いる場合、反応混合物がライザーから下降管に流れ、下降管内で流れの状態が一般に乱流から本質的に層流の状態に変化する。従って、分離セクション(9)での許容できない乱流の挙動のリスクを回避できる。更に、下降管内の減少された乱流及び本質的に層流状態への移行は、下降管内の気泡が上向きに移動し、下降管内の反応混合物から逃れるのを容易にする。従って、有利には、下降管内で、反応混合物中にまだ分散している気体が液体反応混合物から分離することができる。下降管から、反応混合物が更に分離セクションに下流に流れ、製造された有機物質を含む生成物回収相が反応混合物の残りから分離される。
【0058】
通常、分離セクション(すなわち、反応混合物の残り)に入る反応混合物と比較して、製造された有機物質を含む生成物回収相中で富化された層(すなわち、生成物層)、及び減少された含有量の生成物回収相を含む層に、反応混合物を落ち着かせることによって、これが達成される。好ましくは、生成物回収相中で富化された層は、少なくとも実質的に製造された有機物質を含む生成物回収相からなる。反応混合物の残りは、普通、生物触媒の少なくとも実質的な部分を含む水相である。好ましくは、本質的にすべての生物触媒は、反応混合物の残りの部分に残る。必要に応じて、生成物層及び反応混合物の残りの層への落ち着かせることは、温度等の方法条件を調整することによって、又は界面活性化学物質、抽出剤及び共溶媒の群から選択される1つ以上の添加剤を加えることによって容易にすることができる。好ましくは、これらを、分離区画中の最上部又はその近く、あるいは制御されたポイントに加える。最上部又はその近くでの添加は、例えば、生成物回収相の液滴のより効果的な合体をもたらし、又は適用される場合、エマルジョンを不安定化し、若しくはエマルジョン形成を抑制することが見出された。
【0059】
ライザー(下端に入口側及び上端に出口側を垂直方向に有する)が装置の上部の中央に(中央の垂直軸に沿って)配置され、下降管がライザーと分離セクションの少なくとも一部を少なくとも実質的に取り囲み、回収相の層が下降管を少なくとも実質的に取り囲む装置で、特に良好な結果が達成された。
【0060】
ライザー及び下降管を用い、生成物回収相が水相よりも低い密度を有する液体相である方法であって、
ライザーの下流(下降管内)で、製造された有機物質で豊化された生成物回収相を含む反応混合物が、生成され又は上向きの動きに寄与した気体から分離され、
前記気体から分離された前記反応混合物が、分離セクション中で、製造された物質で豊化された生成物回収相を含む上層と、水相(通常、生物触媒が分散された生物触媒である場合は生物触媒を含む)を含む下層とに分離され、
製造された物質で富化された生成物回収相が、前記上層から回収され、及び
水相(通常、生物触媒が分散された生物触媒である場合は生物触媒を含む)が、前記下層から反応セクションに戻される方法で、特に良好な結果が達成された。
【0061】
生成物回収相が水相よりも低い密度を有する場合、特に生成物回収相が液体相である場合、反応混合物は、通常、分離セクション中で、製造された物質で豊化された生成物回収相を含む上層と、水相(通常、生物触媒が分散された生物触媒である場合は生物触媒を含む)を含む下層とに分離され、製造された物質で富化された生成物回収相が、前記上層から回収される。
好ましくは、水相の少なくとも一部(存在する場合、水相に分散又は溶解された生物触媒を含む)を、前記下層から反応セクションに戻される。
【0062】
気体を分離セクションに供給することで、良好な結果が得られた。しかし、任意に、気体が、上層と下層の間の界面の下の位置で、分離セクション中の反応混合物に、供給され、例えば、散布される。この気体を用いて、分散された生成物回収相の合体を促進し、及び/又は生成物回収相の上向きの動きを促進する。この手段についてのより詳細な教示は、WO2015/130167に記載されている。ただし、本発明の方法では、一般に本質的に層流の条件が維持される条件下で散布が行われる。装置内の液体循環の推進力として、生成物の除去として、例えば、排ガス(システム内ですでに自然に発生するISPR)のために、及び発酵区画中の混合力として、気体を用いることができる。従って、気体の注入は、連続(又はバッチ又はフェドバッチ)の抽出発酵に最適化されたいくつかの機能を果たします。更に、気体の注入を用いて、異なる区画の密度差を生成する気体の停止(ホールドアップ)を作成することができる。
【0063】
好ましい実施態様において、分離セクションは反応セクションから単離された温度調節を含み、反応セクションは、好ましくは独自の温度調節を含む。これによって、反応セクション及び分離セクションが同じ装置に存在するにも関わらず、反応セクション及び分離セクションの操作が異なる温度で行われ、反応セクション及び分離セクションが同時に実施することが可能になる。特に、層形成による水相からの回収相の分離には、通常、比較的に低い温度が好ましい(層形成がより速く生じ、及び/又はより効果的な分離が起こり得る)。生物反応は、通常、比較的に高い温度(ほとんどの生きている生物/ほとんどの生きている生物に由来する酵素では少なくとも約40℃まで、好熱菌又は好熱菌に由来する生物触媒ではそれ以上)で、より速く進行する。それにも関わらず、特定の実施態様において、それの分離は、少なくとも最初に、発酵セクションよりも高い温度で分離セクションを操作することで改善され得る。これは、例えば、回収相の分散が、例えば安定化成分の存在によって比較的安定な相である場合に有用である。これらは、通常(意図的に)添加されないが、特に、第2世代のバイオベースの供給原料を含む基質等の比較的粗製の材料を用いる場合、基質に存在し得る。更に、安定化成分は、特に生細胞を生物触媒として用いる場合、発酵セクション中に副産物として生成され得る。分離セクションの温度を上昇させることは、少なくとも一時的に、分散液を不安定にする効果的な方法であり、それによって分散された液滴/粒子/気泡の合体が促進され、水相からの分離が容易になる。
【0064】
従って、単一の装置中で異なる温度で反応セクションと分離セクションを操作できることは、ISPR力とSCを適合させる他の手段である。有利な実施態様において、分離セクション、特に分離セクションの中央部分の温度と、反応セクション、特に反応セクションの中央部分における温度の間の温度差は、2~20℃である。特に好ましい実施態様において、前記温度差は4~15℃、より特に5~10℃である。温度差を同時のステージを通して本質的に維持することができ、又は大きな差と小さな差の間で温度差(又は差がない)を交互にすることができ、又は発酵セクションのより高い温度と分離セクションのより高い温度との間で交互にすることができる。同時の製造(特に発酵)及び分離ステージの期間の少なくともかなりの部分の間、分離セクションの温度が発酵セクションの温度よりも低い方法で、特に良好な結果が達成された。
【0065】
本発明の方法は、原則として、生細胞、単離された酵素、又は単離された酵素の組み合わせ、及び水相に分散された1つ以上の担体材料に固定化された単離された酵素又は単離された酵素の組み合わせを含む、あらゆる種類の生物触媒に適している。生細胞で特に良好な結果が得られた。より特に、本発明は、溶菌される必要なしに、有機物質を水相に分泌する生細胞の使用を可能にするという点で有利である。細胞は自然にこれを行うことができるか、又は分泌を改善するように遺伝子改変することができる。当業者(例えば、合成生物学者)は、細胞膜のトランスポーターに関する知識に基づいて、そのような変更を提供することができる。
【0066】
有機物質を回収するために溶菌されていない生細胞を利用する可能性は、有機物質の本質的に連続的な製造及び回収の下、本発明の方法を実施することを可能にする。細胞が溶菌される方法では、大量の他の成分が、普通、細胞内乳化/分散安定化物質等の連続相又は回収相にさえ導入される。それにも関わらず、本明細書に記載されるように、例えば、反応セクションの中の滞留時間、乱流の程度を調整するか、反応セクション又は分離セクションの中の温度を変更することによって、安定したエマルジョン/分散液の形成を回避するために提供される手段が存在する。
【0067】
生物触媒は、真核生物(例えば、哺乳動物細胞、植物細胞、藻類、真菌類)又は原核生物(細菌及び古細菌)であり、又はから生じることができる。通常、生物触媒は、微生物であり、又はから生じる。特に、生物触媒が生きている細胞又は溶解物である場合、微生物が好ましい。
【0068】
好ましくは、生物触媒は、細菌、古細菌及び真菌の群から選択され、好ましくはシュードモナス(Pseudomonas)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、クロストリジウム(Clostridium)属、エシェリキア(Escherichia)属、パラコッカス(Paracoccus)属、メタノコッカス(Methanococcus)属、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属、メタノカルドコッカス(Methanocardococcus)属、メタノサルチナ(Methanosarcina)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、ピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブラケスレア(Blakeslea)属、ファフィア(Phaffia)属(キサントフィロマイセス(Xanthophyllomyces)属)、ヤロウイア(Yarrowia)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ザイゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属、サッカロポリスポラ(Saccharopolyspora)属及びザイモモナス(Zymomonas)属の群から選択され、より好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、大腸菌(Escherichi Coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・メタノリカス(Bacillus methanolicus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、ロドバクター・カプスラータ(Rhodobacter capsulatus)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、パラコッカス・カロティニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)、パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、ブラケスレア・トリスポラ(Blakeslea trispora)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ファフィア・ロドシーマ(Phaffia rhodozyma)(キサントフィロマイセス・デンドロアス(Xanthophyllomyces dendrorhous))、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、サッカロポリスポラ・スピノサ(Saccharopolyspora spinosa)及びザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)の群から選択される。大腸菌、サッカロミセス・セレビシエ及びクロストリジウム属で、特に良い結果が達成された。更に、様々な有機物質に対する高い耐性のため、シュードモナス属、例えばシュードモナス・プチダは、特に有利である。
【0069】
微生物は、その微生物の野生型が製造する有機物質を製造させるために、用いることができる。しかし、これらの微生物は、自然には製造されない様々な有機物質、又は野生型では非常に低レベルでしか製造されない様々な有機物質の工業規模の生産にも特に適している。これらの生物の遺伝子改変は当技術分野でよく知られている。遺伝子組み換え微生物は、例えば、当技術分野で一般に知られている標準的な遺伝的及び分子生物学的技術に基づいて製造される。例えば、Sambrook, J., and Russell, D.W. "Molecular Cloning:A Laboratory Manual" 3d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY.(2001);及び F.M. Ausubel et al. eds., "Current protocols in molecular biology", John Wiley and Sons, Inc., New York(1987)、及びその後の補足資料に記載されている。更に、自然に存在する生物触媒の特性は、当業者に知られている生物学的技術、例えば分子進化又は合理的設計で改良することができる。野生型の生物触媒の変異体は、例えば、当業者に知られている突然変異誘発技術(ランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、定向進化、遺伝子組換え等)を用いて、生物触媒として作用することができる、又は生物触媒部分(酵素等)を製造することができる生物のコード化DNAを改変することによって作製することができる。特に、野生型酵素と少なくとも1つのアミノ酸が異なる酵素をコードするように、DNAを改変することができ、その結果、DNAが野生型酵素と比較して1つ以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む酵素をコードする。あるいは、変異体が2つ以上の親酵素の配列を組み合わせるように、又は適切な(宿主)細胞でこのように改変されたDNAの発現をもたらすことによって、DNAを改変することができる。後者は、例えば、WO2008/000632に記載された方法に基づいて、コドン最適化又はコドン対最適化等の当技術分野で知られる方法によって達成することができる。WO2003/010183は、ポリヌクレオチドの開始集団の突然変異誘発及び突然変異したポリヌクレオチドの組換えの組み合わせを使用する変異ポリヌクレオチドの調製のための特に適切な方法を開示する。
【0070】
適切な微生物の更なる例は、WO2008/113041(LS9)、WO2012/024186、WO2007/139924、US7659097B2、及びKalscheuer R, Stolting T and Steinbuchel A. 2006. Microdiesel:Escherichia coli engineered for fuel production. Microbiology 152:2529-2536、又はLi Q, Du W and Liu D. 2008. Perspectives of microbial oils for biodiesel production. Applied Microbiology and Biotechnology 80:749-756、又はSchirmer et al. 2010. Microbial biosynthesis of alkanes. Science 329:559-562、又はLadygina et al. 2006. Process Biochemistry 41:1001-1014で知られている。例えば、細胞を単細胞に分散するか、又は水相に分散するフロックを細胞が形成することができる。フロック化は、液体生成物回収相で開始できる。
他の適切な生物触媒、例えば酵素は、特定の目的の有機物質を得るための既知の反応に基づくこともできる。様々な有機物質について、適切な生物触媒システムへの例示的な参照が以下に提供される。
【0071】
本発明の方法又はバイオリアクターシステムは、原則として、生物触媒を用いて製造することができる任意の種類の有機物質に使用することができる。例えば、水への溶解性/水との混和性が中程度である有機物質、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(特に、n-プロパノール、イソプロパノール)、ブタノール(特に、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、ブタンジオール)、及び水への溶解性/水との混和性がほぼ同じである他の溶媒に使用することができる。
【0072】
本発明の方法又はバイオリアクターシステムは、水中の如何なる比率でも水と混和しない有機物質の製造/回収;反応セクションに存在する条件下、水への溶解度が中程度又は低い有機物質;又は、反応セクションに存在する条件下、生物触媒に有毒な(生物触媒を実質的に阻害する)有機物質に、特に有利である。経験則として、実際には、25℃での水への溶解度を用いて、有機物質の溶解度が中程度か低いかを判断できる。中程度の溶解度を有する有機物質は、普通、35重量百万分率(ppmw)~約100g/L、特に35ppmw~約50g/L、より特に35ppmw~約1g/Lの溶解度を有する。低い溶解度は、特に、35ppmw未満、好ましくは約0.5ppmw~35ppmw未満、より好ましくは約1ppmw~約30ppmw、特に約4ppmw~約25ppmwの溶解度である。本発明は、有効な毒性に基づいて約0.1~10g/Lの生成物力価を有する有機物質(例えば、モノテルペン)を製造するために更に特に有利である。この力価では、生成物に関連する総水分量が、この水をすべて処理する必要があるため、更に下流に追加のエネルギー/処理装置を必要とする。
【0073】
特定の有機物質の製造に適した生物触媒反応条件は、本明細書で引用される1つ以上の他の刊行物(前記他の刊行物中の引用を含む)及び/又は本明細書の残りの部分、例えば実施例と組み合わせて、共通の一般的知識に基づくことができる。
【0074】
本発明に従って製造/回収される好ましい有機物質は、以下のものを含む。
・脂肪族又は芳香族、飽和(例えばアルカン)又は非飽和(例えばテルペン)、直鎖状又は分岐鎖状であり得る炭化水素、特にC5~C25炭化水素、より特にC8~C20炭化水素、更により特にC10~C20炭化水素;より好ましくは、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、ヘミテルペン、トリテルペン、テトラテルペン及びポリテルペンからなる群から選択される炭化水素。適切な生物触媒及び生体反応条件は、例えば、WO2012/17712又はUS2015/0259705に基づくことができる。
・イソプレノイド(テルペノイド)、特にC5~C25イソプレノイド、より特にC8~C20イソプレノイド、更により特にC10~C20イソプレノイド。適切な生物触媒及び生体反応条件を記載している刊行物の例は、例えば、WO2012/17712又はUS2015/0259705に基づくことができる。
【0075】
・有機酸(カルボン酸)、通常、少なくとも3つの炭素原子(C3)を有する有機酸。好ましくは、カルボン酸はC5~C24カルボン酸、より好ましくは、C8~C22カルボン酸、特にC12~C20カルボン酸である。カルボン酸は、少なくとも1つのカルボン酸官能基を有するが、より多く、特に2つ又は3つを有し、又は二重結合を有するカルボキシレートのような1つ又は2つの異なる官能基と組み合わせることができる。カルボン酸の具体例は、乳酸、コハク酸、クエン酸、アジピン酸である。特に関心があるものは、有毒である(鎖伸長方法)C5~C10脂肪酸等の脂肪酸である。有機酸は環状又は非環状であることができる。適切な生物触媒又は反応条件は、例えば、WO2014/129898、WO2011/031146、又はWO2010/104390に基づくことができる。
【0076】
・アルコール。アルコールは、酵母、例えばサッカロマイセスによって自然に製造されるアルコール、例えばエタノールやフーゼルアルコール等であり得る。好ましくは、アルコールは、少なくとも4つの炭素原子(C4)、好ましくは4~26つ、特に5~16つ、より特に6~12つを有する。アルコールは、モノアルコール、ジオール又はポリオールであり得る。特に関心があるものは、ブタンジオールである。また、特に関心があるものは、フェノールである。また、特に関心があるものは、脂肪アルコール、すなわち、少なくとも4つの炭素を有する一級、分岐鎖状又は直鎖状アルコールである。そのうちのn-ブタノール、1-ドデカノール(ラウリルアルコール)、1-オクタデカノール(ステアリルアルコール)、cis-9-オクタデセン-1-オール(オレイルアルコール)及びZ11-ヘキサデセン-1-オール(害虫駆除の使用に適したフェロモン)が好ましい例である。適切な生物触媒又は反応条件は、例えば、WO2014/129898又はWO2016/207339に基づくことができる。
【0077】
・モノ又はポリフェノール化合物、特にアミノ酸のフェニルアラニンとチロシンから植物によって自然に合成される化合物、好ましくは、フラボノイド、イソフラボノイド、クマリン、オーロン、スチルベン、カテキン、リグノールからなる群から選択される化合物。その例は、レスベラトロール、バニリン、β-カロテン、カテコール、カルバクロール、セサモールである。適切な生物触媒又は反応条件は、例えば、化合物を自然に製造する植物に基づくことができる。
・カンナビノイド、例えば、テトラヒドロカンナビノール酸(THC-酸)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール(CBD)、カンナビジオール酸、カンナビノール、カンナビゲロール、カンナビクロメン、カンナビシクロール、カンナビバリン、テトラヒドロカンナビバリン、カンナビビバリン、カンナビクロメバリンの群から選択されるカンナビノイド。好ましいカンナビノイドはCBDである。更に、THC-酸とTHCは、特に関心があるものである。カンナビノイドは、医薬組成物の適切な成分、又は医薬化合物の前駆体であることができる。適切な発酵条件は、例えば、WO2019/046941又はWO2019/014490に基づくことができる。
【0078】
・ケトン。ケトンは、通常、少なくとも3つの炭素原子、好ましくは5~16つの炭素原子、特に6~12つの炭素原子を有する。特に関心があるものは、アセトンである。ケトンは、例えば、酵母、例えばサッカロマイセスによって自然に製造されるケトンであり得る。
・アルデヒド。アルデヒドは通常、少なくとも3つの炭素原子、好ましくは5~16つの炭素原子、特に6~12つの炭素原子を有する。アルデヒドは、例えば、酵母、例えばサッカロマイセスによって自然に製造されるアルデヒドであり得る。好ましいアルデヒドは、(Z)-11-ヘキサデセナールであり、これは、Z11-ヘキサデセン-1-オールと組み合わせた有利な実施態様において、フェロモンとして使用することができる。発酵生産は、例えば、WO2016/207339に基づくことができる。
【0079】
・環状カルボン酸エステル。環状カルボン酸エステルは、通常、少なくとも2つの炭素原子、特に4~12つの炭素原子を有する。好ましいものは、ラクトンであり、より好ましいものは、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン及びε-カプロラクトンの群から選択されるラクトンである。
・非環状エステル。通常、非環状エステルは、少なくとも3つの炭素原子、特に5~20つの炭素原子、より特に6~12つの炭素原子を有する。好ましいエステルは、芳香を含み、果物、ビール、又はワインから入手できるものを含む。エステルは、酵母、例えばサッカロマイセスを生物触媒として用いる反応セクションで自然に製造され得る。エステルはまた、フェロモン(又はフェロモン組成物)を提供するために、例えば、害虫駆除に使用するために、有用である。その好ましい例は、(Z)-11-ヘキサデセン-1-イルアセテートであり、これは(Z)-11-ヘキサデセナール及び/又はZ11-ヘキサデセン-1-オールと組み合わせて用いることができる。また、WO2016/207339に基づく方法を使用して製造することもできる。
【0080】
・染料/色素/顔料及びその前駆体。染料/色素/顔料又は前駆体は、任意の天然の染料/色素/顔料化合物又は化合物の組み合わせ、例えば、植物又は動物に由来するものであり得る。その化合物は、微生物中で発現されるものでも良い。染料は、例えば、塩基性染料、例えばサフラニン、塩基性フクシン、クリスタルバイオレット、メチレンブルー;酸性染料、例えばエオシン、酸性フクシン又はコンゴーレッド;食用色素、好ましくは天然食用色素、例えばカロテノイド、クロロフィリン、アントシアニン、ベタニン、アナトー、カーマイン、リコピン、又はゲニピンであってよい。特に関心があるものは、芳香族環状カルボン酸染料である。特定の実施態様において、染料/色素/顔料はアクチノロジン又はその誘導体である。染料/色素/顔料の発酵製造は、例えば、WO2018/138089、又はBystrykh Journal of bacteriology vol 178, No 8(Apr. 1996), p 2238-2244、又はKanchan Heer and Somesh Sharma(2017):Microbial Pigments As A Natural Color:A Review. In IJPSR vol. 8, issue 5. Pp. 1913-1922に基づくことができる。
【0081】
・フェロモン、好ましくは害虫駆除に使用するためのもの、例えば昆虫や他の害虫の誘引剤や忌避剤としてのもの。好ましいフェロモンは、(Z)-11-ヘキサデセン-1-イルアセテート、(Z)-11-ヘキサデセナール、Z11-ヘキサデセン-1-オール(上記を参照)の群から選択され、又はスピノシン、特にスピノシンA、D、J及びLからの群から選択される。スピノシンの発酵製造は、例えば、WO2016/207339又はWO2017/087846に基づくことができる。
・脂質、特にグリセリド、糖脂質、リン脂質。好ましい脂質は、トリグリセリド、特にC4~C24脂肪酸のトリグリセリドである。
・アミン。特に関心があるアミンはジアミン、例えば1,6-ジアミノヘキサンである。
【0082】
・アミノ酸。アミノ酸は、生細胞、特に微生物によって自然に製造され得るタンパク質を構成するアミノ酸であることができる。細胞は遺伝子組み換えされていてもよい。自然に又は遺伝子改変後に製造され得るタンパク質を構成しないアミノ酸を製造することも可能である。タンパク質を構成しないアミノ酸の例は、6-アミノカプロン酸であり、これは例えばカプロラクタム(ポリアミドの製造に使用するため)の製造に使用され得る。その生物触媒製造は、例えば、WO2011/031146、WO2010/104390又はEP2252577に記載されている。
・ペプチド。ペプチドは、生細胞、特に微生物によって自然に製造され得る。細胞は遺伝子組み換えされていてもよい。
【0083】
炭化水素及びイソプレノイドは、本発明の方法に特に関心があるものである。本発明の特に好ましい方法において、有機物質は、ファルネセン、フムレン、アビエタジエン、アモルファジエン、カレン、α-ファメセン、β-ファルネセン、ファルネソール、ゲラニル、ゲラニルゲラニオール、イソプレン、リナロール、リモネン、ミルセン、ネロリドール、オシメン、パッチーロール、β-ピネン、サビネン、γ-テルピネン、テルピンデン、及びバレンセンからなる群から選択される。
【0084】
適切な基質はまた、関心のある有機物質に応じて、共通の一般的知識に基づくことができる。一般に、生物触媒として生細胞を用いる場合、炭水化物が適している。従って、好ましい実施態様において、基質は炭水化物を含む。炭水化物は、好ましくは、サッカライド、例えば糖、デンプン、セルロース、リグノセルロース、又はデンプンセルロース若しくはリグノセルロースの加水分解物である。炭水化物の好ましい代替物として、又は付加的に、CO含有気体、特に合成ガス、例えば気体からの気体流からの合成ガス、気体からのクラッカーからの合成ガスを用いることができる。
【0085】
特に好ましい実施態様において、基質又はその一部は、バイオベースの供給原料、特に第2世代のバイオベースの供給原料、例えばアグロ/フォレストリー残留物、その加水分解物、又はその気体化形態(例えば、合成ガス)である。
生物触媒及び製造される目的の生成物に応じて、適切な基質の他の例は、グリセロール、低コストのバイオ燃料(メタノール、エタノール等)、及び合成ガスを含む。
【0086】
有機物質が生物触媒的に製造される反応セクションと、製造された有機物質を含む回収相が反応混合物の残りから分離される分離セクションの両方を含む単一の装置を用いて、本発明の方法を実施する。反応セクション(11)及び分離セクション(9)は、別の区画であり、通常は単一のハウジング内に存在する。しかし、ハウジングは2つ以上のパーツで構成され得る。従って、反応セクション(11)及び分離セクション(9)は、単一の装置又は単一の装置の一部を形成する。これは、反応区画とそれと分離された分離区画とを含む統合バイオリアクターとも呼ばれる。
【0087】
通常、分離セクションは反応セクションと別に制御することができる。例えば、液滴の合体を増加させるために、分離器を加熱することができる。又は、生物触媒が、酸素を必要とし、若しくは酸素から利益を得る生細胞を含む場合、細胞を生存させ続けるために、分離器を気体流で通気することができる。追加の生成物回収相を分離区画に加えて、有機相から製造された有機物質を更に抽出し、生成物の回収及び/又は相分離を改善することができる。
【0088】
通常、製造された有機物質を含む回収相が取り除かれた反応混合物の残りの少なくとも一部(水相、通常、水相中に分散又は溶解された生物触媒を用いる場合は生物触媒も含む)を反応セクションに再循環する。更に、望ましくない副生成物、基質からの成分又は生物触媒(例えば、生細胞)等の成分の過剰な蓄積を回避するために、装置内の水相の少なくとも一部を装置から取り出すこと(いわゆる「ブリーディング」)ができる。従って、通常、ブリード設備(4)が装置内に、つまり、水相を取り出すことができる出口が存在する。通常、その設備は、製造された有機物質を含む回収相が取り除かれた反応混合物の残りを取り出すことができる位置に存在する(参照、図1)。これは通常、ブリードの出口であり、リサイクル出口と組み合わされている。任意に、分離セクション(9)からの出口は、水相を取り出すのに適した位置(すなわち、回収相が水相よりも低い密度を有する場合は、水相と回収相が密度差によって分離し、別の相が形成されるシステムの中で水相と回収相の間の界面の下で、又は回収相がより高い密度を有する場合は、前記界面の上で)に存在する。原則として、分離セクションにブリード設備を設けることも可能であるが、これは、生成物の回収に関しては効率が悪い(反応セクション内の反応混合物中の製造された有機物質が存在するとすれば)と考えられる。高濃度の基質溶液、低いブリード率(又は全くない)及び/又は水相の少ない収穫(高い生成物回収速度)で、高い細胞保持率が達成され得る。
【0089】
任意に、装置は1つ以上の更なる装置に接続され、一緒になってより拡張されたバイオリアクターシステムを形成する。例えば、既に有機物質が製造されている前述のバイオリアクターに接続された反応セクション(11)への基質(及び生細胞が使用される場合は栄養)の入口(1)を有することが可能である。従って、特定の実施態様において、バイオリアクターシステムは、流体導管を介して前記装置の反応区画(11)の供給入口(1)に接続されている流体(基質及び任意に生物触媒及び/又は製造された有機物質を含む)の出口を有する、更なるバイオリアクター容器を含む。その方法が発酵法である場合、このバイオリアクターは特に有利である。特に無酸素的に有機物質を製造し、結局、無酸素性条件下で、細胞の成長/増殖が制限される場合、反応セクション(11)及び分離セクション(9)を含む前発酵槽等の装置に先行するバイオリアクターを用いて、装置の反応セクション(11)内の微生物の濃度を有利なレベルに維持することができる。その場合、バイオリアクターは、当技術分野で接種リアクターとも呼ばれる。反応セクション(11)及び分離セクション(9)を含む装置に先行するバイオリアクターはまた、有機物質の工業規模の製造に既に用いられているバイオリアクターであり得る。反応セクション(11)内の生物触媒に必要な基質及び/又は栄養は、原則として、前述のバイオリアクターを介してのみ供給することができるが、有利には、前述のバイオリアクターとは別に追加の供給物が提供される。更に、前述のバイオリアクターに生成物回収相の少なくとも一部、特に液体を導入することができる。これは、発酵法で特に有利である。これによって、細胞は回収相の存在に慣れ、生成物を抽出することができる。
【0090】
先行するリアクターにおける生成物回収相の滞留時間と分離セクションにおける生成物回収相の全体的な回収とのバランスを取ることによって、先行するリアクターの生産性が最適化されるように、2つのリアクター間の交換速度を有利に選択する。
分離セクションを既存のリアクターに接続することによって、先行するリアクターの生産性を向上させることができる。
【0091】
更に、装置を出る1つ以上の流れを更に処理することができる。特に、更なる装置を用いて、有機物質を有機生成物回収相から分離することができる。適切な装置、分離条件、及び更なる精製工程又は他の処理工程は、目的の特定の有機物質についての既知の技術に基づくことができる。有機物質を取り除いた有機生成物回収相はリサイクル可能である。
【0092】
本発明の方法での使用に特に適切な装置は、図1に概略的に示されるバイオリアクターシステムである。反応区画(11)は装置の下部に位置し、分離区画(9)は装置の上部に位置し、両方とも同じハウジング(12)内にある。ライザー(7)は、反応区画(11)の上部に隣接する導管を規定する。ライザーは、反応区画(11)からの流体が上向きに流れることを可能にするように適合される。ライザー(7)の出口側と分離区画(9)の入口側との間の導管を規定する下降管(8)は、(非気体状の)流体がライザー(7)を離れて分離区画(9)に下向きに流れることを可能にするように適合される。反応区画(11)は、攪拌器(13)、好ましくはスターラーを含むが、乱流を引き起こす他の既知の手段も用い得る。物質の製造に使用するための基質(栄養などの他の物質)の供給入口(1)が提供される。生成物回収相の入口(5)は、基質の入口(1)と同じ入口であり得るが、好ましくは別の入口であり、より好ましくは基質の供給入口(1)よりも反応区画の底部の近くに配置される。好ましくは気体相、好ましくはスパージャーのための入口(6)が存在する。この入口(6)は、通常、供給入口(1)よりも反応区画の底部の近くに配置される。分離セクションの下部、特に分離セクションの底部又はその近くに気体相の入口(6)を配置することは、そのようにして気泡が液体中でよりよく混合されるため有利である。更に、スターラー装置等の攪拌器が存在する場合、入口(6)は、通常、攪拌器の下に配置され、これは、気泡を分配するためにも有利である。更に、気泡は、攪拌器による入力のために小さくなる。これは、より小さな気泡がより高い酸素移動を提供するため、好気性条件下で操作するシステムで特に望ましい。
【0093】
分離区画(9)は、通常、下降管(8)の出口端よりも分離区画(2)の最上部の近くに配置される、生成物回収相(3)の出口を含む。一般に、生成物回収相(3)の出口は、軽い相が液面の最上部に上昇するため、分離区画の中央部分又は最上部に配置される。
【0094】
出口(3)は、目的の有機物質を生成物回収相(図示せず)から分離するための装置等の更なる処理装置と流体連通で接続させることができる。好ましくは、リサイクル設備(10)が、分離区画(9)の一部から取り出された流体を反応セクションにリサイクルするために存在する。この流体は、通常、(分散又は溶解された生物触媒が有機物質の製造に使用される場合)生物触媒が分散又は溶解された水相である。気体相の入口(2)が分離区画に存在する場合、好ましくは、リサイクル設備は、分離区画(9)への気体相の入口(2)の下で分離区画から流体を取り出すように適合される。装置は、通常、気体相の1つ以上の入口(2、6)を介して装置に導入された1つ以上の気体相の出口(15、16)を有する。気体の出口(15)は、通常、反応セクション中で製造され、又は反応セクションに導入された気体が取り出されることができるように適合されて存在する。その出口は、反応セクションの上のヘッドスペース、特にライザーの上のヘッドスペースから気体を取り出すために便利に配置される。気体の出口(16)は、通常、分離セクションに導入された気体(気体の入口(2)を介して)、又は分離セクションへの処理(もしあれば)の前に反応混合物から取り除かれていない気体が取り出されることができるように適合されて存在する。この出口は、分離セクションの上のヘッドスペースから気体を取り出すのに便利な位置にある。
【0095】
反応区画(11)が分離区画(9)の下に配置され、両方の区画が仕切り(14)の反対側にあり、リサイクル設備(10)が仕切り中に1つ以上の開口部を含むバイオリアクターシステムで、特に良好な結果が得られた。通常、区画(9)と(11)の両方が仕切り(14)を共有する。ここで、仕切りは、一方の床として、またもう一方の天井として機能する。通常、水相を反応区画にリサイクルできるように、1つ又は複数の開口部が仕切りの最低点に又はその近くに存在する。仕切り(14)は傾いてもよい。通常、仕切り(14)は、下降管(9)からの流体の流出方向に対して90°以上の角度にある。回収相が水相から分離される分離セクションへの流れの方向が仕切りに対して垂直以下(90°以下)である場合、これは、レイノルズ数(Re)、すなわち、流体力学の分野で一般的に知られるフローパターンを増加させる効果を有し得る。つまり、流れに、特に分離セクションに導入された流体の高い流速及び/又は低い粘度でより容易に乱流が導入され得る。角度を小さくすると、分離セクションにデッドエンドが形成され得る。角度の僅かな増加でも、層流の維持にプラスの効果をもたらす。通常、下降管からの流れに対する角度、及び/又は垂直軸に対する角度は、90~120°の範囲である。
【0096】
既存のバイオリアクターに、ライザー、下降管、分離区画を、例えばフランジを介してバイオリアクターに取り付けて(反応区画を形成して)組み込むことができる。この分離ユニットは、バイオリアクターとほぼ同じくらいの幅であることができる。しかし、より高い分離能力が必要な場合、分離ユニットをより広くすることができる。
再循環区画は、発酵区画に向かう収穫されていない液体の流れを可能にし、分離区画と反応区画の間の仕切り(14)の開口部の代わりに、又はそれに加えて、1つ以上の外部チューブ又は1つ以上の内部チューブとして実装することができる。
【0097】
有利な実施態様において、分離セクションは、気体相の入口(2)、好ましくは、通常、下降管(8)の出口端よりも分離セクション(2)の底部の近くに配置されるマイクロバブルスパージャーを含む。比較的低い流速で気泡を導入する。そこで、分離セクションに乱流状態が発生することはない。気泡で誘発される油回収のために、分離セクションの表面気体速度の最適値は、通常、反応セクションの最適値よりも大幅に低い。通常、気体が供給される場合、分離セクションの表面気体速度は、0.01~2cm/秒、好ましくは0.05~1.5cm/秒、より好ましくは、例えば0.1~1.0cm/秒の範囲である。発酵のためには、表面気体速度は、有利には、少なくとも約1桁高い。通常、反応セクションの表面気体速度は、少なくとも1.0cm/秒、好ましくは1.5~30cm/秒の範囲、より好ましくは2.0~15cm/秒の範囲である。反応(発酵)と分離に必要な気体流量に大きな違いがある結果、分離セクション内の流れの状態を乱し、それによって分離効率又は能力に悪影響を与え得る分離セクションの高すぎる気体流を回避するために、本発明のマルチ区画設計が、発酵及び分離を単一の装置に統合できるようにする必要がある。
【0098】
更に、気泡は、通常、4mm以下、特に0.5~4.0mm、より特に1.0mm~3.5mmのザウター平均粒径を有する。分離セクションへの気泡の導入は、回収相の液滴/粒子の合体に寄与し、及び/又は液滴/粒子の上向きの動きに寄与し、それによって、分離効率及び/又は分離速度にプラスの効果をもたらす。
【0099】
(気体の入口(6)を介して導入された外部気体、及び/又は内部で製造された気体からの)反応セクション及び(気体の入口(2)を介して導入された外部気体からの)分離セクションの少なくとも1つ、好ましくは両方の中の気体流の使用は、単純で安価な方法技術の提供の目的として、特に液体生成物回収相を用いる場合に、有益である。従って、反応セクション及び分離セクションの間の密度の差によって、反応区画及び分離区画の間の循環流が簡単な方法で誘導される。ライザーを備えた装置中、発酵/ライザー及び下降管の違いによって、気体のホールドアップの違いが有利に形成される。ライザーには大量の気体があるが、下降管には気体が無い(又はほとんど無い)。例えば、気泡ポンプリアクターでは、この密度の差によって、ライザー内で上向きの液体の流れと下向きの液体の流れが生じ、リアクター内に循環流が形成される。同じ原理を本発明の統合リアクター(装置)に使用して、反応区画と分離区画との間に循環流を作り出すことができ、製造された有機物質を含む回収相が反応混合物から回収される。流体反応混合物が反応区画から分離区画に流れるとき、気泡が除去されて、分離が起こり得る静止環境が得られる。反応セクションの上の流体表面(存在する場合、ライザーの流体表面及び下降管の流体表面)を介して気泡が逃げることを可能にすることによって、除去が行われる。好ましくは、反応区画の(最大)断面積と比較してより小さい断面積によって更に表面気体速度が増加するライザー、通常、漏斗構造又は円筒形構造を通って、反応区画内の気体流が反応セクションから導き出される。高い表面気体速度によって、高い気体のホールドアップが得られ、下降管及び分離区画内の混合物と比較して、ライザー内の液体/気体の混合物の全体的な密度が低くなる。2つの区画の間の密度の違いによって、特定の高さで分離区画と反応区画の間の静水圧に差が生じる。反応区画と分離区画を互いに分離する仕切り内のリサイクル設備において、リサイクル設備の分離セクション側とリサイクル設備の反応セクション側との間の静水圧の差は、分離区画から反応区画への流体の流れを誘導する。好ましい実施態様において、リサイクル設備は、分離セクションと反応セクションとの間の仕切りに1つ以上の開口部、特に複数の円形又は細長い穴、例えばスリットを含む。更に好ましい実施態様において、リサイクル設備は、流体を分離セクションから反応セクションにリサイクルするように適合された1つ以上のチューブ又はパイプを含む。循環流のサイズは、いくつかの制御可能な操作パラメーター(例えば、生成物回収相の画分、気体の流れ)及びリアクターの幾何学的形状によって設定することができ、それによって全体的な液体滞留時間の操作制御を可能にする。そのように、気体の注入によって、本質的に連続的な方法に最適化できるいくつかの機能が果たされる。
【0100】
生物触媒を分散させた水性流体を再循環させるための気体の注入の使用は、生物触媒の保持に用いられるポンプ又はブロッキング膜を介して追加の剪断応力に生物触媒が曝されない点でも有利である。これは、生物触媒として生細胞を用いる場合に特に有利である。しかし、例えば、担体上の固定化された酵素、又は溶解した細胞の生物触媒細胞材料を用いる場合にも、望ましくないせん断応力とブロッキングが問題であり得る。更に、機械式ポンプではなく、気体の注入を使用すると、システムが単純になる。リサイクルのために追加の可動部品は必要がないが、必要に応じて含めることができる。
【0101】
本発明のバイオリアクターシステムは、回収相が水相よりも低い密度を有する方法に特に適している。従って、回収相が水相の上に層を形成させることによって、分離を達成することができる。
【0102】
装置及びその部品の寸法は、所望の生産規模に応じて、広く選択することができる。当業者は、引用された参考文献及び共通の一般的知識を含む本明細書に記載された情報、並びに任意にいくつかの日常的な計算及び/又は試験作業に基づいて装置を設計することができる。特定のリアクターを設計する際の好ましい寸法に関するいくつかの特定の考慮事項は、以下の通りである。
ライザーの高さは、通常、用いられる表面気体速度に依存する。当業者はこれを計算することができる。
下降管の高さは、好ましくは少なくとも0.8mである。
下降管の直径は、好ましくは除去されなければならない気泡の特性長よりも少なくとも10倍大きい。
特定の実施態様において、分離セクションは張り出している(反応セクションよりも広い)。
【0103】
本発明の方法の操作中の好ましい特徴に関するいくつかの更なる考慮事項は、以下の通りである。
圧力差は、気体の注入による密度の差によって引き起こされる。当業者は、これを計算することができる。
再循環速度は、圧力の差から計算することができる。当業者は、用いるシステムにおける摩擦に関する知識を持ってこれを計算することができる。摩擦は当業者が決定できる。
気体の流れは、表面気体速度から決定できる。気体速度の範囲は、上記で記載された。
温度は、用いる微生物によって異なる。
液体生成物回収相の密度は、水相よりも低い。水相が水のみの場合、1000kg/m3未満である。
【0104】
本発明は更に、有機物質が製造された反応培地、特に水性反応培地から生物触媒的に製造された有機物質を抽出するために用いられてきた、液体生成物回収相から生物触媒的に製造された有機物質を単離する方法に関する。好ましい実施態様において、回収相は、本発明の反応混合物から生物触媒的に製造された有機物質を回収する方法で得られる回収相である。更に好ましい実施態様において、有機物質は、異なる方法、特に本明細書で引用された先行技術に記載された方法で製造される。この先行技術は、発酵方法及び発酵的に製造された有機物質の回収方法の記載に関して参照により組み込まれる。
【0105】
上述の通り、発酵混合物等の反応培地から、生物触媒的に、特に発酵的に製造された有機物質を回収するための様々な方法が提案された。炭化水素及び脂質等の疎水性有機物質の場合、脂質又は炭化水素の水性培地との低い水混和性に依存する方法を用いることができる。抽出技術も既知で可能である。例えば、US5628906は、第1の溶液、溶質(例えば、発酵的に製造された物質)及び一次溶媒を含む単一の相を形成するのに十分な量で、溶質を天然の溶媒(例えば、発酵ブロス)中に含み、溶液から抽出される第1の溶液に一次溶媒を添加することを含む抽出方法を記載する。その後、修飾剤を添加して、一次溶媒の天然の溶媒との混和性を減らし、2つの相の非混和性混合物を形成させ、一方の相は溶質及び一次溶媒に富む。その後、溶質を一次溶媒から分離する。この記載された回収方法は、本開示に基づいて同時の製造及び回収が実行可能ではないため、本発明の反応混合物から生物触媒的に製造された有機物質を回収する方法に実施するのに適していない。微生物に有毒でもあり得る修飾剤を追加する必要があるため、複雑になるという更なる欠点がある。回収速度が比較的低く、ISPRとSCの適合がないことは、更に明らかである。
【0106】
製造された有機物質の抽出は、反応培地と接触した時に別の相を形成する液体(液体生成物回収相)によって行うことができる。生成物回収相の物理化学的考慮事項を選択する際、特に反応培地中の生成物回収相の溶解性/混和性(低いほど良い)、及び生成物回収相に対する目的の製造された物質の親和性(分配係数>1で示されるように、水相への親和性よりも高くするべきである)が、重要な役割を果たす。更に、生成物回収相が接触することができる生物触媒に対する生成物回収相の起こり得る悪影響を考慮に入れるべきである。有毒な生成物回収相は、生物触媒を再利用する可能性を制限するため、一般的に回避するべきである。更に、反応が進行する間に生成物回収相を反応混合物に添加するシステム(いわゆる反応/抽出システム)において、生物触媒に対する回収相の阻害効果は、製造速度に有害である。当技術分野で従来から用いられる生成物回収相は、水の沸点よりも低い沸点を有する。このような生成物回収相を用いる理由は、100℃を超える沸点を有する十分な炭素長の脂肪油、ワックス、炭化水素、及びアルコールのような有機化合物等の高沸点の生成物回収相を用いる場合の下流処理の問題に帰す。特に不揮発性生成物と組み合わせると、これは、直接、蒸発/蒸留によって抽出相からの生成物の回収を実施できないことを意味する。
【0107】
本発明者らはやはり、比較的低い沸点、特に反応培地、普通、水性培地よりも低い沸点を有する生成物回収相を用いることの欠点は、好気性システム又は気泡ポンプリアクター等の場合に、気体、例えば空気又は酸素が供給される反応システムに導入された時、更に促進され得る生成物回収相の気化であることを認識した。
【0108】
欠点はまた、低沸点溶媒(低分子量又は分子構成に起因する揮発性)でもあり、これらの溶媒が水溶性である傾向があることでもある。
本発明者らは、上記の1つ以上の欠点に対処しながら、少なくとも回収相が反応培地と接触して反応培地から有機物質を抽出する温度で、高沸点の非水溶性/低い水溶性(好ましくは1g/L未満)の回収相を用いる方法を発見した。本明細書で用いられる高沸点とは、1バールで100℃以上の沸点を意味する。
【0109】
従って、本発明は更に、以下の工程を含む、生物触媒的に製造された有機物質を液体生成物回収相から単離する方法に関する。
・有機物質の製造を触媒する生物触媒の存在下で有機物質が製造される水性又は非水性反応培地から、少なくとも100℃の沸点を有する液体生成物回収相に、有機物質を抽出する第1の抽出;
・反応培地からの有機物質を含む液体生成物回収相の分離;
・生成物回収相から、生成物回収相とは異なる抽出液体(いわゆる逆抽出液体)に製造された有機物質を抽出する第2の抽出;
・生成物回収相からの前記抽出液体の分離;及び
・前記抽出液体からの有機物質の単離。
【0110】
揮発性生成物は、高沸点溶媒から簡単に取り除くことができる。高沸点を有する生成物は、後で他の戦略、例えば逆抽出が必要になる。
更に、有機相を取り除かない従来の抽出発酵を考慮すると、ブロス全体を処理しなければならず、(水よりも高い)高沸点を有する溶媒がある場合、それは多くのエネルギーを意味する。しかし、私たちの技術で、これを回避することができる。そのため、ほとんど又は全く水を含まない生成物含有相を回収することができ、高沸点を有する溶媒が魅力的になる。
【0111】
生成物回収相、製造された有機物質及び他の側面に関する一般的な考慮事項は、本明細書の残りの部分に記載されている通りである。ただし、生成物回収相は、有機物質が用いられるリアクター区画内の温度で液体であり、100℃以上、一般的に120~500℃の範囲の(1バール(大気圧)の)沸点を有する。通常、生物触媒的に製造された有機物質を液体回収相から単離する方法における液体回収相の(1バール(大気圧)の)沸点は、少なくとも130℃、好ましくは少なくとも150℃、特に少なくとも250℃である。特定の実施態様において、約300℃以上である。液体回収相の(1バール(大気圧)の)沸点は、好ましくは液体回収相の沸点の約400℃以下、特に約380℃以下である。特定の実施態様において、液体回収相の(1バール(大気圧)の)沸点は、300℃以下、例えば250℃以下、特に150~250℃である。とりわけ、オレイルアルコール、ドデカン、ひまし油及び大豆油からなる群から選択される液体生成物回収相で、良好な結果が達成された。
【0112】
通常、液体生成物回収相は、少なくとも実質的に1つ以上の有機化合物からなる。通常、逆抽出液体は、少なくとも実質的に1つ以上の有機化合物からなる。更に、生成物回収相は、通常、生成物回収相と逆抽出液体が別の相を形成する操作ウィンドウ(温度「T」、圧力「p」、及び生成物回収相と逆抽出液体の総量の割合「x」)を有する逆抽出液体、好ましくは生成物回収相と逆抽出液体が単一の液体相を形成する操作ウィンドウ(T、p、x)を有する逆抽出液体と組み合わせて選択される。その好ましい例は、ウンデカノール(生成物回収相)とエタノール(逆抽出液体)の組み合わせである。当業者は、本明細書に開示される情報、及び当技術分野で一般に知られる相状態図に基づいて、他の組み合わせを選択することができる。逆抽出液体は、通常、水よりも低い沸点(1バールで100℃未満)を有する。
【0113】
代替的に、又は追加的に、溶融/凝固挙動に関して操作ウィンドウを有する組み合わせ、すなわち、混合物中で異なる融点を有する組み合わせを選択することができる。
相分離が起こる操作ウィンドウの存在によって、高沸点の生成物回収相から(低沸点の)逆抽出液体への生成物の逆抽出が可能になる。液体/液体分離(例えば、遠心分離による)の後、生成物が富化された逆抽出液体が得られる。次に、生物触媒的に製造された生成物を、既知の技術に基づいて、逆抽出液体から単離することができる。例えば、蒸気としての逆抽出液体を用いて、それが目的の生物触媒的に製造された生成物よりも低い沸点を有する場合、蒸気相形成によって単離することができる。
【0114】
この抽出/逆抽出アプローチの追加の利点は、逆抽出液体に対する汚染種の親和性を選択して、濃縮されないようにできることである。次に、より高い生成物の純度をも得ることができる。
【0115】
本発明の抽出/逆抽出プロセスはまた、(例えば、水溶性及び関連する溶媒損失のため、高い蒸気圧のため、又は発酵に対する毒性のため)発酵システムに容易に適用することができない抽出液体の使用を可能にする。しかし、少なくとも本発明の方法で回収された場合、発酵から回収される生成物を含む高沸点の生成物回収相は、水溶液をほとんど含まない有機相に生成物を濃縮した。従って、水の蒸発の必要性の影響を受けずに、逆抽出のための低沸点の有機溶媒で処理することができる。
【0116】
特に、エントロピー効果を非常に強くできるため、共融(eutectic)特性を持つことが知られる化学物質に温度効果を用いることができる。共融の化学物質の場合、混合物(例えば、溶媒と逆抽出溶媒の液体/固体相分離を可能にするドデカノールとウンデカノールの混合物)の融点は、個々の成分の融点よりも低い。
【0117】
生物触媒的に製造された物質を単離する方法の特定の実施態様は、特に、以下の1つ又は複数を含む。
・混合相を形成する温度及び比率で、生成物回収相及び抽出液体を互いに接触させ、その後、相分離を誘発するように温度を変化させ、それによって、生物触媒的に製造された有機物質が富化された抽出液体相が得られる。
・抽出液体は、生成物回収相より低い沸点を有し、抽出液体から有機物質を蒸留で単離する。
・沈殿で、特に結晶化で、例えば、抽出液体が液体であるまま、有機物質が固化する温度に温度を下げることで、有機物質を単離する。
・生成物回収相が、100℃以上の沸点を有する脂肪酸、ワックス、第一級アルコールからなる群から選択され、及び/又は抽出液体が、アルコール(モノ、ジ、又はポリオール)、エーテル、エステルからなる群から選択され、これらの生成物回収相又は抽出液体は芳香族又は脂肪族であり得る。
・第1の抽出は、本発明の有機物質を回収する方法の使用を含む。
・生物触媒及び/又は有機物質が、請求項1~17のいずれかに規定されているか、又は本明細書の他の箇所に記載されている通りである。
【0118】
中でも、第1の抽出でデカノール、オレイルアルコール、大豆油及びひまし油から選択される生成物回収相で、第2の抽出のための逆抽出液体としてエタノール、酢酸ブチル、又はエタノールと少なくともほぼ同じ揮発性を有する溶媒等の揮発性溶媒を用いることで、良好な結果が得られる。生物触媒的に製造された有機物質を単離する方法の好ましい実施態様において、生物触媒が好ましくは分散又は溶解される連続水相を含む反応混合物中、生物触媒を用いて有機物質が製造され、前記水相が前記生物触媒のための基質を含み、更に、前記液体生成物回収相の液滴が前記連続水相に分散され、前記液滴中に製造された物質が移動し;及び、前記水相及び前記生物触媒から前記製造された物質を含む前記生成物回収相を分離し、前記有機物質の製造及び前記生成物回収相の分離が、前記物質が製造される前記反応混合物を含む反応セクションと、前記製造された物質を含む生成物回収相が水相から分離される分離セクションとを含む装置の中で実施される。好ましくは、本方法は、本発明の反応混合物から生物触媒的に製造された有機物質を回収する方法のために、上記のような同時の製造及び分離ステージを含む。すなわち、好ましい実施態様において、本発明の方法で回収された生物触媒的に製造された有機物質を含む液体生成物回収相は、好ましくは、本発明の液体生成物回収相から生物触媒的に製造された有機物質を単離する方法に供される。
【実施例
【0119】
本発明を以下の実施例によって説明する。
実施例1:ABE(アセトン-ブタノール-エタノール)の無酸素性での製造
ABE(アセトン-ブタノール-エタノール)は、生成物回収相(溶媒)として工業用オレイルアルコールを用いて、クロストリジウム ベエイジェリンキー(Clostridia beijerinckii:NCIMB 8052)によって触媒的に製造された。微生物株は、Food and Biobased Research,Wageningen University and Research Centreから快く提供された。この株はNCIMBコレクションから入手した。
【0120】
実験のために、以下の培地を調製した。
【表1】
【0121】
CM2培地は以下の組成を有する。
【表2】
【0122】
グルコース溶液及び酵母エキス溶液(YE Duchefa Biochemie prod. Y1333.0500)を除いて、培地を121℃で20分間、オートクレーブ処理した。これらの溶液を、それぞれ110℃で20分間と121℃で20分間、別々にオートクレーブ処理し、その後、滅菌して添加した。CM2培地のpHを6.3に調節した。鉄溶液は、0.1M HClに溶解した1000濃縮溶液として個別に調製し、次に1mLの鉄ストック溶液をCM2培地の残りに添加した。培地の調製のために、Diallo, M., Simons, A. D., van der Wal, H., Collas, F., Houweling-Tan, B., Kengen, S. W., & Lopez-Contreras, A. M. (2019). L-Rhamnose metabolism in Clostridium beijerinckii strain DSM 6423. Appl. Environ. Microbiol., 85(5), e02656-18.を参照することもできる。
【0123】
供給培地は330g/Lのグルコースと1g/Lの酢酸アンンモニウムからなり、110℃で20分間、オートクレーブ処理され、酸素を除去するためにN2が散布された。生成物回収相であるオレイルアルコール(Chempri,Raamsdonkveer)は滅菌されていない。溶媒を75mg/kg溶媒の濃度でオイルレッドOで着色した。
前培養1のための6つの無酸素性ジャーはそれぞれ上部にブチルゴム及びアルミニウムキャップを有した。ジャーに5mLの脱イオン水を入れ、10分間、N2ガスでフラッシュした。その後、ジャーを50mLのCM2培地で充填した。接種の直前に、ジャーを再び10分間、N2でフラッシュした。
【0124】
1mLの凍結培養ストックの6つのバイアルを、水浴で100℃で75秒間、熱ショックを与え、すぐに水道水が流れている蛇口の下で1分間冷却した。次に、熱ショックを受けた細胞を、50mLのCM2培地を入れた無菌無酸素性ジャーに移した。0.2μmの無菌フィルターを備えたバイクバルブを無酸素性ジャーのゴム製キャップの中に配置し、培養中に形成された気体を放出した。前培養1を37℃、0rpmで24時間、培養した。
前培養1の培養後、180mLの前培養1を3.5Lバイオリアクター内の3.32LのCM2培地に添加した。無酸素性バイオリアクターを加熱して37℃の温度を維持し、N2ガスでフラッシュし、撹拌とpH制御をせずに24時間培養した。
【0125】
統合されたバイオリアクターを次のようにして調製した。pHプローブを分極させ、オフラインで校正した(pH4.0及び7.0の緩衝液による2点校正)。空での滅菌を125℃で30分間、行った。バッチ培地(酵母エキス及びグルコースを含まない)を調製し、リアクターの中にポンプで送った。続いて、リアクターの完全な滅菌を121℃で20分間、行った。リアクターを完全に滅菌及び冷却した後でのみ、バッチ無菌溶液(酵母エキス及びグルコース)をリアクターにポンプで送った。窒素ガスを少なくとも30分間、リアクターに流し、培地を無酸素性にした。発酵コントローラーを、コントロールユニットeZ-controlにセットした。接種から24時間後にpHが5.2を下回った場合、pHを塩基で制御した。バッチ相の後、攪拌速度を0rpmから300rpmに上げた。
攪拌速度は、発酵リアクター内の乱流条件、及び約10~約100μmの範囲の値のD[3,2]を維持するのに適した。
【0126】
【表3】
接種から17時間後、グルコース濃度が0g/Lに近くなった時にバッチ相を終えた。グルコースの連続供給を0.25kg/hで開始した。
【0127】
供給速度は、連続相の間に以下のように調節された。
【表4】
【0128】
バッチ後のグルコース降下がほぼ0g/Lであったため、供給速度を調節した。グルコース濃度を20g/Lを超えて増加させた。次に、供給速度を段階的に減少させて、20g/Lの最小グルコース濃度を維持した。
更に、連続した溶媒添加を、バッチ相の終点の後、接種から24時間後まで0.6kg/hに設定し、発酵の終点まで1.3kg/hに設定した。接種から22時間後に収穫を開始した。発酵の開始以降、再循環ループを最大に開いた。分離区画内の流れ条件を非乱流(層流)に保たった。
【0129】
結果と方法の詳細を図20~27に示す。
図20は、発酵の間のpHの進展を示す。
図21は、バッチ相と連続相の光学密度(OD)値を示す。
図22は、バッチ相と連続相の間の測定された再循環流量を示す。
図23は、分離区画のN2ガス流量と液体レベルの測定を示す。
図24は、バッチが終了した後の連続相の間の平均供給速度(黒い線)を示す。
図25は、連続相の間の溶媒(回収相)の添加を示す。
図26は、収穫(回収相)の有機割合を示す。
図27は、水相中のブタノール濃度(caqu)と有機相のブタノール濃度(corg)を示す。バッチ相の間、ブタノール濃度が約6g/Lに増加した。生成物回収相の添加の開始と共に、多くのブタノールが生成物回収相に抽出された。バッチ相の後、微生物の生産性が減少した。その理由は、連続相の間にブタノール濃度が減少するためである。
【0130】
実施例2:好気的に製造された炭化水素の回収
図1に概略的に示された100Lの容量を有する統合バイオリアクターシステム(装置)の中で、生成物回収相としてひまし油を用いて、遺伝子組み換え大腸菌によって、発酵的に炭化水素(セスキテルのペンフムレン)を製造した。その大腸菌、及びその発酵製造におけるその使用は、当技術分野で一般的に知られている。参照,Semra Alemdar et al eng. Life Sci 2017, 17, 900-907 (https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/elsc.201700043)。
LB培地(Luria Bertani培地)をオートクレーブ処理し、グルコースを最終濃度10g/Lで滅菌的に添加した。バッフルを備えた平底フラスコの中で500mLのLB培地中、細胞発生の凍結培養ストックからの1.2mLの細胞を前培養物に接種した。5つのフラスコを準備し、前培養を30℃、250rpmで8時間、培養した。
【0131】
LB培地を100Lの統合バイオリアクターシステム中に充填する前に、pH及びDO(溶存酸素)プローブを較正した。その後、リアクターシステムの空での滅菌を125℃で30分間、行った。LB培地をリアクターシステムの発酵区画中に充填した。続いて、LB培地の滅菌のためにリアクターの完全な滅菌を行った(121℃で20分間)。リアクターを完全に滅菌及び冷却した後でのみ、バッチ滅菌溶液をリアクターにポンプで送った。発酵コントローラー:圧力、攪拌、空気流量、温度、泡及びpHは、eZ-controlユニット(リアクターのコントロールシステム)中、示された発酵設定値(表4)で開始されるべきである。その後、DO校正(2点校正)を実行できる。
バイオリアクターシステムの発酵区画に、主に炭素制限条件の基質を含む水性発酵ブロスと大腸菌が供給された。この供給は標準的な手順に基づいた。ただし、追加的に生成物回収相(30~40g/kgのひまし油)を水性培地に分散した。
【0132】
【表5】
【0133】
バッチ相の間、初期量のグリセロールが消費されるまで、細胞が急激に成長した。酸素飽和度は約1時間後に100%から低下し始めた。バッチの終点の直前、DOはすぐに0%近くに減少し、相の終点で100%に急激に増加した。バッチ相の終点で、二次代謝産物の消費によってpHが上昇した。そこで、酸のポンピングが必要であった。泡は、規定されたサイクルに従って、泡センサーによって制御された。
【0134】
バッチのすべての基質が消費された際、フェドバッチ相が開始した。急激な供給相で酸素飽和度が100%まで増加した(参照,図9,発酵を通しての累積された供給添加の詳細について)。この相の間、分離区画も徐々に発酵ブロスで充填された。この相の間、細胞が急激な速度で、しかし炭素制限条件下で成長した。更なる酸素制限を回避し、リアクター内の所望のバイオマス濃度の設定値に一致させるため、次の供給相は一定の速度であった。急激な供給相の間、供給速度が目的の設定値(初期200g/h)に達した時、ソフトウェアが自動的に一定の供給相の状態に移行し、現行の供給の設定値(450g/h)を維持した。発酵の最初から、発酵区画と分離区画の両方は発酵ブロスでいっぱいであった。従って、発酵の開始以降、バイオマスの再循環、十分な栄養供給を確保し、酸素制限を防ぐために、再循環ループは(最大に)開いた。レベル制御ループは、分離区画中のブロスの高さに基づいて制御され、急激な供給の後、開始された。高さの設定値は、700~800mmの範囲で予想された現行の測定された値として規定された。その値から、ブリード速度(再循環ループから引き出されたブロス)は供給速度と一致する必要があり、そこでリアクター内のレベルが維持された。
【0135】
リアクターの発酵区画への生成物回収相であるひまし油の連続添加が、接種から37時間後に開始された。
フムレンを含む生成物回収相が分離区画の最上層として形成された。分離区画への気体注入を用いずに、分離区画から断続的にこの生成物回収相を取り除いた。分離区画内部で、流れの状態は層流であった。底部層(大腸菌を含む水相)を部分的にリサイクルし、部分的にブリードした。
【0136】
図2~10は、実験の流量及び結果に関する情報を示す。
図2は、発酵の間の溶存酸素(DO)プロファイルを示す。灰色の縦の線は、方法のパラメータにおける続いて起こる変更の開始を示す。左から右へ(凡例の上から2番目から下まで):
急激な供給の開始:急激な供給相の開始
定常供給の開始:定常供給相の開始
油の連続添加の開始:ひまし油の連続供給の開始
減少供給割合
【0137】
図3は、有機相及び水相の生成物の濃度を示す。生成物の濃度は有機相中、最も高い。そこで、水相から有機相への移動は成功し、水相と比較して有機相が生成物で富化された。
水相中のフムレン濃度は発酵の間、僅かに増加し、有機相中の濃度は一定のままであった。発酵の間、非阻害レベルでのフムレンの濃度を保つに十分な準定常状態が達成された。
【0138】
図4は、反応セクションに加えられ、分離セクションから回収(収穫)された生成物回収相(生成物のための溶媒)の量を示す。分配係数は、両方の相における濃度に依存する。分配は、必ずしも濃度と共に直線状に上昇はしない。それは、有機の濃度が一定に保たれながら、水性生成物の濃度が僅かに増加することができるからである。溶媒の添加が連続しているが、分離セクションからの有機相の回収は断続的に起こった。
図5は、発酵の間の攪拌速度を示す。攪拌速度は、発酵リアクター内の乱流条件、及び約10~約100μmの範囲の値のD[3,2]を維持するのに適した。
【0139】
図6は、発酵区画内の反応培地中の、及び分離セクションからのひまし油と生成物によって形成された有機相(クリーム、分離区画の最上層)中の発酵の間の細胞乾燥重量(CDW)を示す。細胞バイオマスは、主に反応セクション及びブリード中にあった。バイオマスは、分離セクションのクリームの中に、検出されなかったか、又は非常に低い濃度で検出された。そこで、収穫された有機相には細胞がないと考えられ、これは更なるDSPに有益であった。更に、細胞は収穫によって失われず、反応セクション(発酵区画)にリサイクルされた。
【0140】
図7は、異なる区画中の有機相割合を示す。反応区画中の有機相の割合は1~4%の望ましいレベルであった。
図8は、分離セクションからのクリームの回収速度として表された回収速度を示す。
図9は、連続相の間に添加された基質の水溶液の総量を示す。
図10は、発酵の間の空気流量の設定値及び再循環流量を示す。
【0141】
実施例3:生成物回収粒子サイズの決定
発酵区画の中で乱流条件下で、生成物回収相としてドデカンを用いて、遺伝子組み換え大腸菌によって、サンタレンを製造した。
発酵区画はCSTR(容量7L)であった。発酵の前に、pH及びDOプローブを校正した。開始時に、無菌バッチ培地を無菌発酵区画中にポンプで送った。バッチ培地の組成は実施例2と同様であった。バッチ培地の容量は3Lであった。グリセロールが炭素源(基質)であった。リアクターの接種から24時間後、生成物回収相であるドデカンを添加し、その後、断続的に取り出した(参照,図12,経時的なドデカンのバランスについて)。DO値がほぼ0%に低下した後、>15%に達した時、グリセロール供給を開始した。
【0142】
液滴サイズ:
この方法は、一般に、本発明の方法において、特に液体回収相について、D[3,2]を決定するために適用可能である。
発酵の間、コンピューターシステムに接続された発酵容器中に配置することができるプローブからなるSOPATプローブ(SOPAT Gmbh; https://SOPAT.de)で生成物回収液滴の画像を記録した。写真に十分な照明を提供するために、バックライトが適用された。画像解析ソフトウェアは、高い油分の画分と発酵ブロス中の細胞の存在を処理することができた。
【0143】
発酵運転の終点で、システムに過圧をかけずに無菌ではない方法でSOPATによる液滴測定を行った。ヘッドプレートを介してプッシュバルブの開いた位置にSOPATプローブを配置した。SOPATのミラーとレンズの両方を、レインエックス レイン忌避剤の薄層で覆った。
レンズを洗浄するために、プローブをリアクターから取り外して、再び元に戻さなければならなかった。プローブの洗浄を70%エタノールワイプで行い、その後、ミリQ水ですいだ。
【0144】
in situの画像取得のために、3時間のオンライン測定が行われた。3分ごとに、5分ごとに30枚の写真が取得され、5分の時点で開始し、175分の時点で終了した。実験の後、付属する粒子検出ソフトウェアを用いて、SOPAT Gmbhが提供する写真の中の液滴のサイズを測定した。参照,Maass, S., Rojahn, J., Hansch, R., Kraume, M., (Computers & Chemical Engineering. 45. 27-37. 10.1016/j.compchemeng.2012.05.014)。「MATLAB(登録商標)」ベースの画像認識アルゴリズムが実装され、多相システム中の粒子を自動的に数え上げ及び測定した。
得られた画像シリーズを事前にフィルター処理して、紛らわしい情報を最小限に抑える。その後の粒子認識は、以下の3つの工程:事前にフィルター処理された画像を調査パターンと相関させることによるパターン認識、もっともらしい液滴の事前選択、及び対応する輪郭を個別に検査することによるこれらのもっともらしい液滴の分類で、構成される。
【0145】
発酵の間、混合物中に気泡が存在し、画像分析を妨害する。200μmの最大粒子サイズを設定し、気泡を手動で取り除いて検証することで、これらの偽陽性を排除した。検出された液滴を、サイズ分布及びザウター平均粒径の値に変換した。写真の数は、統計的に必要とされるデータポイントごとに1000を超える液滴を有するのに十分ではなかった。
ザウター平均粒径D[3,2](別名d32)を、
で計算する。
液滴サイズの測定結果を下表に示す。
【0146】
【表6】
【0147】
液滴サイズと回収速度の関係:
液滴サイズは、液滴が分離セクション中で如何に速く上昇するかを決定し、そこで回収速度も決定する。液滴の上昇速度VCは、ストークスの法則
(式中、液滴の直径がdd、粘度がm、密度がρである)
で計算することができる(参照,図11)。
【0148】
【表7】
【0149】
実施例4:発酵区画及び分離区画を備えた装置の上流に追加の発酵槽を含むバイオリアクターシステムにおけるフムレンの製造及び回収
微生物、生成物及び溶媒は、実施例2:遺伝子改変された大腸菌、フムレン、ひまし油と同様であった。
実験の設定は以下の通りであった。本発明による装置(下降管に囲まれ、中央に配置されたライザー及び内部リサイクル(グラフには示されていない)を介して接続された底部発酵区画及び最上部分離区画を有する)が、図13に概略的に示すように、大きな1m3発酵槽(10R10と呼ばれる)に接続し、大きな発酵槽と統合リアクターシステムの反応セクションとの間で液体を交換できる。実験は、バッチステージと連続ステージの2つのステージに分けられた。
1m3のリアクター中のバッチ相で発酵が始まった。運転条件を下表に示す。
【0150】
【表8】
【0151】
バッチ相の間、初期量のグリセロールが消費されるまで、細胞が急激に成長した。酸素飽和度は約1時間後に100%から低下し始めた。バッチの終点の直前、DOはすぐに0%近くに減少し、相の終点で100%に急激に増加した。接種から約12~15時間後、これが起こった。すべての基質が消費された時、連続相が開始し、酸素飽和度が100%まで増加した。供給添加が活性化され、開始時の一定供給速度は0.93kg/hであった。カスケードDO制御が最小の24%に設定され、スターラー速度で制御された。過圧、供給速度、又は空気流量の調節は無かった。
バッチ相の終点の後、統合されたリアクター/分離器は、1m3のリアクター中のブロスで充填された。42時間の供給添加(350g/h)及び0.47kg/hの固定速度で生成物回収相の添加(油/溶媒の添加)を開始した(参照,図19)。統合リアクターの運転条件を下表に示す。
【0152】
【表9】
一旦、統合リアクターがブロスで充填されると、発酵区画と分離区画の間の再循環ループが最大に開かれた。
【0153】
統合リアクターの結果を図14~20に示す。
図14は、連続相の間に統合リアクターに加えられ供給を示す。
図15は、統合装置の発酵区画のDOプロファイルを示す。
図16は、1m3の発酵槽及び統合リアクターの中の細胞乾燥重量(CDW)の進展を示す。CDW濃度は、1m3の発酵槽及び統合リアクターシステム(反応システム)中と同じであった。濃度勾配はなく、2つのリアクター間で液体の均一な交換があった。
【0154】
図17は、連続相の間の水相(統合リアクターシステムの1m3の発酵槽、反応セクション)及び有機相(統合リアクターシステムの分離セクション、すなわち収穫セクションの中)の中の生成物濃度を示す。生成物が有機相中で富化され、統合リアクターシステムの分離セクションに首尾よく輸送された。
図18は、連続相の間の100Lの装置の分離区画から反応区画への再循環流を示す。
図19は、連続相の間に統合リアクターシステムに添加された有機相(ひまし油、「溶媒」)の量、及び統合リアクターシステムから収穫された有機相の量を示す。統合されたリアクター/分離器の充填及び溶媒の添加の後、装置は長い遅延相なしに相を迅速に分離することができた。溶媒の総量は、実施例2と比較して2倍以上であった。そのため、相分離の面積を同じに保ちながら、統合リアクターシステムを1m3の発酵槽に接続することによって、発酵能力が向上した。所定のサイズの分離セクションが、より多くの発酵能力に対処できることが証明された。
【0155】
実施例5:回収相としての大豆油
生成物回収相のみが100Lの統合されたリアクター/分離器装置に加えつことを除いて、実施例3と同様にこの実験を実施した。発酵の終点で、高い溶媒添加速度及びそれぞれの回収速度を調査した。この試験の溶媒は大豆油であった。これによって、測定されたより高い回収速度:4.4L/h又は172.7L/m2/hが導かれた。
【0156】
実施例6:回収相の効果
溶媒としてトリグリセリド油(ひまし油)の代わりにアルカン(ドデカン)を用いることを除いて、実施例2と同様に実験を実施した。回収相としてドデカンを用いることは効果的であったが、より低い回収速度になった(参照,図28及び図29)。
図28は、ひまし油を用いた場合の高い回収速度を示す。生成物含有相は、非常に高い有機割合(0.77~0.83)を有するクリームであった。
図29は、ドデカンによる回収速度がより低かったことを示す。正味の速度の差(kg/h)はほぼ5倍である。とりわけ、ひまし油と比較して表面張力と粘度の違いによって、ドデカンの液滴の分布が大幅に小さい。生成物(ドデカン)含有相は、0.6~0.72の有機物質の割合を有する透明な油の分画をも含むクリームであった。
【0157】
実施例7:バッチステージの間の生成物回収相としてのオレイルアルコールの添加でのブタノール製造
最初のバッチ培地と溶媒の添加を除いて、実験の設定は実施例4と同様であった。最初のバッチ培地は30Lであり、バッチステージの間に29kgの液体回収相(溶媒;工業用オレイルアルコール)を加えた。
図30は、発酵区画及び分離区画内の有機相中のブタノール濃度を示す。定常状態でのこの設定で可能なブタノールの最大濃度は、有機相中で約18g/Lであった。
本発明の100Lの統合リアクターシステム中のブタノール製造の理論的定常状態は、図1に概略的に示される通りである。
【0158】
【表10】
【0159】
図31は、微生物の予想される生産性に対する生成物阻害の効果と、従って生産性に対するISPRの効果を示す。示されている3つの異なる溶媒(それぞれ独自のブタノールの分配(m=4,10,15)を有する)について、点線の円で示される3つの異なる定常状態を計算することができる。この実施例において、P:生成物、aqu:水性、m:溶媒及び水相の中の生成物の分配(partitioning)。
【0160】
実施例8:バニリン酸の回収
サッカロミセス・セレビシエ CEN.PK.113-7Dによって、バニリンがバニリン酸に触媒的に変換された。培養の間、一次生成物回収相(溶媒)として工業用オレイルアルコールを用いて、75mg/kg溶媒のオイルレッドOで着色させて溶媒を可視化させた。通気培地として発酵空気を用い、バッチ培地がSMD2培地であったことを除いて、実施例1と同様に統合バイオリアクターを調製した。
【0161】
バッフルを備えた5つの振とうフラスコ中で、100mLのYPD培地(10g/Lのバクト酵母エキス、20g/Lのバクトペプトン、20g/Lのグルコース:例えば、それぞれBD, Difco(TM) and BBL(TM) manual, 2nd edition: https://legacy.bd.com/europe/regulatory/Assets/IFU/Difco_BBL/242820.pdf)を各々用いて、前培養を行った。1.8mLの凍結ストック培養物を各々のフラスコに接種し、30℃、175rpmで16時間、培養した。115mLの前培養物を統合バイオリアクターに移した。統合バイオリアクターを70kgのSMD2培地で充填した(表11~13)。
【0162】
【表11】
【0163】
【表12】
【0164】
【表13】
【0165】
【表14】
【0166】
バイオリアクター中での培養を3つのステージで実施した。第1のステージは、16時間のバッチ発酵であり、その間、溶媒も、供給も、バニリン溶液も添加されなかった。第2のステージ(16時間~43時間)は、500g/hでの供給添加(表14の組成)、0.34kg/hの速度での溶媒添加、及び0.23kg/hでのバニリン溶液(10g/L)添加で開始された。第3のステージは43時間後に始まり、その時、バニリン溶液を0.7kg/hで添加し、溶媒添加と供給添加は第2のステージと同じく維持された。
【0167】
発酵ブロス(反応セクション、リアクターの底部)及び有機相(分離セクション、リアクターの最上部)のサンプルを、16時間(バッチ、ステージ1の終点の直後)から開始して、日中は約2時間ごとに、夜間は3つのサンプルを採取した。
ステージ2の開始から発酵の終点まで、有機相(生成物回収相及び生成物を含む)を取り出した。ポンプを固定速度に設定し、それによって分離されたすべての有機相が収穫された。有機相の回収速度は、ステージ2の間、平均0.1kg/h、ステージ3の間、平均0.18kg/hであった。
主な培養パラメータは表15に見出すことができる。pHは25(v/v)%のNH4OH溶液で制御した。pHが4.5未満に下降した時、pH制御を活性化し、pHを4.5に維持するのに十分なNH4OH溶液を加えた。
【0168】
【表15】
【0169】
バニリン、バニリン酸、及びバニリルアルコールは、微生物に対する潜在的な阻害剤である(Converti et al. Brazilian Journal of Microbiology (2010) 41: 519-530)。これが、発酵速度を速く保つために、これらすべての成分の濃度をより低い阻害濃度に維持するべきである理由である。水性のバニリンは0.5g/Lの濃度で既に微生物に対して毒性であることができる(Hansen et al Applied and Environmental Microbiology (May 2009), p.2765-2774)。図33は、有機相及び水相の中で、発酵のすべての間、水性のバニリン濃度が0.5g/L未満であり、バニリン酸とバニリルアルコールが有機相で富化されたことを示す(バニリン:暗い色の正方形&明るい色の正方形、バニリン酸:塗りつぶされた円&円パターン、及びバニリルアルコール:塗りつぶした三角形&三角形パターン)。測定された濃度で存在する化合物では、成長が阻害されなかった(図32)。連続的に収穫することで、オレイルアルコールの有機濃度は4%未満に維持された。この全体的なより低い油含有量(時間内での油の除去のため)によって、微生物の形態に対する分散相の影響が最小限に抑えられた。この実験では、バニリルアルコールが副産物として生成された。
【0170】
目的の生成物はバニリン酸である。サッカロミセス・セレビシエによってバニリン酸が形成され、定常状態に達するまでブロスに蓄積された(発酵ブロス中のバニリン酸濃度を示す図34:水相中のバニリン酸濃度をステージ2及びステージ3、4の終点について分析した)。ステージ2の終点(設定値1,43時間)に、酵母が0.009g/L/hの生産性でバニリンをバニリン酸に変換し始め、発酵槽へのバニリンの添加を増やすと生産性が0.026g/L/hに増加した。水性発酵ブロス中のバニリン酸の定常状態濃度は約0.63g/Lであった。
【0171】
図35は、経時的なバニリン酸の製造速度(四角)、抽出速度(円)、及び分離速度(三角形)を示す。図35から分かるように、すべての有機相と水相の濃度が約65時間以降、一定(又は定常状態)のままである場合、抽出速度は製造速度と等しかった。正味の有機相の抽出及び製造速度は、約0.002kg/hのバニリン酸であった。
【0172】
発酵の終点のリアクターからの全体的な生成物除去速度は、その時点での生成物の正味生産量の>70%であった。分析方法の限界、システムの動力学による時間中のホールドアップの変化、及び物質収支のギャップを考慮すると、全体的な生成物除去速度は、特に40~50時間の間で正味の製造速度に近い。必要に応じて、エマルジョンの安定性をより厳密に制御すれば、全体的な有機相回収の増加を達成することができる。安定性は、0.6kgの消泡剤98/007K(Basildon Chemicals)の添加で増加し、更に最適化することができる。
有機相に阻害化合物を抽出することによって、製造速度を高く、阻害を低く維持した。第3のステージ(設定値2,43時間後)の間、製造速度が成功的に増加した。
【0173】
実施例9:バニリン酸の逆抽出
実施例8の触媒変換から得られたバニリン酸を、生成物回収相(オレイルアルコール)から補助溶媒(水中の70(v/v)%エタノール)に抽出した。主にオレイルアルコール、バニリン酸及びバニリルアルコールからなる、リアクターの最上部の分離セクションから取り出された有機相を、4000rpmで20分間、遠心分離して、考えうる固体残留物を取り除いた。その後、それぞれに3.5mLの有機相と共に、有機相を3セットのデュプリケートに分けた。サンプルセットを、2mL(サンプル番号1、2)、3mL(サンプル番号3、4)、及び6mL(サンプル番号5、6)の70%エタノール溶液の上に加え、室温で1時間、混合した。オレイルアルコール及び70%エタノールは、混合の前後で2つの相を形成した。綺麗な液体/液体相分離を確実にするために、混合工程の後、サンプルを4000rpmで20分間、遠心分離した。オレイルアルコール中のバニリン酸含有量に従って、サンプルを分析した。
【0174】
図36は、オレイルアルコールから70%エタノール(補助溶媒)へのバニリン酸の成功的な逆抽出を示す。70%エタノールはオレイルアルコールよりも低い沸点を有し、それによって、溶媒蒸発又は(真空)蒸留による目的の品質に向けた生成物の下流処理が容易になる。全体的なストリームサイズの縮小とエタノールの蒸発熱のために、バニリン酸とエタノールの分離は、より少なくエネルギー集約的であり、例えば水よりも著しく低い。ここでの注意点は、エタノールは水溶液と高度に混和するため、発酵槽内で直接用いることができないことである。従って、発酵ブロスからのバニリン酸の抽出のための一次溶媒として、オレイルアルコールが選択された。オレイルアルコールは、適切な水性生成物濃度と相分離特性を維持しながら、微生物に対して毒性がない。
【0175】
更に、逆抽出実験は、目的の生成物が補助溶媒中で富化される利点を確認した(表16)。バニリン酸がバニリルアルコールに比べてエタノール中で富化された。オレイルアルコールによる本発明のリアクター(図1に概略的に示されるもの等)内でのバニリン酸の連続抽出及び低沸点溶媒への逆抽出によって、生成物回収のための更に効率的な下流処理が可能になる。
【0176】
【表16】
【0177】
更に、2つの異なる相平衡について相分離を試験した。両方の実験で、バニリン酸を含むオレイルアルコールを一次溶媒(生成物回収相)として用いた。(i)水中の70%エタノール(水性エタノール)又は(ii)ヘキシルシンナムアルデヒドのいずれかを逆抽出溶媒として用いた。1.5mLのオレイルアルコールと1.5mLのヘキシルシンナムアルデヒドを混合した。3.5mLのオレイルアルコールを3mLの水性エタノールと混合した。ヘキシルシンナムアルデヒドを有するサンプルを冷蔵庫に一晩保管して、相分離に対する温度の効果を確認した。異なる温度で2つの明確な相平衡が観察された。(i)は、室温の水性エタノール及びオレイルアルコールの2つの相の液体/液体システムであった。(ii)は、冷却(6℃)後の液体オレイルアルコール及びバニリン酸を含む固体相の液体/固体システムであった。(i)及び(ii)は、バニリン酸の逆抽出に用いることができる相分離戦略に幅広い温度が可能であることを示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
図12
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図15
図16
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