(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】pH測定システム及びpH測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20240129BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20240129BHJP
G01N 21/80 20060101ALI20240129BHJP
G01J 3/46 20060101ALN20240129BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N31/22 121F
G01N31/22 121N
G01N21/80
G01J3/46 Z
(21)【出願番号】P 2020079063
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原 賢吾
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-168602(JP,A)
【文献】特開2005-189119(JP,A)
【文献】特表2010-527001(JP,A)
【文献】特表2015-509582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 31/00-G01N 31/22
G01J 3/00-G01N 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のpHに応じて呈色する第1呈色領域と、試料のアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記第1呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Aを抽出し、前記撮像部により撮像された前記第2呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する抽出部と、
前記試料のpHと前記第1呈色領域及び前記第2呈色領域の画像データに基づく色空間における座標との関係式を用いて、前記抽出部により抽出された前記座標A及び前記座標Bから前記試料のpH値を算出する算出部と、を備えることを特徴とするpH測定システム。
【請求項2】
試料のpHに応じて呈色する第1呈色領域と、試料のアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記第1呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Aを抽出し、前記撮像部により撮像された前記第2呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記座標A及び前記座標Bを学習処理済みニューラルネットワークに入力して、前記試料のpH値を算出する算出部と、を備えることを特徴とするpH測定システム。
【請求項3】
前記ニューラルネットワークは、
既知のpHに対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標から計算される特徴量、
既知のアルカリ度に対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標から計算される特徴量、
及び
前記既知のpHに対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標と
前記既知のアルカリ度に対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標とから計算される特徴量のうちの少なくとも1つを
教師データとして、学習処理に利用していることを特徴とする請求項2に記載のpH測定システム。
【請求項4】
試料のpHに応じて呈色する第1呈色領域と、試料のアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程により撮像された前記第1呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Aを抽出し、前記撮像工程により撮像された前記第2呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する抽出工程と、
前記試料のpHと前記第1呈色領域及び前記第2呈色領域の画像データに基づく色空間における座標との関係式を用いて、前記抽出工程により抽出された前記座標A及び前記座標Bから前記試料のpH値を算出する算出工程と、を備えることを特徴とするpH測定方法。
【請求項5】
試料のpHに応じて呈色する第1呈色領域と、試料のアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程により撮像された前記第1呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Aを抽出し、前記撮像工程により撮像された前記第2呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する抽出工程と、
前記抽出工程により抽出された前記座標A及び前記座標Bを学習処理済みニューラルネットワークに入力して、前記試料のpH値を算出する算出工程と、を備えることを特徴とするpH測定方法。
【請求項6】
前記ニューラルネットワークは、
既知のpHに対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標から計算される特徴量、
既知のアルカリ度に対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標から計算される特徴量、
及び
前記既知のpHに対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標と
前記既知のアルカリ度に対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標とから計算される特徴量のうちの少なくとも1つを
教師データとして、学習処理に利用していることを特徴とする請求項5に記載のpH測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH測定システム及びpH測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、試料のpHを測定する際には、水素イオン選択性の感応膜を有するpH測定電極や、pH指示薬の水溶液をろ紙に含浸し、乾燥したpH試験紙が使用される(例えば、非特許文献1参照)。pH測定電極を使用する場合、pHを精度良く測定できるものの、試料の数が多い時などは、測定毎に電極を洗浄する必要があるため、作業が煩雑となり、迅速な測定が困難である。
【0003】
一方、pH試験紙を使用する場合、例えば、pH試験紙を試料で濡らし、呈色したpH試験紙の色と色見本とを目視で比較して、試料のpHを測定するため、簡便且つ迅速にpHを測定することができるが、色の比較を人間が行う場合には、正確な判定が困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、呈色した試験片をCCD等の撮像装置により撮像し、撮像した画像データを色分析する方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、試験片の画像データから、表色系に基づく指数を算出し、試料中の分析対象物質の濃度と前記指数との関係を表す関数に、前記算出した指数を代入し、分析対象物質の濃度を判定する試料分析方法が開示されている。
【0006】
また、例えば、特許文献2には、試験片の画像データにおける赤色チャンネル、青色チャンネル、緑色チャンネルのうちの少なくとも1つの強度データを第1のデータポイントに変換し、前記第1のデータポイントと厳密に一致する標準曲線から、分析対象物質の濃度を算出する試料分析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-133634号公報
【文献】特表2015-509582号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】高木誠司、「定量分析の実験と計算」、p.508及びp.536、共立出版株式会社、昭和59年3月10日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、pH試験紙をアルカリ度の低い試料で濡らした場合、アルカリ度の低い試料は緩衝性が低いため、pH指示薬自体の酸性・アルカリ性により、試料のpHを変化させてしまう場合がある。そのため、アルカリ度の低い試料のpHをpH試験紙で測定すると、試料の実際のpHとのずれが生じ、pH値を精度よく測定できない場合がある。
【0010】
そこで、本発明では、試料のpH値を精度よく測定することができるpH測定システム及びpH測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、試料のpHに応じて呈色する第1呈色領域と、試料のアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された前記第1呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Aを抽出し、前記撮像部により撮像された前記第2呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する抽出部と、前記試料のpHと前記第1呈色領域及び前記第2呈色領域の画像データに基づく色空間における座標との関係式を用いて、前記抽出部により抽出された前記座標A及び前記座標Bから前記試料のpH値を算出する算出部と、を備えるpH測定システムである。
【0012】
また、本発明は、試料のpHに応じて呈色する第1呈色領域と、試料のアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された前記第1呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Aを抽出し、前記撮像部により撮像された前記第2呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する抽出部と、前記抽出部により抽出された前記座標A及び前記座標Bを学習処理済みニューラルネットワークに入力して、前記試料のpH値を算出する算出部と、を備えるpH測定システムである。
【0013】
また、前記pH測定システムにおいて、前記ニューラルネットワークは、既知のpHに対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標から計算される特徴量、既知のアルカリ度に対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標から計算される特徴量、及び前記既知のpHに対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標と前記既知のアルカリ度に対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標とから計算される特徴量のうちの少なくとも1つを教師データとして、学習処理に利用していることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、試料のpHに応じて呈色する第1呈色領域と、試料のアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を撮像する撮像工程と、前記撮像工程により撮像された前記第1呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Aを抽出し、前記撮像工程により撮像された前記第2呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する抽出工程と、前記試料のpHと前記第1呈色領域及び前記第2呈色領域の画像データに基づく色空間における座標との関係式を用いて、前記抽出工程により抽出された前記座標A及び前記座標Bから前記試料のpH値を算出する算出工程と、を備えるpH測定方法である。
【0015】
また、本発明は、試料のpHに応じて呈色する第1呈色領域と、試料のアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を撮像する撮像工程と、前記撮像工程により撮像された前記第1呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Aを抽出し、前記撮像工程により撮像された前記第2呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する抽出工程と、前記抽出工程により抽出された前記座標A及び前記座標Bを学習処理済みニューラルネットワークに入力して、前記試料のpH値を算出する算出工程と、を備えるpH測定方法である。
【0016】
また、前記pH測定方法において、前記ニューラルネットワークは、既知のpHに対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標から計算される特徴量、既知のアルカリ度に対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標から計算される特徴量、及び前記既知のpHに対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標と前記既知のアルカリ度に対して呈色した呈色領域の画像データに基づく色空間における座標とから計算される特徴量のうちの少なくとも1つを教師データとして、学習処理に利用していることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、試料のpH値を精度よく測定することができるpH測定システム及びpH測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係るpH測定システムで使用される試験片の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係るpH測定システムの構成の一例を示す模式図である。
【
図3】本実施形態に係るpH測定システムを構成する制御部の機能ブロックの一例を示す図である。
【
図4】第1呈色領域及び第2呈色領域の画像データに基づく色空間における座標の相関関係を説明するための図である。
【
図5】第1呈色領域に係る座標(L*)及び第2呈色領域に係る座標(a*)を対応する試料のpHと関連付けたデータベースの一例を示す。
【
図6】本実施形態に係るpH測定システムの動作の一例を示すフロー図である。
【
図7】本実施形態に係るpH測定システムを構成する制御部の機能ブロックの他の一例を示す図である。
【
図8】設定部におけるニューラルネットワークの構成の一例を示す模式図である。
【
図9】本実施形態に係るpH測定システムの動作の一例を示すフロー図である。
【
図10】本実施形態に係るpH測定システムの構成の他の一例を示す模式図である。
【
図11】本実施形態に係るpH測定システムの動作の一例を示すフロー図である。
【
図12】本実施形態に係るpH測定システムの構成の他の一例を示す模式図である。
【
図13】本実施形態に係るpH測定システム7の動作の一例を示すフロー図である。
【
図14】比較例1のpH値の算出結果を示す図である。
【
図15】比較例2のpH値の算出結果を示す図である。
【
図16】実施例1のpH値の算出結果を示す図である。
【
図17】実施例2のpH値の算出結果を示す図である。
【
図18】実施例3のpH値の算出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係るpH測定システムで使用される試験片の一例を示す模式図である。試験片1は、試料中の分析対象物質の濃度に応じて呈色する呈色領域(第1呈色領域10、第2呈色領域12)を有する。本実施形態では、第1呈色領域10及び第2呈色領域12を同一平面上に有する試験片1を用いているが、第1呈色領域10を有する試験片及び第2呈色領域12を有する試験片それぞれを用いてもよい。
【0021】
第1呈色領域10には、試料のpHに応じて(すなわち、試料中の水素イオン濃度に応じて)、色が変化する試薬が固定されている。また、第2呈色領域12には、試料のアルカリ度に応じて(すなわち、試料中の炭酸塩及び/又は炭酸水素塩の濃度に応じて)、色が変化する試薬が固定されている。なお、試験片1には、第3呈色領域が設けられていてもよい。第3呈色領域の測定対象は、例えば、アルミニウム、ホウ素、銅、クロム、バナジウム、鉄、マンガン、ニッケル、銀、スズ、亜鉛、鉛、ヒ素、カドミウム、水銀、コバルト、モリブデン、シリカ、シアン、水酸化物、亜硝酸、硝酸、亜硫酸、硫化物、硫酸、全窒素、有機体窒素、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素、全りん、リン酸、アンモニウム、リチウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、塩化物、臭化物、よう化物、結合残留塩素、活性酸素、過酸化水素、アスコルビン酸、キレート剤、界面活性剤、グルコース、ポリマー、ホルムアルデヒド等が挙げられる。また、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩の含有量を示す指標となる硬度や、酸素、過酸化水素、水素、亜硫酸などの酸化剤または還元剤の含有量を示す指標となる酸化還元電位も測定対象である。
【0022】
試験片1は、呈色領域で生じた呈色と比較するための色見本から構成されるカラーチャート領域を有していてもよい。カラーチャート領域の色見本は、例えば、絵の具、インク、顔料、塗料等を使用したオフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、熱転写印刷、レーザー印刷、インクジェット印刷等によって形成される。カラーチャート領域は、試験片1とは別のシート等に設けられていてもよい。
【0023】
試料と呈色領域との接触は、例えば、試験片1を試料へ浸漬させる、或いは試料を試験片1の呈色領域に滴下する等の方法が挙げられる。
【0024】
図2は、本実施形態に係るpH測定システムの構成の一例を示す模式図である。
図2に示すpH測定システム3は、撮像部22、発光部24、制御部26、操作部28、表示部30、記憶部32を有する。pH測定システム3は、例えば、スマートフォン、ラップトップ型のパーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末のような汎用型又は多機能型の携帯型コンピュータ、デスクトップ型又はタワー型のPC等の汎用型のコンピュータ等の端末装置等が適用される。
【0025】
撮像部22は、例えば、CCD又はCMOS等のイメージセンサを用いた撮像装置であり、試験片1を撮像し、撮像した試験片1の画像データを取得する。発光部24は、撮像部22に隣接して配置され、必要に応じて、撮像部22による撮像時に発光する。
【0026】
操作部28は、ユーザーからの操作を受け付けるためのインターフェースであり、例えば、スマートフォン等の携帯端末等の場合には、タッチパネルやキーボタン等である。表示部30は、撮像部22により撮像した試験片1の画像や制御部26から出力された情報等を表示するためのインターフェースであり、例えば、ディスプレイ等である。スマートフォン等の携帯端末等の場合には、表示部30は、タッチパネルディスプレイとして操作部28と一体化されている。
【0027】
記憶部32は、例えば、RAM、ROM、HDD、フラッシュメモリー等を含んで構成され、撮像部22が取得した画像データ、制御部26が読み出す所定の処理プログラム、制御部26から出力される情報等を記憶する。また、記憶部32は、例えば、試料のpH値を算出するために必要な情報等を記憶する。
【0028】
制御部26は、例えば、CPU、ROM、RAM等を含んで構成され、記憶部32に記憶された所定の処理プログラムを読み出し、当該処理プログラムを実行して、pH測定システム3の動作を制御する。
【0029】
図3は、本実施形態に係るpH測定システムを構成する制御部の機能ブロックの一例を示す図である。
図3に示すように、制御部26は、機能ブロックとして、画像領域選択部34、抽出部36、算出部38を有する。
【0030】
画像領域選択部34は、撮像部22により撮像された試験片1の画像データから、第1呈色領域10、第2呈色領域12それぞれの画像領域を選択する。例えば、画像領域選択部34は、試験片1上の第1呈色領域10、第2呈色領域12の位置関係の相対値から、又はユーザーからの操作に応じて、それぞれの画像領域を検出する。
【0031】
抽出部36は、第1呈色領域10の画像データから2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Aを抽出する(以下、第1呈色領域10に係る座標Aと称する場合がある)。また、抽出部36は、第2呈色領域12の画像データから2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する(以下、第2呈色領域12に係る座標Bと称する場合がある)。
【0032】
2つ以上の色チャンネルとしては、RGB空間におけるR、G、B、XYZ空間におけるX、Y、Z、L*a*b*空間におけるL*、a*、b*、CMYK空間におけるC、M、Y、K、HSV空間におけるH、S、V、HLS空間におけるH、L、S等が挙げられる。そして、2つ以上の色チャンネルを有する色空間とは、R、G、Bのチャンネルを例にすると、R軸、G軸が相互に直交する2次元色空間、R軸、B軸が相互に直交する2次元色空間、G軸、B軸が相互に直交する2次元色空間、又はR軸、G軸、B軸が相互に直交する3次元色空間である。また、抽出部36により抽出される座標は、色空間を構成する色チャンネルの色値(画像信号値)である。例えば、R軸、G軸が相互に直交する2次元空間を例にすると、呈色領域の画像データから抽出したRの色値及びGの色値の両方又はいずれか一方が、抽出部36により抽出される座標となる。なお、画像データから抽出する色チャンネルの色値は、画像データ内の各画素の色チャンネルの色値の平均値や最頻値など、色値を統計処理することにより算出した値であることが望ましい。
【0033】
算出部38は、試料のpHと第1呈色領域10及び第2呈色領域12の画像データに基づく色空間における座標との関係式(以下、試料のpHを算出するための関係式と称する場合がある)を用いて、第1呈色領域10に係る座標A及び第2呈色領域12に係る座標Bから試料のpHを算出する。
【0034】
図4は、第1呈色領域及び第2呈色領域の画像データに基づく色空間における座標の相関関係を説明するための図である。
図4では、横軸を第2呈色領域12の画像データに基づく色空間における座標(L*a*b*空間におけるa*)とし、縦軸を第1呈色領域10の画像データに基づく色空間における座標(L*a*b*空間におけるL*)とし、pH及びアルカリ度の異なる複数の試料に対して試験片1を浸漬させ、各試験片1の第1呈色領域10及び第2呈色領域12の画像データの色空間における座標(a*,L*)をプロットしている。
図4のプロットは、左下側から右上側に向かってpHの高い試料に対するデータとなっており、これらのプロットを線形の関数で近似することができる。したがって、試料のpHと、第1呈色領域10の画像データに基づく色空間における座標及び第2呈色領域12の画像データに基づく色空間における座標との間には相関関係があるため、試料のpH値を算出するための関係式にこれらの座標を変数として組み込むことにより、アルカリ度を考慮した試料のpH値を算出することができ、試料のpH値の算出精度の向上が図られる。
【0035】
試料のpH値を算出するための関係式は、例えば、以下のようにして設定される。pH及びアルカリ度の異なる複数の試料に対して試験片1を浸漬させ、各試験片1の第1呈色領域10及び第2呈色領域12の画像データを取得し、第1呈色領域10に係る座標(例えば、L*)、第2呈色領域12に係る座標(例えば、a*)を抽出し、対応する試料のpH等と関連付けてデータベースにする。
【0036】
図5は、第1呈色領域に係る座標(L*)及び第2呈色領域に係る座標(a*)を対応する試料のpHと関連付けたデータベースの一例を示す。そして、
図5に示すデータベースに対して、例えば重回帰分析を実施することにより、以下のような、試料のpH値を算出するための関係式が設定される。
Y=b
1X
1+b
2X
2+b
0
Y:試料のpH値
b
1、b
2、b
0:重回帰分析により求められる定数
X
1:第1呈色領域10に係る座標(L*)
X
2:第2呈色領域12に係る座標(a*)
【0037】
上記関係式は一例であって、上記に限定されるものではない。例えば、試料のpH値を算出するための関係式における変数は、3つ以上であってもよい。例えば、X1、X2に加え、第1呈色領域10の画像データに基づく色空間における座標(a*)を変数とするX3、第2呈色領域12の画像データに基づく色空間における座標(L*)を変数とするX4等を含む関係式であってもよい。
【0038】
上記関係式は、pH測定システム3によって、分析対象である試料のpH値を算出する前の段階で設定されるものである。関係式は例えば記憶部32に記憶される。
【0039】
図6は、本実施形態に係るpH測定システムの動作の一例を示すフロー図である。
図6に示す各ステップの処理は、記憶部32に記憶されている所定の処理プログラムに基づいて、制御部26により、pH測定システム3を構成する各部と協働して実行される。
【0040】
ステップS10では、撮像部22は、試料に浸漬させた後の試験片1を撮像する。ステップS12では、画像領域選択部34は、撮像部22によって撮像された試験片1の画像データから、第1呈色領域10の画像データ及び第2呈色領域12の画像データを選択する。ステップS14では、制御部26を構成する抽出部36は、選択された第1呈色領域10の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標A、及び選択された第2呈色領域12の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における座標Bを抽出する。ステップS16では、制御部26を構成する算出部38は、記憶部32に記憶されている、試料のpHと第1呈色領域10及び第2呈色領域12の画像データに基づく色空間における座標との関係式(試料のpHを算出するための関係式)を読み出し、当該式に、座標A及び座標Bの値を代入し、試料のpH値を算出する。なお、記憶部32は、ステップS16で算出した試料のpH値を記憶する。また、必要に応じて、算出した試料のpH値を表示部30に表示する。
【0041】
図7は、本実施形態に係るpH測定システムを構成する制御部の機能ブロックの他の一例を示す図である。
図7に示すように、機能ブロックとして、画像領域選択部34、抽出部36、算出部38、ニューラルネットワークを含む設定部40を有する。画像領域選択部34、抽出部36は前述の通りであり、その説明を省略する。
【0042】
図8は、設定部におけるニューラルネットワークの構成の一例を示す模式図である。ニューラルネットワークには、入力層、一つ以上の中間層、出力層から構成され、また、入力層、中間層、出力層のそれぞれに含まれるニューロンが互いにどのように結合されるのかという結合情報や、結合されたニューロン間で入出力されるデータに付与される結合係数がいくつであるのかという重み情報等が含まれる。
【0043】
ニューラルネットワークは、試料のpHに対応する第1呈色領域10及び第2呈色領域12の画像データに基づく色空間における座標が、入力層に入力された際に、試料のpHが出力されるように、教師データを用いた学習処理が施されている。
【0044】
例えば、記憶部32には、学習処理に利用される複数の教師データが記憶される。教師データは、既知のpH及びアルカリ度を示す試料に対して試験片1を浸漬して、試験片1の第1呈色領域10及び第2呈色領域12の画像データを取得し、第1呈色領域10に係る座標A、第2呈色領域12に係る座標Bを抽出し、これらの座標と対応する試料のpH等とを関連付けることにより得られるデータセットである。教師データは、試料のpH及びアルカリ度を変えて複数作成し、記憶部32に記憶させる。教師データにおける第1呈色領域10に係る座標Aは少なくとも1つの色チャンネルであればよく、例えば、L*、a*、b*のうちの少なくともいずれか1つであればよい。また、教師データにおける第2呈色領域12に係る座標Bは少なくとも1つの色チャンネルであればよく、例えば、L*、a*、b*のうちの少なくともいずれか1つであればよい。また、教師データには、第1呈色領域10に係る座標Aから計算される特徴量、第2呈色領域12に係る座標Bから計算される特徴量、及び第1呈色領域10に係る座標Aと第2呈色領域12に係る座標Bとから計算される特徴量のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0045】
第1呈色領域10に係る座標Aから計算される特徴量とは、例えば、ある座標点から、第1呈色領域10に係る座標Aまでの距離、角度、ベクトル等、もしくはある規定関数から、第1呈色領域10に係る座標Aまでの距離、角度、ベクトル、その交点の座標等が挙げられる。第2呈色領域12に係る座標Bから計算される特徴量も同様である。第1呈色領域10に係る座標Aと第2呈色領域12に係る座標Bとから計算される特徴量とは、例えば、第1呈色領域10に係る座標Aから第2呈色領域12に係る座標Bまでの距離(色差)、角度、ベクトル等、もしくはある規定関数から、第1呈色領域10に係る座標Aまでの距離、角度、ベクトル、その交点の座標等が挙げられる。
【0046】
学習処理に用いられる入力データは、教師データに含まれる第1呈色領域10に係る座標A及び第2呈色領域12に係る座標B等である。また、学習処理に用いられる入力データには上記特徴量が含まれていてもよい。学習処理に用いられる出力データは、教師データに含まれる座標に関連付けられた試料のpHである。
【0047】
設定部40は、例えば、記憶部32から取得した複数の教師データを用いて、ニューラルネットワークにより構築された学習モデル(アルゴリズム)にしたがって、深層学習(ディープラーニング)を行い、学習処理されたニューラルネットワークを構築する。ニューラルネットワークの学習処理の終了条件は、教師データの出力データとニューラルネットワークの出力値との誤差が閾値以下となったら学習処理を終了するように定めても良いし、既定の計算サイクル回数の終了後に学習処理を終了するよう定めても良い。なお、設定部40によるニューラルネットワークの構築は、試料のpH値を算出する準備段階として行われる。
【0048】
算出部38は、設定部40により構築された学習済みニューラルネットワークに、第1呈色領域10に係る座標A及び第2呈色領域12に係る座標Bを入力して、試料のpHを算出する。試料のpHを算出する具体例を以下に示す。
【0049】
図9は、本実施形態に係るpH測定システムの動作の一例を示すフロー図である。ステップS20では、撮像部22は、試料に浸漬させた後の試験片1を撮像する。ステップS22では、画像領域選択部34は、撮像部22によって撮像された試験片1の画像データから、第1呈色領域10の画像データ及び第2呈色領域12の画像データを選択する。ステップS24では、制御部26を構成する抽出部36は、選択された第1呈色領域10の画像データから、第1呈色領域10に係る座標A、及び選択された第2呈色領域12の画像データから、第2呈色領域12に係る座標Bを抽出する。ステップS26では、制御部26を構成する算出部38は、設定部40により構築された学習済みニューラルネットワークに、座標A及び座標Bを入力して、試料のpH値を算出(出力)する。なお、記憶部32は、ステップS26で算出した試料のpH値を記憶する。また、必要に応じて、算出した試料のpH値を表示部30に表示する。
【0050】
図10は、本実施形態に係るpH測定システムの構成の他の一例を示す模式図である。
図10に示すpH測定システム5は、互いに通信可能な端末装置42及びサーバ装置44を有する。これらの各装置は、有線または無線の通信ネットワーク46を介して互いに接続されている。通信ネットワーク46は、例えば、インターネットが含まれる。
【0051】
端末装置42は、スマートフォン、ラップトップ型のパーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末のような様々な汎用型又は多機能型の携帯型コンピュータ、デスクトップ型或いはタワー型のPC等の汎用型のコンピュータ等の端末装置が適用される。
【0052】
端末装置42は、撮像部22、発光部24、制御部26、操作部28、表示部30、記憶部32、端末側通信部48、を有する。撮像部22、発光部24、操作部28、表示部30は前述の通りであり、その説明を省略する。
【0053】
記憶部32は、例えば、撮像部22が取得した画像データ、制御部26が読みだす所定の処理プログラム、制御部26から出力される情報等を記憶する。
【0054】
制御部26は、例えば、記憶部32に記憶された所定の処理プログラムを読みだし、当該処理プログラムを実行して、端末装置42の動作を制御する。
【0055】
制御部26は、機能ブロックとして、例えば、画像領域選択部34、抽出部36を有する。画像領域選択部34及び抽出部36の機能は前述の通りであり、その説明を省略する。
【0056】
端末側通信部48は、制御部26の抽出部により抽出されたデータをサーバ装置44に送信する。また、端末側通信部48は、サーバ装置44から送信された情報を受信する。
【0057】
サーバ装置44は、サーバ側通信部50と、記憶部52と、制御部54とを有する。サーバ側通信部50は、端末側通信部48により送信されたデータ等を受信する。また、サーバ側通信部50は、サーバ装置44側で算出された試料pH値等を端末側通信部48に送信する。
【0058】
記憶部52は、端末装置42から受信したデータやサーバ装置44側で算出された試料pH値等を記憶する。また、記憶部52は、制御部54が読みだす所定の処理プログラムや制御部54から出力される情報等も記憶する。
【0059】
制御部54は、例えば、記憶部52に記憶された所定のプログラムを読み出し、当該処理プログラムを実行して、サーバ装置44の動作を制御する。
【0060】
また、制御部54は、機能ブロックとして、算出部38、ニューラルネットワークを含む設定部40、教師データベース56を有する。
【0061】
教師データベース56には、例えば、pH及びアルカリ度の異なる複数の試料を準備し、これらの試料に対して試験片1を浸漬して、各試験片1の第1呈色領域10及び第2呈色領域12の画像データを取得し、第1呈色領域10に係る座標A、第2呈色領域12に係る座標Bを抽出し、これらの座標と対応する試料のpH等とを関連付けることにより得られた教師データが複数蓄積される。複数の教師データは端末装置42側で得られたデータであり、通信部(48,50)を介して教師データベース56に蓄積される。
【0062】
設定部40によるニューラルネットワークの構築は前述の通りであり、その説明を省略する。
【0063】
算出部38は、設定部40により構築された学習済みニューラルネットワークに、第1呈色領域10に係る座標A及び第2呈色領域12に係る座標Bを入力して、試料のpHを算出する。試料のpHを算出する具体例を以下に示す。
【0064】
図11は、本実施形態に係るpH測定システム5の動作の一例を示すフロー図である。
【0065】
ステップS30では、撮像部22は、試料に浸漬させた後の試験片1を撮像する。ステップS32では、画像領域選択部34は、撮像部22によって撮像された試験片1の画像データから、第1呈色領域10の画像データ及び第2呈色領域12の画像データを選択する。ステップS34では、制御部26を構成する抽出部36は、選択された第1呈色領域10の画像データから、第1呈色領域10に係る座標A、及び選択された第2呈色領域12の画像データから、第2呈色領域12に係る座標Bを抽出する。ステップS36では、端末側通信部48は、第1呈色領域10に係る座標A及び第2呈色領域12に係る座標Bをサーバ装置44に送信する。ステップS38では、サーバ装置44は、第1呈色領域10に係る座標A及び第2呈色領域12に係る座標Bをサーバ側通信部50で受信し、記憶部52で記憶する。ステップS40では、制御部54を構成する算出部38は、設定部40により構築された学習済みニューラルネットワークに、記憶部52に記憶されている座標A及び座標Bを入力して、試料のpH値を算出する。ステップS42では、サーバ側通信部50は、算出した試料のpHを端末装置42に送信する。ステップS44は、端末装置42は、算出した試料のpHを端末側通信部48で受信し、表示部30に表示する。また、必要に応じて、算出した試料のpH値を記憶部32に記憶する。
【0066】
図12は、本実施形態に係るpH測定システムの構成の他の一例を示す模式図である。
図12に示すpH測定システム7は、互いに通信可能な端末装置42及びサーバ装置44を有する。これらの各装置は、有線または無線の通信ネットワーク46を介して互いに接続されている。通信ネットワーク46は、例えば、インターネットが含まれる。
【0067】
端末装置42は、スマートフォン、ラップトップ型のパーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末のような様々な汎用型又は多機能型の携帯型コンピュータ、デスクトップ型或いはタワー型のPC等の汎用型のコンピュータ等の端末装置が適用される。
【0068】
端末装置42は、撮像部22、発光部24、制御部26、操作部28、表示部30、記憶部32、端末側通信部48、を有する。撮像部22、発光部24、操作部28、表示部30は前述の通りであり、その説明を省略する。
【0069】
記憶部32は、例えば、撮像部22が取得した画像データ、制御部26が読みだす所定の処理プログラム、制御部26から出力される情報等を記憶する。
【0070】
制御部26は、例えば、記憶部32に記憶された所定の処理プログラムを読みだし、当該処理プログラムを実行して、端末装置42の動作を制御する。
【0071】
また、制御部26は、機能ブロックとして、例えば、画像領域選択部34、抽出部36、算出部38を有する。画像領域選択部34及び抽出部36の機能は前述の通りであり、その説明を省略する。
【0072】
算出部38は、サーバ装置44側の設定部40により構築された学習済みニューラルネットワークに、第1呈色領域10に係る座標A及び第2呈色領域12に係る座標Bを入力して、試料のpHを算出する。
【0073】
端末側通信部48は、制御部26の抽出部36により抽出されたデータをサーバ装置44に送信する。また、端末側通信部48は、サーバ装置44から送信された情報を受信する。
【0074】
サーバ装置44は、サーバ側通信部50と、記憶部52と、制御部54とを有する。サーバ側通信部50は、端末側通信部48により送信されたデータ等を受信する。また、サーバ側通信部50は、サーバ装置44側で設定されたニューラルネットワーク等を端末側通信部48に送信する。
【0075】
記憶部52は、端末装置42から受信したデータ等を記憶する。また、記憶部52は、制御部54が読みだす所定の処理プログラムや制御部54から出力される情報等も記憶する。
【0076】
制御部54は、例えば、記憶部52に記憶された所定のプログラムを読み出し、当該処理プログラムを実行して、サーバ装置44の動作を制御する。
【0077】
また、制御部54は、機能ブロックとして、ニューラルネットワークを含む設定部40、教師データベース56を有する。
【0078】
教師データベース56には、例えば、pH及びアルカリ度の異なる複数の試料を準備し、これらの試料に対して試験片1を浸漬して、各試験片1の第1呈色領域10及び第2呈色領域12の画像データを取得し、第1呈色領域10に係る座標A、第2呈色領域12に係る座標Bを抽出し、これらの座標と対応する試料のpH等とを関連付けることにより得られた教師データが複数蓄積される。複数の教師データは端末装置42側で得られたデータであり、通信部(48,50)を介して教師データベース56に蓄積される。
【0079】
設定部40によるニューラルネットワークの構築は前述の通りであり、その説明を省略する。
【0080】
図13は、本実施形態に係るpH測定システム7の動作の一例を示すフロー図である。
【0081】
ステップS50では、撮像部22は、試料に浸漬させた後の試験片1を撮像する。ステップS52では、画像領域選択部34は、撮像部22によって撮像された試験片1の画像データから、第1呈色領域10の画像データ及び第2呈色領域12の画像データを選択する。ステップS54では、制御部26を構成する抽出部36は、選択された第1呈色領域10の画像データから、第1呈色領域10に係る座標A、及び選択された第2呈色領域12の画像データから、第2呈色領域12に係る座標Bを抽出する。ステップS56では、サーバ装置44は、設定部40により構築された学習済みニューラルネットワークを端末装置42に送信する。ステップS58では、端末装置42は、学習済みニューラルネットワークを端末側通信部48で受信し、記憶部32で記憶する。ステップS60では、制御部26を構成する算出部38は、学習済みニューラルネットワークに、座標A及び座標Bを入力して、試料のpH値を算出する。ステップS62では、算出した試料のpHを表示部30に表示する。また、必要に応じて、算出した試料のpH値を記憶部32に記憶する。なお、
図13のステップS56、S58は、ステップS54の後ではなく、ステップS54の前、例えばステップS50の前に実行してもよい。
【0082】
pH測定システム5,7における試料のpHの算出は、ニューラルネットワークを用いる場合に限定されず、試料のpHと第1呈色領域10及び第2呈色領域12の画像データに基づく色空間における座標との関係式を用いてもよい。
【0083】
なお、実施形態で説明したpH測定システムの制御部の各機能をコンピュータに実現させるための所定のプログラムは、磁気記録媒体、光記録媒体などのコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録された形で提供してもよい。
【実施例】
【0084】
<比較例1>
pH及びアルカリ度の異なる試料を複数準備した。これらの試料に、pHに応じて呈色する呈色領域を有する試験片を浸漬させた。各試験片の呈色領域を撮像し、画像データから、L*a*b*空間におけるL*、a*、b*を抽出した。抽出したL*、a*、b*と対応する試料のpHを関連付けてデータベースにして、重回帰分析を行い、pH値を算出するための関係式を設定した。この関係式に、別途準備した複数の試料からそれぞれ抽出したL*、a*、b*を代入し、pHを算出した。
図14は、比較例1のpH値の算出結果を示す図である。
図14では、算出したpH値(推定pH)を縦軸とし、対応する試料の実際のpH(実測pH)を横軸とし、比較例1の結果をプロットしている(以下の比較例及び実施例も同様)。推定pH及び実測pHのデータを相関分析した結果、相関関係Rは0.94、決定係数R
2は0.89であった。
【0085】
<比較例2>
上記同様の試料に、アルカリ度に応じて呈色する呈色領域を有する試験片のみを浸漬させたこと以外は、比較例1と同様にして、pH値を算出した。
図15は、比較例2のpH値の算出結果を示す図である。推定pH及び実測pHのデータを相関分析した結果、相関関係Rは0.80、決定係数R
2は0.63であった。
【0086】
<実施例1>
上記同様の試料に、pHに応じて呈色する第1呈色領域及びアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を有する試験片を浸漬させた。各試験片の第1呈色領域及び第2呈色領域を撮像し、第1呈色領域の画像データから、L*a*b*空間におけるL*、a*、b*を抽出し、第2呈色領域の画像データから、L*a*b*空間におけるL*、a*、b*を抽出した。抽出した各L*、a*、b*及び対応する試料のpHを関連付けてデータベースにして、重回帰分析を行い、pH値を算出するための関係式を設定した。この関係式に、別途準備した複数の試料からそれぞれ抽出した第1呈色領域のL*、a*、b*、第2呈色領域のL*、a*、b*を代入し、pH値を算出した。
図16は、実施例1のpH値の算出結果を示す図である。推定pH及び実測pHのデータを相関分析した結果、相関関係Rは0.96、決定係数R
2は0.93であった。
【0087】
<実施例2>
上記同様の試料に、pHに応じて呈色する第1呈色領域及びアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を有する試験片を浸漬させた。各試験片の第1呈色領域及び第2呈色領域を撮像し、第1呈色領域の画像データから、L*a*b*空間におけるL*、a*、b*を抽出し、第2呈色領域の画像データから、L*a*b*空間におけるL*、a*、b*を抽出した。抽出した各L*、a*、b*及び対応する試料のpHを関連付けたデータセットを教師データにして、ニューラルネットワークに学習処理を行い、pH値を算出するための学習処理済みニューラルネットワークを構築した。このニューラルネットワークに、別途準備した複数の試料からそれぞれ抽出した第1呈色領域のL*、a*、b*、第2呈色領域のL*、a*、b*を代入し、pH値を算出した。
図17は、実施例2のpH値の算出結果を示す図である。推定pH及び実測pHのデータを相関分析した結果、相関関係Rは0.98、決定係数R
2は0.96であった。
【0088】
<実施例3>
上記同様の試料に、pHに応じて呈色する第1呈色領域及びアルカリ度に応じて呈色する第2呈色領域を有する試験片を浸漬させた。各試験片の第1呈色領域及び第2呈色領域を撮像し、第1呈色領域の画像データから、L*a*b*空間におけるL*、a*、b*を抽出し、第2呈色領域の画像データから、L*a*b*空間におけるL*、a*、b*を抽出した。さらに第1呈色領域のL*、a*、b*と第2呈色領域のL*、a*、b*との色差を計算した。抽出した各L*、a*、b*と計算した色差及び対応する試料のpHを関連付けたデータセットを教師データにして、ニューラルネットワークに学習処理を行い、pH値を算出するための学習処理済みニューラルネットワークを構築した。このニューラルネットワークに、別途準備した複数の試料からそれぞれ抽出した第1呈色領域のL*、a*、b*、第2呈色領域のL*、a*、b*、第1呈色領域のL*、a*、b*と第2呈色領域のL*、a*、b*との色差を代入し、pH値を算出した。
図18は、実施例3のpH値の算出結果を示す図である。推定pH及び実測pHのデータを相関分析した結果、相関関係Rは0.97、決定係数R
2は0.95であった。
【0089】
このように、実施例はいずれも、比較例と比べて、相関関係R及び決定係数R2は高い値となり、推定pHと実測pHとは非常に高い相関を示した。すなわち、実施例はいずれも、比較例と比べて、試料のpH値を精度よく算出できたと言える。
【符号の説明】
【0090】
1 試験片、3,5,7 pH測定システム、10 第1呈色領域、12 第2呈色領域、22 撮像部、24 発光部、26,54 制御部、28 操作部、30 表示部、32,52 記憶部、34 画像領域選択部、36 抽出部、38 算出部、40 設定部、42 端末装置、44 サーバ装置、46 通信ネットワーク、48 端末側通信部、50 サーバ側通信部、56 教師データベース。