(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】切断用定規
(51)【国際特許分類】
B25H 7/02 20060101AFI20240129BHJP
B26B 29/06 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B25H7/02 Z
B26B29/06
(21)【出願番号】P 2019148843
(22)【出願日】2019-08-14
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【氏名又は名称】村瀬 成康
(72)【発明者】
【氏名】須賀 浩誉
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-141095(JP,U)
【文献】実開平02-058995(JP,U)
【文献】実開昭63-070394(JP,U)
【文献】特開2015-150714(JP,A)
【文献】実開昭57-128489(JP,U)
【文献】実開昭60-021901(JP,U)
【文献】特開2011-045455(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0178482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25H 7/02
B26B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
x方向の長さLxとx方向に直交するy方向の長さLyの第1矩形部を含む底板と、
x方向に延びる接合線に沿って前記底板と固定され、x方向の長さLxと、前記底板に対して傾斜角θを成し且つ前記接合線に直交する方向の長さLzを有する第2矩形部を含む上板と、
前記底板と前記上板との間に形成される受容空間を介して互いに対向するように前記底板および前記上板に接合された一対の側板と、
前記底板の裏面に、前記接合線に沿って固定された当接部材と、
前記上板に固定され、刃先をx方向に導くガイド辺を有する定規部と
を備え、
前記底板は、前記裏面に前記当接部材
の肉厚部が存在する当接領域と、前記当接領域よりも前記接合線に近い領域とを含む第1領域、および、前記第1領域よりも前記接合線から遠い第2領域とを有し、
被切断シート上に前記ガイド辺を配置した状態で、前記受容空間に挿入した手で、前記底板の第1領域を押圧したときには、前記ガイド辺が前記被切断シートに接触し、前記底板の前記第2領域を押圧したときには、前記ガイド辺が前記被切断シートから離間するように、前記当接部材は、厚さが最も大きい
前記肉厚部を、前記底板の裏面の、前記接合線からの長さがLy/2よりも小さい位置に有している、切断用定規。
【請求項2】
前記当接部材のy方向の長さはLyより小さい、請求項1に記載の切断用定規。
【請求項3】
前記当接部材の裏面は下に凸の曲面を有している、請求項1または2に記載の切断用定規。
【請求項4】
前記上板および前記一対の側板は透明な高分子材料で形成されている、請求項1から3のいずれかに記載の切断用定規。
【請求項5】
前記透明な高分子材料はポリ塩化ビニルである、請求項4に記載の切断用定規。
【請求項6】
前記底板および前記上板は一体に形成されている、請求項1から5のいずれかに記載の切断用定規。
【請求項7】
前記傾斜角θは40°以上60°以下である、請求項1から6のいずれかに記載の切断用定規。
【請求項8】
Lzは100mm以上120mm以下である、請求項1から7のいずれかに記載の切断用定規。
【請求項9】
前記定規部はスチール製の物差しを含む、請求項1から8のいずれかに記載の切断用定規。
【請求項10】
質量が400g以下である、請求項1から9のいずれかに記載の切断用定規。
【請求項11】
前記上板の上端部および前記底板の端部の形状は直線状ではない、請求項1から10のいずれかに記載の切断用定規。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙、金属箔、プラスチックフィルム、布(ガラスクロスなど含む)などのシートの切断に好適に用いられる切断用定規に関する。
【背景技術】
【0002】
紙などのシートを定規に沿ってカッターナイフで切断する際、手を傷つけるおそれがある。耐切創手袋を付けると手は守られるが、手袋およびシートの形態によっては作業効率が低下する。
【0003】
そこで、特許文献1には、金属製の基板と、基板のカッター案内辺に沿って延びる保護板とを有する切断用定規が開示されている。保護板は、基板から離間して延設された仕切り部を有し、仕切り部の端部はカッター案内辺側に向けて折り曲げられている。切断時には、基板と仕切り部との間に指を入れ、基板の上面を押える。切断中にカッターナイフが滑っても、保護板が指を保護する。カッターナイフが保護板に乗り上げても、折り曲げられている端部によって、カッターナイフが仕切り部を乗り越えて、指を傷つけることを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の切断用定規を用いても、基板を押える指が保護板で保護されていない領域にはみ出した状態で作業する可能性があり、そのような場合には、指が傷つけられるおそれがあった。
【0006】
本発明は、少なくとも上記の問題を解決することができる、安全性が一層高められた切断用定規を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態によると、以下の項目に記載の解決手段が提供される。
[項目1]
x方向の長さLxとx方向に直交するy方向の長さLyの第1矩形部を含む底板と、
x方向に延びる接合線に沿って前記底板と固定され、x方向の長さLxと、前記底板に対して傾斜角θを成し且つ前記接合線に直交する方向の長さLzを有する第2矩形部を含む上板と、
前記底板と前記上板との間に形成される受容空間を介して互いに対向するように前記底板および前記上板に接合された一対の側板と、
前記底板の裏面に、前記接合線に沿って固定された当接部材と、
前記上板に固定され、刃先をx方向に導くガイド辺を有する定規部と
を備え、
前記底板は、前記裏面に前記当接部材の前記肉厚部が存在する当接領域と、前記当接領域よりも前記接合線に近い領域とを含む第1領域、および、前記第1領域よりも前記接合線から遠い第2領域とを有し、
被切断シート上に前記ガイド辺を配置した状態で、前記受容空間に挿入した手で、前記底板の第1領域を押圧したときには、前記ガイド辺が前記被切断シートに接触し、前記底板の前記第2領域を押圧したときには、前記ガイド辺が前記被切断シートから離間するように、前記当接部材は、厚さが最も大きい肉厚部を、前記底板の裏面の、前記接合線からの長さがLy/2よりも小さい位置に有している、切断用定規。
[項目2]
前記当接部材のy方向の長さはLyより小さい、項目1に記載の切断用定規。
[項目3]
前記当接部材の裏面は下に凸の曲面を有している、項目1または2に記載の切断用定規。
[項目4]
前記上板および前記一対の側板は透明な高分子材料で形成されている、項目1から3のいずれかに記載の切断用定規。
[項目5]
前記透明な高分子材料はポリ塩化ビニルである、項目4に記載の切断用定規。
[項目6]
前記底板および前記上板は一体に形成されている、項目1から5のいずれかに記載の切断用定規。
[項目7]
前記傾斜角θは40°以上60°以下である、項目1から6のいずれかに記載の切断用定規。
[項目8]
Lzは100mm以上120mm以下である、項目1から7のいずれかに記載の切断用定規。
[項目9]
前記定規部はスチール製の物差しを含む、項目1から8のいずれかに記載の切断用定規。
[項目10]
質量が400g以下である、項目1から9のいずれかに記載の切断用定規。
[項目11]
前記上板の上端部および前記底板の端部の形状は直線状ではない、項目1から10のいずれかに記載の切断用定規。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によると、安全性の高い切断用定規が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本発明の実施形態による切断用定規100の模式的な斜視図である。
【
図1B】本発明の実施形態による切断用定規100の模式的な側面図である。
【
図2A】本発明の実施形態による切断用定規200の模式的な斜視図である。
【
図2B】本発明の実施形態による切断用定規200の模式的な側面図である。
【
図3A】本発明の実施形態による切断用定規300Aの模式的な側面図である。
【
図3B】本発明の実施形態による切断用定規300Bの模式的な側面図である。
【
図4A】本発明の実施形態による切断用定規400の模式的な側面図である。
【
図4B】本発明の実施形態による切断用定規400のガイド辺52が被切断シートSSに接触している状態を示す模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による切断用定規を説明する。本発明の実施形態による切断用定規は、以下で例示するものに限定されない。
【0011】
図1Aおよび
図1Bを参照して、本発明の実施形態による切断用定規100の構造および機能を説明する。
【0012】
図1Aは、切断用定規100の模式的な斜視図であり、
図1Bは切断用定規100の模式的な側面図である。
【0013】
切断用定規100は、底板10と、上板20と、底板10と上板20との間に形成される受容空間Srを介して互いに対向するように底板10および上板20に接合された一対の側板30と、底板10の裏面に固定された当接部材40と、上板20に固定され、刃先を導くガイド辺52を有する定規部50とを備えている。
【0014】
ここでは、例として、平均的な日本人男性が作業するのに適したサイズの切断用定規100を例示する。日本人男性の平均的な手の寸法は、「AIST日本人の手の寸法データ」によると、例えば、手長(手をのばした状態での、手首の皺から中指の先端までの直線距離)が約180mm、最大手幅(親指を他の指とそろえて手を(指と手掌を)のばした状態での、尺側中手点(第5中手骨頭の最も小指側に突出した点)から親指の中手指節関節部で最も親指側にある点までの直線距離は約104mmである。
【0015】
以下に説明する切断用定規100の好ましい構造(サイズ等)は、下記に示す試作品での評価結果に基づいている。下記の評価は、日本人男性の平均的な寸法を有する評価者によるものであり、作業者の手の寸法、作業姿勢等によって、各部の寸法や角度の好ましい範囲は調整され得る。
【0016】
切断用定規100の構造を正確に表現するために、
図1Aに示す座標系(x、y)および方向を示すベクトル(z)を用いる。切断用定規100は、カッターナイフの刃CBをx方向に導く。
【0017】
底板10は、x方向の長さLxとx方向に直交するy方向の長さLyの第1矩形部を含んでいる。Lxは、例えば、定規部50が300mmのスチール製の物差しを含み得る大きさである。Lyは、例えば、100mmである。底板10は、
図1Aに例示したように、直線状ではなく、例えば、波形に加工された端部12を有してもよい。端部12をこのように加工しておくと、端部12を利用して切断するという誤った使い方を防止することができる。
【0018】
上板20は、底板10に対して傾斜角θを成すように接合されている。上板20は、x方向に延びる接合線BLに沿って底板10と固定されている。ここでは、底板10と上板20とは一体に形成されている。例えば、底板10および上板20は、プラスチック材料で形成された板を曲げることによって作製され、接合線BLは谷折りの折り目に相当する。底板10および上板20の厚さは例えば1mmである。
【0019】
上板20は、x方向の長さLxと、底板10に対して傾斜角θを成し且つ接合線BLに直交する方向の長さLzを有する第2矩形部を含んでいる。上板20のx方向の長さは、底板10のx方向の長さLxと等しい。上板20のz方向の長さLzは、作業者の手首まで保護できるように、例えば100mmである。上板20の上端部を底板10の端部12と同様に、直線状ではなく、例えば、波形に加工された端部22を有しておくと、上述と同様の理由により誤った使い方を防止することができる。
【0020】
作業者の押え手は、底板10と上板20との間に形成された受容空間Srに挿入され、底板10の上面を押える。切断用定規100は、受容空間Srを介して互いに対向するように底板10および上板20に接合された一対の側板30を有しているので、受容空間Srに挿入された押え手が受容空間Srから外に出ることを防止することができる。また、一対の側板30は、底板10と上板20とが傾斜角θを成して対向している構造を補強している。
【0021】
底板10の裏面には、接合線BLに沿って、当接部材40が固定されている。当接部材40のx方向の長さは、例えば、底板10のx方向の長さLxと等しい。当接部材40のy方向の長さLCyは、底板10のLyより小さく、例えば50mmである。当接部材40の厚さは、例えば5mmである。当接部材40は切欠き42cを除いて、最大厚さTmaxを有する肉厚部である。なお、切欠き42cは省略され得る。
【0022】
切断用定規100は、このような当接部材40を有しているので、
図1Aに示す様に、被切断シート(不図示)上にガイド辺52を配置した状態で、受容空間Srに挿入した手で、底板10の、裏面に当接部材40の肉厚部が存在する当接領域(第1領域R1)を押圧したときには、ガイド辺52が被切断シートに接触する。これに対し、底板10の、その裏面に当接部材40の肉厚部が存在しない第2領域R2(すなち、当接領域(第1領域R1)よりも接合線BLから遠い領域)を押圧したときには、ガイド辺52が被切断シートから離間する。ここで例示するように、当接部材40の、定規部50とは反対側の裏面42はx方向に沿って切り欠かれてもよい。裏面42がこのような切欠き42cを有していると、作業者が底板10の第2領域R2を押圧した際に、ガイド辺52が容易に浮き上がり、被切断シートから離間する。
【0023】
すなわち、作業者が、被切断シートに裏面42が接触するように設けられている当接部材40上の第1領域R1を押圧しないと、ガイド辺52が浮き、被切断シートとの間に隙間が形成されるので、ガイド辺52が刃CBを正しく導くことができない。したがって、作業者は、底板10の第1領域R1を押圧するように促される。押え手で、底板10の接合線BLに近い部分(すなわち、ガイド辺52に近い側)を押えるほど、ガイド辺52に強い力が作用し、ガイド辺52を被切断シートに安定に接触させることができる。したがって、作業者の押し手は、より確実に、上板20および側板30で保護される受容空間Srに配置されることになる。
【0024】
上板20の底板10に対する傾斜角θは、例えば20°以上である。傾斜角θが20°よりも小さいと、押え手を挿入できるだけの大きさの受容空間Srを形成できないことがある。傾斜角θは40°以上であることが好ましい。上述したように、押し手で底板10の接合線BLに近い部分を押えるほど、ガイド辺52を被切断シートに安定に接触させることができる。傾斜角θが40°以上であると、押し手の指先が、接合線BLに近い部分(例えば定規部50の下の部分、当接領域)にまで到達することができる。
【0025】
また、傾斜角θが大きいほど、作業者が上板20を上から押えて、切断作業を行うことが難しくなる。上板20を押える手が滑りやすくなるからである。したがって、傾斜角θが大きいほど、作業者に押し手を受容空間Sr内に挿入させるように促すことになる。すなわち、作業者は、押し手を正しい位置に置くように促される。
【0026】
さらに、傾斜角θが大きいほど、刃CBがガイド辺52から外れて、上板20上を上ることを抑制することができる。
【0027】
ただし、傾斜角θが大き過ぎると、切断し難くなる。例えば、傾斜角θが60°を超えると、ガイド辺52に沿って刃CBを移動させることが難しくなる。また、定規部50が物差しを有していると、目盛を読みづらくなる。したがって、傾斜角θは60°以下であることが好ましい。
【0028】
上板20の長さLzは例えば100mm以上である。長さLzが100mmあれば、手(手首より先)のほぼ全体を保護できる。さらに、長さLzを例えば110mm以上とすれば、手首まで十分に保護することができる。また、長さLzが100mm以上あると、上板20の上端を手で掴んだときに、指先がガイド辺52に届くことがない。したがって、たとえ作業者が上板20の上端を掴んで切断作業を行ったとしても、指を怪我する危険性が少ない。また、上板20の長さLzが100mm以上あると、底板10の反対側の端部12が直線であっても、端部12をガイドとして用いづらいため、誤った使い方を防ぐ効果も期待できる。
【0029】
ただし、上板20の長さLzが120mmを超えると、受容空間Srに押し手を挿入しづらくなる、あるいは、挿入した押し手を接合線BLの近くまで到達させづらくなることがある。したがって、上板20の長さLzは100mm以上120mm以下が概ね好ましい。
【0030】
さらに安全性を高めるために、
図1A、
図1Bに示したように、上板20の上端付近に返しバー60をx方向に沿って設けてもよい。返しバー60の高さは例えば3mm以上、好ましく5mm以上である。
【0031】
定規部50は、例えば市販の300mmのスチール製の物差し(例えば、長さ330mm、幅25mm、厚さ2mm)を用いることができる。スチール製の物差しを例えば両面テープや接着剤で、上板20の表面および当接部材40の側面44に固定する。当接部材40の側面44は裏面42に対して傾斜角θを成すように加工してある。定規部50のガイド辺52と当接部材40の裏面42が、被切断シートの表面に均一に当るように、配置して固定する。長さを測る必要がない場合には、例えばスチール製の板を用いればよい。
【0032】
持ち運びのし易さや作業性の観点から、切断用定規100の全体の質量は約400g以下であることが好ましく、約300g以下であることがさらに好ましい。切断用定規100の軽量化の観点から、底板10、上板20、側板30、当接部材40、返しバー60は、高分子材料で形成することが好ましい。高分子材料としては、プラスチック(熱可塑性樹脂)材料を用いることが好ましい。
【0033】
図1Aに模式的に示したように、作業者から押し手が見えるように、上板20および側板30は、透明な高分子材料で形成されていることが好ましい。透明な高分子材料としては、例えば、ポリ塩化ビニルまたはアクリル樹脂を用いることができる。ここで求められる透明性は、押し手が見える程度でよいので、高い透明性は特に必要がなく、耐衝撃性の観点からポリ塩化ビニルが好ましい。底板10および当接部材40は透明である必要はないが、透明であると、被切断シートを見ることができる。ここで例示したように、底板10と上板20とを1枚のプラスチック板から形成する場合には、底板10も透明なプラスチック材料で形成される。
【0034】
例えば、プラスチック材料として透明なポリ塩化ビニルを用いて、底板10、上板20および側板30の厚さを1mm、当接部材40および返しバー60の厚さを5mm、ステンレス製定規を幅30mm、厚さ1mm、長さLxと同等とすると、切断用定規(Lx=330mm、Ly=100mm、Lz=100mm、LCy=50mm)100の質量を約300gにできる。
【0035】
次に、
図2A、
図2B、
図3A、
図3B、
図4Aおよび
図4Bを参照して、本発明の実施形態による他の切断用定規の構造を説明する。上記の切断用定規100と実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号を付し、以下では説明を省略することがある。
【0036】
図2Aおよび
図2Bに、本発明の実施形態による切断用定規200を示す。
図2Aは、切断用定規200の模式的な斜視図であり、
図2Bは、切断用定規200の模式的な側面図である。
【0037】
切断用定規200は、底板10Aと上板20Aとが別の部材で形成されており、接着剤などで接合線BLに沿って互いに固定されている点において、切断用定規100と異なる。強度の観点からは、底板10と上板20とを1枚のプラスチック板から形成した切断用定規100の方が有利であるが、側板30を有するので、切断用定規200も十分な強度を有している。プラスチック材料の平板を用いて、種々の大きさの切断用定規200を容易に作製することができる。
【0038】
次に、
図3Aおよび
図3Bを参照して説明する。
図3Aは、本発明の実施形態による切断用定規300Aの模式的な側面図であり、
図3Bは、本発明の実施形態による切断用定規300Bの模式的な側面図である。切断用定規300Aおよび300Bは、当接部材40A、400Bの裏面42rが下に凸の曲面を有している点において、切断用定規100と異なっている。当接部材40Aおよび40Bは、x方向に沿って図示した断面形状を有している。
【0039】
図3Aに示した切断用定規300Aが有する当接部材40Aは、
図3A中の最大厚さTmaxを示した位置よりもガイド辺52に近い側は最大厚さTmaxを有する肉厚部であり、平行平板部である。当接部材40Aは、肉厚部からガイド辺52とは反対側に向かって厚さが小さくなる曲面を有している。
図3Bに示した切断用定規300Bが有する当接部材40Bは、
図3B中の最大厚さTmaxを示した位置が肉厚部であり、肉厚部からガイド辺52に近い側にも、ガイド辺52から遠い側にも厚さが小さくなる曲面を有している。
【0040】
本明細書において、底板10の、裏面に当接部材40A、40Bの肉厚部が存在する領域を当接領域ということがある。また、当接領域と、当接領域よりも接合線BLに近い領域とを合わせて第1領域R1といい、第1領域よりも接合線から遠い領域を第2領域R2という。切断用定規300Aにおいては、底板10の、
図3A中の最大厚さTmaxを示した位置よりも接合線BLに近い領域が当接領域であり、かつ、第1領域R1である。切断用定規300Bにおいては、底板10の
図3B中の最大厚さTmaxを示した位置が当接領域であり、Tmaxを示した位置およびそれよりも接合線BLに近い領域が第1領域R1である。
【0041】
当接部材40A、40Bの裏面42rは、定規部50とは反対側に向かって厚さが小さくなる曲面を有しているので、作業者が底板10の第2領域R2を押圧すると、ガイド辺52が容易に浮き上がり、被切断シートから離間する。当接部材40A、40Bの裏面42rの形状を、切断用定規300A、300Bを平坦な面上に置いただけで、ガイド辺52が浮き上がるようにしてもよい。当接部材40A、40Bのy方向の長さLCyA、LCyBは、ここでは底板10のLyより小さいが、底板10の裏面全体を覆うようにしてもよい。
【0042】
このような当接部材40A、40Bを有していると、作業者は、底板10の第1領域R1の接合線BLに近い部分を押圧することを求められる。したがって、作業者の押し手はより確実に、上板20および側板30で保護される受容空間Srに配置されることになる。当接部材40A、40Bは、切断用定規200の当接部材40に代えて用いることもできる。
【0043】
次に、
図4Aおよび
図4Bを参照して、本発明の実施形態による切断用定規400を説明する。
図4Aは、切断用定規400の模式的な側面図であり、
図4Bは、切断用定規400のガイド辺52が被切断シートSSに接触している状態を示す模式的な側面図である。
【0044】
切断用定規400が有する当接部材40Cは、x方向に直交する断面が、図示した様に、楕円を長軸に沿って切断したような断面形状を有している。当接部材40Cは、x方向に沿って図示した断面形状を有している。当接部材40Cの断面形状は、半楕円に限らず半円でもよいし、下に凸な曲面であればよい。
【0045】
上述した当接部材40、40A、40Bが平板状(例えば、LCyが50mm)であったのに対し、当接部材40Cの長さLCyCは例えば5mm程度であればよく、概ね棒状であればよい。
【0046】
切断用定規400が有する当接部材40Cは、
図4A、
図4B中の最大厚さTmaxを示した位置が肉厚部であり、肉厚部からガイド辺52に近い側にも、ガイド辺52から遠い側にも厚さが小さくなる曲面を有している。当接部材40Cの肉厚部は、底板10の裏面の、接合線BLからの長さがLy/2よりも小さい位置に有するように構成されている。したがって、作業者の押し手は、底板10の、接合線BLからの長さがLy/2よりも小さい領域(第1領域R1)を押圧するように促される。
【0047】
作業者の押し手が、底板10の第1領域R1を押圧すると、
図4Bに模式的に示したように、ガイド辺52、底板10および当接部材40Cが、被切断シートSSに接触し、被切断シートSSを押圧する。上述した当接部材40、40Aのように、ガイド辺52まで肉厚部を有していると、平板状の肉厚部によって被切断シートを押圧することができるので、切断作業を行いやすいという利点が得られるが、当接部材40B、40Cのように、肉厚部を小さくすれば、さらに切断用定規全体を軽量化できるという利点が得られる。
【0048】
上記では、底板10、10A、上板20、20A、側板30、当接部材40、40A、40Bおよび40Cとして、透明なポリ塩化ビニル板を用い、底板10、10A、上板20、20Aおよび側板30の厚さが1mm、当接部材40および返しバー60の厚さが5mmの例を示した。当接部材40A、40Bおよび40Cの最大厚さTmaxは、例えば5mmである。
【0049】
上述したように、底板10、10A、上板20、20A、側板30、当接部材40、40A、40Bおよび40Cの材料は上述した例に限らず、質量および強度などの観点からプラスチック材料が好ましい。プラスチック材料として透明なポリ塩化ビニルまたはアクリル樹脂を用いる場合、底板10、10A、上板20、20Aおよび側板30の厚さは、例えば、1mm以上2mm以下であることが好ましい。底板10および上板20のように一体に形成する場合を除いて、それぞれの厚さは独立に設定できる。なお、当接部材40Cは、不透明な材料であっても、底板10、10A、および上板20、20Aが透明でさえあれば、被切断シートを見ることができるので、不透明なプラスチック材料(例えば、不透明なポリ塩化ビニル)であっても良い。
【0050】
当接部材40の厚さ、当接部材40A、40Bおよび40Cの最大厚さTmaxは、作業者が底板10、10Aの第2領域R2を押圧したときに、ガイド辺52が被切断シートから容易に離間するように設定され、例えば、5mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0051】
[試作品の評価]
図1A、
図1Bに示した構造を有する切断用定規100と同じ構造を有し、サイズ等の異なる試作品を作製し、評価した。試作品の基本構成は以下のとおりで、Lzまたは傾斜角θが異なる試作品を作製した。各試作品を用いて、アルミニウム箔(厚さ200μm)を切断し、下記の表に示す項目を上記の日本人男性の平均的な寸法の手を有する評価者が評価した。
底板10、上板20および側板30:厚さが1mmの透明なポリ塩化ビニル
当接部材40および返しバー60:厚さが5mmの透明なポリ塩化ビニル
定規部50:スチール製の物差し、長さ330mm、幅25mm、厚さ2mm、約60g
【0052】
評価者が、各試作品を用いてアルミニウム箔(厚さ200μm)を切断し、その際の使い易さや安心感(安全性についての懸念点がないかどうか)を評価した。
【0053】
下記の表1に、傾斜角θが異なる試作品を作製して評価した結果を示す。3名の評価者が評価し、3名全員が良と判断したものを○で表し、2名は良と判断したが1名が何らかの懸念を示したものを△で表している。以下同じ。
【0054】
スチール製物差しは、通常、平坦な表面に置かれた被切断シート上に載せて用いられるので、傾斜角θが小さいほど、通常の使用形態に近く、切断しやすく、目盛も読みやすく、作業しやすい。しかしながら、押し手を挿入できる程度の受容空間Srを形成するためには、傾斜角θは例えば20°以上必要であり、押し手の指先が、接合線BLに近い部分(当接領域)にまで到達するためには、傾斜角θは40°以上であることが好ましく、指先が容易に当接領域に到達するために、傾斜角θは50°以上であることがさらに好ましい。傾斜角θが大きくなるにつれて、切断のしやすさや、目盛の読みやすさが低下する。傾斜角θが60°のとき、通常の作業姿勢では、通常の使用形態よりも若干、切断しづらい、および、目盛を読みにくいと感じられる。したがって、傾斜角θは60°以下であることが好ましい。
【0055】
また、傾斜角θが40°以上であると、作業者が上板20を上から押えて、切断作業を行うことが難しい。したがって、傾斜角θが40°以上であると、作業者は、押し手を正しい位置に置くように促される。また、傾斜角θが40°以上あると、刃CBがガイド辺52から外れて、刃先が上板20上を上ることが抑制される。
【表1】
【0056】
下記の表2に上板の長さLzが異なる試作品を作製して評価した結果を示す。上板の長さLzが100mmあると、作業者の手(手首より先)のほぼ全体を保護できるが、110mm以上あれば手首まで十分に保護することができる。また、長さLzが100mmあれば、上板20の上端を手で掴んでも、指先がガイド辺52に届くことがない。したがって、たとえ作業者が上板20の上端を掴んで切断作業を行ったとしても、指を怪我する危険性が少ない。なお、上板20の長さLzが120mmを超えると、受容空間Srに押し手を挿入しづらくなるか、あるいは、挿入した押し手を接合線BLの近くまで到達させることが困難になる。また、Lzが大きくなると、切断用定規のサイズ、質量が大きくなるので、持ち運び易さや作業性が低下するので、Lzは120mm以下が好ましいと言える。
【表2】
【0057】
下記の表3に質量が異なる試作品を作製して評価した結果を示す。上記の基本構成を有する試作品の質量は約300gであり、持ち運びや切断作業に支障は感じられなかった。例えば、一対の側板30に代えて、補強部材として、スチール製のアングルを用いると、切断用定規の質量は約450gになり、持ち運びや切断作業中に若干重く感じることがあったので、切断用定規の質量は約400g以下であることが好ましい。ポリ塩化ビニルなどの高分子材料で形成された側板30は、軽量でありながら、底板10と上板20とが傾斜角θを成して対向している構造を補強するとともに、受容空間Srを画定し、押し手を保護するように機能する。
【0058】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の実施形態による切断用定規は、一層安全に切断作業をすることを可能にすることができる。本発明の実施形態による切断用定規を用いると、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔などの金属箔(例えば厚さが200μm以下)を、耐切創手袋を付けることなく、素手で安全に切断することができる。
【符号の説明】
【0060】
10、10A :底板
12 :端部
20、20A :上板
30 :側板
40、40A、40B、40C :当接部材
42、42r :裏面
42c :切欠き
44 :側面
50 :定規部
52 :ガイド辺
60 :返しバー
100、200、300A、300B、400 :切断用定規
BL :接合線
CB :刃
R1 :第1領域
R2 :第2領域
Sr :受容空間