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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】積層体の腐食検査方法及び腐食検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
G01N29/11
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020099423
(22)【出願日】2020-06-08
(65)【公開番号】P2021193350
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000235532
【氏名又は名称】非破壊検査株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176752
【氏名又は名称】三菱化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】鶴崎 博
(72)【発明者】
【氏名】金沢 宣人
(72)【発明者】
【氏名】城下 悟
(72)【発明者】
【氏名】藪下 秀記
(72)【発明者】
【氏名】隅田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 祐希
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特許第5624250(JP,B2)
【文献】特開昭58-068664(JP,A)
【文献】特開2000-258402(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161834(WO,A1)
【文献】特開2006-276032(JP,A)
【文献】特開平01-170850(JP,A)
【文献】特開平06-258301(JP,A)
【文献】特開昭59-208459(JP,A)
【文献】特開2021-103100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01B 17/00 - G01B 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材が積層した積層体の一側に配置した探触子から超音波を前記積層体に入射すると共に前記積層体からの多重反射波を受信し、受信した多重反射波を評価することにより層間の腐食の有無を検査する積層体の腐食検査方法であって、
隣接する部材の界面に形成され且つ前記探触子に近接する側に位置する面が平滑に形成された空隙が液体で満たされた部分を前記積層体の第一模擬空隙部とすると共に前記空隙が気体で満たされた部分を前記積層体の第二模擬空隙部とし、
予め、前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部において多重反射波をそれぞれ受信し、前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部の各々において、エコー高さに変動を与える各種要因による変動を含む多重反射波の反射回数毎にエコー高さの変動範囲を求めると共にこれら変動範囲が重複しない領域の高さが所定値以上となる反射波の反射回数を求めておき、
前記積層体の検査部において前記多重反射波を受信する前に、前記検査部の全面において前記積層体の板厚測定を行うことで減肉部を特定し、特定した減肉部以外の部分において前記多重反射波を受信して、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さと前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さとを比較し、
前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さが、前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さと同等である場合に前記検査部を前記液体による腐食が進行した腐食部と推定し、前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さよりも大である場合に前記検査部を前記液体による腐食が進行していない剥離部と推定する積層体の腐食検査方法。
【請求項2】
さらに予め、前記腐食及び層間剥離のいずれも生じていない前記積層体の健全部において多重反射波を受信し、前記健全部においてエコー高さに変動を与える各種要因による変動を含む多重反射波の反射回数毎にエコー高さの変動範囲を求め、前記反射回数を前記健全部におけるエコー高さの変動範囲と前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部の各エコー高さの変動範囲とが互いに重複しない領域の高さが所定値以上となる反射波の反射回数とし、
前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さと前記健全部の前記反射回数の反射波のエコー高さとが同等である場合に、前記検査部を健全部と推定する請求項1記載の積層体の腐食検査方法。
【請求項3】
前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さが、前記健全部の前記反射回数の反射波のエコー高さよりも小である場合に、前記検査部を前記探触子に近接する側に位置する部材の腐食面が前記液体によって凹凸状に形成された不均一腐食部と推定する請求項2記載の積層体の腐食検査方法。
【請求項4】
前記積層体は、液体が収容される母材の内側にライニング材が施された収容体であり、前記探触子は、前記収容体の外表面に配置される請求項1~3のいずれかに記載の積層体の腐食検査方法。
【請求項5】
前記収容体は、内部を前記液体が流動する配管であり、前記液体の流動中に前記探触子を前記配管の外表面に沿って走査する請求項4記載の積層体の腐食検査方法。
【請求項6】
前記ライニング材はモルタルライニング材であり、前記母材は鋼材である請求項4又は5記載の積層体の腐食検査方法。
【請求項7】
前記探触子を前記一側に沿って走査すると共に、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さに基づいて走査画像を生成する請求項1~6のいずれかに記載の積層体の腐食検査方法。
【請求項8】
複数の部材が積層した積層体の一側から超音波を前記積層体に入射すると共に前記積層体からの多重反射波を受信する探触子と、受信した多重反射波を評価する信号処理装置を備え、受信した多重反射波を評価することにより層間の腐食の有無を検査する積層体の腐食検査装置であって、
隣接する部材の界面に形成され且つ前記探触子に近接する側に位置する面が平滑に形成された空隙が液体で満たされた部分を前記積層体の第一模擬空隙部とすると共に前記空隙が気体で満たされた部分を前記積層体の第二模擬空隙部とし、
前記信号処理装置は、予め、前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部において多重反射波をそれぞれ受信し、前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部の各々において、エコー高さに変動を与える各種要因による変動を含む多重反射波の反射回数毎にエコー高さの変動範囲を求めると共にこれら変動範囲が重複しない領域の高さが所定値以上となる反射波の反射回数を求め、
前記積層体の検査部において前記多重反射波を受信する前に、前記検査部の全面において前記積層体の板厚測定を行うことで減肉部を特定し、特定した減肉部以外の部分において前記多重反射波を受信して、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さと前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さとを比較し、
前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さが、前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さと同等である場合に前記検査部を前記液体による腐食が進行した腐食部と推定し、前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さよりも大である場合に前記検査部を前記液体による腐食が進行していない剥離部と推定する積層体の腐食検査装置。
【請求項9】
前記信号処理装置は、前記探触子を走査して受信した多重反射波により走査画像を生成する請求項8記載の積層体の腐食検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の腐食検査方法及び腐食検査装置に関する。さらに詳しくは、複数の部材が積層した積層体の一側に配置した探触子から超音波を前記積層体に入射すると共に前記積層体からの多重反射波を受信し、受信した多重反射波を評価することにより層間の腐食の有無を検査する積層体の腐食検査方法及び腐食検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の部材が積層した積層体の剥離検査対象は、管、容器等が多く、検査時には管、容器等の内部に人間が入り、内部からの目視検査、打音検査、ピンホール検査等行うのが通常であった。そのため、検査に多大な時間を要していた。
【0003】
そこで、本願出願人は、特許文献1に記載の如き剥離検査方法を発明した。この方法では、積層体の検査部における予め求めた反射回数の反射波のエコー高さと健全部における同じ反射回数の反射波のエコー高さとを比較することにより層間剥離の有無を検査している。また、エコー高さの差異によって剥離の有無に加え腐食の有無をも検査することが可能である。しかし、腐食によって部材の肉厚(板厚)が減じた腐食部が存在する場合、その形状や減肉量(板厚減少量)によっては健全部のエコー高さとの差が明瞭とならず、腐食部として識別(検出)することが困難となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5624250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、腐食部の検出精度を向上させることの可能な積層体の腐食検査方法及び腐食検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層体の腐食検査方法の特徴は、複数の部材が積層した積層体の一側に配置した探触子から超音波を前記積層体に入射すると共に前記積層体からの多重反射波を受信し、受信した多重反射波を評価することにより層間の腐食の有無を検査する方法において、隣接する部材の界面に形成され且つ前記探触子に近接する側に位置する面が平滑に形成された空隙が液体で満たされた部分を前記積層体の第一模擬空隙部とすると共に前記空隙が気体で満たされた部分を前記積層体の第二模擬空隙部とし、予め、前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部において多重反射波をそれぞれ受信し、前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部の各々において、エコー高さに変動を与える各種要因による変動を含む多重反射波の反射回数毎にエコー高さの変動範囲を求めると共にこれら変動範囲が重複しない領域の高さが所定値以上となる反射波の反射回数を求めておき、前記積層体の検査部において前記多重反射波を受信する前に、前記検査部の全面において前記積層体の板厚測定を行うことで減肉部を特定し、特定した減肉部以外の部分において前記多重反射波を受信して、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さと前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さとを比較し、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さが、前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さと同等である場合に前記検査部を前記液体による腐食が進行した腐食部と推定し、前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さよりも大である場合に前記検査部を前記液体による腐食が進行していない剥離部と推定することにある。
【0007】
ところで、検査対象となる積層体の界面で反射した反射波のエコー高さ(信号強度)は、例えば、塗装膜の有無、その厚さ、探触子の探傷面に対する接触状態、探傷面や界面の面粗さ等の要因によって変動する。そのため、多重反射波全体の減衰率や減衰曲線にのみ着目すると、上記要因による変動によって、健全部からの信号と空隙部(剥離部)からの信号とを明瞭に識別することが困難となる場合がある。図6の符号R0,R1,R2に示すように、反射波のエコー高さは、上記各種要因による変動(バラツキ)を含む。
【0008】
上記構成によれば、予め、第一模擬空隙部及び第二模擬空隙部において多重反射波をそれぞれ受信し、第一模擬空隙部及び第二模擬空隙部の各々において、エコー高さに変動を与える各種要因による変動を含む多重反射波の反射回数毎にエコー高さの変動範囲を求めると共にこれら変動範囲が重複しない領域の高さが所定値以上となる反射波の反射回数を求めておく。そして、積層体の検査部において多重反射波を受信して、検査部における予め求めた反射回数の反射波のエコー高さと第一模擬空隙部の同反射回数の反射波のエコー高さとを比較するので、上記要因による変動を排除でき、検査精度が向上する。
ここで、第一模擬空隙部を隣接する部材の界面に形成され且つ探触子に近接する側に位置する面が平滑に形成された空隙が液体で満たされた部分とし、第二模擬空隙部を同空隙が気体で満たされた部分としてある。そして、検査部における上記反射回数の反射波のエコー高さが、第一模擬空隙部の同反射回数の反射波のエコー高さと同等である場合に検査部を液体による腐食が進行した腐食部と推定し、第一模擬空隙部の同反射回数の反射波のエコー高さよりも大である場合に検査部を液体による腐食が進行していない剥離部と推定する。
隣接する部材の界面に減肉や剥離によって形成された空間(空隙)において腐食が進行している場合、その空間内には腐食の原因となる液体が存在すると考えられる。一方、空間内で腐食が進行していなければ、その空間は液体ではなく空気で満たされていると考えられる。ここで、例えば、エロージョンと呼ばれる浸食は液体による摩耗作用によって生じるものであり、その摩耗面(界面)は比較的平滑となる。他方、隣接する部材間の剥離部においても、各部材の剥離面(界面)に変化はないので、平滑のままである。すなわち、平滑な摩耗面(均一腐食面)が形成されるエロージョン部(腐食部)と剥離部との反射信号の差異は、界面の面粗さの影響を受けず、空隙の内部に存在する物質に起因する。そして、空隙に存在し得る空気と液体とでは、図5に示す如く反射波のエコー高さは異なり、反射回数が増すに従いその差は大きくなる。従って、上記のように、空隙が液体で満たされた第一模擬空隙部の反射波のエコー高さと比較することで、腐食の有無を推定することが可能となる。よって、例えば、拡がりのある全面腐食(均一腐食)や上述の如き滑らかな平坦状に形成されるエロージョン部のように、板厚の変化が少ない(僅かな)部分であっても、腐食部として検出することができる。しかも、第一模擬空隙部及び第二模擬空隙部におけるエコー高さが分ければよく(区別できればよく)、積層体の複数の部材の材質が不明であったとしても、腐食検査が可能である。
さらに、前記検査部において前記多重反射波を受信する前に、前記検査部の全面において前記積層体の板厚測定を行うことで減肉部を特定し、特定した減肉部以外の部分において前記多重反射波を受信する。減肉量が多い部位や腐食面が荒れた(凹凸のある)部位を減肉部として検査部から外すことで、検査効率を向上させると共に、平滑な腐食面が形成される腐食部と健全部及び剥離部との区別(識別)を容易とする。
【0009】
さらに予め、前記腐食及び層間剥離のいずれも生じていない前記積層体の健全部において多重反射波を受信し、前記健全部においてエコー高さに変動を与える各種要因による変動を含む多重反射波の反射回数毎にエコー高さの変動範囲を求め、前記反射回数を前記健全部におけるエコー高さの変動範囲と前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部の各エコー高さの変動範囲とが互いに重複しない領域の高さが所定値以上となる反射波の反射回数とし、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さと前記健全部の前記反射回数の反射波のエコー高さとが同等である場合に、前記検査部を健全部と推定するとよい。これにより、腐食部のみならず、健全部の評価も可能となる。
【0010】
係る場合、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さが、前記健全部の前記反射回数の反射波のエコー高さよりも小である場合に、前記検査部を前記探触子に近接する側に位置する部材の腐食面が前記液体によって凹凸状に形成された不均一腐食部と推定するようにしても構わない。ここで、例えば、コロージョンと呼ばれる腐食は液体による化学作用によって生じるものであり、その腐食面(界面)は上述のエロージョンによる摩耗面(均一腐食面)と異なり、平滑ではなく凹凸となる。そのため、コロージョンの腐食面における反射信号は、その凹凸面(不均一腐食面、界面)で散乱し大きく減衰する。よって、健全部の信号と比較し、それよりも小であれば凹凸状の腐食面が形成される不均一腐食部と推定することができる。
【0012】
上記いずれかの構成において、例えば、前記積層体は、液体が収容される母材の内側にライニング材が施された収容体であり、前記探触子は、前記収容体の外表面に配置される。係る場合、例えば、前記収容体は、内部を前記液体が流動する配管であり、前記液体の流動中に前記探触子を前記配管の外表面に沿って走査するとよい。これにより、層間の空隙(隙間)の液体の存在(有無)を確認し、上述の腐食部を推定する。すなわち、運転中の配管のように管内部に液体が存在すれば腐食検査が可能である。このような収容体において、例えば、前記ライニング材はモルタルライニング材であり、前記母材は鋼材である。
【0013】
また、上記いずれかに記載の構成において、前記探触子を前記一側に沿って走査すると共に、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さに基づいて走査画像を生成するとよい。所定の反射回数の反射を繰り返した反射波に着目するので、走査画像を容易に生成でき、検査効率も向上する。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層体の腐食検査装置の特徴は、複数の部材が積層した積層体の一側に配置した探触子から超音波を前記積層体に入射すると共に前記積層体からの多重反射波を受信する探触子と、受信した多重反射波を評価する信号処理装置を備え、受信した多重反射波を評価することにより層間の腐食の有無を検査する構成において、隣接する部材の界面に形成され且つ前記探触子に近接する側に位置する面が平滑に形成された空隙が液体で満たされた部分を前記積層体の第一模擬空隙部とすると共に前記空隙が気体で満たされた部分を前記積層体の第二模擬空隙部とし、前記信号処理装置は、予め、前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部において多重反射波をそれぞれ受信し、前記第一模擬空隙部及び前記第二模擬空隙部の各々において、エコー高さに変動を与える各種要因による変動を含む多重反射波の反射回数毎にエコー高さの変動範囲を求めると共にこれら変動範囲が重複しない領域の高さが所定値以上となる反射波の反射回数を求め、前記積層体の検査部において前記多重反射波を受信する前に、前記検査部の全面において前記積層体の板厚測定を行うことで減肉部を特定し、特定した減肉部以外の部分において前記多重反射波を受信して、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さと前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さとを比較し、前記検査部における前記反射回数の反射波のエコー高さが、前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さと同等である場合に前記検査部を前記液体による腐食が進行した腐食部と推定し、前記第一模擬空隙部の前記反射回数の反射波のエコー高さよりも大である場合に前記検査部を前記液体による腐食が進行していない剥離部と推定することにある。

【0015】
上記構成において、前記信号処理装置は、前記探触子を走査して受信した多重反射波により走査画像を生成するようにしても構わない。走査画像としては、例えば、Bスキャン画像やCスキャン画像が挙げられる。また、前記探触子には、一振動子型探触子を用いてもよく、二振動子型探触子を用いることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明に係る積層体の腐食検査方法及び腐食検査装置の特徴によれば、腐食部の検出精度をさらに向上させることが可能となった。
【0017】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る腐食検査装置の概略図である。
図2A】検査対象の収容体の一例を示す配管における腐食の進行を説明する断面図である。
図2B】不均一腐食部の一例であるコロージョン部を模式的に示す図2AのI部部分拡大図である。
図2C】腐食部の一例である均一腐食やエロージョン部を模式的に示す図2AのII部部分拡大図である。
図3】積層体の各層に対する超音波の挙動を説明する図であり、(a)は健全部、(b)は第二模擬空隙部、(c)は第一模擬空隙部を示す図である。
図4】不均一腐食部における超音波の挙動を説明する図3相当図である。
図5】多重反射波の相対エコー高さの変化を示す図である。
図6】健全部、第一模擬空隙部、第二模擬空隙部におけるエコー高さの変動を模式的に示す図である。
図7】液体、空気、モルタルにおける相対エコー高さの変化を示す図である。
図8】反射波の受信波形の一例を示す図であり、(a)は第二模擬空隙部、(b)は第一模擬空隙部、(c)は健全部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、適宜添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。
(検査装置構成)
図1に示すように、本発明に係る腐食検査装置1は、大略、複数の部材が積層した積層体10の一側11から超音波を積層体10に入射すると共に積層体10からの多重反射波を受信する探触子2と、受信した多重反射波を処理し評価する信号処理装置3とを備える。また、探触子2には、走査位置を検出するエンコーダ等の位置検出器2aが取り付けると共に、信号処理装置3に接続されている。なお、この信号処理装置3は、例えば、パーソナルコンピュータにより構成してもよい。
【0020】
信号処理装置3は、パルサー4aを制御して探触子2から超音波パルスを発生させる。送信された超音波パルスは、第一部材20及び第二部材30内を通過(若しくは透過)し且つこれら部材間に形成される図3に例示する界面F1~F3で反射し、探触子2にて受信される。受信した多重反射波は、レシーバ4b及びプリアンプ5により増幅され、フィルター6によりノイズが除去された状態でA/Dコンバーター7によりデジタル信号に変換される。そして、信号処理装置3にて信号処理がなされ、表示器8に表示される。表示器8には、例えば、図8に示す如き、横軸を伝播距離を代表する時間軸とし、縦軸に同反射波の強度とするAスキャン画像が表示される。なお、これらは、探傷装置9として実施することもできる。
【0021】
また、信号処理装置3は、位置検出器2aが検出した探触子2の走査位置データと共に受信信号を処理し、Bスキャン画像やCスキャン画像等の走査画像を生成して、表示器8に表示させる。さらに、信号処理装置3は、腐食や剥離の存在を警告する警告器3aをさらに備える。
【0022】
(積層体構成)
本実施形態において、検査対象となる積層体10は、第一部材20及び第二部材30が積層してなり、液体Lが収容される母材の内側にライニング材が施された収容体である。母材が第一部材20に相当し、ライニング材が第二部材30に相当する。収容体10としては、例えば、海水等の液体Lが内部を流通する配管が挙げられる。この配管10には、例えば、母材20として鋼材が用いられ、ライニング材30としてモルタルライニング材(以下、単に「モルタル」と称する。)が用いられる。なお、鋼材20の表面21(積層体10の一側11)には、塗装膜50が形成されている。
【0023】
ここで、上述の如き配管10では、内部の液体Lと配管10の外表面との温度差により、鋼材20とモルタル30の伸長(膨張)量が異なる。また、一般に、モルタルは伸びが小さく、割れについて許容幅が設定されている。そのため、配管10では、図2Aに示すように、経年劣化等によってモルタル30が損傷し、その損傷部B付近の鋼材20が局所的に腐食して、不均一腐食部(コロージョン部)D1が発生する。また、鋼材20からモルタル30が剥離して、これら部材間(界面)に空隙S(剥離部)が発生する。そして、配管10内部を流通する液体Lの一部L’が、損傷部Bからこの空隙S(剥離部)に侵入し、配管10の広範囲にわたって鋼材20を腐食して、均一腐食部D2を生成する。
【0024】
図2A,2Bに示すコロージョン部D1は、液体Lによる化学作用(錆(酸化))や浸食によって発生する。このコロージョン部D1において、鋼材20の減肉量t’は大きく(多く)なることが多い。係る場合、通常の超音波による板厚測定によりコロージョン部D1を検出することは、比較的容易である。また、コロージョン部D1の腐食面は、平滑ではなく凹凸に形成された不均一腐食面M’となる。
【0025】
一方、図2A,2Cに示す均一腐食部D2は、空隙Sに侵入した液体L’による均一腐食や機械的に生じる摩耗作用で発生する。この均一腐食部D2の摩耗面は、滑らかな平坦状に形成された均一腐食面Mとなる。また、均一腐食部D2における鋼材20の減肉量(腐食量)tは、コロージョン部D1と比較して小さい(少ない)。このように、拡がりのある滑らかな平坦状に形成される均一腐食部D2は板厚の変動が小さく、その変動量は部材の板厚(肉厚)の許容公差内であることが多い。そのため、通常の超音波による板厚測定では、腐食部として評価することが困難となる場合がある。
【0026】
(多重反射波の挙動)
ここで、超音波の挙動と反射波形との関係について説明する。
図3(a)は、鋼材20及びモルタル30が互いに密着し空隙が存在しない健全部(健全試験体TP0)での反射の挙動を示す。探触子2から鋼材20内部へその上面21から入射した超音波の多くは、鋼材20の下面22とモルタル30の上面31との界面F1で符号P1に示す如く反射する。ここで、界面F1は平坦である(凹凸がない)ので、界面F1での超音波の散乱による減衰はほとんどない。よって、健全部での多重反射による受信波形は、主にモルタル30との界面F1からの反射波P1によって形成される。
【0027】
図3(b)は、鋼材20とモルタル30との間に腐食が進行していない第二模擬空隙部S2(第二空隙試験体TP2)での反射の挙動を示す。腐食が進行していない剥離部であるので、鋼材20の下面22は平坦であり、第二模擬空隙部S2内に液体Lは存在せず空気Aのみ存在する。そのため、第二模擬空隙部S2では、鋼材20の下面22と空気Aとの界面F2が形成され、鋼材20を伝搬した超音波のほぼ全てが界面F2で符号P2に示す如く反射する。界面F2も平坦であるので、界面F2での超音波の散乱による減衰はほとんどない。よって、腐食が進行していない空隙S2(剥離部C)が存在する場合の多重反射による受信波形は、空気Aとの界面F2からの反射波P2によって形成される。
【0028】
図3(c)は、鋼材20とモルタル30との間に均一腐食(エロージョン)が進行している第一模擬空隙部S1(第一空隙試験体TP1)の反射の挙動を示す。係る場合、腐食が進行しているので、第一模擬空隙部S1内には液体L’が存在する。そのため、第一模擬空隙部S1では、鋼材20の下面22と液体L’との界面F3が形成され、鋼材20を伝搬した超音波の多くは界面F3で符号P3に示す如く反射する。ここで、第一模擬空隙部S1において、探触子2に近接する側に位置する面となる鋼材20の下面22は、なだらかな(滑らかな)平坦状の平面である。そのため、界面F3(均一腐食面M)での超音波の散乱による減衰はほとんどない。よって、均一腐食(エロージョン)が進行した空隙S1(腐食部D2)が存在する場合の多重反射による受信波形は、主に液体L’との界面F3からの反射波P3によって形成される。
【0029】
図4は、鋼材20とモルタル30との間に不均一腐食(コロージョン)が進行している空隙部S’の反射の挙動を示す。腐食が進行しているので、空隙部S’内には液体Lが存在し、鋼材20の下面22’と液体Lとの界面F4が形成される。しかし、空隙部S’は、コロージョンであるので、この下面22’は、液体Lにより平坦ではなく凹凸に形成される。そのため、界面F4(不均一腐食面M’)において、符号P4’に示す如く超音波の一部は散乱するので、反射波P4は大きく減衰する。よって、反射波P4は、上述の各反射波P1~P3と区別可能である。
【0030】
図5に、各種材質の相対エコー高さの変動を示す。縦軸は相対エコー高さ(dB)(空気Aからの反射波のエコーに対する健全部のエコーの強度差)、横軸は反射回数である。材質によって音圧反射率は異なるが、いずれの材質も空気Aの音圧反射率1よりも小さい。また、各材質の音圧反射率に比例する相対エコー高さは互いに異なり、反射回数が多くなるに従いその差は大きくなる。すなわち、鋼材20との各界面F1~F4を形成する各材料(モルタル30(第二部材)、空気A及び液体L’)の相対エコー高さの差を利用して、積層体10の層間の状態を検出する。言い換えると、層間剥離の有無、腐食の有無や状態(平滑な界面を有する均一腐食か凹凸な界面を有する均一腐食か)を判定することができる。
【0031】
(エコー高さの変動範囲)
ところで、配管10の塗装膜50の膜厚は、施工状態や施工方法等によって、例えば数十~数百μm程度のバラツキが生じている場合がある。塗装膜の材質に限らず、膜厚が大きいほど、エコー高さは大きく低下する。さらに、反射波のエコー高さに変動を与える要因は、塗装膜50の膜厚に限られるものではない。例えば、探触子2の配管10に対する接触状態もエコー高さに変動を与える要因となる。接触状態とは、探触子2の対象物に対する傾きや押圧力、接触媒質の厚さ、種類等を含む概念である。
【0032】
図6に、上記変動要因を含むエコー高さの変動を模式的に示す。上述したように、反射波の信号には、上記各種要因による変動範囲が含まれる。界面F2を形成する空気Aと界面F3を形成する液体L’とでは、反射回数が多くなるに従い、界面F2(空気A)の反射信号の変動範囲R2と界面F3(液体L’)の反射信号の変動範囲R1の差が大きくなる。これは、空気Aの音圧反射率はほぼ1であまり変化しないが、液体L’の音圧反射率は1より小さいため、この音圧反射率の差が反射を繰り返すほど積算されて大きくなるからである。そして、この変動範囲の差(界面F2の変動範囲R2と界面F3の変動範囲R1とが重複しない領域の高さd1)は、上記要因による変動が除かれる。従って、所定値以上の領域の高さd1となる反射回数Nを求め、その反射回数Nの反射波のエコー高さに着目することで、上記変動要因の影響を排除し、腐食が進行していない(液体L’の存在しない)剥離部Cと腐食が進行している(液体L’が存在する)腐食部D2との信号を明瞭に区別できる。本発明であれば、例えば、JISに規定される板厚(肉厚)の許容公差0.5~1mm程度又はそれ以下の腐食減肉の検出も可能である。
【0033】
さらに、上述したように、剥離部Cと腐食部D2との信号は、空気A及び液体L’に起因するものであり、モルタル30の信号に依存しない。すなわち、従来の手法の如く、健全部の信号として第二部材30の材料を特定してその反射信号を受信し記憶しておくことなく、検査が可能である。
【0034】
一方、第二部材30が既知の材料よりなる場合、液体L’よりも減衰が大きい材料であれば、図6に示すように、反射波のエコー高さの差が反射を繰り返すほど積算されて大きくなる。そして、この変動範囲の差(界面F1の変動範囲R0と界面F3の変動範囲R1とが重複しない領域の高さd2)もまた、上記要因による変動が除かれる。従って、所定値以上の領域の高さd2となる反射回数Nを求め、その反射回数Nの反射波のエコー高さに着目することで、上記変動要因の影響を排除し、健全部の信号も明瞭に区別できる。なお、反射回数の決定の詳細は、本願出願人の特許5624250号に開示されている。
【0035】
(評価方法)
次に、配管10の腐食検査方法について、以下説明する。
予め、上述の積層体10の第一、第二空隙試験体TP1,TP2の各々において、鋼材20の外表面21から超音波を入射すると共に多重反射波を受信し、エコー高さに変動を与える各種要因による変動を含む多重反射波の反射回数毎にエコー高さの変動範囲R1,R2を求めると共にこれら変動範囲R1,R2が重複しない領域の高さd1が所定値以上となる反射波の反射回数Nを求める。また、さらに、健全試験体TP0においても鋼材20の外表面21から超音波を入射すると共に多重反射波を受信し、エコー高さに変動を与える各種要因による変動を含む多重反射波の反射回数毎にエコー高さの変動範囲R0を求め、変動範囲R1,R0が重複しない領域の高さd2が所定値以上となる反射波の反射回数Nを求めてもよい。
【0036】
例えば、反射回数Nを10回と求めた場合、図7に示す如く、第一模擬空隙部S1(鋼材20と液体L’との界面F3)における同反射回数でのエコー高さを基準エコー高さH0として求める。また、第二模擬空隙部S2(鋼材20と空気Aとの界面F2)における同反射回数でのエコー高さを比較エコー高さH1として求めると共に健全部(鋼材20とモルタル30との界面F1)における同反射回数でのエコー高さを比較エコー高さH2として求める。さらに、基準エコー高さH0を基準とした比較エコー高さH1,H2との差a,bも求める。そして、これらの結果は、信号処理装置3に記憶させておく。
【0037】
なお、反射回数の決定では、例えば、積層体10において健全部に相当する箇所及び模擬空隙部に相当する箇所をそれぞれ選定する。また、「健全部」及び「模擬空隙部」は、上述の如き、健全試験体TP0、第一空隙試験体TP1、第二空隙試験体TP2を用いたり、これら試験体に相当する他の装置や他の部材を用いることもできる。さらに、例えば模擬空隙部を模して作製した模擬空隙試験体(対比試験片)と積層体において健全部に相当する箇所として選定した箇所との比較でもよい。このように、「健全部」及び「模擬空隙部」はいずれも「部」であるから、これらには「検査対象となる積層体10の任意の箇所」及び「積層体10とは別体の試験体(片)及びこれに相当する他の装置や部材」の双方が含まれる。
【0038】
次に、配管10の所定の検査部Eにおいて、鋼材20の外表面21に沿って適宜間隔をおいて探触子2を走査すると共に超音波を入射させて多重反射波を受信し、その多重反射波における上記の反射回数Nと同回数の反射を繰り返した反射波のエコー高さと基準エコー高さH0とを比較する。そして、検査部Eにおける同反射回数の反射波のエコー高さが、基準エコー高さH0と同等である場合に検査部Eを液体Lによる腐食が進行した腐食部Dと推定する。または、検査部Eにおける同反射回数の反射波のエコー高さが、基準エコー高さH0よりも大である場合には、検査部Eを液体L’による腐食が進行していない剥離部Cと推定する。
【0039】
例えば、信号処理装置3において、図7(b)に示すように、予め求めた基準エコー高さH0を100%振幅表示の40%程度の強度で表示されるように調整して、比較するようにするとよい。また、先に求めた基準エコー高さH0を基準とした比較エコー高さH1,H2との差a,bを用いて、検査部Eが腐食部Dか剥離部Cか健全部かを判定するようにしてもよい。
【0040】
ここで、図8に9回目の反射波(図中の符号B-9)を含む受信波形の一例を示す。同図(b)は図3(c)に示す第一模擬空隙部S1(第一空隙試験体TP1)での受信信号を感度調整(37.5%、49dB)したものであり、同図(a)は図3(b)に示す第二模擬空隙部S2(第二空隙試験体TP2)における受信信号を同感度に調整(106%、49dB)したもの、同図(c)は図3(a)に示す健全部(健全試験体TP0)における受信信号を同感度に調整(19.5%、49dB)したものである。これら所定回数反射した反射波(図8では9回目)の信号を比較することで、腐食部Dか剥離部Cか健全部を判定することは容易である。また、図8の例では、基準となる第一模擬空隙部S1の信号と第二模擬空隙部S2の信号とのエコー高さの差(dB)aは9dBとなり、基準となる第一模擬空隙部S1の信号と健全部の信号とのエコー高さの差(dB)bは-5.7dBとなった。よって、例えば、信号処理装置3に基準エコー高さH0に対しこれらの差a,bを閾値として設定しておき、検査部のエコー高さが所定値を超えた又は下回る場合に警告手段3aにより警告するようにしてもよい。
【0041】
なお、信号処理装置3は、位置検出器2aの探触子2の走査位置データと共に多重反射波を処理し、例えば図8に示す如きAスキャン画像と共に、又は、独立にBスキャン画像やCスキャン画像等の走査画像を生成してもよい。これら画像に腐食の有無及び/又は剥離の有無を表示させてもよい。従来の多重反射波の減衰曲線に着目する方法では、多重信号が探触子の移動に伴い変化するため、健全部と腐食部の信号の区別が困難となる。また、走査後にデータを解析する方法では、解析処理が膨大で、しかも各種要因が信号に影響を与えているため、精度も低下する。一方、本発明は、所定値以上の差となる反射回数を予め求め、当該反射回数の反射波のエコー高さに着目するので、信号処理が簡便で容易に生成することができる。
【0042】
このように、例えば、検査対象が運転(稼働)中の配管やタンク等であって空隙に水が浸入し得る状況において、運転中に検査することができる。本発明は、海水等の液体L’からの所定の反射回数の反射波のエコー高さを基準に判定する。すなわち、板厚又はその変化量を直接測定するものではなく、層間の液体L’の有無によって判定するので、上述の如き均一腐食部D2の他、探触子2に近接する側に位置する第一部材20の面22が平滑に形成された空隙等の内部に液体が存在する部分であれば、上記の均一腐食部と同様に検出可能となる。言い換えると、複数の部材の界面に腐食等による減肉が生じていなくても、その界面の層間や隙間に減肉の原因となる液体が存在すれば、それを検出することができる。
【0043】
また、上述したように、鋼材20とモルタル30との間にコロージョンが進行している場合、鋼材20の下面22と液体Lとの界面F4は、凹凸に形成されている。そのため、この界面F4における反射信号は、健全部の反射信号よりも減衰する。よって、検査部Eにおける反射回数の反射波のエコー高さが、健全部の反射回数の反射波のエコー高さよりも小である場合に、検査部Eを腐食面が凹凸状に形成された不均一腐食部(コロージョン部)D1と推定することも可能である。すなわち、腐食部分において、鋼材20の腐食面の状態(例えば、エロージョンかコロージョンか)を識別することもできる。
【0044】
最後に、本発明の他の実施形態の可能性について説明する。なお、上記実施形態と同様の部材には同一の符号を附してある。
上記実施形態において、検査対象となる積層体10として、液体Lが収容される母材20の内側にライニング材30が施された配管を例に説明した。しかし、検査対象となる積層体10は、配管に限られるものではなく、タンク、コンテナ等の容器であっても構わない。探傷面となる積層体10の外面11は、配管10の鋼材20の外表面21の如き湾曲した曲面の他、平坦面でも構わない。
【0045】
上記実施形態において、検査対象となる積層体10の第一部材20は、上記実施形態の鋼材に限定されるものではなく、鋼の他、金属、ガラス、樹脂等の超音波の伝達物質であればよい。また、第二部材30もモルタルライニング材に限定されるものではなく、第一部材20と同様に超音波の伝達物質であればよい。もちろん、これらの材質の部材に限定されるものでもない。すなわち、複数の部材は、反射信号での識別が可能であれば、異種材料及び同種材料のいずれの組み合わせであってもよい。
【0046】
また、上記実施形態において、検査対象となる積層体(配管)10は、鋼材20とモルタルライニング材30の2層により構成されていた。しかし、積層体10は、例えば第一、第二部材20,30を接着層40を介して積層したものであってもよく、3層以上で構成されていても構わない。また、接着層40は、積層体10を構成する複数の部材間の少なくとも一部に介在していればよく、例えば、蝋付け用の蝋付け剤や、隣接する一方の部材の表層部の一部を変質させた変質部等であってもよい。
【0047】
さらに、上記実施形態において、塗装膜50を有する積層体10を例に説明した。しかし、上述したように、塗装膜50の膜厚のバラツキは、反射波のエコー高さの変動要因の一例に過ぎない。よって、検査対象となる積層体10は、塗装膜50を有するものに限られるものではなく、塗装膜50を有しない積層体10であっても同様に検査可能である。また、検査部Eにおいて多重反射波を受信する前に、検査部Eの全面において積層体10の板厚測定を行うことで減肉部を特定し、特定した減肉部以外の部分において多重反射波を受信するようにしてもよい。
【0048】
上記実施形態において、探触子2としては送受信を兼務する一振動子型探触子を用いた。しかし、送受信が別ユニットとなっている二振動子型探触子を用いても構わない。また、上記実施形態において、探触子2を直接第一部材20の外表面21に押し当てて超音波を送受信したが、水浸法にも適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1:腐食検査装置、2:探触子、2a:位置検出器、3:信号処理装置、3a:警告器、4a:パルサー、4b:レシーバ、5:プリアンプ、6:フィルター、7:A/Dコンバーター、8:表示器、9:探傷装置、10:積層体(収容体、配管)、11:一側(外表面)、12:他側(内面)、20:第一部材(母材、鋼材)、21:外面、22:内面、30:第二部材(ライニング材、モルタルライニング材)、31:外面、32:内面、50:塗装膜、A:空気、B:損傷部、C:剥離部、D1:不均一腐食部(コロージョン部)、D2:均一腐食部(エロージョン部)、d1,d2:領域の高さ、E:検査部、F1~F3:界面、H0:基準エコー高さ、H1,H2:比較エコー高さ、L,L’:液体、S:空隙(剥離部)、S1:第一模擬空隙部、S2:第二模擬空隙部、M:均一腐食面(摩耗面)、M’:不均一腐食面、P1~P4:反射波、R0:健全部のエコー高さの変動範囲、R1:第一模擬空隙部のエコー高さの変動範囲、R2:第二模擬空隙部のエコー高さの変動範囲、TP0:健全試験体、TP1:第一空隙試験体、TP2:第二空隙試験体
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8