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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】螺合治具
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240129BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20240129BHJP
   B25B 21/00 20060101ALI20240129BHJP
   B25B 29/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E04B1/41 503G
B25B21/00 H
B25B29/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023024390
(22)【出願日】2023-02-20
(62)【分割の表示】P 2019100982の分割
【原出願日】2019-05-30
(65)【公開番号】P2023074018
(43)【公開日】2023-05-26
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】506162828
【氏名又は名称】FSテクニカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正吾
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-128210(JP,A)
【文献】特開2015-117462(JP,A)
【文献】特開2014-237987(JP,A)
【文献】特開2004-238847(JP,A)
【文献】特開2006-016952(JP,A)
【文献】国際公開第2015/173849(WO,A1)
【文献】特許第5820084(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G21/02、21/18
23/02
E04B 1/41
B25B21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下穴に定着させたアンカー本体に対し、前記下穴の開口部に頭部が嵌合するようにして押えネジ部を螺合させるピンニング工法用の螺合治具であって、
電動ドリルに装着される出力ロッド部と、
前記出力ロッド部の先端に取り付けられ、前記押えネジ部の前記頭部に接触して前記電動ドリルの回転を前記押えネジ部に伝達する接触パッド部と、
前記出力ロッド部に対し軸方向に進退自在に構成され、前進させた状態で、前記接触パッド部を囲繞すると共に前記押えネジ部の前記頭部を受容可能に構成された受容ガイド部と、を備えたことを特徴とする螺合治具。
【請求項2】
前記接触パッド部は、前記頭部の径よりも大きい径に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の螺合治具。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる「浮き」が生じた外壁や内壁等の壁体補修するピンニング工法において、アンカーピンに用いる螺合治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のピンニング工法用のアンカーピンとして、接着剤を注入した施工穴に打ち込まれる外壁補修用アンカーピンが知られている(特許文献1参照)。
このアンカーピンは、先端部に先端拡開部を有するピン主体と、先端拡開部の先端に装着され、先端拡開部を拡開させる拡開コーンと、皿ねじの頭部である基端拡径部を有し、軸部がピン主体に打ち込まれる軸体と、を備えている。先端拡開部を除くピン主体のパイプ内周面には、凹凸形状内歯体が形成される一方、軸体の軸部には、凹凸形状内歯体に対応する凹凸形状外歯体が形成されている。
このアンカーピンを用いた外壁補修方法では、先ずピン主体の基端部に軸体の先端部を挿入すると共に、ピン主体の先端部に拡開コーンを装着して、アンカーピンを組み立てておく。次に、拡開コーンが施工穴の底に達するように、アンカーピンを施工穴に挿入する。ここで、外壁仕上げ材層から突出しているアンカーピンの軸体を叩打する。この叩打により、軸体がピン主体内に進入すると共に、ピン主体自体が施工穴の奥に向かって進入し、拡張コーンに乗り上げるようにして先端拡開部が拡開する。さらに、叩打を続行し、軸体の基端拡径部が外壁仕上げ材層の表面と面一とになったところで、施工作業を完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-23550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来の外壁補修用アンカーピンでは、「はめあい」の関係において、ピン主体の凹凸形状内歯体と軸体の凹凸形状外歯体とを、精度良く形成しておく必要がある。例えば、「はめあい」が緩いと、叩打に際し、ピン主体に対し軸体の進入が優先され、先端拡開部が拡開しない状態で、軸体の基端拡径部が外壁仕上げ材層に達してしまうおそれがあった。逆に、「はめあい」がきついと、先端拡開部が拡開したのち、軸体を強く叩打する必要があり、叩打の最終段階で外壁仕上げ材層を叩打してしまってこれを損傷するおそれがあった
もっとも、予め施工穴(下穴)内においてピン主体(アンカー本体)を叩打して先端拡開部を拡開させ、その後ピン主体に軸体(押えネジ部)を螺合する構造にすれば、このような問題は生じないと思われる。しかし、軸体の皿ネジ状の頭部に工具掛け溝(ドライバー用の溝)を形成する必要があり、この工具掛け溝が外壁表面に露出し仕上げ状態が悪化することが想定される。
【0005】
本発明は、下穴に定着したアンカー本体に対し、下穴の開口部に頭部が嵌合するようにして押えネジ部を螺合させる構造において、頭部に工具掛け溝が無くても、押えネジ部をアンカー本体に適切に螺合することができる螺合治具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の螺合治具は、下穴に定着させたアンカー本体に対し、下穴の開口部に頭部が嵌合するようにして押えネジ部を螺合させるピンニング工法用の螺合治具であって、電動ドリルに装着される出力ロッド部と、出力ロッド部の先端に取り付けられ、押えネジ部の頭部に接触して電動ドリルの回転を押えネジ部に伝達する接触パッド部と、出力ロッド部に対し軸方向に進退自在に構成され、前進させた状態で、接触パッド部を囲繞すると共に押えネジ部の頭部を受容可能に構成された受容ガイド部と、を備えたことを特徴とする。

【0015】
この構成によれば、下穴に定着したアンカー本体に対し、押えネジ部をある程度ねじ込んでおくことを前提とするが、仕上げ材の表面から突出している押えネジ部に対し、受容ガイド部をガイドにして接触パッド部を容易に且つ安定的に接触させることができる。また、この状態で、出力ロッド部を介して接触パッド部を回転させることで、皿状の頭部を有する押えネジ部を、アンカー本体に適切にねじ込むことができる。このように、接触パッド部のアンカー本体への螺合を効率良く行うことができる。
【0016】
この場合、接触パッド部は、頭部の径よりも大きい径に形成されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、押えネジ部のねじ込みの最終段階で、接触パッド部の周縁部が仕上げ材に突き当たることとなる。このため、この段階で、接触パッド部による押えネジ部のねじ込みが規制される。すなわち、頭部の表面が仕上げ材の表面と面一となったところで、押えネジ部のねじ込みが自動的に終了する。したがって、外部に露出する頭部が目立たないように、押えネジ部をアンカー本体に簡単且つ適切に螺合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係るアンカーピンの施工状態における断面図である。
図2】第1実施形態に係るアンカーピンの分解図である。
図3】第1実施形態に係るアンカーピンのアンカー本体における打込み前の断面図(a)、および打込み後の断面図(b)である。
図4】第1実施形態の第1変形例に係るアンカー本体の構造図(a)、および第2変形例に係るアンカー本体の構造図(b)である。
図5】第1実施形態に係る螺合治具の構造図である。
図6】第2実施形態に係る螺合治具の構造図である。
図7】ピンニング工法の説明図(1)であって、施工手順1を表した図(a)、施工手順2を表した図(b)、施工手順3を表した図(c)である。
図8】ピンニング工法の説明図(2)であって、施工手順4を表した図(d)、施工手順5を表した図(e)、施工手順6を表した図(f)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係るピンニング工法用のアンカーピン(以下、単に「アンカーピン」と言う)、ピンニング工法およびこれに用いる螺合治具について説明する。このピンニング工法(アンカーピンニング工法)は、いわゆる「浮き」が生じた、既設建物の外壁や吹き抜け・ホールの内壁等の壁体を補修するものである。実施形態のものは、外壁の要補修箇所(浮き部)に穿孔した下穴に、アンカーピンを打ち込むと共に接着剤を注入し、仕上げ材をコンクリート躯体に接着剤固定および機械固定することで、外壁の補修を行うようにしている。
【0020】
[アンカーピン]
図1は、実施形態に係るアンカーピンの施工状態を表した断面図であり、図2は、アンカーピンの分解図である。図1に示すように、既設の外壁1は、コンクリート躯体2と仕上げ材3とから成り、仕上げ材3は、下地モルタル4、張付けモルタル5および装飾材であるタイル6により構成されている。この場合、装飾材は石材等であってもよいし、モルタルは、張付けモルタル5のみ或いは3層以上であってもよい。
【0021】
ここでは、コンクリート躯体2と下地モルタル4との間に第1浮き部7が、また張付けモルタル5とタイル6との間に第2浮き部8が生じているものとする。外壁1には、これを補修すべく、タイル6、張付けモルタル5および下地モルタル4を貫通し、且つコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔した下穴10が形成される。そして、この下穴10に対し、仕上げ材3を押さえるようにアンカーピン20が打ち込まれ、且つ接着剤Rを注入される。また、接着剤Rは、第1浮き部7および第2浮き部8に充填するように注入される。
【0022】
なお、下穴10は、仕上げ材3を貫通してコンクリート躯体2に対し、30mm程度の深さに穿孔される。また、下穴10の開口部10aは、アンカーピン20の頭部(後述する押えネジ部25の頭部26)を受容すべく面取りされる。また、接着剤Rとしては、セメントスラリーや樹脂接着剤(例えばエポキシ樹脂接着剤)が用いられる。
【0023】
図1および図2に示すように、アンカーピン20は、先端側に拡開部22を有し、下穴10にアンカリングされる円筒状のアンカー本体21と、開口部10a側から打ち込まれて、拡開部22を拡開させるコーン部23と、拡開部22とコーン部23との間に介設された拡張カラー24と、皿状の頭部26を有し、アンカー本体21に螺合する押えネジ部25と、を備えている。
【0024】
アンカー本体21を下穴10に挿入した状態で、コーン部23を打ち込むことにより、拡張カラー24を介して拡開部22を押し広げられ、アンカー本体21が下穴10にアンカリング(定着)される。この状態で、アンカー本体21に押えネジ部25を螺合することで、アンカー20を介して仕上げ材3がコンクリート躯体2に固定される。
【0025】
アンカー本体21は、筒状の本体筒状部31と、本体筒状部31の先端に連なる拡開部22とを有し、ステンレスやスチール等で一体に形成されている。本体筒状部31と拡開部22とは同径に形成され、下穴10の径よりも1mm程度細径に形成されている。アンカー本体21の長さは、下穴10のコンクリート躯体2に穿孔した部分の長さよりも幾分長く形成されており、押えネジ部25が仕上げ材3の厚みに対応すべく、長さの異なる複数種のものが用意されているのに対し、アンカー本体21は共通して用いられる。
【0026】
本体筒状部31には、その内周面に、押えネジ部25が螺合する雌ネジ31aが形成されている。一方、拡開部22には、先端から軸方向に切り込んだ複数(実施形態のものは2つ)の割スリット33が形成されている。2つの割スリット33は、周方向において180°点対称位置に配設され、拡開部22の径方向外側への拡開を許容する。なお、割スリット33の数は任意である。また、拡開部22は、軸方向に複数の絞り部位を有して凹凸形状に形成されたものであってもよい。
【0027】
コーン部23は、ステンレスやスチール等により、先細りのテーパー形状に形成されている。コーン部23の先端部は、拡張カラー24の基端部に嵌め込まれており、この状態で、コーン部23および拡張カラー24は、拡開部22に装着されている。開口部10a側からコーン部23を打ち込むと拡張カラー24が拡開し、さらに拡張カラー24が拡開することにより拡開部22が拡開する(図3(b)参照)。
【0028】
拡張カラー24は、ステンレスやスチール等により円筒状に形成され、コーン部23側から切り込んだ複数(実施形態のものは2つ)のスリット部35を有している。2つのスリット部35は、周方向において180°点対称位置に配設され、拡張カラー24の径方向外側への拡開を許容する。各スリット部35は基端側から全長の略2/3の位置まで軸方向に延びている。また、拡張カラー24は、軸方向において拡開部22より短い寸法に形成され、拡開部22に嵌合(添設)するように装着されている。なお、この場合のスリット部35の数や長さも任意である。
【0029】
図3に示すように、拡開部22に、コーン部23および拡張カラー24を装着したアンカー本体21は、その先端が下穴10の穴底10bに突き当たるように挿入される(図3(a)参照)。この状態で、コーン部23を打ち込むと、拡張カラー24が拡開すると共に、拡開した拡張カラー24により拡開部22が拡開する(図3(b)参照)。
【0030】
なお、コーン部23は、拡張カラー24に嵌め込んで或いはこの状態で弱く接着して、拡張カラー24に装着されていることが好ましい。また、拡張カラー24は、拡開部22に嵌め込んで或いはこの状態で弱く接着して、拡開部22に装着されていることが好ましい。
【0031】
押えネジ部25は、いわゆる皿ネジの基本形態を有し、ステンレスやスチール等で形成されている。すなわち、押えネジ部25は、面取りした開口部10aに嵌合する皿状の頭部26を有すると共に、軸部41の外周面に、アンカー本体21の雌ネジ31aに対応する雄ネジ41aを有している。頭部26の表面26aは、ドライバー用の溝等のない平坦面となっており、仕上げ材3の表面と同色に着色されている。すなわち、頭部26の表面26aには、タイル6と同色の焼付け塗装が施されている。そして、上述のように、押えネジ部25は、現場毎の仕上げ材3の厚みに対応すべく、長さの異なる複数種のものが用意されている
【0032】
コーン部23が打ち込まれたアンカー本体21に対し、下穴10の開口部10a側から押えネジ部25がねじ込まれるが、この押えネジ部25の螺合は、後述する螺合治具50A,50Bを用いて行われる。螺合治具50A,50Bにより、押えネジ部25をアンカー本体21に螺合すると、押えネジ部25の頭部26が面取りされた開口部10a嵌合し、頭部26の表面26aとタイル6の表面とが面一となる。これにより、押えネジ部25の頭部26は、タイル6と同化し極めて目立ち難いものとなる。
【0033】
[変形例]
ここで、図4(a)を参照して、第1変形例に係るアンカー本体21Aについて説明すると共に、図4(b)を参照して、第2変形例に係るアンカー本体21Bについて説明する。これら変形例のアンカー本体21A,21Bは、上記のような拡張カラー24がなく、その拡開部22は、コーン部23により直接拡開されるようになっている。
【0034】
図4(a)に示すように、第1変形例に係るアンカー本体21Aは、拡開部22において、周方向の複数箇所(実施形態のものは、3箇所)に、径方向に絞るように形成した絞り部45を有している。内方に凹となる3箇所の絞り部45は、周方向において均等配置されており、コーン部22は、3箇所の絞り部45の内面に接触して、拡開部22を押し広げる。この場合も、絞り部45の数は任意である。
【0035】
図4(b)に示すように、第2変形例に係るアンカー本体21Bは、拡開部22の外周面に拡張リング48が嵌め込まれている。この場合、拡張リング48は、割スリット33により先端側がすぼんだ状態とした拡開部22に、嵌め込むように装着されている。そして、拡張リング48の周方向の1箇所に切込み48aが設けられており、コーン部23は、拡開部22の内周面に接触し、拡開部22および拡張リング48を押し広げる。
【0036】
[螺合治具]
次に、図5を参照して、第1実施形態の螺合治具50Aについて説明すると共に、図6を参照して、第2実施形態の螺合治具50Bについて説明する。これらの螺合治具50A,50Bは。図示しない電動ドリルに装着して用いられるものであり、いずれも、平坦な頭部26を有する押えネジ部25を、頭部26の表面26aとタイル6の表面とが面一となるように、アンカー本体21にねじ込むものである。
【0037】
図5に示すように、第1実施形態の螺合治具50Aは、電動ドリルのチャック部に装着される出力ロッド部51と、出力ロッド部51の先端に取り付けられ、押えネジ部25の頭部26に接触して電動ドリルの回転を押えネジ部25に伝達する接触パッド部52と、出力ロッド部51に対し相対的に回転自在且つ軸方向に進退自在に構成された手持ち部53と、を備えている。そして、接触パッド部52を除く各構成部品は、ステンレスやスチール等で形成されている。
【0038】
出力ロッド部51は、電動ドリルに装着される被装着部55と、基端側を被装着部55に螺合したロッド部本体56と、ロッド部本体56の先端に連なるパッド取付け部57と、を有している。ロッド部本体56とパッド取付け部57とは一体に形成され、パッド取付け部57は、ロッド部本体56よりも太径に形成されている。そして、パッド取付け部57の先端側の端面には、同軸上において、接着等により接触パッド部52が取り付けられている。なお、パッド取付け部57は、接触パッド部52よりも僅かに太径に形成されている。
【0039】
接触パッド部52は、押えネジ部25の頭部26に直接接触する部位であり、ゴム等で構成されている。また、接触パッド部52は、押えネジ部25の頭部26よりも大きい径に形成されている。押えネジ部25をねじ込んでゆくと、頭部26が開口部10aに嵌合してゆく。このねじ込みの最終段階で、頭部26よりも大きい径に形成された接触パッド部52は、その周縁部が、仕上げ材3(タイル6)の表面に突き当たることとなる。すなわち、頭部26の表面26aがタイル6の表面と面一となったところで、押えネジ部25のねじ込みが自動的に規制されるようになっている。
【0040】
手持ち部53は、電動ドリルを手持ちした作業者がもう一方の手で、出力ロッド部51を支える部位であり、出力ロッド部51に対し相対的に回転自在に且つ進退自在に構成されている。手持ち部53は、被装着部55側の手持ち部本体61と、手持ち部本体61から延びる接触パッド部52側の受容ガイド部62と、で一体に形成されている。
【0041】
手持ち部本体61は、受容ガイド部62よりも十分に太径に形成され、その軸心にはロッド部本体56が貫通する貫通孔63が形成されている。そして、貫通孔63の一部には、ロッド部本体56を支持する軸受部位63aが設けられている。受容ガイド部62は、円筒状に形成され、その内径は、パッド取付け部57の外径と同径に形成されている。すなわち、手持ち部53に対し出力ロッド部51は、パッド取付け部57の対応する受容ガイド部62の内周面と、軸受部位63aとの2箇所で、回転自在且つ進退自在に支持されている。
【0042】
この場合、手持ち部53を前進させた状態では、受容ガイド部62の先端側が、接触パッド部52を囲繞すると共に押えネジ部25の頭部26を受容可能となっている。また、手持ち部53を後退させた状態では、受容ガイド部62の先端から接触パッド部52が突出するようになっている。
【0043】
詳細は後述するが、押えネジ部25をねじ込む場合には、手持ち部53を前進させておいて、押えネジ部25の頭部26を受容するようにして、受容ガイド部62の先端部をタイル6の表面に突き当てるようにする。この状態で、出力ロッド部51を回転させ、受容ガイド部62を相対的に後退させながら、押えネジ部25をねじ込むようにする。押えネジ部25の頭部26がタイル6の表面と面一になると、押えネジ部25がねじ込み不能となるため、ここで作業を終了する。
【0044】
図6に示すように、第2実施形態の螺合治具50Bは、電動ドリルに装着される出力ロッド部71と、出力ロッド部71の先端に取り付けられ、押えネジ部25の頭部26に接触して電動ドリルの回転を押えネジ部25に伝達する接触パッド部72と、出力ロッド部71の先端部に設けられ、出力ロッド部71に対し軸方向に進退自在に構成された受容ガイド部73と、受容ガイド部73と出力ロッド部71の基部側との間に渡され、受容ガイド部73を前方に付勢するバネ74と、を備えている。この場合も、接触パッド部72を除く各構成部品は、ステンレスやスチール等で形成されている。
【0045】
出力ロッド部71は、電動ドリルのチャック部に装着される被装着部75と、被装着部75の先端側に連なり、上記のバネ74を受けるバネ受け部76と、基端側をバネ受け部76に螺合したロッド部本体77と、ロッド部本体77の先端に連なるパッド取付け部78と、を有している。被装着部75とバネ受け部76とは一体に形成され、バネ受け部76は、被装着部75よりも太径に形成されている。同様に、ロッド部本体77とパッド取付け部78とは一体に形成され、パッド取付け部78は、ロッド部本体77よりも太径に形成されている。この場合も、上記と同様に、パッド取付け部78の先端側の端面には、接着等により接触パッド部72が取り付けられ、またパッド取付け部78は、接触パッド部72よりも僅かに太径に形成されている。
【0046】
接触パッド部72は、上記のものと同様にゴム等で構成され、押えネジ部25の頭部26よりも大きい径に形成されている。受容ガイド部73は、前進させた状態では、接触パッド部72を囲繞すると共に押えネジ部25の頭部26を受容可能なガイド部本体81と、ガイド部本体81の基端側に連なり、バネ74が当接されるバネ当接部82と、で一体に形成されている。ガイド部本体81の内径は、パッド取付け部78の外径と同径に形成される一方、バネ当接部82の内径は、ロッド部本体77の外径と同径に形成される。
【0047】
そして、ガイド部本体81の内周部とバネ当接部82の内周部との境界となる環状段部83が、パッド取付け部78の基端に当接されている。バネ74により、 環状段部83がパッド取付け部78に当接し、位置規制されている状態が、受容ガイド部73の前進端位置となっており、この状態で、受容ガイド部73(ガイド部本体81)の先端部が、接触パッド部72から突出し、押えネジ部25の頭部26を受容可能となっている。この状態から、受容ガイド部73をタイル6の表面に突き当て、バネ74に抗して出力ロッド部71を前進させると、接触パッド部72が前進する。
【0048】
詳細は後述するが、この場合も、押えネジ部25をねじ込む場合には、先ず押えネジ部25の頭部26を受容するようにして、受容ガイド部73の先端部をタイル6の表面に突き当てるようにする。この状態で、出力ロッド部71を回転させ、受容ガイド部73を相対的に後退させながら、押えネジ部25をねじ込むようにする。押えネジ部25の頭部26がタイル6の表面と面一になると、押えネジ部25がねじ込み不能となるため、ここで作業を終了する。
【0049】
なお、これらの実施形態において、接触パッド部52,72を押えネジ部25の頭部26よりも大きい径に形成することで、ねじ込みにおいて、頭部26の表面がタイル6の表面と面一になるようにしている。この点において、パッド取付け部57,78の先端面と、受容ガイド部62,73の先端面とが面一になったところで、受容ガイド部62,73の後退端位置を規制するようにすれば、上記と同様に、ねじ込みにおいて、頭部26の表面がタイル6の表面と面一にすることが可能となる。
【0050】
[ピンニング工法]
次に、図7および図8を参照して、アンカーピン20を用いたピンニング工法について説明する。
このピンニング工法は、外壁1の要補修箇所に対し、下穴10を穿孔する穿孔工程(図7(a))と、押えネジ部25の頭部26が嵌合するように下穴10の開口部10aを面取りする面取り工程(図7(b))と、下穴10に、アンカー本体21、コーン部23および拡張カラー24を挿入する挿入工程(図7(c))と、コーン部23を打ち込んで、アンカー本体21の拡開部22を拡開させる打込み工程(図8(d))と、下穴10に、接着剤Rを注入する注入工程(図7(e))と、コーン部23を打ち込んだアンカー本体21に、押えネジ部25を螺合する螺合工程(図8(f))と、を備えている。なお、穿孔工程に先立って、外壁1を打鍵して下穴10の穿孔位置(浮き部)を探知し、該当箇所のタイル6の中心位置にマーキングを行っておく。
【0051】
図7(a)の穿孔工程では、穿孔装置91を用いて下穴10を穿孔する。穿孔装置91は、電動ドリルにダイヤモンドビット92を装着して構成されている。ダイヤモンドビット92をタイル6のマーキング箇所に宛がい、電動ドリルによりダイヤモンドビット92を回転させて穿孔を行う。穿孔は、タイル6に対し直角に、且つ仕上げ材3を貫通してコンクリート躯体2を所定の深さに達するように行う。なお、この穿孔では、ダイヤモンドビット92に冷却液を供給することが好ましい。
【0052】
図7(b)の面取り工程では、球形の研削ビット93を用い、下穴10の開口部10aを面取りする。この面取りでは、タイル6に形成された開口部10aが半球面状に面取りされる。 なお、球形の研削ビット93に代えて、円錐台形状の研削ビットを用いてもよい。
【0053】
図7(c)の挿入工程では、コーン部23および拡張カラー24を装着したアンカー本体21を、下穴10の穴底10bに達するように挿入する。実施形態のものでは、アンカー本体21の下穴10に押入れ、その後、後述する打込み工具96(打込み棒)を用いて、アンカー本体21をその先端が穴底10bに達するように押し込むようにする。この場合、打込み工具96を軽く叩いて、アンカー本体21を押し込むようにしてもよい。このようにして、アンカー本体21を下穴に挿入すると、アンカー本体21および拡張カラー24が下穴10の穴底10bに突き当たった状態となる。
【0054】
図8(d)の打込み工程では、打込み工具96をアンカー本体21内のコーン部23に突き当て、打込み工具96を叩いて、コーン部23を打ち込む。コーン部23を打ち込むと、拡張カラー24が基端側から拡開してゆき、同時に拡張カラー24から拡開力を受けた拡開部22が外方に拡開する。これにより、拡開部22が下穴10の周壁に喰い込み(実際には、強く圧接される。)、アンカー本体21が下穴10にアンカリング(定着)される。
【0055】
図8(e)の注入工程では、手動式の樹脂注入器94を用い、その注入ノズル95を下穴10に差し込み、ポンピングを行う。この場合、注入ノズル95の先端を打ち込んだコーン部23に突き当てると共に、開口部10aを封止した状態で、ポンピングを行う。このポンピングにより、注入ノズル95から吐出された接着剤Rは、下穴10の最奥部から充填されてゆき、さらに第1浮き部7および第2浮き部8に充填される。また、アンカー本体21、コーン部23および拡張カラー24は、接着剤R内に没することとなる。
【0056】
図8(f)の螺合工程では、先ず押えネジ部25を下穴10に挿入し、下穴10の奥に定着されているアンカー本体21に軽くねじ込む。具体的には、頭部26を残して軸部41が下穴10に没する程度に、押えネジ部25をアンカー本体21にねじ込んでおく。ここで、電動ドリルに装着した螺合治具50Aを用い、頭部26が開口部10aに嵌合するように、押えネジ部25をアンカー本体21に螺合する。
【0057】
具体的には、電動ドリルを持ち、且つ手持ち部53を前進させておいて、受容ガイド部62を、押えネジ部25の頭部26を受容するようにあてがう。このようにして狙いを定めたら、出力ロッド部51を回転させ且つ押圧(前進)して、押えネジ部25をねじ込んでゆく。頭部26の表面26aがタイル6の表面と面一になると、出力ロッド部51の前進が規制され、押えネジ部25がねじ込み不能となる。言うまでもないが、押えネジ部25は、接着剤Rが付着したアンカー本体21に螺合することとなる。このようにして、ねじ込み作業を終了したら、接着剤Rの硬化を待つ。
【0058】
なお、本実施形態では、接着剤Rの注入工程を、打込み工程と螺合工程との間において行うようにしたが、面取り工程と挿入工程の間で行うようにしてもよい。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、コーン部23を直接打ち込んでアンカー本体21を下穴10に定着させるようにしているため、アンカー本体21に打込みの打撃が直接作用することがなく、アンカー本体21の無用な変形を抑制しつつ、その拡開部22を確実且つ適切に拡開することができる。また、定着したアンカー本体21に対し押えネジ部25を螺合するようにしているため、打ち込みを行う必要がなく、仕上げ材3(タイル6)の損傷を有効に防止することができる。しかも、アンカー本体21に螺合した押えネジ部25の頭部26が、面取りした開口部10aに嵌合するため、開口部10a廻りのタイル6の強度を損なうことなく、これを適切に押さえることができる。そして、コンクリート躯体2に対し仕上げ材3(タイル6)は、下穴10に注入された接着剤Rにより固定され、且つアンカーピン20により機械的に固定されることとなる。
【0060】
また、アンカー本体21に対し押えネジ部25は、その頭部26の表面26aが仕上げ材3(タイル6)の表面と面一となるように螺合されるため、タイル6の表面と同色に着色された頭部26を、極めて目立ち難いものとすることができる。したがって、外壁1の意匠性を損なうことがない。
【符号の説明】
【0061】
1…外壁、2…コンクリート躯体、3…仕上げ材、6…タイル、10…下穴、10a…開口部、10b…穴底、20…アンカーピン、21,21A,21B…アンカー本体、22…拡開部、23…コーン部、24…拡張カラー、25…押えネジ部、26…頭部、26a…表面、31…本体筒状部、31a…雌ネジ、35…スリット部、41…軸部、41a…雄ネジ、50A,50B…螺合治具、51,71…出力ロッド部、52,72…接触パッド部、53…手持ち部、62,73…受容ガイド部、74…バネ、R…接着剤
図1
図2
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図8