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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】トンネル掘削機
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
E21D9/06 302Z
E21D9/06 301A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020035987
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021139130
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-10-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521478094
【氏名又は名称】地中空間開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】花岡 泰治
(72)【発明者】
【氏名】横山 満久
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-155597(JP,A)
【文献】特開2002-013107(JP,A)
【文献】特開2005-247452(JP,A)
【文献】特開平11-350422(JP,A)
【文献】特開2010-065411(JP,A)
【文献】特開2019-163631(JP,A)
【文献】特開平06-262583(JP,A)
【文献】特開2010-037820(JP,A)
【文献】実開平06-085492(JP,U)
【文献】特開2000-110479(JP,A)
【文献】特開2017-172162(JP,A)
【文献】特開昭61-162699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機本体と、
前記掘削機本体に設置される錘部を含み、前記錘部を能動的に移動させることにより、所定の方向に振動を与えて、前記掘削機本体の振動を抑制する制振装置と、を備え、
前記制振装置は、前記掘削機本体の振動を抑制するように、隔壁よりも後方で前記掘削機本体の内部のみに配置されるように前記掘削機本体の内部で、かつ、円環状に配置された複数のカッタヘッド駆動装置の内周側に設置されている、トンネル掘削機。
【請求項2】
前記制振装置は、掘削方向と略直交する面内において、振動を与えて、前記掘削機本体の掘削方向と略直交する方向の振動を抑制するように構成されている、請求項1に記載のトンネル掘削機。
【請求項3】
前記掘削機本体は、カッタヘッドを有する掘削機構を含み、
前記制振装置は、前記掘削機構の後面に設置されている、請求項1または2に記載のトンネル掘削機。
【請求項4】
前記掘削機本体は、隔壁を有する筒状の前胴と、前記前胴の後方に配置される筒状の後胴とを含み、
前記制振装置は、前記前胴に覆われるように、前記前胴の内部に配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項5】
前記制振装置は、
掘削方向と略直交する前記面内において、第1方向に振動を与えて、前記掘削機本体の前記第1方向の振動を抑制する第1制振装置と、
掘削方向と略直交する前記面内において、前記第1方向と略直交する第2方向に振動を与えて、前記掘削機本体の前記第2方向の振動を抑制する第2制振装置と、を含む、請求項2に記載のトンネル掘削機。
【請求項6】
前記制振装置は、掘削方向に振動を与えて、前記掘削機本体の前後方向の振動を抑制する第3制振装置を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のトンネル掘削機。
【請求項7】
前記第1制振装置および前記第2制振装置の少なくとも一方は、掘削方向と略直交する前記面内において、前記掘削機本体の左右方向の中心線または上下方向の中心線の少なくとも一方に対して対称となるように、一対設けられている、請求項5に記載のトンネル掘削機。
【請求項8】
前記制振装置は、掘削方向から見て、カッタヘッドの回転方向に沿って略等角度間隔で並ぶように、複数設けられており、
複数の前記制振装置は、前記回転方向に沿った方向に振動を与えて、前記掘削機本体の前記回転方向の振動を抑制するように構成されている、請求項2に記載のトンネル掘削機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削機本体の振動を抑制する制振装置を備えるトンネル掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、掘削機本体の振動を抑制する制振装置を備えるトンネル掘削機が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、胴体に設置される複数の振動発生用ジャッキを備えたトンネル掘削機が開示されている。振動発生用ジャッキは、トンネル掘削機の前後に分割された2つの胴体を連結する形で設置されている。すなわち、振動発生用ジャッキは、一端および他端の両方が2つの構造物に支持される形で設置されている。トンネル掘削機は、2つの構造物に支持される状態で、複数の振動発生用ジャッキを伸縮させて2つの構造物間で反力を発生させることにより、カッタヘッドに発生した振動を抑制するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-172162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のトンネル掘削機では、カッタヘッドに発生した振動を抑制するためには、伸縮により2つの構造物(前後の胴体)間で反力が発生するように、振動発生用ジャッキを、一端および他端の両方が2つの構造物に支持される形で設置しなければならない。このため、振動発生用ジャッキの設置箇所が限られてしまうという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、制振装置の設置箇所の選択の自由度を向上させることが可能なトンネル掘削機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明のトンネル掘削機は、掘削機本体と、掘削機本体に設置される錘部を含み、錘部を能動的に移動させることにより、所定の方向に振動を与えて、掘削機本体の振動を抑制する制振装置と、を備え、制振装置は、掘削機本体の振動を抑制するように、隔壁よりも後方で掘削機本体の内部のみに配置されるように掘削機本体の内部で、かつ、円環状に配置された複数のカッタヘッド駆動装置の内周側に設置されている。

【0008】
この発明のトンネル掘削機では、上記のように、掘削機本体に設置される錘部を含み、錘部を能動的に移動させることにより、所定の方向に振動を与えて、掘削機本体の振動を抑制する制振装置を設ける。これによって、2つの構造物間に設置されたジャッキの反力により振動を抑制する従来のトンネル掘削機とは異なり、錘部を移動させることによって、掘削機本体に発生する振動を打ち消す(相殺する)振動を発生させることができるので、制振装置の両端が構造物に支持される形(挟まれる形)で制振装置を設置する必要がない。すなわち、制振装置の設置箇所の選択の自由度を向上させることができる。
【0009】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、制振装置は、掘削方向と略直交する面内において、振動を与えて、掘削機本体の掘削方向と略直交する方向の振動を抑制するように構成されている。このように構成すれば、制振装置により掘削機本体の掘削方向と略直交する方向の振動を抑制することができるので、胴体の周囲を取り囲む地盤に振動が伝わるのを抑制することができる。
【0010】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、掘削機本体は、カッタヘッドを有する掘削機構を含み、制振装置は、掘削機構の後面に設置されている。このように構成すれば、カッタヘッドにより発生した掘削方向の振動が直接伝わる位置に制振装置を設置することができるので、カッタヘッドに発生した掘削方向の振動を効果的に抑制することができる。なお、2つの構造物の間にジャッキを設置する従来のトンネル掘削機では、掘削機構の後面のような単一の面にジャッキを設置すると片持ち状になってしまうため、掘削方向に略直交する方向の振動を抑制可能な状態で設置することができない。
【0011】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、掘削機本体は、隔壁を有する筒状の前胴と、前胴の後方に配置される筒状の後胴とを含み、制振装置は、前胴に覆われるように、前胴の内部に配置されている。このように構成すれば、前胴の内部の空いた空間を、制振装置の配置スペースとして有効に活用することができる。また、トンネル掘削機の前方ほど、カッタヘッドに近づくため、掘削方向に直交する方向の振動が発生しやすくなる。そこで、前胴の内部に制振装置を配置することによって、トンネル掘削機の隔壁に近い位置(トンネル掘削機の前方位置)に制振装置を配置することができるので、制振装置により効果的に掘削方向に直交する方向の振動を抑制することができる。なお、掘削直後は掘削機本体の回りにボイドが発生し、後方に向けて徐々にボイドが小さくなる。この点からも、トンネル掘削機の前方ほど、掘削方向に直交する方向の振動が発生しやすくなるといえる。
【0012】
上記制振装置が掘削方向と略直交する面内において振動を与える構成において、好ましくは、制振装置は、掘削方向と略直交する面内において、第1方向に振動を与えて、掘削機本体の第1方向の振動を抑制する第1制振装置と、掘削方向と略直交する面内において、第1方向と略直交する第2方向に振動を与えて、掘削機本体の第2方向の振動を抑制する第2制振装置と、を含む。このように構成すれば、第1制振装置および第2制振装置により、掘削方向と略直交する面内において、掘削機本体に発生する振動を、互いに(略)直交する複数の方向成分に対して、振動を直接抑制することができる。このため、掘削方向に直交する方向における掘削機本体の振動を効果的に抑制することができる。
【0013】
上記トンネル掘削機において、好ましくは、制振装置は、掘削方向に振動を与えて、掘削機本体の前後方向の振動を抑制する第3制振装置を含む。このように構成すれば、第3制振装置により、掘削機本体に発生する掘削方向(前後方向)成分の振動を、直接抑制することができる。
【0014】
上記制振装置が第1制振装置と第2制振装置とを含む構成において、好ましくは、第1制振装置および第2制振装置の少なくとも一方は、掘削方向と略直交する面内において、掘削機本体の左右方向の中心線または上下方向の中心線の少なくとも一方に対して対称となるように、一対設けられている。このように構成すれば、第1制振装置および第2制振装置の少なくとも一方を、掘削機本体に対してバランスよく配置することができるので、掘削方向に直交する方向における掘削機本体の振動をより効果的に抑制することができる。
【0015】
上記制振装置が掘削方向と略直交する面内において振動を与える構成において、好ましくは、制振装置は、掘削方向から見て、カッタヘッドの回転方向に沿って略等角度間隔で並ぶように、複数設けられており、複数の制振装置は、回転方向に沿った方向に振動を与えて、掘削機本体の回転方向の振動を抑制するように構成されている。このように構成すれば、カッタヘッドの回転方向に沿って略等角度間隔で配置される複数の制振装置により、カッタヘッドの回転方向において、カッタヘッド駆動装置により発生する回転方向の振動を効果的に、かつ、バランスよく抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のように、制振装置の設置箇所の選択の自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態によるトンネル掘削機を側方から示した模式的な断面図である。
図2】第1実施形態によるトンネル掘削機を後方から示した模式的な図である。
図3】第2実施形態によるトンネル掘削機を後方から示した模式的な図である。
図4】第1実施形態の変形例によるトンネル掘削機を側方から示した模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
[第1実施形態]
図1および図2を参照して、第1実施形態によるトンネル掘削機100について説明する。
【0020】
図1に示すように、トンネル掘削機100は、掘削機本体1と、振動センサ2と、第1制振装置3と、第2制振装置4と、第3制振装置5とを備えている。
【0021】
トンネル掘削機100は、掘削機本体1の各種の振動を振動センサ2により検出して、第1制振装置3、第2制振装置4および第3制振装置5により掘削機本体1の各種の振動を抑制するように構成されている。詳細については後述する。
【0022】
各図では、トンネルの掘削方向に沿って延びるトンネル掘削機100の中心軸線αに平行な方向(前後方向)をX方向により示す。X方向のうち、掘削方向(前方)をX1方向とし、掘削方向の反対方向である後方をX2方向により示す。
【0023】
また、各図では、X方向に略直交する面内において、掘削方向(X1方向)と直交する左右方向をY方向により示す。なお、Y方向は、特許請求の範囲の「第1方向」の一例である。
【0024】
また、各図では、X方向に略直交する面内において、Y方向と直交する上下方向をZ方向により示す。Z方向のうち、上方をZ1方向により示し、下方をZ2方向により示す。なお、Z方向は、特許請求の範囲の「第2方向」の一例である。
【0025】
第1実施形態では、トンネル掘削機100が泥土圧式のトンネル掘削機である例を示している。泥土圧式のトンネル掘削機100では、カッタヘッド12により掘削された土砂と土砂に注入された作泥材とがチャンバC内で混合され、掘削土砂が不透水性と塑性流動性とを持つ泥土に変換される。掘削土砂(泥土)は、チャンバC内およびスクリュコンベアS内に充満する。トンネル掘削機100は、シールドジャッキ(図示せず)によって推進することによって、掘削した土砂をチャンバC内に充満させ加圧し、地山側の圧力(土圧および地下水圧)に対抗させる。トンネル掘削機100は、掘削量と排土量とのバランスによって圧力の平衡を図りながら掘削方向に前進する。
【0026】
(掘削機本体の構成)
掘削機本体1は、円筒状の前胴10と、円筒状の後胴11と、カッタヘッド12と、カッタヘッド12を支持する旋回支持部13と、複数のカッタヘッド駆動装置14とを備えている。なお、カッタヘッド12と、カッタヘッド12を支持する旋回支持部13と、複数のカッタヘッド駆動装置14とは、掘削機構15を構成している。
【0027】
前胴10の内側には、隔壁10aが設けられている。隔壁10aは、掘削方向(X1方向)と直交する方向に延びており、前方側の空間であるチャンバCと、後方側の空間である作業空間とに、前胴10の内部空間を区画している。後胴11は、前胴10の後方(X2方向)に配置されている。後胴11の内側には、セグメントを組み付けるエレクタ(図示せず)が配置されている。
【0028】
カッタヘッド12は、土砂を掘削する複数のカッタビットを有している。カッタヘッド12は、掘削機本体1の掘削方向の前端に設けられている。カッタヘッド12は、後方側(X2方向側)から旋回支持部13により回転可能に支持されている。旋回支持部13は、トンネル掘削機100の中心軸線αを中心として、前胴10に対して回転可能なように構成されている。カッタヘッド12は、旋回支持部13を介してカッタヘッド駆動装置14によって回転力(トルク)が付与されることにより、トンネル掘削機100の中心軸線α回りに回転するように構成されている。
【0029】
一例ではあるが、カッタヘッド駆動装置14は、電気モータにより構成されている。カッタヘッド駆動装置14は、隔壁10aの後方に配置されている。複数のカッタヘッド駆動装置14は、掘削方向から見て、カッタヘッド12の回転方向に沿って円環状に配置されている。
【0030】
(振動センサの構成)
振動センサ2は、掘削機本体1の各種の振動を検知するように構成されている。各種の振動とは、たとえば、カッタヘッド12により地盤を掘削する際に発生する掘削振動や、掘削機本体1と周辺の地盤との摩擦により発生する振動、各摺接部における摩擦による発生する振動、掘削機本体1を前進させる油圧ジャッキの脈動により発生する振動、カッタヘッド駆動装置14において発生する振動などである。一例ではあるが、振動センサ2は、3軸の加速度センサにより構成されている。
【0031】
振動センサ2は、掘削機本体1に設置されている。振動センサ2の設置箇所は、上記の各種の振動を検知できる位置であればいかなる位置でもよい。一例ではあるが、振動センサ2は、掘削機構15の後面15aに設置されている。振動センサ2の検知信号は、制御部(図示せず)により取得される。制御部は、振動センサ2の検知信号に基づいて、第1制振装置3、第2制振装置4および第3制振装置5の各駆動を制御するように構成されている。
【0032】
トンネル掘削機100は、第1制振装置3を駆動させて、振動センサ2の検知した左右方向(Y方向)における振動とは逆位相の振動を発生させることにより、掘削機本体1の左右方向(Y方向)における振動を抑制するように構成されている。また、トンネル掘削機100は、第2制振装置4を駆動させて、振動センサ2の検知した上下方向(Z方向)における振動とは逆位相の振動を発生させることにより、掘削機本体1の上下方向(Z方向)における振動を抑制するように構成されている。また、トンネル掘削機100は、第3制振装置5を駆動させて、振動センサ2の検知した掘削方向(X1方向)における振動とは逆位相の振動を発生させることにより、掘削機本体1の掘削方向(X1方向)における振動を抑制するように構成されている。
【0033】
すなわち、トンネル掘削機100は、第1制振装置3、第2制振装置4および第3制振装置5により、掘削機本体1に発生する振動を、互いに(略)直交する方向成分毎に分けて、振動を抑制するように構成されている。
【0034】
(第1制振装置の構成)
図2に示すように、第1制振装置3は、掘削機本体1の掘削機構15の後面15aに設置され、掘削方向(X1方向)と略直交する面内において、左右方向(Y方向)に延びている。第1制振装置3は、掘削機本体1の左右方向(Y方向)の振動を抑制するように構成されている。
【0035】
第1制振装置3は、掘削方向(X1方向)と略直交する面内において、掘削機本体1の左右方向(Y方向)の中心線βに対して対称となるように、一対設けられている。すなわち、第1制振装置3は、左右方向(Y方向)にバランスよく一対設けられている。第1制振装置3は、円環状に配置された複数のカッタヘッド駆動装置14の内側に配置されている。
【0036】
第1制振装置3は、錘部30と、錘部30の左右方向(Y方向)への移動をガイドするガイド部材31と、錘部30をガイド部材31に沿って能動的に移動させる錘部駆動装置32とを含んでいる。
【0037】
ガイド部材31は、左右方向(Y方向)に延びている。第1制振装置3は、錘部駆動装置32により、錘部30をガイド部材31に沿って左右方向(Y方向)に往復移動させることによって、掘削機本体1の左右方向(Y方向)の振動を打ち消す(相殺する)ように構成されている。すなわち、第1制振装置3は、アクティブマスダンパ(Active Mass Damper)である。なお、一例ではあるが、錘部駆動装置32は、油圧式または電動式の駆動装置である。
【0038】
(第2制振装置の構成)
第2制振装置4は、掘削機本体1の掘削機構15の後面15aに設置され、掘削方向と略直交する面内において、掘削方向および第1方向と略直交する第2方向に延びている。第2制振装置4は、掘削機本体1の上下方向(第2方向)の振動を抑制するように構成されている。
【0039】
第2制振装置4は、掘削方向(X1方向)と略直交する面内において、掘削機本体1の左右方向(Y方向)の中心線βに対して対称となるように、一対設けられている。また、第2制振装置4は、掘削機本体1の上下方向(Z方向)の中心線γ上に配置されている。第2制振装置4は、円環状に配置された複数のカッタヘッド駆動装置14の内側に配置されている。第2制振装置4は、上下方向(Z方向)において、第2制振装置4の上方側(Z1方向側)に位置する第1制振装置3と、第2制振装置4の下方側(Z2方向側)に位置する第3制振装置5との間に挟まれるようにして配置されている。
【0040】
第2制振装置4は、錘部40と、錘部40の上下方向(Z方向)への移動をガイドするガイド部材41と、錘部40をガイド部材41に沿って能動的に移動させる錘部駆動装置42とを含んでいる。
【0041】
ガイド部材41は、上下方向(Z方向)に延びている。第2制振装置4は、錘部駆動装置42により、錘部40をガイド部材41に沿って上下方向(Z方向)に往復移動させることによって、掘削機本体1の上下方向(Z方向)の振動を打ち消す(相殺する)ように構成されている。すなわち、第2制振装置4は、アクティブマスダンパ(Active Mass Damper)である。
【0042】
(第3制振装置の構成)
第3制振装置5は、掘削機本体1の掘削機構15の後面15aに設置され、掘削方向(X1方向)に延びている。第3制振装置5は、掘削機本体1の前後方向(X方向)の振動を抑制するように構成されている。
【0043】
第3制振装置5は、掘削方向(X1方向)と略直交する面内において、掘削機本体1の左右方向(Y方向)の中心線βに対して対称となるように、一対設けられている。第3制振装置5は、円環状に配置された複数のカッタヘッド駆動装置14の内側に配置されている。
【0044】
第3制振装置5は、錘部50と、錘部50の前後方向(X方向)への移動をガイドするガイド部材51と、錘部50をガイド部材51に沿って能動的に移動させる錘部駆動装置52(図1参照)とを含んでいる。
【0045】
ガイド部材51は、掘削方向(X1方向)に延びている。第3制振装置5は、錘部駆動装置52により、錘部50をガイド部材51に沿って前後方向(X方向)に往復移動させることによって、掘削機本体1の前後方向(X方向)の振動を打ち消す(相殺する)ように構成されている。すなわち、第3制振装置5は、アクティブマスダンパ(Active Mass Damper)である。
【0046】
[第1実施形態の効果]
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0047】
第1実施形態では、上記のように、掘削機本体1に設置される錘部30、40および50を含み、錘部30、40および50を能動的に移動させることにより、所定の方向に振動を与えて、掘削機本体1の振動を抑制する制振装置(第1制振装置3、第2制振装置4、第3制振装置5)を設ける。これによって、2つの構造物間に設置されたジャッキの反力により振動を抑制する従来のトンネル掘削機とは異なり、錘部30、40および50を移動させることによって、掘削機本体1に発生する振動を打ち消す(相殺する)振動を発生させることができるので、制振装置(第1制振装置3、第2制振装置4、第3制振装置5)の両端が構造物に支持される形(挟まれる形)で制振装置(第1制振装置3、第2制振装置4、第3制振装置5)を設置する必要がない。すなわち、制振装置(第1制振装置3、第2制振装置4、第3制振装置5)の設置箇所の選択の自由度を向上させることができる。
【0048】
第1実施形態では、上記のように、制振装置(第1制振装置3、第2制振装置4、第3制振装置5)は、掘削方向と略直交する面内において、振動を与えて、掘削機本体1の掘削方向と略直交する方向の振動を抑制するように構成されている。これによって、制振装置(第1制振装置3、第2制振装置4、第3制振装置5)により掘削機本体1の掘削方向と略直交する方向の振動を抑制することができるので、胴体の周囲を取り囲む地盤に振動が伝わるのを抑制することができる。
【0049】
第1実施形態では、上記のように、掘削機本体1は、カッタヘッド12を有する掘削機構15を含み、制振装置(第1制振装置3、第2制振装置4、第3制振装置5)は、掘削機構15の後面15aに設置されている。これによって、カッタヘッド12により発生した掘削方向の振動が直接伝わる位置に制振装置(第1制振装置3、第2制振装置4、第3制振装置5)を設置することができるので、カッタヘッド12に発生した掘削方向の振動を効果的に抑制することができる。なお、2つの構造物の間にジャッキを設置する従来のトンネル掘削機では、掘削機構の後面のような単一の面にジャッキを設置すると片持ち状になってしまうため、掘削方向に略直交する方向の振動を抑制可能な状態で設置することができない。
【0050】
第1実施形態では、上記のように、掘削方向と略直交する面内において、Y方向に振動を与えて、掘削機本体1のY方向の振動を抑制する第1制振装置3と、掘削方向と略直交する面内において、Y方向と略直交するZ方向に振動を与えて、掘削機本体1のZ方向の振動を抑制する第2制振装置4とを設ける。これによって、第1制振装置3および第2制振装置4により、掘削方向と略直交する面内において、掘削機本体1に発生する振動を、互いに(略)直交する複数の方向成分に対して、振動を直接抑制することができる。このため、掘削方向に直交する方向における掘削機本体1の振動を効果的に抑制することができる。
【0051】
第1実施形態では、上記のように、掘削方向に振動を与えて、掘削機本体1の前後方向の振動を抑制する第3制振装置5を設ける。これによって、第3制振装置5により、掘削機本体1に発生する掘削方向(前後方向)成分の振動を、直接抑制することができる。
【0052】
第1実施形態では、上記のように、第1制振装置3および第2制振装置4は、掘削方向と略直交する面内において、掘削機本体1の左右方向の中心線または上下方向の中心線に対して対称となるように、一対設けられている。これによって、第1制振装置3および第2制振装置4を、掘削機本体1に対してバランスよく配置することができるので、掘削方向に直交する方向における掘削機本体1の振動をより効果的に抑制することができる。
【0053】
[第2実施形態]
図3を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態は、第1制振装置3を左右方向(Y方向)に延びるように配置するとともに、第2制振装置4を上下方向(Z方向)に延びるように配置した上記第1実施形態とは異なり、第1制振装置203および第2制振装置204を左右方向に対して傾斜した方向に延びるように配置する例について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成には、同じ符号を付して図示する。
【0054】
図3に示すように、第2実施形態によるトンネル掘削機200は、一対の第1制振装置203と、一対の第2制振装置204とを備えている。
【0055】
(第1制振装置の構成)
第1制振装置203は、掘削機本体1の掘削機構15の後面15aに設置されている。第1制振装置203は、複数のカッタヘッド駆動装置14の近傍に配置されている。
【0056】
第1制振装置203は、掘削方向(X1方向)と略直交する面内において、「左右方向(Y方向)に対して約45度傾斜した方向(図3ではA方向により示す)」に延びている。なお、「左右方向(Y方向)および上下方向(Z方向)に対して約45度傾斜した方向」は、特許請求の範囲の「第1方向」の一例である。
【0057】
一対の第1制振装置203のうちの一方を中心軸線α回りに180度回転させた位置に、一対の第1制振装置203のうちの他方が配置されている。第1制振装置203は、掘削機本体1のA方向の振動を抑制するように構成されている。
【0058】
(第2制振装置の構成)
一対の第2制振装置204は、中心線βおよび中心線γに対して、一対の第1制振装置203と線対称となる位置に配置されている。第2制振装置204は、掘削機本体1の掘削機構15の後面15aに設置されている。第2制振装置204は、複数のカッタヘッド駆動装置14の近傍に配置されている。
【0059】
第2制振装置204は、掘削方向(X1方向)と略直交する面内において、「左右方向(Y方向)に対して約-45度傾斜した方向(図3ではB方向により示す)」に延びている。なお、「左右方向(Y方向)および上下方向(Z方向)に対して約-45度傾斜した方向」は、特許請求の範囲の「第2方向」の一例である。
【0060】
一対の第2制振装置204のうちの一方を中心軸線α回りに180度回転させた位置に、一対の第2制振装置204のうちの他方が配置されている。第2制振装置204は、掘削機本体1のB方向の振動を抑制するように構成されている。
【0061】
第1制振装置203および第2制振装置204は、カッタヘッド12(図1参照)の回転方向Rに沿って、略等角度間隔(約90度間隔)で並ぶように交互に配置されている。したがって、複数の第1制振装置203および複数の第2制振装置204は、回転方向Rに沿った方向に振動を与えて、掘削機本体1の回転方向Rの振動を抑制するように構成されている。
【0062】
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0063】
[第2実施形態の効果]
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0064】
第2実施形態では、上記第1実施形態と同様に、掘削機本体1に設置される錘部30および40を含み、錘部30および40を能動的に移動させることにより、所定の方向に振動を与えて、掘削機本体1の振動を抑制する制振装置(第1制振装置203、第2制振装置204)を設ける。これによって、制振装置(第1制振装置203、第2制振装置204)の設置箇所の選択の自由度を向上させることができる。
【0065】
第2実施形態では、上記のように、制振装置(第1制振装置203、第2制振装置204)は、掘削方向から見て、カッタヘッド12の回転方向に沿って略等角度間隔で並ぶように、複数設けられており、複数の制振装置(第1制振装置203、第2制振装置204)は、回転方向に沿った方向に振動を与えて、掘削機本体1の回転方向の振動を抑制するように構成されている。これによって、カッタヘッド12の回転方向に沿って略等角度間隔で配置される複数の制振装置(第1制振装置203、第2制振装置204)により、カッタヘッド12の回転方向において、カッタヘッド駆動装置14により発生する回転方向の振動を効果的に、かつ、バランスよく抑制することができる。
【0066】
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0067】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0068】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、泥土圧式のトンネル掘削機に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明を、泥水式のトンネル掘削機に適用してもよい。
【0069】
また、上記第1および第2実施形態では、カッタヘッドを備える密閉型のトンネル掘削機に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明を、カッタヘッドを備えない開放型のトンネル掘削機に適用してもよい。
【0070】
また、上記第1実施形態では、本発明の制振装置の錘部を掘削方向に移動させて振動を抑制した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制振装置の錘部を掘削方向に直交する方向のみに移動させて振動を抑制してもよい。
【0071】
また、上記第2実施形態では、制振装置の錘部を掘削方向に直交する方向のみに移動させて振動を抑制した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制振装置の錘部を掘削方向にも移動させて振動を抑制してもよい。
【0072】
また、上記第1および第2実施形態では、本発明の制振装置の錘部を掘削方向に直交する方向に移動させて振動を抑制した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、本発明の制振装置の錘部を掘削方向のみに移動させて振動を抑制してもよい。
【0073】
また、上記第1および第2実施形態では、第1制振装置(第2制振装置、第3制振装置)を、一対設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1制振装置(第2制振装置、第3制振装置)を、1つまたは3つ以上設けてもよい。
【0074】
また、上記第1および第2実施形態では、本発明の制振装置を、環状に配置される複数のカッタヘッド駆動装置の内側に配置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制振装置を、環状に配置される複数のカッタヘッド駆動装置の外側に配置してもよい。
【0075】
また、上記第1および第2実施形態では、振動センサを1つのみ設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、振動センサを複数設けてもよい。この場合、各制振装置毎に専用の振動センサを設けてもよい。
【0076】
また、上記第1および第2実施形態では、本発明の制振装置を、掘削機構の後面に設置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図4に示す第1実施形態の変形例のトンネル掘削機300ように、制振装置303を、前胴10に覆われるように、前胴10の内部に配置してもよい。これによって、前胴10の内部の空いた空間を、制振装置303の配置スペースとして有効に活用することができる。
【0077】
また、上記第1および第2実施形態では、本発明の制振装置の錘部を、直線状に往復移動させた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では錘部を回転させてもよい。具体例として、回転軸から同一距離偏心した2つの錘を逆回転させることで1方向に振動を発生させてもよい。
【0078】
また、上記第2実施形態では、4つの制振装置を、掘削方向から見て、カッタヘッドの回転方向に沿って略等角度間隔(略90度間隔)で並ぶように設けて、回転方向に沿った方向に振動を与えて、掘削機本体の回転方向の振動を抑制した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、3つの制振装置を、掘削方向から見て、カッタヘッドの回転方向に沿って略等角度間隔(略120度間隔)で並ぶように設けて、回転方向に沿った方向に振動を与えて、掘削機本体の回転方向の振動を抑制してもよい。
【0079】
また、本発明の制振装置の配置は、上記第1および第2実施形態に示した配置に限られない。たとえば、4つの制振装置を掘削方向に対して45度傾斜させるとともに、制振装置の各々を正方形の頂点を向くように配置してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 掘削機本体
3、203、303 第1制振装置
4、204 第2制振装置
5 第3制振装置
10 前胴
10a 隔壁
11 後胴
12 カッタヘッド
15 掘削機構
15a 後面
30、40、50 錘部
100、200、300 トンネル掘削機
図1
図2
図3
図4