(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】音響信号処理装置及び音響信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
H04R3/00 310
(21)【出願番号】P 2020097847
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001487
【氏名又は名称】フォルシアクラリオン・エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100078880
【氏名又は名称】松岡 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100183760
【氏名又は名称】山鹿 宗貴
(72)【発明者】
【氏名】笛木 俊宏
【審査官】毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-218693(JP,A)
【文献】特開2010-154388(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0166225(US,A1)
【文献】特開2018-207318(JP,A)
【文献】特開2011-135465(JP,A)
【文献】特開2005-006247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
G10L 13/00-25/93
G10K 15/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカより出力される音の音圧を測定する音圧測定部と、
前記音の信号であるオーディオ信号の録音レベルを取得する録音レベル取得部と、
前記音圧測定部により第1の閾値以上の音圧が測定され且つ前記録音レベル取得部により取得された録音レベルが第2の閾値未満であるときに、前記オーディオ信号に対するゲインを上げるゲイン増加部と、
を備える、
音響信号処理装置。
【請求項2】
ユーザの操作を受け付けて前記音の音量を調整する音量調整部
を更に備え、
前記音量調整部により前記音量が調整されると、前記音圧測定部により前記第1の閾値以上の音圧が測定され且つ前記録音レベル取得部により取得された録音レベルが第2の閾値未満であるときに、前記ゲイン増加部が前記オーディオ信号に対するゲインを上げる、
請求項1に記載の音響信号処理装置。
【請求項3】
前記オーディオ信号を複数の周波数帯域に分割する帯域分割部と、
前記帯域分割部により分割された各周波数帯域のオーディオ信号をそれぞれ異なるフィルタ係数で補正する補正部と、
を更に備える、
請求項1又は請求項2に記載の音響信号処理装置。
【請求項4】
既定のフィルタ係数を格納するフィルタ係数格納部
を更に備え、
前記補正部は、
前記音圧測定部により前記第1の閾値未満の音圧が測定されると、前記オーディオ信号を前記フィルタ係数格納部に格納された既定のフィルタ係数で補正する、
請求項3に記載の音響信号処理装置。
【請求項5】
前記ゲイン増加部は、
前記オーディオ信号のピークの音圧レベルがフルスケールとなるように前記オーディオ信号に対するゲインを上げる、
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の音響信号処理装置。
【請求項6】
スピーカより出力される音の音圧を測定する音圧測定ステップと、
前記音の信号であるオーディオ信号の録音レベルを取得する録音レベル取得ステップと、
前記音圧測定ステップにて第1の閾値以上の音圧が測定され且つ前記録音レベル取得ステップにて取得された録音レベルが第2の閾値未満であるときに、前記オーディオ信号に対するゲインを上げるゲイン増加ステップと、
を含む、
音響信号処理装置が実行する音響信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響信号処理装置及び音響信号処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザが認知する音の大きさを考慮してラウドネスを調整する音響信号処理装置が知られている。この種の音響信号処理装置の具体的構成は、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の音響信号処理装置は、ユーザが最終的に感じる認知音量レベルを算出し、算出された認知音量レベルに基づいてラウドネスを調整することにより、原音の有するダイナミックレンジを保持したまま、楽曲等の音をユーザにとって適正な大きさでスピーカに出力することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スピーカに対して小型化や軽量化、製造コストダウン等の要請がある。この要請に応えるべく、例えばスピーカに搭載されるマグネットを小型化することが考えられる。しかし、マグネットを小型化すると、スピーカより出力される音の音圧が低下する。
【0006】
そこで、特許文献1に記載の音響信号処理を適用することにより、マグネットを小型化することによるスピーカ特性の低下(すなわち、スピーカより出力される音の音圧の低下)を補償することが考えられる。しかし、例えばクラシックのような録音レベルが小さい楽曲では、特許文献1に記載の音響信号処理を適用して低域と高域を増強しても音圧が十分に上がらず、スピーカ特性の低下を補償できない虞がある。すなわち、特許文献1に記載の音響信号処理装置では、音の内容によっては(例えばクラシックのような録音レベルが小さい楽曲では)、大きな音圧で音を聴きたいというユーザの要求を満たすことが難しい。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑み、大きな音圧で音を聴きたいというユーザの要求を満たすのに好適な音響信号処理装置及び音響信号処理プログラムを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る音響信号処理装置は、スピーカより出力される音の音圧を測定する音圧測定部と、上記音の信号であるオーディオ信号の録音レベルを取得する録音レベル取得部と、音圧測定部により第1の閾値以上の音圧が測定され且つ録音レベル取得部により取得された録音レベルが第2の閾値未満であるときに、上記オーディオ信号に対するゲインを上げるゲイン増加部と、を備える。
【0009】
このように構成された音響信号処理装置によれば、音の内容に拘わらず、大きな音圧で音を聴きたいというユーザの要求を満たすことができる。
【0010】
本発明の一実施形態に係る音響信号処理装置は、ユーザの操作を受け付けて上記音の音量を調整する音量調整部を更に備える構成としてもよい。この場合、音量調整部により音量が調整されると、音圧測定部により第1の閾値以上の音圧が測定され且つ録音レベル取得部により取得された録音レベルが第2の閾値未満であるときに、ゲイン増加部が上記オーディオ信号に対するゲインを上げる。
【0011】
本発明の一実施形態に係る音響信号処理装置は、オーディオ信号を複数の周波数帯域に分割する帯域分割部と、帯域分割部により分割された各周波数帯域のオーディオ信号をそれぞれ異なるフィルタ係数で補正する補正部と、を更に備える構成としてもよい。
【0012】
本発明の一実施形態に係る音響信号処理装置は、既定のフィルタ係数を格納するフィルタ係数格納部を更に備える構成としてもよい。この場合、補正部は、音圧測定部により第1の閾値未満の音圧が測定されると、上記オーディオ信号をフィルタ係数格納部に格納された既定のフィルタ係数で補正する。
【0013】
本発明の一実施形態において、ゲイン増加部は、例えば、オーディオ信号のピークの音圧レベルがフルスケールとなるようにオーディオ信号に対するゲインを上げる。
【0014】
本発明の一実施形態に係る音響信号処理プログラムは、音響信号処理装置が実行するプログラムであり、スピーカより出力される音の音圧を測定する音圧測定ステップと、上記音の信号であるオーディオ信号の録音レベルを取得する録音レベル取得ステップと、音圧測定ステップにて第1の閾値以上の音圧が測定され且つ録音レベル取得ステップにて取得された録音レベルが第2の閾値未満であるときに、上記オーディオ信号に対するゲインを上げるゲイン増加ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、大きな音圧で音を聴きたいというユーザの要求を満たすのに好適な音響信号処理装置及び音響信号処理プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る音響信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態において音響信号処理装置のDSPが実行する音響信号処理プログラムを示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態におけるフィルタ係数の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下においては、本発明の一実施形態として、音圧を重視するユーザと音質を重視するユーザの両方の要求を満たすことが可能な音響信号処理装置を例に取り説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る音響信号処理装置1の構成を示すブロック図である。音響信号処理装置1は、例えば車両に設置されたオーディオシステムを構成するオーディオ機器である。
【0019】
なお、音響信号処理装置1は、車載された装置に限らず、屋内に設置された装置であってもよい。また、音響信号処理装置1は、持ち運び可能な装置に内蔵されたものであってもよい。例示として、音響信号処理装置1は、スマートフォン、フィーチャフォン、PHS(Personal Handy phone System)、タブレット端末、ノートPC、PDA(Personal Digital Assistant)、PND(Portable Navigation Device)、携帯ゲーム機等の携帯型端末に内蔵された装置であってもよい。
【0020】
音響信号処理装置1は、音源2より入力されるオーディオ信号に対して所定の音響信号処理を行い、アンプ3を介してスピーカ4に出力する。これにより、ユーザは、音源の楽曲等を聴くことができる。音源2は、例えば、CD(Compact Disc)、SACD(Super Audio CD)等のディスクメディアや、HDD(Hard Disk Drive)、USB(Universal Serial Bus)等のストレージメディアである。
【0021】
図1に示されるように、音響信号処理装置1は、DSP(Digital Signal Processor)10、操作部20及び音圧計30を備える。なお、
図1では、本実施形態の説明に必要な主たる構成要素を図示しており、例えば音響信号処理装置1として必須な構成要素である筐体など、一部の構成要素については、その図示を適宜省略する。
【0022】
DSP10は、ボリューム回路101、ゲイン調整回路102、FFT(Fast Fourier Transform)部103、フィルタ部104、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)部105、音圧判定部106、録音レベル入力部107、録音レベル判定部108、フィルタ係数生成部109及びメモリ110を有する。
【0023】
操作部20は、ボリューム設定部201及びイコライザ設定部202を有する。
【0024】
ボリューム設定部201は、ボリューム調整(音量調整)を行うため、ユーザによって操作される操作部である。ユーザによりボリューム設定部201が操作されると、この操作に応じたボリューム変更情報がボリューム回路101に入力される。また、ボリューム回路101には、音源2からオーディオ信号が入力される。
【0025】
ボリューム回路101は、ボリューム変更情報に基づいて、音源2より入力されるオーディオ信号の信号レベル(単位:dB)を減衰させる。例えば、ボリューム変更情報が-6dBである場合、オーディオ信号の信号レベルは、約0.5倍(-6dB≒0.5倍)に調整される。
【0026】
このように、ボリューム回路101は、ボリューム設定部201に対するユーザの操作を受け付けて、音源2より入力されるオーディオ信号の信号レベル(ここでいう信号レベルは音量と等価)を調整する音量調整部として動作する。
【0027】
イコライザ設定部202は、周波数帯域毎のゲイン調整を行うため、ユーザによって操作される操作部である。ユーザによりイコライザ設定部202が操作されると、操作に応じたフィルタ係数がフィルタ係数生成部109により生成され、生成されたフィルタ係数がメモリ110に格納される。なお、メモリ110には、既定のフィルタ係数が予め格納されている。すなわち、メモリ110は、既定のフィルタ係数を格納するフィルタ係数格納部として動作する。
【0028】
ここで、音源2からDSP10に入力されたオーディオ信号は、ボリューム回路101及びゲイン調整回路102を介してFFT部103に入力される。FFT部103は、ゲイン調整回路102より入力されるオーディオ信号を時間領域の信号から周波数領域の信号へ変換する。より詳細に説明すると、FFT部103は、ゲイン調整回路102より入力されるオーディオ信号に対してオーバーラップ処理と窓関数による重み付けを行った後、短時間フーリエ変換処理を行うことにより、このオーディオ信号を時間領域から周波数領域に変換する。これにより、実数と虚数からなる周波数スペクトル信号を得る。
【0029】
フィルタ部104は、FFT部103にて周波数領域の信号に変換されたオーディオ信号に対して、メモリ110に格納されたフィルタ係数を用いてフィルタ処理を行う。具体的には、メモリ110には周波数帯域毎のフィルタ係数が格納されている。フィルタ部104は、FFT部103により分割された各周波数帯域のオーディオ信号に、対応する周波数帯域のフィルタ係数を乗算する。フィルタ部104は、この乗算処理によって重み付けされた周波数領域のオーディオ信号をIFFT部105に出力する。
【0030】
IFFT部105は、フィルタ部104にて乗算処理されたオーディオ信号を周波数領域から時間領域へと変換する。具体的に、IFFT部105は、オーディオ信号に対して短時間逆フーリエ変換処理を行うことにより周波数領域から時間領域への変換を行う。IFFT部105は、更に、窓関数による重み付けとオーバーラップ加算を行う。これらの処理により、IFFT部105は、フィルタ係数を用いたフィルタ処理により周波数帯域毎に補正された時間領域のオーディオ信号を得る。このオーディオ信号がアンプ3を介してスピーカ4に出力されることにより、ユーザは、イコライジングされた楽曲等を聴くことができる。付言するに、ユーザは、イコライザ設定部202を操作することにより、好みの音質にイコライジングされた楽曲等を聴くことができる。
【0031】
このように、FFT部103は、オーディオ信号を複数の周波数帯域に分割する帯域分割部として動作する。また、フィルタ部104は、帯域分割部により分割された各周波数帯域のオーディオ信号をそれぞれ異なるフィルタ係数で補正する補正部として動作する。
【0032】
音圧計30は、音圧(単位:dB)を測定するセンサである。本実施形態では、マイク5が音圧計30に接続される。そのため、音圧計30は、マイク5によって収音された音の音圧を測定する。
【0033】
マイク5は、例えばユーザの頭部近傍に設置される。そのため、スピーカ4より楽曲等の音が出力されているとき、音圧計30は、スピーカ4より出力される音であって、実質的に、ユーザが聴取する当該音の音圧を測定することとなる。
【0034】
このように、音圧計30は、スピーカ4より出力される音の音圧を測定する音圧測定部として動作する。
【0035】
図2に、DSP10が実行する音響信号処理プログラムをフローチャートで示す。DSP10は、例えば、音源2よりオーディオ信号が入力されると、
図2に示される音響信号処理プログラムの実行を開始する。
【0036】
図2に示されるように、ボリューム回路101によりオーディオ信号の信号レベルが調整されると(ステップS101)、音圧判定部106は、音圧計30により測定された音圧(上述したように、スピーカ4より出力される音であって、ユーザが聴取する当該音の音圧)が第1の閾値以上の音圧であるか否かを判定する(ステップS102)。
【0037】
なお、音圧計30により測定される音圧には、車室内の暗騒音や走行時のロードノイズ等の誤差が含まれる。そこで、音圧判定部106は、音圧計30により測定された音圧をフィルタ処理して誤差を低減したうえで、ステップS102の閾値判定を行う。このフィルタ処理には、例えばA特性フィルタが用いられる。
【0038】
本実施形態において第1の閾値は88dBである。この閾値は、例示的な値ではあるが、一般的な楽曲聴取を考慮して決められたものとなっている。
【0039】
過多となる周波数成分やピークが目立ち耳障りとなる周波数成分を、アンプの歪みやスピーカの負荷及び性能限界を考慮してカットすることで音質を向上させることがイコライジングにおける基本的な考えである。しかし、このように周波数成分をカットすると音圧が低下するため、楽曲等の音を大音量で聴きたいユーザの要求を満たすことが難しくなる。
【0040】
そこで、本実施形態では、音圧計30により測定された測定音圧(より詳細には上記のフィルタ処理後の音圧)が第1の閾値以上の場合は、ユーザが楽曲等の音を大音量で聴くことを望んでいるものとして音圧重視の信号処理を行い、この測定音圧が第1の閾値未満の場合は、ユーザが音質を重視して楽曲等の音を聴くことを望んでいるものとして音質重視の信号処理を行う。
【0041】
なお、音圧計30により測定された測定音圧が75dB未満の場合、ユーザがBGMとしてこの楽曲を聴いている可能性が考えられる。また、測定音圧が75dB以上83dB未満の場合、ユーザが音質を重視して楽曲を聴いているものと推測される。測定音圧が83dB以上88dB未満の場合、ユーザが音質を重視しつつもある程度大きな音量で楽曲を聴いているものと推測される。本実施形態では、これらの場合は、ユーザが音質を重視して楽曲等の音を聴くことを望んでいるものとして音質重視の信号処理を行う。測定音圧が88dB以上の場合、ユーザが音質を度外視して大音量で楽曲を聴いているものと推測されるため、音圧重視の信号処理を行う。
【0042】
このように、本実施形態では、ユーザが実際に聴いている音の音圧によって信号処理の内容を切り替えることにより、音圧を重視するユーザと音質を重視するユーザの両方の要求を満たすことが可能となっている。
【0043】
音源2からDSP10に入力される信号は、オーディオ信号だけではない。例えばオーディオ信号の再生前に実行されるシーク処理の結果得られるオーディオ信号の録音レベル(単位:dB)も、音源2からDSP10(より詳細には、録音レベル入力部107)に入力される。本実施形態では、録音レベル入力部107には、楽曲毎の録音レベルが入力される。
【0044】
音圧計30により測定された測定音圧が88dB以上の場合(ステップS102:YES)、録音レベル判定部108は、録音レベル入力部107からオーディオ信号(現在再生中の楽曲のオーディオ信号)の録音レベルを取得する(ステップS103)。すなわち、録音レベル判定部108は、オーディオ信号の録音レベルを取得する録音レベル取得部として動作する。
【0045】
録音レベル判定部108は、録音レベル入力部107より取得した録音レベルが第2の閾値未満か否かを判定する(ステップS104)。より詳細には、録音レベル判定部108は、現在再生中の楽曲の録音レベルのピークの音圧レベルが第2の閾値未満か否かを判定する。本実施形態では、デジタル信号で表現可能な最大値であるフルスケール(単位:dB)を第2の閾値とする。
【0046】
現在再生中の楽曲の録音レベルのピークの音圧レベルが第2の閾値未満の場合(ステップS104:YES)、ゲイン調整回路102は、このピークの音圧レベルがフルスケールとなるように、ボリューム回路101より入力されるオーディオ信号に対するゲインを上げる(ステップS105)。すなわち、ゲイン調整回路102は、音圧測定部により第1の閾値以上の音圧が測定され且つ録音レベル取得部により取得された録音レベルが第2の閾値未満であるときに、オーディオ信号に対するゲインを上げるゲイン増加部として動作する。
【0047】
音圧レベルがフルスケールを超えると、フルスケールを超えた部分で音が歪む。そのため、本実施形態では、ピークの音圧レベルがフルスケールを超えないようゲインを上げる。
【0048】
メモリ110には、音圧重視用のフィルタ係数(以下「音圧重視用フィルタ係数」と記す。)及び音質重視用のフィルタ係数(以下「音質重視用フィルタ係数」と記す。)が予め格納されている。
【0049】
現在再生中の楽曲の録音レベルのピークの音圧レベル(又はゲイン調整回路102によるゲイン増加後のピークの音圧レベル)が第2の閾値(すなわちフルスケール)の場合(ステップS104:NO)、フィルタ部104は、メモリ110から音圧重視用フィルタ係数を読み込み(ステップS106)、読み込まれた音圧重視用フィルタ係数を用いてフィルタ処理を行う(ステップS107)。このオーディオ信号がアンプ3を介してスピーカ4に出力されることにより、ユーザ(具体的には、楽曲等を大音量で聴くことを望んでいると思われるユーザ)は、ゲイン調整回路102によりピークの音圧レベルがフルスケールまで上げられることにより音量が増加した楽曲等であって、音圧重視のイコライジングが行われた楽曲等を聴くことができる。
【0050】
図3は、フィルタ係数の一例を示す図である。
図3中、縦軸は音圧レベル(単位:dB)を示し、横軸は周波数(単位:Hz)を示す。
図3中、太線は、音圧重視用フィルタ係数の一例を示す。
図3中、細線は、音質重視用フィルタ係数の一例を示す。
図3の例では、オーディオ信号がFFT部103により3つの周波数帯域(低域、中域、高域)に分割され、フィルタ部104により、対応するフィルタ係数を用いて周波数帯域毎のフィルタ処理が行われる。
【0051】
音圧重視用フィルタ係数を用いたフィルタ処理について説明する。具体的には、音量を上げることにより歪みが生じやすい低域(ここでは、200Hz未満)については、低域用のフィルタ係数を用いて、周波数が低いほど音圧が低下するようにフィルタ処理が行われる。ボーカル等のメインの音を含む中域(ここでは、200Hz以上2000Hz未満)については、中域用のフィルタ係数を用いて、フラットな特性のフィルタ処理が行われる。音量を上げても歪みが目立ちにくい高域(ここでは、2000Hz以上)については、低域を減衰させることによる音圧の低下を補償するため、高域用のフィルタ係数を用いて、周波数が高いほど音圧が増加するようにフィルタ処理が行われる。
【0052】
図3に示される音圧重視用フィルタ係数は、低域が歪みやすいスピーカ(例えば口径が小さいスピーカ)を想定して設計された係数である。音響信号処理装置1に接続されるスピーカ4が低域であっても歪みにくいもの(例えば口径が大きいスピーカ)である場合、
図3とは異なる音圧重視用フィルタ係数を用いたフィルタ処理(例えば、低域がフラットな特性のフィルタ処理や、低域の音圧が増加するようなフィルタ処理)が行われてもよい。
【0053】
図3の例では、オーディオ信号が3つの周波数帯域(低域、中域、高域)に分割され、これら周波数帯域毎にフィルタ係数を用いた乗算処理が行われているが、本発明はこれに限らない。別の実施形態では、オーディオ信号が2つ又は4つ以上の周波数帯域(一例として、低域、中低域、中域、中高域、高域)に分割され、これら周波数帯域毎にフィルタ係数を用いた乗算処理が行われてもよい。
【0054】
音圧計30により測定された測定音圧が88dB未満の場合(ステップS102:NO)、ゲイン調整回路102によるゲイン調整は行われない。すなわち、ゲイン調整回路102は、ボリューム回路101より入力されるオーディオ信号をFFT部103にスルー出力する。フィルタ部104は、メモリ110から音質重視用フィルタ係数を読み込み(ステップS108)、読み込まれた音質重視用フィルタ係数を用いてフィルタ処理を行う(ステップS109)。すなわち、補正部として動作するフィルタ部104は、音圧測定部により第1の閾値未満の音圧が測定されると、オーディオ信号をフィルタ係数格納部に格納された既定のフィルタ係数で補正する。
【0055】
ステップS109によるフィルタ処理後のオーディオ信号がアンプ3を介してスピーカ4に出力されることにより、ユーザ(具体的には、楽曲等を音質重視で聴くことを望んでいると思われるユーザ)は、音質重視のイコライジングが行われた楽曲等を聴くことができる。なお、
図3に示される音質重視用フィルタ係数は、過多となる周波数成分やピークが目立ち耳障りとなる周波数成分を、アンプの歪みやスピーカの負荷及び性能限界を考慮してカットすることで音質を向上させることができるものとなっている。
【0056】
音源2からのオーディオ信号の入力がなくなるまで(言い換えると、楽曲等の再生が停止されるまで)(ステップS110:YES)、
図2に示される音響信号処理プログラムは継続的に実行される。
【0057】
大きな音圧で音を聴きたいユーザは、例えばクラシックのような録音レベルが小さい楽曲であっても、ボリューム設定部201に対する操作を行い、音量を上げて聴くことが想定される。本実施形態では、音量が上がることによって音圧計30による測定音圧が88dB以上になると、ゲイン調整回路102によりピークの音圧レベルがフルスケールまで上げられることにより音量が増加した楽曲等であって、音圧重視のイコライジングが行われた楽曲等がスピーカ4より出力される。すなわち、本実施形態によれば、音の内容に拘わらず(例えばクラシックのような録音レベルが小さい楽曲であっても)、大きな音圧で音を聴きたいというユーザの要求を満たすことができる。
【0058】
音質を重視するユーザは、音量を過度に上げない(88dBまでは上げない)ものと想定される。本実施形態では、音圧計30による測定音圧が88dB未満であれば、音質重視のイコライジングが行われた楽曲等がスピーカ4より出力される。すなわち、本実施形態によれば、音の内容に拘わらず(例えばロックのような録音レベルが高い楽曲であっても)、高い音質で音を聴きたいというユーザの要求を満たすことができる。
【0059】
なお、本実施形態では、ボリューム回路101によりオーディオ信号の信号レベルが調整されると、第1の閾値を用いて、ユーザが音圧重視であるか音質重視であるかを判定している。これは、ボリューム設定部201により音量を上げるというユーザ操作が、楽曲等を大音量で聴きたいというユーザの意思を示す可能性があるためである。しかし、ユーザが音圧重視であるか音質重視であるかを判定するタイミングは、ボリューム回路101によるオーディオ信号の信号レベルが調整されたタイミングに限らない。ユーザが音圧重視であるか音質重視であるかは、上記タイミングに代えて又は加えて、所定の時間間隔毎(例えば毎秒毎)に判定されてもよい。
【0060】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施例等又は自明な実施例等を適宜組み合わせた内容も本願の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1 :音響信号処理装置
2 :音源
3 :アンプ
4 :スピーカ
5 :マイク
10 :DSP
20 :操作部
30 :音圧計
101 :ボリューム回路
102 :ゲイン調整回路
103 :FFT部
104 :フィルタ部
105 :IFFT部
106 :音圧判定部
107 :録音レベル入力部
108 :録音レベル判定部
109 :フィルタ係数生成部
110 :メモリ
201 :ボリューム設定部
202 :イコライザ設定部