(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】防汚組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20240129BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240129BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240129BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/16
C09D7/63
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019148962
(22)【出願日】2019-08-14
【審査請求日】2022-07-20
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515168776
【氏名又は名称】ヨトゥン アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リスバリ, エーリク
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン, テルイェ
(72)【発明者】
【氏名】ダリーン, マリト
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-235877(JP,A)
【文献】特開2017-218504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/04
C09D 5/16
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)メタクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーを含むシリルエステル共重合体と;
(B)アクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーを含むシリルエステル共重合体と;
(C)5質量%から40質量%のモノカルボン酸またはその誘導体と;
を含むバインダー系であって、
ここで、成分(A)と(B)が異なり、(A):(B)の質量比が55:45から95:5の範囲にある、バインダー系を含む防汚コーティング組成物。
【請求項2】
前記シリルエステル共重合体(A)および/または前記シリルエステル共重合体(B)が少なくとも1つの親水性モノマーをさらに含む、請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項3】
前記シリルエステル共重合体(A)および/または前記シリルエステル共重合体(B)が、式(I)
【化1】
(式中、R
1は、水素またはメチル基であり、R
2は、環状エーテル(例えばオキソラン、オキサン、ジオキソラン、場合によりアルキル置換ジオキサン)であり、
Xは、C1-C4アルキレン基である。)の化合物;および/または式(II)
【化2】
(式中、R
3は、水素またはメチル基であり、R
4は、少なくとも1つの酸素原子または窒素原
子を有するC3-C18置換基である。)の化合物、および任意に、式(III)
【化3】
(式中、R
5は、水素またはメチル基であり、R
6は、C1-C8ヒドロカルビル基である。)の1以上のモノマーを含む、
請求項2に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項4】
式(II)において、R
4が、式-(CH
2CH
2O)
m-R
7(ここでR
7が、C1-C10アルキル基またはC6-C10アリール置換基であり、
mが、1から
6の範囲にある。)で表される、
請求項3に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項5】
mが、1から3の範囲にある、
請求項4に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項6】
R
4が、式-(CH
2CH
2O)
m-R
7(ここでR
7が、C1-C10アルキル置換
基であり、
mが、1から3の範囲の整
数である。)で表される、
請求項4
または5に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項7】
R
7
が、メチル基またはエチル基である、
請求項6に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項8】
mが、1または2である、
請求項6または7に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項9】
前記シリルエステル共重合体(A)および/または前記シリルエステル共重合体(B)が、1以上の2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、およびテトラヒドロフルフリルメタクリレートを含む、
請求項3から
8のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項10】
前記モノカルボン酸またはその誘導体が、C6-C20環状モノカルボン酸を含
む、
請求項1から9のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項11】
前記環状モノカルボン酸が、ロジンまたはその誘導体または金属塩である、
請求項10に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項12】
1以上の殺生物剤をさらに含む、請求項1から
11のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項13】
前記バインダー系が、前記バインダー系の総質量に基づいて、20質量%から70質量%(乾燥固形分)の前記シリルエステル共重合体(A)を含む、
請求項1から
12のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項14】
前記バインダー系が、前記バインダー系の総質量に基づいて、2質量%から45質量%(乾燥固形分)の前記シリルエステル共重合体(B)を含む、
請求項1から
13のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項15】
前記シリルエステル共重合体(A)および(B)とは異なる少なくとも1つのアクリル共重合体(D)をさらに含む、
請求項1から
14のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項16】
前記組成物が、共重合体(A)および(B)以外の任意のシリルエステル共重合体を15質量%未満含む、
請求項1から
15のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項17】
組み合わせると、共重合体(A)および(B)が10℃超かつ70℃未満のガラス転移温度(Tg)を有する、
請求項1から
16のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項18】
物体を汚損から保護する方法であって、汚損を受けやすい前記物体の少なくとも一部を、請求項1から
17のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物でコーティングする工程を含む方法。
【請求項19】
請求項1から
17のいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物でコーティングした物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋防汚コーティング組成物、より具体的には、モノマーとしてメタクリル酸トリイソプロピルシリルを含むシリルエステル共重合体と、モノマーとしてアクリル酸トリイソプロピルシリルを含むシリルエステル共重合体とのブレンドを含む海洋防汚コーティング組成物に関する。組成物は、モノカルボン酸またはその誘導体をさらに含む。本発明はさらに、物体を汚損から保護する方法、および本発明の防汚組成物でコーティングした物体に関する。
【背景技術】
【0002】
海水中に沈んでいる表面は、緑藻および褐藻、フジツボ、ムール貝、ハオリムシなどの海洋生物による汚損を受けている。船舶、石油プラットフォーム、ブイなどの海洋構造物では、このような汚損は望ましくなく、経済的影響がある。汚損は、表面の生分解、負荷の増加、腐食促進につながる可能性がある。船舶では、汚損により摩擦抵抗が増加し、減速や燃料消費の増加を引き起こす。
【0003】
海洋生物の定着と成長を防ぐために、防汚塗料が使用される。これらの塗料は一般に、生理活性物質(殺生物剤)とともに、顔料、充填剤、添加剤、溶媒などの種々の成分とともに、フィルム形成バインダーを含んでいる。殺生物剤は、緑藻および褐藻、草、スライムなどの軟らかい汚損に対して活性なものと、フジツボ、ムール貝、ハオリムシなどの硬い汚損に対して活性なものとに大別することができる。
【0004】
商船(例えばコンテナ船、ばら積み貨物船、タンカー、旅客船)は、多くの場合、休止期間を含む種々の活動で、種々の海域で、種々の貿易で運航する。防汚コーティングは、それらすべての条件下で良好な汚損保護を提供する必要がある。商船用の一般的なサービス間隔は30か月から90か月までである。水中の物体のメンテナンスは費用がかかるため、塗布した防汚コーティングは、指定されたサービス間隔の間有効でなければならない。全サービス間隔を通して、かつ種々の航行条件下で物体を保護するために、殺生物剤の一定の放出をもたらすコーティングフィルムの制御された分解が必要である。
【0005】
この制御された分解は、制御された研磨速度を有する自己研磨防汚コーティングを使用することにより最もよく得られる。研磨が速すぎると、コーティングフィルムが急速に消費され、表面が保護されなくなる。研磨が遅すぎると、殺生物剤の放出が不十分になる。これは、汚損から有効に保護するために不可欠である。寿命の間制御された分解は、殺生物剤の一定の放出をもたらし、それによって良好な汚損保護をもたらす。市場で最も成功した自己研磨防汚コーティング製品は、バインダーとしてシリルエステル共重合体を使用している。これらは、アクリル酸トリイソプロピルシリル(TIPSA)またはメタクリル酸トリイソプロピルシリル(TIPSMA)のいずれかを共重合することによって製造された共重合体である。
【0006】
これらの要求に加えて、コーティング工業は、防汚塗料に使用できる有機溶媒の量を制限するより厳しいVOC規制に常に直面している。防汚コーティングの最も一般的な塗布方法は、エアレススプレー、ブラシまたはローラーである。塗料は、VOC含有量を最小化して、なお満足のいく塗布特性を達成する一方で、特定の粘度レベルを有するコーティング組成物および塗料を同様に意味する標準的な手法で塗布できることが重要である。塗布点で粘度を下げるために追加の溶媒を加える必要がある場合、VOCの制限を超えるかもしれない。塗装は、高剪断力プロセスである。したがって、10000s-1(ISO2884)または12000s-1(ASTM D4287)の剪断速度を適用する高剪断力円錐平板粘度計を使用して、コーティングの粘度を測定することが勧められる。本方法は、はけ塗り、ローリング、スプレーによる塗料の塗布下の剪断条件を代表する塗料に高剪断力を適用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ますます厳しくなるVOC規制に従い、また制御された研磨特性と良好な機械的特性を有し、良好な汚損保護を示すコーティング組成物を見出すことが課題である。
【0009】
TIPSMA共重合体は、良好な機械的特性を有する防汚コーティングを提供するが、TIPSA共重合体と比較して研磨速度が遅いため、防汚性能が制限される。TIPSA共重合体は、良好な静的性能を提供するが、亀裂などの機械的破損がより生じやすい。機械的特性と防汚性能とのバランスをとろうとする従来の戦略は、例えば欧州特許出願第2781567号明細書に記載のように、TIPSMAならびにTIPSAに由来する構造単位を含むシリルアクリル共重合体を使用することであった。
【0010】
しかし、良好な塗布特性を維持するために、VOCの削減には限界がある。TIPSMA共重合体は一般に、TIPSA共重合体よりも高い溶液粘度を示す。
【0011】
VOCの含有量が低い防汚コーティング配合物を有することが望ましい。本発明者らは、少なくとも1つのTIPSMA共重合体と少なくとも1つのTIPSA共重合体との混合物を使用することにより、低減したVOCと良好な塗布特性を有し、同時に良好な機械的特性を有し、良好な汚損保護を提供する防汚コーティングを達成できることを見出した。少なくとも1つのTIPSMA共重合体と少なくとも1つのTIPSA共重合体との混合物は、TIPSMAモノマー単位ならびにTIPSAモノマー単位を含む共重合体を使用する場合と比較して、コーティング組成物の粘度が著しく低い。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様では、本発明は、
(A)メタクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーを含むシリルエステル共重合体と;
(B)アクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーを含むシリルエステル共重合体と;
(C)5質量%から40質量%のモノカルボン酸またはその誘導体と
を含むバインダー系であって、ここで、成分(A)と(B)は異なり、(A):(B)の質量比が55:45から95:5の範囲にある、バインダー系を含む防汚コーティング組成物に関する。
【0013】
別の態様では、本発明は、物体を汚損から保護する方法であって、前記方法が、汚損を受ける前記物体の少なくとも一部を本明細書に定義した防汚コーティング組成物でコーティングする工程を含む方法を提供する。
【0014】
本発明は、本明細書に定義した防汚コーティング組成物でコーティングした物体にも関する。
【0015】
<定義>
「海洋防汚コーティング組成物」、「防汚コーティング組成物」または単に「コーティング組成物」という用語は、表面に塗布する場合に、表面上の海洋生物の成長を防止または最小化する組成物を指す。
【0016】
「ヒドロカルビル基」という用語は、C原子およびH原子のみを含む任意の基を指し、したがって、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アリールアルキル基などをカバーする。
【0017】
「アクリル共重合体」という用語は、(メタ)アクリレートモノマーに由来する反復単位を含む共重合体を指す。一般に、アクリル共重合体は、(メタ)アクリレートモノマー、すなわちアクリレートモノマーやメタクリレートモノマーに由来する反復単位の少なくとも80質量%を含む。
【0018】
「(メタ)アクリレート」という用語は、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。
【0019】
本明細書で使用する「モノカルボン酸」という用語は、1つの-COOH基を含む化合物を指す。
【0020】
本明細書で使用する「樹脂酸」という用語は、樹脂中に存在するカルボン酸の混合物を指す。
【0021】
以下の文章で使用する「ロジン」という用語は、「ロジンまたはその誘導体」をカバーするために使用されている。
【0022】
「バインダー」という用語は、シリルエステル共重合体、および組成物に実質と強度を与えるマトリックスを一緒に形成する任意の他のポリマー、樹脂または成分を含む組成物の一部を定義する。典型的には、本明細書で使用する「バインダー」という用語は、モノカルボン酸すなわち本明細書に定義した成分(A)、(B)および(C)とのシリルエステル共重合体を意味する。
【0023】
「Tg」という用語は、ガラス転移温度を意味する。
【0024】
所与のモノマーの質量%が示される場合、質量%は、共重合体中に存在する各モノマーの合計(質量)に対してである。
【0025】
「組成物の総質量に基づく質量%」という用語は、他に指定しない限り、最終の、すぐに使用できる組成物中に存在する成分の質量%を指す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、(A)メタクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーを含むシリルエステル共重合体と、(B)アクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーを含むシリルエステル共重合体と、(C)モノカルボン酸またはその誘導体との混合物を含むバインダーを含む新たな防汚コーティング組成物に関する。
【0027】
(A)メタクリル酸トリイソプロピルシリル(TIPSMA)モノマーを含むシリルエステル共重合体
シリルエステル共重合体(A)は、メタクリル酸トリイソプロピルシリルのモノマーを含む。典型的には、メタクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーの質量パーセントは、全体としてシリルエステル共重合体の総質量に対して、20質量%から80質量%、例えば30質量%から70質量%の範囲にある。追加のシリルエステル(メタ)アクリレートモノマー、親水性(メタ)アクリレートモノマー、および/または非親水性(メタ)アクリレートモノマーが、本明細書に記載のようにさらに存在してもよい。一実施形態では、シリルエステル共重合体は、少なくともメタクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーおよび親水性(メタ)アクリレートモノマーを含む。
【0028】
特に好ましい実施形態では、シリルエステル共重合体(A)は、モノマーとして:
(a)メタクリル酸トリイソプロピルシリル;
(b)式(I)
【0029】
【0030】
(式中、R1は、水素またはメチル基であり、R2は、環状エーテル(例えば、オキソラン、オキサン、ジオキソラン、場合によりアルキル置換ジオキサン)であり、Xは、C1-C4アルキレン基である。)の化合物;および/または式(II)
【0031】
【0032】
(式中、R3は、水素またはメチル基であり、R4は、少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を有するC3-C18置換基である。)の化合物;および任意に
(c)1以上の式(III)
【0033】
【0034】
(式中、R5は、水素またはメチル基であり、R6は、C1-C8ヒドロカルビル基である。)のモノマー
を含む。
【0035】
モノマー
一実施形態では、シリルエステル共重合体(A)は、少なくともメタクリル酸トリイソプロピルシリルモノマー(a)および少なくとも1つの親水性モノマー(b)を含む。
シリルエステル共重合体(A)中の所与のモノマーの質量%が示される場合、質量%は、共重合体中に存在する各モノマーの合計(質量)に対してである。したがって、メタクリル酸トリイソプロピルシリル(a)と親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)がシリルエステル共重合体中の唯一のモノマーである場合、メタクリル酸トリイソプロピルシリルの質量%は、[メタクリル酸トリイソプロピルシリル(a)(質量)/(メタクリル酸トリイソプロピルシリル(a)(質量)+親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)(質量))]×100%として計算される。メタクリル酸トリイソプロピルシリル(a)、親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)および非親水性(メタ)アクリレート(c)のみが存在する場合、メタクリル酸トリイソプロピルシリルの質量%は、[メタクリル酸トリイソプロピルシリル(a)(質量)/(メタクリル酸トリイソプロピルシリル(a)(質量)+親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)(質量)+非親水性(メタ)アクリレート(c)(質量))]×100%として計算される。
【0036】
共重合体(A)は、好ましくは>80質量%、好ましくは>90質量%、より好ましくは>95質量%、特に>98質量%のメタクリル酸トリイソプロピルシリル(a)、親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)および非親水性(メタ)アクリレートモノマー(c)の組合せを含む。
【0037】
成分(a)は、好ましくは共重合体の20質量%から80質量%、好ましくは30質量%から75質量%、特に40質量%から70質量%、より特に45質量%から65質量%を形成するメタクリル酸トリイソプロピルシリルである。
【0038】
成分(b)(合計)は、好ましくは共重合体の1質量%から50質量%、好ましくは共重合体の3質量%から40質量%、特に共重合体の4質量%から35質量%、より特に5質量%から30質量%を形成する。これらの質量%値は、存在する成分(b)モノマーの合計を指す。
【0039】
比(a):(b)(質量/質量)は、好ましくは40:60から99:1の範囲、好ましくは50:50から95:5の範囲、特に55:45から92:8の範囲、最も好ましくは60:40から90:10の範囲にある。好ましくは、共重合体中の(a)の質量分率は、成分(b)のそれよりも大きい。
【0040】
共重合体(A)中の(a)+(b)の量は、好ましくは最大で95質量%、例えば最大で90質量%、特に最大で85質量%である。共重合体中の(a)+(b)の量は、30質量%から95質量%または40質量%から85質量%の範囲にあり得る。
【0041】
親水性(メタ)アクリレートモノマー成分(b)
特定の実施形態では、シリルエステル共重合体は、式(I)
【0042】
【0043】
(式中、R1は、水素またはメチル基であり、R2は、環状エーテル(例えば、オキソラン、オキサン、ジオキソラン、場合によりアルキル置換ジオキサン)であり、Xは、C1-C4アルキレン基、好ましくはC1-C2アルキレン基である。)の少なくとも1つのモノマーを含む。
【0044】
環状エーテルは、環内に単一の酸素原子または環内に2または3の酸素原子を含んでもよい。環状エーテルは、2から8の炭素原子、例えば3から5の炭素原子を含む環を含んでもよい。環全体は、4から8、例えば5または6の原子を含んでもよい。
【0045】
環状エーテル環は、例えば、1以上の、例えば1つのC1-C6アルキル基で置換されていてもよい。その置換基は、X基に結合する位置を含む環上の任意の位置にあり得る。
【0046】
式(I)の適切な化合物としては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソプロピリデングリセロールメタクリレート、グリセロールホルマールメタクリレート、および環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートが挙げられる。
【0047】
式(I)は、最も好ましくは、以下の構造:
【化5】
【0048】
を有するテトラヒドロフルフリルアクリレートを表す。
【0049】
さらなる実施形態では、共重合体(A)は、式(II):
【0050】
【0051】
(式中、R3は、水素またはメチル基であり、R4は、少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含むC3-C18置換基である。)の1以上のモノマーを含み得る。
【0052】
上記式に示すように、「親水性(メタ)アクリレート」という用語は、式(II)のR4基が、少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含むことを必要とする。以下に詳細に説明するように、式(III)の、R6単位が、C原子およびH原子のみからなる追加の非親水性(メタ)アクリレートモノマーも存在し得る。
【0053】
一実施形態では、シリルエステル共重合体(A)は、R4基が、式(CH2CH2O)m-R7(ここでR7は、C1-C10ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1-C10アルキル基またはC6-C10アリール置換基であり、そしてmは、1から6、好ましくは1から3の範囲の整数である。)で表される上記式(II)の少なくとも1つのモノマーを含む。好ましくは、R4は、式-(CH2CH2O)m-R7(ここでR7は、アルキル置換基、好ましく、メチル基またはエチル基であり、そしてmは、1から3の範囲の整数、好ましくは1または2である。)である。
【0054】
一実施形態では、シリルエステル共重合体(A)としては、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、オリゴ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、およびオリゴ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートの1つ以上が挙げられる。
【0055】
特に好ましいモノマー(b)としては、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、およびテトラヒドロフルフリルメタクリレートが挙げられる。
【0056】
本明細書で使用する式(I)および式(II)は、「極性」(メタ)アクリレートモノマーまたは「親水性」(メタ)アクリレートモノマーを定義する。これらのモノマーをメタクリル酸トリイソプロピルシリルとともに使用すると、分解が制御されたバインダーが確実に形成される。
【0057】
好ましくは、シリルエステル共重合体(A)は、式(I)のモノマーまたは式(II)のモノマーを含む。一般に、これらの両方の式のモノマーが存在することは好ましくない。
【0058】
追加の非親水性(メタ)アクリレートモノマー(c)
シリルエステル共重合体(A)は、式(III)
【0059】
【0060】
(式中、R5は、水素またはメチル基であり、R6は、C1-C8ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1-C8アルキル置換基、最も好ましくはメチル基、エチル基、n-ブチル基または2-エチルヘキシル基である。)の1以上の追加の非親水性(メタ)アクリレートモノマーを含んでもよい。式(III)によるモノマーは、本明細書では「非親水性」モノマーと呼ばれる。好ましい「非親水性」モノマーとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、およびメタクリル酸ブチルが挙げられる。
【0061】
本発明のすべての実施形態において、シリルエステル共重合体(A)は、好ましくは、少なくとも1つの追加の非親水性メタクリレートモノマーおよび/または非親水性アクリレートモノマーを含む。1以上の非親水性(メタ)アクリレートモノマーが存在する場合、シリルエステル共重合体中のこれらの非親水性(メタ)アクリレートモノマーの合計は、好ましくは最大で60質量%、好ましくは55質量%以下、例えば5質量%から55質量%の範囲、特に10質量%から50質量%の範囲にある。
【0062】
好ましい実施形態では、メタクリル酸トリイソプロピルシリル(a)モノマー、成分(b)モノマーおよび式(III)による任意の非親水性(メタ)アクリレートモノマーは、シリルエステル共重合体(A)中のモノマーの>80質量%、好ましくは>90質量%、特に>95質量%、より特に>98質量%を一緒に形成する。
【0063】
好ましい実施形態では、シリルエステル共重合体(A)は、1以上の非親水性モノマー、メタクリル酸メチルおよび/またはアクリル酸n-ブチルを含む。
【0064】
本発明のすべての実施形態において、好ましくは、メタクリル酸メチルが含まれる。存在する場合、メタクリル酸メチルは、好ましくは、共重合体(A)の2質量%から50質量%、好ましくは5質量%から40質量%の量で存在する。好ましい実施形態では、メタクリル酸トリイソプロピルシリル(a)、成分(b)およびメタクリル酸メチルは、シリルエステル共重合体(A)中のモノマーの>50質量%、好ましくは>65質量%、特に>80質量%を一緒に形成する。
【0065】
存在する場合、アクリル酸n-ブチルは、好ましくは1質量%から30質量%、特に2質量%から20質量%、より特に3質量%から15質量%の量で存在する。
【0066】
シリルエステル共重合体(A)は、追加のエチレン性不飽和モノマーを含んでもよい。適切なエチレン性不飽和モノマーの代表例としては、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸トリイソプロピルシリル、メタクリル酸2-(トリメチルシロキシ)エチル、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸酢酸亜鉛、およびネオデカン酸(メタ)アクリル酸亜鉛が挙げられる。存在する場合、任意の追加のエチレン性不飽和モノマーは、好ましくは共重合体の20質量%以下、好ましくは共重合体の10質量%以下を形成する。
【0067】
(B)アクリル酸トリイソプロピルシリル(TIPSA)モノマーを含むシリルエステル共重合体
シリルエステル共重合体(B)は、アクリル酸トリイソプロピルシリルのモノマーを含む。典型的には、アクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーの質量パーセントは、全体としてシリルエステル共重合体の総質量に対して、20質量%から80質量%、例えば30質量%から70質量%の範囲にある。追加のシリルエステル(メタ)アクリレートモノマー、親水性(メタ)アクリレートモノマー、および/または非親水性(メタ)アクリレートモノマーが、本明細書に記載のように、さらに存在してもよい。一実施形態では、シリルエステル共重合体(B)は、少なくともアクリル酸トリイソプロピルシリルモノマーおよび親水性(メタ)アクリレートモノマーを含む。
【0068】
特に好ましい実施形態では、シリルエステル共重合体(B)は、モノマーとして:
(a)アクリル酸トリイソプロピルシリル;
(b)式(I)
【0069】
【0070】
(式中、R1は、水素またはメチル基であり、R2は、環状エーテル(例えばオキソラン、オキサン、ジオキソラン、場合によりアルキル置換ジオキサン)であり、Xは、C1-C4アルキレン基である。)の化合物;および/または式(II)
【0071】
【0072】
(式中、R3は、水素またはメチル基であり、R4は、少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を有するC3-C18置換基である。)の化合物;および任意に
(c)式(III)
【0073】
【0074】
(式中、R5は、水素またはメチル基であり、R6は、C1-C8ヒドロカルビル基である。)の1以上のモノマーを含む。
【0075】
モノマー
一実施形態では、シリルエステル共重合体(B)は、少なくともアクリル酸トリイソプロピルシリルモノマー(a)および少なくとも1つの親水性モノマー(b)を含む。
【0076】
シリルエステル共重合体(B)中の所与のモノマーの質量%が示される場合、質量%は、共重合体中に存在する各モノマーの合計(質量)に対してである。したがって、アクリル酸トリイソプロピルシリル(a)と親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)がシリルエステル共重合体中の唯一のモノマーである場合、アクリル酸トリイソプロピルシリルの質量%は、[アクリル酸トリイソプロピルシリル(a)(質量)/(アクリル酸トリイソプロピルシリル(a)(質量)+親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)(質量))]×100%として計算される。アクリル酸トリイソプロピルシリル(a)、親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)および非親水性(メタ)アクリレート(c)のみが存在する場合、アクリル酸トリイソプロピルシリルの質量%は、[アクリル酸トリイソプロピルシリル(a)(質量)/(アクリル酸トリイソプロピルシリル(a)(質量)+親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)(質量)+非親水性(メタ)アクリレート(c)(質量))]×100%として計算される。
【0077】
共重合体は、好ましくは>80質量%、好ましくは>90質量%、より好ましくは>95質量%、特に>98質量%のアクリル酸トリイソプロピルシリル(a)、親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)および非親水性(メタ)アクリレートモノマー(c)の組合せを含む。
【0078】
成分(a)は、好ましくは共重合体の20質量%から80質量%、好ましくは30質量%から75質量%、特に40質量%から70質量%、より特に45質量%から65質量%を形成するアクリル酸トリイソプロピルシリルである。
成分(b)(合計)は、好ましくは共重合体の1質量%から40質量%、好ましくは共重合体の3質量%から30質量%、特に共重合体の4質量%から25質量%、より特に5質量%から20質量%を形成する。これらの質量%値は、存在する成分(b)モノマーの合計を指す。
【0079】
比(a):(b)(質量/質量)は、好ましくは50:50から99:1の範囲、好ましくは60:40から95:5の範囲、特に70:30から93:7の範囲、最も好ましくは75:25から92:8の範囲にある。好ましくは、共重合体中の(a)の質量分率は、成分(b)のそれよりも大きい。
【0080】
共重合体中の(a)+(b)の量は、好ましくは最大で95質量%、例えば最大で90質量%、特に最大で85質量%である。共重合体中の(a)+(b)の量は、30質量%から95質量%または40質量%から85質量%の範囲にあり得る。
【0081】
親水性(メタ)アクリレートモノマー成分(b)
特定の実施形態では、シリルエステル共重合体(B)は、式(I)
【0082】
【0083】
(式中、R1は、水素またはメチル基であり、R2は、環状エーテル(例えばオキソラン、オキサン、ジオキソラン、場合によりアルキル置換ジオキサン)であり、Xは、C1-C4アルキレン基、好ましくはC1-C2アルキレン基である。)の少なくとも1つのモノマーを含む。
【0084】
環状エーテルは、環内に単一の酸素原子または環内に2または3の酸素原子を含んでもよい。環状エーテルは、2から8の炭素原子、例えば3から5の炭素原子を含む環を含んでもよい。環全体は、4から8の原子、例えば5または6の原子を含んでもよい。
【0085】
環状エーテル環は、1以上の、例えば1つのC1-C6アルキル基で置換されていてもよい。その置換基は、X基に結合する位置を含む環上の任意の位置にあり得る。
【0086】
式(I)の適切な化合物としては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソプロピリデングリセロールメタクリレート、グリセロールホルマールメタクリレート、および環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートが挙げられる。
【0087】
式(I)は、最も好ましくは、以下の構造:
【0088】
【0089】
を有するテトラヒドロフルフリルアクリレートを表す。
【0090】
さらなる実施形態では、共重合体(B)は、式(II):
【0091】
【0092】
(式中、R3は、水素またはメチル基であり、R4は、少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含むC3-C18置換基である。)の1以上のモノマーを含んでもよい。
【0093】
上記式に示すように、「親水性(メタ)アクリレート」という用語は、式(II)のR4基が、少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含むことを必要とする。以下に詳細に説明するように、R6単位が、C原子およびH原子のみからなる式(III)の追加の非親水性(メタ)アクリレートモノマーも存在し得る。
【0094】
一実施形態では、シリルエステル共重合体(B)は、R4基が、式(CH2CH2O)m-R7(ここでR7は、C1-C10ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1-C10アルキル基またはC6-C10アリール置換基であり、そしてmは、1から6、好ましくは1から3の範囲の整数である。)で表される上記式(II)の少なくとも1つのモノマーを含む。好ましくは、R4は、式(CH2CH2O)m-R7(ここでR7は、アルキル置換基、好ましくはメチル基またはエチル基であり、そしてmは、1から3の範囲の整数、好ましくは1または2ある。)で表される。
【0095】
一実施形態では、シリルエステル共重合体(B)としては、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレートおよび2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、オリゴ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、およびオリゴ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートの1つ以上が挙げられる。
【0096】
特に好ましいモノマー(b)としては、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、およびテトラヒドロフルフリルメタクリレートが挙げられる。
【0097】
本明細書で使用する式(I)および式(II)は、「極性」(メタ)アクリレートモノマーまたは「親水性」(メタ)アクリレートモノマーを定義する。これらのモノマーをアクリル酸トリイソプロピルシリルとともに使用すると、分解が制御されたバインダーが確実に形成される。
【0098】
好ましくは、シリルエステル共重合体(B)は、式(I)のモノマーまたは式(II)のモノマーを含む。一般に、これらの両方の式のモノマーが存在することは好ましくない。
【0099】
追加の非親水性(メタ)アクリレートモノマー(c)
シリルエステル共重合体(B)は、式(III)
【0100】
【0101】
(式中、R5は、水素またはメチル基であり、R6は、C1-C8ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1-C8アルキル置換基、最も好ましくはメチル基、エチル基、n-ブチル基または2-エチルヘキシル基である。)の1以上の追加の非親水性(メタ)アクリレートモノマーを含んでもよい。式(III)によるモノマーは、本明細書では「非親水性」モノマーと呼ばれる。好ましい「非親水性」モノマーとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、およびメタクリル酸ブチルが挙げられる。
【0102】
本発明のすべての実施形態において、シリルエステル共重合体(B)は、好ましくは、少なくとも1つの追加の非親水性メタクリレートおよび/または非親水性アクリレートモノマーを含む。1以上の非親水性(メタ)アクリレートモノマーが存在する場合、シリルエステル共重合体中のこれらの非親水性(メタ)アクリレートモノマーの合計は、好ましくは最大で60質量%、好ましくは55質量%以下、例えば5質量%から55質量%の範囲、特に10質量%から50質量%の範囲にある。
【0103】
好ましい実施形態では、モノマーアクリル酸トリイソプロピルシリル(a)、成分(b)、および式(III)による任意の非親水性(メタ)アクリレートモノマーは、シリルエステル共重合体(B)中のモノマーの>80質量%、好ましくは>90質量%、特に>95質量%、より特に>98質量%を一緒に形成する。
【0104】
好ましい実施形態では、シリルエステル共重合体(B)は、1以上の非親水性モノマーメタクリル酸メチルおよび/またはアクリル酸n-ブチルを含む。
【0105】
本発明のすべての実施形態において、好ましくは、メタクリル酸メチルが含まれる。存在する場合、メタクリル酸メチルは、好ましくは、共重合体の2質量%から60質量%、好ましくは5質量%から50質量%の量で存在する。好ましい実施形態では、アクリル酸トリイソプロピルシリル(a)、成分(b)およびメタクリル酸メチルは、シリルエステル共重合体(B)中のモノマーの>50質量%、好ましくは>65質量%、特に>80質量%を一緒に形成する。
【0106】
存在する場合、アクリル酸n-ブチルは、好ましくは1質量%から30質量%、特に2質量%から20質量%、より特に3質量%から15質量%の量で存在する。
【0107】
シリルエステル共重合体(B)は、追加のエチレン性不飽和モノマーを含んでもよい。適切なエチレン性不飽和モノマーの代表例としては、スチレン、酢酸ビニル、メタクリル酸トリイソプロピルシリル、メタクリル酸2-(トリメチルシロキシ)エチル、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸酢酸亜鉛、および(メタ)アクリル酸ネオデカン酸亜鉛が挙げられる。存在する場合、任意の追加のエチレン性不飽和モノマーは、好ましくは共重合体の20質量%以下、好ましくは共重合体の10質量%以下を形成する。
【0108】
シリルエステル共重合体(A)および(B)の特性
シリルエステル共重合体(A)および(B)は、当該技術分野で知られている重合反応を使用して調製することができる。シリルエステル共重合体は、重合開始剤の存在下、従来の方法の溶液重合、バルク重合、乳化重合、分散重合、懸濁重合などの種々の方法のいずれかにより、または制御重合技術によりモノマー混合物を重合することにより得ることができる。このシリルエステル共重合体を使用してコーティング組成物を調製する際に、共重合体は、好ましくは有機溶媒で希釈して、適切な粘度を有するポリマー溶液をもたらす。この観点から、溶液重合を使用することが望ましい。
【0109】
フリーラジカル重合に適した開始剤の例としては、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、および1,1’-アゾビス(シアノシクロヘキサン)などのアゾ化合物;およびペルオキシピバル酸tert-アミル、ペルオキシピバル酸tert-ブチル、2-エチルヘキサン酸tert-アミルペルオキ、2-エチルヘキサン酸tert-ブチルペルオキシ、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエート、ペルオキシジエチル乳酸tert-ブチル、ペルオキシイソブチル酸tert-ブチル、ペルオキシ安息香酸tert-ブチル、1,1-ジ(tert-アミルペルオキシ)シクロヘキサン、tert-アミルペルオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、ポリエーテルポリ-tert-ブチルペルオキシカーボネート、ジ-tert-ブチルペルオキシド、およびジベンゾイルペルオキシドなどの過酸化物が挙げられる。これらの化合物は、単独で、または、それらの2以上を組み合わせて使用してもよい。
【0110】
有機溶媒の例としては、キシレン、トルエン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン;酢酸ブチル、酢酸tert-ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸n-ブチル、イソ酪酸イソブチル、酢酸2-メトキシエチル、酢酸1-メトキシ-2-プロピルなどのエステル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル;メチルイソブチルカルビノール、ベンジルアルコールなどのアルコール;1-メトキシ-2-プロパノ-ル、1-プロポキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール;揮発油、リモネンなどの脂肪族炭化水素が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または、それらの2以上を組み合わせて使用してもよい。
【0111】
シリルエステル共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、勾配共重合体またはブロック共重合体であり得る。共重合体は、好ましくはランダム共重合体である。
【0112】
このように得られたオルガノシリルエステル基含有ポリマーは、好ましくは質量平均分子量(Mw)が5,000から100,000、好ましくは15,000から80,000、より好ましくは20,000から60,000である。Mwは、実施例セクションに記載のように測定される。
【0113】
シリルエステル共重合体(A)および(B)は、好ましくは、各々少なくとも5°C、好ましくは少なくとも10°Cのガラス転移温度(Tg)を有し、すべての値は、実施例セクションに記載のTg試験に従って測定される。70°C未満、例えば60°C未満、例えば55°C未満の値が好ましい。
【0114】
組み合わせると、共重合体(A)と(B)のブレンドは、好ましくはガラス転移温度(Tg)が70°C未満、好ましくは60°C未満、例えば55°C未満であり、すべての値は、実施例セクションに記載のTg試験に従って測定される。10℃超、例えば20℃超、例えば25°C超の値が好ましい。
【0115】
シリルエステル共重合体(A)および(B)は、キシレン溶液などのポリマー溶液として提供されてもよい。ポリマー溶液は、好ましくは、30質量%から90質量%まで、好ましくは40質量%から80質量%まで、より好ましくは45質量%から75質量%までの固形分を有するように調節される。
【0116】
コーティング組成物中の共重合体(A):(B)の質量比は、55:45から95:5の範囲にある。好ましくは、(A):(B)の比は、65:35から90:10の範囲にある。
【0117】
本発明のコーティング組成物中に存在するシリルエステル共重合体(A)の量は、バインダー系の総質量(乾燥固形分)に基づいて、20質量%から90質量%(乾燥固形分)、好ましくは30質量%から80質量%(乾燥固形分)、より好ましくは35質量%から75質量%(乾燥固形分)である。
【0118】
本発明の最終の防汚コーティング組成物は、全コーティング組成物に基づいて、好ましくは2質量%から30質量%(乾燥固形分)、より好ましくは5質量%から25質量%(乾燥固形分)のシリルエステル共重合体(A)を含む。
【0119】
本発明のコーティング組成物中に存在するシリルエステル共重合体(B)の量は、バインダー系の総質量(乾燥固形分)に基づいて、2質量%から45質量%(乾燥固形分)、好ましくは3質量%から40質量%(乾燥固形分)、より好ましくは5質量%から35質量%(乾燥固形分)である。
【0120】
本発明の最終の防汚コーティング組成物は、全コーティング組成物に基づいて、好ましくは0.5質量%から15質量%(乾燥固形分)、より好ましくは1質量%から12質量%(乾燥固形分)のシリルエステル共重合体(B)を含む。
【0121】
複数のシリルエステル共重合体(A)および/または複数のシリルエステル共重合体(B)を使用することは本発明の範囲内であるが、好ましくは単一の共重合体(A)および単一の共重合体(B)が使用される。
【0122】
本発明の一実施形態では、コーティング組成物は、本明細書に定義した共重合体(A)および(B)以外のシリルエステル共重合体を15質量%未満、好ましくは10質量%未満、例えば5質量%未満、例えば0質量%含む。
【0123】
(C)モノカルボン酸
本発明の防汚コーティング組成物は、モノカルボン酸またはその誘導体を含む。
モノカルボン酸およびモノカルボン酸の誘導体は、防汚コーティング組成物に適用できる多くの特性を有する。それらは、殺生物剤の制御放出に寄与し、防汚コーティングの水溶性と機械的特性を調整し、粘度を下げる。それらは容易に入手でき、それらの多くは再生可能な天然資源に由来する。
【0124】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在するモノカルボン酸は、好ましくは5から50の炭素原子、より好ましくは10から40の炭素原子、さらにより好ましくは12から25の炭素原子を含む。
【0125】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在するモノカルボン酸は、好ましくは、樹脂酸またはその誘導体、C6-C20環状モノカルボン酸、C5-C24非環状脂肪族モノカルボン酸、C7-C20芳香族モノカルボン酸、いずれかのモノカルボン酸の誘導体およびそれらの混合物から選択される。
【0126】
モノカルボン酸の誘導体としては、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ土類金属カルボン酸塩(例えば、カルボン酸カルシウム塩、カルボン酸マグネシウム塩)および遷移金属カルボン酸塩(例えば、カルボン酸亜鉛、カルボン酸銅)などのモノカルボン酸の金属塩が挙げられる。好ましくは、金属カルボン酸塩は遷移金属カルボン酸塩であり、特に好ましくは、金属カルボン酸塩はカルボン酸亜鉛またはカルボン酸銅である。金属カルボン酸塩は、防汚コーティング組成物に直接添加されてもよく、または防汚コーティング組成物中にin situ生成されてもよい。
【0127】
樹脂酸の代表例としては、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマル酸、ピマル酸、イソピマル酸、サンダラコピマリン酸、コミュン酸およびメルクス酸、セコデヒドロアビエチン酸が挙げられる。樹脂酸は天然源に由来し、それ自体、典型的には酸の混合物として存在することが理解されよう。樹脂酸はロジン酸とも呼ばれる。樹脂酸源の代表例は、ガムロジン、ウッドロジン、タル油ロジンである。コロフォニーおよびコロフォニウムとも呼ばれるガムロジンが特に好ましい。好ましいロジンは、85%超の樹脂酸、さらにより好ましくは90%超の樹脂酸を含むものである。
【0128】
市販グレードのロジンは、多くの場合、ASTM D509で指定されたカラースケールXC(最も明るい)、XB、XA、X、WW、WG、N、M、K、I、H、G、F、E、D(最も暗い)に関する文字の指定により、その色に従って分類される。本発明の組成物の好ましい色グレードは、X、WW、WG、N、M、K、Iであり、さらにより好ましくはWWである。市販グレードのロジンは、通常、ASTM D465で指定された155mg KOH/gから180mg KOH/gの酸価を有する。本発明の組成物に好ましいロジンは、155mg KOH/gから180mg KOH/g、より好ましくは160mg KOH/gから175mg KOH/g、さらにより好ましくは160mg KOH/gから170mg KOH/gの酸価を有する。市販グレードのロジンは、通常、ASTM E28で指定された70°Cから80°Cの軟化点(環球法)を有する。本発明の組成物に好ましいロジンは、70℃から80℃、より好ましくは75℃から80℃の軟化点を有する。
【0129】
樹脂酸誘導体の代表例としては、部分水添ロジン、完全水添ロジン、不均化ロジン、ジヒドロアビエチン酸、ジヒドロピマリン酸、およびテトラヒドロアビエチン酸が挙げられる。
【0130】
C6-C20環状モノカルボン酸の代表例としては、ナフテン酸、1,4-ジメチル-5-(3-メチル-2-ブテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,3-ジメチル-2-(3-メチル-2-ブテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,2,3-トリメチル-5-(1-メチル-2-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,4,5-トリメチル-2-(2-メチル-2-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,4,5-トリメチル-2-(2-メチル-1-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,5,6-トリメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-メチル-4-(4-メチル-3-ペンテニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-メチル-3-(4-メチル-3-ペンテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、2-メトキシカルボニル-3-(2-メチル-1-プロペニル)-5,6-ジメチル-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-5-イル-カルボン酸、1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-6-イル-カルボン酸、6-イソプロピル-3-メチル-ビシクロ[2,2、2]2-オクテン-8-イル-カルボン酸、および6-イソプロピル-3-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-7-イル-カルボン酸が挙げられる。
【0131】
C5-C24非環状脂肪族モノカルボン酸の代表例としては、バーサチック(登録商標)酸、ネオデカン酸、2,2,3,5-テトラメチルヘキサン酸、2,4-ジメチル-2-イソプロピルペンタン酸、2,5-ジメチル-2-エチルヘキサン酸、2,2-ジメチルオクタン酸、2,2-ジエチルヘキサン酸、ピバル酸、2,2-ジメチルプロピオン酸、トリメチル酢酸、ネオペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソノナン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、16-メチルヘプタデカン酸、12,15-ジメチルヘキサデカン酸が挙げられる。非環状脂肪族モノカルボン酸は、好ましくは、液体の非環状C10-C24モノカルボン酸または液体の分岐C10-C24モノカルボン酸から選択される。非環状C10-C24モノカルボン酸の多くは天然源に由来し得、その場合、それらは単離された形態で、典型的には種々の分岐度の異なる鎖長の酸の混合物として存在することが理解されよう。
【0132】
好ましくは、モノカルボン酸は、ガムロジン、ガムロジンの誘導体、非環状C10-C24モノカルボン酸、C6-C20環状モノカルボン酸またはそれらの混合物である。酸の混合物は、好ましくは、少なくとも1つの樹脂酸、ガムロジンまたはガムロジンの誘導体を含む。ガムロジンが最も好ましい。
【0133】
一実施形態では、モノカルボン酸の誘導体は金属カルボン酸塩ではない。
【0134】
本発明の組成物中に存在するモノカルボン酸の量は、バインダー系の総質量に基づいて、5質量%から40質量%(乾燥固形分)、好ましくは10質量%から35質量%(乾燥固形分)、より好ましくは15質量%から30質量%(乾燥固形分)である。
【0135】
本発明の最終の防汚コーティング組成物は、好ましくは、全コーティング組成物に基づいて、モノカルボン酸を0.5質量%から25質量%(乾燥固形分)、例えば1質量%から20質量%(乾燥固形分)、特に2質量%から18質量%(乾燥固形分)含む。
【0136】
(D)アクリル共重合体
本発明のコーティング組成物は、バインダー系の一部としてアクリル共重合体(D)をさらに含んでもよい。「アクリル共重合体」という用語は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のエステル、およびメタクリル酸のエステルに基づく少なくとも1つのモノマーを含む共重合体を指す。アクリル共重合体(D)が本発明の共重合体(A)および(B)と異なることが要件である。理想的には、アクリル共重合体(D)には、TIPSMAモノマー単位またはTIPSAモノマー単位は含まれていない。
【0137】
アクリル共重合体は、好ましくは30℃未満、好ましくは20℃未満、より好ましくは10℃未満、さらにより好ましくは0℃未満のTgを有し、すべての値は、実施例セクションに記載のTg試験に従って測定される。ガラス転移温度(Tg)が30°C未満のアクリル共重合体を使用すると、最終の防汚コーティング組成物の粘度がさらに低下し、したがって必要となり得る溶媒含有量が減少すると考えられる。
【0138】
単一のアクリル共重合体を成分(D)として使用してもよい。あるいは、2つ以上のアクリルポリマーの混合物を使用してもよい。
【0139】
一実施形態では、アクリル共重合体は、(メタ)アクリル酸単位を含み、より好ましくは60mgKOH/gポリマー未満、より好ましくは40mgKOH/gポリマー未満、さらにより好ましくは25mgKOH/gポリマー未満の酸価を有する。好ましくは、酸価は、2mg KOH/gポリマー超、例えば5mg KOH/gポリマー超である。酸価は、実施例セクションに記載のように測定される。
【0140】
一実施形態では、アクリル共重合体は、アクリル共重合体の総質量に基づいて、0.50質量%から10質量%のカルボン酸含有モノマーを含む。
【0141】
特に好ましい実施形態では、アクリル共重合体は、
モノマーとして:
i.式(IV):
【0142】
【0143】
(式中、R8は、水素またはメチル基であり、R9は、C1-C20ヒドロカルビル置換基である。)の少なくとも1つの(メタ)アクリレートと;
ii.アクリル共重合体の総質量に基づいて、0.5質量%から10質量%の少なくとも1つのカルボン酸含有モノマー
とを含む。
【0144】
i.およびii.で定義したモノマーの組合せは、アクリル共重合体の少なくとも80質量%、例えば少なくとも85質量%、好ましくは少なくとも90質量%、より好ましくは少なくとも95質量%を構成してもよい。別の特定の実施形態では、i.およびii.で定義したモノマーの組合せは、アクリル共重合体の最大95質量%、例えば最大99質量%を表す。
【0145】
明確になるように、「i.およびii.で定義したモノマーの組合せ」には、式(IV)の2つ以上のモノマーまたは2つ以上のカルボン酸含有モノマーを有する可能性が含まれる。アクリル共重合体は、好ましくは、式(IV)のモノマーならびに上記i.およびii.に記載のカルボン酸含有モノマー以外のすべてのモノマーを10質量%未満、好ましくは5質量%未満、好ましくは2質量%未満含有する。特定の実施形態では、成分i.およびii.は、アクリル共重合体のモノマー成分全体を構成する。
【0146】
特定の実施形態では、アクリル共重合体は、シリルエステルモノマーなどの加水分解性モノマーを含まない。好ましくは、アクリル共重合体は非加水分解性である。
【0147】
好ましくは、アクリル共重合体は、10,000g/molから50,000g/mol、好ましくは15,000g/molから45,000g/molの質量平均分子量(Mw)を有する。
【0148】
アクリル共重合体は、実施例セクションに記載の酸価試験に従って測定して2mg KOH/gポリマーから60mg KOH/gポリマー、例えば5mg KOH/gポリマーから40mg KOH/gポリマーの酸価を有し得る。
【0149】
本発明のバインダー系は、全体としてバインダー系の総質量に対して、1質量%から20質量%(乾燥固形分)、好ましくは2質量%から15質量%(乾燥固形分)、より好ましくは5質量%から10質量%(乾燥固形分)を含むことができる。
【0150】
(メタ)アクリレートモノマーi.
アクリル共重合体に使用される(メタ)アクリレートモノマーは、好ましくは式(IV):
【0151】
【0152】
(式中、R8は、水素またはメチル基であり、R9は、C1-C20ヒドロカルビル基、好ましくはC1-8アルキル置換基、最も好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基または2-エチルヘキシル基である。特に好ましいR9基は、メチル基、n-ブチル基、および2-エチルヘキシル基である。)で表される。
【0153】
式(IV)によるモノマーは、本明細書では「非親水性」モノマーと呼ばれる。
【0154】
特定の実施形態では、アクリル共重合体は、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルおよびメタクリル酸2-エチルヘキシルから選択される式(IV)の少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーを含む。特定の実施形態では、アクリル共重合体は、式(IV)の少なくとも2つの異なるモノマーを含む。
【0155】
特定の実施形態では、アクリル共重合体は、1つのモノマーとしてメタクリル酸メチルおよび式(IV)の少なくとも1つの他のモノマーを含む。さらなる特定の実施形態では、アクリル共重合体は、少なくともメタクリル酸メチルおよびメタクリル酸n-ブチルを含む。式(IV)の1以上の(メタ)アクリレートモノマーが存在する場合、アクリル共重合体中のこれらの(メタ)アクリレートモノマーの合計の質量パーセントは、アクリル共重合体の総質量に基づいて、好ましくは最大99.5質量%、例えば最大99.2質量%、例えば最大99.0質量%、例えば最大98.5質量%、例えば最大98.0質量%である。
【0156】
さらに、式(IV)の1以上の(メタ)アクリレートモノマーが存在する場合、アクリル共重合体中のこれら(メタ)アクリレートモノマーの合計の質量パーセントは、アクリル共重合体の総質量に基づいて、好ましくは少なくとも80質量%、例えば少なくとも85質量%、例えば少なくとも90質量%、例えば少なくとも92質量%である。
【0157】
存在する場合、メタクリル酸メチルは、好ましくはアクリル共重合体の1.0質量%から50質量%、好ましくは1.5質量%から30質量%、より好ましくは1.5質量%から25質量%の量で存在する。
【0158】
存在する場合、アクリル酸n-ブチルは、好ましくはアクリル共重合体の50質量%から99質量%、好ましくは55質量%から98質量%、より好ましくは65質量%から97質量%、例えば70質量%から95質量%の量で存在する。
【0159】
カルボン酸含有モノマーii.
アクリル共重合体に使用されるカルボン酸含有モノマーは、コーティングフィルム中のアクリル共重合体の改善された相溶性を提供するのに役立つ。カルボン酸含有モノマーは、本明細書では互換的に酸性モノマーと呼ばれる。酸性モノマー含有量の最適範囲を超えると、高粘度を有するアクリル共重合体が得られる。アクリル共重合体の粘度が高いということは、塗料の調製と塗布に大量の溶媒が必要であることを意味する。VOC規制が厳しいため、これは望ましくない。
【0160】
好ましくは、酸性モノマーは、アクリル共重合体の質量に基づいて、0.5質量%から10質量%の量で存在する。さらなる特定の実施形態では、カルボン酸含有モノマーは、アクリル共重合体の質量に基づいて、0.5質量%から8.0質量%、例えば1.0質量%から7.5質量%、例えば1.2質量%から7.0質量%、例えば1.3質量%から6.5質量%、例えば1.4質量%から6.0質量%の量で存在する。
【0161】
カルボン酸含有モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2-カルボキシエチル、メタクリル酸2-カルボキシメチル、モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチルマレアート、およびコハク酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチルが挙げられる。
【0162】
好ましくは、カルボン酸含有モノマーは、アクリル酸またはメタクリル酸、より好ましくはメタクリル酸である。アクリル酸ならびにメタクリル酸の組合せを使用してもよい。
【0163】
別の実施形態では、アクリル共重合体(D)は、親水性(メタ)アクリレートベースの共重合体であってもよい。本明細書では、親水性という用語は、少なくとも10質量%の式(V):
【0164】
【0165】
(式中、R10は、HまたはCH3であり、R11は、少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含むC3-C18置換基であり、またはR11は、ポリ(アルキレングリコール)基を表す。本明細書で使用するこの構造は「親水性」(メタ)アクリレートモノマーを定義する。)の少なくとも1つのモノマーの存在を意味するために使用される。
【0166】
上記式に示すように、「親水性(メタ)アクリレート」という用語は、式(V)のR11基が、少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含むことを必要とする。
【0167】
好ましくは、R11基は、式(CH2CH2O)n-R12(ここでR12は、C1-C10ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1-C10アルキル置換基またはC6-C10アリール置換基であり、そしてnは、1から5、好ましくは1から3の範囲の整数である。)で表され、好ましくは、R11は、式(CH2CH2O)n-R12(ここでR12は、C1-C10アルキル置換基、好ましくはCH3またはCH2CH3であり、そしてnは、1から3の範囲の整数、好ましくは1または2である。)で表される。このようなモノマーは、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-ブトキシエチルアクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-ブトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルアクリレート、2-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]エチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-ブトキシエチルメタクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-ブトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルメタクリレート、2-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]エチルメタクリレートであり得る。
【0168】
一実施形態では、アクリル共重合体(D)としては、2-メトキシエチルアクリレート(MEA)、2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)、2-エトキシエチルメタクリレート(EEMA)、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート(EDEGA)、または2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート(EDEGMA)の1つ以上が挙げられる。
【0169】
別の実施形態では、アクリル共重合体(D)は、R11基が、ポリ(エチレングリコール)基などのポリ(アルキレングリコール)基である上記式(V)の少なくとも1つのモノマーを含む。このような基は、式(CH2CH2O)m-R13または(CH2CH(CH3)O)m-R13(ここでR13は、C1-C10ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1-C10アルキル置換基またはC6-C10アリール置換基であり、そしてmは、5から100、好ましくは5から20の範囲の整数である。)を有し得る。このようなモノマーは、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)エチルエーテルメタクリレートであり得る。好ましいこのようなモノマーは、300から4000、より好ましくは300から1000の数平均分子量(Mn)を有する。
【0170】
一実施形態では、アクリル共重合体(D)は、R11基が、少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは、少なくとも1つの酸素原子を含む飽和環状基である上記式(V)の少なくとも1つのモノマーを含む。より好ましくは、R11は、基W-R14(式中、R14は、環状エーテル(例えばオキソラン、オキサン、ジオキソラン、場合によりアルキル置換ジオキサン)であり、そしてWは、C1-C4アルキレン基である。)である。このようなモノマーは、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、(1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メタクリル酸メチルであり得る。好ましい環状エーテルは、環内に少なくとも4つの原子を含む必要がある。この実施形態において最も好ましくは、式(V)の化合物は、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)およびテトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)である。
【0171】
この実施形態では、式(V)のモノマーは、好ましくはアクリル共重合体(D)の少なくとも15質量%を形成する。
【0172】
式(V)のモノマーは、好ましくは、2-メトキシエチルアクリレート(MEA)、2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)、2-エトキシエチルメタクリレート(EEMA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート(EDEGA)、または2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート(EDEGMA)である。
【0173】
アクリル共重合体の調製
アクリル共重合体は、当該技術分野で知られている重合反応を用いて調製することができる。アクリルポリマーは、好ましくは付加重合または連鎖成長重合を用いて調製される。例えば、ポリマーは、重合開始剤および場合により連鎖移動剤の存在下で、従来の方法の溶液重合、バルク重合、乳化重合、分散重合および懸濁重合などの種々の方法のいずれかにより、または制御重合技術によりモノマー混合物を重合することにより得ることができる。このポリマーを使用してコーティング組成物を調製する際に、ポリマーは、好ましくは有機溶媒で希釈して、適切な粘度を有するポリマー溶液をもたらす。この観点から、溶液重合を使用することが望ましい。
【0174】
フリーラジカル重合に適した開始剤の例としては、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸ジメチル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、および1,1’-アゾビス(シアノシクロヘキサン)などのアゾ化合物;およびtert-アミルピバル酸ペルオキシド、tert-ブチルピバル酸ペルオキシド、tert-アミル2-エチルヘキサン酸ペルオキシド、tert-ブチル2-エチルヘキサン酸ペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチル2-エチルヘキサン酸ペルオキシド、tert-ブチルジエチル乳酸ペルオキシド、tert-ブチルイソ酪酸ペルオキシド、tert-ブチル安息香酸ペルオキシド、1,1-ジ(tert-アミルペルオキシ)シクロヘキサン、tert-アミルペルオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、ポリエーテルポリ-tert-ブチルペルオキシカーボネート、ジ-tert-ブチルペルオキシド、およびジベンゾイルペルオキシドなどの過酸化物が挙げられる。これらの化合物は、単独で、または、それらの2以上の混合物として使用される。
【0175】
有機溶媒の例としては、キシレン、トルエン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン;酢酸ブチル、酢酸tert-ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸n-ブチル、イソ酪酸イソブチル、酢酸2-メトキシエチル、酢酸1-メトキシ-2-プロピルなどのエステル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル;n-ブタノール、イソブタノール、メチルイソブチルカルビノール、ベンジルアルコールなどのアルコール;ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール;リモネンなどのテルペン;揮発油などの脂肪族炭化水素が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、またはそれらの2以上を組み合わせて使用してもよい。好ましい組合せは、芳香族炭化水素ならびに、ケトン、エステル、エーテル、アルコール、およびエーテルアルコールから選択される1以上の溶媒である。
【0176】
アクリル共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、勾配共重合体またはブロック共重合体であり得る。アクリル共重合体は、好ましくはランダム共重合体である。
【0177】
その他のバインダー成分
上記成分(A)から(D)に加えて、追加のバインダーを使用して、防汚コーティングフィルムの特性を調整することができる。使用できるバインダーの例としては:
ポリ(N-ビニルピロリドン)共重合体およびポリ(エチレングリコール)共重合体などの親水性共重合体;
ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(エチルビニルエーテル)、ポリ(イソブチルビニルエーテル)、ポリ(塩化ビニル-コ-イソブチルビニルエーテル)などのビニルエーテルポリマーおよび共重合体;
ポリ(アクリル酸n-ブチル)およびポリ(アクリル酸n-ブチル-co-イソブチルビニルエーテル)などの(メタ)アクリルホモポリマーおよび共重合体;
(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸水酸化亜鉛、(メタ)アクリル酸ネオデカン酸亜鉛または(メタ)アクリル酸オレイン酸亜鉛を含む共重合体などの金属(メタ)アクリル酸共重合体;
ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(2-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4-ヒドロキシ吉草酸)、ポリカプロラクトンおよび上記単位から選択される2以上の単位を含む脂肪族ポリエステル共重合体などの飽和脂肪族ポリエステル;
ポリオキサレート;
上記指定のポリマー群のいずれかからの高分子可塑剤が挙げられる。高分子可塑剤という用語は、25℃未満のガラス転移温度(Tg)を有するポリマーを指す。
本発明の防汚コーティング組成物中に存在し得る他のバインダーの追加の例としては:
メチルエステル、グリセロールエステル、ポリ(エチレングリコール)エステル、ペンタエリスリトールエステルなどのロジンおよび水添ロジンのエステル(好ましくは、ガムロジンおよび水添ガムロジンのメチルエステルである。);
二量化および重合ロジン;
アルキド樹脂および変性アルキド樹脂;
C5脂肪族モノマー、C9芳香族モノマー、インデンクマロンモノマー、あるいはテルペンまたはそれらの混合物から選択される少なくとも1つのモノマーの重合からのみ形成される炭化水素樹脂などの炭化水素樹脂が挙げられる。
【0178】
成分(A)から(D)に加えて、さらなるバインダーが存在する場合、(A)から(C)および場合により(D):さらなるバインダーを含むバインダー系の質量比は、70:30から99:1、好ましくは75:25から95:5、特に80:20から90:10に及ぶ。
【0179】
殺生物剤
本発明の防汚コーティング組成物は、好ましくは、海洋汚損の表面上の定着または成長を防止できる化合物をさらに含む。防汚剤、防汚剤、殺生物剤、活性化合物、毒物という用語が、表面上の海洋汚損を防ぐように作用する既知の化合物を記載するために業界で使用されている。本発明の防汚剤は、海洋防汚剤である。
【0180】
防汚剤は、無機、有機金属または有機であり得る。適切な防汚剤は市販されている。
【0181】
無機防汚剤の例としては、銅および酸化銅、例えば酸化第一銅および酸化第二銅、チオシアン酸銅および硫化銅、銅粉および銅フレークなどの銅化合物が挙げられる。
【0182】
有機金属海洋防汚剤の例としては、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛[ジラム]、およびエチレンビス(ジチオカルバミド酸)亜鉛[ジネブ]が挙げられる。
【0183】
有機海洋防汚剤の例としては、2-(tert-ブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミノ)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[シブトリン]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素[ジウロン]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-フェニルスルファミド[ジクロロフルアニド]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]、N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、トリフェニルボランピリジン[TPBP]、3-ヨード-2-プロピニルN-ブチルカルバメート[IPBC]、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル[クロロタロニル]、p-((ジヨードメチル)スルフォニル)トルエン、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トラロピリル]、および4-[1-(2,3ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]などの複素環化合物が挙げられる。
【0184】
海洋防汚剤の他の例は、テトラアルキルホスホニウムハロゲン化物、グアニジン誘導体、例えばN-ドデシルグアニジン塩酸塩;アベルメクチンおよびその誘導体(例えばイベルメクチン)を含む大環状ラクトン;スピノシンおよび誘導体、例えばスピノサド;カプサイシン誘導体、例えばフェニルカプサイシン;そして、酵素、例えばオキシダーゼ、タンパク分解性、ヘミセルロース分解性、セルロース分解性、脂肪分解性およびデンプン分解性の活性酵素であり得る。
【0185】
銅ベースの防汚コーティング組成物は、硬い汚損を防ぐために、無機銅殺生物剤、例えば金属銅、酸化第一銅、チオシアン酸銅などを含む。
【0186】
酸化第一銅の材料は、0.1μmから70μmの典型的な粒子径分布と1μmから25μmの平均粒子径(d50)を有する。酸化第一銅の材料は、表面の酸化と固化を防ぐために安定化剤を含んでもよい。市販の酸化第一銅の塗料グレードの例としては、Nordox ASからのNordox Cuprous Oxide Red Paint Grade、Nordox XLT、Furukawa Chemicals Co., Ltd.からのCuprous oxide、American Chemet CorporationからのRed Copp 97N、Purple Copp、Lolo Tint 97N、Chemet CDC、Chemet LD、Spiess-UraniaからのCuprous Oxide Red、Taixing Smelting Plant Co., Ltd.からのCuprous oxide Roast、Cuprous oxide Electrolyticが挙げられる。
【0187】
無機銅殺生物剤を含まない防汚コーティング組成物は、通常、硬い汚損を防ぐために、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]および4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トラロピリル]などの一連の有機殺生物剤を使用する。本発明では、すべての既知の殺生物剤を使用することができる。
【0188】
好ましい殺生物剤は、酸化第一銅、チオシアン酸銅、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、エチレンビス(ジチオカルバミド酸)亜鉛[ジネブ]、2-(tert-ブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミノ)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[cubutryne]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-フェニルスルファミド[ジクロロフルアニド]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]、トリフェニルボランピリジン[TPBP]および4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トラロピリル]、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]、およびフェニルカプサイシンである。
【0189】
異なる殺生物剤が異なる海洋汚損生物に対して作用するため、当該技術分野で知られているように、殺生物剤の混合物を使用することができる。一般に防汚剤の混合物が好ましい。
【0190】
一実施形態では、防汚コーティング組成物は、酸化第一銅および/またはチオシアン酸銅、ならびに銅ピリチオン、ジネブ、4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよびメデトミジンから選択される1以上の薬剤を含む。
【0191】
別の実施形態では、防汚コーティングは無機銅殺生物剤を含まない。この実施形態では、好ましい殺生物剤の組合せは、トラロピリルと亜鉛ピリチオン、ジネブ、4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよびメデトミジンから選択される1以上との組合せを含む。
【0192】
存在する場合、殺生物剤の配合量は、コーティング組成物の最大60質量%、例えば0.1質量%から50質量%、例えば5質量%から45質量%を形成してもよい。無機銅化合物が存在する場合、殺生物剤の適切な量は、コーティング組成物中に5質量%から60質量%であり得る。無機銅化合物が回避される場合、0.1質量%から25質量%など、例えば0.2質量%から10質量%の、より少量を使用し得る。殺生物剤の量は、最終用途および使用される殺生物剤に応じて変わることが理解されよう。
【0193】
いくつかの殺生物剤は、制御放出のために不活性担体にカプセル化あるいは吸着されるか、または他の材料に結合されてもよい。これらの割合は、存在する活性殺生物剤の量を示しており、したがって使用されている担体を示していない。
【0194】
その他の成分
上記のバインダーおよび任意の成分のいずれかに加えて、本発明による防汚コーティング組成物は、無機または有機顔料、増量剤および充填剤、添加剤、溶媒およびシンナーから選択される1以上の成分を任意にさらに含んでもよい。
【0195】
顔料は、無機顔料、有機顔料またはそれらの混合物であり得る。好ましくは、無機顔料である。無機顔料の例としては、二酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化亜鉛、硫化亜鉛、リトポン、およびグラファイトが挙げられる。有機顔料の例としては、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ナフトールレッド、およびジケトピロロピロールレッドが挙げられる。顔料は、場合により塗料組成物中により容易に分散されるように表面処理されていてもよい。
【0196】
増量剤および充填剤の例は、ドロマイト、プラストライト、方解石、石英、重晶石、マグネサイト、霰石、シリカ、霞石閃長岩、珪灰石、タルク、緑泥石、雲母、カオリン、パイロフィライト、パーライト、シリカ、長石などの鉱物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、リン酸亜鉛、シリカ(コロイド状、沈殿物、ヒュームドなど)などの合成無機化合物;コーティングしていない中空ガラスビーズまたはコーティングした中実ガラスビーズ、コーティングしていない中空セラミックビーズまたはコーティングした中実セラミックビーズなどの高分子微粒子および無機微粒子;ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸メチル-コ-エチレングリコールジメタクリレート)ポリ(スチレン-コ-エチレングリコールジメタクリレート)、ポリ(スチレン-コ-ジビニルベンゼン)、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)などの高分子材料の多孔性かつコンパクトなビーズである。
【0197】
好ましくは、本発明の組成物中に存在する増量剤および/または顔料の総量は、組成物の総質量に基づいて、2質量%から60質量%、より好ましくは5質量%から50質量%、さらにより好ましくは7質量%から45質量%である。当業者は、増量剤含有量および顔料含有量が、粒径分布、粒子形状、表面形態、粒子表面樹脂親和性、存在する他の成分およびコーティング組成物の最終用途に応じて変わることを理解するであろう。
【0198】
防汚コーティング組成物に添加できる添加剤の例は、強化剤、レオロジー調整剤、湿潤剤および分散剤、消泡剤および可塑剤である。
【0199】
強化剤の例は、フレークと繊維である。繊維としては、例えば国際特許公報00/77102号に記載のように、天然無機繊維および合成無機繊維、および天然有機繊維および合成有機繊維が挙げられる。繊維の代表例としては、鉱物ガラス繊維、ウォラストナイト繊維、モンモリロナイト繊維、トバモライト繊維、アタパルジャイト繊維、焼成ボーキサイト繊維、火山岩繊維、ボーキサイト繊維、ロックウール繊維、鉱物綿からの加工鉱物繊維が挙げられる。好ましくは、繊維は、25μmから2,000μmの平均長さと1μmから50μmの平均厚さを有し、平均長さと平均厚さの比が少なくとも5である。好ましくは、強化剤は、本発明の組成物中に、組成物の総質量に基づいて、0質量%から20質量%、より好ましくは0.5質量%から15質量%、さらにより好ましくは1質量%から10質量%の量で存在する。
【0200】
レオロジー調整剤の例としては、チキソトロープ剤、増粘剤、および沈降防止剤が挙げられる。レオロジー調整剤の代表例は、ヒュームドシリカ、有機変性粘土、アミドワックス、ポリアミドワックス、アミド誘導体、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、水添ヒマシ油ワックス、エチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムおよびそれらの混合物である。活性化を必要とするレオロジー調整剤は、コーティング組成物にそのまま添加され、塗装製造プロセス中に活性化されてもよいし、溶媒ペーストなどのプレ活性型でコーティング組成物に添加されてもよい。好ましくは、レオロジー調整剤は、各々、コーティング組成物の総質量に基づいて、0質量%から5.0質量%、より好ましくは0.2質量%から3.0質量%、さらにより好ましくは0.5質量%から2.0質量%の量で本発明の組成物中に存在する。
【0201】
可塑剤の例は、高分子可塑剤、シリコーン油(非反応性ポリジメチルシロキサン)、塩素化パラフィン、フタル酸エステル、リン酸エステル、スルホンアミド、アジピン酸エステル、エポキシ化植物油、蔗糖酢酸イソ酪酸エステルである。好ましくは、可塑剤は、コーティング組成物の総質量に基づいて、0質量%から10質量%、より好ましくは0.5質量%から7質量%、さらにより好ましくは1質量%から5質量%の量で本発明の組成物中に存在する。
【0202】
脱水剤および安定剤は、防汚コーティング組成物の貯蔵安定性を改善する。脱水剤は、好ましくは、コーティング組成物から水分と水を除去する化合物である。それは、水捕捉剤または乾燥剤とも呼ばれる。脱水剤は、水を吸収するか、水を結晶水として結合する吸湿材であってもよい。これらは、多くの場合乾燥剤と呼ばれる。このような化合物の例としては、無水硫酸カルシウム、硫酸カルシウム半水和物、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸亜鉛、モレキュラーシーブ、およびゼオライトが挙げられる。脱水剤はまた、水と化学的に反応する化合物であってもよい。水と反応する脱水剤の例としては、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリプロピル、オルトギ酸トリイソプロピル、オルトギ酸トリブチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリブチル、オルトプロピオン酸トリエチルなどのオルトエステル;ケタール;アセタール;エノールエーテル;ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリ-tert-ブチルなどのオルトホウ酸塩;トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ポリケイ酸エチルなどのオルガノシランが挙げられる。
【0203】
好ましい脱水剤は、テトラエトキシシランなどの有機シラン、および無機乾燥剤である。オルガノシランの使用が特に好ましい。
【0204】
安定剤は、好ましくは酸捕捉剤である。安定剤の例は、ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2-メチルフェニル)カルボジイミド、および1,3-ジ-p-トリルカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物である。
【0205】
好ましくは、脱水剤および安定剤は、各々組成物の総質量に基づいて、0質量%から5質量%、より好ましくは0.5質量%から2.5質量%、さらにより好ましくは1.0質量%から2.0質量%の量で本発明の組成物中に存在する。
【0206】
本発明のある特に好ましい実施形態では、コーティング組成物は、脱水剤および/または安定剤、特に脱水剤を含む。
【0207】
非常に好ましくは、防汚組成物が溶媒を含む。この溶媒は、好ましくは揮発性であり、好ましくは有機である。有機溶媒とシンナーの例は、キシレン、トルエン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン;酢酸ブチル、酢酸tert-ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸n-ブチル、イソ酪酸イソブチルなどのエステル;酢酸2-メトキシエチル、酢酸1-メトキシ-2-プロピル、3-エトキシプロピオン酸エチルなどのエーテルエステル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル;n-ブタノ-ル、イソブタノール、メチルイソブチルカルビノール、ベンジルアルコールなどのアルコール;ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール;リモネンなどのテルペン;揮発油などの脂肪族炭化水素;任意に2以上の溶媒とシンナーの混合物である。
【0208】
好ましい溶媒は、ケトンおよび芳香族溶媒、特にキシレンおよび芳香族炭化水素および/またはケトンの混合物である。
【0209】
溶媒の量は、できるだけ少ないことが好ましい。溶媒含有量は、組成物の最大40質量%、好ましくは組成物の最大35質量%、例えば最大30質量%であり得るが、15質量%以下、例えば、10質量%以下の少量でもよい。再び、当業者は、いくつかの原料が溶媒を含み、上記の総溶媒含有量に寄与すること、および溶媒含有量が存在する他の成分およびコーティング組成物の最終用途に応じて変わることを理解するであろう。
【0210】
あるいは、コーティングは、コーティング組成物中のフィルム形成成分のための有機非溶媒または水性分散液中に分散させることができる。
【0211】
本発明の防汚コーティング組成物は、好ましくは、45体積%超、例えば50体積%超、例えば52体積%超、好ましくは55体積%超の固形分を有する必要がある。
【0212】
より好ましくは、防汚コーティング組成物は、500g/L未満、好ましくは420g/L未満、より好ましくは400g/L未満、例えば380g/L未満の揮発性有機化合物(VOC)の含有量を有する必要がある。VOC含有量は、ASTM D5201-01またはIED 2010/75/EUに記載のように計算することができ、または例えばUS EPA Method 24またはISO 11890-2に記載のように測定することができる。
【0213】
コーティング組成物の粘度は、ISO2884に準拠して円錐平板粘度計を用いて測定した場合、1000cP未満、例えば、800cP未満、例えば、500cP未満の範囲にあり得る。
【0214】
本発明の防汚コーティング組成物は、汚損を受けやすいすべての物体表面の全体または一部に塗布することができる。表面は、恒久的または断続的に水面下にあり得る(例えば、潮の動き、種々の積荷作業、またはうねりにより)。物体表面は、通常、船舶の船体、または石油プラットフォームやブイなどの固定された海洋物体の表面である。コーティング組成物の塗布は、任意の便利な手段により、例えば、塗装(例えばブラシやローラーで)またはコーティングの物体上へのスプレーにより達成することができる。通常、コーティングを可能にするには、表面を海水から分離する必要がある。コーティングの塗布は、当該技術分野で従来知られているように達成することができる。
【0215】
防汚コーティングを物体(例えば船体)に塗布する場合、物体の表面は、防汚コーティング組成物の単一コーティングのみによっては保護されない。表面の性質に応じて、防汚コーティングは既存のコーティングシステムに直接塗布できる。このようなコーティングシステムは、種々の一般タイプの塗料のいくつかの層(例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニルまたはアクリルまたはそれらの混合物)を含み得る。コーティングされていない表面(例えば、スチール、アルミニウム、プラスチック、複合材、ガラス繊維、カーボン繊維)で始まるフルコーティングシステムは、通常1層または2層の防食コーティング(例えば、硬化性エポキシコーティングまたは硬化性変性エポキシコーティング)、1層のタイコート(例えば、硬化性変性エポキシコーティングまたは物理乾燥ビニールコーティング)および1層または2層の防汚塗料を含む。例外的な場合には、防汚塗料のさらなる層が塗布されてもよい。表面が以前の塗布からのきれいでそのままの防汚コーティングである場合、新たな防汚塗料は、通常、例外的な場合に、より多くの1つまたは2つのコーティングとして直接塗布できる。防汚コーティング組成物の2以上のコーティングが塗布される場合、種々のコーティングは異なる組成の防汚コーティングであり得る。異なる防汚コーティング組成物を組み合わせる防汚コーティングシステムの例は、本発明の防汚コーティング組成物を有するコーティングシステムであって、最初のコーティング中の防汚コーティングが、最終コーティング中の防汚コーティングよりも高い含有量のシリルエステル共重合体(A)を有するバインダー組成物を有するシステム;本発明の防汚コーティング組成物を有するコーティングシステムであって、最初のコーティング中の防汚コーティングが、最終コーティング中の防汚コーティングよりも高い含有量のシリルエステル共重合体(B)を有するバインダー組成物を有するシステム;最初のコーティング中の本発明外の防汚コーティングシステムと最終コーティング中の本発明の防汚コーティング組成物とを有するコーティングシステムであってもよい。
【0216】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して定義されるであろう。
【0217】
実施例
材料および方法
試験
ポリマー溶液の粘度の測定
ポリマーの粘度は、ASTM D2196試験方法Aに従って、12rpmでLV-2またはLV-4スピンドルを有するBrookfield DV-I Primeデジタル粘度計を用いて測定した。ポリマー溶液は、測定前に23.0°C±0.5°Cに調整した。
【0218】
ポリマー溶液の不揮発性物質の含有量の測定
ポリマー溶液の不揮発性物質の含有量は、ISO 3251に従って測定した。0.5g±0.1gの試験サンプルを取り出し、105℃の換気オーブン中で3時間乾燥させた。残留物質の質量を不揮発性物質(NVM)とみなした。不揮発性物質の含有量は、質量パーセントで表す。示した値は、3つの並列の測定値の平均値である。
【0219】
ポリマーの分子量分布の測定
ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって特徴付けた。分子量分布(MWD)は、Agilent製の連続する2つのPLgel 5μm Mixed-Dカラムと屈折率(RI)検出器を有するMalvern Omnisec Resolve and Revealシステムと溶出液として1ml/minの一定流量のテトラヒドロフラン(THF)を用いて測定した。カラムは、Agilent製の細いポリスチレン標準Polystyrene Medium EasiVials(4ml)赤、黄、緑を用いて較正した。カラムオーブン温度と検出器オーブン温度は35℃であった。サンプル注入量は100μlであった。データは、Malvern製のOmnisec 5.1ソフトウェアを用いて処理した。
【0220】
サンプルは、25mgの乾燥ポリマーに相当する量のポリマー溶液を5mlのTHFに溶解することにより調製した。GPC測定のためのサンプリングの前に、サンプルを室温で最小3時間維持した。分析の前に、サンプルを0.45μmナイロンフィルターでろ過した。質量平均分子量(Mw)および多分散性指数(PDI)は、Mw/Mnとして表に記載されている。
【0221】
ガラス転移温度の測定
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)測定により得られた。DSC測定はTA Instruments DSC Q200で実行した。サンプルは、間隙サイズ100μmのアプリケーターを用いて、ガラスパネル上のポリマー溶液のドローダウンにより調製した。ガラスパネルを室温で一晩乾燥させ、その後、換気加熱キャビネット内で50℃で24時間乾燥させた。乾燥ポリマー材料をガラスパネルから削り取り、約10mgの乾燥ポリマー材料をアルミ缶に移した。缶を非密閉蓋で密封した。測定は、-80°Cから120°Cの温度範囲内で、10°C/minの加熱速度と10°C/minの冷却速度で、加熱-冷却-加熱手順を行い、参照として空の缶を使用することにより実行した。データは、TA Instruments製のUniversal Analysisソフトウェアを用いて処理した。ASTM E1356-08で定義されている第2の加熱のガラス転移範囲の変曲点が、ポリマーのTgとして記載されている。
【0222】
比色滴定による酸価の測定
ポリマーの酸価を、ISO2114:2000方法Aに記載の手順に従って測定した。ポリマー溶液の計量した量をJotun Thinner No.17に溶解した。フェノールフタレインを色指示薬として添加し、赤色が現れて溶液を撹拌している間10秒から15秒の間安定するまでエタノール中の0.1M KOH溶液で滴定した。乾燥ポリマーの酸価は、試験したポリマー溶液の測定した不揮発性物質に基づいて計算した。記載の酸価は、3つの並列の測定値の平均値である。
【0223】
共重合体溶液S1-S10およびCS1-CS9の調製の一般手順
ある量の溶媒を、撹拌機、凝縮器、窒素注入口および供給口を備えた温度制御反応容器に充填した。反応容器を加熱し、85℃の反応温度で維持した。モノマーと開始剤のプレミックスを調製した。プレミックスを、窒素雰囲気下2時間にわたって一定速度で反応容器に充填した。さらに30分反応させた後、追加開始剤溶液の後添加を加えた。反応容器を反応温度でさらに2時間維持した。次いで、反応器を105℃に加熱し、この温度で1時間維持した。最後に、反応器を室温まで冷却した。S1の調製では、冷却プロセス中に希釈するために一定量の溶媒を加えた。
【0224】
共重合体を調製するための成分は、以下の表1および2Aに記載されている。すべての量は質量部で示す。
【0225】
【0226】
【0227】
コバインダー溶液A1の調製のための一般手順
55.0部のキシレンおよび7.5部の1-メトキシ-2-プロパノールを、攪拌機、凝縮器、窒素注入口および供給口を備えた温度制御反応容器に充填した。反応容器を加熱し、85℃の反応温度に維持した。80.0部のアクリル酸2-エチルヘキシル、17.0部のメタクリル酸メチル、3.0部のメタクリル酸、および1.2部の2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)のプレミックスを調製した。窒素雰囲気下2.5時間にわたって一定速度でプレミックスを反応容器に充填した。さらに30分間反応させた後、0.2部の2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)と5.1部のキシレンとの追加開始剤溶液の後添加を加えた。反応容器を反応温度でさらに2時間維持した。最後に、反応器を室温まで冷却した。成分の量は質量部で示す。
【0228】
共重合体溶液は以下の特性:
不揮発性物質59.4質量%;粘度640cP;Mw39.2kD;Tg-41°C;酸価19mgKOH/g(乾燥ポリマー)を有していた。
【0229】
防汚コーティング組成物の調製のための一般手順
成分を、表4および5に示す比率で混合した(防汚コーティング組成物の選択した成分の商品名および製造業者を表3に示す)。混合物をガラスビーズ(直径約2mm)の存在下で振動シェーカーを用いて15分間250mlの塗料缶内で分散させた。試験前にガラスビーズをろ過した。
【0230】
円錐平板粘度計を用いた塗料粘度の測定
防汚コーティング組成物の粘度は、ISO 2884-1:1999に従って、23°Cの温度に設定した、10000s-1の剪断速度で動作し、0Pから10Pの粘度測定値範囲を提供するデジタル円錐平板粘度計を用いて測定した。結果を3つの測定値の平均値として示す。
【0231】
防汚コーティング組成物の揮発性有機化合物(VOC)含有量の計算
防汚コーティング組成物の揮発性有機化合物(VOC)含有量は、ASTM D5201に従って計算した。
【0232】
コーティングフィルムの加速亀裂試験
コーティングの接着性を向上させるために溶媒脱脂し磨いたPVCパネル(20cm×40cm)を試験に使用した。パネルは、エアレススプレーを用いて、Safeguard Plus(韓国Chokwang Jotun Ltd.製2成分ポリアミド硬化ビニルエポキシベースのコーティング)でコーティングした。塗布されたフィルムの厚さは、製品のテクニカルデータシートの推奨インターバル内であった。
【0233】
室温で24時間の最小乾燥時間の後、800μmの間隙サイズのフィルムアプリケーターを用いて、防汚コーティング組成物をプレコ-トパネルに塗布した。コーティングフィルムの試験区域は約5cm×9cmであった。パネルを、試験前に換気加熱キャビネット内で52°Cで72時間乾燥させた。パネルを、40°C±2°Cの天然のろ過海水が流れる容器に浸漬させた。隔月にパネルを取り出し、フィルムの欠陥を評価した。パネルを室温で24時間乾燥させ、その後52℃で24時間乾燥させた後、目視および10倍の倍率で亀裂を評価した。評価後、パネルを再浸漬させた。
【0234】
亀裂の評価は、ISO 4628 Part 4(2003)に記載の評価に基づいている。パネルの評価は次のとおりである。
【0235】
【0236】
11月暴露後の評価を表4および表5に記載する。
【0237】
海水中の回転ディスク上の防汚コーティングフィルムの研磨の測定
研磨は、コーティングフィルムの膜厚の経時的な減少を測定することにより測定した。溶剤脱脂し磨いたPVCディスクを試験に使用した。防汚コーティング組成物は、間隙サイズ300μmのフィルムアプリケーターを用いて、ディスク上に放射ストライプとして塗布した。乾燥コーティングフィルムの厚さは、表面プロファイラーにより測定した。PVCディスクをシャフトに取り付け、海水が流れる容器内で回転させた。回転シャフトの速度は、ディスク上で16ノットの平均シミュレーション速度を示した。ろ過し、30°C±2°Cに温度調整した天然海水を使用した。膜厚を測定するために、PVCディスクを6週間ごとに取り出した。ディスクをすすぎ、室温で一晩乾燥させてから、膜厚を測定した。
【0238】
表4および表5に記載の研磨は、52週間の試験後に膜厚が減少していることを示している。
【0239】
米国フロリダ州での防汚性能の試験
コーティングの接着性を向上させるために溶媒脱脂し磨いたPVCパネル(20cm×30cm)を試験に使用した。パネルは、エアレススプレーを用いて、市販のプライマー/タイコート(Safeguard Plus、韓国Chokwang Jotun Ltd.製2成分ポリアミド硬化ビニルエポキシベースのコーティング)の第1のコーティングでコーティングした。室温で24時間の最小乾燥時間の後、市販の防汚塗料(SeaQuantum Ultra S、英国Jotun Paints(Europe)Ltd.製1成分シリルアクリレート防汚コーティング)の第2のコーティングでコーティングした。第1のコーティングと第2のコーティングの硬化/乾燥時間と膜厚は、製品のテクニカルデータシートの推奨インターバル内であった。
【0240】
室温で24時間の最小乾燥時間の後、本発明の防汚コーティング組成物を、300μmの間隙サイズのフィルムアプリケーターを用いて、上塗りとしてプレコートPVCパネルに直接塗布した。コーティングフィルムの試験区域は約5cm×20cmであった。パネルの端は、市販の防汚製品で密封した。
【0241】
パネルは、フロリダのいかだ上に露出しており、そこではパネルが海面下0.5mから1.5mに沈んでいた。パネルを目視検査により評価し、以下のスケールに従って評価した。スコアは、藻類および動物の全汚損について示す。
【0242】
【0243】
表4および表5に記載の防汚性能は、フロリダで10月暴露後の汚損スコアである。
【0244】
【0245】
【0246】
【0247】
【0248】
【0249】
【0250】
【0251】
【0252】
コーティング組成物CP1中の比較共重合体CS1は、コーティング組成物P1およびP3中のようなS1+S3およびS1+S4のブレンドと同様のモノマー組成を有する。
【0253】
コーティング組成物CP2中の比較共重合体CS2は、コーティング組成物P2およびP4中のようなS1+S3およびS1+S4のブレンドと同様のモノマー組成を有する。
【0254】
コーティング組成物CP6中の比較共重合体CS3は、コーティング組成物P5中のようなS2+S5のブレンドと同様のモノマー組成を有する。
【0255】
表2および3の塗料粘度の結果は、TIPSMA-TIPSA共重合体と比較してTIPSMA共重合体(A)とTIPSA共重合体(B)とのブレンドを使用して粘度を下げることが好都合であることを示している。