(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】クラッチ異常診断装置、及びクラッチ異常診断システム
(51)【国際特許分類】
F16D 25/12 20060101AFI20240129BHJP
F16D 48/06 20060101ALI20240129BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
F16D25/12 E
F16D28/00 A
F16D48/02 640J
F16D48/02 640K
(21)【出願番号】P 2020076826
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】服部 有樹
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 利和
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-053735(JP,A)
【文献】特開2008-256189(JP,A)
【文献】特開2015-218740(JP,A)
【文献】特開2016-060406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00-39/00
48/00-48/12
F16H 59/00-61/12
61/16-61/24
61/66-61/70
63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチの各締結状態におけるクラッチ板の位置の学習を行い、前記クラッチ板の位置の学習値に基づいて前記クラッチ板をストロークさせる自動変速マニュアルトランスミッションのクラッチ異常診断装置であって、
前記クラッチの締結動作を開始するために前記クラッチ板をスタンバイ状態としたときの前記クラッチ板の位置の学習値である第1学習値を収集する第1収集部と、
前記スタンバイ状態から前記クラッチを締結させるために前記クラッチ板をストロークさせた予め定められた締結動作状態のときの前記クラッチ板の位置の学習値である第2学習値を収集する第2収集部と、
収集された前記第1学習値及び第2学習値に基づいて、前記クラッチの自動操作の異常を診断する異常診断部と、を備え、
前記締結動作状態は、前記クラッチのつながり始めの状態であり、
前記異常診断部は、前記第1学習値の単位時間あたりの変化量が前記第2学習値の単位時間あたりの変化量よりも大きく、且つ、前記第1学習値の単位時間あたりの変化量と前記第2学習値の単位時間あたりの変化量との差分が予め定められた第1差分閾値を超える場合に、前記クラッチの自動操作が異常であると診断する
、クラッチ異常診断装置。
【請求項2】
クラッチの各締結状態におけるクラッチ板の位置の学習を行い、前記クラッチ板の位置の学習値に基づいて前記クラッチ板をストロークさせる自動変速マニュアルトランスミッションのクラッチ異常診断装置であって、
前記クラッチの締結動作を開始するために前記クラッチ板をスタンバイ状態としたときの前記クラッチ板の位置の学習値である第1学習値を収集する第1収集部と、
前記スタンバイ状態から前記クラッチを締結させるために前記クラッチ板をストロークさせた予め定められた締結動作状態のときの前記クラッチ板の位置の学習値である第2学習値を収集する第2収集部と、
収集された前記第1学習値及び第2学習値に基づいて、前記クラッチの自動操作の異常を診断する異常診断部と、を備え、
前記締結動作状態は、前記クラッチのクラッチ伝達トルクが予め定められた基準トルクの状態であり、
前記異常診断部は、前記第1学習値が前記第2学習値よりも前記クラッチの締結側の位置を示し、且つ、前記第1学習値と前記第2学習値との差分が予め定められた第2差分閾値以上である場合に、前記クラッチの自動操作が異常であると診断する
、クラッチ異常診断装置。
【請求項3】
前記自動変速マニュアルトランスミッションが搭載された車両外に設けられた報知装置から前記異常診断部の診断結果が報知されるように、前記報知装置に対して報知指示を行う報知指示部を更に備える、請求項1
又は2に記載のクラッチ異常診断装置。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のクラッチ異常診断装置と、
前記自動変速マニュアルトランスミッションを搭載する車両に設けられ、前記クラッチ異常診断装置に前記第1学習値及び前記第2学習値を送信する学習値送信装置と、
を備え、
前記学習値送信装置は、
前記自動変速マニュアルトランスミッションを制御する制御装置から、前記第1学習値及び前記第2学習値を予め定められた取得期間ごとに取得する学習値取得部と、
取得された前記第1学習値及び前記第2学習値を前記クラッチ異常診断装置に送信する送信部と、
を有し、
前記クラッチ異常診断装置は、前記送信部から送信された前記第1学習値及び前記第2学習値を受信する受信部を有し、
前記第1収集部及び前記第2収集部は、前記受信部で受信された前記第1学習値及び前記第2学習値を収集する、クラッチ異常診断システム。
【請求項5】
請求項
3に記載のクラッチ異常診断装置と、
前記車両外に設けられた前記報知装置と、
を備えるクラッチ異常診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ異常診断装置、及びクラッチ異常診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、車両に搭載された自動変速マニュアルトランスミッションのクラッチを自動で制御する装置が記載されている。この装置では、クラッチ伝達トルク特性が予め定められた状態となるようにクラッチを制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したようなクラッチを制御する装置では、クラッチの各締結状態におけるクラッチ板の位置の学習を行い、クラッチ伝達トルク特性が予め定められた状態となるように制御している。しかしながら、学習値が異常である場合、クラッチを適切な状態で締結することができず、クラッチの自動操作に異常が生じた状態となる。
【0005】
そこで、本発明は、自動変速マニュアルトランスミッションのクラッチの自動操作の異常を診断可能なクラッチ異常診断装置、及びクラッチ異常診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、クラッチの各締結状態におけるクラッチ板の位置の学習を行い、クラッチ板の位置の学習値に基づいてクラッチ板をストロークさせる自動変速マニュアルトランスミッションのクラッチ異常診断装置であって、クラッチの締結動作を開始するためにクラッチ板をスタンバイ状態としたときのクラッチ板の位置の学習値である第1学習値を収集する第1収集部と、スタンバイ状態からクラッチを締結させるためにクラッチ板をストロークさせた予め定められた締結動作状態のときのクラッチ板の位置の学習値である第2学習値を収集する第2収集部と、収集された第1学習値及び第2学習値に基づいて、クラッチの自動操作の異常を診断する異常診断部と、を備える。
【0007】
このクラッチ異常診断装置は、学習されたクラッチ板の第1学習値及び第2学習値を収集することができる。これにより、クラッチ異常診断装置の異常診断部は、収集された第1学習値及び第2学習値を用いることによって、自動変速マニュアルトランスミッションのクラッチの自動操作の異常を診断することができる。
【0008】
クラッチ異常診断装置において、締結動作状態は、クラッチのつながり始めの状態であり、異常診断部は、第1学習値の時間的変化と第2学習値の時間的変化とに基づいて、クラッチの自動操作の異常を診断してもよい。この場合、クラッチ異常診断装置は、第1学習値及び第2学習値の時間的変化を用いることにより、異常が生じたことを診断するのではなく、異常が生じそうな状態であるかを予測して診断できる。このように、クラッチ異常診断装置は、クラッチの自動操作に異常が生じる前の段階で診断できる。
【0009】
クラッチ異常診断装置において、異常診断部は、第1学習値の単位時間あたりの変化量が第2学習値の単位時間あたりの変化量よりも大きく、且つ、第1学習値の単位時間あたりの変化量と第2学習値の単位時間あたりの変化量との差分が予め定められた第1差分閾値を超える場合に、クラッチの自動操作が異常であると診断してもよい。この場合、クラッチ異常診断装置は、クラッチの自動操作に異常が生じる前の段階で、異常の有無をより適切に診断できる。
【0010】
クラッチ異常診断装置において、締結動作状態は、クラッチのクラッチ伝達トルクが予め定められた基準トルクの状態であり、異常診断部は、第1学習値が第2学習値よりもクラッチの締結側の位置を示し、且つ、第1学習値と第2学習値との差分が予め定められた第2差分閾値以上である場合に、クラッチの自動操作が異常であると診断してもよい。この場合、クラッチ異常診断装置は、クラッチの自動操作に異常が生じたことをより適切に診断できる。
【0011】
クラッチ異常診断装置は、自動変速マニュアルトランスミッションが搭載された車両外に設けられた報知装置から異常診断部の診断結果が報知されるように、報知装置に対して報知指示を行う報知指示部を更に備えていてもよい。この場合、クラッチ異常診断装置は、報知装置に報知指示を行うことによって、車外の作業者等にクラッチの自動操作の異常を報知できる。
【0012】
本発明に係るクラッチ異常診断システムは、上記のクラッチ異常診断装置と、自動変速マニュアルトランスミッションを搭載する車両に設けられ、クラッチ異常診断装置に第1学習値及び第2学習値を送信する学習値送信装置と、を備え、学習値送信装置は、自動変速マニュアルトランスミッションを制御する制御装置から、第1学習値及び第2学習値を予め定められた取得期間ごとに取得する学習値取得部と、取得された第1学習値及び第2学習値をクラッチ異常診断装置に送信する送信部と、を有し、クラッチ異常診断装置は、送信部から送信された第1学習値及び第2学習値を受信する受信部を有し、第1収集部及び第2収集部は、受信部で受信された第1学習値及び第2学習値を収集する。
【0013】
このクラッチ異常診断システムにおいて、車両に搭載された学習値送信装置は、制御装置から第1学習値及び第2学習値を予め定められた取得期間ごとに取得し、クラッチ異常診断装置に送信することができる。クラッチ異常診断装置において、第1収集部及び第2収集部は、学習値送信装置から送信された第1学習値及び第2学習値を収集する。そして、クラッチ異常診断装置において、異常診断部は、収集された第1学習値及び第2学習値に基づいて、自動変速マニュアルトランスミッションのクラッチの自動操作の異常を診断することができる。このように、クラッチ異常診断システムでは、車両から送信された各種の学習値に基づいて、クラッチ異常診断装置側において、クラッチの自動操作の異常を診断できる。
【0014】
本発明に係るクラッチ異常診断システムは、上記のクラッチ異常診断装置と、車両外に設けられた報知装置と、を備える。
【0015】
このクラッチ異常診断システムは、自動変速マニュアルトランスミッションのクラッチの自動操作の異常を診断することができる。そして、クラッチ異常診断システムは、報知装置から診断結果を報知させることによって、車外の作業者等にクラッチの自動操作の異常を報知できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、のクラッチの自動操作の異常を診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係るクラッチ異常診断システム全体の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、車両に搭載された学習値送信装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3(a)は、クラッチの構成を示す概略図である。
図3(b)は、クラッチの各締結状態におけるクラッチ板の位置を示す図である。
【
図4】
図4は、スタンバイ学習値及びつながり始め学習値の時間的変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、クラッチ異常診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、スタンバイ学習値及びつながり始め学習値とが逆転した状態を示すグラフである。
【
図7】
図7は、車両管理ステーションに設置された報知装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、クラッチ異常診断装置がクラッチの自動操作の異常を診断する処理の流れを示すフロチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一又は相当する要素同士には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に示されるように、クラッチ異常診断システム100は、車両Vに搭載された自動変速マニュアルトランスミッション(Automated Manual Transmission)25のクラッチ26(
図2参照)の自動操作の異常を診断するシステムである。診断結果は、車両管理ステーションSに設けられた報知装置30から報知される。以下、自動変速マニュアルトランスミッション25を、AMT25と称する。クラッチ異常診断システム100は、クラッチ異常診断装置10、学習値送信装置20、及び報知装置30を備えている。
【0020】
クラッチ異常診断装置10は、車両V以外の場所に設置されている。クラッチ異常診断装置10は、車両Vの学習値送信装置20から送信されたクラッチ板の位置の学習値をネットワークNを介して収集し、収集した学習値に基づいてAMT25のクラッチ26の自動操作の異常を診断する。
図1では、車両Vが1台のみ示されているが、クラッチ異常診断装置10は、複数台の車両Vから送信された学習値を収集することができる。そして、クラッチ異常診断装置10は、複数の車両Vのそれぞれについて、各車両Vに搭載されたAMT25のクラッチ26の自動操作の異常を診断することができる。
【0021】
具体的には、
図2に示されるように、車両Vに搭載された学習値送信装置20は、送信部21、及び送信ユニット22を備えている。また、車両Vは、エンジンの出力軸の回転速度を変換するAMT25を備えている。AMT25は、クラッチ26、及びクラッチ26の操作を制御する制御装置27を備えている。クラッチ26は、
図3(a)に示されるように、クラッチ板26a、及びフライホイール26bを備えている。クラッチ26は、エンジンの出力軸とAMT25内の変速機構部とが連結された状態と連結が解除された状態とを切り替える。
【0022】
制御装置27は、クラッチ板26aをストロークさせるアクチュエータを制御することにより、クラッチ26を操作する。また、制御装置27は、クラッチ伝達トルク特性が予め定められた状態となるようにクラッチ26の各締結状態におけるクラッチ板26aの位置の学習を行い、クラッチ板26aの位置の学習値に基づいてクラッチ板26aをストロークさせてクラッチ26を締結させる。
【0023】
ここで、クラッチ26の各締結状態には、
図3(b)に示されるように、スタンバイ状態、クラッチ26のつながり始めの状態(締結動作状態)、及びクラッチ伝達トルクが第1のトルク値の状態(締結動作状態)が含まれている。また、このクラッチ26の各締結状態には、クラッチ伝達トルクが第2のトルク値の状態など、上述した状態以外の種々の状態が含まれている。制御装置27は、周知の方法によって、クラッチ伝達トルク特性が予め定められた状態となるように、各締結状態におけるクラッチ板26aの位置を学習する。
【0024】
なお、スタンバイ状態とは、クラッチ26の締結動作を開始するためにクラッチ板26aをスタンバイ位置にスタンバイさせたときの状態である。クラッチ26がつながり始めの状態及びクラッチ伝達トルクが第1のトルク値の状態とは、スタンバイ状態からクラッチ26を締結させるためにクラッチ板26aをストロークさせた状態である。クラッチ26がつながり始めの状態とは、クラッチ板26aがフライホイール26bに接触して、連れ回りを開始する状態である。クラッチ伝達トルクが第1のトルク値の状態とは、クラッチ26によるクラッチ伝達トルクが第1のトルク値(基準トルク)の状態である。
【0025】
ここで、クラッチ板26aをスタンバイ状態としたときのクラッチ板26aの位置の学習値を「スタンバイ学習値(第1学習値)」という。クラッチ26がつながり始めの状態のときのクラッチ板26aの位置の学習値を「つながり始め学習値(第2学習値)」という。クラッチ伝達トルクが第1のトルク値の状態であるときのクラッチ板26aの位置の学習値を「第1のトルク学習値(第2学習値)」という。
【0026】
学習値の学習が適切に行われている場合、
図4に示されるように、スタンバイ学習値G1が示すクラッチ板26aの位置よりもつながり始め学習値G2が示すクラッチ板26aの位置の方が、フライホイール26bに近い位置となる。第1のトルク学習値が示すクラッチ板26aの位置も同様に、つながり始め学習値G2が示すクラッチ板26aの位置よりも第1のトルク学習値が示すクラッチ板26aの位置の方がフライホイール26bに近い位置となる。また、学習が進むにつれて、各学習値が示すクラッチ板26aの位置がフライホイール26bに近い位置となる。これは、例えば、各AMT25の個体差を吸収するために設定されていた余裕代が、学習によって小さくなるためである。また、ある程度学習が進むことにより、各学習値が示すクラッチ板26aの位置がそれぞれほぼ一定の値となる。
【0027】
送信部21は、ネットワークNを介してクラッチ異常診断装置10と通信を行う通信装置である。送信部21は、無線通信によってクラッチ異常診断装置10と通信を行う。なお、送信部21は、有線通信によってクラッチ異常診断装置10と通信を行う構成であってもよい。送信部21は、後述する送信ユニット22の学習値取得部23で取得された各種の学習値をクラッチ異常診断装置10に送信する。
【0028】
送信ユニット22は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及び、RAM(Random Access Memory)を備える電子制御ユニットである。送信ユニット22は、機能的には、学習値取得部23、及び送信制御部24を備えている。
【0029】
学習値取得部23は、制御装置27から、スタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値を予め定められた取得期間ごとに取得する。ここで、予め定められた取得期間とは、車両Vのエンジンの稼働時間が予め定めれた時間を経過するまでの期間である。また、取得期間は、エンジンの稼働に伴って順次設定される。
【0030】
送信制御部24は、送信部21が行う送信を制御する。送信制御部24は、送信部21を制御することにより、学習値取得部23で取得された取得期間ごとのスタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値を送信部21を用いてクラッチ異常診断装置10へ送信する。ここで、送信制御部24は、学習値取得部23によって取得されたスタンバイ学習値等の各種の学習値を、複数まとめて送信することができる。この場合、送信制御部24は、予め定められた時間ごとに複数の学習値まとめて送信してもよく、予め定められた数の学習値が取得されたときにこれらの学習値をまとめて送信してもよい。但し、送信制御部24は、スタンバイ学習値等の各種の学習値が取得されるごとに、取得された学習値を送信してもよい。
【0031】
図5に示されるように、クラッチ異常診断装置10は、受信部11、送信部12、及び診断ユニット13を備えている。受信部11は、ネットワークNを介して学習値送信装置20と通信を行う通信装置である。受信部11は、学習値送信装置20の送信部21から送信された取得期間ごとの学習値を受信する。送信部12は、ネットワークNを介して車両管理ステーションSに設けられた報知装置30と通信を行う通信装置である。送信部12は、後述する診断ユニット13の報知指示部16の指示に基づいて報知指示を報知装置30に送信する。
【0032】
診断ユニット13は、例えばCPU、ROM、及び、RAMを備える電子制御ユニットである。診断ユニット13は、機能的には、学習値収集部(第1収集部、第2収集部)14、異常診断部15、及び報知指示部16を備えている。
【0033】
学習値収集部14は、スタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値をそれぞれ収集する。ここでは、学習値収集部14は、受信部11で受信された取得期間ごとのスタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値を、受信部11から収集する。
【0034】
異常診断部15は、収集されたスタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値に基づいて、クラッチ26の自動操作の異常を診断する。ここで、異常診断部15は、収集されたスタンバイ学習値等の学習値に基づいて、次の第1の診断方法又は第2の診断方法によって、クラッチ26の自動操作の異常を診断することができる。
【0035】
(第1の診断方法)
まず、異常診断部15が行う第1の診断方法について説明する。第1の診断方法において、異常診断部15は、学習値収集部14で収集された各種の学習値のうち、スタンバイ学習値とつながり始め学習値とを用いる。異常診断部15は、スタンバイ学習値の時間的変化と、つながり始め学習値の時間的変化とに基づいて、クラッチ26の自動操作の異常を診断する。
【0036】
具体的には、異常診断部15は、スタンバイ学習値の単位時間あたりの変化量がつながり始め学習値の単位時間あたりの変化量よりも大きく、且つ、スタンバイ学習値の単位時間あたりの変化量とつながり始め学習値の単位時間あたりの変化量との差分が予め定められた第1差分閾値を超える場合に、クラッチ26の自動操作が異常であると診断する。
【0037】
例えば、スタンバイ学習値の単位時間あたりの変化量がつながり始め学習値の単位時間あたりの変化量よりも大きい場合とは、この状態が継続されることによって、
図6に示されるように、スタンバイ学習値G1及びつながり始め学習値G2が示すクラッチ板26aの位置が逆転することが生じ得る場合である。このような学習の異常によってスタンバイ学習値G1とつながり始め学習値G2とが逆転した場合、クラッチ板26aをフライホイール26bに向けてスムーズにストロークさせることができなくなることが生じ得る。
【0038】
異常診断部15は、第1差分閾値として、0(ゼロ)を用いてもよい。この場合、異常診断部15は、次の式(1)を満たす場合に、クラッチ26の自動操作が異常であると診断する。
(つながり始め学習値の単位時間あたりの変化量)-(スタンバイ学習値の単位時間あたりの変化量)<0 ・・・(1)
【0039】
なお、異常診断部15は、各学習値の単位時間当たりの変化量を、直近に取得された所定の個数分の学習値に基づいて算出してもよい。また、異常診断部15は、各学習値がリセットされた後、エンジンの稼働時間が予め定められた時間を超えた後に学習された学習値を用いてもよい。
【0040】
異常診断部15は、クラッチ26の自動操作が異常であると診断した後、例えば、後述する車両管理ステーションSにおいて学習値のリセット等が行われた場合に、異常の診断結果を取り消してもよい。
【0041】
(第2の診断方法)
次に、異常診断部15が行う第2の診断方法について説明する。第2の診断方法において、異常診断部15は、学習値収集部14で収集された各種の学習値のうち、スタンバイ学習値と第1のトルク学習値とを用いる。異常診断部15は、スタンバイ学習値が第1のトルク学習値よりもクラッチ26の締結側の位置を示し、且つ、スタンバイ学習値と第1のトルク学習値との差分が予め定められた第2差分閾値以上である場合に、クラッチ26の自動操作が異常であると診断する。
【0042】
スタンバイ学習値が第1のトルク学習値よりもクラッチ26の締結側の位置を示している場合とは、スタンバイ学習値と第1のトルク学習値との位置関係が逆転している状態である。このため、異常診断部15は、スタンバイ学習値と第1のトルク学習値との位置関係が逆転し、この位置の差が第2差分閾値以上である場合に、異常であると診断する。
【0043】
ここで、スタンバイ学習値が第1のトルク学習値よりもクラッチ26の締結側の位置を示し、且つ、スタンバイ学習値と第1のトルク学習値との差分が0以上第2差分閾値未満である場合がある。この場合、異常診断部15は、上記のように、クラッチ26の自動操作が異常であるとは診断しない。しかしながら、この場合であっても、第1のトルク学習値が学習条件を満たしていない場合、異常診断部15は、異常であると診断してもよい。この学習条件とは、直近に取得された所定の個数分の第1のトルク学習値の標準偏差が予め定められた値未満の状態であり、エンジンの稼働時間が予め定められた時間を超えた状態とする。
【0044】
異常診断部15は、クラッチ26の自動操作が異常であると診断した後、例えば、後述する車両管理ステーションSにおいて学習値のリセット等が行われた場合に、異常であるとの診断結果を取り消してもよい。また、異常診断部15は、次の条件(1)及び(2)を満たす場合に、異常であるとの診断結果を取り消してもよい。なお、条件(1)及び(2)を満たす場合とは、異常の診断が行われた後、学習値の学習が正常に進んで異常状態が解消された状態である。
【0045】
条件(1):スタンバイ学習値が第1のトルク学習値よりもクラッチ26の締結側の位置を示し、且つ、スタンバイ学習値と第1のトルク学習値との差分が予め定められた第2差分閾値以上である状態が解消された場合。
条件(2):直近に取得された第1のトルク学習値が一つ前に取得された第1のトルク学習値よりも予め定められた基準値以上、クラッチ締結側の位置を示している場合。
【0046】
報知指示部16は、異常診断部15の診断結果が車両V外に設けられた報知装置30(車両管理ステーションSに設けられた報知装置30)から報知されるように、報知装置30に対して報知指示を行う。ここでは、報知指示部16は、報知指示を送信部12を介して車両管理ステーションSの報知装置30に送信する。また、報知指示部16は、異常診断部15においてクラッチ26の自動操作が異常であると診断された場合に、報知指示を行う。
【0047】
次に、車両管理ステーションSに設けられた報知装置30について説明する。車両管理ステーションSは、車両Vの管理を行うステーションである。報知装置30は、例えば、車両Vのディーラー、整備工場、車両Vの運行を管理する事業所等であってもよい。車両管理ステーションS内に報知装置30が設けられていることにより、車両管理ステーションS内で作業をする作業者は、報知装置30から報知された報知内容を認識できる。すなわち、車両管理ステーションS内の作業者は、車両管理ステーションS内に車両Vが存在しない状態であっても、車両Vに搭載されたAMT25のクラッチ26の自動操作が異常であること認識できる。
【0048】
図7に示されるように、報知装置30は、受信部31、報知制御ユニット32、及び報知部33を備えている。受信部31は、ネットワークNを介してクラッチ異常診断装置10と通信を行う通信装置である。受信部31は、クラッチ異常診断装置10から送信された報知指示を受信する。
【0049】
報知制御ユニット32は、例えばCPU、ROM、及び、RAMを備える電子制御ユニットである。報知制御ユニット32は、機能的には、報知制御部34を備えている。報知制御部34は、報知部33が行う報知を制御する。報知制御部34は、受信部31で受信された報知指示に基づいて、報知部33を通じて報知を実行する。ここで、報知指示は、クラッチ26の自動操作が異常であると診断された場合に行われる。このため、報知制御部34は、受信された報知指示に基づいて、クラッチ26の自動操作が異常であることを報知部33を通じて報知する。
【0050】
報知部33は、例えば、表示装置等を有しており、各種情報を作業者に報知する装置である。報知部33は、報知制御部34の制御に基づいて、クラッチ26の自動操作が異常であることを報知する。例えば、報知部33から報知される情報には、クラッチ26の自動操作が異常であること、及び当該車両Vの識別情報等が含まれていてもよい。
【0051】
これにより、車両管理ステーションS内の作業者は、車両Vに搭載されたAMT25のクラッチ26の自動操作が異常であることを認識できる。従って、例えば、作業者は、車両Vの整備を行う際に、AMT25の各種の学習値のリセット作業等の異常の診断結果に応じた作業を行うことができる。
【0052】
次に、クラッチ異常診断装置10がクラッチ26の自動操作の異常を診断する処理の流れについて、
図8を用いて説明する。なお、
図8に示される処理は、学習値送信装置20から送信された各種の学習値をクラッチ異常診断装置10が受信した場合に開始される。
図8に示されるように、クラッチ異常診断装置10の学習値収集部14が学習値送信装置20から送信された各種の学習値を収集すると、異常診断部15は、収集された学習値に基づいてクラッチ26の自動操作の異常を診断する(S101)。ここでは、異常診断部15は、上述した第1の診断方法又は及び第2の診断方法を用いて異常を診断する。
【0053】
異常がクラッチ26の自動操作が異常であると診断された場合(S102:YES)、報知指示部16は、送信部12を用いて報知装置30に対して報知指示を行う(S103)。異常がクラッチ26の自動操作が異常であると診断されていない場合(S102:NO)、クラッチ異常診断装置10は、今回の診断処理を終了する。そして、クラッチ異常診断装置10は、次に学習値が取得された場合に上述した処理を実行する。
【0054】
以上のように、クラッチ異常診断装置10は、AMT25の制御装置27において学習されたクラッチ板26aの位置の学習値であるスタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値を収集することができる。これにより、クラッチ異常診断装置10の異常診断部15は、収集されたスタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値を用いることによって、AMT25のクラッチ26の自動操作の異常を診断することができる。
【0055】
異常診断部15は、第1の診断方法として、スタンバイ学習値の時間的変化とつながり始め学習値の時間的変化とに基づいて、クラッチ26の自動操作の異常を診断する。このように、異常診断部15は、スタンバイ学習値及びつながり始め学習値の時間的変化を用いることにより、異常が生じたことを診断するのではなく、異常が生じそうな状態であるかを予測して診断できる。従って、クラッチ異常診断装置10は、クラッチの自動操作に異常が生じる前の段階で診断できる。
【0056】
また、異常診断部15は、第1の診断方法として、具体的には、スタンバイ学習値の単位時間あたりの変化量がつながり始め学習値の単位時間あたりの変化量よりも大きく、且つ、スタンバイ学習値の単位時間あたりの変化量とつながり始め学習値の単位時間あたりの変化量との差分が予め定められた第1差分閾値を超える場合に、クラッチ26の自動操作が異常であると診断する。この場合、クラッチ異常診断装置10は、クラッチ26の自動操作に異常が生じる前の段階で、異常の有無をより適切に診断できる。
【0057】
異常診断部15は、第2の診断方法として、異常診断部15は、スタンバイ学習値が第1のトルク学習値よりもクラッチ26の締結側の位置を示し、且つ、スタンバイ学習値と第1のトルク学習値との差分が予め定められた第2差分閾値以上である場合に、クラッチ26の自動操作が異常であると診断する。この場合、クラッチ異常診断装置10は、クラッチ26の自動操作に異常が生じたことをより適切に診断できる。
【0058】
クラッチ異常診断装置10は、報知装置30に対して報知指示を行う報知指示部16を更に備えている。この場合、クラッチ異常診断装置10は、報知装置30に報知指示を行うことによって、車両V外の作業者等にクラッチ26の自動操作の異常を報知できる。
【0059】
クラッチ異常診断システム100において、車両Vに搭載された学習値送信装置20は、AMT25の制御装置27からスタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値を取得し、クラッチ異常診断装置10に送信することができる。クラッチ異常診断装置10において学習値収集部14は、学習値送信装置20から送信されたスタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値を収集する。そして、クラッチ異常診断装置10において異常診断部15は、収集されたスタンバイ学習値、つながり始め学習値、及び第1のトルク学習値に基づいて、AMT25のクラッチ26の自動操作の異常を診断することができる。このように、クラッチ異常診断システム100では、車両Vから送信された各種の学習値に基づいて、クラッチ異常診断装置10側において、クラッチ26の自動操作の異常を診断できる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、異常診断部15は、第2の診断方法によって診断を行う際に、クラッチ板26aの位置の学習値として第1のトルク学習値を用いたが、クラッチ伝達トルクが第1のトルク値以外の基準トルクのときのクラッチ板26aの位置の学習値を用いてもよい。
【0061】
クラッチ異常診断装置10は、車両Vに搭載されていてもよい。この場合、クラッチ異常診断装置10の受信部11は、学習値送信装置20の送信部21から、ネットワークNを介さずに各種の学習値を受信すればよい。このように、クラッチ異常診断装置10が車両Vに搭載されている場合であっても、クラッチ異常診断装置10は、クラッチ26の自動操作の異常を診断できる。また、クラッチ異常診断装置10は、車両管理ステーションSに設けられていてもよい。
【0062】
報知装置30は、車両管理ステーションSに設けられていることに限定されない。報知装置30は、クラッチ異常診断装置10と同じ場所に設けられていてもよく、車両Vに搭載されていてもよい。報知装置30が車両Vに搭載されている場合、クラッチ異常診断システム100は、クラッチ26の自動操作が異常であることを車両Vの乗員に報知してもよい。
【0063】
以上に記載された実施形態及び種々の変形例の少なくとも一部が任意に組み合わせられてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…クラッチ異常診断装置、11…受信部、14…学習値収集部(第1収集部、第2収集部)、15…異常診断部、16…報知指示部、20…学習値送信装置、21…送信部、23…学習値取得部、25…AMT(自動変速マニュアルトランスミッション)、26…クラッチ、26a…クラッチ板、27…制御装置、30…報知装置、100…クラッチ異常診断システム、V…車両。