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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】カーペットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47G 27/02 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
A47G27/02 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019190014
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021062166
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-05-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222495
【氏名又は名称】東リ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 光晴
(72)【発明者】
【氏名】宮本 佳奈
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-324275(JP,A)
【文献】特開平09-228264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料を含む原料ポリマーを紡糸することによって得られた青系色に着色されたフィラメントであって酸性染料で染色可能な第1酸性可染原着フィラメントと、着色顔料を含む原料ポリマーを紡糸することによって得られた青系色に着色されたフィラメントであって酸性染料で前記第1酸性可染原着フィラメントよりも濃く染色可能な第2酸性可染原着フィラメントと、を有するパイル糸が基布にタフトされた、生機を準備する工程、
前記生機のパイル糸を青色酸性染料を含む酸性染料によって連続染色又はバッチ染色する染色工程、
を有するカーペットの製造方法。
【請求項2】
前記第1酸性可染原着フィラメントが、前記第2酸性可染原着フィラメントと同系色で且つ第2酸性可染原着フィラメントよりも淡色に着色されている、請求項1に記載のカーペットの製造方法。
【請求項3】
記染色工程で用いる酸性染料が、青系色に染める酸性染料である、請求項1または2に記載のカーペットの製造方法。
【請求項4】
前記青系色に着色されている第1酸性可染原着フィラメントを前記青系色の酸性染料で染色した後の第1酸性可染原着フィラメントの彩度が、白色に着色されている原着フィラメントを前記青系色の酸性染料で染色することによって得られるフィラメントの彩度よりも高い、請求項3に記載のカーペットの製造方法。
【請求項5】
記染色工程で用いる酸性染料が、青系色以外の色彩に染める酸性染料である、請求項1または2に記載のカーペットの製造方法。
【請求項6】
前記パイル糸が、白色以外に着色されたフィラメントであってカチオン染料で染色可能なカチオン可染原着フィラメントをさらに有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカーペットの製造方法。
【請求項7】
前記酸性染料が、金属錯塩酸性染料を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のカーペットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堅牢度に優れたカーペットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オフィスビル、商業施設、マンション、一般家庭などの床面に、カーペットが敷設されている。
カーペットのパイル層は、所望の色彩に着色されることにより、所望の柄が表出されている。
特許文献1には、染色性の異なる後染め糸を基布にタフトした後、それを染料で染色することによって得られるライン柄タフテッドカーペットの製法が開示されている。このような後染め糸を染色する後染め方法によれば、様々な色彩のカーペットを簡易に得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-198640号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、基布にタフトした後染め糸を染色する方法で得られたカーペットの堅牢度を、より高めたいという要望がある。
堅牢度に優れたカーペットを得るために、顔料等によって着色された原着糸からなるパイル糸を用い、このパイル糸を基布にタフトしてカーペットを製造する方法もある。しかし、この方法では、製造するカーペットの色柄が制限される。すなわち、この方法は、予め用意された幾つかの色彩や光沢度のパイル糸の中から任意のパイル糸を選択してカーペットを作製するものであるため、カーペットの色柄が制限される上、製造するカーペットの柄ごとに、複数の生機を製造する必要があり、在庫が増大する。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、色柄が制限され難いようにするために後染めによって色柄を現しつつ、堅牢度に優れたカーペットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のカーペットの製造方法は、着色顔料を含む原料ポリマーを紡糸することによって得られた青系色に着色されたフィラメントであって酸性染料で染色可能な第1酸性可染原着フィラメントと、着色顔料を含む原料ポリマーを紡糸することによって得られた青系色に着色されたフィラメントであって酸性染料で前記第1酸性可染原着フィラメントよりも濃く染色可能な第2酸性可染原着フィラメントと、を有するパイル糸が基布にタフトされた、生機を準備する工程、前記生機のパイル糸を青色酸性染料を含む酸性染料によって連続染色又はバッチ染色する染色工程、を有する。
【0007】
本発明の好ましいカーペットの製造方法は、前記第1酸性可染原着フィラメントが、前記第2酸性可染原着フィラメントと同系色で且つ第2酸性可染原着フィラメントよりも淡色に着色されている。
本発明の好ましいカーペットの製造方法は、前記染色工程で用いる酸性染料が、青系色に染める酸性染料である。
本発明の好ましいカーペットの製造方法は、前記青系色に着色されている第1酸性可染原着フィラメントを前記青系色の酸性染料で染色した後の第1酸性可染原着フィラメントの彩度が、白色に着色されている原着フィラメントを前記青系色の酸性染料で染色することによって得られるフィラメントの彩度よりも高い。
本発明の好ましいカーペットの製造方法は、前記染色工程で用いる酸性染料が、青系色以外の色彩に染める酸性染料である。
【0008】
本発明の好ましいカーペットの製造方法は、前記パイル糸が、白色以外に着色されたフィラメントであってカチオン染料で染色可能なカチオン可染原着フィラメントをさらに有する。
本発明の好ましいカーペットの製造方法は、前記酸性染料が、金属錯塩酸性染料を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、後染めを行うので、カーペットの色柄が制限され難く、また、堅牢度に優れたカーペットを得ることができる。
また、本発明のカーペットは、堅牢度に優れているので、色柄が褪せにくく長期間使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のカーペットを表面側から見た平面図。ただし、パイル糸は図示していない。
図2図1のII-II線で切断した拡大端面図。ただし、パイル糸を、便宜上、1本線で表している。
図3】パイル糸を基布にタフトした生機の一部省略斜視図。
図4図3のIV-IV線で切断した拡大端面図。ただし、パイル糸を、便宜上、1本線で表している。
図5】1つの実施形態のパイル糸の一部分を拡大した参考模式図。
図6】他の実施形態のパイル糸の一部分を拡大した参考模式図。
図7】他の実施形態のパイル糸の一部分を拡大した参考模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、適宜図面を参照しつつ説明する。
本明細書において、「~」で表される数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「~」で結んだ範囲とすることができるものとする。「複数」は、2以上を意味する。
【0012】
[カーペットの概要]
図1及び図2において、本発明のカーペット1は、パイル層2と、前記パイル層2の裏面側に設けられたバッキング層3と、を有する。前記パイル層2は、基布4と、基布4にタフトされた染色済みパイル糸5と、を有する。前記染色済みパイル糸5は、後述する生機のパイル糸を適切な染料で染色したものである。生機の状態でパイル糸(基布にタフトした後のパイル糸)を染料で染色することを「後染め」という場合がある。
本発明のカーペット1は、パイル層2を有する床材であり、このカーペット1には、タイルカーペット及びロールカーペットなどのほか、ラグやマットなどと呼ばれているものも含まれる。
【0013】
タイルカーペットやマットなどとして使用される場合、本発明のカーペット1は、通常、枚葉状に形成される。枚葉状のカーペット1は、例えば、図1に示すような、平面視略正方形状に形成される他、例えば、略長方形状、略三角形状や略六角形状などの平面視略多角形状、平面視略円形状、平面視略楕円形状などの任意の平面視形状に形成されていてもよい(図示せず)。本明細書において、形状を表す際の「略」は、本発明の属する技術分野において許容される形状を意味する。平面視略正方形状、略長方形状、略三角形状などの略多角形状の「略」は、例えば、角部が面取りされている形状、辺の一部が僅かに膨らむ又は窪んでいる形状、辺が若干湾曲している形状などが含まれる。また、平面視略円形状及び略楕円形状の「略」は、例えば、周の一部が僅かに膨らむ又は窪んでいる形状、周の一部が若干直線又は斜線とされた形状などが含まれる。
【0014】
枚葉状のカーペット1の寸法は、特に限定されないが、例えば、平面視略正方形状又は略長方形状を基準にして、縦×横=200mm~1000mm×200mm~1000mmなどを例示できる。
また、ロールカーペットやラグなどとして使用される場合、本発明のカーペット1は、平面視長尺帯状に形成される(図示せず)。長尺帯状は、長手方向の長さが短手方向よりも十分に長い平面視略長方形状をいい、例えば、長手方向長さが短手方向の長さの3倍以上、好ましくは5倍以上である。
【0015】
前記基布4にタフトされた染色済みパイル糸5は、パイルとも呼ばれるが、そのパイル形状は特に限定されず、ループパイルでもよいし、或いは、カットパイル(図示せず)でもよい。図示例では、ループパイルを表している。
前記染色済みパイル糸5は、基布4の所定方向にタフトされており、従って、タフト方向において1つの染色済みパイル糸5が連続して1つのパイル列を構成している。
【0016】
また、パイル高も特に限定されず、例えば、2mm~10mmであり、好ましくは3mm~8mmである。
パイル高は、タフト方向及びゲージ方向において同じ高さでもよく、或いは、タフト方向及び/又はゲージ方向において異なっていてもよい(図示せず)。
なお、タフト方向は、パイル糸がタフトされていく方向をいい、ゲージ方向は、タフト方向に対して直交する方向をいう。
パイル高がタフト方向において異なっている部分を有するパイル面(パイル面は、パイル層2の表面)は、タフト方向において凹凸を生じ、パイル高がゲージ方向において異なっている部分を有するパイル面は、ゲージ方向において凹凸を生じ、パイル高がタフト方向及びゲージ方向において異なっている部分を有するパイル面は、面方向において凹凸を生じる。図示例では、パイル高がタフト方向及びゲージ方向において同じであるパイル層2を表している。
【0017】
前記基布4及びバッキング層3は、従来公知のものを用いることができる。
前記基布4は、特に限定されず、例えば、織布、不織布、編み布などのシート状のものが挙げられる。基布4を構成する繊維の素材としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドなどの合成繊維;セルロース、ウールなどの天然繊維;レーヨンなどの半合成繊維などが挙げられる。耐久性及び耐へたり性に優れていることから、基布4として、ポリエステル、ポリアミド及び/又はポリプロピレンの合成繊維を含む織布、不織布又は編み布を用いることが好ましい。
【0018】
前記バッキング層3は、パイル層2に積層される層であり、カーペット1の接地面を構成する層である。
例えば、バッキング層3は、表面側から順に、接着層31と、補強シート32と、裏打ち層33と、を有する。接着層31は、パイル層2の裏面(パイル面とは反対側の面)に設けられる。接着層31は、パイル層2とバッキング層3を接合する機能のほか、パイル層2の裏面に出た染色済みパイル糸5を固定する機能も併有する。裏打ち層33は、接着層31の裏面に設けられ、裏打ち層33の裏面が床面に接する。補強シート32は、前記接着層31と裏打ち層33との中間に設けられる。また、必要に応じて、裏打ち層33の中間又は/及び裏面にさらに別の補強シート(図示せず)を積層してもよい。
【0019】
接着層31及び裏打ち層33は、公知の合成樹脂によって形成される。例えば、接着層31及び裏打ち層33の合成樹脂としては、塩化ビニル系樹脂などのPVC系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などのEVA系樹脂、APP樹脂などのAPP系樹脂、ポリウレタンなどのPUR系樹脂などが挙げられる。加工性、耐久性、及びコスト面などから、ポリ塩化ビニル樹脂などのPVC系樹脂を用いることが好ましい。
補強シート32も特に限定されず、公知のシートを用いることができる。例えば、補強シート32としては、ガラス、ポリエステル、ポリアミドなどの無機繊維若しくは合成繊維の織布又は不織布などが挙げられる。特に、寸法安定性に優れていることから、補強シート32として、ガラス繊維製の織布又は不織布を用いることが好ましい。
【0020】
[カーペットの製造方法]
本発明のカーペットの製造方法は、パイル糸が基布にタフトされた、生機を準備する工程(生機準備工程)、前記生機のパイル糸を、染料によって連続染色又はバッチ染色する工程(染色工程)、を有し、必要に応じて、他の工程を有していてもよい。
これら各工程を1つの製造ラインで一連に行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を、1つのラインで行い、且つ残る工程を他の1つ又は2つ以上のラインで行ってもよい。また、前記各工程の全てを一人の実施者が行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を一人の実施者が行い、且つ残る工程を他の実施者が行ってもよい。
【0021】
<生機の準備工程>
従来公知の方法に従い、パイル糸を基布にタフトしてパイル生機を得る。生機を染色することにより、上記パイル層2が得られる。
なお、機械的製造においては、通常、長尺帯状の基布が用いられる。
例えば、タフト方向の長さ×ゲージ方向の長さ=500mm×500mmの平面視略正方形状のカーペットを製造する場合には、短手方向の長さが約2m、約4m、約6mなどの長尺帯状の基布が用いられ、好ましくは、短手方向の長さが約4mの長尺帯状の基布が用いられる。
【0022】
<<生機の概要>>
図3は、生機の斜視図で、図4は、その断面図である。なお、生機にあってはパイル糸が全体的にタフトされているが、図3では、そのパイル糸の一部のみを表している。また、パイル糸は複数本のフィラメントからなるが、図4では、そのパイル糸を概略的に表している。
図3及び図4を参照して、生機6は、基布4と、前記基布4にタフトされたパイル糸7と、を有する。上述のカーペット1のパイル糸5は、染料で染色された後のパイル糸(染色済みパイル糸)であるが、生機6のパイル糸7は、染料で染色する前のパイル糸である。
前記パイル糸7は、基布4の所定方向にタフトされており、従って、タフト方向において1つのパイル糸7が1つのパイル列を構成している。パイル糸7のタフト方法は、特に限定されず、例えば、基布4及び/又はニードルをタフト方向に移動させながらパイル糸7をタフトしてもよく、或いは、ニードルをゲージ方向に移動させながらタフト方向にタフトを行なう所謂ニードルシフトによってパイル糸7をタフトしてもよい。タフトされるパイル糸7のステッチ数、ゲージ数、タフト高などは、適宜設定される。
必要に応じて、パイル糸7の解れを防止するために、基布4の裏面に、接着剤などからなる目止め層(図示せず)を形成してもよい。目止め層は、基布4にパイル糸7をタフトした後、その基布4の裏面側に表出するパイル糸7及び基布4の裏面を含んで接着剤などを積層することによって形成できる。
【0023】
<<生機のパイル糸について>>
図5乃至図7は、パイル糸7を示している。
上述のカーペット1の染色済みパイル糸5は、染料で染色された後のパイル糸であるが、生機のパイル糸7は、染料で染色する前のパイル糸である。つまり、カーペット1のパイル糸5と生機のパイル糸7は、後述する染色工程を経て染色済みであるか染色工程の前であるかという点で相違し、その余の構成は同じである。
【0024】
パイル糸7は、少なくとも2本のフィラメントから構成されている。なお、本明細書において単に「フィラメント」と記載している場合は、原則として、後述する酸性可染原着フィラメントなどの原着フィラメントなどの総称を意味する。
複数のフィラメントから構成される1本の糸状のパイル糸7は、次に示すような様々な形態のものを用いることができる。
1つの実施形態において、パイル糸7は、図5に示すように、捲縮されていない複数本のフィラメント71が撚りを掛けることなく束ねられて1本の糸状に形成されている。他の実施形態において、パイル糸7は、捲縮されていない複数本のフィラメント71が全体的に撚りを掛けられて1本の糸状に形成されている(図示せず)。
他の実施形態において、パイル糸7は、図6に示すように、捲縮された複数本のフィラメント71が撚りを掛けることなく束ねられて1本の糸状に形成されている。他の実施形態において、パイル糸7は、捲縮された複数本のフィラメント71が全体的に撚りを掛けられて1本の糸状に形成されている(図示せず)。
他の実施形態において、パイル糸7は、図7に示すように、捲縮された複数本のフィラメント71が所々で交絡され且つ撚りを掛けることなく束ねられて1本の糸状に形成されている。他の実施形態において、パイル糸7は、捲縮された複数本のフィラメント71が所々で交絡され且つ全体的に撚りを掛けられて1本の糸状に形成されている(図示せず)。
さらに、他の実施形態において、パイル糸7は、捲縮されていない複数本のフィラメント71が所々で交絡され且つ撚りを掛けることなく束ねられて1本の糸状に形成されている、或いは、捲縮されていない複数本のフィラメント71が所々で交絡され且つ全体的に撚りを掛けられて1本の糸状に形成されている。
なお、上記各実施形態のパイル糸7の複数本のフィラメント71は、捲縮されたフィラメントと捲縮されていないフィラメントが混じっていてもよい。
【0025】
パイル糸(染色前のパイル糸)は、第1酸性可染原着フィラメント、第2酸性可染原着フィラメント及びカチオン可染原着フィラメントから選ばれる少なくとも2種類の可染原着フィラメントを有する。
ここで、「第1酸性可染原着フィラメント」は、白色以外の色彩に着色されたフィラメントであって酸性染料で染色可能な可染原着フィラメントをいう。「第2酸性可染原着フィラメント」は、白色以外の色彩に着色されたフィラメントであって酸性染料で第1酸性可染原着フィラメントよりも濃く染色可能な可染原着フィラメントをいう。「カチオン可染原着フィラメント」は、白色以外の色彩に着色されたフィラメントであってカチオン染料で染色可能な可染原着フィラメントをいう
なお、「色彩」は、色相、明度及び彩度の三属性によって定められる。
【0026】
1つの実施形態に係る生機のパイル糸(染色前のパイル糸)は、例えば、第1酸性可染原着フィラメントと第2酸性可染原着フィラメントとを有し、必要に応じて、これら2種以外の他のフィラメントを有していてもよい。
他の実施形態に係る生機のパイル糸(染色前のパイル糸)は、例えば、第1酸性可染原着フィラメントと第2酸性可染原着フィラメントとカチオン可染原着フィラメントとを有し、必要に応じて、これら3種以外の他のフィラメントを有していてもよい。
さらに、他の実施形態に係るパイル(染色前のパイル糸)は、例えば、第1酸性可染原着フィラメントとカチオン可染原着フィラメントとを有し、必要に応じて、これら2種以外の他のフィラメントを有していてもよい。
【0027】
ここで、本明細書において、「原着フィラメント」は、着色顔料が含まれており、基布にタフトする前(以下、タフト前という)の時点で所望の色彩に着色されているフィラメントをいう。原着フィラメントは、例えば、フィラメントの原料ポリマーに着色顔料を含有させた後、紡糸することによって製造できる。以下、タフト前であって染料にて染色していない原着フィラメントが有する色彩を「原色」という場合がある。「可染原着フィラメント」は、適切な染料で染色することができる原着フィラメントをいう。以下、タフト後に染料にて染色して付加される色彩を「後色」という場合がある。カチオン可染原着フィラメントは、前記可染原着フィラメントのうち、カチオン染料で染色することができる原着フィラメントをいい、酸性可染原着フィラメントは、前記可染原着フィラメントのうち、酸性染料で染色することができる原着フィラメントをいう。カチオン可染原着フィラメントと酸性可染原着フィラメントは、異なる染料で染色されることから、互いに染色能の異なる原着フィラメントである。
【0028】
可染原着フィラメントは、着色顔料が含まれており、タフト前の時点で所望の色彩を呈する。可染原着フィラメントは、タフト前から着色されていると共に染料でさらに染色できることから、原着フィラメントと後染めフィラメントを併有しているフィラメントと言える。
可染原着フィラメントは、染料に対する染着座席を有する。染着座席は、染料が結合する部位をいう。
【0029】
<<フィラメントについて>>
本発明の生機のパイル糸7は、複数本のフィラメントから構成されている。
フィラメントは、公知のポリマー及び添加剤を混合した材料を紡糸することによって得られた長繊維である。フィラメントは、上述のように捲縮加工が施されていてもよく、或いは、捲縮加工が施されていないストレートでもよいが、嵩高性に優れることから捲縮加工されていることが好ましい。
フィラメントの主成分であるポリマーの材質は、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂などの合成樹脂が挙げられる。前記熱可塑性樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリアミド、アクリル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、セルロース、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。カーペットとしての耐久性に優れるので、ポリアミド又はポリプロピレンが好ましく、特にポリアミドを主成分として含むフィラメントがより好ましい。ポリアミドを含むフィラメントとして、ディープ糸、レギュラー糸、ペール糸などを適宜用いることもできる。添加剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、充填剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤などが挙げられる。
フィラメントの太さは、特に限定されないが、余りに小さいと破断し易くなり、余りに大きいと、パイル糸が硬くなり過ぎる。かかる観点から、フィラメントの太さは、2dtex(デシテックス)~500dtexが好ましく、5dtex~30dtexがより好ましい。
パイル糸7を構成するフィラメントの本数は、少なくとも2本以上であり、好ましくは、20本以上、より好ましくは、50本以上である。パイル糸7を構成するフィラメントの本数の上限は、特にないが、例えば、500本以下であり、好ましくは、400本以下であり、より好ましくは、300本以下である。この範囲内であると、染色性に優れ、容易に適切な色に染色することができる。
なお、パイル糸7の太さは、フィラメントの本数×フィラメントの太さで規定される。
フィラメントの断面構造は、特に限定されず、断面視略円形状、略楕円形状のような定型的な形状のほか、断面視略Y字状、略L字状、略田の字状、略三角形状、略四角形状などの異形断面形状であってもよい。
【0030】
本発明のパイル糸7に使用できるフィラメントの種類としては、例えば、次のようなフィラメント(A)、(B)、(C)及び(D)が挙げられる。また、必要に応じて、次の他のフィラメント(X)などを用いてもよい。
A:白色以外の色彩に着色され且つ酸性染料で染色可能な酸性可染原着フィラメント(「第1酸性可染原着フィラメント(A)」という)。
B:白色以外の色彩に着色され且つ酸性染料で第1酸性可染原着フィラメント(B)よりも濃く染色可能な可染原着フィラメント(「第2酸性可染原着フィラメント(B)」という)。
C:白色以外の色彩に着色され且つ酸性染料で前記第2酸性可染原着フィラメント(B)よりも濃く染色可能な可染原着フィラメント(「第3酸性可染原着フィラメント(C)」という)
D:白色以外の色彩に着色され且つカチオン染料で染色可能な可染原着フィラメント(「カチオン可染原着フィラメント(D)」という)。
第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)、第3酸性可染原着フィラメント(C)及びカチオン可染原着フィラメント(D)を、フィラメント(A)、フィラメント(B)、フィラメント(C)及びフィラメント(D)という場合がある。
【0031】
X:フィラメント(A)、フィラメント(B)、フィラメント(C)及びフィラメント(D)以外の他のフィラメント(X)。
他のフィラメント(X)としては、次のようなものが挙げられる。
X1:白色に着色され且つカチオン染料で染色可能なカチオン可染原着フィラメント(「白色カチオン可染原着フィラメント(X1)」という)。
X2:白色に着色され且つ酸性染料で染色可能な可染原着フィラメント(「白色酸性可染原着フィラメント(X2)という」)。
【0032】
{第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)の詳細}
第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)は、いずれも非白色顔料を含み、酸性染料に対する染着座席を有する。第1乃至第3酸性可染原着フィラメント(A)、(B)及び(C)は、それぞれ独立して、例えば、酸性染料に対する染着座席を有するポリマーと、非白色顔料とを含み、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含む。
酸性染料に対する染着座席としては、代表的には、NH基などのカチオン性基が挙げられる。例えば、分子中にカチオン性基を有するポリマー、非白色顔料及び添加剤を混合した材料を紡糸することにより、フィラメント(A)、(B)及び(C)が得られる。
【0033】
第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)の原色は、特に限定されない。非白色顔料を適宜選択することにより、所望の原色を有するフィラメント(A)、(B)及び(C)が得られる。
非白色顔料としては、例えば、白色を呈するもの以外であれば特に限定されず、灰色顔料、黄色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料などが挙げられる。
前記灰色顔料としては、カーボンブラック、鉄黒、アニリンブラックなどの黒色顔料と酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などの白色顔料との混合物などが挙げられる。なお、この例示の灰色顔料には白色顔料が含まれているが、かかる白色顔料は、灰色顔料の構成要素の1つであり、灰色顔料自体は、原着フィラメントを灰色に着色する顔料である。つまり、灰色顔料は、白色以外の色彩に着色する着色顔料である。
前記黄色顔料としては、黄鉛、亜鉛黄、クロム酸バリウム、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、黄土、チタン黄などの無機顔料;ハンザイエローなどのアゾ系顔料などの有機顔料;などが挙げられる。
前記赤色顔料としては、例えば、ベンガラ、鉛丹、銀朱、カドミウムレッドなどの無機顔料;パーマネントレッドなどのアゾ系顔料などの有機顔料;などが挙げられる。
前記紫色顔料としては、例えば、コバルト紫、マンガン紫などの無機顔料;メチルバイオレットレーキなどの有機顔料;などが挙げられる。
前記青色顔料としては、例えば、群青、紺青、コバルトブルーなどの無機顔料;フタロシアニンブルーなどのフタロシアニン系顔料などの有機顔料;などが挙げられる。
前記緑色顔料としては、例えば、クロムグリーン、ジンクグリーン、エメラルドグリーン、コバルトグリーンなどの無機顔料;ピグメントグリーンBなどのニトロソ系顔料などの有機顔料;などが挙げられる。
非白色顔料は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。
第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)の非白色顔料の量は、特に限定されないが、それぞれ独立して、例えば、フィラメント全体を100重量%とした場合に、0.1重量%~5重量%である。
【0034】
第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)は、酸性染料によって染色される程度が異なっている。これらのフィラメントは、同じ酸性染料で染色しても、染色度合いが異なることから、互いに染色能の異なる原着フィラメントである。
第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)を、同じ酸性染料に浸漬したときに、第1酸性可染原着フィラメント(A)が最も薄く染まり、第3酸性可染原着フィラメント(C)が最も濃く染まり、第2酸性可染原着フィラメント(B)が、前記第1酸性可染原着フィラメント(A)よりも濃く染まり且つ第3酸性可染原着フィラメント(C)よりも薄く染まる。
第3酸性可染原着フィラメント(C)は、第1酸性可染原着フィラメント(A)及び第2酸性可染原着フィラメント(B)よりも濃く染色可能な可染原着フィラメントであり、第2酸性可染原着フィラメント(B)は、第1酸性可染原着フィラメント(A)よりも濃く染色可能な可染原着フィラメントである。
【0035】
つまり、酸性染料に対する染色能という観点から、第1酸性可染原着フィラメント(A)<第2酸性可染原着フィラメント(B)<第3酸性可染原着フィラメント(C)、の関係を満たしている。
【0036】
なお、従来公知の酸性染料によって染色可能な後染めフィラメントにおいて、ペール糸、レギュラー糸及びディープ糸が知られているが、これらの3つの後染めフィラメントの染色能も、ペール糸<レギュラー糸<ディープ糸、の関係を満たしている。本発明の第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)は、原着フィラメントである点で、前記従来公知の後染めフィラメントと異なるが、酸性染料に対する染色能という観点からは、従来公知のペール糸、レギュラー糸及びディープ糸と同様な関係を満たしている。
【0037】
例えば、酸性染料に対する染着座席を有するポリマーの観点から、第1酸性可染原着フィラメント(A)を構成するポリマーの染着座席の数<第2酸性可染原着フィラメント(B)を構成するポリマーの染着座席の数<第3酸性可染原着フィラメント(C)を構成するポリマーの染着座席の数、の観点を満たしている。
例えば、分子中にカチオン性基を有するポリマー、非白色顔料及び添加剤を混合した材料を紡糸することにより、第1酸性可染原着フィラメント(A)が得られる。このポリマーよりもカチオン性基を多く分子中に有するポリマー、非白色顔料及び添加剤を混合した材料を紡糸することにより、第2酸性可染原着フィラメント(B)が得られ、このポリマーよりもカチオン性基を多く分子中に有するポリマー、非白色顔料及び添加剤を混合した材料を紡糸することにより、第3酸性可染原着フィラメント(C)が得られる。
【0038】
第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)の原色は、それぞれ独立して、特に限定されない。例えば、第1乃至第3酸性可染原着フィラメント(A)、(B)及び(C)は、いずれも同系色に着色されており、好ましくはいずれも青系色に着色されている。
ここで、同系色とは、厳密な意味ではなく、ある程度の幅をもった概念であり、例えば、虹の色は7つの同系色を有する。例えば、黄色の場合、2つのものが多少の色彩の違い、すなわち色相、明度、彩度に違いがあったとしても、カーペット使用者などの一般人がそれらを黄色と認識する場合には、本発明に言う同系色の概念に含まれる。なお、異なる色彩とは、同系色とは反対に、一般人が2つのものを色的に見分けることができる程度に異なっていることをいう。
前記同系色の判断方法としては、例えば、2つのパイル糸を準備し、それらを左右に並べ、30cm離れた箇所から20才代の一般男性が5秒間観察し、両者の色が同系色か否かを目視で判断するものとする。
【0039】
前記青系色に着色されている第1酸性可染原着フィラメント(A)は、それを青系色の酸性染料で染色した後の彩度が、白色に着色されている原着フィラメントを前記青系色の酸性染料で染色することによって得られるフィラメントの彩度よりも高いものが好ましい。なお、彩度の高低は、目視にて対比することによって判断可能であるが、客観的な値として、JIS Z8729に従ったL*a*b*表色系によって算出される。
詳しくは、原色が青系色の第1酸性可染原着フィラメント(A)を、青色系の酸性染料(好ましくは、金属錯塩酸性染料を含む青色系の染料)で染色すると、青色系のフィラメント(青色染色後の青色原着フィラメント(A))が得られる。他方、原色が白色の原着フィラメント(この白色の原着フィラメントは、青色顔料に代えて白色顔料を用いている点を除いて第1酸性可染原着フィラメント(A)と同じものである)を、前記第1酸性可染原着フィラメント(A)を染色したものと同じ青色系の酸性染料で染色すると、青色系のフィラメント(青色染色後の白色原着フィラメントという)が得られる。前記青色染色後の青色原着フィラメント(A)と青色染色後の白色原着フィラメントを彩度の観点で対比すると、青色染色後の青色原着フィラメント(A)の彩度が、青色染色後の白色原着フィラメントの彩度よりも高い。青系色に着色されている第1酸性可染原着フィラメント(A)は、彩度の観点で、前記のような関係を満たすものが好ましい。
前記のような関係を満たす第1酸性可染原着フィラメント(A)は、次のようにして選定できる。原色が白色の原着フィラメントを、青色系の酸性染料で染色した後の彩度を測定する。この彩度がMMであった場合、この彩度MMを参考にし、原色が青系色の第1酸性可染原着フィラメント(A)として、前記MMよりも彩度が大きい酸性可染原着フィラメントを選定する。好ましくは、前記MM+20以上の彩度を有する原色が青色の酸性可染原着フィラメントを選定し、より好ましくは、前記MM+40以上の彩度を有する酸性可染原着フィラメントを選定する。なお、この彩度の値は、JIS Z8729によって算出できる。次項の第2酸性可染原着フィラメント(B)などについても同様にして選定できる。
【0040】
前記青系色に着色されている第2酸性可染原着フィラメント(B)についても同様に、その第2酸性可染原着フィラメント(B)を青系色の酸性染料(好ましくは、金属錯塩酸性染料を含む青色系の染料)で染色した後の彩度が、白色に着色されている原着フィラメントを前記青系色の酸性染料で染色することによって得られるフィラメントの彩度よりも高いものが好ましい。
詳しくは、原色が青系色の第2酸性可染原着フィラメント(B)を、青色系の酸性染料で染色すると、青色系のフィラメント(青色染色後の青色原着フィラメント(B))が得られる。他方、原色が白色の原着フィラメント(この白色の原着フィラメントは、青色顔料に代えて白色顔料を用いている点を除いて第1酸性可染原着フィラメント(B)と同じものである)を、前記第1酸性可染原着フィラメント(B)を染色したものと同じ青色系の酸性染料で染色すると、青色系のフィラメントが得られる。前記青色染色後の青色原着フィラメント(B)と青色染色後の白色原着フィラメントを彩度の観点で対比すると、青色染色後の青色原着フィラメント(B)の彩度が、青色染色後の白色原着フィラメントの彩度よりも高い。青系色に着色されている第1酸性可染原着フィラメント(B)は、彩度の観点で、前記のような関係を満たすものが好ましい。
前記青系色に着色されている第3酸性可染原着フィラメント(C)についても同様に、その第3酸性可染原着フィラメント(C)を青系色の酸性染料(好ましくは、金属錯塩酸性染料を含む青色系の染料)で染色した後の彩度が、白色に着色されている原着フィラメントを前記青系色の酸性染料で染色することによって得られるフィラメントの彩度よりも高いものが好ましい。
特に、第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)のいずれも、青系色の酸性染料で染色した後の彩度が、白色に着色されている原着フィラメントを前記青系色の酸性染料で染色することによって得られるフィラメントの彩度よりも高いものが好ましい。全ての酸性可染原着フィラメントの彩度が高くなることによって、彩度が比較的高く且つ堅牢度に優れるカーペットを得ることが可能となる。
なお、使用する酸性可染原着フィラメントは、染色度合いの異なる4種類以上でもよく、さらに色彩の異なる酸性可染原着フィラメントを加えても良い。いずれの場合であっても、彩度が比較的高くなる酸性可染原着フィラメントを含むことによって、彩度が比較的高く且つ堅牢度に優れるカーペットを得ることが可能となる。
【0041】
また、前記同系色(好ましくは青系色)の第1乃至第3酸性可染原着フィラメント(A)、(B)及び(C)は、それらの原色が濃淡差を有していてもよい。例えば、フィラメント(A)、フィラメント(B)及びフィラメント(C)は、原色が同系色に着色されているが、フィラメント(A)が淡色で、フィラメント(B)がフィラメント(A)よりも濃色で、フィラメント(C)がフィラメント(A)及び(B)よりも濃色に着色されている。換言すると、フィラメント(C)が濃色で、フィラメント(B)がフィラメント(C)よりも淡色で、フィラメント(A)がフィラメント(B)及び(C)よりも淡色に着色されている。なお、その逆であってもよい。
例えば、前記第1酸性可染原着フィラメント(A)が、第2酸性可染原着フィラメント(B)と同系色で且つ第2酸性可染原着フィラメント(B)よりも淡色に着色されている場合、それらを酸性染料で染色すると、第2酸性可染原着フィラメント(B)が第1酸性可染原着フィラメント(A)よりも濃色に染色される。前記第2酸性可染原着フィラメント(B)が、第3酸性可染原着フィラメント(C)と同系色で且つ第3酸性可染原着フィラメント(C)よりも淡色に着色されている場合、それらを酸性染料で染色すると、同様に、第3酸性可染原着フィラメント(C)が第2酸性可染原着フィラメント(B)よりも濃色に染色される。このような原色が同系色且つ濃淡差を有する原着フィラメントを用いることにより、同色系であっても濃淡によるメリハリのある色柄を表現できる。
【0042】
濃淡差のある原着フィラメントは、紡糸する際の着色顔料の配合量を調整することによって得られる。
例えば、第1酸性可染原着フィラメント(A)を紡糸する際に配合する着色顔料の量を、第2酸性可染原着フィラメント(B)の着色顔料の量よりも少なくすることにより、第2酸性可染原着フィラメント(B)よりも淡色に着色されている第1酸性可染原着フィラメント(A)を得ることができる。
【0043】
{カチオン可染原着フィラメント(D)の詳細}
カチオン可染原着フィラメント(D)は、白色以外の色彩を呈する着色顔料を含み、カチオン染料に対する染着座席を有する。以下、白色以外の色彩を呈する着色顔料を「非白色顔料」といい、白色を呈する着色顔料を「白色顔料」という。
カチオン可染原着フィラメント(D)は、例えば、カチオン染料に対する染着座席を有するポリマーと、非白色顔料とを含み、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含む。
カチオン染料に対する染着座席としては、代表的には、アニオン性基が挙げられる。例えば、分子中にアニオン性基を有するポリマー、非白色顔料及び添加剤を混合した材料を紡糸することにより、カチオン可染原着フィラメント(D)が得られる。
【0044】
カチオン可染原着フィラメント(D)の原色は、特に限定されない。非白色顔料を適宜選択することにより、所望の原色を有するカチオン可染原着フィラメント(D)が得られる。
非白色顔料としては、{第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)の詳細}の欄に記載したものを用いることができる。
例えば、黄色顔料と赤色顔料を混合した非白色顔料を用いることにより、橙色に着色されたカチオン可染原着フィラメント(D)を構成できる。
フィラメント(D)の非白色顔料の量は、特に限定されないが、例えば、フィラメント全体を100重量%とした場合に、0.1重量%~5重量%である。
【0045】
{白色カチオン可染原着フィラメント(X1)及び白色酸性可染原着フィラメント(X2)の詳細}
白色カチオン可染原着フィラメント(X1)は、白色顔料を含み、カチオン染料に対する染着座席を有する。白色カチオン可染原着フィラメント(X1)は、原色が白色であること以外は、カチオン可染原着フィラメント(D)と同様である。つまり、白色カチオン可染原着フィラメント(X1)は、非白色顔料を含まず、白色顔料を含んでいること以外は、上記フィラメント(D)と同様であり、白色カチオン可染原着フィラメント(X1)の説明は、上記{カチオン可染原着フィラメント(D)の詳細}の欄を参照するものとする。
白色酸性可染原着フィラメント(X2)は、白色顔料を含み、酸性染料に対する染着座席を有する。白色酸性可染原着フィラメント(X2)は、原色が白色であること以外は、フィラメント(B)、(C)又は(D)と同様である。つまり、白色酸性可染原着フィラメント(X2)は、非白色顔料を含まず、白色顔料を含んでいること以外は、上記第1乃至第3酸性可染原着フィラメント(B)、(C)又は(D)と同様であり、白色酸性可染原着フィラメント(X2)の説明は、上記{第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(C)の詳細}の欄を参照するものとする。
【0046】
<<生機のパイル糸の幾つかの例>>
本発明の生機のパイル糸は、第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)、第3酸性可染原着フィラメント(C)及びカチオン可染原着フィラメント(D)から選ばれる少なくとも2種類のフィラメントを有する。つまり、生機のパイル糸は、染色能の異なる2種類の非白色原着フィラメントを有する。好ましくは、本発明の生機のパイル糸は、第1酸性可染原着フィラメント(A)及び第2酸性可染原着フィラメント(B)を有し、より好ましくは、第1酸性可染原着フィラメント(A)、第2酸性可染原着フィラメント(B)及びカチオン可染原着フィラメント(D)を有する。
生機のパイル糸は、必要に応じて、他のフィラメント(X)をさらに有していてもよい。
他のフィラメント(X)としては、例えば、白色カチオン可染原着フィラメント(X1)、白色酸性可染原着フィラメント(X2)などが挙げられる。他のフィラメント(X)は、これらから選ばれる少なくとも1種を含む。
染色能の異なる少なくとも2種類の非白色原着フィラメントを有するパイル糸の具体例としては、例えば、次の各例のパイル糸を挙げることができる。
【0047】
(1)第1例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(A)及び1本以上のフィラメント(B)からなる、又は、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(B)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(A)の重量:フィラメント(B)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(2)第2例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(B)及び1本以上のフィラメント(D)からなる、又は、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(B)、1本以上のフィラメント(D)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(A)の重量:フィラメント(B)の重量は、例えば、1:5~5:1であり、フィラメント(A)の重量:フィラメント(D)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(3)第3例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(A)及び1本以上のフィラメント(C)からなる、又は、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(C)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(A)の重量:フィラメント(C)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(4)第4例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(A)及び1本以上のフィラメント(D)からなる、又は、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(D)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(A)の重量:フィラメント(D)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(5)第5例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(B)及び1本以上のフィラメント(C)からなる、又は、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(B)、1本以上のフィラメント(C)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(A)の重量:フィラメント(B)の重量は、例えば、1:5~5:1であり、フィラメント(A)の重量:フィラメント(C)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(6)第6例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(C)及び1本以上のフィラメント(D)からなる、又は、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(C)、1本以上のフィラメント(D)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(A)の重量:フィラメント(C)の重量は、例えば、1:5~5:1であり、フィラメント(A)の重量:フィラメント(D)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(7)第7例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(B)、1本以上のフィラメント(C)及び1本以上のフィラメント(D)からなる、又は、1本以上のフィラメント(A)、1本以上のフィラメント(B)、1本以上のフィラメント(C)、1本以上のフィラメント(D)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(A)の重量:フィラメント(B)の重量は、例えば、1:5~5:1であり、フィラメント(A)の重量:フィラメント(C)の重量は、例えば、1:5~5:1であり、フィラメント(A)の重量:フィラメント(D)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(8)第8例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(B)及び1本以上のフィラメント(C)からなる、又は、1本以上のフィラメント(B)、1本以上のフィラメント(C)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(B)の重量:フィラメント(C)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(9)第9例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(B)及び1本以上のフィラメント(D)からなる、又は、1本以上のフィラメント(B)、1本以上のフィラメント(D)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(B)の重量:フィラメント(D)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(10)第10例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(C)及び1本以上のフィラメント(D)からなる、又は、1本以上のフィラメント(C)、1本以上のフィラメント(D)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(C)の重量:フィラメント(D)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
(11)第11例のパイル糸
図5乃至図7に示すパイル糸7のフィラメント71が、1本以上のフィラメント(B)、1本以上のフィラメント(C)及び1本以上のフィラメント(D)からなる、又は、1本以上のフィラメント(B)、1本以上のフィラメント(C)、1本以上のフィラメント(D)及び1本以上の他のフィラメント(X)からなる。
この場合、1本のパイル糸7において、フィラメント(B)の重量:フィラメント(C)の重量は、例えば、1:5~5:1であり、フィラメント(B)の重量:フィラメント(D)の重量は、例えば、1:5~5:1である。
【0048】
<<生機の幾つかの例>>
上記染色能の観点から構成される第1例乃至第11例のパイル糸7のうち、少なくとも1つのパイル糸7を基布4にタフトすることにより、図3及び図4に示す生機6を作製する。
生機6は、上記第1例乃至第11例から選ばれる1つのパイル糸7を用いて形成されていてもよく、或いは、上記第1例乃至第11例から選ばれる2つ以上のパイル糸7を用いてもよい。好ましくは、生機6は、上記第1例及び第2例から選ばれる1つ又は2つのパイル糸7を用いて形成される。
このように、生機6は、パイル糸7の観点では、上記1つのパイル糸7から形成されているもの、或いは、上記2つ以上のパイル糸7から形成されている。なお、本発明の生機6は、上記パイル糸7を含んでいることを条件として、他のパイル糸(上記において説明した様々なパイル糸以外のパイル糸)を含んでいてもよい。
本発明においては、染色能の異なる様々なパイル糸7を用いて生機6を形成できる。
染色能の観点から、1種類の生機6を準備してもよく、或いは、2種類以上の生機6を準備してもよい。
染色能の観点から1種類の生機6を準備するとは、例えば、上記第1例のパイル糸7を基布4にタフトした生機6のみを準備する場合などが挙げられる。染色能の観点から2種類以上の生機6を準備するとは、例えば、上記第1例のパイル糸7を基布4にタフトした生機6と、上記第2例のパイル糸7を基布4にタフトした生機6と、上記第3例のパイル糸7を基布4にタフトした生機6と、を準備する場合などが挙げられる。
【0049】
また、上述のように、第1酸性可染原着フィラメント(A)やカチオン可染原着フィラメント(D)などの各原着フィラメントは、予め所望の色彩(原色)に着色されている。
この原色の観点から、1種類の生機6を準備してもよく、或いは、2種類以上の生機6を準備してもよい。
原色の観点から1種類の生機6を準備するとは、例えば、原色が青系色の第1酸性可染原着フィラメント(A)及び第2酸性可染原着フィラメント(B)を有する第1例のパイル糸7を基布4にタフトした生機6のみを準備する場合などが挙げられる。
【0050】
原色の観点から2種類以上の生機6を準備するとは、原色が青系色の第1酸性可染原着フィラメント(A)及び第2酸性可染原着フィラメント(B)を有する第1例のパイル糸7を基布4にタフトした生機6と;これと異なる原色(例えば、赤系色)の第1酸性可染原着フィラメント(A)及び第2酸性可染原着フィラメント(B)を有する第1例のパイル糸7を基布4にタフトした生機6と;これらと異なる原色(例えば、黄系色)の第1酸性可染原着フィラメント(A)及び第2酸性可染原着フィラメント(B)を有する第1例のパイル糸7を基布4にタフトした生機6と;を準備する場合などが挙げられる。これらの生機6は、染色前から、パイル糸7の色彩(原色)が異なっている。
これは、概念的には、白色以外の第1色に着色された第1酸性可染原着フィラメント(A)と、前記第1色と同系色に着色され且つ前記第1酸性可染原着フィラメント(A)よりも濃く染色可能な第2酸性可染原着フィラメント(B)と、を有するパイル糸が基布にタフトされた第1色生機と;白色以外の第2色に着色された第1酸性可染原着フィラメント(A)と、前記第2色と同系色に着色され且つ前記第1酸性可染原着フィラメント(A)よりも濃く染色可能な第2酸性可染原着フィラメント(B)と、を有するパイル糸が基布にタフトされた第2色生機と;を少なくとも準備することでもある。
加えて、必要に応じて、白色以外の第1色に着色されたカチオン可染原着フィラメント(D)と、前記第1色と同系色に着色された酸性可染原着フィラメントと、を有するパイル糸が基布にタフトされた第1色生機と;白色以外の第2色に着色されたカチオン可染原着フィラメントと、前記第2色と同系色に着色された酸性可染原着フィラメントと、を有するパイル糸が基布にタフトされた第2色生機と;を準備してもよい。
【0051】
このように原色の観点から2種類以上の生機6の具体例としては、例えば、次の各例の生機などを挙げることができる。
【0052】
(1)第1例の生機
上記第1例乃至第11例から選ばれる少なくとも1つのパイル糸であってその各原着フィラメントの原色が第1色(例えば、青系色)であるパイル糸を基布にタフトした生機。
(2)第2例の生機
上記第1例乃至第11例から選ばれる少なくとも1つのパイル糸であってその各原着フィラメントの原色が第2色(例えば、赤系色)であるパイル糸を基布にタフトした生機。
(3)第3例の生機
上記第1例乃至第11例から選ばれる少なくとも1つのパイル糸であってその各原着フィラメントの原色が第3色(例えば、黄系色)であるパイル糸を基布にタフトした生機。
(4)第4例の生機
上記第1例乃至第11例から選ばれる少なくとも1つのパイル糸であってその各原着フィラメントの原色が第4色(例えば、茶系色)であるパイル糸を基布にタフトした生機。
(5)第5例の生機
上記第1例乃至第11例から選ばれる少なくとも1つのパイル糸であってその各原着フィラメントの原色が第5色(例えば、灰系色)であるパイル糸を基布にタフトした生機。
【0053】
<染色工程>
染色工程は、前記生機のパイル糸を適切な染料によって連続染色又はバッチ染色する工程である。
生機の染色方法は、連続染色法及びバッチ染色法の何れでもよい。
連続染色は、染料や必要に応じて染色助剤が投入されている染色浴中に、長尺帯状の生機を浸漬し、染色、洗浄、乾燥などの工程を一貫して行う染色方法である。
バッチ染色は、縦横が所定の大きさの生機を輪状などにし、その生機を染料が満たされた染槽に浸漬させて回転させながら染色する方法である。バッチ染色としては、代表的には、ウィンス染色法が挙げられる。
短時間で染色を完了でき、生産性に優れていることから、連続染色法によって、パイル糸を染色することが好ましい。
連続染色法による染色は、例えば、下記のような手順で行うことができる。
長尺帯状の生機を長手方向に送り、その途中で、生機の表面に、染料を塗布する。
【0054】
パイル糸が、酸性可染原着フィラメントを含んでいる場合には、酸性染料が用いられる。パイル糸が、カチオン可染原着フィラメントを含んでいる場合には、カチオン染料が用いられる。パイル糸が、他のフィラメントのうち可染原着フィラメントを含んでいる場合には、その可染原着フィラメントを染色できる染料が用いられる。
なお、パイル糸が、酸性可染原着フィラメント及びカチオン可染原着フィラメントなどを含んでいる場合には、それらを染色できるように、カチオン染料及び酸性染料などが併用される。
【0055】
カチオン染料は、カチオン可染原着フィラメントを所望の色彩に染色できるものであれば、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
酸性染料は、酸性可染原着フィラメントを所望の色彩に染色できるものであれば、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。酸性染料は、従来公知のものを1種単独で又は2種以上用いることができるが、堅牢度に優れていることから、金属錯塩酸性染料を含む酸性染料を用いることが好ましい。金属錯塩酸性染料は、酸性染料に金属が錯塩化されている染料であり、従来公知のものを用いることができる。
金属錯塩酸性染料を含む酸性染料は、金属錯塩酸性染料のみから構成されていてもよく、金属錯塩酸性染料と金属錯塩酸性染料以外の酸性染料とから構成されていてもよい。金属錯塩酸性染料以外の酸性染料は、金属が錯塩化されていない酸性染料をいう。
【0056】
また、色彩の観点では、前記染料は、原着フィラメントの原色と異なる色彩に染める染料(以下、原着異色染料という場合がある)を用いてもよく、或いは、原着フィラメントの原色と同系色に染める染料(以下、原着同色染料という場合がある)を用いてもよく、或いは、原着異色染料と原着同色染料との混合染料を用いてよい。
【0057】
原着異色染料を用いる場合としては、例えば、原着フィラメントの原色が青系色である場合、フィラメントを赤系色に染める染料を用いると、両方の色彩が合わさって紫系色となる。また、原着フィラメントの原色が青系色である場合、フィラメントを黄系色に染める染料を用いると、緑系色となる。このように、従来にない独自の色彩のフィラメントを容易に得ることができる。
原着同色染料を用いる場合としては、例えば、原着フィラメントの原色が青系色である場合、フィラメントを青系色に染める染料を用いる。
原着異色染料と原着同色染料との混合染料を用いる場合としては、例えば、原着フィラメントの原色が青系色である場合、フィラメントを青系色に染める染料と赤系色に染める染料を用いる。
【0058】
例えば、原色が青系色の第1酸性可染原着フィラメント及び第2酸性可染原着フィラメントを、青系色に染める金属錯塩酸性染料で染色する。一般的に、金属錯塩酸性染料は、酸性染料の中で退色堅牢度に優れることが知られており、従って、上述のように酸性染料として金属錯塩酸性染料を用いることが好ましい。しかしながら、退色堅牢性に優れる金属錯塩酸性染料において、彩度の高い黄系色又は赤系色を発現する金属錯塩酸性染料は知られているが、彩度の高い青系色を発現する金属錯塩酸性染料は知られていないため、青系色の金属錯塩酸性染料で後染めしても鮮やかな青系色に染色できない。
この点、原色が青系色の第1酸性可染原着フィラメント及び第2酸性可染原着フィラメントを、青系色を発現する金属錯塩酸性染料で染色することにより、金属錯塩酸性染料単独では鮮やかな青系色とならないところ、原着フィラメントの原色(青系色)に金属錯塩酸性染料の青系色が付加されるので、彩度の高い青系色を表現でき且つ堅牢度の高いカーペットを構成できる。
【0059】
また、例えば、原色が青系色の第1酸性可染原着フィラメント及び第2酸性可染原着フィラメントを、青系色以外の色彩に染める酸性染料(好ましくは金属錯塩酸性染料)で染色する。この場合、原色の青系色と酸性染料の色彩が混じり、様々な色柄を表現でき且つ堅牢度の高いカーペットを構成できる。
【0060】
染料の塗布方法は、特に限定されず、例えば、吐出ノズルから生機の表面に染料を噴射する方法、染料が満たされた染槽中に生機を通す方法、などが挙げられる。
通常、生機を送るラインの途中に、生機の短手方向及び長手方向に所定間隔を開けて複数の吐出ノズルが設けられ、そのノズルから搬送中の生機の表面に染料を塗布する。
染料を塗布した後、生機を熱処理することにより、可染原着フィラメントに染料を定着させる。
熱処理は、例えば、温風、スチームなどにより行うことができる。
【0061】
所望の原色に着色されている可染原着フィラメントを有するパイル糸を染料で染色することにより、フィラメントの染着座席に染料が結合し、可染原着フィラメントに後色が付与される。
従って、可染原着フィラメントを適切な染料で染色することにより、原色と後色とが相俟った混色に染色される。
例えば、酸性可染原着フィラメントを含むパイル糸に酸性染料を適用することにより、酸性可染原着フィラメントが原色と後色(酸性染料の色彩)との混色に変化する。
例えば、カチオン可染原着フィラメントを含むパイル糸にカチオン染料を適用することにより、カチオン可染原着フィラメントが原色と後色(カチオン染料の色彩)との混色に変化する。
上述のように、第1乃至第3酸性可染原着フィラメント(A)、(B)及び(C)は、1つの酸性染料で異なる濃さに染色可能であるので、例えば、第1酸性可染原着フィラメント(A)は、第2酸性可染原着フィラメント(B)及び第3酸性可染原着フィラメント(D)に比して後色が薄くなる。
【0062】
<洗浄工程>
洗浄工程は、前記染色工程後に生機に付着した染料などを除去する工程である。
染色後の生機には、染料が残存している。この残存染料を除去するため、必要に応じて、洗浄することが好ましい。洗浄工程の洗浄液は、残存染料を除去できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、低濃度のアルコール水などが挙げられる。
洗浄液の温度は、通常、5℃~50℃程度である。
洗浄後の生機は、乾燥される。乾燥処理は、自然乾燥でもよいが、時間短縮のため、温風などを用いた強制的な乾燥が好ましい。
【0063】
<バッキング層の形成工程>
バッキング層の形成工程は、前記染色後の生機の裏面にバッキング層を形成する工程である。
バッキング層は、カーペットの接地層を構成するものであり、従来公知の方法で形成できる。
例えば、図2に示すような、接着層31と補強シート32と裏打ち層33とを有するバッキング層3は、接着層/補強シート/裏打ち層からなる積層体を作製し、その接着層を生機の裏面に接着させることによって形成できる。
【0064】
<裁断工程>
以上のようにして、長尺帯状のカーペットが得られる。かかる長尺帯状のカーペットは、保管・運搬に便利な長さに適宜裁断される。
また、タイルカーペットなどの枚葉状のカーペットを得ようとする場合には、前記長尺帯状のカーペットを、所定の平面視形状に裁断して、保管・運搬に供される。
【0065】
[本発明のカーペット]
本発明のカーペットは、上記製造方法によって得られる。
本発明の1つのカーペットは、非白色顔料を含む原着フィラメントであって酸性染料によって後染めされた第1酸性可染原着フィラメント及び第2酸性可染原着フィラメントを有する染色済みパイル糸を有する。
本発明の他のカーペットは、非白色顔料を含む原着フィラメントであって酸性染料によって後染めされた第1酸性可染原着フィラメント及び第2酸性可染原着フィラメントと、非白色顔料を含む原着フィラメントであってカチオン染料によって後染めされたカチオン可染原着フィラメントと、を有する染色済みパイル糸を有する。
【0066】
本発明のカーペットは、従来と同様に、床面に敷設して使用される。
カーペットを長期間使用していると退色或いは変色が生じ得るが、本発明のカーペットのパイル糸は原着フィラメントを有するので、堅牢度に優れている。
具体的には、原着フィラメントは、後染めの染料の一部が経時的に脱落などしても、原着フィラメントには着色顔料が含まれているので、前記着色顔料に起因する色彩(原色)は退色或いは変色し難い。かかる原着フィラメントを有するパイル糸は、染料の一部が経時的に脱落などしても、全体として見ると、退色或いは変色が目立たず、堅牢度に優れたパイル層を構成できる。特に、金属錯塩酸性染料は堅牢度に優れた染料であるので、これによって後染めされた原着フィラメントは、金属錯塩酸性染料が脱落などし難く、より堅牢度に優れている。
さらに、原着フィラメントの着色顔料に起因する色彩(原色)と同系色に染める染料を用いて後染めした場合には、経時的に退色或いは変色した状態が殆ど目立たなくなるカーペットが得られる。
また、原着フィラメントの着色顔料に起因する色彩(原色)と異なる色彩に染める染料を用いて後染めした場合には、様々な色柄の堅牢度に優れたカーペットが得られる。
【0067】
本発明は、後染めにてパイル糸を染色するので、カーペットの色柄の制限が小さく、比較的少ない種類の生機を準備し、それを後染めすることにより、色柄の異なる複数種のカーペットを製造できる。なお、色柄は、色彩の相違及び/又は色彩の濃淡の相違によって視覚的に認識できる模様をいう。
例えば、上述のように、原色の観点から2種類以上の生機を準備しておくことにより、これらの中から所望の色系統の生機を選択し、それを染料で後染めすることにより、色柄の異なる複数種のカーペットを製造できる。
【実施例
【0068】
以下、実施例を示し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1乃至6の使用材料]
(1)原着フィラメントセット(1)
東レ株式会社製のペール糸。繊度:1000dtex/54f。このペール糸は、54本のフィラメントを、撚りを掛けずに束ねたものである。なお、1本のフィラメントの太さは、約18.5dtex(1000÷54)である。この1本のフィラメントは、アミノ基を染着座席とするポリアミド系樹脂と、青系色の着色顔料(顔料濃度:0.05重量%)と、を含み、タフト前から青系色に着色されているものである。
(2)原着フィラメントセット(2)
東レ株式会社製のディープ糸。繊度:1000dtex/54f。このディープ糸は、54本のフィラメントを、撚りを掛けずに束ねたものである。なお、1本のフィラメントの太さは、約18.5dtex(1000÷54)である。この1本のフィラメントは、アミノ基を染着座席とするポリアミド系樹脂と、青系色の着色顔料(顔料濃度:0.2重量%)と、を含み、タフト前から青系色に着色されているものである。ただし、このディープ糸は、上記原着フィラメントセット(1)のペール糸よりも顔料濃度が高いので、濃色である。また、ディープ糸は、ペール糸よりも染着座席が多く、同一染料で染色したときにペール糸よりも濃く染色できるものである。
【0070】
(3)酸性染料
黄色酸性染料と赤色酸性染料と第1の青色酸性染料と第2の青色酸性染料の混合染料。
黄色酸性染料は、HUNTSMAN社製の商品名「LANASET Yellow PA」を用いた。この黄系色酸性染料は、金属錯塩酸性染料である。
赤色酸性染料は、DyStar社製の商品名「Isolan Red NHF-S」を用いた。この赤色酸性染料は、金属錯塩酸性染料である。
第1の青色酸性染料は、DyStar社製の商品名「Isolan Blue NHF-S」を用いた。この第1の青色酸性染料は、金属錯塩酸性染料である。
第2の青色酸性染料は、HUNTSMAN社製の商品名「LANASET Blue PA-2R」を用いた。この第2の青色酸性染料は、金属錯塩酸性染料でない、非金属系の酸性染料である。
【0071】
[実施例1]
上記(3)酸性染料に記載の各染料を、黄色酸性染料:赤色酸性染料:第1の青色酸性染料:第2の青色酸性染料(重量比)=0:1.2:2:1で混合することによって実施例1の酸性染料を準備した。この実施例1の酸性染料は、酸性染料で染色可能な一般的な後染め糸(白色のフィラメント)を青系色に染色することができるものである。
上記原着フィラメントセット(1)の1組と原着フィラメントセット(2)の1組とを、撚りを掛けることなく収束させつつ高圧空気を吹き付けることにより、1m当たり約42箇所を交絡させることにより、総繊度が2000dtex/108fの1本のパイル糸を作製した。
前記パイル糸を、長手方向長さ×短手方向長さ=0.9m×0.2mの基布(ポリエステル不織布)に、タフトすることによって、生機を作製した。
タフト条件は、1/10Gレベルループ×ST13.2で、パイル高さを3.5mmとした。
得られた生機を、東リ株式会社内で使用しているスチーミングドラムに充填し、実施例1の酸性染料にて生機のパイル糸を染色し、洗浄し、乾燥することによって、カーペットを作製した。
【0072】
[実施例2]
上記(3)酸性染料に記載の各染料を、黄色酸性染料:赤色酸性染料:第1の青色酸性染料:第2の青色酸性染料(重量比)=0:4:1:2で混合することによって実施例2の酸性染料を準備した。この実施例2の酸性染料は、酸性染料で染色可能な一般的な後染め糸(白色のフィラメント)を青系色に染色することができるものである。
実施例1の酸性染料に代えて、実施例2の酸性染料を用いてパイル糸の染色を行った以外は、実施例1と同様にして、カーペットを作製した。
【0073】
[実施例3]
上記(3)酸性染料に記載の各染料を、黄色酸性染料:赤色酸性染料:第1の青色酸性染料:第2の青色酸性染料(重量比)=1:6:6:5で混合することによって実施例3の酸性染料を準備した。この実施例3の酸性染料は、酸性染料で染色可能な一般的な後染め糸(白色のフィラメント)を青系色に染色することができるものである。
実施例1の酸性染料に代えて、実施例3の酸性染料を用いてパイル糸の染色を行った以外は、実施例1と同様にして、カーペットを作製した。
【0074】
[比較例1乃至3の使用材料]
(X)パイル糸(X)
東レ株式会社製の品番「P207」。この品番「P207」は、80本のレギュラー糸と80本のカチオン糸からなる合計160本のフィラメントを、撚りを掛けることなく収束させつつ高圧空気を吹き付けることにより、1m当たり約42箇所を交絡させることにより、総繊度が2890dtex/160fの1本のパイル糸が作製されている。なお、1本のフィラメントの太さは、約18.1dtex(2890÷160)である。このレギュラー糸のフィラメントは、アミノ基を染着座席とするポリアミド系樹脂と、白色顔料と、を含み、タフト前から白色を呈するものである。カチオン糸のフィラメントは、酸性基を染着座席とするポリアミド系樹脂と、白色顔料と、を含み、タフト前から白色を呈するものである。
【0075】
(Y)パイル糸(Y)
次の黒原着糸(Y-1)の1組とディープ糸(Y-2)の1組とカチオン糸(Y-3)の1組を、撚りを掛けることなく収束させつつ高圧空気を吹き付けることにより、1m当たり約42箇所を交絡させることにより、総繊度が2620dtex/142fの1本のパイル糸(Y)を作製した。
(Y-1)暁星ジャパン株式会社製の黒原着糸。繊度:720dtex/42f。この黒原着糸は、42本のフィラメントを、撚りを掛けずに束ねたものである。なお、1本のフィラメントの太さは、約17.1dtex(720÷42)である。この黒原着糸は、アミノ基を染着座席とするポリアミド系樹脂と、黒系色の着色顔料と、を含み、タフト前から黒系色に着色されているものである。
(Y-2)暁星ジャパン株式会社製のディープ糸。繊度:950dtex/50f。このディープ糸は、50本のフィラメントを、撚りを掛けずに束ねたものである。なお、1本のフィラメントの太さは、約19dtex(950÷50)である。ディープ糸のフィラメントは、アミノ基を染着座席とするポリアミド系樹脂と、白色顔料と、を含み、タフト前から白色を呈するものである。
(Y-3)暁星ジャパン株式会社製のカチオン糸。繊度:950dtex/50f。カチオン糸は、50本のフィラメントを、撚りを掛けずに束ねたものである。なお、1本のフィラメントの太さは、約19dtex(950÷50)である。カチオン糸のフィラメントは、酸性基を染着座席とするポリアミド系樹脂と、白色顔料と、を含み、タフト前から白色を呈するものである。
【0076】
(Z)混合染料
黄色酸性染料と赤色酸性染料と青色酸性染料と黄色カチオン染料と赤色カチオン染料と青色カチオン染料との混合染料。
黄色酸性染料は、ARCHROMA社製の商品名「Nylosan Yellow E-2RL sgr」を用いた。この黄色酸性染料は、金属錯塩酸性染料でない、非金属系の酸性染料である。
赤色酸性染料は、DyStar社製の商品名「Telon Red FRL micron」を用いた。この赤色酸性染料は、金属錯塩酸性染料でない、非金属系の酸性染料である。
青色酸性染料は、HUNTSMAN社製の商品名「TECTILON Blue 4R-01 200%」を用いた。この青色酸性染料は、金属錯塩酸性染料でない、非金属系の酸性染料である。
黄色カチオン染料は、DyStar社製の商品名「Astrazon Yellow 8GSL 200%」を用いた。
赤色カチオン染料は、DyStar社製の商品名「Astrazon Red BBL micron 200%」を用いた。
青色カチオン染料は、DyStar社製の商品名「Astrazon Blue 3RL micron 200%」を用いた。
【0077】
[比較例1]
上記(Z)混合染料に記載の各染料を、黄色酸性染料:赤色酸性染料:青色酸性染料:黄色カチオン染料:赤色カチオン染料:青色カチオン染料(重量比)=31:51:269:10:1:70で混合することによって比較例1の混合染料を準備した。この比較例1の混合染料は、比較例1で得られるカーペットが実施例1のカーペットと同系色になるように考慮して、各染料の混合割合を設定したものである。
上記パイル糸(X)を、長手方向長さ×短手方向長さ=10m×4mの長尺帯状の基布(ポリエステル不織布)に、タフトすることによって、生機を作製した。
タフト条件は、1/10Gレベルループ×ST13.2で、パイル高さを3.5mmとした。
得られた生機を、東リ株式会社内で使用しているスチーミングドラムに充填し、比較例1の混合染料にて生機のパイル糸を染色し、洗浄し、乾燥することによって、比較例1のカーペットを作製した。
【0078】
[比較例2]
上記(Z)の混合染料に記載の各染料を、黄色酸性染料:赤色酸性染料:青色酸性染料:黄色カチオン染料:赤色カチオン染料:青色カチオン染料(重量比)=5:15:40:2:1:10で混合することによって比較例2の混合染料を準備した。この比較例2の混合染料は、比較例2で得られるカーペットが実施例2のカーペットと同系色になるように考慮して、各染料の混合割合を設定したものである。
比較例1の混合染料に代えて、比較例2の混合染料を用いてパイル糸の染色を行った以外は、比較例1と同様にして、カーペットを作製した。
【0079】
[比較例3]
上記(Z)の混合染料に記載の各染料を、黄色酸性染料:赤色酸性染料:青色酸性染料:黄色カチオン染料:赤色カチオン染料:青色カチオン染料(重量比)=7:15:40:1.5:1:8で混合することによって比較例3の混合染料を準備した。この比較例3の混合染料は、比較例3で得られるカーペットが実施例3のカーペットと同系色になるように考慮して、各染料の混合割合を設定したものである。
パイル(X)に代えてパイル(Y)を用いて生機を作製したこと、及び、比較例1の混合染料に代えて比較例3の混合染料を用いてパイル糸の染色を行った以外は、比較例1と同様にして、カーペットを作製した。
【0080】
[外観観察]
実施例1乃至3及び比較例1乃至3のカーペットのパイル糸を、それぞれ目視で外観観察した。外観観察は、各カーペットを白色蛍光灯の室内の机上に並べ、カーペットの表面から約30cm程度離れて目視で全体的に観察した。その結果、各カーペットは、いずれも青系色(同系色)に見えた。
次に、各カーペットの表面をそれぞれを個別に凝視していくと、微妙に色彩が異なっている青色に見えた。さらに、実施例1乃至3の各カーペットを比較すると、実施例3は、実施例1及び実施例2に比べて、濃い青色であった。実施例1と実施例2は、同レベルの濃さの青色であったが、実施例2は、実施例1よりも赤みの強い青色であった。これらは、各染料の配合割合の違いに起因するものと推定される。
比較例1は、実施例1と同様の青色であり、比較例2は、実施例2と同様の青色であり、比較例3は、実施例3と同様の青色であった。
【0081】
[耐光堅牢度試験]
実施例1乃至3及び比較例1乃至3について、それぞれのカーペットの任意の箇所を裁断して、縦×横=40mm×120mmのサンプル片を作製した。
このサンプル片の40mm×25mmの部分の表面にそれぞれ、63℃、1気圧下で、照度42mW/cmの紫外線(波長:300~400nm)を1.5時間照射した後、測色計を用いて、サンプル片のUV照射中央部付近におけるパイル糸の表面の任意の3箇所のΔEを測定し、その平均値を算出した。同様にして、紫外線を2.5時間照射した後のΔEも測定した。さらに、JISの変退色用グレースケール(JIS L 0804:2004)を用いて等級評価を行った。その結果を表1に示す。
ΔEは、JIS Z8729に従ったL*a*b*表色系(L*:明度、a*b*:色度)による、露光前と露光後のサンプル片の色差(ΔE)であり、ΔE={(L-L0)+(a-a0)+(b-b0)1/2で求められる。
紫外線の光源:岩崎電気株式会社製の「アイスーパー UVテスター SUV-F1」。
測色計:コニカミノルタ株式会社製の品番「CR-200」。
【0082】
[NOxガス堅牢度試験]
実施例1乃至3及び比較例1乃至3について、それぞれカーペットの任意の箇所を裁断して、縦×横=40mm×70mmのサンプル片を作製した。
この各サンプル片をそれぞれ、23℃、1気圧下で、NOxガスを流量200ml/minで流入している容器に1.5時間静置した後、測色計を用いて、サンプル片の中央付近の表面のΔEを測定した。この容器内には、ファンが設置されており、容器内のエアーを排気口から排気しながら試験を行なった。同様にして、NOxガスを充填した空間に3.0時間静置した後のΔEも測定した。その結果を表1に示す。
ΔEは、JIS Z8729に従ったL*a*b*表色系(L*:明度、a*b*:色度)による、NOxガス中に静置前と静置後のサンプル片の色差(ΔE)であり、ΔE={(L-L0)+(a-a0)+(b-b0)1/2で求められる。
NOxガス堅牢度試験機:自作品。
NOxガス:住友精化株式会社製の「A5V1M12」。
測色計:コニカミノルタ株式会社製の品番「CR-200」。
【0083】
【表1】
【0084】
[実施例4]
上記(3)酸性染料に記載の各染料を、黄色酸性染料:赤色酸性染料:第1の青色酸性染料:第2の青色酸性染料(重量比)=0:5:1:0で混合することによって実施例4の酸性染料を準備した。この実施例4の酸性染料は、酸性染料で染色可能な一般的な後染め糸(白色のフィラメント)を赤系色に染色することができるものである。
実施例1の酸性染料に代えて、実施例4の酸性染料を用いてパイル糸の染色を行った以外は、実施例1と同様にして、カーペットを作製した。
実施例4のカーペットのパイルを上記[外観観察]と同様な手法で目視にて観察したところ、原着フィラメントの原色である青系色と、染料の赤系色とが合わさって、紫系色となっていた。
【0085】
[実施例5]
上記(3)酸性染料に記載の各染料を、黄色酸性染料:赤色酸性染料:第1の青色酸性染料:第2の青色酸性染料(重量比)=1:0:10:0で混合することによって実施例5の酸性染料を準備した。この実施例5の酸性染料は、酸性染料で染色可能な一般的な後染め糸(白色の原着フィラメント)を黄系色に染色することができるものである。
実施例1の酸性染料に代えて、実施例5の酸性染料を用いてパイル糸の染色を行った以外は、実施例1と同様にして、カーペットを作製した。
実施例5のカーペットのパイルを上記[外観観察]と同様な手法で目視にて観察したところ、原着フィラメントの原色である青系色と染料の黄系色とが合わさって、緑系色となっていた。
【0086】
[実施例6]
上記(3)酸性染料に記載の各染料を、黄色酸性染料:赤色酸性染料:第1の青色酸性染料:第2の青色酸性染料(重量比)=1:1:21:20で混合することによって実施例6の酸性染料を準備した。この実施例6の酸性染料は、酸性染料で染色可能な一般的な後染め糸(白色のフィラメント)を青系色に染色することができるものである。
実施例1の酸性染料に代えて、実施例6の酸性染料を用いてパイル糸の染色を行った以外は、実施例1と同様にして、カーペットを作製した。
【0087】
[比較例4]
(Z)パイル糸(Z)
次のレギュラー糸(Z-1)の2組を、撚りを掛けることなく収束させつつ高圧空気を吹き付けることにより、1m当たり約42箇所を交絡させることにより、総繊度が2180tex/108fの1本のパイル糸(Z)を作製した。
(Z-1)東レ株式会社製のレギュラー糸。繊度:1090dtex/54f。このレギュラー糸は、54本のフィラメントを、撚りを掛けずに束ねたものである、なお、1本のフィラメントの太さは、約20.2dtex(1090÷54)である。このレギュラー糸のフィラメントは、アミノ基を染着座席とするポリアミド系樹脂と、白色顔料と、を含み、タフト前から白色を呈するものである。
上記パイル糸(Z)を、長手方向長さ×短手方向長さ=10m×4mの長尺帯状の基布(ポリエステル不織布)に、タフトすることによって、生機を作製した。タフト条件は、1/10Gレベルループ×ST13.2で、パイル高さを3.5mmとした。
この生機のパイル糸を実施例6の酸性染料を用いて同様に染色し、洗浄し、乾燥することによって、比較例4のカーペットを作製した。
【0088】
[彩度測定及び外観観察]
実施例6について、染料で染色する前に、生機(染色前の生機)のパイル糸の表面の任意の3箇所の彩度(c*)を測定し、その平均値を算出した。同様にして、実施例6のカーペット(染色後の生機)のパイル糸の彩度(c*)を測定した。同様にして、比較例4のカーペット(染色後の生機)のパイル糸の彩度(c*)を測定した。
具体的には、実施例6の生機及びカーペット、比較例4のカーペットのそれぞれの表面について、測色計を用いて、任意の箇所の彩度を測定した。彩度は、JIS Z8729に従ったL*a*b*表色系(L*:明度、a*b*:色度)による、{(a×a)+(b×b)1/2で求められる。
測色計:コニカミノルタ株式会社製の品番「CR-200」。
その結果、実施例6の生機(染色前)の彩度の値は、46で、実施例6のカーペット(染色後)の彩度の値は、22で、比較例4のカーペットの彩度の値は、20であった。従って、青色系の原着フィラメントを染色した後の当該原着フィメントの彩度(実施例6のカーペットの彩度)は、白色の原着フィラメントを染色した後の原着フィラメントの彩度(比較例4の彩度)よりも高いことが判る。
【0089】
【表2】
【0090】
実施例6の生機及びカーペットと比較例4のカーペットのパイル糸を、上記[外観観察]と同様な手法で目視にて観察した。実施例6の生機及びカーペット並びに比較例4のカーペットは、いずれも青系色であったが、比較例4のカーペットは、実施例6のカーペットに比して、彩度が低く、くすんだ青系色に見えた。
実施例6及び比較例4で用いた染料は、金属錯塩酸性染料を含んでいて堅牢度に優れ、本来的にフィラメントを高い彩度に染色できない染料であるが、実施例6のカーペットは、比較的高い彩度になった。このため、金属錯塩酸性染料を含む青色系の染料で染色した後の彩度が白色の原着フィラメントを前記染料で染色した後の彩度よりも高くなる、原色が青色系の原着フィラメント(例えば、実施例6の原着フィラメント)を用いることにより、彩度が比較的高く且つ堅牢度に優れるカーペットを得ることができる。また、原着フィラメントは顔料由来の予め決まった色彩を有するが、生機を作成後に後染めで染色することによって、高彩度及び高堅牢度を維持しつつ、同じ青系色の中で微妙に色彩を異ならせたり、全く異なる色彩にすることも可能となる。
【符号の説明】
【0091】
1 カーペット
2 パイル層
3 バッキング層
4 基布
5 染色済みパイル糸
6 生機
7 染色前のパイル糸
71 フィラメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7