(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20240129BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240129BHJP
H01L 25/065 20230101ALI20240129BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20240129BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
H01L21/52 B
H01L21/52 A
H01L25/08 E
C09J201/00
(21)【出願番号】P 2020039951
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅生 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】天野 彩那
(72)【発明者】
【氏名】服部 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武志
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104862(JP,A)
【文献】特開2011-082480(JP,A)
【文献】特開2019-153619(JP,A)
【文献】特開2019-134020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 25/07
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板と、
前記配線基板に搭載された第1の半導体チップと、
前記第1の半導体チップを
埋め込むように前記配線基板
の上に設けられた接着層と
、
前記第1の半導体チップの上に積み重ねて搭載された複数の第2の半導体チップと、
前記第1の半導体チップ及び前記複数の第2の半導体チップを封止するように、前記配線基板の上に設けられた封止樹脂層と、を具備し、
前記接着層は、125℃における破壊強度が15MPa以上の樹脂含有材を含
み、
積み重ねられた前記複数の第2の半導体チップによる積層体の厚さは、前記封止樹脂層の上面から前記配線基板の下面までの厚さの67%以上である、半導体装置。
【請求項2】
前記樹脂含有材の線膨張係数が70ppm以下である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記樹脂含有材の前記配線基板の構成材料との接着強度が10MPa以上である、請求項1又は請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記接着層の厚さが40μm以上150μm以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の小型化、高速化、高機能化等を実現するために、1つのパッケージ内に複数の半導体チップを積層して封止した構造の半導体記憶装置等の半導体パッケージが実用化されている。半導体記憶装置は、例えば配線基板上にFOD(Film On Device)材によりコントローラチップを埋め込みつつ接着し、FOD材上にメモリチップを多段に積層した構造を備えている。このような半導体記憶装置を構成する半導体装置においては、メモリチップの積層数が増加しており、16段、24段、32段というような個数でメモリチップを積層することが行われている。多段に積層された半導体チップを有する半導体装置においては、配線基板に接着されたFOD材に亀裂が生じ、基板配線を断裂させて不良を生じさせるおそれがあることから、FOD材のような接着層の亀裂を抑制することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第8896112号明細書
【文献】特開2018-041966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、半導体チップを配線基板に接着する接着層の亀裂及びそれに起因する基板配線の断裂等を抑制することを可能にした半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の半導体装置は、配線基板と、前記配線基板に搭載された第1の半導体チップと、前記第1の半導体チップを埋め込むように前記配線基板の上に設けられた接着層と、前記第1の半導体チップの上に積み重ねて搭載された複数の第2の半導体チップと、前記第1の半導体チップ及び前記複数の第2の半導体チップを封止するように、前記配線基板の上に設けられた封止樹脂層と、を具備し、前記接着層は、125℃における破壊強度が15MPa以上の樹脂含有材を含み、積み重ねられた前記複数の第2の半導体チップによる積層体の厚さは、前記封止樹脂層の上面から前記配線基板の下面までの厚さの67%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態による半導体装置を示す断面図である。
【
図2】実施形態の接着層としての樹脂含有材(試料1、2)及び比較例としての樹脂含有材(試料3、4)の引張試験結果を示す図である。
【
図3】試料1の接着層を有する半導体装置の1000サイクルのTCT試験後の配線基板の状態を示す図である。
【
図4】試料2の接着層を有する半導体装置の1000サイクルのTCT試験後の配線基板の状態を示す図である。
【
図5】試料3の接着層を有する半導体装置の1000サイクルのTCT試験後の配線基板の状態を示す図である。
【
図6】試料4の接着層を有する半導体装置の1000サイクルのTCT試験後の配線基板の状態を示す図である。
【
図7】第2の実施形態による半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の半導体装置について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下等の方向を示す用語は、特に明記が無い場合には後述する基板の半導体チップ搭載面を上とした場合の相対的な方向を示し、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態による半導体装置を示す断面図である。
図1に示す半導体装置1は、配線基板2と、配線基板2上に搭載された第1の半導体チップ3と、第1の半導体チップ3を埋め込みつつ配線基板2に接着する第1の接着層(FOD)4と、第1の接着層4上に第2の接着層5を介して固着された複数の第2の半導体チップ6の積層体7と、第1の半導体チップ3や第2の半導体チップ6の積層体7等を封止するように配線基板2上に設けられた封止樹脂層8とを具備している
【0009】
配線基板2は、例えば絶縁性樹脂基板や絶縁性セラミックス基板等の表面に設けられた配線層9や内部に設けられた配線層10等から構成された配線網を有するものであり、具体的にはガラス-エポキシ樹脂のような絶縁樹脂を使用したプリント配線板等が挙げられる。配線層9、10は、例えば銅や銅合金、金や金合金等の金属材料により構成される。配線基板2は、外部端子の形成面等となる第1の面2aと、半導体チップ3、6の搭載面となる第2の面2bとを有している。
【0010】
配線基板2の第2の面2b上には、第1の半導体チップ3が搭載されており、第1の半導体チップ3は第1の接着層4内に埋め込まれつつ配線基板2のチップ搭載領域に接着されている。第1の半導体チップ3は、40μm程度の厚さを有しており、第1の接着層4は80~150μm程度の厚さ、また場合によっては40~150μm程度の厚さを有している。第1の半導体チップ3が埋め込まれる第1の接着層4は、後に詳述するように、125℃における破壊強度が15MPa以上の樹脂含有材を含んでいる。ここで、第1の接着層4を構成する樹脂含有材とは、第1の接着層4の形成に用いる接着剤の硬化物を意味する。第1の半導体チップ3としては、例えば第2の半導体チップ6として用いられる半導体メモリチップと外部機器との間でデジタル信号を送受信するコントローラチップやインターフェースチップ、ロジックチップ、RFチップ等のシステムLSIチップが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0011】
第1の半導体チップ3の電極(図示せず)は、ボンディングワイヤ11を介して配線基板2の配線層9と電気的に接続されている。コントローラチップ等の第1の半導体チップ3を配線基板2上に直接搭載することによって、第1の半導体チップ3と配線基板2との間の配線長を短縮することができる。これによって、第1の半導体チップ3と配線基板2との間の信号転送速度の向上等が図れ、半導体装置1の高速化対応が可能になる。さらに、第1の半導体チップ3が第1の接着層4内に埋め込まれているため、配線基板2に対する第2の半導体チップ6の搭載性を低下させたり、またパッケージサイズの小型化等を妨げることもない。従って、小型で高速デバイスに対応させた半導体装置1を提供することが可能になる。
【0012】
コントローラチップ等の第1の半導体チップ3の外形形状は、半導体メモリチップ等の第2の半導体チップ6のそれに比べて小さいことが一般的である。そこで、配線基板2上に搭載された第1の半導体チップ3を第1の接着層4内に埋め込んだ上で、第1の接着層4上に複数の第2の半導体チップ6を積層して搭載している。第2の半導体チップ6の具体例としては、NAND型フラッシュメモリのような半導体メモリチップが挙げられるが、これに限られるものではない。第1の実施形態においては、16個の半導体メモリチップが第2の半導体チップ6として積層して搭載されている。なお、第2の半導体チップ6の積層数は16段に限らず、24段、32段等であってもよい。
【0013】
第1の接着層4上に搭載された複数の第2の半導体チップ6のうち、1段目から4段目までの第2の半導体チップ6はそれぞれの電極が露出するように、第1の方向(図中、紙面右方向)に電極が配列された端部をずらして階段状に積層されている。5段目から8段目までの第2の半導体チップ6はそれぞれの電極が露出するように、第1の方向とは反対方向の第2の方向(図中、紙面左方向)に電極が配列された端部をずらして階段状に積層されている。9段目から12段目までの第2の半導体チップ6はそれぞれの電極が露出するように、第1の方向に電極が配列された端部をずらして階段状に積層されている。13段目から16段目までの第2の半導体チップ6はそれぞれの電極が露出するように、第2の方向に電極が配列された端部をずらして階段状に積層されている。
【0014】
複数の第2の半導体チップ6のうち、1段目の第2の半導体チップ6は第2の接着層5を介して第1の接着層4上に固着されている。第2の接着層5には、一般的なDAF(Die Attach Film)等の接着剤が用いられる。1段目以外の第2の半導体チップ6は、
図1では図示を省略したDAF等の接着剤によって、下側に位置する第2の半導体チップ6に固着されている。第2の半導体チップ6の電極(図示せず)は、ボンディングワイヤ12を介して配線基板2の配線層9と電気的に接続されている。電気特性や信号特性が等しい電極パッドに関しては、配線基板2の配線層9と複数の第2の半導体チップ6の電極パッドとをボンディングワイヤ12で順に接続することができる。すなわち、1段目から4段目までの第2の半導体チップ6の電極は、ボンディングワイヤ12で順に接続し、1段目の第2の半導体チップ6の電極と配線基板2の配線層9とをボンディングワイヤ12で接続している。5~8段目の第2の半導体チップ6、9~12段目の第2の半導体チップ6、及び13~16段目の第2の半導体チップ6も同様である。
【0015】
複数の第2の半導体チップ6のうち、5段目、9段目、及び13段目の第2の半導体チップ6は、それぞれワイヤボンディングされる電極が配列された端部がそれぞれの下側に位置する第2の半導体チップ6より突出している。このため、5段目、9段目、及び13段目の第2の半導体チップ6の厚さは、ワイヤボンディング時に加わる力でクラックや割れ等が生じないように、これら以外の第2の半導体チップ6より厚く設定されている。例えば、5段目、9段目、及び13段目の第2の半導体チップ6は、55μm程度の厚さを有している。これら以外の第2の半導体チップ6は、積層体7の厚さ及びそれに基づく半導体装置1の厚さを低減し、半導体装置1の薄型化を実現するために、例えば36μm程度の厚さを有している。
【0016】
配線基板2の第2の面2b上には、第1の半導体チップ3や第2の半導体チップ6の積層体7をボンディングワイヤ11、12と共に封止するように、エポキシ樹脂等の絶縁樹脂を用いた封止樹脂層8が例えばモールド成形されている。これらの構成要素によって、実施形態の半導体装置1が構成されている。このような半導体装置1において、第1および第2の半導体チップ3、6は、例えば3ppm程度の線膨張係数を有している。配線基板2は、例えば20ppm程度の線膨張係数を有している。封止樹脂層8は、例えば10ppm程度の線膨張係数を有している。第1の接着層4を構成する樹脂含有材は、例えば70ppm以下の線膨張係数を有している。また、半導体装置1は、例えば1.3mm程度の厚さを有している。
【0017】
上述したような半導体装置1の構成材料間の線膨張係数の違いに加えて、第2の半導体チップ6の積層数の増加に伴って、半導体装置1の熱サイクル試験(TCT:Thermal Cycle Test)に対する耐性の低下が懸念される。すなわち、配線基板2と第2の半導体チップ6の積層体7との間の線膨張係数差等に起因して、TCTの温度差で生じる応力によって、第1の半導体チップ3が埋め込まれた第1の接着層4にクラックが生じやすくなる。これは第2の半導体チップ6の積層数が増加し、第2の半導体チップ6の合計厚が厚くなるほど第1の接着層4にクラックが生じやすくなる。第1の接着層4に生じたクラックの先端に応力が集中し、クラックと接する配線層9に断裂(配線切れ)を生じさせて不良を引き起こすことになる。
【0018】
上述したような第1の接着層4のクラックやクラックに起因する配線層9の断裂(配線切れ)を抑制するために、第1の実施形態による半導体装置1において、第1の接着層4は125℃における破壊強度が15MPa以上の樹脂含有材により構成されている。半導体装置1のTCTは、例えば-55℃×15分+125℃×15分というような熱サイクルを1サイクルとし、このような熱サイクルを例えば700サイクル、さらには1000サイクル印加することによって、半導体装置1の信頼性が評価される。このような半導体装置1のTCTにおいて、第1の接着層4を125℃における破壊強度が15MPa以上の樹脂含有材により構成することによって、温度差により生じる応力に基づく第1の接着層4へのクラックの発生、さらにクラックの先端への応力集中による配線層9の断裂(配線切れ)の発生を抑制することができる。すなわち、半導体装置1の信頼性を高めることが可能になる。
【0019】
第1の接着層4の125℃における破壊強度と半導体装置1のTCTにおけるクラックの発生との関係について、具体的に説明する。ここでは、熱硬化樹脂としてエポキシ樹脂組成物とシート化のための高分子成分としてアクリルゴムと無機充填材としてシリカ粒子とを含む混合組成物(エポキシ-アクリル基混合組成物(硬化前組成物))の硬化物を、第1の接着層4に適用する。なお、エポキシ樹脂組成物は硬化剤としてフェノール樹脂を含んでいる。エポキシ-アクリル基混合組成物を調製するにあたって、エポキシ樹脂のエポキシ当量、硬化剤としてのフェノール樹脂の水酸基当量、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との等量比、アクリルゴムの重量平均分子量、アクリルゴムの配合比率等を変化させることによって、125℃における破壊強度が異なる4つの試料を作製した。試料1、試料2、試料3、及び試料4の硬化物に対して引張試験を実施し、125℃での伸びに対する破断強度を測定した。測定結果を
図2に示す。ここで言う破壊強度は、125℃での引張試験における破断強度を示す。
【0020】
図2に示されるように、試料1の硬化物の125℃における破断強度(破壊強度)は40MPaであり、試料2の硬化物の125℃における破断強度(破壊強度)は23MPaである。これら試料1、2の硬化物は、125℃における破壊強度が15MPa以上という条件を満たしており、実施例の接着層4(エポキシ-アクリル基混合組成物の硬化物)に相当する。一方、試料3の硬化物の125℃における破断強度(破壊強度)は12MPaであり、試料4の硬化物の125℃における破断強度(破壊強度)は6MPaである。これら試料3、4の硬化物は、125℃における破壊強度が15MPa以上という条件を満たしておらず、実施形態に対する比較例の接着層(エポキシ-アクリル基混合組成物の硬化物)に相当する。
【0021】
上記した試料1、試料2、試料3、及び試料4を用いて、
図1に示した半導体装置1(実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2)を作製した。半導体装置1は、前述したように配線基板2上に第1の半導体チップ3を接着層4に埋め込みつつ接着し、その上に16段の第2の半導体チップ6を搭載したものである。さらに、125℃における破断強度(破壊強度)が15MPaである試料5を用いて、半導体装置1(実施例3)を同様に作製した。これら実施例1~3及び比較例1~2の半導体装置に対して、-55℃×15分+125℃×15分の条件でTCTを実施した。各例についてTCTを700サイクル実施した後に、接着層4におけるクラックの有無を評価した。接着層4のクラックが生じていないものを良品、クラックが生じていたものを不良品とした。各例について、それぞれ100個のサンプルのTCTを実施し、不良割合を調べた。その結果を表1に示す。また、実施例1~2及び比較例1~2の半導体装置について、1000サイクルのTCT後の配線層の代表例を
図3ないし
図6に示す。
【0022】
【0023】
表1に示すように、125℃における破壊強度が15MPa以上である樹脂含有材で構成した接着層4を有する半導体装置1(実施例1~3)は、いずれも700サイクルのTCT後においても、接着層4のクラックが生じておらず、不良割合が0%であることが分かる。この点は、
図3及び
図4の配線層の平面写真からも明らかであり、クラックは生じていない。一方、125℃における破壊強度が15MPa未満である樹脂含有材で構成した接着層4を有する半導体装置1(比較例1~2)は、いずれも700サイクルのTCT後において、接着層4のクラックが生じたサンプルが増えており、信頼性に劣ることが分かる。この点は、
図5及び
図6の配線層の平面写真からも明らかであり、接着層にクラック(図中、矢印で示す)が生じていることが分かる。
【0024】
TCT後における半導体装置1の不良は、接着層4上に搭載する第2の半導体チップ6の数が増加するほど生じやすくなる。このため、実施形態は接着層4上に搭載する第2の半導体チップ6の数に基づく厚さが厚い半導体装置1に対して有効である。具体的には、第2の半導体チップ6の積層体7の厚さ(半導体チップ6の厚さの合計と半導体チップ6の接着に使用する接着層(図示せず)の厚さの合計とを足した値)が、半導体装置1の厚さに対して67%以上である場合に、実施形態の半導体装置1は有効に機能し、接着層4のクラック及びクラックに起因する基板配線の破断を抑制することができる。なお、第1の実施形態では第1の半導体チップ3を埋め込む接着層4上に第2の半導体チップ6の積層体7を搭載する場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、配線基板2上に第2の半導体チップ6の積層体7を搭載する場合についても、半導体装置1の厚さに対して第2の半導体チップ6の比率が67%以上である場合には、125℃における破壊強度が15MPa以上である樹脂含有材で構成された接着層4は有効に機能する。
【0025】
接着層4の形成に用いられる接着剤としての樹脂含有組成物(以下、接着剤組成物とも言う。)としては、例えば熱硬化性のエポキシ樹脂含有組成物、ポリイミド樹脂含有組成物、アクリル樹脂含有組成物、フェノール樹脂含有組成物等が用いられる。これらのうちでも、熱硬化性のエポキシ樹脂含有組成物が好適に用いられる。具体的には、熱硬化樹脂としてのエポキシ樹脂組成物と、高分子成分としてのアクリルゴムと、無機充填材としてのシリカ粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子等とを含む混合組成物が好適である。このような混合組成物に関して、例えば以下に示すような条件を適用することで、その硬化物の125℃における破壊強度を15MPa以上とすることができる。混合組成物(接着剤組成物)は、上記した成分以外に一般的な熱硬化性接着剤に用いられている、硬化促進剤、各種添加剤、溶剤等を含んでいてもよい。
【0026】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を単独又は併用して用いることができる。また、多官能エポキシ樹脂、複素間含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等の一般に知られるエポキシ樹脂を用いてもよい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は、150~2000g/eqであることが好ましく、さらに150~1000g/eqであることがより好ましい。エポキシ当量が比較的低いエポキシ樹脂を用いることによって、硬化剤との架橋が密となり、エポキシ樹脂を含む組成物の硬化物の破壊強度を高めることができる。
【0027】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、フェノール樹脂を使用することができる。フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等を単独又は併用して用いることができる。フェノール樹脂の水酸基当量は、90~220g/eqであることが好ましく、さらに90~180g/eqであることがより好ましい。水酸基当量が比較的低いフェノール樹脂を用いることによって、エポキシ樹脂との架橋が密となり、エポキシ樹脂を含む組成物の硬化物の破壊強度を高めることができる。さらに、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の当量比(エポキシ樹脂の当量/フェノール樹脂の当量)は、0.8~1.2であることが好ましい。このような当量比の混合物を用いることによって、エポキシ樹脂のエポキシ基とフェノール樹脂の水酸基との反応において、余った官能基を少なくすることができ、それにより硬化物の破壊強度の向上が見込める。
【0028】
接着剤組成物には、例えば高分子成分としてアクリルゴムを含有させることができる。アクリルゴムの重量平均分子量は50万~100万であることが好ましく、さらに65万~100万であることがさらに好ましい。分子量の高いアクリルゴムを用いることによって、高分子同士の絡み合いが期待でき、破壊強度の向上が見込める。また、アクリルゴムは架橋性官能基を含むことが好ましい。架橋性官能基を有する官能性モノマーとしては、グリシジルアクリレート、アクリル酸等を用いることができる。アクリルゴムが架橋性官能基を含むことで、エポキシ樹脂やフェノール樹脂との架橋反応が見込め、材料間で複合的な結合となることで、破壊強度の向上が見込める。
【0029】
さらに、接着剤組成物において、高分子成分としてのアクリルゴムの配合比率は、1~20質量%であることが好ましい。アクリルゴムの配合比率を比較的低くすることによって、相対的に熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノール樹脂の配合比率が上がり、それらの組成物の硬化物の破壊強度の向上が見込める。また、接着剤組成物において、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びアクリルゴムの各成分間の溶解度パラメータ(SP値)の差は、5.0未満であることが好ましく、さらに3.0未満であることがより好ましい。各材料の溶解度パラメータが近いことで、材料間で複合的な結合が形成され、これにより破壊強度の向上が見込める。
【0030】
接着剤組成物には、例えば無機充填材として無機化合物を含有させることができる。無機化合物としては、シリカ粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子等が用いられるが、これら以外の無機化合物であってもよい。接着剤組成物において、無機化合物の含有量は30~65質量%であることが好ましく、さらに35~60質量%であることがより好ましい。このような含有量の無機化合物を配合することによって、接着剤組成物の硬化物(樹脂含有物)の破壊強度を高めることができる。
【0031】
接着層4を構成する接着剤組成物の硬化物(樹脂含有物)は、125℃における破壊強度が15MPa以上であることに加えて、線膨張係数が70ppm以下であることが好ましい。これによって、接着層4と第1及び第2の半導体チップ3、6等との線膨張係数差が低減され、これにより接着層4のクラックをより有効に抑制することができる。さらに、接着層4は配線基板2の構成材料である金等の金属材料(配線材料)や樹脂材料(絶縁材料)等との接着強度が10MPa以下であることが好ましい。これによって、接着層4のクラック及びそれに基づく基板配線の破断をより効果的に抑制することができる。
【0032】
接着層4は40μm以上150μm以下の厚さを有することが好ましい。接着層4の厚みが40μm未満では、樹脂含有材がTCTの温度差で生じる応力の影響をより受けやすく、TCTに対する耐性が低下するおそれがある。また、接着層4の厚みが150μmを超えると、パッケージサイズの小型化に不利となる。このような場合において、同等のパッケージ厚を実現するために封止樹脂層8の厚さを薄くすると、パッケージの耐衝撃性の低下が懸念されるからである。
【0033】
(第2の実施形態)
図7は第2の実施形態による半導体装置を示す断面図である。
図7に示す半導体装置21は、配線基板2と、配線基板2上に第1の接着層22を介して固着された第1の半導体チップ23と、配線基板2上に第2の接着層24を介して固着された複数の第2の半導体チップ25の積層体26と、第1の半導体チップ23や第2の半導体チップ25の積層体26等を封止するように配線基板2上に設けられた封止樹脂層8とを具備している。配線基板2は第1の実施形態と同様な構成を有する。
【0034】
第1の半導体チップ23としては、第1の実施形態と同様に、第2の半導体チップ25として用いられる半導体メモリチップと外部機器との間でデジタル信号を送受信するコントローラチップやインターフェースチップ、ロジックチップ、RFチップ等のシステムLSIチップが挙げられるが、これに限定されるものではない。第1の半導体チップ23は例えば80μm程度の厚さを有している。このような第1の半導体チップ23は、第1の接着層22により配線基板2に固着されている。第2の実施形態の半導体装置21において、第1の接着層22には一般的なDAF材が用いられる。第1の半導体チップ23の電極(図示せず)は、ボンディングワイヤ11を介して配線基板2の配線層9と電気的に接続されている。
【0035】
第2の半導体チップ25としては、第1の実施形態と同様に、NAND型フラッシュメモリのような半導体メモリチップが挙げられるが、これに限られるものではない。第2の実施形態においては、配線基板2上に2個の第2の半導体チップ25が積層されて搭載されている。2個の第2の半導体チップ25は、それぞれ250μm程度の厚さを有している。このような厚さの第2の半導体チップ25を積層して配線基板2上に搭載するにあたって、下側の第2の半導体チップ25は、125℃における破壊強度が15MPa以上の樹脂含有材を含む第2の接着層24により配線基板2に接着されている。上側の第2の半導体チップ25を下側の第2の半導体チップ25に接着する第3の接着層27には、第2の接着層24と同様に125℃における破壊強度が15MPa以上の樹脂含有材を用いてもよいし、第1の接着層22と同様に、一般的なDAF材を用いてもよい。
【0036】
配線基板2上に搭載された2個の第2の半導体チップ25は、下側の第2の半導体チップ25の電極が露出するように、電極が配列された端部をずらして階段状に積層されている。第2の半導体チップ25の電極(図示せず)は、ボンディングワイヤ12を介して配線基板2の配線層9と電気的に接続されている。電気特性や信号特性が等しい電極パッドに関しては、配線基板2の配線層9と2個の第2の半導体チップ25の電極パッドとがボンディングワイヤ12を介して順に接続されている。
【0037】
配線基板2の第2の面2b上には、第1の半導体チップ23や第2の半導体チップ25の積層体26をボンディングワイヤ11、12と共に封止するように、エポキシ樹脂等の絶縁樹脂を用いた封止樹脂層8が例えばモールド成形されている。これらの構成要素によって、第2の実施形態の半導体装置21が構成されている。このような半導体装置21において、第1および第2の半導体チップ23、25は、例えば3ppm程度の線膨張係数を有している。配線基板2は、例えば20ppm程度の線膨張係数を有している。封止樹脂層8は、例えば10ppm程度の線膨張係数を有している。第2の接着層4を構成する樹脂含有材は、例えば70ppm以下程度の線膨張係数を有している。また、半導体装置21は、例えば0.8mm程度の厚さを有している。
【0038】
上述したような半導体装置21の構成材料間の線膨張係数の違いに加えて、2個の第2の半導体チップ25の合計厚が増加し、第2の半導体チップ25の積層体26の厚さ(半導体チップ25の厚さの合計と第3の接着層27の厚さとを足した値)が、半導体装置21の厚さに対して67%以上というように、パッケージ厚に対する積層体26の比率が高い場合、半導体装置21のTCTに対する耐性の低下が懸念される。すなわち、配線基板2と第2の半導体チップ25の積層体26との間の線膨張係数差等に起因して、TCTの温度差で生じる応力によって、第2の接着層24にクラックが生じやすくなるおそれがある。第2の接着層24に生じたクラックの先端に応力が集中し、クラックと接する配線層9に断裂(配線切れ)を生じさせて不良を引き起こすことになる。
【0039】
前述した第1の実施形態と同様に、第2の接着層24のクラックやクラックに起因する配線層9の断裂(配線切れ)を抑制するために、第2の実施形態による半導体装置21において、第2の接着層24は125℃における破壊強度が15MPa以上の樹脂含有材により構成されている。前述したような条件を有する熱サイクルを例えば700サイクル、さらには1000サイクル印加した場合においても、第2の接着層24を125℃における破壊強度が15MPa以上の樹脂含有材により構成することによって、温度差により生じる応力に基づく第2の接着層24へのクラックの発生、さらにクラックの先端への応力集中による配線層9の断裂(配線切れ)の発生を抑制することができる。すなわち、半導体装置21の信頼性を高めることが可能になる。
【0040】
第2の接着層24に適用される樹脂含有材の具体的な構成は、第1の実施形態と同様である。すなわち、第2の接着層24としての樹脂含有材は、熱硬化樹脂としてのエポキシ樹脂組成物と、高分子成分としてのアクリルゴムと、無機充填材としてのシリカ粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子等とを含む混合組成物を、下側の第2の半導体チップ25を配線基板2に固着する接着剤として使用し、そのような接着剤を硬化させることにより形成される。接着剤組成物としての混合組成物の各成分の構成、各成分の混合比率等も第1の実施形態と同様である。さらに、第2の接着層24は、第1の実施形態と同様に、線膨張係数が70pp以下であることが好ましく、配線基板2の構成材料である金等の金属材料(配線材料)や樹脂材料(絶縁材料)等との接着強度が10MPa以上であることが好ましい。接着層24の厚さは40μm以上150μm以下が好ましい。
【0041】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1,21…半導体装置、2…配線基板、3,23…第1の半導体チップ、4…第1の接着層、6,25…第2の半導体チップ、7,26…積層体、8…封止樹脂層、9,10…配線層、11,12…ボンディングワイヤ、22…第1の接着層、24…第2の接着層、27…第3の接着層。