IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エクセディの特許一覧

<>
  • 特許-クラッチ装置 図1
  • 特許-クラッチ装置 図2
  • 特許-クラッチ装置 図3
  • 特許-クラッチ装置 図4
  • 特許-クラッチ装置 図5
  • 特許-クラッチ装置 図6
  • 特許-クラッチ装置 図7
  • 特許-クラッチ装置 図8
  • 特許-クラッチ装置 図9
  • 特許-クラッチ装置 図10
  • 特許-クラッチ装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
F16D13/52 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020065997
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021162113
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】松吉 典子
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-080021(JP,A)
【文献】特開2010-223302(JP,A)
【文献】特開2016-070287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1摺動面を有する第1回転体と、
前記第1摺動面と軸方向に間隔をあけて配置された第2摺動面を有し、前記第1回転体に対して軸方向に相対移動可能である第2回転体と、
前記第1摺動面と前記第2摺動面との間に配置されたクラッチプレートと、
を備え、
前記第1回転体は、前記第1摺動面の軸方向反対の面において、
周方向に配列された複数の凹部と、
隣り合う前記凹部の間において、径方向に延びるリブと、
径方向において前記凹部の外側に配置され、隣り合うリブを連結するように周方向に延びる連結部と、
を有し、
前記各凹部、前記リブ、及び前記連結部は、軸方向視において、前記第1摺動面と重複する、
クラッチ装置。
【請求項2】
前記凹部は、底面部と、側面部と、を有し、
前記側面部のうち径方向内側の部分の高さは、径方向外側の部分の高さよりも高い、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記リブの高さは、径方向内側から径方向外側にかけて低くなる、
請求項1又は請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記リブは、前記第2摺動面に対して平行な面と、径方向内側から径方向外側にかけて高さが低くなる面と、を有する、
請求項1又は請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記第1回転体は、前記第1摺動面の軸方向反対の面において、周方向に延びる環状領域を有し、
前記環状領域は、
前記凹部が形成される第1領域と、
前記凹部が形成されない第2領域と、
を含む、
請求項1~請求項4のいずれかに記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記第1回転体は、厚さ方向に貫通し、かつ、周方向に配列される複数の油路を有し、
前記第2領域は、前記油路に対して径方向外側に間隔をあけて配置される、
請求項5記載のクラッチ装置。
【請求項7】
前記第1回転体は、クラッチセンタであり、
前記第2回転体は、プレッシャプレートである、
請求項1~請求項6のいずれかに記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動二輪車及びバギーなどのモータサイクルには、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達又は遮断するためにクラッチ装置が用いられている。このクラッチ装置は、エンジンのクランク軸側に連結されるクラッチアウターと、トランスミッション側に連結される第1回転体と、それらの間で動力の伝達、遮断を行うためのクラッチプレートと、クラッチプレートを押圧するための第2回転体とを有している。
【0003】
この種のクラッチ装置として、特許文献1に記載のクラッチ装置が提案されている。このクラッチ装置では、軽量化のために、第1回転体において、径方向外側の環状部分と、環状部分から回転軸までの間と、に凹部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-79706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のクラッチ装置では、第1回転体において、環状外周部と、環状外周部から軸までの間との両方に凹部を形成している。そのため、第1回転体の強度が低下する。
【0006】
本発明の課題は、クラッチ装置を構成する部材の強度を低下させることなく軽量化することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一側面に係るクラッチ装置は、第1摺動面を有する第1回転体と、第2回転体と、クラッチプレートと、を備える。第2回転体は、第1摺動面と軸方向に間隔をあけて配置された第2摺動面を有する。第2回転体は、第1回転体に対して軸方向に相対移動可能である。クラッチプレートは、第1摺動面と第2摺動面との間に配置される。第1回転体は、第1摺動面の軸方向反対の面において、複数の凹部と、リブと、連結部と、を有する。凹部は、周方向に配列される。リブは、隣り合う凹部の間において、径方向に延びる。連結部は、径方向において凹部の外側に配置され、隣り合うリブを連結するように周方向に延びる。
【0008】
この装置では、第1回転体が、複数の凹部と、リブと、連結部と、を有する。連結部により補強されているため、第1回転体の強度を低下させることなく、凹部を大きくして、軽量化することができる。
【0009】
(2)凹部は、底面部と、側面部と、を有する。側面部のうち径方向内側の部分の高さは、径方向外側の部分の高さよりも高い。
【0010】
(3)リブの高さは、径方向内側から径方向外側にかけて低くなる。
【0011】
(4)リブは、第2摺動面に対して平行な面と、径方向内側から径方向外側にかけて高さが低くなる面と、を有してもよい。
【0012】
リブが第2摺動面に対して平行な面と、径方向内側から径方向外側にかけて高さが低くなる面と、を有する場合、より高い強度が得られる。
【0013】
(5)第1回転体は、前記第1摺動面の軸方向反対の面において、周方向に延びる環状領域を有する。環状領域は、第1領域と、第2領域と、を含む。第1領域には、凹部が形成される。第2領域には、凹部が形成されない。
【0014】
(6)好ましくは、第1回転体は、複数の油路を有する。油路は、厚さ方向に貫通し、かつ、周方向に配列される。第2領域は、油路に対して径方向外側に間隔をあけて配置される。
【0015】
ここでは、第1回転体が油路を有する。そのため、潤滑油は、油路を介してクラッチプレートと第1回転体との係合部、及び、クラッチプレートの表面に供給される。
【0016】
ここではさらに、凹部が形成されない第2領域が、油路に対して径方向外側に間隔をあけて配置される。つまり、油路の付近には凹部が形成されないため、強度を低下させることがない。
【0017】
(7)好ましくは、第1回転体は、クラッチセンタである。第2回転体は、プレッシャプレートである。
【発明の効果】
【0018】
以上のような本発明では、クラッチ装置を構成する部材の強度を低下させることなく軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態によるクラッチ装置の断面図。
図2】クラッチセンタを軸方向第1側から視た外観斜視図。
図3】クラッチセンタを軸方向第2側から視た外観斜視図。
図4】クラッチセンタの断面図。
図5】プレッシャプレートを軸方向の第1側から視た外観斜視図。
図6】プレッシャプレートを軸方向の第2側から視た外観斜視図。
図7】サポートプレートの外観斜視図。
図8】カム機構を説明するための展開図。
図9】プレッシャプレートを軸方向の第1側から視た外観斜視図。
図10】プレッシャプレートの断面図。
図11】他の実施形態によるプッシュタイプのクラッチ装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態によるクラッチ装置としてのモータサイクル用クラッチ装置10である。図1の断面図において、O-O線が回転軸線である。なお、以下の説明において、「軸方向」とは回転軸Oが延びる方向を示し、図1に示すように、図1の右側を「軸方向の第1側」、逆を「軸方向の第2側」とする。また、「径方向」とは、回転軸Oを中心とした円の半径方向を意味し、「周方向」とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0021】
クラッチ装置10は、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達したり、その伝達を遮断したりするように構成されている。このクラッチ装置10は、クラッチアウター12、クラッチセンタ13(第1回転体の一例)、プレッシャプレート14(第2回転体の一例)、クラッチプレート15、サポートプレート16を備えている。また、クラッチ装置10は、複数の押圧用のコイルスプリングをさらに備えている。
【0022】
[クラッチアウター12]
クラッチアウター12は、円板部12a及び筒状部12bを備え、入力ギアに連結されている。入力ギアはエンジン側のクランク軸に固定された駆動ギア(図示せず)に噛み合っている。
【0023】
円板部12aには、複数のコイルスプリング(図示せず)を介して入力ギアが連結されている。複数のコイルスプリングは、入力ギアに形成された孔に挿入され、エンジンからの振動を吸収するために設けられたものである。
【0024】
筒状部12bは、円板部12aの外周縁から軸方向の第1側に延びるように形成されている。この筒状部12bには、軸方向に延びる複数の切欠き12cが周方向に所定の間隔で形成されている。
【0025】
[クラッチセンタ13]
図1図3を参照して、クラッチセンタ13は、クラッチアウター12の内部、すなわちクラッチアウター12の筒状部12bの径方向内側に配置されている。クラッチセンタ13は略円板状である。クラッチセンタ13は、中央部に形成されたボス部25と、円板部26と、筒状部27と、受圧部28と、油路45と、を有している。
【0026】
ボス部25は軸方向に延びている。ボス部25の中央部には軸方向に延びるスプライン孔(図示省略)が形成されている。このスプライン孔には、トランスミッションの入力軸(図示省略)が係合する。なお、クラッチセンタ13は、軸方向において移動しない。
【0027】
円板部26は、径方向において、ボス部25から外側に延びている。図1及び図2に示すように、円板部26には、複数の第1突起部30が形成されている。なお、本実施形態では、円板部26は、3つの第1突起部30を有する。複数の第1突起部30は、円板部26の径方向の中間部に、周方向に間隔をあけて配置されている。第1突起部30は、軸方向の第1側に突出している。また、複数の第1突起部30は、筒状部27の内周面27aから離れて配置されている。第1突起部30の外周面と、筒状部27の内周面27aと、の間には隙間が確保されている。
【0028】
図2を参照して、第1突起部30は、第1カム用突起31と、第1固定用突起32と、を有している。第1カム用突起31と第1固定用突起32とは、周方向に配列されている。第1カム用突起31と第1固定用突起32とは、一つの部材として形成されている。
【0029】
第1カム用突起31は、CC・カム面18aを有している。
【0030】
第1固定用突起32の高さは、第1カム用突起31の高さより高い。すなわち、第1固定用突起32の先端面32a(軸方向の第1側の端面)は、第1カム用突起31の先端面31aよりも、軸方向の第1側に位置している。なお、第1固定用突起32の高さは、軸方向において、第1固定用突起32の長さである。
【0031】
また、第1固定用突起32の中心部には、軸方向に延びるねじ孔32bが形成されている。
【0032】
筒状部27は、円板部26の外側部から軸方向の第1側に延びて形成されている。筒状部27は、円筒状の本体271と、本体271の外周面に形成された係合用の複数の第1歯272と、を有している。
【0033】
受圧部28は、筒状部27の外周側においてさらに外周側に延びて形成されている。受圧部28は、環状であり、軸方向の第1側を向いている第1摺動面28aを含む。
【0034】
図3を参照して、環状領域24は、受圧部28の軸方向第2側の面に存在する。環状領域24は、第1摺動面28aの軸方向反対の面である。環状領域24は、周方向に延び、環状である。環状領域24は、第1領域24aと、第2領域24bと、を含む。第1領域24aでは、複数の凹部21が形成される。第2領域24bでは、凹部21が形成されない。第2領域24bの周方向の長さは、凹部21の周方向の長さよりも長い。たとえば、第2領域24bの周方向の長さは、凹部21の周方向の長さの2~3倍である。
【0035】
第1領域24aは、複数の凹部21と、リブ22と、連結部23と、を含む。
【0036】
複数の凹部21は、周方向に配列される。図4に示すように、凹部21は、底面部21aと、側面部21bと、を有する。底面部21aは、第1摺動面28aに平行な面を含む。側面部21bのうち、径方向内側の部分の高さは、径方向外側の部分の高さよりも高い。
【0037】
リブ22は、隣り合う凹部21の間において、径方向に延びる。リブ22の高さは、径方向内側から径方向外側にかけて低くなる。
【0038】
連結部23は、径方向において凹部21の外側に配置される。連結部23は、隣り合うリブ22を連結するように周方向に延びる。
【0039】
図2及び図3に示すように、クラッチセンタ13には、複数の油路45が形成されている。油路45は、厚さ方向に貫通し、かつ、周方向に配置される。油路45は、筒状部27の内周側の潤滑油を、筒状部27の外周側のクラッチプレート15に供給するものである。
【0040】
油路45が形成された個所の本体271及び第1歯272は欠損している。
【0041】
このような油路45により、作動中において、筒状部27の内周側の潤滑油は、油路45を介して筒状部27の外周側のクラッチプレート15に供給される。
【0042】
第2領域24bは、油路45に対して径方向外側に間隔をあけて配置される。
【0043】
[プレッシャプレート14]
図1図5及び図6に示すように、プレッシャプレート14は、円板状の部材である。プレッシャプレート14は、軸方向において、クラッチセンタ13の第1側に配置されている。
【0044】
プレッシャプレート14は、クラッチセンタ13に対して軸方向に移動自在である。プレッシャプレート14は、中央部に形成されたボス部40と、筒状部41と、押圧部42と、を有している。
【0045】
ボス部40は、軸方向の第1側に突出するように延びている。ボス部40の径方向内周側の壁により、貫通孔40aが確定されている。この貫通孔40aに、図示しないレリーズ部材が挿入される。
【0046】
筒状部41は、径方向において、ボス部40の外側に形成される。筒状部41は、軸方向の第2側に突出している。筒状部41は、径方向視で、クラッチセンタ13の筒状部27と重なるように配置されている。また、筒状部41は、クラッチセンタ13の筒状部27と、第1突起部30と、の間の隙間に挿入されるように配置される。
【0047】
筒状部41は、円筒状の本体411と、複数の第2歯412と、を有している。第2歯412は、本体411の外周面に形成されている。複数の第2歯412は、本体411の外周面において、軸方向の第1側の端部に設けられている。複数の第2歯412の軸方向長さは、本体411の軸方向長さよりも短い。また、油路45は、軸方向の第1側に向かって開いているので、潤滑油は、プレッシャプレート14の第2歯412にも導かれる。
【0048】
また、筒状部41は、中央部に形成された概略円形の孔41bと、複数のカム用孔41cと、複数の有底孔41dと、を有している。なお、本実施形態では、筒状部41は、3つのカム用孔41cと、3つの有底孔41dと、を有する。
【0049】
プレッシャプレート14は、アシストカム機構17用のPPa・カム面17bと、スリッパカム機構18用のPPs・カム面18bとを有している。PPa・カム面17b及びPPs・カム面18bは、カム用孔41cを画定する内壁面によって構成されている。PPa・カム面17bと、PPs・カム面18bとは、周方向において対向している。PPa・カム面17bは、軸方向の第1側を向く。PPs・カム面18bは、軸方向の第2側を向く。
【0050】
有底孔41dは、軸方向の第1側の面から所定の深さで形成されている。図1に示すように、この有底孔41dに、コイルスプリング(図示せず)が配置されている。
【0051】
押圧部42は、環状に形成され、プレッシャプレート14の外側部に形成されている。押圧部42は、軸方向の第2側を向く第2摺動面42aを有している。押圧部42は、軸方向において、受圧部28と間隔をあけて配置されている。
【0052】
[サポートプレート16]
図1及び図7に示すように、サポートプレート16は、円板状の部材であり、プレッシャプレート14よりも、軸方向の第1側に配置されている。サポートプレート16は、中央部に孔16aを有している。孔16aを、プレッシャプレート14のボス部40が貫通する。
【0053】
また、サポートプレート16は、複数の第2突起部55と、複数の凹部56と、を有する。なお、本実施形態では、サポートプレート16は、3つの第2突起部55と、3つの凹部56と、を有する。
【0054】
複数の第2突起部55は、周方向に間隔をあけて配置されている。好ましくは、複数の第2突起部55は、周方向に等間隔で配置されている。第2突起部55は、軸方向の第2側に突出している。第2突起部55は、第2カム用突起61と、第2固定用突起62と、を有している。第2カム用突起61と第2固定用突起62とは、周方向に配列されている。第2カム用突起61と第2固定用突起62とは、一つの部材として形成されている。
【0055】
第2カム用突起61は、SP・カム面17aを有している。
【0056】
第2固定用突起62の高さは、第2カム用突起61の高さより高い。すなわち、第2固定用突起62の先端面62a(軸方向の第2側の端面)は、第2カム用突起61の先端面61aよりも、軸方向の第2側に位置している。なお、第2固定用突起62の高さとは、軸方向における第2固定用突起62の長さである。
【0057】
第2固定用突起62の径方向内周側の壁は、軸方向に延びる貫通孔62bを画定する。
【0058】
第2固定用突起62の外側部には、第2固定用突起62の先端面62aよりもさらに軸方向の第2側に突出する位置決め部62cが形成されている。
【0059】
サポートプレート16はさらに、凹部56を有する。凹部56は、サポートプレート16の軸方向の第2側の側面に、所定の深さで形成されている。凹部56は、軸方向に開口する。凹部56は、軸方向視において、周方向に延びる楕円形である。
【0060】
クラッチセンタ13の第1固定用突起32の先端面32aとサポートプレート16の第2固定用突起62の先端面62aとを当接させ、第2固定用突起62の貫通孔62bを貫通するボルト(図示せず)をクラッチセンタ13の第1固定用突起32のねじ孔32bに螺合する。これにより、サポートプレート16にクラッチセンタ13が固定される。
【0061】
第1固定用突起32の外周面は、サポートプレート16の位置決め部62cの内周側の面に沿った形状であり、両者は当接している。この両者の当接によって、サポートプレート16はクラッチセンタ13に対して径方向に位置決めされている。
【0062】
[クラッチプレート15]
クラッチプレート15は、クラッチセンタ13の受圧部28とプレッシャプレート14の押圧部42との間に配置されている。すなわち、軸方向の第2側から第1側に向かって、受圧部28、クラッチプレート15、押圧部42の順に並んでいる。クラッチプレート15は、クラッチセンタ13の第1摺動面28aと対向している。プレッシャプレート14の第2摺動面42aは、クラッチプレート15と対向している。
【0063】
図1に示すように、クラッチプレート15は、複数のドライブプレート51と、複数のドリブンプレート52と、を有する。ドライブプレート51及びドリブンプレート52は、受圧部28と押圧部42との間に配置されている。両プレート51,52によって、クラッチアウター12とクラッチセンタ13及びプレッシャプレート14との間で動力を伝達したり、その動力の伝達が遮断されたりする。これらの両プレート51,52はともに環状に形成されており、軸方向に交互に配置されている。
【0064】
ドライブプレート51は、クラッチアウター12に対して、軸方向に移動可能であり、かつ相対回転不能である。すなわち、ドライブプレート51は、クラッチアウター12と一体的に回転する。詳細には、ドライブプレート51の外周部には径方向外側に突出する複数の係合突起が形成されている。この係合突起がクラッチアウター12の筒状部12bに形成された係合用の切欠き12cに噛み合っている。ドライブプレート51には両面に摩擦材が貼付されている。
【0065】
ドリブンプレート52は、複数の第1ドリブンプレート及び1枚の第2ドリブンプレートを有している。第1ドリブンプレート及び第2ドリブンプレートは、それぞれ内周端部に複数の係合凹部を有している。
【0066】
第1ドリブンプレートの係合凹部は、クラッチセンタ13の筒状部27に形成された係合用の第1歯272に係合している。また、第2ドリブンプレートの係合用の係合凹部は、プレッシャプレート14の第2歯412に係合している。したがって、第1ドリブンプレートは、クラッチセンタ13に対して、軸方向に移動可能であり、かつ相対回転不能である。すなわち、第1ドリブンプレートは、クラッチセンタ13と一体的に回転する。また、第2ドリブンプレートは、プレッシャプレート14に対して、軸方向に移動可能であり、かつ相対回転不能である。すなわち、第2ドリブンプレートは、プレッシャプレート14と一体的に回転する。
【0067】
[アシストカム機構17及びスリッパカム機構18]
図8に示すように、アシストカム機構17は、サポートプレート16とプレッシャプレート14との軸方向間に配置されている。アシストカム機構17は、プレッシャプレート14及びクラッチセンタ13に駆動力が作用したときに(正側、つまり図8の+R側のトルクが作用したときに)、クラッチプレート15の結合力を増加させるための機構である。また、スリッパカム機構18は、プレッシャプレート14とクラッチセンタ13の軸方向間に配置されている。スリッパカム機構18は、クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に逆駆動力が作用したときに(負側、つまり図8の-R側のトルクが作用したときに)、クラッチプレート15の結合力を低減させるための機構である。
【0068】
<アシストカム機構17>
アシストカム機構17は、サポートプレート16に設けられた複数(ここでは3個)のSP・カム面17aと、プレッシャプレート14に設けられた複数(ここでは3個)のPPa・カム面17bと、を有する。
【0069】
SP・カム面17aはサポートプレート16の第2カム用突起61に形成されている。第2突起部55はプレッシャプレート14のカム用孔41cに挿入されている。そして、周方向において、第2突起部55の一方の端面にSP・カム面17aが形成されている。
【0070】
PPa・カム面17bは、プレッシャプレート14のカム用孔41cに形成されている。具体的には、カム用孔41cは、周方向の一方の端面(壁面)にPPa・カム面17bを有している。SP・カム面17aは、周方向を向くとともに、軸方向の第2側を向くように傾斜している。PPa・カム面17bは、周方向を向くとともに、軸方向の第1側を向くように傾斜している。そして、このPPa・カム面17bに、SP・カム面17aが当接可能である。
【0071】
<スリッパカム機構18>
スリッパカム機構18は、複数(ここでは3個)のクラッチセンタ13に設けられたCC・カム面18aと、複数(ここでは3個)のプレッシャプレート14に設けられたPPs・カム面18bと、を有する。
【0072】
CC・カム面18aはクラッチセンタ13の第1カム用突起31に形成されている。第1突起部30はプレッシャプレート14のカム用孔41cに挿入されている。そして、第1突起部30の周方向の一方の端面にCC・カム面18aが形成されている。
【0073】
PPs・カム面18bは、プレッシャプレート14のカム用孔41cに形成されている。具体的には、カム用孔41cにおいて、PPa・カム面17bが形成された側面(壁面)と周方向において対向する逆側の端面(壁面)が、PPs・カム面18bとなっている。ただし、PPa・カム面17bとPPs・カム面18bとは軸方向にずれて形成されている。CC・カム面18aは、周方向を向くとともに、軸方向の第側を向くように傾斜している。PPs・カム面18bは、周方向を向くとともに、軸方向の第側を向くように傾斜している。そして、このPPs・カム面18bに、CC・カム面18aが当接可能である。
【0074】
[動作]
クラッチ装置10においてレリーズ操作がなされていない状態では、サポートプレート16とプレッシャプレート14とは、コイルスプリングによって互いに離れる方向に付勢されている。サポートプレート16は、クラッチセンタ13に固定されて軸方向に移動しないため、プレッシャプレート14が軸方向の第2側に移動する。この結果、クラッチプレート15がクラッチオン状態となる。
【0075】
このような状態では、エンジンからのトルクがクラッチプレート15を介してクラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に伝達される。
【0076】
次にアシストカム機構17及びスリッパカム機構18の動作について詳細に説明する。
【0077】
クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に駆動力が作用しているとき、すなわち正側のトルクが作用しているときには、入力されたトルクは、クラッチプレート15を介してクラッチセンタ13とプレッシャプレート14に出力される。プレッシャプレート14に入力されたトルクは、アシストカム機構17を介してサポートプレート16に出力される。サポートプレート16に入力されたトルクは、各固定用突起62、32を介してクラッチセンタ13に出力される。このようにしてプレッシャプレート14からサポートプレート16にトルクが伝達されると同時に、アシストカム機構17が作動する。
【0078】
具体的には、駆動力が作用しているときには、サポートプレート16に対してプレッシャプレート14が相対回転する。すると、SP・カム面17aに対してPPa・カム面17bが押圧される。ここで、クラッチセンタ13は軸方向に移動しないために、サポートプレート16も移動せず、SP・カム面17aに沿ってPPa・カム面17bが移動する結果、プレッシャプレート14は軸方向の第2側に移動する。すなわち、プレッシャプレート14の押圧部42は、クラッチセンタ13の受圧部28に向かって移動する。この結果、押圧部42と受圧部28とによってクラッチプレート15が強固に挟持されることになり、クラッチの結合力が増加する。
【0079】
一方、アクセルを緩めた場合はクラッチセンタ13を介して逆駆動力が作用し、この場合はスリッパカム機構18が作動する。すなわち、トランスミッション側からのトルクによって、クラッチセンタ13がプレッシャプレート14に対して相対回転する。この相対回転によって、CC・カム面18aとPPs・カム面18bとが互いに押圧される。クラッチセンタ13は軸方向に移動しないために、この押圧により、CC・カム面18aに沿ってPPs・カム面18bが移動し、プレッシャプレート14は軸方向の第1側に移動する。この結果、押圧部42が受圧部28から離れる方向に移動することになり、クラッチの結合力が低減する。
【0080】
以上のような各カム機構17、18の作動時には、クラッチセンタ13及びサポートプレート16と、プレッシャプレート14と、は所定角度相対回転する。すなわち、クラッチセンタ13及びサポートプレート16と、プレッシャプレート14と、の間には、回転方向の位相のずれが発生する。したがって、コイルスプリングの端面は、相手部材との間で滑ることになる。
【0081】
次に、ライダーがクラッチレバーを握ると、その操作力はクラッチワイヤ等を介してレリーズ機構(図示せず)に伝達される。このレリーズ機構によって、プレッシャプレート14がコイルスプリングの付勢力に抗して軸方向の第1側に移動する。プレッシャプレート14が軸方向の第1側に移動すると、プレッシャプレート14のクラッチプレート15への押圧力が解除され、クラッチプレート15はオフ状態になる。このクラッチオフ状態では、トルクはクラッチセンタ13には伝達されない。
【0082】
このクラッチ装置10では、クラッチセンタ13が、複数の凹部21と、リブ22と、連結部23と、を有する。そのため、連結部23により補強されているため、クラッチセンタ13の強度を低下させることなく、凹部21を大きくして、軽量化することができる。
【0083】
さらに、このクラッチ装置10では、第1回転体は、油路45を有する。そのため、潤滑油は、油路45を介してクラッチプレート15と第1回転体との係合部、及び、クラッチプレート15の表面に供給される。
【0084】
ここではさらに、凹部21が形成されない第2領域24bが、油路45に対して径方向外側に間隔をあけて配置される。つまり、油路45の付近には凹部21が形成されないため、強度を低下させることがない。
【0085】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0086】
変形例1
上記実施形態では、クラッチセンタ13に複数の凹部21を形成したが、特にこれに限定されない。複数の凹部21は、プレッシャプレート14に形成してもよい。この場合、プレッシャプレート14が本発明の第1回転体に相当し、クラッチセンタ13が本発明の第2回転体に相当する。
【0087】
この場合、図9及び図10を参照して、プレッシャプレート14は、第2摺動面42aに対して軸方向反対の面に、複数の凹部421と、リブ422と、連結部423と、を有する。
【0088】
複数の凹部421は、周方向に配列される。凹部421は、底面部421aと、側面部421bと、を有する。底面部421aは、第2摺動面42aに平行な面を含む。側面部421bのうち、径方向内側の部分の高さは、径方向外側の部分の高さよりも高い。
【0089】
リブ422は、隣り合う凹部421の間において、径方向に延びる。リブ422は、第2摺動面42aに対して平行な底面部422aと、径方向内側から径方向外側にかけて高さが低くなる側面部422bと、を有する。この場合、リブ422が第2摺動面42aに対して平行な面を有するため、さらに強度が高くなる。
【0090】
連結部423は、径方向において凹部421の外側に配置される。連結部423は、隣り合うリブ422を連結するように周方向に延びる。
【0091】
変形例2
上記実施形態では、クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14のいずれか一方にのみ複数の凹部21を形成したが、特にこれに限定されない。複数の凹部21は、クラッチセンタ13とプレッシャプレート14との両方に形成してもよい。この場合、軽量化の効果がさらに得られる。
【0092】
変形例3
上記実施形態では、第1回転体の一例としてクラッチセンタ13を、第2回転体の一例としてプレッシャプレート14を、例にとって説明した。すなわち、上記実施形態では、プレッシャプレート14を軸方向の第1側に移動させ、クラッチプレート15をオフする、いわゆるプルタイプのクラッチ装置に本発明を適用したが、いわゆるプッシュタイプのクラッチ装置にも本発明を同様に適用することができる。
【0093】
図11にプッシュタイプのクラッチ装置を示している。
【0094】
プッシュタイプのクラッチ装置110では、第1回転体はプレッシャプレート114に、第2回転体はクラッチセンタ113に、支持部材はサポートプレート116に相当する。
【0095】
具体的には、プッシュタイプのクラッチ装置110では、軸方向の第側から第側に向けて、プレッシャプレート114、クラッチセンタ113、及びサポートプレート116が配置されている。プレッシャプレート114とサポートプレート116とは、クラッチセンタ113に形成された開口113aを通して、ボルト163により互いに固定されている。そして、クラッチセンタ113とサポートプレート116との間に、コイルスプリング119が配置されている。また、プレッシャプレート114の押圧部142と、クラッチセンタ113の受圧部128と、の間に、クラッチプレート115が配置されている。これらの各部材は、プルタイプのクラッチ装置10と同様に、クラッチアウター112の内部に収容されている。
【0096】
クラッチセンタ113は軸方向に移動しないので、コイルスプリング119によってサポートプレート116が軸方向の第1側に付勢されている。すなわち、サポートプレート116に固定されたプレッシャプレート114が軸方向の第1側に付勢され、プレッシャプレート114がクラッチセンタ113に対して押圧されて、クラッチプレート115がオン状態になっている。
【0097】
そして、サポートプレート116及びプレッシャプレート114を、コイルスプリング119の付勢力に抗して軸方向の第2側に移動させることによって、クラッチプレート115がオフされる。
【0098】
変形例4
クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14の構成は上記実施形態に限定されない。例えば、前記実施形態では、クラッチセンタ13の円板部26、筒状部27、及び受圧部28を一体で形成したが、それぞれ別の部材で形成してもよい。また、プレッシャプレート14についても同様であり、ボス部40、筒状部41、及び押圧部42を、それぞれ別の部材で形成してもよい。
【0099】
変形例5
上記実施形態では、クラッチセンタ13を厚さ方向に貫通するように油路45を設けたが、特にこれに限定されない。油路45は、プレッシャプレート14の筒状部41に、形成してもよい。
【0100】
変形例6
上記実施形態では、プレッシャプレート14をコイルスプリングにより付勢するようにしたが、コイルスプリングの代わりに皿バネなどを使用してもよい。
【符号の説明】
【0101】
10,110 クラッチ装置
12,112 クラッチアウター
13,113 クラッチセンタ(第1回転体)
14,114 プレッシャプレート(第2回転体)
15,115 クラッチプレート
21 凹部
22 リブ
23 連結部
24 環状領域
24a 第1領域
24b 第2領域
27 クラッチセンタの筒状部(第1筒状部)
28 受圧部
28a 第1摺動面
30 第1突起部
31 第1カム用突起
41 プレッシャプレートの筒状部(第2筒状部)
42 押圧部
42a 第2摺動面
45 油路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11