(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】真空排気装置及びこれに用いられる真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20240129BHJP
F04B 49/06 20060101ALI20240129BHJP
F04B 49/22 20060101ALI20240129BHJP
F04D 27/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04B49/06 341J
F04B49/22
F04D27/00 101B
F04D27/00 101M
F04D27/00 101E
(21)【出願番号】P 2019221310
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019220773
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107881
【氏名又は名称】松田 聡
(72)【発明者】
【氏名】大立 好伸
(72)【発明者】
【氏名】前島 靖
(72)【発明者】
【氏名】高阿田 勉
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204448(JP,A)
【文献】特開2019-070924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04B 49/06
F04B 49/22
F04D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転することによって被排気室の内部を排気するロータと、吸気口を有するケーシングとを備えた真空ポンプと、
前記真空ポンプの前記吸気口と前記被排気室の排気口の間に配置されたバルブと、
前記被排気室の内部の圧力を目標値と一致するように制御する制御装置とを備えた真空排気装置であって、
前記制御装置は、
前記目標値と前記圧力の差の絶対値
が所定値より大きいときには、前記ロータの回転速度が一定となるように
制御するとともに前記バルブの開度を調整し、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、前記バルブの開度が一定となるように制御する
とともに前記ロータの回転速度を調整することにより、前記圧力を制御することを特徴とする真空排気装置。
【請求項2】
回転することによって被排気室の内部を排気するロータと、吸気口を有するケーシングとを備えた真空ポンプと、
前記真空ポンプの前記吸気口と前記被排気室の排気口の間に配置されたバルブと、
前記被排気室の内部の圧力を目標値と一致するように制御する制御装置とを備えた真空排気装置であって、
前記制御装置は、
前記目標値と前記圧力の差の絶対値
が所定値より大きいときには、下記式(1)で表される伝達関数G
Vのゲインを大きくし
て前記バルブの開度を調整し、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、下記式(2)で表される伝達関数G
Mのゲインを大きく
して前記ロータの回転速度を調整することにより、前記圧力を制御することを特徴とす
る真空排気装置。
G
V=O
V/δ
P ・・・(1)
G
M=Ω
M/δ
P ・・・(2)
ただし、上記式(1)において、O
Vは、前記バルブの開度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(2)において、Ω
Mは、前記ロータの回転速度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(1)および(2)において、δ
Pは、前記差の初期値を0としたラプラス変換である。
【請求項3】
前記制御装置は、前記差の絶対値が前記所定値より大きいときには、前記伝達関数G
Mのゲインを小さくし、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、前記伝達関数G
Vのゲインを小さくすることを特徴とする請求項
2に記載の真空排気装置。
【請求項4】
前記真空ポンプは前記ロータを浮上支持する磁気軸受を備え、
前記制御装置は、前記圧力が前記目標値と一致するときに、前記ロータの回転速度が前記ロータの変位の固有振動数に一致する場合、もしくは該回転速度と該固有振動数の差の絶対値が所定値以下である場合には、前記バルブの開度を変更し、再度、前記圧力が前記目標値と一致するように、前記ロータの回転速度を制御することを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の真空排気装置。
【請求項5】
前記所定値は、前記ロータの回転中に、前記バルブの開度、前記被排気室の内部に導入され前記真空ポンプによって排気されるガスの種類および量のいずれか少なくとも一つに応じて、変更されることを特徴とする請求項1
または2に記載の真空排気装置。
【請求項6】
バルブと、
被排気室の内部の圧力を目標値と一致するように制御する制御装置とを備えた真空排気装置に用いられる真空ポンプであって、
回転することによって前記被排気室の内部を排気するロータと、前記バルブを前記被排気室の排気口との間に配置させる吸気口を有するケーシングとを備え、
前記制御装置は、
前記目標値と前記圧力の差の絶対値
が所定値より大きいときには、前記ロータの回転速度が一定となるように
制御するとともに前記バルブの開度を調整し、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、前記バルブの開度が一定となるように制御する
とともに前記ロータの回転速度を調整することにより、前記圧力を制御することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項7】
バルブと、
被排気室の内部の圧力を目標値と一致するように制御する制御装置とを備えた真空排気装置に用いられる真空ポンプであって、
回転することによって前記被排気室の内部を排気するロータと、前記バルブを前記被排気室の排気口との間に配置させる吸気口を有するケーシングとを備え、
前記制御装置は、
前記目標値と前記圧力の差の絶対値
が所定値より大きいときには、下記式(1)で表される伝達関数G
Vのゲインを大きくし
て前記バルブの開度を調整し、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、下記式(2)で表される伝達関数G
Mのゲインを大きく
して前記ロータの回転速度を調整することにより、前記圧力を制御することを特徴とす
る真空ポンプ。
G
V=O
V/δ
P ・・・(1)
G
M=Ω
M/δ
P ・・・(2)
ただし、上記式(1)において、O
Vは、前記バルブの開度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(2)において、Ω
Mは、前記ロータの回転速度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(1)および(2)において、δ
Pは、前記差の初期値を0としたラプラス変換である。
【請求項8】
前記制御装置は、前記差の絶対値が前記所定値より大きいときには、前記伝達関数G
Mのゲインを小さくし、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、前記伝達関数G
Vのゲインを小さくすることを特徴とする請求項
7に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記ロータを浮上支持する磁気軸受を備え、
前記制御装置は、前記圧力が前記目標値と一致するときに、前記ロータの回転速度が前記ロータの変位の固有振動数に一致する場合、もしくは該回転速度と該固有振動数の差の絶対値が所定値以下である場合には、前記バルブの開度を変更し、再度、前記圧力が前記目標値と一致するように、前記ロータの回転速度を制御することを特徴とする請求項
6から
8のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記所定値は、前記ロータの回転中に、前記バルブの開度、前記被排気室の内部に導入され前記真空ポンプによって排気されるガスの種類および量のいずれか少なくとも一つに応じて、変更されることを特徴とする請求項
6または7に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被排気室内の圧力を制御する真空排気装置及びこれに用いられる真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶、太陽電池、LED(Light Emitting Diode)等(以下、「半導体等」と称する。)の製造装置では、被排気室である真空チャンバ内にプロセスガスを流入させ、真空チャンバ内に載置されたウエハ等の被処理物に薄膜を形成したり、エッチング処理等が施される。
【0003】
このとき、真空チャンバの排気口に接続されたバルブの開度や、このバルブの下流側に接続された真空ポンプであるターボ分子ポンプのロータの回転速度を変化させて真空チャンバ内を真空排気することにより、真空チャンバ内の圧力を所望の圧力となるように制御する技術が例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した真空排気する技術では、バルブの開度を変化させる場合には、開度の変化に対して真空チャンバ内の圧力は比較的大きく変化し、また、ターボ分子ポンプのロータの回転速度を変化させる場合には、回転速度の変化に対して真空チャンバ内の圧力は比較的僅かしか変化しないために、真空チャンバ内の圧力を正確に所望の圧力に制御することが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、被排気室内の圧力を精度よく、また高速に制御することができる真空排気装置及びこれに用いられる真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る真空排気装置は、
回転することによって被排気室の内部を排気するロータと、吸気口を有するケーシングとを備えた真空ポンプと、
前記真空ポンプの前記吸気口と前記被排気室の排気口の間に配置されたバルブと、
前記被排気室の内部の圧力を目標値と一致するように制御する制御装置とを備えた真空排気装置であって、
前記制御装置は、前記目標値と前記圧力の差の絶対値が所定値より大きいときには、前記ロータの回転速度が一定となるように制御するとともに前記バルブの開度を調整し、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、前記バルブの開度が一定となるように制御するとともに前記ロータの回転速度を調整することにより、前記圧力を制御することを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る真空排気装置は、
回転することによって被排気室の内部を排気するロータと、吸気口を有するケーシングとを備えた真空ポンプと、
前記真空ポンプの前記吸気口と前記被排気室の排気口の間に配置されたバルブと、
前記被排気室の内部の圧力を目標値と一致するように制御する制御装置とを備えた真空排気装置であって、
前記制御装置は、前記目標値と前記圧力の差の絶対値が所定値より大きいときには、下記式(1)で表される伝達関数GVのゲインを大きくして前記バルブの開度を調整し、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、下記式(2)で表される伝達関数GMのゲインを大きくして前記ロータの回転速度を調整することにより、前記圧力を制御することを特徴とする。
GV=OV/δP ・・・(1)
GM=ΩM/δP ・・・(2)
ただし、上記式(1)において、OVは、前記バルブの開度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(2)において、ΩMは、前記ロータの回転速度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(1)および(2)において、δPは、前記差の初期値を0としたラプラス変換である。
【0010】
上記の真空排気装置において、
前記制御装置は、前記差の絶対値が前記所定値より大きいときには、前記伝達関数GMのゲインを小さくし、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、前記伝達関数GVのゲインを小さくするようにしてもよい。
【0011】
上記の真空排気装置において、
前記真空ポンプは前記ロータを浮上支持する磁気軸受を備え、
前記制御装置は、前記圧力が前記目標値と一致するときに、前記ロータの回転速度が前記ロータの変位の固有振動数に一致する場合、もしくは該回転速度と該固有振動数の差の絶対値が所定値以下である場合には、前記バルブの開度を変更し、再度、前記圧力が前記目標値と一致するように、前記ロータの回転速度を制御するようにしてもよい。
【0012】
上記の真空排気装置において、
前記所定値は、前記ロータの回転中に、前記バルブの開度、前記被排気室の内部に導入され前記真空ポンプによって排気されるガスの種類および量のいずれか少なくとも一つに応じて、変更されるようにしてもよい。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係る真空ポンプは、
バルブと、
被排気室の内部の圧力を目標値と一致するように制御する制御装置とを備えた真空排気装置に用いられる真空ポンプであって、
回転することによって前記被排気室の内部を排気するロータと、前記バルブを前記被排気室の排気口との間に配置させる吸気口を有するケーシングとを備え、
前記制御装置は、前記目標値と前記圧力の差の絶対値が所定値より大きいときには、前記ロータの回転速度が一定となるように制御するとともに前記バルブの開度を調整し、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、前記バルブの開度が一定となるように制御するとともに前記ロータの回転速度を調整することにより、前記圧力を制御することを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の第4の観点に係る真空ポンプは、
バルブと、
被排気室の内部の圧力を目標値と一致するように制御する制御装置とを備えた真空排気装置に用いられる真空ポンプであって、
回転することによって前記被排気室の内部を排気するロータと、前記バルブを前記被排気室の排気口との間に配置させる吸気口を有するケーシングとを備え、
前記制御装置は、前記目標値と前記圧力の差の絶対値が所定値より大きいときには、下記式(1)で表される伝達関数GVのゲインを大きくして前記バルブの開度を調整し、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、下記式(2)で表される伝達関数GMのゲインを大きくして前記ロータの回転速度を調整することにより、前記圧力を制御することを特徴とする。
GV=OV/δP ・・・(1)
GM=ΩM/δP ・・・(2)
ただし、上記式(1)において、OVは、前記バルブの開度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(2)において、ΩMは、前記ロータの回転速度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(1)および(2)において、δPは、前記差の初期値を0としたラプラス変換である。
【0016】
上記の真空ポンプにおいて、
前記制御装置は、前記差の絶対値が前記所定値より大きいときには、前記伝達関数GMのゲインを小さくし、前記差の絶対値が前記所定値より小さいときには、前記伝達関数GVのゲインを小さくするようにしてもよい。
【0017】
上記の真空ポンプにおいて、
前記ロータを浮上支持する磁気軸受を備え、
前記制御装置は、前記圧力が前記目標値と一致するときに、前記ロータの回転速度が前記ロータの変位の固有振動数に一致する場合、もしくは該回転速度と該固有振動数の差の絶対値が所定値以下である場合には、前記バルブの開度を変更し、再度、前記圧力が前記目標値と一致するように、前記ロータの回転速度を制御するようにしてもよい。
【0018】
上記の真空ポンプにおいて、
前記所定値は、前記ロータの回転中に、前記バルブの開度、前記被排気室の内部に導入され前記真空ポンプによって排気されるガスの種類および量のいずれか少なくとも一つに応じて、変更されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被排気室内の圧力を精度よく、また高速に制御することができる真空排気装置及びこれに用いられる真空ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る真空排気装置を有する真空装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る真空排気装置が有する真空ポンプの構成を示す縦断面図である。
【
図3】回転軸の位置と位置センサ検出値との関係を示すグラフである。
【
図4】電磁石に流れる電流値と磁気軸受の電磁石が回転軸に作用させる磁気吸引力との関係を示すグラフである。
【
図5】回転軸の回転周波数とロータの固有振動数との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態に係る真空排気装置が有するバルブの構成を示す概略平面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る真空排気装置が有する制御装置の制御系を示すブロック線図である。
【
図8】(A)は圧力目標値と圧力測定値との差の絶対値と、バルブの開度のゲインとの関係を示すグラフであり、(B)は圧力目標値と圧力測定値との差の絶対値と、ロータの回転速度のゲインとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態に係る真空排気装置について、以下図面を参照して説明する。真空排気装置10は、
図1に示すように、半導体等の製造装置において薄膜形成処理、エッチング処理などを行うのに用いられる真空装置Dが有する装置である。真空排気装置10は、被処理物が載置された被排気室(真空チャンバ)4の内部の圧力を所望の圧力となるように真空排気する。
【0022】
真空排気装置10は、被排気室4の内部に導入されたプロセスガスを排出する真空ポンプ1と、被排気室4の排気口(図示せず)と真空ポンプ1の吸気口11a(
図2)との間に設けられるとともにガスの流路を開閉するバルブ2と、被排気室4の内部の圧力を目標値と一致するように制御する制御装置3とを有する。
【0023】
真空ポンプ1はターボ分子ポンプであり、
図2に示すように、外筒部11と、外筒部11が固定されたベース部12と、外筒部11とベース部12により構成されるケーシング13内に回転可能に収容されたロータ20とを有する。外筒部11の
図2における上側は開口されガスの吸気口11aを構成しており、ベース部12の側面にはガスの排気口12aが形成されている。外筒部11の吸気口11a側にはフランジ部11bが形成されており、このフランジ部11bにバルブ2のバルブ本体2a(
図6)の下端面が固定される。
【0024】
ロータ20は、ロータ本体20aと、回転軸30と、座金70とを有する。回転軸30は、ロータ20を回転させるためにケーシング13内に回転可能に支持されている。ロータ本体20aの
図2における上側の外周面には、複数の所定の角度傾斜したブレード状の回転翼21が一体形成されている。回転翼21は、ロータ20の回転軸30の軸芯に対して放射状に設けられるとともにロータ20の回転軸30の軸芯方向に多段に設けられる。各段の回転翼21の間には、固定翼40が設けられ、回転翼21と固定翼40はロータ20の回転軸30の軸芯方向に交互に配置される。固定翼40も所定の角度傾斜したブレード状に複数形成される。固定翼40はその外周端が外筒部11内に段積みされた複数のリング状の固定翼用スペーサ50の間に挟持されることにより回転翼21の間に放射状かつ多段に配設される。
【0025】
最も下流側に配設された固定翼用スペーサ50とベース部12との間には、ねじ付スペーサ60が設けられている。ねじ付スペーサ60は円筒状に形成されており、内周面に螺旋状のねじ溝60aが形成されている。ロータ本体20aの
図2における下側(ガスが移送される下流側)には回転軸30の軸芯を中心とする円筒部22が形成されており、円筒部22の外周面とネジ付きスペーサ60のねじ溝60aが形成された内周面とは近接して対向するように配設されている。円筒部22の外周面とネジ付きスペーサ60のねじ溝60aに区画された空間は排気口12aと連通している。
【0026】
座金70は回転軸30の軸芯を中心とする円盤状に形成されている。ボルト71を、ロータ本体20aと座金70を挟んで回転軸30に螺着することにより、ロータ本体20aと座金70は回転軸30に固定される。
【0027】
真空ポンプ1では、ロータ20を高速で回転させると、回転翼21が吸気口11aから吸入されたガスの分子を下流側へ向かうように叩き、叩かれたガスの分子は交互に配置された固定翼40に衝突して下方へ向かい、更に次の段の回転翼21に叩かれ下流側へ向かい、回転翼21および固定翼40の最下段まで順次この動作を繰り返してねじ付スペーサ60へ送られたガスは、ねじ溝60aに案内されながら排気口12aへと送られ、排気口12aからガスが排気される。このときロータ20の回転速度を調整することにより、ガス被排気室4内部の圧力を所望の圧力に調整することができる。なお、真空ポンプ1は、
図1に示すように、ロータ20の回転速度を検出するための回転速度検出器1aを有する。回転速度検出器1aで検出されたロータ20の回転速度検出値は制御装置3に出力される。
【0028】
回転軸30の
図2における上側及び下側(ガスが流れる上流側及び下流側)付近には、保護軸受31が配置されている。保護軸受31は異常時に後述する半径方向磁気軸受33、軸方向磁気軸受34が制御不能になった場合などに、回転軸30と接触し支持することにより真空ポンプ1が破損するのを防止する。
【0029】
回転軸30は、直流ブラシレスのポンプ用モータ32によって回転駆動される。二つの半径方向磁気軸受33が半径方向において回転軸30を支持し、軸方向磁気軸受34が軸方向において回転軸30を支持する。2つの半径方向磁気軸受33は、ポンプ用モータ32を挟んで配設される。回転軸30は、これらの半径方向磁気軸受33及び軸方向磁気軸受34によって浮上支持されている。
【0030】
2つの半径方向磁気軸受33は、回転軸30に磁気吸引力を作用させる4つの電磁石33aをそれぞれ有しており、4つの電磁石33aは、回転軸30の軸芯と直交し、互いに直交する2つの座標軸上に、回転軸30を挟んでそれぞれ2個配置される。さらに、2つの半径方向磁気軸受33は、回転軸30の半径方向位置を検出するインダクタンス式又は渦電流式の4つの位置センサ33bをそれぞれ有している。4つの位置センサ33bは、回転軸30の軸芯と直交し、上述の座標軸に平行な互いに直交する2つの座標軸上に、回転軸30を挟んでそれぞれ2つずつ配置される。
【0031】
回転軸30には、回転軸30の軸芯を中心とする磁性体の円盤(以下、「アーマチャディスク」という。)80が設けられている。軸方向磁気軸受34は、アーマチャディスク80に磁気吸引力を作用させる2つの電磁石34aを有している。2つの電磁石34aはアーマチャディスク80を挟んでそれぞれ配置される。また、軸方向磁気軸受34は、回転軸30の軸方向の位置を検出するインダクタンス式又は渦電流式の位置センサ34bを有している。なお、半径方向磁気軸受33のインダクタンス式又は渦電流式の位置センサ33b及び軸方向磁気軸受34のインダクタンス式又は渦電流式の位置センサ34bは、電磁石と同様の構造をしており、導線コイルが巻かれたコアを回転軸30に対峙させて配置している。
【0032】
吸引したガスから半径方向磁気軸受33、軸方向磁気軸受34、ポンプ用モータ32などを保護するためにステータ90がベース部12上に立設されている。
【0033】
真空ポンプ1は、半径方向磁気軸受33、軸方向磁気軸受34及びポンプ用モータ32に電力を供給し、位置センサ33b,34bと信号を送受信する図示しないポンプコントローラを、ケーブルを介して又は一体に備えている。ポンプコントローラは、半径方向磁気軸受33、軸方向磁気軸受34の位置センサ33b,34bの導線コイルに、高周波の所定の振幅の交番電圧を供給する。位置センサ33b,34bのコアに巻かれた導線コイルは、そのインダクタンスが、コアと回転軸30との距離に応じて変化し、このインダクタンスの変化に応じて、導線コイルに印加された電圧の振幅が変化し、ポンプコントローラは、その変化した振幅値を検出することによって、回転軸30の位置を検出する。この振幅値(位置センサ検出値E
O)は、
図3に示すように、回転軸30の位置の変化に対して、曲線的に増加或いは減少する非線形性を有している。ポンプコントローラは、前述の各座標軸上において回転軸30を挟んで互いに対向する2つの位置センサ33bの振幅値の和E
O1+E
O2(正負の符号の定め方によっては差)が、回転軸30の位置の変化に対して、疑似的な線形性を有することから、この和(差)を算出し、その値を位置センサ33bの検出信号として用いることで、線形制御理論の適用を可能にし、当該理論に基づいて回転軸30の位置を制御している。ポンプコントローラは、各座標軸上の2つの位置センサ33bの検出信号の和(差)に基づいて、電磁石33aに流す電流値を調整するフィードバック制御によって、回転軸30の位置を目標位置に一致させている。
【0034】
半径方向磁気軸受33の各電磁石33aが回転軸30に作用させる磁気吸引力fも、
図4に示すように、電磁石33aに流れる電流の変化に対して、曲線的に増加又は減少する非線形性を有している。このため、電流値の調整は、各座標軸上の回転軸30を挟んで対向する2つの電磁石33aについて、回転軸30が目標位置から外れ、回転軸30との距離が大きい方の電磁石33aには、所定の直流電流値(以下、「バイアス電流値」という。)I
0に電流値i
1を足した電流値(I
0+i
1)の電流を流し、回転軸30との距離が小さい方の電磁石33aには、このバイアス電流値I
0から電流値i
1を引いた電流値(I
0-i
1)の電流を流すことにより行う。このように、2つの電磁石33aが作用させる磁気吸引力の和f
hx1+(-f
hx2)を回転軸30に作用させる磁気吸引力とすることで、磁気吸引力が電流値の変化に対して疑似的に線形性を有するようにし、前述した線形制御理論の適用を可能にしている。
【0035】
軸方向磁気軸受34の構成も、基本的には半径方向磁気軸受33の構成と同様であるが、所要スペースを削減するなどの目的で、回転軸30の軸芯方向においてアーマチャディスク80を挟んで2つの位置センサを配置することはせずに、1つの位置センサ34bのみを配置し、もう1つの位置センサを、コントローラ内部の回路基板上に配置した所定のインダクタンスを有するコイルで代用しても良い。この場合には、回路基板上に設けたコイルのインダクタンスは所定値であり、交番電圧の振幅値は所定の値となるので、2つの位置センサの和(差)の回転軸30の位置の変化に対する線形化の精度は低下するが、真空ポンプ1を正常に運転できる場合には有用である。
【0036】
ところで、ロータ20は、これらの半径方向磁気軸受33、軸方向磁気軸受34によって空中に浮上支持されるが、その支持力は、ロータ20の位置の変化に比例した力の成分、すなわち、弾性力に相当する成分を有するため、ロータ20は、その質量又は慣性モーメントに応じた固有振動数を有する。空中に浮上したロータ20は、一つの座標軸(以下、「z軸」という。)を回転軸30の軸芯に一致させた3次元直交座標の各軸方向の3自由度と、その各軸回りの3自由度の合計6自由度を有しており、このうち、ポンプ用モータ32によって回転角が制御されるz軸回りの1自由度を除く5自由度は、半径方向磁気軸受33、軸方向磁気軸受34の支持力を受けるため、半径方向磁気軸受33、軸方向磁気軸受34の支持力に応じた固有振動数を有する。特に、z軸に直交し、互いに直交する二つの軸(以下、それぞれ「x軸」、「y軸」という。)回りの2自由度においては、ロータ20の運動方程式は、x軸回りの運動方程式を表す下記式(3)およびy軸回りの運動方程式を表す下記式(4)に示すように、互いの軸回りの回転速度に比例する項(以下、「干渉項」という。)を有する。更に、この干渉項の大きさは、ポンプ用モータ32によって回転される回転軸30の回転速度に比例する。
【0037】
【0038】
ただし、上記式(3)および(4)中、Jはロータ20のx軸又はy軸回りの慣性モーメント、Jzはロータ20のz軸回りの慣性モーメント、Cはx軸又はy軸回りの粘性抵抗係数、θxはロータ20のx軸回りの回転角度、θyはロータ20のy軸回りの回転角度、θzはロータ20のz軸回りの回転角度である。また、上記式(3)中、Dxはx軸回りに作用する外乱モーメント、Gxは半径方向磁気軸受33の支持力によって生じるx軸回りのモーメントのばね定数である。また、上記式(4)中、Dyはy軸回りに作用する外乱モーメント、Gyは半径方向磁気軸受33の支持力によって生じるy軸回りのモーメントのばね定数である。Dx、Dyは、ロータ20の不釣合いや、真空ポンプ1の排気負荷などにより発生する。Gx、Gyは、実際には、半径方向磁気軸受33の制御設計に応じた周波数特性を持つ。なお、前述したように、ロータ20は、ロータ本体20aと、回転軸30と、座金70とを有するので、慣性モーメントJz及び慣性モーメントJは、正確にはロータ本体20a、回転軸30及び座金70の慣性モーメントの和である。
【0039】
通常、各自由度における固有振動数を求める式は、各自由度の運動方程式から導出することができるが、半径方向磁気軸受33のx軸回りおよびy軸回りについては、それぞれの運動方程式が、前述したように互いに干渉項を有しているなどの理由により、固有振動数を求める式を導出することは困難である。このために従来は特定の磁気軸受を設計し、試作実験や有限要素法等を用いたコンピュータシミュレーションに頼って、その特定の磁気軸受の固有振動数の値を求めていた。
【0040】
しかしながら、これらによる方法では、特定の磁気軸受ごとに固有振動数を求めることができても、設計値を変化させた場合に固有振動数がどのように変化するのかといった固有振動数の定性的な解析ができない。このために特定の磁気軸受の設計を一通り終えた後に、固有振動数を求め、種々の理由により設計を変更した場合には、その設計変更を一通り終えた後に、再度、固有振動数を求め直し、不都合がある場合には、再度、設計を変更し直すという作業が発生し、磁気軸受とターボ分子ポンプの設計に多大な時間を要していた。
【0041】
本発明では、ターボ分子ポンプである真空ポンプ1の半径方向磁気軸受33は、真空中で使用されることに着目し、粘性抵抗係数C=0とすることにより、上記式(3)および(4)から、x軸まわりとy軸まわりにそれぞれ二つ存在するロータ20の固有振動数ω1、ω2を表す式(5)、(6)を導出した。x軸まわりとy軸まわりの両方に、式(5)、(6)で表される二つの固有振動数が存在する。
【0042】
【0043】
ロータ20の固有振動数ω
1、ω
2は、
図5に示すように、回転軸30が回転を開始し、回転周波数Ω
z
が増加するにつれて、固有振動数ω
1は減少し、固有振動数ω
2は増加していく。回転周波数Ω
zが増加するにつれて、固有振動数ω
2は、回転周波数Ω
zに近づいていき、回転周波数Ω
zと一致した後、回転周波数Ω
zから遠ざかっていく。
【0044】
固有振動数ω1、ω2が回転軸30の回転周波数Ωzに一致していたり近傍の値であったりすると、ロータ20の共振が誘発され、半径方向磁気軸受33及び軸方向磁気軸受34がロータ20を浮上支持することが困難になるとともに、回転翼21が振動し続け応力の変動が繰り返されることで疲労破壊することになる。このために、制御装置3は、被排気室4の内部の圧力が目標値と一致するときに、ロータ20の回転速度(回転周波数Ωz)が変位の固有振動数ω1、ω2に一致する場合、もしくは、ロータ20の回転速度と固有振動数ω1、ω2の差の絶対値が所定値以下である場合には、バルブ2の開度を変更し、再度、被排気室4の内部の圧力が目標値と一致するように、ロータ20の回転速度を制御する。
【0045】
バルブ2は、
図6に示すように、バルブ本体2aと、シャフト2bに固定された弁体2cと、シャフト2bを回転駆動し弁体2cを揺動するバルブ用モータ2dと、弁体2cに開閉される開口部2eとを有している。バルブ2は被排気室4の排気口(図示せず)と真空ポンプ1の吸気口11aとの間に設けられ、バルブ2の開口部2eは被排気室4の排気口と真空ポンプ1の吸気口11aに連通し、接続するように配設される。
【0046】
バルブ2は、弁体2cをバルブ用モータ2dにより揺動させて開口部2eと重なる所望の位置に配置して、開口部2eの開口面積を調整することにより、開度を調整する。バルブ2の開度を調整することにより、被排気室4内部の圧力を所望の圧力に調整することができる。なお、バルブ2は、
図1に示すように、開度を検出するエンコーダ等の開度検出器2fを有する。開度検出器2fで検出されたバルブ2の開度検出値は制御装置3に出力される。
【0047】
制御装置3は、バルブ2の開度、真空ポンプ1のロータ20の回転速度を所定の条件で調整することにより、被排気室4の内部の圧力を目標値と一致するように制御する。制御装置3は、図示しないCPU(Central Processing Unit)等を含んで構成された制御部、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等から構成される記憶部等を有する。記憶部は、制御部により実行されるプログラム、固定データ、検出データ等の各種データを記憶する。また記憶部は制御部のワークメモリとして機能する。制御部は記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより被排気室4内の圧力を制御する。
【0048】
バルブ2の開度を変化させる場合には、開度の変化に対して、被排気室4内の圧力は比較的大きく変化する。例えば、被排気室4内の圧力をごく僅かに上げる必要があるときに、バルブ2の開度をごく僅かに低下させても、圧力は大きく上昇してしまい、圧力をごく僅かに低下させる必要があるときに、バルブ2の開度をごく僅かに増加させても、圧力は大きく減少してしまう。また、バルブ用モータ2dの回転を弁体2cへ伝達する歯車のバックラッシュ、ベルトの弾性すべりや移動すべりなどに起因して、バルブ用モータ2dの回転に対して、弁体2cの位置に誤差を生じ、正確に所望の開度にすることができない。このため、圧力の変化に対するバルブ2の開度の変化のゲインを大きくし、所望の圧力に対する圧力の定常偏差を小さくして、高精度な制御をしようとすると、最悪の場合には、バルブ2の開度が振動現象を起こし、正確に所望の圧力にすることが困難であった。
【0049】
一方、真空ポンプ1のロータ20の回転速度を変化させる場合には、回転速度の変化に対して、被排気室4内の圧力は、比較的僅かしか変化しないため、被排気室4内の圧力を大きく変化させる必要があるときには、ロータ20の回転速度を大きく変化させなければならない。しかし、真空ポンプ1がターボ分子ポンプである場合には、所望の排気性能を達成すべく、ロータ20を高速で回転させる必要があるために、ロータ20は、大きな遠心力が作用しても破壊しない強度の高いアルミ合金などの金属で形成されており、慣性モーメントが大きい。このため、ロータ20の回転速度を短時間内にすなわち高速で大きく変化させることは困難である。
【0050】
また、ロータ20を回転駆動するポンプ用モータ32に高トルクを発生できるモータを採用し、加減速トルクを大きくすることも考えられるが、比較的安価に製造できる直流ブラシレスモータを使用する場合には、トルク定数を大きくすると、同時に誘起電圧定数も大きくなるため、高速回転時に、逆起電圧が大きくなり、加減速トルクを発生させる電流を十分に流すことができず、結局、高速で回転速度を大きく変化させることはできない。ロータ20の回転速度を高速で大きく変化させられないことは、例えば半導体製造装置のウエハ表面の処理に時間を要し、半導体の製造量増加の支障となっていた。
【0051】
そこで、制御装置3では、被排気室4の内部の圧力と目標値との差の絶対値が所定値より大きいときには、バルブ2の開度を調整し、被排気室4の内部の圧力と目標値との差の絶対値が所定値より小さいときには、真空ポンプ1のロータ20の回転速度を調整することにより上述した課題を解決する。
【0052】
ここで制御装置3により被排気室4の内部の圧力を所望の圧力となるように真空排気して制御する方法について説明する。プロセスガスが流入する被排気室4には、
図1に示すように、圧力計5が設けられており、圧力計5で被排気室4内の圧力が測定される。圧力計5による圧力測定値が制御装置3に出力され、制御装置3において圧力目標値と比較される。
【0053】
圧力目標値と圧力測定値との差の絶対値が所定値よりも大きいときには、制御装置3はその差の値に対応した値の駆動信号をバルブ2のバルブ用モータ2dに送信してバルブ2の開度を調整する。このときには、制御装置3により、
図7に示す制御系において、下記式(1)で表される伝達関数G
Vのゲイン|G
V|を、
図8(A)に示すように大きくするようにしてもよい。また、このときには、逆に、制御装置3により、
図7に示す制御系において、下記式(2)で表される伝達関数G
Mのゲイン|G
M|を、
図8(B)に示すように小さくするようにしてもよい。また、このときには制御装置3により、回転速度検出器1aで検出されるロータ20の回転速度を一定に保つように制御するようにしてもよい。
G
V=O
V/δ
P ・・・(1)
G
M=Ω
M/δ
P ・・・(2)
ただし、上記式(1)において、O
Vは、バルブ2の開度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(2)において、Ω
Mは、ロータ20の回転速度の初期値を0としたラプラス変換であり、上記式(1)および(2)において、δ
Pは、圧力目標値と圧力測定値の差の初期値を0としたラプラス変換である。
【0054】
ここで、ゲインを大きくすることは、その周波数が0のときのゲインすなわち直流ゲインに対して、3dB以上大きくすることをいい、ゲインを小さくすることは、その周波数が0のときのゲインすなわち直流ゲインに対して、3dB以上小さくすることをいう。あるいは、圧力目標値と圧力測定値との差の絶対値に対して、その絶対値の所定値よりも小さい領域におけるゲインの平均値を、大きい領域におけるゲインの平均値よりも、大きく又は小さくすることをいう。あるいは、圧力目標値と圧力測定値との差の絶対値に対して、その絶対値の所定値よりも大きい領域におけるゲインの平均値を、小さい領域におけるゲインの平均値よりも、大きく又は小さくすることをいう。
【0055】
その一方、圧力目標値と圧力測定値との差の絶対値が所定値よりも小さいときには、制御装置3はその差の値に対応した値の駆動信号を真空ポンプ1のポンプ用モータ32に送信してロータ20の回転速度を調整する。このときには、制御装置3により、圧力目標値と圧力測定値の差の絶対値に対するロータ20の回転速度のゲイン|GM|を大きくするようにしてもよい。また、このときには、逆に、制御装置3により、圧力目標値と圧力測定値の差の絶対値に対するバルブ2の開度のゲイン|GV|を小さくするようにしてもよい。また、このときには制御装置3により、開度検出器2fで検出されるバルブ2の開度を一定に保つように制御するようにしてもよい。これらにより被排気室4内の圧力をより精度よく、また高速に制御することが可能になる。
【0056】
また、上述した真空ポンプ1のロータ20の共振が誘発されることによる問題を解決して、制御装置3による被排気室4の内部の圧力を所望の圧力となるように真空排気して制御する方法について説明する。制御装置3において、回転速度検出器1aで検出されたロータ20の回転速度とロータ20の固有振動数ω1、ω2とを比較し、圧力計5で測定された圧力測定値が圧力目標値と一致するときに、ロータ20の回転速度と固有振動数ω1、ω2が一致する場合や、その差の絶対値が所定値以下である場合には、制御装置3はバルブ2の開度を変更するように開度変更指令信号をバルブ用モータ2dに送信してバルブ2の開度を所定分変更する。そして、圧力目標値と圧力計5で測定された圧力測定値との差の値に対応した値の駆動信号をポンプ用モータ32に送信してロータ20の回転速度を調整して、圧力測定値が圧力目標値と一致するように制御する。
【0057】
このように本実施の形態では、制御装置3により、被排気室4の内部の圧力と目標値との差の絶対値が所定値より大きいときには、バルブ2の開度を調整し、被排気室4の内部の圧力と目標値との差の絶対値が所定値より小さいときには、真空ポンプ1のロータ20の回転速度を調整するようにしたので、バルブ2の開度を変化させることにより生じる問題、および、ロータ20の回転速度を変化させることにより生じる問題を回避することができ、被排気室4内の圧力を、高精度、かつ、短時間内すなわち高速に、所望の圧力となるように制御することが可能になる。
【0058】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、弁体2cをバルブ用モータ2dにより揺動させて開口部2eと重なる所望の位置に配置して、開口部2eの開口面積を調整することにより、開度を調整するバルブ2を用いる例について説明したが、バルブの機構はこれに限定されず、ガスの流路を開閉する機構であればよく、例えばバタフライ型、フラップ型等のバルブを用いることも可能である。また、バルブ用モータ2dや歯車、ベルトなどに代えて、コンプレッサなどで発生させた加圧空気を用いて弁体2cを駆動するバルブを用いることも可能である。
【0059】
また、本発明では、圧力目標値と圧力測定値との差の絶対値が所定値よりも大きいか小さいかで被排気室4内の圧力の制御の方法を変更するが、この所定値は、例えば半導体製造装置、電子顕微鏡、表面分析装置、微細加工装置等どのような種類の真空装置Dに真空排気装置10を用いるか、どのような条件、状況で真空排気装置10を用いるか、真空ポンプ1、バルブ2の機構、種類などによって適宜決定される。
また、この所定値は、ロータ20の回転中に、バルブ2の開度や、被排気室4の内部に導入され真空ポンプ1が排気するプロセスガスの種類や量などに応じて、適宜変更しても良い。この場合には、制御装置3の記憶部に、予め複数の所定値を記憶させておき、これらに応じて、適宜、所定値を選択したり、演算したりして所定値を変更しても良い。
【符号の説明】
【0060】
10 真空排気装置
1 真空ポンプ
1a 回転速度検出器
11a 吸気口
13 ケーシング
32 ポンプ用モータ
33 半径方向磁気軸受
34 軸方向磁気軸受
20 ロータ
2 バルブ
2c 弁体
2d バルブ用モータ
2e 開口部
2f 開度検出器
3 制御装置
4 被排気室
5 圧力計
D 真空装置