(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】送液装置の駆動方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240129BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240129BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/14 605
B41J2/01 401
B41J2/18
(21)【出願番号】P 2019177333
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018247871
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉島 玲伊
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 明久
(72)【発明者】
【氏名】秋山 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】中窪 亨
(72)【発明者】
【氏名】海部 紀之
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-169706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0253032(US,A1)
【文献】特開2007-224837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
F04B 9/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する液室と、
前記液室に設けられ、電圧が印加されることによって前記液室の容積を膨張及び収縮させて、前記液室が収容する液体を外部との間で循環させる駆動素子と、
を備える送液装置の駆動方法であって、
前記駆動素子に印加する電圧を、
i)第1の電圧の印加と非印加を切り替える
ことで、電圧を印加する期間に続いて電圧を印加しない期間を有するように制御する第1の期間と、
ii)前記第1の期間に続く期間であって、前記第1の電圧を保持した後に前記第1の電圧から前記第1の電圧よりも低い第2の電圧に変化させる、または、前記第1の電圧を保持させずに前記第1の電圧から前記第2の電圧に変化させる第2の期間と、
を繰り返すように制御し、
前記第2の期間は、前記第1の期間よりも長いことを特徴とする駆動方法。
【請求項2】
前記第2の期間には、前記駆動素子に印加される電圧が、前記第1の電圧から所定の傾きで所定の電圧に変化する保持期間と、前記所定の電圧から前記第2の電圧に前記所定の傾きよりも大きな傾きで変化する期間とが含まれる請求項1に記載の駆動方法。
【請求項3】
液体を収容する液室と、
前記液室に設けられ、電圧が印加されることによって前記液室の容積を膨張及び収縮させて、前記液室が収容する液体を外部との間で循環させる駆動素子と、
を備える送液装置の駆動方法であって、
前記駆動素子に印加する電圧を、
i)第1の電圧の印加と非印加を切り替える
ことで、電圧を印加する期間に続いて電圧を印加しない期間を有するように制御する第1の期間と、
ii)前記第1の期間に続く期間であって、前記第1の電圧よりも低い第2の電圧を保持した後に前記第2の電圧から前記第1の電圧に変化させる、または、前記第2の電圧を保持させずに前記第2の電圧から前記第1の電圧に変化させる第2の期間と、
を繰り返すように制御し、
前記第2の期間は、前記第1の期間よりも長いことを特徴とする駆動方法。
【請求項4】
前記第2の期間には、前記駆動素子に印加される電圧が、前記第2の電圧から所定の傾きで所定の電圧に変化する保持期間と、前記所定の電圧から前記第1の電圧に前記所定の傾きよりも大きな傾きで変化する期間とが含まれる請求項3に記載の駆動方法。
【請求項5】
前記保持期間における前記所定の傾きの絶対値は0.1V/μsecより小さい請求項2または4に記載の駆動方法。
【請求項6】
前記保持期間は、前記送液装置に固有のヘルムホルツ振動周期をThとしたとき、(1/4-1/8)×Thから(10+1/8)×Thの範囲に含まれる請求項2、4または5に記載の駆動方法。
【請求項7】
前記送液装置に固有のヘルムホルツ振動周期をThとしたとき、前記電圧を印加する期間と前記電圧を印加しない期間の和は、Th×(2/8)からTh×(3/8)の範囲に含まれる、請求項1から6のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項8】
前記第1の期間における実効電圧は、前記第1の電圧の0.40倍から0.95倍の値である請求項1から
7のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項9】
前記第2の期間は、前記第1の期間の3倍以上であり30倍以下である請求項1から
8のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項10】
前記送液装置に固有のヘルムホルツ振動周期は、25μsec以下である請求項1から
9のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項11】
前記駆動素子は、薄膜圧電体と、該薄膜圧電体に電圧を印加するための電極と、前記薄膜圧電体に電圧が印加されることによって変位し前記液室の容積を変化させるダイヤフラムと、を有するアクチュエータである請求項1から
10のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項12】
前記液室には、収容された液体を外部に吐出するための吐出口と、前記吐出口から液体を吐出させるためのエネルギを発生するエネルギ発生素子と、が配されている請求項1から
11のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項13】
吐出口に連通し該吐出口から吐出するための液体を収容する圧力室と、
前記圧力室に設けられ、前記吐出口から液体を吐出させるためのエネルギを発生するエネルギ発生素子と、
前記圧力室に液体を供給する供給流路と、
前記圧力室より液体を回収する回収流路と、
前記回収流路に接続する送液室と、
前記送液室と前記供給流路とを接続する接続流路と、
前記送液室の容積を膨張及び収縮させることにより、前記供給流路、前記圧力室、前記回収流路、前記送液室、及び前記接続流路において液体を循環させる駆動素子と、
前記駆動素子に印加する電圧を制御する制御手段と
を備える液体吐出ヘッドであって、
前記制御手段は、前記駆動素子に印加する電圧を、
i)第1の電圧の印加と非印加を切り替える
ことで、電圧を印加する期間に続いて電圧を印加しない期間を有するように制御する第1の期間と、
ii)前記第1の期間に続く期間であって、前記第1の電圧を保持した後に前記第1の電圧から前記第1の電圧よりも低い第2の電圧に変化させる、または、前記第1の電圧を保持させずに前記第1の電圧から前記第2の電圧に変化させる第2の期間と、
を繰り返すように制御し、
前記第2の期間は、前記第1の期間よりも長いことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記第2の期間には、前記駆動素子に印加される電圧が、前記第1の電圧から所定の傾きで所定の電圧に変化する保持期間と、前記所定の電圧から前記第2の電圧に前記所定の傾きよりも大きな傾きで変化する期間とが含まれる請求項
13に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
吐出口に連通し該吐出口から吐出するための液体を収容する圧力室と、
前記圧力室に設けられ、前記吐出口から液体を吐出させるためのエネルギを発生するエネルギ発生素子と、
前記圧力室に液体を供給する供給流路と、
前記圧力室より液体を回収する回収流路と、
前記回収流路に接続する送液室と、
前記送液室と前記供給流路とを接続する接続流路と、
前記送液室の容積を膨張及び収縮させることにより、前記供給流路、前記圧力室、前記回収流路、前記送液室、及び前記接続流路において液体を循環させる駆動素子と、
前記駆動素子に印加する電圧を制御する制御手段と
を備える液体吐出ヘッドであって、
前記制御手段は、前記駆動素子に印加する電圧を、
i)第1の電圧の印加と非印加を切り替える
ことで、電圧を印加する期間に続いて電圧を印加しない期間を有するように制御する第1の期間と、
ii)前記第1の期間に続く期間であって、前記第1の電圧よりも低い第2の電圧を保持した後に前記第2の電圧から前記第1の電圧に変化させる、または、前記第2の電圧を保持させずに前記第2の電圧から前記第1の電圧に変化させる第2の期間と、
を繰り返すように制御し、
前記第2の期間は、前記第1の期間よりも長いことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記第2の期間には、前記駆動素子に印加される電圧が、前記第2の電圧から所定の傾きで所定の電圧に変化する保持期間と、前記所定の電圧から前記第1の電圧に前記所定の傾きよりも大きな傾きで変化する期間とが含まれる請求項
15に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項17】
前記保持期間における前記所定の傾きの絶対値は0.1V/μsecより小さい請求項
14または16に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項18】
前記液体吐出ヘッド内において、1つの前記駆動素子に対応する流路ブロックに固有のヘルムホルツ振動周期をThとしたとき、前記電圧を印加する期間と前記電圧を印加しない期間の和は、Th×(2/8)からTh×(3/8)の範囲に含まれる、請求項13から17のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項19】
前記駆動素子は複数の前記圧力室の液体を共通に循環させる請求項
13から18のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項20】
前記液体は色材を含有するインクであり、前記エネルギ発生素子は記録データに従って駆動される請求項
13から19のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送液装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、MEMS技術(マイクロマシン技術)の発展に伴い、μm単位のオーダーで液体を送液する送液装置が提案されている。
【0003】
特許文献1には、流路抵抗が流速に対して非線形に変化するという特徴を活かし、機械的なバルブ構造を用いず、流体の作用をバルブ機構として利用したマイクロポンプが開示されている。特許文献1に開示されたマイクロポンプによれば、少ない部品による簡易且つ小型な構成で、μm単位のオーダーで液体を送液することが可能となる。特許文献1には、メンブレン状の圧電素子を駆動源として用い、圧電素子に印加する電圧を時間に対して非対称に変化させることにより、圧電素子をポンプとして機能させる駆動方法が開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、メンブレン状の圧電素子を用いたインクジェットヘッドが開示されている。特許文献2には、液滴を吐出させることを目的とした圧電素子の駆動方法と、液室内のインクを循環させることを目的とした圧電素子の駆動方法とが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-183494号公報
【文献】国際公開第2013/032471号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2で開示される送液装置においては、メンブレン状の圧電素子(アクチュエータ)を変位させて、送液室の容積を急激に膨張させる動作と、緩やかに収縮させる動作とを繰り返すことにより、液体を定量的に移動させている。しかしながら、上記構成においては、送液装置に固有なヘルムホルツ周波数の残留振動が発生すると、この振動が緩やかな収縮時における容積変化に重畳し、送液量を損失させてしまう場合がある。そして、このような送液量の損失は、送液室の容積が小さくポンプの送液量が少量であるほど、送液効率への影響が大きく、無視できない課題となる。
【0007】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものである。よってその目的とするところは、メンブレン状の圧電素子を用いた送液装置において、高い送液効率で送液することが可能な駆動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明は、液体を収容する液室と、前記液室に設けられ、電圧が印加されることによって前記液室の容積を膨張及び収縮させて、前記液室が収容する液体を外部との間で循環させる駆動素子と、を備える送液装置の駆動方法であって、前記駆動素子に印加する電圧を、i)第1の電圧の印加と非印加を切り替えることで、電圧を印加する期間に続いて電圧を印加しない期間を有するように制御する第1の期間と、ii)前記第1の期間に続く期間であって、前記第1の電圧を保持した後に前記第1の電圧から前記第1の電圧よりも低い第2の電圧に変化させる、または、前記第1の電圧を保持させずに前記第1の電圧から前記第2の電圧に変化させる第2の期間と、を繰り返すように制御し、前記第2の期間は、前記第1の期間よりも長いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メンブレン状の圧電素子を用いた送液装置において、高い送液効率で送液することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明で使用可能な送液装置の模式図である。
【
図2】実施例1における印加電圧と送液室の容積変化量を示す図である。
【
図3】電圧波形と流れ場の対応関係を表すシミュレーションの系を示す図である。
【
図4】理想的な流れ場を実現するための送液室の容積変化量を示す図である。
【
図5】アクチュエータに印加する電圧の波形の例を示す図である。
【
図7】理想的な電圧波形と、実施例1の波形とを比較して示す図である。
【
図8】実施例1を採用した場合のシミュレーションの結果を示す図である。
【
図9】実施例2における印加電圧と送液室の容積変化量を示す図である。
【
図10】インクジェット記録ヘッドの斜視図である。
【
図12】送液機構の構造及び動作を説明するための図である。
【
図15】アクチュエータに印加する電圧の波形の例を示す図である。
【
図16】理想的な電圧波形と、実施例4の波形とを比較して示す図である。
【
図17】実施例4を採用した場合のシミュレーションの結果を示す図である。
【
図18】実施例5における印加電圧と送液室の容積変化量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施例1)
図1(a)及び(b)は、本実施例で使用可能な送液装置の模式図である。
図1(a)は上面図、同図(b)は断面図である。送液室101、第1の流路105、第2の流路106は図のX方向に直列に接続されている。送液室101は、第1の接続流路103を介して第1の流路105に接続し、第2の接続流路102を介して第2の流路106に接続している。第1の流路105と第2の流路106は外部と接続し、外部から液体を供給したり排出したりすることが可能である。第1の接続流路103の流路抵抗は第2の接続流路102の流路抵抗よりも高く、送液室101、第1の流路105、第2の流路106の流路抵抗は、第1の接続流路103及び第2の接続流路102よりも十分に低い値になっている。
【0012】
送液室101の壁面には、駆動素子としてメンブレン構造のアクチュエータ104が設けられている。アクチュエータ104は、薄膜圧電体107と振動板108を有し、薄膜圧電体107には電力を供給するための配線(不図示)と共通電位(GND)を与えるための配線(不図示)が接続されている。これら配線を介して薄膜圧電体107に電圧が印加されると、振動板108は±Z方向に変位する。薄膜圧電体107に対しては、DC-BIASを印加した状態でACを印加するが、以下では、説明の簡略化のため、DC-BIASを省略しAC波形のみを表示する。
図1(b)は、薄膜圧電体107にAC電圧が印加されていないデフォルト状態を示しており、振動板108は薄膜圧電体107に印加される電圧の程度に応じて、図に点線で示す位置まで変位可能となっている。
【0013】
以下、上記構造の具体的な寸法について説明する。本実施例の送液装置において、送液室101の寸法は、X方向約250μm×Y方向約120μm×Z方向約250μmとする。第1の接続流路103の寸法は、X方向約200μm×Y方向約25μm×Z方向約25μmである。第2の接続流路102の寸法は、X方向約25μm×Y方向約15μm×Z方向約25μmである。
【0014】
以上説明した送液装置は、汎用のMEMS技術を用いて形成することが可能である。例えば送液装置は、Si基板を真空プラズマエッチング、若しくはアルカリ溶液を用いた異方性エッチング、若しくはその組み合わせによって形成することができる。また、複数のSi基板に送液室101を含む流路とアクチュエータ104を別々に形成し、その後、流路とアクチュエータ104とを接合または接着して貼り合わせることにより、送液装置を形成してもよい。
【0015】
アクチュエータ104としては、ユニモルフの圧電アクチュエータを用いる。ユニモルフの圧電アクチュエータとは、振動板108の片面側に圧電薄膜圧電体107が形成される構成を有する。このようなアクチュエータ104は、送液室101の開口を塞ぐように振動板108を接着し、更にその表面に薄膜圧電体107を接着することによって形成することができる。
【0016】
振動板108の材料については、必要な機械的特性や耐信頼性などの条件が満たされれば、特に限定されるものではない。例えば、シリコン窒化膜、シリコン、金属、耐熱ガラスなどを好適に用いることができる。
【0017】
薄膜圧電体107は、真空スパッタ成膜、ゾルゲル成膜、CVD成膜などの手法を用いて成膜することができ、多くの場合、成膜後に焼成される。焼成方法は特に限定されるものではないが、例えば、酸素雰囲気下にて最大650℃程度で焼成するランプアニール加熱法を採用することができる。また、プロセスフローとの整合に鑑みて、薄膜圧電体107は振動板108上に直接成膜して一体焼成してもよいし、振動板108とは別の基板上に成膜し、焼成してから振動板108に剥離転写してもよい。更に、振動板108とは別の基板上に成膜し、振動板108に剥離転写した後に一体焼成してもよい。
【0018】
電極は、焼成プロセスを経るならばPt系を選択することが好ましいが、焼成工程を分離できるならばAl系を選択することが可能である。本実施例では薄膜圧電体107としてPZT系の圧電材料を用い、電極には、薄膜圧電体107が印加電圧に対し線形性の高い状態即ち高い応答性で変位できるような材料を用いる。
【0019】
本実施例では、振動板108として、約1~2μmのSOI基板を用いる。薄膜圧電体107の-Z方向の面には、約1~3μmのTi/Pt、PZT層を形成し、これを振動板108に対向する電極とする。また、薄膜圧電体107の+Z方向の面には、Ti系合金の層を形成し、大気中に露出する最外層としてSiN系の保護膜を被覆し、アクチュエータ104全体を封止する。
【0020】
そして、送液装置と、信号配線を送液装置に伝えるための中継基板を、不図示の保持枠体に接着し、送液装置と中継基板とをワイヤーボンディングにて電気実装する。更に液体の流入口及び排出口となるマニホールドを第1の流路105及び第2の流路106に接続するように接着剤にて固定することにより、送液装置を完成させる。
【0021】
次に、本発明者らが、送液装置を用いて実際に送液を行った場合の計測方法について説明する。本発明者らは、流れを評価する手法として一般に知られているPTV(Particle Tracking Velocimetry)を採用した。送液する液体は、クリーンルーム用純水と、粘度調整用のグリセリンと、表面張力調整用の1,2-ヘキサンジオールを混合し、粘度が約3cps、表面張力が約30mN/mとなるように調製した。液体中には直径が約1~3μmのトレーサー粒子を混合させて暫く攪拌し、減圧装置を用いて不要な気泡を除去した後に、チューブを通じて送液装置に充填した。この際、供給側と排出側の水頭圧差だけでなく、排出側から液体を強制的に吸引する作業も行い、送液室101を含む全ての液室と流路に液体を充填した。
【0022】
アクチュエータ104に対しては、周期が50μsecである単位波形電圧を繰り返し印加し、連続駆動を行った。単位波形は任意波形生成装置を用いて生成し、生成した波形をバイポーラ高速AMPで増幅し、BIAS電圧に重畳した形で配線を通じて薄膜圧電体107に供給した。
【0023】
生成された流れの計測は、高速度カメラをマウント配置した顕微鏡下において、液体中のトレーサー粒子を観察することによって行った。アクチュエータ104の駆動信号のトリガーを高速度カメラの開始信号として取り込み、駆動前後でトレーサー粒子を撮像した。詳細には、トリガー信号の1msec前から撮像を開始し、時間に対応づけられた複数の画像夫々におけるトレーサー粒子の座標を解析し、単位時間当たりのトレーサー粒子の移動量から、流速などを取得した。
【0024】
送液室101の容積変化については、振動板108の変位速度を、レーザードップラー変位計を用いることによって計測し、得られた速度を積分することによって算出した。
【0025】
図2(a)及び(b)は、本実施例において、アクチュエータ104に印加する電圧と、当該電圧によって増減する送液室101の容積変化量を示す図である。どちらの図においても、本実施例は実線で比較例は破線で示している。
図2(a)においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。
【0026】
図2(a)は、アクチュエータ104に印加する本実施例の電圧波形を、比較例と比較しながら示す図である。ここでは、送液室101の容積が膨張する方向を電圧の正方向とし、最高電圧を30V、駆動周期を50.0μsec、駆動周波数を20KHzとしている。
【0027】
比較例において、電圧は、従来一般的に使用されている三角形状の電圧波形を呈している。電圧は、t=0.0μsecからt=2.5μsecの間で、0Vから30Vに一定の傾きで上昇し、t=2.5μsecからt=50.0μsecの間で、30Vから0Vに一定の傾きで下降している。そして、このような電圧の上昇と下降を50.0μsecの周期で繰り返している。
【0028】
一方、実施例1において、電圧は、t=0.0μsecからt≒1.35μsecの間で30Vを維持し、t=1.35μsecからt≒2.70μsecの間で0Vを維持する。そして、t=2.70μsecからt≒50.0μsecの間で、30Vから0Vに一定の傾きで下降する。以後、このような電圧の上昇と下降を50.0μsecの周期で繰り返している。
【0029】
比較例にしても、実施例1にしても、相対的に短い時間に高い電圧が印加され、相対的に長い時間をかけて高い電圧から低い電圧に電圧を下降させている。このため、送液室101の容積は、急激な膨張と緩やかな収縮を繰り返すことになる。そして、この急激な膨張と緩やかな収縮の繰り返しが、一定の方向に向かう一定の流れを生み出している。
【0030】
ここで、送液室101において、一定の流れが生み出される仕組みについて簡単に説明する。送液室101が急激に膨張するとき、流路抵抗の小さい第2の接続流路102の側では速い流速の下で渦が発生し、この渦が第2の流路106から送液室101へ流入しようとする液体を妨げる。これに対し、送液室101を緩やかに収縮するときは、遅い流速の下で渦は発生せず、液体は緩やかに送液室101から第2の流路106に流出する。一方、流路抵抗の大きい第1の接続流路103の側では、送液室101の膨張や収縮の速度によらず、液体は緩やかに送液室101に流入したり流出したりすることが可能である。つまり、第2の接続流路102からの流入が妨げられる膨張と、第2の接続流路102への流出が妨げられない収縮とを繰り返すことにより、図中X方向に向かう定量的な流れが形成されるのである。
【0031】
図2(b)は、
図2(a)のような電圧を印加した場合の、送液室101のデフォルトに対する容積変化量を示す図である。実施例1においても比較例においても、駆動開始t=0.0μsecからt=5.0μsecの間で容積が大きく増大し、その後、電圧の下降とともに残留振動に伴う増減を繰り返しながら、徐々に振幅を縮小させ、元の値(容積変化量0)に戻っている。図では、送液室101の容積を平均的に膨張させている期間を「膨張用駆動」として示し、容積変化量を平均的に収縮させている期間を「収縮用駆動」として示している。
【0032】
比較例においても、実施例1においても、容積変化量の残留振動の周期は約8.0μsecである。これは本実施例で用いる送液装置に固有のヘルムホルツ振動の1次周期Thが約8.0μsecであり、ヘルムホルツ周波数が約125kHzであることを示す。そして、このような残留振動が、緩やかな収縮時の容積変化に重畳すると、結果として送液量が損失されてしまう。
【0033】
但し、比較例と実施例1を比べると、実施例1の振幅のほうが比較例よりも小さく抑えられていることが分かる。これは、実施例1のように、「膨張用駆動」の期間内に電圧を印加する期間と印加しない期間を交互に設けると、電圧を印加しない期間の存在が残留振動の振幅を抑える方向に作用するためと考えられる。本発明者らの観察によると、比較例における1周期分の送液量が約0.7pL、送液効率が約4.5%であったのに対し、実施例1における1周期分の送液量は約0.9pL、送液効率は約5.8%であった。つまり、実施例1では、比較例に対し概ね1.3倍の送液効率が得られることになる。
【0034】
以下、本発明者らが、
図2(a)のような電圧波形を求めるに至った過程について説明する。本発明者らは、まず、アクチュエータ104に付与する電圧波形と、送液室101に形成される流れ場を対応づけるための作業を行った。
図3は、本発明者らが市販のシミュレータを用いて作成した、上記電圧波形と流れ場との対応関係を表すシミュレーションの系を示す。
【0035】
流体からの負荷を受けるアクチュエータ104に電圧を印加した場合の、電圧と振動板108の変位の関係については、市販の構造シミュレータ(振動板部の応答特性)を用いて対応づけを行った。また、振動板108の変位と、この変位によって生成される流れ場との関係は市販の流体シミュレータ(流れ特性)によって対応づけを行った。そして、「理想的な流れ場を実現するために、振動板108をどのように変位させればよいか」については、市販の流体シミュレータに入力する変位情報を調整しながら探求した。更に、「求めた変位を実現するための電圧波形」については、市販の構造シミュレータを用いて逆算する作業を行った。
【0036】
なお、厳密に言うと、サブミリサイズの構造において、振動板108の変位と送液室101の容積変化の間には、流体の圧縮性に起因する若干の位相差が発生する。しかしながら、このような位相差は本発明の趣旨において大きな影響はないため、本明細書では振動板108の変位と送液室の容積変化との間に線形関係が保たれるものとして示している。
【0037】
図4(a)及び(b)は、理想的な流れ場を実現するための、送液室101の容積変化量を示す図である。
図4(a)は、送液室101の容積の急激な膨張と緩やかな収縮を繰り返す場合を示し、
図1において+X方向に向かう定量的な流れが生成される。一方、
図4(b)は、送液室101の容積の緩やかな膨張と急激な収縮を繰り返す場合を示し、
図1において-X方向に向かう定量的な流れが形成される。どちらの場合も、一定量の液体を送液することができるが、以下では
図4(a)に示す容積変化を実現するための制御について説明する。
【0038】
図5(a)~(d)は、
図4(a)に示す容積変化を実現するためにアクチュエータ104に印加する電圧の波形の例を、比較例と比較しながら説明するための図である。いずれの図においても、アクチュエータ104に印加する電圧を実線で、送液室101の容積変化量を破線で示している。
図5(a)~(d)においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。
【0039】
図5(a)は、比較例としての電圧の波形(実線)と、これに伴う送液室101の容積量変化(破線)を示している。比較例としては、従来一般的に使用されている三角型の電圧波形を用いている。具体的には、t=0.0μsecからt=4.0μsecの間で、電圧を0Vから30Vに一定の傾きで上昇させ、その後t=4.0μsecからt=50.0μsecの間で、電圧を30Vから0Vに一定の傾きで下降させる。
【0040】
既に説明したように、
図1の系において、ヘルムホルツ周波数Fhは、Fh=125KHzであり、ヘルムホルツ周期ThはTh=8.0μsecである。よって、
図5(a)の例では、駆動開始からTh×1/2(=4.0μsec)の期間を、電圧を上昇させる期間に割り当て、残りの期間(約4.0μsec~50.0μsec)を、電圧を下降させる期間に割り当てていることになる。こうすることにより、送液室101の容積を効率的に膨張させることができる。但し、
図5(a)に示す比較例においては、ヘルムホルツ周期(約8μse)の残留振動が、緩やかな収縮時の容積変化に重畳し、結果として送液量の損失を招いてしまっている。
【0041】
図5(b)は、
図4(a)に示す容積変化を実現するために求めた、アクチュエータ104に印加する電圧波形の一例と、当該電圧波形を印加した場合の容積変化を示している。本例において、Th×1/2の期間(0.0μsec~4.0μsec)が、膨張用駆動となり、残りの期間(4.0μsec~50.0μsec)が収縮用駆動となる。本例の場合、膨張用駆動においても収縮用駆動においても、電圧は単調に上昇したり下降したりせず、それぞれの期間で、上に凸の区間と下に凸の区間を繰り返すように増減している。そして、このような高精度の電圧の増減により、送液室101の容積変化においては、ヘルムホルツ周期を有する残留振動がほぼ完全に打ち消されている。
【0042】
図5(c)は、
図4(a)に示す容積変化を実現するために求めた、アクチュエータ104に印加する電圧波形の別の例と、当該電圧波形を印加した場合の容積変化を示している。本例においては、Th×3/4の期間(0.0μsec~6.0μsec)が、膨張用駆動に割り当てられ、残りの期間(6.0μsec~50.0μsec)が収縮用駆動に割り当てられている。本例においても、膨張用駆動及び収縮用駆動に対応するそれぞれの期間で、電圧は上に凸の区間と下に凸の区間を繰り返すように増減し、これによりヘルムホルツ周期を有する残留振動が、ほぼ完全に打ち消されている。
【0043】
図5(d)は、
図4(a)に示す容積変化を実現するために求めた、アクチュエータ104に印加する電圧波形の更に別の例と、当該電圧波形を印加した場合の容積変化を示している。本例においては、Th×1の期間(0.0μsec~8.0μsec)が、膨張用駆動に割り当てられ、残りの期間(8.0μsec~50.0μsec)が収縮用駆動に割り当てられている。本例においても、膨張用駆動及び収縮用駆動に対応するそれぞれの期間で、電圧は上に凸の区間と下に凸の区間を繰り返すように増減し、これによりヘルムホルツ周期を有する残留振動が、ほぼ完全に打ち消されている。
【0044】
即ち、以上説明した
図5(b)~(d)の実線で示すような波形電圧をアクチュエータ104に印加することができれば、送液室101の容積変化は破線で示すようになり、高い送液効率を実現することが可能となる。しかしながら、実際の駆動制御においては、
図5(b)~(d)の実線で示すような複雑で高精度な波形制御を行うことは難しい。波形が複雑になるほど、用意するべき電圧値の種類が増え、回路が複雑になり、コストが増大するためである。
【0045】
よって、本発明者らは、より単純な波形で残留振動を抑えるために、
図5(b)~(d)に示される波形に共通する特徴の中から、残留振動を抑える効果があると思われる要素を探り、電圧波形の変曲点に着目した。そして、
図5(b)~(d)に示される波形においては、膨張用動作の期間においてTh×1/2毎に変曲点が存在することを見出し、このことが残留振動を抑えるために効果的であるという知見に至った。ここで、上記変曲点の存在が残留振動を抑制する理由について説明する。
【0046】
ヘルムホルツ振動周期がThである系において、駆動開始からTh×1/4の期間に電圧を上昇させると、次のTh×1/4の期間には容積を収縮させる方向の戻り力が発生する。即ち、アクチュエータ104に作用する力は、送液室101を膨張させる方向の力から収縮させる方向の力に切り替わり、振動板108は、下に凸の運動から上に凸の運動に切り替わる。よって、このような切り替わりのタイミング(即ち変極点の時点)において、運動に対し逆向きの力を作用させることにより、戻り振動を効果的に抑制することができると考えられる。
【0047】
以上の仮定が正しいとすれば、より単純な電圧波形であっても、戻り振動を抑制する効果を得ることはできる。具体的には、送液室101を膨張させるための膨張用駆動において、高い電圧を印加して送液室101の膨張を促す期間の後に、その膨張を抑える方向の力が働くような期間、即ち低い電圧を印加する或は電圧を印加しない期間を設けるようにすればよい。
【0048】
図6(a)及び(b)は、上記条件を満たす比較的単純な波形の例を示す図である。
図6(a)及び(b)においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。どちらも、最高電圧30Vを印加する期間と最低電圧0Vを印加する期間が交互に配されている。
図6(a)は、最高電圧(30V)を印加する期間(ON期間)と、非印加とする期間(OFF期間)の比を1:2とした場合を示している。この場合、実効電圧は10Vとなる。一方、
図6(b)は、ON期間とOFF期間の比を1:1とした場合を示している。この場合、実効電圧は15Vとなる。ON期間とOFF期間の比は一般にDUTY比と呼ばれ、所定のDUTY比で電圧のONとOFFを繰り返す駆動を以下パルス駆動と称す。パルス駆動を行った場合、送液室101には、容積を膨張させる力を作用させつつ、その膨張がオーバーシュートする前に膨張を抑える方向の力を作用させることができる。
図2(a)に示す実施例1では、DUTY比が1:1であるパルス駆動即ち
図6(b)のパルス駆動を採用している。
【0049】
図7は、
図5(b)に示す理想的な電圧波形と、実施例1の波形とを比較して示す図である。
図7においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。理想的な波形については、
図5(b)に示す実線と同じものであるが、ここでは説明を分かりやすくするため、時間軸を拡大して示している。理想的な波形に注目すると、t≒2.3μsec電圧が約16Vの辺りに変曲点が存在し、この変曲点を境にして、上に凸の波形が下に凸の波形に切り替わりっている。即ち、電圧は、極小値を通過した後再び上昇し、t≒4.0μsecにおいて20V程度まで上がっている。
【0050】
次に、実施例1の波形に注目すると、膨張用駆動の期間において、パルス幅が1.35μsec、DUTY比が1:1のパルス駆動が含まれている。即ち、実施例1の波形を印加した場合、送液室101には、t≒0.0μsec~1.35μsecで容積を膨張させる強い力が作用し、t≒1.35μsec~2.70μsecでその膨張を抑える方向の力が作用する。このパルス駆動における実効電圧は15Vとなる。
【0051】
図8は、実施例1のパルス波形を採用した場合のシミュレーションの結果を示す図である。本図においても、
図7と同様、理想的な波形を採用した場合の結果と比較して示している。実施例1の容積変化量は、理想的な例と比べると、収縮用駆動時の容積変化量において若干の残留振動が重畳されているものの、
図5(a)に示す比較例に比べれば、振幅が大きく抑制されている。
【0052】
ここで、ON期間とOFF期間の調整について説明する。ON期間とOFF期間の和(即ちパルス周期)は、ヘルムホルツ周期Thの2/8倍~3/8倍に含まれることが好ましい。よって、ヘルムホルツ周期Thが約8.0μsecである本実施例の系において、DUTY比を1:1とした場合、パルス周期は2.0μsec~3.0μsecの範囲に含まれることが好ましい。本発明者らが、ON期間とOFF期間の各幅を1.1μsec~1.6μsecの範囲で、即ちパルス周期を2.2μsec~3.2μsecの範囲で変化させたところ、膨張用駆動の容積変化量については大きな違いは見られなかった。しかし、収縮用駆動においてはパルス周期が3.0μsecを超えると、重畳される残留振動が目立つようになった。これは、ON期間で印加された電圧によるオーバーシュートが大きく、OFF期間による振動抑制の効果が不十分になるためと想定される。
【0053】
本実施例では、DUTY比を1:1に固定することにより、実効電圧を最高電圧の1/2(15V)とし、これにより膨張を抑える方向の力を効果的に作用させることができた。しかし、実効電圧の値は特に限定されるものではない。例えば、実効電圧を15Vよりも小さくすれば、残留振動の振幅を抑制する効果を更に向上させることができる。但し、実効電圧をあまり低くしてしまうと、用意した電圧(30V)が膨張用動作のために十分利用されないため、好ましい流速が得られず、結果として送液効率を低下させてしまうこともある。このため、実効電圧については、残留振動を抑制する目的と、流体バルブ機能を発揮させる目的の両方が、適切なバランスの上で達成されるように調整されることが求められる。本発明者らの検討によれば、実効電圧については、最高電圧の概ね0.40倍から0.95倍に設定されることが好ましいことが確認された。
【0054】
次に、膨張用駆動のための駆動波形時間と収縮用駆動のための駆動波形時間配分について説明する。膨張用駆動のための駆動波形時間については、流体バルブ機能が得られる程度の速い流速がある程度維持されることが求められる。このため、膨張用駆動の時間は、最高電圧値と生成すべき流速とに基づいて、適切に設定されればよい。収縮用駆動のための駆動波形時間については、振動の小さい低速流さえ得られれば、液体の流速を更に遅くするメリットはない。必要以上の低速化は駆動周期を延長させ、単位時間の送液効率をかえって低下させてしまう。一方、膨張用駆動のための駆動波形時間に対する収縮用駆動のための駆動波形時間が短すぎると、膨張時に発生した残留振動が収縮時に与える影響が大きくなり、送液効率を低下させてしまう。以上のことから、収縮用駆動のための駆動波形時間は膨張用駆動のための駆動波形時間の、3倍以上であり30倍以下であることが好ましい。更に、本発明者らの検討によれば、上記範囲の中でも、収縮用駆動のための駆動波形時間が膨張用駆動のための駆動波形時間の10倍程度であることが、最も好ましいことが確認された。
【0055】
例えば、駆動周期を50μsecに固定した状態で、膨張用動作の時間を4μsec、収縮用動作の時間を46μsecとすると、
(収縮用動作の時間)/(膨張用動作の時間)≒11.5
となり、これは上記条件を満たすことになる。
【0056】
なお、本実施例のように、アクチュエータ104の駆動周期を50μsecとした状態で、収縮用駆動の時間を膨張用駆動の時間の3倍以上とするためには、送液装置として、ヘルムホルツ周期Thが25μsec以下であることが求められる。
【0057】
ここで、再び
図2(a)を参照する。
図2(a)の実線で示した実施例1の波形は、ヘルムホルツ周期Thが約8.0μsecである系において、膨張用駆動としてDUTY比が1:1、パルス周期が2.70μsecのパルス駆動を行っている。この際、実効電圧(15V)は最高電圧(30V)の0.5倍となり、この値は0.40倍から0.95倍の間に含まれている。このため、送液室101には、ON期間において容積が膨張する力が作用し、その膨張がオーバーシュートする前の好ましいタイミングで、OFF期間に移行し、残留振動が抑制される。その結果、ヘルムホルツ周波数を有する残留振動が発生しても、これに伴う送液室の容積変動を緩和し送液装置全体の送液効率を向上させることができる。
【0058】
既に説明したように、
図5(b)~(c)に示すような電圧波形を実現しようとすると、用意するべき電圧値の種類が増え、回路が複雑になり、コストが増大になってしまう。これに対し、本実施例のようなパルス駆動においては、電圧のONとOFFの切り替えのみが行われればよいため、単純で省スペースの回路構成によって、低コストに実現することができる。更に、パルス周期やDUTY比についても、比較的単純なロジック回路を用いて調整することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施例によれば、最高電圧を印加する相対的に短い期間と、印加する電圧を最高電圧から基準電圧に変化させる相対的に長い期間とを繰り返すように、アクチュエータ104に印加する電圧を制御する。そして、最高電圧を印加する期間においては、最高電圧の印加と非印加とを所定の間隔で切り替える制御を行う。このような制御により、ヘルムホルツ周波数を有する残留振動が発生しても、これに伴う送液室の容積変動を緩和し送液装置全体の送液効率を向上させることができる。
【0060】
(実施例2)
実施例2においても、
図1(a)及び(b)で説明した送液装置を用いるものとする。
図9(a)及び(b)は、実施例2において、アクチュエータ104に印加する電圧と、当該電圧によって増減する送液室101の容積変化量を、実施例1で説明した
図2(a)及び(b)と同様に示す図である。
図9(a)においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。比較例については、実施例1と同様である。
【0061】
実施例2において、実施例1と異なる点は、「収縮用駆動」の間に「保持期間」を設けていることである。具体的には、
図9(a)に示すように、t=0.0μsec~2.70μsecの間で実施例1と同様のパルス駆動を行う。その後、t=2.70μsec~9.45μsecの間では最高電圧を維持し、更にその後、電圧を一定の傾きで下降させてt=50.0μsecで元の電圧に戻している。本実施例において、「保持期間」は6.8μsecであり、この値は送液装置のヘルムホルツ周期Th=8.0μsecの約0.85倍に相当する。
【0062】
図9(b)は、
図9(a)のような電圧を印加した場合の、送液室101の容積変化量を示す図である。実施例2においても、駆動開始t=0.0μsecからt=5.0μsecの間で容積が大きく上昇し、その後、電圧の下降とともに残留振動に伴う僅かな増減を繰り返しながら、元の値(容積変化量0)に戻っている。
【0063】
実施例2においても、破線で示した比較例と比べると、振幅が小さく抑えられていることが分かる。本発明者らの検討によれば、比較例における1周期分の送液量が約0.7pL、送液効率が約4.5%であったのに対し、実施例2における1周期分の送液量は約1.0pL、送液効率は約6.5%であった。これは、実施例2のほうが比較例よりも送液量の損失が少なく、送液装置としての送液効率を1.5倍程度向上させることができることを意味する。そして、同じ送液装置を用いた場合でも、実施例2のほうが実施例1よりも送液効率を更に向上させている。
【0064】
実施例2の送液効率を実施例1よりも更に向上させることができたのは、保持期間を設けることによって、膨張用駆動で発生した固有振動が収縮用駆動の容積変化量に重畳するのを抑えることができるためである。一方で、保持期間については、送液装置の構造設計や電圧条件にも影響を与えることが予想される。よって、この観点から考えると、保持期間は、系固有のヘルムホルツ振動周期をThとしたとき、概ね(1/4-1/8)×Th~(10+1/8)×Thの範囲であることが好ましい。実施例2の保持期間は、ヘルムホルツ振動周期の約0.85倍であり、上記条件を満たしている。
【0065】
なお、保持期間においては、必ずしも最高電圧が保持されなくてもよい。保持期間において多少電圧を下降させても、その時の傾きが、保持期間の後に電圧を下降させる際の傾きよりも小さければ、固有振動の重畳を抑制するという効果を得ることはできる。但し、傾きの絶対値は0.1V/μsecより小さいことが好ましい。
【0066】
以上説明したように本実施例によれば、最高電圧を印加する相対的に短い期間と、印加する電圧を最高電圧から基準電圧に変化させる相対的に長い期間とを繰り返すように、 アクチュエータ104に印加する電圧を制御する。そして、最高電圧を印加する期間においては、最高電圧の印加と非印加とを所定の間隔で切り替える制御を行う。一方、最高電圧から基準電圧に電圧を変化させる期間においては、最高電圧を暫く保持した後、電圧を一定の傾きで基準電圧に変化させる。このような制御により、ヘルムホルツ周波数を有する残留振動が発生しても、これに伴う送液室の容積変動を緩和し送液装置全体の送液効率を向上させることができる。
【0067】
(実施例3)
図10は、本発明の送液装置として使用可能な液体吐出ヘッド1100(以下、インクジェット記録ヘッドとも言う)の斜視図である。インクジェット記録ヘッド1100は、複数の吐出素子がY方向に配列して成る素子基板4が、更にY方向に複数配列して構成されている。ここでは、素子基板4が、A4サイズの幅に対応する距離だけY方向に配列して構成されるフルライン型のインクジェット記録ヘッド1100を示している。
【0068】
素子基板4の夫々は、フレキシブル配線基板1101を介して、同じ電気配線基板1102に接続している。電気配線基板1102には、電力を受容するための電力供給端子1103と吐出信号を受信するための信号入力端子1104が配備されている。一方、インク供給ユニット1105には、不図示のインクタンクより供給された色材を含有するインクを個々の素子基板4に供給したり、記録で消費されなかったインクを回収したりする循環流路が形成されている。
【0069】
以上の構成のもと、素子基板4に配された吐出素子のそれぞれは、信号入力端子1104より入力された記録データに基づき、電力供給端子1103から供給された電力を用い、インク供給ユニット1105より供給されたインクを図のZ方向に吐出する。
【0070】
図11(a)及び(b)は、素子基板4における1つの流路ブロックの流路構成を示す図である。1つの素子基板4には複数の流路ブロックが形成されており、
図11(a)は、複数の流路ブロックのうちの1つを吐出口面と対向する側(+Z方向側)から見た透視図である。また、
図11(b)は同図(a)のXIb-XIb断面図である。
【0071】
1つの流路ブロックには、
図11(a)に示すように、Y方向に配列する8つの吐出口2と、これら吐出口のそれぞれに連通するように用意された8つの圧力室3と、2つの供給流路5と、2つの回収流路6とが含まれている。そして、2つの供給流路5のそれぞれは、4つずつの圧力室3に共通してインクを供給し、2つの回収流路6のそれぞれは、4つずつの圧力室3より共通してインクを回収する。後述する送液機構8は、1つの流路ブロックに対し1つ設けられている。
【0072】
図11(b)に示すように、本実施例の素子基板4は、第2の基板13、中間層14、第1の基板12、機能層9、流路形成部材10及び吐出口形成部材11が、この順にZ方向に積層して構成される。機能層9の表面には電気熱変換素子であるエネルギ発生素子1が配設され、吐出口形成部材11のエネルギ発生素子1に対応する位置には、吐出口2が形成されている。Y方向に配列する複数のエネルギ発生素子1の間には、機能層9と吐出口形成部材11の間を介在する流路形成部材10が隔壁となって配され、個々のエネルギ発生素子1及び吐出口2に対応する圧力室3を形成している。
【0073】
圧力室3に収容されているインクは、安定状態において、吐出口2でメニスカスを形成している。吐出信号に従ってエネルギ発生素子1に電圧パルスが印加されると、エネルギ発生素子1に接触するインクに膜沸騰が生じ、発生した泡の成長エネルギによって吐出口2からインクが滴としてZ方向に吐出される。液体の吐出口2から吐出される方向(ここではZ方向)を下方から上方に向かう方向とすると、インクは下方から上方に向けて吐出される。実際のインク吐出において、重力方向上方から下方に向けて吐出されることもあり、この場合は重力方向上方が下方、重力方向下方が上方ということになる。
【0074】
吐出動作によって消費された圧力室3内のインクは、圧力室3及び吐出口2の毛管力によって新たに供給され、吐出口2においてメニスカスを再形成する。尚、本実施例では、吐出口2、エネルギ発生素子1、圧力室3を組み合わせたものを吐出素子と称する。
【0075】
図11(b)に示すように、本実施例の素子基板4においては、第2の基板13、中間層14、第1の基板12、機能層9、流路形成部材10及び吐出口形成部材11のそれぞれが壁となって、循環流路が形成されている。そしてこの循環流路は、供給流路5、圧力室3、回収流路6、送液室22及び接続流路7に区分することができる。
【0076】
圧力室3は、吐出素子ごとに用意されている。供給流路5及び回収流路6は、ブロック内の4つの吐出素子ごとに用意され、供給流路5は4つの圧力室3に共通してインクを供給し、回収流路6は4つの圧力室3より共通してインクを回収する。
【0077】
送液室22及び接続流路7は、8つの吐出素子即ち1つの流路ブロックごとに1つずつ用意されている。送液室22は、XY平面において8つのエネルギ発生素子1と重複する位置に配されている。送液室22には送液室22の容積を変更可能な送液機構8が配備されており、送液機構8は8つの圧力室3に共通してインクの循環を行う。接続流路7は、Y方向において、流路ブロックのほぼ中央に配置され、送液室22と供給流路とを接続している。接続流路7が接続する供給流路の位置は、2つの供給流路5に分岐されるよりも上流側の位置である。
【0078】
以上の構成のもと、送液機構8を適切に駆動することにより、供給口15を介して供給されたインクを、供給流路5、圧力室3、回収流路6、送液室22、接続流路7の順に、循環させることができる。このような循環は、吐出動作の有無や頻度に係らずに安定的に行われ、吐出口2近傍には常に新鮮なインクを供給することが可能となる。なお、図には示していないが、圧力室3の手前の供給流路5の途中には、異物や気泡などの流入を防ぐためのフィルタを設けておくことが好ましい。フィルタとしては、柱状構造物などを採用することができる。
【0079】
素子基板4は、第1の基板12と第2の基板13の夫々で構造物を予め形成しておき、その後、第1の基板12と第2の基板13を、後に接続流路7となる位置に溝が形成された中間層14を挟んで図のように貼り合わせることによって製造することができる。
【0080】
以下、上記構造の具体的な寸法例について説明する。本実施例において、個々の吐出素子、即ちエネルギ発生素子1、吐出口2及び圧力室3は、Y方向に1200npi(nozzles per inch)の密度で配列する。エネルギ発生素子1の大きさは20μm×20μm、吐出口2の直径は18μm、吐出口2の厚さ、即ち吐出口形成部材11の厚み、は5μmとする。圧力室3の大きさは、X方向100μm(長さ)×Y方向37μm(幅)×Z方向5μm(高さ)とする。なお、使用するインクの粘度は2cP、個々の吐出口からのインク吐出量は2pLとする。
【0081】
本実施形態において、個々のエネルギ発生素子1の駆動周波数は15KHzとする。このような駆動周波数は、個々の吐出素子において、エネルギ発生素子1に電圧を印加してから実際にインクが吐出され、更に新たなインクがリフィルされて次の吐出動作が可能になるまでに要される時間に基づいて設定される。
【0082】
一方、本実施例の素子基板4において、送液室22の大きさは、X方向250μm×Y方向120μm×Z方向250μmとする。接続流路7の大きさは、X方向25μm×Y方向25μm×Z方向25μmとする。
【0083】
本実施例では以上のような寸法関係とすることで、接続流路7の流路抵抗及びイナータンスを、供給流路5、回収流路6、圧力室3を合わせた流路の流路抵抗及びイナータンスよりも低くしている。ここで、「供給流路5、回収流路6、圧力室3を合わせた流路の流路抵抗及びイナータンス」とは、2つの供給流路5、8つの圧力室3、2つの回収流路6それぞれの並列的な流路抵抗の和と、これらの直列的な流路抵抗の和とを総合したものを示す。なお、上記に示した各部の寸法値は一例に過ぎず、要求仕様に応じて、適宜変更してもよい。
【0084】
図12(a)~(c)は、送液機構8の構造及び動作を説明するための図である。本実施例では、送液機構8として、薄膜圧電体24とこれを表裏面から挟む2つの電極23及びダイヤフラム21を有する圧電アクチュエータを採用する。送液機構8(以後、アクチュエータ8とも称す)は、ダイヤフラム21が送液室22に露出するように第2の基板13上に配置されている。
【0085】
ダイヤフラム21は、1~2μm程度の厚みを有するSiなどで構成される。薄膜圧電体24はPZT圧電薄膜であり、X方向220μm×Y方向90μm×Z方向2μm程度である。
【0086】
2つの電極23を介し薄膜圧電体24に電圧を印加すると、ダイヤフラム21が薄膜圧電体24に対してたわみ、送液室22の容積が変動する。即ち、2つの電極23に印加する電圧を変動させることにより、ダイヤフラム21を±Z方向に変位させ、送液室22の容積を変化させることができる。
【0087】
図12(b)は、薄膜圧電体24にDC-BIAS電圧を印加したデフォルト状態を示している。デフォルト状態において、ダイヤフラム21は送液室22の液室容積を収縮している。一方、
図12(c)は、薄膜圧電体24に最大電圧30Vの過渡的な波形を印加した際の、デフォルト状態から液室容積が膨張した状態を示している。ダイヤフラム21は、薄膜圧電体24に印加する電圧の程度に応じて、
図12(b)のデフォルト状態と
図12(c)の膨張状態の間を変位する。
【0088】
インクジェット記録ヘッド1100では、吐出動作が暫く行われない吐出口において揮発成分の蒸発が進み、インク(液体)が変質する場合がある。そしてこのような蒸発の程度が、吐出頻度に応じて複数の吐出口の間でばらつくと、吐出量及び吐出方向にもばらつき生じ、画像内に濃度むらやスジが確認されることがある。このようなことから、インクジェット記録ヘッド1100においては、吐出口の近傍に常に新鮮なインクを供給するために、高い送液効率を実現することが求められる。以下、本実施例のインクジェット記録ヘッド1100における送液制御について説明する。
【0089】
本実施例の流路ブロックにおけるヘルムホルツ共振周波数は約100kHz程度とする。本実施例ではこの共振周波数を利用してアクチュエータ8を駆動する。
【0090】
図13は、本実施例のアクチュエータ8を駆動するための電圧波形を示す図である。
図13においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。図において、実線は本実施例、破線は比較例を示している。本実施例の電圧波形は実施例2の形状と類似している。即ち、パルス駆動を行った後、最高電圧を所定の保持期間だけ維持し、その後一定の傾きで電圧を下降させている。図では、送液室22の容積が膨張する方向を電圧の正方向とし、最高電圧を30V、駆動周期を50.0μsec、駆動周波数を20KHzとしている。この駆動周波数はエネルギ発生素子の駆動周波数15KHzよりも十分高い値である。アクチュエータ8の駆動周波数を吐出素子の駆動周波数よりも十分高くすることにより、吐出素子の個々の吐出動作がアクチュエータの駆動の影響でばらついてしまうのを抑えることができる。
【0091】
このような本実施例においても、緩やかな収縮においてヘルムホルツ振動に伴う容積の増減を抑えることにより、送液効率を向上させることができる。その結果、供給流路5、圧力室3、回収流路6、送液室22及び接続流路7において、インクを好適な速度で循環させ、吐出口2の近傍に新鮮なインクを安定的に供給することができる。本発明者らの観察によると、粘度2cpsのインクを用いて上記駆動を行った場合、1周期分の送液量は約1.0pL、送液効率は約6.5%であることが確認された。
【0092】
そして、吐出動作が行われない期間が数sec~数10sec程度に及んでも、その後の吐出動作で不吐出となることはなく、正常な吐出動作が安定して行われることが確認された。
【0093】
一方、
図13の破線で示した比較例の下で電圧制御を行った場合は、緩やかな収縮においてヘルムホルツ振動が重畳され、高い送液効率が得られない。本発明者らが確認を行ったところ、吐出動作が行われない期間が数sec~数10sec程度に及ぶと、その後の吐出動作が不吐出となったり不安定になったりすることが確認された。
【0094】
以上説明したように、本実施例によれば、複数の吐出口からインクを吐出するインクジェット記録ヘッドにおいて、吐出口の近傍にあるインクを循環させるための循環流路と、当該流路に配され循環ポンプとして機能するアクチュエータを用意する。そして、最高電圧を印加する相対的に短い期間と、印加する電圧を最高電圧から基準電圧に変化させる相対的に長い期間とを繰り返すように、アクチュエータ104に印加する電圧を制御する。この際、最高電圧を印加する期間においては、最高電圧の印加と非印加とを所定の間隔で切り替える制御を行う。一方、最高電圧から基準電圧に電圧を変化させる期間においては、最高電圧を暫く保持した後、電圧を一定の傾きで基準電圧に変化させる。
【0095】
本実施例では、このような制御により、ヘルムホルツ周波数を有する残留振動が発生しても、これに伴う送液室の容積変動を緩和し送液装置全体の送液効率を向上させることが可能となる。その結果、個々の吐出素子に対し新鮮なインクを定常的に供給することができ、吐出状態を安定させておくことが可能となる。
【0096】
なお、本実施例において、流体ブロックは、
図11(a)に示した形態に限定されるものではない。1つの送液機構8でインクを循環させる吐出素子(圧力室3)の数は、8より多くてもよいし少なくてもよい。また、1つの流体ブロックに設けられる供給流路5及び回収流路6の数は、2より多くてもよいし少なくてもよい。
【0097】
また、
図11(a)及び(b)では、吐出素子がY方向に1列に並ぶ形態の素子基板4を例に説明したが、素子基板4にはこのような吐出素子列がX方向に2列以上配置されていてもよい。
【0098】
更に、本実施例ではエネルギ発生素子1として電気熱変換素子を用い、ここで膜沸騰を生じさせ生成された泡の成長エネルギでインクを吐出する形態としたが、本発明はこのような吐出方法に限定されるものではない。例えば、圧電アクチュエータ、静電アクチュエータ、機械/衝撃駆動型アクチュエータ、音声コイルアクチュエータ、磁気歪み駆動型アクチュエータ等、様々な方式の素子をエネルギ発生素子として採用することができる。
【0099】
更にまた、以上では
図10を参照し、素子基板4が、A4サイズの幅に対応する距離だけY方向に配列して構成されるフルライン型の記録ヘッドを例に説明したが、本実施例の液体吐出モジュールはシリアル型の記録ヘッドにも採用することはできる。但し、フルライン型のように長尺な記録ヘッドのほうが、インクの蒸発や変質という本発明の課題がより顕著に現れやすいことから、本発明の効果をより顕著に享受することができる。
次に、
図4(b)に示す容積変化を実現する制御について実施例4~6を用いて説明する。
【0100】
(実施例4)
実施例4においても、
図1(a)及び(b)で説明した送液装置を用いるものとする。
図14(a)及び(b)は、本実施例において、アクチュエータ104に印加する電圧と、当該電圧によって増減する送液室101の容積変化量を示す図である。どちらの図においても、本実施例は実線で比較例は破線で示している。
図14(a)においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。
【0101】
図14(a)は、アクチュエータ104に印加する本実施例の電圧波形を、比較例と比較しながら示す図である。ここでは、送液室101の容積が膨張する方向を電圧の正方向とし、最高電圧を30V、駆動周期を50.0μsec、駆動周波数を20KHzとしている。
【0102】
比較例において、電圧は、従来一般的に使用されている三角形状の電圧波形を呈している。電圧は、t=0.0μsecからt=47.5μsecの間で、0Vから30Vに一定の傾きで上昇し、t=47.5μsecからt=50.0μsecの間で、30Vから0Vに一定の傾きで下降している。そして、このような電圧の上昇と下降を50.0μsecの周期で繰り返している。
【0103】
一方、実施例4において、電圧は、t=0.0μsecからt≒46.0μsecの間で電圧を0Vから30Vへ上昇させ、t=46.0μsecから47.35μsecの間で0Vを維持する。そして、t=47.3μsecから48.7μsecの間で30Vを維持し、その後t=48.7μsecから50.0μsecまで0Vを維持する。以後、このような電圧の上昇と下降を50.0μsecの周期で繰り返している。
【0104】
比較例にしても、実施例4にしても、相対的に長い時間に高い電圧が印加され、相対的に短い時間をかけて高い電圧から低い電圧に電圧を下降させている。このため、送液室101の容積は、緩やかな膨張と急激な収縮を繰り返すことになる。そして、この緩やかな膨張と急激な収縮の繰り返しが、一定の方向に向かう一定の流れを生み出している。
【0105】
図15(b)~(d)は、
図4(b)に示す容積変化を実現するためにアクチュエータ104に印加する電圧の波形の例を、比較例と比較しながら説明するための図である。いずれの図においても、アクチュエータ104に印加する電圧を実線で、送液室101の容積変化量を破線で示している。
図15(a)~(d)においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。
【0106】
図15(a)は、比較例としての電圧の波形(実線)と、これに伴う送液室101の容積量変化(破線)を示している。比較例としては、従来一般的に使用されている三角型の電圧波形を用いている。具体的には、t=0.0μsecからt=46.0μsecの間で、電圧を0Vから30Vに一定の傾きで上昇させ、その後t=46.0μsecからt=50.0μsecの間で、電圧を30Vから0Vに一定の傾きで下降させる。
【0107】
既に説明したように、
図1の系において、ヘルムホルツ周波数Fhは、Fh=125KHzであり、ヘルムホルツ周期ThはTh=8.0μsecである。よって、
図15(a)の例では、(約0.0μsec~46.0μsec)を、電圧を上昇させる期間に割り当て、Th×1/2(=4.0μsec)の期間において、電圧を下降させる期間に割り当てていることになる。こうすることにより、送液室101の容積を効率的に収縮させることができる。但し、
図15(a)に示す比較例においては、ヘルムホルツ周期(約8μse)の残留振動が、緩やかな膨張時の容積変化に重畳し、結果として送液量の損失を招いてしまっている。
【0108】
図15(b)は、
図4(b)に示す容積変化を実現するために求めた、アクチュエータ104に印加する電圧波形の一例と、当該電圧波形を印加した場合の容積変化を示している。本例において、期間(0.0μsec~46.0μsec)が膨張用駆動となり、Th×1/2の期間(46.0μsec~50.0μsec)が収縮用駆動となる。本例の場合、膨張用駆動においても収縮用駆動においても、電圧は単調に上昇したり下降したりせず、それぞれの期間で、上に凸の区間と下に凸の区間を繰り返すように増減している。そして、このような高精度の電圧の増減により、送液室101の容積変化においては、ヘルムホルツ周期を有する残留振動がほぼ完全に打ち消されている。
【0109】
図15(c)は、
図4(b)に示す容積変化を実現するために求めた、アクチュエータ104に印加する電圧波形の別の例と、当該電圧波形を印加した場合の容積変化を示している。本例において、期間(0.0μsec~44.0μsec)が膨張用駆動となり、Th×3/4の期間(44.0μsec~50.0μsec)が収縮用駆動となる。本例においても、膨張用駆動及び収縮用駆動に対応するそれぞれの期間で、電圧は上に凸の区間と下に凸の区間を繰り返すように増減し、これによりヘルムホルツ周期を有する残留振動が、ほぼ完全に打ち消されている。
【0110】
図15(d)は、
図4(b)に示す容積変化を実現するために求めた、アクチュエータ104に印加する電圧波形の更に別の例と、当該電圧波形を印加した場合の容積変化を示している。本例において、期間(0.0μsec~42.0μsec)が膨張用駆動となり、Th×1の期間(42.0μsec~50.0μsec)が収縮用駆動となる。本例においても、膨張用駆動及び収縮用駆動に対応するそれぞれの期間で、電圧は上に凸の区間と下に凸の区間を繰り返すように増減し、これによりヘルムホルツ周期を有する残留振動が、ほぼ完全に打ち消されている。
【0111】
即ち、以上説明した
図15(b)~(d)の実線で示すような波形電圧をアクチュエータ104に印加することができれば、送液室101の容積変化は破線で示すようになり、高い送液効率を実現することが可能となる。しかしながら、実際の駆動制御においては、
図15(b)~(d)の実線で示すような複雑で高精度な波形制御を行うことは難しい。波形が複雑になるほど、用意するべき電圧値の種類が増え、回路が複雑になり、コストが増大するためである。
【0112】
よって、本発明者らは、より単純な波形で残留振動を抑えるために、
図15(b)~(d)に示される波形に共通する特徴の中から、残留振動を抑える効果があると思われる要素を探り、電圧波形の変曲点に着目した。そして、
図15(b)~(d)に示される波形においては、
図5(b)~(d)で説明したとの同じく、収縮用動作の期間においてもTh×1/2毎に変曲点が存在することを見出し、このことが残留振動を抑えるために効果的であるという知見に至った。
【0113】
即ち、実施例1と同様に、より単純な電圧波形であっても、戻り振動を抑制する効果を期待することはできる。具体的には、最大電圧から初期電圧まで下降させる立ち下がり期間において、まず、最大電圧から所定値まで下降させ、その後、駆動開始時の傾きの絶対値よりも小さな傾きの絶対値で電圧を印加し、その後更に目標電圧に到達させればよい。
【0114】
図16は、
図15(b)に示す理想的な電圧波形と、実施例4の波形とを比較して示す図である。
図16においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。理想的な波形については、
図15(b)に示す実線と同じものである。但し、ここでは説明を分かりやすくするため、
図15(b)において約45μsec~50μsecにおける波形を1周期(50μsec)シフトさせ-5μsec~0μsecの時間軸を拡大して示している。理想的な波形に注目すると、t≒-1.5μsec電圧が約14Vの辺りに変曲点が存在し、この変曲点を境にして、下に凸の波形が上に凸の波形に切り替わりっている。即ち、電圧は、極小値を通過した後再び上昇し、t≒-1.5μsecにおいて18V程度まで上がっている。
【0115】
次に、実施例4の波形に注目すると、収縮用駆動の期間において、パルス幅が1.35μsec、DUTY比が1:1のパルス駆動が含まれている。即ち、実施例4の波形を印加した場合、送液室101には、t≒-4.0μsec~-2.65μsecで容積を収縮させる強い力が作用し、t≒-2.65μsec~1.3μsecでその収縮を抑える方向の力が作用する。このパルス駆動における実効電圧は約15Vとなる。更にt≒-1.3μsec~0μsecで容積を収縮させる。
【0116】
図17は、実施例4のパルス波形を採用した場合のシミュレーションの結果を示す図である。本図においても、
図16と同様、理想的な波形を採用した場合の結果と比較して示している。実施例4の容積変化量は、理想的な例と比べると、収縮用駆動時の容積変化量において若干の残留振動が重畳されているものの、
図15(a)に示す比較例に比べれば、振幅が大きく抑制されている。
【0117】
本実施例では、DUTY比を1:1に固定することにより、実効電圧を最高電圧の1/2(15V)とし、これにより収縮を抑える方向の力を効果的に作用させることができた。しかし、実効電圧の値は特に限定されるものではない。例えば、実効電圧を15Vよりも大きくすれば、残留振動の振幅を抑制する効果を更に向上させることができる。但し、実効電圧をあまり大きくしてしまうと、用意した電圧(30V)が収縮用動作のために十分利用されないため、好ましい流速が得られず、結果として送液効率を低下させてしまうこともある。このため、実効電圧については、残留振動を抑制する目的と、流体バルブ機能を発揮させる目的の両方が、適切なバランスの上で達成されるように調整されることが求められる。本発明者らの検討によれば、実効電圧については、最高電圧の概ね0.05倍から0.60倍に設定されることが好ましいことが確認された。
【0118】
以上説明したように、本実施例によれば、最高電圧を印加する相対的に短い期間と、印加する電圧を基準電圧から最高電圧に変化させる相対的に長い期間とを繰り返すように、アクチュエータ104に印加する電圧を制御する。そして、最高電圧を印加する期間においては、最高電圧の印加と非印加とを所定の間隔で切り替える制御を行う。このような制御により、ヘルムホルツ周波数を有する残留振動が発生しても、これに伴う送液室の容積変動を緩和し送液装置全体の送液効率を向上させることができる。
【0119】
(実施例5)
実施例5においても、
図1(a)及び(b)で説明した送液装置を用いるものとする。
図18(a)及び(b)は、実施例5において、アクチュエータ104に印加する電圧と、当該電圧によって増減する送液室101の容積変化量を、実施例4で説明した
図14(a)及び(b)と同様に示す図である。
図18(a)においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。比較例については、実施例4と同様である。
【0120】
実施例5において、実施例4と異なる点は、「膨張用駆動」の期間に「保持期間」を設けていることである。具体的には、
図18(a)に示すように、t=0.0μsec~5.4μsecの間では基準電圧を維持し、t=5.4μsec~46.0μsecにかけて緩やかに最高電圧まで上昇させる。その後t=46.0μsec~50.0μsecの間で実施例4と同様のパルス駆動を行う。本実施例において、「保持期間」は約6μsecであり、この値は送液装置のヘルムホルツ周期Th=8.0μsecの約0.75倍に相当する。
【0121】
図18(b)は、
図18(a)のような電圧を印加した場合の、送液室101の容積変化量を示す図である。実施例5においても、収縮用駆動としてパルス駆動を開始したt=46.0μsecからt=50.0μsecの間で容積が大きく減少する。そして、その後、膨張用駆動に伴う電圧の上昇とともに、残留振動に伴う僅かな増減を繰り返しながら、最大の容積変化を実現していく。
【0122】
実施例5においても、破線で示した比較例と比べると、振幅が小さく抑えられていることが分かる。本発明者らの検討によれば、比較例における1周期分の送液量が約0.7pL、送液効率が約4.5%であったのに対し、実施例5における1周期分の送液量は約1.0pL、送液効率は約6.5%であった。これは、実施例5のほうが比較例よりも送液量の損失が少なく、送液装置としての送液効率を1.5倍程度向上させることができることを意味する。そして、同じ送液装置を用いた場合でも、実施例5のほうが実施例4よりも送液効率を更に向上させている。
【0123】
実施例5の送液効率を実施例4よりも更に向上させることができたのは、保持期間を設けることによって、収縮用駆動で発生した固有振動が膨張用駆動の容積変化量に重畳するのを抑えることができるためである。一方で、保持期間については、送液装置の構造設計や電圧条件にも影響を与えることが予想される。よって、この観点から考えると、保持期間は、系固有のヘルムホルツ振動周期をThとしたとき、概ね(1/4-1/8)×Th~(10+1/8)×Thの範囲であることが好ましい。実施例5の保持期間は、ヘルムホルツ振動周期の約0.85倍であり、上記条件を満たしている。
【0124】
なお、保持期間においては、必ずしも基準電圧に保持されなくてもよい。保持期間において多少電圧を下降させても、その時の傾きが、保持期間の後に電圧を上昇させる際の傾きよりも小さければ、固有振動の重畳を抑制するという効果を得ることはできる。但し、傾きの絶対値は0.1V/μsecより小さいことが好ましい。
【0125】
以上説明したように本実施例によれば、最高電圧を印加する相対的に短い期間と、印加する電圧を基準電圧から最高電圧に変化させる相対的に短い期間とを繰り返すように、 アクチュエータ104に印加する電圧を制御する。そして、最高電圧を印加する期間においては、最高電圧の印加と非印加とを所定の間隔で切り替える制御を行う。一方、基準電圧から最高電圧に電圧を変化させる期間においては、基準電圧を暫く保持した後、電圧を一定の傾きで最高電圧に変化させる。このような制御により、ヘルムホルツ周波数を有する残留振動が発生しても、これに伴う送液室の容積変動を緩和し送液装置全体の送液効率を向上させることができる。
【0126】
(実施例6)
本実施例は、実施例3で実現したインクの流れ方向と逆方向へインクを循環させるものである。構造は実施例3と同じであり、駆動方法のみが異なる。実施例6における循環方向を実現することで、例えばノズル側から混入した気泡が、送液室22に流入することなく、供給口15の側へ回収できるメリットがある。
【0127】
図19(a)及び(b)は、素子基板4における1つの流路ブロックの流路構成を示す図である。
図11(a)及び(b)と同じ符号は、第3の実施例と同じ機構であることを示す。重力方向は+Z方向であり、仮にノズル側から気泡が混入した場合、循環する流れに気泡をのせ、かつ浮力により共通液室側へ回収させることができる。
【0128】
図20は、本実施例のアクチュエータ8を駆動するための電圧波形を示す図である。
図20においては、例えば-30V以下のDC-BIASを印加しているが、図中では略する。図において、実線は本実施例、破線は比較例を示している。本実施例の電圧波形は実施例5の形状と類似している。即ち、パルス駆動を行った後、基準電圧を所定の保持期間だけ維持し、その後一定の傾きで電圧を上昇させている。図では、送液室22の容積が膨張する方向を電圧の正方向とし、最高電圧を30V、駆動周期を50.0μsec、駆動周波数を20KHzとしている。この駆動周波数はエネルギ発生素子の駆動周波数15KHzよりも十分高い値である。アクチュエータ8の駆動周波数を吐出素子の駆動周波数よりも十分高くすることにより、吐出素子の個々の吐出動作がアクチュエータの駆動の影響でばらついてしまうのを抑えることができる。
【0129】
このような本実施例においても、緩やかな膨張においてヘルムホルツ振動に伴う容積の増減を抑えることにより、送液効率を向上させることができる。その結果、供給流路5、圧力室3、回収流路6、送液室22及び接続流路7において、インクを好適な速度で循環させ、吐出口2の近傍に新鮮なインクを安定的に供給することができる。本発明者らの観察によると、粘度2cpsのインクを用いて上記駆動を行った場合、1周期分の送液量は約1.0pL、送液効率は約6.5%であることが確認された。そして、吐出動作が行われない期間が数sec~数10sec程度に及んでも、その後の吐出動作で不吐出となることはなく、正常な吐出動作が安定して行われることが確認された。
【0130】
一方、
図20の破線で示した比較例の下で電圧制御を行った場合は、緩やかな収縮においてヘルムホルツ振動が重畳され、高い送液効率が得られない。本発明者らが確認を行ったところ、吐出動作が行われない期間が数sec~数10sec程度に及ぶと、その後の吐出動作が不吐出となったり不安定になったりすることが確認された。
【0131】
以上説明したように、本実施例によれば、複数の吐出口からインクを吐出するインクジェット記録ヘッドにおいて、吐出口の近傍にあるインクを循環させるための循環流路と、当該流路に配され循環ポンプとして機能するアクチュエータを用意する。そして、最高電圧を印加する相対的に長い期間と、印加する電圧を最高電圧から基準電圧に変化させる相対的に短い期間とを繰り返すように、アクチュエータ104に印加する電圧を制御する。この際、基準電圧を印加する期間においては、基準電圧の印加と非印加とを所定の間隔で切り替える制御を行う。一方、基準電圧から最高電圧に電圧を変化させる期間においては、基準電圧を暫く保持した後、電圧を一定の傾きで基準電圧に変化させる。
【0132】
本実施例では、このような制御により、ヘルムホルツ周波数を有する残留振動が発生しても、これに伴う送液室の容積変動を緩和し送液装置全体の送液効率を向上させることが可能となる。その結果、個々の吐出素子に対し新鮮なインクを定常的に供給することができ、吐出状態を安定させておくことが可能となる。
【0133】
本実施例においても、実施例3で説明したのと同様の実施形態を選択できる。
【0134】
(その他の実施例)
以上では、基準電圧を0V、最高電圧を30Vとし、電圧が高くなるほど送液室の容積が増大することを前提に説明してきたが、無論本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、基準電圧は0Vで無くてもよいし、電圧が高くなるほど送液室の容積が縮小するようにアクチュエータを配置してもよい。
【0135】
また、以上の実施例では、ON期間とOFF期間のDUTY比を1:1としたパルス駆動を用いたが、無論、本発明はこのようなDUTY比に限定されるものではなく、
図6(a)に示す1:2など、他のDUTY比とすることもできる。但し、DUTY比については、送液装置の駆動能力、配線能力、駆動負荷、に依存する部分も大きいので、適用時には、様々な要素を考慮して調整することが好ましい。
【0136】
また、上記実施例では、膨張用駆動の期間をTh×1/2とする
図5(b)や
図15(b)に示した駆動を基準として、
図2(a)や
図9(a)、或いは
図14(a)や
図18(a)に示す電圧波形を作成したが。しかしながら、上記実施例では、
図5(c)や
図5(d)或いは
図15(c)や
図15(d)に示す駆動を基準とすることもできる。即ち、膨張用駆動の期間をTh×3/4やTh×1とした場合も、夫々の膨張用駆動の期間の中でパルス周期やDUTY比が調整されればよい。
【0137】
いずれにせよ、アクチュエータに印加される電圧においては、i)第1の電圧を印加する第1の期間と、第1の期間よりも長い期間であって、第1の電圧と第1の電圧よりも低い第2の電圧との間を変化する第2の期間とが繰り返されるように制御されればよい。そして、ii)第1の期間においては、第1の電圧の印加と非印加とが切り替えられるように制御されればよい。
【0138】
本発明は、上述の実施例の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0139】
1 送液装置
101 送液室
104 アクチュエータ(駆動素子)