(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240129BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/01 301
(21)【出願番号】P 2019085962
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-04-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 健太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 亘
(72)【発明者】
【氏名】池邉 儀裕
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009904(WO,A1)
【文献】特開2005-297311(JP,A)
【文献】特開2013-202885(JP,A)
【文献】特開2003-218494(JP,A)
【文献】米国特許第05363134(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための素子を有する素子基板を備えた液体吐出ヘッドであって、
第1の記憶素子と、第2の記憶素子とを有し、
前記第1の記憶素子は、ヒューズ素子またはアンチヒューズ素子であり、
前記第2の記憶素子は、前記第1の記憶素子が保持できる容量よりも大きい容量を保持できる半導体メモリであり、
前記第1の記憶素子は、前記素子基板に設けられており、
前記第2の記憶素子は、前記素子基板以外の領域
であって、前記素子基板とは電気的に独立している第2の電気配線基板に設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1の記憶素子と電気的に接続される第1の端子を備える第1の電気配線基
板をさらに有する請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液体吐出ヘッドは、筐体を有し、
前記第2の電気配線基板は、前記第2の記憶素子と電気的に接続される第2の端子を有し、
前記第1の端子および前記第2の端子は、前記筐体の同一の面の側に配置されている請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1の電気配線基板および前記第2の電気配線基板は、フレキシブル基板である請求項2または請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第2の電気配線基板は、前記液体吐出ヘッドが記録装置本体に装着される姿勢において、前記第1の電気配線基板の鉛直上方向に配置されている請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記筐体は、前記第2の記憶素子が配置される側の面に第1の凹部を有し、
前記第2の記憶素子は、前記第1の凹部に挿入されている請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記筐体は、前記同一の面に第2の凹部を有し、
前記第1の電気配線基板の、前記第1の電気配線基板が備える配線が露出している側の端部は、前記第2の凹部の開口の端部から突出しており、
前記第2の電気配線基板の、前記第2の電気配線基板が備える配線が露出している側の端部は、前記第2の凹部の前記開口の端部から突出している請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
液体吐出ヘッドの製造方法であって、
ヒューズ素子またはアンチヒューズ素子である第1の記憶素子を備えた素子基板であって、液体を吐出するための素子基板を用意する工程と、
前記素子基板を検査する工程と、
前記検査する工程の後に、前記第1の記憶素子が保持できる容量よりも大きい容量を保持できる半導体メモリである第2の記憶素子を、前記素子基板以外の領域
であって、前記素子基板とは電気的に独立している第2の電気配線基板に取り付ける工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記取り付ける工程の後に、前記第1の記憶素子に記憶された情報を前記第2の記憶素子に書き込む請求項8に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記第1の記憶素子と電気的に接続される第1の端子を備える第1の電気配線基
板をさらに有する請求項8または請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記液体吐出ヘッドは、筐体を有し、
前記第2の電気配線基板は、前記第2の記憶素子と電気的に接続される第2の端子を有し、
前記第1の端子および前記第2の端子は、前記筐体の同一の面の側に配置されている請求項10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記第1の電気配線基板および前記第2の電気配線基板は、フレキシブル基板である請求項10または請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記筐体は、前記第2の記憶素子が配置される側の面に第1の凹部を有し、
前記取り付ける工程において、前記第1の凹部に前記第2の記憶素子を挿入する請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記取り付ける工程において、前記第1の凹部に封止材を注入した後に、該第1の凹部に前記第2の記憶素子を挿入する請求項13に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記筐体は、前記同一の面に第2の凹部を有し、
前記素子基板を用意する工程の後に、前記第1の電気配線基板を、前記第1の電気配線基板が備える配線が露出している側の端部が前記第2の凹部の開口から突出するように前記筐体の同一の面に配置し、
前記取り付ける工程において、前記第2の電気配線基板を、前記第2の電気配線基板が備える配線が露出している側の端部が前記第2の凹部の前記開口から突出するように前記筐体の同一の面に配置する請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、液体を吐出するための素子などの液体吐出機構の駆動特性といった液体吐出ヘッド固有の情報を液体吐出ヘッドに保持させるため、素子基板にROM(Read Only Memory)を搭載することが知られている。液体吐出ヘッド毎に液体吐出機構の駆動特性は異なるため、素子基板が搭載するROMを用いることにより、ROMに記憶された液体吐出ヘッド固有の情報に基づいて、吐出のための最適な駆動を行うための補正を液体吐出ヘッド毎にすることが可能となる。
【0003】
特許文献1においては、液体吐出ヘッドの素子基板に、ROMとなるヒューズ素子を形成することが開示されている。このヒューズ素子を選択的に溶断すれば、その溶断の有無により、二値データを液体吐出ヘッドに保持させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の素子基板が搭載しているヒューズ素子などは保持できる記憶容量が小さい。そのため、液体吐出ヘッド自身のIDコードなどの大容量のデータを記憶させるためにはより多くのヒューズ素子を素子基板に搭載しなければならない。そのため、素子基板が大型化してしまう恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、素子基板が大型化することを抑制しつつ、液体吐出ヘッドが保持できる情報の容量を増加させることができる液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、液体を吐出するための素子を有する素子基板を備えた液体吐出ヘッドであって、第1の記憶素子と、第2の記憶素子とを有し、前記第1の記憶素子は、ヒューズ素子またはアンチヒューズ素子であり、前記第2の記憶素子は、前記第1の記憶素子が保持できる容量よりも大きい容量を保持できる半導体メモリであり、前記第1の記憶素子は、前記素子基板に設けられており、前記第2の記憶素子は、前記素子基板以外の領域であって、前記素子基板とは電気的に独立している第2の電気配線基板に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、素子基板が大型化することを抑制しつつ、液体吐出ヘッドが保持できる情報の容量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
(液体吐出ヘッド)
本実施形態に係る液体吐出ヘッドについて、
図1、
図6および
図7を参照しながら説明する。
図1(a)は本実施形態に係る液体吐出ヘッド1を素子基板11の側から見たときの外観斜視図であり、
図1(b)は蓋部材15の側から見たときの外観斜視図である。
図6(a)は筐体14の面20を示す平面図であり、第1の電気配線基板12や第2の電気配線基板17等は省略している。
図6(b)は、
図6(a)に示すA―A断面を示す図である。液体吐出ヘッド1は、主に、液体を吐出する素子基板11、素子基板11と電気的に接続された第1の電気配線基板12、第2の電気配線基板17、筐体14および蓋部材15から構成されている。第1の電気配線基板12には第1の端子13が設けられており、記録装置本体からの電気信号は第1の端子13を介して素子基板11に伝達される。第2の電気配線基板17には、第2の記憶素子として半導体メモリ(ICメモリ)19(
図4)が取り付けられており、記録装置本体と半導体メモリ19との電気的なやり取りは、第2の電気配線基板17に設けられた第2の端子18を介して行う。素子基板11、第1の電気配線基板12および第2の電気配線基板17は、筐体14に接合されている。筐体14の内部には液体が貯留されており、この液体が素子基板11に供給されることで、素子基板11に設けられた吐出口から液体が吐出される。
【0012】
詳しくは後述するが、素子基板11には第1の記憶素子としてヒューズ素子またはアンチヒューズ素子が設けられる。後述する
図2においては、第1の記憶素子としてヒューズ素子22を搭載した素子基板11を示した。また、情報を記憶できるものとして、ヒューズ素子22のほかに、前述した半導体メモリ19が筐体14に取り付けられている。これにより、より多くのヒューズ素子22を素子基板11に搭載しなくとも、液体吐出ヘッド1は大容量の情報を保持することが可能となる。したがって、本発明によれば、素子基板11が大型化することを抑制しつつ、液体吐出ヘッドが保持できる情報の容量を増加させることができる。第2の記憶素子としては半導体メモリ19を用いるのは、半導体メモリが体積あたりの記憶密度が高く、また振動にも強いためである。
【0013】
第2の電気配線基板17は、第1の電気配線基板12の第1の端子13が配置されている筐体14の面と同一の面、即ち面20に載置されている。これにより、第1の端子13と第2の端子18が筐体14の同一の面側に配置されることになるため、液体吐出ヘッド1を記録装置本体に装着する際の、記録装置本体の第1の端子13および第2の端子18と接触する箇所の構成を簡易にすることができる。なお、本実施形態においては、半導体メモリ19を面20に設けたが本発明はこれに限られない。即ち、半導体メモリ19が素子基板以外の領域素子基板素子基板に設けられていればよい。素子基板以外の領域とは、素子基板上や素子基板の内部ではない領域を意味する。また、液体吐出ヘッド1が記録装置本体に装着される姿勢(素子基板の吐出口が形成されている面が鉛直下方向に面する姿勢)において、第2の電気配線基板は第1の電気配線基板の鉛直上方向に配置されている。第1の電気配線基板12は、筐体14の形状に沿って曲げられる加工しやすい部材を用いている。
【0014】
図6に示すように、筐体14には、半導体メモリ19が搭載される位置の部分に第1の凹部2が形成されていることが好ましい。この第1の凹部2に半導体メモリ19を挿入することにより、半導体メモリ19の箇所が面20に対して突出してしまうことを抑制することができるからである。仮に、半導体メモリ19の箇所が面20に対して突出していると、記録装置本体と液体吐出ヘッドとを安定して嵌めあうためには記録装置本体側の構成をその突出部分に合うように調整しなければならない。しかしながら、第1の凹部2に半導体メモリ19を挿入することにより面20はほぼ平面となり、液体吐出ヘッドと嵌めあう部分の記録装置本体側の構成を簡易にすることができる。また、第1の凹部2に封止材を注入し、その状態の第1の凹部2に半導体メモリ19を挿入することがより好ましい。これにより、半導体メモリ19は封止材で封止されるため、液体が半導体メモリ19に触れることを抑制することができる。また、第1の凹部2に封止材を注入することで、半導体メモリ19を仮止めする効果もある。
【0015】
図7(a)は
図1(a)に示す領域Bの拡大図であり、
図7(b)は
図7(a)に示すC-C断面の概略図である。素子基板11から吐出された液体は、第1の電気配線基板12の端5(
図1)を伝って第1の電気配線基板17の端部6まで這い上がる場合がある。ここで、第1の電気配線基板12としては、主にフレキシブル基板(FPC)が用いられることが多く、フレキシブル基板の端部6にはフレキシブル基板中の配線が露出している箇所がある。したがって、このようなフレキシブル基板に素子基板11からの液体が伝ってくると、フレキシブル基板の端部6に液体が接触する場合があり、フレキシブル基板の動作の不調につながる恐れがある。
【0016】
そこで、本実施形態においては、フレキシブル基板の配線が露出している側(第1の端子13が配置されている側)の端部6に相当する位置の筐体14に、第2の凹部4を形成することが好ましい。これにより、
図7(b)に示すように、フレキシブル基板の端部6が第2の凹部4の開口7の端部から開口7の内側に向かって突出して宙に浮くような形となる。よって、フレキシブル基板の端5を液体が伝ってきたとしても、液体の這い上がりは第2の凹部4の開口7の端部で止まり、フレキシブル基板の端部6に液体が接触することを抑制することができる。
【0017】
さらに、第2の電気配線基板17にフレキシブル基板(FPC)を用いる場合にも同様のことがいえる。つまり、
図7(b)に示すように、第2の電気配線基板17の配線が露出している側(第1の電気配線基板に近い側)の端部を第2の凹部4の開口7の端部から開口7の内側に向かって突出するように第2の電気配線基板17を配置する。これにより、第2の電気配線基板17に液体が接触することを抑制することができる。仮に、第2の電気配線基板17の端部が開口7の端部から突出しておらず、開口7の近傍に配置されている場合には、素子基板11からの液体が第2の電気配線基板17の端部に接触する恐れがある。これは、素子基板11から第1の電気配線基板12の端5を伝って開口7に流動してきた液体が開口7の縁に沿って流動し、第2の電気配線基板17の端部にまで到達する場合があるためである。
【0018】
なお、第2の電気配線基板17の端部に液体が接触しないように、第2の凹部4とは異なる凹部を第2の電気配線基板17の端部の下に設けてもよい。しかしながら、その場合には、筐体14の面20には、凹部2および凹部4(第2の凹部)を含む、合計3つの凹部を形成しなければならなくなり、筐体14が大型化してしまう恐れがある。したがって、第2の電気配線基板17を、その端部が第2の凹部4の開口7の端部から突出するように面20に配置し、第2の電気配線基板17の端部の下に設けるべき凹部と第1の電気配線基板の端部6の下に設けるべき凹部を共通化することが好ましい。これにより、筐体14が大型化してしまうことを抑制することができる。
【0019】
また、上述したように、本実施形態では情報を記憶できる素子として、ヒューズ素子22と半導体メモリ19の2つがあるため、半導体メモリ19には、液体吐出ヘッドのIDコードや製造日、液体残量などの情報を書き込めばよい。そして、ヒューズ素子22には、詳しくは後述するが、液体吐出ヘッドの製造工程内で測定する液体吐出ヘッド固有の情報のみを書き込めばよい。このように、ヒューズ素子22に記憶させる情報を限定することで、ヒューズ素子22の容量を節約することができる。また、第1の電気配線基板と第2の電気配線基板の、2つの電気配線基板を用意するのは、後述する液体吐出ヘッドの製造工程の最終工程近くで半導体メモリ19を液体吐出ヘッドに搭載させたいからである。
【0020】
(素子基板)
本実施形態に係る素子基板11について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、本実施形態に係る素子基板11の概略図である。素子基板11は、主に、素子21、ヒューズ素子22、温度センサ23、電極パッド24および液体供給口25から構成されている。液体供給口25は、素子基板11のほぼ中央部に形成されており、その両脇に複数の素子21が配置されている。素子21は駆動信号に応じて液体を加熱して液体中に気泡を生じさせ、気泡の発泡圧力により不図示の吐出口から液滴を吐出する。
【0021】
駆動信号は、記録装置本体から、電極パッド24と第1の電気配線基板12に設けられた第1の端子13とを介して素子基板11に送られる。ヒューズ素子22は、
図2においては3つ設けられており、
図3にそのヒューズ素子22の拡大図を示す。ヒューズ素子22は、配線の幅が狭い領域3を有しており、ヒューズ素子22に電圧を印加すると領域3が溶断する。この溶断の有無により、ヒューズ素子22に電流が流れるか否かの2値データを記憶させることができる。なお、素子基板11に搭載される記憶素子としてヒューズ素子22を示したが、アンチヒューズ素子を素子基板11に搭載してもよい。アンチヒューズ素子とは、情報が書き込まれる前には第1の抵抗値を持ち、情報が書き込まれた後には、第1の抵抗値よりも小さい第2の抵抗値を持つような素子である。第1の抵抗値は大きいほうが好ましい。理想的には、第1の抵抗値は無限大であってもよい。また、第1の抵抗値と第2の抵抗値との差が大きいほうが好ましい。例えば、アンチヒューズ素子は、情報が書き込まれる前は、容量素子として機能し、情報書き込み後は、抵抗素子として機能する。
【0022】
(第2の電気配線基板)
第2の記憶素子(ここでは半導体メモリ)は、素子基板以外の領域に設ければよいが、液体吐出ヘッドが上述の第1の電気配線基板とは別の第2の電気配線基板を有し、この第2の電気配線基板に第2の記憶素子を設けることが好ましい。第2の電気配線基板17について、
図4を参照しながら説明する。
図4は、第2の電気配線基板17を裏側から見た際の概略図である。第2の電気配線基板17に搭載されている半導体メモリ19の記憶容量は、ヒューズ素子22の記憶容量よりも大きくなっている。これにより、詳しくは後述するが、ヒューズ素子22に記憶された情報以外の情報も半導体メモリ19に記憶することができるため、液体吐出ヘッドにより多くの情報を保持させたいときに好ましい。第2の端子18と半導体メモリ19は、第2の電気配線基板17内に設けられた配線で接続されている。この接続ははんだ等で行われるため、第2の電気配線基板17の部材は第1の電気配線基板12の部材とは異なっており、比較的耐熱性が高い部材を用いることが好ましい。
【0023】
(製造工程)
液体吐出ヘッドの製造工程について、
図5を参照しながら説明する。
図5は、液体吐出ヘッドの製造工程を示すフローチャートである。まず、ヒューズ素子22を備えた素子基板11を用意する(工程1)。ここで、素子基板11には既に吐出口を有する吐出口部材等が形成されている。次に、素子基板11の電極パッド24と第1の電気配線基板12とを、例えば、ワイヤーボンディング法により電気接続する(工程2)。次に、電気接続された素子基板11と第1の電気配線基板12を筐体14に接着剤を用いて接合する(工程3)。
【0024】
この時点では、比較的高価である半導体メモリ19は液体吐出ヘッドには搭載させない。液体吐出ヘッドの製造工程では、製造途中で不良となってしまう液体吐出ヘッドが存在する。その原因の例としては、液体の吐出が乱れてしまう吐出不良や、正常な電気動作ができなくなってしまう電気不良などであり、このような液体吐出ヘッドは正常動作しないため出荷ができない。したがって、仮に半導体メモリ19がこの時点で筐体14に取り付けられていると、半導体メモリ19自体は正常であるにもかかわらず、半導体メモリ19もろとも液体吐出ヘッドを廃棄しなくてはならない。すなわち、コスト的に不利になってしまう。そのため、製造工程の比較的初期においては、半導体メモリ19は筐体14には搭載しない。
【0025】
次に、第1の端子13から電気信号を素子基板11に与えて、液体吐出ヘッドの電気検査を行う(工程4)。この過程で、素子基板11に配置されている温度センサ23の特性も測定する。温度センサ23の特性は液体吐出ヘッド毎に異なるため、温度センサ23の特性を測定することによって、その液体吐出ヘッドの固有の温度補正値を算出し、各液体吐出ヘッド1のヒューズ素子22に温度センサ特性データを書き込む。この温度センサの特性データを記録装置本体が読み取ることで、温度センサ23の出力値を補正し、液体吐出ヘッド1を最適な温度で記録装置本体が制御することができる。このように、液体吐出ヘッドの製造工程で、その液体吐出ヘッド固有のデータの測定と同時に、そのデータを液体吐出ヘッド1の素子基板11に記憶させることができる。この点が、ヒューズ素子22のメリットである。
【0026】
次に、筐体14の内部に液体吸収体を挿入し、その液体吸収体に液体(インク)を注入したのち、蓋部材15で筐体14の蓋をする。その後、注入した液体を吐出口から吸引等することにより、素子基板11の吐出口まで液体を導入し、液体を吐出可能な状態にする(工程5)。
【0027】
次に、吐出検査を行う(工程6)。吐出検査では、実際に液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出し、吐出不良がないか否かを確認するとともに、液体の吐出に最適な素子21の駆動特性を測定する。この素子21の駆動特性も液体吐出ヘッド固有のデータであるため、測定と同時にこのデータを素子基板11内のヒューズ素子22に記憶させる。実際に吐出口から液体を吐出する際には、この素子21の駆動特性を記録装置本体が読み出すことにより、素子21に供給する駆動電圧を調整することができる。
【0028】
その後、吐出口面を保護するための保護テープを吐出口面に貼る(工程7)。その後、半導体メモリ19を搭載した第2の電気配線基板17を液体吐出ヘッド1に搭載する(工程8)。半導体メモリが配置された第2の電気配線基板17は、第1の電気配線基板12の第1の端子13が位置している筐体14の面20に、熱カシメ等によって固定する。このとき、筐体に前述した凹部2が形成されている場合には、凹部2に封止材を注入した後に、凹部2に半導体メモリ19を挿入して、筐体14に半導体メモリ19を取り付ける。そして、素子基板11内のヒューズ素子22から、液体吐出ヘッドの固有の情報である温度センサ23の特性データおよび素子21の特性データを読み出す。読み出したデータを第2の電気配線基板17の第2の端子18を介して半導体メモリ19に書き込む。この際に、ヒューズ素子22で記憶されていたデータ以外にも、液体吐出ヘッドのIDコードなど情報量の多い情報も半導体メモリ19に書き込む。これは、ヒューズ素子22に比べて記憶容量が多い半導体メモリ19を使うため、液体吐出ヘッドの固有データ以外の情報も書き込むことが可能となるためである。
【0029】
最後に、半導体メモリ19を搭載した液体吐出ヘッドを梱包材で梱包することにより、液体吐出ヘッドの製造が完了となる。以上のような製造方法により製造された液体吐出ヘッドは、製造工程で測定した液体吐出ヘッド固有の情報のみを素子基板内のヒューズ素子に記憶させるので、素子基板のサイズが大きくなることを抑えることができる。また、一連の製造工程の最終工程近くで大容量の半導体メモリを搭載することにより、良品と判断された液体吐出ヘッドにのみ半導体メモリ19を搭載できるため、コストを抑えることができる。さらに、半導体メモリ19に比べてヒューズ素子22に情報を書き込む時間は長くかかる。そのため、液体吐出ヘッドのIDコード等の容量の大きな情報は半導体メモリ19に記憶し、温度センサ23の特性データのような最小限の情報のみをヒューズ素子22に記憶させることで、製造時間の短縮にもつながる。
【0030】
なお、本実施形態の以上の記載においては、ヒューズ素子22の情報を半導体メモリ19に書き写したが、記録装置本体のデータ読み出し回路がヒューズ素子22と半導体メモリ19の両方からデータを読み出せる場合は書き写す必要はない。その場合は半導体メモリ19の容量の節約となり、他の情報を書き込むことが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
1 液体吐出ヘッド
11 素子基板
14 筐体
19 第2の記憶素子
21 素子
22 第1の記憶素子