(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】免震構造体用ゴム組成物および免震構造体
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240129BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240129BHJP
C08L 61/06 20060101ALI20240129BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/36
C08L61/06
F16F15/04 P
(21)【出願番号】P 2019195204
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪井 哲也
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-116972(JP,A)
【文献】特開2009-235336(JP,A)
【文献】特開2002-179840(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142501(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,F16F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対し、シリカ
(ただし、「BET法による窒素吸着比表面積50~300m
2
/gのシリカが第一の被覆材料と第二の被覆材料で順次被覆された樹脂被覆シリカであって、前記第一の被覆材料はフェノール類を含み、前記第二の被覆材料は(A)ノボラック型フェノール樹脂と硬化剤、及び(B)レゾール型フェノール樹脂の少なくとも一方を含むことを特徴とする樹脂被覆シリカ」を除く)を50~90質量部およびフェノール樹脂を1~30質量部含有し、かつ前記シリカの含有量に対する有機シランの含有量が2質量%未満である免震構造体用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の免震構造体用ゴム組成物を加硫成形してなるゴム層と、鋼板からなる硬質層とを交互に積層した免震構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造体用ゴム組成物および免震構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の基礎免震、橋梁や高架道路などの構造物の支承には、加硫ゴムからなるゴム層と鋼板からなる硬質層とを交互に積層した免震構造体が用いられている。この免震構造体は、上下方向には高い剛性、せん断方向には低い剛性を有する弾性構造体であり、地震の振動数に対して建築物の固有振動数を低減することにより、振動の入力加速度を減少し、建築物あるいはその中の人、設備などに対する被害を最小限にするものである。
【0003】
免震構造体の使用環境は多岐に渡るため、高減衰性を発揮しつつ、その温度依存性を維持することは重要である。下記特許文献1には、主鎖にC-C結合を有する基材ゴム100重量部に対してシリカを30~200重量部添加し、そのシリカに対して以下の式に示すシラン化合物を5~50重量%配合し混練したシリカ配合高減衰ゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が鋭意検討したところ、前記特許文献1に記載のシリカ配合高減衰ゴム組成物の加硫ゴムでは、特に減衰性の温度依存性の点で改良の余地があることが判明した。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて開発されたものであり、高減衰性を発揮しつつ、その温度依存性を維持することが可能な免震構造体の原料となる免震構造体用ゴム組成物、および該免震構造体用ゴム組成物を原料として製造される免震構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴム成分100質量部に対し、シリカを50~90質量部およびフェノール樹脂を1~30質量部含有し、かつ前記シリカの含有量に対する有機シランの含有量が2質量%未満である免震構造体用ゴム組成物に関する。かかる免震構造体用ゴム組成物は、高減衰性を発揮しつつ、その温度依存性を維持することが可能な免震構造体の原料となり得る。本発明において、かかる効果を奏する理由は、例えば以下の如く推定可能である。
(1)ゴム成分100質量部に対し、シリカを50~90質量部配合することにより、免震構造体としたとき、シリカ凝集構造の変化による高減衰性を発現し得る。
(2)シリカの配合量を高めることに伴い、免震構造体用ゴム組成物の加工性悪化が懸念されるが、シランカップリング剤として作用する有機シランを多量に配合すると、シリカの高分散化に伴うエネルギーロスの抑制により、減衰性の悪化が懸念される。
(3)フェノール樹脂を多量に配合すると高減衰性を発現し得るが、ガラス転移点の関係よりシリカに比べて温度の影響を受け易く、温度依存性の悪化が懸念される。
(4)本発明に係る免震構造体用ゴム組成物では、シリカの配合量を50~90質量部に設定し、かつフェノール樹脂および有機シランの含有量を特定の範囲量とする、特にシリカの含有量に対する有機シランの含有量を2質量%未満に設定しつつ、樹脂の中でもフェノール樹脂を選択し、その配合量をゴム成分100質量部に対し、1~30質量部に設定する。
【0008】
上記(1)~(4)により、本発明に係る免震構造体用ゴム組成物を原料として製造される免震構造体は、高減衰性を発揮しつつ、その温度依存性を維持することが可能となる。
【0009】
本発明に係る免震構造体は、前記いずれかに記載の免震構造体用ゴム組成物を加硫成形してなるゴム層と、鋼板からなる硬質層とを交互に積層した免震構造体である。かかる免震構造体は、高減衰性を発現しつつ、ゴム層の各部位で減衰性がより安定的に均一化されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】減衰性能(heq)測定の際に得られる履歴ループを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、ゴム成分、シリカおよびフェノール樹脂を含有する。さらに本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、有機シランを含有しても良いが、その配合量には制限がある。この点については後述する。
【0012】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、ゴム成分として、例えばジエン系ゴムを含有することが好ましい。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、およびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。上記ジエン系ゴムの中でも、天然ゴムおよびイソプレンゴムの少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0013】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、シリカを50~90質量部含有する。シリカは、通常のゴム補強に用いられる湿式シリカ、乾式シリカ、ゾル-ゲルシリカ、表面処理シリカなどが用いられる。なかでも、湿式シリカが好ましい。また、これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。免震構造体用ゴム組成物中のシリカの配合量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、高減衰性を維持するため、シリカ配合量はゴム成分100質量部に対し、60質量部以上であることが好ましい。一方、免震構造体用ゴム組成物の加工性の悪化を抑制するため、シリカ配合量はゴム成分100質量部に対し、80質量部以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明においては、免震構造体用ゴム組成物中にフェノール樹脂を配合することにより、加工性を改良しつつ、免震構造体の減衰性を向上しつつ、その温度依存性を維持することができる。免震構造体用ゴム組成物中のフェノール樹脂の配合量は、ゴム成分100質量部に対し、1~30質量部であり、5~20質量部であることが好ましい。
【0015】
本発明においては、免震構造体用ゴム組成物中でのシリカの分散性向上のため、有機シランを配合しても良い。有機シランはシランカップリング剤とも言われ、シリカと併用することにより、免震構造体用ゴム組成物の加工性を向上し得るが、一方で免震構造体の減衰性を悪化し得る。このため、免震構造体用ゴム組成物中の有機シランの配合量は、シリカの含有量に対する有機シランの含有量を2質量%未満とする。ただし、免震構造体の高減衰性を発揮しつつ、その温度依存性を維持するために、免震構造体用ゴム組成物中での有機シランの配合量はできるだけ少ないことが好ましい。具体的には、シリカの含有量に対し、有機シランの含有量が1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%未満であることがより好ましく、0.1質量%未満であることがさらに好ましく、免震構造体用ゴム組成物中に有機シランを含有しないことが特に好ましい。
【0016】
本発明においては、有機シランとして当業者に公知のシランカップリング剤を使用することが可能であり、例えばビス-(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドなどのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系などのシランカップリング剤を使用することができる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0017】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、上記ゴム成分、シリカ、フェノール樹脂、および最小限の有機シランと共に、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラック、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0018】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどが用いられる。カーボンブラックは、加硫後のゴムの硬度、補強性、低発熱性などのゴム特性を調整し得る範囲で使用することができる。
【0019】
硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0020】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0021】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0022】
本発明に係る免震構造体用ゴム組成物は、上記ゴム成分、シリカ、フェノール樹脂、および最小限の有機シランと共に、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラック、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0023】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0024】
本発明に係る免震構造体は、ロールやローラヘッド付押出機などを用いて、混練りすることにより得られた未加硫の免震構造体用ゴム組成物をシート状に成形し、ついで円板状に打ち抜いた後、鋼板(硬質層)と未加硫のシート状のゴム層(免震構造体用ゴム組成物)とを交互に積層し、必要に応じて加圧しつつ、所定の温度で加硫成形することにより製造することができる。
【0025】
なお、硬質層とゴム層とを積層する前に、加硫接着剤を塗工することが好ましい。加硫接着剤は、鋼板とゴムとの接着性に優れたものを適宜選択すれば良い。
【0026】
本発明に係る免震構造体は、減衰性に優れ、かつその温度依存性に優れる。このため、使用環境を問わず、様々な分野で好適に使用可能である。
【実施例】
【0027】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0028】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100質量部に対して、表1の配合処方に従い、実施例1~5、比較例1~5のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す。
【0029】
(a)ゴム成分(IR)(商品名「IR2200L」、日本ゼオン社製)
(b)シリカ(商品名「Nipsil AQ」、東ソー・シリカ社製)
(c)有機シラン(シランカップリング剤)(商品名「Si69」、エボニックデグサ社製)
(d)カーボンブラック(商品名「シースト9」、東海カーボン社製)
(e)フェノール樹脂(商品名「スミライトレジンPR-12686」、住友ベークライト社製)
(f)ロジン樹脂(商品名「ハリエスターS」、ハリマ化成社製)
(g)オイル(商品名「プロセスX-140」、JX日鉱日石エネルギー社製)
(h)酸化亜鉛(商品名「亜鉛華3号」、三井金属鉱業社製)
(i)脂肪酸(商品名「工業用ステアリン酸」、花王社製)
(j)老化防止剤(商品名「ノクラック6C」、大内振興化学社製)
(k)硫黄(粉末硫黄)(商品名「5%オイル処理硫黄」、細井化学工業社製)
(l)加硫促進剤(商品名「ノクセラーNS-P」、大内新興化学工業社製)
(m)リターダー(N-シクロヘキシルチオフタルイミド)(商品名「リターダーCTP」、大内新興化学工業社製)
【0030】
(加工性評価(ムーニー粘度))
JIS-K 6300-1に基づき、配合後の未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4(100℃))を測定した。さらに、混練後の未加硫ゴム組成物の纏まり性で加工性を評価した。「〇」は纏まり性良好で加工性に優れる、「△」は纏まり性がやや劣るため加工性にもやや劣る、「×」は纏まり性が悪く、加工性も悪い、ことをそれぞれ意味する。結果を表1に示す。
【0031】
(加硫ゴムの減衰性および減衰性の温度依存性)
ゴムシートから25mm×25mmの形状に成形したゴムシートを作製し、これを25mm×120mm×厚さ3mmの、接着剤を塗布した2枚の鉄板で、断面クランク状となるように挟み、これを加硫接着させて試験片とした。これを1軸せん断試験機に設置し、せん断変形を生じさせる繰り返し載荷を試料厚みに対して±200%の条件で4回行い、引き続き±150%の条件で4回行い、150%条件の3波目の履歴特性を測定した。測定は20℃で行った。
履歴特性の測定により得られた履歴ループを
図1に示す。この履歴ループは下記水平特性値を規定している。
W(N・mm):ひずみエネルギー(
図1の斜線部で示される1つの三角形の面積。)
ΔW(N・mm):吸収エネルギーの合計(
図1の履歴ループで囲まれた面積。)
Keq(N/mm):等価剛性(変位最大点における履歴ループの傾き。)
前記水平特性値から、減衰性能を示すHeqは下記式(1)で計算される数値であり、この数値が大きいほど、減衰性能が高い。
Heq=(1/4π)・(ΔW/W) (1)
得られた履歴ループから、
図1に示すような水平特性値ΔW、Wが得られ、それをもとに数式(1)により高減衰ゴムの等価粘性減衰定数(Heq)を求めた。
また、減衰性の温度依存性に関しては、-10℃にて1時間以上状態調整したのち測定を行った。前記の20℃でのHeqの値(Heq
20℃)を1とした場合の、-10℃でのHeqの値(Heq
-10℃)との比である(Heq
-10℃)/(Heq
20℃)を、等価粘性減衰定数の温度依存性の指標として表した。(Heq
-10℃)/(Heq
20℃)が1に近いほど、加硫ゴムの減衰性の温度依存性に優れることを意味する。
【0032】
減衰性については、実施例2~5および比較例1~5の結果に関し、実施例1の測定結果を100として指数評価を行い、実施例1と比較して変化が5%以内である場合は「〇」、変化が5~10%である場合は「△」、変化が10%である場合を「×」で示す。実施例1と比較して、変化が小さいほど減衰性に優れることを意味する。また、減衰性の温度依存性についても、実施例2~5および比較例1~4の結果に関し、実施例1の測定結果を100として指数評価を行い、実施例1と比較して変化が5%以内である場合は「〇」、変化が5~10%である場合は「△」、変化が10%である場合を「×」で示す。実施例1と比較して、変化が小さいほど減衰性に優れることを意味する。結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
表1の結果から、実施例1~5に係るゴム組成物は加工性に優れ、かつその加硫ゴムは減衰特性およびその温度依存性に優れることがわかる。