(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04D19/04 Z
(21)【出願番号】P 2020102009
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-008590(JP,U)
【文献】特開2001-132684(JP,A)
【文献】特開2018-159632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転翼を回転させてガスの排気を行う真空ポンプであって、
前記真空ポンプ内の堆積物をクリーニングするクリーニング機能のためのクリーニング機能部と、
前記堆積物を検出する堆積検出機能のための堆積検出機能部と、
前記クリーニングの完了を判定するクリーニング完了判定機能のためのクリーニング完了判定機能部と、を備え
、
前記クリーニング機能部は、ドライクリーニング、ウエットクリーニング、加熱除去、及び/又は、超音波振動で使用される真空ポンプ構成部品であり、
前記クリーニングは、前記クリーニング機能部を用いて行われ、
前記堆積検出機能部の検出結果に基づいて、前記クリーニング完了判定機能部が、前記クリーニングの完了を示すクリーニング完了信号を出力することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記クリーニング完了判定機能部が、前記堆積検出機能部の検出結果と、変更可能なしきい値とに基づいて、前記クリーニングの完了の判定を行うことを特徴とする請求項
1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記堆積検出機能部が、
排気ガスの流路に向けて配置された投光部と、
前記流路を挟んで前記投光部と対向し、前記投光部から投光された検出光を受光する受光部と、
を備えたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記堆積検出機能部が、
排気ガスの流路に向けて配置された投光部と、
前記流路を挟んで前記投光部と対向するよう配置され、前記投光部から投光された検出光を前記流路に向けて反射する反射部と、
前記反射部で反射された検出光を受光する受光部と、
を備えたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記投光部と、前記反射部の反射面とが90度を除く所定の角度で配設されたことを特徴とする請求項
4に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記堆積検出機能部が、
排気ガスの流路内に設置された少なくとも1対の電極を備え、
前記電極間の抵抗及び静電容量のうちのいずれか一方、または、両方の変化を検出可能であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記堆積検出機能部の取り付け対象部位の温度を検出する温度検出機能部と、
前記温度検出機能部の検出結果に基づいて、前記堆積検出機能部の検出量から読み取られた検出値を補正する検出値補正機能部と、
を備えたことを特徴とする請求項
6に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電により回転翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプには、ポンプ内の温度を適切に管理するために、ヒータや冷却管を備えたタイプのものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のターボ分子ポンプのような真空ポンプにおいては、移送されるガス内の物質が析出する場合がある。例えば、半導体製造装置のエッチングプロセスに使用されるガスが、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセス)を圧縮し、徐々に圧力を上げる過程で、排気流路の温度が昇華温度を下回る条件により、真空ポンプや配管内部に副反応生成物を析出させ、排気流路を閉塞してしまうことがある。また、ポンプの吸気口から吸引したガスをポンプ内部で圧縮する過程で、吸引したガスが気体から固体へ相変化する圧力を超え、ポンプ内部で固体に相変化することがある。その結果、ポンプ内部に副反応生成物である固体が堆積し、この堆積物によって不具合が生じる場合がある。そして、析出した副反応生成物の除去のために真空ポンプや配管を清掃する必要がある。また、状況によっては、真空ポンプや配管の修理や、新品への交換を行う必要もある。そして、これらのオーバーホールの作業のために、半導体製造装置を一時停止させてしまう場合があった。さらに、オーバーホールの期間が、状況によっては数週間以上に及ぶ場合もあった。
【0005】
また、従来の真空ポンプにおいては、副反応生成物が内部に付着するのを防止するため、通常動作としての排気動作中に、ヒータによって内部の排気経路の温度を上げる機能を備えたものがある(特許文献1)。特許文献1に開示された発明では、ポンプの排気流路のうち、下流側を加熱し、吸入したガスの昇華圧力を上げ、気相領域とすることで、ポンプ内部に副反応生成物が堆積し、排気流路が閉塞されるのを防いでいる。このような加熱の際には、真空ポンプの構成部品に熱による膨張や変形などが生じ、部品同士が接触するのを回避するため、その上昇温度(加熱の目標温度)に制限を設けて、温度が設定値以上に上昇しないよう温度管理が行われる。そして、ポンプが不具合なく使用できる許容温度内に温度管理し、かつ、副反応生成物の析出を防止できる温度まで加熱できるように様々な工夫が考案されている。しかし、副反応生成物の種類によっては、完全に析出を防止できる温度条件で真空ポンプを稼働させることが困難となる場合があった。そして、結局は、副反応生成物が析出してしまい、半導体製造装置を停止させて真空ポンプの清掃や修理などを行うこととなっていた。
【0006】
このように、ポンプの温度管理方法について様々な工夫が考案されている一方で、真空ポンプの清掃や修理などを効率的に行う方法については、ほとんど目が向けられていない。本発明の目的とするところは、オーバーホールせずに堆積物を除去することが可能であり、更に堆積物の除去が完了したことの検出が可能な真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するために本発明は、回転翼を回転させてガスの排気を行う真空ポンプであって、
前記真空ポンプ内の堆積物をクリーニングするクリーニング機能のためのクリーニング機能部と、
前記堆積物を検出する堆積検出機能のための堆積検出機能部と、
前記クリーニングの完了を判定するクリーニング完了判定機能のためのクリーニング完了判定機能部と、を備え、
前記クリーニング機能部は、ドライクリーニング、ウエットクリーニング、加熱除去、及び/又は、超音波振動で使用される真空ポンプ構成部品であり、
前記クリーニングは、前記クリーニング機能部を用いて行われ、
前記堆積検出機能部の検出結果に基づいて、前記クリーニング完了判定機能部が、前記クリーニングの完了を示すクリーニング完了信号を出力することを特徴とする真空ポンプにある。
(2)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記クリーニング完了判定機能部が、前記堆積検出機能部の検出結果と、変更可能なしきい値とに基づいて、前記クリーニングの完了の判定を行うことを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
(3)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記堆積検出機能部が、
排気ガスの流路に向けて配置された投光部と、
前記流路を挟んで前記投光部と対向し、前記投光部から投光された検出光を受光する受光部と、
を備えたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の真空ポンプにある。
(4)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記堆積検出機能部が、
排気ガスの流路に向けて配置された投光部と、
前記流路を挟んで前記投光部と対向するよう配置され、前記投光部から投光された検出光を前記流路に向けて反射する反射部と、
前記反射部で反射された検出光を受光する受光部と、
を備えたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の真空ポンプにある。
(5)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記投光部と、前記反射部の反射面とが90度を除く所定の角度で配設されたことを特徴とする(4)に記載の真空ポンプにある。
(6)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記堆積検出機能部が、
排気ガスの流路内に設置された少なくとも1対の電極を備え、
前記電極間の抵抗及び静電容量のうちのいずれか一方、または、両方の変化を検出可能であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の真空ポンプにある。
(7)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記堆積検出機能部の取り付け対象部位の温度を検出する温度検出機能部と、
前記温度検出機能部の検出結果に基づいて、前記堆積検出機能部の検出量から読み取られた検出値を補正する検出値補正機能部と、
を備えたことを特徴とする(6)に記載の真空ポンプにある。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によれば、オーバーホールせずに堆積物を除去することが可能であり、更に堆積物の除去が完了したことの検出が可能な真空ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】ターボ分子ポンプにおける吸気口の周辺部を示す拡大図である。
【
図6】ターボ分子ポンプにおける各機能部を示すブロック図である。
【
図7】静電容量式の堆積検出手法に用いられるセンサ基板を示す説明図である。
【
図8】(a)は静電容量式の堆積検出手法に係る検出原理におけるクリーニング前の状態を示す説明図、(b)はクリーニング後の状態を示す説明図である。
【
図9】(a)は光学式且つ透過型の堆積検出手法に係る検出原理におけるクリーニング前の状態を示す説明図、(b)はクリーニング後の状態を示す説明図である。
【
図10】(a)は光学式且つ反射型の堆積検出手法に係る検出原理におけるクリーニング前の状態を示す説明図、(b)はクリーニング後の状態を示す説明図である。
【
図11】ターボ分子ポンプにおけるクリーニングの実施からしきい値との比較までの処理の流れを概略的に示すフローチャートである。
【
図12】ターボ分子ポンプにおけるベース部の周辺部を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ100を示している。このターボ分子ポンプ100は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0011】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0012】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、図示せぬ制御装置に送るように構成されている。
【0013】
この制御装置においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0014】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0015】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置に送られるように構成されている。
【0016】
そして、制御装置において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0017】
このように、制御装置は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0018】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0019】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0020】
回転翼102a、102b、102c・・・とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102a、102b、102c・・・は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0021】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0022】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。ベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0023】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付きスペーサ131が配設される。ネジ付きスペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102a、102b、102c・・・に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付きスペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付きスペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0024】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0025】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0026】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0027】
なお、上記では、ネジ付きスペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付きスペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0028】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0029】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0030】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0031】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0032】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付きスペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0033】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0034】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路の回路図を
図2に示す。
【0035】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0036】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0037】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0038】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0039】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0040】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0041】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0042】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0043】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0044】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0045】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0046】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0047】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、
図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気口133が図中の左側に突出するようベース部129に設けられた側)側が、図示を省略する補助ポンプ(バックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、
図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0048】
また、ターボ分子ポンプ100においては、前述の外筒127とベース部129とが組み合わさって1つのケース(以下では両方を合わせて「本体ケーシング」などと称する場合がある)を構成している。また、ターボ分子ポンプ100は、箱状の電装ケース(図示略)と電気的(及び構造的)に接続されており、電装ケースには前述の制御装置が組み込まれている。
【0049】
ターボ分子ポンプ100の本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の内部の構成は、モータ121によりロータ軸113等を回転させる回転機構部と、回転機構部より回転駆動される排気機構部に分けることができる。また、排気機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、円筒部102dやネジ付きスペーサ131等により構成されるネジ溝ポンプ機構部に分けて考えることができる。
【0050】
また、前述のパージガス(保護ガス)は、軸受部分や回転翼102等の保護のために使用され、排気ガス(プロセスガス)に因る腐食の防止や、回転翼102の冷却等を行う。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0051】
例えば、図示は省略するが、ベース部129の所定の部位(排気口133に対してほぼ180度離れた位置など)に、径方向に直線状に延びるパージガス流路を設ける。そして、このパージガス流路(より具体的にはガスの入り口となるパージポート)に対し、ベース部129の外側からパージガスボンベ(N2ガスボンベなど)や、流量調節器(弁装置)などを介してパージガスを供給する。
【0052】
前述の保護ベアリング120は、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などとも呼ばれる。これらの保護ベアリング120により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸113の位置や姿勢を大きく変化させず、回転翼102やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0053】
なお、ターボ分子ポンプ100の構造を示す各図(
図1など)では、部品の断面を示すハッチングの記載は、図面が煩雑になるのを避けるため省略している。
【0054】
次に、ターボ分子ポンプ100に備えられたクリーニング機能、堆積検出機能、及び、クリーニング完了判定機能について説明する。これらのうちクリーニング機能は、ポンプ内部の堆積物を自動的に除去するための機能である。クリーニング機能としては、いくつかのクリーニング手法を採用することが可能である。
【0055】
具体的には、クリーニング手法としては、ドライクリーニング、ウエットクリーニング、及び、加熱除去(加熱クリーニング)などを挙げることができる。さらに、ターボ分子ポンプ100には、ドライクリーニング、ウエットクリーニング、及び、加熱除去のうちのいずれか1つ、或いはこれらのうちの少なくとも2つの組み合わせを採用することが可能である。
【0056】
上述のドライクリーニングにおいては、プロセスガスに用いられる各種のガス(塩素系ガス、フッ素系ガスなど)が、クリーニングガスとして、そのままターボ分子ポンプ100の内部に供給される。また、プロセスガスをそのまま供給する以外に、プロセスガスに対し前処理(プラズマによる電離など)を行ってターボ分子ポンプ100の内部に供給することも可能である。
【0057】
そして、このドライクリーニングにおいては、
図5に拡大して示すように、ターボ分子ポンプ100の吸気口101の周りに張り出した吸気側フランジ部201が、クリーニングガス供給ポート(クリーニング機能部)として使用される。
【0058】
つまり、吸気側フランジ部201が、例えば半導体製造装置やフラットパネルディスプレイ等の排気対象機器(被排気機器)の側のチャンバ(或いは配管)に形成されたフランジ部(図示略)との接続に用いられる。そして、ドライクリーニングにおいては、排気対象機器から流れてくるプロセスガスを利用してクリーニングが行われることから、クリーニング機能を果たすための構成(クリーニング機能部)として、吸気側フランジ部201が、排気対象機器の排気だけでなく、クリーニングガスの供給にも用いられる(兼用される)。
【0059】
ここで、ドライクリーニングの際には、モータ121を、クリーニングガスの排気に利用できる程度の回転数(定常運転時よりも低い回転数など)で回転させることが考えられる。
【0060】
続いて、前述のウエットクリーニングにおいては、所定のクリーニング液(水、酸、有機溶剤又はその他の薬剤など)が、ターボ分子ポンプ100の内部に供給される。そして、図示は省略するが、このウエットクリーニングのために、クリーニング液導入用のポートを、本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)のいずれかの部位(例えばベース部129)に設けることが可能である。
【0061】
このウエットクリーニングにおいては、クリーニング液導入用のポート(図示略)や、クリーニング液の供給源、クリーニング液の供給のための配管などが、クリーニング機能を果たすための構成であるクリーニング機能部となる。
【0062】
続いて、前述の加熱除去(加熱クリーニング)においては、ポンプ内部の所定部位を、プロセスガスの昇華温度以上の温度(例えば100~150℃程度)に加熱し、堆積物をガス化して排出する。加熱にあたっては、前述のTMSのために設けられたヒータ(図示略)を利用することが可能である。この加熱除去においては、ヒータ自体、或いは、ヒータの配置や制御に関わる部分などが、上述のクリーニング機能部となる。
【0063】
なお、ヒータの配置は、ベース部129等の外周のほか、例えば、ベース部129の内部や、ネジ付きスペーサ131(の内部や外周)などであってもよい。また、TMSのヒータに加えて、他のヒータを設けることも可能である。さらに、ベース部129とネジ付きスペーサ131の両方にヒータを配置することも可能である。
【0064】
また、加熱対象部品(ここではベース部129やネジ付きスペーサ131)に設けられるヒータとしては、例えば、カートリッジヒータ、シースヒータ、電磁誘導ヒータ(IHヒータ)などのように、一般的な種々のものを、その特性に応じて採用することが可能である。また、構造上、立体的に突出する量を抑えた面状ヒータなども採用が可能である。
【0065】
ここで、上述した各種のクリーニング手法を比べると、ドライクリーニングとウエットクリーニングは、堆積物を溶かす手法であり、加熱除去は堆積物をガス化する手法である。そして、ドライクリーニングとウエットクリーニングは、浸食性や腐食性により、加熱除去に比べて、ターボ分子ポンプ100の部品にも影響が及び易いといえる。
【0066】
このため、部品への影響を最小限に抑え、半導体等の生産効率を維持するには、加熱除去が好ましいと考えられる。しかし、加熱除去によるクリーニング手法に制限されることなく、クリーニング手法の自由度を確保するために、それぞれのクリーニング手法のためのクリーニング機能部を予め備え、状況に応じて選択して、或いは組み合わせてクリーニングを行うことが可能である。
【0067】
次に、前述した堆積検出機能とクリーニング完了判定機能について説明する。
図6は、ターボ分子ポンプ100の堆積検出機能とクリーニング完了判定機能を概念的に示している。
図6に示すように、堆積検出機能は、ターボ分子ポンプ100の本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の内部に設けられた堆積センサ206と、堆積センサ206の出力信号を受ける読み取り回路部207とを使用して果たされる(実行される)ようになっている。これらの堆積センサ206と読み取り回路部207は、いずれも堆積検出機能部として用いられている。
【0068】
また、クリーニング完了判定機能は、読み取り回路部207の出力信号を受けて、前述のクリーニング機能によるクリーニングが完了したか否かを判定する機能となっている。そして、このクリーニング完了判定機能は、クリーニング完了判定機能部となるクリーニング完了判定回路部208を使用して果たされる(実行される)ようになっている。
【0069】
ここで、読み取り回路部207やクリーニング完了判定回路部208は、前述した制御装置内に設けることが可能である。そして、クリーニング完了判定回路部208がクリーニング完了を示すクリーニング完了信号を出力し、このクリーニング完了信号に基づいて、クリーニング完了の報知を行うことが可能である。
【0070】
クリーニング完了の報知は、種々の形態で行うことが可能であるが、例えば、前述の制御装置に、報知用の光源(LEDやランプなど)を設け、この光源を、クリーニング完了信号に基づいて点灯させたり、点滅させたりすることを例示できる。また、例えば、前述の制御装置に文字や記号を表示することが可能なディスプレイを設け、このディスプレイに、クリーニングが完了した旨を示すメッセージを文字や記号などにより表示することも例示できる。
【0071】
堆積センサ206における堆積検出手法としては、静電容量式(電気式)や光学式のように種々のタイプのものを採用することが可能である。堆積検出手法の各タイプに係る具体例については後述する。
【0072】
堆積センサ206の配置としては、
図12に二点鎖線で仮想的に示すように、ターボ分子ポンプ100内における排気ガス(プロセスガス)の下流側の部位を挙げることができる。
図12の例では、堆積センサ206は、ベース部129の内底部202に配置されている。より具体的には、堆積センサ206は、ベース部129の内底部202のうち、ネジ付きスペーサ131と円筒部102dとの間の空間203に面する位置に配置されている。なお、図示は省略するが、排気口133により近い部位に配置することも可能である。
【0073】
続いて、堆積センサ206における堆積検出手法について説明する。
図7は、静電容量式の堆積検出手法に用いられるセンサ基板211を概略的に示している。このセンサ基板211は、例えば、矩形状の絶縁基板(ここではセラミック基板)における一方の板面213に、櫛歯型の電極(平面電極)A、Bを一対で形成したものとなっている。
【0074】
電極A、Bは、互いに接触や交差することなく、櫛歯が、所定の間隔を空けて接触せずに噛み合った状態で、向かい合うよう形成されている。そして、電極A、Bの間には、高周波電圧が印加されて電界が発生するようになっている。そして、センサ基板211は、排気ガス(プロセスガス)が、流動しながら板面213に接するよう、堆積センサ206に設けられている。
【0075】
図8(a)、(b)は、センサ基板211を用いた堆積検出の原理を示している。ターボ分子ポンプ100の運転により、ポンプ内部に、
図8(a)に示すように排気ガスの流れが発生する。排気ガスは、前述のように、センサ基板211の板面213に接するよう流れる。そして、センサ基板211の板面には、プロセスガスの析出物が堆積し、クリーニングを行う前には、
図8(a)に示すように、電極A、Bの周りに堆積物216が発生している。
【0076】
電極A、B間の誘電率は、堆積物216の有無や、堆積物216の量、及び、堆積物216の付着の状態などの要因により変化し得るものである。前述のクリーニング機能によりクリーニングが行われ、
図8(b)に示すように堆積物216が除去されると、電極A、B間の誘電率は、堆積物216が存在しなくなった分、クリーニング前とは異なることとなる。そして、電極A、B間に堆積物216が存在しない場合には、電極A、B間の抵抗が最大となる。
【0077】
電極A、B間の誘電率の変化は、静電容量の変化として、堆積センサ206の出力信号に表れる。堆積センサ206の出力信号は、読み取り回路部207に入力され、読み取り回路部207により読み取られる。読み取り回路部207は、電極A、B間の出力信号を数値情報化し、クリーニング完了判定回路部208へ出力する。
【0078】
読み取り回路部207においては、所定のしきい値情報が記憶されており、読み取り回路部207からの数値情報と、しきい値とに基づき、クリーニングの状況が監視される。クリーニングの実施からしきい値との比較までの処理の流れ(
図11)については後述する。
【0079】
なお、ここでは電極A、B間の誘電率に基づく静電容量の変化を読み取り回路部207で読み取る例を挙げたが、これに限らず、例えば、電極A、B間の抵抗の変化を読み取り回路部207で読み取って数値情報化するようにしてもよい。また、静電容量と抵抗の両方を読み取り回路部207で読み取って数値情報化するようにしてもよい。
【0080】
一方、光学式の堆積検出手法としては、
図9(a)、(b)に示す透過型の光学式堆積物検出手法や、
図10(a)、(b)に示す反射型の光学式堆積物検出手法を例示することができる。
【0081】
これらのうち、
図9(a)、(b)に示す透過型においては、互いに向かい合った投光器(光源)221と受光器(受光体)222の間に、2枚のガラス板(光透過板)223、224が、ガス(プロセスガス)の流路となる隙間225を空けて並行に配置されている。
【0082】
プロセスガスの排気が行われ、ガラス板223、224に堆積物226が付着している状況では、投光器221から出射された検出光227は、堆積物226により遮られ、受光器222に到達しない。そして、堆積物226により検出光227が遮断され、受光器222で検出光227は検出されない。
【0083】
しかし、前述のクリーニング機能によりクリーニングが行われ、
図9(b)に示すように堆積物226が除去されると、検出光227は、堆積物226により遮断されることなく、受光器222に入射して検出されることとなる。
【0084】
続いて、
図10(a)、(b)に示す反射型においては、1枚のガラス板(光透過板)233の一方の板面側に、投光器(光源)231と受光器(受光体)232が、所定の角度で傾けられて配置されている。また、ガラス板233の他方の板面側に、反射面238を有する反射板239が配置されている。反射板239は、ガラス板233との間にガス(プロセスガス)の流路となる隙間235を空けて、ガラス板233と並行に配置されている。
【0085】
ガラス板223や反射板239に堆積物236が付着している状況では、投光器231から出射された検出光237は、堆積物236(ガラス板233との境界面)で反射し、反射板239にも、受光器232にも到達しない。また、図示は省略するが、ガラス板223と反射板239のうちのいずれか一方に堆積物236が付着している状況でも、検出光237は、堆積物236によって遮られ、受光器232に到達しない。
【0086】
しかし、前述のクリーニング機能によりクリーニングが行われ、
図10(b)に示すように堆積物236が除去されると、検出光237は、堆積物236により遮断されることなくガラス板233を透過し、反射板239に到達する。さらに、検出光237は、反射板239で反射し、再びガラス板233を透過して受光器232に入射し、検出されることとなる。
【0087】
投光器231の設置は、投光器231の向きと、反射面238の間の角度の関係が、90度を除く角度となるように行われていると説明することができる。つまり、投光器231の向きと、反射面238の間の角度の関係を90度とすると、検出光237が反射面238に直角に入射し、反射光が投光器231に戻ってしまい、検出光237を受光器232で検出することができない。しかし、投光器231の向きと、反射面238の間の角度の関係が、90度を除く角度となるように投光器231を配設すれば、検出光237を受光器232で検出することが可能となる。
【0088】
なお、ここでは光学式堆積物検出手法の基本原理を説明しており、透過型及び反射型のいずれに関しても、受光器222、232に入射する検出光227、237の有無について説明している。そして、この場合は、受光器222、232に入射する検出光227、237の有無が、読み取り回路部207で数値情報化されることとなる。しかし、これに限らず、受光器222、232に入射する検出光227、237の光量の増減を検出し、更にこの検出光227、237の光量に係る検出結果を読み取り回路部207で数値情報化することも可能である。
【0089】
図11は、クリーニングの実施からしきい値との比較までの処理の流れを概略的に示している。ここで説明する処理は、これまでに説明したいずれの堆積検出手法についても共通に適用が可能である。
【0090】
図11に示すように、クリーニング機能によるクリーニングが実施され(S1)、その後に、堆積センサ206や読み取り回路部207により、堆積量が測定される(S2)。続いて、クリーニング完了判定回路部208により、堆積量が、予め定められているしきい値と比較される(S3)。そして、堆積量が減少してしきい値を例えば下回った場合(或いはしきい値に達した場合)には、クリーニングが完了した旨の判定が行われ(S4:YES)、クリーニングが完了したことを示すクリーニング完了信号の出力が行われる(S5)。
【0091】
上記S4において、堆積量がしきい値を下回っていない場合(或いはしきい値に達していない場合)には(S4:NO)、処理がS1に戻り、S1~S4の処理が繰り返される。ここで、
図11の例では、クリーニングの実施(S1)の後に堆積量の測定(S2)が行われているが、クリーニングを実施しながら同時に、堆積量の測定(S2)を行ってもよい。この場合には、堆積物216の減少過程を監視することが可能となる。
【0092】
次に、ターボ分子ポンプ100に備えられた温度検出機能、検出値補正機能、及び、しきい値変更機能について説明する。これらのうち、温度検出機能は、
図6に示すように、温度センサ241を使用して果たされる(実行される)ようになっている。温度センサ241は、温度検出機能部となっており、例えばネジ付きスペーサ131等の部品に配置される。
【0093】
ここで、温度センサ241が配置される部位は、ネジ付きスペーサ131以外の部品であってもよいが、回転しない部品(ステータ部品)を選択することが望ましい。また、温度センサ241の配置の形態は、部品表面への装着でもよく、部品内部への内蔵でもよい。
【0094】
温度センサ241は、温度センサ241が配置される対象となる部品(配置対象部品)における、温度センサ241の周囲の温度を検出する。そして、温度センサ241は、例えば、読み取り回路部207へ検出結果となる信号を出力する。さらに、読み取り回路部207は、温度センサ241の出力信号に基づき、堆積センサ206の検出結果を補正して、数値情報を示す信号をクリーニング完了判定回路部208へ出力する。この場合は、読み取り回路部207が、検出値補正機能を果たす(実行する)検出値補正機能部となる。
【0095】
なお、これに限らず、例えば、温度センサ241の出力信号をクリーニング完了判定回路部208へ入力し、クリーニング完了判定回路部208で、読み取り回路部207の出力値を補正して、しきい値と比較するようにしてもよい。この場合は、クリーニング完了判定回路部208が、上述のような検出値補正機能部となる。
【0096】
また、例えば、温度センサ241の出力信号を、図示しない制御回路部(堆積量補正制御回路部)へ出力し、この堆積量補正制御回路部で、温度センサ241の検出結果を補正することも可能である。この場合は、堆積量補正制御回路部の補正結果をクリーニング完了判定回路部208へ入力し、クリーニング完了判定回路部208で、読み取り回路部207の出力値を補正して、しきい値と比較することが可能である。さらに、この場合は、堆積量補正制御回路部が、上述のような検出値補正機能部となる。ここで、堆積量補正制御回路部は、前述した制御装置内に設けることが可能である。
【0097】
続いて、前述のしきい値変更機能は、クリーニング完了判定回路部208に記憶されたしきい値を変更できるようにした機能である。このしきい値変更機能は、クリーニング完了判定回路部208により果たされる(実行される)ようになっている。
【0098】
しきい値の変更は、クリーニングの作業者により行われる。作業者は、前述した制御装置(図示略)に対する入力操作を行い、既に記憶されているしきい値の情報を、他の値に変更することが可能である。さらに、しきい値の変更は、ターボ分子ポンプ100を新品として初めて使用する場合でも、或いは、非新品として2回目以降に使用する場合でも行うことが可能である。
【0099】
しきい値は、前述のようにクリーニング完了の判定基準として用いられているが、ターボ分子ポンプ100の新品時における部品のばらつきやセンサ類の個体差や、使用開始後における部品の経年変化などの要因により、その特性は必ずしも一定ではない。
【0100】
また、堆積センサ206に、前述した静電容量式の堆積検出手法(
図7、
図8)を採用した場合は、プロセスガスの浸食性や腐食性により、電極A、Bの特性が変化することがあり得る。そして、電極A、Bの幅が細くなると、その分、電極A、B間の誘電率が変化することとなる。
【0101】
さらに、堆積センサ206に、前述した光学式(透過型や反射型)の堆積検出手法(
図9、
図10)を採用した場合においても、ガラス板(光透過板)223、224、233や反射板239に曇りが生じることがあり得る。
【0102】
しかし、前述のようにしきい値を変更できるようにすることで、作業者が最適値を探りながらクリーニングを行うことができ、クリーニング機能の最適化を図ることが可能となっている。
【0103】
以上説明したようなターボ分子ポンプ100によれば、クリーニング機能により、ポンプを取り外すことなく、ポンプ内の堆積物(216、226、236)を除去することが可能となる。このため、ポンプ内の堆積物(216、226、236)による排気対象機器の稼働への影響を最小限に抑え、例えば半導体やフラットパネル等の被製造物に係る生産効率の向上に寄与することが可能となる。
【0104】
また、クリーニング完了判定機能を有することにより、クリーニングが完了したか否かを自動的に判定することが可能である。そして、クリーニング完了の判定を行うことで、クリーニング作業を可能な限り省力化して、クリーニングに係る工数を必要最小限に抑えることができる。さらに、クリーニング作業を、一貫して効率よく行うことが可能となる。
【0105】
また、加熱除去によりクリーニングを行うことで、ドライクリーニングやウエットクリーニングを行う場合に比べ、ターボ分子ポンプ100の部品へ影響を最小限に抑えることができる。また、ドライクリーニングにおいてプロセスガスをプラズマにより電離する場合はその分消費電力が増え、ウエットクリーニングを行う場合はクリーニング液が必要となる。しかし、ドライクリーニングやウエットクリーニングに代えて加熱除去を行うことで、消費電力が低減されるとともに、クリーニング液が不要となる。
【0106】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能なものである。例えば、クリーニング機能に係るクリーニング手法として、ターボ分子ポンプ100の全体、或いは特定の部位に超音波を与えて(印加して)クリーニングを行うことも可能である。この場合は、超音波発生器や、超音波振動する真空ポンプ構成部品(ネジ付きスペーサ131など)が、クリーニング機能を果たすためのクリーニング機能部となる。
【符号の説明】
【0107】
100 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
102 回転翼
201 吸気側フランジ部(クリーニング機能部)
206 堆積センサ(堆積検出機能部)
207 読み取り回路部(堆積検出機能部、検出値補正機能部)
208 クリーニング完了判定回路部(クリーニング完了判定機能部、検出値補正機能部)
225、235 隙間(ガスの流路)
221、231 投光器(投光部)
222、232 受光器
238 反射面
239 反射板(反射部)
241 温度センサ(温度検出機能部)
A、B 電極