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特許7427289生体細胞解析装置、生体細胞解析システム、生体細胞解析プログラムおよび生体細胞解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】生体細胞解析装置、生体細胞解析システム、生体細胞解析プログラムおよび生体細胞解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20240129BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240129BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20240129BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240129BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N33/48 M
G01N33/48 Z
G01N33/483 C
G06T7/00 630
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022531881
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2021022892
(87)【国際公開番号】W WO2021256514
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2020104850
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521418609
【氏名又は名称】Milk.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】中矢 大輝
(72)【発明者】
【氏名】内藤 聖也
(72)【発明者】
【氏名】安部 源志郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史希
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/181845(WO,A1)
【文献】特開2018-205373(JP,A)
【文献】国際公開第2019/178561(WO,A2)
【文献】特開2017-203637(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0226991(US,A1)
【文献】檜作彰良、永田毅、橋本大樹,2段階の機械学習を用いた細胞の検出・状態分類,ViEWビジョン技術の実利用ワークショップ講演論文集,2016年12月08日,要約,1.,2.,図1
【文献】PENARANDA, Francisco et al.,Discrimination of skin cancer cells using Fourier transform infrared spectroscopy,Computers in Biology and Medicine,2018年,100,50-61, https://doi.org/10.1016/j.compbiomed.2018.06.023
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/83
G01N 33/48 - G01N 33/98
C12M 1/00 - C12M 3/10
G06T 7/00
G06T 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元画像を構成する各ピクセルごとにスペクトル情報を対応付けてなるハイパースペクトルデータを用いて生体細胞を解析する生体細胞解析装置であって、
前記生体細胞を含む病理標本を載置したステージとハイパースペクトルカメラのうち、いずれか一方または双方を移動させることによって相対的に移動させ、自動的に前記病理標本の全体をスキャンさせる全体スキャン指示部と、
前記全体スキャン指示部の指示によってスキャン動作中の前記ハイパースペクトルカメラから出力されるハイパースペクトルデータを順次取得し、前記病理標本全体のハイパースペクトルデータを取得するハイパースペクトルデータ取得部と、
前記ハイパースペクトルデータに基づいて、前記病理標本全体の二次元画像から前記生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する生体細胞判別部と、
を有する、生体細胞解析装置。
【請求項2】
前記生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報を抽出するスペクトル情報抽出部と、
前記生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報を機械学習によって分類することにより、前記生体細胞の変質状態を識別する変質状態識別部と、
を有し、
前記変質状態は、下記(i)~(iv)に示す変質状態である、請求項に記載の生体細胞解析装置;
(i)前記生体細胞がガン細胞であるか否か;
(ii)どの部位のガン細胞であるか;
(iii)ガンの進行度または悪性度;
(iv)潰瘍または炎症の浸潤具合。
【請求項3】
前記生体細胞のスペクトル情報を教師データとして細胞判別モデルに事前学習させて得られる細胞判別用パラメータを体の部位ごとに記憶する細胞判別用パラメータ記憶部と、
ユーザによって選択された部位に対応する細胞判別モデルの選択を受け付ける入力受付部と、を有し
前記生体細胞判別部は、前記入力受付部によって受け付けられた体の部位に対応する前記細胞判別用パラメータを前記細胞判別モデルに適用し、当該学習済みの細胞判別モデルによって前記生体細胞に相当するピクセルか否かを判定する、請求項1または請求項に記載の生体細胞解析装置。
【請求項4】
前記生体細胞の変質状態に対応するスペクトル情報を教師データとして変質状態識別モデルに事前学習させて得られる変質状態識別用パラメータを変質状態ごとに記憶する変質状態識別用パラメータ記憶部と、
ユーザによって選択された変質状態に対応する変質状態識別モデルの選択を受け付ける入力受付部と、を有し、
前記変質状態識別部は、前記入力受付部によって受け付けられた変質状態に対応する前記変質状態識別用パラメータを前記変質状態識別モデルに適用し、当該学習済みの変質状態識別モデルによって前記生体細胞の変質状態を識別する、請求項2に記載の生体細胞解析装置。
【請求項5】
二次元画像を構成する各ピクセルごとにスペクトル情報を対応付けてなるハイパースペクトルデータを用いて生体細胞を解析する生体細胞解析システムであって、
前記生体細胞解析システムは、互いにデータ通信可能な生体細胞解析装置と生体細胞解析サーバとから構成されており、
前記生体細胞解析装置は、
前記生体細胞を含む病理標本を載置したステージとハイパースペクトルカメラのうち、いずれか一方または双方を移動させることによって相対的に移動させ、自動的に前記病理標本の全体をスキャンさせる全体スキャン指示部と、
前記全体スキャン指示部の指示によってスキャン動作中の前記ハイパースペクトルカメラから出力されるハイパースペクトルデータを順次取得し、前記病理標本全体のハイパースペクトルデータを取得するハイパースペクトルデータ取得部と、
前記ハイパースペクトルデータを生体細胞解析サーバへ送信するとともに、前記生体細胞解析サーバから解析結果を受信する装置側通信部と、
前記解析結果を表示手段に表示させる表示制御部とを有し、
前記生体細胞解析サーバは、
前記ハイパースペクトルデータに基づいて、前記病理標本全体の二次元画像から前記生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する生体細胞判別部と、
前記ハイパースペクトルデータを前記生体細胞解析装置から受信するとともに、前記生体細胞判別部による判別結果を含む解析結果を前記生体細胞解析装置へ送信するサーバ側通信部とを有する、生体細胞解析システム。
【請求項6】
二次元画像を構成する各ピクセルごとにスペクトル情報を対応付けてなるハイパースペクトルデータを用いて生体細胞を解析する生体細胞解析プログラムであって、
前記生体細胞を含む病理標本を載置したステージとハイパースペクトルカメラのうち、いずれか一方または双方を移動させることによって相対的に移動させ、自動的に前記病理標本の全体をスキャンさせる全体スキャン指示部と、
前記全体スキャン指示部の指示によってスキャン動作中の前記ハイパースペクトルカメラから出力されるハイパースペクトルデータを順次取得し、前記病理標本全体のハイパースペクトルデータを取得するハイパースペクトルデータ取得部と、
前記ハイパースペクトルデータに基づいて、前記病理標本全体の二次元画像から前記生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する生体細胞判別部
してコンピュータを機能させる、生体細胞解析プログラム
【請求項7】
二次元画像を構成する各ピクセルごとにスペクトル情報を対応付けてなるハイパースペクトルデータを用いて生体細胞を解析する生体細胞解析方法であって、
前記生体細胞を含む病理標本を載置したステージとハイパースペクトルカメラのうち、いずれか一方または双方を移動させることによって相対的に移動させ、自動的に前記病理標本の全体をスキャンさせる全体スキャン指示ステップと、
前記全体スキャン指示ステップでの指示によってスキャン動作中の前記ハイパースペクトルカメラから出力されるハイパースペクトルデータを順次取得し、前記病理標本全体のハイパースペクトルデータを取得するハイパースペクトルデータ取得ステップと、
前記ハイパースペクトルデータに基づいて、前記病理標本全体の二次元画像から前記生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する生体細胞判別ステップと、
を有する、生体細胞解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイパースペクトルデータを用いて生体細胞を解析する技術に関し、特に、細胞診にも応用可能な生体細胞解析装置、生体細胞解析システム、生体細胞解析プログラムおよび生体細胞解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、組織診(生検)や細胞診などの病理診断においては、病理専門医による顕微鏡を用いた形態学的診断が行われている。しかしながら、そのような形態学的診断は、病理専門医の知識や経験によるところが大きく、一人前になるまでには数年に渡るトレーニングが必要とされるほど困難なものとされている。
【0003】
そこで、近年では、生体細胞の顕微鏡画像をコンピュータによって画像診断する方法が検討されている。なお、特開2018-205373号公報には、細胞診に用いる病理標本の画像を取得可能な顕微鏡が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-205373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、組織診の病理標本は、被検者から採取した組織をスライスして作製されるのに対し、細胞診の病理標本は、被検者から採取した細胞をスライスせずに作製されるため厚みがある。このため、細胞診の病理標本は、その厚みにより顕微鏡画像のピントを合わせ難く、細胞を判別し難いため、画像診断のネックになっているという課題がある。
【0006】
また、特許文献1に記載の顕微鏡を含め、従来の顕微鏡においては、ユーザが指先でプレパラート(病理標本)を動かしたり、プレパラートをセットしたステージを手動操作によって移動させ、観察したい部分だけを撮影している。このため、当該撮影範囲外となった部分の情報が得られず、問題のある細胞を見落としてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、病理標本全体に含まれる生体細胞を自動的かつ高精度に解析することができる生体細胞解析装置、生体細胞解析システム、生体細胞解析プログラムおよび生体細胞解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生体細胞解析装置は、病理標本全体に含まれる生体細胞を自動的かつ高精度に解析するという課題を解決するために、二次元画像を構成する各ピクセルごとにスペクトル情報を対応付けてなるハイパースペクトルデータを用いて生体細胞を解析する生体細胞解析装置であって、前記生体細胞を含む病理標本を載置したステージとハイパースペクトルカメラとを相対的に移動させ、前記病理標本の全体をスキャンさせる全体スキャン指示部と、前記ハイパースペクトルカメラから前記病理標本全体のハイパースペクトルデータを取得するハイパースペクトルデータ取得部と、前記ハイパースペクトルデータに基づいて、前記病理標本全体の二次元画像から前記生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する生体細胞判別部と、を有する。
【0009】
また、本発明の一態様として、生体細胞の変質状態を自動的かつ高精度に識別するという課題を解決するために、前記生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報を抽出するスペクトル情報抽出部と、前記生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報を機械学習によって分類することにより、前記生体細胞の変質状態を識別する変質状態識別部と、を有していてもよい。
【0010】
さらに、本発明の一態様として、生体細胞における様々な変質状態を識別するという課題を解決するために、前記変質状態は、下記(i)~(iv)のいずれかであってもよい。
(i)前記生体細胞がガン細胞であるか否か;
(ii)どの部位のガン細胞であるか;
(iii)ガンの進行度または悪性度;
(iv)潰瘍または炎症の浸潤具合。
【0011】
また、本発明の一態様として、体の部位ごとに生体細胞を高精度に判別するという課題を解決するために、前記生体細胞のスペクトル情報を教師データとして事前学習させた学習済みの細胞判別モデルが体の部位ごとに用意されており、前記生体細胞判別部は、前記細胞判別モデルによって前記生体細胞に相当するピクセルか否かを判定してもよい。
【0012】
さらに、本発明の一態様として、各種の変質状態ごとに生体細胞の変質状態を高精度に識別するという課題を解決するために、前記生体細胞の変質状態に対応するスペクトル情報を教師データとして事前学習させた学習済みの変質状態識別モデルが変質状態ごとに用意されており、前記変質状態識別部は、前記変質状態識別モデルによって前記生体細胞の変質状態を識別してもよい。
【0013】
また、本発明に係る生体細胞解析システムは、病理標本全体に含まれる生体細胞を自動的かつ高精度に解析するという課題を解決するために、二次元画像を構成する各ピクセルごとにスペクトル情報を対応付けてなるハイパースペクトルデータを用いて生体細胞を解析する生体細胞解析システムであって、前記生体細胞解析システムは、互いにデータ通信可能な生体細胞解析装置と生体細胞解析サーバとから構成されており、前記生体細胞解析装置は、前記生体細胞を含む病理標本を載置したステージとハイパースペクトルカメラとを相対的に移動させ、前記病理標本の全体をスキャンさせる全体スキャン指示部と、前記ハイパースペクトルカメラから前記病理標本全体のハイパースペクトルデータを取得するハイパースペクトルデータ取得部と、前記ハイパースペクトルデータを生体細胞解析サーバへ送信するとともに、前記生体細胞解析サーバから解析結果を受信する装置側通信部と、前記解析結果を表示手段に表示させる表示制御部とを有し、前記生体細胞解析サーバは、前記ハイパースペクトルデータに基づいて、前記病理標本全体の二次元画像から前記生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する生体細胞判別部と、前記ハイパースペクトルデータを前記生体細胞解析装置から受信するとともに、前記生体細胞判別部による判別結果を含む解析結果を前記生体細胞解析装置へ送信するサーバ側通信部とを有する。
【0014】
また、本発明に係る生体細胞解析プログラムは、病理標本全体に含まれる生体細胞を自動的かつ高精度に解析するという課題を解決するために、二次元画像を構成する各ピクセルごとにスペクトル情報を対応付けてなるハイパースペクトルデータを用いて生体細胞を解析する生体細胞解析プログラムであって、前記生体細胞を含む病理標本を載置したステージとハイパースペクトルカメラとを相対的に移動させ、前記病理標本の全体をスキャンさせる全体スキャン指示部と、前記ハイパースペクトルカメラから前記病理標本全体のハイパースペクトルデータを取得するハイパースペクトルデータ取得部と、前記ハイパースペクトルデータに基づいて、前記病理標本全体の二次元画像から前記生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する生体細胞判別部と、してコンピュータを機能させる。
【0015】
さらに、本発明に係る生体細胞解析方法は、病理標本全体に含まれる生体細胞を自動的かつ高精度に解析するという課題を解決するために、二次元画像を構成する各ピクセルごとにスペクトル情報を対応付けてなるハイパースペクトルデータを用いて生体細胞を解析する生体細胞解析方法であって、前記生体細胞を含む病理標本を載置したステージとハイパースペクトルカメラとを相対的に移動させ、前記病理標本の全体をスキャンさせる全体スキャン指示ステップと、前記ハイパースペクトルカメラから前記病理標本全体のハイパースペクトルデータを取得するハイパースペクトルデータ取得ステップと、前記ハイパースペクトルデータに基づいて、前記病理標本全体の二次元画像から前記生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する生体細胞判別ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、病理標本全体に含まれる生体細胞を自動的かつ高精度に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る生体細胞解析装置および生体細胞解析システムの第一実施形態を示すブロック図である。
図2】ハイパースペクトルデータの一例を示す図である。
図3】第一実施形態の生体細胞解析装置、生体細胞解析システムおよび生体細胞解析プログラムによって実行される生体細胞解析方法を示すフローチャートである。
図4】本発明に係る生体細胞解析装置および生体細胞解析システムの第二実施形態を示すブロック図である。
図5】第二実施形態の生体細胞解析装置、生体細胞解析システムおよび生体細胞解析プログラムによって実行される生体細胞解析方法を示すフローチャートである。
図6】実施例1における(a)RGB画像、(b)N=5の解析結果、および(c)N=4の解析結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る生体細胞解析装置、生体細胞解析システム、生体細胞解析プログラムおよび生体細胞解析方法の第一実施形態について図面を用いて説明する。
【0019】
本第一実施形態の生体細胞解析システム100Aは、図1に示すように、主として、生体細胞を含む病理標本10が載置されるステージ11と、ハイパースペクトルデータを取得するハイパースペクトルカメラ12と、このハイパースペクトルカメラ12によって取得されたハイパースペクトルデータに基づいて生体細胞を解析する生体細胞解析装置1Aとから構成されている。以下、各構成について説明する。
【0020】
ステージ11は、生体細胞を含む病理標本10を載置するものである。本第一実施形態において、ステージ11はステッピングモータ(図示せず)によって水平移動可能に構成されており、生体細胞解析装置1Aからの駆動信号に従って移動方向や移動量が調整される。また、ステージ11は、プレパラート等の病理標本10をセットした状態で、下方に設けた光源13からの光を透過させるようになっている。
【0021】
なお、本第一実施形態では、病理標本10の全体をハイパースペクトルカメラ12によってスキャンするために、ステージ11を移動させているが、この構成に限定されるものではなく、ステージ11とハイパースペクトルカメラ12とが相対的に移動される構成であればよい。すなわち、ステージ11を固定して、ハイパースペクトルカメラ12を移動させるようにしてもよく、ステージ11とハイパースペクトルカメラ12の双方を移動させるようにしてもよい。
【0022】
ハイパースペクトルカメラ12は、二次元の空間情報と、複数の波長におけるスペクトル情報(ハイパースペクトル情報)とを同時に取得するものである。具体的には、ハイパースペクトルカメラ12は、図2に示すように、二次元画像を構成する各ピクセルごとにスペクトル情報を対応付けてなるハイパースペクトルデータを取得する。なお、スペクトル情報は、分光スペクトルとも呼ばれ、各バンド(波長)ごとの光強度の分布を示すものである。
【0023】
また、本第一実施形態において、ハイパースペクトルカメラ12は拡大レンズ12aを有しており、病理標本10を透過した透過光を拡大して計測するようになっている。なお、可視光はX線に比べてフォトンエネルギーが小さく、人体への影響が少ない。また、可視光の分光情報は、細胞核内のクロマチン濃度の影響で変化することが知られており、ラマン分光と同様にクロマチンだけでなく多くの細胞組織の情報を潜在的に含んでいる可能性が高い。そこで、本第一実施形態では、ハイパースペクトルデータの波長帯域に可視光が含まれるように、光源13として可視光源を使用している。
【0024】
なお、ハイパースペクトルカメラ12には、拡大レンズ12aの他にも、コリメーターレンズやテレセントリックレンズ等のように、収差を補正するためのレンズが組み込まれていてもよい。また、光源13としては、ハロゲンランプ、高演色LED(Light Emitting Diode)、キセノンランプ、半導体レーザー光源等を使用することができる。
【0025】
つぎに、生体細胞解析装置1Aは、パーソナルコンピュータやタブレット等のコンピュータによって構成されており、図1に示すように、主として、表示手段2と、入力手段3と、記憶手段4と、演算処理手段5とを有している。以下、各構成手段について詳細に説明する。
【0026】
表示手段2は、液晶ディスプレイ等で構成されており、生体細胞解析装置1Aによる解析結果等を表示するものである。入力手段3は、キーボードやマウス等で構成されており、ユーザによる指示や選択を入力するものである。なお、本第一実施形態では、表示機能のみを備えた表示手段2と入力機能のみを備えた入力手段3とを別々に使用しているが、この構成に限定されるものではなく、表示機能および入力機能を兼ね備えたタッチパネル等の表示入力手段を使用してもよい。
【0027】
記憶手段4は、各種のデータを記憶するとともに、演算処理手段5が演算処理を行う際のワーキングエリアとして機能するものである。本第一実施形態において、記憶手段4は、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等で構成されており、図1に示すように、プログラム記憶部41と、細胞判別用パラメータ記憶部42と、変質状態識別用パラメータ記憶部43とを有している。以下、各構成部についてより詳細に説明する。
【0028】
プログラム記憶部41には、本第一実施形態の生体細胞解析装置1Aを制御するための生体細胞解析プログラム1aがインストールされている。そして、演算処理手段5が、生体細胞解析プログラム1aを実行することにより、生体細胞解析装置1Aとしてのコンピュータを後述する各構成部として機能させるようになっている。
【0029】
なお、生体細胞解析プログラム1aの利用形態は、上記構成に限られるものではない。例えば、CD-ROMやDVD-ROM等のように、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に生体細胞解析プログラム1aを記憶させておき、当該記録媒体から直接読み出して実行してもよい。また、外部サーバ等からクラウドコンピューティング方式やASP(Application Service Provider)方式で利用してもよい。
【0030】
細胞判別用パラメータ記憶部42は、事前学習によって得られた学習済みの細胞判別用パラメータを記憶するものである。本第一実施形態では、後述するとおり、生体細胞を判別するためのアルゴリズムとして、機械学習アルゴリズムである学習・推論モデルに細胞判別用パラメータを適用してなる学習済みの細胞判別モデルを採用している。このため、細胞判別用パラメータ記憶部42には、生体細胞のスペクトル情報を教師データとして細胞判別モデルに事前学習させて得られる細胞判別用パラメータが記憶されている。
【0031】
また、本第一実施形態では、生体細胞を判別しやすくするため、学習済みの細胞判別モデルが体の部位ごとに用意されており、ユーザによって選択可能に構成されている。このため、細胞判別用パラメータ記憶部42には、各細胞判別モデルに適用される細胞判別用パラメータが体の部位ごとに記憶されている。体の部位としては、ガンが発症しやすい大腸、卵巣、乳房、膵臓、子宮、前立腺、皮膚、胃、肺等が挙げられる。
【0032】
なお、細胞判別モデルに学習させる教師データとしては、体の各部位における生体細胞のスペクトル情報の他に、生体細胞の判別精度を向上させるため、生体細胞の背景となる、免疫細胞(リンパ球等)、粘液、間質および何も撮影されていないピクセル等のスペクトル情報が用いられる。
【0033】
変質状態識別用パラメータ記憶部43は、事前学習によって得られた学習済みの変質状態識別用パラメータを記憶するものである。本第一実施形態では、後述するとおり、生体細胞の変質状態を識別するためのアルゴリズムとして、機械学習アルゴリズムである学習・推論モデルに変質状態識別用パラメータを適用してなる学習済みの変質状態識別モデルを採用している。このため、変質状態識別用パラメータ記憶部43には、生体細胞の変質状態に対応するスペクトル情報を教師データとして変質状態識別モデルに事前学習させて得られる変質状態識別用パラメータが記憶されている。
【0034】
ここで、変質状態とは、生体細胞が変質しているか否か、あるいはどの程度変質しているかを示す全ての状態を含む概念である。本第一実施形態では、生体細胞の変質状態を判別しやすくするため、下記(i)~(iv)に示す変質状態ごとに学習済みの変質状態識別モデルが用意されており、ユーザによって選択可能に構成されている。
(i)生体細胞がガン細胞であるか否か
(ii)どの臓器のガン細胞であるか
(iii)ガンの進行度または悪性度
(iv)潰瘍または炎症の浸潤具合
このため、変質状態識別用パラメータ記憶部43には、各変質状態識別モデルに適用される変質状態識別用パラメータが変質状態ごとに記憶されている。
【0035】
なお、変質状態識別モデルに学習させる教師データとしては、上記(i)の変質状態の場合、健常な生体細胞のスペクトル情報と、ガン細胞のスペクトル情報とが用いられる。また、上記(ii)の変質状態の場合、体の各部位におけるガン細胞のスペクトル情報が用いられる。上記(iii)の場合、ガンの進行度や悪性度に応じたスペクトル情報が用いられる。例えば、進行度であれば、非ガン細胞、軽度異形成(LGD:Low Grade Dysplasia)、高度異形成(HGD:High Grade Dysplasia)およびガン細胞という4ステージで特定される。上記(iv)の場合、潰瘍や炎症の浸潤具合に応じたスペクトル情報が用いられる。
【0036】
演算処理手段5は、ハイパースペクトルデータに基づいて、生体細胞の解析処理を実行するものである。本第一実施形態において、演算処理手段5は、CPU(Central Processing Unit)等で構成されており、記憶手段4にインストールされた生体細胞解析プログラム1aを実行することにより、図1に示すように、全体スキャン指示部51と、ハイパースペクトルデータ取得部52と、入力受付部53と、生体細胞判別部54と、スペクトル情報抽出部55と、前処理実行部56と、変質状態識別部57と、表示制御部58として機能するようになっている。以下、各構成部についてより詳細に説明する。
【0037】
全体スキャン指示部51は、ハイパースペクトルカメラ12によって病理標本10の全体をスキャンさせるものである。本第一実施形態において、全体スキャン指示部51は、ステージ11を水平移動させるステッピングモータに駆動信号を出力することにより、ステージ11とハイパースペクトルカメラ12とを相対的に移動させ、病理標本10の全体をスキャンさせるようになっている。
【0038】
ハイパースペクトルデータ取得部52は、ハイパースペクトルカメラ12から病理標本10全体のハイパースペクトルデータを取得するものである。本第一実施形態において、ハイパースペクトルデータ取得部52は、スキャン動作中のハイパースペクトルカメラ12から出力されるハイパースペクトルデータを順次取得し、病理標本10全体のハイパースペクトルデータを取得するようになっている。
【0039】
入力受付部53は、ユーザからの選択や指示等の入力を受け付けるものである。本第一実施形態では、上述したとおり、学習済みの細胞判別モデルが体の部位ごとに用意されている。また、学習済みの変質状態識別モデルが各種の変質状態ごとに用意されている。このため、ユーザが入力手段3を介して、いずれかの部位または変質状態を選択すると、入力受付部53は、当該部位または変質状態に対応する学習済モデルの選択を受け付けるようになっている。
【0040】
生体細胞判別部54は、病理標本10に含まれる生体細胞を判別するものである。本第一実施形態において、生体細胞判別部54は、ハイパースペクトルデータ取得部52によって取得されたハイパースペクトルデータに基づいて、病理標本10全体の二次元画像から生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する。
【0041】
具体的には、生体細胞判別部54は、機械学習アルゴリズムである学習・推論モデルに細胞判別用パラメータを適用してなる学習済みの細胞判別モデルによって構成されている。このため、生体細胞判別部54は、生体細胞を判別する場合、細胞判別用パラメータ記憶部42に記憶されている学習済みの細胞判別用パラメータのうち、入力受付部53が受け付けた体の部位に対応する細胞判別用パラメータを細胞判別モデルに適用する。そして、当該学習済みの細胞判別モデルによって、病理標本10全体の二次元画像から生体細胞に相当するピクセルを判別し、ラベリングするようになっている。
【0042】
なお、本第一実施形態では、生体細胞判別部54のアルゴリズムとして、教師あり学習の一つであるサポートベクターマシン(SVM:Support Vector Machine)を使用しているが、これに限定されるものではなく、決定木学習、k近傍法(k-Nearest Neighbor:k-NN)、ランダムフォレスト、ディープラーニングなどのニューラルネットワーク関連手法等に代表されるその他の教師あり学習を採用してもよい。
【0043】
また、生体細胞判別部54のアルゴリズムは、教師あり学習に限定されるものではなく、クラスタリング、主成分分析、EM(Expectation-Maximization)アルゴリズム、コサイン距離、オートエンコーダ等に代表される各種の教師なし学習を採用してもよい。教師なし学習を用いた場合、ピクセルごとに判別されたグループを色分け表示し、生体細胞が抽出されているか否かはユーザによって判断されることとなる。あるいは、少量の正解ラベルありデータを用いることで大量の正解ラベルなしデータを活かして学習可能な半教師あり学習を採用してもよい。
【0044】
スペクトル情報抽出部55は、生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報を抽出するものである。本第一実施形態において、スペクトル情報抽出部55は、生体細胞判別部54によって判別された生体細胞に相当する各ピクセルのスペクトル情報(各バンドごとの光強度)を抽出する。
【0045】
前処理実行部56は、スペクトル情報の解析精度や解析速度を向上させる各種の前処理を実行するものである。本第一実施形態において、前処理実行部56は、ユーザによる選択や設定に応じて、正規化、白色化、反射率計算、バンド選択等の前処理を実行する。
【0046】
具体的には、正規化は、スペクトル強度の最大値が1となるように規格化するものであり、スペクトルの強度の情報は失われるが、相対的な波形の情報が得られる。白色化は、各波長強度の相関をなくすものであり、特徴的なスペクトル変化が強調される。反射率計算は、光源13の波長に基づいて対象物の吸収具合を計算するものであり、光源13の変化に依存しない対象物特有の特徴が抽出される。バンド選択は、スペクトル情報から任意のバンドのみを選択することでデータ数を削減し、解析速度を向上するものである。
【0047】
なお、前処理実行部56による前処理は、変質状態識別部57による識別の前に行うことによって解析精度や解析速度を向上するものであるが、必ずしも実行する必要はない。
【0048】
変質状態識別部57は、生体細胞の変質状態を識別するものである。本第一実施形態において、変質状態識別部57は、スペクトル情報抽出部55によって抽出された、生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報を機械学習によって分類することにより、生体細胞の変質状態を識別する。
【0049】
具体的には、変質状態識別部57は、機械学習アルゴリズムである学習・推論モデルに変質状態識別用パラメータを適用してなる学習済みの変質状態識別モデルによって構成されている。このため、変質状態識別部57は、生体細胞の変質状態を識別する場合、変質状態識別用パラメータ記憶部43に記憶されている学習済みの変質状態識別用パラメータのうち、入力受付部53が受け付けた変質状態に対応する変質状態識別用パラメータを変質状態識別判別モデルに適用する。そして、当該学習済みの変質状態識別モデルによって、生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報を分類するようになっている。
【0050】
なお、本第一実施形態では、変質状態識別部57のアルゴリズムとして、教師あり学習の一つであるサポートベクターマシン(SVM:Support Vector Machine)を使用しているが、これに限定されるものではなく、決定木学習、k近傍法(k-Nearest Neighbor:k-NN)、ランダムフォレスト、ディープラーニングなどのニューラルネットワーク関連手法等に代表されるその他の教師あり学習を採用してもよい。
【0051】
また、変質状態識別部57のアルゴリズムは、教師あり学習に限定されるものではなく、クラスタリング、主成分分析、EM(Expectation-Maximization)アルゴリズム、コサイン距離、オートエンコーダ等に代表される各種の教師なし学習を採用してもよい。あるいは、少量の正解ラベルありデータを用いることで大量の正解ラベルなしデータを活かして学習可能な半教師あり学習を採用してもよい。
【0052】
表示制御部58は、表示手段2に表示させる内容を制御するためのものである。本第一実施形態において、表示制御部58は、生体細胞解析プログラム1aのグラフィカルユーザインターフェース、学習済モデルの選択画面、および解析結果等を表示手段2に表示させるようになっている。解析結果としては、生体細胞の判別結果画像や変質状態の識別結果画像である。
【0053】
つぎに、本第一実施形態の生体細胞解析装置1A、生体細胞解析システム100A、生体細胞解析プログラム1aおよび生体細胞解析方法による作用について説明する。
【0054】
本第一実施形態の生体細胞解析装置1A、生体細胞解析システム100A、生体細胞解析プログラム1aおよび生体細胞解析方法を用いて生体細胞の変質状態を解析する場合、図1に示すように、事前に病理標本10(プレパラート)をステージ11にセットしておく。その後、図3に示すように、まず、全体スキャン指示部51が、ステージ11とハイパースペクトルカメラ12とを相対的に移動させ、病理標本10の全体をスキャンさせる(ステップS1:全体スキャン指示ステップ)。これにより、自動的に病理標本10全体がスキャンされ、自動的に生体細胞が判別および解析されることとなる。
【0055】
つぎに、ハイパースペクトルデータ取得部52が、ハイパースペクトルカメラ12から病理標本10全体のハイパースペクトルデータを取得する(ステップS2:ハイパースペクトルデータ取得ステップ)。このとき、本第一実施形態では、光源13として、赤外線や紫外線と比較して透過性が高く、収差の影響を受けにくい可視光源を使用する。また、可視光は、X線と比較して人体への影響が少なく、その分光スペクトルには多くの細胞組織に関する情報が潜在的に含まれている。よって、生体細胞の変質状態を解析するのに適したハイパースペクトルデータが取得される。
【0056】
つづいて、入力受付部53が、生体細胞の判別および変質状態の識別に使用する学習済モデルの選択を受け付ける(ステップS3:入力受付ステップ)。これにより、判別しようとする生体細胞の部位に適した細胞判別モデルが選択されるため、細胞の判別精度が向上する。また、識別しようとする変質状態に適した変質状態識別モデルが選択されるため、変質状態の識別精度が向上する。
【0057】
つぎに、生体細胞判別部54が、ハイパースペクトルデータ取得部52によって取得されたハイパースペクトルデータに基づいて、病理標本10全体の二次元画像から生体細胞に相当するピクセルを機械学習によって判別する(ステップS4:生体細胞判別ステップ)。このとき、ハイパースペクトルデータのスペクトル情報は、その性質上、ピントずれに強く、判別精度に影響を与え難い。このため、比較的厚みのある病理標本10であっても、生体細胞に相当するピクセルが高精度に判別される。
【0058】
また、従来の画像処理では判別し難かった色の薄い生体細胞等も判別されるため、生体細胞のカウントが容易で正確になる。このため、一定領域内に存在する生体細胞の数や割合によって陽性・陰性が判定される診断にも適用可能である。また、生体細胞の細胞質を染色し、その染色濃度や一定領域内における染色割合によって陽性・陰性が判定される診断にも適用可能である。
【0059】
つぎに、スペクトル情報抽出部55が、生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報を抽出する(ステップS5:スペクトル情報抽出ステップ)。これにより、生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報が解析用データとして出力される。
【0060】
つづいて、前処理実行部56が各種の前処理を実行する(ステップS6:前処理実行ステップ)。これにより、実行した前処理の種類に応じて、スペクトル情報の解析精度や解析速度が向上する。
【0061】
つぎに、変質状態識別部57が、生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報を機械学習によって分類する(ステップS7:変質状態識別ステップ)。これにより、生体細胞の変質状態が高精度に識別される。
【0062】
最後に、表示制御部58が、生体細胞の判別結果や変質状態の識別結果等の解析結果を表示手段2に表示させる(ステップS8:解析結果表示ステップ)。これにより、ユーザが解析結果を容易に把握する。
【0063】
なお、本発明において、上述したステップS3、およびステップS5からステップS8までの処理は必須ではなく、必要に応じてまたはユーザの選択に応じて適宜実行される処理である。
【0064】
以上のような本発明に係る生体細胞解析装置1A、生体細胞解析システム100A、生体細胞解析プログラム1aおよび生体細胞解析方法の第一実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
1.病理標本10全体に含まれる生体細胞を自動的かつ高精度に解析することができる。
2.生体細胞の変質状態を自動的かつ高精度に識別することができる。
3.生体細胞における様々な変質状態を識別することができる。
4.体の部位ごとに生体細胞を高精度に判別することができる。
5.各種の変質状態ごとに生体細胞の変質状態を高精度に識別することができる。
【0065】
つぎに、本発明に係る生体細胞解析装置1B、生体細胞解析システム100B、生体細胞解析プログラム1bおよび生体細胞解析方法の第二実施形態について説明する。なお、本第二実施形態の構成のうち、上述した第一実施形態と同一もしくは相当する構成については同一の符号を付し、再度の説明を省略する。
【0066】
上述した第一実施形態では、生体細胞解析装置1Aが単独で機能するスタンドアローンタイプについて説明した。これに対し、本第二実施形態の特徴は、上述した生体細胞の判別機能や変質状態の識別機能を生体細胞解析サーバ7側に持たせた点にある。
【0067】
具体的には、本第二実施形態の生体細胞解析システム100Bは、図4に示すように、主として、ステージ11と、ハイパースペクトルカメラ12と、生体細胞解析装置1Bの他、別途、生体細胞解析サーバ7を有している。
【0068】
本第二実施形態において、生体細胞解析装置1Bは、表示手段2と、入力手段3と、記憶手段4と、演算処理手段5を有する他、別途、通信手段6を有している。そして、生体細胞解析装置1Bの演算処理手段5は、第一実施形態と同様、全体スキャン指示部51と、ハイパースペクトルデータ取得部52と、入力受付部53と、表示制御部58として機能する他、別途、装置側通信部59として機能する。なお、図4では、表示手段2、入力手段3および記憶手段4の図示が省略されている。
【0069】
一方、生体細胞解析サーバ7は、図4に示すように、記憶手段4と、演算処理手段5と、通信手段6とを有している。生体細胞解析サーバ7の記憶手段4は、第一実施形態の生体細胞解析装置1Aが有していた記憶手段4と同様である。一方、生体細胞解析サーバ7の演算処理手段5は、生体細胞解析プログラム1bを実行することにより、生体細胞判別部54と、スペクトル情報抽出部55と、前処理実行部56と、変質状態識別部57として機能する他、別途、サーバ側通信部60として機能する。
【0070】
本第二実施形態において、通信手段6は、第5世代移動通信ネットワーク(5G)等のキャリアネットワーク規格やWi-Fi(登録商標)等の無線LAN規格に対応する無線通信インターフェースによって構成されており、生体細胞解析装置1Bと生体細胞解析サーバ7とを互いにデータ通信可能に接続する。なお、通信手段6の規格は、無線通信に限定されるものではなく、有線通信であってもよい。
【0071】
装置側通信部59は、図4に示すように、通信手段6を介して、ハイパースペクトルデータや、ユーザによって選択された学習済モデルの情報を生体細胞解析サーバ7へ送信するとともに、生体細胞解析サーバ7から解析結果を受信する。一方、サーバ側通信部60は、図4に示すように、通信手段6を介して、生体細胞解析装置1Bからハイパースペクトルデータや学習済モデルの情報を受信するとともに、生体細胞解析装置1Bへ解析結果を送信する。
【0072】
つぎに、本第二実施形態の生体細胞解析装置1B、生体細胞解析システム100B、生体細胞解析プログラム1bおよび生体細胞解析方法による作用について説明する。
【0073】
本第二実施形態では、まず、図5に示すように、第一実施形態と同様、生体細胞解析装置1Bにおいて、ステップS1からステップS3までの処理を実行する。つぎに、生体細胞解析装置1Bでは、装置側通信部59が、通信手段6を介して、ハイパースペクトルデータや、ユーザによって選択された学習済モデルの情報を生体細胞解析サーバ7へ送信する(ステップS11:ハイパースペクトルデータ送信ステップ)。
【0074】
一方、生体細胞解析サーバ7では、サーバ側通信部60が、通信手段6を介して、ハイパースペクトルデータや学習済モデルの情報を生体細胞解析装置1Bから受信する(ステップS12:ハイパースペクトルデータ受信ステップ)。その後、生体細胞解析サーバ7において、ステップS4からステップS7までの処理が実行され、生体細胞の判別結果や変質状態の識別結果からなる解析結果が得られると、サーバ側通信部60が当該解析結果を生体細胞解析装置1Bへ送信する(ステップS13:解析結果送信ステップ)。
【0075】
つづいて、生体細胞解析装置1Bでは、装置側通信部59が解析結果を受信し(ステップS14:解析結果受信ステップ)、その解析結果を表示手段2に表示する(ステップS8)。
【0076】
以上のような本第二実施形態によれば、上述した第一実施形態の作用効果に加えて、以下のような効果を奏する。
1.生体細胞解析サーバ7内の生体細胞解析プログラム1bをWEBアプリケーションとして構成することで、生体細胞解析装置1BではWEBブラウザ上で利用でき、誰でも、どこでも、簡単に、生体細胞の解析結果を得ることができる。
2.処理負荷の大きい解析処理を生体細胞解析サーバ7に実行させるため、解析速度を向上でき、大量のハイパースペクトルデータを解析することができる。
【0077】
つぎに、本発明に係る生体細胞解析装置、生体細胞解析システム、生体細胞解析プログラムおよび生体細胞解析方法の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0078】
本実施例1では、上述した本第一実施形態の生体細胞解析装置1Aを用いて、生体細胞の解析性能を確認する実験を行った。
【0079】
具体的には、まず、生体細胞として肺を擦過して得られた細胞診の病理標本10を用意し、予め病理医によって、ガン細胞の細胞塊に印を付けた。その病理標本10のRGB画像を図6(a)に示す。なお、RGB画像の中央にあるマル印が病理医によって付されたものである。また、RGB画像は、ハイパースペクトルデータの赤(R):700[nm]、緑(G):545[nm]、青(B):440[nm]の波長をそれぞれ選択したものである。
【0080】
つぎに、病理標本10をステージ11にセットした後、ハイパースペクトルカメラ12によって全体をスキャンし、病理標本10全体のハイパースペクトルデータを取得した。つづいて、肺ガン用の細胞判別モデルを利用して、病理標本10全体の二次元画像から生体細胞に相当するピクセルを教師あり学習によって判別した。そして、当該生体細胞に相当するピクセルのスペクトル情報についてクラスタリングを行った。分類するクラスター数を5つ(N=5)に設定した場合と、4つ(N=4)に設定した場合の分類結果を色分けした画像をそれぞれ図6(b)および図6(c)に示す。
【0081】
図6に示すように、N=5およびN=4のいずれの場合においても、病理標本10全体からガン細胞の細胞塊がクラスタリングされており、生体細胞の変質状態として、ガン細胞であるか否かが識別されていることが示された。
【0082】
以上の本実施例1によれば、病理標本10全体に含まれる生体細胞を自動的かつ高精度に解析できるとともに、当該生体細胞の変質状態として、ガン細胞であるか否かが自動的かつ高精度に識別されることが示された。
【0083】
なお、本発明に係る生体細胞解析装置、生体細胞解析システム、生体細胞解析プログラムおよび生体細胞解析方法は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0084】
例えば、上述した各実施形態では、従来、画像診断が困難であった細胞診の病理標本10を用いている。しかしながら、解析対象は、細胞診の病理標本10に限定されるものではなく、組織診の病理標本10を解析することもできる。
【0085】
また、上述した各実施形態では、細胞の判別精度を高めるために、学習済みの細胞判別モデルが体の部位ごとに用意されている。さらに、変質状態の識別精度を高めるために、学習済みの変質状態識別モデルが各種の変質状態ごとに用意されている。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、特定の部位における生体細胞のみを判別し、特定の変質状態のみを識別する場合は、当該部位や変質状態に対応する学習済モデルを用意しておくだけで足り、別途、入力受付部53によって選択を受け付ける必要もない。
【符号の説明】
【0086】
1A,1B 生体細胞解析装置
1a,1b 生体細胞解析プログラム
2 表示手段
3 入力手段
4 記憶手段
5 演算処理手段
6 通信手段
7 生体細胞解析サーバ
10 病理標本
11 ステージ
12 ハイパースペクトルカメラ
12a 拡大レンズ
13 光源
41 プログラム記憶部
42 細胞判別用パラメータ記憶部
43 変質状態識別用パラメータ記憶部
51 全体スキャン指示部
52 ハイパースペクトルデータ取得部
53 入力受付部
54 生体細胞判別部
55 スペクトル情報抽出部
56 前処理実行部
57 変質状態識別部
58 表示制御部
59 装置側通信部
60 サーバ側通信部
100A,100B 生体細胞解析システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6