(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】レーザー光源と処置対象組織との間の接続インターフェース
(51)【国際特許分類】
A61F 9/009 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
A61F9/009
(21)【出願番号】P 2019543103
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(86)【国際出願番号】 EP2018054473
(87)【国際公開番号】W WO2018154038
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-12-22
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518356419
【氏名又は名称】ケラノヴァ
【氏名又は名称原語表記】KERANOVA
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ロマノ、ファブリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール、オーレリアン
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0078575(KR,A)
【文献】特表2010-520795(JP,A)
【文献】特表2014-522284(JP,A)
【文献】国際公開第2016/058931(WO,A2)
【文献】特表2013-500063(JP,A)
【文献】特表2013-533013(JP,A)
【文献】特開2015-142603(JP,A)
【文献】特開2001-170062(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0022994(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007-9/009
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源と処置対象組織との間の接続インターフェースであって、
- リングであって、
・軸A-A’に対して対称である円筒形状の側壁と、
・前記処置対象組織に接することが意図された近位端と、
・前記レーザー光源の端部を収容することが意図された遠位端と
を有するリングと、
- 前記レーザー光源が生成したレーザービームを透過し、前記リングの前記遠位端を閉じるように、前記リングに密閉配置されてなるウィンドウと、
- 前記側壁を貫通し、前記側壁の内面と外面との間に延在している吸引通路であって、当該吸引通路は、前記側壁の内面に開口し、軸A-A’に対して直交して、径方向に、前記側壁の外面から外方に延在し、さらに当該吸引通路は、前記ウィンドウと前記側壁との間に画定された内部空間内に真空を生成可能とするための吸引モジュールに接続されることが意図された、吸引通路と、
- 前記側壁を貫通し、前記側壁の内面と外面との間に延在している注入通路であって、当該注入通路は、前記側壁の内面に開口し、軸A-A’に対して直交して、径方向に、前記側壁の外面から外方に延在し、さらに当該注入通路は、前記内部空間内に液体を注入できるよう、注入モジュールに接続されることが意図された、注入通路と
を備えてなり、
前記吸引通路が、前記注入通路の上に延在し、
前記注入通路の内径が、前記吸引通路の内径よりも小さい、接続インターフェース。
【請求項2】
前記ウィンドウ周囲に延在するバブルトラップを有する、請求項1に記載の接続インターフェース。
【請求項3】
前記バブルトラップが、前記側壁と、前記ウィンドウとの間で延在する円形内溝から構成される、請求項2に記載の接続インターフェース。
【請求項4】
前記吸引通路は、前記ウィンドウを含む平面内で延在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の接続インターフェース。
【請求項5】
レーザー光源と処置対象組織との間の接続インターフェースであって、
- リングであって、
・軸A-A’に対して対称である円筒形状の側壁と、
・前記処置対象組織に接することが意図された近位端と、
・前記レーザー光源の端部を収容することが意図された遠位端と
を有するリングと、
- 前記レーザー光源が生成したレーザービームを透過し、前記リングの前記遠位端を閉じるように、前記リングに密閉配置されてなるウィンドウと、
- 前記ウィンドウ周囲に延在するバブルトラップであって、当該バブルトラップが、前記側壁と、前記ウィンドウとの間で延在する円形内溝から構成される、バブルトラップと、
- 前記側壁を貫通し、前記側壁の内面と外面との間に延在している吸引通路であって、当該吸引通路は、前記側壁の内面に開口し、軸A-A’に対して直交して、径方向に、前記側壁の外面から外方に、かつ前記ウィンドウを含む平面内で延在し、さらに当該吸引通路は、前記ウィンドウと前記側壁との間に画定された内部空間内に真空を生成可能とするための吸引モジュールに接続されることが意図された、吸引通路と、
- 前記側壁を貫通し、前記側壁の内面と外面との間に延在している注入通路であって、当該注入通路は、前記側壁の内面に開口し、軸A-A’に対して直交して、径方向に、前記側壁の外面から外方に延在し、さらに当該注入通路は、前記内部空間内に液体を注入できるよう、注入モジュールに接続されることが意図された、注入通路と
を備えてなり、
前記吸引通路が、前記注入通路の上に延在し、
前記注入通路の内径が、前記吸引通路の内径よりも小さい、接続インターフェース。
【請求項6】
前記ウィンドウが、親水性物質の層で被われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の接続インターフェース。
【請求項7】
前記ウィンドウが、例えば泡を前記バブルトラップへと逃げやすくするための凹面を持つ、複数の平行面を有する非平坦形状を有する、請求項
2、3、5のいずれか一項に記載の接続インターフェース。
【請求項8】
前記ウィンドウが、前記ウィンドウが光学的機能を持つように、例えば両凸の、複数の非平行面を有する非平坦形状を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の接続インターフェース。
【請求項9】
前記リングが、その近位端において、外側に湾曲した略円錐台形の、フレア状ネックを備え、前記フレア状ネックが前記処置対象組織の外面に適用可能である、請求項1~8のいずれか一項に記載の接続インターフェース。
【請求項10】
前記ウィンドウが、前記リングに接着により取り付けられる、請求項1~9のいずれか一項に記載の接続インターフェース。
【請求項11】
レーザー光源と水晶体乳化器とを備えてなる装置であって、当該装置は、注入システムと吸引システムとを備え、当該装置はさらに請求項1~10のいずれか一項に記載の接続インターフェースを備えてなる、装置。
【請求項12】
前記接続インターフェースの前記吸引通路が前記吸引システムに接続され、前記注入通路が前記注入システムに接続されてなる、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記装置が、ポンプおよび真空センサを備える単一の吸引および注入システムを備え、ここで当該単一の吸引および注入システムはレーザー処置および水晶体乳化処置にともに用いられるものである、請求項11に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーによる手術の技術分野に関し、より詳細には眼科手術の技術分野、特に角膜または水晶体を切断する用途に関する。
【0002】
本発明は、角膜または水晶体等の人間または動物の処置対象組織に、レーザー光源をあてるための適応インターフェースに関する。
【0003】
「レーザー光源」とは、超短光パルスの形態をとるレーザー光線を射出可能な光源を意味する。その長さは、1フェムト秒から100ピコ秒間に含まれる。好ましくは、1から1000フェムト秒間に含まれる。特に、100フェムト秒単位である。
【背景技術】
【0004】
現行の技術として、角膜または水晶体の切断処置のような、レーザー光源により目の手術を行うことが知られている。
【0005】
レーザー光源は、例えば角膜の角膜実質にレーザー光線の焦点を当て、切断線となる連続して連なる小さなキャビテーションバブルを形成することで、角膜組織を切断可能な器具である。
【0006】
より詳しくは、角膜にレーザー光線の焦点を当てている間、レーザー光源の強度が光学破壊閾値を超えると、非線形イオン化によりプラズマが生成される。その後、キャビテーションバブルが生成され、周辺組織の極めて局地的な破壊が生じる。したがって、破壊領域に比較して、レーザー光源により実際に切除される容積は極めて小さい。
【0007】
レーザー光源を患者の眼にあてるため、患者の眼とレーザー光源との間に配置された適応インターフェースを使用することが知られている。
【0008】
この接続インターフェース(coupling interface)は、安定的に一定位置に眼球を保持可能とする。当該位置は、レーザー光源から公知の距離で、中心合わせされる。これにより、処置の期間中にあらゆる動きが防止される。
【0009】
1.従来公知の接続インターフェース
1.1.既存の接続インターフェースの第1の例
図1は、従来技術の接続インターフェースの第1の例を示す。接続インターフェースは、軸A-A’の円錐台1を含むリングを有する。円錐台1は両端が開放している。円錐台1の大底11は、レーザー光源の端を収容することを目的としたものである。円錐台1の小底は、眼2に接触することを意図されたものである。接続インターフェースはさらに、
・小底の外周上で延在する環状ガス流溝12と、
・半径方向外側に延在し、接続ノズル123を介して環状溝12を外部吸引デバイス(不図示)に接続可能とする、管状アクセス部材122とを有する。
【0010】
環状溝12は、患者の眼2に押し付けられることが意図された2つの円形リム124、125により画定された、U字状部位を有する。吸引デバイスは、元来当業者に公知のもので、円形リム124、125が眼2に適用されると、環状溝12内に真空を生成可能とする。環状溝12内に真空を生成することで、処置の全期間において、吸引効果により、接続インターフェースを眼2に固定可能とする。
【0011】
1.2.既存の接続インターフェースの第1の例の動作原理
当該接続インターフェースの動作原理は以下のとおりである。
【0012】
まず、施術者が接続インターフェースのリングを眼2に配置する。
【0013】
リングが中心合わせで適切に配置されると、吸引デバイスが起動されて、環状溝12と眼2との間に画定された空間内に真空を生成する。したがって、吸引により接続インターフェースが眼2に固定される。
【0014】
リングが眼2に固定されると、角膜が浸されるまで、角膜に近い屈折率を有する液体で満たされる。このように角膜が浸されることで、角膜を通過するレーザー光線の軌跡がシンプルになるという利点がある。即ちレーザー光線が患者の角膜のような局面ではなく、平面を通過するのである。患者の角膜は、些細な光学的欠陥(非点収差)に影響されることが多く、これによりレーザー光通路の収差の可能性が増す。
【0015】
そしてレーザー光源が接続インターフェースの右側に配置され、レーザー光源の先端部は、接続インターフェースに挿入、ロックされる。これにより、眼2とレーザーの光軸が位置合わせされ、処置の期間中に固定、保持される。
【0016】
1.3.既存の接続インターフェースの第1の例の不利
当該接続インターフェースは多くの不利な点を持つ。
【0017】
1.3.1.密閉を保証するためにインターフェースに係る圧力
特に、眼2上の接続インターフェースの吸引効率は、円形リム124、125と眼2との間の密閉品質に依存する。
【0018】
したがって、各円形リム124、125の接続線の外周全体において、完全接触が求められる。
【0019】
患者ごとに眼は異なることから、これは常に容易とは限らない。眼球の表面が、各円形リム124、125間の傾斜に適合するとは限らないのである。
【0020】
したがって、患者毎の眼の不均一に対処するため、接続インターフェースのリングを強く押し付ける必要がある。これにより、溝12と眼2との間の密閉が良好とするのである。しかし、患者にとっては不快で、危険性も伴う。実際、良好な密閉を実現するために、接続インターフェースのリングにかけられる力が、結膜において円形リム124、125に入り込むことが多い。
【0021】
密閉状態を実現するための力は、時に極めて強くなる。そのため患者に苦痛を与えることも多い。さらに、短期間であっても、この圧力が患者の眼圧を瞬時に上昇させ、これはリスク(高近視、網膜剥離歴、緑内障)を抱えた患者によっては、深刻な副作用を生じさせることがある。
【0022】
1.3.2.真空生成にかかる時間
さらに、上述したように眼2上の接続インターフェースの吸引は、吸引デバイスを使用して実現される。したがって、溝12および眼2の間に画定された空間に真空が生成される。
【0023】
ガスが圧縮、膨張可能であるため、この密閉空間内に含まれるガスの容積に吸引力が左右される。すなわち、容積が大きいほど、吸引力上昇が緩やかになるのである。
【0024】
従来の接続インターフェースのいくつかは、ガスが完全充填されたノズルを有する。これは、十分な吸引を実現するのにかかる時間が増す。
【0025】
1.3.3.真空の度合い
さらに、接続インターフェースを定位置に保持するには、高い真空度合いが求められる。
【0026】
事実、眼球の微細運動および吸引され難い傾向に抗するためには、強い吸引力が必要である。
【0027】
一方で、吸引力Fは真空Pと、真空がかかる表面Sに基づくことが知られている。即ち、以下のとおりとなる。
F=P×S
【0028】
従来の接続インターフェースの場合、真空がかかる表面は小さい(即ち、眼と2つの円形リムとの間の表面が限られている)。したがって、眼球の微細運動および非吸引の傾向に耐えることを可能とした吸引力Fを実現するには、かなり高い値の真空をかける必要がある。
【0029】
適用される真空の重要性が、結膜出血につながることもある(結膜下の吸引に関する、赤血球の流出)。表面的な斑状出血は、通常極めて限定的で、視覚に影響を及ぼさない。それでも抑制されることが望ましい。
【0030】
1.3.4.動作
吸引が実現されると、吸引リングが眼球に固定され、空気にさらされた逆さ円錐が容積Vを確定する。ここに角膜に近い屈折率の液体が充填可能である。水または生理食塩水である。
【0031】
この含侵ステップは通常、円錐に十分な量(円錐の上まで)液体を手動で注ぐことで実行される。
【0032】
従来の接続インターフェースによっては以下の動作が必要となる。
・ボトルを持つ
・キャップを外す
・直立して、眼を開いて円錐を嵌める
・十分な量の液体を円錐に注ぐ
【0033】
これら動作は、時に時間がかかる上に不正確となり得る。即ち最小限に抑える必要がある吸引時間が伸びてしまう。
【0034】
1.3.5.コスト
従来の接続インターフェースによっては特定の手術機器と協働する。これは、ポンプ、ノズル、真空センサを吸引システムと一体化することを求める。各システムは固有であることから、これら全ての付属品の購入が必要なのである。本発明は、このような不要な出費を避けるものである。実際、この患者インターフェースは手術室内に既に存在する付属品、特に水晶体乳化装置と協働する。これには真空センサつきの吸引ポンプ、輸液ラインが備えられており、既に適切なノズルが設けられている。我々の実験によると、本発明の目的である新規の接続インターフェースが、水晶体乳化装置と極めて良好に動作することが示された。これにより、顧客にとってコストが大幅に抑えられる。
【0035】
さらに、ポンプシステムやセンサが備えられた水晶体乳化装置をレーザー設備と一体化すると、手術室内の構造が大幅に簡略化される。即ち、単一の機械で、単一の消耗品、単一の吸引/注入システムにより形成された多機能システムにより手術処置全体が実行可能となるのである。具体的には、まず患者インターフェースの吸引が行われ、次にレンズ部位やレンズ皮質質量の注入/吸引により処置を完了することが保証される。
【0036】
1.2.既存の接続インターフェースの第2の例
図2は、従来技術の接続インターフェースの第2の例を示す。この接続インターフェースの第2の例は、第1の例と以下の点で異なる。即ち、インターフェースはブレード13を有する。ブレード13は、レーザー照射を透過し、眼2に接することが意図された円錐台1の小底の近傍に配置される。
【0037】
このブレード13は、患者の角膜2を平坦化可能とする。このような角膜の平坦化は、接続インターフェースが角膜のディオプトリを低減する液体を含まない際に必要となる。しかし、角膜の前面の平坦化(
図2に示す)により、角膜の後面に折り目が生じる。これは、レーザー処置の品質低下につながる。このような角膜後面での折り目による不利は、Jonathan H. Talamo, MD, Philip Gooding, MS, David Angeley, MS, William W. Culbertson, MD, Georg Schuele, PhD, Daniel Andersen, BS, George Marcellino, PhD, Emma Essock-Burns, PhD, Juan Batlle, MD, Rafael Feliz, MD, Neil J. Friedman, MD, Daniel Palanker, PhD.による題名「Optical patient interface in femtosecond laser-assisted cataract surgery: Contact corneal applanation versus liquid immersion」の文献に記載のとおりである。
【発明の概要】
【0038】
2.本発明の目的
本発明の目的は、上述の不利な点の少なくとも1つを解消する接続インターフェースを提案することである。
【0039】
この目的のため、本発明はレーザー光源と、処置対象組織との間の接続インターフェースを提案する。その特徴として、接続インターフェースは、
・リングであって、
側壁と、
処置対象組織に接することを意図した近位端と、
レーザー光源の端部を収容することを意図した遠位端とを有するリングと、
・レーザー光源が生成したレーザービームを透過し、リングの遠位端を閉じるように、リングに密閉配置されるウィンドウと、
・側壁の内面と外面との間に延在し、ウィンドウと側壁との間に画定された内部空間内に真空生成可能とするために、吸引モジュールに接続されることが意図された吸引貫通路と、
・側壁の内面と外面との間に延在し、内部空間内に液体を注入できるように、注入モジュールに接続されることが意図された注入貫通路とを有する。
【0040】
したがって、本発明は、接続インターフェース(特に、レーザー眼科手術において使用可能)に、高速で苦痛を与えない吸引と、液体の同時および自動注入を可能とすることを提案する。接続インターフェースは、注入および吸引モジュールとともに利用できる。当該モジュールは、水晶体乳化器のような眼科治療室内に一般的に設けられた装置に統合可能である。したがって、接続インターフェースは、レーザー光源および水晶体乳化器を有するデバイス内で使用できる。このデバイスは、レーザー処置および水晶体乳化処置の両方に使用される、単一の注入および吸引モジュール(ポンプ+真空センサ)を有する。これにより、同一のデバイスにおいて、2つの特定のモジュール(1つはレーザー光源で、もう1つは水晶体乳化器)に共通する要素を一体化して、コストを抑えることができる。これらは通常、治療室では分離しているものである。
【0041】
当然、本発明はさらに、一体化されていない注入および吸引モジュールと共にも利用できる。当該モジュールは、例えば、注射器のような1つ(または複数)の容器と、1つ(または複数)のノズルと、電動シリンジポンプのような1つ(または複数)のポンプを有する。
【0042】
リングの側壁と、ウィンドウとの間に画定された空間内に開口する注入通路が存在することで、角膜のディオプトリを低減するために、角膜を平坦化する必要がない。したがって、患者の眼とウィンドウとのあらゆる接触を避けるよう、リングの遠位端近傍で、ウィンドウをずらすことができる。
【0043】
接続インターフェースの好ましいが、これに限定されない態様を以下に挙げる。
・接続インターフェースはさらに、ウィンドウ周囲に延在するバブルトラップを有する。
・バブルトラップは、側壁と、ウィンドウとの間で延在する円形内溝から構成されてもよい。
・吸引通路は、ウィンドウを含む平面内で延在可能である。
・ウィンドウは、親水性物質の層で被覆されてもよい。
・ウィンドウは、例えば泡をバブルトラップへと逃げやすくするための凹面を持つ、複数の平行面を有する非平坦形状を有してもよい。
・ウィンドウは、ウィンドウが光学的機能を持つように、例えば両凸の非平行面を有する、非平坦形状を有してもよい。
・リングは、その近位端において、外側に湾曲した略円錐台形の、フレア状ネックを備え、フレア状ネックは、処置対象組織の外面に適用可能である。
・ウィンドウは、リングに接着により取付可能である。
・注入通路の内径は、吸引通路の内径よりも小さくてもよい。
【0044】
本発明はさらに、レーザー光源と、処置対象組織との間に接続インターフェースを設ける方法に関する。接続インターフェースは、
側壁と、
処置対象組織に接することを意図した近位端と、
レーザー光源の端部を収容することを意図した遠位端とを有するリングと、
レーザー光源が生成したレーザービームを透過し、リングの遠位端を閉じるように、リングに密閉配置されるウィンドウとを有するリングを備える。
方法は、
・処置対象組織上にリングを配置することと、
・液体吸引デバイスと液体注入デバイスとを同時に起動することと、
・吸引デバイスを起動して、ウィンドウ、側壁、処置対象組織間に画定された内部空間内に真空を生成可能とすることと、
・注入デバイスを起動して、内部空間に液体を充填可能とすることと、
・液体がウィンドウに接すると、注入デバイスを停止することと、
・所望の真空閾値に達するとすぐに吸引ポンプを停止することと、
・処置全体の期間において、一定の真空を維持することと、を含む。
【0045】
・処置が完了すると、接続インターフェースが処置対象組織から分離される。即ち、ウィンドウ、側壁、処置組織間に画定された内部空間内を大気圧に戻すことで、実現される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
以下の添付の図面を参照して、例示的かつ非限定的に以下に説明する内容から、本発明のその他の特徴と利点が明確になるだろう。
【
図1】従来技術の接続インターフェースの概略図である。
【
図2】従来技術の接続インターフェースの概略図である
【
図3】本発明による接続インターフェースの概略図である
【
図4】
図4Aは、本発明による接続インターフェースの概略図である。
図4Bは従来技術の接続インターフェースの概略図である
【
図5】本発明による接続インターフェースの概略図である。
【
図6】本発明による接続インターフェースの概略図である。
【
図7】本発明による接続インターフェースを設置する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明による接続インターフェースを以下に図面を参照にして説明する。これら異なる複数の図面において、同一の要素には同じ参照符号を付している。
【0048】
接続インターフェースは、レーザー光源と、処置対象2との間に配置されることが意図される。例えば、対象2は、眼球、特に角膜または水晶体のような、人間または動物の処置対象組織である。
【0049】
本明細書の以下において本発明は、例示的に人間または動物眼の角膜の処理に対して説明される。ただし、当業者であれば、本発明による接続インターフェースがその他用途にも利用できることが理解されよう。
【0050】
1.接続インターフェースの概要
図3に示すように、接続インターフェースはリング3を有する。リング3は、
・略円筒形または円錐形の側壁31と、
・処置対象の眼2に接することが意図された近位端311と、
・レーザー光源の端部を収容するように意図された遠位端312とを有する。
【0051】
接続インターフェースの特徴として、ウィンドウ32をさらに有する。これは、レーザー光線を透過し、リング3の遠位端312に密閉配置され、これにより、リング3の遠位端312が閉じられる。リング3は、したがって、患者の眼2に接するように意図された近位端311においてのみ開放されている。
【0052】
そして、
・リング3の側壁31と、
・透光性ウィンドウ32と、
・患者の眼2との間に画定された内部空間37内を真空とすることで、接続インターフェースは患者の眼2に取り付けられる。
【0053】
したがって、既存の接続インターフェースと異なり、真空を生成することにより接続インターフェースを眼2に取り付けることは、環状溝を作る2つの円形リム間における完全な支えを必要としない。
【0054】
この新規な設計により、接続インターフェースを定位置に保持するために必要な真空度合いは大幅に引き下げられる。この時にかけられる吸引力が、リング3に覆われた眼球の表面全体にかかるためである。
【0055】
実際、
図1の従来の接続インターフェースの概略図である
図4Bに示すように、例えば3ニュートンの吸引力を得るには、以下の真空を適用する必要がある。
P=F/S、
即ち、P=3/136.10
-6、
即ち、P=22058Pa=0.22bar=165mmHg
【0056】
図3に示す接続インターフェースの場合、同じ3ニュートンの吸引力に必要な真空は、以下のとおりである。
P=F/S、
即ち、P=3/301.10
-6、
即ち、P=9966Pa=0.099bar=74mmHg(
図4A参照)。
【0057】
したがって、
図3に示す接続インターフェースであれば、従来の接続インターフェースを保持するために必要な真空よりもかなり低い真空を生成することで、眼2上のリング3に取り付けられる。
【0058】
2.接続インターフェースの説明
2.1.リング
図3に示す実施形態では、リング3は、略円筒形の側壁31を有する。しかし、当業者であれば、リング3が、円錐台形状のように、軸A-A’に対して回転対称のその他形状を有してもよいことは明らかである。
【0059】
リング3の近位端311は、外側に湾曲した略円錐台形状のフレア状ネックを有する。これは、眼2の外面に対して、非外傷で適用できる。このフレア状ネックは、凹形状を有し、その曲率半径は、眼2の曲率半径と略同一で、接線接触が可能となる。
【0060】
リングが(従来の接続インターフェースにおける2つの円形リムではなく)単一のフレア状ネックを有することで、眼2とリング3との間の接触線の外周全体で完全接触が容易に実現できる。
【0061】
リング3は、その遠位端312で径方向内方に延在する環状冠部34を有する。環状冠部34は、透光性ウィンドウ32を保持する、収容部となる凹部を、その側面に備える。凹部により、透光性ウィンドウ32は容易に配置可能となる。当然、透光性ウィンドウを遠位端に密閉配置するその他任意の方法(例えば、溶接、接着、またはネジ止め)も考えられる。
【0062】
環状冠部34はさらに、側壁31と、透光性ウィンドウ32との間で延在する円形溝33を有する。この円形溝33が、気泡トラップを形成する。実際、角膜に近い屈折率の液体を接続インターフェースに充填する際に、気泡が形成されやすい。このような気泡は、特にレーザー光源が射出するレーザー光線の伝搬通路にある場合、処置効率に影響を及ぼす。気泡トラップが存在することで、レーザー光線の伝播通路外に、接続インターフェースに充填する際に生じた気泡を留めることが可能となる。これにより、施術者の良好な処置効率が保証される。透光性ウィンドウの形状を非平坦とすることによりこの効果が得られやすくなる。例えば、平行面を維持しながら、眼2に向かって凸となることで、当該溝へのガス泡が移動しやすくなるのである。
【0063】
2.2.ウィンドウ
図3に示すように、レーザー光源が生成したビームを透過するウィンドウ32は、円盤状である。当然、意図された用途に合わせて、ウィンドウの形状は異なっていてもよい(正方形、長方形、楕円)。
【0064】
ウィンドウ32は、ガラスまたはプラスチック(ポリカーボネート、ポリ(メタクリル酸メチル))のように異なる様々な材料で設計され得る。
【0065】
図3に示す実施形態では、ウィンドウ32とリング3とは2つの別個の部材である。しかし、いくつかの実施形態では、ウィンドウ32とリング3とが一体であってもよい(モノブロック)。これにより、リング3とウィンドウ32との間の接合部からの漏れのリスクが抑えられる。
【0066】
ウィンドウ32とリング3が接続インターフェースの別個の2つの部材である場合、ウィンドウはリング3に接着、溶接、またはウィンドウ32をリング3に取り付けるその他任意の技術により取り付けられてもよい。
【0067】
ウィンドウ32は、親水性物質の層に覆われてもよい。これにより、ウィンドウ32への気泡の貼り付きが抑えられる。
【0068】
ウィンドウ32は反射防止またはその他光学的処理が施されて、レーザー光線が波長に応じて透過しやすくするようにしてもよい。
【0069】
2.3.通路
接続インターフェースはさらに、リング3の側壁31内に配置された2本の管状貫通路をさらに有する。
【0070】
各貫通路35、36は、リングの側壁31の内面に開口し、軸A-A’に対して直交して、径方向外方に延在する。
【0071】
次の各通路により、遠隔デバイスが、対応するノズルを介して接続インターフェースに接続可能となる。
・第1通路36(「注入通路」と称する)。これにより、液体を内部空間37に注入するため、接続インターフェースが注入デバイスに接続可能となる。
・第2通路35(「吸引通路」と称する)。これにより、内部空間37内で真空を生成するため、接続インターフェースが吸引デバイスに接続可能とする。
【0072】
注入通路36は、ウィンドウ32を含む平面下で延在することが好ましい。
【0073】
吸引通路35は、円形溝33の側壁31の内面、即ち、ウィンドウ32を含む平面に開口することが好ましい。これにより、内部空間37の充填時に、液体がウィンドウ32に接触することが保証できる。
【0074】
図3に示す実施形態では、第1および第2通路35、36が上下に設けられている。これにより、各ノズル(一方が通路に接続され、他方が注入および吸引デバイスに接続)が、接続インターフェースの同一の側部に設けられる。この側部は、患者のこめかみ側に相当する。したがって、ノズルが鼻峯に接触しない。
【0075】
注入通路35の直径が、吸引通路36の直径よりも小さく成り得ることが有利である。注入および吸引デバイスがそれぞれ同時に起動されることが意図されている。そしてこの直径の差により、内部空間37を液体で満たす際に、真空を若干残すことができる。したがって、当該工程において、接続インターフェースの密閉が保証される。
【0076】
例えば、
図3に示す実施形態では、注入通路35の直径は0.5mmに等しくなるように選択され、吸引通路36の直径は、1mmに等しくなるように選択されている。
【0077】
3.動作原理
図3、5、6に示す接続デバイスと、
図7示す方法を参照して、本発明による接続インターフェースの動作原理をより詳細に説明する。第1および第2通路35、36が、吸引および注入デバイス(不図示)に対して、予めノズルを介して接続されているものとする。
【0078】
最初のステップ100において、施術者は接続インターフェースのリング3を眼2に配置し、レーザー処置の実施前に、中心合わせする。
【0079】
続くステップ200から300では、施術者は液体吸引デバイスおよび液体注入デバイスを同時に起動する:
- 吸引デバイスを起動することで、吸引力を発するように、内部空間37内に真空を生成可能となる、
- 注入デバイスを起動することで、角膜のドームを覆い、角膜のディオプトリを低減するのに必要な液体が、内部空間37内に満たされる。
【0080】
上述のように、注入通路35の直径(典型的には0.5mm)の寸法が、吸引通路36の直径(典型的には1mm)よりも小さくなるように、入念に選択されることで、液体を注入する際に、若干の真空が維持される。したがって、この後続のステップの際に、接続インターフェースの密閉が保証される。
【0081】
角膜2、壁31、ウィンドウ32間に画定された封止内部空間37は、1から2秒で充填され、同時に空気が吸引される。したがって、2から3秒で吸引力用に十分な真空が生成される。
【0082】
したがって充填は極めて迅速に完了し、特に操作を要しない。さらに、閉じたウィンドウ32と角膜2との間に空気が存在しないので、吸引通路35終端の円形バブルトラップ33内に、残った空気が閉じ込められる。
【0083】
さらに、吸引回路に含まれるガス容量が、従来の接続インターフェースの場合よりも少ない。このガスの一部が、圧縮不能の液体によって吸引と同時に置換されるためである。したがって、吸引力により強固な保持がより早く実現できる。
【0084】
液体がウィンドウに接すると、施術者は吸引デバイスを起動したまま、注入デバイスを止める(ステップ400)。
【0085】
そして、レーザー光源の端を液体38に接することなく、接続インターフェースに接続できる。
【0086】
4.結び
レーザー光源(特にフェムト秒レーザー)を利用して眼科で実施される手術では、典型的に、眼球を保持するシステムが利用される。当該システムは、患者にレーザービームがあてられている間中、起動していなければならない。
【0087】
実際、眼球の不慮の動きにより、ビームが処置対象外領域に達する虞があるのである。これにより、眼内構造に程度の差はあれど重大な病変が生じてしまう。
【0088】
公知の形状のデバイスで眼球を保持することはさらに、レーザービームを正確に対象に向けるために、眼球の空間内の位置を正確に把握する方法ともなり得る。
【0089】
したがって、眼球を保持することは、基本的工程であって、接続インターフェースと呼ばれるデバイスの使用が、最重要である。
【0090】
ただし、眼球の保持のために、異物と眼球表面との接触が生じ得る。また、動きに反した力の印加も伴い得る。固定した位置は長く保つことはできない。一般的には、患者の眼を接続インターフェースに吸い付けて置ける時間は、2から3分未満とすることが一般的である。それを超えると、患者の不快感や、眼球に対する過度の圧力が看過できないほどになってしまう。
【0091】
この限られた時間の大部分を、手術の主要工程のいくつかを担うレーザービーム曝露に充てるべきである。したがって、接続インターフェースの配置に時間がかかるほど、レーザー曝露の時間が短くなってしまう。
【0092】
したがって、この動作を可能な限り簡略化することが極めて重要である。それにより、所要時間だけではなく、患者の不快感やリスクを低減するのである。
【0093】
最後に、より消耗品点数を減らし、大きくコストが抑えられるので、このデバイスは広く普及できる。
【0094】
上述の新規接続インターフェースは、これら不利な点全てを解消するものである。
【0095】
読者は、本明細書に記載の新たな教示や利点から大きく乖離することなく、上述の本発明は多様に変形できることが理解されよう。
【0096】
例えば、上記説明では、接続インターフェースがレーザー光源の端部から外される。そこで患者処置手順は、レーザー光源の端部をインターフェースに配置するステップを含む。あるいは、接続インターフェースはレーザー光源の端部に固定されてもよい。この場合、インターフェースを患者の眼の中心に合わせることは、当業者に公知の手段で、自動的に実行される。
【0097】
最後に、この種の全ての変形は、添付の請求項の範囲に含まれることが意図される。